説明

医療用シリンジ

【課題】ロックナットを先端側位置にて安定的に保持することができる、スリップ接続及びネジロック接続のいずれの接続も可能な医療用シリンジを提供する。
【解決手段】外筒10の口部20上を中心軸1a方向に移動可能に、ロックナット30が外筒10の口部20に貫通されている。口部の外周面には、本体11側に、中心軸方向と平行に延びた複数のリブ22と複数の溝25とが形成されている。溝には、本体側ほど大径である第1テーパ面26aと係止突起27とが形成されている。ロックナットは、その内周面に形成された雌ネジ32と、複数の溝に嵌入する複数の嵌入突起38とを備える。嵌入突起の頂部38aは、第1テーパ面の傾斜角度と同じ角度で傾斜している。ロックナットが先端側位置にあるとき、嵌入突起は第1テーパ面と係止突起との間に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療用シリンジに関する。特に、スリップ型及びネジロック型のいずれのタイプのメスコネクタにも接続することができる医療用シリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
シリンジは、薬液の吸引及び分注、採液、採血など医療分野の様々な用途に使用されている。一般に、シリンジは、その先端の口部(オスコネクタ)の形状によってスリップ型とネジロック型の2種類に大別することができる。
【0003】
スリップ型の口部は、先細のテーパ形状を有する雄ルアーで構成される。スリップ型口部は、そのテーパ形状と一致するテーパ形状を有する雌ルアーや、スリット状の切り込みが形成されたゴム製の弁体(「セプタム」と呼ばれることがある)を備えたニードルレスポートなどのメスコネクタに接続される(この接続方法は「スリップ接続」と呼ばれることがある)。スリップ型口部は、鋭利な先端を備えた金属針による誤穿刺や、それにともなう感染等を回避するために用いられることが多い。
【0004】
一方、ネジロック型の口部は、スリップ型口部と同様のテーパ形状を有する雄ルアーと、雌ネジを有するロックナットとで構成される。ロックナットの雌ネジが雄ルアーを取り囲むように、雄ルアーとロックナットとは一体的に形成されている。テーパ形状を有する雄ルアーを、そのテーパ形状と一致するテーパ形状を有する雌ルアーに挿入するとともに、ロックナットの雌ネジを雌ルアーの周囲に形成された雄ネジと螺合させる(この接続方法は「ネジロック接続」と呼ばれることがある)。ネジロック型口部は、雄ルアーと雌ルアーとの意図しない分離や液漏れが低減されるので、血液を扱う用途(例えば透析用チューブとの接続)や作業者が危険に晒される可能性がある分野(例えば抗がん剤の分注)で用いられることが多い。
【0005】
以上のように、スリップ型口部とネジロック型口部とは、用途に応じて一応の使い分けがされるが、実際の医療の現場ではシリンジの口部を、その口部とは異なる型のメスコネクタに接続する必要が生じる場面が少なくない。ところが、ロック型口部を例えばニードルレスポートにスリップ接続しようとしても、雄ルアーの周囲に固定されたロックナットがニードルレスポートに衝突するので、接続することができない。
【0006】
特許文献1には、口部上を移動可能なロックナットを備え、スリップ接続する場合にはロックナットをシリンジ本体側の後退位置に移動させ、ネジロック接続をする場合にはロックナットを口部の先端側位置に移動させることにより、スリップ接続及びネジロック接続の両方の接続をすることができるシリンジが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4522071号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のシリンジでは、先端側位置にあるロックナットは、口部に対して圧接又は係合することにより口部に固定される。
【0009】
ところが、ロックナットを口部に圧接することにより安定的に固定するためには、ロックナットの内径精度及び口部の外径精度を厳密に管理する必要がある。また、ロックナットを口部に係合することにより安定的に固定する場合には、ロックナット及び口部の互いに係合し合う係合部材の寸法精度を厳密に管理する必要がある。従って、いずれの場合も、歩留まりが低下し、コストが上昇するという課題がある。
【0010】
本発明は、上記の従来の課題を解決し、口部上を先端側位置と後退位置との間で移動可能なロックナットを備え、先端側位置にてロックナットを簡単な構造で安定的に保持することができる安価な医療用シリンジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の医療用シリンジは、筒状の本体と前記本体の一端に設けられた筒状の口部とを備えた外筒、及び、前記口部によって貫通されたロックナットを備える。前記口部の外周面には、前記口部の先端側に、先端側ほど小径であるオステーパ部が形成されており、前記本体側に、前記シリンジの中心軸方向と平行に延びた複数のリブと前記複数のリブ間の複数の溝とが形成されている。前記複数の溝には、前記本体側ほど大径である複数の第1テーパ面と複数の係止突起とが形成されている。前記ロックナットは、前記口部上を、最も前記オステーパ部側の位置である先端側位置と最も前記本体側の位置である後退位置との間で前記中心軸方向に沿って移動可能である。前記ロックナットは、その内周面に形成された雌ネジと、前記複数の溝に嵌入する複数の嵌入突起とを備える。前記複数の嵌入突起の前記中心軸に対向する頂部は、前記複数の第1テーパ面の前記中心軸に対する傾斜角度と同じ角度で前記中心軸に対して傾斜している。前記ロックナットが前記先端側位置から前記本体側に移動する際に、前記複数の嵌入突起の前記頂部は前記複数の第1テーパ面に当接し且つ前記複数の第1テーパ面上を摺動する。前記ロックナットの前記先端側位置から前記オステーパ部側への移動は、前記複数の嵌入突起が前記複数の係止突起に当接する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、雌ネジが形成されたロックナットが口部上を中心軸方向に沿って移動可能であるので、先端側位置に移動させたロックナットを用いてネジロック接続をすることができ、ロックナットを後退位置に退避させてスリップ接続をすることができる。
【0013】
ロックナットが先端側位置にあるとき、嵌入突起が係止突起に当接することによりオステーパ部側への移動が制限され、嵌入突起が第1テーパ面に当接することにより本体側への移動が制限される。しかも、嵌入突起の頂部と第1テーパ面とは中心軸に対して同一角度で傾斜しているので、頂部と第1テーパ面とはある大きさを有する領域にて接触する。従って、嵌入突起、係止突起、及び、第1テーパ面の寸法精度を緩和することができる。また、このような簡単且つ安価な構造で、ロックナットを先端側位置にて安定的に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】図1Aは、本発明の実施形態1にかかるシリンジの側面図である。
【図1B】図1Bは、本発明の実施形態1にかかるシリンジの中心軸を含む面に沿った断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態1にかかるシリンジを構成する外筒の口部及びその近傍の斜視図である。
【図3A】図3Aは、本発明の実施形態1にかかるシリンジを構成する外筒の口部及びその近傍の、中心軸を含む面に沿った拡大断面図である。
【図3B】図3Bは、本発明の実施形態1にかかるシリンジを構成する外筒の口部及びその近傍の、係止突起を通る面に沿った拡大断面図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態1にかかるシリンジを構成するロックナットの斜視図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態1にかかるシリンジを構成するロックナットの正面図である。
【図6A】図6Aは、図5の6A−6A線を含む面に沿った、本発明の実施形態1にかかるシリンジを構成するロックナットの断面図である。
【図6B】図6Bは、図5の6B−6B線を含む面に沿った、本発明の実施形態1にかかるシリンジを構成するロックナットの断面図である。
【図7A】図7Aは、ロックナットが先端側位置にある本発明の実施形態1にかかるシリンジのロックナット及びその近傍部分の、シリンジの中心軸を含む面に沿った拡大断面斜視図である。
【図7B】図7Bは、ロックナットが先端側位置にある本発明の実施形態1にかかるシリンジのロックナット及びその近傍部分の、係止突起及び嵌入突起を通る面に沿った拡大断面斜視図である。
【図8】図8は、図7Aの8−8線を含む面に沿った本発明の実施形態1にかかるシリンジの拡大断面図である。
【図9】図9は、ロックナットが後退位置にある本発明の実施形態1にかかるシリンジのロックナット及びその近傍部分の、シリンジの中心軸を含む面に沿った拡大断面図である。
【図10】図10は、第1メスコネクタとネジロック接続をした本発明の実施形態1にかかるシリンジの口部及びその周辺部分の中心軸を含む面に沿った断面図である。
【図11】図11は、第2メスコネクタとスリップ接続をした本発明の実施形態1にかかるシリンジの口部及びその周辺部分の中心軸を含む面に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記の本発明の医療用シリンジにおいて、前記ロックナットは、前記複数のリブの頂部に圧接し前記頂部上を摺動する複数の摺動突起を更に備えることが好ましい。これにより、ロックナットは、先端側位置と後退位置との間のいずれに位置していても、口部上で自由に移動しない。したがって、自由に移動するロックナットが作業の妨げになったり、不快な音を発生させたりするという問題は生じない。また、ロックナットを先端側位置にて更に安定的に保持することができる。
【0016】
前記口部の前記複数の溝に、前記本体側ほど小径である複数の第2テーパ面が、前記複数の第1テーパ面と前記本体との間に形成されていることが好ましい。これにより、ロックナットが後退位置から先端側位置に移動する際に、嵌入突起が第2テーパ面上を摺動するので、ロックナットの後退位置から先端側位置への移動が容易になる。
【0017】
以下に、本発明を好適な実施形態を示しながら詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。以下の説明において参照する各図は、説明の便宜上、本発明の実施形態の構成部材のうち、本発明を説明するために必要な主要部材のみを簡略化して示したものである。従って、本発明は以下の各図に示されていない任意の構成部材を備え得る。また、以下の各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法および各部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0018】
(実施形態1)
図1Aは、本発明の実施形態1にかかる医療用シリンジ(以下、単に「シリンジ」という)1の側面図、図1Bは、シリンジ1の中心軸1aを含む面に沿った断面図である。シリンジ1は、外筒10、ロックナット30、及び、プランジャ90を備えている。外筒10、ロックナット30、及び、プランジャ90の各中心軸は、シリンジ1の中心軸1aと一致する。
【0019】
外筒10は、筒状(好ましくは円筒形状)の本体11を備える。本体11の一端には、本体11より小径の筒状の口部20が、本体11の他端には指掛け用のフランジ12が、それぞれ本体11と一体的に形成されている。以下の説明の便宜のために、シリンジ1の中心軸1aの方向を「前後」方向と呼び、また、口部20の側を「前」側、口部20とは反対側(後述する指当て部91側)を「後ろ」側と呼ぶ。
【0020】
図2は、外筒10の口部20及びその近傍を示した斜視図である。口部20の外周面には、オステーパ部21が口部20の先端側(前側)に形成され、4本のリブ22が本体11側(後ろ側)に形成されている。
【0021】
オステーパ部21は、先端側(前側)ほど外径が小さくなるテーパ面(円錐面)からなる。オステーパ部21は、ISO594−1に規定の100分の6テーパー面を有していると好ましい。
【0022】
リブ22は、中心軸1aに対して半径方向に外向き(中心軸1aから遠ざかる向き)に向かって突出した突起であり、中心軸1aに平行に延びている。4本のリブ22は、中心軸1aに対して等角度間隔で配置されている。
【0023】
図3Aは、口部20及びその近傍の、中心軸1a及びリブ22を含む面に沿った拡大断面図である。リブ22の頂部22a(図2参照)は、中心軸1aに平行である。即ち、リブ22の頂部22aでの口部20の外径(即ち、4本のリブ22の頂部22aに外接する円(外接円)の直径)D22は、中心軸1a方向の位置にかかわらず一定である。頂部22aでの外径D22は、オステーパ部21の最大径より大きい。
【0024】
図2に示されているように、4本の溝25が、周方向に隣り合うリブ22間に形成されている。溝25は、中心軸1aに平行に延びている。各溝25内には、オステーパ部21側から本体11側に向かって、第1テーパ面26a、最大径部26c、第2テーパ面26bがこの順に形成されている。各リブ22を周方向に挟むように、リブ22に隣接して係止突起27が形成されている。係止突起27は、リブ22のオステーパ部21側端又はその近傍に配置されている。
【0025】
図3Bは、口部20及びその近傍の、係止突起27を通る面に沿った拡大断面図である。図3Bの断面は、図3Aの断面と平行である。
【0026】
図2及び図3Bから理解できるように、第1テーパ面26aは、本体11側(後ろ側)ほど外径が大きくなるテーパ面(円錐面)である。第2テーパ面26bは、第1テーパ面26aとは逆に、本体11側(後ろ側)ほど外径が小さくなるテーパ面(円錐面)である。大径部26cは、第1テーパ面26a及び第2テーパ面26bの最大径とほぼ同じ外径を有する円筒面である。
【0027】
係止突起27は、溝25内の第1テーパ面26aから、中心軸1aに対して半径方向に外向きに向かって突出している。
【0028】
図1Bに戻り、プランジャ90は、その後端にフランジ状に拡径した指当て部91が一体的に形成された棒状物である。プランジャ90の前端にはガスケット95が取り付けられている。外筒10のフランジ12側の開口にプランジャ90の前端を挿入する。ガスケット95が外筒10の本体11の内周面との間に液密なシールを形成しながら、本体11の内周面上を中心軸1a方向に摺動する。
【0029】
図4はロックナット30の斜視図、図5はロックナット30の正面図である。ロックナット30は、略円筒形状を有する筒状部31と、筒状部31の一端に設けられた底板35とを備える。筒状部31の内周面には、雌ネジ32が形成されている。底板35の中央には略円形の開口36が形成されている。開口36の内周面には、4つの摺動突起37と、8つの嵌入突起38とが、中心軸1aに向かって突出して形成されている。
【0030】
図6Aは、中心軸1a及び摺動突起37を通る図5の6A−6A線を含む面に沿ったロックナット30の断面図である。図4、図6Aに示されているように、摺動突起37は、中心軸1aに直交する方向(即ち、周方向)に延びたリブ状の突起である。4つの摺動突起37が中心軸1aに対して等角度間隔で配置されている。対向する摺動突起37間の間隔(摺突起37での開口36の内径)D37は、口部20のリブ22での外径D22(図3A参照)よりわずかに小さい(D37<D22)。
【0031】
図4に示されているように、嵌入突起38は、中心軸1aと平行な方向に延びたリブ状の突起である。1つの摺動突起37を一対の嵌入突起38が周方向に挟むように、各摺動突起37の両端に一対の嵌入突起38が配置されている。図5に示されているように、嵌入突起38は、摺動突起37よりも中心軸1aに向かって突出している。
【0032】
図6Bは、嵌入突起38を通る図5の6B−6B線を含む面に沿ったロックナット30の断面図である。図4、図6Bから理解できるように、リブ状の嵌入突起38の中心軸1aに対向する頂部38aは、中心軸1aに対して平行ではなく、雌ネジ32に近づくにしたがって中心軸1aに近づくように傾斜している。頂部38aの中心軸1aに対する傾斜角度は、第1テーパ面26aの中心軸1aに対する傾斜角度と同じである。ここで、「第1テーパ面26aの中心軸1aに対する傾斜角度」は、図3Aに示すように、中心軸1aを含む面に沿った断面において、第1テーパ面26aに沿った直線が中心軸1aに対してなす角度で定義される。開口36の内径は、嵌入突起38の頂部38aの雌ネジ側端(最小径部)38bで最小となる。最小径部38bでの開口36の内径(即ち、嵌入突起38の最小径部38bに内接する円(内接円)の直径)D38(図5参照)は、口部20の係止突起27での外径、及び、口部20の大径部26cでの外径よりわずかに小さい。
【0033】
外筒10及びロックナット30の材料は、特に制限はないが、例えば、透明性が高く、耐薬品性の高い樹脂を用いることができる。例えば、環状ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン等が好ましい。
【0034】
プランジャ90の材料は、特に制限はないが、例えば、環状ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリアセタール等の樹脂が好ましい。
【0035】
ガスケット95の材料は、特に制限はないが、例えば、ブチルゴム、イソプレンゴム、スチレン系熱可塑性エラストマー等が好ましい。
【0036】
外筒10とロックナット30との組み立ては、図1Bに示されているように、ロックナット30の底板35の開口36に、外筒10の口部20を挿入することにより行われる。上述したように、ロックナット30の嵌入突起38の最小径部38bでの内径D38は、口部20の係止突起27での外径よりわずかに小さい。従って、底板35の開口36に口部20を挿入する際に、係止突起27が嵌入突起38に衝突する。ところが、上述したように嵌入突起38の頂部38aは雌ネジ32側ほど開口36の内径が小さくなるように傾斜しているので、わずかな力を加えて口部20をロックナット30の開口36内に押し込めば、係止突起27は嵌入突起38の最小径部38bを乗り越えることができる。かくして、図1Bに示すように、ロックナット30の開口36に口部20を貫通させることができる。
【0037】
図7Aは、中心軸1a及びリブ22を含む面に沿った、ロックナット30及びその近傍部分の拡大断面斜視図である。図7Aの断面は、後述する図8の7A−7A線を含む面に相当する。ロックナット30の摺動突起37が口部20のリブ22の頂部22aに当接している。
【0038】
図8は、ロックナット30の摺動突起37を通る、図7Aの8−8線を含む面に沿った本発明の実施形態1にかかるシリンジ1の拡大断面図である。ロックナット30の周方向に隣り合う摺動突起37間にある2つの嵌入突起38が、口部20の各溝25内に嵌入している。これにより、ロックナット30は口部20の回りを回転することができない。なお、図8では、図面を簡単化するために、本端11の後端に形成されたフランジ12(図1B参照)の図示を省略している。
【0039】
図7Bは、嵌入突起38を通る図8の7B−7B線を含む面(この面は図3B及び図6Bの断面と一致する)に沿ったロックナット30及びその近傍部分の拡大断面斜視図である。口部20に対するロックナット30の相対的位置は、図7Aと図7Bとで同じである。
【0040】
嵌入突起38の雌ネジ側端38bは、係止突起27と係合している。これにより、ロックナット30は口部20に対して前側(オステーパ部21側)に移動することができない。従って、ロックナット30が口部20から抜け落ちるのが防止される。
【0041】
一方、嵌入突起38の頂部38aは、第1テーパ面26aにも当接している。上述したように、頂部38aと第1テーパ面26aとは中心軸1aに対して同一角度で傾斜しているので、頂部38aと第1テーパ面26aとは頂部38aの長手方向(即ち、第1テーパ面26aの母線方向)に沿った線又は略帯状の領域にて接触する。
【0042】
図7A、図7B、図8に示した、口部20に対するロックナット30の位置を、本発明では「先端側位置」と呼ぶ。ロックナット30が先端側位置にあるときの雌ネジ32及びオステーパ部21の相対的位置関係を含む各部の寸法は、ISO594−2に準拠していることが好ましい。
【0043】
ロックナット30の雌ネジ側端(最小径部)38bでの開口36の内径D38は、口部20の大径部26cでの外径より小さいが、その差はわずかである。従って、先端側位置にあるロックナット30に後ろ向き(本体11に向かう向き)の力を加えると、嵌入突起38は、第1テーパ面26a上を摺動し、大径部26cを乗り越えて、更に第2テーパ面26b上を摺動することができる。図9は、最も後ろ側(本体11側)に移動されたロックナット30及びその近傍部分の中心軸1aを含む面に沿った断面図である。図9に示した、口部20に対するロックナット30の位置を、本発明では「後退位置」と呼ぶ。後退位置にあるロックナット30を上述した先端側位置に戻すことも可能である。
【0044】
このように、本実施形態1のロックナット30は、先端側位置と後退位置との間で、口部20上を中心軸1aに沿って移動させることができる。大径部26cに対して一方の側に第1テーパ面26aが形成されているので、ロックナット30を先端側位置から後退位置へ移動させる場合に、嵌入突起38は大径部26cを容易に乗り越えることができる。また、大径部26cに対して他方の側に第2テーパ面26bが形成されているので、ロックナット30を後退位置から先端側位置へ移動させる場合に、嵌入突起38は大径部26cを容易に乗り越えることができる。
【0045】
上述したように、ロックナット30の摺動突起37での開口36の内径D37(図5参照)は、口部20のリブ22での外径D22(図3A参照)よりわずかに小さい(D37<D22)。従って、ロックナット30の摺動突起37は、リブ22の頂部22aに圧接される。ロックナット30が先端側位置と後退位置との間を移動するとき、摺動突起37はリブ22の頂部22aに圧接しながら頂部22a上を摺動する。従って、ロックナット30が先端側位置と後退位置との間のいずれの位置にあっても、摺動突起37とリブ22の頂部22aとの間に発生する摩擦力が、ロックナット30が口部20上を中心軸1a方向に自由に移動するのを防止する。当該摩擦力の大きさは、中心軸1aが鉛直方向になるようにシリンジ1を配置したときに、ロックナット30の自重によってロックナット30が口部20に対して落下するのを防止できる大きさであることが好ましく、更には中心軸1aが鉛直方向になるようにシリンジ1を配置した状態でシリンジ1にわずかな振動や衝撃を加えてもロックナット30を口部20に対して移動させない大きさであることがより好ましい。
【0046】
図8に示した、口部20の溝25にロックナット30の嵌入突起38が嵌入した状態は、ロックナット30が先端側位置と後退位置との間のいずれの位置にあっても変わらない。従って、口部20に対するロックナット30の中心軸1a方向の位置にかかわらず、ロックナット30は口部20の回りを回転することはできない。
【0047】
以上のように構成された本実施形態1にかかるシリンジ1の口部20は、従来のシリンジ(特許文献1)と同様に、ネジロック接続及びスリップ接続の両方式で接続することができる。以下にこれを説明する。
【0048】
最初に、ネジロック接続について説明する。
【0049】
図10は、第1メスコネクタ110とネジロック接続をした口部20及びその周辺部分の中心軸1aを含む面に沿った断面図である。第1メスコネクタ110は略円筒形状を有している。第1メスコネクタ110の内周面には、先端側(シリンジ1側)ほど内径が大きくなるメステーパ面111が形成されている。メステーパ面111は、オステーパ部21と同じテーパ角度を有している。第1メスコネクタ110の外周面には、ロックナット30の雌ネジ32と螺合可能な雄ネジ112が形成されている。
【0050】
口部20と第1メスコネクタ110との接続は以下のようにして行うことができる。
【0051】
一方の手でロックナット30が先端側位置(図7A、図7B、図8参照)にあるシリンジ1の本体11を保持し、他方の手で第1メスコネクタ110を保持する。次いで、口部20の先端のオステーパ部21を第1メスコネクタ110内に挿入する。次いで、第1メスコネクタ110に対してシリンジ1を相対的に回転させ、第1メスコネクタ110の雄ネジ112とロックナット30の雌ネジ32とを螺合させる。上述したように、ロックナット30は口部20の回りを回転することができないから、本体11を保持して回転させると、本体11と一体的にロックナット30も回転する。雄ネジ112と雌ネジ32との螺合が進むにしたがって、口部20のオステーパ部21が第1メスコネクタ110内に更に深く挿入される。そして、遂に、オステーパ部21とメステーパ面111とが密着して、図10に示すネジロック接続が実現される。オステーパ部21とメステーパ面111との間に液密なシールが形成される。雄ネジ112と雌ネジ32とが螺合しているので、振動や衝撃力が加わっても、オステーパ部21とメステーパ面111とが分離することはない。
【0052】
上記の例において、接続前にロックナット30が先端側位置にある必要はない。オステーパ部21を第1メスコネクタ110内に挿入した状態で第1メスコネクタ110に対してシリンジ1を相対的に回転させたときに、雄ネジ112と雌ネジ32とを噛み合わせることができればよい。上述したように、ロックナット30は、口部20上の位置にかかわらず、口部20の回りを回転することができない。従って、雄ネジ112と雌ネジ32とが一旦噛み合えば、その後、第1メスコネクタ110に対してシリンジ1を相対的に回転させれば、雄ネジ112と雌ネジ32との螺合が進み、これにともなってロックコネクタ30は先端側位置に徐々に移動する。従って、上記の例と同様に図10に示すネジロック接続が実現される。
【0053】
図10のネジロック接続は、上記とは概して逆の操作を行うことにより解除することができる。即ち、図10の状態において、一方の手でシリンジ1の本体11を保持し、他方の手で第1メスコネクタ110を保持する。そして、第1メスコネクタ110に対してシリンジ1を上記とは逆向きに相対的に回転させ、雄ネジ112と雌ネジ32との螺合を緩める。これと並行して、シリンジ1と第1メスコネクタ110とを、分離する向きに軽く引っ張れば、オステーパ部21とメステーパ面111とを分離することができる。その後、更に、第1メスコネクタ110に対してシリンジ1を相対的に回転させて、雄ネジ112と雌ネジ32とを完全に分離させる。
【0054】
次に、スリップ接続について説明する。
【0055】
図11は、第2メスコネクタ120とスリップ接続をした口部20及びその周辺部分の中心軸1aを含む面に沿った断面図である。第2メスコネクタ120は略円筒形状を有している。第2メスコネクタ120の内周面には、先端側(シリンジ1側)ほど内径が大きくなるメステーパ面121が形成されている。メステーパ面121は、オステーパ部21と同じテーパ角度を有している。第1メスコネクタ110と異なり、第2メスコネクタ120の外周面には、ロックナット30の雌ネジ32と螺合可能な雄ネジは形成されていない。例えば、第2雄コネクタ120の外径は、ロックナット30の雌ネジ32での最小内径より大きくてもよい。
【0056】
口部20と第2メスコネクタ120とを接続するには、ロックナット30を後退位置(図9参照)に移動させた後、口部20の先端のオステーパ部21を第2メスコネクタ120内に挿入すればよい。オステーパ部21を第2メスコネクタ120内に強く押し込むことにより、オステーパ部21とメステーパ面121とを密着させて、両者間に液密なシールを形成することができる。かくして、図11に示すスリップ接続が実現される。
【0057】
上記の例では、オステーパ部21を第2メスコネクタ120内に挿入する前に、ロックナット30を後退位置に移動させたが、ロックナット30が先端側位置(図7A、図7B、図8参照)にある状態で、オステーパ部21を第2メスコネクタ120内に挿入してもよい。図11のように第2メスコネクタ120の外径が大きい場合には、第2メスコネクタ120の先端がロックナット30の筒状部31に衝突し、オステーパ部21を第2メスコネクタ120内に挿入するのにともなってロックナット30は後退位置に向かって移動する。
【0058】
スリップ接続は、図11の状態においてシリンジ1と第2メスコネクタ120とを分離する向きに軽く引っ張れば、解除することができる。
【0059】
図11では、略筒形状を有する第2メスコネクタ120とスリップ接続する例を示したが、本発明のシリンジ1は、これに限定されない。例えばスリット状の切り込みが形成されたゴム製の弁体(「セプタム」と呼ばれることがある)を備えたニードルレスポートとスリップ接続することも可能である。
【0060】
以上のように、本実施形態1のシリンジ1は、雌ネジ32が形成されたロックナット30が口部20上を中心軸1a方向に沿って移動可能であるので、先端側位置に移動させたロックナット30を用いてネジロック接続をすることができ、ロックナット30を後退位置に退避させてスリップ接続をすることができる。
【0061】
更に、ロックナット30が先端側位置にあるとき、図7Bに示したように、嵌入突起38が係止突起27と係合することによりオステーパ部21側への移動が制限され、嵌入突起38が第1テーパ面26aに当接することにより本体11側への移動が制限される。しかも、頂部38aと第1テーパ面26aとは中心軸1aに対して同一角度で傾斜しているので、頂部38aと第1テーパ面26aとは線又は略帯状の領域にてある大きさを有する面積を介して接触する。このように、ロックナット30の先端側位置での位置決めを円錐面である第1テーパ面26aを用いて行うので、従来の圧接又は係合によりロックナットを固定する場合に比べて、嵌入突起38、係止突起27、及び、第1テーパ面26aの寸法精度を緩和することができる。しかも、頂部38aと第1テーパ面26aとが比較的広い領域で当接するので、ロックナット30を先端側位置にて安定的に保持することができる。
【0062】
ロックナット30が先端側位置にあるとき嵌入突起38が係止突起27と大径部26cとの間の第1テーパ面26a上の凹部に嵌合するので、作業者はロックナット30が先端側位置にあることを指を通じた触覚で認識することができる。また、ネジロック接続を行う場合に、第1メスコネクタ110がロックナット30に衝突したとしてもロックナット30が先端側位置から移動しにくくなるので、接続の作業性が向上する。
【0063】
口部20のリブ22間の溝25に、ロックナット30の嵌入突起38が嵌入するので、ネジロック接続及びその解除を行う場合に、本体11を把持して回転トルクを印加すれば、本体11と一体的にロックナット30を回転させることができる。従って、小さな部品であるロックナット30を把持してこれを回転させる必要がない。これにより、ネジロック接続の作業性が向上する。なお、上記の例では、1つの溝25に2つの嵌入突起38が嵌入したが、当該2つの嵌入突起38を周方向に連続させてもよい。
【0064】
ロックナット30が先端側位置と後退位置との間のいずれに位置しているときであっても、ロックナット30の摺動突起37が口部20のリブ22の頂部22aに圧接されているので、ロックナット30が口部20上で重力等によって自由に移動しない。ロックナット30が口部20上で自由に移動することができると、そのようなロックナット30が作業の妨げになったり、不快な音を発生させたりするという問題が生じる可能性がある。上記の実施形態ではこの問題が解消される。
【0065】
先端側位置にあるロックナット30を前側(オステーパ部21側)に移動させようとすると、嵌入突起38が係止突起27に当接してロックナット30の移動を制限する。これにより、意図せずにロックナット30を口部20から外してしまうという誤操作をする可能性が低減する。上記の例では、1つの溝25内に2つの係止突起27が離間して配置されていたが、当該2つの係止突起27を周方向に連続させてもよい。
【0066】
上述した実施形態1は例示に過ぎない。本発明は上記の実施形態1に限定されず、適宜変更することができる。
【0067】
上記の実施形態1では、ロックナット30の摺動突起37が口部20のリブ22の頂部22aに圧接されていたが、摺動突起37と頂部22aとが単に接触しているだけであってもよく、あるいは、摺動突起37と頂部22aとの間にわずかな隙間が設けられていてもよい。また、口部20のリブ22での外径D22は、中心軸1a方向において一定であったが、中心軸1a方向においてわずかに変化していてもよい。この場合、ロックナット30が先端側位置と後退位置との間のある領域(例えば、後退位置及びその近傍領域)に位置する場合のみ、摺動突起37は頂部22aに圧接され、当該領域以外の領域に位置する場合には摺動突起37と頂部22aとは離間していてもよい。
【0068】
リブ22の数は、上記の実施形態1では4つであったが、本発明はこれに限定されず、2つ、3つ、又は、5つ以上であってもよい。リブ22の数に関わらず、複数のリブ22は中心軸1aに対して等角度間隔で配置されることが好ましい。ロックナット30の摺動突起37及び嵌入突起38は、リブ22の数及び配置に応じて形成される。
【0069】
大径部26cは円筒面である必要はなく、例えば中心軸1a方向に外径が変化する円錐面や曲面など任意の面であってもよい。また、第1テーパ面26aと第2テーパ面26bとが直接接続されていてもよく、この場合は両テーパ面26a,26bの境界が大径部26cとなる。
【0070】
本発明において、口部20の外周面及びロックナット30の開口36の内周面の形状以外の構成は任意である。例えば、公知のいかなるシリンジにも、本発明を適用することができる。
【0071】
本発明のシリンジは、予め液体が充填されていない空のシリンジであってもよく、あるいは、予め液体が充填されたいわゆるプレフィルドシリンジであってもよい。プレフィルドシリンジに充填される液体としては、ワクチン等の薬液や生理食塩水など任意の液体を選択できる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の利用分野は特に制限はなく、薬液の混合や患者への投与、採血などの際に使用されるシリンジとして広範囲に利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 シリンジ
1a 中心軸
10 外筒
11 本体
20 口部
21 オステーパ部
22 リブ
22a リブの頂部
25 溝
26a 第1テーパ面
26b 第2テーパ面
26c 大径部
27 係止突起
30 ロックナット
31 筒状部
32 雌ネジ
36 開口
37 摺動突起
38 嵌入突起
38a 嵌入突起の頂部
90 プランジャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の本体と前記本体の一端に設けられた筒状の口部とを備えた外筒、及び、前記口部によって貫通されたロックナットを備えたシリンジであって、
前記口部の外周面には、前記口部の先端側に、先端側ほど小径であるオステーパ部が形成されており、前記本体側に、前記シリンジの中心軸方向と平行に延びた複数のリブと前記複数のリブ間の複数の溝とが形成されており、
前記複数の溝には、前記本体側ほど大径である複数の第1テーパ面と複数の係止突起とが形成されており、
前記ロックナットは、前記口部上を、最も前記オステーパ部側の位置である先端側位置と最も前記本体側の位置である後退位置との間で前記中心軸方向に沿って移動可能であり、
前記ロックナットは、その内周面に形成された雌ネジと、前記複数の溝に嵌入する複数の嵌入突起とを備え、
前記複数の嵌入突起の前記中心軸に対向する頂部は、前記複数の第1テーパ面の前記中心軸に対する傾斜角度と同じ角度で前記中心軸に対して傾斜しており、
前記ロックナットが前記先端側位置から前記本体側に移動する際に、前記複数の嵌入突起の前記頂部は前記複数の第1テーパ面に当接し且つ前記複数の第1テーパ面上を摺動し、
前記ロックナットの前記先端側位置から前記オステーパ部側への移動は、前記複数の嵌入突起が前記複数の係止突起に当接することにより制限されることを特徴とする医療用シリンジ。
【請求項2】
前記ロックナットは、前記複数のリブの頂部に圧接し前記頂部上を摺動する複数の摺動突起を更に備える請求項1に記載の医療用シリンジ。
【請求項3】
前記口部の前記複数の溝に、前記本体側ほど小径である複数の第2テーパ面が、前記複数の第1テーパ面と前記本体との間に形成されている請求項1又は2に記載の医療用シリンジ。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−111166(P2013−111166A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258811(P2011−258811)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】