説明

医用画像処理システム

【課題】 手術中に、無侵襲かつリアルタイムに、血流状態の評価を定量的に行うことができ、高精度な判定を行える医用画像処理システムを提供する。
【解決手段】 熱画像装置(100)は、被検体の臓器における関心領域を含む所定範囲の表面温度分布を示す熱画像を生成し、遠隔制御記憶装置(400)に転送する。遠隔制御記憶装置(400)は、受信した熱画像に基づいて、関心領域の表面温度の平均値を所定周期ごとに算出する。その後、算出した平均値を時系列に並べたグラフを、モニタ(500)に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用画像処理システムに関し、特に、被検体の表面温度分布を示す熱画像を生成する手段を含む医用画像処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
血管病変の評価を目的としたMRI装置やX線撮影装置を用いた血管造影においては、一般に患者への造影剤の投与を伴う。しかし、造影剤の投与は患者への負担が大きいという問題がある。そのため、造影剤を用いることなく、あるいは人体への影響の少ない造影剤を用いて、血流情報を得ることのできる種々の技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
しかしながら、そもそもMRI装置やX線撮影装置などを用いた血管造影は、手術中の開胸時などには適用することができないという問題がある。
【0004】
これに対し、被検体の表面温度を計測して可視化する熱画像装置を用い、この熱画像の表示を見て血流状態を判断する手法が提案されている(非特許文献1を参照。)。この手法は手術中にも適用することができ、たとえば吻合部領域における血流状態をリアルタイムに観測することができる。
【0005】
【特許文献1】特開2000−126155号公報
【非特許文献1】Iwao Fujimasa, Hideo Nakazawa, Shiaki Kawada, "A Newly Developed Thermal Coronary Angiography System", World Congress on Medical Physics and Biomedical Engineering, Chicago, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、判定者にとって、単に熱画像を目視するだけでは血流状態の変化が判然とせず、術前術後での手術の効果を精度よく判定できない場合も多い。
【0007】
本発明は、かかる問題点あるいはその他の問題点を解決するためになされたもので、手術中に、無侵襲かつリアルタイムに、血流状態を判定者に定量的に示すことができ、判定者による、術前術後での手術の効果の高精度な判定を可能とする医用画像処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る医用画像処理システムは、被検体の臓器における関心領域を含む所定範囲の表面温度分布を示す熱画像を生成する熱画像生成手段と、生成された前記熱画像に基づいて、前記関心領域の表面温度の平均値を所定周期ごとに算出する算出手段と、算出された前記平均値を時系列に並べたグラフを表示する表示手段とを備える。この構成によれば、手術の効果を客観的な数値として把握することができ、判定者による、術前術後での手術の高精度な判定に資することができる。
【0009】
本発明の好適な実施形態によれば、前記臓器は心臓であり、冠動脈およびその末梢血管部を、前記関心領域として設定する設定手段を更に有する。この設定手段により、冠動脈手術の術前、術後で、血流状態の変化を、心臓の脈動に左右されずに高精度に把握することができる。
【0010】
また、本発明の好適な実施形態によれば、前記設定手段は、前記熱画像に基づいて、表面温度が所定温度より高い部位を前記冠動脈と判定する手段を含む。これにより、簡単かつ確実に関心領域を設定することが可能になる。
【0011】
さらに、本発明の好適な実施形態によれば、前記算出手段は、所定の温度範囲外にある表面温度を、前記平均値の算出の対象から除外する。これにより、表面温度が所定の温度範囲外の手術具などによって撮影領域が遮られることによる血流状態の高精度な把握に対する精度悪化を未然に防止することが可能になる。
【0012】
さらに、本発明の好適な実施形態によれば、前記所定範囲の可視画像を撮像する撮像手段を更に備え、前記算出手段は、この撮像手段によって撮像された可視画像の前記関心領域における色が所定の色とは異なる部位の表面温度を、前記平均値の算出の対象から除外する。かかる構成によっても、色が所定の色(例えば臓器の色)とは異なる手術具などによって撮影領域が遮られることによる血流状態の高精度な把握に対する精度悪化を未然に防止することが可能になる。
【0013】
また、本発明の別の側面は、被検体の臓器における関心領域を含む所定範囲の表面温度分布を示す熱画像を生成する熱画像装置と、画像を表示する表示装置とを接続したコンピュータによって実行されるプログラムに係り、前記熱画像装置から前記熱画像を取得するためのコードと、取得された前記熱画像に基づいて、前記関心領域の表面温度の平均値を所定周期ごとに算出するためのコードと、算出された前記平均値を時系列に並べたグラフを前記表示装置に表示させるためのコードとを含むことを特徴とする。このプログラムが実行されることで、手術の効果を客観的な数値として把握することができ、高精度な判定に資することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、手術中に、無侵襲かつリアルタイムに、血流状態を判定者に定量的に示すことができ、判定者による、術前術後での手術の効果の高精度な判定が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
ここでは、本発明が適用される医用画像処理システムの一例として、冠動脈を熱的な計測により画像として表現する熱冠動脈造影システム(Thermal Coronary Angiography System)について説明する。本システムにより提供される画像は、例えば、冠動脈バイパスグラフトの血流、心筋保護状況、吻合部狭窄の有無、末梢冠動脈血流、などの評価に供されることになる。ただし、本発明は特定の部位の造影に限定されるものではなく、心臓をはじめ、例えば肝臓、腎臓、脳などの部位にも同様に適用することができるものである。
【0017】
図1は、本実施形態における熱冠動脈造影システムの構成を示すブロック図である。図示の如く、本システムは、被検体から放射される赤外線エネルギーを測定することにより熱画像を生成する熱画像装置100、可視画像を撮像する撮像装置200、熱画像装置100により生成された熱画像と撮像装置200により撮像された可視画像とを融合する画像融合装置300、熱画像装置100および撮像装置200の遠隔操作を行うと共に、画像融合装置300から転送されてくる画像を記憶する遠隔制御記憶装置400、画像を表示するCRT等のモニタ500、により構成されている。
【0018】
熱画像装置100および撮像装置200は、例えばアルミニウム製の光学系ボックス50に収容され、この光学系ボックス50は手術台の上方に取り付けられる。光学系ボックス50と手術台との距離Dは、手術の邪魔にならないように、例えば0.8m以上とすることが望ましい。光学系ボックス50の、被検体が載置される手術台を臨む面には開口部210が設けられ、撮像装置200はこの開口部210を介して被検体の所定範囲の撮像を行うことになる。
【0019】
ここで、熱画像装置100および撮像装置200はそれぞれ、同一の領域を測定あるいは撮像するように取り付けられる。具体的には、例えば次のような配置構成をとる。まず、撮像装置200を開口部210を介して手術台を臨む向きにして光学系ボックス50に固定する。つぎに、熱画像装置100を、撮像装置100と向きがほぼ同じになるようにして撮像装置100に並べて光学系ボックス50に固定する。そして、図示のように、光学系ボックス50内において、撮像装置200の受光軸上にハーフミラー110を配置すると共に、ハーフミラー110の反射光を熱画像装置100に導入するためのミラー120を熱画像装置100の受光軸上に配置する。この構成によれば、ハーフミラー110に当たった被検体からの光線の何割かが反射してミラー120に当たり、これが熱画像装置100に導入される。その一方で、ハーフミラー110を透過した残りの光線は撮像装置200に導入される。これにより、熱画像装置100および撮像装置200は、同一の領域を測定あるいは撮像することができる。
【0020】
また、光学系ボックス50は、パンおよびチルト動作が可能に構成されている。このパンおよびチルト動作はそれぞれ、パンモータ130およびチルトモータ140によって行われる。
【0021】
熱画像装置100および撮像装置200はそれぞれ公知のものを使用することができるが、上記したような冠動脈造影における画像評価を行えるようにするためには、とりわけ熱画像装置100については、おおむね次のようなスペックを備える必要があろう。
【0022】
・温度分解能:0.15℃以下、
・温度計測範囲:0〜50℃、
・有効画素数:25万画素、
・フィールドタイム:30〜60frame/sec、
・撮影距離:0.8m以上
【0023】
画像融合装置300は、上記したように、熱画像装置100により生成された熱画像と撮像装置200により撮像された可視画像とを融合した画像を生成する。ただし、遠隔制御記憶装置400から受信した動作指示に応じ、この画像融合処理をスルーして熱画像装置100により生成された熱画像または撮像装置200により撮像された可視画像のいずれかを出力することも可能である。
【0024】
遠隔制御記憶装置400は、いわゆるワークステーションであり、図示するように、装置全体の制御をつかさどるCPU401、ブートプログラム等を記憶しているROM402、主記憶装置として機能すると共に、CPU401のワークスペースを提供するRAM403をはじめ、以下の構成を備える。
【0025】
HDD404は、ハードディスク装置であって、ここにOSのほか、熱画像装置100、撮像装置200、あるいは画像融合装置300の制御を行うための画像処理プログラムが格納されている。加えて、このHDD404には、画像融合装置300より転送されてくる画像データを記憶するための領域も確保されている。
【0026】
405および406は入力装置としてのキーボードおよびマウスであり、それぞれから入力される信号は、キーボードコントローラ405aおよびマウスコントローラ406aを介してCPU401に転送される。VRAM407は、表示しようとする画像データを展開するメモリであり、ここに画像データ等を展開することでモニタ500に表示させることができる。408および409はそれぞれ、パンモータ130の駆動を制御するパンモータコントローラ、チルトモータ140の駆動を制御するチルトモータコントローラである。
【0027】
410は画像融合装置300を接続するインタフェース(I/F)で、ここを介して画像融合装置300に動作指示を送ると共に、画像融合装置300から出力される画像データを受信する。また、411および412はそれぞれ、熱画像装置100、撮像装置200を接続するインタフェースで、熱画像装置100、撮像装置200に動作のON/OFFを指令する制御信号を送出する。
【0028】
パンモータ130およびチルトモータ140の駆動、ならびに、熱画像装置100、撮像装置200、画像融合装置300の動作は、キーボード405またはマウス406を介して入力される指令に応じて制御されうる。すなわち、オペレータはキーボード405またはマウス406を用いて光学系ボックス50、熱画像装置100、および撮像装置200の遠隔操作が可能である。
【0029】
本実施形態における熱冠動脈造影システムの構成は概ね上記のとおりである。以上のように構成された熱冠動脈造影システムは、オペレータの指示に応じて、熱画像装置100により生成された機能画像である熱画像または、撮像装置200により撮像された解剖学的画像である可視画像、あるいは、両者の融合画像をモニタ500に表示する。心筋表面温は主にその領域の血流量に依存する。したがって、熱画像は基本的に血流量を反映したものであるといえる。手術中の開胸時などには、従来のシネ造影法や超音波造影法などを適用することができない。一方、本システムは手術中に適用することが可能であり、表示された熱画像等に基づいて血流評価をリアルタイムに行うことができる。
【0030】
とりわけ、熱画像と可視画像との融合画像は、血流評価に有用である。本発明者による、冠動脈バイパス術に本システムを適用した実験によれば、融合画像によって例えば次のような結果が得られた。
【0031】
第1に、体外循環開始前、心筋表面温が34℃〜35℃であったところ30℃に下降し、心筋活性度が低下した場面において、冠動脈が良好に描出された。したがって、冠動脈の狭窄や閉塞が無侵襲で観測可能であった。
【0032】
第2に、大動脈遮断後、心筋保護液による心筋局所冷却中、所定の撮影温度域外で一様な温度分布を示し、十分な心筋保護状況を観察することができた。
【0033】
第3に、LAD末梢側吻合後、グラフト末梢のLAD環流領域に広範囲に環流する様子が描出され、グラフト吻合の有効性を確認することができた。
【0034】
第4に、LAD領域への吻合前後での心筋温計測では、グラフトを通してLAD領域への十分な血流を反映して心筋温の上昇が示され、吻合後での心筋活性度の上昇が認められた。
【0035】
このように、融合画像の有用性を示すことができた。しかしながら、上記した第4の結果に関して、すなわち心筋活性度の評価に関しては、ケースによっては融合画像を目視しても依然として温度分布が判然としないこともあり、改善の余地がある。
【0036】
そこで、本実施形態では、心筋活性度の評価を行う際、熱画像に基づく温度のグラフを表示するグラフ表示モードを設け、表示されたグラフによって温度変化の様子を明瞭に示すようにする。これを実現する処理を、図2のフローチャートを用いて詳しく説明する。このフローチャートに対応するプログラムは、HDD404にインストールされている画像処理プログラムに含まれ、遠隔制御記憶装置400の電源投入後、RAM403にロードされてCPU401によって実行されるものである。
【0037】
まず、撮影モードの設定を行う(ステップS1)。ここでは例えば、図3に示すようなユーザインタフェースがモニタ500に表示され、オペレータはマウス406を用いて、いずれかのラジオボタンを選択することによって動作モードを設定することができる。図3の例では、画像を表示する画像表示モード、または、グラフを表示するグラフ表示モードのいずれかを選択することが可能であり、グラフ表示モードが選択された状態が示されている。なお、画像表示モードを選択した場合には、図示のように、撮像装置200からの可視画像を表示するか、熱画像装置100からの熱画像を表示するか、あるいは、可視画像と熱画像との融合画像を表示するか、を選択することができる。このようなモードを選択した後、「OK」ボタンをクリックすればそのときの選択状態が確定され、設定データとしてRAM403に一時的に記憶される。一方、「キャンセル」ボタンをクリックすることにより、デフォルトの設定状態に戻すことができる。なお、このような撮影モード設定のためのユーザインタフェースは、本処理の動作中はいつでも呼び出すことが可能で、任意に設定できるようにプログラムしておくことが好ましい。
【0038】
また、この際にオペレータは、パンモータ130およびチルトモータ140を駆動して撮影領域の位置決めをしておくことが必要である。例えば冠動脈造影の場合には、撮影領域は心臓の冠動脈およびその末梢血管部を含む範囲ということになる。
【0039】
撮影モードの設定が完了すると、グラフ表示モードが設定されたかどうかを、RAM403に記憶されている設定データを参照して判断する(ステップS2)。ここで、グラフ表示モードではなく画像表示モードが設定されていた場合には、ステップS3に進み、RAM403に記憶されている設定データを参照して、撮像装置200からの可視画像および/または熱画像装置100からの熱画像を取得し、可視画像または熱画像、あるいは両者の融合画像を、モニタ500に表示する(ステップS3)。具体的にはこのとき、上記設定データから、表示すべき画像の種類(可視画像/熱画像/融合画像)を特定するデータを抽出して、これをI/F410を介して画像融合装置300に送る。画像融合装置300は、このデータに応じた種類の画像を出力する。遠隔制御記憶装置400は、この画像融合装置300より出力された画像をI/F410を介して取得し、そして、この画像をモニタ500に表示する。
【0040】
一方、ステップS2において、グラフ表示モードが設定されていた場合には、ステップS4に進む。ステップS4では、撮影領域のうちの関心領域(Region Of Interest、以下「ROI」という。)の設定を行う。本実施形態におけるROIとは、被検体の臓器(例えば心臓)において、術前術後で血流状態の変化が被検体の臓器の表面温度により明確となる領域のことである。冠動脈造影の場合には、ROIは冠動脈およびその末梢血管部ということになる。具体的なROIの設定方法としては例えば、撮像装置200から画像融合装置300を介して取得した可視画像の1フレームを表示し、マウス406を用いて、例えば冠動脈およびその末梢血管部をROIとして指定する。あるいは、このかわりに、本システム側で自動的にROIを設定するようにしてもよい。例えば、熱画像に基づき所定温度以上の範囲を冠動脈と判定して、その範囲を含む周辺領域をROIとすることが考えられる。このほか、可視画像に基づき所定の色の範囲を冠動脈と判定して、その範囲を含む周辺領域をROIとするようにしてもよい。
【0041】
次に、ステップS5で、術前測定指示を待機する。術前測定指示は例えばキーボード405に割り当てられた術前測定キーが押下されるか、あるいは、図4に示すようなユーザインタフェースにおける第1のスタートボタン41がマウス406を用いてクリックされることにより発行される。この術前測定キーは術前(例えば、冠動脈バイパス術におけるグラフト吻合前)に押下されるべきものである。術前測定指示が検出されると、熱画像装置100からの所定時間(例えば、5秒間)分の熱画像データを画像融合装置300を介して取り込み、このうちのROIにおける熱画像データを術前温度測定データとしてHDD404に記憶する(ステップS6)。
【0042】
次に、ステップS7で、術後測定指示を待機する。術後測定指示も例えばキーボード405に割り当てられた術後測定キーが押下されるか、あるいは、図4に示すようなユーザインタフェースにおける第2のスタートボタン42がマウス406を用いてクリックされることにより発行される。この術後測定キーは術後(例えば、上記冠動脈バイパス術におけるグラフト吻合後)に押下されるべきものである。術後測定指示が検出されると、熱画像装置100からの上記所定時間分の熱画像データを画像融合装置300を介して取り込み、このうちのROIにおける熱画像データを術後温度測定データとしてHDD404に記憶する(ステップS8)。
【0043】
次に、ステップS6で得られた術前温度測定データおよびステップS8で得られた術後温度測定データのそれぞれについて、所定周期(例えば0.2秒周期)ごとの平均値を算出する(ステップS9)。そして、この両者の平均値を時系列に並べたグラフ(トレンドグラフ)を、モニタ500に表示する(ステップS10)。
【0044】
図5は、ステップS10で表示されるトレンドグラフの一例を示している。同図中、曲線aは術前のROIの温度、曲線bは術後のROIの温度を示している。このグラフ表示によれば、術後の十分な血流を反映してROIの温度の上昇、すなわち、心筋活性度の上昇が一目瞭然にしてわかる。一方、図6は、曲線a、bは同様の温度帯で交錯しており、これにより、術後の血流は不十分で、ROIの心筋活性度が上昇していないことがわかる。このように、術後の効果がリアルタイムに無侵襲で、定量的な観察を行うことができる。これは従来法にはなかった大きな利点である。
【0045】
ところで、ステップS8の温度測定中に、ROIに手術具(例えばメスやチューブ)や施術者の手袋などが入り込む場合がある。図7は、このような場合に作成されたトレンドグラフの一例を示している。図5,6と同様に、曲線aが術前のROIの温度、曲線bが術後のROIの温度を示している。ここで、区間Tnでは、手術具がROIに入り込んだために、術後のROIの温度が大きく低下している。このような区間はグラフ表示による評価の邪魔となる。そこで、例えば、所定周期ごとの平均値を算出するステップS9において、各周期で、所定温度範囲外にある術後温度測定データを検出し、検出された所定温度範囲外にある術後温度測定データについては平均値の算出から除外する。あるいは、このステップS9において、各周期で、撮像装置200によって撮像された可視画像における色が所定の色とは異なる領域をROIから検出し、検出された領域の術後温度測定データについては平均値の算出から除外する。このような処理によって、グラフによる血流評価の精度悪化を未然に防止することが可能である。
【0046】
以上、本発明の好適な実施形態を詳述したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0047】
例えば、上記の実施形態では、術前温度測定データおよび術後温度測定データはそれぞれ、ステップS5およびステップS7での測定指示の検出をトリガとしてその後に取得される所定時間分の熱画像データに基づくものであった。しかし、術前温度測定データおよび術後温度測定データの取得方法はこれに限られるものではない。例えば、ROIの設定が完了した後は、熱画像データを順次取り込んでHDD404に格納していく。そして、術前測定キーの押下が検出されると、HDD404に記憶されている最新の熱画像データから所定時間以前の熱画像データに基づき平均値を算出する。その後、術後測定開始キーの押下が検出されたときも、HDD404に記憶されている最新の熱画像データから所定時間以前の熱画像データに基づき平均値を算出する。このような構成によっても、本発明の所期の効果を得ることができる。あるいは、ROIの設定が完了した後は、熱画像データを順次取り込んでHDD404に格納していき、術後に熱画像データを再生しつつ、術前測定および術後測定それぞれの測定開始位置および測定終了位置をオペレータに指定させ、この指定に基づきそれぞれの平均値を算出するようにしてもよい。
【0048】
また、上述の実施形態では、熱画像装置100からの熱画像と撮像装置200からの可視画像との融合処理は画像融合装置300によって行う構成としたが、このような融合処理は別個に設けられた専用の装置ではなく、遠隔制御記憶装置400においてソフトウェアによって実現することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施形態における熱冠動脈造影システムの構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態における熱冠動脈造影システムの動作を示すフローチャートである。
【図3】実施形態における撮影モードの設定に係るユーザインタフェースの一例を示す図である。
【図4】実施形態におけるグラフ表示モードにおける測定指示を送出するためのユーザインタフェースの一例を示す図である。
【図5】、
【図6】、
【図7】実施形態におけるモニタに表示されるグラフの一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の臓器における関心領域を含む所定範囲の表面温度分布を示す熱画像を生成する熱画像生成手段と、
生成された前記熱画像に基づいて、前記関心領域の表面温度の平均値を所定周期ごとに算出する算出手段と、
算出された前記平均値を時系列に並べたグラフを表示する表示手段と、
を有することを特徴とする医用画像処理システム。
【請求項2】
前記臓器は心臓であり、
冠動脈およびその末梢血管部を、前記関心領域として設定する設定手段を更に有することを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理システム。
【請求項3】
前記設定手段は、前記熱画像に基づいて、表面温度が所定温度より高い部位を前記冠動脈と判定する手段を含むことを特徴とする請求項2に記載の医用画像処理システム。
【請求項4】
前記算出手段は、所定の温度範囲外にある表面温度を、前記平均値の算出の対象から除外することを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理システム。
【請求項5】
前記所定範囲の可視画像を撮像する撮像手段を更に備え、
前記算出手段は、この撮像手段によって撮像された可視画像の前記関心領域における色が所定の色とは異なる部位の表面温度を、前記平均値の算出の対象から除外することを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理システム。
【請求項6】
被検体の臓器における関心領域を含む所定範囲の表面温度分布を示す熱画像を生成する熱画像装置と、画像を表示する表示装置とを接続したコンピュータによって実行されるプログラムであって、
前記熱画像装置から前記熱画像を取得するためのコードと、
取得された前記熱画像に基づいて、前記関心領域の表面温度の平均値を所定周期ごとに算出するためのコードと、
算出された前記平均値を時系列に並べたグラフを前記表示装置に表示させるためのコードと、
を含むことを特徴とするプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−101900(P2006−101900A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−288422(P2004−288422)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年4月14日 日本血管外科学会発行の「日本血管外科学会雑誌 第13巻 第2号」に発表
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】