説明

医療用シール弁

【課題】長期間放置した場合であっても、支障なくスリットを開放することのできるシール弁を提供する。
【解決手段】スリット34の下端部に、他の部分よりも幅の広い溝部35を設ける。これにより、溝部35がスリット34の開放を誘導し、スリット34の融着を解除することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混注管や医療用容器等の医療器具の開口部に配され、開口部を開閉可能にシールする医療用シール弁に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1や特許文献2に示されている医療用シール弁(以下、単にシール弁と言う。)は、シリコンゴム等の弾性材料で形成され、中央に開閉可能のスリットを有する。特許文献1のシール弁は、注射器の先端部でシール弁を押圧することにより中央部に設けたスリットを開放するものである。一方、特許文献2のシール弁は、注射器の先端部をスリットの内周に挿入することにより、スリットを開放するものである。何れのシール弁も、シール弁を内部側(シールすべき液体が満たされる側)に弾性変形させながらスリットを開放している。
【0003】
【特許文献1】特開2004−209278号公報
【特許文献2】特開2003−325675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなシール弁はゴム等の弾性材料で形成されるため、スリットを閉じた状態で長期間放置すると、スリットが融着して弁の開放に支障を来たす恐れがある。特に、注射器等の先端部で弁体を押圧することで弾性変形させてスリットを開放するタイプのシール弁(特許文献1)の場合、スリットの内周に注射器等を挿入してスリットを開放するタイプのシール弁(特許文献2)と比べてスリットを開放させる力が弱いため、上記のような融着によりシール弁の開放に不具合が生じる恐れが高い。
【0005】
本発明の課題は、長期間放置した場合であっても、支障なくスリットを開放することのできるシール弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、医療器具の開口部に配され、開閉可能なスリットを有し、医療器具内部側に弾性変形することによりスリットを開放する医療用シール弁であって、スリットの医療器具内部側の端部に、スリットよりも幅の広い溝部を設けたことを特徴とする。尚、ここで言う「幅」とは、スリットや溝を介して対向する面の間隔のことである。
【0007】
シール弁を医療器具内部側(以下、単に「内部側」と言う。)に弾性変形させると、スリットが内部側端部から外部側へ向けて順に開いていく。本発明のシール弁は、上記のように、スリットの開放始点となる医療器具内部側の端部に、スリットよりも幅の広い溝部を設けている。これにより、溝部で融着が生じたとしても、溝部における締め付け圧はスリットの締め付け圧よりも小さいため、融着を比較的解除しやすい。従って、溝部がノッチとなってスリットの開放を誘導することができる。
【0008】
この溝部を医療器具内部側へ向けて幅を漸次拡大したV字溝とすれば、スリットの開放を誘導する効果を高めることができる。
【0009】
このようなシール弁の内部側の面のうち、スリットの周りに凸部を設けると、スリットを開放しやすくなる。この理由は明確には解明されていないが、およそ以下のように推定される。すなわち、凸部を設けることによりシール弁が部分的に厚肉となり、この厚肉部がシール弁を弾性変形させる際に抵抗となる。このシール弁を内部側に変形させると、変形抵抗となる凸部が支点となってスリットに大きなズリ応力が加わり、これによりスリットの融着部分を剥離し、スリットを開放することができる。
【0010】
本発明者らの検証によれば、上記のような凸部をスリットの周囲で環状に形成すれば、融着したスリットを開放する効果が高いことが判明した。この場合、スリットの周囲が補強さされているため、シール弁が変形を繰り返すことによりスリットの端部を起点とした亀裂の発生を防止することもできる。一方、この凸部をスリット延長線上の両側に形成した場合、凸部の形成領域を適宜設定することで様々な特性のシール弁を得ることができる。例えば、スリット延長線上の両側の微小領域に凸部を設けると、スリットの幅方向(スリット延長線方向と直交する方向)には凸部が形成されないため、変形抵抗が小さくなり、スリットを開放しやすいシール弁が得られる。一方、凸部をスリットの幅方向の両側部分まで延ばすと、凸部による補強領域が拡大し、スリット両端部の補強効果を増すことができる。
【0011】
例えば、医療器具外部側へ立ち上がった起立部と、起立部の内径側に設けられ、前記スリットが形成された弁部とを備えたシール弁は、弁部の外部側の面のうち、スリット以外の部分を押圧することでスリットを開放することができる。このような構成のシール弁は、スリットを開放させる力が比較的弱いため、本発明を適用してスリットを開放しやすくすることが望ましい。
【0012】
また、前記課題を解決するために、本発明は、医療器具の開口部に配され、開閉可能なスリットを有し、医療器具の弾性変形によりスリットを開放する医療用シール弁であって、スリットに潤滑剤を介在させたことを特徴とする。
【0013】
このように、スリットに潤滑剤を介在させることにより、スリットの融着自体を防止できるため、長期間放置した場合であっても支障なくスリットを開放することができる。例えば、予め潤滑油を含浸させた樹脂材料(含油樹脂)で形成すれば、シール弁の本体からにじみ出た油がスリットに供給されるため、スリットに油を常に介在させることができる。あるいは、シール弁を通常のゴム材等で形成し、刃に油等の潤滑剤を塗布した工具でスリットを形成すれば、スリットを形成すると同時に、スリットを介して対向する面に油を塗布することができ、これによりスリットに潤滑剤を介在させることができる。
【0014】
上記のようなシール弁と、管本体に形成された主流路と、主流路から分岐し、前記シール弁が配置された分岐流路と、管本体に形成され、前記シール弁を支持する支持部と、支持部との協働でシール弁を密着保持するキャップ部材とを有する混注管は、未使用状態で長期間放置した場合であっても、支障なく使用することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように本発明によれば、長期間放置した場合であっても、支障なくスリットを開放することのできるシール弁を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0017】
図1に、本発明にかかるシール弁を備えた医療器具としての混注管の全体構造を示す。このうち、図1(a)は平面図であり、同図(b)は図1(a)中のA−A線断面図であり、同図(c)は同じくB−B線断面図である。
【0018】
この混注管1は、主流路2と、主流路2から直角方向に分岐した分岐流路3とを備える。この主流路2および分岐流路3を形成するため、混注管1は、管本体10、キャップ部材20、およびシール弁30といった構成部品で組み立てられる。以下では、説明の便宜上、分岐流路3の流路方向を「上下方向」とし、分岐流路3の開放側(外部側)を「上側」とし、主流路2側(内部側)を「下側」として説明を進める。
【0019】
管本体10は、貫通孔11を有する中空筒体で、例えば樹脂の射出成形等で一体に成形される。管本体10の両端には、貫通孔11に輸液配管(図示省略)を接続するための接続部12a、12bが設けられる。接続部12a、12b間の中間部に、貫通孔11の内空部と管本体10の上面10aとにそれぞれ開口した分岐孔13が形成されている。管本体10の上面10aの外周縁部には、上方に突出する円筒部14が形成される。円筒部14は、その上端に外径方向へ突出した係止部15を有する。
【0020】
キャップ部材20は、スリーブ部21とスリーブ部21の下端に形成されたフランジ部22とを備え、例えば樹脂の射出成形により一体成形される。スリーブ部21の外周面には、雄ねじ23が形成されている。フランジ部22の外径部には、軸方向に延び、かつ下方を開口させた環状凹部24が形成されている。環状凹部24の外周面には、内径方向に突出する凸部25が形成され、凸部25の最小内径寸法は、管本体10の円筒部14に形成した係止部15の最大外径寸法よりも小さくなっている。キャップ部材20の下面20a、すなわちフランジ部22の下面のうち、環状凹部24の内径側には、下方へ向けて突出した環状の突出部26が形成される。フランジ部22の下面の内径端、すなわちスリーブ部21の下端部には、球面部27が形成される。
【0021】
キャップ部材20を管本体10に装着する際には、環状凹部24に管本体10の円筒部14を挿入しながら、キャップ部材20を押し下げる。これにより、フランジ部22の環状凹部24よりも外径側の領域が凸部25と係止部15の干渉で外径方向に押し広げられ、係止部15が凸部25を乗り越えると同時に前記領域が内径側に弾性復帰し、キャップ部材20が管本体10に装着される。この際、凸部25と係止部15の軸方向係合により、キャップ部材20の抜け止めがなされる。
【0022】
図2に、本発明に係るシール弁30を示す。図1(a)はシール弁30の上面図、同図(b)は図1(a)のA−A線断面図、同図(c)は同じくB−B線断面図、同図(d)は下面図である。
【0023】
シール弁30は、弾性材料、例えばシリコンゴムや天然ゴム、あるいはエステル系エラストマー等のゴム材料で一体形成され、図示のように円板状のベース部31と、ベース部31から上方に立ち上がった起立部32と、起立部32の内径側に形成された弁部33とを具備している。図示例のベース部31の下面の内径端及び外径端は、下方へ僅かに突出して形成される。図示例の起立部32は、ベース部31の内径端部から突出すると共に、ベース部31よりも薄肉であり、かつ上方ほど内径側に漸次変位させた傾斜状をなし、図示例ではその内面32aおよび外面32bの双方を上に凸の部分球面状に形成している。起立部32の形状は、ベース部31の内径端部から突出した形で上方に立ち上がったものである限り任意で、図示例のように内面および外面の双方を球面状に形成する他、何れか一方又は双方を曲率を持たない傾斜状のストレートな面で形成することもできる。
【0024】
弁部33は、中心に上下方向に貫通したスリット34が形成され、弁部33の外部側の面のうち、スリット34以外の部分を押圧することでスリット34を開放する、いわゆるリップ弁として機能する。スリット34の下端には、図3に示すように、スリット34よりも幅の広い溝部35が形成される。本実施形態では、溝部35は下方へ向けて幅を漸次拡大したV字状に形成され、スリット34が閉じた状態(図1の状態)で溝部35を介して対向する面は、少なくとも下端部において離隔している。
【0025】
弁部33の上面の外径端には上方へ向けて突出した環状の上凸部36が形成されており、シリンジ41を分岐流路3に押し込んだ際には、この環状の上凸部36がシリンジ41の口部42先端と当接する(図3参照)。弁部33の下面のうち、スリット34の周囲には環状の下凸部37が形成される。この下凸部37は、スリット34(溝部35)の端部から立ち上がっており、この下凸部37が壁となってスリット34の端部における亀裂の発生を防止することができる。上凸部36は、内径端が下凸部37の形成領域に配されるように設けられる。起立部32の内面32aと下凸部37は滑らかに繋がっており、その境界部、すなわち下凸部37の外径側に形成された上向きの凹部39は、下凸部37の内径側領域よりも上側に位置している。尚、弁部33の下面の下凸部37は、スリット34の端部から立ち上がるものに限らず、例えばスリット34の端部よりも外径側から立ち上がるように形成してもよい。
【0026】
弁部33の下面には、スリット34の開口部を頂点として下に凸の部分球面状の凸状面38が形成される。このように弁部33の下面に凸状面38を設けることにより、シール弁30よりも主流路2側の空間を流体で満たした場合、その内圧によって弁部33に形成した凸状面38が平面に変形しようとする。これにより、弁部33の主として下部には、スリット34を閉じる方向の圧縮力が作用し、凸状面38を平面状に形成する場合に比べてスリットが開きにくくなるため、内圧に対するシール弁30の耐圧性を向上させることができる。尚、凸状面38が特に必要がない場合は、この部分を平坦に形成してもよい。
【0027】
このシール弁30は、ベース部31を管本体10の上面10aの中央部に配した後、キャップ部材20を管本体10に装着することによって混注管1に組込まれる。キャップ部材20の装着により、シール弁30のベース部31が管本体10のキャップ部材20の下面20a、突出部26、および管本体10の上面10aで形成される空間内で圧迫されて弾性変形し、ベース部31がこれら各部に密着する。このとき、ベース部31の下面の内径端が下方へ突出しているため、この突出部を管本体10の上面10aの開口部に嵌め込むことで、シール弁30を位置決めすることができる。また、ベース部30の下面の外径端が下方へ突出していることにより、この部分での密着力が高められ、シール性を向上させることができる。さらに、キャップ部材20を管本体10に装着することにより、キャップ部材10のスリーブ部21の下端に設けられた球面部27で、シール弁30の起立部32の外面32bが圧迫される。これにより、弁部33に内径向きの応力が加わり、スリット34がさらに密着し、シール弁30の密閉性を高めることができる。
【0028】
以上の組立により、管本体10の貫通孔11で主流路2が形成され、管本体10に形成された分岐孔13とキャップ部材20のスリーブ部21の内部空間とで分岐流路3が形成される。シール弁30は分岐流路3の開口部に配置された形となる。
【0029】
この混注管1の分岐流路3の開口部に、例えば図3に示すような注射器40のシリンジ41が装着される。例示した注射器40では、シリンジ41の口部42の周りにカラー43が形成され、このカラー43の内周に雌ねじ44が形成されている。
【0030】
混注管1にシリンジ41を装着する前の状態では、図1(b)に示すようにシール弁30のスリット34が閉鎖しているため、主流路2を流れる流体がシール弁30を越えて分岐流路3に流れ込むことはない。混注管1の分岐流路3にシリンジ41を装着すると、図3に示すように、シリンジ41の口部42がスリーブ部21の内径部に挿入され、シリンジ41のカラー43がスリーブ部21の外径部に配置される。さらに、カラー43の雌ねじ44をキャップ部材20の雌ねじ23と螺合させることにより、シリンジ41を混注管1に固定することができる。
【0031】
シリンジ口部42を弁部33の上凸部36に押し当ててシリンジ41を押し進めると、シール弁30の起立部32が下方へ向けて屈曲変形する。変形前の起立部32および弁部33は、起立部32がベース部31から傾斜状に立ち上がっているため、全体としては上に凸の形状となっているが、変形後は全体として下に凸の形状に変形し、スリット34が開放する。このとき、スリット34の下端に溝部35が形成されることにより、この溝部35がノッチとなってスリットの34の開放を誘導することができるため、スリット34が融着した場合であっても、スリット34を確実に開放することができる。特に本実施形態では、スリット34を閉じた状態(すなわちシリンジ41を装着しない状態)で、溝部35を介して対向する面が離隔しているため、これらの面の融着を防止し、溝部35によるスリット34の開放を誘導する効果を確実に得ることができる。また、弁部33の下面のスリット34の周囲に形成した下凸部37が変形抵抗となることにより、シリンジ41による押圧力を、下凸部37を支点としてスリット34を広げる方向に作用させることができるため、より確実にスリット34を開放することができる。
【0032】
このようにしてシール弁30を開放させた後、主流路2を流れる流体(例えば血液)をシリンジ41に抽出し、あるいは主流路2を流れる流体(例えば薬液)に他の薬液を注入する。
【0033】
本発明の実施形態は以上に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明する。尚、上記の実施形態と同一の構成、機能を有する部位には同一の符号を付して説明を省略する。
【0034】
上記の実施形態では、シール弁30の下面に形成した下凸部37を、スリット34の周りに環状に設けているが、これに限らず、例えば図4(a)〜(d)に示すように、下凸部37をスリット34延長線上の両側に設けても良い。図示例では、2箇所の下凸部37が共に同一円周上に設けられた円弧状を成しており、スリット幅方向の両側の領域は概ね凸部の形成されていない平滑面となっている。これにより、スリット34の幅方向両側において弁部33の肉厚を増すことがないため、シール弁30を変形させやすくなる。また、図示は省略するが、この構成において下凸部37を円周方向に延在し、スリット34の幅方向の両側の領域にも下凸部37が形成されるようにすると、スリット34の端部の補強効果を増すことができる。このように、下凸部37の形成領域を適宜設定することにより、様々な特性のシール弁を得ることができる。
【0035】
また、上記の実施形態では、スリット34を閉じた状態で溝部35を介して対向する面が離隔しているが、例えばこれらの面が密着していてもよい。この場合、溝部35を介して対向する面が融着する可能性はあるが、溝部35はスリット34よりも幅が広いため、溝部35を介して対向する面はスリット34を介して対向する面と比べて締め付け圧が小さい。従って、溝部35を介して対向する面の融着を解除することは比較的容易であるため、上記実施形態と同様に溝部35がノッチとして機能し、スリット34の開放を誘導することができる。
【0036】
以上の実施形態では、シール弁の形状を工夫することにより、融着したスリットを開放可能としているが、例えば、スリットに潤滑剤を介在させてスリットの融着自体を防止し、これによりシール弁を長期間放置した後でも使用可能とすることもできる。具体的には、シール弁を含油樹脂で形成すれば、シール弁の本体からにじみ出た油がスリット間に供給され、これによりスリットに油を介在させることができる。あるいは、通常のゴム材等でシール弁を形成し、刃に油を塗布した工具でスリットを形成することにより、スリットの形成と同時にスリットを介して対向する面に油を塗布し、これによりスリットに油を介在させることができる。この場合、シール弁の形状は特に問わず、例えば図5(a)〜(d)に示すようなシール弁30であっても、融着防止効果を得ることができる。このシール弁30は、図2の実施形態ではスリット34の下端に形成されていたV字状の溝部35が、スリット34の上端に設けられている点で、図1に示すシール弁と構成が異なる。
【0037】
また、上記の実施形態では、シリンジ41で直接シール弁30を押圧する場合を示しているが、これに限らず、例えば図示は省略するが、分岐流路3にシリンジ口部42とは別体の部材(コネクタ)を配置し、このアダプタをシリンジ41の口部42で押し込んでシール弁30を開放することもできる。
【0038】
また、以上の説明では、スリットが一文字形状を成した場合を示しているが、これに限らず、例えば十文字やY字形状のスリットでもよい。この場合、各スリットの下端に溝部が形成される。
【0039】
また、以上の説明では、本発明のシール弁を混注管に適用した場合を示したが、これに限らず、例えば薬液バッグや医療用容器のゴム栓等の開口部を開閉可能に閉塞するシール弁にも適用することができる。
【実施例1】
【0040】
本発明の有用性を確認するために、以下のような試験を行った。
【0041】
まず、比較例として、スリット上端部に溝部を形成したもの(「上V溝」タイプ、比較例1)、及び、比較例1のシール弁の下面に環状の下凸部を形成したもの(「上V溝+環状リブ」タイプ、比較例2、図5参照)を用意し、本発明に係る実施品として、スリットの下端部に溝部を形成したもの(「下V溝」タイプ、実施例1)、実施品1のシール弁の下面のスリット延長線上両側の2箇所に下凸部を形成したもの(「下V溝+部分リブ」タイプ、実施例2、図4参照)、及び、実施例1のシール弁の下面に環状の下凸部を形成したもの(「下V溝+環状リブ」タイプ、実施例3、図2参照)を用意した。これらのシール弁は、シリコンゴム(信越化学工業株式会社製:KE1950−60A/B、硬度60度)で形成した。
【0042】
この実施例及び比較例に係るシール弁をそれぞれ500個形成し、95℃恒温室の中に放置した。この状態で、7日、14日、30日、60日、及び100日経過した時に、それぞれ100個ずつの試験片の融着の有無を確認した。具体的には、各試験片のシール弁を図1で示す混注管に装着し、この混注管に注射器をセットした状態で、注射器のプランジャー(図示省略)を引き上げることができれば「融着無し」と判定し、プランジャーを引き上げることができなければ「融着有り」と判定する。
【0043】
試験結果を以下の表1に示す。この表1の中の数値は、試験片100個の中の「融着有り」と判定されたものの数を示す。この試験結果が示すように、実施例1〜3のシール弁は、比較例1及び2のシール弁と比べて、経時によるスリットの融着が生じにくいことが明らかとなった。特に、実施例3のシール弁(下V溝+環状リブ)は、100日経過後でも100個中僅か1個のシール弁のみに融着が生じたに過ぎず、他の形状のシール弁と比べて格段に優れた結果を示した。尚、実施例3で融着が生じたシール弁は、混注管から一旦注射器を外し、再び装着することによりスリットが貫通したことから、実用的には全く問題無く使用できるものであった。従って、実施例3のシール弁は、今回の試験において実質的に全く融着が生じなかったと言える。
【0044】
【表1】

【実施例2】
【0045】
次に、スリット上端部に溝部を形成した上記の比較例1(「上V溝」タイプ)のシール弁のスリットに潤滑剤を介在させないもの(「オイル無し」タイプ、比較例1)、同形状のシール弁を含油樹脂で形成したもの(「オイルブリード」タイプ、実施例4)、及び、上記比較例1のシール弁のスリットを介して対向する面に油を塗布したもの(「オイル塗布」タイプ、実施例5)を用意した上で、上記と同様の試験を行った。実施例4のシール弁の材料となる含油樹脂は、上記のシリコンゴム100部に対し、メチルフェニルシリコンオイルKF−54(信越化学工業株式会社製)2部を添加したものである。実施例5のシール弁は、上記のシリコンゴムで成形した後、上記のメチルフェニルシリコンオイルを含浸させたウエスに2mm巾の金属刃の両面を押し付けてオイルを転移させ、この刃でシール弁にスリットを形成することにより、スリットを介して対向する面にオイルを塗布したものである。
【0046】
試験結果を以下の表2に示す。この試験結果より、スリットにオイルを介在させない比較例1のシール弁は経時によりスリットの融着が生じたのに対し、スリットにオイルを介在させた実施例4及び5にはスリットの融着がほとんど生じなかった。これにより、スリットにオイルを介在させることにより、スリットの融着を防止できることが確認できた。
【0047】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】(a)図は、混注管の平面図であり、(b)図は、(a)図中のA−A断面図であり、(c)図は、(a)図中のB−B線断面図である。
【図2】(a)図は、本発明に係るシール弁の上面図であり、(b)図は、(a)図中のC−C断面図であり、(c)図は、(a)図中のD−D断面図であり、(d)図は下面図ある。
【図3】混注管の断面図である(シール弁開放状態)。
【図4】(a)図は、本発明の他の実施形態に係るシール弁の上面図であり、(b)図は、(a)図中のC−C断面図であり、(c)図は、(a)図中のD−D断面図であり、(d)図は下面図ある。
【図5】上V溝+環状リブタイプのシール弁の断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 混注管
2 主流路
3 分岐流路
10 管本体
20 キャップ部材
30 シール弁
31 ベース部
32 起立部
33 弁部
34 スリット
35 溝部
36 上凸部
37 下凸部
38 凸状面
39 凹部
40 注射器
41 シリンジ
42 口部
43 カラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療器具の開口部に配され、開閉可能なスリットを有し、医療器具内部側に弾性変形することによりスリットを開放する医療用シール弁であって、
スリットの医療器具内部側の端部に、スリットよりも幅の広い溝部を設けたことを特徴とする医療用シール弁。
【請求項2】
前記溝部が、医療器具内部側へ向けて幅を漸次拡大したV字溝である請求項1記載の医療用シール弁。
【請求項3】
医療器具内部側の面のうち、スリットの周りに凸部を設けた請求項1記載の医療用シール弁。
【請求項4】
前記凸部をスリットの周囲で環状に形成した請求項3記載の医療用シール弁。
【請求項5】
前記凸部をスリット延長線上の両側に設けた請求項3記載の医療用シール弁。
【請求項6】
医療器具外部側へ立ち上がった起立部と、起立部の内径側に設けられ、前記スリットが形成された弁部とを備えた請求項1記載の医療用シール弁。
【請求項7】
医療器具の開口部に配され、開閉可能なスリットを有し、弾性変形することによりスリットを開放する医療用シール弁であって、
スリットに潤滑剤を介在させたことを特徴とする医療用シール弁。
【請求項8】
含油樹脂で形成し、この含油樹脂からにじみ出た油をスリット間に供給する請求項7記載の医療用シール弁。
【請求項9】
スリットを介して対向する面に潤滑剤を塗布した請求項7記載の医療用シール弁。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載のシール弁と、管本体に形成された主流路と、主流路から分岐し、前記シール弁が配置された分岐流路と、管本体に形成され、前記シール弁を支持する支持部と、支持部との協働でシール弁を密着保持するキャップ部材とを有する混注管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−172099(P2009−172099A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12874(P2008−12874)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(000112576)フカイ工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】