説明

医療用移植体をコートする方法及び装置

非回転物体をエレクトロスピニングされた被膜でコートする方法であって、帯電液化ポリマーを少なくとも一つの放出エレメントを通じて電界内に放出してポリマー繊維のジェットを形成させ、前記放出エレメントを前記物体に対して移動させて前記物体をエレクトロスピニングされた被膜でコートすることを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は物体をコートする方法及び装置に関し、より詳しく述べると、本発明はエレクトロスピニング法を利用して物体をコートする方法と装置に関する。本発明は、医療用移植体をコートするのに特に有用である。
【背景技術】
【0002】
特に、ポリマー繊維で構成された製品を得るため液化ポリマーをエレクトロスピニングする技術を利用して行う繊維状製品の製造については、文献に記載されている。エレクトロスピニング法は、技術操作の数を減らしかつ製造されている製品の特性の安定性を高める、極細合成繊維の製造方法である。
【0003】
エレクトロスピニング法は、液体の細い流れ又はジェットを生成し、その細い流れ又はジェットは、溶媒を適正に蒸発して固体の遷移状態にすると不織布構造が形成される。液体の細い流れは、少量のポリマー溶液を、電気力を使って空間を通じて引っ張ることによって生成される。さらに詳しく述べると、エレクトロスピニング法は、液化されたポリマーなどの物質を電界中に導入して、その液体を電気力で電極のほうに延伸しさらに硬化させて繊維を製造する。室温では通常固体である液体の場合、硬化法は単に冷却する方法でもよいが、化学的に硬化する方法(重合法)又は溶媒蒸発法などの他の方法も利用できる。製造された繊維を、適切に設置された沈積装置(precipitation device)に集めて、次いでそれからはがしとる。この沈積装置は、通常、最終製品の所望の形状に従って作製され、それは、例えば管状、平板状又は任意の形状でありうる。
【0004】
エレクトロスピニング法で製造できる管状繊維製品の例は、脈管補てつ具、特に合成血管及びワイヤなどの器具もしくは構造体を通過させたり挿入することができるチューブである。管状繊維製品は、各種の人工管路、例えば尿管、空気管又は胆管として使用することもできる。
【0005】
エレクトロスピニング法は、各種物体、例えばステントなどの医療用移植体をコートするのに利用することもできる。ステントは、冠状動脈に半径方向支持体を設置してこの動脈が狭窄するのを防止するために広く使用されている。しかしながら、臨床データは、血管形成術を実施してから約3ヶ月後に始まる後期再狭窄を通常防止できないことを示している。ステントが配置されている間に、病変部から、生体物質がステントを通じて内腔中に移動するのを防止するように設計された機械的バリヤーを有するステントが当該技術分野で知られている。
【0006】
ステントをコートするのにエレクトロスピニング法を利用すると、広範囲の繊維の厚さ(数十ナノメートル〜数十マイクロメートル)を有する耐久性コーティングを得ることができ、格別の均一性、平滑性及びコーティングの厚さに沿った望ましい多孔度の分散が達成される。ステント自体は、正常な細胞侵入を助長しないのでステントの金属メッシュ内で細胞が無規律に成長して細胞の過形成を起こすことがある。ステントが、多孔質構造のグラフトでコートされると、そのグラフト成分の孔に、ステントグラフトを囲む動脈の領域からの細胞組織が侵入する。さらに、各種の生化学的特性及び物理機械的特性を有する多様化されたポリマーが、コーティングに使用できる。
【0007】
機械的バリヤーについては、機械的バリヤーを有するコートされたステントは、組織が過剰に増殖して血管を閉塞するのを防止できる。米国特許第5,916,264号は、二つの金属製ステントの間にサンドイッチされたPTFEのシートを含むステントグラフトを開示している。なお、この特許の内容は本明細書に援用するものである。この装置は、動脈瘤や穿孔を密閉するのに成功しているが、この装置は、最新のステントと比べて断面積がかなり大きくかつ可撓性が低い嵩高の装置である。
【0008】
ステントグラフトを製造する際のエレクトロスピニング法の例は、米国特許第5,639,278号、同第5,723,004号,同第5,948,018号、同第5,632,772号、同第5,855,598号、国際特許願第WO249535号及びオーストラリア特許第AU2249402号に見られる。
【0009】
エレクトロスピニング法は、コーティング工程に使われる溶液の電気物理学的パラメータとレオロジーのパラメータの変化にかなり敏感であることが分かっている。さらに、治療効果を達成するために充分な濃度の薬物を、ポリマー中に組み入れると、通常、エレクトロスピニング法の効率が低下して、コーティングの各種欠点を生じる。その上さらに、ポリマー中に薬物を導入すると、生成するコーティングの機械的特性を低下させる。この欠点は、比較的厚い皮膜の場合、いくらか無視できるが、サブミクロンの繊維の場合、悪影響を与える。
【0010】
ステントの被膜は、移植後又は移植中に分離しないように、体液中にて、ステントの金属ベースに対して優れた接着性を有することが望ましい。さらに、ステントの被膜の弾性と強さは、ステント金属が開いたときの大きな膨張(約300〜500%)に適合できなければならない。さらに、ステントの被膜は、より優れた移植を促進し、再狭窄する危険性を減らし、そして移植部位に隣接する組織への薬物放出を最適化することが望ましい。
【0011】
上記要件については、従来技術のステントの被膜の特性は、充分であるとは到底いえない。例えば、細長い電極系を有するエレクトロスピニング装置では、電界が決定的に非対称になり、繊維は長さ方向の配向が優勢になる。このような被膜の構造は、軸方向の強さ(繊維の配向方向に沿った)が半径方向の強さより大きいという高い異方性の機械特性を有していることが知られている。半径方向の強さは、先に述べたようにステント金属のかなりの膨張に適合しなければならない特にステントの被膜の重要なパラメータであることが分かっている。さらに、従来技術のエレクトロスピニング装置では、繊維間の静電気による反発によって、ジェットの開放角度が大きくなり、堆積面積が拡大しそして破断強さが低下する。
【0012】
バルーン血管形成術とステント拡張法を含む経皮冠血管インターベンション法(PCI)には、ステントを移植中に血管が損傷する危険がある。ステントが欠陥部位で半径方向に拡張されると、動脈壁上のプラークが割れてその鋭利な端縁が周りの組織に切り傷をつける。その結果、内出血が起こり局所感染が起こる可能性があり、これを充分に治療しないと、身体の他の部分に広がって悪影響を及ぼすことがある。
【0013】
動脈の欠陥部位の領域の局所感染は、患者の血流に抗生物質を注射して治療しても、このような治療は通常、局限性感染に対して効果がないので役に立たない。この問題に対するより一般的な方策は、感染領域に接触させる治療薬を、ステントのワイヤメッシュにコートする方法である。しかしこのような一回限りの治療では感染を除くには不十分であることから、抗生物質及び/又は他の治療薬物を数時間もしくは数日間又は数ヶ月間も投与することが必要であることが多い。
【0014】
ステントを移植中に血管が損傷する危険性は、ステントと動脈の間の生物界面を改善して、ステントが移植中損傷を与える危険性を低下させる働きをするソフトステントを使用することによって低下させることができる。ポリマー製ステント又は生体適合性繊維のステントコーティングの例は、例えば、米国特許第6,001,125号、同第5,376,117号及び同第5,628,788号に記載されている。なお、これら特許はすべて本明細書に援用するものである。
【0015】
米国特許第5,948,018号には、伸縮性であるためステントの拡張を妨げない弾性ポリマーのグラフト成分でコートされた高価なステント要素で構成されたグラフトが開示されている。そのグラフト成分は、正常な細胞増殖を促進するため多孔性が得られるように、エレクトロスピニング法で作製される。しかし米国特許第5,948,018号では、動脈の繊細な組織にステントを移植している工程でステントが与えた損傷を処置できない。これらの損傷は、移植部位の局所感染を起こしたり、又は効果的に治療しないと移植体の利点を帳消しにすることがある他の障害をもたらすことがある。
その他の興味深い従来技術としては、Murphy et al.,「Percutaneous Polymeric Stents in Porcine Coronary Arteries」,Circulation 86:1596−1604,1992;Jeong et al.,「Does Heparin Release Coating of the Wallstent limit Thrombosis and Platelet Deposition?」,Circulation 92:173A,1995;及びWiedermann S.C.「Intercoronary Irradiation Markedly Reduces Necintimal Proliferation after Balloon Angioplasty in Swine」Amer.Col.Cardiol.25:1451−1456,1995がある。
【0016】
しかし、従来技術の方法は、身体内に移植するには半径方向の強さが低いか又は多孔性が適切でない。さらに従来技術の方法は、医療用移植体を、カテーテルバルーンなどの誘導システムに取り付けたままコーティングする方法を提供できない。
【0017】
したがって、上記制限無しで医療用移植体をコートする方法と装置が要望されていることは広く知られており、このような方法と装置が得られれば非常に有利である。
【発明の開示】
【0018】
本発明の一側面によれば、帯電液化ポリマーを少なくとも一つの放出エレメント(dispensing element)を通じて電界内に放出してポリマー繊維のジェットを形成させ、次いでその放出エレメントを非回転物体に対して移動させてその物体をエレクトロスピニングされた被膜でコートすることを含んでなる、非回転物体をエレクトロスピニングされた被膜でコートする方法を提供する。
【0019】
本発明の下記好ましい実施態様のさらに別の特徴によれば、上記方法は、ポリマー繊維を物体上に均一に分散させるため、物体をポリマー繊維のジェットに対して平行移動させることをさらに含んでいる。
【0020】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記平行移動は調和移動である。
【0021】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記平行移動は往復移動である。
【0022】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記物体は拡張可能な管状支持エレメントである。
【0023】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記拡張可能な管状支持エレメントは金属ワイヤ製の変形可能なメッシュを含んでいる。
【0024】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記拡張可能な管状支持エレメントはステンレス鋼ワイヤ製の変形可能なメッシュを含んでいる。
【0025】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記物体はステントである。
【0026】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記物体は、少なくとも一つの被膜を有するステントアセンブリである。
【0027】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記物体は、ステント誘導システムに取り付けられたステントである。
【0028】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記物体は移植可能な医療用装置である。
【0029】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記物体は、ステント誘導システムに取り付けられた移植可能な医療用装置である。
【0030】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記方法は、さらに、帯電液化ポリマーを放出する前に拡張可能な管状支持エレメントをマンドレル上に取り付けることを含んでいる。
【0031】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記方法は、さらに、帯電液化ポリマーを少なくとも一つの放出エレメントを通じて電界内に放出し、次いでマンドレルをコートするため、その放出エレメントをマンドレルに対して移動させて、拡張可能な管状支持エレメントに内側被膜を設けることを含んでいる。
【0032】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記方法は、さらに、少なくとも一つの接着層を、拡張可能な管状支持エレメントに設けることを含んでいる。
【0033】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記少なくとも一つの接着層は不浸透性の接着層である。
【0034】
本発明の別の側面によれば、非回転物体をエレクトロスピニングされた被膜でコートする装置が提供され、その装置は、物体に対して電位差を有し、その電位差で形成される電界内に、帯電液化ポリマーを放出しながら物体に対して移動することができ、それによってポリマー繊維のジェットを作製し物体をコートする、少なくとも一つの放出エレメントを備えている。
【0035】
本発明の下記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記少なくとも一つの放出エレメントは円形経路に沿って移動できる。
【0036】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記少なくとも一つの放出エレメントはらせん経路に沿って移動できる。
【0037】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記少なくとも一つの放出エレメントはジグザグ経路に沿って移動できる。
【0038】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記少なくとも一つの放出エレメントは、電界が、前記少なくとも一つの放出エレメントの移動と同期に移動できるように設計され構成されている。
【0039】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記少なくとも一つの放出エレメントの移動は、ポリマー繊維のジェットが物体の周りのらせん移動を確立するように選択され、そのらせん移動は、徐々に半径が小さくなることが特徴である。
【0040】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記少なくとも一つの放出エレメントは、電極の配列を備えている。
【0041】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記少なくとも一つの放出エレメントは、少なくとも一つの毛細管を有する回転可能なリングを備えている。
【0042】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記回転可能なリングは誘電材料で作られている。
【0043】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記回転可能なリングは導電材料で作られている。
【0044】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記装置は、さらに、液化ポリマーを収容する浴を備え、その浴は、前記少なくとも一つの放出エレメントと流体連通している。
【0045】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記装置は、さらに、液化ポリマーを、浴から少なくとも一つの放出エレメントに移し替えるポンプを備えている。
【0046】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記装置は、さらに、ポリマー繊維を物体の上に均一に分散させるために、物体を、ポリマー繊維のジェットに対して平行に移動させる機構を備えている。
【0047】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記装置は、さらに、帯電液化ポリマーを有し、そしてさらに、薬物がその帯電液化ポリマーと混合され次いでその液化ポリマーと共に少なくとも一つの放出エレメントを通じて同時に放出されて、物体がエレクトロスピニングされた薬物添加被膜でコートされる。
【0048】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、前記装置は、さらに、ポリマー繊維の間に薬物を構成する高密度物体(compact object)を分散させる噴霧器を備えている。
【0049】
本発明のさらに別の側面の特徴によれば、(a)ステントアセンブリを準備し、(b)帯電液化ポリマーを少なくとも一つの放出エレメントを通じて電界内に放出してポリマー繊維のジェットを形成させ、次いで放出エレメントをステントアセンブリに対して移動させて、ステントアセンブリをエレクトロスピニングされた被膜でコートし、次に(c)そのステントアセンブリを狭窄血管内に入れることを含む狭窄血管治療方法が提供される。
【0050】
本発明の下記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、上記方法は、さらに、ステントアセンブリを拡張して、流れの狭窄が実質的に一掃されるような方式で、ステントアセンブリの周りの組織を膨張させるステップを含んでいる。
【0051】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、少なくとも一つの放出エレメントの移動が、ポリマー繊維のジェットがステントアセンブリの周りを半径が徐々に小さくなることを特徴とするらせん移動を行うように選択される。
【0052】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、上記方法は、さらに、ポリマー繊維をステントアセンブリの上に均一に分散させるために、ステントアセンブリをポリマー繊維のジェットに対して平行に移動させるステップを含んでいる。
【0053】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、薬物が、帯電液化ポリマーと混合されてその液化ポリマーと共に少なくとも一つの放出エレメントを通じて同時に放出され、物体がエレクトロスピニングされた薬物添加被膜でコートされる。
【0054】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、薬物は、帯電液化ポリマーに溶解されている。
【0055】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、薬物は、帯電液化ポリマーに懸濁されている。
【0056】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、薬物は、ポリマー繊維中に埋め込まれた粒子で構成されている。
【0057】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、上記方法は、さらに、薬物を高密度物体に構成し、その高密度物体を、ポリマー繊維の間に分散させることを含んでいる。
【0058】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、薬物はヘパリンである。
【0059】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、薬物は放射性化合物である。
【0060】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、薬物はスルファジアジン銀である。
【0061】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、高密度物体はカプセルである。
【0062】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、高密度物体は粉末状である。
【0063】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、高密度物体の分散は噴霧によって行われる。
【0064】
上記好ましい実施態様のさらに他の特徴によれば、さらに、上記方法はエレクトロスピニングされた被膜の上に少なくとも一つの追加の被膜を設けることを含んでいる。
【0065】
本発明は、非回転物体をエレクトロスピニングされた被膜でコートする方法及び装置を提供することによって現在知られている構成の欠点を処理するのに成功している。
【0066】
特に断らない限り、本明細書で使用される技術用語と科学用語はすべて、本発明の属している技術分野の当業者が通常理解しているのと同じ意味を有している。本明細書に記載されているのと類似しているか又は均等の方法と材料は、本発明を実施又は試験するのに使用できるが、適切な方法と材料については以下に説明する。矛盾する場合は、定義を含む特許明細書が支配する。さらに、材料、方法及び実施例は例示することだけを目的とし限定することを意図するものではない。
【0067】
本発明は、添付図面を参照して単に例示することで、本明細書で説明する。ここで詳細な図面を特に参照するが、記載されている詳細は、単に例示であり本発明の好ましい実施態様を例示考察することだけを目的としておりかつ最も有用であると考えられる物を提供するために提供され、その説明によって本発明の原理と概念の側面が容易に理解できることを強調するものである。この点については、本発明の構造の詳細を、本発明を基本的に理解するのに必要である以上に詳細に示そうと試みるものではなく、図面を参照した説明によって、本発明のいくつかの形態を実施できる方法が当業者には明らかになるであろう。
図1は従来技術のエレクトロスピニング装置の概略図である。
図2aは本発明の好ましい実施態様による非回転物体をエレクトロスピニングされた被膜でコートする方法のフローチャートである。
図2b−eは本発明の好ましい実施態様による放出エレメントの移動できる経路の概略図である。
図2fは本発明の好ましい実施態様によるポリマー繊維のらせん軌道の概略図である。
図3は本発明の好ましい実施態様によるステントアセンブリの断面図である。
図4aは本発明の好ましい実施態様によるステントアセンブリの端面図である。
図4bは本発明の好ましい実施態様による、さらに少なくとも一つの接着層を有するステントアセンブリの端面図である。
図5は本発明の好ましい実施態様による、身体血管系の狭窄血管を膨張させるために設計・構築された管状支持エレメントを示す。
図6は本発明の好ましい実施態様による、金属ワイヤの変形可能なメッシュで構成された図5の管状支持エレメントの部分を示す。
図7は動脈の欠陥部位を占拠する本発明の教示に従って製造されたステントアセンブリを示す。
図8は本発明の好ましい実施態様によって製造されたポリマー繊維の不織ウエブの部分を示す。
図9は高密度物体で構成されかつエレクトロスピニングされたポリマー繊維の間に分散している薬物を含む、ポリマー繊維の不織ウエブの部分を示す。
図10は本発明の好ましい実施態様による、非回転物体をエレクトロスピニングされた被膜でコートする装置の概略図である。
図11は本発明の好ましい実施態様による狭窄血管の治療法のフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0068】
本発明は、移植可能な医療用装置になりうる物体をコートする方法と装置の発明である。具体的に述べると、本発明は、非回転物体、例えば、限定されないがステントなどの移植可能な医療用装置を、誘導システム(例えば、ステント誘導システム)又はその一部分に取り付けたままで、その装置にエレクトロスピニングされた被膜を施すのに使用できる。本発明は、さらに狭窄血管を治療する方法の発明である。
【0069】
図2−11に例示されている本発明をよく理解するように、まず、図1に示す通常の(すなわち、従来技術の)エレクトロスピニング装置の構造と作動を説明する。
【0070】
本発明の少なくとも一つの実施態様を詳細に説明する前に、本発明は、以下の説明に記載されているか又は図面に例示されている要素の構造と配列の詳細に限定するものではないと解すべきである。本発明は、他の実施態様を有し又は他の方法で実行もしくは実施できる。また、本明細書で採用される語法と専門用語は、説明することを目的としており限定とみなすべきではないと解すべきである。
ここで図面を参照すると、図1は、本明細書で一般に装置1と呼称されている、不織材料を製造する従来のエレクトロスピニング装置を例示している。
【0071】
装置1は、例えば一つ又は二つ以上の毛細管開口4を有する浴である放出器(dispenser)2を備えている。放出器2は、液状(溶解又は溶融されている)のスピニングされるポリマーを貯蔵する働きがある。放出器2は、沈積電極6から予め決められた距離をとって配置され、これらの間に第一軸線5が定義されている。沈積電極6は、その上に構造体を形成する働きをする。沈積電極6は通常、製造すべき最終製品の形状特性にしたがって製造される。例えば、沈積電極6は、管状構造体を製造する際に使える縦方向軸線3を有するマンドレルでもよい。
【0072】
放出器2は、通常、接地され、一方沈積電極6は、好ましくは負の極性の高電圧源(図1には図示していない)に接続されて、放出器2と沈積電極6の間に電界が形成される。あるいは、沈積電極6が接地されて、放出器2が、正の極性の高電圧源に接続されてもよい。
【0073】
不織材料を製造するには、液化ポリマーを、例えば静圧の作用で又はポンプ(図1には図示していない)を使って、放出器2の毛細管開口4を通じて押し出す。押し出された液化ポリマーのメニスカスが形成されたならば直ちに、溶媒の蒸発又は冷却の工程が開始され、その結果、半硬質のエンベロープ又はクラストを有するカプセルが生成される。放出器2と沈積電極6の間の電位差によって、電界が放出器2の領域に単極コロナ放電を起こすことがある。前記液化ポリマーは、ある程度の導電率を有しているので、上記カプセルは帯電するようになる。カプセル内の反発電気力によって、静圧が劇的に増大する。前記半硬質エンベロープが延伸され、多数の微小破断点が各エンベロープの表面に形成され、放出器2から液化ポリマーの極めて細いジェットが噴霧される。
【0074】
クーロン力の作用によって、前記ジェットは、放出器2から離れて、逆の極性の電極すなわち沈積電極6の方に移動する。そのジェットは、電極間の空間を高速度で移動して冷却されるか又はその中の溶媒が蒸発し、ポリマー繊維のジェットを形成して沈積電極6の表面に集められその表面上に不織構造体が形成される。管状不織構造体は、従来、エレクトロスピニング工程中、沈積電極6を縦軸3の周りに回転させて沈積電極6を管状にコートすることによって製造される。
【0075】
一般的なエレクトロスピニング工程(例えば、装置1に採用されるような工程)は、いくつもの制限を受ける。
【0076】
第一に、当業者には分かることであるが、沈積電極6の曲率半径が小さい場合、ポリマー繊維は縦軸線3にそって軸方向に配列する傾向がある。このような場合、生成した構造体は、軸線方向の強さが半径方向の強さより大きくなる。したがって、小直径の製品を、従来のエレクトロスピニング法で製造すると、半径方向の強さは限定された強さである。
【0077】
第二に、不織管状構造体を製造する従来のエレクトロスピニング法は、中空管の製造に限定される。これは、沈積電極6をエレクトロスピニングされた被膜でコートするか、又はエレクトロスピニング工程を始める前に、沈積電極6に管状部材を取り付けることによって実施される。いずれにしろ、沈積電極6から取り外された最終製品は中空である。しかし、構造体の内部容積に係合するように設計された追加の部材を有する構造体を製造することを要求されることが多いが、従来技術のエレクトロスピニング法では、このような内部部材は、構造体を沈積電極6から取り外した後、不織構造体中に単に挿入できるだけであることが分かっている。例えば、従来のエレクトロスピニング法では、ステントがステント誘導システムにすでに取り付けられているときは、そのステントをコートすることができない。
【0078】
第三に、通常のエレクトロスピニング法では、放出器2と沈積電極6の間に生成する電界は静電気の電界であるので、帯電ポリマー繊維は、電界ライン(field line)によって整列する傾向があり、静電経路に沿って移動する。したがって、これによって、繊維の配向を、従って最終製品の強さを制御する性能が制限される。
【0079】
物体を非回転状態又は静止状態に保持しながら、エレクトロスピニング装置の放出エレメントを予め決められた経路に沿って移動させることによって、物体をコートできるという本発明を予想して仮説を立て次いで本発明を実施して実現した。物体が非回転状態であるこの実施態様の利点は、物体を、エレクトロスピニング法にかける前に回転電極に取り付ける必要がなく、中空物体のみならず非中空物体もコートできることである。例えば、この実施態様を利用して、ステントなどの医療用の移植可能な装置を、単独で、又は適切な誘導システム、例えば限定されないがカテーテルバルーンなどのステント誘導システムに取り付けたままで、エレクトロスピニング法でコートできる。この実施態様は、強さを改善し、医療用の移植可能な装置が追加の部材もしくは装置に取り付けられているか又は追加の部材もしくは装置と一体になっている「ワンユニット製品」として売主が通常供給している市販の医療用の移植可能な装置に機械的バリヤーを形成するか及び/又は薬物を組み込みたいときに有用である。
【0080】
本発明の好ましい実施態様の非回転物体をコートする方法のフローチャートである図2aをここで説明する。図2a中のブロック7に示すこの方法の第一ステップで、帯電液化ポリマーが、少なくとも一つの放出エレメントを通じて電界中に放出されて、ポリマー繊維のジェットが形成される。ブロック8で示されているこの方法の第二ステップで、物体をエレクトロスピニングされた被膜でコートするために、放出エレメントを、物体に対して移動する。単一又は複数の放出エレメントが、予め決定された経路に沿って移動しながら、電界の方向及び/又は大きさを変えることができる。これらの変更は、先に詳細に述べたように、物体上に要求されるポリマー繊維の配向に従って調整できる。
【0081】
先に述べたように、放出エレメントは、予め決められた経路に沿って移動させることができる。その経路は、必要に応じて物体の全体又は選択された一部分をコートするように選択することが好ましい。物体の形状が管状(例えば、円柱形)である場合、放出器は、例えば、図2b−dに示すように、らせん経路(図2b)、円形経路(図2c)、ジグザグ経路(図2d−e)などに沿って移動できる。経路及びその経路を特徴付けるパラメータは、物体上の繊維の望ましい配向にしたがって選択することが好ましい。物体に沿って移動する放出エレメントの移動曲線(sweep)をいくつか採用して、エレクトロスピニングされた被膜の均一性を改善できる。採用する移動曲線の数は、被膜に必要な多孔度によって選択され、移動曲線の数が増すと細孔の平均の大きさが小さくなる。さらに、繊維の密度及び/又は液化ポリマーの種類を、第一の移動曲線からその後の移動曲線に対して変更して、以下に詳細に述べるような多層被膜を提供できる。
【0082】
放出エレメントの移動は、ポリマー繊維のジェットに対する物体の平行移動(例えば、往復移動、調和移動など)で補うことができる。この実施態様は、放出エレメントの移動経路が平面経路(例えば円形経路)である場合、特に有用であり、例えば、物体が放出エレメントの移動平面に対して往復移動するとき、繊維が物体に沿って再分散されて被膜の均一性が改善される。
【0083】
エレクトロスピニングの原理に従って、電界が、放出エレメントと物体の間の電位差によって生成する。通常の電位差は、約20kV−約50kVである。このような電位差は、例えば放出エレメントを接地し物体を負の電位に置くか又は帯電液化ポリマーが放出エレメントから物体に向かって確実に移動する他の静電気の配置構成にすることによって達成できる。物体が導電性部分(例えば、ステントの金属製メッシュ)を有しているときは、その導電性部分は、好ましくは負の極性の電圧源に接続できる。物体が非導電性の場合、又は必要に応じて、物体は、沈積電極(例えば、マンドレル)に取り付けて電圧源に接続できる。
【0084】
繊維は、空間を移動するとき、物体の周りの媒体(通常、空気)の分子と繊維の分子の間の衝突によって生じる摩擦力を受ける。周りの媒体の密度が高ければ高いほど摩擦力は大きくなる。本発明の好ましい実施態様では、放出エレメントの速度は、ポリマー繊維が放出エレメントと物体が規定する軸線(例えば、図1に示す軸線5参照)に対して充分な横方向速度を獲得するように選択される。放出エレメントの通常の線速度は約100cm/sec〜約3000cm/secである。放出エレメントが回転移動をする場合は(例えば、らせん移動、円移動など)、通常の回転速度は約100rpm〜約1200rpmである。
【0085】
用語「約」は、本明細書で使う場合、±10%を意味する。
【0086】
したがって、物体の周りの媒体中のポリマー繊維の経路は、(i)電界によってかかる電気力、(ii)周りの媒体の分子によってかかる摩擦力、及び(iii)繊維の横方向速度によって決まる。当業者には分かるように、エレクトロスピニング法を真空内で実施すると、摩擦力は無いので、ポリマー繊維の軌道は、電気力と横方向速度だけで決まる。したがって、エレクトロスピニング法を、気体の媒体内で行うと、ポリマー繊維の軌道は、曲線になり、一方、真空内で行うと、摩擦が無いため、ポリマー繊維の軌道は実質的に直線になる。
【0087】
繊維の横方向の速度の外に、繊維は、電界の影響で、電界ライン(electric field line)の方向にも加速する。したがって、与えられた時点での繊維の移動方向は横方向の速度と電界方向に達成された速度の(ベクトル)合計である。例えば、放出エレメントが円形経路に沿って移動すると、繊維のジェットは、徐々に半径が小さくなることが特徴のらせん移動で移動する。らせん経路の代表的例は図2fに示してある。
【0088】
ポリマー繊維は単位長さ当たりの質量が比較的小さいが、タンゼント移動のため繊維が獲得する移動量は、電界の摂動力に対抗して繊維の空間における移動を安定化するのに充分になることを本発明の発明者らは発見したのである。物体が管状で放出エレメントが円移動をしている場合は、上記円移動の回転速度にて、繊維の獲得する移動量は、繊維が有力な方位空間配向を有する被膜を提供するのに充分であることが発見されたのである。この点については、回転速度が高いほど、方位配向の程度が高くなる。本発明の好ましい実施態様によれば、放出エレメントの移動の特性(例えば、経路、線速度、回転速度)は、ポリマー繊維の少なくとも60%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%が、物体の縦方向軸線に対して方位配向するように選択される。さらに又はあるいは、放出エレメントの移動の特性(例えば、経路、線速度、回転速度)は、前記エレクトロスピニングされた被膜が、破断することなく、少なくとも300%、より好ましくは少なくとも400%、最も好ましくは少なくとも500%半径方向に拡張できるように選択される。
【0089】
放出エレメントの移動によって、ジェットの噴霧角度は実質的に小さくなるので、より集中したジェットが生成して最終被膜の細孔の平均の大きさが小さくなることを本発明の発明者らはさらに発見したのである。そのジェット角は、放出エレメントの幾何学的形状を、したがって物体の近傍の及び繊維の軌道に沿った電界の大きさと方向を賢明に選択することによって、さらに小さくできる。本発明の好ましい実施態様によれば、放出エレメントの移動及び/又は形状は、噴霧角度が、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも30%、最も好ましくは少なくとも60%小さくなるように選択される。したがって、電気力、摩擦力、横方向速度及び好ましくは物体の平行移動を組み合わせることによって、最終被膜の密度のみならず配向、多孔率を制御できる。
【0090】
例えば、エレクトロスピニングされた被膜をステント又は他の医療用管状移植体に塗布する用途では、その被膜の特性は、移植するのに適したものであることが必要である。具体的に述べると、高い半径方向強度を得るためには、繊維の方位配向が高いことが好ましく、その方位配向はすでに述べたように、放出エレメントの円移動を選択することによって得ることができる。さらに、ステントや血管補てつ具などの血管移植体の場合、その多孔率は、ステント又は血管補てつ具が設置されている間、周囲の組織から細胞が移行できてこれら細胞が増殖しやすく、同時に望ましくない化学物質やプラークの破片が血管内腔に入るのを防止するように選択される。
【0091】
さらに、この実施態様の制御可能な多孔率によって、被膜に薬剤又は別の医薬を組み入れることができる薬物局所送達エレメントを設計できる。このような装置では、被膜の多孔率は、好ましくは、独立した薬物負荷を有しかつ薬物の放出速度を制御するバリヤーとして働くように設計できる。
【0092】
本発明のこの実施態様は、すでに予備被膜を有するステントアセンブリのみならずステントの拡張可能な管状支持エレメントをコートするのに利用できる。いずれにしろ、上記方法は、国際特許願第PCT/IL01/01171号に開示されている被膜のような多層被膜のみならず単一被膜を提供するのに利用できる。なお、この特許願の内容は本願に援用するものである。
【0093】
ここで、本発明の方法の選択されたステップを使用してコートされたステントアセンブリの概略断面図である図3を説明する。そのステントアセンブリは、拡張可能な管状支持エレメント10及び予め決められた多孔率を有する少なくとも一つの被膜12を備えている。被膜12は、エレメント10の内表面を裏打ちする内側被膜14とエレメント10の外表面を被覆する外側被膜16で構成されている。図4aは、内側を内側被膜14で被覆され、外側を外側被膜16で被覆されたエレメント10を示す、ステントアセンブリの端面図である。図4bを見ると、被膜12は、さらに、ステントアセンブリの要素を接着するための少なくとも一つの接着層15を有し、これについては以下にさらに詳細に述べる。
【0094】
内側被膜14と外側被膜16は各々、放出エレメントを、拡張可能な支持エレメント10に対して移動させることによって上記方法を利用して提供できる。内側被膜14と外側被膜16は、好ましくは、必要に応じて、異なる液化ポリマーで製造されかつ異なるか又は同じでもよい予め定められた多孔率を有する。本発明の好ましい実施態様によれば、内側被膜14及び/又は外側被膜16の液化ポリマーは、エレクトロスピニング工程の前に薬物又は医薬を混合してもよい。薬物は、液化ポリマーに溶解又は懸濁させてもよい。
【0095】
外側被膜16を提供するのに2種類以上の方法がある。一実施態様では、エレメント10は、エレクトロスピニング工程を行う前に、沈積電極(例えば、マンドレル)に取り付けられる。この実施態様では、沈積電極は、エレメント10の担体として及び電界を作るために高電圧を印加する導電性エレメントとして機能する。その結果、放出エレメントからでるポリマー繊維は、沈積電極の方に放出され、管状支持エレメント10に外側被膜16を形成する。この被膜は、エレメント10の金属ワイヤとこれらワイヤ間の間隙の両方を被覆する。
【0096】
別の実施態様では、エレメント10は、沈積電極として働く。この実施態様では、ポリマー繊維は、もっぱら、間に存在する間隙を露出する管状支持エレメント10のワイヤにひきつけられる。したがって、生成した被覆ステントは、ステントアセンブリから身体血管系中に医薬を送達しやすくする細孔を有している。
【0097】
本発明の好ましい実施態様によれば、内側被膜14は、以下のようにして設置される。第一に、エレクトロスピニング法を利用してマンドレルを直接コートし、マンドレルの上に内側被膜14を作製する。マンドレルがコートされたならば、エレクトロスピニング法を一時的に中止してエレメント10をマンドレル上に滑り込ませて内側被膜14上に引き入れる。エレメント10に対しエレクトロスピニング法を再開することによって外側被膜16を設ける。
【0098】
内側被膜14を設ける操作は、特定の期間、工程を停止する必要があるので、内側被膜14中に含まれている溶媒の大部分を蒸発させることができる。その結果、工程が再開されたとき、ステントアセンブリの要素間の接着が低下しており、ステント移植体が開いた後、被膜が層状になる。
【0099】
本発明は、上記の制約を、二つの最適化方法で、うまく処理する。一方の方法によって、内側被膜14の外側副層と外側被膜16の内側副層が各々、容量を増大してエレクトロスピニング法で製造される。一般的な容量増大は、約50%〜約100%の範囲内である。この方法によって、太い繊維で製造されて溶媒含有量が著しく増大した緻密な接着層が作製される。その接着層の通常の厚さは、約20μm−約30μmの範囲内であり、ステントアセンブリの全直径と比べて小さいので、被膜の一般的パラメータに余り影響しない。もう一つの方法によれば、その接着層は、分子量が主ポリマーより小さくて弾性と反応性が高い別のポリマーを含有している。
【0100】
前記層と管状支持エレメント10の間の接着を改善する他の方法も採用できる。例えば、溶媒ヒューム中に各種の接着剤、プライマー、ウエルディング剤、化学結合剤を入れる方法も利用できる。適切な物質の例は、アミノエチルアミノプロピルトリアセトキシシランなどのシラン類である。
【0101】
内側被膜14及び外側被膜16を製造するのにエレクトロスピニング法を使用する場合の利点は、ポリマーのタイプや繊維の繊度を選択できる融通性があるので、本明細書に記載されているような強度、弾性などの特性の必要な組合わせを有する最終製品が提供されることである。さらに、被膜12に形成されて、各々、配向の異なる繊維で製造されている交互配列(alternating sequence)の副層によって、ステントアセンブリの壁厚に沿った多孔度の分散の性質が決まる。さらに加えて、エレクトロスピニング法は、エレクトロスピニングを行う前に、医薬などの各種の化学成分を、液化ポリマー中に混合することによってこれら成分を繊維中に組み入れることができる利点がある。
【0102】
ここで、身体血管系の狭窄された血管を膨張させるために設計・構築された管状支持エレメント10の概略図である図5を説明する。エレメント10は半径方向に拡張して、狭窄血管を膨張させる。本発明の好ましい実施態様によれば、ステントアセンブリの拡張性は、エレメント10と被膜12の適切な構造によって最適化できる。まず、エレメント10の構造を、図6を参照して説明し、次いで被膜12の構造を説明する。
【0103】
したがって、図6は、金属ワイヤ18製の例えばステンレス鋼ワイヤ製の変形可能なメッシュで構成されているエレメント10の部分を示す。ステントアセンブリが動脈内の所望の位置に配置されたとき、エレメント10を、半径方向に拡張させて、ステントアセンブリの周りの動脈組織を実質的に膨張させて動脈の狭窄を除くことができる。その拡張は、当該技術分野で知られているいずれかの方法で、例えばバルーンカテーテルを使って、又はエレメント10を、Nitinolなどの温度で活性化される形状記憶特性を示す材料で製造することによって実施できる。本発明のこの好ましい実施態様では、被膜12を形成するポリマー繊維は、エレメント10が半径方向に拡張されると伸張するエラストマーポリマーの繊維である。本発明の好ましい実施態様では、内側被膜14と外側被膜16は、エレメント10と同時に拡張する。すなわち管状支持エレメント10は実質的にコートされている。あるいは、内側被膜14及び/又は外側被膜16は、長さがエレメント10より短いことがあり、その場合は、エレメント10の少なくとも一方の末端が露出している。
【0104】
ここで、動脈の欠陥部位20を占拠するステントアセンブリを例示する図7を説明する。外側被膜16を含む拡張していない状態のステントアセンブリの外径は、そのステントアセンブリを、例えばカテーテルによって、動脈を通じて欠陥部位20へ確実に移動させる大きさである。ステントアセンブリの拡張範囲は、拡張したアセンブリが、欠陥部位20のしかるべき位置にあるとき、ステントアセンブリの周りの動脈組織を、欠陥部位の流れの狭窄を一掃する程度まで膨張させる最大直径を有する範囲である。
【0105】
血管にステントアセンブリを移植すると、移植時に血管の組織に加えられた損傷、再狭窄、ステント内狭窄及び細胞の過剰増殖などの障害が、血管に起こることがある。このような損傷などの障害を治療するために、身体血管系に薬物を送達する薬物を含んでいてもよい。したがって、被膜12は、前記アセンブリを動脈に移植する働きをするだけでなく、長期間にわたって送達すべき薬物を貯蔵するリザーバとしても機能する。上記直径の限度内で、被膜12の全容積が大きければ大きいほど、薬剤を貯蔵する被膜の容量は大きい。
【0106】
ここで、本発明の好ましい実施態様によって製造されたポリマー繊維の不織ウエブの部分を例示する図8を説明する。繊維22、24及び26は、交差し、その交差部分で接合し、生成した間隙によって、ウエブは高度に多孔質になる。エレクトロスピニングされた繊維は、極めて細いため、並外れて表面積が大きいので、大量の医薬及び薬物を表面に取り込むことができる。エレクトロスピニングされたポリマーの繊維の表面積は活性炭の表面積に近いので、そのポリマー繊維の不織ウエブは、薬物を局所に送達する有効な装置になる。
【0107】
被膜から薬物を放出する好ましい機構は、薬物を被膜中に埋包するため採用される方法に関わらず、拡散による機構である。予め定められた濃度で、治療用薬物を放出する期間は、製造工程中で制御できるいくつもの変量で決まる。一つの変量は、担体ポリマー及びこれに薬物を結合させる化学的手段の化学的性質である。この変量は、エレクトロスピニング法で使用される一種又は複数種のポリマーを適切に選択することによって制御できる。別の変量は、身体と薬物の接触面積である。この接触面積はエレクトロスピニングされたポリマー繊維の自由表面を変えることによって制御できる。また、薬物を少なくとも一つの被膜12内に組み込むのに使う方法は、本願でさらに説明するように、薬物を放出する期間に影響する。
【0108】
本発明の好ましい実施態様によれば、被膜は多数の副層を有している。これら副層は、その目的によって、繊維の配向、ポリマーのタイプ、中に組み込む薬物及び薬物の所望の放出速度で区別できる。したがって、移植後、最初の数時間及び数日間の薬物の放出は、抗凝血物質及び抗血栓薬などの薬物を含有する固溶体を、容易に溶解する生分解性ポリマーの繊維の副層に組み込むことによって達成できる。移植後の最初の期間に放出される薬物としては抗凝血物質と抗血栓薬がある。
【0109】
ここで再び図8をみると、薬物は、少なくとも一つの被膜12の副層を形成するエレクトロスピニングされたポリマー繊維中に埋包された粒子28で構成されていてもよい。この方法は、手術後最初の数日間及び数週間、薬物を放出するのに有用である。この目的のための薬物としては、抗菌薬もしくは抗生物質、血栓溶解薬、血管拡張薬などがある。送達法の期間は、対応する副層を製造するために使うポリマーのタイプに影響される。具体的に述べると、最適の放出速度は、適度に安定な生分解性ポリマーを使用することによって保証される。
【0110】
手術後最初の数日間又は数週間、薬物の放出を保証する、薬物を被膜中に組み入れる別の方法を示す図9を説明する。したがって、本発明の好ましい実施態様によれば、薬物は、被膜のエレクトロスピニングされたポリマーの繊維の間に分散された高密度物体30で構成されている。高密度物体30は、既知のいずれかの形状の、例えば、限定されないが、適度に安定な生分解性ポリマーのカプセルがある。
【0111】
本発明は、数ヶ月間から数年間にわたって続けることができる薬物放出方法も提供できる。本発明の好ましい実施態様によれば、薬物は、生物学的に安定な繊維で製造された副層中に溶解又は封入されている。生物学的に安定な副層内から拡散する速度は実質的に低いので、薬物放出の期間は確実に延長される。このような放出期間を延長するのに適した薬物としては、限定されないが、抗血小板物質、増殖因子のアンタゴニスト及びフリーラジカル捕捉剤がある。
【0112】
したがって、薬物放出の順序及び特定の特異的薬物の作用の寿命は、薬物が組み込まれるポリマーのタイプ、薬物がエレクトロスピニングされたポリマーの繊維に導入される方法、被膜を形成する層の順序、各層のマトリックスの形態の特異性及び薬物の濃度によって決定される。
【0113】
ここで、本発明の好ましい実施態様による、非回転物体52をエレクトロスピニングされた被膜でコートする装置50の概略図である図10を説明する。装置50は、物体52に対して電位差がある少なくとも一つの放出エレメント37を備え、その放出エレメント37は、以下に詳細に述べるように、帯電液化ポリマーを放出しながら、物体52に関連して移動できる。放出エレメント37には、例えば、好ましくは半径方向に向いている少なくとも一つの毛細管46を有する電極もしくは回転可能なリング45が配列されている。リング45は、必要に応じて、絶縁性材料又は導電性材料で製造できる。毛細管46は導電性材料で製造され、それらは電気的に連通している。毛細管の数は、好ましくは1−10本以上であり、より好ましくは2−4本であり、最も好ましくは3本である。リング45の直径と毛細管46の長さは、物体52と毛細管46の先端51との距離が、好ましくは約100mm−約250mmに、より好ましくは約120mm−約180mmに、最も好ましくは約150mmになるように選択される。
【0114】
本発明の好ましい実施態様では、放出エレメント37は、少なくとも一つのアーム48を有するシャフト47に接続されている。アーム48とシャフト47は、好ましくは中を液化ポリマーが流動できる中空のエレメントである。あるいは、可撓性チューブのシステムを使って、放出エレメント37と液化ポリマーを保持する浴41との間の流体連通を達成できる。シャフト47は、好ましくは、一つ又は二つ以上の軸受け58の間に配置されて、放出エレメント37を電動機54と機械的に接続する働きをする。
【0115】
装置50は、さらに、マンドレル42が導電性電極として働く実施態様において、電源43に接続できるマンドレル42を備えている。マンドレル42又は物体52(マンドレル42を使わない実施態様の場合)は、好ましくは、先に詳細に述べたように物体52を平行移動させる機構56と作動的に関連している。
【0116】
本発明の好ましい実施態様では、装置50はさらにポンプ40を備え、そのポンプは、中に貯蔵されている液状ポリマーを放出エレメント37中に引き入れるための浴41に接続されている。装置50は、さらに一つ又は二つ以上のフィルター49を備え、そのフィルターを通じて、液化ポリマーがシャフト47とアーム48を通じてエレメント37中に輸送される。
【0117】
任意に及び好ましくは、装置50は、先に詳細に述べたように、薬物で構成された高密度の物体(例えば、物体30)をポリマー繊維の間に分散させるための噴霧器57を備えている。
【0118】
ここで、本発明の好ましい実施態様による狭窄血管の治療法のフローチャートである図11を説明する。図11にブロック60で示す、この方法の第一ステップにおいて、ステントアセンブリが提供される。ブロック62で示す第二ステップで、帯電液化ポリマーを、先に詳細に述べたように移動中の放出エレメントを通じて放出する。ブロック64で示す、この方法の第三ステップで、ステントアセンブリを、例えばカテーテルバルーン又は他のステント誘導システムを使って、狭窄血管内に配置する。ブロック66で示すこの方法の第四ステップで、好ましくは、ステントアセンブリを拡張させて、ステントアセンブリの周りの動脈の組織を、その血管の流れの狭窄を一掃する程度まで膨張させる。
【0119】
本発明を、医療用移植体と組み合わせて説明してきたが、必ずしも管状構造でない他の医療用移植体も本発明の方法を使ってコートできると解すべきである。例えば、グラフトとパッチは、移植又は貼付けを行う前にコートできるので、薬物を負荷して先に述べたような利点を享受できる。
【0120】
上記被膜は、知られているどの生体適合性ポリマーからでも製造できる。薬物を含有する層のポリマー繊維は、好ましくは生体適合性ポリマーと生物学的に安定なポリマーの組合わせである。
【0121】
慢性の組織反応が比較的小さい生物学的に安定なポリマーの代表的な例としては、限定されないが、ポリカーボネートベースの脂肪族ポリウレタン類、シロキサンベースの芳香族ポリウレタン類、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーンゴム類、ポリエステル、ポリオレフィン類、ポリメタクリル酸メチル、ハロゲン化ビニルポリマー及びコポリマー、ポリ芳香族ビニル類、ポリビニルエステル類、ポリアミド類、ポリイミド類、ポリエーテル類及び適当な溶媒に溶解可能でかつステント上にエレクトロスピニングできる他の多くのポリマーがある。
【0122】
使用できる生分解性の繊維形成ポリマーとしては、ポリ(L−乳酸)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリカプロラクトン、ポリリン酸エステル、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(DL−酪酸)、ポリ(アミノ酸)、シアノアクリレート、いくつかのコポリマー並びにDNA、絹、キトサン及びセルロースなどの生体分子がある。
【0123】
微生物や酵素によって容易に分解するこれらの親水性ポリマーと疎水性ポリマーは、薬物を封入する材料に適している。特に、ポリカプロラクトンは、他の大部分のポリマーより分解速度が遅いので、約2年〜約3年の範囲内の長期間にわたって薬物の放出を制御するのに特に適している。
【0124】
少なくとも一つの被膜12に組み入れることができる適切な医薬としては、ヘパリン、トリドデシルメチルアンモニウムヘパリン、エポチロン A(epothilone A)、エポチロン B、ロトマイシン(rotomycine)、チクロピジン、デキサメタゾン、カウマジン(caumadin)並びに抗血栓薬、エストロゲン類、コルチコステロイド類、細胞増殖抑制剤、抗凝血薬、血管拡張薬、抗血小板薬、血栓溶解薬、抗菌薬もしくは抗生物質、細胞分裂阻害剤、抗細胞増殖薬、抗分泌薬、非ステロイド抗炎症薬、増殖因子のアンタゴニスト、フリーラジカル捕捉剤、酸化防止剤、放射線不透過薬、免疫抑制薬および放射線同位元素標識薬の範疇に通常入る他の医薬がある。
【0125】
本特許の有効期間中、関連する多くの移植可能な医療装置が開発されるであろうが、用語「移植可能な医療装置」の範囲には、このような新しい技術すべてを演繹的に含むと考えられる。
【0126】
本発明の追加の目的、利点及び新規な特徴は、限定することを目的としない以下の実施例を試験すれば、当業者には明らかになるであろう。さらに、先に説明して本願の特許請求の範囲の章に請求している本発明の各種の実施態様と側面は、各々、下記実施例の試験で裏付けられている。
【実施例】
【0127】
上記説明と共に本発明を限定せずに例示する以下の実施例を説明する。
【0128】
材料、装置及び方法
Carbothane PC−3575Aを、Thermedics Polymer Productsから購入してコーティングに使用した。このポリマーは、満足すべき繊維形成性能を有し、生体適合性でかつ親油性薬物を組み入れることができる。ジメチルホルムアミドとトルエンを1:1〜1:2の範囲の比率で混合した混合物を、全実験の溶媒として使用した。
【0129】
PHD 2000 シリンジポンプをHarvard Apparatusから購入して、ポリマー溶液をエレクトロスピニング装置に供給するのに使用した。その放出エレメントは、ステンレス鋼チューブ製の直径が400mmの中空リングを備えている。長さが25mmで内径が0.5mmの毛細管3本が、リングの内表面に対称に配置されている。各毛細管における流量は1ml/min〜5ml/minである。その放出エレメントは、可撓性のポリテトラフルオロエチレンチューブで前記ポンプに接続し、接地した。直径が1.05mmで長さが60mmの研磨されたステンレス鋼のロッドをマンドレルとして使用し、30kVの電位に保持した。そのマンドレルを、前記毛細管の末端から約175mm離れた前記リングの幾何学的中心に配置した。
【0130】
そのリングは、60−1000rpmの回転速度で回転させ、そしてマンドレルは、振幅30−40mm及び回転速度12−13回/分で縦方向に往復移動させた。
【0131】
実施例1
拡張状態での直径が3.4mmで非拡張状態での直径が1.1mmのステンレス鋼製ステントを管状支持エレメントとして使って、長さが16mmのステントアセンブリを製造した。使用したステンレス鋼製ステントは、通常、カテーテルとバルーンによる血管形成術に使用されるものである。ポリマーをコートする際に接着性を高めるため、前記ステントを160−180kJ/mのコロナ放電に暴露し、エチルアルコールと脱イオン水ですすぎ、次いで窒素ガス流中で乾燥した。溶液のパラメータは、8%の濃度、560cPの粘度及び0.8mSの導電率であった。医薬として、テトラヒドロフランにヘパリンを250U/mlの濃度で溶解した溶液を使用した。ポリマー:ヘパリン溶液の比率は100:1であった。放出エレメントの回転速度は60rpmであった。
【0132】
2ステップのコーティング法を採用した。第一ステップで、マンドレルを、エレクトロスピニング法によって、厚さが約20μmのポリマー繊維の層でコートした。この第一ステップを実施したならば、管状支持エレメントを、この第一被膜の上に置いて、管状エレメントの内側コーティングを得た。第二ステップで、外側コーティングを管状支持エレメントの外表面に塗布した。外側被膜の厚さは約40μmであった。
【0133】
そのステントアセンブリをマンドレルから取り外し、内側被膜と外側被膜の間の接着力を確実に高めるために、45℃の飽和ジメチルホルムアミド(DMF)蒸気の雰囲気中に約30秒間入れた。残留溶媒を除くため、ステントを、約24時間、部分真空処理した。コーティング工程を完了したならば、コートされたステントを半径方向に膨張させることによって、弾性の試験を行った。
【0134】
生成した被膜の繊維は、ランダム配向していた。その被膜は、破裂することなく半径方向に320%拡張できた。
【0135】
実施例2
回転速度を600rpmまで上げて、実施例1に記載したようにしてステントアセンブリを製造した。生成した被膜の繊維の約80%が方位配向していた。その被膜は、破裂することなく半径方向に410%拡張できた。
【0136】
実施例3
回転速度を1000rpmまで上げて、実施例1に記載したようにしてステントアセンブリを製造した。生成した被膜は、一層均一であり、繊維は大部分が方位配向しており、すなわち繊維の約95%が方位配向しており、その被膜は、破裂することなく半径方向に550%拡張できた。
【0137】
実施例4
クロロホルムにポリ(DL−ラクチド−CD−グリコリド)を溶解して得た15%溶液に混合した濃度380 U/mlのヘパリン溶液を使って、実施例2に記載したようにしてステントアセンブリを製造した。このように医薬を変更しても被膜の性質に影響しなかった。
【0138】
実施例5
ヘパリン負荷生分解性ポリマーの厚さ60μmの内側被膜とポリウレタン繊維の外側被膜を有し、全被膜厚さが100μmであるステントアセンブリを、実施例1に記載の材料を使って製造した。内側被膜と外側被膜それぞれを設けるのに、60rpmと1000rpmの回転速度を利用した。生成した内側被膜は軸線(縦)方向の配向が優勢であり、一方外側被膜は方位配向が優勢であった。したがって、繊維の配向は、放出エレメントの回転速度で制御して決定できることが証明された。
【0139】
分かりやすくするため別個の実施態様に記載されている本発明の特徴は、組み合わせて単一の実施態様で提供できることも分かる。逆に、簡潔にするため単一の実施態様に記載されている本発明の各種特徴は、別個に又は適切なサブコンビネーションで提供することもできる。
【0140】
本発明をその具体的な実施態様で説明してきたが、多くの代替、変形及び変更は当業者にとって明らかであることは明白である。したがって、本発明は、本願の特許請求の範囲の精神と広い範囲に含まれるこのような代替、変形及び変更をすべて包含するものである。本明細書で引用した刊行物、特許及び特許願はすべて、あたかも個々の刊行物、特許又は特許願が各々、具体的にかつ個々に本明細書に引用されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願に文献を引用又は挙げることは、このような文献を、本願の従来技術として利用できることを容認しているとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】従来技術のエレクトロスピニング装置の概略図である。
【図2a】本発明の好ましい実施態様による非回転物体をエレクトロスピニングされた被膜でコートする方法のフローチャートである。
【図2b−f】図2b−eは本発明の好ましい実施態様による放出エレメントの移動できる経路の概略図である。図2fは本発明の好ましい実施態様によるポリマー繊維のらせん軌道の概略図である。
【図3】本発明の好ましい実施態様によるステントアセンブリの断面図である。
【図4】図4aは本発明の好ましい実施態様によるステントアセンブリの端面図である。図4bは本発明の好ましい実施態様による、さらに少なくとも一つの接着層を有するステントアセンブリの端面図である。
【図5】本発明の好ましい実施態様による、身体血管系の狭窄血管を膨張させるために設計・構築された管状支持エレメントを示す。
【図6】本発明の好ましい実施態様による、金属ワイヤの変形可能なメッシュで構成された図5の管状支持エレメントの部分を示す。
【図7】動脈の欠陥部位を占拠する本発明の教示に従って製造されたステントアセンブリを示す。
【図8】本発明の好ましい実施態様によって製造されたポリマー繊維の不織ウエブの部分を示す。
【図9】高密度物体で構成されかつエレクトロスピニングされたポリマー繊維の間に分散している薬物を含む、ポリマー繊維の不織ウエブの部分を示す。
【図10】本発明の好ましい実施態様による、非回転物体をエレクトロスピニングされた被膜でコートする装置の概略図である。
【図11】本発明の好ましい実施態様による狭窄血管の治療法のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非回転物体をエレクトロスピニングされた被膜でコートする方法であって、帯電液化ポリマーを少なくとも一つの放出エレメントを通じて電界内に放出してポリマー繊維のジェットを形成させ、前記放出エレメントを前記物体に対して移動させて前記物体をエレクトロスピニングされた被膜でコートすることを含む方法。
【請求項2】
前記少なくとも一つの放出エレメントの前記移動は少なくとも一部でらせん経路である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも一つの放出エレメントの前記移動は少なくとも一部で円形経路である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも一つの放出エレメントの前記移動は少なくとも一部でジグザグ経路である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも一つの放出エレメントの前記移動と同期に前記電界を移動することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも一つの放出エレメントの前記移動は物体の周りの前記ポリマー繊維の前記ジェットのらせん移動を確立するように選択され、前記らせん移動は徐々に半径が小さくなることが特徴である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマー繊維を物体上に均一に分散させるため、物体を、前記ポリマー繊維の前記ジェットに対して平行移動させることをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
物体の前記平行移動は往復移動である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
物体の前記平行移動は調和移動である請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記物体は管形状を有する請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記物体は拡張可能な管状支持エレメントである請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記拡張可能な管状支持エレメントは金属ワイヤ製の変形可能なメッシュを含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記拡張可能な管状支持エレメントはステンレス鋼ワイヤ製の変形可能なメッシュを含む請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記物体はステントである請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記物体は、少なくとも一つの被膜を有するステントアセンブリである請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記物体はステント誘導システムに取り付けられたステントである請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記物体は移植可能な医療用装置である請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記物体はステント誘導システムに取り付けられた移植可能な医療用装置である請求項1に記載の方法。
【請求項19】
薬物が、前記帯電液化ポリマーと混合されてその液化ポリマーと共に前記少なくとも一つの放出エレメントを通じて同時に放出され、物体がエレクトロスピニングされた薬物添加被膜でコートされる請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記薬物は前記帯電液化ポリマーに溶解される請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記薬物は前記帯電液化ポリマーに懸濁される請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記薬物は前記ポリマー繊維中に埋め込まれた粒子で構成される請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記薬物はヘパリンである請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記薬物は放射性化合物である請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記薬物はスルファジアジン銀である請求項19に記載の方法。
【請求項26】
薬物を高密度物体に構成し、前記高密度物体を前記ポリマー繊維の間に分散させることをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記薬物はヘパリンである請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記薬物は放射性化合物である請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記薬物はスルファジアジン銀である請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記高密度物体はカプセルである請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記高密度物体は粉末状である請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記高密度物体の前記分散は噴霧によって行われる請求項26に記載の方法。
【請求項33】
前記帯電液化ポリマーを放出する前に前記拡張可能な管状支持エレメントをマンドレル上に取り付けることをさらに含む請求項11に記載の方法。
【請求項34】
前記帯電液化ポリマーを前記少なくとも一つの放出エレメントを通じて前記電界内に放出し、次いで前記マンドレルをコートするため、前記放出エレメントを前記マンドレルに対して移動させて、前記拡張可能な管状支持エレメントに内側被膜を設けることをさらに含む請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記拡張可能な管状支持エレメントに少なくとも一つの接着層を設けることをさらに含む請求項11に記載の方法。
【請求項36】
前記少なくとも一つの接着層は不浸透性の接着層である請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記少なくとも一つの接着層は不浸透性の接着層である請求項36に記載の方法。
【請求項38】
エレクトロスピニングされた被膜の上に少なくとも一つの追加の被膜を設けることをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項39】
非回転物体をエレクトロスピニングされた被膜でコートする装置であって、物体に対して電位差を有し、前記電位差で形成される電界内に、帯電液化ポリマーを放出しながら前記物体に対して移動することができ、それによってポリマー繊維のジェットを作製し物体をコートする、少なくとも一つの放出エレメントを備える装置。
【請求項40】
前記少なくとも一つの放出エレメントはらせん経路に沿って移動できる請求項39に記載の装置。
【請求項41】
前記少なくとも一つの放出エレメントは円形経路に沿って移動できる請求項39に記載の装置。
【請求項42】
前記少なくとも一つの放出エレメントはジグザグ経路に沿って移動できる請求項39に記載の装置。
【請求項43】
前記少なくとも一つの放出エレメントは、前記電界が前記少なくとも一つの放出エレメントの前記移動と同期に移動するように設計され構成される請求項39に記載の装置。
【請求項44】
前記少なくとも一つの放出エレメントの前記移動は前記ポリマー繊維の前記ジェットが物体の周りのらせん移動を確立するように選択され、前記らせん移動は徐々に半径が小さくなることが特徴である請求項39に記載の装置。
【請求項45】
前記少なくとも一つの放出エレメントは電極の配列を備える請求項39に記載の装置。
【請求項46】
前記少なくとも一つの放出エレメントは少なくとも一つの毛細管を有する回転可能なリングを備える請求項39に記載の装置。
【請求項47】
前記回転可能なリングは誘電材料で作られる請求項45に記載の装置。
【請求項48】
前記回転可能なリングは導電材料で作られる請求項45に記載の装置。
【請求項49】
液化ポリマーを収容する浴をさらに備え、前記浴は前記少なくとも一つの放出エレメントと流体連通している請求項39に記載の装置。
【請求項50】
前記液化ポリマーを前記浴から前記少なくとも一つの放出エレメントに移し替えるポンプをさらに備える請求項49に記載の装置。
【請求項51】
前記ポリマー繊維を物体の上に均一に分散させるために、物体を前記ポリマー繊維の前記ジェットに対して平行に移動させる機構をさらに備える請求項39に記載の装置。
【請求項52】
物体の前記平行移動は往復移動である請求項51に記載の装置。
【請求項53】
物体の前記平行移動は調和移動である請求項51に記載の装置。
【請求項54】
前記帯電液化ポリマーをさらに有し、そしてさらに、薬物が前記帯電液化ポリマーと混合され、その液化ポリマーと共に前記少なくとも一つの放出エレメントを通じて同時に放出されて、物体がエレクトロスピニングされた薬物添加被膜でコートされる請求項39に記載の装置。
【請求項55】
前記薬物は前記帯電液化ポリマーに溶解される請求項54に記載の装置。
【請求項56】
前記薬物は前記帯電液化ポリマーに懸濁される請求項54に記載の装置。
【請求項57】
前記薬物は前記ポリマー繊維中に埋め込まれた粒子で構成される請求項54に記載の装置。
【請求項58】
前記薬物はヘパリンである請求項54に記載の装置。
【請求項59】
前記薬物は放射性化合物である請求項54に記載の装置。
【請求項60】
前記薬物はスルファジアジン銀である請求項54に記載の装置。
【請求項61】
前記ポリマー繊維の間に薬物を内部に構成する高密度物体を分散させる噴霧器をさらに備える請求項39に記載の装置。
【請求項62】
前記薬物はヘパリンである請求項61記載の装置。
【請求項63】
前記薬物は放射性化合物である請求項61に記載の装置。
【請求項64】
前記薬物はスルファジアジン銀である請求項61に記載の装置。
【請求項65】
前記高密度物体はカプセルである請求項61に記載の装置。
【請求項66】
前記高密度物体は粉末状である請求項61に記載の装置。
【請求項67】
(a)ステントアセンブリを準備し、
(b)帯電液化ポリマーを少なくとも一つの放出エレメントを通じて電界内に放出してポリマー繊維のジェットを形成させ、前記放出エレメントを前記ステントアセンブリに対して移動させて、前記ステントアセンブリをエレクトロスピニングされた被膜でコートし、そして
(c)前記ステントアセンブリを狭窄血管内に入れること
を含む狭窄血管を治療する方法。
【請求項68】
前記ステントアセンブリを拡張して、流れの狭窄が実質的に一掃されるような方式で、前記ステントアセンブリの周りの組織を膨張させることをさらに含む請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記少なくとも一つの放出エレメントの前記移動は少なくとも一部でらせん経路である請求項67に記載の方法。
【請求項70】
前記少なくとも一つの放出エレメントの前記移動は少なくとも一部で円形経路である請求項67に記載の方法。
【請求項71】
前記少なくとも一つの放出エレメントの前記移動は少なくとも一部でジグザグ経路である請求項67に記載の方法。
【請求項72】
前記少なくとも一つの放出エレメントの前記移動と同期に前記電界を移動することをさらに含む請求項67に記載の方法。
【請求項73】
前記少なくとも一つの放出エレメントの前記移動は前記ステントアセンブリの周りの前記ポリマー繊維の前記ジェットのらせん移動を確立するように選択され、前記らせん移動は徐々に半径が小さくなることが特徴である請求項67に記載の方法。
【請求項74】
前記ポリマー繊維を前記ステントアセンブリの上に均一に分散させるために、前記ステントアセンブリを前記ポリマー繊維の前記ジェットに対して平行に移動させることをさらに含む請求項67に記載の方法。
【請求項75】
前記ステントアセンブリの前記平行移動は往復移動である請求項74に記載の方法。
【請求項76】
前記ステントアセンブリの前記平行移動は調和移動である請求項74に記載の方法。
【請求項77】
前記ステントアセンブリはステント誘導システムに取り付けられる請求項67に記載の方法。
【請求項78】
薬物が、前記帯電液化ポリマーと混合されてその液化ポリマーと共に前記少なくとも一つの放出エレメントを通じて同時に放出され、物体がエレクトロスピニングされた薬物添加被膜でコートされる請求項67に記載の方法。
【請求項79】
前記薬物は前記帯電液化ポリマーに溶解される請求項78に記載の方法。
【請求項80】
前記薬物は前記帯電液化ポリマーに懸濁される請求項78に記載の方法。
【請求項81】
前記薬物は前記ポリマー繊維中に埋め込まれた粒子で構成される請求項78に記載の方法。
【請求項82】
前記薬物はヘパリンである請求項78に記載の方法。
【請求項83】
前記薬物は放射性化合物である請求項78に記載の方法。
【請求項84】
前記薬物はスルファジアジン銀である請求項78に記載の方法。
【請求項85】
薬物を高密度物体に構成し、前記高密度物体を前記ポリマー繊維の間に分散させることをさらに含む請求項67に記載の方法。
【請求項86】
前記薬物はヘパリンである請求項85に記載の方法。
【請求項87】
前記薬物は放射性化合物である請求項85に記載の方法。
【請求項88】
前記薬物はスルファジアジン銀である請求項85に記載の方法。
【請求項89】
前記高密度物体はカプセルである請求項85に記載の方法。
【請求項90】
前記高密度物体は粉末状である請求項85に記載の方法。
【請求項91】
前記高密度物体の前記分散は噴霧によって行われる請求項85に記載の方法。
【請求項92】
前記エレクトロスピニングされた被膜の上に少なくとも一つの追加の被膜を設けることをさらに含む請求項67に記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b−f】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2007−507278(P2007−507278A)
【公表日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−531014(P2006−531014)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【国際出願番号】PCT/IL2004/000917
【国際公開番号】WO2005/032400
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(506116854)ナイキャスト リミテッド (3)
【Fターム(参考)】