医用画像処理装置および医用画像処理プログラム
【課題】脂質コアに代表される付着物質と血管内腔との近接度合いを求め、それにより不安定プラークの危険度を判断可能とする。
【解決手段】抽出部104は、血管を含む部位の画像データを基に血管の断面を求めてその断面から、血管の内腔の輪郭および血管内に付着する付着物質の輪郭を抽出する。膨張部105は、抽出された前記内腔の輪郭および付着物質の輪郭の一方または双方の、少なくとも一部分を所定量だけ膨張する。
重複領域演算部106は、血管のそれぞれの断面について、膨張部105によって膨張された内腔の輪郭および付着物質の輪郭が重なるときの重複領域の大きさを求める。
【解決手段】抽出部104は、血管を含む部位の画像データを基に血管の断面を求めてその断面から、血管の内腔の輪郭および血管内に付着する付着物質の輪郭を抽出する。膨張部105は、抽出された前記内腔の輪郭および付着物質の輪郭の一方または双方の、少なくとも一部分を所定量だけ膨張する。
重複領域演算部106は、血管のそれぞれの断面について、膨張部105によって膨張された内腔の輪郭および付着物質の輪郭が重なるときの重複領域の大きさを求める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管を含む部位の画像データを基に前記血管の断面を求めて、その断面について画像処理を実行する医用画像処理装置および医用画像処理プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医用画像収集技術の発達により、IVUS(intravascular ultrasound)に代表される血管内エコー法を用いることで、血管内のプラークの性状解析が可能になった。一方で、マルチスライスCTにおいても、現状ではIVUSに比べて空間分解能が高くはないものの、空間分解能の向上により血管に付着する脂質コアの判別が可能になりつつある。IVUSでは検査にあたって体内への挿入が必要となるので、CT(Computed Tomography)を用いて体外から血管内の画像を収集することが求められている。特許文献1のように、プローブを介して冠動脈に光を入射して検出することにより、不安定プラークを検出する技術は開示されている。
【0003】
画像を収集する対象としては冠動脈が一例として挙げられる。冠動脈内には脂質コアが滞留し、不安定プラークを形成することがある。プラークは、一般に脂質コアが大きく繊維性被膜の薄い不安定プラークと、脂質コアが小さく繊維性被膜が厚い安定プラークの2つに分類される。不安定プラークの危険度は、繊維性被膜の厚さ、脂質コアの大きさ、マクロファージの浸潤度、平滑筋細胞の量により判別される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−509694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この不安定プラークが次第に肥厚することにより冠動脈の内腔が狭められ、急性冠症候群や急性心筋梗塞の要因となる。この不安定プラークを検査により判別する必要があるが、CTを用いて画像を収集する場合、収集された画像が、必要とされる程度の高さの解像度に満たないという問題がある。CTでは、たとえば骨は明確に撮影することができるが、血管中の組織を高い解像度で撮影することは難しい。
【0006】
特に、血管内腔と脂質コアを隔てる繊維性被膜は一般にきわめて薄い。この繊維性被膜の厚さを求め、不安定プラークの危険度を判定する必要がある。しかし、繊維性被膜の厚さを測定する場合、繊維性被膜が薄すぎて、不安定プラークの危険度を判定するには、得られる画像の空間分解能が足りないという問題がある。したがって、得られた画像のままでは、血管内腔と脂質コアの近接度合いおよびそれによる不安定プラークの危険度を、十分に確認しきれないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、血管を含む部位の画像データを基に前記血管の断面を求めてその断面を画像処理することにより、脂質コアに代表される付着物質と血管内腔との近接度合いを求め、それにより不安定プラークの危険度が判断可能な医用画像処理装置および医用画像処理プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1の発明にかかる医用画像処理装置は、血管を含む部位の画像データを基に前記血管の断面を求めてその断面から、前記血管の内腔の輪郭および前記血管内に付着する付着物質の輪郭を抽出する抽出手段と、抽出された前記内腔の輪郭および前記付着物質の輪郭の一方または双方の、少なくとも一部分を所定量だけ膨張する膨張演算手段と、前記血管のそれぞれの断面について、前記膨張演算手段によって膨張された前記内腔の輪郭および前記付着物質の輪郭が重なるときの重複領域の大きさを求める領域演算手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するために、請求項14の発明にかかる医用画像処理装置は、血管を含む部位の画像データを基に前記血管の断面を求めてその断面から、前記血管の内腔の輪郭および前記血管内に付着する付着物質の輪郭を抽出する抽出ステップと、抽出された前記内腔の輪郭および前記付着物質の輪郭の一方または双方の、少なくとも一部分を所定量だけ膨張する膨張演算ステップと、前記血管のそれぞれの断面について、前記膨張演算ステップによって膨張された前記内腔の輪郭および前記付着物質の輪郭が重なるときの重複領域の大きさを求める領域演算ステップと、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上により、血管内腔と脂質コアをそれぞれ膨張して重複した領域を求め、その大きさから付着物質と血管内腔との近接度合いを求めることができるので、繊維性被膜の厚さに代わる指標とすることができる。それにより、得られる画像が意図された分解能よりも低く得られた場合でも、この重複領域を指標として用いることができる。そしてこの重複領域の大きさから、不安定プラークの危険度を判定することができ、危険度の高い不安定プラークの状態を、ユーザが簡便に確認することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施の形態にかかる医用画像診断装置の機能ブロック図を示す。
【図2】冠動脈を血管芯線に沿った方向に切断した断面図である。
【図3】冠動脈を血管芯線に垂直な方向に切断した断面図である。
【図4】脂質コアおよび血管内腔の領域を抽出する処理を説明する概念図である。
【図5】抽出された血管内腔と脂質コアの輪郭を示す概略図である。
【図6】血管内腔と脂質コアの輪郭を膨張させる場合を示す概略図である。
【図7】膨張後の血管内腔と脂質コアの輪郭を示す概略図である。
【図8】膨張後の輪郭の重複部分を説明する概略図である。
【図9】重複領域の面積の変化をグラフとして示した表示画面である。
【図10】重複領域が最大となる血管の断面画像である。
【図11】重複領域内部の長軸および短軸の配置を説明する概略図である。
【図12】長軸と短軸の変化を並べてグラフとして示した表示画面である。
【図13】重複領域の面積の変化を血管の長さ方向の集合としてグラフに示した表示画面である。
【図14】複数の脂質コアがある場合の、冠動脈を血管芯線に沿った方向に切断した断面図である。
【図15】各脂質コアの危険度に関する情報を表示するときの表示例である。
【図16】一連の冠動脈について解析処理を実行する処理を示すフローチャートである。
【図17】重複領域の算出処理を示すフローチャートである。
【図18】重複領域の面積を血管方向の長さの区間で合算して体積とする処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本実施の形態にかかる医用画像診断装置の機能ブロック図を示す。図1に示す医用画像診断装置は、医用画像を取得するX線CT装置10と、得られた医用画像を処理する医用画像処理装置100と、表示制御部20と、表示制御部20からの出力を受けて画像を表示する表示部30から構成される。
【0013】
医用画像処理装置100は、情報処理装置(CPU)と、ROM、RAM、HDDなどの記憶装置(図示しない)とを備えている。記憶装置には、医用画像処理装置100の各部の機能を実行するための処理プログラムが記憶されている。その処理プログラムには、画像データ記憶部101と、制御部102と、血管取得部103と、抽出部104と、膨張部105と、重複領域算出部106と、画像生成部107の各処理を実行するためのプログラムが含まれる。そして、情報処理装置(CPU)が各プログラムを実行することにより、各処理が実行される。
【0014】
X線CT装置10は、X線照射部及びX線検出部(いずれも不図示)を被検体の体軸に直角方向に回転させ、さらに体軸方向に進みながら患者に向けてX線を照射し、検査対象領域を通過したX線を検出する。検査対象領域には、不安定プラークが存在する疑いのある患者の血管領域および血管周辺の心臓領域が含まれる。そして、X線CT装置10は、検出したX線を基に3次元画像であるX線CT画像を生成する。そして、X線CT装置10は、制御部102に信号を出力し、生成したX線CT画像を医用画像処理装置100へ出力する。
【0015】
医用画像処理装置100は、画像データ記憶部101と、制御部102と、血管取得部103と、抽出部104と、膨張部105と、重複領域算出部106と、画像生成部107によって構成される。医用画像処理装置100は、X線CT装置10から得られた画像を処理して、処理された画像や、結果として得られたデータにしたがって得られる画像を表示制御部20に出力する。
【0016】
画像データ記憶部101は、X線CT装置10で撮影された血管を含む部位の画像データを取得して保存する。特に、患者の心臓領域の画像データをX線CT装置10から、心臓領域データとして読み込む。
【0017】
制御部102は、医用画像処理装置100の各部を制御する。上述のようにX線CT画像が血管取得部103に入力されるときにX線CT装置10から信号が入力されるので、これにより一連の処理を開始する。制御部102は、処理対象の血管断面を特定する処理を実行する。制御部102は、X線CT装置10から画像データ記憶部101に画像データが送られたとき、最初の血管断面について処理が開始する。
【0018】
制御部102は、図2の血管取得部103、抽出部104、膨張部105、および重複領域算出部106による、本実施例の処理のルーチンワークを制御する。すなわち、血管取得部103に最初の血管断面の処理を指示し、それにより1つの血管断面について一連の処理が終了したら重複領域算出部106から終了信号が入力されるので、これを受けて次の血管断面の処理を指示する。対象となる血管全体について処理が終了したら、一連の処理の終了を指示する。全体の一連の流れを、図16を用いて後述する。
【0019】
血管取得部103は、画像データ記憶部101に記憶された部位全体の画像データから、検査対象となる血管を抽出する。血管としては、冠動脈を例を挙げて説明するが、これに限定されるものではない。この他に大動脈や脳動脈などの比較的太い動脈も対象となりうる。そこで、血管取得部103は、画像データ記憶部101に記憶された冠動脈の画像データから血管断面の画像を抽出する。
【0020】
以下具体的に説明すると、まず血管取得部103は、この冠動脈について血管芯線を求める。この血管芯線は、血管の中心を通る線のことであり、この血管芯線の方向が血管の進行方向となり、そして血管の長さ方向となる。血管取得部103は、血管芯線が得られたら、この血管芯線の方向に垂直な面、直交する面を冠動脈の断面として、冠動脈の断面画像を生成する。この血管断面は、血管芯線方向に所定間隔ごとに得られる。この所定間隔は、脂質コアが検出可能な程度の距離とされる。間隔を密にしすぎると血管断面画像の取得及び処理が必要以上に時間がかかり、間隔が広すぎると脂質コアの状態が把握しきれないので、脂質コアの大きさに応じた間隔で血管断面を取得する。
【0021】
血管は進行方向にあわせてそれぞれ曲がりくねっているので、断面の向きもそれにあわせて曲がりくねることになる。一方で、血管芯線に垂直に断面を得ることで、この断面の向きが血管の太さを一定してあらわすことになり、比較に適した程度に各断面のばらつきを小さくすることができる。またこの血管断面から後述のように血管内腔と脂質コアの輪郭を得るので、血管芯線に垂直とすることにより、同様に比較に適した血管内腔と脂質コアの輪郭を得ることができる。
【0022】
以上のように血管芯線の所定間隔ごとに冠動脈の断面を得ていくが、心臓寄りの冠動脈の基部から、最終的には末端部まで断面画像を得ていく。その領域は、基部から末端部まですべてとしても良いし、設定により必要な範囲のみとしてもよい。なお、上記の血管の抽出の仕方、血管芯線の求め方、血管断面の求め方は、既存の技術を利用することができる。
【0023】
抽出部104は、脂質コア抽出部120と、血管内腔抽出部130と、閉曲線抽出部140によって構成される。これらの構成により、血管取得部103から入力された画像から、冠動脈、脂質コア、血管内腔の輪郭をそれぞれ示す閉曲線を生成する。
【0024】
脂質コア抽出部120は、血管取得部103によって得られた血管断面の画像から、画素値の違いを基に、脂質コアを占める領域を抽出する。一般に、血管内腔、脂質コア、その他の領域とでは、画像と推定される画素値は異なるので、閾値を設けて区別してそれぞれ取り出す。この脂質コアとは、血管内にたまる石灰化された部分のことである。動脈の内膜にコレステロールなどの脂肪からなるドロドロの粥状物質がたまってアテロームプラーク(粥状硬化斑)ができ、アテローム(粥状)プラークでも脂質成分に富む部分を脂質コアという。この脂質コアは、粥状に形成されているので、血管内部に付着して内腔を狭める要因となる。本実施例では脂質コアを対象にして血管内部を解析するが、血管内部には脂質コアの他、カルシウムなどの様々な物質が付着することが考えられるので、こうした血管内に付着する付着物質全般を対象に解析しても良い。
【0025】
血管内腔抽出部130は、血管取得部103によって得られた血管断面の画像から、画素値を基に血管の内腔を占める領域を抽出する。内腔とは内側の空洞のことであり、血管などの管状あるいは袋状をしている構造の内側のことである。
【0026】
脂質コア抽出部120および血管内腔抽出部130は、それぞれ血管断面の画像から領域拡張法を用いたセグメンテーション処理により、それぞれ脂質コアの領域および血管内腔の領域を抽出する。この脂質コアと血管内腔は、血管の進行方向に沿った断面上では図2および図3のような配置になる。この領域拡張法を用いた領域の抽出については図4を用いて後述する。
【0027】
閉曲線抽出部140は、与えられた画像について、その画像を占める領域の外側を描く閉曲線を描き、それにより領域の輪郭を抽出する。血管取得部103、脂質コア抽出部120、血管内腔抽出部130からそれぞれ画像を取得し、それぞれ血管断面の輪郭、脂質コアの輪郭、血管内腔の輪郭を形成する。このようにして形成され抽出された輪郭の一例を図5に示す。それぞれの輪郭のデータは膨張部105に出力する。
【0028】
膨張部105は、与えられたデータで示される輪郭を膨張させる。すなわち、脂質コアの輪郭および血管内腔の輪郭によりそれぞれ示される領域の一方または双方を所定量だけそれぞれ膨張させる。本実施例では両方を膨張させて後の処理に用いるが、一方だけを膨張させても良い。この膨張処理には、モルフォロジカルフィルタのdilation(ディレーション)処理を適用する。これにより各輪郭を外側に広げる。この膨張処理は、図6を用いて後述する。
【0029】
X線CT装置10の性能上、抽出部104から出力される各輪郭は、繊維性被膜の実際の厚さに対して解像度が低い画像として得られる場合が考えられる。したがって、そのまま用いて脂質コアと血管内腔の近接度を求めた場合、求められる近接度の精度が低いという問題がある。本実施例では、膨張部105によって各輪郭を膨張させることにより、低い解像度で得られた各輪郭の画像から実際に近接しうる範囲を推定画像として求めることができる。この推定画像として求められた近接しうる範囲について、後述のように重複領域の大きさを求めるので、血管の各断面についての危険可能性をスコアリングすることができる。
【0030】
また、後の実施例では脂質コアや血管内腔の輪郭全体を膨張させる場合について説明するが、輪郭全体ではなく輪郭の一部のみを膨張させてもよい。たとえば、与えられた輪郭全体を血管の外壁部分に近い側と遠い側に半分ずつに分け、それぞれ遠い側だけを膨張させることもできる。図5において後述するように、血管内腔も脂質コアも血管の中心に存在するものではなく、ともに中心からずれており、それぞれの血管から遠い部分が互いにとって近い部分となる。すなわち、脂質コアの血管外壁から遠い部分が血管内腔に近く、血管内腔の欠陥外壁から遠い部分が脂質コアに近い。そこで、この互いに近い半分ずつのみを膨張させることにより、膨張処理を半分で終わらせて高速化させることができ、その一方で必要な膨張処理を実行して後の重複領域に関する演算を実行することができる。
【0031】
また、ここでは各輪郭のうち左側/右側の半分ずつのみとしたが、輪郭の1/3や、2/3など、様々な長さを範囲として定めてもよい。膨張させるのを輪郭の1/3とする場合、上述のように双方の輪郭の半分をそれぞれ求め、求められた半分の輪郭の外側から1/6ずつを除去することにより求めてもよい。また、輪郭の2/3とする場合、上述のように双方の輪郭の半分をそれぞれ求め、求められた半分の輪郭の外側から1/6ずつを加えることにより求めてもよい。この他、一方の輪郭はすべての部分を膨張し、もう一方の輪郭は一部分を膨張するなど、短縮したい処理時間に応じて、様々な組み合わせが可能である。
【0032】
なお、この膨張させる所定量は、図6の実施例では1ピクセル(1画素)とするが、十分な量を膨張させるためにより多くの画素数としても良く、たとえば2ピクセル、3ピクセルなどとすることができる。なお数ピクセルを一度に膨張させるのではなく、1ピクセル膨張させた後に、膨張させた領域に対してさらに残りのピクセルを膨張させることもできる。膨張させるピクセル数の設定およびピクセルの膨張過程については設定により定めることもできる。
【0033】
ただし、後述のように、この膨張処理はもとの領域の輪郭が画素数の関係から粗くなってしまうことの不都合を回避するための処理なので、もとの領域の輪郭の大きさや形状を大きく変化させない程度の膨張とすることが望まれる。したがって、輪郭の膨張範囲は、少なくとももう一方の膨張前の輪郭の重心を越えない位置となる。または、膨張前の各領域の重心からの距離に対して3分の1、5分の1、10分の1の範囲内というように、膨張前の大きさを基準とした膨張幅とすることもできる。
【0034】
膨張の程度を示す所定量を大きくすることにより、後述の重複領域が大きくなるので、脂質コアと血管内腔が近接した部分を多く抽出することができる。これにより、取得された画像の粗さから境界領域が不明瞭な場合にも、近接しうる範囲を広く取ることができるので、危険となりうる可能な範囲を幅広く求めることができる。また、所定量を最小限の大きさとすることにより、たとえば取得された画像が比較的高精細に得られた場合に、危険と予測される範囲を実際に危険と考えられる範囲に限定し、実際は危険ではない範囲を除外することができる。それにより、実際の近接状況により即したデータを得ることができる。この選択は、得られる画像の画質により必要に応じて設定する事ができる。
【0035】
重複領域算出部106は、膨張部105によって膨張された、脂質コアの輪郭と血管内腔の輪郭によって形成された領域の大きさを求める。すなわち、膨張された内腔の輪郭および付着物質の輪郭が重なるときの重複領域の大きさを求める。この重複領域の大きさは、血管芯線の方向にわたるそれぞれの断面について求められる。膨張部105によって膨張されたのが一方のみの場合は、膨張された輪郭と膨張されていないほうの輪郭の両方を用いて重複領域を求める。
【0036】
脂質コアの輪郭と血管内腔の輪郭はともに膨張されるので、両輪郭は重なることになる。そこで、重複領域算出部106は、両輪郭が重なったか否かを判定し、重なったと判定された場合にその両輪郭が重ねられることによる重複領域を抽出する。抽出された重複領域のデータは、血管の長さ方向に沿った各断面の位置に対応させて、それぞれ重複領域算出部106のメモリに記憶される。
【0037】
そして重複領域算出部106は、抽出した重複領域の面積を算出して画像生成部107に出力する。重複領域の面積は、重複領域内部のドット数をカウントすることにより求めることができる。なお、両輪郭が重ならない場合、重複領域の面積は0となる。また、脂質コア抽出部120により脂質コアが抽出されなかった場合も、重複領域の面積は0となる。この重複領域は後述のように図8に示される。求められた重複領域の面積は、血管の長さ方向に沿った各断面の位置ごとに求められ、その位置に対応させて、それぞれ重複領域算出部106のメモリに記憶される。
【0038】
重複領域算出部106は、重複領域の面積とともに、あるいはその代わりに、重複領域内部の長軸の長さおよび短軸の長さを算出する。この実施例では長軸と短軸の両方を求める場合についてついて説明するが、求めるのは長軸のみでもよい。長軸および短軸の長さの算出については、図11を用いて後述する。長軸は、重複領域の輪郭上でもっとも遠い2点を結ぶ直線であり、短軸は、重複領域の輪郭上を長軸に垂直に結ぶ直線のうち、もっとも長いものである。重複領域算出部106は、長軸および短軸の長さを求め、血管の長さ方向に沿った各断面の位置に対応させて重複領域算出部106のメモリに記憶する。さらに重複領域算出部106は、長軸の長さと短軸の長さの合算値、長軸と短軸の差分値を求めて重複領域算出部106のメモリに記憶する。
【0039】
また、血管の各断面について重複領域断面の面積が求められ、これが重複領域算出部106のメモリに記憶されるので、重複領域算出部106はその合算値を体積として求める。ここで、重複領域算出部106は、重複領域の面積が、血管の芯線の方向に連続して0より大きい区間を抽出し、抽出された区間内の各面積を合算して、区間ごとに合計値を求める。具体的には、重複領域算出部106は、血管の長さ方向にわたる各位置で重複領域が0より大きいか否かを判定し、その0より大きいとされた位置から、再び0になる位置までの間をこの区間として抽出する。そしてこの抽出された区間内の各重複領域を合計する。合計された値が、各区間の重複領域の体積となり、画像生成部107に送られる。上述の体積を求める処理は、図13を用いて後述する。
【0040】
以上、抽出部104、膨張部105、重複領域算出部106の処理を1つの血管断面の画像について適用する。血管は心臓側の基部から末端側までつながっているので、制御部102の制御により、最初は基部側の断面から処理を開始して、次は末端側の断面に処理を移行していく。1つの断面について処理を実行したら、血管取得部103で特定したように次の血管断面を抽出して、一連の処理を処理を繰り返していく。
【0041】
画像生成部107は、画像データ記憶部101、血管取得部103、抽出部104、重複領域算出部106の各部から送られるデータに基づいて、表示部30で表示するべき画像を生成し、表示制御部20に送る。画像生成部107は、画像データ記憶部101から血管の部位を含む画像データを取得して表示画像を生成する。この場合、検査対象の血管に限らず、X線CT装置10で撮影された血管を含む部位の画像データを取得して表示制御部20に送る。この画像データは、部位の3次元画像データの場合があり、またStrechedMPR(Multi Planar Reformation)画像である場合もある。
【0042】
また、画像生成部107は、血管取得部103から血管のデータを取得して、血管の画像を生成する。血管の画像は、外形の画像であったり、芯線に垂直な方向の断面の画像であったり、また血管の芯線方向に沿った、芯線を含む断面の画像が挙げられる。また、画像生成部107は、閉曲線抽出部140から血管の輪郭、脂質コアの輪郭、血管内腔の輪郭を示すデータを取得し、このデータから各輪郭を示す画像を生成する。
【0043】
また、画像生成部107は、重複領域算出部106から重複領域に関するデータを取得し、この重複領域を示す画像を生成する。この重複領域に関するデータとは、重複領域の画像、重複領域の面積、重複領域の長軸、短軸の長さ、合計、差分、区間ごとの重複領域の体積が挙げられる。また、画像生成部107は、この重複領域の大きさを示すデータを取得し、このデータからグラフ情報を生成する。
【0044】
表示制御部20は、画像生成部107から画像を取得して、表示部30に出力する信号に変換し、この信号を表示部30に出力する。表示部30は、表示制御部20から出力された信号に基づいて画像を表示するディスプレイである。
【0045】
[脂質コアおよび血管内腔の抽出について]
図2は、冠動脈を血管芯線に沿った方向に切断した断面図である。血管芯線に沿った断面とするので、実際はつながっているが便宜上、上側を冠動脈201、下側を冠動脈202とする。この冠動脈201および202に付着される物質や、これらに取り囲まれる領域について説明する。冠動脈202に付着しているのが脂質コア203である。図2では冠動脈202に付着しているが、冠動脈201に付着している場合も想定される。また、冠動脈202にはマクロファージ204も付着している。
【0046】
次に、脂質コア抽出部120および血管内腔抽出部130の処理について説明する。血管内腔抽出部130は、図2(A)で示した血管断面の図から、血管内腔に相当する点を求めて、そこから領域拡張法により血管内腔領域205を求める。求められた血管内腔領域205は、図2(B)に示された領域として特定される。また脂質コア抽出部120は、図2(A)で示した血管断面の図から、脂質コアに相当する点を求めて、そこから領域拡張法により脂質コア203を求める。求められた血管内腔領域205は、図2(C)に示された領域として特定される。
【0047】
なお、図2は芯線に沿った方向の断面について説明したが、芯線に垂直な断面についても次に説明する。ここで、脂質コア203を含む断面と含まない断面をそれぞれ説明するので、図2(A)において脂質コア203を含まないものを断面210とし、脂質コア203を含むものを断面220とする。
【0048】
図3は、冠動脈を血管芯線に垂直な方向に切断した断面図である。図3(A)は、脂質コア203を含まない断面210を示す。図2では冠動脈201および202として分けて説明したが、芯線に垂直となる断面210からみた場合、このように円周状につながった形状となる。この断面210には、脂質コア203およびマクロファージ204は含まれない。図3(B)は、脂質コア203を含む断面220を示す。この断面220では、脂質コア203とマクロファージ204が血管内部に付着される。さらに、脂質コア203は、血管内腔から繊維性被膜230によって分けられる。
【0049】
図4は、脂質コアおよび血管内腔の領域を抽出する処理を説明する概念図である。図1の脂質コア抽出部120および血管内腔抽出部130に関して説明したように、領域拡張法を用いたセグメンテーション処理により脂質コアおよび血管内腔の領域をそれぞれ抽出する。なお、脂質コアと血管内腔の場合をあわせて説明するが、本処理はそれぞれ別々に実行され、脂質コアと血管内腔はそれぞれ別個に抽出される。
【0050】
まず、脂質コア抽出部120および血管内腔抽出部130は、脂質コアまたは血管内腔に該当すると推定、仮定される画素値をそれぞれ予め記憶しており、対象となる血管断面画像401から該当する画素値となるピクセル402を判別して抽出する。この画素は特定の1つの画素値に限定しても,ある程度幅を持たせたものでも良い。血管断面画像401は、説明のため正方形で示しているが、実際は血管断面の円形形状である内部全体にわたって判別して抽出する。抽出されたピクセル402は、脂質コアまたは血管内腔に該当すると仮定される仮定領域として分類される。
【0051】
なお、該当する画素値となるピクセルすなわちピクセル402が検出されない場合もある。すなわち、脂質コア抽出部120は、脂質コアが存在するか否かを判定し、この場合存在しないと判定することになる。この場合、脂質コアの抽出処理であれば脂質コアがその血管断面から検出されなかったということなので、その血管断面に対する脂質コアの抽出処理を終了する。脂質コアが抽出されないので、その後閉曲線を抽出することも膨張させることも必要がないので、その血管断面についての処理を終了させる。脂質コアがないので、この時点で不安定プラークが存在しないということが分かるので、その後の必要な処理を省略して処理時間を短縮することができる。
【0052】
ピクセル402が検出された場合、その中で仮定領域に分類されたピクセル402を中心として隣接する周辺のピクセル、近隣のピクセルについて、条件を満足するか否かを判定する。この条件とは、中心となるピクセル402の画素値に対して、判定対象となる隣接するピクセルが同じまたは近い画素値をとるか否かである。一致する画素値を中心として上下に閾値を設け、その画素値を加算または減算された範囲内に、判定対象となる隣接するピクセルの画素値が含まれるか否かを判定する。含まれると判定されたピクセルについてはさらに仮定領域に分類され、含まれないピクセルは仮定領域に分類されない。その結果仮定領域は、領域403に示されるように拡大する。
【0053】
仮定領域は領域403に示されるように拡大するが、拡大後も同じように周辺領域について同じ条件を満たすか否かを判定する。すなわち領域403の各ピクセルの周辺にある各ピクセルについて、一定の閾値範囲内にある画素値となるか否かを判定する。またはピクセル402の画素値を基準に判定しても良い。それにより仮定領域403はさらに領域404へと拡大し、血管断面画像405のようになる。
【0054】
[血管内腔と脂質コアの各輪郭の膨張について]
次に、以上のようにして抽出された血管内腔および脂質コアの輪郭をそれぞれ膨張し、それにより形成された重複領域を求めるときの、各領域の形状変化について説明する。
【0055】
図5は、抽出された血管内腔と脂質コアの輪郭を示す概略図である。血管501の内部に血管内腔502と脂質コア503が含まれる。血管内腔502および脂質コア503は、抽出された画像の解像度の関係から、隣接している場合やすでに重なっている場合もあるが、両者は実際は図3に示した繊維性被膜230により分離されている。
【0056】
図6は、血管内腔と脂質コアの輪郭を膨張させる場合を示す概略図である。ここでは血管内腔502を膨張させる場合について説明するが、脂質コア503を膨張させる場合についても同様の処理が適用される。この膨張させる対象である血管内腔502の輪郭600には、膨張部105により、モルフォロジカルフィルタリングのディレーション(dilation)処理が適用される。
【0057】
このディレーション処理は、定められた構成要素601を処理対象の輪郭600の外側に沿って移動させていくことにより、移動された構成要素601によって得られる外側の軌跡へ、処理対象の輪郭を膨張していく処理である。図6ではこの構成要素601が輪郭600に沿って配置される。構成要素601は、輪郭600の外側に、輪郭600に接するようにそれぞれ配置されていく。この構成要素601は円形であることを想定するが、たとえば正方形であってもよく、様々な形状が考えられる。また、図1の膨張部105に関して説明したように、この構成要素601は1ピクセルの大きさであることを想定するが、膨張したい大きさによって、2ピクセル以上の様々な大きさにすることができる。
【0058】
配置された構成要素601は、輪郭600に沿って移動され、1周したら元に戻る。移動方向は右回りでも左回りでも良い。このように構成要素601を輪郭600にそって移動させることにより、構成要素601は点ではなく幅をもつので、この構成要素601の外側に沿って軌跡が形成され、膨張後の輪郭602となる。この膨張後の輪郭602が、膨張部105によって膨張されて得られる図形である。
【0059】
なお、図1の膨張部105に関連して説明したように、血管内腔502のすべてを膨張させる必要はなく、たとえば図5に示されるように血管内腔502は血管501の左側の方に位置しているので、膨張部105は、血管内腔502の右側だけを膨張処理してもよい。逆に、脂質コア503は右側に位置しているので、脂質コア503の左側のみを膨張してもよい。このようにそれぞれ半分ずつのみを膨張させた場合であっても、膨張にかかる時間を短縮可能な一方で、重複領域の演算には支障がない。また、ここでは各輪郭のうち左側/右側の半分ずつのみとしたが、輪郭の1/3や、2/3など、様々な長さを範囲として定めてもよい。
【0060】
図7は、膨張後の血管内腔と脂質コアの輪郭を示す概略図である。図5に示した血管内腔502と脂質コア503は、図6に示した膨張処理により、それぞれ膨張輪郭701および膨張輪郭702に示したように膨張される。図7では図5に示した血管501の内部を、血管内腔502の場合と脂質コア502の場合を分けて、それぞれ図7(A)と図7(B)に分けて示しているが、いずれも同一の血管501の中に配置されている。
【0061】
[血管内腔領域と脂質コア領域の重複部分の算出及び表示]
図8は、膨張後の輪郭の重複部分を説明する概略図である。図7で膨張後の輪郭をそれぞれ示したが、いずれも血管501内にあるものなので、それを重ねたものが図8のように示される。膨張輪郭701および702は、もとの血管内腔502および脂質コア503よりも大きくされたものなので、両者は重複することが想定される。それにより重複領域801が形成される。実際は脂質コア503は大きくない場合もあるので、膨張輪郭702もさほど大きくはならず、膨張輪郭701と重複しない場合もある。その場合は重複領域801は形成されない。
【0062】
重複領域算出部106は、以上のように膨張部105により形成された膨張輪郭701と702から、重複領域801の形状を求める。そして求められた重複領域801についてその内部の面積を算出する。重複領域の面積は、重複領域内部のドット数をカウントすることにより求めることができる。
【0063】
図9は、重複領域の面積の変化をグラフとして示した表示画面である。表示画面は、グラフ900と画像910を含む。グラフ900は血管の長さ方向に沿った位置の面積の大きさの変化を示す。画像910は、この血管の長さ方向に沿った位置の断面画像を示す。血管の長さ方向は、上述のように上が基部すなわち心臓側、下が末端として並べられる。
【0064】
グラフ900は、上が基部方向、下が末端方向となっているが、表示されているものがすべてではなく、血管の基部から末端に至るうちの一部がグラフ900として表示されている。ここで表示されるグラフ900は、上方向または下方向を指示して操作することにより、指示された方向へと画面をスクロールさせることができる。このように上下方向は血管の進行方向となるが、一方で左右方向は、図8に示した重複領域801の面積を示す。波形が左端に位置するときは、この面積が0ということになり、面積が0よりも大きくなるときは、その大きさに応じた波形の大きさということになる。
【0065】
グラフ900は、点902から点903にわたって連続しており、点902は上述のように末端側であり、点903は上述のように基部側である。そして点902も点903も末端および基部そのものではなく、表示位置を変化させることにより、それぞれ末端側または基部側の先の方を表示していくことができる。その中で、図8に示した重複領域801が生じる血管上の位置に対しては、面積が0よりも大きいということになるので、波形変化が生じ波形904のようになる。一方で重複領域が生じない、すなわち面積が0である場合には、波形905に示されるように波形変化が生じない。
【0066】
画像910は、StrechedMPRによって見たときの冠動脈の断面画像である。この画像910も、グラフ900と同様に血管の長さ方向に沿って並べられたものであり、画像910の長さ方向の要素の1つ1つがそれぞれ血管の断面画像である。血管は直線に進行しているのではなく、体内を曲がりくねりながら進行している。これをStrechedMPRによって見たとき、画像910のように示される。
【0067】
この画像910の長さ方向の各要素は、断面ごとに、1つの方向から一定して見た形になるように、それぞれ横から見た形になるように矯正されたものとなっている。この矯正については、血管の方向には規定があって、その規定によると血管の外向きが基準となっている。血管の進行方向は曲がりくねっているので、したがって向きはばらばらとなっているが、この方向の規定に従って各断面を統一させている。その結果、それぞれ統一された断面の画像を、各長さの位置ごとに各要素としてつなぎあわせたものが、画像910として表示される。
【0068】
この血管の外向きというのは、血管内部を貫かれる芯線に対して垂直方向に外側である。そして、血管の進行方向が曲がりくねるときに、そのカーブの外側がこの血管の外向き方向ということになるので、その方向が統一されるように各断面を変更して並べる。このようにして形成された画像910は、左側が血管断面の膜を示し、右側に行くごとに矯正の影響が強く現れる。この実施例ではStrechedMPRを例として示しているが、CurvedMPRなど、断面画像を血管の長さ方向に表示する他の表示形態としてもよい。
【0069】
また表示形態として、表示部30は、表示制御部20の制御により、血管の長さ方向の各位置の血管断面画像を、それぞれの断面の重複領域の大きさに基づいた情報と対応付けて表示する。すなわち、グラフ900が示す血管の長さ方向の位置と、画像910の領域の1つが示す血管の断面画像の位置とを対応付けて表示する。
【0070】
上述のように、本実施例では血管の進行方向に沿って重複領域801の面積をそれぞれ求めることにより、血管の各位置における血管内腔と脂質コアの近接度合いをスコアリングすることができる。このように重複領域801の面積から近接度合いを求めることにより、この得られた近接度合いによって、面積が大きいことから両者が近接していると判断される。それにより、血管内腔と脂質コアの画像が繊維性被膜の厚さに対して低い解像度でしか得られない場合でも近接度合いが判定されるので、不安定プラークの危険度を知ることができる。
【0071】
なお、重複領域算出部106により、各断面の絶対的な危険度を求めてもよい。この場合、重複領域算出部106は、重複領域の面積の臨界点、閾値を予め記憶しておいて、求められた面積がその閾値を越えるか否かを判定し、面積がその閾値を越える位置の血管断面について、一定の危険度に達したことを表示してもよい。それにより、血管内に一定の危険度に達する血管断面が存在するか否かが判定されるので、検査対象の血管が危険であることを知ることができる。
【0072】
図10は、重複領域が最大となる血管の断面画像である。図5〜図8では、血管断面および内部の血管内腔と脂質コアの輪郭を抽出した画像を表示したが、図10は血管の実際の断面そのものの画像を示す。ここで、検査対象となった不安定プラークについて、その重複領域の面積が最大となる血管上の位置について血管501の断面画像を表示する。この血管501の断面画像を表示したとき、その中の脂質コア503が表示される。なお、不安定プラークが表示された場合に限らず、グラフ900上の一点が指定されたときに、その位置について血管501の断面画像を表示することもできる。このとき、同様に脂質コア503が表示され、存在しないときには脂質コア503は表示されない。
【0073】
ここまでは、重複領域801の面積によって大きさ、それによる血管内腔と脂質コアの近接度合いを求めてきたが、大きさを求める場合には必ずしも面積に限る必要はなく、たとえば長軸および短軸によって求めることもできる。この、重複領域801の内部の長軸および短軸を求める処理について次に説明する。
【0074】
図11は、重複領域内部の長軸および短軸の配置を説明する概略図である。図11では、図8に示した重複領域801のみを取り出して示している。そして、この重複領域801から長軸1101および短軸1102を求める。
【0075】
まず、重複領域801を特定し、その重複領域の輪郭でもっとも遠い2点を求める。そして、その2点を結ぶことにより長軸を求める。次に、この長軸に垂直にこの重複領域内で引かれる線のうちもっとも長い線を求める。求められた線を短軸とする。こうして求められた長軸および短軸の長さを上述の面積と同様に並べてグラフ化する。この長軸および短軸はそれぞれ表示してもよく、合計値および差分をそれぞれ表示しても良い。また重複領域の面積とともに並べて表示しても良い。
【0076】
長軸および短軸を求めることにより、その重複領域の大きさを求めることができるが、さらにこの長軸および短軸を、この重複領域の大きさを示す指標とすることができる。さらにこの長軸から短軸を引いた差分値を求めることにより、この差分値からこの重複領域の形状を求めることができる。
【0077】
図12は、長軸と短軸の変化を並べてグラフとして示した表示画面である。表示画面は、グラフ1201、グラフ1202、画像1203を含む。グラフ1201は血管の長さ方向に沿った位置の血管断面における重複領域内の長軸の長さの変化を示し、グラフ1202は血管の長さ方向に沿った位置の血管断面における重複領域内の短軸の長さの変化を示す。画像1203は、この血管の長さ方向に沿った位置の断面画像を示す。
【0078】
血管の長さ方向は、図9に示した画像910と同様、上が基部すなわち心臓側、下が末端として並べられる。グラフ1202および画像1203は、上が基部方向、下が末端方向となっているが、表示されているものがすべてではなく、血管の基部から末端に至るうちの一部を表示している。スクロール可能な点は図9と同様である。左右方向は、長軸および短軸の長さを示す。波形が左端に位置するときは、この長さが0ということになり、長さが0よりも大きくなるときは、その大きさに応じた波形の大きさということになる。
【0079】
ここで長軸は、重複領域の輪郭上でもっとも遠い2点を結ぶ直線である。重複領域算出部106は、次のようにして長軸を求める。まず、輪郭上の1点を定める。次にその点の座標に対して輪郭上でもっとも遠い点の座標を求め、両者の長さを求める。このようにして、輪郭上の各点に対して長さを求めて、その中からもっとも大きい値を求める。このもっとも大きい長さの値となる2点を結ぶ線が長軸となる。
【0080】
また、重複領域算出部106は、次のようにして短軸を求める。短軸は、重複領域の輪郭上を長軸に垂直に結ぶ直線のうち、もっとも長いものである。まず基準点を長軸の端から動かす。この基準点を通るように長軸に垂直な直線を延ばして、その直線が輪郭と交わる点を求める。長軸の端ではそれが1点に集まるので、垂直な直線の長さは0となる。そしてこの基準点を長軸に沿って輪郭内部に進めながら、長軸に垂直に基準点を通る直線を求め、この直線が輪郭と交わる点を求め、この輪郭を結ぶ長さを求める。この長さを、基準点が開始点の反対側となる点にわたって求める。こうして求められた長さのうち、もっとも長いものが短軸となる。
【0081】
画像1203は、StrechedMPRによって見たときの冠動脈の断面画像である。画像1203は、図9に示した画像910と同じである。画像1203は、グラフ1201および1202と同様に血管の長さ方向に沿って並べられたものであり、画像1203の長さ方向の要素の1つ1つがそれぞれ血管の断面画像である。血管は直線に進行しているのではなく、体内を曲がりくねりながら進行している。これをStrechedMPRによって見たとき、画像1203のように示される。
【0082】
上述のように、長軸の短軸の長さの変化を、血管の進行方向に沿って示すことにより、長軸と短軸の差が大きい場合には重複領域は長く、差が小さい場合には重複領域は丸いということが分かる。重複領域が長い場合には、脂質コアと血管内腔の近接部分が長い代わりに近接度合いは浅いということになる。逆に重複領域が丸い場合には、両者の近接部分が短い代わりに近接度合いは深いということになる。重複領域が大きいほどに一般的には不安定プラークの危険度が高まるが、同じ程度の大きさの場合、重複領域が長い方が近接部分が長く広がっていることになるので、不安定プラークが危険である。このように長軸短軸の長さを求めることにより、重複領域の形状を求めることができ、それにより形状から想定される危険度を判別する情報を与えることができる。
【0083】
さらに重複領域の面積の話については、血管の位置ごとに面積が生じる場合、その一点だけが特異的に大きな面積を持つというものでなく、その前後のある長さにわたって一定の面積を持つ。その理由は、血管内に不安定プラークを生ずる脂質コアが生じた場合、血管内のある断面でのみ不安定となるのではなく、その前後のある程度の長さの領域にわたって不安定となるからである。そこで重複領域の空間的な大きさを求め、それにより脂質コア単位の不安定プラークの危険度を求める点を次に説明する。
【0084】
図13は、重複領域の面積の変化を血管の長さ方向の集合としてグラフに示した表示画面である。表示画面は、グラフ1304と画像1307を含む。グラフ1304は血管の長さ方向に沿った位置の面積の大きさの変化を示す。画像1307は、この血管の長さ方向に沿った位置の断面画像を示す。血管の長さ方向は、上述のように上が基部すなわち心臓側、下が末端として並べられる。このグラフ1304は、グラフ900と同じものである。
【0085】
このグラフ1304には、面積が0よりも大きい部分が波形1306として示される領域が含まれるので、波形1306を含む領域1305を抽出する。抽出された領域1305を拡大すると、領域1301のようになる。
【0086】
画像1307は、StrechedMPRによって見たときの冠動脈の断面画像である。画像1307は、図9に示した画像910と同じである。画像1307は、グラフ1304と同様に血管の長さ方向に沿って並べられたものであり、画像1307の長さ方向の要素の1つ1つがそれぞれ血管の断面画像である。血管は直線的に進行しているのではなく、体内を曲がりくねりながら進行している。これをStrechedMPRによって見たとき、画像1307のように示される。
【0087】
領域1301には、波形1303が含まれる。この波形1303に含まれる位置のうち、重複領域の面積が最大となるのが頂点1302に該当する位置である。頂点1302の位置で不安定プラークの危険度が最も高まると判定されるが、重複領域の面積はその位置だけで突然大きくなるのではない。重複領域の面積は、波形1303に示されるように幅をもって、その幅の両端で0から徐々に大きくなってそして頂点1302でその面積が最大になるものである。
【0088】
まず、脂質コアによって一定の領域を含む波形1303が生じる。そこで、各位置について得られた重複領域の大きさを、面積が生じている区間にわたって合算して体積として求める。まず、重複領域内部のドット数として各位置について面積が求められているので、この区間内の各位置における面積の合計値が体積として求められる。図13において、波形1303として表示されている領域の内部の面積を求め、それによりこの重複領域の生じている区間にわたっての体積を求める。波形1303に示されるように、不安定プラークはかたまりとして生じ、かたまりを過ぎれば安定プラークとなって重複領域の面積は0となる。したがって、このかたまり単位で体積を求めることができる。このかたまりは脂質コア単位でそれぞれ生じ、脂質コアごとに体積が求まる。
【0089】
すなわち、この波形の一方の端から重複領域内部のドット数により求められている面積を加算していく。一番端では面積は0だが、徐々に面積が大きくなっていくので、その値を加算していき、頂点1302で最大となる面積を加算し、さらに減少していく面積を加算していき、最終的にもう一方の端で面積が0となる位置まで加算を繰り返していく。
【0090】
これにより、波形1303により特定される1つの脂質コアから形成される重複領域の体積を求めることができる。このように重複領域の体積を求めることにより、重複領域の空間的な大きさを求めることができる。重複領域の面積によっても不安定プラークの危険度を求めることはできるが、それは特定の位置での危険度であって、もちろんその特定の位置を含む脂質コアが危険であるということは分かるが、脂質コア全体に対する判断であるとはいえない。たとえば特定の点での重複領域の面積が同じ場合でも、それが血管の長さ方向から見たときに、それが長い幅にわたるものなのか、狭い幅の範囲なのかによって、不安定プラークの危険度の判定は異なってくる。
【0091】
それを、上述のように重複領域の体積として求めることにより、1つの脂質コア全体の不安定プラークの危険度を求めることができる。また、体積としてスコアリングしていくことができるので、1つの血管内に脂質コアが複数ある場合に、その複数の脂質コアの間でそのスコアの違いを比較することにより、どの脂質コアがもっとも危険度が高いかを判別することができる。
【0092】
図14(A),(B)は、複数の脂質コアがある場合の、冠動脈を血管芯線に沿った方向に切断した断面図である。断面の方向は図2と同じである。血管断面の左側から、脂質コア1401、脂質コア1402、脂質コア1403との順番でそれぞれ含まれている。このうちのいずれか1つを指定したときに、表示部30は画像生成部107の出力および表示制御部20の制御により、図13に示したグラフ1304を表示し、その不安定プラークに対応する領域1305及びその内部の波形1306を表示する。また、表示部30は、そのとき重複領域の面積が最大となる血管上の位置について、図10に示したように血管の断面画像を表示する。
【0093】
図15は、各脂質コアの危険度に関する情報を表示するときの表示例である。図14に示したように、脂質コア1401、脂質コア1402、脂質コア1403が含まれている場合、それぞれ脂質コアA,B,Cとして表に示す。そして次にそれぞれの血管内の位置を示す。図14の左側から位置を特定する場合、脂質コア1401がもっとも始点に近いので位置50、脂質コア1402が次に近いので、位置200、脂質コア1403が最も遠いので、位置350となる。この血管内の位置は、基部から測られるが、端部から測ってもよい。
【0094】
そして各脂質コアについて重複領域の体積が求まっているので、それぞれ30,120,90と表示される。この中で脂質コア1402(B)について重複体積がもっとも大きいので、順位は1位となる。脂質コア1403(C)が次に大きいので、順位は2位となる。そして脂質コア1401(A)がもっとも小さいので、順位は3位となる。以上のようにこの実施例では、同一の血管内に含まれる複数の脂質コアを並べて表示することができ、どの脂質コアによる不安定プラークがもっとも危険度が高いかをユーザに示すことができる。
【0095】
表示部30は、画像生成部107の出力および表示制御部20の制御により、以上に示した図15の脂質コアの危険度リストを表示する。この場合、図15のみを単独で表示してもよいが、図14の血管画像とともに表示してもよい。図14と図15をともに表示する場合、脂質コアの配置を画面上で確認しながらその危険度を数値により確認することができる。
【0096】
以上、各脂質コアについて危険度の順位を判定してその順位を表示する点について説明したが、重複領域算出部106により、各脂質コアの相対的ではなく、絶対的な危険度を求めてもよい。この場合、重複領域算出部106は、重複領域の体積の臨界点、閾値を予め記憶しておいて、求められた体積がその閾値を越えるか否かを判定し、体積がその閾値を越える脂質コアについて、一定の危険度に達したことを表示してもよい。それにより、血管内に一定の危険度に達した脂質コアが存在するか否かを判定することができるので、血管ごとに危険が発生したか否かを知ることができる。
【0097】
[一連の動作について]
図16は、一連の冠動脈について解析処理を実行する処理を示すフローチャートである。まず、X線CT装置10により心臓領域のCTデータを取得する(ステップS1001)。次に血管取得部103は、取得されたCTデータから冠動脈を抽出する(ステップS1002)。すなわち、血管取得部103は検査対象となる冠動脈を1つ選択し、その3次元画像を取得する。次に、抽出された冠動脈について血管芯線を抽出する(ステップS1003)。血管芯線は、血管の中心を結ぶ線であり、血管の方向に沿った線となる。そして、一連の冠動脈について各血管断面の処理を実行する。
【0098】
まず、制御部102は、最初の血管断面を特定する。本処理は基部から処理を開始するので、制御部102は、血管芯線に直交する面のうち基部に最も近いものを選択することにより、最初の断面を特定する(ステップS1004)。これに限るものではなく逆に血管の端部から開始しても良く、その場合端部から開始して基部まで処理を繰り返すことになる。
【0099】
次に、特定された血管断面について重複領域の算出処理を実行する(ステップS1005)。本処理については図17において後述する。これにより、1つの血管断面に含まれる脂質コアと血管内腔をそれぞれ膨張させた結果の重複領域が算出される。ここで医用画像処理装置100は、血管芯線に沿った各位置について血管断面を取得し、それぞれ重複領域を求める。重複領域算出部106は、血管芯線に沿った各位置について、この重複領域内部の面積を求める。
【0100】
算出後、制御部102は、全断面について処理が終了したか否かを判定する(ステップS1006)。処理が終了したと判定された場合(ステップS1006:Yes)、制御部102は表示処理に移行し(ステップS1008)、一連の処理を終了する。すなわち、血管の端部にあたる最後の断面の処理を終えて、血管の検査対象すべてについて処理を実行したと判定された場合は、表示処理に移行する。
【0101】
処理が終了していないと判定された場合(ステップS1006:No)、すなわち血管の端部にあたる最後の断面以外を処理したあとの場合、次の断面を特定する(ステップ1007)。すなわち、血管芯線に沿った隣の位置について、血管芯線に直交する血管断面を次の断面とする。この次の血管断面を特定した後ステップS1005に戻り、この次の血管断面について処理を実行する。
【0102】
次にステップS1008の表示処理について説明する。血管の各位置で面積が求まっているので、図9に示したように、血管の各位置において基部から順番にこの求めた面積の値を、血管芯線に沿った各位置に対応付けてグラフ化する。そしてこの血管芯線に沿った各位置に対応付けて、StrechedMPR画像も並べて表示する。また、重複領域の面積を表示する代わりに、図11を用いて説明したように、重複領域の長軸および短軸の長さを求めて表示することもできる。
【0103】
図17は、重複領域の算出処理を示すフローチャートである。図16に示したフローチャートで、最初の断面(ステップS1004)または次の断面(ステップS1007)が特定されて、その断面について重複領域算出処理(ステップS1005)たとき、図17のステップS1101に進む。
【0104】
まず、血管取得部103は、特定された断面について血管断面を抽出する(ステップS1101)。この血管断面は、図2および図3の断面210や220の通りである。次に、この抽出された血管断面について脂質コアが含まれているか否かを判定する(ステップS1102)。図4に関連して説明したように、脂質コア抽出部120は、脂質コアに相当すると推定される画素値が予め記憶している。そこで、この画素値に相当する画素が、対象となる血管断面に含まれているか否かを判定する。含まれていないと判定された場合(ステップS1102:No)、重複領域を0として(ステップS1109)、一連の処理を終了する。
【0105】
含まれていると判定された場合(ステップS1102:Yes)、脂質コア抽出部120は、脂質コア領域を抽出する(ステップS1103)。まず、上述のように脂質コアに相当する画素値の画素が特定されているので、その画素を中心として、図4に示した領域拡張法を適用する。領域拡張法により、脂質コア領域が抽出されるので、閉曲線抽出部140は、抽出された脂質コア領域の輪郭を抽出する。得られた輪郭は図5に示した通りとなる。次に、血管内腔抽出部130は、血管内腔領域を抽出する(ステップS1104)。脂質コアと同様に領域拡張法が適用される。脂質コアの場合と同様に、閉曲線抽出部140は、抽出された血管内腔領域の輪郭を抽出する。
【0106】
次に、膨張部105は、両領域を膨張させる(ステップS1105)。すなわち、脂質コアと血管内腔の両領域について閉曲面、輪郭が得られているので、膨張部105は、この得られている両輪郭を、図6〜図8に示したように膨張させていく。
【0107】
次に、膨張させた両輪郭が重複しているか否かを判定する(ステップS1106)。図8では、両輪郭が重複して重複領域801を形成している場合が示されているが、両輪郭が形成されていない場合もある。そのときは膨張輪郭701と702は離れており、重複領域801は形成されない。重複していないと判定された場合(ステップS1106:No)、重複領域を0として一連の処理を終了する(ステップS1109)。
【0108】
重複していると判定された場合(ステップS1106:Yes)、重複領域算出部106は、重複領域を抽出し(ステップS1107)、重複領域の面積を算出し(ステップS1108)、一連の処理を終了する。なお、ステップS1108では重複領域の面積を算出する代わりに、図11に示したように長軸および短軸の長さを求めてもよい。また、重複領域の面積を求めるとともに、さらに長軸および短軸の長さを求めてもよい。
【0109】
以上のように、血管内腔と脂質コアをそれぞれ抽出して膨張させ、その重複領域の面積、長軸、短軸などの大きさを求めてこれに関する表示処理を実行する場合を説明したが、図13に関連して血管方向にわたって重複領域を合算し、その体積を求めることにより、脂質コア単位の不安定プラークの危険度を求めることもできる。次に、その一連の流れをフローチャートで説明する。
【0110】
図18は、重複領域の面積を血管方向の長さの区間で合算して体積とする処理を説明するフローチャートである。血管の基部から処理を開始するが、血管の基部から処理を開始する代わりに、特定の脂質コアを図14から指定して、その脂質コアの始点、すなわち重複領域の面積が0から値を持つところに切り替わる位置から処理を開始してもよい。
【0111】
まず、重複領域の面積が面積>0であるか否かを判定する(ステップS1201)。面積>0でない場合、すなわち面積が0である場合は(ステップS1201:No)、ステップS1208に進む。つまり、重複領域が発生した位置に来ていないので、さらに先に位置を進めていく。面積>0である場合(ステップS1201:Yes)、すなわち面積が0から値を持つ位置に切り替わった位置となるので、その面積およびその位置を保存する(ステップS1202)。この位置は、脂質コアと血管内腔を膨張させたことによる重複領域が生じ始めた位置となる。そして位置を移動する(ステップS1203)。
【0112】
次に、面積が0となったか否かを判定し(ステップS1204)、面積が0になっていない場合は(ステップS1204:No)、ステップS1202に戻って面積が0でなくなるまで位置を移動し、面積および位置の保存を繰り返す。面積が0になった場合は(ステップS1204:Yes)、その面積および位置を保存する(ステップS1205)。この位置は、脂質コアと血管内腔を膨張させたことによる重複領域が終了する位置となる。これにより、ステップS1202で最初に保存された位置を始点とし、ステップS1205で保存された位置を終点として重複領域が存在する区間を特定することができる。
【0113】
そして、重複領域が存在する区間が求まったので、この指定区間内の重複領域の体積を求める(ステップS1206)。この指定区間は、図13の波形1303で囲まれた領域であり、この波形1303で囲まれた領域内の面積を求めることにより、この指定区間の重複領域の体積が求められる。指定区間内のグラフ上の面積、すなわち重複領域の体積が求まったので、脂質コア番号に合わせてこの体積を割り当てる(ステップS1207)。つまり、最初の指定区間については、脂質コア番号を1として、その番号に応じた重複領域の体積を割り当てる。先に指定区間が存在していた場合には、その次の番号を求め、その番号に応じた重複領域の体積を割り当てる。先に脂質コア番号2が割り当てられていた場合には、その次に求まった指定区間については、脂質コア番号3として、ここで求められた重複領域の体積を割り当てる。
【0114】
以上のように処理を繰り返して、血管の末端に到達したか否かを判定する(ステップS1208)。血管の末端に到達したと判定された場合(ステップS1208:Yes)、一連の処理を終了する。血管の末端に到達していないと判定された場合(ステップS1208:No)、位置を移動して(ステップS1209)、ステップS1201に戻って処理を繰り返す。
【0115】
上述のように、本実施例では血管の進行方向に沿って血管内腔と付着物質の輪郭を膨張した場合の重複領域の面積をそれぞれ求めることにより、血管の各位置における血管内腔と付着物質の近接度合いをスコアリングすることができる。このように近接度合いを求めることにより、血管内腔と脂質コアの画像が繊維性被膜の厚さに対して低い解像度でしか得られない場合でも近接度合いが判定されるので、不安定プラークの危険度を知ることができる。
【符号の説明】
【0116】
10 X線CT装置
20 表示制御部
30 表示部
101 画像データ記憶部
102 制御部
103 血管取得部
104 抽出部
105 膨張部
106 重複領域算出部
107 画像生成部
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管を含む部位の画像データを基に前記血管の断面を求めて、その断面について画像処理を実行する医用画像処理装置および医用画像処理プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医用画像収集技術の発達により、IVUS(intravascular ultrasound)に代表される血管内エコー法を用いることで、血管内のプラークの性状解析が可能になった。一方で、マルチスライスCTにおいても、現状ではIVUSに比べて空間分解能が高くはないものの、空間分解能の向上により血管に付着する脂質コアの判別が可能になりつつある。IVUSでは検査にあたって体内への挿入が必要となるので、CT(Computed Tomography)を用いて体外から血管内の画像を収集することが求められている。特許文献1のように、プローブを介して冠動脈に光を入射して検出することにより、不安定プラークを検出する技術は開示されている。
【0003】
画像を収集する対象としては冠動脈が一例として挙げられる。冠動脈内には脂質コアが滞留し、不安定プラークを形成することがある。プラークは、一般に脂質コアが大きく繊維性被膜の薄い不安定プラークと、脂質コアが小さく繊維性被膜が厚い安定プラークの2つに分類される。不安定プラークの危険度は、繊維性被膜の厚さ、脂質コアの大きさ、マクロファージの浸潤度、平滑筋細胞の量により判別される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−509694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この不安定プラークが次第に肥厚することにより冠動脈の内腔が狭められ、急性冠症候群や急性心筋梗塞の要因となる。この不安定プラークを検査により判別する必要があるが、CTを用いて画像を収集する場合、収集された画像が、必要とされる程度の高さの解像度に満たないという問題がある。CTでは、たとえば骨は明確に撮影することができるが、血管中の組織を高い解像度で撮影することは難しい。
【0006】
特に、血管内腔と脂質コアを隔てる繊維性被膜は一般にきわめて薄い。この繊維性被膜の厚さを求め、不安定プラークの危険度を判定する必要がある。しかし、繊維性被膜の厚さを測定する場合、繊維性被膜が薄すぎて、不安定プラークの危険度を判定するには、得られる画像の空間分解能が足りないという問題がある。したがって、得られた画像のままでは、血管内腔と脂質コアの近接度合いおよびそれによる不安定プラークの危険度を、十分に確認しきれないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、血管を含む部位の画像データを基に前記血管の断面を求めてその断面を画像処理することにより、脂質コアに代表される付着物質と血管内腔との近接度合いを求め、それにより不安定プラークの危険度が判断可能な医用画像処理装置および医用画像処理プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1の発明にかかる医用画像処理装置は、血管を含む部位の画像データを基に前記血管の断面を求めてその断面から、前記血管の内腔の輪郭および前記血管内に付着する付着物質の輪郭を抽出する抽出手段と、抽出された前記内腔の輪郭および前記付着物質の輪郭の一方または双方の、少なくとも一部分を所定量だけ膨張する膨張演算手段と、前記血管のそれぞれの断面について、前記膨張演算手段によって膨張された前記内腔の輪郭および前記付着物質の輪郭が重なるときの重複領域の大きさを求める領域演算手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するために、請求項14の発明にかかる医用画像処理装置は、血管を含む部位の画像データを基に前記血管の断面を求めてその断面から、前記血管の内腔の輪郭および前記血管内に付着する付着物質の輪郭を抽出する抽出ステップと、抽出された前記内腔の輪郭および前記付着物質の輪郭の一方または双方の、少なくとも一部分を所定量だけ膨張する膨張演算ステップと、前記血管のそれぞれの断面について、前記膨張演算ステップによって膨張された前記内腔の輪郭および前記付着物質の輪郭が重なるときの重複領域の大きさを求める領域演算ステップと、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上により、血管内腔と脂質コアをそれぞれ膨張して重複した領域を求め、その大きさから付着物質と血管内腔との近接度合いを求めることができるので、繊維性被膜の厚さに代わる指標とすることができる。それにより、得られる画像が意図された分解能よりも低く得られた場合でも、この重複領域を指標として用いることができる。そしてこの重複領域の大きさから、不安定プラークの危険度を判定することができ、危険度の高い不安定プラークの状態を、ユーザが簡便に確認することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施の形態にかかる医用画像診断装置の機能ブロック図を示す。
【図2】冠動脈を血管芯線に沿った方向に切断した断面図である。
【図3】冠動脈を血管芯線に垂直な方向に切断した断面図である。
【図4】脂質コアおよび血管内腔の領域を抽出する処理を説明する概念図である。
【図5】抽出された血管内腔と脂質コアの輪郭を示す概略図である。
【図6】血管内腔と脂質コアの輪郭を膨張させる場合を示す概略図である。
【図7】膨張後の血管内腔と脂質コアの輪郭を示す概略図である。
【図8】膨張後の輪郭の重複部分を説明する概略図である。
【図9】重複領域の面積の変化をグラフとして示した表示画面である。
【図10】重複領域が最大となる血管の断面画像である。
【図11】重複領域内部の長軸および短軸の配置を説明する概略図である。
【図12】長軸と短軸の変化を並べてグラフとして示した表示画面である。
【図13】重複領域の面積の変化を血管の長さ方向の集合としてグラフに示した表示画面である。
【図14】複数の脂質コアがある場合の、冠動脈を血管芯線に沿った方向に切断した断面図である。
【図15】各脂質コアの危険度に関する情報を表示するときの表示例である。
【図16】一連の冠動脈について解析処理を実行する処理を示すフローチャートである。
【図17】重複領域の算出処理を示すフローチャートである。
【図18】重複領域の面積を血管方向の長さの区間で合算して体積とする処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本実施の形態にかかる医用画像診断装置の機能ブロック図を示す。図1に示す医用画像診断装置は、医用画像を取得するX線CT装置10と、得られた医用画像を処理する医用画像処理装置100と、表示制御部20と、表示制御部20からの出力を受けて画像を表示する表示部30から構成される。
【0013】
医用画像処理装置100は、情報処理装置(CPU)と、ROM、RAM、HDDなどの記憶装置(図示しない)とを備えている。記憶装置には、医用画像処理装置100の各部の機能を実行するための処理プログラムが記憶されている。その処理プログラムには、画像データ記憶部101と、制御部102と、血管取得部103と、抽出部104と、膨張部105と、重複領域算出部106と、画像生成部107の各処理を実行するためのプログラムが含まれる。そして、情報処理装置(CPU)が各プログラムを実行することにより、各処理が実行される。
【0014】
X線CT装置10は、X線照射部及びX線検出部(いずれも不図示)を被検体の体軸に直角方向に回転させ、さらに体軸方向に進みながら患者に向けてX線を照射し、検査対象領域を通過したX線を検出する。検査対象領域には、不安定プラークが存在する疑いのある患者の血管領域および血管周辺の心臓領域が含まれる。そして、X線CT装置10は、検出したX線を基に3次元画像であるX線CT画像を生成する。そして、X線CT装置10は、制御部102に信号を出力し、生成したX線CT画像を医用画像処理装置100へ出力する。
【0015】
医用画像処理装置100は、画像データ記憶部101と、制御部102と、血管取得部103と、抽出部104と、膨張部105と、重複領域算出部106と、画像生成部107によって構成される。医用画像処理装置100は、X線CT装置10から得られた画像を処理して、処理された画像や、結果として得られたデータにしたがって得られる画像を表示制御部20に出力する。
【0016】
画像データ記憶部101は、X線CT装置10で撮影された血管を含む部位の画像データを取得して保存する。特に、患者の心臓領域の画像データをX線CT装置10から、心臓領域データとして読み込む。
【0017】
制御部102は、医用画像処理装置100の各部を制御する。上述のようにX線CT画像が血管取得部103に入力されるときにX線CT装置10から信号が入力されるので、これにより一連の処理を開始する。制御部102は、処理対象の血管断面を特定する処理を実行する。制御部102は、X線CT装置10から画像データ記憶部101に画像データが送られたとき、最初の血管断面について処理が開始する。
【0018】
制御部102は、図2の血管取得部103、抽出部104、膨張部105、および重複領域算出部106による、本実施例の処理のルーチンワークを制御する。すなわち、血管取得部103に最初の血管断面の処理を指示し、それにより1つの血管断面について一連の処理が終了したら重複領域算出部106から終了信号が入力されるので、これを受けて次の血管断面の処理を指示する。対象となる血管全体について処理が終了したら、一連の処理の終了を指示する。全体の一連の流れを、図16を用いて後述する。
【0019】
血管取得部103は、画像データ記憶部101に記憶された部位全体の画像データから、検査対象となる血管を抽出する。血管としては、冠動脈を例を挙げて説明するが、これに限定されるものではない。この他に大動脈や脳動脈などの比較的太い動脈も対象となりうる。そこで、血管取得部103は、画像データ記憶部101に記憶された冠動脈の画像データから血管断面の画像を抽出する。
【0020】
以下具体的に説明すると、まず血管取得部103は、この冠動脈について血管芯線を求める。この血管芯線は、血管の中心を通る線のことであり、この血管芯線の方向が血管の進行方向となり、そして血管の長さ方向となる。血管取得部103は、血管芯線が得られたら、この血管芯線の方向に垂直な面、直交する面を冠動脈の断面として、冠動脈の断面画像を生成する。この血管断面は、血管芯線方向に所定間隔ごとに得られる。この所定間隔は、脂質コアが検出可能な程度の距離とされる。間隔を密にしすぎると血管断面画像の取得及び処理が必要以上に時間がかかり、間隔が広すぎると脂質コアの状態が把握しきれないので、脂質コアの大きさに応じた間隔で血管断面を取得する。
【0021】
血管は進行方向にあわせてそれぞれ曲がりくねっているので、断面の向きもそれにあわせて曲がりくねることになる。一方で、血管芯線に垂直に断面を得ることで、この断面の向きが血管の太さを一定してあらわすことになり、比較に適した程度に各断面のばらつきを小さくすることができる。またこの血管断面から後述のように血管内腔と脂質コアの輪郭を得るので、血管芯線に垂直とすることにより、同様に比較に適した血管内腔と脂質コアの輪郭を得ることができる。
【0022】
以上のように血管芯線の所定間隔ごとに冠動脈の断面を得ていくが、心臓寄りの冠動脈の基部から、最終的には末端部まで断面画像を得ていく。その領域は、基部から末端部まですべてとしても良いし、設定により必要な範囲のみとしてもよい。なお、上記の血管の抽出の仕方、血管芯線の求め方、血管断面の求め方は、既存の技術を利用することができる。
【0023】
抽出部104は、脂質コア抽出部120と、血管内腔抽出部130と、閉曲線抽出部140によって構成される。これらの構成により、血管取得部103から入力された画像から、冠動脈、脂質コア、血管内腔の輪郭をそれぞれ示す閉曲線を生成する。
【0024】
脂質コア抽出部120は、血管取得部103によって得られた血管断面の画像から、画素値の違いを基に、脂質コアを占める領域を抽出する。一般に、血管内腔、脂質コア、その他の領域とでは、画像と推定される画素値は異なるので、閾値を設けて区別してそれぞれ取り出す。この脂質コアとは、血管内にたまる石灰化された部分のことである。動脈の内膜にコレステロールなどの脂肪からなるドロドロの粥状物質がたまってアテロームプラーク(粥状硬化斑)ができ、アテローム(粥状)プラークでも脂質成分に富む部分を脂質コアという。この脂質コアは、粥状に形成されているので、血管内部に付着して内腔を狭める要因となる。本実施例では脂質コアを対象にして血管内部を解析するが、血管内部には脂質コアの他、カルシウムなどの様々な物質が付着することが考えられるので、こうした血管内に付着する付着物質全般を対象に解析しても良い。
【0025】
血管内腔抽出部130は、血管取得部103によって得られた血管断面の画像から、画素値を基に血管の内腔を占める領域を抽出する。内腔とは内側の空洞のことであり、血管などの管状あるいは袋状をしている構造の内側のことである。
【0026】
脂質コア抽出部120および血管内腔抽出部130は、それぞれ血管断面の画像から領域拡張法を用いたセグメンテーション処理により、それぞれ脂質コアの領域および血管内腔の領域を抽出する。この脂質コアと血管内腔は、血管の進行方向に沿った断面上では図2および図3のような配置になる。この領域拡張法を用いた領域の抽出については図4を用いて後述する。
【0027】
閉曲線抽出部140は、与えられた画像について、その画像を占める領域の外側を描く閉曲線を描き、それにより領域の輪郭を抽出する。血管取得部103、脂質コア抽出部120、血管内腔抽出部130からそれぞれ画像を取得し、それぞれ血管断面の輪郭、脂質コアの輪郭、血管内腔の輪郭を形成する。このようにして形成され抽出された輪郭の一例を図5に示す。それぞれの輪郭のデータは膨張部105に出力する。
【0028】
膨張部105は、与えられたデータで示される輪郭を膨張させる。すなわち、脂質コアの輪郭および血管内腔の輪郭によりそれぞれ示される領域の一方または双方を所定量だけそれぞれ膨張させる。本実施例では両方を膨張させて後の処理に用いるが、一方だけを膨張させても良い。この膨張処理には、モルフォロジカルフィルタのdilation(ディレーション)処理を適用する。これにより各輪郭を外側に広げる。この膨張処理は、図6を用いて後述する。
【0029】
X線CT装置10の性能上、抽出部104から出力される各輪郭は、繊維性被膜の実際の厚さに対して解像度が低い画像として得られる場合が考えられる。したがって、そのまま用いて脂質コアと血管内腔の近接度を求めた場合、求められる近接度の精度が低いという問題がある。本実施例では、膨張部105によって各輪郭を膨張させることにより、低い解像度で得られた各輪郭の画像から実際に近接しうる範囲を推定画像として求めることができる。この推定画像として求められた近接しうる範囲について、後述のように重複領域の大きさを求めるので、血管の各断面についての危険可能性をスコアリングすることができる。
【0030】
また、後の実施例では脂質コアや血管内腔の輪郭全体を膨張させる場合について説明するが、輪郭全体ではなく輪郭の一部のみを膨張させてもよい。たとえば、与えられた輪郭全体を血管の外壁部分に近い側と遠い側に半分ずつに分け、それぞれ遠い側だけを膨張させることもできる。図5において後述するように、血管内腔も脂質コアも血管の中心に存在するものではなく、ともに中心からずれており、それぞれの血管から遠い部分が互いにとって近い部分となる。すなわち、脂質コアの血管外壁から遠い部分が血管内腔に近く、血管内腔の欠陥外壁から遠い部分が脂質コアに近い。そこで、この互いに近い半分ずつのみを膨張させることにより、膨張処理を半分で終わらせて高速化させることができ、その一方で必要な膨張処理を実行して後の重複領域に関する演算を実行することができる。
【0031】
また、ここでは各輪郭のうち左側/右側の半分ずつのみとしたが、輪郭の1/3や、2/3など、様々な長さを範囲として定めてもよい。膨張させるのを輪郭の1/3とする場合、上述のように双方の輪郭の半分をそれぞれ求め、求められた半分の輪郭の外側から1/6ずつを除去することにより求めてもよい。また、輪郭の2/3とする場合、上述のように双方の輪郭の半分をそれぞれ求め、求められた半分の輪郭の外側から1/6ずつを加えることにより求めてもよい。この他、一方の輪郭はすべての部分を膨張し、もう一方の輪郭は一部分を膨張するなど、短縮したい処理時間に応じて、様々な組み合わせが可能である。
【0032】
なお、この膨張させる所定量は、図6の実施例では1ピクセル(1画素)とするが、十分な量を膨張させるためにより多くの画素数としても良く、たとえば2ピクセル、3ピクセルなどとすることができる。なお数ピクセルを一度に膨張させるのではなく、1ピクセル膨張させた後に、膨張させた領域に対してさらに残りのピクセルを膨張させることもできる。膨張させるピクセル数の設定およびピクセルの膨張過程については設定により定めることもできる。
【0033】
ただし、後述のように、この膨張処理はもとの領域の輪郭が画素数の関係から粗くなってしまうことの不都合を回避するための処理なので、もとの領域の輪郭の大きさや形状を大きく変化させない程度の膨張とすることが望まれる。したがって、輪郭の膨張範囲は、少なくとももう一方の膨張前の輪郭の重心を越えない位置となる。または、膨張前の各領域の重心からの距離に対して3分の1、5分の1、10分の1の範囲内というように、膨張前の大きさを基準とした膨張幅とすることもできる。
【0034】
膨張の程度を示す所定量を大きくすることにより、後述の重複領域が大きくなるので、脂質コアと血管内腔が近接した部分を多く抽出することができる。これにより、取得された画像の粗さから境界領域が不明瞭な場合にも、近接しうる範囲を広く取ることができるので、危険となりうる可能な範囲を幅広く求めることができる。また、所定量を最小限の大きさとすることにより、たとえば取得された画像が比較的高精細に得られた場合に、危険と予測される範囲を実際に危険と考えられる範囲に限定し、実際は危険ではない範囲を除外することができる。それにより、実際の近接状況により即したデータを得ることができる。この選択は、得られる画像の画質により必要に応じて設定する事ができる。
【0035】
重複領域算出部106は、膨張部105によって膨張された、脂質コアの輪郭と血管内腔の輪郭によって形成された領域の大きさを求める。すなわち、膨張された内腔の輪郭および付着物質の輪郭が重なるときの重複領域の大きさを求める。この重複領域の大きさは、血管芯線の方向にわたるそれぞれの断面について求められる。膨張部105によって膨張されたのが一方のみの場合は、膨張された輪郭と膨張されていないほうの輪郭の両方を用いて重複領域を求める。
【0036】
脂質コアの輪郭と血管内腔の輪郭はともに膨張されるので、両輪郭は重なることになる。そこで、重複領域算出部106は、両輪郭が重なったか否かを判定し、重なったと判定された場合にその両輪郭が重ねられることによる重複領域を抽出する。抽出された重複領域のデータは、血管の長さ方向に沿った各断面の位置に対応させて、それぞれ重複領域算出部106のメモリに記憶される。
【0037】
そして重複領域算出部106は、抽出した重複領域の面積を算出して画像生成部107に出力する。重複領域の面積は、重複領域内部のドット数をカウントすることにより求めることができる。なお、両輪郭が重ならない場合、重複領域の面積は0となる。また、脂質コア抽出部120により脂質コアが抽出されなかった場合も、重複領域の面積は0となる。この重複領域は後述のように図8に示される。求められた重複領域の面積は、血管の長さ方向に沿った各断面の位置ごとに求められ、その位置に対応させて、それぞれ重複領域算出部106のメモリに記憶される。
【0038】
重複領域算出部106は、重複領域の面積とともに、あるいはその代わりに、重複領域内部の長軸の長さおよび短軸の長さを算出する。この実施例では長軸と短軸の両方を求める場合についてついて説明するが、求めるのは長軸のみでもよい。長軸および短軸の長さの算出については、図11を用いて後述する。長軸は、重複領域の輪郭上でもっとも遠い2点を結ぶ直線であり、短軸は、重複領域の輪郭上を長軸に垂直に結ぶ直線のうち、もっとも長いものである。重複領域算出部106は、長軸および短軸の長さを求め、血管の長さ方向に沿った各断面の位置に対応させて重複領域算出部106のメモリに記憶する。さらに重複領域算出部106は、長軸の長さと短軸の長さの合算値、長軸と短軸の差分値を求めて重複領域算出部106のメモリに記憶する。
【0039】
また、血管の各断面について重複領域断面の面積が求められ、これが重複領域算出部106のメモリに記憶されるので、重複領域算出部106はその合算値を体積として求める。ここで、重複領域算出部106は、重複領域の面積が、血管の芯線の方向に連続して0より大きい区間を抽出し、抽出された区間内の各面積を合算して、区間ごとに合計値を求める。具体的には、重複領域算出部106は、血管の長さ方向にわたる各位置で重複領域が0より大きいか否かを判定し、その0より大きいとされた位置から、再び0になる位置までの間をこの区間として抽出する。そしてこの抽出された区間内の各重複領域を合計する。合計された値が、各区間の重複領域の体積となり、画像生成部107に送られる。上述の体積を求める処理は、図13を用いて後述する。
【0040】
以上、抽出部104、膨張部105、重複領域算出部106の処理を1つの血管断面の画像について適用する。血管は心臓側の基部から末端側までつながっているので、制御部102の制御により、最初は基部側の断面から処理を開始して、次は末端側の断面に処理を移行していく。1つの断面について処理を実行したら、血管取得部103で特定したように次の血管断面を抽出して、一連の処理を処理を繰り返していく。
【0041】
画像生成部107は、画像データ記憶部101、血管取得部103、抽出部104、重複領域算出部106の各部から送られるデータに基づいて、表示部30で表示するべき画像を生成し、表示制御部20に送る。画像生成部107は、画像データ記憶部101から血管の部位を含む画像データを取得して表示画像を生成する。この場合、検査対象の血管に限らず、X線CT装置10で撮影された血管を含む部位の画像データを取得して表示制御部20に送る。この画像データは、部位の3次元画像データの場合があり、またStrechedMPR(Multi Planar Reformation)画像である場合もある。
【0042】
また、画像生成部107は、血管取得部103から血管のデータを取得して、血管の画像を生成する。血管の画像は、外形の画像であったり、芯線に垂直な方向の断面の画像であったり、また血管の芯線方向に沿った、芯線を含む断面の画像が挙げられる。また、画像生成部107は、閉曲線抽出部140から血管の輪郭、脂質コアの輪郭、血管内腔の輪郭を示すデータを取得し、このデータから各輪郭を示す画像を生成する。
【0043】
また、画像生成部107は、重複領域算出部106から重複領域に関するデータを取得し、この重複領域を示す画像を生成する。この重複領域に関するデータとは、重複領域の画像、重複領域の面積、重複領域の長軸、短軸の長さ、合計、差分、区間ごとの重複領域の体積が挙げられる。また、画像生成部107は、この重複領域の大きさを示すデータを取得し、このデータからグラフ情報を生成する。
【0044】
表示制御部20は、画像生成部107から画像を取得して、表示部30に出力する信号に変換し、この信号を表示部30に出力する。表示部30は、表示制御部20から出力された信号に基づいて画像を表示するディスプレイである。
【0045】
[脂質コアおよび血管内腔の抽出について]
図2は、冠動脈を血管芯線に沿った方向に切断した断面図である。血管芯線に沿った断面とするので、実際はつながっているが便宜上、上側を冠動脈201、下側を冠動脈202とする。この冠動脈201および202に付着される物質や、これらに取り囲まれる領域について説明する。冠動脈202に付着しているのが脂質コア203である。図2では冠動脈202に付着しているが、冠動脈201に付着している場合も想定される。また、冠動脈202にはマクロファージ204も付着している。
【0046】
次に、脂質コア抽出部120および血管内腔抽出部130の処理について説明する。血管内腔抽出部130は、図2(A)で示した血管断面の図から、血管内腔に相当する点を求めて、そこから領域拡張法により血管内腔領域205を求める。求められた血管内腔領域205は、図2(B)に示された領域として特定される。また脂質コア抽出部120は、図2(A)で示した血管断面の図から、脂質コアに相当する点を求めて、そこから領域拡張法により脂質コア203を求める。求められた血管内腔領域205は、図2(C)に示された領域として特定される。
【0047】
なお、図2は芯線に沿った方向の断面について説明したが、芯線に垂直な断面についても次に説明する。ここで、脂質コア203を含む断面と含まない断面をそれぞれ説明するので、図2(A)において脂質コア203を含まないものを断面210とし、脂質コア203を含むものを断面220とする。
【0048】
図3は、冠動脈を血管芯線に垂直な方向に切断した断面図である。図3(A)は、脂質コア203を含まない断面210を示す。図2では冠動脈201および202として分けて説明したが、芯線に垂直となる断面210からみた場合、このように円周状につながった形状となる。この断面210には、脂質コア203およびマクロファージ204は含まれない。図3(B)は、脂質コア203を含む断面220を示す。この断面220では、脂質コア203とマクロファージ204が血管内部に付着される。さらに、脂質コア203は、血管内腔から繊維性被膜230によって分けられる。
【0049】
図4は、脂質コアおよび血管内腔の領域を抽出する処理を説明する概念図である。図1の脂質コア抽出部120および血管内腔抽出部130に関して説明したように、領域拡張法を用いたセグメンテーション処理により脂質コアおよび血管内腔の領域をそれぞれ抽出する。なお、脂質コアと血管内腔の場合をあわせて説明するが、本処理はそれぞれ別々に実行され、脂質コアと血管内腔はそれぞれ別個に抽出される。
【0050】
まず、脂質コア抽出部120および血管内腔抽出部130は、脂質コアまたは血管内腔に該当すると推定、仮定される画素値をそれぞれ予め記憶しており、対象となる血管断面画像401から該当する画素値となるピクセル402を判別して抽出する。この画素は特定の1つの画素値に限定しても,ある程度幅を持たせたものでも良い。血管断面画像401は、説明のため正方形で示しているが、実際は血管断面の円形形状である内部全体にわたって判別して抽出する。抽出されたピクセル402は、脂質コアまたは血管内腔に該当すると仮定される仮定領域として分類される。
【0051】
なお、該当する画素値となるピクセルすなわちピクセル402が検出されない場合もある。すなわち、脂質コア抽出部120は、脂質コアが存在するか否かを判定し、この場合存在しないと判定することになる。この場合、脂質コアの抽出処理であれば脂質コアがその血管断面から検出されなかったということなので、その血管断面に対する脂質コアの抽出処理を終了する。脂質コアが抽出されないので、その後閉曲線を抽出することも膨張させることも必要がないので、その血管断面についての処理を終了させる。脂質コアがないので、この時点で不安定プラークが存在しないということが分かるので、その後の必要な処理を省略して処理時間を短縮することができる。
【0052】
ピクセル402が検出された場合、その中で仮定領域に分類されたピクセル402を中心として隣接する周辺のピクセル、近隣のピクセルについて、条件を満足するか否かを判定する。この条件とは、中心となるピクセル402の画素値に対して、判定対象となる隣接するピクセルが同じまたは近い画素値をとるか否かである。一致する画素値を中心として上下に閾値を設け、その画素値を加算または減算された範囲内に、判定対象となる隣接するピクセルの画素値が含まれるか否かを判定する。含まれると判定されたピクセルについてはさらに仮定領域に分類され、含まれないピクセルは仮定領域に分類されない。その結果仮定領域は、領域403に示されるように拡大する。
【0053】
仮定領域は領域403に示されるように拡大するが、拡大後も同じように周辺領域について同じ条件を満たすか否かを判定する。すなわち領域403の各ピクセルの周辺にある各ピクセルについて、一定の閾値範囲内にある画素値となるか否かを判定する。またはピクセル402の画素値を基準に判定しても良い。それにより仮定領域403はさらに領域404へと拡大し、血管断面画像405のようになる。
【0054】
[血管内腔と脂質コアの各輪郭の膨張について]
次に、以上のようにして抽出された血管内腔および脂質コアの輪郭をそれぞれ膨張し、それにより形成された重複領域を求めるときの、各領域の形状変化について説明する。
【0055】
図5は、抽出された血管内腔と脂質コアの輪郭を示す概略図である。血管501の内部に血管内腔502と脂質コア503が含まれる。血管内腔502および脂質コア503は、抽出された画像の解像度の関係から、隣接している場合やすでに重なっている場合もあるが、両者は実際は図3に示した繊維性被膜230により分離されている。
【0056】
図6は、血管内腔と脂質コアの輪郭を膨張させる場合を示す概略図である。ここでは血管内腔502を膨張させる場合について説明するが、脂質コア503を膨張させる場合についても同様の処理が適用される。この膨張させる対象である血管内腔502の輪郭600には、膨張部105により、モルフォロジカルフィルタリングのディレーション(dilation)処理が適用される。
【0057】
このディレーション処理は、定められた構成要素601を処理対象の輪郭600の外側に沿って移動させていくことにより、移動された構成要素601によって得られる外側の軌跡へ、処理対象の輪郭を膨張していく処理である。図6ではこの構成要素601が輪郭600に沿って配置される。構成要素601は、輪郭600の外側に、輪郭600に接するようにそれぞれ配置されていく。この構成要素601は円形であることを想定するが、たとえば正方形であってもよく、様々な形状が考えられる。また、図1の膨張部105に関して説明したように、この構成要素601は1ピクセルの大きさであることを想定するが、膨張したい大きさによって、2ピクセル以上の様々な大きさにすることができる。
【0058】
配置された構成要素601は、輪郭600に沿って移動され、1周したら元に戻る。移動方向は右回りでも左回りでも良い。このように構成要素601を輪郭600にそって移動させることにより、構成要素601は点ではなく幅をもつので、この構成要素601の外側に沿って軌跡が形成され、膨張後の輪郭602となる。この膨張後の輪郭602が、膨張部105によって膨張されて得られる図形である。
【0059】
なお、図1の膨張部105に関連して説明したように、血管内腔502のすべてを膨張させる必要はなく、たとえば図5に示されるように血管内腔502は血管501の左側の方に位置しているので、膨張部105は、血管内腔502の右側だけを膨張処理してもよい。逆に、脂質コア503は右側に位置しているので、脂質コア503の左側のみを膨張してもよい。このようにそれぞれ半分ずつのみを膨張させた場合であっても、膨張にかかる時間を短縮可能な一方で、重複領域の演算には支障がない。また、ここでは各輪郭のうち左側/右側の半分ずつのみとしたが、輪郭の1/3や、2/3など、様々な長さを範囲として定めてもよい。
【0060】
図7は、膨張後の血管内腔と脂質コアの輪郭を示す概略図である。図5に示した血管内腔502と脂質コア503は、図6に示した膨張処理により、それぞれ膨張輪郭701および膨張輪郭702に示したように膨張される。図7では図5に示した血管501の内部を、血管内腔502の場合と脂質コア502の場合を分けて、それぞれ図7(A)と図7(B)に分けて示しているが、いずれも同一の血管501の中に配置されている。
【0061】
[血管内腔領域と脂質コア領域の重複部分の算出及び表示]
図8は、膨張後の輪郭の重複部分を説明する概略図である。図7で膨張後の輪郭をそれぞれ示したが、いずれも血管501内にあるものなので、それを重ねたものが図8のように示される。膨張輪郭701および702は、もとの血管内腔502および脂質コア503よりも大きくされたものなので、両者は重複することが想定される。それにより重複領域801が形成される。実際は脂質コア503は大きくない場合もあるので、膨張輪郭702もさほど大きくはならず、膨張輪郭701と重複しない場合もある。その場合は重複領域801は形成されない。
【0062】
重複領域算出部106は、以上のように膨張部105により形成された膨張輪郭701と702から、重複領域801の形状を求める。そして求められた重複領域801についてその内部の面積を算出する。重複領域の面積は、重複領域内部のドット数をカウントすることにより求めることができる。
【0063】
図9は、重複領域の面積の変化をグラフとして示した表示画面である。表示画面は、グラフ900と画像910を含む。グラフ900は血管の長さ方向に沿った位置の面積の大きさの変化を示す。画像910は、この血管の長さ方向に沿った位置の断面画像を示す。血管の長さ方向は、上述のように上が基部すなわち心臓側、下が末端として並べられる。
【0064】
グラフ900は、上が基部方向、下が末端方向となっているが、表示されているものがすべてではなく、血管の基部から末端に至るうちの一部がグラフ900として表示されている。ここで表示されるグラフ900は、上方向または下方向を指示して操作することにより、指示された方向へと画面をスクロールさせることができる。このように上下方向は血管の進行方向となるが、一方で左右方向は、図8に示した重複領域801の面積を示す。波形が左端に位置するときは、この面積が0ということになり、面積が0よりも大きくなるときは、その大きさに応じた波形の大きさということになる。
【0065】
グラフ900は、点902から点903にわたって連続しており、点902は上述のように末端側であり、点903は上述のように基部側である。そして点902も点903も末端および基部そのものではなく、表示位置を変化させることにより、それぞれ末端側または基部側の先の方を表示していくことができる。その中で、図8に示した重複領域801が生じる血管上の位置に対しては、面積が0よりも大きいということになるので、波形変化が生じ波形904のようになる。一方で重複領域が生じない、すなわち面積が0である場合には、波形905に示されるように波形変化が生じない。
【0066】
画像910は、StrechedMPRによって見たときの冠動脈の断面画像である。この画像910も、グラフ900と同様に血管の長さ方向に沿って並べられたものであり、画像910の長さ方向の要素の1つ1つがそれぞれ血管の断面画像である。血管は直線に進行しているのではなく、体内を曲がりくねりながら進行している。これをStrechedMPRによって見たとき、画像910のように示される。
【0067】
この画像910の長さ方向の各要素は、断面ごとに、1つの方向から一定して見た形になるように、それぞれ横から見た形になるように矯正されたものとなっている。この矯正については、血管の方向には規定があって、その規定によると血管の外向きが基準となっている。血管の進行方向は曲がりくねっているので、したがって向きはばらばらとなっているが、この方向の規定に従って各断面を統一させている。その結果、それぞれ統一された断面の画像を、各長さの位置ごとに各要素としてつなぎあわせたものが、画像910として表示される。
【0068】
この血管の外向きというのは、血管内部を貫かれる芯線に対して垂直方向に外側である。そして、血管の進行方向が曲がりくねるときに、そのカーブの外側がこの血管の外向き方向ということになるので、その方向が統一されるように各断面を変更して並べる。このようにして形成された画像910は、左側が血管断面の膜を示し、右側に行くごとに矯正の影響が強く現れる。この実施例ではStrechedMPRを例として示しているが、CurvedMPRなど、断面画像を血管の長さ方向に表示する他の表示形態としてもよい。
【0069】
また表示形態として、表示部30は、表示制御部20の制御により、血管の長さ方向の各位置の血管断面画像を、それぞれの断面の重複領域の大きさに基づいた情報と対応付けて表示する。すなわち、グラフ900が示す血管の長さ方向の位置と、画像910の領域の1つが示す血管の断面画像の位置とを対応付けて表示する。
【0070】
上述のように、本実施例では血管の進行方向に沿って重複領域801の面積をそれぞれ求めることにより、血管の各位置における血管内腔と脂質コアの近接度合いをスコアリングすることができる。このように重複領域801の面積から近接度合いを求めることにより、この得られた近接度合いによって、面積が大きいことから両者が近接していると判断される。それにより、血管内腔と脂質コアの画像が繊維性被膜の厚さに対して低い解像度でしか得られない場合でも近接度合いが判定されるので、不安定プラークの危険度を知ることができる。
【0071】
なお、重複領域算出部106により、各断面の絶対的な危険度を求めてもよい。この場合、重複領域算出部106は、重複領域の面積の臨界点、閾値を予め記憶しておいて、求められた面積がその閾値を越えるか否かを判定し、面積がその閾値を越える位置の血管断面について、一定の危険度に達したことを表示してもよい。それにより、血管内に一定の危険度に達する血管断面が存在するか否かが判定されるので、検査対象の血管が危険であることを知ることができる。
【0072】
図10は、重複領域が最大となる血管の断面画像である。図5〜図8では、血管断面および内部の血管内腔と脂質コアの輪郭を抽出した画像を表示したが、図10は血管の実際の断面そのものの画像を示す。ここで、検査対象となった不安定プラークについて、その重複領域の面積が最大となる血管上の位置について血管501の断面画像を表示する。この血管501の断面画像を表示したとき、その中の脂質コア503が表示される。なお、不安定プラークが表示された場合に限らず、グラフ900上の一点が指定されたときに、その位置について血管501の断面画像を表示することもできる。このとき、同様に脂質コア503が表示され、存在しないときには脂質コア503は表示されない。
【0073】
ここまでは、重複領域801の面積によって大きさ、それによる血管内腔と脂質コアの近接度合いを求めてきたが、大きさを求める場合には必ずしも面積に限る必要はなく、たとえば長軸および短軸によって求めることもできる。この、重複領域801の内部の長軸および短軸を求める処理について次に説明する。
【0074】
図11は、重複領域内部の長軸および短軸の配置を説明する概略図である。図11では、図8に示した重複領域801のみを取り出して示している。そして、この重複領域801から長軸1101および短軸1102を求める。
【0075】
まず、重複領域801を特定し、その重複領域の輪郭でもっとも遠い2点を求める。そして、その2点を結ぶことにより長軸を求める。次に、この長軸に垂直にこの重複領域内で引かれる線のうちもっとも長い線を求める。求められた線を短軸とする。こうして求められた長軸および短軸の長さを上述の面積と同様に並べてグラフ化する。この長軸および短軸はそれぞれ表示してもよく、合計値および差分をそれぞれ表示しても良い。また重複領域の面積とともに並べて表示しても良い。
【0076】
長軸および短軸を求めることにより、その重複領域の大きさを求めることができるが、さらにこの長軸および短軸を、この重複領域の大きさを示す指標とすることができる。さらにこの長軸から短軸を引いた差分値を求めることにより、この差分値からこの重複領域の形状を求めることができる。
【0077】
図12は、長軸と短軸の変化を並べてグラフとして示した表示画面である。表示画面は、グラフ1201、グラフ1202、画像1203を含む。グラフ1201は血管の長さ方向に沿った位置の血管断面における重複領域内の長軸の長さの変化を示し、グラフ1202は血管の長さ方向に沿った位置の血管断面における重複領域内の短軸の長さの変化を示す。画像1203は、この血管の長さ方向に沿った位置の断面画像を示す。
【0078】
血管の長さ方向は、図9に示した画像910と同様、上が基部すなわち心臓側、下が末端として並べられる。グラフ1202および画像1203は、上が基部方向、下が末端方向となっているが、表示されているものがすべてではなく、血管の基部から末端に至るうちの一部を表示している。スクロール可能な点は図9と同様である。左右方向は、長軸および短軸の長さを示す。波形が左端に位置するときは、この長さが0ということになり、長さが0よりも大きくなるときは、その大きさに応じた波形の大きさということになる。
【0079】
ここで長軸は、重複領域の輪郭上でもっとも遠い2点を結ぶ直線である。重複領域算出部106は、次のようにして長軸を求める。まず、輪郭上の1点を定める。次にその点の座標に対して輪郭上でもっとも遠い点の座標を求め、両者の長さを求める。このようにして、輪郭上の各点に対して長さを求めて、その中からもっとも大きい値を求める。このもっとも大きい長さの値となる2点を結ぶ線が長軸となる。
【0080】
また、重複領域算出部106は、次のようにして短軸を求める。短軸は、重複領域の輪郭上を長軸に垂直に結ぶ直線のうち、もっとも長いものである。まず基準点を長軸の端から動かす。この基準点を通るように長軸に垂直な直線を延ばして、その直線が輪郭と交わる点を求める。長軸の端ではそれが1点に集まるので、垂直な直線の長さは0となる。そしてこの基準点を長軸に沿って輪郭内部に進めながら、長軸に垂直に基準点を通る直線を求め、この直線が輪郭と交わる点を求め、この輪郭を結ぶ長さを求める。この長さを、基準点が開始点の反対側となる点にわたって求める。こうして求められた長さのうち、もっとも長いものが短軸となる。
【0081】
画像1203は、StrechedMPRによって見たときの冠動脈の断面画像である。画像1203は、図9に示した画像910と同じである。画像1203は、グラフ1201および1202と同様に血管の長さ方向に沿って並べられたものであり、画像1203の長さ方向の要素の1つ1つがそれぞれ血管の断面画像である。血管は直線に進行しているのではなく、体内を曲がりくねりながら進行している。これをStrechedMPRによって見たとき、画像1203のように示される。
【0082】
上述のように、長軸の短軸の長さの変化を、血管の進行方向に沿って示すことにより、長軸と短軸の差が大きい場合には重複領域は長く、差が小さい場合には重複領域は丸いということが分かる。重複領域が長い場合には、脂質コアと血管内腔の近接部分が長い代わりに近接度合いは浅いということになる。逆に重複領域が丸い場合には、両者の近接部分が短い代わりに近接度合いは深いということになる。重複領域が大きいほどに一般的には不安定プラークの危険度が高まるが、同じ程度の大きさの場合、重複領域が長い方が近接部分が長く広がっていることになるので、不安定プラークが危険である。このように長軸短軸の長さを求めることにより、重複領域の形状を求めることができ、それにより形状から想定される危険度を判別する情報を与えることができる。
【0083】
さらに重複領域の面積の話については、血管の位置ごとに面積が生じる場合、その一点だけが特異的に大きな面積を持つというものでなく、その前後のある長さにわたって一定の面積を持つ。その理由は、血管内に不安定プラークを生ずる脂質コアが生じた場合、血管内のある断面でのみ不安定となるのではなく、その前後のある程度の長さの領域にわたって不安定となるからである。そこで重複領域の空間的な大きさを求め、それにより脂質コア単位の不安定プラークの危険度を求める点を次に説明する。
【0084】
図13は、重複領域の面積の変化を血管の長さ方向の集合としてグラフに示した表示画面である。表示画面は、グラフ1304と画像1307を含む。グラフ1304は血管の長さ方向に沿った位置の面積の大きさの変化を示す。画像1307は、この血管の長さ方向に沿った位置の断面画像を示す。血管の長さ方向は、上述のように上が基部すなわち心臓側、下が末端として並べられる。このグラフ1304は、グラフ900と同じものである。
【0085】
このグラフ1304には、面積が0よりも大きい部分が波形1306として示される領域が含まれるので、波形1306を含む領域1305を抽出する。抽出された領域1305を拡大すると、領域1301のようになる。
【0086】
画像1307は、StrechedMPRによって見たときの冠動脈の断面画像である。画像1307は、図9に示した画像910と同じである。画像1307は、グラフ1304と同様に血管の長さ方向に沿って並べられたものであり、画像1307の長さ方向の要素の1つ1つがそれぞれ血管の断面画像である。血管は直線的に進行しているのではなく、体内を曲がりくねりながら進行している。これをStrechedMPRによって見たとき、画像1307のように示される。
【0087】
領域1301には、波形1303が含まれる。この波形1303に含まれる位置のうち、重複領域の面積が最大となるのが頂点1302に該当する位置である。頂点1302の位置で不安定プラークの危険度が最も高まると判定されるが、重複領域の面積はその位置だけで突然大きくなるのではない。重複領域の面積は、波形1303に示されるように幅をもって、その幅の両端で0から徐々に大きくなってそして頂点1302でその面積が最大になるものである。
【0088】
まず、脂質コアによって一定の領域を含む波形1303が生じる。そこで、各位置について得られた重複領域の大きさを、面積が生じている区間にわたって合算して体積として求める。まず、重複領域内部のドット数として各位置について面積が求められているので、この区間内の各位置における面積の合計値が体積として求められる。図13において、波形1303として表示されている領域の内部の面積を求め、それによりこの重複領域の生じている区間にわたっての体積を求める。波形1303に示されるように、不安定プラークはかたまりとして生じ、かたまりを過ぎれば安定プラークとなって重複領域の面積は0となる。したがって、このかたまり単位で体積を求めることができる。このかたまりは脂質コア単位でそれぞれ生じ、脂質コアごとに体積が求まる。
【0089】
すなわち、この波形の一方の端から重複領域内部のドット数により求められている面積を加算していく。一番端では面積は0だが、徐々に面積が大きくなっていくので、その値を加算していき、頂点1302で最大となる面積を加算し、さらに減少していく面積を加算していき、最終的にもう一方の端で面積が0となる位置まで加算を繰り返していく。
【0090】
これにより、波形1303により特定される1つの脂質コアから形成される重複領域の体積を求めることができる。このように重複領域の体積を求めることにより、重複領域の空間的な大きさを求めることができる。重複領域の面積によっても不安定プラークの危険度を求めることはできるが、それは特定の位置での危険度であって、もちろんその特定の位置を含む脂質コアが危険であるということは分かるが、脂質コア全体に対する判断であるとはいえない。たとえば特定の点での重複領域の面積が同じ場合でも、それが血管の長さ方向から見たときに、それが長い幅にわたるものなのか、狭い幅の範囲なのかによって、不安定プラークの危険度の判定は異なってくる。
【0091】
それを、上述のように重複領域の体積として求めることにより、1つの脂質コア全体の不安定プラークの危険度を求めることができる。また、体積としてスコアリングしていくことができるので、1つの血管内に脂質コアが複数ある場合に、その複数の脂質コアの間でそのスコアの違いを比較することにより、どの脂質コアがもっとも危険度が高いかを判別することができる。
【0092】
図14(A),(B)は、複数の脂質コアがある場合の、冠動脈を血管芯線に沿った方向に切断した断面図である。断面の方向は図2と同じである。血管断面の左側から、脂質コア1401、脂質コア1402、脂質コア1403との順番でそれぞれ含まれている。このうちのいずれか1つを指定したときに、表示部30は画像生成部107の出力および表示制御部20の制御により、図13に示したグラフ1304を表示し、その不安定プラークに対応する領域1305及びその内部の波形1306を表示する。また、表示部30は、そのとき重複領域の面積が最大となる血管上の位置について、図10に示したように血管の断面画像を表示する。
【0093】
図15は、各脂質コアの危険度に関する情報を表示するときの表示例である。図14に示したように、脂質コア1401、脂質コア1402、脂質コア1403が含まれている場合、それぞれ脂質コアA,B,Cとして表に示す。そして次にそれぞれの血管内の位置を示す。図14の左側から位置を特定する場合、脂質コア1401がもっとも始点に近いので位置50、脂質コア1402が次に近いので、位置200、脂質コア1403が最も遠いので、位置350となる。この血管内の位置は、基部から測られるが、端部から測ってもよい。
【0094】
そして各脂質コアについて重複領域の体積が求まっているので、それぞれ30,120,90と表示される。この中で脂質コア1402(B)について重複体積がもっとも大きいので、順位は1位となる。脂質コア1403(C)が次に大きいので、順位は2位となる。そして脂質コア1401(A)がもっとも小さいので、順位は3位となる。以上のようにこの実施例では、同一の血管内に含まれる複数の脂質コアを並べて表示することができ、どの脂質コアによる不安定プラークがもっとも危険度が高いかをユーザに示すことができる。
【0095】
表示部30は、画像生成部107の出力および表示制御部20の制御により、以上に示した図15の脂質コアの危険度リストを表示する。この場合、図15のみを単独で表示してもよいが、図14の血管画像とともに表示してもよい。図14と図15をともに表示する場合、脂質コアの配置を画面上で確認しながらその危険度を数値により確認することができる。
【0096】
以上、各脂質コアについて危険度の順位を判定してその順位を表示する点について説明したが、重複領域算出部106により、各脂質コアの相対的ではなく、絶対的な危険度を求めてもよい。この場合、重複領域算出部106は、重複領域の体積の臨界点、閾値を予め記憶しておいて、求められた体積がその閾値を越えるか否かを判定し、体積がその閾値を越える脂質コアについて、一定の危険度に達したことを表示してもよい。それにより、血管内に一定の危険度に達した脂質コアが存在するか否かを判定することができるので、血管ごとに危険が発生したか否かを知ることができる。
【0097】
[一連の動作について]
図16は、一連の冠動脈について解析処理を実行する処理を示すフローチャートである。まず、X線CT装置10により心臓領域のCTデータを取得する(ステップS1001)。次に血管取得部103は、取得されたCTデータから冠動脈を抽出する(ステップS1002)。すなわち、血管取得部103は検査対象となる冠動脈を1つ選択し、その3次元画像を取得する。次に、抽出された冠動脈について血管芯線を抽出する(ステップS1003)。血管芯線は、血管の中心を結ぶ線であり、血管の方向に沿った線となる。そして、一連の冠動脈について各血管断面の処理を実行する。
【0098】
まず、制御部102は、最初の血管断面を特定する。本処理は基部から処理を開始するので、制御部102は、血管芯線に直交する面のうち基部に最も近いものを選択することにより、最初の断面を特定する(ステップS1004)。これに限るものではなく逆に血管の端部から開始しても良く、その場合端部から開始して基部まで処理を繰り返すことになる。
【0099】
次に、特定された血管断面について重複領域の算出処理を実行する(ステップS1005)。本処理については図17において後述する。これにより、1つの血管断面に含まれる脂質コアと血管内腔をそれぞれ膨張させた結果の重複領域が算出される。ここで医用画像処理装置100は、血管芯線に沿った各位置について血管断面を取得し、それぞれ重複領域を求める。重複領域算出部106は、血管芯線に沿った各位置について、この重複領域内部の面積を求める。
【0100】
算出後、制御部102は、全断面について処理が終了したか否かを判定する(ステップS1006)。処理が終了したと判定された場合(ステップS1006:Yes)、制御部102は表示処理に移行し(ステップS1008)、一連の処理を終了する。すなわち、血管の端部にあたる最後の断面の処理を終えて、血管の検査対象すべてについて処理を実行したと判定された場合は、表示処理に移行する。
【0101】
処理が終了していないと判定された場合(ステップS1006:No)、すなわち血管の端部にあたる最後の断面以外を処理したあとの場合、次の断面を特定する(ステップ1007)。すなわち、血管芯線に沿った隣の位置について、血管芯線に直交する血管断面を次の断面とする。この次の血管断面を特定した後ステップS1005に戻り、この次の血管断面について処理を実行する。
【0102】
次にステップS1008の表示処理について説明する。血管の各位置で面積が求まっているので、図9に示したように、血管の各位置において基部から順番にこの求めた面積の値を、血管芯線に沿った各位置に対応付けてグラフ化する。そしてこの血管芯線に沿った各位置に対応付けて、StrechedMPR画像も並べて表示する。また、重複領域の面積を表示する代わりに、図11を用いて説明したように、重複領域の長軸および短軸の長さを求めて表示することもできる。
【0103】
図17は、重複領域の算出処理を示すフローチャートである。図16に示したフローチャートで、最初の断面(ステップS1004)または次の断面(ステップS1007)が特定されて、その断面について重複領域算出処理(ステップS1005)たとき、図17のステップS1101に進む。
【0104】
まず、血管取得部103は、特定された断面について血管断面を抽出する(ステップS1101)。この血管断面は、図2および図3の断面210や220の通りである。次に、この抽出された血管断面について脂質コアが含まれているか否かを判定する(ステップS1102)。図4に関連して説明したように、脂質コア抽出部120は、脂質コアに相当すると推定される画素値が予め記憶している。そこで、この画素値に相当する画素が、対象となる血管断面に含まれているか否かを判定する。含まれていないと判定された場合(ステップS1102:No)、重複領域を0として(ステップS1109)、一連の処理を終了する。
【0105】
含まれていると判定された場合(ステップS1102:Yes)、脂質コア抽出部120は、脂質コア領域を抽出する(ステップS1103)。まず、上述のように脂質コアに相当する画素値の画素が特定されているので、その画素を中心として、図4に示した領域拡張法を適用する。領域拡張法により、脂質コア領域が抽出されるので、閉曲線抽出部140は、抽出された脂質コア領域の輪郭を抽出する。得られた輪郭は図5に示した通りとなる。次に、血管内腔抽出部130は、血管内腔領域を抽出する(ステップS1104)。脂質コアと同様に領域拡張法が適用される。脂質コアの場合と同様に、閉曲線抽出部140は、抽出された血管内腔領域の輪郭を抽出する。
【0106】
次に、膨張部105は、両領域を膨張させる(ステップS1105)。すなわち、脂質コアと血管内腔の両領域について閉曲面、輪郭が得られているので、膨張部105は、この得られている両輪郭を、図6〜図8に示したように膨張させていく。
【0107】
次に、膨張させた両輪郭が重複しているか否かを判定する(ステップS1106)。図8では、両輪郭が重複して重複領域801を形成している場合が示されているが、両輪郭が形成されていない場合もある。そのときは膨張輪郭701と702は離れており、重複領域801は形成されない。重複していないと判定された場合(ステップS1106:No)、重複領域を0として一連の処理を終了する(ステップS1109)。
【0108】
重複していると判定された場合(ステップS1106:Yes)、重複領域算出部106は、重複領域を抽出し(ステップS1107)、重複領域の面積を算出し(ステップS1108)、一連の処理を終了する。なお、ステップS1108では重複領域の面積を算出する代わりに、図11に示したように長軸および短軸の長さを求めてもよい。また、重複領域の面積を求めるとともに、さらに長軸および短軸の長さを求めてもよい。
【0109】
以上のように、血管内腔と脂質コアをそれぞれ抽出して膨張させ、その重複領域の面積、長軸、短軸などの大きさを求めてこれに関する表示処理を実行する場合を説明したが、図13に関連して血管方向にわたって重複領域を合算し、その体積を求めることにより、脂質コア単位の不安定プラークの危険度を求めることもできる。次に、その一連の流れをフローチャートで説明する。
【0110】
図18は、重複領域の面積を血管方向の長さの区間で合算して体積とする処理を説明するフローチャートである。血管の基部から処理を開始するが、血管の基部から処理を開始する代わりに、特定の脂質コアを図14から指定して、その脂質コアの始点、すなわち重複領域の面積が0から値を持つところに切り替わる位置から処理を開始してもよい。
【0111】
まず、重複領域の面積が面積>0であるか否かを判定する(ステップS1201)。面積>0でない場合、すなわち面積が0である場合は(ステップS1201:No)、ステップS1208に進む。つまり、重複領域が発生した位置に来ていないので、さらに先に位置を進めていく。面積>0である場合(ステップS1201:Yes)、すなわち面積が0から値を持つ位置に切り替わった位置となるので、その面積およびその位置を保存する(ステップS1202)。この位置は、脂質コアと血管内腔を膨張させたことによる重複領域が生じ始めた位置となる。そして位置を移動する(ステップS1203)。
【0112】
次に、面積が0となったか否かを判定し(ステップS1204)、面積が0になっていない場合は(ステップS1204:No)、ステップS1202に戻って面積が0でなくなるまで位置を移動し、面積および位置の保存を繰り返す。面積が0になった場合は(ステップS1204:Yes)、その面積および位置を保存する(ステップS1205)。この位置は、脂質コアと血管内腔を膨張させたことによる重複領域が終了する位置となる。これにより、ステップS1202で最初に保存された位置を始点とし、ステップS1205で保存された位置を終点として重複領域が存在する区間を特定することができる。
【0113】
そして、重複領域が存在する区間が求まったので、この指定区間内の重複領域の体積を求める(ステップS1206)。この指定区間は、図13の波形1303で囲まれた領域であり、この波形1303で囲まれた領域内の面積を求めることにより、この指定区間の重複領域の体積が求められる。指定区間内のグラフ上の面積、すなわち重複領域の体積が求まったので、脂質コア番号に合わせてこの体積を割り当てる(ステップS1207)。つまり、最初の指定区間については、脂質コア番号を1として、その番号に応じた重複領域の体積を割り当てる。先に指定区間が存在していた場合には、その次の番号を求め、その番号に応じた重複領域の体積を割り当てる。先に脂質コア番号2が割り当てられていた場合には、その次に求まった指定区間については、脂質コア番号3として、ここで求められた重複領域の体積を割り当てる。
【0114】
以上のように処理を繰り返して、血管の末端に到達したか否かを判定する(ステップS1208)。血管の末端に到達したと判定された場合(ステップS1208:Yes)、一連の処理を終了する。血管の末端に到達していないと判定された場合(ステップS1208:No)、位置を移動して(ステップS1209)、ステップS1201に戻って処理を繰り返す。
【0115】
上述のように、本実施例では血管の進行方向に沿って血管内腔と付着物質の輪郭を膨張した場合の重複領域の面積をそれぞれ求めることにより、血管の各位置における血管内腔と付着物質の近接度合いをスコアリングすることができる。このように近接度合いを求めることにより、血管内腔と脂質コアの画像が繊維性被膜の厚さに対して低い解像度でしか得られない場合でも近接度合いが判定されるので、不安定プラークの危険度を知ることができる。
【符号の説明】
【0116】
10 X線CT装置
20 表示制御部
30 表示部
101 画像データ記憶部
102 制御部
103 血管取得部
104 抽出部
105 膨張部
106 重複領域算出部
107 画像生成部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管を含む部位の画像データを基に前記血管の断面を求めてその断面から、前記血管の内腔の輪郭および前記血管内に付着する付着物質の輪郭を抽出する抽出手段と、
抽出された前記内腔の輪郭および前記付着物質の輪郭の一方または双方の、少なくとも一部分を所定量だけ膨張する膨張演算手段と、
前記血管のそれぞれの断面について、前記膨張演算手段によって膨張された前記内腔の輪郭および前記付着物質の輪郭が重なるときの重複領域の大きさを求める領域演算手段と、
を備えることを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項2】
前記抽出手段は、前記血管の芯線を求め、該芯線に垂直な断面を求めて、その断面を前記血管の断面とすることを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項3】
前記膨張演算手段によって膨張される前記所定量は、1画素であることを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項4】
前記付着物質は、脂質コアであることを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項5】
前記血管芯線の方向の各位置において、前記領域演算手段によってそれぞれ求められた、前記重複領域の大きさに基づいた情報を表示する表示手段と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の医用画像処理装置。
【請求項6】
前記領域演算手段によって求められる重複領域の大きさは、該重複領域の面積であることを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項7】
前記領域演算手段によって求められる重複領域の大きさは、該重複領域内の長軸および短軸の長さであることを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項8】
前記表示手段は、前記血管のそれぞれの断面について、前記血管の長さ方向の位置と、前記重複領域の大きさを対応付けたグラフとして表示することを特徴とする請求項5に記載の医用画像処理装置。
【請求項9】
前記表示手段は、前記血管の長さ方向の各位置の血管断面画像を、それぞれの断面の重複領域の大きさに基づいた情報と対応付けて表示することを特徴とする請求項5に記載の医用画像処理装置。
【請求項10】
前記膨張演算手段は、抽出された前記内腔の輪郭の全体および前記付着物質の輪郭の全体を、それぞれ所定量だけ膨張することを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項11】
前記膨張演算手段は、前記内腔の輪郭および前記付着物質の輪郭の一方または双方の外側に沿って所定の要素を移動させ、移動された要素によって得られる外側の軌跡へ、前記内腔の輪郭および前記付着物質の輪郭の一方または双方を膨張することを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項12】
前記重複領域の面積が、前記血管の芯線の方向に連続して0より大きい区間を抽出する区間抽出手段と、
前記区間抽出手段によって抽出された区間内の各面積を合算して、区間ごとに合計値を求める合算手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項13】
前記合算手段は、前記区間ごとの合計値の大きさの順に、各区間を順位付けすることを特徴とする請求項12に記載の医用画像処理装置。
【請求項14】
血管を含む部位の画像データを基に前記血管の断面を求めてその断面から、前記血管の内腔の輪郭および前記血管内に付着する付着物質の輪郭を抽出する抽出ステップと、
抽出された前記内腔の輪郭および前記付着物質の輪郭の一方または双方の、少なくとも一部分を所定量だけ膨張する膨張演算ステップと、
前記血管のそれぞれの断面について、前記膨張演算ステップによって膨張された前記内腔の輪郭および前記付着物質の輪郭が重なるときの重複領域の大きさを求める領域演算ステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする医用画像処理プログラム。
【請求項1】
血管を含む部位の画像データを基に前記血管の断面を求めてその断面から、前記血管の内腔の輪郭および前記血管内に付着する付着物質の輪郭を抽出する抽出手段と、
抽出された前記内腔の輪郭および前記付着物質の輪郭の一方または双方の、少なくとも一部分を所定量だけ膨張する膨張演算手段と、
前記血管のそれぞれの断面について、前記膨張演算手段によって膨張された前記内腔の輪郭および前記付着物質の輪郭が重なるときの重複領域の大きさを求める領域演算手段と、
を備えることを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項2】
前記抽出手段は、前記血管の芯線を求め、該芯線に垂直な断面を求めて、その断面を前記血管の断面とすることを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項3】
前記膨張演算手段によって膨張される前記所定量は、1画素であることを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項4】
前記付着物質は、脂質コアであることを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項5】
前記血管芯線の方向の各位置において、前記領域演算手段によってそれぞれ求められた、前記重複領域の大きさに基づいた情報を表示する表示手段と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の医用画像処理装置。
【請求項6】
前記領域演算手段によって求められる重複領域の大きさは、該重複領域の面積であることを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項7】
前記領域演算手段によって求められる重複領域の大きさは、該重複領域内の長軸および短軸の長さであることを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項8】
前記表示手段は、前記血管のそれぞれの断面について、前記血管の長さ方向の位置と、前記重複領域の大きさを対応付けたグラフとして表示することを特徴とする請求項5に記載の医用画像処理装置。
【請求項9】
前記表示手段は、前記血管の長さ方向の各位置の血管断面画像を、それぞれの断面の重複領域の大きさに基づいた情報と対応付けて表示することを特徴とする請求項5に記載の医用画像処理装置。
【請求項10】
前記膨張演算手段は、抽出された前記内腔の輪郭の全体および前記付着物質の輪郭の全体を、それぞれ所定量だけ膨張することを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項11】
前記膨張演算手段は、前記内腔の輪郭および前記付着物質の輪郭の一方または双方の外側に沿って所定の要素を移動させ、移動された要素によって得られる外側の軌跡へ、前記内腔の輪郭および前記付着物質の輪郭の一方または双方を膨張することを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項12】
前記重複領域の面積が、前記血管の芯線の方向に連続して0より大きい区間を抽出する区間抽出手段と、
前記区間抽出手段によって抽出された区間内の各面積を合算して、区間ごとに合計値を求める合算手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項13】
前記合算手段は、前記区間ごとの合計値の大きさの順に、各区間を順位付けすることを特徴とする請求項12に記載の医用画像処理装置。
【請求項14】
血管を含む部位の画像データを基に前記血管の断面を求めてその断面から、前記血管の内腔の輪郭および前記血管内に付着する付着物質の輪郭を抽出する抽出ステップと、
抽出された前記内腔の輪郭および前記付着物質の輪郭の一方または双方の、少なくとも一部分を所定量だけ膨張する膨張演算ステップと、
前記血管のそれぞれの断面について、前記膨張演算ステップによって膨張された前記内腔の輪郭および前記付着物質の輪郭が重なるときの重複領域の大きさを求める領域演算ステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする医用画像処理プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−24826(P2011−24826A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174590(P2009−174590)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】
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