説明

医療用潤滑剤およびゲルとしての新規の親水性ポリマー

本発明は、in vivoで認められた天然の多糖類の特性を模倣する新規のバイオポリマーを提供する。本発明の多糖類は、関節内補充剤、粘弾性体、組織詰物および/または癒着防止剤として使用することができる。また、本発明のポリマーを含む医薬組成物、ならびに、例えば、関節炎やスポーツで負傷した膝関節の治療、再建術または美容整形術、椎間板の修復、声帯疾患の治療、尿失禁の治療、および腹部手術後または婦人科手術後の癒着形成の予防などにおける、前記組成物の使用方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願
本願は、2006年5月19日に出願された、米国仮特許出願番号60/801,751より優先権を主張し、この出願の全体を本明細書中で参考として援用する。
【0002】
発明の背景
関節軟骨の変性を特徴とする非炎症性関節疾患である骨関節炎(OA)は、手や、体重を支持する関節(例えば、膝、股関節、足、脊椎)などの身体の1つ以上の部分に影響を及ぼす可能性がある。健康な場合は、軟骨によって骨同士が滑らかに動くことが可能になり、軟骨が緩衝装置としての機能を果たす。骨関節炎では、軟骨の表層の分解および摩耗が生じ、それによって軟骨の下の骨が擦れ合い、疼痛や、腫脹、関節動作の低下という一般的なOAの症状が生じる。さらに、膝などの関節における骨関節炎は、滑液(関節を保護し、潤滑を行って骨の摩擦を減少させる濃厚なゲル状物質)の粘度の低下を伴うことが多い。
【0003】
骨関節炎は、主に老化と関係しており、65歳を超える個体の有病率は約80%である。骨関節炎は、定年後の人口集団に大部分の疾患を引き起こす病態であるが、米国や欧州における労働損失の最大の要因とも考えられている。加齢の他に、骨関節炎と関連することが知られている危険因子には、肥満、外傷、スポーツや職場ストレスによる酷使が含まれる。
【0004】
現在のところ骨関節炎の療法は存在せず、行うことが可能な関節炎治療は、疼痛の症状軽減や、関節機能の改善または少なくともその維持を目的とする。一般的に、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)やCOX−2阻害剤などの鎮痛剤は、理学療法とともに使用されている。しかし、最近になってCOX−2阻害剤の使用が中止されたという状況において、医師は、骨関節炎の治療の選択においてより一層の制限を受けている。
【0005】
ゲル状物質(一般的にはヒアルロン酸塩(hyaluronate)、またはヒアルロン酸と呼ばれるもの)を関節内に注入して滑液の粘性を補う手術である、関節内補充療法は、鎮痛薬で疼痛が軽減しない多くの骨関節炎患者において疼痛の軽減が認められている。この術式は、欧州やアジアで数年前から使用されているが、米国食品医薬品局は1997年までこの術式を承認しなかった。関節内補充療法の現在の手術では、身体の天然のヒアルロナン(滑液の多糖成分)を置換または補充するためにヒアルロン酸製剤が注入されている。この注入剤は、関節軟骨面をコーティングし、それによって関節軟骨で可能となる予防的隔膜を提供する。しかし、関節内における有効期間が短い(数日程度)ため、現在利用可能なヒアルロン酸製剤は、患者にとっての長期有益性がごく限られたものでしかなく、大量の製剤の注入および/または繰り返しの注入を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、体重を支持する関節に影響を及ぼす骨関節炎および他の病態を治療する関節内補充療法に使用する、性能の改善された材料が必要とされていることは明らかである。具体的には、注入された生体液や関節などの生物組織内における有効期間が長い材料が非常に望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の要旨
本発明は、in vivoで認められた天然の多糖類の特性を模倣するバイオポリマーを対象とする。粘性液または粘性ゲルであってよい、本発明のバイオポリマーは、バイオテクノロジー、製薬および医療分野において種々の用途が見出される「バイオ潤滑剤」となる可能性がある。例えば、本明細書に記載のバイオポリマーは、関節内補充療法において(例えば、骨関節炎やスポーツで負傷した膝関節の治療において)使用することができる。前記バイオポリマーはまた、白内障手術において使用される粘弾性体として、美容整形術または尿失禁治療のための充填剤として、ならびに創傷治療のための癒着防止剤として使用することもできる。
【0008】
より具体的には、一態様において、本発明は、以下の化学構造の1つを有するポリマーであって:
【0009】
【化1】

式中、
nが100〜200,000の整数であり;
XがCHおよびOからなる群から選択され;
およびRが、同じであるか異なっているかのいずれかであり、ならびにH、COOR’、COCH、CONHR’、OR’およびSR’からなる群から選択され、
式中、R’の各存在が、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、COCH、CHCHOH、CHCHOR’’、アミノ酸、小ペプチドまたは大ペプチド、COCCH=CH、COCH=CH、CHCOH、CHCHCOH、CHCHSH、CHCHSR’’および(CHCHO)n’R’’’からなる群から独立して選択され、
式中、
n’が1〜2000の整数であり;
R’’の各存在が、トリチル、4−メチルトリチルおよび2−ピリジルからなる群から独立して選択され;
R’’’の各存在が、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、COCCH=CH、COCH=CH、CHCHO、CHCHCHO、COH、COR’’’’、CHCOH、CHCHCOH、CHNH、CHNHR’’’’、CHN(R’’’’)、CHCHNH、CHCHNHR、CHCHN(R’’’’)、SH、CHCOR’’’’およびCHCHCOR’’’’からなる群から独立して選択され、
式中、R’’’’の各存在が、マレイミド、アミノ酸、小ペプチドまたは大ペプチド、ホスフェート、スルフェート、コリンおよび活性エステルからなる群から独立して選択される、
ポリマーを提供する。
【0010】
別の態様において、本発明は、以下の化学構造の1つを有するポリマーであって:
【0011】
【化2】

式中、
nが100〜200,000の整数であり、そしてmが100〜200,000の整数であり、;
、R、RおよびRが、同じであるか異なっているかのいずれかであり、ならびにCHおよびOからなる群から選択され;
およびRが、同じであるか異なっているかのいずれかであり、ならびにH、COOR’、COCH、CONHR’、OR’およびSR’からなる群から選択され、
式中、R’の各存在が、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、COCH、CHCHOH、CHCHOR’’、アミノ酸、小ペプチドまたは大ペプチド、COCCH=CH、COCH=CH、CHCOH、CHCHCOH、CHCHSH、CHCHSR’’および(CHCHO)n’R’’’からなる群から独立して選択され、
式中、
n’が1〜2000の整数であり;
R’’の各存在が、トリチル、4−メチルトリチルおよび2−ピリジルからなる群から独立して選択され;
R’’’の各存在が、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、COCCH=CH、COCH=CH、CHCHO、CHCHCHO、COH、COR’’’’、CHCOH、CHCHCOH、CHNH、CHNHR’’’’、CHN(R’’’’)、CHCHNH、CHCHNHR、CHCHN(R’’’’)、SH、CHCOR’’’’およびCHCHCOR’’’’からなる群から独立して選択され、
式中、R’’’’の各存在が、マレイミド、アミノ酸、小ペプチドまたは大ペプチド、ホスフェート、スルフェート、コリンおよび活性エステルからなる群から独立して選択される、
ポリマーを提供する。
【0012】
別の態様において、本発明は、以下の化学構造の1つを有するポリマーであって:
【0013】
【化3】

式中、
nが100〜200,000の整数であり、mが100〜200,000の整数であり;
およびXが、同じであるか異なっているかのいずれかであり、ならびにCHおよびOからなる群から選択され;
およびRが、同じであるか異なっているかのいずれかであり、ならびにH、COOR’、COCH、CONHR’、OR’およびSR’からなる群から選択され、
式中、R’の各存在が、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、COCH、CHCHOH、CHCHOR’’、アミノ酸、小ペプチドまたは大ペプチド、COCCH=CH、COCH=CH、CHCOH、CHCHCOH、CHCHSH、CHCHSR’’および(CHCHO)n’R’’’からなる群から独立して選択され、
式中、
n’が1〜2000の整数であり;
R’’の各存在が、トリチル、4−メチルトリチルおよび2−ピリジルからなる群から独立して選択され;
R’’’の各存在が、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、COCCH=CH、COCH=CH、CHCHO、CHCHCHO、COH、COR’’’’、CHCOH、CHCHCOH、CHNH、CHNHR’’’’、CHN(R’’’’)、CHCHNH、CHCHNHR、CHCHN(R’’’’)、SH、CHCOR’’’’およびCHCHCOR’’’’からなる群から独立して選択され、
式中、R’’’’の各存在が、マレイミド、アミノ酸、小ペプチドまたは大ペプチド、ホスフェート、スルフェート、コリンおよび活性エステルからなる群から独立して選択され、
Wが結合部分である、
ポリマーを提供する。
【0014】
ある実施形態において、結合部分は共有結合を含む。例えば、Wは、エステル結合、アミド結合、カルバメート結合、カーボネート結合、エーテル結合、ウレタン結合、チオカーボネート結合、チオウレタン結合、シフト塩基結合(shift base bond)、ペプチドライゲーションおよび炭素−炭素結合からなる群から選択される共有結合を含む場合がある。
【0015】
他の実施形態において、結合部分は非共有結合を含む。例えば、Wは、イオン結合、金属リガンド結合、金属キレート結合、水素結合、疎水結合、疎フルオロ結合およびファンデルワールス結合からなる群から選択される場合がある。
【0016】
さらに他の実施形態において、結合部分は結合分子を含む。例えば、結合分子は、置換または非置換のポリエチレングリコール、ポリアクリルグリコールおよび天然多糖類からなる群から選択される場合がある。置換基は、マレイミド、活性エステル、カルボン酸、アミン、チオール、システイン、アミノ酸、アクリル酸塩、メタクリル酸塩、エステルアルデヒド、およびアルデヒドからなる群から選択される場合がある。
【0017】
別の態様において、本発明は、以下の化学構造の1つを有するポリマーであって:
【0018】
【化4】

式中、
n、m、oおよびpが、同じであるか異なっているかのいずれかであり、ならびにn、m、oおよびpのそれぞれが100〜200,000の整数であり;
、X、XおよびXが、同じであるか異なっているかのいずれかであり、ならびにCHおよびOからなる群から選択され;
、R、RおよびRが、同じであるか異なっているかのいずれかであり、ならびにH、COOR’、COCH、CONHR’、OR’およびSR’からなる群から選択され、
式中、R’の各存在が、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、COCH、CHCHOH、CHCHOR’’、アミノ酸、小ペプチドまたは大ペプチド、COCCH=CH、COCH=CH、CHCOH、CHCHCOH、CHCHSH、CHCHSR’’および(CHCHO)n’R’’’からなる群から独立して選択され、
式中、
n’が1〜2000の整数であり;
R’’の各存在が、トリチル、4−メチルトリチルおよび2−ピリジルからなる群から独立して選択され;
R’’’の各存在が、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、COCCH=CH、COCH=CH、CHCHO、CHCHCHO、COH、COR’’’’、CHCOH、CHCHCOH、CHNH、CHNHR’’’’、CHN(R’’’’)、CHCHNH、CHCHNHR、CHCHN(R’’’’)、SH、CHCOR’’’’およびCHCHCOR’’’’からなる群から独立して選択され、
式中、R’’’’の各存在が、マレイミド、アミノ酸、小ペプチドまたは大ペプチド、ホスフェート、スルフェート、コリンおよび活性エステルからなる群から独立して選択され、
Wが結合部分である、
ポリマーを提供する。
【0019】
ある実施形態において、結合部分は共有結合を含む。例えば、Wは、エステル結合、アミド結合、カルバメート結合、カーボネート結合、エーテル結合、ウレタン結合、チオカーボネート結合、チオウレタン結合、シフト塩基結合、ペプチドライゲーションおよび炭素−炭素結合からなる群から選択される共有結合を含む場合がある。
【0020】
他の実施形態において、結合部分は非共有結合を含む。例えば、Wは、イオン結合、金属リガンド結合、金属キレート結合、水素結合、疎水結合、疎フルオロ結合およびファンデルワールス結合からなる群から選択される場合がある。
【0021】
さらに他の実施形態において、結合部分は結合分子を含む。例えば、結合分子は、置換または非置換のポリエチレングリコール、ポリアクリルグリコールおよび天然多糖類からなる群から選択される場合がある。置換基は、マレイミド、活性エステル、カルボン酸、アミン、チオール、システイン、アミノ酸、アクリル酸塩、メタクリル酸塩、エステルアルデヒド、およびアルデヒドからなる群から選択される場合がある。
【0022】
別の態様において、本発明は、少なくとも1つの医薬的に許容される担体と、有効量の上述の少なくとも1つの本発明のポリマーとを含む医薬組成物を提供する。
【0023】
別の態様において、本発明は、被験体の罹患または負傷した滑膜関節を治療する方法であって、有効量の本発明のポリマーを注入する工程を含む、方法を提供する。ある実施形態において、有効量の本発明のポリマーの注入は、単回注入を実施する工程を含む。他の実施形態において、有効量の本発明のポリマーの注入は、異なる時点で少なくとも2回の注入を実施する工程を含む。本発明の方法を使用して治療することができる罹患または負傷した滑膜関節には、膝関節、股関節、肘関節、足関節、手関節などの骨関節炎の関節およびスポーツで負傷した関節が含まれる。
【0024】
別の態様において、本発明は、被験体の皮膚を修復する方法であって、有効量の本発明のポリマーを被験体に投与する工程を含む、方法を提供する。ある実施形態において、前記ポリマーは、修復する皮膚領域に注入される。他の実施形態において、前記ポリマーは、修復する皮膚領域に局所的に適用される。
【0025】
さらに別の態様において、本発明は、被験体の椎間板を修復する方法であって、有効量の本発明のポリマーを被験体に投与する工程を含む、方法を提供する。例えば、前記ポリマーは、修復する椎間板に注入される場合がある。
【0026】
さらに別の態様において、本発明は、被験体の尿失禁を治療する方法であって、有効量の本発明のポリマーを被験体に投与する工程を含む、方法を提供する。前記ポリマーは、被験体の泌尿器系の少なくとも1つの障害領域に注入される場合がある。
【0027】
本発明の治療方法において、前記ポリマーは、粘性液またはゲルとして使用される場合があり、他の物質(例えば、前記ポリマーの投与領域(例えば、関節、皮膚、椎間板、泌尿器系)に送達する物質)もさらに含む場合がある。前記他の物質は、成長因子、サイトカイン、小分子、鎮痛薬、麻酔薬、抗微生物剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗生物質、抗炎症剤、抗酸化剤および防腐剤の内の1つ以上である場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、アルギン酸およびヒアルロン酸ならびに本発明の多糖類模倣体例の化学構造を示す。
【図2】図2は、本発明に記載の多糖類模倣体の合成例を示す模式図である。
【図2A】表1は、本発明のポリマーの一部で得たSECおよび接触角のデータの一覧を示す。
【図3】図3は、アルギン酸ならびに本発明のポリマー4および8の粘度データを示す。
【図4】図4は、本発明の化合物1〜9の化学構造を示す。
【図5】図5は、ヒアルロン酸およびポリマー9の粘度データを示す。
【図6】図6は、ヒアルロン酸およびポリマー9の摩擦係数データを示す。
【図7】図7は、(A)22G針を使用して滑膜関節腔にアクセスしている最中のニュージランドホワイトラビット肘関節;(B)造影剤とポリマー9との混合物を含有して使用される注射器;および(C)滑膜関節腔にポリマー9と造影剤との混合物が充填されるニュージランドホワイトラビットの肘関節、を示すX線図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
定義
本明細書全体を通して、以下のパラグラフで定義されるいくつかの用語が使用される。
【0030】
「個体」および「被験体」という用語は、本明細書で交換可能に使用される。これらは、ヒトまたは別の哺乳類(例えば、霊長類、イヌ、ネコ、ヤギ、ウマ、ブタ、マウス、ウサギなど)を指す。ある好ましい実施形態において、被験体はヒトである。これらの用語は、特定の年齢を示すものではなく、したがって、成体、小児および新生児を包含する。
【0031】
「治療」という用語は、(1)疾患または病態の発症を遅延または予防する;(2)疾患または病態の症状の進行、増悪または悪化を緩慢化または停止させる;(3)疾患または病態の症状を改善させる;あるいは(4)疾患または病態を治癒させる、ことを目的とする方法またはプロセスの特徴を記述するものとして本明細書で使用される。治療は、予防作用のために疾患の発症前に施される場合がある。あるいはまたはさらに、治療は、治療作用のために疾患または病態の初発後に施される場合がある。
【0032】
「局所」という用語は、本発明のポリマーまたはその医薬組成物の送達、投与または適用の特徴を記述するものとして本明細書で使用される場合、前記ポリマーまたは組成物が、治療する部位に直接、もしくは局所的効果のために治療する部位の近くに送達、投与、または適用されることを指すものとして意図される。例えば、関節内補充剤(viscosupplement)として使用される本発明の多糖類模倣体は一般的に、骨関節炎の膝関節に直接注入され;組織詰物として使用される本発明の多糖類模倣体は一般的に、罹患または損傷した声帯、または線もしくはしわを示す皮膚領域に直接注入される。好ましくは、局所投与は、多糖類模倣体の成分が罹患体の血流内に有意に吸収されることなく行われる(全身効果を回避するため)。
【0033】
「医薬組成物」は、有効量の少なくとも1つの活性成分(例えば、本発明の多糖類模倣体)と、少なくとも1つの医薬的に許容される担体とを含むものとして本明細書で定義される。
【0034】
本明細書で使用される「医薬的に許容される担体」という用語は、活性成分の生物活性の有効性に干渉せず、投与濃度で宿主に対して過度に有毒とならない担体媒質を指す。本用語には、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤、抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤などが含まれる。医薬活性物質へのこのような媒質および薬剤の使用は、当該技術分野で周知である(例えば、全体が参考として本明細書で援用される、“Remington’s Pharmaceutical Sciences”,E.W.Martin,18th Ed.,1990,Mack Publishing Co.:Easton,PAを参照)。
【0035】
本明細書で使用される「有効量」という用語は、所期の目的を実現する、すなわち、組織または被験体において所望の生体反応または医薬反応を誘発するのに十分な、分子、化合物または組成物の量を指す。本発明のポリマーの所期の目的の例には、関節に関節内補充療法を提供すること、軟部組織の増大を実現すること、癒着形成を予防または抑制すること、組織の取扱いを容易にすること、および/または軟部組織を維持、支持または保護することが含まれるが、これらに限定されない。
【0036】
本明細書で使用される「軟部組織の増大」という用語には、皮膚組織の増大;特に顔および頸部における、線、ひだ、しわ、軽度の顔の陥凹、口唇裂などの充填;手足、指、足指などにおける、加齢や疾患による軽度の変形の矯正;発語の回復のための声帯または声門の増大;寝しわおよび表情しわの皮膚の充填;加齢による皮膚組織および皮下組織の置換;唇の増大;目の周囲の目尻のしわおよび眼窩溝の充填;豊胸;顎の増大;頬および/または鼻の増大;例えば過度の脂肪吸引や他の外傷による皮膚軟部組織または皮下軟部組織内の陥凹の充填;座瘡や、外傷性の瘢痕およびしわの充填;鼻唇溝、鼻と眉間のしわ、および口腔内のしわの充填が含まれるが、これらに限定されない。
【0037】
本明細書で使用される「軟部組織」という用語には、骨を除く身体のすべての組織が含まれる。軟部組織の例には、筋肉、腱、繊維組織、脂肪、血管、神経、および滑液組織が含まれるが、これらに限定されない。
【0038】
「生物活性剤」および「生物学的活性剤」という用語は、本明細書で交換可能に使用される。これらの用語は、生物学的または化学的事象を変更する、阻害する、活性化する、またはその他の方法で影響を及ぼす化合物または構成要素を指す。例えば、生物活性剤には、ビタミン剤、抗癌物質、抗菌薬、免疫抑制剤、抗ウイルス物質、酵素阻害剤、オピオイド、催眠薬、潤滑剤、精神安定剤、抗痙攣剤、筋弛緩剤、抗痙攣薬および筋収縮薬、抗緑内障化合物、細胞成長阻害剤や抗接着分子などの細胞−細胞外マトリックス相互作用のモジュレーター、血管拡張剤、鎮痛薬、解熱剤、ステロイド系および非ステロイド系消炎薬、抗血管新生因子、抗分泌性因子、抗凝固剤および/または抗血栓薬剤、局所麻酔薬、眼薬、プロスタグランジン、抗鬱薬、抗精神病物質、制吐薬、イメージング剤が含まれる場合があるが、これらに限定されない。本発明での使用に適切な種類および特定薬剤の網羅的ではないが、より詳細な一覧については、いずれも参考として本明細書で援用される、“Pharmaceutical Substances:Synthesis,Patents,Applications”by A.Kleeman and J.Engel,Thieme Medical Publishing,1999;および“Merck Index:An Encyclopedia of Chemicals,Drugs,and Biologicals”,S.Budavari et al.(Eds),CRC Press,1996に記載されている。
【0039】
「小分子」という用語は、天然由来であろうと人工的に(例えば、化学合成法により)作製されたものであろうと、比較的低分子量の分子を指す。好ましい小分子は、動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトにおいて局所的または全身性作用を生じるという点で生物活性を有する。通常、小分子は、約1,500Da未満の分子量を有する。ある好ましい実施形態において、小分子は薬物である。必ずしも必須ではないが、好ましくは、前記薬物は、適切な行政機関または行政体によって使用に安全かつ有効であるとすでに認められたものである。例えば、参考として本明細書で援用される、FDAにより21 C.F.R.§§330.5,331〜361および440〜460の下に列挙されたヒト用の薬物;参考として本明細書で援用される、FDAにより21 C.F.R.§§500〜589の下に列挙された獣医学用の薬物はすべて、本発明の多糖類模倣体ポリマーとともに使用するのに適切であると考えられる。
【0040】
「多糖類」、「炭水化物」および「オリゴ糖類」という用語は、本明細書で交換可能に使用される。これらの用語は、少なくとも2個の糖単位を含む化合物、またはその誘導体を指す。多糖類は、植物などの天然の原料から精製される場合もあれば、あるいは研究機関で新たに合成される場合もある。天然の原料から単離される多糖類は、化学的または物理的な特性を変化させるために化学修飾(例えば、還元、酸化、リン酸化、架橋)される場合がある。炭水化物ポリマーまたは炭水化物オリゴマーには、天然糖類(例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、アラビノース、リボース、キシロースなど)および/または修飾糖類(例えば、2’−フルオロリボース、2’−デオキシリボースなど)が含まれる場合がある。多糖類はまた、直鎖である場合もあれば、分岐鎖である場合もある。多糖類は、天然炭水化物残基および/または非天然炭水化物残基を含有する場合がある。残基間の結合は、通常は天然で認められるエーテル結合である場合もあれば、あるいは単に合成化学者に利用可能な結合である場合もある。多糖類の例には、セルロース、マルチトール、マルトース、デンプン、修飾デンプン、デキストラン、ポリ(デキストロース)、およびフルクトースが含まれる。グリコサミノグリカンもまた、多糖類であると考えられる。本明細書で使用される糖アルコールとは、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、ガラクチトール、エリトリトール、イノシトール、リビトール、ズルシトール、アドニトール、アラビトール、ジチオエリトリトール、ジチオスレイトール、グリセロール、イソマルト、および水素化デンプン加水分解物などのいずれかのポリオールを指す。
【0041】
構成要素は、直接的または間接的な共有結合または非共有結合相互作用によって結合する場合に、別の構成要素と「会合する」と本明細書では考えられる。ある実施形態において、前記会合は共有結合である。望ましい非共有結合相互作用には、水素結合、ファンデルワールス相互作用、疎水性相互作用、磁気的相互作用、静電的相互作用、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0042】
一般的に、本明細書で使用される「脂肪族」という用語には、以下に定義するように1個以上の官能基で場合により置換される飽和および不飽和両方の直鎖(すなわち非分枝鎖)または分岐鎖の脂肪族炭化水素が含まれる。当業者であれば理解するように、「脂肪族」とは、アルキル部分、アルケニル部分、アルキニル部分を含むがこれらに限定されないものとして本明細書で意図される。したがって、本明細書で使用される「アルキル」という用語には、直鎖および分岐鎖のアルキル基が含まれる。類似の表記法は、「アルケニル」や「アルキニル」などの他の一般名にも当てはまる。さらに、本明細書で使用される「アルキル」、「アルケニル」、「アルキニル」などの用語は、置換基および非置換基の両方を包含する。ある実施形態において、本明細書で使用される「低級アルキル」は、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基(置換、非置換、分岐鎖、または非分枝鎖)を示すものとして使用される。ある実施形態において、本発明で使用されるアルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、1〜20個の脂肪族炭素原子を含有する。ある他の実施形態において、本発明で使用されるアルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、1〜10個の脂肪族炭素原子を含有する。さらに他の実施形態において、本発明で使用されるアルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、1〜8個の脂肪族炭素原子を含有する。さらに他の実施形態において、本発明で使用されるアルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、1〜6個の脂肪族炭素原子を含有する。さらに他の実施形態において、本発明で使用されるアルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、1〜4個の炭素原子を含有する。
【0043】
したがって、例示的な脂肪族基には、例えば、すでに定義した通り1個以上の置換基をさらに担持する場合があるメチル部分、エチル部分、n−プロピル部分、イソプロピル部分、アリル部分、n−ブチル部分、sec−ブチル部分、イソブチル部分、tert−ブチル部分、n−ペンチル部分;sec−ペンチル部分、イソペンチル部分、tert−ペンチル部分、n−ヘキシル部分、sec−ヘキシル部分などが含まれるが、これらに限定されない。アルケニル基には、例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、1−メチル−2−ブテン−1−イルなどが含まれるが、これらに限定されない。代表的なアルキニルには、エチニル、2−プロピニル(プロパルギル)、1−プロピニルなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0044】
本明細書で使用される「脂環式」という用語は、脂肪族化合物と環式化合物との特性を組み合わせた化合物を指し、以下に定義する通り1個以上の官能基で場合により置換される環式または多環式の脂肪族炭化水素および架橋シクロアルキル化合物を含むが、これらに限定されない。当業者であれば理解するように、「脂環式」には、1個以上の官能基で場合により置換されるシクロアルキル部分、シクロアルケニル部分、またはシクロアルキニル部分が含まれるがこれらに限定されないものとして本明細書で意図される。したがって、例示的な脂環式基には、例えば、1個以上の置換基をさらに担持する場合があるシクロプロピル部分、−CH−シクロプロピル部分、シクロブチル部分、−CH−シクロブチル部分、シクロペンチル部分、−CH−シクロペンチル−n部分、シクロヘキシル部分、−CH−シクロヘキシル部分、シクロヘキセニルエチル部分、シクロヘキサニルエチル部分、ノルボルビル部分などが含まれるが、これらに限定されない。
【0045】
本明細書で使用される「ヘテロ脂肪族」という用語は、主鎖中の1個以上の炭素原子がヘテロ原子で置換されている脂肪族部分を指す。したがって、ヘテロ脂肪族基とは、例えば炭素原子の代わりに、1個以上の酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子またはケイ素原子を含有する脂肪族鎖を指す。ヘテロ脂肪族部分は、飽和または不飽和、分岐鎖または直鎖(すなわち、非分岐鎖)、および置換または非置換である場合がある。置換基には、下記の置換基のいずれか、すなわち安定した化合物を形成する以下に列挙する置換基が含まれるが、これらに限定されない。
【0046】
本明細書で使用される「ヘテロ脂環式」という用語は、ヘテロ脂肪族化合物と環式化合物との特性を組み合わせた化合物を指し、1個以上の官能基で場合により置換される、モルホリノ、ピロリジニル、フラニル、チオフラニル、ピロリルなどの飽和および不飽和の単環式または多環式ヘテロ環式基を含むが、これらに限定されない。置換基には、下記の置換基のいずれか、すなわち、安定した化合物を形成する以下に列挙する置換基が含まれるが、これらに限定されない。
【0047】
本明細書で使用される「アルキル」という用語は、アルキル基が1個以上の官能基で場合により置換される、1個の水素原子の除去によって1〜20個の炭素原子を含有する炭化水素部分から誘導される直鎖または分枝鎖の飽和炭化水素ラジカルを指す。置換基には、下記の置換基のいずれか、すなわち、安定した化合物を形成する以下に列挙する置換基が含まれるが、これらに限定されない。アルキルラジカルの例には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−デシル、n−ウンデシル、およびドデシルが含まれるが、これらに限定されない。
【0048】
本明細書で使用される「アルコキシ」という用語は、すでに定義した通り、酸素原子を介して親分子部分に結合するアルキル基を指す。例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシ、ネオペントキシ、およびn−ヘキソキシが含まれるが、これらに限定されない。
【0049】
「アルケニル」という用語は、アルケニル基が1個以上の官能基で場合により置換される、少なくとも1個の炭素−炭素二重結合を有する炭化水素部分から誘導される一価の基を示す。ある実施形態において、アルケニル基は、1〜20個の炭素原子を含む。置換基には、下記の置換基のいずれか、すなわち、安定した化合物を形成する以下に列挙する置換基が含まれるが、これらに限定されない。アルケニル基には、例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、1−メチル−2−ブテン−1−イルなどが含まれる。
【0050】
本明細書で使用される「アルキニル」という用語は、アルキニル基が場合により置換される、少なくとも1個の炭素−炭素三重結合を有する炭化水素から誘導される一価の基を指す。ある実施形態において、アルキニル基は、1〜20個の炭素原子を含む。置換基には、下記の置換基のいずれか、すなわち、安定した化合物を形成する以下に列挙する置換基が含まれるが、これらに限定されない。代表的なアルキニル基には、エチニル、2−プロピニル(プロパルギル)、1−プロピニルなどが含まれる。
【0051】
本明細書で使用される「アミン」という用語は、すでに定義した通り、窒素原子を介して親分子部分に結合する1個、2個または3個のアルキル基を指す。「アルキルアミノ」という用語は、−NHR’の構造(式中、R’は、すでに定義した通りアルキル基である) を有する基を指し;「ジアルキルアミノ」という用語は、−NR’R’’の構造(式中、R’およびR’’は、アルキル基からなる群からそれぞれ独立して選択される)を有する基を指す。「トリアルキルアミノ」という用語は、−NR’R’’R’’’の構造(式中、R’、R’’およびR’’’は、アルキル基からなる群からそれぞれ独立して選択される)を有する基を指す。さらに、R’、R’’および/またはR’’’は一緒になって、場合により−(CH−(式中、kは2〜6の整数である)である場合がある。アミノ基の例には、メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノ、ジエチルアミノカルボニル、メチルエチルアミノ、イソプロピルアミノ、ピペリジノ、トリメチルアミノ、およびプロピルアミノが含まれるが、これらに限定されない。
【0052】
本明細書で使用される「アリール」という用語は、それぞれ置換される場合もあれば置換されない場合もある、好ましくは3〜14個の炭素原子を有する安定した単環式または多環式不飽和部分を指す。置換基には、下記の置換基のいずれか、すなわち、安定した化合物を形成する以下に列挙する置換基が含まれるが、これらに限定されない。アリールという用語は、1個または2個の芳香族環を有する単環式または二環式の環状炭素系を指し、これには、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニル、インデニルなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0053】
本明細書で使用される「ヘテロアリール」という用語は、5〜10個の環原子を有する安定したヘテロ環式またはポリヘテロ環式の不飽和ラジカルを指し、その内の1個の環原子はS、OおよびNから選択され;0個、1個または2個の環原子が、S、OおよびNから独立して選択される他のヘテロ原子であり;残りの環原子が炭素であって、前記ラジカルが、環原子のいずれかを介して残りの分子に結合する。ヘテロアリール部分は、置換される場合もあれば置換されない場合もある。置換基には、下記の置換基のいずれか、すなわち、安定した化合物を形成する以下に列挙する置換基が含まれるが、これらに限定されない。ヘテロアリール核の例には、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアジアゾリル、オキサジアゾリル、チオフェニル、フラニル、キノリニル、イソキノリニルなどが含まれる。
【0054】
また、本明細書で定義される通り、アリール部分およびヘテロアリール部分は、脂肪族部分、脂環式部分、ヘテロ脂肪族部分、ヘテロ脂環式部分、アルキル部分またはヘテロアルキル部分を介して結合する場合があり、したがってまた、−(脂肪族)アリール部分、−(ヘテロ脂肪族)アリール部分、−(脂肪族)ヘテロアリール部分、−(ヘテロ脂肪族)ヘテロアリール部分、−(アルキル)アリール部分、−(ヘテロアルキル)アリール部分、−(ヘテロアルキル)アリール部分、および−(ヘテロアルキル)−ヘテロアリール部分を含むことも理解されるであろう。したがって、本明細書で使用される「アリールまたはヘテロアリール」および「アリール、ヘテロアリール、−(脂肪族)アリール、−(ヘテロ脂肪族)アリール、−(脂肪族)ヘテロアリール、−(ヘテロ脂肪族)ヘテロアリール、−(アルキル)アリール、−(ヘテロアルキル)アリール、−(ヘテロアルキル)アリール、および−(ヘテロアルキル)−ヘテロアリール」という語句は、交換可能である。
【0055】
本明細書で使用される「カルボン酸」という用語は、式−COHの基を指す。
【0056】
本明細書で使用される「ハロ」、「ハロゲン化物」および「ハロゲン」という用語は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選択される原子を指す。
【0057】
本明細書で使用される「メチロール」という用語は、−CHOHの構造のアルコール基を指す。
【0058】
「ヒドロキシアルキル」という用語は、上に定義した通り、少なくとも1個のOH基を担持するアルキル基を指す。
【0059】
本明細書で使用される「メルカプトアルキル」という用語は、上に定義した通り、少なくとも1個のSH基を担持するアルキル基を指す。
【0060】
本明細書で使用される「ヘテロ環式」という用語は、非芳香族環に縮合した芳香族6員アリール基または芳香族ヘテロ環式基を含む場合がある、大きさが3〜8個の原子の単環、ならびに二環式環系および三環式環系を含む部分不飽和または完全飽和の3〜10員非芳香族環系を指す。ヘテロ環式部分は、置換される場合もあれば置換されない場合もある。置換基には、下記の置換基のいずれか、すなわち、安定した化合物を形成する以下に列挙する置換基が含まれるが、これらに限定されない。ヘテロ環式環には、窒素ヘテロ原子および硫黄ヘテロ原子が場合により酸化される場合があり、窒素ヘテロ原子が場合により四級化される場合がある、酸素、硫黄および窒素から独立して選択される1〜3個のヘテロ原子を有するものが含まれる。
【0061】
本明細書で使用される「アシル」という用語は、式C=Oのカルボニル基を含む基を指す。アシル基の例には、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、ハロゲン化アシル、無水物、チオエステル、アミド、尿素、カルバメート、およびカルボン酸エステルが含まれる。
【0062】
本明細書で使用される「炭化水素」という用語は、水素と炭素とを含むいずれかの化学基を指す。炭化水素は、置換される場合もあれば置換されない場合もある。炭化水素は、不飽和、飽和、分岐鎖、非分岐鎖、環式、多環式、またはヘテロ環式である場合がある。例示的な炭化水素基には、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、アリル、ビニル、n−ブチル、tert−ブチル、エチニル、シクロヘキシル、メトキシ、ジエチルアミノなどが含まれる。当業者に既知の通り、いかなる置換の調製においてもすべての原子価を満足する必要がある。同様に、本明細書で使用される「フルオロカーボン」という用語は、炭素に結合する水素原子よりも多くのフッ素原子を含むいずれかの化学基を指す。フルオロカーボンは、置換される場合もあれば置換されない場合もある。フルオロカーボンは、飽和、不飽和、分岐鎖、非分岐鎖、環式、多環式、またはヘテロ環式である場合がある。
【0063】
「置換」という用語は、「場合により」という用語が前置しているかにかかわらず、特定の置換基のラジカルを有する所定の構造における水素ラジカルの置換を指す。所定の構造の複数の位置が、特定の基から選択される複数の置換基で置換される場合、置換基は、あらゆる位置で同じである場合もあれば異なる場合もある。本明細書で使用される「置換」という用語は、有機化合物の許容されるすべての置換基を含むものとして企図される。広範な態様において、許容される置換基には、有機化合物の非環式および環式、分岐鎖および非分岐鎖、炭素環式およびヘテロ環式、芳香族および非芳香族の置換基が含まれる。窒素などのヘテロ原子は、水素置換基、および/またはヘテロ原子の原子価を満足する本明細書に記載の有機化合物の許容されるいずれかの置換基を有する場合がある。置換基の例には、脂肪族;脂環式;ヘテロ脂肪族;ヘテロ脂環式;アリール;ヘテロアリール;アルキルアリール;アルキルヘテロアリール;アルコキシ;アリールオキシ;ヘテロアルコキシ;ヘテロアリールオキシ;アルキルチオ;アリールチオ;ヘテロアルキルチオ;ヘテロアリールチオ;F;Cl;Br;I;−OH;−NO;−CN;−NCO;−CF;−CHCF;−CHCl;−CHOR;−CHCHOR;−CHN(R;−CHSOCH;−C(O)R;−CO(R);−CON(R;−OC(O)R;−C(O)OC(O)R;−OCO;−OCON(R;−N(R;−S(O);−OCO;−NR(CO)R;−NR(CO)N(Rが含まれるが、これらに限定されず、式中、Rの各存在には、独立して、H、脂肪族、脂環式、ヘテロ脂肪族、ヘテロ脂環式、アリール、ヘテロアリール、アルキルアリール、またはアルキルヘテロアリールが含まれるが、これらに限定されず、式中、上記および本明細書に記載の脂肪族、脂環式、ヘテロ脂肪族、ヘテロ脂環式、アルキルアリールまたはアルキルヘテロアリール置換基のいずれれも、置換または非置換、分岐鎖または非分枝鎖、環式または非環式である場合があり、式中、上記および本明細書に記載のアリールまたはヘテロアリール置換基のいずれも、置換される場合もあれば置換されない場合もある。
【0064】
特定の好ましい実施形態の詳細な説明
本発明は、in vivoで認められた天然の多糖類の特性を模倣する新規のバイオポリマーを対象とする。粘性液または粘性ゲルであってよい、本発明のバイオポリマーは、バイオテクノロジー、製薬および医療分野において種々の用途が見出される「バイオ潤滑剤」となる可能性がある。
【0065】
I.多糖類置換物
多糖類は自然界に遍在しており、バイオテクノロジー、食品および医薬品産業において広範囲に使用されている。多糖類の生物学的役割は多様であり、その役割には、植物におけるエネルギーの貯蔵および生成(アミロース、アミロペクチン)、動物におけるエネルギーの貯蔵および生成(グリコーゲン)、植物における構造材料(セルロース、アルギン酸エステル)ならびに昆虫および節足動物の外骨格(キチン)、細胞認識アクチュエータおよびシグナル伝達アクチュエータ(グリコサミノグリカン、ヘパリン、抗原)、ならびに哺乳類の細胞外マトリックスの動的潤滑成分(ヒアルロナン、プロテオグリカン)が含まれる(P.M.Collins,“Carbohydrates”,Chapman and Hall:New York,NY,1987;H.S.El Khadem,“Carbohydrate Chemistry”,Academic Press:Orlando,FL,1988;R.A.Dwek et al.,Ann.Rev.Biochem.,1993,62:65−100;L.A.Lasky,Science,1992,258:964−969;N.Sharon,Sci.Amer.,1980,254:90−116;N.Sharon and H.Lis,Science,1989,246:227−234;V.Ginsburg and P.Robbins,“Biology of Carbohydrates−Vols.I−III”,Wiley:New York,NY,1981;J.Preiss,“The Biochemistry of Plants Vol.3.Carbohydrates:Structure and Function”,Academic Press:New York,NY,1980;W.I.Weiss et al.,Nature,1992,360:127−134;L.Kjellen et al.,Ann.Rev.Biochem.,1991,60:443−475)。多糖類の巨大分子の力学的特性と目立たない化学的官能性との特定の組み合わせ(カルボン酸、アミド、スルホン酸塩など)によって、これらの数多くの生物学的役割が可能となる。
【0066】
本発明は、化学的誘導体化に適するとともに、多糖類の巨大分子の特性を模倣するポリマーの合成に関する。この手法は、分子構造と物理的特性と生物学的機能との間の関係をさらに理解し、ならびに酸性多糖の数多くの産業応用および医薬品応用のために新しい種類の合成ポリマーの置換物を提供することを目的とする。
【0067】
大部分の多糖類は、単純な化学量論式(CHO)とのエーテル結合によって結合した反復プラナーゼ構造を有する。酸性多糖は、植物と微生物の両方において広く認められることから、第1のケーススタディとして同定された。したがって、天然の酸性多糖、ヒアルロン酸塩、およびそれらの誘導体の合成類似体である新規のポリマーの合成および物理的特性を、本明細書で報告する。
【0068】
多糖類置換物の調製
図1に示す通り、酸性多糖類(アルギン酸)は、1−4結合のβ−D−マンヌロン酸とα−L−グルロン酸の直鎖ブロックポリマーである。アルギン酸ナトリウムは、バイオテクノロジー(細胞のカプセル封入)、食品(増粘剤)、および医薬品(製剤)産業において商品価値を有する。本出願人が最初に取り組んだのは、2種の第二級アルコールとカルボン酸とを含有する反復環状構造のこの塩基性巨大分子構造を再現することであった。親水性ポリマー(ポリ(5,6−ジヒドロキシノルボルナンカルボン酸)およびポリ(5,6−ジヒドロキシオキサノルボルナンカルボン酸))は、これらの塩基性の特性を有する(図1を参照)。
【0069】
カルボン酸ペンダント基(およびそれらの誘導体)を担持する新規の親水性ポリマーを合成する、効率的かつ一般的な合成方法を、本明細書に記載する。例えば、前記ポリマー(ポリ(5,6−ジヒドロキシノルボルナンカルボン酸)およびポリ(5,6−ジヒドロキシオキサノルボルナンカルボン酸))は、グラブス触媒の存在下で適切な緊張オレフィンのROMP(開環複分解重合)によって調製した後、これらの疎水性/親水性の特性を調整する改質を行った。
【0070】
より具体的には、図2に示す通り、ポリ(5,6−ジヒドロキシノルボルナンカルボン酸)およびポリ(5,6−ジヒドロキシオキサノルボルナンカルボン酸)を、環状オレフィンのROMPにより合成した後、二重結合のジヒドロキシル化した。モノマー(エチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸塩1またはメチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸塩5のいずれか)を、ベンゼン:ジクロロメタン(8:1)に溶解し、異なるモノマー対触媒比(表1を参照)でグラブス触媒((ビス−トリシクロヘキシル−ホスフィン)ベンジリデン二塩化ルテニウム(IV)(B.M.Novak and R.H.Grubbs,J.Am.Chem.Soc.,1988,110:960−961;P.Schwab et al.,J.Am.Chem.Soc.,1996,118:100−110;P.Schwab et al.,Angewandte Chemie International Ed.Eng.,1995,34:2039−2041;M.R.Buchmeiser et al.,J.Am.Chem.Soc.,1997,119:9166−9174)を使用して重合した。重合反応を、エチルビニルエーテルを添加して終了させた。ポリマー2および6における約5.3ppmのトランス型のビニルピークと5.2ppmのシス型のビニルピークとをまとめると、それぞれのポリマーの87%および77%がトランス型であることが示され、このことは、この触媒を使用した以前の研究と一致していた。ここで重要なことは、高粘度などの所望の特性を有する高分子量のポリマーが調製された点である。
【0071】
次いで、ポリマー2および6をトリフルオロ酢酸およびHでジヒドロキシル化してポリマー3および7を得るか、あるいはNaOHで鹸化してポリマー9および10を得た。例えば、ポリマー9の分子量は3,400,000であった。あるいは、ポリマーを水素化してメチレン主鎖ポリマーを得ることもできる。
【0072】
ポリマー3および7については、オレフィンプロトンがもはやNMRスペクトルに存在せず、3.5〜3.6ppmの新しいプロトン共鳴がその構造と一致していることが認められた。最後に、エステルをメタノール中のKCOで加水分解し、凍結乾燥時に白色の繊維状ポリマー4および8を得た。ポリマー4および8は、テトラヒドロフラン(THF)ではなく水に溶解したため、分子量は測定せず、ポリスチレン標準品と比較しなかったが、デキストラン標準品と比較した。GPC分析では、化学的誘導体化工程時に分解しなかったポリマーと一致するMnが明らかになった。
【0073】
ポリマー9および10については、エステルプロトンがもはやNMRスペクトルに存在せず、これらのポリマーが水溶性であることが明らかになった。
【0074】
また、主鎖構造のこれらの変形を、赤外(IR)分光法によって観察した。ポリオレフィン2およびポリオレフィン6は、2360cm−1でアルケンのIR吸収を有することが明らかになった。その後、2および6のジヒドロキシル化および/または脱エステル化を行い、それによりそれぞれポリマー4、8、9および10を得て、ヒドロキシル基のIRストレッチが3400cm−1で認められた。
【0075】
ポリマー2〜4および6〜10は、これらの化学組成と一致した物理的特性の範囲を示すことが明らかになった。ポリマー2および6は、ベンゼン、トルエンおよびクロロホルム(CHCl)などの疎水性溶媒に溶解する。ヒドロキシル化したポリマー3および7は、疎水性溶媒に溶解しないが、メタノールにはわずかに溶解する。親水性ポリマー4、9および10は、メタノールにはわずかに溶解し、水に溶解するのに対し、ポリマー8は、水にのみ溶解する。
【0076】
これらのポリマーの薄膜における接触角実験によって、疎水性/親水性の特性が同じ傾向であることが明らかになった。ポリマー2および6の接触角はそれぞれ57°および46°であり、このことは疎水性ポリマーと一致していることが明らかになった。ヒドロキシル官能基とカルボキシル官能基とを前記ポリマーに導入することによって、接触角は、ポリマー4および8の場合それぞれ9°および12°に、ポリマー9および10の場合はそれぞれ10°および30°に大幅に低下した。比較として、アルギン酸塩は、水にのみ溶解し、アルギン酸塩膜の接触角は7°である。親水性ポリマー4および8はまた、図3に示す通り、水溶液中のアルギン酸塩と同様のレオロジー特性を示すことが明らかになった。ポリマー4および8ならびにアルギン酸は、それぞれ1.06cp、1.12cpおよび1.11cpの粘度(5%w/v溶液)のニュートン挙動を示す。
【0077】
溶解状態のこれらのポリマーの流体力学的実験(図5および6を参照)では、粘度および摩擦係数に関して天然のヒアルロン酸塩またはヒアルロン酸(HA)と同じ傾向が明らかなった。例えば、ポリマー9の粘度および摩擦係数は、HAと同様であることが明らかになった。2wt/wt%のポリマー9および1.1wt/wt%のHAの粘度は、それぞれ3.6Pa・sおよび3.5Pa・sであり、2wt/wt%のポリマー9および1.5wt/wt%のHAの摩擦係数は、それぞれ0.0068および0.0076である。
【0078】
したがって、本発明は、グラブス触媒の存在下における環状オレフィンのROMPを含む新規のポリマーをもたらす容易な経路を提供する。本明細書で提供される合成プロトコルは、新規のポリマー(具体的には親水性ポリマー)をもたらす魅力的な方法であり、以下の利点を有する:(1)リビング重合反応、(2)低PDIの制御された分子量、(3)モノマーの調製に適切な求ジエン体およびジエンの選択によって得られる、容易に入手可能な二環式オレフィンモノマー、および(4)特定の化学基の導入に対するオレフィン官能性の融通性。本明細書に記載の手順によって、無水糖の重合(M.Okada et al.,Makromol.Chem.,1978,179:949−958;M.C.Kasuya and K.Hatanaka,Macromolecules,1999,32:2131−2136;T.Yoshida el al.,J.Polymer Sci.A:Polymer Chem.,1998,36:841−850);炭水化物誘導体化環状オレフィンの重合(K.H.Mortell et al.,J.Am.Chem.Soc.,1994,116:12053−12054;C.Fraser and R.H.Grubbs,Macromolecules,1995,28:7248−7255),炭水化物誘導体化ビニルモノマーの重合(J.M.Havard et al.,Macromolecules,1999,32:86−94;W.J.Zhou et al.,Macromolecules,1999,32:5507−5513)、ならびにジアミンおよび二酸誘導体化炭水化物モノマーの重縮合(D.E.Kiely et al.,J.Am.Chem.Soc.,1994,116:571−578)に現在のところ限定されている合成の種類が拡大される。
【0079】
合成したポリマーは、物理的特性の範囲を示すことが明らかになり、特定の巨大分子の特性が確立されたことが示された。例えばポリマー4および9の溶液挙動は、グリコシド結合およびピラノース反復構造が欠如しているものの、酸性多糖類、ヒアルロン酸またはアルギン酸の挙動と類似していることが明らかになった。ペンダントカルボン酸官能性は、アルギン酸中の場合のように、二価のカチオンおよびポリカチオンに対するpH感受性反応性要素またはイオン架橋部位としての役割を果たす可能性がある。
【0080】
当業者であれば理解するように、上述の合成法は、カルボキシル基もエステル基も含有しないポリマーの合成に適用される場合がある。したがって、本発明の合成法は、以下の化学構造のいずれかを有するポリマーであって:
【0081】
【化5】

式中、
nが100〜200,000の整数であり;
XがCHおよびOからなる群から選択され;
およびRが、同じであるか異なっているかのいずれかであり、ならびにH、COOR’、COCH、CONHR’、OR’およびSR’からなる群から選択され、
式中、R’の各存在が、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、COCH、CHCHOH、CHCHOR’’、アミノ酸、小ペプチドまたは大ペプチド、COCCH=CH、COCH=CH、CHCOH、CHCHCOH、CHCHSH、CHCHSR’’および(CHCHO)n’R’’’からなる群から独立して選択され、
式中、
n’が1〜2000の整数であり;
R’’の各存在が、トリチル、4−メチルトリチルおよび2−ピリジルからなる群から独立して選択され;
R’’’の各存在が、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、COCCH=CH、COCH=CH、CHCHO、CHCHCHO、COH、COR’’’’、CHCOH、CHCHCOH、CHNH、CHNHR’’’’、CHN(R’’’’)、CHCHNH、CHCHNHR、CHCHN(R’’’’)、SH、CHCOR’’’’およびCHCHCOR’’’’からなる群から独立して選択され、
式中、R’’’’の各存在が、マレイミド、アミノ酸、小ペプチドまたは大ペプチド、ホスフェート、スルフェート、コリンおよび活性エステルからなる群から独立して選択される、
ポリマーを調製するために使用される場合がある。
【0082】
本発明は、これらのポリマーのいずれかを包含する。さらに、本発明は、上述のポリマーの複数を使用して形成することができるポリマーを提供する。前記ポリマーは、複数のポリマーの間の直接結合または間接結合の形成により生じる場合がある。直接結合の例には、共有結合および非共有結合が含まれる。共有結合の例には、エステル結合、エーテル結合、尿素結合、アミド結合、カーボネート結合、チオカーボネート結合、チオ尿素結合、カルバメート結合、ウレタン結合、シフト塩基結合、ペプチドライゲーション(例えば、チアゾリジン、N−チアゾリジン)、および炭素−炭素結合が含まれるが、これらに限定されない。非共有結合の例には、イオン結合、金属リガンド結合、金属キレート結合(例えば、カルボン酸が配位結合するカルシウムまたはバリウム)、水素結合、疎水結合、疎フルオロ結合、およびファンデルワールス結合が含まれるが、これらに限定されない。間接結合の例には、例えばマレイミド基、活性エステル基、カルボン酸基、アミン基、チオール基、システイン基、アミノ酸基、アクリル酸塩基、メタクリル酸塩基、エステルアルデヒド基、またはアルデヒド基と場合により置換することができる、ポリエチレングリコール、ポリアクリルグリコール、および天然多糖類などの結合分子が含まれるが、これらに限定されない。
【0083】
II.送達剤としての多糖類置換物
粘性液または粘性ゲルであってよい、本発明のポリマーは、送達剤として使用することができる。例えば、本発明のポリマーは、ポリマーが注入される(または適用される)場所(例えば、関節、椎間板、泌尿器系、皮膚)において1つ以上の物質を送達するために使用することができる。
【0084】
本発明のポリマーを使用して送達することができる物質には、本発明のポリマーを注入または適用する場所で罹患体に送達するのに適切ないずれかの分子、薬剤、または化合物が含まれる。例えば、適切な物質は、成長因子、サイトカイン、小分子、鎮痛薬、麻酔薬、抗微生物剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗生物質、抗炎症剤、抗酸化剤および防腐剤の内の1つ以上である場合がある。
【0085】
ポリマーと物質との間の会合は、共有結合または非共有結合による会合、直接の会合、またはリンカー(例えば、二官能性剤)を介する会合である場合がある。会合は、ポリマーおよび物質上に存在する官能基を活用することによって達成される場合がある。当業者であれば容易に理解できるように、ポリマーは、同一であっても異なってもよい任意の数の物質と会合する場合がある。ある実施形態において、ポリマーと物質との間の会合は、in vivoにて物質がポリマーから放出されるような会合である。
【0086】
III.本発明の多糖類置換物の使用および用途
本明細書で開示される新規のポリマーは、バイオテクノロジー、製薬および医療分野において種々の用途が見出される。例えば、本発明のポリマーは、例えば骨関節炎やスポーツで負傷した膝関節の治療において、関節内補充剤として使用することができる。これらのポリマーはまた、例えば眼の手術における粘弾性体として、美容整形術または尿失禁治療のための充填剤として、ならびに創傷治療のための癒着防止剤としても使用することができる。
【0087】
したがって、本発明は、有効量の本発明のポリマーまたはその医薬組成物を、これを必要とする個体に投与する工程を一般的に含む方法を提供する。
【0088】
A.適応症
関節内補充剤
本発明のポリマーは、関節内補充剤として使用することができる。上に前述した通り、関節内補充療法は、ゲル状物質(一般的にはヒアルロン酸塩(HA))を関節内に注入して滑液の粘性を補う手術である。HAの注入を行うと、分子量が低い(すなわち粘度が低い)ものよりも良好な有効性を示す分子量が高い(すなわち粘度が高い)HAによって、多くの骨関節炎患者の疼痛が軽減されることが明らかにされている。しかし、関節内における有効期間が短い(数日程度)ため、現在利用可能なヒアルロン酸製剤は、患者にとっての長期有益性がごく限られたものでしかなく、大量の製剤の注入および/または繰り返しの注入を必要とする。
【0089】
粘弾性体
本発明のポリマーは、手術において有用な粘弾性体としての用途が見出される場合がある。手術で使用される粘弾性剤は、軟部組織の維持および支持、組織の取扱い、潤滑、組織の保護、および癒着形成の予防を含むがこれらに限定されない、いくつかの異なる機能を果たす場合がある。当業者であれば理解するように、前記ポリマーのレオロジー特性は、これらの機能を果たす能力に必然的に影響を及ぼし、その結果、特定の外科手術に対する適性にも影響を及ぼすことになる。
【0090】
例えば、粘弾性体は、白内障手術などの眼科手術に使用される。生来の眼球水晶体の混濁である白内障は、40歳台および50歳台の個体に発症する可能性があるが、最も発症率が高いのは60歳を超える個体であり、60歳以降の有病率は急激に上昇する。65歳以上の全アメリカ人の半数超が白内障を患っており、75歳超になると罹患率は70%に上昇する。視力を改善するには、眼から白内障水晶体を外科手術により切除し、人工眼内レンズをその位置に挿入する。白内障手術時に機器、装置、液泡および眼内レンズとの接触によって角膜の下側が損傷することが多いという報告を受けて、1980年代初頭に粘弾性体が導入された。この部位の細胞は再生することができないため、これらの細胞を保護する必要があった。したがって、この外科手術時に、通常は、粘弾性材を前眼房に注入して前眼房の虚脱を予防し、繊細な眼組織を物理的操作により生じる損傷から保護する。また、粘弾性体は、眼内の空間を徐々に膨張させ、それによって各種の道具を眼内で操作しやすくなる。
【0091】
粘弾性体を使用する眼の手術の他の例には、線維柱帯切除(すなわち、緑内障の濾過手術)および硝子体切除(すなわち、硝子体(眼球の中央部に充填する通常は透明なゲル状物質)の置換)が含まれ、これらは、眼の血液および細片を清浄にするため、瘢痕組織を切除するため、または網膜の牽引を軽減するために行われる場合がある。
【0092】
組織詰物
本発明のポリマーは、再建または美容エンハンスメント、腹圧性尿失禁の治療、および声帯疾患(例えば、麻痺、萎縮、または不全麻痺)の治療を含むがこれらに限定されない、広範な軟部組織増大術のいずれかにおける組織詰物としての用途が見出される場合がある。
【0093】
再建または美容エンハンスメント術:組織詰物は、変形を矯正するため、あるいは外科的介入、外傷、疾患、加齢または先天性の病態によって喪失または損傷した領域を再建するために使用される。再建または美容エンハンスメント術の例には、皮膚組織の増大;特に顔および頸部における、線、ひだ、しわ、軽度の顔の陥凹、口唇裂などの充填;手、足、指、足指などにおける、加齢や疾患による軽度の変形の矯正;寝しわおよび表情しわの皮膚の充填;加齢による皮膚組織および皮下組織の置換;唇の増大;目の周囲の目尻のしわおよび眼窩溝の充填;豊胸;顎の増大;頬および/または鼻の増大;例えば過度の脂肪吸引や他の外傷による皮膚軟部組織または皮下軟部組織内の陥凹の充填;座瘡や、外傷性の瘢痕および外傷性のしわの充填;鼻唇溝、鼻と眉間のしわ、および口腔内のしわの充填が含まれるが、これらに限定されない。
【0094】
尿失禁:尿失禁の市場の対応は不十分である。米国では約4千万人が尿失禁を患っているが、1年間に実施されている手術は、わずか約250,000件のみである。尿失禁の治療には、一般的にコラーゲン充填剤が使用されている。コラーゲン充填剤は、尿道を囲む組織内に注入され、尿道括約筋を締めて、尿漏れを防止する。しかし、これらのコラーゲン充填剤は、複数回の治療において何回かの注入が必要となる。また、その治癒率も約27%〜36%と低い。仮に手術が成功しても、コラーゲンが周囲の組織に再吸収されるため、成功は単に一時的なものとなる。炭素−ビーズ系製品(DurasphereTM、Advanced UroScience,Inc.、米国ミネソタ州セントポール)が、持久性の見込みがある(材料の分解が少ないため)として1999年に市場に投入されたが、その主張は臨床データによって裏付けられておらず、この製品の性能はコラーゲンと同等であると思われる。最近になってQ−Med AB(スウェーデン ウプサラ)が、ZuidexTMという、デキストラノマーの添加によって強化されたHAゲルを導入したが、この製品は速効性と投与の容易さが見込まれる。本発明の多糖類模倣体ポリマーなどの新規の生体材料は、必要となる材料がより少なく、注入回数がより少なく、寿命がより優れているならば、市場に影響を与えるものとなり得る。
【0095】
声帯の増大:麻痺、萎縮、および不全麻痺などの声帯障害においては、一方または両方の声帯が脆弱化し、声帯を閉じて適切に振動する能力が喪失し、その結果、声が小さくなるか、気息音が混じるか、または弱くなる。また、声帯の罹患によって、気管または肺に食物や液体が混入し、嚥下や咳がしづらくなることがある。声帯麻痺は、胸部および頸部の手術、脳損傷、頚部外傷、肺癌または甲状腺癌、特定の神経性疾患、またはウイルス感染症が原因となる場合がある。老人の声帯萎縮は、発声に影響を及ぼすよく見られる疾患である。声帯障害の標準的な治療には、音声治療および手術が含まれる。手術において、医師は、損傷した声帯内に物質(例えば、脂肪またはコラーゲン)を注入することによって、声帯に増量剤を添加することを試みる。これによって損傷した声帯が損傷のない声帯の近くに移動して、良好な接触が可能となり、発語や嚥下が改善される。シリコーンペースト、テフロン(登録商標)ペースト、カルシウムヒドロキシルアパタイト、およびヒアルロン酸などの他の物質も、声帯増大に関する検討が行われているところである。
【0096】
癒着防止剤
本発明のポリマーは、癒着防止剤として使用される場合がある。癒着防止剤は、手術後に組織同士が異常に結合しないようにする手段である。この癒着と呼ばれる異常な結合は、腹部手術後の腹壁の切開部と小腸との間に形成され、慢性疼痛や腸閉塞さえも生じる場合がある。また、癒着は婦人科手術後にも発現して、線維性の瘢痕化を生じる場合があり、これは、子宮、膀胱、腸または卵巣ならびに卵管を冒す場合があり、最悪の場合は不妊性につながる可能性もある。これまで、ステロイド、非ステロイド系抗炎症薬、および最小限の侵襲性外科手術などの広範な手法が、癒着を予防する試みに使用されてきたが、生分解性の隔膜が、手術後の隣接する臓器の分離の維持に使用できる手段として最も有望であると思われる(P.B.Arnold et al.,Fertil.Steril.,2000,73:157−161)。このような隔膜の例には、腹膜の局在領域に配置される場合がある癒着防止膜(例えば、Interceed Absorbable Adhesion Barrier(Johnson & Johnson Patient Care Inc.、米国ニュージャージー州ニューブランズウィック);Preclude Surgical Membrane(E.L.Gore Co.、米国アリゾナ州フラッグスタッフ)、およびSeprafilm Surgical Membrane(Genzyme、米国マサチューセッツ州ケンブリッジ));ならびに粘性ゲル(例えば、Hyskon(Pharmacia、米国ニュージャージー州ピスカタウェイ);Sepracoat(Genzyme)、およびIntergel(Lifecore Biomedical,Inc.、米国ミネソタ州チャスカ))が含まれるが、これらに限定されない。
【0097】
本発明のポリマーのその他の使用および応用は、当業者にはすぐに明らかになるであろう。
【0098】
B.用法・用量
本発明の治療方法において、本発明のポリマーまたはその医薬組成物は一般的に、少なくとも1つの所望の結果を達成するのに必要または十分な量および時間にて投与される。当業者であれば理解するように、所望の結果は、治療する病態(例えば、骨関節炎、白内障、皮膚組織または皮下組織の喪失、尿失禁、または声帯障害)およびポリマーの目的(例えば、関節内補充療法、組織増大、癒着予防、または軟部組織の維持、支持もしくは保護)により異なる場合がある。したがって、例えば、ある実施形態において、本発明のポリマーは、疼痛を軽減する、腫脹を予防または抑制する、関節の動きの低下を予防または抑制する、および/または関節の動きを改善するような量および時間にて、骨関節炎を患う罹患体の膝関節に投与される場合がある。他の実施形態において、本発明のポリマーは、軟部組織の維持および支持、組織の取扱い、潤滑、組織の保護、または癒着の予防を実現する量にて、白内障手術を受ける罹患体の眼に投与される場合がある。さらに他の実施形態において、本発明のポリマーは、線、ひだ、しわまたは軽度の顔の陥凹が充填されるような量および時間にて、美容整形術を受ける罹患体の皮膚に投与される場合がある。
【0099】
本発明による治療は、一定期間にわたる単回投与または複数回投与からなる場合がある。投与は、1日に、1週に(またはその他の数日の間隔で)1回または複数回、あるいは間欠的な日程で行われる場合がある。投与する本発明のポリマーまたはその医薬組成物の正確な量は、被験体により変動し、いくつかの因子(下記参照)により異なる。
【0100】
本発明のポリマーまたはその医薬組成物は、所望の効果を達成するのに効果的ないずれかの投与経路を使用して投与される場合がある。一般的に投与は、全身投与ではなく、局所投与である。局所投与の方法には、経皮経路、皮内経路、筋肉内経路、腹腔内経路、皮下経路、経眼経路、および関節内経路が含まれるが、これらに限定されない。
【0101】
投与経路に応じて、有効量が、治療する被験体の体重、体表面積または臓器の大きさによって算出される場合がある。適切な投与量は、ヒト臨床試験で認められた薬物動態データに鑑みて、当業者が容易に最適化することができる。あるいはまたはさらに、投与する投与量は、治療する特定の種類の病態に関する動物モデルを使用した研究、および/または同様の薬理活性を示すことが知られている薬剤から得られた動物またはヒトのデータから決定することもできる。最終的な用法・用量は、活性剤の作用を修飾する各種の因子、例えば、薬剤の特異的な活性、in vivoでの薬剤の特異的な半減期、病態の重症度、罹患体の応答性、罹患体の年齢、病態、体重、性別および食事、感染症(罹患する場合)の重症度、投与期間、他の併用療法の使用の有無、ならびに他の臨床的因子などを考慮して、受け持ちの外科医または主治医によって決定される。
【0102】
C.併用療法
本発明の治療方法が他の療法と併用できる(すなわち、1つ以上の所望の治療または医療手術と同時に、その前に、またはその後に、本発明による治療を施すことができる)ことは理解されるであろう。このような併用療法において使用する療法(治療または手術)の特定の併用では、所望の治療および/または手術、ならびに達成する所望の治療効果の適合性が考慮される。
【0103】
したがって、例えば、骨関節炎を患っている罹患体に本発明の多糖類模倣体ポリマーを関節内補充剤として投与する方法では、前記罹患体は、非ステロイド性抗炎症薬またはステロイド性抗炎症薬の投与をさらに受ける場合があり、および/または理学療法を受ける場合もある。あるいはまたはさらに、本発明のポリマーは、別の関節内補充剤(例えば、ヒアルロン酸塩、キトサン)と併用して投与される場合がある。あるいはまたはさらに、本発明のポリマーは、別の水溶性ポリマー(例えば、PEG、PEO、PAA)と併用して投与される場合がある。
【0104】
本発明の多くの方法において、多糖類模倣体ポリマーは、外科手術または臨床手術の一部として投与される。例えば、粘弾性剤として使用されるポリマーは、白内障の手術中に投与される場合がある。組織詰物として使用される本発明のポリマーは、尿失禁治療のための手術時に、声帯疾患治療のための組織増大術時に、または例えばひだの充填のための美容整形術時に投与される場合がある。癒着防止剤として使用される本発明のポリマーは、手術後の癒着形成を予防するために、腹部手術または婦人科手術時に投与される場合がある。
【0105】
IV.多糖類置換物の医薬組成物
上述の通り、本発明の治療方法は、それ自体のまままたは医薬組成物の形態で本発明のポリマーを投与する工程を含む。医薬組成物は一般的に、有効量の少なくとも1つの本発明のポリマーと、少なくとも1つの医薬的に許容される担体または賦形剤とを含む。
【0106】
本発明の医薬組成物は、一般的な製薬手法にしたがって配合される場合がある(例えば、“Remington’s Pharmaceutical Sciences”および“Encyclopedia of Pharmaceutical Technology”,J.Swarbrick,and J.C.Boylan(Eds.),Marcel Dekker,Inc:New York,1988を参照)。最適な医薬製剤は、投与経路および所望の投与量に応じて異なる可能性がある。このような製剤は、投与した化合物の物理的状態、安定性、in vivoでの放出速度、およびin vivoでのクリアランス速度に影響を与える場合がある。好ましくは、配合によって、液体または半液体(例えば、ゲル状)の医薬組成物が作製される。
【0107】
医薬組成物は、投与の容易さおよび投与量の均一性のために、単位用量形態で配合される場合がある。本明細書で使用される「単位用量形態」という用語は、治療する罹患体のための多糖類模倣体ポリマーの物理的に分離した単位を指す。各単位は、所望の効果が生じるように算出された所定量の活性物質を含有する。但し、前記組成物の全体の投与量は、適切な医学的判断の範囲内で主治医により決定されることが理解されるであろう。
【0108】
本発明の医薬組成物の配合は、主に選択した投与形態により異なる。ある実施形態において、例えば、関節(例えば、膝)、椎間板、泌尿器系または声帯への投与には、注射可能な製剤(例えば、液剤、分散剤、懸濁剤、乳剤)が好ましい。注射可能な製剤はまた、特定の再建術または美容整形術にも使用することができる。あるいは、他の手術では、治療を必要とする部位に施すことが可能なゲル、ローション、クリーム、軟膏剤、硬膏剤、バンデージ、シート、泡沫、フィルム、スポンジ、包帯剤、または生体吸収性貼付剤が使用される場合がある。
【0109】
製剤
本発明の医薬組成物とともに使用する生理学的に許容される担体、ビヒクルおよび/または賦形剤は、特定の用途のために当業者が慣例的に選択することができる。これらには、溶媒、緩衝剤、不活性希釈剤、不活性充填剤、懸濁化剤、分散剤、湿潤剤、保存剤、安定化剤、キレート剤、乳化剤、消泡剤、軟膏基剤、透過増強剤、保湿剤、緩和剤、および皮膚保護剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0110】
溶媒の例には、水、リンゲル液、U.S.P.、等張食塩液、アルコール、植物油、魚油、鉱油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、およびポリアルキルシロキサン液が含まれる。不活性希釈剤または不活性充填剤は、スクロース、ソルビトール、糖、マンニトール、微結晶性セルロース、デンプン、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、またはリン酸ナトリウムである場合がある。緩衝剤の例には、クエン酸、酢酸、乳酸、リン酸水素(hydrogenophosphoric acid)、およびジエチルアミンが含まれる。適切な懸濁化剤には、例えば、天然由来のゴム(例えば、アカシアゴム、アラビアゴム、キサンタンガム、およびタラカントガム)、セルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース)、アルギン酸塩、およびキトサンが含まれる。分散剤または湿潤剤の例には、天然由来のリン脂質(例えば、レシチンまたは大豆レシチン)、エチレンオキシドと脂肪酸または長鎖脂肪族アルコールとの縮合物(例えば、ステアリン酸ポリオキシエチレン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール、およびモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン)が含まれる。
【0111】
製剤の安定性に影響を及ぼす可能性があり、罹患体の感染症の原因となる微生物汚染を予防するために、保存剤を本発明の医薬組成物に添加する場合がある。保存剤の適切な例には、パラベン(例えば、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、p−ヒドロキシ−ベンゾエート、ブチルパラベン、イソブチルパラベン、およびイソプロピルパラベン)、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸、安息香酸、安息香酸メチル、フェノキシエタノール、ブロノポール、ブロニドックス(bronidox)、MDMヒダントイン、ヨードカルバミン酸プロピニルブチル、塩化ベンザルコニウム、セトリミド、およびベンジルアルコールが含まれる。キレート剤の例には、EDTAナトリウムおよびクエン酸が含まれる。
【0112】
乳化剤の例には、天然由来のゴム、天然由来のリン脂質(例えば、大豆レシチン、モノオイレン酸ソルビタン誘導体)、ソルビタンエステル、モノグリセリド、脂肪アルコール、および脂肪酸エステル(例えば、脂肪酸のトリグリセリド)がある。消泡剤は通常作製を容易にするが、気相液相界面を不安定にすることにより泡を消散させ、液体をエアポケットから流出させる。消泡剤の例には、シメチコン、ジメチコン、エタノール、およびエーテルが含まれる。
【0113】
ゲル基剤または増粘剤の例には、流動パラフィン、ポリエチレン、脂肪油、コロイダルシリカまたはアルミニウム、グリセロール、プロピレングリコール、カルボキシビニルポリマー、珪酸アルミニウムマグネシウム、親水性ポリマー(例えば、デンプンまたはセルロース誘導体)、水膨潤性親水コロイド、カラゲナン、ヒアルロン酸塩、およびアルギン酸塩が含まれる。本発明の医薬組成物での使用に適した軟膏基剤は、疎水性である場合もあれば親水性である場合もあり、具体例には、パラフィン、ラノリン、ポリアルキルシロキサン液、セタノール、パルミチン酸セチル、植物油、脂肪酸のソルビタンエステル、ポリエチレングリコール、ならびに脂肪酸のソルビタンエステルと、エチレンオキシド(例えば、モノオイレン酸ポリオキシエチレンソルビタン)と、ポリソルベートとの間の縮合物が含まれる。
【0114】
保湿剤の例には、エタノール、イソプロパノールグリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、乳酸、および尿素がある。適切な緩和剤には、コレステロールおよびグリセロールが含まれる。皮膚の保護剤の例には、ビタミンE、アラントイン、グリセリン、酸化亜鉛、ビタミン剤、および日焼け防止剤が含まれる。
【0115】
あるいはまたはさらに、ある実施形態において、本発明の医薬組成物は、増粘剤、生体付着性ポリマー、および透過性増強剤などの他の種類の賦形剤を含む場合がある。
【0116】
一般的に、増粘剤は、粘度を増加させるため、および医薬組成物の生体付着性を改善するために使用される。増粘剤の例には、セルロース、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、天然由来のゴム、ゼラチン、カラヤゴム、ペクチン、アルギン酸、およびポビドンが含まれるが、これらに限定されない。ある実施形態において、増粘剤は、チキソトロープ性(すなわち、振盪または撹拌によって低下する粘度)を有するために選択される。医薬組成物中にこのような薬剤が存在することで、組成物の粘度が投与時に低下して、例えば修復する皮膜領域への適用が容易になった後、組成物が投与部位に残存するように適用後に上昇する。
【0117】
透過増強剤は、皮膚を介した有効成分の送達に影響を与える特定の薬剤を含有するビヒクルである。一般的に、透過増強剤は、溶媒と表面活性化合物(両性分子)の2種類に分けられる。溶媒の透過増強剤の例には、アルコール(例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、1−ドデシルアゾシクロヘプタン−2−オン、N−デシル−メチルスルホキシド、乳酸、N,N−ジエチル−m−トルアミド、N−メチルピロリドン、ノナン、オレイン酸、ペトロラタム、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、サリチル酸、尿素、テルペン、およびトリクロロエタノールが含まれる。本発明の医薬組成物の内の界面活性剤の透過増強剤は、非イオン性、両性、陽イオン性、陰イオン性、または双性イオン性である場合がある。適切な非イオン性界面活性剤には、ポロキサマーとして商業的に知られているポリ(オキシエチレン)−ポリ(オキシプロピレン)ブロックコポリマー;エトキシレート化硬化ヒマシ油;Tween 20またはTween 80などのポリソルベートが含まれる。両性界面活性剤には、四級化イミダゾール誘導体が含まれ;カチオン界面活性剤には、塩化セチルピリジニウム、「石鹸」(脂肪酸)、アルキルスルホン酸塩(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)など、合成洗剤の主要構成要素)、高級アルコール硫酸エステル塩(シャンプーまたは以前の中性洗剤の主要構成要素)が含まれ;双性イオン性界面活性剤には、ベタインやスルホベタインが含まれる。
【0118】
注射可能な製剤は、例えば、細菌保持フィルターによる濾過によって、使用前に無菌水または他の無菌注入媒質中に溶解または分散させることができる無菌固体組成物の形態で滅菌剤を含有させることによって、あるいは放射線滅菌(例えば、ガンマ線および電子ビーム)によって、滅菌することができる。
【0119】
生物活性剤
ある実施形態において、本発明のポリマーは、本発明の医薬組成物の中で唯一の活性成分である。他の実施形態において、前記医薬組成物は、1つ以上の生物活性剤もさらに含む。すでに上で述べた通り、生物活性剤は、本発明のポリマーと会合する場合がある。あるいはまたはさらに、生物活性剤はポリマーの組成物に添加される場合があるが、ポリマーとの会合は形成しない。
【0120】
当業者であれば理解するように、本発明の医薬組成物の1つ以上の成分としての1つ以上の生物活性剤の選択は、医薬組成物の所期の目的(例えば、関節の治療における関節内補充剤としての使用、白内障手術における粘弾性体としての使用、美容整形術、尿失禁治療、または声帯疾患治療のための組織詰物としての使用、または創傷治療のための癒着防止剤としての使用)に基づいて行われる。
【0121】
一般的に、本発明の医薬組成物中に存在する生物活性剤の量は、局所投与から所望の結果を得るのに必要とされる通常の投与量となる。このような投与量は、製薬および/または医療分野の当業者に既知であるか、容易に決定される。
【0122】
本発明の医薬組成物中に存在することができる生物活性剤の例には、鎮痛薬、麻酔薬、鎮痛剤、抗微生物剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗菌薬、抗炎症剤、抗酸化剤、防腐剤、鎮痒剤、免疫賦活剤、および外皮用剤が含まれるが、これらに限定されない。適切な生物活性剤の具体例については、以下に示し、考察する。
【0123】
鎮痛剤:生物活性剤は、疼痛、うずきまたは不快感を予防または軽減する、局所麻痺または局所麻酔を提供する、および/または急性術後外科的疼痛を予防または抑制することができるように選択される場合がある。したがって、適切な鎮痛剤には、局所的に適用した場合に一時的な鎮痛効果、麻酔効果、痺れ効果、麻痺効果、リラックス効果または鎮静効果を有する化合物、分子または薬物が含まれるが、これらに限定されない。
【0124】
本発明での使用に適した鎮痛薬には、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)が含まれる。NSAIDは、鎮痛作用、解熱作用および抗炎症作用を有する。NSAIDは、末梢神経系に作用して、シクロオキシゲナーゼ(COX)の阻害によってプロスタグランジンの合成を妨げることによって鎮痛効果を提供する。NSAIDには、アスピリンや他のサリチル酸塩など、多くの異なる種類がある。例としては、イブプロフェン、ナプロキセン、スリンダク、ジクロフェナク、ピロキシカム、ケトプロフェン、ジフルニサル、ナブメトン、エトドラク、オキサプロジン、およびインドメタシンが含まれるが、これらに限定されない。アスピリンは、高用量で投与される場合は抗炎症性を有するが、それ以外ではアセトアミノフェンのような単なる鎮痛剤である。アセトアミノフェンは、NSAIDと同様の鎮痛効果および解熱効果を有するが、抗炎症効果は提供しない。より効能の高いNSAIDのいくつかは、身体の疼痛領域に局所投与する局所的製剤としてすでに開発されている。
【0125】
また、本発明での使用に適した鎮痛薬にはオピオイドも含まれる。本明細書で使用される「オピオイド」という用語は、μオピオイド受容体、κオピオイド受容体およびσオピオイド受容体などのオピオイド受容体ならびに種々のサブタイプのいずれかのアゴニストまたはアンタゴニストを指す。オピオイドの例には、アルフェンタニル、アリルプロジン、アルファプロジン、アミフェナゾール、アニレリジン、ベンゼンアセトアミン、ベンゾイルヒドラゾン、ベンジルモルフィン、ベンジトラミド、ノルビナルトルフィミン、ブレマゾシン、ブプレノルフィン、ブトルファノール、クロニタゼン、コデイン、シクラゾシン、デソモルヒネ、デキストロモラミド、デゾシン、ジアンプロミド、ジヒドロコデイン、酢酸ジヒドロコデインエノール、ジヒドロモルフィン、ジメノキサドール、ジメヘプタノール、ジメチルチアンブテン、酪酸ジオキサフェチル、ジピパノン、ジプレノルフィン、エプタゾシン、エトヘプタジン、エチルケトシクラゾシン、エチルメチルチアンブテン、エトニタゼン、エトルフィン、フェンタニル、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、ヒドロキシペチジン、イソメタドン、ケトベミドン、レバロルファン、レボルファノール、ロフェンタニル、ロペラミド、メペリジン、メプタジノール、メタゾシン、メタドン、メトポン、モルフィン、モルフィセプチン、ミロフィン、ナルブフィン、ナルメフェン、ナロルフィン、ナルトリンドール、ナロキソン、ナルトレキソン、ナルセイン、ニコモルフィン、ノルレボルファノール、ノルメタドン、ノルモルフィン、ノルピパノン、オピウム、オキシコドン、オキシモルホン、パパベレタム、パパベリン、ペンタゾシン、フェナドキソン、フェナゾシン、フェノペリジン、ピミノジン、ピペリジン、ピリトラミド、プロヘプタジン、プロメドール、プロピラム、プロポキシフェン、レミフェンタニル、スピラドリン、サフェンタニル、チリジン、トリフルアドム(trifluadom)、およびこれらの活性誘導体、プロドラッグ、類似体、医薬的に許容される塩、または混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0126】
オピオイドペプチドの例には、[Leu]エンケファリン、[Met]エンケファリン、ダイノルフィンA、ダイノルフィンB、α−ネオエンドルフィン、β−ネオエンドルフィン、β−エンドルフィン、デルトルフィンII、モルフィセプチン、およびこれらの活性誘導体、類似体、医薬的に許容される塩、または混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0127】
三環系抗鬱薬は、アジュバント鎮痛薬として有用である可能性がある。三環系抗うつ薬は、オピオイドの鎮痛効果を高めることが知られており(V.Ventafridda et al.,Pain,1990,43:155−162)、固有の鎮痛性を有することが知られている(M.B.Max et al.,Neurology,1987,37:589−596;B.M.Max et al.,Neurology,1988,38:1427−1432;R.Kishore−Kumar et al.,Clin.Pharmacol.Ther.,1990,47:305−312)。三環系抗鬱薬には、アミトリプチリン、アモキサピン、クロミプラミン、デシプラミン、ドキセピン、イミプラミン、ノルトリプチリン、プロトリプチリン、およびトリミプラミンが含まれるが、これらに限定されない。
【0128】
本発明の実施において使用するのに適切な麻酔薬には、ナトリウムチャネル遮断薬が含まれる。ナトリウムチャネル遮断薬の例には、アンブカイン、アモラノン、アミロカイン、ベノキシネート、ベンゾカイン、ベトキシカイン、ビフェナミン、ブピバカイン、ブタカイン、ブタンベン、ブタニリカイン、ブテタミン、ブトキシカイン、カルチカイン、クロロプロカイン、コカエチレン、コカイン、シクロメチカイン、ジブカイン、ジメチソキン、ジメトカイン、ジペロドン、ジクロニン、エクゴニジン、エクゴニン、エチドカイン、ユープロシン、フェナルコミン、フォモカイン、ヘキシルカイン、ヒドロキシテトラカイン、p−アミノ安息香酸イソブチル、ロイシノカイン、レボキサドロール、リドカイン、メピバカイン、メプリルカイン、メタブトキシカイン、塩化メチル、ミルテカイン、ネパイン、オクタカイン、オルトカイン、オキセサゼイン、パレントキシカイン、フェナカイン、フェノール、ピペロカイン、ピリドカイン、ポリドカノール、プラモキシン、プリロカイン、プロカイン、プロパノカイン、プロパラカイン、プロピポカイン、プロポキシカイン、プソイドコカイン、ピロカイン、ロピバカイン、サリチルアルコール、テトラカイン、トリカイン、トリメカイン、ゾラミン、およびこれらの活性誘導体、プロドラッグ、類似体、医薬的に許容される塩、または混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0129】
組成物の有効性および忍容性を改善するために、薬力学的特性および薬物動態が異なる局所麻酔薬を本発明の医薬組成物中で組み合わせる場合がある。例えば、本発明の組成物は、リドカインとプリロカインとの共融混合物、またはリドカインとテトラカインとの混合物を含む場合がある。糖質ステロイドと局所麻酔薬との併用投与は、局所麻酔薬の効果を延長するか、その他の方法により高める場合があることが報告されている(例えば、米国特許第5922340号および第6046187号を参照)。糖質ステロイドの例には、デキサメタゾン、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、フルニソリド、フルオシノロン、アセトニド、フルオシノニド、トリアムシノロンなどが含まれる。
【0130】
また、局所作用性血管収縮剤は、特に放出制御により投与される場合に、局所麻酔の効果を高めることが知られている。血管収縮剤の例には、カテコールアミン(例えば、エピネフリン、ノルエピネフリン、およびドパミン);メタラミノール、フェニレフリン、スマトリプタンおよび類似体、α−1およびα−2アドレナリンアゴニスト(例えば、クロニジン、グァンファシン、グアナベンズ、およびドーパ(すなわち、ジヒドロキシフェニルアラニン))、メチルドパ、エフェドリン、アンフェタミン、メタンフェタミン、メチルフェニデート、エチルノルエピネフリン、リタリン、ペモリン、およびその他の交感神経様作動薬が含まれるが、これらに限定されない。
【0131】
抗感染剤:本発明の医薬組成物で使用する抗感染剤は、局所投与する場合に抗感染性活性を有する(すなわち、感染症のリスクを低下させる;感染症を予防する;または感染症を阻害、抑制、対抗もしくは治療することができる)化合物、分子または薬物である。抗感染剤には、防腐剤、抗微生物剤、抗菌薬、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗原虫薬、および免疫賦活剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0132】
本発明での使用に適した抗ウイルス剤には、RNA合成阻害剤、タンパク質合成阻害剤、免疫賦活剤、およびプロテアーゼ阻害剤が含まれる。例えば、抗ウイルス剤は、アシクロビル、塩酸アマンタジン、ホスカルネットナトリウム、ガンシクロビルナトリウム、フェノール、リバビリン、ビダラビン、およびジドブジンからなる群から選択される場合がある。
【0133】
適切な抗真菌剤の例には、乳酸、ソルビン酸、アムホテリシンB、シクロピロックス、クロトリマゾール、エニルコナゾール、エコナゾール、フルコナゾール、グリセオフルビン、ハロプロジン、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾール、ナフチフィン、ナイスタチン、オキシコナゾール、スルコナゾール、チアベンダゾール、テルビナフィン、トルナフテート、ウンデシレン酸、マフェナイド、スルファジアジン銀、および石炭酸フクシンが含まれる。
【0134】
抗菌薬および他の抗微生物剤は、バシトラシン;セファロスポリン(例えば、セファドロキシル、セファゾリン、セファレキシン、セファロチン、セファピリン、セフラジン、セファクロル、セファマンドール、セホニシド、セホラニド、セフォキシチン、セフロキシム、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフォテタン、セフタジジム、セフチゾキシム、セフトリアキソン、およびメロペネム);サイクロセリン;ホスホマイシン、ペニシリン(例えば、アムジノシリン、アンピシリン、アモキシシリン、アズロシリン、バカンピシリン、ペニシリンGベンザチン、カルベニシリン、クロキサシリン、シクラシリン、ジクロキサシリン、メチシリン、メズロシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリンG、ペニシリンV、ピペラシリン、およびチカルシリン);リストセチン;バンコマイシン;コリスチン;ノボビオシン;ポリミキシン(例えば、コリスチン、硫酸コリスチン、およびポリミキシンB);アミノグリコシド(例えば、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、スペクチノマイシン、ストレプトマイシン、およびトブラマイシン)、テトラサイクリン(例えば、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、メタサイクリン、ミノサイクリン、およびオキシテトラサイクリン);カルバペネム(例えば、イミペネム);モノバクタム(例えば、アズトレオナム);クロラムフェニコール;クリンダマイシン;シクロヘキシミド;フシジン;リンコマイシン;ピューロマイシン;リファンピシン;他のストレプトマイシン;マクロライド(例えば、エリスロマイシンおよびオレアンドマイシン);フルオロキノロン;アクチノマイシン;エタンブトール;5−フルオロシトシン;グリセオフルビン;リファマイシン;スルホンアミド(例えば、スルファシチン、スルファジアジン、スルフイソキサゾール、スルファメトキサゾール、スルファメチゾール、およびスルファピリジン);およびトリメトプリムからなる群から選択される場合がある。
【0135】
他の抗菌剤には、ビスマス含有化合物(例えば、アルミン酸ビスマス、次クエン酸ビスマス、次没食子酸ビスマス、および次サリチル酸ビスマス);ニトロフラン(例えば、ニトロフラゾン、ニトロフラントイン、およびフラゾリドン);メトロニダゾール;チニダゾール;ニモラゾール;および安息香酸が含まれるが、これらに限定されない。
【0136】
防腐剤は、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン、ベンゾイルペルオキシド、過酸化水素、ヘキサクロロフェン、フェノール、レソルシノール、および塩化セチルピリジニウムからなる群から選択される場合がある。
【0137】
感染症のリスクは、疾患または薬物療法により抑制された免疫系に直接の影響を受ける。免疫賦活剤は、例えば感染部位にマクロファージを送ることによって異物の存在に応答するように罹患体の免疫系を刺激する化合物、分子または薬物である。本発明での使用に適した免疫賦活剤は、インターロイキン1アゴニスト、インターロイキン2アゴニスト、インターフェロンアゴニスト、RNA合成阻害剤、およびT細胞刺激剤などな広範な治療剤から選択される場合がある。
【0138】
抗炎症剤:本発明の医薬組成物で使用する抗炎症剤は、局所投与する場合に抗炎症作用を有する(すなわち、炎症の持続期間および/または重症度を抑制または低下させる;負傷/損傷部位の細胞の損傷を予防または抑制する;炎症による周囲組織の損傷または悪化を予防または抑制する;および/または紅斑、腫脹、組織虚血、そう痒、発熱、瘢痕などの炎症の発現の少なくとも1つからの軽減をもたらすことができる)化合物、分子または薬物である。
【0139】
抗炎症剤には、NSAIDおよびステロイド系抗炎症剤が含まれる。NSAIDの例については、上に記載されている。ステロイド系抗炎症剤の例には、ジプロピオン酸アクロメタゾン、フルニソリド、フルチカゾン、ブデソニド、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、ヒドロコルチゾン、コルチゾン、デキサメタゾン、フランカルボン酸モメタゾンモメタゾン、プレドニゾン、アセポン酸メチルプレドニゾロン、およびプレドニゾロンが含まれるが、これらに限定されない。
【0140】
あるいはまたはさらに、抗炎症剤は、抗酸化活性を示す広範な化合物、分子および薬物から選択される場合がある。抗酸化剤は、組織の酸化損傷を予防または抑制することができる薬剤である。抗酸化剤の例には、ビタミンA(レチナール)、ビタミンB(3,4−ジデヒドロレチノール)、ビタミンC(D−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸)、α−カロテン、β−カロテン、γ−カロテン、δ−カロテン、ビタミンE(α−トコフェロール)、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール、トコキノン、トコトリエノール、ブチルヒドロキシアニソール、システイン、およびこれらの活性誘導体、類似体、前駆体、プロドラッグ、医薬的に許容される塩、または混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0141】
他の生物活性剤
ある実施形態において、生物活性剤は、身体内に生来的に存在する、および/または負傷または損傷部位(すなわち、身体領域)で生来的に分泌され、生来的な治癒プロセスにおいて役割を果たす生体分子である。当業者であれば理解するように、これらの生体分子の変異体、合成類似体、誘導体および活性部分は、あるいは、天然の生体分子と実質的に同じ種類の特性/活性を示す限り、本発明の組成物で使用することができる。このような変異体、合成類似体、誘導体または活性部分は、「生物活性剤」という用語の範囲内に含まれるものとして意図される。
【0142】
生物活性生体分子は、哺乳類の組織から抽出され、本発明の医薬組成物でそのまままたは精製後に使用される場合がある。あるいは、これらの生体分子は、化学的に調製される場合もあれば、あるいは従来の遺伝子工学技術、例えば、合成遺伝子、または部位特異的突然変異によって改変された遺伝子の発現を介して調製される場合もある。
【0143】
適切な生物活性生体分子の例には、サイトカインおよび成長因子が含まれる。サイトカインおよび成長因子は、哺乳類細胞の移動、増殖、分化および代謝を調節するポリペプチド分子である。広範にわたるこれらの生体分子が、治癒の調節に重要な役割を果たす可能性があるとして確認されている。サイトカインの例には、インターロイキン(IL)(例えば、IL−1、IL−2、IL−4、およびIL−8)、インターフェロン(IFN)(例えば、IFN−α、IFN−β、およびIFN−γ)、および腫瘍壊死因子(例えば、TNF−α)、またはこれらのいずれかの変異体、合成類似体、活性部分、もしくは組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。成長因子の例には、上皮細胞成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、ヘパリン結合性成長因子(HBGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、インスリン様成長因子(IGF)、結合組織活性化ペプチド(CTAP)、トランスフォーミング成長因子α(TGF−α)およびトランスフォーミング成長因子β(TGF−β)、神経成長因子(NGF)、コロニー刺激因子(G−CSFおよびGM−CSF)など、またはこれらのいずれかの変異体、合成類似体、活性部分、もしくは組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0144】
適切な生物活性生体分子の他の例には、プロテオグリカンまたはその部分が含まれる。プロテオグリカンは、これらのグリコサミノグリカン(GAG)成分を特徴とするタンパク質−炭水化物複合体である。GAGは、高荷電性の硫酸化ポリアニオン系多糖類およびカルボキシ化ポリアニオン系多糖類である。本発明の医薬組成物での使用に適したGAGの例には、ヒアルロナン、硫酸コンドロイチン、硫酸デルマタン、硫酸ヘパラン、および硫酸ケラタンが含まれるが、これらに限定されない。
【0145】
適切な生物活性生体分子のさらに他の例には接着分子が含まれる。接着分子は、細胞−細胞間および細胞−細胞外マトリックス間の接着、認識、活性化および移動に関与する細胞外および細胞表面糖タンパク質の多様なファミリーを構成する。接着分子は、大部分の組織の構造的完全性および恒常性機能に不可欠であり、胚形成、炎症、血栓形成、および組織修復などの広範な生物学的プロセスに関与する。接着分子には、マトリックス細胞タンパク質(例えば、トロンボスポンジンおよびテネイシン)、および細胞表面接着分子(例えば、インテグリン、セレクチン、カドヘリン、および免疫グロブリン)が含まれる。
【実施例】
【0146】
以下の実施例では、本発明の好適な作製様式および実施様式の一部を記載する。しかし、これらの実施例は、単に例示を目的としたものであり、本発明の適用範囲を限定することを目的としたものではないことを理解する必要がある。さらに、実施例の記載が過去時制で示されない限り、本文は、本明細書の残りの部分と同様に、実験が実際に実施された、またはデータが実際に得られたことを示唆するものとして意図されない。
【0147】
(実施例1) 多糖類模倣体の合成
実験概要:すべての反応は、乾燥器で乾燥させたガラス器具内で室温にて行った。すべての溶媒は使用前に蒸留した。ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)は、Water HR−5有機カラムを介してテトラヒドロフラン(THF)を溶離液として使用するか、またはShodex−OH packカラムを介して水を溶離液として使用するかのいずれかによって行った。すべての分子量は、THFポリマーの場合ポリスチレン標準を比較して測定し、水溶性ポリマーの場合はデキストラン標準を比較して測定した。プロトンNMRスペクトルは、Varian Inova 4000MHzスペクトロメータで記録し、化学シフトは、テトラメチルシランから低磁場にてppmの単位で報告した。ポリマーのスペクトルで多く認められる幅広のピークや重なったピークは、以下では「br」と示す。
【0148】
エチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸塩、1:
塩化オキサリル(23.0mL、264mmol)と、新たに蒸留したジクロロメタン(CHCl、120mL)と、5−ノルボルネン−2−カルボン酸のendo/exo混合物(11.3g、0.0817mol)とを混合することによって、モノマーを調製した。ジメチルホルムアミド(DMF)を1滴添加すると、溶液は激しく泡立った。40分間撹拌した後、溶媒を真空除去してオレンジ色の油を得た。この油を、CHCl(100mL)、トリエチルアミン(12.0mL、86.1mmol)、ジメチルアミノピリジン(1.00g、0.00818mol)およびエタノール(50mL、861.73mmol)に溶解し、その溶液を窒素下でさらに20時間撹拌した。
【0149】
次いで、溶媒を室温にて真空除去し、茶色の液体を得た。この茶色の液体を真空蒸留し、endo/exo異性体の4:1混合物(9.62g、収率71%)としてエチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸塩(化合物1)を得た。
【0150】
【化6】


【0151】
ポリ(エチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸塩)、2:
まず、19mLの8:1(v:v)ベンゼン:ジクロロメタンに化合物1(0.570g、3.43mmol)溶解することによって、ポリマー2を合成した。グラブス触媒(7mg、0.009mmol)を添加して、溶液を窒素下でさらに4時間撹拌した。次いで、過剰なエチルビニルエーテルを添加して重合を終了させ、溶液をさらに30分間撹拌した。その溶液を200mLのメタノール中に注ぐと、ポリマーが沈殿した。
【0152】
次に洗浄と乾燥を行い、0.510g(収率90%)のポリ(エチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸塩)2を得た。
【0153】
【化7】

ポリマー2の分子量は、グラブス触媒の異なる比を使用して1,000〜10,000,000の間で調節することができる(表1を参照)。
【0154】
ポリ(エチル−5,6−ジヒドロキシノルボルナン−2−カルボン酸塩)3:
CHCl(12.6mL)にポリ(エチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸塩)2(1.25g、7.68モルの反復単位)とトリフルオロ酢酸テトラエチルアンモニウム(TEA−TFA、3.5mM)とを溶解することによって、ジヒドロキシル化ポリマー3を調製し、それを氷上で5℃に冷却した。氷で冷やした別のフラスコにて、CHCl(9.4mL)に50%過酸化水素(H;2.42mL)を添加した。この溶液にトリフルオロ酢酸無水物(6.8mL)を滴下した。
【0155】
2つのフラスコの内容物を混合し、得られた溶液を45℃にて4時間還流させた後、これらの溶媒を減圧除去した。残油に水を添加し、白色のポリマー3(1.0g、収率80%)を沈殿させた。
【0156】
【化8】

ポリマー3の分子量は、2の調製時のグラブス触媒の異なる比を使用して1,000〜10,000,000の間で調節することができる(表1を参照)。
【0157】
ポリ(5,6−ジヒドロキシノルボルナン−2−カルボン酸)4:
CHOH(28mM)にポリ(エチル−5,6−ジヒドロキシノルボルナン−2−カルボン酸塩)3(1.0g、5.00モルの反復単位)とKCO(0.30g、12.5mmol)とを60℃にて溶解することによって、親水性ポリマー4を合成した。溶液を4時間撹拌し、その時点でメタノールを減圧除去した。1モルのHClを添加し、ポリマー4(0.523g、収率52%)を沈殿させた。
【0158】
【化9】

ポリマー(4)の分子量は、2の調製時のグラブス触媒の異なる比を使用して、1,000〜10,000,000の間で調節することができる(表1を参照)。
【0159】
メチル−5−オキサノルボルネン−2−カルボン酸塩5:
モノマー5を調製するために、(1)のオキソ類似体と、フラン(1mL、0.137mmol)と、アクリル酸メチル(0.9mL、0.0100mmol)と、触媒のヨウ化亜鉛(962mg、0.003mmol)とを40℃にて68時間撹拌した。次いで、100mMの酢酸エチルで溶液を希釈し、20mMの0.1M NaSOで洗浄した。NaSOで乾燥させ濾過した後、溶媒を減圧除去して、オレンジ色の液体を得た。このオレンジ色の液体を真空蒸留し、無色の液体としてメチル−5−オキサノルボルネン−2−カルボン酸塩(化合物5)を得た。
【0160】
【化10】

シフトはexo産物と一致する。EI m/z=155(MH)。
【0161】
ポリ(メチル−5−オキサノルボルナン−2−カルボン酸塩)(6):
まず、12.0mLの8:1(v/v)ベンゼン:ジクロロメタンにメチル−5−オキサノルボルナン−2−カルボン酸塩5(1g、10.9mmol)を溶解することによって、ポリマー6を合成した。グラブス触媒(0.14mg、0.14μmol)を添加して、溶液を窒素下で4時間撹拌した。この溶液にエチルビニルエーテルを添加して、溶液をさらに30分間攪拌して、重合を終了させた。その溶液を600mLのメタノール中に注ぐと、ポリマーが沈殿した。
【0162】
次にメタノール洗浄と乾燥を行い、白色のポリマーとして0.916g(収率92%)のポリ(メチル−5−オキサノルボルナン−2−カルボン酸塩)6を得た。
【0163】
【化11】

ポリマー6の分子量は、グラブス触媒の異なる比を使用して1,000〜3,500,000の間で調節することができる(表1を参照)。
【0164】
ポリ(メチル−5,6−ジヒドロキシオキサノルボルナン−2−カルボン酸塩)7:
ポリ(メチル−5−オキサノルボルナン−2−カルボン酸塩)6(0.5114g)とTEA−TFA(1.4mL)とを混合した後、CHCl(10.0mL)に溶解し、氷上で5℃に冷却することによって、ポリマー7を調製した。氷で冷やした別のフラスコにて、CHCl(4.0mL)に50%H(0.96mL)を添加した。この溶液にトリフルオロ酢酸無水物(2.71mL)を滴下した。
【0165】
これらの2つのフラスコの内容物を混合し、得られた溶液を45℃にて4時間還流させた後、これらの溶媒を減圧除去した。残油に水を添加し、白色のポリマー7(0.477g、収率93%)を沈殿させた。
【0166】
【化12】

ポリマー7の分子量は、ポリマー6の調製時のグラブス触媒の異なる比を使用して1,000〜3,500,000の間で調節することができる(表1を参照)。
【0167】
ポリ(5,6−ジヒドロキシオキサノルボルナン−2−カルボン酸)8:
CHOH(15.0mM)にポリマー7(0.2159g)とKCO(0.100g、0.725mmol)とを60℃にて溶解することによって、親水性ポリマー8を合成した。溶液を4時間撹拌し、その時点でメタノールを減圧除去した。次いで、得られた薄オレンジ色の残渣を1MのHClに溶解して、白色の繊維状ポリマー8(0.1111mg、収率52%)を得た。
【0168】
【化13】

ポリマー8の分子量は、ポリマー6の調製時のグラブス触媒の異なる比を使用して1,000〜3,500,000の間で調節することができる(表1を参照)。
【0169】
ポリ(5−オキサノルボルナン−2−カルボン酸ナトリウム塩)9:
THF(100mL)に溶解したポリ(メチル−5−オキサノルボルナン−2−カルボン酸塩)6(0.5g)と、1MのNaOH(50mL)とを混合することによって、ポリマー9を調製した。次いで、この溶液を窒素下で24時間撹拌した。有機溶媒を蒸発させた後、1MのHClを添加することによって、ポリマーを沈殿させた。
【0170】
次にメタノール洗浄と乾燥を行い、0.45g(収率90%)のポリマー9(白色のポリマー)を得た。
【0171】
【化14】

ポリマー9の分子量は、ポリマー6の調製時のグラブス触媒の異なる比を使用して1,000〜3,500,000の間で調節することができる(表1を参照)。
【0172】
ポリ(5−ノルボルネン−2−カルボン酸ナトリウム塩)10:
THF(100mL)に溶解したポリ(エチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸塩)2(0.5g)と、1MのNaOH(50mL)とを混合することによって、ポリマー10を調製した。次いで、この溶液を窒素下で24時間撹拌した。有機溶媒を蒸発させた後、1MのHClを添加することによって、ポリマーを沈殿させた。
【0173】
次にメタノール洗浄と乾燥を行い、0.46g(収率92%)のポリマー10(白色のポリマー)を得た。
【0174】
【化15】

ポリマー10の分子量は、ポリマー2の調製時のグラブス触媒の異なる比を使用して1,000〜500,000の間で調節することができる(表1を参照)。
【0175】
(実施例2) 多糖類模倣体の物理的特性
摩擦係数は、ペルチェ温度制御装置を備えたTA InstrumentのRA 1000歪制御型レオメータで測定を行った。摩擦係数の測定には、直径40mmの鋼板を使用し、25℃にて測定を行った。5Nの垂直抗力を粘弾性材に印加し、1%の歪み制御で振動周波数掃引(0.01〜10Hz)を25℃にて行った。これによって材料の振動応力を測定することができ、次いでこれを垂直応力を使用して摩擦係数に変換することができる。データは1Hzの振動数で報告する。図6に示す通り、ポリマー9は、HAと同様の摩擦係数を有することが明らかになった。
【0176】
粘度は、ペルチェ温度制御装置を備えたTA InstrumentのRA 1000歪制御型レオメータで測定を行った。粘性の測定には、47μmの間隙を有する角度が2°の直径40mmの鋼板を使用し、25℃にて測定を行った。線形応答の歪み制御で振動周波数掃引(0.01〜10Hz)を25℃にて行った。これによって材料の粘度を測定することができる。データは1Hzの振動数で報告する。
【0177】
接触角は、イメージング用のCCDカメラに接続したRam−hartゴニオメータを使用して算出した。
【0178】
本発明のポリマーで測定した接触角を表1に列挙する。本発明のポリマーで得た粘度データを図3および図5に示し、摩擦係数を図6に示す。
【0179】
(実施例3) 多糖類模倣体の注入
ニュージランドホワイトラビット肘関節を使用して、潤滑剤の注入を行った。ポリマー9をヨウ化された造影剤(10容量%)と混合し、撹拌して、混合物が均一であることを確認した。蛍光透視鏡(OEC 6600)による誘導下で22G針を使用して、滑膜関節腔にアクセスした。天然の滑液を除去した後、(ポリマーと造影剤とを含有する)混合物を関節腔に注入した。関節腔への混合物の送達をX線で確認した。図7には、ポリマー9と造影剤との混合物が注入されたニュージランドホワイトラビット肘関節のX線写真を示す。
【0180】
他の実施形態
本発明の他の実施形態は、本明細書に開示される本発明の仕様または実施についての考察から当業者に明らかになるであろう。本明細書および実施例は単に例示的なものと見なされ、本発明の真の適用範囲は添付の特許請求の範囲に示されていることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化学構造の1つを有するポリマーであって:
【化16】

式中、
nが100〜200,000の整数であり;
XがCHおよびOからなる群から選択され;
およびRが、同じであるか異なっているかのいずれかであり、ならびにH、COOR’、COCH、CONHR’、OR’およびSR’からなる群から選択され、
式中、R’の各存在が、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、COCH、CHCHOH、CHCHOR’’、アミノ酸、小ペプチドまたは大ペプチド、COCCH=CH、COCH=CH、CHCOH、CHCHCOH、CHCHSH、CHCHSR’’および(CHCHO)n’R’’’からなる群から独立して選択され、
式中、
n’が1〜2000の整数であり;
R’’の各存在が、トリチル、4−メチルトリチルおよび2−ピリジルからなる群から独立して選択され;
R’’’の各存在が、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、COCCH=CH、COCH=CH、CHCHO、CHCHCHO、COH、COR’’’’、CHCOH、CHCHCOH、CHNH、CHNHR’’’’、CHN(R’’’’)、CHCHNH、CHCHNHR、CHCHN(R’’’’)、SH、CHCOR’’’’およびCHCHCOR’’’’からなる群から独立して選択され、
式中、R’’’’の各存在が、マレイミド、アミノ酸、小ペプチドまたは大ペプチド、ホスフェート、スルフェート、コリンおよび活性エステルからなる群から独立して選択される、
ポリマー。
【請求項2】
前記ポリマーが粘性液であることを特徴とする、請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
前記ポリマーがゲルであることを特徴とする、請求項1に記載のポリマー。
【請求項4】
以下の化学構造の1つを有するポリマーであって:
【化17】

式中、
nおよびmが、同じであるか異なっているかのいずれかであり、nおよびmのそれぞれが100〜200,000の整数であり;
およびXが、同じであるか異なっているかのいずれかであり、ならびにCHおよびOからなる群から選択され;
、R、RおよびRが、同じであるか異なっているかのいずれかであり、ならびにH、COOR’、COCH、CONHR’、OR’およびSR’からなる群から選択され、
式中、R’の各存在が、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、COCH、CHCHOH、CHCHOR’’、アミノ酸、小ペプチドまたは大ペプチド、COCCH=CH、COCH=CH、CHCOH、CHCHCOH、CHCHSH、CHCHSR’’および(CHCHO)n’R’’’からなる群から独立して選択され、
式中、
n’が1〜2000の整数であり;
R’’の各存在が、トリチル、4−メチルトリチルおよび2−ピリジルからなる群から独立して選択され;
R’’’の各存在が、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、COCCH=CH、COCH=CH、CHCHO、CHCHCHO、COH、COR’’’’、CHCOH、CHCHCOH、CHNH、CHNHR’’’’、CHN(R’’’’)、CHCHNH、CHCHNHR、CHCHN(R’’’’)、SH、CHCOR’’’’およびCHCHCOR’’’’からなる群から独立して選択され、
式中、R’’’’の各存在が、マレイミド、アミノ酸、小ペプチドまたは大ペプチド、ホスフェート、スルフェート、コリンおよび活性エステルからなる群から独立して選択される、
ポリマー。
【請求項5】
前記ポリマーが粘性液であることを特徴とする、請求項4に記載のポリマー。
【請求項6】
前記ポリマーがゲルであることを特徴とする、請求項4に記載のポリマー。
【請求項7】
以下の化学構造の1つを有するポリマーであって:
【化18】

式中、
nおよびmが、同じであるか異なっているかのいずれかであり、ならびにnおよびmのそれぞれが100〜200,000の整数であり;
およびXが、同じであるか異なっているかのいずれかであり、ならびにCHおよびOからなる群から選択され;
およびRが、同じであるか異なっているかのいずれかであり、ならびにH、COOR’、COCH、CONHR’、OR’およびSR’からなる群から選択され、
式中、R’の各存在が、H、CH、アルキル、アルケニル、アルキニル、CHCH、COCH、CHCHOH、CHCHOR’’、アミノ酸、小ペプチドまたは大ペプチド、COCCH=CH、COCH=CH、CHCOH、CHCHCOH、CHCHSH、CHCHSR’’および(CHCHO)n’R’’’からなる群から独立して選択され、
式中、
n’が1〜2000の整数であり;
R’’の各存在が、トリチル、4−メチルトリチルおよび2−ピリジルからなる群から独立して選択され;
R’’’の各存在が、H、CH、アルキル、アルケニル、アルキニル、COCCH=CH、COCH=CH、CHCHO、CHCHCHO、CHCOH、CHCHCOH、CHNH、CHCHNH、SH、CHCOR’’’’およびCHCHCOR’’’’からなる群から独立して選択され、
式中、R’’’’の各存在が、マレイミド、アミノ酸、小ペプチドまたは大ペプチド、ホスフェート、スルフェート、コリンおよび活性エステルからなる群から独立して選択され、
Wが結合部分である、
ポリマー。
【請求項8】
前記ポリマーが粘性液であることを特徴とする、請求項7に記載のポリマー。
【請求項9】
前記ポリマーがゲルであることを特徴とする、請求項7に記載のポリマー。
【請求項10】
Wが共有結合を含む、請求項7に記載のポリマー。
【請求項11】
前記共有結合が、エステル結合、エーテル結合、尿素結合、アミド結合、カーボネート結合、チオカーボネート結合、チオ尿素結合、カルバメート結合、ウレタン結合、シフト塩基結合、ペプチドライゲーションおよび炭素−炭素結合からなる群から選択される、請求項10に記載のポリマー。
【請求項12】
Wが非共有結合を含む、請求項7に記載のポリマー。
【請求項13】
前記非共有結合が、イオン結合、金属リガンド結合、金属キレート結合、水素結合、疎水結合、疎フルオロ結合およびファンデルワールス結合からなる群から選択される、請求項12に記載のポリマー。
【請求項14】
Wが結合分子を含む、請求項7に記載のポリマー。
【請求項15】
前記結合分子が、非置換ポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、非置換ポリアクリルグリコール、置換ポリアクリルグリコール、ポリペプチド、タンパク質、修飾タンパク質、天然の非置換多糖類、および天然の置換多糖類からなる群から選択される、請求項14に記載のポリマー。
【請求項16】
以下の化学構造の1つを有するポリマーであって:
【化19】

【化20】

式中、
n、m、oおよびpが、同じであるか異なっているかのいずれかであり、ならびにn、m、oおよびpのそれぞれが100〜200,000の整数であり;
、X、XおよびXが、同じであるか異なっているかのいずれかであり、ならびにCHおよびOからなる群から選択され;
、R、RおよびRが、同じであるか異なっているかのいずれかであり、ならびにH、COOR’、COCH、CONHR’、OR’およびSR’からなる群から選択され、
式中、R’の各存在が、H、アルキル、アルケニル、アルキニル、COCH、CHCHOH、CHCHOR’’、アミノ酸、小ペプチドまたは大ペプチド、COCCH=CH、COCH=CH、CHCOH、CHCHCOH、CHCHSH、CHCHSR’’および(CHCHO)n’R’’’からなる群から独立して選択され、
式中、
n’が1〜2000の整数であり;
R’’の各存在が、トリチル、4−メチルトリチルおよび2−ピリジルからなる群から独立して選択され;そして
R’’’の各存在が、H、CH、アルキル、アルケニル、アルキニル、COCCH=CH、COCH=CH、CHCHO、CHCHCHO、CHCOH、CHCHCOH、CHNH、CHCHNH、SH、CHCOR’’’’およびCHCHCOR’’’’からなる群から独立して選択され、
式中、R’’’’の各存在が、マレイミド、アミノ酸、小ペプチドまたは大ペプチド、ホスフェート、スルフェート、コリンおよび活性エステルからなる群から独立して選択され、
Wが結合部分である、
ポリマー。
【請求項17】
前記ポリマーが粘性液であることを特徴とする、請求項16に記載のポリマー。
【請求項18】
前記ポリマーがゲルであることを特徴とする、請求項16に記載のポリマー。
【請求項19】
Wが共有結合を含む、請求項16に記載のポリマー。
【請求項20】
前記共有結合が、エステル結合、エーテル結合、尿素結合、アミド結合、カーボネート結合、チオカーボネート結合、チオ尿素結合、カルバメート結合、ウレタン結合、シフト塩基結合、ペプチドライゲーションおよび炭素−炭素結合からなる群から選択される、請求項19に記載のポリマー。
【請求項21】
Wが非共有結合を含む、請求項16に記載のポリマー。
【請求項22】
前記非共有結合が、イオン結合、金属リガンド結合、金属キレート結合、水素結合、疎水結合、疎フルオロ結合およびファンデルワールス結合からなる群から選択される、請求項21に記載のポリマー。
【請求項23】
Wが結合分子を含む、請求項16に記載のポリマー。
【請求項24】
前記結合分子が、非置換ポリエチレングリコール、置換ポリエチレングリコール、非置換ポリアクリルグリコール、置換ポリアクリルグリコール、ポリペプチド、タンパク質、修飾タンパク質、天然の非置換多糖類、および天然の置換多糖類からなる群から選択される、請求項23に記載のポリマー。
【請求項25】
有効量の少なくとも1つの請求項1に記載のポリマーと、少なくとも1つの医薬的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項26】
有効量の少なくとも1つの請求項4に記載のポリマーと、少なくとも1つの医薬的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項27】
有効量の少なくとも1つの請求項7に記載のポリマーと、少なくとも1つの医薬的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項28】
有効量の少なくとも1つの請求項17に記載のポリマーと、少なくとも1つの医薬的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項29】
生物活性剤もさらに含む、請求項25〜29のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項30】
前記生物活性剤が、成長因子、サイトカイン、小分子、鎮痛薬、麻酔薬、抗微生物剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗生物質、抗炎症剤、抗酸化剤、防腐剤、およびこれらのいずれかの組み合わせからなる群のメンバーである、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項31】
前記生物活性剤が、コラーゲン、脂肪、シリコーンペースト、TEFLONペースト、カルシウムヒドロキシアパタイト、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、およびこれらのいずれかの組み合わせからなる群のメンバーである、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項32】
請求項1、4、7および17のいずれか1項に記載の有効量のポリマーを、それを必要とする被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項33】
前記被験体がヒトである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記ポリマーが粘性液であることを特徴とする、請求項32に記載のポリマー。
【請求項35】
前記ポリマーがゲルである、請求項32に記載のポリマー。
【請求項36】
前記投与工程が、前記被験体の軟部組織に有効量の前記ポリマーを局所投与する工程を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項37】
前記投与工程が、単回注入を行う工程を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記投与工程が、少なくとも2回の注入を行う工程を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記2回の注入が、少なくとも6ヵ月間隔で行われる、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記軟部組織が罹患または負傷した滑膜関節であり、前記ポリマーが関節内補充剤として使用される、請求項36に記載の方法。
【請求項41】
前記罹患または負傷した滑膜関節が、骨関節炎の関節または関節により誘発された関節(joint−induced joint)である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記罹患または負傷した滑膜関節が、膝関節、股関節、肘関節、足関節および橈骨手根関節からなる群から選択される関節である、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記軟部組織が、罹患した、負傷したまたは障害のある声帯;罹患した、負傷したまたは障害のある泌尿器系;罹患した、負傷した、変形したまたは老化した皮膚組織;ならびに罹患した、負傷したまたは障害のある椎間板であり、そして前記ポリマーが組織詰物として使用される、請求項36に記載の方法。
【請求項44】
前記被験体が手術を受けており、そして前記軟部組織が手術に含まれる、請求項36に記載の方法。
【請求項45】
前記手術が眼科手術であり、そして前記ポリマーが粘弾性剤として使用される、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記手術が腹部手術または婦人科手術であり、そして前記ポリマーが癒着防止剤として使用される、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
有効量の少なくとも1つの生物活性剤を前記被験体に投与する工程もさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項48】
前記生物活性剤が、成長因子、サイトカイン、小分子、鎮痛薬、麻酔薬、抗微生物剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗生物質、抗炎症剤、抗酸化剤、防腐剤、およびこれらのいずれかの組み合わせからなる群のメンバーである、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記生物活性剤が、コラーゲン、脂肪、シリコーンペースト、TEFLONペースト、カルシウムヒドロキシアパタイト、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、およびこれらのいずれかの組み合わせからなる群のメンバーである、請求項47に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図2A】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【公表番号】特表2009−537549(P2009−537549A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511079(P2009−511079)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/011888
【国際公開番号】WO2007/136738
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(595094600)トラスティーズ オブ ボストン ユニバーシティ (37)
【Fターム(参考)】