説明

医療用弁体及び医療用挿入補助具

【課題】止血性が良好であり、デバイスの挿入位置が中心からずれても通過抵抗が増大しない操作性に優れた医療用弁体及び医療用挿入補助具を提供する。
【解決手段】弁本体45の上面から下面に向けて貫通するようにカテーテル等の長尺挿入物を液密性を保持しつつ挿入可能な密着孔46が形成された弾力性を有する弁本体45で構成してあり、長尺挿入物を挿入する側の弁本体45の上面41には、密着孔46を中心として、複数の鱗形状の凸部42a〜42dが、半径方向及び円周方向に連続して、外側方向に向かって順に上に重なるように形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用弁体及び医療用挿入補助具に係り、止血性が良好で挿入物の挿入時及び引き抜き時の抵抗が小さい操作性に優れた医療用弁体及び医療用挿入補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
心不全等の心機能低下時の治療のために用いる大動脈内バルーンポンピング法(いわゆるIABP法)、心臓の回りの血管を広げるため等の治療のために用いる経皮的冠動脈形成方法(いわゆるPTCA法)、心臓の血流量を計測するため等に用いられる熱希釈カテーテル法(いわゆるTDC法)等の治療法又は診断法では、患者の動静脈血管内にカテーテル管を挿入する。この際、カテーテル管を患者の血管内に挿入するためにシースイントロデューサ等の医療用挿入補助具が用いられる。
【0003】
シースイントロデューサは、内部に通孔が形成されたシースを有する。このシース内には、必要に応じて針状のダイレータが挿入され、その状態で、患者の血管内にダイレータの先端部が挿入され、血管の挿入口をダイレータにより押し広げる。その後、ダイレータは、シースの基端部から抜き出され、血管の挿入口に先端が挿入された状態のシースの内部通孔を通して、カテーテル管が血管内に導入される。
【0004】
このようなシースイントロデューサでは、シースの基端部に弁体が装着してあり、シースからダイレータを抜き取った後、カテーテル管を挿入するまでの間に、患者の血管からシースを通して血液が漏出することを防止している。この医療用弁体は、ダイレータがシース内に挿入されている間と、シースを通してカテーテル管を血管内に挿入する間にも、止血作用を奏することが要求される。
【0005】
シース内に装着される医療用弁体としては、従来より、十字形状又はY字形状の切込み状スリットから成る密着孔が形成された弾力性円盤状弁体が知られている。しかし、そのような従来の弁体は、カテーテルやガイドワイヤー(以下、弁体を通過させる部材をデバイスと総称する場合もある。)を弁体に挿入するときの抵抗が大きく、医療現場においてカテーテル等の挿入が容易でない場合がある。そこで、十字形状又はY字形状の切込み状スリットと、このスリットに連続する細孔と、この細孔に連続する円錐状の凹部との組合せから成る密着孔を持つ弾力性円盤状弁体が開発されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0006】
また、止血性がより良好であり、挿入物の挿入時及び引き抜き時の抵抗が小さい操作性に優れた医療用弁体として、弁体の上面に密着孔を中心として複数の隆起物を形成した弁体も開発されている(例えば、特許文献3参照)。この弁体においては、隆起物を半径方向及び円周方向に断続して成形することで、弁体の止血性を良好に保持し、挿入物の挿入時及び通過時の抵抗を従来に比べて小さくするという作用を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実公平5−4843号公報
【特許文献2】実開平6−39011号公報
【特許文献3】特開平11−276595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、特許文献3に開示されている弁体及びこれを用いた挿入補助具(シースイントロデューサ)は、それまでの弁体やシースイントロデューサと比較すると止血性も良好で操作性の良いものであるが、カテーテルやガイドワイヤー等のデバイスを密着孔のスリットを通過させる際、最初にデバイス先端が接触する位置が中心からずれると、通過抵抗が大きくなるという問題があった。
また、医療現場においては、なお一層通過抵抗が小さく操作性の良い弁体が望まれている。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、デバイスを通過させる際の通過抵抗が一層小さく、また、特にデバイスが中央から外れた位置に接触し通過させる場合も、通過抵抗が大きくなることを防止し、より一層操作性に優れた医療用弁体及び医療用挿入補助具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明の医療用弁体は、弁本体の上面から下面に向けて貫通するように長尺挿入物を液密性を保持しつつ挿入可能な密着孔が形成された弾力性を有する弁本体で構成してあり、前記弁本体の略中心に切り込み状スリットを有し、前記弁本体の上面には、中心側の幅が外側の幅よりも狭い所定の平面形状を有する複数の凸部が形成されていることを特徴とする。
前記凸部の幅は、外側の幅が1に対し中心側の幅が0.8以下の比であることが好ましい。
【0011】
好ましくは、前記複数の凸部の平面形状は、鱗形状、三角形形状、四角形形状、多角形形状、半円形状、半楕円形状、曲線三角形形状又はダルマ形状のいずれかであり、より好ましくは、三角形形状であり、さらに好ましくは鱗形状(二等辺三角形の等辺が外側に膨らんだ曲線に形成されている曲線三角形)である。
【0012】
また好ましくは、前記複数の凸部は、前記弁本体の前記略中心から外側に向けて、外側の前記凸部が上となるように段状に重ね合わされた形態に形成されている。
【0013】
また好ましくは、前記弁本体の上面には、当該弁本体の前記略中心に向けて凹となったテーパ状傾斜面が形成されており、凸部は、前記テーパ状傾斜面に形成されている。
【0014】
また好ましくは、前記複数の凸部の高さは、0.01〜2mmであり、より好ましくは0.05〜0.15mmである。
【0015】
また好ましくは、前記複数の凸部の各々は、前記弁本体の前記略中心に対して、−45〜+50度の角度範囲を指向するように形成されており、より好ましくは、0度、すなわち、前記弁本体の前記略中心に先端が向いた形態に形成されている。
【0016】
また好ましくは、本発明の医療用弁体には、前記弁本体の上面に、前記所定の平面形状を有する凸部が、2〜100個形成されており、より好ましくは、20〜50個形成されている。
【0017】
また好ましくは、前記凸部の表面には、摩擦抵抗を低減させる物質がコーティングしてある。摩擦抵抗を低減させるコーティング物質としては、特に限定されないが、四フッ化エチレン重合体、四フッ化エチレン−エチレン共重合体、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、四フッ化エチレン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−四フッ化プロピレン共重合体等のフッ素樹脂;ビニリデンフルオライド−六フッ化プロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−六フッ化プロピレン−四フッ化エチレン共重合体、ビニリデンフルオライド−四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等のフッ素ゴム;ポリウレタン、ポリパラキシリレン等が例示される。
【0018】
また、本発明の医療用挿入補助具は、前述のいずれかの本発明の医療用弁体と、前記医療用弁体を保持するシースとを有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、デバイスを通過させる際の通過抵抗が一層小さく、また、特にデバイスが中央から外れた位置に接触し通過させる場合も、通過抵抗が大きくなることを防止し、より一層操作性に優れた医療用弁体及び医療用挿入補助具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1(A)〜(C)は、本発明の一実施形態に係る医療用弁体の構成を示す図であり、(A)は斜視図であり、(B)は断面図であり、(C)は背面図である。
【図2】図2(A)及び(B)は、図1と同じく本発明の一実施形態に係る医療用弁体の構成を示す図であり、(A)は平面図であり、(B)は(A)の領域Aの拡大図である。
【図3】図3は、図1に示す医療用弁体が用いられる医療用挿入補助具の断面図である。
【図4】図4は、図3に示す医療用挿入補助具の使用状態を示す第1の図である。
【図5】図5は、図3に示す医療用挿入補助具の使用状態を示す第2の図である。
【図6】図6(A)〜(D)は、各々、図3に示す医療用挿入補助具の使用手順を示す図である。
【図7】図7(A)〜(C)は、各々、図6に続いて図3に示す医療用挿入補助具の使用手順を示す図である。
【図8】図8(A)〜(D)は、各々、本発明に係る医療用弁体の凸部の変形例を示す図である。
【図9】図9(A)〜(C)は、各々、本発明に係る医療用弁体の凸部の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態について、図1〜図7を参照して説明する。
図1及び2に示す本実施形態に係る医療用弁体40は、例えば図3に示す医療用挿入補助具としてのイントロデューサ6の基端部に装着される。イントロデューサ6は、図4及び図5に示すように、ダイレータ4と組み合わされて用いられる。
【0022】
まず、ダイレータ4とイントロデューサ6との概略について説明する。
ダイレータ4は、図4に示すように、血管の挿入口を押し広げるためのテーパ状先端部8aが形成されたダイレータ本体8と、このダイレータ本体8の基端部に接合してあるキャップ部10とを有する。
【0023】
ダイレータ本体8は、図5に示すように、中空のチューブで構成してあり、その内部に、ガイドワイヤー挿通孔8bが形成してある。このダイレータ本体8の基端部に、ダイレータハブ部12及びキャップ部10が、接着又は融着等の手段で接合してある。ダイレータ本体8は、例えばフッ素樹脂、ポリアミド、ポリエチレン製のチューブで構成され、その内径は、例えば0.5〜2.0mmであり、その肉厚は、例えば0.1〜2.0mmである。
【0024】
イントロデューサ6は、図4に示すように、ダイレータ本体8の先端部8aが突き出すように差し込まれるシース14と、このシース14の基端部に接合してあるシースハブ部16とを有する。シース14は、図3に示すように、中空のチューブで構成してあり、その内部に、ダイレータ本体8が挿通するようになっている。シース14の長さは、その先端から、ダイレータ本体8のテーパ状先端部8aが突き出すように設計される。
【0025】
シース14は、例えばフッ素樹脂、ポリウレタン、ポリアミド製のチューブで構成され、その内径は、例えば1.0〜5.0mmであり、その肉厚は、例えば0.1〜1.0mmである。
【0026】
このシース14の基端部には、シースハブ部16が、接着又は融着等の手段で接合してある。シースハブ部16には、ルアーチューブ20が接続してある。ルアーチューブ20は、シース14とダイレータ本体8との隙間に連通し、このルアーチューブ20を通して、血液の吸引、ヘパリン等の薬液や生理食塩水等の注入を行うことが可能になっている。
【0027】
シースハブ部16は、図5に示すように、キャップ部10の内部に形成してある嵌合用空間22内に着脱自在に嵌合可能になっている。また、本実施形態においては、シースハブ部16の外周に、リング状の係合用凸部24が形成してあり、キャップ部10の内周に、係合用凸部24に係合する係合用凹部26が形成してある。
【0028】
係合用凸部24の突出高さは、特に限定されないが、その外径が、シースハブ部16の外径の10〜16%程度大きいことが好ましい。係合用凹部26の溝深さは、係合用凸部24の突起が係合するように設計される。
【0029】
シースハブ部16の外径aは、キャップ部10の内径bに対して、同等以上、好ましくは、3〜7%大きいことが好ましい。キャップ部10内にシースハブ部16が嵌合することで、キャップ部10の内径bが、3〜7%拡張され、キャップ部10とシースハブ部16との一体化が確実になり、これらが外れ難くなるからである。
【0030】
本実施形態では、キャップ部10は、好ましくはショア硬度で90A以下、さらに好ましくは85A〜70Aの軟質合成樹脂又はエラストマーで構成してあり、具体的には、ポリウレタン又はポリ塩化ビニル(PVC)、ナイロン、天然ゴム、スチレン系エラストマー等で構成してある。また、シースハブ部16は、曲げ弾性率が5000〜30000kg/cm の硬質合成樹脂で構成してあり、具体的には、ABS、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアセタール、ポリアクリルニトリル、ナイロン、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、あるいはポリプロピレン(PP)等で構成してある。
【0031】
本実施形態に係るイントロデューサ6のシースハブ部16には、図3に示すように、その基端部内部に医療用弁体40が装着してある。
本実施形態では、医療用弁体40は、図1(A)〜(C)、及び、図2(A)及び(B)に示すように、その中心部に、ダイレータ4等の長尺挿入物を液密性を保持しつつ挿入可能な密着孔46が形成された弁本体45を有する。本実施形態では、密着孔46は、図1(B)に示すように、弁体40の上面41側に形成された細孔48と、下面43側に形成されたスリット50とから成る。細孔48の上面41側には、テーパ状傾斜面52が形成してあり、ダイレータ4等の挿入を案内するようになっている。
【0032】
弁本体45の上面のテーパ状傾斜面52には、密着孔46を中心として、複数の凸部42(42a〜42d)が、半径方向及び円周方向に連続して、弁本体45と一体成形してある。これら凸部42の形状は、中心側の幅が外側の幅よりも狭い平面形状を有する凸部であれば任意の形状でよく、例えば、いわゆる鱗形状、三角形形状、四角形形状、多角形形状、半円形状、半楕円形状、二等辺三角形の二等辺が内側あるいは外側に膨らんだ曲線で形成してあるいわゆる曲線三角形形状、あるいは、ダルマ形状等の形状を適用することができる。本実施形態では、図2(A)及び(B)に示すような、いわゆる鱗形状、すなわち、二等辺三角形の等辺が外側に膨らんだ曲線に形成されている曲線三角形である。
【0033】
本実施形態において、この凸部42は、密着孔46側から外側に向けて4重に構成されている。すなわち、密着孔46の近傍に、密着孔46の周囲を全周にわたって連続して取り巻くように、8個の最内周の鱗状凸部42aが形成されている。
また、最内周の鱗状凸部42aの外側に、同じく8個の2周目の鱗状凸部42bが形成されている。2周目の鱗状凸部42bは、その先端の位置が最内周の鱗状凸部42aの先端位置とずれるように、すなわち、最内周の鱗状凸部42aの隣接する凸部の先端の間に2周目の鱗状凸部42bの先端が配置されるように形成される。また、2周目の鱗状凸部42bの先端側部分は、最内周の鱗状凸部42aの外側部分の上に段状に重ね合わせられる形態で形成される。
【0034】
さらに、その2周目の鱗状凸部42bの外側に、同じく8個の3周目の鱗状凸部42cが形成されている。3周目の鱗状凸部42cは、その先端の位置が2周目の鱗状凸部42bの先端位置とずれるように、すなわち、2周目の鱗状凸部42bの隣接する凸部の先端の間に3周目の鱗状凸部42cの先端が配置されるように、さらに換言すればその先端の位置は最内周の鱗状凸部42aの先端と周方向位置が同じ位置となるように形成される。また、3周目の鱗状凸部42cの先端側部分は、2周目の鱗状凸部42bの外側部分の上に段状に重ね合わせられる形態で形成される。
【0035】
さらにまた、その3周目の鱗状凸部42cの外側に、同じく8個の4周目(最外周)の鱗状凸部42dが形成されている。4周目の鱗状凸部42dは、その先端の位置が最内周及び3周目の鱗状凸部42a及び42cの先端位置とずれるように、すなわち、最内周及び3周目の鱗状凸部42a及び42cの各々隣接する凸部の先端の間に4周目の鱗状凸部42dの先端が配置されるように、さらに換言すればその先端の位置は2周目の鱗状凸部42bの先端と周方向位置が同じ位置となるように形成される。また、4周目の鱗状凸部42dの先端側部分は、3周目の鱗状凸部42cの外側部分の上に段状に重ね合わせられる形態で形成される。
【0036】
このように、最内周の8個の凸部42a〜最外周の8個の凸部42dの合計32個の凸部は、径方向に隣接する凸部に対して、約22.5度の角度で周方向にズレた位置に配置される。
また、各周の8個の凸部42a〜42dは、各々周方向において略等間隔に配置されている。
【0037】
また、各凸部42(42a〜42d)は、密着孔46の中心方向を指向するように配置される。各凸部42を密着孔46の中心方向を指向するように配置するとは、例えばその凸部が線対称な形状である場合には、対称軸が通過する特定の頂点、あるいは、対称軸が通過する辺のうちで幅の狭い辺が、密着孔46側となって、その対称軸が径方向となるように配置することを意味する。また、その凸部が線対称な形状でない場合は、対向する特定の頂点と特定の辺について、頂点の方が密着孔46側となって配置すること、あるいは、対向する特定の辺と特定の辺について、幅の狭い辺の方が密着孔46側となって配置することを意味する。
【0038】
なお、各凸部の指向方向は、各凸部の配置において密着孔46の中心方向に一致するのが好ましいが、例えば中心方向を基準として−45〜+50度の角度範囲でずれていても差し支えない。
【0039】
また、これらの凸部42の外径及び高さは特に限定されないが、その高さは、例えば0.01〜2mmが好ましく、0.05〜0.15mmであることがより好ましい。
【0040】
本実施形態では、このような凸部42a〜42dは、射出成形等を用いることにより、弁本体45と一体に成形してある。医療用弁体40を構成する弁本体45の材質は、特に限定されないが、例えば天然ゴム、ブチルゴム、エチレン―プロピレンゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、シリコーンゴム、ポリウレタン、フッ素ゴム等の合成ゴム、好ましくはシリコーンゴムで構成される。細孔46及びスリット50及び脚部54は、弁体40の成形と同時に成形しても良いし、円盤状の成形体を成形した後に、機械加工により形成しても良い。
【0041】
また、本実施形態では、凸部42a〜42dの表面には、フッ素ゴムから成るコーティング材をコーティングしてある。滑り特性を向上させるためである。また、医療用弁体40の表面全体には、シリコーンオイル等を塗布することが好ましい。滑り特性を向上させるためと弁体40を保護するためである。
【0042】
密着孔46の上面41側の略中心に形成される細孔48の内径は、細孔48に挿入される長尺挿入物の外径(一般には、ガイドワイヤーの径、使用されるカテーテル径又はダイレータ径)よりも小さく設計されることが好ましく、具体的には、0.1〜4.0mm程度である。
【0043】
密着孔46の下面43側に形成されるスリット50は、本実施形態では、十字形状のスリットである。スリット50の上部は、細孔48に対して連通可能になっており、スリット50の切込み幅は、細孔48側で細孔48の内径と略同一であり、下面43側の切り込み幅は、細孔48の内径に対して、約1〜5倍程度の大きさであり、下面側に向けてテーパ状に切り込み幅が大きくなっている。なお、スリット50の切り込み幅は、テーパ状にすることなく、弁本体45の厚み方向に同じ幅であっても良い。ただし、スリット50の切込み断面を、弁本体45の下面43に向けて末広がりにすることで、漏れようとする血液等の体液の圧力が、スリット50における幅広の切込み断面側から幅狭の切込み断面側に作用し、幅狭の切込み断面側でスリット50と挿入物(例えばダイレータ4)との隙間を閉じ、止血性が良好に保たれる。
【0044】
弁体40を構成する弁本体45の厚みは、特に限定されないが、長尺挿入物の挿入がスムーズに行われ、適切なシール性を有するように決定され、具体的には、0.5〜5.0mm程度である。
細孔48の深さは、本実施形態では、0.2〜0.6mmであり、スリット50の溝深さは、弁本体45の厚みから細孔48の深さを引いた値である。
【0045】
図1(B)に示すように、本実施形態では、弁本体45の下面外周部に、軸方向に延びる脚部54が一体に成形してある。脚部54は、弁本体45の周方向に沿って連続的に設けても良いし、断続的に設けても良い。脚部54の軸方向高さは、本実施形態では、0.5〜8mm程度である。また、脚部54の半径方向幅は、本実施形態では、0.5〜10mm程度である。
【0046】
このようにして形成された医療用弁体40は、前述したように、例えば図3に示すイントロデューサ6のシースハブ部16の基端部内部に装着される。
【0047】
本実施形態に係る医療用弁体40を持つイントロデューサ6を用いて、カテーテル管を血管内に挿入するには、次のようにして行う。
まず、図6(A)に示すように、患者の皮膚30の上から、外套針(カニューラ)と内套針より構成される穿刺針を突き刺し、その先端を、血管32内に位置させる。
次に、図6(B)に示すように、外套針(カニューラ)を残したまま内套針を抜き出し、図6(C)に示すように、内套針を抜き出した穴から、ガイドワイヤー34を血管32内に挿入する。
【0048】
次に、図6(D)に示すように、挿入したガイドワイヤー34に沿って、外套針を抜き出し、その後、ガイドワイヤー34を図5に示すダイレータ本体8の挿通孔8b内に通し、このガイドワイヤー34に沿って、イントロデューサ6とダイレータ4とを一体化したカテーテル管挿入具の先端部を血管の挿入口36に差し込む。その状態を図7(A)に示す。
【0049】
イントロデューサ6内にダイレータ4を一体化させるために、本実施形態では、イントロデューサ6の基端部側のシースハブ部16からダイレータ4のダイレータ本体8を差し込み、ダイレータ本体8のテーパ状先端部8aを、シース14の先端から突き出させる。そして、ダイレータ4の基端部に形成してあるキャップ部10を、シース8の基端部に形成してあるシースハブ部16の外周に装着する。すなわち、シースハブ部16をキャップ部10の内周に押し込む。その結果、図5に示すように、キャップ部10の内周に形成してある係合用凹部26に、シースハブ部16の外周に形成してある係合用凸部24が係合し、イントロデューサ6とダイレータ4とは、軸方向及び回転方向に相対移動不能になり、両者は一体化される。
【0050】
その際に、本実施形態では、キャップ部10が、軟質合成樹脂で構成してあり、シースハブ部16が硬質合成樹脂で構成してあることから、両者の嵌合は強固であり、挿入作業時に、これらの嵌合が外れることはない。
【0051】
一体化されたイントロデューサ6とダイレータ4とから成るカテーテル管挿入具の先端を、図7(A)に示すように、血管の挿入口36に差し込めば、ダイレータ6の先端に形成してあるテーパ状先端部8aが、血管の挿入口36を押し広げる。さらにカテーテル管挿入具の先端を押し込めば、シース14の先端も、血管内に挿入される。
【0052】
その後、カテーテル管挿入具の基端部を操作し、キャップ部10をシースハブ部16に対して傾ける等して、係合用凸部24と係合用凹部26との係合を解除し、キャップ部10をシースハブ部16から取り外す。その際に、本実施形態では、キャップ部10が、軟質合成樹脂で構成してあることから、係合用凸部24と係合用凹部26との係合の解除も容易である。
【0053】
その後、図7(B)に示すように、キャップ部10をシースハブ部16に対して基端部側からガイドワイヤー34と共に引き抜けば、ダイレータ本体8とガイドワイヤー34がシース14内から引き抜かれ、図7(C)に示すように、シース14のみが残される。
その後、基端部側からイントロデューサ6内にカテーテル管を差し込めば、カテーテル管は、血管32内に都合良く挿入される。
【0054】
以上説明したように、本実施形態の医療用弁体40あるいはシースイントロデューサ6においては、密着孔46が細孔48とスリット50との組合せであるため、イントロデューサ6内にダイレータ本体8あるいはカテーテル管等の長尺挿入物が挿入されている間でも、イントロデューサ先端側から流入する血液は、医療用弁体40により良好にシールされる。
【0055】
すなわち、細孔48は、挿入物が細孔48内に挿入されない状態では、止血性がないが、細孔48に挿入物が差し込まれる状態で、止血性を保持する。また、ダイレータ4をイントロデューサ6から抜き取りカテーテル管を挿入する間までのように医療用弁体40に対して何も挿入されていない状態では、スリット50が閉じているので、良好な止血作用を奏する。
したがって、本実施形態に係る医療用弁体40及びそれを持つイントロデューサ6では、カテーテル等の長尺挿入物を挿入する前の状態及び挿入中の状態の双方において止血性が良好である。
【0056】
また、本実施形態に係る医療用弁体40及びそれを持つイントロデューサ6では、カテーテル等の挿入物を挿入する側の弁本体45の上面41に、密着孔46を中心として、複数の凸部42a〜42dを、半径方向及び円周方向に連続して一体成形してあるので、弁体の止血性を良好に保持したまま、挿入物の挿入時及び通過時の抵抗が従来に比べて大幅に小さくなり、操作性が向上する。
【0057】
さらに、弁本体45の上面41にこのような形態で鱗状の凸部(突起部)を形成することにより、カテーテルやガイドワイヤー等のデバイスを通過させる際に、最初に接触した位置が中心から若干ずれた位置であったとしても、デバイスの通過抵抗が増大することを防ぐことができる。その結果、非常に操作性の優れた医療用弁体及び医療用挿入補助具を提供することができる。
【0058】
また、本実施形態の医療用弁体40及びそれを持つイントロデューサ6では、弁体40の下面43側に脚部54を形成することで、カテーテル等の長尺挿入物を挿入するとき及び引き抜くときに、弁本体45の下面側に生じる圧縮力又は引張力を分散することが可能になる。その結果、挿入物を挿入するとき及び引き抜くときの抵抗をさらに低減することができる。
【0059】
なお、前述した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって本発明を何ら限定するものではない。本実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含み、また任意好適な種々の改変が可能である。
【0060】
例えば、弁本体の上面に形成する凸部の形状は、前述した実施形態のような鱗形状でなくともよく、任意の形状でよい。例えば図8(A)に示すような三角形形状であってもいし、図8(B)に示すような台形形状であってもよいし、図8(C)に示すような五角形形状であってもよいし、あるいは、図8(D)に示すような曲線三角形形状であってもよい。
また、図9(A)に示すような半円形状であってもよいし、図9(B)に示すような直角三角形形状であってもよいし、図9(C)に示すようなダルマ形状であってもよい。
【0061】
また、弁体に形成する密着孔の具体的構成も、本実施形態のように細孔とスリットとの組合せに限定されるものではなく、種々に改変してよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、医療用弁体及び医療用挿入補助具に係り、例えば、医療用具の製造業等において利用可能である。
【符号の説明】
【0063】
4…ダイレータ
6…イントロデューサ(医療用挿入補助具)
8…ダイレータ本体
10…キャップ部
14…シース
16…シースハブ部
40…医療用弁体
41…上面
42a〜42d…凸部
43…下面
45…弁本体
46…密着孔
48…細孔
50…スリット
52…テーパ状傾斜面
54…脚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁本体の上面から下面に向けて貫通するように長尺挿入物を液密性を保持しつつ挿入可能な密着孔が形成された弾力性を有する弁本体で構成してあり、
前記弁本体の略中心に切り込み状スリットを有し、
前記弁本体の上面には、中心側の幅が外側の幅よりも狭い所定の平面形状を有する複数の凸部が形成されていることを特徴とする医療用弁体。
【請求項2】
前記複数の凸部の平面形状は、鱗形状、三角形形状、四角形形状、多角形形状、半円形状、半楕円形状、曲線三角形形状又はダルマ形状のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の医療用弁体。
【請求項3】
前記複数の凸部は、前記弁本体の前記略中心から外側に向けて、外側の前記凸部が上となるように段状に重ね合わされた形態に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の医療用弁体。
【請求項4】
前記弁本体の上面には、当該弁本体の前記略中心に向けて凹となったテーパ状傾斜面が形成されており、
前記凸部は、前記テーパ状傾斜面に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の医療用弁体。
【請求項5】
前記複数の凸部の高さは、0.01〜2mmであることを特徴とする請求項1〜4に記載の医療用弁体。
【請求項6】
前記複数の凸部の各々は、前記弁本体の前記略中心に対して、−45〜+50度の角度範囲を指向するように形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の医療用弁体。
【請求項7】
前記弁本体の上面に、前記所定の平面形状を有する凸部が、2〜100個形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の医療用弁体。
【請求項8】
前記凸部の表面には、摩擦抵抗を低減させる物質がコーティングしてあることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の医療用弁体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の医療用弁体と、
前記医療用弁体を保持するシースと
を有する医療用挿入補助具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−200788(P2010−200788A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46237(P2009−46237)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】