説明

医療システム

【課題】胎児等の治療を行う医療システムにおいて、治療前後の状態を超音波により確実に計測できるようにする。
【解決手段】内視鏡10の先端部には円環状に複数の振動子12が設けられている。各振動子12は斜め内向きの姿勢で設けられており、これにより複数の超音波ビームが治療点においてクロスする。それらの振動子12を用いて治療点における血流についての3次元血流速度ベクトルが演算される。先端部は観察窓14A及びレーザー光出射管も有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療システムに関し、特に、体腔内において内視下で治療対象組織の治療を行うためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
子宮内胎児治療として、例えば、双胎児間輸血症候群(Twin-to -twin transfusion syndrome)の治療があげられる。その場合、内視鏡を備えた治療器具が子宮内に挿入され、共通胎盤上における一卵性双胎児間にわたる吻合血管に対してレーザーが照射され、それによる凝固作用により血流が遮断される。その遮断によれば、双胎児間を流れる血流のアンバランスに起因する両児の血液循環不全を治療することが可能となる。その際に利用される治療器具は、内視鏡の他、鉗子孔に挿入された光ファイバを有する。具体的には、治療器具の先端部には内視鏡の観察窓、光ファイバの出射端が設けられている。下記特許文献1、2には体腔内において組織をレーザーにより治療する装置が開示されている。特許文献2には内視鏡装置、レーザー装置、超音波装置の組み合わせが記載されているが、血流の観測を行うものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−17847号公報
【特許文献2】特許3255652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような子宮内胎児治療において、レーザー光により血流の凝固、遮断を行った後、従来においては内視鏡観察によってその治療後の状態を観察しているが、そのような視覚的な観察では、血流の遮断が完全に行われたかのか否かを十分に確認することは困難である。すなわち、従来の子宮内胎児治療で用いられる治療器具、特に血管を治療対象とする装置においては、血管の治療結果を確実に確認することが困難である。この問題は胎児治療以外の体腔内治療においても同様に指摘できる問題である。
【0005】
本発明の目的は、体腔内における血管の治療に際して、血流状態を適切に観測可能なシステムを提供することにある。
【0006】
本発明の目的は、子宮内胎児治療において血管の凝固を行った後にその血管内に血流が流れていないことを確実に確認できるシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、体腔内に挿入される器具であって、治療用光照射部及び超音波計測部を備えた治療器具と、前記超音波計測部からの受信信号を処理する信号処理部と、を有し、前記超音波計測部は治療対象組織が存在する前方へ向けられる複数の振動子により構成され、前記信号処理部は、前記複数の振動子によって得られた複数の受信信号に基づいて複数の速度成分を演算する手段と、前記複数の速度成分に基づいて血流速度を演算する手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、治療器具には治療用光照射部の他に超音波計測部が設けられ、治療の前後あるいは治療中に超音波計測を行える。超音波計測部は互いに異なる位置に設けられた複数の振動子を有し、それらによって取得される複数の速度成分から血流速度が演算される。複数の振動子が設けられているので、仮に特定の振動子にて形成される超音波ビームが血流と直交してしまってドプラ情報の観測を行えない場合であっても他の振動子において確実にドプラ情報の観測を行えるという利点が得られる。すなわち、確実に血流を計測できる。複数の超音波ビーム方位において複数の速度成分を計測できるので、三次元血流速度ベクトルを演算することも可能である。この場合、単に流れの速さの情報だけではなく流れの向きまでを特定できるから、診断に有益な情報を提供できる。超音波計測を利用すれば光学的に見えない流れを観測できるから、例えば治療前の血流状態及び治療後の血流状態を容易かつ確実に診断できる。本発明は特に治療効果を確認する上で大切な情報を提供できるものである。
【0009】
望ましくは、前記複数の振動子が前記治療器具の先端面上に環状に配列される。望ましくは、前記各振動子が斜め内向きに設けられる。体内に挿入される器具は通常、硬質のあるいは軟質の棒状体として構成され、その先端は通常、円状の面となり、そこに複数の振動子がリング状に配列されるのが望ましい。振動子列の内部内側エリアには例えば光学的観察窓が設けられ、あるいはチャンネル開口(治療用光照射部材)が設けられる。このような構成によれば、各振動子間を隔てつつもスペースを有効活用できる。
【0010】
望ましくは、前記各振動子は前記先端面の前方に位置する所定の治療点を通過する超音波ビームを形成し、前記治療用光照射部は前記所定の治療点に向けて治療用の光を照射するものであり、前記先端面には更に前記所定の治療点を含む光学的視野を有する内視用観察窓が設けられる。所定の治療点は固定的に設定されてもよいし、それを可変できるように構成してもよい。通常、観察視野の中心線上における同じ位置に治療点かつビームクロス点が設定される。血流の観測に当たってはパルスドプラ法を利用するのが望ましい。もちろん、連読波ドプラ法の利用も考えられる。なお、エコー信号のレベルから流れの有無を観測することも考えられる。超音波計測は血流計測を目的とするが、更に断層画像、三次元画像を形成するための構成が採用されてもよい。望ましくは、前記治療器具は、前記子宮内に挿入される胎児治療器具である。
【0011】
本発明に係る器具は、胎児治療のための医療システムにおいて用いられる治療器具であって、内視用観察窓と、治療用光照射部と、超音波計測部とを備えた先端部を有し、前記超音波計測部は、治療対象組織が存在する前方へ向きつつ円環状に配列されたドプラ情報計測用振動子列を有し、前記振動子列を構成する各振動子は斜め内向きの姿勢を有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、体腔内における血管の治療に際して血流状態を適切に観測可能なシステムを提供できる。あるいは、子宮内胎児治療において血管の凝固を行った後にその血管内に血流が流れていないことを確実に確認できるシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る医療システムの好適な実施形態を示すブロック図である。
【図2】治療器具の先端の構造を説明するための断面図である。
【図3】三次元血流速度ベクトルの演算を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1には、本発明に係る治療システムの好適な実施形態が示されており、図1はその全体構成を示すブロック図である。本実施形態に示す治療システムは、内視システムと超音波システムとを複合化したシステムであり、特に双胎児間輸血症候群の治療に用いられるシステムである。具体的には胎盤上の吻合血管を遮断するためにそれに対してレーザーを照射し当該血管を凝固あるいは焼灼するものである。
【0016】
実施形態に係る医療システムは、大別して、システム本体と治療器具としての内視鏡10とを有している。内視鏡10は後に説明するように体内に挿入される棒状の器具であり、その先端部には、複数の振動子12、光学装置14、光ファイバ16等が備えられている。複数の振動子12はそれら全体としてリング状の振動子列を構成するものであり、各振動子12はそれぞれ超音波ビームを形成し、血流速度成分の観測を行う。具体的には超音波ドプラ法にしたがって、各振動子12により超音波パルスが前方へ送波され、前方からの反射波が同じく振動子12にて受波される。これにより各振動子12毎に受信信号が得られる。後に説明するように、各振動子12は、内向きでやや斜めの姿勢をもって設けられている。これは複数の超音波ビームを所定点においてクロスさせるためである。振動子間において音響的干渉が生じないように時分割方式又は周波数分割方式を採用するのが望ましい。
【0017】
光学装置14はいわゆる内視鏡としての機能を実現するためのものであり、具体的には、内視鏡10の先端部には観察窓が設けられている。光学装置14の前方視野の中心は治療部位に相当する。光学装置14は実質的にレンズにより構成されてもよいし、カメラ等の電気的な機器に相当していてもよい。本実施形態においては、先端部に光学装置14としてのレンズが設けられ、そこを通った像が内視鏡10の尾端部において目視観察されている。もちろん後に説明するようにそのような光学像を電気信号に変換するカメラ22を設けるようにしてもよい。光ファイバ16は内視鏡10が有するチャンネル(鉗子孔)に挿入される治療用の光照射手段として機能し、具体的には、先端部に設けられた開口から、光ファイバ16の先端部が前方に伸び、その状態においてレーザー光を照射することにより血管に対する凝固あるいは焼灼が実施される。光ファイバ16の尾端側に対してはレーザー装置24から光信号が与えられている。光ファイバ16による照射点と複数の振動子12による計測点とは一致しており、そのような所定の点は先端部との関係において固定されていてもよいし、可変可能であってもよい。光学装置14はそのような点を中心として広がる視野を備えるものである。
【0018】
次に、システム本体について説明する。複数の振動子12に対応して送受信部18が設けられている。送受信部18は送信部及び受信部として機能し、送信時において送信パルスを供給し、受信時において受信信号の処理を行うものである。送受信部18が送信ビームフォーマー及び受信ビームフォーマーとしての機能を備えていてもよい。すなわち電子的な制御により超音波ビームが形成されてもよい。本実施形態において各振動子12は単振動子で構成されており、その送受波面を内向きに設定することにより超音波ビームが当該面の法線方向に形成されている。
【0019】
血流ベクトル演算部20は、各受信信号に対して検波、周波数解析等の処理を実行するモジュールである。すなわち、それぞれの超音波ビーム毎に速度情報、具体的には超音波ビームに沿った速度成分を演算している。更に、血流ベクトル演算部20は、複数の速度情報に基づいて3次元血流速度ベクトルの演算を行っている。その演算結果は表示部26に表示される。このような演算によれば、治療前における血流の状態及び治療後における血流の状態を超音波計測結果として認識することが可能である。もちろん、治療中において超音波計測を継続するようにしてもよい。このようにすれば治療の状態をリアルタイムに観測できるという利点が得られる。
【0020】
本実施形態においては、後に説明するように円環状に振動子列が構成され、すなわち複数の点において超音波の送受波が行われているため、仮にいずれかの超音波ビームが血流に対して直交関係になったとしても、他の1又は複数の振動子において確実にドプラ情報の観測を行うことが可能である。通常、3つ以上の振動子を設ければ3次元速度ベクトルを求めることが可能であるが、本実施形態においては、後に説明するように6個以上、具体的には7個の振動子が設けられている。
【0021】
上述したように、光学装置14はレンズ及び導光部材等により構成され、導光部材の尾端側において中を覗き込むことにより光学的な観察を行える。光学像をカメラ22によって撮像し、その信号を表示部26へ与えるようにしてもよい。レーザー装置24は光ファイバ16に対して治療用レーザー光を与えるものであり、その出力あるいはパワーは制御部28によって制御されている。制御部28はCPU及び動作プログラムによって構成され、図1に示される各構成の動作制御を行っている。超音波計測と治療とを連動させるようにしてもよい。入力部30は制御部28によってユーザー設定された内容を伝達する手段である。
【0022】
次に、図2を用いて図1に示した内視鏡10の先端部の構造について説明する。(A)には内視鏡10における先端部32の縦断面が示されており、(B)には先端部の先端面が表されている。先端部32は、その中心軸上に光学装置14を備えており、その光学装置14はレンズ32を備えている。レンズ32から見て左側は導光路である。レンズ32の先端面は観察窓14Aに相当している。観察窓14Aの周囲には複数の振動子12、具体的には7個の振動子12が設けられている。内視鏡10においてはチャンネル38が形成され、このチャンネル38はいわゆる鉗子孔である。本実施形態においてはそのチャンネル38内に光ファイバ16が挿通されており、その先端面38Aからレーザー光が出射される。光ファイバ16は前後方向に移動可能なものであり、必要に応じて治療時にその先端面38Aが患部側へ導かれる。もちろん固定的に光ファイバ16を配設するようにしてもよい。各振動子12には信号線36が接続されている。
【0023】
図2に示されるように、各振動子12はそれぞれの超音波ビームが所定点においてクロスするように斜め内向きで設けられている。すなわち、その法線が観察窓14Aの前方所定距離においてクロスするように斜めに設けられている。本実施形態のおいては、(B)に示されるように、円環状の振動子列の一部において振動子が取り除かれており、そこにチャンネル38の開口部が位置している。このような構成によれば先端面のスペース利用効率を引き上げることが可能である。 ,
【0024】
図3には三次元血流速度ベクトルVの演算方法が概念的に示されている。上述したようにリング状に7つの振動子が設けられ、その内で図3においては5つの振動子がA〜Eで表されている。他の振動子の位置については図示省略されている。各振動子の位置から伸びる破線は超音波ビームの中心線を表している。それは所定点Oにおいて相互にクロスしている。その所定点Oは治療部位である。図示されるように血管40上に治療点Oが設定されており、複数の超音波ビームを用いて血流ベクトルVの観測が行われる。治療点Oは同時にレーザービームの照射点であり、また観察窓が有する視野の中心点にも相当する。ここで符号42は三次元血流速度ベクトルの向きを表している。また符号42a,42bはそれぞれ点Aの位置で観測される速度成分及び点Bの位置で観測される速度成分を模式的に表している。本実施形態においては、7つの振動子により7つの速度成分Va,Vb,Vc,Vd,Ve,Vf,Vgが計測されており、それらのベクトル合成結果として3次元血流速度ベクトルVが演算されている。
【0025】
このような構成によれば、いずれかの超音波ビームが血流と直交したとしても、他の超音波ビームを用いて確実に速度成分を計測することが可能である。本実施形態おいては3次元血流速度ベクトルを演算したが、もちろんスカラー値として血流速度を求めてもよく、また単に治療の結果を確認するだけであれば、血流の流れの有無だけを観測するようにしてもよい。但し、3次元血流ベクトルを観測すれば、治療前後において実際の流れの様子を確実に認識することができるから治療を適切に行えるという利点がある。
【符号の説明】
【0026】
10 内視鏡、12 振動子、14 光学装置、16 光ファイバ、20 血流ベクトル演算部、24 レーザー装置、28 制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体腔内に挿入される器具であって、治療用光照射部及び超音波計測部を備えた治療器具と、
前記超音波計測部からの受信信号を処理する信号処理部と、
を有し、
前記超音波計測部は治療対象組織が存在する前方へ向けられる複数の振動子により構成され、
前記信号処理部は、
前記複数の振動子によって得られた複数の受信信号に基づいて複数の速度成分を演算する手段と、
前記複数の速度成分に基づいて血流速度を演算する手段と、
を有することを特徴とする医療システム。
【請求項2】
請求項1記載のシステムにおいて、
前記複数の振動子が前記治療器具の先端面上に環状に配列されたことを特徴とする医療システム。
【請求項3】
請求項2記載のシステムにおいて、
前記各振動子が斜め内向きに設けられたことを特徴とする医療システム。
【請求項4】
請求項3記載のシステムにおいて、
前記各振動子は前記先端面の前方に位置する所定の治療点を通過する超音波ビームを形成し、
前記治療用光照射部は前記所定の治療点に向けて治療用の光を照射するものであり、
前記先端面には更に前記所定の治療点を含む光学的視野を有する内視用観察窓が設けられた、ことを特徴とする医療システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシステムにおいて、
前記治療器具は、前記子宮内に挿入される胎児治療器具である、ことを特徴とする医療システム。
【請求項6】
胎児治療のための医療システムにおいて用いられる治療器具であって、
内視用観察窓と、治療用光照射部と、超音波計測部とを備えた先端部を有し、
前記超音波計測部は、治療対象組織が存在する前方へ向きつつ円環状に配列されたドプラ情報計測用振動子列を有し、
前記振動子列を構成する各振動子は斜め内向きの姿勢を有する、ことを特徴とする治療器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−194(P2012−194A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136451(P2010−136451)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【出願人】(510136312)独立行政法人国立成育医療研究センター (6)
【Fターム(参考)】