説明

医療用樹脂組成物

【課題】医療用具としての安全性に優れ、さらに耐変色性、耐熱性、耐薬品性に優れ、γ線、電子線などの放射線滅菌が可能な軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物からなる医療用具を提供する。
【解決手段】塩化ビニル樹脂100質量部に対して、 エステル系可塑剤40〜160質量部、 エポキシ系可塑剤5〜25質量部、 亜鉛石鹸0.1〜1.0質量部、 リン酸アルキルエステル亜鉛0.1〜1.0質量部、 カルシウム石鹸0.1〜1.0質量部、 式:(C2nOH)で表される複素環式窒素含有多価アルコール化合物0.05〜0.5質量部、 酸化マグネシウム0.05〜0.5質量部、 耐熱性向上剤0.05〜0.5質量部とからなる医療用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用樹脂組成物に関する。より詳しくは、樹脂組成物を用いた医療用具の、耐変色性、耐薬品性および耐熱性といった性能を向上させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用材料として軟質ポリ塩化ビニル樹脂が広く使用されている。従来、医療用の軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物は、ポリ塩化ビニル樹脂に、可塑剤、エポキシ化大豆油(加工助剤)および金属石鹸(安定剤)等を配合してなり、コスト、衛生性等から、可塑剤として、ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DEHP)が圧倒的に多く使用されていた。
【0003】
しかし、近年、DEHPの精巣毒性が指摘されており、医療用具使用時にDEHPが溶出した際の安全性の低下が問題となっている。その為、非溶出性の可塑剤としてトリメリット酸エステルを使用した軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物が提案されており(例えば、特許文献1参照)、その中でもトリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル(TOTM)が、非溶出性で、精巣毒性が少ない可塑剤であることが報告されている。また、最近の研究ではクエン酸エステルをベースにした可塑剤も提案・実用化されており、これも安全性の高い可塑剤として有効である。
【0004】
医療用具は一般的に滅菌されて使用されるが、滅菌方法として、放射線滅菌、エチレンオキサイド滅菌または高圧蒸気滅菌が一般的に採用されている。その中でも放射線滅菌は、エチレンオキサイド滅菌のようにエチレンオキサイドガスの残留の心配がなく、高圧蒸気滅菌のように医療器具が高温に晒されることがない為、衛生的で医療材料にダメージの小さい優れた滅菌方法として採用されている。
【0005】
しかしながら、軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物で作られた医療用具を放射線滅菌すると、放射線照射によって軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物、およびその配合剤が劣化/変性する為、安全性の低下や着色の促進等の不具合が発生する。
【0006】
そこで、放射線滅菌に対応させることを目的とした様々な軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物が提案され、例えば、特許文献2および3には、放射線滅菌による安全性の低下が少ない軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物が提案されている。より具体的には、金属酸化物を配合した軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物が開示されており、これにより放射線滅菌による溶出物試験、溶血性試験、細胞毒性試験での安全性の低下を抑制している。
【0007】
また、軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物は、その使用の用途を考慮すると、耐候性の優れたものが望ましい。かような軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物の耐候性を向上させるための手段として、農業用塩化ビニルシートに関し、リン酸アルキルエステルとリン酸アルキルエステル亜鉛との併用、リン酸アルキルエステルと複素環式窒素含有多価アルコール化合物との併用、またはリン酸アルキルエステル亜鉛の単量体と二量体とを1/9〜7/3のモル比で配合することにより、耐候性を得る技術が提案されている(例えば、特許文献4〜6参照)。
【特許文献1】特開昭60−115640号公報
【特許文献2】特公昭61−46492号公報
【特許文献3】特公昭62−55428号公報
【特許文献4】特開平9−12814号公報
【特許文献5】特開平10−338789号公報
【特許文献6】特開平11−255989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2および3には、特定の樹脂組成物からなる医療用具が、放射線としてγ線や電子線を用いて放射線滅菌されうる旨の記載がある。しかしながら、実施例においてその効果が立証されているのはγ線を用いた場合のみであって、電子線滅菌によっても樹脂組成物の着色が抑制されることは具体的には開示されていない。
【0009】
この点につき本発明者らが検討したところ、特許文献2および3に記載の樹脂組成物からなる医療用具に対して電子線滅菌を行うと、やはり樹脂が着色してしまうことが判明した。
【0010】
また、特許文献4〜6には、耐候性に優れた農業用塩化ビニルシートが開示されているが、リン酸アルキルエステル亜鉛、または複素環式窒素含有多価アルコール化合物のいずれかを使用するだけでは、電子線などの放射線が照射されることが一切想定されていない農業用塩化ビニルシート(特許文献4〜6参照)に、電子線を含む放射線が照射された場合に黄変等の変色を抑制できず、医療用具として使用することはできない。
【0011】
さらに、医療用軟質ポリ塩化ビニルに配合される配合剤は、耐熱性、耐変色性を付与する前提として、安全なものである必要がある。したがって、従来の放射線滅菌用軟質ポリ塩化ビニルでは、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムなどの限られた配合剤を任意の割合で配合している。しかし、電子線を用いて滅菌する場合は、このステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムの配合だけでは十分な耐変色性を得ることはできない。
【0012】
加えて、医療用にγ線または電子線滅菌を行った従来の軟質ポリ塩化ビニルに特定薬剤(例えば、グラクソスミスクライン社製 点滴静注用ゾビラックス(登録商標)など)を長時間接触させると、薬剤との相互作用により白色の沈殿が発生し、医療に用いるには不適であった。
【0013】
そのため、放射線滅菌後の変色を抑えながら、透明性および耐熱性を満足させ、かつ耐薬品性を有する医療用樹脂組成物が強く望まれていた。
【0014】
したがって、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、安全性、耐変色性、耐薬品性および耐熱性に優れ、γ線、電子線などの放射線滅菌が可能な、医療用樹脂組成物を提供することにある。
【0015】
また、本発明の他の目的は、前記医療用樹脂組成物を含む、放射線滅菌可能な、特に電子線滅菌可能な医療用具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、エステル系可塑剤と、エポキシ系可塑剤と、亜鉛石鹸と、リン酸アルキルエステル亜鉛と、カルシウム石鹸と、複素環式窒素含有多価アルコール化合物と、金属酸化物と、耐熱性向上剤と、を所望の割合で配合すると、上記課題を解決できることを見出した。
【0017】
即ち、本発明は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、エステル系可塑剤40〜160質量部と、エポキシ系可塑剤5〜25質量部と、亜鉛石鹸0.1〜1.0質量部と、リン酸アルキルエステル亜鉛0.1〜1.0質量部と、カルシウム石鹸0.1〜1.0質量部と、下記式:
【0018】
【化1】

【0019】
で表される複素環式窒素含有多価アルコール化合物0.05〜0.5質量部と、酸化マグネシウム0.05〜0.5質量部と、耐熱性向上剤0.05〜0.5質量部と、を含み、かつ、前記亜鉛石鹸および前記リン酸アルキルエステル亜鉛の合計量が、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.2〜2.0質量部であり、前記亜鉛石鹸および前記リン酸アルキルエステル亜鉛の合計量/前記カルシウム石鹸量のモル比が1〜5である、医療用樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、安全性、耐変色性、耐熱性および耐薬品性に優れ、従来では成し得なかった、電子線を含む放射線を用いた滅菌が可能な軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物、ならびに当該軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物を含む医療用具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
<第1実施態様>
本発明の第1実施態様は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、エステル系可塑剤40〜160質量部と、エポキシ系可塑剤5〜25質量部と、亜鉛石鹸0.1〜1.0質量部と、リン酸アルキルエステル亜鉛0.1〜1.0質量部と、カルシウム石鹸0.1〜1.0質量部と、下記式:
【0023】
【化2】

【0024】
で表される複素環式窒素含有多価アルコール化合物0.05〜0.5質量部と、酸化マグネシウム0.05〜0.5質量部と、耐熱性向上剤0.05〜0.5質量部と、を含み、かつ、前記亜鉛石鹸および前記リン酸アルキルエステル亜鉛の合計量が、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.2〜2.0質量部であり、前記亜鉛石鹸および前記リン酸アルキルエステル亜鉛の合計量/前記カルシウム石鹸量のモル比が1〜5である、医療用樹脂組成物である。
【0025】
上記の通り、本発明の特徴は、エステル系可塑剤と、エポキシ系可塑剤と、亜鉛石鹸と、リン酸アルキルエステル亜鉛と、カルシウム石鹸と、複素環式窒素含有多価アルコール化合物と、金属酸化物と、耐熱性向上剤と、を所望の割合で配合する。かようにすれば、安全性、耐変色性、耐薬品性および耐熱性に優れ、電子線を含む放射線を用いた滅菌が可能な軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物、ならびに当該軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物を含む医療用具を提供することができる。したがって、本発明の目的を達成し、発明の効果を奏する範囲内であれば、発明の本質的部分ではない事項に関しては特に限定されないものと解釈されなければならない。
【0026】
以下、本発明に係る医療用樹脂組成物の構成要素を詳細に説明する。
【0027】
(塩化ビニル樹脂)
本発明に用いられる塩化ビニル樹脂は、医療用の塩化ビニル樹脂であれば、特に制限はない。市場に流通しているものを購入してもよいし、従来公知の方法で合成してもよい。例えば、カネカ社製 塩化ビニル樹脂 S−1003やS−1001Nが購入可能である。また、塩化ビニル樹脂を合成するための従来公知の方法としては、例えば懸濁重合法が挙げられる。
【0028】
(エステル系可塑剤およびエポキシ系可塑剤)
本発明の塩化ビニル樹脂組成物には、塩化ビニル樹脂100質量部に対し、エステル系可塑剤が、好ましくは、40〜160質量部配合されている。
【0029】
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物には、可塑剤兼加工助剤としてエポキシ系可塑剤が、塩化ビニル樹脂100質量部に対し、好ましくは5〜25質量部、より好ましくは5〜15質量部配合されている。
【0030】
前記エステル系可塑剤の配合量が多すぎると、前記エステル系可塑剤が、均一に混合されにくくなるので、軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物のコンパウンドとして製造することが困難となる。
【0031】
また、エポキシ系可塑剤の配合量が多すぎると、細胞毒性の悪化、成形時のエポキシ系可塑剤のブリードアウトが懸念される。一方、エポキシ系可塑剤の配合量が少なすぎると、目的の物性を得ることが困難となり、耐変色性や耐熱性が低下しうる。
【0032】
エステル系可塑剤としては、特に限定されないが、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル(TOTM)、アセチルクエン酸トリヘキシル、n−ブチリルクエン酸トリヘキシルなどのクエン酸系可塑剤、およびフタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DEHP)などが挙げられる。これらの中でも、安全性の観点からTOTMやクエン酸系可塑剤がより好ましい。
【0033】
エポキシ系可塑剤としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油などのエポキシ類などが挙げられる。
【0034】
本発明に用いられるエステル系可塑剤およびエポキシ系可塑剤は、医療用のものであれば、特に制限はない。市場に流通しているものを購入してもよいし、従来公知の方法で合成してもよい。例えば、エステル系可塑剤として、TOTMを用いる場合、ジェイ・プラス社製 TOTM−NBを購入してもよい。また、従来公知の合成方法としては、例えば、無水トリメリット酸とアルコールとを混合しエステル化する方法が挙げられる。また、エポキシ系可塑剤として、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油を用いる場合、ADEKA 社製 O−130P、O−180Aを購入してもよい。また、エポキシ系可塑剤を合成するための従来公知の合成方法としては、例えばアルケンを直接エポキシ化する方法が挙げられる。
【0035】
(亜鉛石鹸およびリン酸アルキルエステル亜鉛)
本発明の塩化ビニル樹脂組成物には、塩化ビニル樹脂100質量部に対し、安定剤として亜鉛石鹸が、好ましくは0.1〜1.0質量部、より好ましくは0.2〜0.8質量部、さらに好ましくは0.3〜0.5質量部配合されている。
【0036】
また、本発明の塩化ビニル樹脂100質量部に対し、安定剤としてリン酸アルキルエステル亜鉛が、好ましくは0.1〜1.0質量部、より好ましくは0.2〜0.8質量部、さらに好ましくは0.3〜0.5質量部配合されている。
【0037】
さらに、前記亜鉛石鹸および前記リン酸アルキルエステル亜鉛の合計量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.2〜2.0質量部、より好ましくは0.3〜1.0質量部、さらに好ましくは0.6〜1.0質量部である。
【0038】
この安定剤の配合量が多すぎると、軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物の透明性が低下しうる。一方、配合量が少なすぎると、耐熱性、耐変色性が低下しうる。
【0039】
亜鉛石鹸としては、特に限定されないが、好ましくは、ラウリン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛およびオレイン酸亜鉛のようなラウリル基、パルミチル基、ステアリル基またはオレイル基を含むものである。このようなアルキル基を有するものは、安全性の観点から医療用途に好適である。
【0040】
本発明に用いられる亜鉛石鹸は、医療用のものであれば、特に制限はない。市場に流通しているものを購入してもよいし、従来公知の方法で合成してもよい。例えば、亜鉛石鹸として、ステアリン酸亜鉛を用いる場合、堺化学社製のステアリン酸亜鉛を購入してもよい。また、ステアリン酸亜鉛を合成するための従来公知の合成方法としては、例えば脂肪酸のアルカリ金属塩水溶液と、無機金属塩とを複分解反応させる方法が挙げられる。
【0041】
本発明に用いられるリン酸アルキルエステル亜鉛は、医療用のものであれば、特に制限はない。市場に流通しているものを購入してもよいし、従来公知の方法で合成してもよい。例えば、リン酸アルキルエステル亜鉛として、モノおよびジステアリルアシッドホスフェート亜鉛塩の混合物を用いる場合、堺化学社製のLBT−1830を購入してもよい。また、従来公知の合成方法としては、例えば、アルキルリン酸のアルカリ金属塩水溶液と無機金属塩との複分解反応が挙げられる。
【0042】
(カルシウム石鹸)
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物には、塩化ビニル樹脂100質量部に対し、カルシウム石鹸が、好ましくは0.1〜1.0質量部、より好ましくは0.1〜0.5質量部、さらに好ましくは0.2〜0.5質量部配合されている。
【0043】
これらの範囲が好ましい理由は、カルシウム石鹸の配合量が増えると、塩化ビニル樹脂の滅菌後の着色が増大する傾向にある。そのため、耐熱性が確保できる上で、なるべく少ない添加量とすることが好ましいからである。
【0044】
カルシウム石鹸としては、特に限定されないが、好ましくは、上記亜鉛石鹸と同様に、ラウリン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛およびオレイン酸亜鉛のようなラウリル基、パルミチル基、ステアリル基またはオレイル基を含むものである。このようなアルキル基を有するものは、安全性の面から医療用途に好適である。
【0045】
本発明に用いられるカルシウム石鹸は、医療用のものであれば、特に制限はない。市場に流通しているものを購入してもよいし、従来公知の方法で合成してもよい。例えば、カルシウム石鹸として、ステアリン酸カルシウムを用いる場合、堺化学社製のものを購入してもよい。また、ステアリン酸カルシウムを合成するための従来公知の合成方法としては、例えば脂肪酸のアルカリ金属塩水溶液と無機金属塩とで複分解反応させる方法が挙げられる。
【0046】
上記記載の通り、本発明は、医療用樹脂組成物および前記医療用樹脂組成物を含む医療用チューブおよび医療用シートからなる群から選択される少なくとも1種を有する医療用具ならびにγ線または電子線を含む放射線を用いて滅菌されることを特徴とする前記医療用具に関する。
【0047】
したがって、採血、輸血、輸液等の医療行為に際して用いられる、医療用シート、医療用チューブ、医療用容器をはじめとする医療用具を構成する素材には、柔軟性、透明性、および耐熱性を具備するものであることが要求されるほか、医療行為に用いられるため、安全性、衛生性などの特性が特に重要視される。そのため、使用する石鹸やリン酸アルキルエステル亜鉛のアルキル部分は安全性の高いラウリル基、パルミチル基、ステアリル基またはオレイル基が好ましい。
【0048】
(前記亜鉛石鹸および前記リン酸アルキルエステル亜鉛の合計量/カルシウム石鹸のモル比)
前記亜鉛石鹸および前記リン酸アルキルエステル亜鉛の合計量/カルシウム石鹸のモル比は、好ましくは、1〜5であり、より好ましくは2〜4である。カルシウム石鹸の配合量が多いと、放射線滅菌後、軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物が変色しやすくなる。一方、亜鉛石鹸およびリン酸アルキルエステル亜鉛が多いと耐熱性が低下しうる。
【0049】
(複素環式窒素含有多価アルコール化合物)
本発明の塩化ビニル樹脂組成物には、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、
【0050】
【化3】

【0051】
で表される複素環式窒素含有多価アルコール化合物が、好ましくは0.05〜0.5質量部、より好ましくは0.05〜0.3質量部、さらに好ましくは0.05〜0.2質量部配合されている。
【0052】
上記式中のnの値は、好ましくはn=1〜10、より好ましくはn=1〜4である。
【0053】
複素環式窒素含有多価アルコール化合物の配合量が多すぎると、軟質ポリ塩化ビニルの透明性が低下しうる。また、コストが高騰するため、汎用医療用具に使用するのに不適合である。一方、少なすぎると本発明の目的とする耐変色性を得ることが困難となる。
【0054】
本発明に用いられる複素環式窒素含有多価アルコール化合物は、医療用のものであれば、特に制限はない。市場に流通しているものを購入してもよいし、従来公知の方法で合成してもよい。例えば、複素環式窒素含有多価アルコール化合物として、トリス(2−ヒドロキシルエチル)イソシアネートを用いる場合、日産化学工業社製のタナック(登録商標)を購入してもよい。また、複素環式窒素含有多価アルコール化合物を合成するための従来公知の合成方法としては、例えばイソシアナートを用いた環化三量化反応が挙げられる。
【0055】
(金属酸化物)
本発明の塩化ビニル樹脂組成物には、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、金属酸化物が、好ましくは0.05〜0.5質量部、より好ましくは0.06〜0.1質量部配合されている。
【0056】
0.5質量部を越える配合量では軟質ポリ塩化ビニル樹脂が均一分散できずに透明性が低下する虞や、放射線滅菌後に軟質ポリ塩化ビニル樹脂の変色が促進する虞がありするなど、医療用具として不適であり、一方0.05質量部以下であると、本発明の目的とする耐薬品性を得ることが困難となるからである。
【0057】
金属酸化物としては、特に限定されないが、好ましくは酸化マグネシウム、酸化カルシウムおよび酸化亜鉛などが挙げられる。中でも、酸化マグネシウムが特に好ましい。酸化マグネシウムが特に好ましい理由は、下記の通りである。
【0058】
即ち、γ線または電子線滅菌を行った軟質ポリ塩化ビニルに特定薬剤(例えば、グラクソスミスクライン社製 点滴静注用ゾビラックス(登録商標)など)を長時間接触させると、当該薬剤との相互作用により白色の沈殿が発生する問題点がある。当該問題点が生ずる理由としては、放射線を照射した軟質ポリ塩化ビニル中に発生する脱離塩酸と、ステアリン酸カルシウムとが反応し、ステアリン酸塩(ステアリン酸ナトリウムなど)と特定薬剤とが結合した複合物が塩析によって沈殿することが考えられる。酸化マグネシウムを好ましい量配合させると、この沈殿を効果的に抑制することができる。
【0059】
ただし、上記問題を引き起こすメカニズムは、本発明者らの推測に過ぎず、技術的範囲が、当該メカニズムによって拘束され、本発明が限定されないのはいうまでもない。
【0060】
なお、特許文献2、3に、金属酸化物を配合する技術が開示されてはいるが、放射線照射による溶血を抑える目的で配合されたものであり、本発明のような、沈殿物を抑える目的で配合されたものではない。
【0061】
本発明に用いられる金属酸化物は、医療用のものであれば、特に制限はない。市場に流通しているものを購入してもよいし、従来公知の方法で合成してもよい。例えば、金属酸化物として、酸化マグネシウムを用いる場合、協和化学工業社製のキョーワマグ30(登録商標)購入してもよい。また、従来公知の合成方法としては、例えば水酸化マグネシウムの焼成が挙げられる。
【0062】
(耐熱性向上剤)
本発明の軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物には、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、耐熱性向上剤が、好ましくは0.05〜0.5質量部、より好ましくは0.1〜0.3質量部配合されている。
【0063】
耐熱性向上剤の配合量が多いと、放射線滅菌後に軟質ポリ塩化ビニル樹脂の変色が促進される虞があり、少ないと本発明の目的とする耐熱性が得ることが困難となり、医療用具として好適とはいえない。
【0064】
耐熱性向上剤としては、特に限定されないが、好ましくはペンタエリスリトール類、ハイドロタルサイトなどが挙げられる。放射線滅菌に用いるという点を考慮すると、ハイドロタルサイトがより好ましい。
【0065】
本発明に用いられる耐熱性向上剤は、医療用のものであれば、特に制限はない。市場に流通しているものを購入してもよいし、従来公知の方法で合成してもよい。例えば、耐熱性向上剤として、ハイドロタルサイトを用いる場合、協和化学工業社製のアルカマイザー1(登録商標)を購入してもよい。また、ハイドロタルサイトを合成するための従来公知の合成方法としては、例えば共沈法が挙げられる。
【0066】
本発明の軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物は、本発明の目的を達成でき、本来の特性を特に損なわない限り、さらに他の任意成分を配合させることもできる。これら任意成分とは、例えば滑剤、顔料、界面活性剤、加工助剤等が挙げられる。
【0067】
滑剤としては、特に限定されないが、シリコーンオイル等が挙げられる。
【0068】
顔料としては、特に限定されないが、金属錯塩系顔料等が挙げられる。
【0069】
界面活性剤としては、特に限定されないが、ステアリン酸モノグリセライド等が挙げられる。
【0070】
加工助剤としては、特に限定されないが、アクリル系高分子加工助剤等が挙げられる。
【0071】
これら配合剤の配合量は、医療用樹脂組成物としての安全性、耐変色性、耐熱性および耐薬品性に優れを損なわない範囲、即ち本発明の目的を達成でき、本発明の作用効果を奏する範囲内であれば、特に制限されるものではない。好ましくは、これらの配合剤を配合した合計量は、本発明に係る医療用樹脂組成物100質量部に対して、0〜0.5質量部である。
【0072】
<第2実施態様>
本発明の第2実施態様は、前記医療用樹脂組成物を含む医療用チューブおよび医療用シートの少なくとも1種を有する医療用具に関する。
【0073】
本発明の軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物は、従来公知の熱可塑性樹脂についての成形法、例えば押出成形、インフレーション成形、ブロー成形、射出成形、注型成形、加圧成形などにより、容易に所望の形状に成形することができるとともに、熱シール、高周波シール、溶剤接着等で成形品の二次加工も容易にできる。従って、本発明の軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物から種々の医療用具を容易に作製することができる。
【0074】
前記医療用樹脂組成物を用いてなる医療用チューブとしては、特に制限はないが、輸液セットなどが挙げられる。
【0075】
前記医療用樹脂組成物を用いてなる医療用シートとしては、特に制限はないが、血液バッグなどが挙げられる。
【0076】
前記医療用チューブおよび前記医療用シートの少なくとも1種を有する医療用具としては、特に制限はないが、輸液セットなどが挙げられる。
【0077】
<第3実施態様>
本発明の第3実施態様は、γ線または電子線を含む放射線を用いて滅菌されることを特徴とする前記医療用具に関する。
【0078】
本発明に係る医療用樹脂組成物を含む医療用チューブおよび医療用シートからなる群から選択される少なくとも1種を有する医療用具は、放射線滅菌されることによって使用される。本発明に係る放射線滅菌方法は、γ線滅菌、電子線滅菌のいずれでも好適であるが、本発明に係る医療用具の生産効率を考慮した場合には、電子線滅菌が好ましい。
【0079】
放射線滅菌の線量にも、特に制限はなく、通常は、15〜30kGy前後の照射量であるが、大きな製品やキット製品、滅菌形態によって、60kGy程度の線量が照射される場合がある。本発明に係る医療用樹脂組成物は、かような大きな放射線照射量にも対応できる。
【0080】
本発明に係る医療用樹脂組成物は、上述の通り、(1)耐変色性(2)耐熱性および(3)耐薬品性の性能が優れている。
【0081】
(1)耐変色性
本発明に係る医療用樹脂組成物の耐変色性の評価は、当該医療用樹脂組成物に電子線またはγ線などの放射線、特に電子線を照射させて、「イエローインデックス(Yellow Index)」と称する黄変指標の値をもって判断することができる。
【0082】
上記放射線を照射させた場合、耐変色性を有する「イエローインデックス」の値は、好ましくは18以下、より好ましくは15以下、さらに好ましくは12以下である。「イエローインデックス」の下限は、特に制限されないが、実用面を考慮すると、好ましくは−5以上、より好ましくは0以上である。
なお、「イエローインデックス」は、後述する実施例に記載される方法によって測定される値を意味する。
【0083】
ここで、塩化ビニル樹脂のγ線や電子線を含む放射線滅菌による着色のプロセスの一般的な反応機構を説明する。即ち、塩化ビニル樹脂に放射線を照射すると、Clが不安定化して脱離しラジカルとなった後、Hを攻撃してHClを形成して脱離し二重結合を形成する。この際、樹脂中に発生したHCl自体が塩化ビニル樹脂の他のHClの脱離を促進し、連鎖反応を起こす。この連鎖反応により二重結合が増加すると、ポリ塩化ビニル樹脂が着色する。しかし、放射線滅菌の際に酸素が存在すると、ラジカル化したClと酸素とが反応するため、HCl脱離の連鎖反応を抑制できると考えられている。これが一般的な黄変メカニズムである。
【0084】
ただ、本発明に係る塩化ビニル樹脂を含む医療用樹脂組成物には、耐変色性や安全性等を向上させるべく様々な物質が配合されている。よって、一般的に述べると、上記メカニズム以外にも様々な要因が複雑に作用するため、医療用樹脂組成物の透明性を維持し、黄変を抑制することが困難となる。ここで、当該メカニズム以外のメカニズムを以下に述べる。
【0085】
即ち、本発明において配合された金属酸化物に由来する、塩化亜鉛、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の金属塩が、塩化ビニル樹脂の二重結合と結合すると、特有の色を呈してしまう。具体的には、亜鉛と結合すると青く発色し、黄変を防ぐ方向に働くが、マグネシウムやカルシウムと結合すると、赤く発色し、黄変の方向に向かう。
【0086】
また、本発明において配合されたステアリン酸亜鉛は、最初の塩素が脱離することを防ぐ効果があるが、一方では不安定な塩素を置換するという方向に進む。上述の通り、塩化亜鉛は、亜鉛と結合すると青く発色して、黄変を抑制する方向に進むが、塩化水素の脱離を促進するという側面も持つ。
【0087】
さらに、本発明において配合されたリン酸アルキルエステル金属(亜鉛)塩は、不安定な塩素と置換するが、塩化亜鉛という形になって塩化水素の脱離を促進するというところがあまりない。リン酸アルキルエステル金属(亜鉛)塩は、作用としては弱いが、黄変を進めることが少ない。
【0088】
加えて、本発明において配合された複素環式窒素含有多価アルコール化合物は、塩化ビニル樹脂の二重結合と結合して、塩化マグネシウム、塩化カルシウムだと赤い方向に発色して、黄変の方向に向かうが、塩化マグネシウム、塩化カルシウムがその二重結合と結合する前に、塩化マグネシウム、塩化カルシウムを取り込み、赤色を発色させないようにする。
【0089】
よって、上記メカニズムを認識することによって、特定の物質を特定の配合量で調節するという創意工夫を行うことにより、本発明に係る塩化ビニル樹脂を含む医療用樹脂組成物の透明性を維持することができているのである。
【0090】
なお、電子線の特徴の一つとして、上記の通り、γ線に比べ線量率(単位時間あたりに照射される放射線の量)が高く、短時間に滅菌処理を終えることができるという利点がある。当該利点により、製品の製造効率が格段に向上する。しかし、短時間で滅菌処理を行うと、滅菌処理中の滅菌対象品周辺の空気循環が殆ど無いため十分に酸素が供給されず、空気中に存在する酸素とラジカルとの反応が減少する。γ線は線量率が低く滅菌処理に時間がかかるため、滅菌処理中に空気が循環し十分な量の酸素が供給される。そのため、電子線を用いて滅菌した場合の方がγ線を用いて滅菌するよりも、軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物着色が促進されやすい。
【0091】
本発明に係る軟質塩化ビニル樹脂組成物は、酸素が十分に供給されなくても、HClの脱離・連鎖反応を抑制し、着色を抑制することを可能にし、γ線滅菌のみならず、電子線滅菌に対応しうる。
【0092】
(2)耐薬品性
本発明に係る医療用樹脂組成物の耐薬品性の評価は、当該医療用樹脂組成物に特定薬剤の生理食塩水溶解液を一定期間接触させ、固形物や白濁の有無を確認することによって行うことができる。なお、実施例においては、「特定薬剤」としてゾビラックスを用いた。
【0093】
(3)耐熱性
本発明に係る医療用樹脂組成物の耐熱性の評価は、当該医療用樹脂組成物のサンプルを180℃に加熱し、黒点が現れるまでの時間を測定することにより行うことができる。加熱された本発明に係る医療用樹脂組成物のサンプルに、好ましくは120分以上、より好ましくは140分以上、さらに好ましくは180分以上の間、黒点が現れないほうがよい。
【実施例】
【0094】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、実施例および比較例では下記の塩化ビニル樹脂(PVCレジン)、可塑剤、加工助剤、安定剤および安定助剤として以下の物質を使用した。
<塩化ビニル樹脂>
・カネカ社製 塩化ビニル樹脂(重合度1000):S−1003
・カネカ社製 塩化ビニル樹脂(重合度1300):S−1001N
<TOTM>
・ジェイ・プラス社製 トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル:TOTM−NB
<エポキシ化可塑剤>
・ADEKA社製 エポキシ化大豆油:O−130P
・ADEKA社製 エポキシ化亜麻仁油:O−180A
<亜鉛石鹸類>
・堺化学社製 ステアリン酸亜鉛
<カルシウム石鹸類>
・堺化学社製 ステアリン酸カルシウム
<リン酸アルキルエステル亜鉛>
・堺化学社製 モノおよびジステアリルアシッドホスフェート亜鉛塩の混合物:LBT−1830
<複素環式窒素含有多価アルコール化合物>
・日産化学工業社製 トリス(2−ヒドロキシルエチル)イソシアネート:タナック
<ハイドロタルサイト>
・協和化学工業社製 ハイドロタルサイト:アルカマイザー1
<酸化マグネシウム>
・協和化学工業社製 酸化マグネシウム:キョーワマグ30
<酸化亜鉛>
・ハクスイテック社製 酸化亜鉛:ZINCOX SUPER F−1
<酸化カルシウム>
・共同薬品工業社製 酸化カルシウム
<サンプル作製方法>
(1)PVCレジン、可塑剤、各種配合剤を量り、ビーカーで良く混ぜ合わせた。
【0095】
(2)混合物を100℃に加熱したオーブンに入れ1時間加熱し、混合物が粉状になるまで乾燥させた。
【0096】
(3)乾燥したPVCレジン混合物を、混練用ロール機を使って混練した。ロール機加熱温度は160℃に設定し、7分間混練した。
【0097】
(4)混練したPVCレジン混合物を、ヒートプレス機を用いてプレスシートを作製した。加熱温度は170℃、余熱時間2.5分、プレス時間2分、プレス圧力30MPaで行い、150×150×0.5mmのプレスシートとした。
【0098】
<イエローインデックス(Yellow Index)測定方法>
(1)PVCレジン0.5mm厚プレスシートに電子線照射し、オーブンで60℃に1週間加熱したものを30×35mmの大きさに切り取り、サンプル片とした。
【0099】
(2)サンプルを白色のポリエチレン板(50×50mm程度)に貼り付け、サンプル片とポリエチレン板の間の空気を抜いた。
【0100】
(3)分光光度計(コニカミノルタ CM−2500d)ASTM E313設定)を用いて、サンプル片のイエローインデックスを測定した。
【0101】
(4)1サンプル片あたり3箇所測定、1箇所あたり3回測定し、その平均を測定値とした。
【0102】
(5)ポリエチレン板のイエローインデックスも同様に測定し、それをブランク値とする。
【0103】
(6)サンプル片の測定値からブランク値を引いた値を黄変指標のイエローインデックスとした。
【0104】
<耐薬品性試験方法>
(1)サンプルを試験液に24時間浸漬した後、試験液内の固形物(沈殿、浮遊物)、白濁の有無を確認した。
【0105】
(2)試験管に3mlの試験液※1を入れ、サンプル※2片が互いに貼りつかない様にして試験液に浸した。
【0106】
(3)パラフィルムで試験管に蓋をし、時々振り混ぜながら24時間放置した。
【0107】
(4)サンプル片を取り出し、試験液の状態を目視で確認した。
【0108】
※1:グラクソスミスクライン社製 点滴静注用ゾビラックス(登録商標)の生理食塩水溶解液(1V/100ml)
※2:1片17.5×8.5×0.5mm×12枚
※3:「○」とは、試験液内の固形物や白濁がなかったことを意味し、「×」とは、試験液内の固形物や白濁があったことを意味する。
【0109】
<耐熱性試験方法>
(1)試験サンプル(30×35×0.5mm未滅菌プレスシート)をアルミホイル上に並べ、オーブンに入れた。
【0110】
(2)180℃で加熱し20分ごとにサンプルの色変化を確認した。
【0111】
(3)黒変する時間を比較した。なお、「黒変する時間」とは、加熱を開始して、プレート上のどこか一箇所に黒点が視認できた状態になるまでに要する時間をいう。
【0112】
<各成分の配合量および各試験の評価結果>
次いで、実施例および比較例における、各成分の配合量および各試験の評価結果を下記表1〜表7に示す。
【0113】
ここで、表中に用いられる用語について説明する。
【0114】
※Zn/Caモル比:亜鉛石鹸および前記リン酸アルキルエステル亜鉛塩の合計量/カルシウム石鹸のモル比
※EB:電子線
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
【表3】

【0118】
【表4】

【0119】
【表5】

【0120】
【表6】

【0121】
【表7】

【0122】
上記の結果から、エステス系可塑剤、エポキシ系可塑剤、亜鉛石鹸、リン酸アルキルエステル亜鉛、カルシウム石鹸、複素環式窒素含有多価アルコール化合物、金属酸化物、耐熱性向上剤のうち、いずれが欠けても、安全性、耐変色性、耐熱性および耐薬品性が優れた医療用樹脂組成物を提供することができないことが分かる。
【0123】
すなわち、本発明は、上記バランスを調節、すなわち所望の割合で配合することで、塩化ビニル樹脂組成物に、放射線、特に電子線に対する耐変色性を付与しようとしている。したがって、これらのうちいずれかが欠けても、優れた医療用樹脂組成物を提供することが困難となるし、本発明に係る医療用組成物の各成分の配合量の範囲を逸脱しても、優れた医療用樹脂組成物を提供することが困難となる。
【0124】
本発明によれば、特に、耐変色性に関して、有用な医療用樹脂組成物を提供することができる。すなわち、医療用具を滅菌する際の電子線の照射量は、一般に滅菌には20kGy程度の線量が必要であると言われているが、本願の医療用樹脂組成物は、60kGyもの電子線の照射量にも耐性があることが分かる。
【0125】
してみると、本発明によれば、黄変が問題となるために従来使用が困難であった高線量の電子線を放射することができ、医療用具を滅菌するために必要な時間を短縮することができ、生産効率(滅菌効率)が格段に向上する。
【0126】
本発明に係る組成物は、あくまで医療用樹脂組成物である。用途が医療ではなければ、多少毒性が強い安定剤を配合することもでき、耐変色性につき、さらに向上させることもできる。したがって、医療用樹脂組成物を構成する各成分の、種類および最適なバランスを見出すことに技術的困難性がある。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明に係る軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物は、電子線を含む放射線照射が可能であるため、電子線滅菌される、軟質ポリ塩化ビニル樹脂組成物を含む医療用具に好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル樹脂100質量部に対して、
エステル系可塑剤40〜160質量部と、
エポキシ系可塑剤5〜25質量部と、
亜鉛石鹸0.1〜1.0質量部と、
リン酸アルキルエステル亜鉛0.1〜1.0質量部と、
カルシウム石鹸0.1〜1.0質量部と、
下記式:
【化1】

で表される複素環式窒素含有多価アルコール化合物0.05〜0.5質量部と、
酸化マグネシウム0.05〜0.5質量部と、
耐熱性向上剤0.05〜0.5質量部と、を含み、かつ、
前記亜鉛石鹸および前記リン酸アルキルエステル亜鉛の合計量が、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.2〜2.0質量部であり、前記亜鉛石鹸および前記リン酸アルキルエステル亜鉛の合計量/前記カルシウム石鹸量のモル比が1〜5である、医療用樹脂組成物。
【請求項2】
前記エステル系可塑剤が、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシルおよびクエン酸系可塑剤からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の医療用樹脂組成物。
【請求項3】
前記亜鉛石鹸、前記カルシウム石鹸および前記リン酸アルキルエステル亜鉛のアルキル基は、それぞれ独立して、ラウリル基、パルミチル基、ステアリル基またはオレイル基のいずれかである、請求項1または2に記載の医療用樹脂組成物。
【請求項4】
イエローインデックスの値が18以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療用樹脂組成物を含む医療用チューブおよび医療用シートからなる群から選択される少なくとも1種を有する医療用具。
【請求項6】
γ線または電子線を用いて滅菌されうることを特徴とする請求項5に記載の医療用具。

【公開番号】特開2008−169332(P2008−169332A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4878(P2007−4878)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】