説明

医療用滅菌包装における滅菌方法

【課題】効率的に処理でき且つ過酸化水素ガスの残留を確実に防止できる医療用滅菌包装における滅菌方法を提供する。
【解決手段】本発明の滅菌方法は、包装容器に封入された医療品としての薬剤入り注射器を包装状態のまま過酸化水素ガスによって滅菌処理する。包装容器として、ガスバリヤー性を有し且つ底面全体が開放された合成樹脂製の一体成形された容器本体と、過酸化水素ガスを透過可能で且つ容器本体の底面全体に溶着可能な蓋材としての滅菌紙とから構成される容器を使用する。そして、滅菌装置としてのチャンバーに薬剤入り注射器を収容し、10〜30torrに減圧したチャンバーに過酸化水素ガスを供給する操作を複数回繰り返すことによって滅菌処理した後、加温しつつ包装容器の内部から過酸化水素ガスを脱ガス処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用滅菌包装における滅菌方法に関するものであり、詳しくは、包装容器に封入された医療品、例えば、薬剤入り注射器などをパッケージのまま過酸化水素ガスで滅菌処理する滅菌方法であって、効率的に処理でき且つ過酸化水素ガスの残留を確実に防止できる滅菌方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薬剤入り注射器などは、他のディスポーザブル医療機器などと同様に、医療用滅菌包装を施されて流通されることが好ましい。医療用滅菌包装は、ガスバリヤー性を有する合成樹脂製の容器本体と、滅菌ガスを透過可能で且つ容器本体に溶着可能な蓋材としての滅菌紙とから構成される包装容器を使用し、医療品を封入した後に包装状態のまま滅菌ガスに晒すことにより、滅菌紙を透過させた滅菌ガスによって内部を滅菌処理する形態の包装である。
【0003】
上記の医療用滅菌包装においては、滅菌ガスの毒性の問題から、エチレンオキサイドに代えて過酸化水素ガスの利用が各種の医療品に対して検討されているが、エチレンオキサイド又は過酸化水素ガスの何れを使用する場合でも、流通過程での人体に対する残留ガスの有害性を排除するため、包装容器の内部から滅菌ガスを除去する後処理が不可欠である。なお、過酸化水素を利用した殺菌、滅菌に関する技術は、以下の公報などに開示されている。
【特許文献1】特公昭61−4543号公報
【特許文献2】特開平1−121057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、医療用滅菌包装において、滅菌処理の後に包装容器から滅菌ガスを完全に除去するには相当に長い時間放置する必要があり、斯かる除去操作は製造効率を低下させる要因となっている。また、ポリエステル系樹脂製の容器を使用した場合には、滅菌ガスの吸着性が高く、滅菌ガスを一層除去し難くなるため、実際には、塩化ビニルを主成分とする容器が多く使用されている。その結果、包装容器の内部に対する視認性が悪く、しかも、塩化ビニルの廃棄処分の際に塩素ガスが発生すると言う問題もある。
【0005】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、例えば、薬剤入り注射器などをパッケージのまま過酸化水素ガスで滅菌処理する滅菌方法であって、効率的に処理でき且つ過酸化水素ガスの残留を確実に防止でき、そして、ポリエステル系樹脂の包装材料にも適用可能な医療用滅菌包装における滅菌方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明に係る医療用滅菌包装における滅菌方法は、包装容器に封入された医療品としての薬剤入り注射器を過酸化水素ガスによって滅菌処理する滅菌方法であって、包装容器として、ガスバリヤー性を有し且つ底面全体が開放された合成樹脂製の一体成形された容器本体と、過酸化水素ガスを透過可能で且つ容器本体の底面全体に溶着可能な蓋材としての滅菌紙とから構成される包装容器を使用すると共に、包装容器に封入された薬剤入り注射器を滅菌装置としてのチャンバーに収容し、10〜30torrに減圧したチャンバーに過酸化水素ガスを供給する操作を複数回繰り返すことによって滅菌処理した後、加温しつつ包装容器の内部から過酸化水素ガスを脱ガス処理することを特徴とする。
【0007】
上記の滅菌方法においては、包装容器の滅菌紙を透過した過酸化水素ガスによって医療品としての薬剤入り注射器を滅菌処理する。その際、減圧したチャンバーに過酸化水素ガスを供給する操作を複数回繰り返すことにより、包装容器の内部へ過酸化水素ガスを迅速に且つ確実に浸透させる。そして、上記の処理の後、加温することによって容器本体に吸着した過酸化水素ガスの脱着を促進し、包装容器の内部に残留した過酸化水素ガスを除去する。
【0008】
また、上記の滅菌方法においては、滅菌処理した後、昇温した空気をチャンバーに対して循環させつつ、循環空気に含まれる過酸化水素ガスを触媒反応によって分解することにより、過酸化水素ガスの脱ガス処理において、チャンバー内の過酸化水素ガス濃度を常に低濃度に維持し、効率的に且つ安全に過酸化水素ガスを脱ガス処理できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の滅菌方法によれば、過酸化水素ガスによって滅菌処理した後、加温しつつ包装容器の内部から過酸化水素ガスを脱ガス処理することにより、容器本体に吸着した過酸化水素ガスの脱着を促進できる。更に、昇温した空気を循環させつつ、循環空気に含まれる過酸化水素ガスを触媒反応によって分解することにより、周囲の過酸化水素ガス濃度を包装容器の内部よりも常に低濃度に維持し、その濃度差で滅菌紙を透過させるため、一層効率的に脱ガス処理でき且つ過酸化水素ガスの残留を確実に防止できる。従って、また、医療用滅菌包装において、容器本体として、透明性に優れ且つ廃棄処理が容易なポリエステル系樹脂製の容器本体を使用することも可能である。特に、温風の循環による包装容器からの過酸化水素ガスの脱ガス処理は、上記の様に効率的に脱ガス出来、かつ、温風を製造するための熱負荷も大幅に低減でき、しかも、触媒分解によって全く無害な成分に適確に分解処理でき、かつ、滅菌処理においては勿論、最終的な系外への排出においても極めて高い安全性が確保されるため、工業的、環境的に著しい効用を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る医療用滅菌包装における滅菌方法の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る滅菌方法の各操作工程を示す工程図である。図2は、本発明に係る滅菌方法を実施するための滅菌装置としてのチャンバーの概要を示す系統図である。図3は、薬剤入り注射器が封入された包装容器の一形態を示す外観斜視図であり、図4は、図3における包装容器の包装構造を底面側から示す展開斜視図である。図5は、チャンバー内における包装容器(包装品)の取扱方法を示す斜視図である。
【0011】
本発明の滅菌方法は、特定の包装容器に封入された医療品(医薬品、医療用具などを含む)を包装状態のまま過酸化水素ガスによって滅菌処理するいわゆる医療用滅菌包装における滅菌方法である。医療用滅菌包装に適した医療品としては、例えば、図4に示す様な薬剤入り注射器(4)が挙げられる。薬剤入り注射器(4)は、周知の通り、所要の薬剤が予め充填され、注射針を取り付けて直ちに使用できる形態の注射具であり、斯かる薬剤入り注射器に関する技術は、特開平4−150868号公報などに記載されている。
【0012】
すなわち、薬剤入り注射器(4)は、先端の注射針取付部にキャップ(42)が装着された注射筒(41)と、先端にピストンを有し且つ注射筒(41)に挿入されたピストンロッド(44)と、注射筒(41)に充填された薬剤とから成る。また、注射筒(41)のフランジ(43)には、使用時に指を引掛けるためのアダプター(補助具)(47)が装着されており、斯かるアダプター(47)は、後述の包装容器に収容した際、薬剤入り注射器(4)の揺動を防止する機能も有する。そして、薬剤入り注射器(4)に充填される薬剤としては、加熱滅菌に適さない薬剤、典型的には、ヒアルロン酸ナトリウム溶液などが好適である。
【0013】
上記の包装容器は、図3に符号(1)で示す様に、ガスバリヤー性を有する合成樹脂製の容器本体(2)と、過酸化水素ガスを透過可能で且つ容器本体(2)に溶着可能な蓋材としての滅菌紙(3)とから構成される。容器本体(2)は、透明性の樹脂によって細長の略器状に一体成形され、開放された容器本体(2)の底面が滅菌紙(3)によって封止される。
【0014】
容器本体(2)を構成する樹脂材料としては、細菌を透過することがなく且つ内容物を目視できる材料であれば適宜の熱可塑性樹脂を使用できるが、ガスバリヤー性および透明性の観点から、容器本体(2)は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂によって構成されているのが好ましい。具体的には、容器本体(2)は、200〜600μmの厚さのPETフィルムを使用し、ブリスター成形、深絞り成形などの成形法によって作製される。特に、PETフィルムにて構成された容器本体(2)は、廃棄処分の際に塩化ビニルの様に塩素などの毒性ガスの発生がなく、公害防止の観点からも好ましい包装材である。
【0015】
また、図3及び図4に示す様に、容器本体(2)は、外観視した場合、薬剤入り注射器(4)の注射筒(41)先端側を収容する第1の膨出部(21)と、途中まで挿入されたピストンロッド(44)を含む薬剤入り注射器(4)の全長の略中央部を収容する第2の膨出部(22)と、注射筒(41)のフランジ(43)及びピストンロッド(44)の押し子(終端の拡径部)(45)を収容する第3の膨出部(23)と、これらの膨出部を結合する2つのくびれ部(24)、(24)とを備えている。
【0016】
容器本体(2)の第1の膨出部(21)及び第3の膨出部(23)は、薬剤入り注射器(4)の両端側に比較的大きな空間を形成し、注射筒(41)とピストンロッド(44)の隙間などの細部に拡散する滅菌ガスを一時的に貯留する様に機能し、そして、中央の第2の膨出部(22)は、包装容器(1)から薬剤入り注射器(4)を容易に且つ衛生的に取り出すための容器本体(2)の折り曲げ支点として機能する。
【0017】
一方、容器本体(2)の各くびれ部(24)は、後述する滅菌処理において多数積み重ねた際、上段または下段の包装容器(1)との間に隙間を形成し、過酸化水素ガスや空気の流れを良好にする。更に、斯かる観点からは、容器本体(2)の第1の膨出部(21)及び第3の膨出部(23)は、積み重ねる場合の支持点として構成され、第2の膨出部(22)は、第1の膨出部(21)及び第3の膨出部(23)よりも低い高さで形成されるのが好ましい。なお、好ましい態様において、第3の膨出部(23)の中央には、上段または下段の包装容器(1)の滅菌紙(3)に対する接触面積を低減するため、鞍部状の凹没部(25)が形成される。
【0018】
滅菌紙(3)としては、細菌などの微生物を透過することなく且つ滅菌用ガスや空気などのガスを透過可能な材料、例えば、デュポン社製の商品名「タイベック 1073B」として知られる高密度ポリエチレンのシート材料が好適に使用される。斯かる滅菌紙(3)は、容器本体(2)に対して上記の様な薬剤入り注射器(4)を収容した後、超音波溶着法または加熱溶着法によって気密に溶着される。
【0019】
また、本発明の滅菌方法を実施するにあたり、図2に示す様な滅菌装置としてのチャンバー(5)が使用される。チャンバー(5)は、例えば、気密可能な横長の耐圧容器として設計され、包装容器(包装品)(1)(図5参照)が積載されたパレットを一側端面の扉から装填可能に構成される。斯かるチャンバー(5)には、過酸化水素ガスの供給ライン(A)、減圧ライン(B)、空気の導入ライン(C)及び温風循環ライン(D)が付設され、かつ、減圧ライン(B)及び温風循環ライン(D)には、過酸化水素ガス分解用の触媒装置(54)が介装される。
【0020】
上記の過酸化水素ガスの供給ライン(A)は、一定量の過酸化水素溶液を計量して定量供給する機構および供給された溶液を加熱してガス化するガス発生システムから成る過酸化水素発生器(51)と、過酸化水素発生器(51)から仕切弁(61)を介してチャンバー(5)内に伸長された配管(71)とから構成され、配管(71)の先端には、分岐管を介して複数のノズル(81)が設けられる。
【0021】
減圧ライン(B)は、真空ポンプ(52)と、チャンバー(5)の他方の側端面に設けられた複数の吸引口(82)から真空ポンプ(52)の吸気側に至る配管(72)と、真空ポンプ(52)の排気側に接続された配管(73)及び仕切弁(62)と、チャンバー(5)から排出された過酸化水素ガスを無害化する触媒装置(54)とから構成され、触媒装置(54)の排気側には、分解処理して発生した酸素ガスを放出する仕切弁(63)が設けられる。なお、真空ポンプ(52)としては、過酸化水素ガスによる潤滑油の変質を回避するため、乾式のポンプが使用される。
【0022】
空気の導入ライン(C)は、上記の配管(71)から分岐され且つ開放端側にフィルター(64)及び仕切弁(65)が設けられた配管によって構成される。すなわち、過酸化水素ガスの供給ライン(A)の仕切弁(61)が閉止された状態において、仕切弁(65)が開放されることによりチャンバー(5)に空気を導入する様になされている。
【0023】
温風循環ライン(D)は、上記の触媒装置(54)、循環ファン(55)及びヒーター(56)を順次に接続して構成される。触媒装置(54)には、例えば、チャンバー(5)の一側壁に設けられた複数の吸気口(83)から伸長された配管(74)が仕切弁(66)を介して接続される。循環ファン(55)は、触媒装置(54)の後段に配置され、ヒーター(56)には、循環ファン(55)の排気側から伸長された配管(75)が接続される。そして、ヒーター(56)の出口側には、チャンバー(5)の他方の側壁に設けられた複数の吹出口(84)に至る配管(76)が接続される。なお、触媒装置(54)は、上記の様に、減圧ライン(B)及び温風循環ライン(D)の両ラインの過酸化水素ガスを分解するために設置され、斯かる触媒装置(54)としては、白金などの還元剤を収容して成る公知の装置が使用される。
【0024】
上記チャンバー(5)を使用した本発明の滅菌処理方法は、図1に示す様に、ステップ(S1)〜ステップ(S8)の操作工程に沿って実施される。先ず、滅菌処理すべき包装容器(包装品)(1)を台車に積載して台車ごとチャンバーに装填する。その際、図5に示す様に、包装容器(1)は、処理効率を高めるため、多数列に配列され(例示的に1列のみ図示)且つ上下に多数段積み重ねた状態で台車に積載される(ステップ(S1))。
【0025】
次いで、チャンバー(5)を閉鎖した後、減圧ライン(B)の仕切弁(62)及び(63)を開放し(温風循環ライン(D)の仕切弁(66)は閉止し)且つ真空ポンプ(52)を起動し、吸引口(82)、配管(72)、(73)及び触媒装置(54)を通じて内部の空気を排気することにより、チャンバー(5)内を凡そ10〜30torrに減圧する。斯かる操作により、装填された包装容器(1)においては、滅菌紙(3)を通じて内部の空気が排気される。(ステップ(S2))
【0026】
上記ステップ(S2)の操作において、チャンバー(5)の真空度は、包装容器(1)の内部へ過酸化水素ガスを十分浸透させるためにある程度は高いほうがよいが、あまり高真空にすると、薬剤入り注射器(4)の内部に空気が混入している場合、ピストンロッド(44)が注射筒(41)から不要に飛び出す虞があるので上記の様な真空度の範囲に設定するのが好ましい。
【0027】
続いて、減圧ライン(B)の真空ポンプ(52)を停止またはアイドリング運転に切り替え、仕切弁(62)及び(63)を閉止した後、過酸化水素ガスの供給ライン(A)から過酸化水素ガスを供給する。過酸化水素ガスは、仕切弁(61)を開放し、過酸化水素発生器(51)を作動させることにより、配管(71)及び複数のノズル(81)を通じてチャンバー(5)の内部に拡散される(ステップ(S3))。
【0028】
過酸化水素ガスを供給した後、斯かるガスがチャンバー(5)に充満した状態を1〜10分程度維持し、薬剤入り注射器(4)を含む包装容器(1)の内部を滅菌処理する。包装容器(1)の内部は、上記ステップ(S2)の減圧操作により予め負圧になっているため、滅菌紙(3)を透過させて包装容器(1)の内部に過酸化水素ガスを一層効率的に浸透させることが出来る(ステップ(S4))。
【0029】
ところで、単純な形状の医療品を滅菌する場合は1回の滅菌操作でも十分であるが、上述の様な薬剤入り注射器(4)などが封入された包装容器(1)を滅菌する場合、注射筒(41)とピストンロッド(44)の隙間などの細部に亙って滅菌処理する必要がある。そこで、上述の滅菌操作、すなわち、減圧したチャンバー(5)に過酸化水素ガスを供給する操作を複数回繰り返す。具体的には、ステップ(S2)からステップ(S4)の操作を1〜12回繰り返す。これにより、薬剤入り注射器(4)の細部にまで過酸化水素ガスを確実に浸透させることが出来る。
【0030】
滅菌処理の操作を所定回数だけ終了したならば、過酸化水素ガスの供給ライン(A)を閉止し、再び減圧ライン(B)を作動させることにより、チャンバー(5)から過酸化水素ガスを排気する。すなわち、過酸化水素ガスの供給ライン(A)の仕切弁(61)を閉止し、減圧ライン(B)の仕切弁(62)及び(63)を開放し且つ真空ポンプ(52)を作動させて内部の過酸化水素ガスを排気する。その際、過酸化水素ガスは、触媒装置(54)によって酸素と水に分解され、系外に安全に排気され、そして、チャンバー(5)内は、凡そ10〜30torrに減圧される(ステップ(S5))。
【0031】
次いで、上記の減圧ライン(B)を閉止し、空気の導入ライン(C)を通じてチャンバー(5)に空気を導入する。空気の導入操作においては、仕切弁(65)を開放することにより、フィルター(64)、配管(71)及び複数のノズル(81)を通じて空気が導入され、チャンバー(5)内が大気圧に復圧される。そして、チャンバー(5)内を大気圧とした後、仕切弁(65)を閉止する(ステップ(S6))。
【0032】
続いて、包装容器(1)の内部に残留する過酸化水素ガスを除去する。過酸化水素ガスの除去は、空気に晒すだけでもある程度は除去できるが、極めて長時間放置しなければならないと言う問題、および、PET等の上記ポリエステル系樹脂などの包装容器の容器本体の材質によっては、過酸化水素ガスの高い吸着力によって完全に除去できないと言う問題が生じる。そこで、本発明においては、加温しつつ包装容器(1)から過酸化水素ガスを脱ガス処理する。これにより、容器本体(2)からの過酸化水素ガスの脱着を促進し、過酸化水素ガスを一層迅速に脱ガスでき、しかも、過酸化水素ガスの残留を確実に防止できる。そして、上記の加温方法としては、昇温した空気をチャンバー(5)に対して循環させる方法が好ましい。
【0033】
具体的には、温風循環ライン(D)の仕切弁(66)を開放し、循環ファン(55)及びヒーター(56)を稼働させる。循環ファン(55)は、複数の吸気口(83)から吸込んだチャンバー(5)内の空気を触媒装置(54)に配管(74)を通じて吸引し、触媒装置(54)によって過酸化水素ガスが除去された空気をヒーター(56)に配管(75)を通じて供給し、そして、ヒーター(56)によって昇温された空気をチャンバー(5)に複数の吹出口(84)を通じて返流する(ステップ(S7))。
【0034】
また、上記ステップ(S7)においては、チャンバー(5)内の温度設定、すなわち、ヒーター(56)の調整により、約30〜120℃、好ましくは30〜100℃の温風条件下で包装容器(1)の内部から過酸化水素ガスを脱ガス処理することが重要である。温度条件を規定する理由は次の通りである。すなわち、温風の温度が30℃よりも低い場合には、容器本体(2)のポリエステル系樹脂フィルム表面から過酸化水素ガスを脱着し難いために脱ガス効率が低下し、また、温風の温度が120℃よりも高い場合には、薬剤入り注射器(4)に充填された薬剤が実質的に100℃よりも高温になり変質する虞がある。
【0035】
ステップ(S7)の脱ガス処理は、通常、30〜120分程度行い、包装容器(1)内部に残留する過酸化水素ガスを滅菌紙(3)を透過させて排出し、温風循環ライン(D)の触媒装置(54)によって分解処理する。すなわち、昇温した空気をチャンバー(5)に対して循環させつつ、循環空気に含まれる過酸化水素ガスを触媒反応によって分解することにより、チャンバー(5)内の過酸化水素ガス濃度を常に低い状態に維持し、効率的に且つ安全に過酸化水素ガスを脱ガス処理する。そして、上記の様に過酸化水素ガスを脱ガス処理した後は、温風循環ライン(D)を停止し、チャンバー(5)から処理済みの包装容器(1)を取り出す(ステップ(S8))。
【0036】
なお、脱ガス処理した後、すなわち、ステップ(S7)の操作の後は、チャンバー(5)に一旦大気を導入してもよい。チャンバー(5)にフレッシュエアーを供給することにより、チャンバー(5)の庫内および包装容器(1)の温度を下げることが出来、直ちに後工程のハンドリングが可能になる。しかも、触媒装置(54)の不調などで仮に微量の過酸化水素ガスが残存した場合にも、庫内の空気を置換することによって安全を確保できる。
【0037】
上記の様に、本発明の滅菌方法においては、包装容器として、特定の素材からなる容器本体(2)と滅菌紙(3)とから構成され且つ容器本体(2)が特定の形状を備えた包装容器(1)を使用するため、多数段積み重ねた状態でガスに晒しても、上段または下段の包装容器(1)との接触面積が少なく、包装容器(1)の滅菌紙(3)における過酸化水素ガス及び空気との接触効率を高めることができ、迅速な滅菌処理および脱ガス処理が可能である。
【0038】
そして、過酸化水素ガスによって滅菌処理した後、所定温度の温風条件下で包装容器(1)の内部から過酸化水素ガスを脱ガス処理することにより、容器本体(2)からの過酸化水素ガスの脱着を促進できるため、効率的に脱ガス処理でき且つ過酸化水素ガスの残留を確実に防止できる。しかも、過酸化水素ガスの脱ガス処理においては、昇温した空気を循環させつつ、循環空気に含まれる過酸化水素ガスを触媒反応によって分解することにより、チャンバー(5)内の過酸化水素ガス濃度を常に包装容器(1)の内部よりも低濃度に維持し、その濃度差で滅菌紙(3)を透過させるため、包装容器(1)内部の過酸化水素ガスを一層効率的に脱ガス処理できる。従って、また、容器本体(2)として、透明性に優れ且つ廃棄処理が容易なポリエステル系樹脂製の容器本体を使用することが可能である。
【0039】
因に、PETフィルム製の容器本体(2)と上記「タイベック」から成る滅菌紙(3)とから包装容器(1)を構成し、薬剤としてヒアルロン酸ナトリウムが充填された薬剤入り注射器(4)を包装容器(1)に封入した。そして、2つの処理ロット(a)及び(b)に分け、図2に示すチャンバー(5)を使用し、過酸化水素ガスによって各ロットを滅菌処理した。その場合、ロット(a)は、本発明の滅菌方法によって滅菌処理し、ロット(b)は、比較例として、図1のステップ(S1)〜ステップ(S6)の操作を行った後、常温の大気中に放置して脱ガス処理した。その結果、ロット(a)においては、2時間の脱ガス処理(ステップ(S7))により過酸化水素ガスを完全に除去できたのに対し、ロット(b)においては、6時間後も包装容器(1)から約100ppmの過酸化水素の残留が確認された。
【0040】
本発明において、特に、上記の様な温風の循環による包装容器(1)からの過酸化水素ガスの脱ガス操作は、工業的、環境的な観点からして著しい効用を発揮する。すなわち、上記の脱ガス操作によれば、脱ガス処理に使用されて微量ながらも過酸化水素ガスを含む可能性のある空気の系外への排出量を大幅に削減できると共に、温風を製造するための熱負荷も大幅に低減できる。そして、脱ガス効果をより促進するには、チャンバーに返流される空気中の過酸化水素ガス濃度を極力低くするのが望ましいが、触媒の使用により、更には循環空気の昇温により、確実かつ安全に循環空気中の過酸化水素ガスを処理できる。しかも、滅菌ガスとして過酸化水素ガスを使用するため、触媒分解によって全く無害な成分に適確に分解処理できるため、滅菌処理においては勿論、最終的な系外への排出においても極めて高い安全性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る滅菌方法の各操作工程を示す工程図である。
【図2】滅菌装置としてのチャンバーの概要を示す系統図である。
【図3】薬剤入り注射器が封入された包装容器の一形態を示す外観斜視図である。
【図4】図3における包装容器の包装構造を底面側から示す展開斜視図である。
【図5】チャンバー内における包装容器(包装品)の取扱方法を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
1 :包装容器
2 :容器本体
3 :滅菌紙
4 :薬剤入り注射器
5 :チャンバー
51:過酸化水素ガスの発生器
52:真空ポンプ
54:触媒装置
55:循環ファン
56:ヒーター
64:フィルター
81:ノズル
82:吸引口
83:吸気口
84:吹出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
包装容器に封入された医療品としての薬剤入り注射器を過酸化水素ガスによって滅菌処理する滅菌方法であって、包装容器として、ガスバリヤー性を有し且つ底面全体が開放された合成樹脂製の一体成形された容器本体と、過酸化水素ガスを透過可能で且つ容器本体の底面全体に溶着可能な蓋材としての滅菌紙とから構成される包装容器を使用すると共に、包装容器に封入された薬剤入り注射器を滅菌装置としてのチャンバーに収容し、10〜30torrに減圧したチャンバーに過酸化水素ガスを供給する操作を複数回繰り返すことによって滅菌処理した後、加温しつつ包装容器の内部から過酸化水素ガスを脱ガス処理することを特徴とする医療用滅菌包装における滅菌方法。
【請求項2】
昇温した空気をチャンバーに対して循環させつつ、循環空気に含まれる過酸化水素ガスを触媒反応によって分解することにより、過酸化水素ガスを脱ガス処理する請求項1に記載の滅菌方法。
【請求項3】
脱ガス処理した後、チャンバーに大気を導入する請求項2に記載の滅菌方法。
【請求項4】
チャンバーとして、過酸化水素ガスの供給ライン、減圧ライン、空気の導入ライン及び温風循環ラインが付設され、かつ、前記の減圧ライン及び前記の温風循環ラインに過酸化水素ガス分解用の触媒装置が介装されたチャンバーを使用する請求項1〜3の何れかに記載の滅菌方法。
【請求項5】
薬剤入り注射器に充填された薬剤がヒアルロン酸ナトリウム溶液である請求項1〜4の何れかに記載の滅菌方法。
【請求項6】
滅菌処理した後、30〜120℃に加温する請求項1〜5の何れかに記載の滅菌方法。
【請求項7】
容器本体は、多数積み重ねた際に上段または下段の包装容器との間に隙間を形成するくびれ部を備えている請求項1〜6の何れかに記載の滅菌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−181368(P2006−181368A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1454(P2006−1454)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【分割の表示】特願平9−367652の分割
【原出願日】平成9年12月26日(1997.12.26)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】