医療用シミュレーションシステム及びそのコンピュータプログラム
【課題】医師が疾患の病態を容易に把握できるようにする。
【解決手段】医療用シミュレーションシステムSSであって、生体の実際の生体応答を示す生体応答情報の入力を受け付ける生体応答入力部W1と、実際の生体応答を模した疑似応答を再現するための生体モデルを生成する生体モデル生成部と、生成された前記生体モデルに基づいて、当該生体の病態の特徴を示す病態特徴情報を取得する病態特徴取得部と、前記生体応答情報と前記病態特徴情報とを共に出力する出力部130と、を備えている。
【解決手段】医療用シミュレーションシステムSSであって、生体の実際の生体応答を示す生体応答情報の入力を受け付ける生体応答入力部W1と、実際の生体応答を模した疑似応答を再現するための生体モデルを生成する生体モデル生成部と、生成された前記生体モデルに基づいて、当該生体の病態の特徴を示す病態特徴情報を取得する病態特徴取得部と、前記生体応答情報と前記病態特徴情報とを共に出力する出力部130と、を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病などの診療支援に用いられる医療用シミュレーションシステム及びそのコンピュータプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
病気の治療に際しては、医師による問診に加え、患者に対して様々な検査が行われるのが一般的である。
そして、医師は、患者の検査結果や臨床所見などの判断材料に基づいて、自己の経験と勘を頼りに、治療方法を選択しているというのが現状である。
【0003】
したがって、診療に役立つ情報がコンピュータによって提供されれば、医師による診療が、より的確に行われることを期待できる。
診療を支援するシステムとしては、特許文献1及び特許文献2に記載されているように、血糖値を予測するシステムがある。
これらのシステムは、患者の血糖値の変化を予測して、予測血糖値を医師に提供することにより、診療を支援するものである。
【0004】
【特許文献1】特開平10−332704号公報
【特許文献2】特開平11−296598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
適切な治療方法を選択する際には、医師が、病気の各種症状の原因を構成する要因を適切に把握することが望まれる。要因を適切に把握できれば、その要因を改善する治療を行うことで、より適切な治療が期待できる。
しかし、医師が、要因を把握するために用いることができるデータは、患者を検査して得られる検査値ぐらいである。
検査値だけでも、医師が要因を把握できる疾患であればよいが、疾患によっては、検査値からだけでは、要因を適切に把握することが著しく困難な場合がある。
【0006】
例えば、糖尿病の場合、その病気の程度を示す指標として「血糖値」が用いられる。しかし、「血糖値」は、あくまでも結果にすぎず、この結果をもたらしたインスリン分泌不全、末梢インスリン抵抗性、肝糖取込低下、肝糖放出亢進といった病態を、前記臨床所見等から的確に把握するのは容易ではない。
【0007】
したがって、特許文献1及び2のような血糖値の予測値が医師に提供されるだけでは、患者の病態を的確に判断するのは依然として困難である。
また、例えば、糖尿病や心臓疾患等にあっては、通常、経口糖負荷試験や心電図、血圧、脈拍の測定、血液検査等の検査結果を用いて専門医が患者の病態を判断することになるが、前記検査結果から正確に病態を判断するには、豊富な経験を必要とし、非専門医には困難である。
そこで、検査結果から正確に病態を判断することができるように、経験の浅い医師や非専門医を教育する効果のあるシステムも要望されている。
【0008】
そこで、本発明は、医師に対し、病態の適切な判断材料となる情報を提供することを目的する。
また、本発明の他の目的は、経験の浅い非専門医等の教育に使用できるシステム等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、医療用シミュレーションシステムであって、生体の生体応答を示す生体応答情報の入力を受け付ける生体応答入力部と、生体応答を模した疑似応答を再現するための生体モデルを生成する生体モデル生成部と、生成された前記生体モデルに基づいて、当該生体の病態の特徴を示す病態特徴情報を取得する病態特徴取得部と、前記生体応答情報と前記病態特徴情報とを共に出力する出力部と、を備えている。
【0010】
上記本発明によれば、生体の検査結果(例えば、糖尿病であればOGTT検査結果)などの生体応答が入力されると、その生体応答を模した疑似応答を再現する生体モデルが生成される。この生体モデルは、生体の状態を示しているため、この生体モデルに基づいて、病態の特徴を示す情報を取得することができる。なお、前記生体応答には、経口糖負荷試験、心電図、血圧測定結果、脈拍の測定結果、血液検査結果等の生体の検査結果が含まれ、実際に生体から測定可能な情報であれば足りる。
そして、本発明では、入力された生体応答情報と病態特徴情報とが共に出力されるため、出力された病態特徴情報に基づいて、医師が病態を判断することができる。
【0011】
しかも、病態特徴情報は、生体応答情報と共に出力されるため、医師は両者を対応付けて確認することができる。すなわち、「結果」としての生体応答情報と、その結果を生じる「原因」である病態特徴情報とを対応付けて把握することができる。この結果、疾患に関する「結果」と「原因」をともに把握でき、本システムを用いて経験を積み重ね、又は診断トレーニングを行うことで、診療のための学習効果が生じる。
【0012】
前記出力部は、前記生体応答情報として、生体応答の時間的変化を示すグラフを出力するよう構成されているのが好ましい。
また、前記出力部は、前記病態特徴情報として、病態の特徴に関連した複数の指標を持つレーダーチャートを出力するよう構成されているのが好ましい。
上記情報は、単に数値出力してもよいが、これらの情報を上記のように出力することで、これらの情報を医師が視覚的に確認することができ、医師は、検査結果又は病態の特徴を容易に把握することができる。
【0013】
前記病態特徴情報の入力を受け付ける病態特徴入力部を更に備え、入力された病態特徴が反映された生体モデルを生成して、当該生体モデルに基づく疑似応答情報を取得する疑似応答取得部を備えているのが好ましい。
【0014】
病態特徴入力部を備えていることで、システムによって取得される病態特徴情報以外の病態特徴情報をシステムに入力することができる。
そして、疑似応答取得部では、入力された病態特徴が反映された生体モデルに基づく疑似応答が得られる。
したがって、医師等が、任意の病態特徴情報を入力すれば、その病態特徴情報に対応する疑似応答情報(応答情報が検査結果であれば、疑似検査結果)を確認することができ、病態と生体応答(検査結果等)との対応を効率的に学習することができる。
【0015】
他の観点から見た本発明は、医療用シミュレーションシステムであって、生体の病態の特徴を示す病態特徴情報の入力を受け付ける病態特徴入力部と、入力された病態特徴が反映された生体モデルを生成して、当該生体モデルに基づく疑似応答情報を取得する疑似応答取得部と、前記病態特徴情報と前記疑似応答情報とを共に出力する出力部と、を備えていることを特徴とする。
【0016】
上記本発明においても、医師等が、任意の病態特徴情報を入力すれば、その病態特徴情報に対応する疑似応答情報(応答情報が検査結果であれば、疑似検査結果)を確認することができ、病態と生体応答(検査結果等)との対応を効率的に学習することができる。
【0017】
上記各発明において、前記生体モデルは、生体の機能に関する複数のパラメータを含む数理モデルによって構成されており、前記病態特徴取得部は、前記生体モデルの前記パラメータに基づいて病態特徴情報を取得するものであるのが好ましい。この場合、数理モデルによって生体を模したモデルが構成されているため、そのモデルのパラメータを変えることで、様々な病態を再現することができる。
【0018】
なお、上記システムは、コンピュータを医療用シミュレーションシステムとして機能させるためのコンピュータプログラムを、コンピュータによって実行することによって実現される。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るシステム及びコンピュータプログラムによれば、患者の検査結果等の生体応答情報とともに、病態特徴情報が出力されるため、病態特徴情報に基づいて医師が病態を容易に判断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の医療用シミュレーションシステム(以下、単にシステムともいう)の実施の形態を詳細に説明する。
[システム全体構成]
図1は、医療用シミュレーションシステムSSを、サーバ−クライアントシステムとして構成した場合のシステム構成図を示している。
【0021】
このシステムSSは、WebサーバS1の機能を含むサーバSと、サーバSにネットワークを介して接続されたクライアント端末Cと、によって構成されている。クライアント端末Cは、医師等のユーザによって使用される。
前記クライアント端末Cは、WebブラウザC1を備えている。このWebブラウザC1は、システムSSのユーザインターフェースとして機能し、ユーザは、WebブラウザC1上で、入力、必要な操作を行うことができる。また、WebブラウザC1には、サーバSで生成されて送信された画面が出力される。
【0022】
サーバSは、クライアント端末CのWebブラウザC1からのアクセスを受け付けるWebサーバS1の機能を備えている。
また、サーバSには、WebブラウザC1で表示されるユーザインターフェース画面を生成するユーザインターフェイスプログラムS2がコンピュータ実行可能に搭載されている。このユーザインターフェイスプログラムS2は、WebブラウザC1に表示される画面を生成してクライアント端末Cに送信したり、WebブラウザC1上で入力された情報をクライアント端末Cから受け付ける機能を有している。
なお、クライアント端末Cは、サーバSから、WebブラウザC1に表示される画面の一部又は全部を生成する機能を実現するためのjava(登録商標)アプレット等のプログラムをダウンロードして、画面の一部又は全部を生成し、WebブラウザC1に画面を表示してもよい。
【0023】
さらに、サーバSは、病態シミュレータプログラムS3がコンピュータ実行可能に搭載されている。この病態シミュレータプログラムS3は、後述のように生体モデルに基づいて疾患に関するシミュレーションを行うためのものである。
また、サーバSには、患者の検査結果等の各種データを有するデータベースS4が設けられており、システムSSに入力されたデータやシステムで生成されたデータその他のデータは、このデータベースS4に保存されている。
【0024】
上記のように、サーバSは、Webサーバとしての機能、インタフェース(画面)生成機能、病態シミュレータとしての機能を有している。
なお、図1では、医療用シミュレーションシステムの構成例として、ネットワーク接続されたサーバ−クライアントシステムを示しているが、本システムを、1つのコンピュータ上で構成してもよい。
【0025】
図2は、前記サーバSのハードウェア構成を示すブロック図である。前記サーバSは、本体S110と、ディスプレイS120と、入力デバイスS130とから主として構成されたコンピュータによって構成されている。本体S110は、CPUS 110aと、ROM S110bと、RAM S110cと、ハードディスクS110dと、読出装置S110eと、入出力インタフェースS110fと、画像出力インタフェースS110hとから主として構成されており、CPU S110a、ROM S110b、RAM S110c、ハードディスクS110d、読出装置S110e、入出力インタフェースS110f、及び画像出力インタフェースS110hは、バスS110iによってデータ通信可能に接続されている。
【0026】
CPUS110aは、ROMS110bに記憶されているコンピュータプログラム及びRAMS110cにロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。そして、前記プログラムS2,S3などのアプリケーションプログラム140aを当該CPU110aが実行することにより、後述するような各機能ブロックが実現され、コンピュータがシステムSSとして機能する。
ROM S110bは、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROM等によって構成されており、CPUS110aに実行されるコンピュータプログラムおよびこれに用いるデータ等が記録されている。
【0027】
RAM S110cは、SRAM又はDRAM等によって構成されている。RAM S110cは、ROM S110b及びハードディスクS110dに記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU S110aの作業領域として利用される。
ハードディスクS110dは、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラム等、CPU S110aに実行させるための種々のコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。プログラムS2,S3も、このハードディスクS110dにインストールされている。
【0028】
読出装置110Seは、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、又はDVD−ROMドライブ等によって構成されており、可搬型記録媒体S140に記録されたコンピュータプログラム又はデータを読み出すことができる。また、可搬型記録媒体S140には、コンピュータを本発明のシステムとして機能させるためのアプリケーションプログラムS140a(S2,S3)が格納されており、コンピュータが当該可搬型記録媒体S140から本発明に係るアプリケーションプログラムS140aを読み出し、当該アプリケーションプログラムS140aをハードディスクS110dにインストールすることが可能である。
【0029】
なお、前記アプリケーションプログラムS140aは、可搬型記録媒体S140によって提供されるのみならず、電気通信回線(有線、無線を問わない)によってコンピュータと通信可能に接続された外部の機器から前記電気通信回線を通じて提供することも可能である。例えば、前記アプリケーションプログラムがインターネット上のアプリケーションプログラム提供サーバコンピュータのハードディスク内に格納されており、このサーバコンピュータにアクセスして、当該コンピュータプログラムをダウンロードし、これをハードディスクS110dにインストールすることも可能である。
また、ハードディスクS110dには、例えば米マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)等のグラフィカルユーザインタフェース環境を提供するオペレーティングシステムがインストールされている。以下の説明においては、本実施形態に係るアプリケーションプログラムS140a(S2,S3)は当該オペレーティングシステム上で動作するものとしている。
【0030】
入出力インタフェースS110fは、例えばUSB、IEEE1394、RS−232C等のシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284等のパラレルインタフェース、およびD/A変換器、A/D変換器等からなるアナログインタフェース等から構成されている。入出力インタフェースS110fには、キーボードおよびマウスからなる入力デバイスS130が接続されており、ユーザが当該入力デバイスS130を使用することにより、コンピュータにデータを入力することが可能である。
画像出力インタフェースS110hは、LCDまたはCRT等で構成されたディスプレイS120に接続されており、CPUS110aから与えられた画像データに応じた映像信号をディスプレイS120に出力するようになっている。ディスプレイS120は、入力された映像信号にしたがって、画像(画面)を表示する。
【0031】
なお、前記クライアント端末Cのハードウェア構成も、前記サーバSのハードウェア構成と略同様である。
【0032】
[シミュレーションシステムにおける生体モデル]
図3は、本発明システムSSの病態シミュレータプログラムS3で用い生体モデルの一例の全体構成を示すブロック図である。この生体モデルは、特に、糖尿病に関連した生体器官を模したものであり、膵臓ブロック1、肝臓ブロック2、インスリン動態ブロック3及び末梢組織ブロック4から構成されている。
【0033】
各ブロック1,2,3,4は、それぞれ入力と出力を有している。すなわち、膵臓ブロック1は、血中グルコース濃度6を入力とし、インスリン分泌速度7を出力としている。
肝臓ブロック2は、消化管からのグルコース吸収5、血中グルコース濃度6及びインスリン分泌速度7を入力とし、正味グルコース放出8及び肝臓通過後インスリン9を出力としている。
また、インスリン動態ブロック3は、肝臓通過後インスリン9を入力とし、末梢組織でのインスリン濃度10を出力としている。
さらに、末梢組織ブロック4は、正味グルコース放出8及び末梢組織でのインスリン濃度10を入力とし、血中グルコース濃度6を出力としている。
【0034】
グルコース吸収5は、生体モデル外部から与えられるデータである。本実施形態において、グルコース吸収に関するデータは、入力する検査データ(生体応答)の種類に応じて、あらかじめ定められた値を記憶させておく。
また、それぞれの機能ブロック1〜4は、シミュレータプログラムがサーバ2のCPUによって実行されることにより実現される。
【0035】
つぎに、前述した例における各ブロックの詳細について説明する。なお、FGB及びWsはそれぞれ空腹時血糖値(FGB=BG(0))及び想定体重を示しており、またDVg及びDViはそれぞれグルコースに対する分布容量体積及びインスリンに対する分布容量体積を示している。
【0036】
[生体モデルの膵臓ブロック]
膵臓ブロック1の入出力の関係は、以下の微分方程式(1)を用いて記述することができる。また、微分方程式(1)と等価な、図4に示されるブロック線図を用いて表現することもできる。
微分方程式(1):
dY/dt = −α{Y(t)−β(BG(t)−h)}
(ただし、BG(t)> h)
= −αY(t) (ただし、BG(t)<=h)
dX/dt = −M・X(t)+Y(t)
SR(t) = M・X(t)
変数:
BG(t):血糖値
X(t) :膵臓から分泌可能なインスリン総量
Y(t) :グルコース刺激に対しX(t)に新たに供給されるインスリン供給速度
SR(t):膵臓からのインスリン分泌速度
パラメータ:
h :インスリン供給を刺激できるグルコース濃度のしきい値
α :グルコース刺激に対する追従性
β :グルコース刺激に対する感受性
M :単位濃度あたりの分泌速度
ここで、図3における膵臓ブロック1への入力である血糖値6はBG(t)と対応し、また出力であるインスリン分泌速度7はSR(t)と対応する。
【0037】
図4のブロック線図において、6は血糖値BG(t)、7は膵臓からのインスリン分泌速度SR(t)、12はインスリン供給を刺激できるグルコース濃度のしきい値h、13はグルコース刺激に対する感受性β、14はグルコース刺激に対する追従性α、15は積分要素、16はグルコース刺激に対して新たに供給されるインスリン供給速度Y(t)、17は積分要素、18は膵臓から分泌可能なインスリン総量X(t)、19は単位濃度当たりの分泌速度Mをそれぞれ示している。
【0038】
[生体モデルの肝臓ブロック]
肝臓ブロック2の入出力の関係は、以下の微分方程式(2)を用いて記述することができる。また、微分方程式(2)と等価な、図5に示されるブロック線図を用いて表現することもできる。
微分方程式(2):
dI4(t)/dt = α2{−A3I4(t) + (1−A7)・SR(t) }
Goff(FGB) = f1 (ただし FGB<f3)
= f1 + f2・(FGB−f3)
(ただしFGB>=f3)
Func1(FGB)= f4 − f5・(FGB−f6)
Func2(FGB)=f7/FGB
b1(I4(t))= f8{1 + f9・I4(t)}
HGU(t) =r・Func1(FGB)・b1(I4(t))・RG(t)+ (1−r)・Kh・BG(t)・I4(t) (ただしHGU(t)>=0)
HGP(t) = I4off・Func2(FGB)・b2+Goff(FGB)−I4(t)・Func2(FGB)・b2 (ただしHGP(t)>= 0)
SGO(t) =RG(t)+ HGP(t)−HGU(t)
SRpost(t) = A7SR(t)
変数:
BG(t):血糖値(血液単位体積あたりのグルコース濃度)
SR(t):膵臓からのインスリン分泌速度
SRpost(t):肝臓通過後のインスリン
RG(t) :消化管からのグルコース吸収
HGP(t) :肝糖放出
HGU(t) :肝糖取込
SGO(t) :肝臓からの正味グルコース
I4(t) :肝インスリン濃度
パラメータ:
Kh :単位インスリン、単位グルコース当たりの肝臓でのインスリン依存グルコース取り込み速度
A7 :肝臓でのインスリン取り込み率
Goff :基礎代謝に対するグルコース放出速度
b2 :肝糖放出抑制率に関する調整項
r :インスリン非依存性肝糖取り込みへの分配率
α2 :インスリン刺激に対する追従性
I4off :肝糖放出が抑制されるインスリン濃度のしきい値
関数:
Goff(FGB): 基礎代謝に対するグルコース放出速度
Func1(FGB): 消化管からのグルコース刺激に対する肝糖取り込み率
Func2(FGB): インスリン刺激に対する肝糖放出抑制率
f1〜f9 : 上記の3要素の表現にあたって用いた定数
b1(I4(t)): 肝糖取り込み率に関する調整項
ここで、図3における肝臓ブロックへの入力である、消化管からのグルコース吸収5はRG(t)、血糖値6はBG(t)、インスリン分泌速度7はSR(t)とそれぞれ対応し、また出力である正味グルコース放出8はSGO(t)、肝臓通過後インスリン9はSRpost(t)とそれぞれ対応している。
【0039】
図5のブロック線図において、5は消化管からのグルコース吸収RG(t)、6は血糖値BG(t)、7は膵臓からのインスリン分泌速度SR(t)、8は肝臓からの正味グルコースSGO(t)、9は肝臓通過後のインスリンSRpost(t)、24は肝臓のインスリン通過率(1−A7)、25はインスリン刺激に対する追従性α2、26は肝臓通過後のインスリン分配速度A3、27は積分要素、28は肝インスリン濃度I4(t)、9はインスリン依存性肝糖取り込み分配率(1−r)、30は単位インスリン、単位グルコース当たりの肝臓でのインスリン依存グルコース取り込み速度Kh、31はインスリン非依存性肝糖取り込みへの分配率r、32は消化管からのグルコース刺激に対する肝糖取り込み率Func1(FGB)、33は肝糖取り込み率に関する調整項b1(I4(t))、34は肝糖取込HGU(t)、35は肝糖放出が抑制されるインスリン濃度のしきい値I4off、36はインスリン刺激に対する肝糖放出抑制率Func2(FGB)、37は肝糖放出抑制率に関する調整項b2、38は基礎代謝に対するグルコース放出速度、39は肝糖放出HGP(t)、40は肝臓でのインスリン取り込み率A7を示している。
【0040】
[生体モデルのインスリン動態ブロック]
インスリン動態分泌の入出力の関係は、以下の微分方程式(3)を用いて記述することができる。また、微分方程式(3)と等価な、図6に示されるブロック線図を用いて表現することもできる。
微分方程式(3):
dI1(t)/dt = −A3I1(t)+A5I2(t)+A4I3(t)+SRpost(t)
dI2(t)/dt= A6I1(t)− A5I2(t)
dI3(t)/dt=A2I1(t) − A1I3(t)
変数:
SRpost(t):肝臓通過後のインスリン
I1(t) :血中インスリン濃度
I2(t) :インスリン非依存組織でのインスリン濃度
I3(t) :末梢組織でのインスリン濃度
パラメータ:
A1 :末梢組織でのインスリン消失速度
A2 :末梢組織へのインスリン分配率
A3 :肝臓通過後のインスリン分配速度
A4 :末梢組織通過後のインスリン流出速度
A5 :インスリン非依存組織でのインスリン消失速度
A6 :インスリン非依存組織へのインスリン分配率
ここで、図3におけるインスリン動態ブロックの入力である肝臓通過後のインスリン9は、SRpost(t)と対応し、また出力である末梢組織でのインスリン濃度10は、I3(t)と対応する。
【0041】
図6のブロック線図において、9は肝臓通過後のインスリンSRpost(t)、10は末梢組織でのインスリン濃度I3(t)、50は積分要素、51は肝臓通過後のインスリン分配速度A3、52は血中インスリン濃度I1(t)、53は末梢組織へのインスリン分配率A2、54は積分要素、55は末梢組織でのインスリン消失速度A1、56は末梢組織通過後のインスリン流出速度A4、57はインスリン非依存組織へのインスリン分配率A6、58は積分要素、59はインスリン非依存組織でのインスリン濃度I2(t)、60はインスリン非依存組織でのインスリン消失速度A5をそれぞれ示している。
【0042】
[生体モデルの末梢組織ブロック]
末梢組織ブロック4の入出力の関係は、以下の微分方程式(4)を用いて記述することができる。また、微分方程式(4)と等価な、図7に示されるブロック線図を用いて表現することもできる。
微分方程式(4):
dBG´/dt=SGO(t)−u* Goff(FGB)−Kb(BG´(t)−FBG´)−Kp・I3(t)・BG´(t)
変数:
BG´(t) :血糖値(単位体重あたりのグルコース濃度)
(ただしBG[mg/dl]、BG´[mg/kg])
SGO(t) :肝臓からの正味グルコース
I3(t) :末梢組織でのインスリン濃度
FBG´ :空腹時血糖(ただしFBG´=BG´(0))
パラメータ:
Kb :末梢組織でのインスリン非依存グルコース消費速度
Kp :単位インスリン、単位グルコースあたりの
末梢組織でのインスリン依存グルコース消費速度
u :基礎代謝に対するグルコース放出速度のうち
基礎代謝に対するインスリン非依存グルコース消費が占める割合
関数:
Goff(FGB):基礎代謝に対するグルコース放出速度
f1〜f3 :Goffの表現にあたって用いた定数
ここで、図3における末梢組織ブロックへの入力である末梢組織でのインスリン濃度10はI3(t)、肝臓からの正味グルコース8はSGO(t)とそれぞれ対応し、また出力である血糖値6はBG(t)と対応する。
【0043】
図7のブロック線図において、6は血糖値BG(t)、8は肝臓からの正味グルコースSGO(t)、10は末梢組織でのインスリン濃度I3(t)、70は基礎代謝に対するインスリン非依存グルコース消費速度u* Goff(FGB)、71は積分要素、72は末梢組織でのインスリン非依存グルコース消費速度Kb、73は単位インスリン、単位グルコース当たりの末梢組織でのインスリン依存グルコース消費速度Kp、74は単位変換定数Ws/DVgをそれぞれ示している。
【0044】
図3に示されるように、本システムを構成するブロック間の入力、出力は、相互に接続されているため、消化管からのグルコース吸収5を与えることで、血糖値、インスリン濃度の時系列変化を、数式に基づいて計算し、シミュレートすることができる。
【0045】
本システムの微分方程式の計算には、例えばE−Cell(慶應義塾大学公開ソフトウェア)やMatLab(マスワークス社製品)を用いることができるが、他の計算システムを用いてもよい。
【0046】
[生体モデル生成部]
図3〜図7に示す上述の生体モデルによって、個々の患者の生体器官をシミュレートするには、個々の患者に応じた特性を有する生体モデルを生成する必要がある。具体的には、生体モデルのパラメータと変数の初期値とを、個々の患者に応じて決定し、決定されたパラメータ及び初期値を生体モデルに適用して、個々の患者に対応した生体モデルを生成する必要がある(なお、以下では、特に区別しなければ、変数の初期値も生成対象のパラメータに含めるものとする)。
【0047】
このため、本システムSSのサーバ2は、生体モデル生成部としての機能を実現するため、生体モデルの内部パラメータの組である内部パラメータセット(以下、単に「パラメータセット」ということがある)を求め、求めたパラメータセットが適用された生体モデルを生成する機能を有している。なお、この機能は、病態シミュレータプログラムS3によって実現されている。
生体モデル生成部によって生成されたパラメータセットを前記生体モデルに与えることで、生体モデル演算部が、生体器官の機能のシミュレートを行って、実際の生体応答(検査結果)を模した疑似応答を出力することができる。
【0048】
[パラメータセット生成部]
以下、実際の患者(生体)の検査結果(生体応答)に基づき、その患者の生体器官を模した生体モデルを形成するためのパラメータセットを生成するパラメータセット生成部について説明する。
【0049】
[OGTT時系列データ入力:ステップS1−1]
図8は、システムSSのパラメータセット生成部が、生体モデルのパラメータセットを求める処理手順を示している。同図に示すように、パラメータを求めるには、まず、実際の検査結果(生体応答)としてのOGTT(Oral Glucose Tolerance Test;経口ブドウ糖負荷試験)時系列データの入力処理(ステップS1−1)が行われる。
OGTT時系列データは、生体モデルによってシミュレートしようとする患者に対して実際に行った検査であるOGTT(所定量のブドウ糖液を経口負荷して血糖値や血中インスリン濃度の時間的変化を測定)の結果であり、本システムは、クライアント端末3から、実際の生体応答(実際の検査値)として入力を受け付ける。ここでは、OGTT時系列データとして、OGTTグルコースデータ(血糖値変動データ)と、OGTTインスリン(血中インスリン濃度変動データ)の2つが入力される。
【0050】
図9は、入力されるOGTT時系列データとしての血糖値変動データ(図9(a))及び血中インスリン濃度変動データ(図9(b))の例を示している。
図9(a)の血糖値変動データは、図3〜図7に示す生体モデルにおける出力項目の一つである血糖値BG(t)の時間的変化に対応した実測データである。
また、図9(b)の血中インスリン濃度変動データは、図3〜図7に示す生体モデルにおける出力項目の一つである血中インスリン濃度I1(t)の時間的変化に対応した実測データである。
【0051】
[テンプレートマッチング:ステップS1−2]
次に、本システムSSは、入力されたOGTT時系列データと、テンプレートデータベースDB1のテンプレートとのマッチングを行う。なお、テンプレートデータベースDB1は、サーバSのデータベース24に含まれる1つのデータベースである。
テンプレートデータベースDB1は、図10に示すように、テンプレートとなる生体モデルの参照用出力値T1,T2,・・と、当該参照用出力値を発生させるパラメータセットPS#01,PS#02・・とが対応付けられた複数組のデータが予め格納されたものである。参照用出力値とパラメータセットの組を作成するには、任意の参照用出力値に対して、適当なパラメータセットを割り当てたり、逆に任意のパラメータセットを選択した場合の生体モデルの出力を生体シミュレーションシステムで求めたりすればよい。
【0052】
図11は、テンプレート(参照用出力値)T1の例を示している。図11(a)は、テンプレートとしての血糖値変動データであり、図3〜図7に示す生体モデルにおける出力項目の一つである血糖値BG(t)の時間的変化に対応した参照用時系列データである。図11(b)は、テンプレートとしての血中インスリン濃度変動データであり、図3〜図7に示す生体モデルにおける出力項目の一つである血中インスリン濃度I1(t)の時間的変化に対応した参照用時系列データである。
【0053】
システムSSは、上記テンプレートデータベースDB1の各参照用時系列データと、OGTT時系列データとの類似度を演算する。類似度は、誤差総和を求めることによって得られる。誤差総和は、次式によって得られる。
誤差総和=αΣ|BG(0)−BGt(0)|+βΣ|PI(0)−PIt(0)|
+αΣ|BG(1)−BGt(1)|+βΣ|PI(1)−PIt(1)|
+αΣ|BG(2)−BGt(2)|+βΣ|PI(2)−PIt(2)|
+・・・
=α{Σ|BG(t)−BGt(t)|}+β{Σ|PI(t)−PIt(t)|}
ここで、
BG:入力データの血糖値[mg/dl]
PI:入力データの血中インスリン濃度[μU/ml]
BGt:テンプレートの血糖値[mg/dl]
PIt:テンプレートの血中インスリン濃度[μU/ml]
t:時間[分]
また、α及びβは規格化に用いる係数であり、
α=1/Average{ΣBG(t)}
β=1/Average{ΣPI(t)}
定式のAverageはテンプレートデータベースDB1に格納された全テンプレートに対する平均値を指す。
【0054】
図12は、テンプレートT1に対するOGTT時系列データの誤差総和(規格化なし)を示しており、具体的には、図12(a)は、図9(a)の血糖値と図11(a)の血糖値との誤差を示しており、図12(b)は、図9(b)のインスリンと図11(b)のインスリンの誤差を示している。
図9の入力データ(10分間隔の0分から180分のデータ)と、図11のテンプレートT1についてみると、
Σ|BG(t)−BGt(t)|=29
Σ|PI(t)−PIt(t)|=20
となる。ここで、α=0.00035、β=0.00105とすると、
誤差総和=(0.00035×29)+(0.00105×20)
=0.03115
【0055】
上記のようにして、CPU100aは、テンプレートデータベースDB1中の各テンプレートについて誤差総和を求め、誤差総和(類似度)が最小となるテンプレート、すなわちOGTT時系列データに最も近似するテンプレートを決定する(ステップS1−2)。
【0056】
[パラメータセット獲得:ステップS1−4]
さらに、ステップS1−3では、システムSSは、ステップS1−2において決定されたテンプレートに対応するパラメータセットを、テンプレートデータベースDB1から獲得する。つまり、テンプレートT1に対応するパラメータセットPS#01が得られる(図10参照)。
下記表1は、このようにして得られたパラメータセットPS#01に含まれるパラメータ値の具体的数値例を示している。
【表1】
【0057】
なお、パラメータセット(生体モデル)を生成する方法は、上記のようなテンプレートマッチングに限られるものではない。例えば、パラメータセットを遺伝的アルゴリズムによって生成してもよい。つまり、パラメータセットの初期集団をランダムに発生させ、初期集団に含まれるパラメータセット(個体)に対して、選択・交叉・突然変異処理を行って、新たな子集団を生成するというように、パラメータセットの生成に遺伝的アルゴリズムを適用することができる。かかる遺伝的アルゴリズムを用いたパラメータセットの生成方法においては、生成されたパラメータセットのうち、入力された生体応答(検査結果)に近似した疑似応答を出力するパラメータセットを採用することができる。
このように、生体モデル生成部は、入力され生体応答を模した疑似応答を出力できる生体モデルを生成できるものであれば、その具体的生成方法は特に限定されない。
【0058】
[疑似応答取得部(生体モデル演算部)]
システムSSは、上記パラメータセットPS#01が、生体モデルに与えられると、その生体モデルに基づき演算を行い、入力されたOGTT時系列データを模した疑似応答情報(血糖値及びインスリン濃度の時系列変化)を出力する機能を有している(システムSSの疑似応答取得部(生体モデル演算部)としての機能)。
つまり、システムSSでは、生成された生体モデルに基づき、患者の生体器官のシミュレーションを行うことができる。なお、この機能は、病態シミュレータプログラムS3によって実現されている。
また、生成されたパラメータセットは、病態特徴情報を取得するためにも用いられるが、この点については、後述する。
【0059】
[ユーザインターフェース(入出力部)]
図13は、サーバSのユーザインターフェイスプログラムS2によって生成されるシステム操作画面を示している。この画面は、サーバS2からクライアントCに送信されて、当該クライアントCのWebブラウザC1上に表示される。医師等のユーザは、この画面上で、情報を入力したり、情報を閲覧することができる。
【0060】
図13の画面は、主に、操作部100、検査履歴表示部110、検査データ表示部120、病態解析結果表示部130、処方データ表示部140を備えている。
操作部100は、各種データを入力して登録するためのデータ入力部101と、登録したデータを修正する登録内容修正部102、診察終了操作を行う診察終了部103、ログアウトを行うログアウト部104を備えている。
【0061】
[データ入力部101]
前記データ入力部101は、基本検査結果(図13の検査データ表示部120に表示されている検査項目の検査結果)を登録するための「検査結果の登録」ボタン101a、患者への処方内容を登録するための「処方内容の登録」ボタン101b、OGTTの検査結果(生体応答)を登録するための「OGTTデータの登録」ボタン101c、病態解析を行ってその結果を登録するための「病態解析の登録」ボタン101dを備えている。
【0062】
[基本検査検入力101a]
「検査結果の登録」ボタン101aがクリックされると、検査結果の入力画面(図示省略)が表示され、図13の検査データ表示部120に表示されている基本検査項目について、それぞれ、検査結果を入力することができる。検査結果が入力されてデータベースS4に登録されると、検査履歴表示部110には、その登録日(診察日)とともに検査結果が登録されていることが「○」印で表示される。
【0063】
[処方内容入力101b]
「処方内容の登録」ボタン101bがクリックされると、その患者への処方内容の入力画面が表示され、入力した処方内容をデータベースS4に登録することができる。処方内容が入力されて登録されると、検査履歴表示部110には、その登録日(診察日)とともに処方内容が登録されていることが「○」印で表示される。
なお、処方内容の入力画面については、後述する。
【0064】
[OGTT入力(生体応答入力部)101c]
「OGTTデータの登録」ボタン101cがクリックされると、図14に示すように、OGTTデータ入力画面(ウィンドウ)W1が開いて表示される。
この画面W1には、検査時間の入力ボックス列W1aと、血糖値の入力ボックス列W1bと、インスリン濃度(IRI)の入力ボックス列W1cと、を備えており、実際の検査結果であるOGTTデータとして、血糖値及びインスリン濃度の時系列変化を入力することができる。
血糖値及びインスリン濃度の数値を入力した後、画面W1の登録ボタンW1Rをクリックすると、その内容は、データベースS4に登録される。
OGTTデータが登録されると、検査履歴表示部110には、その登録日(診察日)とともに、OGTTデータが登録されていることが「○」印で表示される。
なお、この画面W1で入力されたデータは、図9及び病態解析結果表示部130に示す血糖値及びインスリン濃度の時系列変化を示すグラフを描く際に、元となるデータである。
【0065】
[病態解析101d]
「病態解析の登録」ボタン101dは、がクリックされると、病態シミュレータプログラムS3によって、OGTTデータを用いてシミュレーションが行われ、病態の解析が実行されて、病態の特徴を示す病態特徴情報の取得が行われる。なお、取得された病態特徴情報は、OGTTデータと関連付けてデータベースS4に登録される。病態解析の詳細については、後述する。
【0066】
[検査履歴表示部110]
検査履歴表示部110では、診察日ごとに、(一般)検査、OGTT、処方の登録があるか否かを表示している。なお、登録がないところは「×」印で示されている。
この検査履歴表示部110は、検査データ表示部120及び処方データ表示部140の表示を切り替える表示切替操作部としても機能し、診察日の日付部分をクリックしたり、「○」印をクリックすることで、図13の画面の表示内容を、その日付や「○」印に対応した表示に切り替えることができる。
【0067】
[検査データ表示部120]
検査データ表示部120は、患者の基本検査結果又はOGTT結果を表示するためのものである。図13は、検査データ表示部120に、基本検査結果が表示されている状態を示しており、図15は、検査データ表示部120に、OGTT結果が表示されている状態を示している。
検査データ表示部120に基本検査結果が表示されている場合には、「OGTT結果を表示」ボタン121が表示され(図13参照)、OGTT結果が表示されている場合には、「基本検査結果を表示」ボタン122が表示される(図15参照)。これらのボタン121,122をクリックすることで、両結果の表示切替を行うことができる。
【0068】
[病態解析結果表示部(生体応答情報と病態特徴情報の出力部)130]
図15及び図16に示すように、病態解析結果表示部130は、検査データ表示部120に、OGTT検査結果が表示されているときに、そのOGTT検査結果(生体応答)に対応したグラフ表示131と、そのOGTT検査結果に基づいて解析された病態特徴情報のレーダーチャート表示132とを行うためのものである。また、病態解析結果表示部130には、病態解説文を表示する病態解説部133も設けられている(図18参照)。
【0069】
グラフ131には、実際のOGTT検査結果における血糖値の時系列変化131aと、実際のOGTT検査結果におけるインスリン濃度の時系列変化131bとが表示されている。
なお、図15では、OGTT検査結果は入力されているが、病態解析が未解析である状態を示している。したがって、OGTT結果のグラフ131は表示されているが、病態特徴情報のレーダーチャートは非表示である。
【0070】
[病態シミュレーション解析(病態特徴取得と疑似応答取得)]
図15及び図16に示すように、OGTT検査結果が画面に表示された状態で、「病態解析の登録」ボタン101dをクリックすると、シミュレーションが実行され、病態解析(病態特徴情報の取得)と、OGTT検査結果の再現値(疑似応答の取得)とが行われる。なお、図17は、解析中の画面表示を示している。
【0071】
シミュレーションにおいては、実際のOGTT検査結果(生体応答情報)を模した再現値(疑似応答情報)を出力できる生体モデルを構成するパラメータセットが演算により求められる。そして、システムSSは、そのパラメータセットが適用された生体モデルの出力値として、OGTT検査結果の再現値(疑似応答情報)を求める(システムSSの疑似応答取得機能)。
図18に示すように、OGTTの再現値(血糖再現値131c及び再現IRI131d)は、病態解析結果表示部130のグラフ表示131において、実際のOGTT検査結果(検査血糖値131a及び検査IRI131b)とともに表示される。
【0072】
医師等のユーザは、このグラフ表示131における実検査結果(生体応答情報)及びシミュレータによる再現値(疑似応答情報)の双方を見比べることで、両値が近似し、シミュレータの生体モデルが、実際の患者の生体器官を的確に模倣しているものであるか否かを確認することができる。なお、図18のグラフ表示131によれば、実検査結果と再現値は良く近似しており、シミュレータで生成された生体モデルが適切なものであることがわかる。
【0073】
[病態特徴取得部]
また、システムSSは、生成された生体モデル(のパラメータセット)に基づいて、患者の病態の特徴を示す病態特徴情報を求める(システムSSの病態特徴情報取得機能)。
図18に示すように、本実施形態では、病態特徴の指標として、空腹時血糖132a、基礎分泌132b、追加分泌132c、分泌感度132d、肝糖新生抑制132e、糖処理能132f、処理感度132gが採用されている。
これらの指標は、病態の特徴を良く表しているものとして採用されており、特に、治療によって改善可能な生体機能が採用されている。
【0074】
ここで、空腹時血糖132aは、生体モデルの変数である血糖値BG(t=0)から算出される。基礎分泌132bは、生体モデルの変数である空腹時インスリンI1(t=0)から算出される。追加分泌は、I1(t) の積分値から算出される。分泌感度132dは、生体モデルのパラメータであるグルコース刺激に対する感受性βから算出される。肝糖新生抑制132eは、生体モデルの変数である肝糖放出HGTP(t)から算出される。糖処理能132fは、生体モデルの変数である肝臓からの正味グルコースSGO(t)及び血糖値BG(t)から算出される。処理感度132gは、生体モデルのパラメータである単位インスリン、単位グルコースあたりの末梢組織でのインスリン依存グルコース消費速度Kpから算出される。
【0075】
このように、生体モデルは、生体器官の特性を示すパラメータ(変数を含む)を持つ数理モデルによって構成されているため、生体モデルのパラメータ値は、病態に関連した値を示している。したがって、これらのパラメータに基づいて、病態の特徴を示す病態特徴情報を算出することができる。
【0076】
なお、図18のレーダーチャート132では、病態特徴情報の指標ごとの値がスコアリングされて表示されており、単位や数値幅の異なる各指標の値の良否について比較可能となっている。
【0077】
図18のレーダーチャート132では、末梢での糖処理能に関係する糖処理能132f及び処理感度132gが比較的低いことがわかる。したがって、レーダチャート(病態特徴情報の出力)をみた医師は、末梢での糖処理能を改善する治療方針が有効であると容易に判断することができる。
【0078】
しかも、実際のOGTT検査結果131a,131bと病態特徴情報132が同一画面上に表示されているため、医師は、両者を見比べて、OGTT検査結果のグラフ形状と病態の関連性を学習することができる。したがって、このシステムSSを実際に使用して経験を積むことで、OGTT検査結果から病態を把握するための効果的な学習効果が期待できる。
【0079】
しかも、OGTT検査結果(生体応答)の入力画面には、実際の検査結果(生体応答情報)でなく、任意の値を入力することができる。そして、その任意の値についての検査結果再現値(疑似応答情報)と病態特徴情報の出力を得ることができる。したがって、医師は、任意の検査結果値(生体応答情報)を入力してみて、その場合にどのような病態となるのかを知ることができる。よって、実際の患者のデータがなくても、適当な検査結果を入力して、どのような出力が得られるかを確認するというトレーニング的な使用を行うことができる。
つまり、本システムSSは、非専門医や経験の浅い医師が学習するためのトレーニング用にも使用できる。
【0080】
また、図18の病態解析結果表示部130が設けられていることで、医師等のユーザは容易に患者の病態を把握できるとともに、検査結果と病態の関連性についての学習効果が得られ、しかも、実際の検査結果と再現値が表示されているため、表示された病態特徴情報の正確性の判断できるとともに、誤った学習を行うことが防止されている。
【0081】
さらに、病態解析結果表示部130では、病態解析処理が終了すると、病態解説表示部133において、病態解説文が表示される。病態解説文は予めデータベースS4に登録されており、生成された生体モデル(のパラメータ)に対応する病態解説文がシステムによって選択され、選択された文が病態解説表示部133に表示される。なお、「病態詳細を表示」ボタン134をクリックすると、さらに詳細な解説文が別ウィンドウに表示される。
【0082】
このように病態解説文を表示することで、レーダーチャート132に表示された病態特徴情報の理解が容易に行え、医師が病態把握をより一層的確に行うことができる。
【0083】
以上のようにして、医師が病態を把握し、治療方針を決定して処方内容が決まると、本システムSSには、その処方内容を登録することができる。すなわち、「処方内容の登録」ボタン101bをクリックすると、図19に示す「処方内容登録画面W2が表示される。医師は、この画面W2上で、薬剤名等を入力することができる。処方内容を入力した後、画面W2の登録ボタンW2Rをクリックすると、処方内容がデータベースS4に登録される。
なお、図20は、病態解析処理が終了し、処方内容を登録した後のWebブラウザC1の画面を示している。
【0084】
[病態特徴入力部と疑似応答取得部]
図21は、病態解析結果表示部130において、病態特徴情報を入力する処理を示している。レーダーチャート表示132の各指標132a〜132gの値は、マウスポインタでの操作で、変更可能となっている。つまり、病態特徴情報をレーダーチャート表示132上の操作で入力可能となっている。
図21では、糖処理能132fと処理感度132gの指標の値がマウスポインタで変更されている。この結果、システムSSが生成した病態特徴情報のレーダーチャートC1のうち糖処理能132fと処理感度132gの値が改善された新レーダーチャートC2が得られている。
【0085】
レーダーチャートの各指標の値が変更されると、前記疑似応答取得部(生体モデル演算部)は、血糖値及びインスリン濃度の再現値を算出し、変更された病態での再現値131e,131fが表示される。
【0086】
すなわち、病態特徴情報が入力されると、システムSSは、入力された病態特徴情報に対応して生体モデルのパラメータを変更して新たな生体モデルを生成する。そして、入力された病態特徴が生体モデルのパラメータに反映された生体モデルに基づいて疑似応答取得部(生体モデル演算部)が演算して、疑似応答である再現値131e,131fが求められる。
【0087】
このように、システムSSが、病態特徴情報の入力機能と、入力された病態特徴情報によるOGTT再現値出力機能とを有していることで、現在の病態を治療によって改善した場合に、どのようなOGTT検査結果が期待できるのかを予め確認することができる。したがって、医師は治療効果を容易に予測できる。また、病態特徴情報をいろいろ変化させてみることで、どの病態指標を改善すれば効果的な治療となるかを確認でき、的確な治療方針策定にも役立つ。
【0088】
なお、本実施形態では、病態特徴情報の入力をレーダーチャート上で行ったが、その入力方法は特に限定されず、数値入力によって行っても良い。
【0089】
[病態特徴情報出力の変形例]
図22は、病態特徴情報出力の変形例を示している。前述のレーダーチャート132では、7つの指標を有していたが、図22では、肝糖代謝能1132a、インスリン分泌能1132b、末梢インスリン感受性1132cの3つの指標を持つレーダーチャート1132が採用されている。
【0090】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、生体応答情報や病態特徴情報は、実施形態として例示したものに限定されるものではない。また、生体応答情報及び病態特徴情報並びにその他の情報の出力は、画面表示に限られず、紙などの媒体への出力であってもよい。
なお、生体応答情報及び病態特徴情報並びにその他の情報に関し、入力形式と出力形式が同じである必要はない。例えば、上記実施形態における生体応答情報(OGTT検査結果)の入力は、数値入力形式で行われ、その出力はグラフ出力形式で行われている。このように同一の情報に関し、入力と出力での形式は異なっていても良い。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】医療用シミュレーションシステムのシステム構成図である。
【図2】サーバのハードウェア構成を示すブロック図である。
【図3】生体モデルの全体構成図である。
【図4】生体モデルの膵臓モデルの構成を示すブロック線図である。
【図5】生体モデルの肝臓モデルの構成を示すブロック線図である。
【図6】生体モデルのインスリン動態モデルの構成を示すブロック線図である。
【図7】生体モデルの末梢組織モデルの構成を示すブロック線図である。
【図8】パラメータセット生成処理手順を示すフローチャートである。
【図9】実測OGTT時系列データであり、(a)は血糖値、(b)は血中インスリン濃度である。
【図10】テンプレートデータベースDB1の構成図である。
【図11】テンプレートデータであり、(a)は血糖値、(b)はインスリン濃度である。
【図12】テンプレートT1に対するOGTT時系列データの誤差総和を示す図であり、(a)は血糖値、(b)はインスリン濃度である。
【図13】システムの操作画面である。
【図14】OGTTデータ入力画面である。
【図15】OGTT検査結果が表示された操作画面である。
【図16】操作画面の病態解析結果表示部(解析前)を示す図である。
【図17】操作画面の病態解析結果表示部(解析中)を示す図である。
【図18】操作画面の病態解析結果表示部(解析後)を示す図である。
【図19】処方内容入力画面である。
【図20】病態解析終了及び処方内容入力後の操作画面である。
【図21】病態特徴入力を示す操作画面である。
【図22】病態特徴情報を示すレーダーチャートの変形例である。
【符号の説明】
【0092】
SS 医療用シミュレーションシステム
1膵臓ブロック
2肝臓ブロック
3インスリン動態ブロック
4末梢組織ブロック
5消化管からのグルコース吸収
6血糖値
7インスリン分泌速度
8正味グルコース放出
9肝臓通過後インスリン
10末梢組織でのインスリン濃度
W1 OGTTデータ入力画面(生体応答入力部)
130 病態解析結果表示部(出力部)
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病などの診療支援に用いられる医療用シミュレーションシステム及びそのコンピュータプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
病気の治療に際しては、医師による問診に加え、患者に対して様々な検査が行われるのが一般的である。
そして、医師は、患者の検査結果や臨床所見などの判断材料に基づいて、自己の経験と勘を頼りに、治療方法を選択しているというのが現状である。
【0003】
したがって、診療に役立つ情報がコンピュータによって提供されれば、医師による診療が、より的確に行われることを期待できる。
診療を支援するシステムとしては、特許文献1及び特許文献2に記載されているように、血糖値を予測するシステムがある。
これらのシステムは、患者の血糖値の変化を予測して、予測血糖値を医師に提供することにより、診療を支援するものである。
【0004】
【特許文献1】特開平10−332704号公報
【特許文献2】特開平11−296598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
適切な治療方法を選択する際には、医師が、病気の各種症状の原因を構成する要因を適切に把握することが望まれる。要因を適切に把握できれば、その要因を改善する治療を行うことで、より適切な治療が期待できる。
しかし、医師が、要因を把握するために用いることができるデータは、患者を検査して得られる検査値ぐらいである。
検査値だけでも、医師が要因を把握できる疾患であればよいが、疾患によっては、検査値からだけでは、要因を適切に把握することが著しく困難な場合がある。
【0006】
例えば、糖尿病の場合、その病気の程度を示す指標として「血糖値」が用いられる。しかし、「血糖値」は、あくまでも結果にすぎず、この結果をもたらしたインスリン分泌不全、末梢インスリン抵抗性、肝糖取込低下、肝糖放出亢進といった病態を、前記臨床所見等から的確に把握するのは容易ではない。
【0007】
したがって、特許文献1及び2のような血糖値の予測値が医師に提供されるだけでは、患者の病態を的確に判断するのは依然として困難である。
また、例えば、糖尿病や心臓疾患等にあっては、通常、経口糖負荷試験や心電図、血圧、脈拍の測定、血液検査等の検査結果を用いて専門医が患者の病態を判断することになるが、前記検査結果から正確に病態を判断するには、豊富な経験を必要とし、非専門医には困難である。
そこで、検査結果から正確に病態を判断することができるように、経験の浅い医師や非専門医を教育する効果のあるシステムも要望されている。
【0008】
そこで、本発明は、医師に対し、病態の適切な判断材料となる情報を提供することを目的する。
また、本発明の他の目的は、経験の浅い非専門医等の教育に使用できるシステム等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、医療用シミュレーションシステムであって、生体の生体応答を示す生体応答情報の入力を受け付ける生体応答入力部と、生体応答を模した疑似応答を再現するための生体モデルを生成する生体モデル生成部と、生成された前記生体モデルに基づいて、当該生体の病態の特徴を示す病態特徴情報を取得する病態特徴取得部と、前記生体応答情報と前記病態特徴情報とを共に出力する出力部と、を備えている。
【0010】
上記本発明によれば、生体の検査結果(例えば、糖尿病であればOGTT検査結果)などの生体応答が入力されると、その生体応答を模した疑似応答を再現する生体モデルが生成される。この生体モデルは、生体の状態を示しているため、この生体モデルに基づいて、病態の特徴を示す情報を取得することができる。なお、前記生体応答には、経口糖負荷試験、心電図、血圧測定結果、脈拍の測定結果、血液検査結果等の生体の検査結果が含まれ、実際に生体から測定可能な情報であれば足りる。
そして、本発明では、入力された生体応答情報と病態特徴情報とが共に出力されるため、出力された病態特徴情報に基づいて、医師が病態を判断することができる。
【0011】
しかも、病態特徴情報は、生体応答情報と共に出力されるため、医師は両者を対応付けて確認することができる。すなわち、「結果」としての生体応答情報と、その結果を生じる「原因」である病態特徴情報とを対応付けて把握することができる。この結果、疾患に関する「結果」と「原因」をともに把握でき、本システムを用いて経験を積み重ね、又は診断トレーニングを行うことで、診療のための学習効果が生じる。
【0012】
前記出力部は、前記生体応答情報として、生体応答の時間的変化を示すグラフを出力するよう構成されているのが好ましい。
また、前記出力部は、前記病態特徴情報として、病態の特徴に関連した複数の指標を持つレーダーチャートを出力するよう構成されているのが好ましい。
上記情報は、単に数値出力してもよいが、これらの情報を上記のように出力することで、これらの情報を医師が視覚的に確認することができ、医師は、検査結果又は病態の特徴を容易に把握することができる。
【0013】
前記病態特徴情報の入力を受け付ける病態特徴入力部を更に備え、入力された病態特徴が反映された生体モデルを生成して、当該生体モデルに基づく疑似応答情報を取得する疑似応答取得部を備えているのが好ましい。
【0014】
病態特徴入力部を備えていることで、システムによって取得される病態特徴情報以外の病態特徴情報をシステムに入力することができる。
そして、疑似応答取得部では、入力された病態特徴が反映された生体モデルに基づく疑似応答が得られる。
したがって、医師等が、任意の病態特徴情報を入力すれば、その病態特徴情報に対応する疑似応答情報(応答情報が検査結果であれば、疑似検査結果)を確認することができ、病態と生体応答(検査結果等)との対応を効率的に学習することができる。
【0015】
他の観点から見た本発明は、医療用シミュレーションシステムであって、生体の病態の特徴を示す病態特徴情報の入力を受け付ける病態特徴入力部と、入力された病態特徴が反映された生体モデルを生成して、当該生体モデルに基づく疑似応答情報を取得する疑似応答取得部と、前記病態特徴情報と前記疑似応答情報とを共に出力する出力部と、を備えていることを特徴とする。
【0016】
上記本発明においても、医師等が、任意の病態特徴情報を入力すれば、その病態特徴情報に対応する疑似応答情報(応答情報が検査結果であれば、疑似検査結果)を確認することができ、病態と生体応答(検査結果等)との対応を効率的に学習することができる。
【0017】
上記各発明において、前記生体モデルは、生体の機能に関する複数のパラメータを含む数理モデルによって構成されており、前記病態特徴取得部は、前記生体モデルの前記パラメータに基づいて病態特徴情報を取得するものであるのが好ましい。この場合、数理モデルによって生体を模したモデルが構成されているため、そのモデルのパラメータを変えることで、様々な病態を再現することができる。
【0018】
なお、上記システムは、コンピュータを医療用シミュレーションシステムとして機能させるためのコンピュータプログラムを、コンピュータによって実行することによって実現される。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るシステム及びコンピュータプログラムによれば、患者の検査結果等の生体応答情報とともに、病態特徴情報が出力されるため、病態特徴情報に基づいて医師が病態を容易に判断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の医療用シミュレーションシステム(以下、単にシステムともいう)の実施の形態を詳細に説明する。
[システム全体構成]
図1は、医療用シミュレーションシステムSSを、サーバ−クライアントシステムとして構成した場合のシステム構成図を示している。
【0021】
このシステムSSは、WebサーバS1の機能を含むサーバSと、サーバSにネットワークを介して接続されたクライアント端末Cと、によって構成されている。クライアント端末Cは、医師等のユーザによって使用される。
前記クライアント端末Cは、WebブラウザC1を備えている。このWebブラウザC1は、システムSSのユーザインターフェースとして機能し、ユーザは、WebブラウザC1上で、入力、必要な操作を行うことができる。また、WebブラウザC1には、サーバSで生成されて送信された画面が出力される。
【0022】
サーバSは、クライアント端末CのWebブラウザC1からのアクセスを受け付けるWebサーバS1の機能を備えている。
また、サーバSには、WebブラウザC1で表示されるユーザインターフェース画面を生成するユーザインターフェイスプログラムS2がコンピュータ実行可能に搭載されている。このユーザインターフェイスプログラムS2は、WebブラウザC1に表示される画面を生成してクライアント端末Cに送信したり、WebブラウザC1上で入力された情報をクライアント端末Cから受け付ける機能を有している。
なお、クライアント端末Cは、サーバSから、WebブラウザC1に表示される画面の一部又は全部を生成する機能を実現するためのjava(登録商標)アプレット等のプログラムをダウンロードして、画面の一部又は全部を生成し、WebブラウザC1に画面を表示してもよい。
【0023】
さらに、サーバSは、病態シミュレータプログラムS3がコンピュータ実行可能に搭載されている。この病態シミュレータプログラムS3は、後述のように生体モデルに基づいて疾患に関するシミュレーションを行うためのものである。
また、サーバSには、患者の検査結果等の各種データを有するデータベースS4が設けられており、システムSSに入力されたデータやシステムで生成されたデータその他のデータは、このデータベースS4に保存されている。
【0024】
上記のように、サーバSは、Webサーバとしての機能、インタフェース(画面)生成機能、病態シミュレータとしての機能を有している。
なお、図1では、医療用シミュレーションシステムの構成例として、ネットワーク接続されたサーバ−クライアントシステムを示しているが、本システムを、1つのコンピュータ上で構成してもよい。
【0025】
図2は、前記サーバSのハードウェア構成を示すブロック図である。前記サーバSは、本体S110と、ディスプレイS120と、入力デバイスS130とから主として構成されたコンピュータによって構成されている。本体S110は、CPUS 110aと、ROM S110bと、RAM S110cと、ハードディスクS110dと、読出装置S110eと、入出力インタフェースS110fと、画像出力インタフェースS110hとから主として構成されており、CPU S110a、ROM S110b、RAM S110c、ハードディスクS110d、読出装置S110e、入出力インタフェースS110f、及び画像出力インタフェースS110hは、バスS110iによってデータ通信可能に接続されている。
【0026】
CPUS110aは、ROMS110bに記憶されているコンピュータプログラム及びRAMS110cにロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。そして、前記プログラムS2,S3などのアプリケーションプログラム140aを当該CPU110aが実行することにより、後述するような各機能ブロックが実現され、コンピュータがシステムSSとして機能する。
ROM S110bは、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROM等によって構成されており、CPUS110aに実行されるコンピュータプログラムおよびこれに用いるデータ等が記録されている。
【0027】
RAM S110cは、SRAM又はDRAM等によって構成されている。RAM S110cは、ROM S110b及びハードディスクS110dに記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU S110aの作業領域として利用される。
ハードディスクS110dは、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラム等、CPU S110aに実行させるための種々のコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。プログラムS2,S3も、このハードディスクS110dにインストールされている。
【0028】
読出装置110Seは、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、又はDVD−ROMドライブ等によって構成されており、可搬型記録媒体S140に記録されたコンピュータプログラム又はデータを読み出すことができる。また、可搬型記録媒体S140には、コンピュータを本発明のシステムとして機能させるためのアプリケーションプログラムS140a(S2,S3)が格納されており、コンピュータが当該可搬型記録媒体S140から本発明に係るアプリケーションプログラムS140aを読み出し、当該アプリケーションプログラムS140aをハードディスクS110dにインストールすることが可能である。
【0029】
なお、前記アプリケーションプログラムS140aは、可搬型記録媒体S140によって提供されるのみならず、電気通信回線(有線、無線を問わない)によってコンピュータと通信可能に接続された外部の機器から前記電気通信回線を通じて提供することも可能である。例えば、前記アプリケーションプログラムがインターネット上のアプリケーションプログラム提供サーバコンピュータのハードディスク内に格納されており、このサーバコンピュータにアクセスして、当該コンピュータプログラムをダウンロードし、これをハードディスクS110dにインストールすることも可能である。
また、ハードディスクS110dには、例えば米マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)等のグラフィカルユーザインタフェース環境を提供するオペレーティングシステムがインストールされている。以下の説明においては、本実施形態に係るアプリケーションプログラムS140a(S2,S3)は当該オペレーティングシステム上で動作するものとしている。
【0030】
入出力インタフェースS110fは、例えばUSB、IEEE1394、RS−232C等のシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284等のパラレルインタフェース、およびD/A変換器、A/D変換器等からなるアナログインタフェース等から構成されている。入出力インタフェースS110fには、キーボードおよびマウスからなる入力デバイスS130が接続されており、ユーザが当該入力デバイスS130を使用することにより、コンピュータにデータを入力することが可能である。
画像出力インタフェースS110hは、LCDまたはCRT等で構成されたディスプレイS120に接続されており、CPUS110aから与えられた画像データに応じた映像信号をディスプレイS120に出力するようになっている。ディスプレイS120は、入力された映像信号にしたがって、画像(画面)を表示する。
【0031】
なお、前記クライアント端末Cのハードウェア構成も、前記サーバSのハードウェア構成と略同様である。
【0032】
[シミュレーションシステムにおける生体モデル]
図3は、本発明システムSSの病態シミュレータプログラムS3で用い生体モデルの一例の全体構成を示すブロック図である。この生体モデルは、特に、糖尿病に関連した生体器官を模したものであり、膵臓ブロック1、肝臓ブロック2、インスリン動態ブロック3及び末梢組織ブロック4から構成されている。
【0033】
各ブロック1,2,3,4は、それぞれ入力と出力を有している。すなわち、膵臓ブロック1は、血中グルコース濃度6を入力とし、インスリン分泌速度7を出力としている。
肝臓ブロック2は、消化管からのグルコース吸収5、血中グルコース濃度6及びインスリン分泌速度7を入力とし、正味グルコース放出8及び肝臓通過後インスリン9を出力としている。
また、インスリン動態ブロック3は、肝臓通過後インスリン9を入力とし、末梢組織でのインスリン濃度10を出力としている。
さらに、末梢組織ブロック4は、正味グルコース放出8及び末梢組織でのインスリン濃度10を入力とし、血中グルコース濃度6を出力としている。
【0034】
グルコース吸収5は、生体モデル外部から与えられるデータである。本実施形態において、グルコース吸収に関するデータは、入力する検査データ(生体応答)の種類に応じて、あらかじめ定められた値を記憶させておく。
また、それぞれの機能ブロック1〜4は、シミュレータプログラムがサーバ2のCPUによって実行されることにより実現される。
【0035】
つぎに、前述した例における各ブロックの詳細について説明する。なお、FGB及びWsはそれぞれ空腹時血糖値(FGB=BG(0))及び想定体重を示しており、またDVg及びDViはそれぞれグルコースに対する分布容量体積及びインスリンに対する分布容量体積を示している。
【0036】
[生体モデルの膵臓ブロック]
膵臓ブロック1の入出力の関係は、以下の微分方程式(1)を用いて記述することができる。また、微分方程式(1)と等価な、図4に示されるブロック線図を用いて表現することもできる。
微分方程式(1):
dY/dt = −α{Y(t)−β(BG(t)−h)}
(ただし、BG(t)> h)
= −αY(t) (ただし、BG(t)<=h)
dX/dt = −M・X(t)+Y(t)
SR(t) = M・X(t)
変数:
BG(t):血糖値
X(t) :膵臓から分泌可能なインスリン総量
Y(t) :グルコース刺激に対しX(t)に新たに供給されるインスリン供給速度
SR(t):膵臓からのインスリン分泌速度
パラメータ:
h :インスリン供給を刺激できるグルコース濃度のしきい値
α :グルコース刺激に対する追従性
β :グルコース刺激に対する感受性
M :単位濃度あたりの分泌速度
ここで、図3における膵臓ブロック1への入力である血糖値6はBG(t)と対応し、また出力であるインスリン分泌速度7はSR(t)と対応する。
【0037】
図4のブロック線図において、6は血糖値BG(t)、7は膵臓からのインスリン分泌速度SR(t)、12はインスリン供給を刺激できるグルコース濃度のしきい値h、13はグルコース刺激に対する感受性β、14はグルコース刺激に対する追従性α、15は積分要素、16はグルコース刺激に対して新たに供給されるインスリン供給速度Y(t)、17は積分要素、18は膵臓から分泌可能なインスリン総量X(t)、19は単位濃度当たりの分泌速度Mをそれぞれ示している。
【0038】
[生体モデルの肝臓ブロック]
肝臓ブロック2の入出力の関係は、以下の微分方程式(2)を用いて記述することができる。また、微分方程式(2)と等価な、図5に示されるブロック線図を用いて表現することもできる。
微分方程式(2):
dI4(t)/dt = α2{−A3I4(t) + (1−A7)・SR(t) }
Goff(FGB) = f1 (ただし FGB<f3)
= f1 + f2・(FGB−f3)
(ただしFGB>=f3)
Func1(FGB)= f4 − f5・(FGB−f6)
Func2(FGB)=f7/FGB
b1(I4(t))= f8{1 + f9・I4(t)}
HGU(t) =r・Func1(FGB)・b1(I4(t))・RG(t)+ (1−r)・Kh・BG(t)・I4(t) (ただしHGU(t)>=0)
HGP(t) = I4off・Func2(FGB)・b2+Goff(FGB)−I4(t)・Func2(FGB)・b2 (ただしHGP(t)>= 0)
SGO(t) =RG(t)+ HGP(t)−HGU(t)
SRpost(t) = A7SR(t)
変数:
BG(t):血糖値(血液単位体積あたりのグルコース濃度)
SR(t):膵臓からのインスリン分泌速度
SRpost(t):肝臓通過後のインスリン
RG(t) :消化管からのグルコース吸収
HGP(t) :肝糖放出
HGU(t) :肝糖取込
SGO(t) :肝臓からの正味グルコース
I4(t) :肝インスリン濃度
パラメータ:
Kh :単位インスリン、単位グルコース当たりの肝臓でのインスリン依存グルコース取り込み速度
A7 :肝臓でのインスリン取り込み率
Goff :基礎代謝に対するグルコース放出速度
b2 :肝糖放出抑制率に関する調整項
r :インスリン非依存性肝糖取り込みへの分配率
α2 :インスリン刺激に対する追従性
I4off :肝糖放出が抑制されるインスリン濃度のしきい値
関数:
Goff(FGB): 基礎代謝に対するグルコース放出速度
Func1(FGB): 消化管からのグルコース刺激に対する肝糖取り込み率
Func2(FGB): インスリン刺激に対する肝糖放出抑制率
f1〜f9 : 上記の3要素の表現にあたって用いた定数
b1(I4(t)): 肝糖取り込み率に関する調整項
ここで、図3における肝臓ブロックへの入力である、消化管からのグルコース吸収5はRG(t)、血糖値6はBG(t)、インスリン分泌速度7はSR(t)とそれぞれ対応し、また出力である正味グルコース放出8はSGO(t)、肝臓通過後インスリン9はSRpost(t)とそれぞれ対応している。
【0039】
図5のブロック線図において、5は消化管からのグルコース吸収RG(t)、6は血糖値BG(t)、7は膵臓からのインスリン分泌速度SR(t)、8は肝臓からの正味グルコースSGO(t)、9は肝臓通過後のインスリンSRpost(t)、24は肝臓のインスリン通過率(1−A7)、25はインスリン刺激に対する追従性α2、26は肝臓通過後のインスリン分配速度A3、27は積分要素、28は肝インスリン濃度I4(t)、9はインスリン依存性肝糖取り込み分配率(1−r)、30は単位インスリン、単位グルコース当たりの肝臓でのインスリン依存グルコース取り込み速度Kh、31はインスリン非依存性肝糖取り込みへの分配率r、32は消化管からのグルコース刺激に対する肝糖取り込み率Func1(FGB)、33は肝糖取り込み率に関する調整項b1(I4(t))、34は肝糖取込HGU(t)、35は肝糖放出が抑制されるインスリン濃度のしきい値I4off、36はインスリン刺激に対する肝糖放出抑制率Func2(FGB)、37は肝糖放出抑制率に関する調整項b2、38は基礎代謝に対するグルコース放出速度、39は肝糖放出HGP(t)、40は肝臓でのインスリン取り込み率A7を示している。
【0040】
[生体モデルのインスリン動態ブロック]
インスリン動態分泌の入出力の関係は、以下の微分方程式(3)を用いて記述することができる。また、微分方程式(3)と等価な、図6に示されるブロック線図を用いて表現することもできる。
微分方程式(3):
dI1(t)/dt = −A3I1(t)+A5I2(t)+A4I3(t)+SRpost(t)
dI2(t)/dt= A6I1(t)− A5I2(t)
dI3(t)/dt=A2I1(t) − A1I3(t)
変数:
SRpost(t):肝臓通過後のインスリン
I1(t) :血中インスリン濃度
I2(t) :インスリン非依存組織でのインスリン濃度
I3(t) :末梢組織でのインスリン濃度
パラメータ:
A1 :末梢組織でのインスリン消失速度
A2 :末梢組織へのインスリン分配率
A3 :肝臓通過後のインスリン分配速度
A4 :末梢組織通過後のインスリン流出速度
A5 :インスリン非依存組織でのインスリン消失速度
A6 :インスリン非依存組織へのインスリン分配率
ここで、図3におけるインスリン動態ブロックの入力である肝臓通過後のインスリン9は、SRpost(t)と対応し、また出力である末梢組織でのインスリン濃度10は、I3(t)と対応する。
【0041】
図6のブロック線図において、9は肝臓通過後のインスリンSRpost(t)、10は末梢組織でのインスリン濃度I3(t)、50は積分要素、51は肝臓通過後のインスリン分配速度A3、52は血中インスリン濃度I1(t)、53は末梢組織へのインスリン分配率A2、54は積分要素、55は末梢組織でのインスリン消失速度A1、56は末梢組織通過後のインスリン流出速度A4、57はインスリン非依存組織へのインスリン分配率A6、58は積分要素、59はインスリン非依存組織でのインスリン濃度I2(t)、60はインスリン非依存組織でのインスリン消失速度A5をそれぞれ示している。
【0042】
[生体モデルの末梢組織ブロック]
末梢組織ブロック4の入出力の関係は、以下の微分方程式(4)を用いて記述することができる。また、微分方程式(4)と等価な、図7に示されるブロック線図を用いて表現することもできる。
微分方程式(4):
dBG´/dt=SGO(t)−u* Goff(FGB)−Kb(BG´(t)−FBG´)−Kp・I3(t)・BG´(t)
変数:
BG´(t) :血糖値(単位体重あたりのグルコース濃度)
(ただしBG[mg/dl]、BG´[mg/kg])
SGO(t) :肝臓からの正味グルコース
I3(t) :末梢組織でのインスリン濃度
FBG´ :空腹時血糖(ただしFBG´=BG´(0))
パラメータ:
Kb :末梢組織でのインスリン非依存グルコース消費速度
Kp :単位インスリン、単位グルコースあたりの
末梢組織でのインスリン依存グルコース消費速度
u :基礎代謝に対するグルコース放出速度のうち
基礎代謝に対するインスリン非依存グルコース消費が占める割合
関数:
Goff(FGB):基礎代謝に対するグルコース放出速度
f1〜f3 :Goffの表現にあたって用いた定数
ここで、図3における末梢組織ブロックへの入力である末梢組織でのインスリン濃度10はI3(t)、肝臓からの正味グルコース8はSGO(t)とそれぞれ対応し、また出力である血糖値6はBG(t)と対応する。
【0043】
図7のブロック線図において、6は血糖値BG(t)、8は肝臓からの正味グルコースSGO(t)、10は末梢組織でのインスリン濃度I3(t)、70は基礎代謝に対するインスリン非依存グルコース消費速度u* Goff(FGB)、71は積分要素、72は末梢組織でのインスリン非依存グルコース消費速度Kb、73は単位インスリン、単位グルコース当たりの末梢組織でのインスリン依存グルコース消費速度Kp、74は単位変換定数Ws/DVgをそれぞれ示している。
【0044】
図3に示されるように、本システムを構成するブロック間の入力、出力は、相互に接続されているため、消化管からのグルコース吸収5を与えることで、血糖値、インスリン濃度の時系列変化を、数式に基づいて計算し、シミュレートすることができる。
【0045】
本システムの微分方程式の計算には、例えばE−Cell(慶應義塾大学公開ソフトウェア)やMatLab(マスワークス社製品)を用いることができるが、他の計算システムを用いてもよい。
【0046】
[生体モデル生成部]
図3〜図7に示す上述の生体モデルによって、個々の患者の生体器官をシミュレートするには、個々の患者に応じた特性を有する生体モデルを生成する必要がある。具体的には、生体モデルのパラメータと変数の初期値とを、個々の患者に応じて決定し、決定されたパラメータ及び初期値を生体モデルに適用して、個々の患者に対応した生体モデルを生成する必要がある(なお、以下では、特に区別しなければ、変数の初期値も生成対象のパラメータに含めるものとする)。
【0047】
このため、本システムSSのサーバ2は、生体モデル生成部としての機能を実現するため、生体モデルの内部パラメータの組である内部パラメータセット(以下、単に「パラメータセット」ということがある)を求め、求めたパラメータセットが適用された生体モデルを生成する機能を有している。なお、この機能は、病態シミュレータプログラムS3によって実現されている。
生体モデル生成部によって生成されたパラメータセットを前記生体モデルに与えることで、生体モデル演算部が、生体器官の機能のシミュレートを行って、実際の生体応答(検査結果)を模した疑似応答を出力することができる。
【0048】
[パラメータセット生成部]
以下、実際の患者(生体)の検査結果(生体応答)に基づき、その患者の生体器官を模した生体モデルを形成するためのパラメータセットを生成するパラメータセット生成部について説明する。
【0049】
[OGTT時系列データ入力:ステップS1−1]
図8は、システムSSのパラメータセット生成部が、生体モデルのパラメータセットを求める処理手順を示している。同図に示すように、パラメータを求めるには、まず、実際の検査結果(生体応答)としてのOGTT(Oral Glucose Tolerance Test;経口ブドウ糖負荷試験)時系列データの入力処理(ステップS1−1)が行われる。
OGTT時系列データは、生体モデルによってシミュレートしようとする患者に対して実際に行った検査であるOGTT(所定量のブドウ糖液を経口負荷して血糖値や血中インスリン濃度の時間的変化を測定)の結果であり、本システムは、クライアント端末3から、実際の生体応答(実際の検査値)として入力を受け付ける。ここでは、OGTT時系列データとして、OGTTグルコースデータ(血糖値変動データ)と、OGTTインスリン(血中インスリン濃度変動データ)の2つが入力される。
【0050】
図9は、入力されるOGTT時系列データとしての血糖値変動データ(図9(a))及び血中インスリン濃度変動データ(図9(b))の例を示している。
図9(a)の血糖値変動データは、図3〜図7に示す生体モデルにおける出力項目の一つである血糖値BG(t)の時間的変化に対応した実測データである。
また、図9(b)の血中インスリン濃度変動データは、図3〜図7に示す生体モデルにおける出力項目の一つである血中インスリン濃度I1(t)の時間的変化に対応した実測データである。
【0051】
[テンプレートマッチング:ステップS1−2]
次に、本システムSSは、入力されたOGTT時系列データと、テンプレートデータベースDB1のテンプレートとのマッチングを行う。なお、テンプレートデータベースDB1は、サーバSのデータベース24に含まれる1つのデータベースである。
テンプレートデータベースDB1は、図10に示すように、テンプレートとなる生体モデルの参照用出力値T1,T2,・・と、当該参照用出力値を発生させるパラメータセットPS#01,PS#02・・とが対応付けられた複数組のデータが予め格納されたものである。参照用出力値とパラメータセットの組を作成するには、任意の参照用出力値に対して、適当なパラメータセットを割り当てたり、逆に任意のパラメータセットを選択した場合の生体モデルの出力を生体シミュレーションシステムで求めたりすればよい。
【0052】
図11は、テンプレート(参照用出力値)T1の例を示している。図11(a)は、テンプレートとしての血糖値変動データであり、図3〜図7に示す生体モデルにおける出力項目の一つである血糖値BG(t)の時間的変化に対応した参照用時系列データである。図11(b)は、テンプレートとしての血中インスリン濃度変動データであり、図3〜図7に示す生体モデルにおける出力項目の一つである血中インスリン濃度I1(t)の時間的変化に対応した参照用時系列データである。
【0053】
システムSSは、上記テンプレートデータベースDB1の各参照用時系列データと、OGTT時系列データとの類似度を演算する。類似度は、誤差総和を求めることによって得られる。誤差総和は、次式によって得られる。
誤差総和=αΣ|BG(0)−BGt(0)|+βΣ|PI(0)−PIt(0)|
+αΣ|BG(1)−BGt(1)|+βΣ|PI(1)−PIt(1)|
+αΣ|BG(2)−BGt(2)|+βΣ|PI(2)−PIt(2)|
+・・・
=α{Σ|BG(t)−BGt(t)|}+β{Σ|PI(t)−PIt(t)|}
ここで、
BG:入力データの血糖値[mg/dl]
PI:入力データの血中インスリン濃度[μU/ml]
BGt:テンプレートの血糖値[mg/dl]
PIt:テンプレートの血中インスリン濃度[μU/ml]
t:時間[分]
また、α及びβは規格化に用いる係数であり、
α=1/Average{ΣBG(t)}
β=1/Average{ΣPI(t)}
定式のAverageはテンプレートデータベースDB1に格納された全テンプレートに対する平均値を指す。
【0054】
図12は、テンプレートT1に対するOGTT時系列データの誤差総和(規格化なし)を示しており、具体的には、図12(a)は、図9(a)の血糖値と図11(a)の血糖値との誤差を示しており、図12(b)は、図9(b)のインスリンと図11(b)のインスリンの誤差を示している。
図9の入力データ(10分間隔の0分から180分のデータ)と、図11のテンプレートT1についてみると、
Σ|BG(t)−BGt(t)|=29
Σ|PI(t)−PIt(t)|=20
となる。ここで、α=0.00035、β=0.00105とすると、
誤差総和=(0.00035×29)+(0.00105×20)
=0.03115
【0055】
上記のようにして、CPU100aは、テンプレートデータベースDB1中の各テンプレートについて誤差総和を求め、誤差総和(類似度)が最小となるテンプレート、すなわちOGTT時系列データに最も近似するテンプレートを決定する(ステップS1−2)。
【0056】
[パラメータセット獲得:ステップS1−4]
さらに、ステップS1−3では、システムSSは、ステップS1−2において決定されたテンプレートに対応するパラメータセットを、テンプレートデータベースDB1から獲得する。つまり、テンプレートT1に対応するパラメータセットPS#01が得られる(図10参照)。
下記表1は、このようにして得られたパラメータセットPS#01に含まれるパラメータ値の具体的数値例を示している。
【表1】
【0057】
なお、パラメータセット(生体モデル)を生成する方法は、上記のようなテンプレートマッチングに限られるものではない。例えば、パラメータセットを遺伝的アルゴリズムによって生成してもよい。つまり、パラメータセットの初期集団をランダムに発生させ、初期集団に含まれるパラメータセット(個体)に対して、選択・交叉・突然変異処理を行って、新たな子集団を生成するというように、パラメータセットの生成に遺伝的アルゴリズムを適用することができる。かかる遺伝的アルゴリズムを用いたパラメータセットの生成方法においては、生成されたパラメータセットのうち、入力された生体応答(検査結果)に近似した疑似応答を出力するパラメータセットを採用することができる。
このように、生体モデル生成部は、入力され生体応答を模した疑似応答を出力できる生体モデルを生成できるものであれば、その具体的生成方法は特に限定されない。
【0058】
[疑似応答取得部(生体モデル演算部)]
システムSSは、上記パラメータセットPS#01が、生体モデルに与えられると、その生体モデルに基づき演算を行い、入力されたOGTT時系列データを模した疑似応答情報(血糖値及びインスリン濃度の時系列変化)を出力する機能を有している(システムSSの疑似応答取得部(生体モデル演算部)としての機能)。
つまり、システムSSでは、生成された生体モデルに基づき、患者の生体器官のシミュレーションを行うことができる。なお、この機能は、病態シミュレータプログラムS3によって実現されている。
また、生成されたパラメータセットは、病態特徴情報を取得するためにも用いられるが、この点については、後述する。
【0059】
[ユーザインターフェース(入出力部)]
図13は、サーバSのユーザインターフェイスプログラムS2によって生成されるシステム操作画面を示している。この画面は、サーバS2からクライアントCに送信されて、当該クライアントCのWebブラウザC1上に表示される。医師等のユーザは、この画面上で、情報を入力したり、情報を閲覧することができる。
【0060】
図13の画面は、主に、操作部100、検査履歴表示部110、検査データ表示部120、病態解析結果表示部130、処方データ表示部140を備えている。
操作部100は、各種データを入力して登録するためのデータ入力部101と、登録したデータを修正する登録内容修正部102、診察終了操作を行う診察終了部103、ログアウトを行うログアウト部104を備えている。
【0061】
[データ入力部101]
前記データ入力部101は、基本検査結果(図13の検査データ表示部120に表示されている検査項目の検査結果)を登録するための「検査結果の登録」ボタン101a、患者への処方内容を登録するための「処方内容の登録」ボタン101b、OGTTの検査結果(生体応答)を登録するための「OGTTデータの登録」ボタン101c、病態解析を行ってその結果を登録するための「病態解析の登録」ボタン101dを備えている。
【0062】
[基本検査検入力101a]
「検査結果の登録」ボタン101aがクリックされると、検査結果の入力画面(図示省略)が表示され、図13の検査データ表示部120に表示されている基本検査項目について、それぞれ、検査結果を入力することができる。検査結果が入力されてデータベースS4に登録されると、検査履歴表示部110には、その登録日(診察日)とともに検査結果が登録されていることが「○」印で表示される。
【0063】
[処方内容入力101b]
「処方内容の登録」ボタン101bがクリックされると、その患者への処方内容の入力画面が表示され、入力した処方内容をデータベースS4に登録することができる。処方内容が入力されて登録されると、検査履歴表示部110には、その登録日(診察日)とともに処方内容が登録されていることが「○」印で表示される。
なお、処方内容の入力画面については、後述する。
【0064】
[OGTT入力(生体応答入力部)101c]
「OGTTデータの登録」ボタン101cがクリックされると、図14に示すように、OGTTデータ入力画面(ウィンドウ)W1が開いて表示される。
この画面W1には、検査時間の入力ボックス列W1aと、血糖値の入力ボックス列W1bと、インスリン濃度(IRI)の入力ボックス列W1cと、を備えており、実際の検査結果であるOGTTデータとして、血糖値及びインスリン濃度の時系列変化を入力することができる。
血糖値及びインスリン濃度の数値を入力した後、画面W1の登録ボタンW1Rをクリックすると、その内容は、データベースS4に登録される。
OGTTデータが登録されると、検査履歴表示部110には、その登録日(診察日)とともに、OGTTデータが登録されていることが「○」印で表示される。
なお、この画面W1で入力されたデータは、図9及び病態解析結果表示部130に示す血糖値及びインスリン濃度の時系列変化を示すグラフを描く際に、元となるデータである。
【0065】
[病態解析101d]
「病態解析の登録」ボタン101dは、がクリックされると、病態シミュレータプログラムS3によって、OGTTデータを用いてシミュレーションが行われ、病態の解析が実行されて、病態の特徴を示す病態特徴情報の取得が行われる。なお、取得された病態特徴情報は、OGTTデータと関連付けてデータベースS4に登録される。病態解析の詳細については、後述する。
【0066】
[検査履歴表示部110]
検査履歴表示部110では、診察日ごとに、(一般)検査、OGTT、処方の登録があるか否かを表示している。なお、登録がないところは「×」印で示されている。
この検査履歴表示部110は、検査データ表示部120及び処方データ表示部140の表示を切り替える表示切替操作部としても機能し、診察日の日付部分をクリックしたり、「○」印をクリックすることで、図13の画面の表示内容を、その日付や「○」印に対応した表示に切り替えることができる。
【0067】
[検査データ表示部120]
検査データ表示部120は、患者の基本検査結果又はOGTT結果を表示するためのものである。図13は、検査データ表示部120に、基本検査結果が表示されている状態を示しており、図15は、検査データ表示部120に、OGTT結果が表示されている状態を示している。
検査データ表示部120に基本検査結果が表示されている場合には、「OGTT結果を表示」ボタン121が表示され(図13参照)、OGTT結果が表示されている場合には、「基本検査結果を表示」ボタン122が表示される(図15参照)。これらのボタン121,122をクリックすることで、両結果の表示切替を行うことができる。
【0068】
[病態解析結果表示部(生体応答情報と病態特徴情報の出力部)130]
図15及び図16に示すように、病態解析結果表示部130は、検査データ表示部120に、OGTT検査結果が表示されているときに、そのOGTT検査結果(生体応答)に対応したグラフ表示131と、そのOGTT検査結果に基づいて解析された病態特徴情報のレーダーチャート表示132とを行うためのものである。また、病態解析結果表示部130には、病態解説文を表示する病態解説部133も設けられている(図18参照)。
【0069】
グラフ131には、実際のOGTT検査結果における血糖値の時系列変化131aと、実際のOGTT検査結果におけるインスリン濃度の時系列変化131bとが表示されている。
なお、図15では、OGTT検査結果は入力されているが、病態解析が未解析である状態を示している。したがって、OGTT結果のグラフ131は表示されているが、病態特徴情報のレーダーチャートは非表示である。
【0070】
[病態シミュレーション解析(病態特徴取得と疑似応答取得)]
図15及び図16に示すように、OGTT検査結果が画面に表示された状態で、「病態解析の登録」ボタン101dをクリックすると、シミュレーションが実行され、病態解析(病態特徴情報の取得)と、OGTT検査結果の再現値(疑似応答の取得)とが行われる。なお、図17は、解析中の画面表示を示している。
【0071】
シミュレーションにおいては、実際のOGTT検査結果(生体応答情報)を模した再現値(疑似応答情報)を出力できる生体モデルを構成するパラメータセットが演算により求められる。そして、システムSSは、そのパラメータセットが適用された生体モデルの出力値として、OGTT検査結果の再現値(疑似応答情報)を求める(システムSSの疑似応答取得機能)。
図18に示すように、OGTTの再現値(血糖再現値131c及び再現IRI131d)は、病態解析結果表示部130のグラフ表示131において、実際のOGTT検査結果(検査血糖値131a及び検査IRI131b)とともに表示される。
【0072】
医師等のユーザは、このグラフ表示131における実検査結果(生体応答情報)及びシミュレータによる再現値(疑似応答情報)の双方を見比べることで、両値が近似し、シミュレータの生体モデルが、実際の患者の生体器官を的確に模倣しているものであるか否かを確認することができる。なお、図18のグラフ表示131によれば、実検査結果と再現値は良く近似しており、シミュレータで生成された生体モデルが適切なものであることがわかる。
【0073】
[病態特徴取得部]
また、システムSSは、生成された生体モデル(のパラメータセット)に基づいて、患者の病態の特徴を示す病態特徴情報を求める(システムSSの病態特徴情報取得機能)。
図18に示すように、本実施形態では、病態特徴の指標として、空腹時血糖132a、基礎分泌132b、追加分泌132c、分泌感度132d、肝糖新生抑制132e、糖処理能132f、処理感度132gが採用されている。
これらの指標は、病態の特徴を良く表しているものとして採用されており、特に、治療によって改善可能な生体機能が採用されている。
【0074】
ここで、空腹時血糖132aは、生体モデルの変数である血糖値BG(t=0)から算出される。基礎分泌132bは、生体モデルの変数である空腹時インスリンI1(t=0)から算出される。追加分泌は、I1(t) の積分値から算出される。分泌感度132dは、生体モデルのパラメータであるグルコース刺激に対する感受性βから算出される。肝糖新生抑制132eは、生体モデルの変数である肝糖放出HGTP(t)から算出される。糖処理能132fは、生体モデルの変数である肝臓からの正味グルコースSGO(t)及び血糖値BG(t)から算出される。処理感度132gは、生体モデルのパラメータである単位インスリン、単位グルコースあたりの末梢組織でのインスリン依存グルコース消費速度Kpから算出される。
【0075】
このように、生体モデルは、生体器官の特性を示すパラメータ(変数を含む)を持つ数理モデルによって構成されているため、生体モデルのパラメータ値は、病態に関連した値を示している。したがって、これらのパラメータに基づいて、病態の特徴を示す病態特徴情報を算出することができる。
【0076】
なお、図18のレーダーチャート132では、病態特徴情報の指標ごとの値がスコアリングされて表示されており、単位や数値幅の異なる各指標の値の良否について比較可能となっている。
【0077】
図18のレーダーチャート132では、末梢での糖処理能に関係する糖処理能132f及び処理感度132gが比較的低いことがわかる。したがって、レーダチャート(病態特徴情報の出力)をみた医師は、末梢での糖処理能を改善する治療方針が有効であると容易に判断することができる。
【0078】
しかも、実際のOGTT検査結果131a,131bと病態特徴情報132が同一画面上に表示されているため、医師は、両者を見比べて、OGTT検査結果のグラフ形状と病態の関連性を学習することができる。したがって、このシステムSSを実際に使用して経験を積むことで、OGTT検査結果から病態を把握するための効果的な学習効果が期待できる。
【0079】
しかも、OGTT検査結果(生体応答)の入力画面には、実際の検査結果(生体応答情報)でなく、任意の値を入力することができる。そして、その任意の値についての検査結果再現値(疑似応答情報)と病態特徴情報の出力を得ることができる。したがって、医師は、任意の検査結果値(生体応答情報)を入力してみて、その場合にどのような病態となるのかを知ることができる。よって、実際の患者のデータがなくても、適当な検査結果を入力して、どのような出力が得られるかを確認するというトレーニング的な使用を行うことができる。
つまり、本システムSSは、非専門医や経験の浅い医師が学習するためのトレーニング用にも使用できる。
【0080】
また、図18の病態解析結果表示部130が設けられていることで、医師等のユーザは容易に患者の病態を把握できるとともに、検査結果と病態の関連性についての学習効果が得られ、しかも、実際の検査結果と再現値が表示されているため、表示された病態特徴情報の正確性の判断できるとともに、誤った学習を行うことが防止されている。
【0081】
さらに、病態解析結果表示部130では、病態解析処理が終了すると、病態解説表示部133において、病態解説文が表示される。病態解説文は予めデータベースS4に登録されており、生成された生体モデル(のパラメータ)に対応する病態解説文がシステムによって選択され、選択された文が病態解説表示部133に表示される。なお、「病態詳細を表示」ボタン134をクリックすると、さらに詳細な解説文が別ウィンドウに表示される。
【0082】
このように病態解説文を表示することで、レーダーチャート132に表示された病態特徴情報の理解が容易に行え、医師が病態把握をより一層的確に行うことができる。
【0083】
以上のようにして、医師が病態を把握し、治療方針を決定して処方内容が決まると、本システムSSには、その処方内容を登録することができる。すなわち、「処方内容の登録」ボタン101bをクリックすると、図19に示す「処方内容登録画面W2が表示される。医師は、この画面W2上で、薬剤名等を入力することができる。処方内容を入力した後、画面W2の登録ボタンW2Rをクリックすると、処方内容がデータベースS4に登録される。
なお、図20は、病態解析処理が終了し、処方内容を登録した後のWebブラウザC1の画面を示している。
【0084】
[病態特徴入力部と疑似応答取得部]
図21は、病態解析結果表示部130において、病態特徴情報を入力する処理を示している。レーダーチャート表示132の各指標132a〜132gの値は、マウスポインタでの操作で、変更可能となっている。つまり、病態特徴情報をレーダーチャート表示132上の操作で入力可能となっている。
図21では、糖処理能132fと処理感度132gの指標の値がマウスポインタで変更されている。この結果、システムSSが生成した病態特徴情報のレーダーチャートC1のうち糖処理能132fと処理感度132gの値が改善された新レーダーチャートC2が得られている。
【0085】
レーダーチャートの各指標の値が変更されると、前記疑似応答取得部(生体モデル演算部)は、血糖値及びインスリン濃度の再現値を算出し、変更された病態での再現値131e,131fが表示される。
【0086】
すなわち、病態特徴情報が入力されると、システムSSは、入力された病態特徴情報に対応して生体モデルのパラメータを変更して新たな生体モデルを生成する。そして、入力された病態特徴が生体モデルのパラメータに反映された生体モデルに基づいて疑似応答取得部(生体モデル演算部)が演算して、疑似応答である再現値131e,131fが求められる。
【0087】
このように、システムSSが、病態特徴情報の入力機能と、入力された病態特徴情報によるOGTT再現値出力機能とを有していることで、現在の病態を治療によって改善した場合に、どのようなOGTT検査結果が期待できるのかを予め確認することができる。したがって、医師は治療効果を容易に予測できる。また、病態特徴情報をいろいろ変化させてみることで、どの病態指標を改善すれば効果的な治療となるかを確認でき、的確な治療方針策定にも役立つ。
【0088】
なお、本実施形態では、病態特徴情報の入力をレーダーチャート上で行ったが、その入力方法は特に限定されず、数値入力によって行っても良い。
【0089】
[病態特徴情報出力の変形例]
図22は、病態特徴情報出力の変形例を示している。前述のレーダーチャート132では、7つの指標を有していたが、図22では、肝糖代謝能1132a、インスリン分泌能1132b、末梢インスリン感受性1132cの3つの指標を持つレーダーチャート1132が採用されている。
【0090】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、生体応答情報や病態特徴情報は、実施形態として例示したものに限定されるものではない。また、生体応答情報及び病態特徴情報並びにその他の情報の出力は、画面表示に限られず、紙などの媒体への出力であってもよい。
なお、生体応答情報及び病態特徴情報並びにその他の情報に関し、入力形式と出力形式が同じである必要はない。例えば、上記実施形態における生体応答情報(OGTT検査結果)の入力は、数値入力形式で行われ、その出力はグラフ出力形式で行われている。このように同一の情報に関し、入力と出力での形式は異なっていても良い。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】医療用シミュレーションシステムのシステム構成図である。
【図2】サーバのハードウェア構成を示すブロック図である。
【図3】生体モデルの全体構成図である。
【図4】生体モデルの膵臓モデルの構成を示すブロック線図である。
【図5】生体モデルの肝臓モデルの構成を示すブロック線図である。
【図6】生体モデルのインスリン動態モデルの構成を示すブロック線図である。
【図7】生体モデルの末梢組織モデルの構成を示すブロック線図である。
【図8】パラメータセット生成処理手順を示すフローチャートである。
【図9】実測OGTT時系列データであり、(a)は血糖値、(b)は血中インスリン濃度である。
【図10】テンプレートデータベースDB1の構成図である。
【図11】テンプレートデータであり、(a)は血糖値、(b)はインスリン濃度である。
【図12】テンプレートT1に対するOGTT時系列データの誤差総和を示す図であり、(a)は血糖値、(b)はインスリン濃度である。
【図13】システムの操作画面である。
【図14】OGTTデータ入力画面である。
【図15】OGTT検査結果が表示された操作画面である。
【図16】操作画面の病態解析結果表示部(解析前)を示す図である。
【図17】操作画面の病態解析結果表示部(解析中)を示す図である。
【図18】操作画面の病態解析結果表示部(解析後)を示す図である。
【図19】処方内容入力画面である。
【図20】病態解析終了及び処方内容入力後の操作画面である。
【図21】病態特徴入力を示す操作画面である。
【図22】病態特徴情報を示すレーダーチャートの変形例である。
【符号の説明】
【0092】
SS 医療用シミュレーションシステム
1膵臓ブロック
2肝臓ブロック
3インスリン動態ブロック
4末梢組織ブロック
5消化管からのグルコース吸収
6血糖値
7インスリン分泌速度
8正味グルコース放出
9肝臓通過後インスリン
10末梢組織でのインスリン濃度
W1 OGTTデータ入力画面(生体応答入力部)
130 病態解析結果表示部(出力部)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用シミュレーションシステムであって、
生体の生体応答を示す生体応答情報の入力を受け付ける生体応答入力部と、
生体応答を模した疑似応答を再現するための生体モデルを生成する生体モデル生成部と、
生成された前記生体モデルに基づいて、当該生体の病態の特徴を示す病態特徴情報を取得する病態特徴取得部と、
前記生体応答情報と前記病態特徴情報とを共に出力する出力部と、
を備えていることを特徴とする医療用シミュレーションシステム。
【請求項2】
前記出力部は、前記生体応答情報として、生体応答の時間的変化を示すグラフを出力するよう構成されていることを特徴とする請求項1記載の医療用シミュレーションシステム。
【請求項3】
前記出力部は、前記病態特徴情報として、病態の特徴に関連した複数の指標を持つレーダーチャートを出力するよう構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の医療用シミュレーションシステム。
【請求項4】
前記病態特徴情報の入力を受け付ける病態特徴入力部を更に備え、
入力された病態特徴が反映された生体モデルを生成して、当該生体モデルに基づく疑似応答情報を取得する疑似応答取得部を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の医療用シミュレーションシステム。
【請求項5】
医療用シミュレーションシステムであって、
生体の病態の特徴を示す病態特徴情報の入力を受け付ける病態特徴入力部と、
入力された病態特徴が反映された生体モデルを生成して、当該生体モデルに基づく疑似応答情報を取得する疑似応答取得部と、
前記病態特徴情報と前記疑似応答情報とを共に出力する出力部と、
を備えていることを特徴とする医療用シミュレーションシステム。
【請求項6】
前記生体モデルは、生体の機能に関する複数のパラメータを含む数理モデルによって構成されており、
前記病態特徴取得部は、前記生体モデルの前記パラメータに基づいて病態特徴情報を取得することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の医療用シミュレーションシステム。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1〜6のいずれかに記載の医療用シミュレーションシステムとして機能させるためのコンピュータプログラム。
【請求項1】
医療用シミュレーションシステムであって、
生体の生体応答を示す生体応答情報の入力を受け付ける生体応答入力部と、
生体応答を模した疑似応答を再現するための生体モデルを生成する生体モデル生成部と、
生成された前記生体モデルに基づいて、当該生体の病態の特徴を示す病態特徴情報を取得する病態特徴取得部と、
前記生体応答情報と前記病態特徴情報とを共に出力する出力部と、
を備えていることを特徴とする医療用シミュレーションシステム。
【請求項2】
前記出力部は、前記生体応答情報として、生体応答の時間的変化を示すグラフを出力するよう構成されていることを特徴とする請求項1記載の医療用シミュレーションシステム。
【請求項3】
前記出力部は、前記病態特徴情報として、病態の特徴に関連した複数の指標を持つレーダーチャートを出力するよう構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の医療用シミュレーションシステム。
【請求項4】
前記病態特徴情報の入力を受け付ける病態特徴入力部を更に備え、
入力された病態特徴が反映された生体モデルを生成して、当該生体モデルに基づく疑似応答情報を取得する疑似応答取得部を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の医療用シミュレーションシステム。
【請求項5】
医療用シミュレーションシステムであって、
生体の病態の特徴を示す病態特徴情報の入力を受け付ける病態特徴入力部と、
入力された病態特徴が反映された生体モデルを生成して、当該生体モデルに基づく疑似応答情報を取得する疑似応答取得部と、
前記病態特徴情報と前記疑似応答情報とを共に出力する出力部と、
を備えていることを特徴とする医療用シミュレーションシステム。
【請求項6】
前記生体モデルは、生体の機能に関する複数のパラメータを含む数理モデルによって構成されており、
前記病態特徴取得部は、前記生体モデルの前記パラメータに基づいて病態特徴情報を取得することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の医療用シミュレーションシステム。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1〜6のいずれかに記載の医療用シミュレーションシステムとして機能させるためのコンピュータプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2007−136009(P2007−136009A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336379(P2005−336379)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】
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