説明

化粧料組成物及びその製造方法

【課題】椿油の奏する保湿効果や紫外線遮蔽効果をさらに高めることができ、椿油の化粧料としての安全性、利便性や応用性を損なうことなくこれらの効果を高めることができる化粧料組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】椿油とアスタキサンチンとを含有する化粧料組成物及びその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椿油を主成分とする化粧料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
椿油は、椿科植物の種子である椿種子から搾油されて製造され、古来より食用、薬用、化粧料、工業用など広く応用されている。特に、化粧料としては肌に塗布することで保湿及び紫外線の遮蔽の効果があることが知られている。
【0003】
本願出願人による特許文献1では、椿油を含有し、椿油由来のオレイン酸系成分として、シス型オレイン酸エステル、遊離脂肪酸であるシス型オレイン酸のうちから選択される1種又は2種以上のシス型オレイン酸系成分のみを含有する、非イオン性物質に対する皮膚透過促進用及びイオン性物質に対する皮膚透過抑制用の皮膚化粧料と、非イオン性物質またはイオン性物質とを組合わせた皮膚化粧料について開示している。この皮膚化粧料は、椿油の皮膚保護によって皮膚角質を保護し、皮膚角質の保湿作用及び紫外線遮蔽の作用を促進させようというものである。
【0004】
なお、椿油の精製方法として、本願出願人を含む出願人らは特許文献2で、原油を電極の間に電圧を印加しながら供給して、一方の電極が、活性炭電極であり、不純物を活性炭電極に向かって移動させることによって、不純物を活性炭電極側に集積させるとともに、他方の電極近傍から不純物の除去された油を、活性炭電極を通過させることによって、原油中の不純物を吸着ろ過して精製油を得る油の精製方法を開示している。この精製方法は、原油中の不純物を吸着ろ過して酸化値の低下した純粋な精製油を得ようとするものである。
【0005】
一方で、アスタキサンチンは抗酸化剤として知られ、組織の酸化を抑える作用を持つことで皮膚等の組織の老化を抑えることができるとして化粧料に用いられている。特許文献3には、(a)ショ糖とγ−リノレン酸とのエステルであるショ糖リノレン酸エステル、及び(b)マンニトール、β−カロチン、アスタキサンチン、ルチン、レチノール、パルミチン酸レチノール、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ビタミンE、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸イソパルミテート、カテキン、没食子酸、グルタチオン、活性酸素除去酵素(SOD)から選ばれた化合物の一種又は二種以上である酸化防止剤を含有する抗老化剤について開示されている。この抗老化剤は、酸化防止剤を併用することにより、皮膚のきめを整え、しわを改善する効果に優れ、かつ皮膚の黄色化を抑制するはたらきをもつ抗老化を得ようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−077172号公報
【特許文献2】特開2002−332491号公報
【特許文献3】特許第4723064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
椿油は化粧料として広く用いられているため、その肌に対する保湿効果や紫外線遮蔽効果をさらに高くすることができればきわめて有用である。しかしながら、これらの効果は椿油の本来の有する角質の保護作用の高さによるものであり、これらの保護作用を、単に他の保湿効果や紫外線遮蔽効果を持つ成分を添加すること等でさらに高めることは困難であった。さらに、椿油の化粧料としての安全性、利便性や応用性を損なうことなくこれらの効果を高める必要があった。特許文献1には、これらの条件を満たすような椿油の効果を高める方法は記載されていない。特許文献2の方法によって純度の高い椿油を用いることによっても、ある程度角質の保護作用も高まるが、著しく効果を上げることはできない。そこで本発明者らは、椿油のこれらの効果を高めるべく試行錯誤を重ねていった。その過程において、従来知られている効果としては保湿や紫外線遮蔽とは別の効果を持つ成分、例えば特許文献3に記載されている成分等からも添加する成分を選択することにも着目し、さらに鋭意研究を行った。
【0008】
本発明はこのような背景にしたがってなされたものであり、その目的は、椿油の奏する保湿効果又は紫外線遮蔽効果をさらに高めることができる化粧料組成物を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、椿油の化粧料としての安全性、利便性又は応用性を損なうことなく保湿効果又は紫外線遮蔽効果を高めることができる化粧料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、化粧料組成物は、椿油とアスタキサンチンとを含有する。
【0011】
椿油とアスタキサンチンとを含有するがゆえに、この化粧料組成物は、椿油の有する保湿の作用及び紫外線遮蔽の作用が高くなっている。アスタキサンチンは抗酸化剤として肌の老化防止の効果を有する。さらに、アスタキサンチンは水中や空気中では、分解又は酸素によって酸化されやすいが、椿油に含有することで抗酸化作用が失われることがない。そのため長期間にわたって保湿、紫外線遮蔽及び抗酸化作用を兼ね備え肌の保護について相乗効果を奏する。椿油の奏する保湿効果又は紫外線遮蔽効果がさらに高められ、しかも、椿油の化粧料としての安全性、利便性又は応用性を損なわない化粧料組成物となる。
【0012】
椿油に対して0.1〜10.0重量%のアスタキサンチンを含有することが好ましい。アスタキサンチンの抗酸化作用が有効に得られ、アスタキサンチン及びその溶剤によって椿油の本来の保湿効果、紫外線遮蔽効果、利便性及び応用性が低下するといったことがない。
【0013】
トリグリセリドを含有することが好ましい。アスタキサンチンがトリグリセリドに有効に溶解するので、椿油に対してアスタキサンチンが効果的に分散する。
【0014】
椿油に対して0.1〜10.0重量%のトリグリセリドを含有することも好ましい。アスタキサンチンの分散を有効に行うことができ、かつ、椿油の本来の保湿効果、紫外線遮蔽効果、利便性及び応用性が低下するといったことがない。
【0015】
本発明の化粧料組成物の製造方法は、トリグリセリドに対してアスタキサンチンを溶解する工程と、トリグリセリドを椿油と混合する工程とを含む。
【0016】
この製造方法では、アスタキサンチンがトリグリセリドに有効に溶解するので、椿油に対してアスタキサンチンが効果的に分散する。椿油の有する保湿の作用及び紫外線遮蔽の作用が高くなっている。アスタキサンチンは抗酸化剤として肌の老化防止の効果を有する。さらに、アスタキサンチンは水中や空気中では、分解又は酸素によって酸化されやすいが、椿油に含有することで抗酸化作用が失われることがない。そのため長期間にわたって保湿、紫外線遮蔽及び抗酸化作用を兼ね備え肌の保護について相乗効果を奏する。椿油の奏する保湿効果又は紫外線遮蔽効果がさらに高められ、椿油の化粧料としての安全性、利便性又は応用性を損なわない化粧料組成物の製造方法となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、この化粧料組成物は、椿油の有する保湿の作用及び紫外線遮蔽の作用が高くなっている。アスタキサンチンは抗酸化剤として肌の老化防止の効果を有する。さらに、アスタキサンチンは水中や空気中では、分解又は酸素によって酸化されやすいが、椿油に含有することで抗酸化作用が失われることがない。そのため長期間にわたって保湿、紫外線遮蔽及び抗酸化作用を兼ね備え肌の保護について相乗効果を奏する。椿油の奏する保湿効果や紫外線遮蔽効果がさらに高められ、椿油の化粧料としての安全性、利便性や応用性を損なわない化粧料組成物となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例における皮膚水分蒸散量(女性)を示すグラフ図である。
【図2】本発明の実施例における皮膚水分蒸散量(男性)を示すグラフ図である。
【図3】本発明の実施例における皮膚水分蒸散量(男女平均)を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態の化粧料組成物は、椿油及びアスタキサンチンを含有する。椿油は、椿種子を搾油して得られる油脂を含有する成分である。椿種子は、椿科植物の種子であり、主に椿油の原料となる品種、またその他の椿科の植物の種子も利用できる。種子が椿油の原料となる椿科植物の例としては、ヤブツバキ、サザンカ、チャノキなどがある。本実施形態では、ヤブツバキの種子のみを使用している。搾油は椿科植物の種子をローラー、プレス等で粗砕、加圧し、油分の椿油を得る方法を用いることができる。本実施形態では椿種子をスクリュープレスを用いて粗砕、加圧している。
【0020】
さらに本実施形態では、搾油した椿油を、活性炭電極を通じて電圧を印加して精製する工程を加えている。原油を電極の間に電圧を印加しながら供給して、一方の電極が、活性炭電極であり、不純物を活性炭電極に向かって移動させることによって、不純物を活性炭電極側に集積させるとともに、他方の電極近傍から不純物の除去された油を、前記活性炭電極を通過させることによって、原油中の不純物を吸着ろ過し、酸化値のさらに低下した椿油を得ている。こうした工程に用いる方法及び装置としては、特許文献2に記載されているものがある。なお、ろ過精製装置は、この構造に限定されることなく、椿油を活性炭に通過させ、あるいは活性炭を電極として前記活性炭に電圧を印加しつつ椿油を通過させる装置構成であれば適宜採用することができる。
【0021】
アスタキサンチン(C4052、3,3´−ジヒドロキシ−β,β−カロテン−4,4´−ジオン)は、主に魚介類等から得られる色素等として知られるが、本実施形態では由来は問わない。アスタキサンチンは椿油に対して0.1〜10.0重量%を含有する。この値よりも少なすぎるとアスタキサンチンの効果が発揮されず、多すぎるとアスタキサンチンを溶かすための溶剤等の量も増えるため椿油の効能に影響する場合がある。さらには0.12〜0.6重量%が最も望ましい。この範囲は、抗酸化剤としての有効性が特に得られる範囲、またコスト上の問題から好適である。
【0022】
化粧料組成物は、トリグリセリド(トリ−O−アシルグリシン、トリアシルグリセロール、TAG)を含有する。トリグリセリドは後述する本実施形態の化粧料組成物の製造方法において、水溶性のアスタキサンチンを油脂成分である椿油に対して有効に分散させるために用いる。本実施形態では主成分がトリグリセリドのうち、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルを含有するものを用いている。トリグリセリドの含有量はアスタキサンチンを油脂成分に分散できるに充分であれば任意だが、目安として椿油に対して0.1〜10.0重量%程度である。トリグリセリドが多すぎると椿油やアスタキサンチンの成分割合が低くなるため、保湿及び紫外線遮蔽の作用が減ずることがある。また、アスタキサンチンを充分に分散するためアスタキサンチンの重量の0.5〜5.0倍程度が望ましい。なお、トリグリセリド以外にも、疎水基と親水基を有する化合物を用いてアスタキサンチンを溶解、分散させてもよい。例えばグリセロール等の化合物を用いてもよい。
【0023】
この化粧料組成物は、椿油の有する保湿の作用及び紫外線遮蔽の効果が高くなっている。アスタキサンチンにより椿油のこれらの効果が上昇するメカニズムは明らかではないが、保湿の作用については、アスタキサンチンの抗酸化作用が皮膚角質の保護に対して寄与し、椿油による保護作用と相乗効果を及ぼしている可能性がある。また、アスタキサンチンは大気中で抗酸化作用を失いやすいが、この化粧料組成物の椿油の効果上昇は長期間維持される。これはアスタキサンチンの効果が長期間維持されることを意味し、アスタキサンチンが椿油に溶解されていることで大気と触れることが少ないため分解や酸化を受けず、いわばアスタキサンチンが椿油によって保護されて長期間効果を発揮するという効果を及ぼしていると考えられる。
【0024】
次に、本実施形態の化粧料組成物の製造方法について説明する。この製造方法は、トリグリセリドに対してアスタキサンチンを溶解する第1の工程と、このトリグリセリドを椿油と混合する第2の工程とを含む。
【0025】
第1の工程では、トリグリセリドに対してアスタキサンチンを混合する。例としては、アスタキサンチンの0.5〜5倍量のトリグリセリドにアスタキサンチンを混合する。第2の工程では、椿油1gに対してアスタキサンチンの1〜10mgとなるよう、最終濃度を調整して上述のトリグリセリドを椿油に混合する。
【0026】
このほか、いずれかの工程で、化粧料組成物には化粧料に適した各種の添加物を加えてもよい。例えば、分散をより有効に行うための各種の乳化剤、酸化防止剤、アスタキサンチン以外に色素として藻類エキス等を加えてもよい。
【実施例】
【0027】
(試験例1)
トリグリセリルとしてトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルとヘマトコッカスプルピアリルエキスを6:4の割合で含有する溶剤(市販名:ピュアスタオイルC100、ヤマハ発動機(株))にアスタキサンチンを6:4の割合で添加したトリグリセリル液2gと、椿油として4パスカメリアオイル129gを混合し、さらにこれを椿油の4パスカメリアオイルで5倍に希釈し、化粧料組成物とした。アスタキサンチンの最終濃度は椿油1gに対し1.2mgであった。この化粧料組成物を実施例1とし、実施例1に対してアスタキサンチンを添付していないものを比較例1とした。
【0028】
男性5名、女性6名について、左手には実施例1、右手には比較例1を塗布し、同一容器より1滴(およそ30mg)を8−10cm四方に塗布した。これを10日間、朝晩2度行った後、皮膚の平均水分蒸散量を測定した。測定は5月で湿度42〜50%、同一の室内で行った。女性の結果を表1、グラフ化したものを図1に示す。男性の結果を表2、グラフ化したものを図2に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
皮膚水分蒸散量変化の男女10人の平均は実施例1で−18%、比較例1で−7%であった。これをグラフ化したものを図3に示す。実施例1すなわち本実施形態の化粧料組成物は、アスタキサンチンを添加していない椿油に対して肌に対する保湿効果を高めることが示された。
【0032】
(試験例2)
紫外線測定器にプラスチックフィルムをかぶせ、そのフィルム上に試験例1で用いた実施例1と比較例1をおよそ30mg、5cm四方に対して塗布した。その後、5cm離れた場所に紫外線光源を配置し、紫外線を測定した。結果を表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
椿油がある程度紫外線を遮蔽する効果を持つが、アスタキサンチンを添加するとその効果がさらに高まることが示された。
【0035】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の化粧料組成物は化粧品、香粧品又は洗浄剤をはじめその他の肌に使用する外用剤の添加物等に幅広く役立つものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
椿油とアスタキサンチンとを含有することを特徴とする化粧料組成物。
【請求項2】
前記椿油に対して0.1〜10.0重量%のアスタキサンチンを含有することを特徴とする請求項1に記載の化粧料組成物。
【請求項3】
トリグリセリドを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の化粧料組成物。
【請求項4】
前記椿油に対して0.1〜10.0重量%のトリグリセリドを含有することを特徴とする請求項3に記載の化粧料組成物。
【請求項5】
トリグリセリドに対してアスタキサンチンを溶解する工程と、前記トリグリセリドを椿油と混合する工程とを含むことを特徴とする化粧料組成物の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−107832(P2013−107832A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251937(P2011−251937)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(300046810)株式会社椿 (8)
【Fターム(参考)】