説明

医用画像生成装置および医用画像生成プログラム

【課題】ノイズ成分の影響を受けにくくすることで、表示対象物体の厚みに拘らずその内部を透明に表示させることが可能な医用画像生成装置および医用画像生成プログラムを得る。
【解決手段】医用画像生成装置は、画像診断装置により撮影して取得された医用画像データに基づき所望の観察用画像を生成する装置であって、医用画像データの信号値を基にして、取得された医用画像データの中から、表示対象物体としての肝臓を示す閉曲領域に対応する画像データ群を抽出する物体抽出手段12と、画像データ群の信号値を基にして、肝臓を示す閉曲領域の表面形状モデルを生成する表面形状モデル生成手段13と、表面形状モデルに所定の不透明度を設定することで、所望の観察用画像を生成する不透明度設定手段14aとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像診断を支援する画像生成技術に関するものであり、特に、CT(Computed Tomography)、MRI(Magnetic Resonance Imaging)等の画像診断装置により得られた3次元画像データに基づき、診断支援に好適な観察用画像(2次元可視画像)を生成し得る医用画像生成装置および医用画像生成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、医療分野において用いられる医用画像構成手法は、画像診断装置により得られた断層画像群に基づき、コンピュータ上で被観察体(表示対象物体)の3次元画像モデルを構築し、この3次元画像モデルを2次元平面上に投影した2次元可視画像を構成するものが一般的であり、その手法の一例としてボリュームレンダリング法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
ボリュームレンダリング法では、画像診断装置により得られたCT値等の信号値がそれぞれ対応付けられた、ボクセル(voxel)と称される画像構成要素の集合体を用いて3次元画像モデルが構成され、2次元可視画像を構成する際には各画像構成要素に対し、色や不透明度等の画像化に必要とされる表示特性が各信号値に応じて与えられるようになっている。そのため、表示対象物体に応じて表示特性を適切に設定することで、例えば臓器中における血管の走行状態を立体的に把握することが可能となり、特に手術等のリスクを伴う治療の術前評価用としてボリュームレンダリング法は有効活用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−57411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ボリュームレンダリング法の1つとして、αブレンディングによるボリュームレンダリング法が知られているが、この方法では、物体の表面側から光を入射させ、光の透過方向に並ぶボクセル各々の不透明度を積算し、積算して求められた値に基づいて2次元可視画像を表示させるようになっている。このαブレンディングによるボリュームレンダリング法においては、上述のように不透明度を積算して得られた値に基づいて表示させるために、信号値にノイズ成分が含まれる場合には、光の透過方向にボクセル各々のノイズ成分も積算されて、表示対象物体の厚みに略比例してノイズ成分の影響が増大することとなる。
【0006】
そのため、例えば図9に示すように、門脈520および静脈530が肝臓実質510内を複雑に走行する肝臓500を表示させる場合、門脈520および静脈530に比較して厚みのある肝臓実質510では、その肝臓実質510に対応した信号値に含まれるノイズ成分の影響が、特に問題となる。よって、肝臓実質510部分を透明にして透かすように表示特性を設定したとしても、ノイズ成分の影響を受けて肝臓実質510部分が設定通りに透明に表示されず、その結果、肝臓実質510の内部や背後に位置する門脈520や静脈530を鮮明に表示させることが難しいという課題があった。
【0007】
本発明は上記のような課題に鑑みてなされたものであり、ノイズ成分の影響を受けにくくすることで、表示対象物体の厚みに拘らずその内部を透明に表示させることが可能な医用画像生成装置および医用画像生成プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る医用画像生成装置および医用画像生成プログラムは、以下のように構成されている
【0009】
すなわち、本発明に係る医用画像生成装置は、
被観察体を含む観察領域を画像診断装置により撮影して取得された医用画像データ(例えば、CT画像データやMRI画像データ)に基づき、所望の観察用画像を生成する医用画像生成装置であって、
前記医用画像データの信号値を基にして、取得された前記医用画像データの中から、前記被観察体を示す閉曲領域に対応する被観察体画像データ群を抽出するデータ抽出手段と、
前記被観察体画像データ群の信号値を基にして、前記閉曲領域の表面形状モデルを生成する表面形状モデル生成手段と、
前記表面形状モデルに所定の不透明度を設定することで、前記所望の観察用画像を生成する不透明度設定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る医用画像生成装置において、
前記表面形状モデル生成手段は、
前記被観察体画像データ群の信号値を、前記閉曲領域を構成する複数の領域構成空間の頂点にそれぞれ対応付け、前記領域構成空間の1辺の両端に対応付けられた前記被観察体画像データ群の信号値と、前記1辺の両端の各々に対応して予め設定された所定の閾値とを比較することで、前記1辺の各々について前記表面形状モデルとの交差位置を特定し、特定された前記交差位置同士を繋ぐことで前記表面形状モデルを生成する構成が好ましい。
【0011】
なお、前記表面形状モデル生成手段が、マーチンキューブス法を用いた構成とされても良い。
【0012】
さらに、前記表面形状モデルに対して、シェーディング処理およびレンダリング処理の少なくともいずれかを施すことが可能な表示設定手段を備えた構成が好ましい。
【0013】
本発明に係る医用画像生成プログラムは、
被観察体を含む観察領域を画像診断装置により撮影して取得された医用画像データに基づき、所望の観察用画像を生成する処理を、コンピュータにおいて実行せしめる医用画像生成プログラムであって、
前記医用画像データの信号値を基にして、取得された前記医用画像データの中から、前記被観察体を示す閉曲領域に対応する被観察体画像データ群を抽出するデータ抽出ステップと、
前記被観察体画像データ群の信号値を基にして、前記閉曲領域の表面形状モデルを生成する表面形状モデル生成ステップと、
前記表面形状モデルに所定の不透明度を設定することで、前記所望の観察用画像を生成する不透明度設定ステップと、をコンピュータにおいて実行せしめることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る医用画像生成装置は、被観察体を示す閉曲領域に対応する被観察体画像データ群を抽出するデータ抽出手段と、表面形状モデルを生成する表面形状モデル生成手段と、表面形状モデルに不透明度を設定することで観察用画像を生成する不透明度設定手段とを備えている。このため、内部構造に関する信号値を備えず表面形状に関する信号値のみを備える表面形状モデルに不透明度が設定されるので、例えばαブレンディングによるボリュームレンダリング法を用いて観察用画像を生成する場合に、内部構造に関する信号値に含まれるノイズ成分の影響を排除して、表示対象物体の厚みに拘らずその内部を透明に表示させることが可能になる。
【0015】
また、表面形状モデル生成手段は、被観察体画像データ群の信号値を、閉曲領域を構成する複数の領域構成空間の頂点に対応付けた上で、領域構成空間を構成する1辺の両端に設定された所定の閾値と比較することにより、該1辺と表面形状モデルとの交差位置を特定し、特定された交差位置同士を繋ぐことで表面形状モデルを生成する構成であることが好ましい。この構成の場合には、医用画像生成装置における演算処理負担を増大させることなく、信号値と閾値との大小関係に基づいて被観察体の表面形状モデルを比較的簡単に生成できる。
【0016】
なお、表面形状モデル生成手段が、マーチンキューブス法を用いたものであっても良く、この場合において、例えば8つの頂点を備えた直方体状の領域構成空間を設定することで、閉曲領域内に位置する頂点の組み合わせを14通りに限定することができる。そのため、この14パターンをテーブルにして記憶させておくことで、領域構成空間と表面形状モデルとの交差位置を簡単に特定できて、表面形状モデルの生成が容易となる。
【0017】
さらに、表面形状モデルに対して、シェーディング処理およびレンダリング処理の少なくともいずれかを施すことが可能な表示設定手段を備えた構成とすることで、立体的で視覚効果の高い観察用画像を生成することが可能になる。
【0018】
本発明に係る医用画像生成プログラムは、被観察体を示す閉曲領域に対応する被観察体画像データ群を抽出するデータ抽出ステップと、閉曲領域の表面形状モデルを生成する表面形状モデル生成ステップと、表面形状モデルに不透明度を設定することで観察用画像を生成する不透明度設定ステップとをコンピュータにおいて実行せしめるように構成されている。このため、例えばαブレンディングによるボリュームレンダリング法を用いて観察用画像を自動的に生成する場合に、内部構造に関する信号値に含まれるノイズ成分の影響を排除して、表示対象物体の厚みに拘らず自動的にその内部を透明に表示させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る医用画像生成装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す演算処理装置の機能的構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示す演算処理装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】表面形状モデル生成処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】(a)、(b)および(c)はそれぞれ、表面形状モデル生成の処理過程についての説明図である。
【図6】(a)、(b)および(c)はそれぞれ、表面形状モデル生成の処理過程についての説明図である。
【図7】医用画像データの信号値の処理手順の概要を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る医用画像生成装置を用いて生成された肝臓の2次元可視画像である。
【図9】従来の医用画像生成装置を用いて生成された肝臓の2次元可視画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について上述の図面を参照しつつ詳細に説明する。まず、図1および図2を参照しながら、本発明の一実施形態に係る医用画像生成装置1の装置構成について説明する。
【0021】
図1に示す医用画像生成装置1は、医用画像データに基づき表示対象物体の画像を生成して表示させるものであり、コンピュータ等からなる演算処理装置10と、マウスやキーボード等からなる入力装置20と、画像表示装置等からなる出力装置30とを備えてなる。
【0022】
上記演算処理装置10は、図2に示すように、医用画像データ記憶手段11、物体抽出手段12、表面形状モデル生成手段13、表示設定手段14および画像生成手段15を備えており、表示設定手段14は、不透明度設定手段14a、シェーディング手段14bおよびレンダリング手段14cを有している。これらの手段は、各種の演算処理を行うCPU、ハードディスクやROM等の記憶装置、該記憶装置に格納された制御プログラム(本発明の一実施形態に係る医用画像生成プログラムを含む)およびRAM等の一時記憶装置等により構成されるものを、概念的に示したものである。
【0023】
上記医用画像データ記憶手段11は、表示対象物体を含む観察領域をX線CT装置またはMRI装置等の画像診断装置により断層撮影して取得された医用画像データ(CT画像データまたはMRI画像データ)と、上述の物体抽出手段12、表面形状モデル生成手段13、表示設定手段14および画像生成手段15により得られた各種データと、を記憶するものである。
【0024】
物体抽出手段12は、画像診断装置により断層撮影して取得された医用画像データの中から、表示対象物体の閉曲領域に対応する画像データ群を3次元的に抽出するものである。なお、この物体抽出手段12により抽出された画像データ群により特定される領域を、以下において「マスク領域」と称する。
【0025】
表面形状モデル生成手段13は、上記物体抽出手段12により抽出された画像データ群を用いて、表示対象物体の表面形状モデルを生成するものであり、詳細については後述する。
【0026】
表示設定手段14を構成する不透明度設定手段14aは、例えば入力装置20に対する外部操作に基づいて、上記表面形状モデル生成手段13により生成された表面形状モデルに不透明度を与えるものである。表示設定手段14を構成するシェーディング手段14bは、表面形状モデルにシェーディング(影付け)処理を施すものである。表示設定手段14を構成するレンダリング手段14cは、表面形状モデルにレンダリング(色付け)処理を施すものである。
【0027】
画像生成手段15は、ボリュームレンダリング法を用いて、表示設定手段14により各処理が施された表面形状モデルの2次元可視画像を生成するものである。
【0028】
次に、本実施形態の医用画像生成装置1による表示対象物体の表面形状モデルの生成、およびこの表面形状モデルの2次元可視画像の生成手順について、主に図3〜図7を参照しながら説明する。次述する表面形状モデルの生成、および2次元可視画像の生成手順は、本発明の一実施形態に係る医用画像生成プログラムに従って実行されるものである。
【0029】
なお、以下の説明では、臓器や血管、骨等の複数種の生体組織を含んだ被検体の腹部を画像診断装置により断層撮影し、断層撮影して得られた複数の医用画像データの信号値に基づいて、図8に示すような肝臓実質110、門脈120および静脈130からなる肝臓100の2次元可視画像を生成する場合を例に挙げて説明する。
【0030】
〈1〉被検体の腹部から胸部に亘る医用画像データ(CT画像データまたはMRI画像データ)を取得する(医用画像データ取得ステップ;図3のステップS1参照)。本実施形態では、必要な医用画像データが、予め上記医用画像データ記憶手段11(図2参照)に記憶されていることを想定しているが、CDやDVD等の情報記憶媒体に記録された医用画像データを必要に応じて読み出すようにしてもよい。
【0031】
〈2〉物体抽出手段12により、医用画像データから表示対象としての肝臓100の閉曲領域に対応する画像データ群を抽出する(肝臓抽出ステップ;図3のステップS2参照)。この肝臓抽出ステップでは、肝臓100を構成する組織毎(肝臓実質110、門脈120および静脈130毎)に区別されて画像データ群が抽出される。
【0032】
この抽出方法に関しては、例えば医用画像データの信号値(ボクセル値)が一般に、生体組織毎に異なる値を示すことを利用し、予め設定した閾値(ここでの閾値は画像データ抽出に用いられるものであり、図5(a)〜(c)に示される、表面形状モデルを生成する際の閾値とは異なるものである)に基づいて生体組織毎の画像データ群を抽出する方法(閾値物体選択法)や、生体組織内部の点から同一領域に属すると想定される連結領域を順次取り込みながら領域拡張を行うことで、生体組織の画像データ群を抽出するリージョングローイング法等を適用することが可能である。なお、本実施形態における信号値とは、CTにより得られた医用画像データの場合には濃度値のことであり、一方、MRIにより得られた医用画像データの場合には相対強度のことである。
【0033】
〈3〉抽出された画像データ群の信号値に基づき、表面形状モデル生成手段13により、肝臓実質110、門脈120および静脈130毎の表面形状モデルを生成する(表面形状モデル生成ステップ;図3のステップS3および図4のステップS31〜ステップS35参照)。なお、以下の説明においては、マーチンキューブス法を適用して表面形状モデルを生成する場合を例示している。
【0034】
〈3−1〉具体的には、まず、医用画像データにより構築されるデータ空間内に、各々8つの頂点を持つ微小な直方体を、仮想的に複数設定する(直方体設定ステップ;図4のステップS31参照)。ここで設定される直方体の各頂点には、生体組織毎に異なる信号値を示すことを利用して、肝臓実質110、門脈120および静脈130の各々の生体組織に対応させた閾値が設定されている。そのため、信号値と閾値とを比較することで、該信号値を示す頂点位置が生体組織のマスク領域の内外どちらに位置するのかを判別できる。
【0035】
なお、本実施形態では、微小な直方体を設定する構成例を示して説明を行っているが、演算処理装置10における演算処理負担を低減させるために、データ空間内に各々8つの頂点を持つ立方体を設定する構成としても良い。
【0036】
〈3−2〉抽出された画像データ群の各信号値(ボクセル値)を、データ空間内に設定された直方体の頂点位置に対応付ける(信号値を頂点位置に対応付けるステップ;図4のステップS32参照)。
【0037】
〈3−3〉データ空間内に設定された直方体の任意の辺において、該辺の両端(頂点)に各々予め設定された閾値と、上記ステップS32において対応付けられた信号値とが比較される(閾値との比較ステップ;図4のステップS33参照)。ここでの比較結果に基づいて、該辺の両端がマスク領域内に位置するのか、該辺の両端がマスク領域外に位置するのか、または、該辺の一端がマスク領域内に位置し他端がマスク領域外に位置するのかが判別される。
【0038】
上記ステップS33における判別について、図5および図6を参照しながら具体的に説明する。図5(a)〜(c)には、データ空間内に設定された直方体の側面図を示しており、これらの図では信号値の閾値が50に設定された場合を例示している。また、各頂点に対応付けられた信号値を各頂点に隣接する括弧内に記載し、信号値が閾値を上回ることで、その頂点がマスク領域内に位置する場合を例示している。
【0039】
図5(a)に例示する場合においては、第1頂点51に対応付けられた信号値が35、第2頂点52に対応付けられた信号値が35、第3頂点53に対応付けられた信号値が35、第4頂点54に対応付けられた信号値が35となっている。いずれの頂点に対応付けられた信号値も、閾値である50を下回っているので、第1頂点51〜第4頂点54は全てマスク領域の外側に位置すると判別できる。なお、図5(a)では、マスク領域の外側に位置する各頂点51〜54を「×」印で表記して、マスク領域の外側に位置することを分かり易く図示している。
【0040】
図5(b)に例示する場合においては、第1頂点61に対応付けられた信号値が30、第2頂点62に対応付けられた信号値が60、第3頂点63に対応付けられた信号値が60、第4頂点64に対応付けられた信号値が40となっている。ここで、第1頂点61と第2頂点62とを結ぶ第1辺65に着目すると、閾値よりも小さな信号値が対応付けられた第1頂点61はマスク領域の外側に位置し(「×」印で表記)、一方、閾値よりも大きな信号値が対応付けられた第2頂点62は、マスク領域の内側に位置すると判別できる(「○」印で表記)。このことから、マスク領域表面MSが第1辺65上に位置することが分かり、マスク領域表面MSと第1辺65との交差位置65aが、各頂点の信号値を基にして直線補間により求められる。
【0041】
また、第3頂点63と第4頂点64とを結ぶ第3辺67に着目すると、閾値よりも大きな信号値が対応付けられた第3頂点63はマスク領域の内側に位置し(「○」印で表記)、一方、閾値よりも小さな信号値が対応付けられた第4頂点64は、マスク領域の外側に位置すると判別できる(「×」印で表記)。このことから、マスク領域表面MSが第3辺67上に位置することが分かり、マスク領域表面MSと第3辺67との交差位置67aが、各頂点の信号値を基にして直線補間により求められる。
【0042】
図5(c)に例示する場合においては、第1頂点71に対応付けられた信号値が40、第2頂点72に対応付けられた信号値が60、第3頂点73に対応付けられた信号値が70、第4頂点74に対応付けられた信号値が60となっている。ここで、第1頂点71と第2頂点72とを結ぶ第1辺75に着目すると、閾値よりも小さな信号値が対応付けられた第1頂点71はマスク領域の外側に位置し(「×」印で表記)、一方、閾値よりも大きな信号値が対応付けられた第2頂点72は、マスク領域の内側に位置すると判別できる(「○」印で表記)。このことから、マスク領域表面MSが第1辺75上に位置することが分かり、マスク領域表面MSと第1辺75との交差位置75aが、各頂点の信号値を基にして直線補間により求められる。
【0043】
また、第1頂点71と第4頂点74とを結ぶ第4辺78に着目すると、上記の通り第1頂点71はマスク領域の外側に位置し、一方、閾値よりも大きな信号値が対応付けられた第4頂点74は、マスク領域の内側に位置すると判別できる(「○」印で表記)。このことから、マスク領域表面MSが第4辺78上に位置することが分かり、マスク領域表面MSと第4辺78との交差位置78aが、各頂点の信号値を基にして直線補間により求められる。なお、第3頂点73は、対応付けられた信号値が閾値よりも大きいので、マスク領域の内側に位置すると判別される(「○」印で表記)。
【0044】
ところで、直方体における8つの頂点のうちで、マスク領域内に位置する頂点の組み合わせは、反転や回転を考慮した場合14通りに限定される。そのため、この14通りのパターンに対応したテーブルを予め記憶させておき、必要に応じてこのテーブルを参照するようにすれば、演算処理装置10における演算処理負担を低減させつつ、マスク領域表面MSと辺との交差位置を算出可能になる。
【0045】
〈3−4〉上述したステップS33の処理が、設定された全ての直方体を構成する辺の各々について実行されたか否かが判定される(実行済み判定ステップ;図4のステップS34参照)。このステップS34において、ステップS33の処理が実行されていない辺が存在すると判定された場合にはステップS33に戻り、設定された全ての直方体を構成する辺の各々についてステップS33の処理が実行される。
【0046】
なお、本実施形態においては、ステップS33の処理を設定された直方体の全てに対して実行する方法を例示しているが、この方法に代えて、あるマスク領域表面MSの位置を一旦特定した後は、その近傍に位置する辺を中心にステップS33の処理を実行する方法でも良い。この方法によれば、ステップS33の処理対象となる辺を減らして、演算処理装置10における演算処理負担を低減させることができる。
【0047】
〈3−5〉設定された全ての直方体を構成する辺の各々についてステップS33の処理が実行されると、ステップS33で求められた交差位置同士を連結することで、肝臓実質110、門脈120および静脈130毎の表面形状モデルを生成する(交差位置同士の連結ステップ;図4のステップS35参照)。
【0048】
このステップS35では、ステップS33で求められた交差位置同士を連結するときに、例えば図6(a)に示すように、隣接する交差位置同士を優先して連結することで、複数の直方体に跨った滑らかな表面形状モデル(マスク領域表面MS)を生成する。また、このステップS35における交差位置同士の連結は、図6(b)および図6(c)に示すように3次元的に実行されて、3次元的な表面形状モデルが生成される。
【0049】
〈4〉上述のようにして生成された肝臓実質110、門脈120および静脈130の表面形状モデルの各々に対し、表示設定手段14により不透明度が設定されるとともに、シェーディング処理およびレンダリング処理が施される(表示設定ステップ;図3のステップS4参照)。
【0050】
具体的には、不透明度設定手段14aにより、肝臓実質110、門脈120および静脈130表面形状モデルの各々に対して、個別に不透明度が設定される。例えば、肝臓実質110の内部や肝臓実質110の背後に位置する門脈120や静脈130の状態を観察する場合には、門脈120や静脈130の手前側に位置する肝臓実質110を透かして透明に表示させるように、肝臓実質110の表面形状モデルに対して門脈120や静脈130よりも低い不透明度が設定される。
【0051】
また、シェーディング手段14bにより、図7に示す視点5から、3次元空間Kの空間座標点を構成する各ボクセルに向かう視線6を想定したときに、表面形状モデルにおける法線ベクトルの視線6方向成分の大きさに対応させて、色の濃度(白〜黒)が変調されて設定される。さらに、レンダリング手段14cにより、肝臓実質110、門脈120および静脈130の表面形状モデルの各々に対し、例えば互いを見分け易いように色付け(レンダリング)処理が行われる。
【0052】
〈5〉ボリュームレンダリング法により、表示対象物体としての肝臓100の2次元可視画像を生成する(2次元可視画像生成ステップ;図3のステップS5参照)。
【0053】
具体的には、このステップS5では、図7に示すように、各視線6と、投影用の2次元平面(可視化面)K(例えば、CCD等の撮像平面やディスプレイ等の画像平面)の各平面座標点を表す画素(ピクセル)とが、対応付けられている。そして、視線6上に位置する全ボクセル(表面形状モデル)の各々の色および不透明度を、αブレンディングルールに基づき視線6毎に積算し、この積算値を各視線6上に位置する2次元平面Kの画素にそれぞれ反映させることで、表示対象物体としての肝臓100の2次元可視画像が生成され、図3に示すフローは終了する。
【0054】
以上説明したように、本実施形態に係る医用画像生成装置1においては、内部構造に関する信号値を持たず表面形状に関する信号値のみを備えた表面形状モデルに対して、不透明度等を設定するように構成されている。そのため、例えば肝臓実質110を透明に表示させて、その内部または背後に位置する門脈120や静脈130の状態を観察する場合に、肝臓実質110の内部構造に関する信号値に含まれるノイズ成分の影響を排除し、門脈120や静脈130の手前側に位置する肝臓実質110を表示設定通りに透かして表示させることができるので、門脈120や静脈130の3次元表面形状を鮮明に表示させることが可能になる。図8に示すように、仮に肝臓実質110の背後に隠れるように腫瘍140が存在する場合であっても、肝臓実質110を透明に表示させることで、腫瘍140を鮮明に表示させることが可能である。
【0055】
また、本実施形態に係る医用画像生成装置1により生成された肝臓100の2次元可視画像は、マーチンキューブス法によって滑らかな面に生成された表面形状モデルを基にして生成される。そのため、2次元可視画像はノイズ成分の影響を受けにくく、例えば門脈120や静脈130の形状が複雑であっても2次元可視画像が極端に暗くなることがない。さらに、例えば肝臓実質110のように、視線6方向に奥行きの大きな物体の2次元可視画像を生成する場合であっても、ノイズ成分の影響を排除することで、門脈120のように視線6方向に奥行きの小さな物体の2次元可視画像を生成する場合と同様に、透かして表示させることが可能である。
【0056】
本発明に係る医用画像生成装置1により生成された肝臓100の2次元可視画像(図8参照)と、従来の医用画像生成装置により生成された肝臓500の2次元可視画像(図9参照)とは、シェーディングに関するパラメータを統一することで、比較参照しやすいように図示している。具体的には、図8および図9ではそれぞれ、物体に対して一様に光を与える環境光を0.0、物体の形状を考慮して影を与える拡散光を1.0、上記拡散光において考慮される反射光を計算するための鏡面光を0.0、物体を透かせて表示させるための不透明度を0.1に設定している。なお、環境光、拡散光、鏡面光および不透明度については、それぞれ0.0〜1.0の範囲で任意に設定可能である。
【0057】
上記シェーディングに関するパラメータのうちで、特に拡散光を高く設定するとノイズ成分の影響が顕著に現れやすい。そこで、図8と図9との間で、この拡散光の設定を統一することにより、表面形状モデルを基にして2次元可視画像を生成する本実施形態に係る医用画像生成装置1の効果が、分かりやすいように図示している。また、図8と図9とで不透明度の設定が異なる場合、2次元可視画像の明るさの違いが、ノイズ成分に起因するものなのか、または不透明度の差に起因するものなのかが分かりにくくなる虞がある。そこで、図8と図9との間で不透明度の設定を統一することで、ノイズ成分が2次元可視画像の明るさに与える影響を分かりやすく図示している。
【0058】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々に態様を変更することが可能である。
【0059】
上述の実施形態では、肝臓100の2次元可視画像を生成する場合を例示して説明しているが、本発明に係る医用画像生成装置1および医用画像生成プログラムを用いることで、他の表示対象物体、例えば心臓や肺等の2次元可視画像を生成することも可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 医用画像生成装置
5 視点
6 視線
10 演算処理装置
11 医用画像データ記憶手段
12 物体抽出手段(データ抽出手段)
13 表面形状モデル生成手段
14 表示設定手段
14a 不透明度設定手段
14b シェーディング手段
14c レンダリング手段
15 画像生成手段
20 入力装置
30 出力装置
51〜54 第1頂点〜第4頂点
61〜64 第1頂点〜第4頂点
65 第1辺
65a 交差位置
67 第3辺
67a 交差位置
71〜74 第1頂点〜第4頂点
75 第1辺
75a 交差位置
78 第4辺
78a 交差位置
100 肝臓(被観察体)
110 肝臓実質
120 門脈
130 静脈
140 腫瘍
MS マスク領域表面
2次元平面
3次元空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被観察体を含む観察領域を画像診断装置により撮影して取得された医用画像データに基づき、所望の観察用画像を生成する医用画像生成装置であって、
前記医用画像データの信号値を基にして、取得された前記医用画像データの中から、前記被観察体を示す閉曲領域に対応する被観察体画像データ群を抽出するデータ抽出手段と、
前記被観察体画像データ群の信号値を基にして、前記閉曲領域の表面形状モデルを生成する表面形状モデル生成手段と、
前記表面形状モデルに所定の不透明度を設定することで、前記所望の観察用画像を生成する不透明度設定手段と、を備えたことを特徴とする医用画像生成装置。
【請求項2】
前記表面形状モデル生成手段は、
前記被観察体画像データ群の信号値を、前記閉曲領域を構成する複数の領域構成空間の頂点にそれぞれ対応付け、前記領域構成空間の1辺の両端に対応付けられた前記被観察体画像データ群の信号値と、前記1辺の両端の各々に対応して予め設定された所定の閾値とを比較することで、前記1辺の各々について前記表面形状モデルとの交差位置を特定し、特定された前記交差位置同士を繋ぐことで前記表面形状モデルを生成することを特徴とする請求項1記載の医用画像生成装置。
【請求項3】
前記表面形状モデル生成手段が、マーチンキューブス法を用いたものであることを特徴とする請求項1または2記載の医用画像生成装置。
【請求項4】
前記表面形状モデルに対して、シェーディング処理およびレンダリング処理の少なくともいずれかを施すことが可能な表示設定手段を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の医用画像生成装置。
【請求項5】
被観察体を含む観察領域を画像診断装置により撮影して取得された医用画像データに基づき、所望の観察用画像を生成する処理を、コンピュータにおいて実行せしめる医用画像生成プログラムであって、
前記医用画像データの信号値を基にして、取得された前記医用画像データの中から、前記被観察体を示す閉曲領域に対応する被観察体画像データ群を抽出するデータ抽出ステップと、
前記被観察体画像データ群の信号値を基にして、前記閉曲領域の表面形状モデルを生成する表面形状モデル生成ステップと、
前記表面形状モデルに所定の不透明度を設定することで、前記所望の観察用画像を生成する不透明度設定ステップと、をコンピュータにおいて実行せしめることを特徴とする医用画像生成プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−22086(P2013−22086A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157112(P2011−157112)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(503313373)株式会社AZE (10)
【Fターム(参考)】