説明

医療用診療装置

【課題】マイクロスコープを使用して診療を行う際の安全性を確保し、或いは、ピント合わせの的確性も確保し得るマイクロスコープを備えた医療用診療装置を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも昇降動作が可能とされた診療台1と、該診療台1上の所定の診療域Zに移動可能なマイクロスコープ本体20を含むマイクロスコープユニット2と、制御部7とを備えた医療用診療装置Aであって、前記マイクロスコープ本体20が前記所定の診療域Zにあるか否かを検出する検出手段6を備え、前記制御部7は、該検出手段6がマイクロスコープ本体20が前記所定の診療域Zにあることを検出している間に、前記診療台1の動作指示があったとき、前記診療台1を予め定められた動作モードに従い動作制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロスコープ(顕微鏡)を使用する歯科診療、口腔外科診療、耳鼻咽喉科診療、眼科診療、外科処置診療、産婦人科診療等の種々の診療がなされる医療用診療装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、上記のような医療用診療装置による診療においては、マイクロスコープを用いた精密な処置や診断を行う診療が増加している。特許文献1及び特許文献2には、マイクロスコープを備えた診療台(歯科用診療台)が記載されている。このような歯科用診療台による歯科診療においては、術者は、診療台上に仰臥した患者の口腔内をマイクロスコープで観察することにより、例えば、細部の処置が必要とされる根管治療等を精密に実施することができる。また、歯科診療は、診療態様が様々であり、また、術者によって診療スタイルも異なる為、診療台が上下昇降可能とされ、或いは、座席シートに連結される背板シートが傾動自在とされている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭61−38580号公報
【特許文献2】特開2003−52718号公報
【特許文献3】特開2003−325595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のようなマイクロスコープを用いて歯科診療を行う場合、術者は診療台上に仰臥した患者の口腔上部近傍にマイクロスコープを位置付けしてピント合わせ等を行い、当該マイクロスコープを介して患部を観察しながら診療を行う。そして、上述のように、診療台は上下昇降或いは背板シートの傾動が可能とされており、術者は、診療し易いように診療台の上下位置や、背板シートの傾斜角度を調整して診療を行う。しかし、マイクロスコープを上記のように位置付けした後に、フートコントローラ等を不意に操作して診療台が上下動したり、背板シートが傾動したりすると、患者の頭部がマイクロスコープに当ることにもなり兼ねず、患者に恐怖心を与えることにもなる。また、上記ピント合わせの際に、診療台の上下動等をさせることも必要とされる場合もあるが、このような場合に、診療台の通常の動作速度はピント合わせ速度とマッチングしない為、ピント合わせを的確に行い難いという点が指摘される。しかも、患者にとっては、眼前に急にマイクロスコープが接近したりすることがある為、不安感をいだくことが余儀なくされることにもなる。
【0005】
特許文献1及び特許文献2に示されたマイクロスコープ付歯科用診療台の場合、マイクロスコープを用いて歯科診療を行う際に、診療台の動作を通常の動作と異なるような制御を行うものではないから、上記のような問題点をはらむことは否めなかった。特に、歯科用診療台とマイクロスコープとはメーカーが異なる為、術者(ユーザー)はこれらを個別に購入して使用することになり、上記不安感の払拭や、ピント合わせ上の問題点は、術者の操作に委ねられることになっていた。また、特許文献3には、診療台の上下動、或いは、背板シートの傾動操作の際の始動時、停止時或いは定常移動時における加速度及び減速度を緩やかに変化させることによって、患者に対して恐怖感を与えないようにした医療用診療台が開示されている。しかし、マイクロスコープを用いた診療をも意図した医療用診療装置ではなく、従って、上記のような問題点の解決に直接繋がるものではない。
【0006】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、マイクロスコープを使用して診療を行う際の安全性を確保し、或いは、ピント合わせの的確性も確保し得るマイクロスコープを備えた医療用診療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る医療用診療装置は、少なくとも昇降動作が可能とされた診療台と、該診療台上の所定の診療域に移動可能なマイクロスコープ本体を含むマイクロスコープユニットと、制御部とを備えた医療用診療装置であって、前記マイクロスコープ本体が前記所定の診療域にあるか否かを検出する検出手段を備え、前記制御部は、該検出手段がマイクロスコープ本体が前記所定の診療域にあることを検出している間に、前記診療台の動作指示があったとき、前記診療台を予め定められた動作モードに従い動作制御することを特徴とする。
【0008】
本発明において、前記予め定められた動作モードとしては、前記診療台を通常の動作速度より遅い速度で動作するよう構成された動作モード、或いは、前記診療台の動作指示を無効とするよう構成された動作モードからなるものとすることができる。
【0009】
本発明において、前記検出手段が、非接触タイプのセンサー部材からなるものとすることができる。この場合、前記診療台が、ヘッドレストを備え、当該非接触タイプのセンサー部材を構成する認識部材が該ヘッドレスト若しくはその近傍部に設置されているものとすることができる。また、当該非接触タイプのセンサー部材を構成する認識対象部材が、前記マイクロスコープ本体の近傍部に取付けられているものとすることができる。更に、前記マイクロスコープ本体が発光部を備え、前記非接触タイプのセンサー部材が、該発光部に印加される電流の変化を検出するものとすることも可能である。或いは、前記非接触タイプのセンサー部材が、前記マイクロスコープ本体の近傍部に取付けられた光反射型センサーからなるものとすることもできる。
【0010】
本発明において、前記検出手段が、接触タイプのセンサー部材からなるものとしても良い。この場合、当該接触タイプのセンサー部材が、前記マイクロスコープユニットに組み込まれたマイクロスイッチと、前記マイクロスコープ本体の移動に伴い該マイクロスイッチに作用する作用部片とよりなるものとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の医療用診療装置によれば、診療台が、少なくとも昇降動作が可能とされているから、術者は、診療台の上下位置を適宜調整することによって、診療作業がし易い位置に患者を位置付けることができる。また、該診療台上の所定の診療域に移動可能なマイクロスコープ本体を含むマイクロスコープユニットを備えているから、術者は、マイクロスコープ本体を所定の診療域、即ち、診療対象の近傍に位置決めし、マイクロスコープ本体を通して患部を観察しながら、精密な診療作業を実施することができる。そして、前記検出手段がマイクロスコープ本体が前記所定の診療域にあることを検出している間に、前記診療台の動作指示があったとき、前記診療台を予め定められた動作モードに従い動作制御するようにしているから、この動作モードを、通常の診療台の動作モードとは異なり、マイクロスコープの使用時の特性に合わせた動作モードとすることにより、マイクロスコープを使用した診療の適正化をはかることができる。例えば、当該予め定められた動作モードを、前記診療台を通常の動作速度より遅い速度で動作するよう構成された動作モードとすれば、マイクロスコープを覗きながらでも診療台上の上下移動でピント合わせを容易に行うことができる。また、このとき診療台上の患者に対してマイクロスコープ本体が急に接近して恐怖感をいだかせるようなこともない。或いは、当該予め定められた動作モードを、前記診療台の動作指示を無効とするよう構成された動作モードからなるものとすれば、術者が誤って診療台の動作指示、即ち、誤ったスイッチ操作をしても、この動作指示が無効とされるから、診療台上の患者が不意にマイクロスコープ本体に当るような不測の事態を生じる懸念もない。
【0012】
本発明において、前記検出手段が、非接触タイプのセンサー部材からなるものとすれば、検出手段を簡易に構成することができる。特に、前記診療台がヘッドレストを備えたものとし、当該非接触タイプのセンサー部材を構成する認識部材が該ヘッドレスト若しくはその近傍部に設置されているものとすれば、患者頭部を診療域とする場合に、前記安全性の確保等がより的確になされる。そして、この場合に、当該非接触タイプのセンサー部材を構成する認識対象部材が、前記マイクロスコープ本体の近傍部に取付けられているものとすれば、マイクロスコープ本体には、センサー部材を構成する為の複雑な付帯部材、例えば電気配線等が不要とされ、マイクロスコープユニットと診療台とが、別のメーカーによって供される場合でも、検出手段の構成が簡易になされる。ここでの、認識対象部材としては、所謂RFID(Radio Frequncy Identification)タグ或いは磁性体が、認識部材としてはRFIDリーダ或いは磁気センサーが用いられ、これらは市場で簡易に入手することができる。
【0013】
また、非接触タイプのセンサー部材として、マイクロスコープ本体が備える発光部に印加される電流の変化を検出するものとすれば、検出手段を簡易に構成することができる。特に、電流の変化を検出するものとしては、変圧器形式やホール素子形式のものが採用可能であり、これらの組み付けは簡易になされる。更に、非接触タイプのセンサー部材として、前記マイクロスコープ本体の近傍部に取付けられた光反射型センサーからなるものとすれば、同様に検出手段を簡易に構成することができる。
【0014】
前記検出手段を、接触タイプのセンサー部材からなるものとすることができる。この接触タイプのセンサー部材としては、前記マイクロスコープユニットに組み込まれたマイクロスイッチと、前記マイクロスコープ本体の移動に伴い該マイクロスイッチに作用する作用部片とよりなるものとすれば、マイクロスコープ本体の動きに連動させて、マイクロスコープ本体が所定の診療域にあるか否かの検出ができ、合理的な検出手段の構成が可能となる。また、マイクロスイッチも市場で安価に入手し得るものであるから、検出手段の組み込みによってコストが大幅にアップする懸念もない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の医療用診療装置の一実施形態を示す概略的平面図である。
【図2】同医療用診療装置の側面図である。
【図3】同医療用診療装置の要部の側面図である。
【図4】同医療用診療装置の制御ブロック図である。
【図5】同医療用診療装置のマイクロスコープ使用時における診療台の昇降速度を通常使用時と比較したタイムチャート図である。
【図6】本発明の医療用診療装置の他の実施形態を示す要部の側面図である。
【図7】本発明の医療用診療装置の更に他の実施形態における制御ブロック図である。
【図8】本発明の医療用診療装置の更に別の実施形態を示す図3と同様図である。
【図9】(a)(b)(c)(d)は同医療用診療装置における検出手段を説明する図であり、(a)(b)はマイクロスコープを使用していない時の検出手段の位置関係を示す図8のX線部の概略的拡大縦断面図及び横断面図、(c)(d)はマイクロスコープの使用時における検出手段の位置関係を示す同縦断面図及び横断面図である。
【図10】(a)(b)(c)は本発明の医療用診療装置に採用可能なマイクロスコープユニットの種々の変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の医療用診療装置の実施の形態について図面に基づき説明する。図1乃至図3に示す医療用診療装置Aは、歯科用診療装置であって、大略的に、歯科用診療台1と、該診療台1の側部に配設されたマイクロスコープユニット2とより構成される。診療台1は、基台10の上に昇降自在に設置された座席シート11と、該座席シート11の一端に傾動自在に連結された背板シート12と、該背板シート12の上端部に傾動自在に取付けられたヘッドレスト13とよりなる。該診療台1の一側部には、トレーテーブル3が水平移動可能に支持されており、他側部にはスピットン装置4が付設され、更に、該スピットン装置4の側部に沿うようにデンタルライト(不図示)用のライト支柱5が立設されている。マイクロスコープユニット2は、多関節に連接されたハンガーアーム21,22,23とその先端に取付けられたマイクロスコープ本体20とよりなる。ハンガーアーム21の基部が前記ライト支柱5に水平旋回可能に取付けられ、ハンガーアーム21とハンガーアーム22との関節部、及びハンガーアーム22とハンガーアーム23との関節部も、夫々が相互に水平旋回可能に連接されている。ハンガーアーム21のライト支柱5に対する取付位置の反ハンガーアーム側には、バランスウエイト27が突設され、ハンガーアーム21,22,23の水平旋回の安定性及び円滑性が図れている。このような多関節のハンガーアーム21,22,23によって、マイクロスコープ本体20を、診療台1のヘッドレスト13の上方近傍位置に位置付け、診療台1の上に仰臥した患者(不図示)の口腔内を観察することができる。マイクロスコープ本体20は、接眼レンズ、対物レンズ及びピント合わせ機構等を備えた公知のマイクロスコープ(顕微鏡)であって、術者によるハンドル20aの操作によって、上記位置付けがなされる。
【0017】
前記ハンガーアーム23におけるマイクロスコープ本体20の近傍には、RFIDタグ(認識対象部材)61が取付られ、また、ヘッドレスト13の厚み内には、その上面側にRFIDリーダ(認識部材)62が設置され、RFIDタグ61及びRFIDリーダ62によって非接触のセンサー部材(検出手段)6が構成される。RFIDタグ61は、取付バンド等によって、ハンガーアーム23に取付けられる。RFIDタグ61及びRFIDリーダ62からなるRFIDは、RFIDリーダ62を中心とする所定の半径領域にRFIDタグ61が存在すると、RFIDタグ61に組み込まれたICチップが発する信号をRFIDリーダ62が受信し、その受信情報を送出するものである。図1では上記所定の半径領域をZで示し、この半径領域ZはRFIDリーダ62の特性に基づくもので、通常半径が30〜50cmとされる。そして、該半径領域Zを所定の診療域とし、以下では所定の診療域Zと称する。
【0018】
尚、図1では、RFIDリーダ62をヘッドレスト13の一側部側に寄った位置に設置した例を示しているが、ヘッドレスト13の中央部やヘッドレスト13の近傍部に設置しても良い。また、RFIDタグ61をマイクロスコープ本体20の外側面に両面テープ等により固定しても良い。更に、RFIDタグ61及びRFIDリーダ62に代え、磁性体(磁石)及び磁気センサーからなる非接触タイプのセンサー部材を用いることも可能である。
【0019】
上記構成の歯科用診療装置1において、マイクロスコープを用いた歯科診療を行う場合、術者(不図示)はフートコントローラ14を足踏み操作して、図1及び図2に示すように、座席シート11及び背板シート12の高さ及び傾斜角度を診療作業に適正な位置に調整する。そして、マイクロスコープユニット2の各ハンガーアーム21,22,23を水平旋回させて、診療台1上に仰臥する患者(不図示)の口腔上にマイクロスコープ本体20を位置付ける。RFIDタグ61が前記診療域Z内に至るとRFIDリーダ62がこれを検出してその検出結果が後記するCPU(制御部)7に送出される。図4は、制御ブロック図を示し、RFIDリーダ62によって検出された検出情報は、制御部としてのCPU7に送出される。CPU7は、この送出された検出情報に基づき、マイクロスコープ本体20が前記診療域Z内にあると認識する。CPU7には、座席シート11の上下昇降機構及び背板シート12の傾動機構(不図示)を駆動させる為のチェア駆動手段15、前記トレーテーブル3等に着脱自在に保持される各種インスツルメント(不図示)を駆動させる為のインスツルメント駆動手段16が接続されており、これら、チェア駆動手段15及びインスツルメント駆動手段16は、フートコントローラ14の足踏み操作によってその駆動の制御がなされる。チェア駆動手段15としては、前記特許文献3に開示されたような油圧駆動機構が採用される。また、CPU7には、トレーテーブル3等に設置されるディスプレイ装置等からなる表示手段30(図1及び図2では図示を省略)が接続されている。表示手段30には、患部のX線撮影像や、不図示の撮像手段による画像等の表示部や、更には、タッチスイッチ等が設けられる。また、当該マイクロスコープによる患部の観察画像を画像処理して表示させるようにしても良い。
【0020】
上記のように、RFIDリーダ62によるRFIDタグ61の検出情報に基づきCPU7が、マイクロスコープ本体20が前記診療域Z内にあると認識している間に、術者によって前記フートコントローラ14が足踏み操作され、前記チェア駆動手段15に対して動作指令がなされた時、CPU7は、予め定められた動作モードに基づきチェア駆動手段15を動作制御する。この予め定められた動作モードとしては、例えば、前記チェア駆動手段15、即ち、前記診療台1を通常の動作速度より遅い速度で動作するよう構成された動作モード、或いは、前記チェア駆動手段15、即ち、診療台1に対する動作指示を無効とするよう構成された動作モードが設定される。図5は、前者の動作モードで診療台1の座席シート11が昇降する場合の昇降速度の変化を、マイクロスコープを用いない通常の歯科診療時における座席シート11の昇降速度の変化と対比して示すタイムチャート図である。前記の通り、前記チェア駆動手段15として、特許文献3に開示された油圧駆動機構が採用されており、その油圧駆動機構に用いられる油圧バルブの構造的特性により、動作指示操作直後においては、昇降加速度が徐々に増大し、その後一定の加速度で昇降した後、加速度が徐々に減少して、所定の昇降速度に維持される。また、動作停止指示がなされた直後においては、減速度が徐々に増大し、その後一定の減速度で昇降した後、減速度が徐々に減少して、完全に停止する。このように、始動時及び停止時において、加速度及び減速度を徐々に増大させ、その後徐々に減少させることによって、診療台1上の患者に対する始動時及び停止時のショックを緩和することができる。
【0021】
そして、図5に示すように、座席シート11の通常使用時における昇降速度は早く設定されており、これにより診療作業の効率化が図られる。通常使用時における座席シート11の昇降動作は、患者を誘導して診療台1上に仰臥させた後の診療開始時や、診療終了後に患者を退出させる際に主に実施されるので、診療作業の効率化の観点から、このように昇降速度を早く設定することが望ましい。また、背板シート12の傾動動作は、これに加えて、診療中にうがいをさせる場合に多く実施され、この場合も、傾動速度を早く設定することが診療作業の効率化を図る点で望ましい。一方、マイクロスコープを用いた診療作業の場合、マイクロスコープ本体20を前記所定の診療域Z内に位置付けする前に、座席シート11の高さ調整や背板シート12の傾斜角度の調整がなされる。従って、この場合の座席シート11の昇降や背板シート12傾動は通常の速度でなされる。そして、マイクロスコープ本体20が前記所定の診療域Z内に位置付けされた後は、マイクロスコープ本体20が診療台1上に仰臥する患者の眼前に近い位置にある為、この時に、座席シート11の上昇動作指示等があり、座席シート11が通常の速度で上昇すると、マイクロスコープ本体20が急激に患者の眼前に接近し、患者は恐怖感を覚えることになる。その為、図5の例では、マイクロスコープの使用時、即ち、マイクロスコープ本体20が前記診療域Z内にある間は、座席シート11の昇降速度を通常使用時の昇降速度より大幅に遅く設定し、これにより、患者に対して恐怖心をいだかせないようにすることができる。
【0022】
前記のように、マイクロスコープ本体20が前記診療域Z内にある間に、座席シート11の昇降動作がなされる例としては、精密なピント合わせはマイクロスコープ本体20に組み込まれたピント合わせ機構によってなされるが、その前段階の大まかなピント合わせとして、座席シート11を昇降させることが必要とされる場合がある。この場合、座席シート11が通常の昇降速度で昇降すると、ピント合わせがし難く、これによって診療作業の効率が損なわれることにもなる為、マイクロスコープを用いた診療作業の時には、座席シート11の昇降速度を遅く設定しておくことは極めて有益である。また、診療作業中、診療態様に応じて座席シート11の高さを再調整する必要が生じたり、或いは、術者が誤って前記フートコントローラ14を操作したりすることがあり、このような場合でも、患者に安心感を与え、信頼感を得ることができる。図5の例では、座席シート11の昇降速度の変化パターンを示しているが、これに背板シート12の傾動速度の変化パターンを組合せた動作モードを設定し、マイクロスコープ本体20が前記診療域Z内にある間に、この動作モードに基づき座席シート11の昇降及び背板シート12の傾動を動作制御することも可能である。また、マイクロスコープ本体20が前記診療域Z内にある間に、これらの動作指示があっても、一切の動作指示を無効とする動作モードを設定するようにすれば、上記のようなピント合わせや診療作業中の高さ等の再調整は不可となるが、診療台1上の患者は恐怖心をいだくことなく安心して診療を受けることができる。
【0023】
図4に示すように、インスツルメント駆動手段16もCPU7に接続されており、マイクロスコープ本体20が前記診療域Z内にある間に、これらインスツルメント駆動手段16を通常とは異なる動作制御をするよう構成することができる。即ち、マイクロスコープを使用した歯科診療は、主に精密な診療が求められる根管治療に採用される。この根管治療には、通常マイクロモータハンドピース、バキュームシリンジ及びスリーウェイシリンジが用いられ、エアタービンハンドピースは用いられない為、マイクロスコープ本体20が前記診療域Z内にある間には、マイクロモータハンドピース、バキュームシリンジ及びスリーウェイシリンジは使用可能であるが、エアタービンハンドピースは使用ができないような設定にしておくことができる。これによって、マイクロスコープを使用した診療作業中に、術者が誤ってエアタービンハンドピースを使用しようとしても、エアタービンハンドピースが動作することを未然に防止することができる。
【0024】
図6は、前記検出手段6が、非接触タイプのセンサー部材として光反射型センサー63から構成された例を示している。この例では、光反射型センサー63が、ハンガーアーム23におけるマイクロスコープ本体20の近傍部に取付けられている。光反射型センサー63は、所定範囲(光路)に光を反射する検出対象があると、その反射光を検出して当該検出対象が存在することを検出情報として送出するものである。この場合の当該検出対象としては、ヘッドレスト13の表面、或いはヘッドレスト13上の患者の顔面等が充当されるが、ヘッドレスト13の近傍部の適宜部位に反射部材を貼着して、当該検出対象とすることも可能である。この実施形態においても、光反射型センサー63が前記診療域Z内にある検出対象を検出すると、CPU7はこの検出情報に基づき、診療台1を予め定められた動作モードに従い前記と同様に診療台1を動作制御することにより、前記と同様の効果を奏する。
【0025】
図7は、検出手段6としての非接触タイプのセンサー部材が、上記とは更に異なるものによって構成される例を示している。即ち、マイクロスコープ本体20は、観察対象を照射する発光部24と、該発光部24の発光を制御する照明制御部25とを備えており、この例では、発光部24と照明制御部25との間の信号線26を流れる電流を検知する電流検知手段64を前記検出手段6として設けている。この電流検知手段64としては、電線(信号線)に流れる電流が形成する磁界を検出する変圧器形式のもの、或いは、磁界強度をホール効果によって電圧信号に変換するホール素子形式のものが採用される。発光部24の発光オン・オフ操作は術者によってなされるが、診療作業中に発光部24がオンとされる時は、マイクロスコープ本体20が前記診療域Z内に位置付けられ、マイクロスコープ本体20をして患部の観察がなされる時である。従って、電流検知手段64による発光部24がオンされたことの検知情報は、CPU7に対して、実質的にマイクロスコープ本体20が前記診療域Z内にあるという情報として送出される。CPU7は、この検知情報を認識している間に、診療台1の動作指示があったときは、前記と同様に予め定められた動作モードに従い、診療台1の動作制御を行う。これによって前記と同様の効果が得られる。
【0026】
図8及び図9は、前記検出手段6が、接触タイプのセンサー部材で構成される場合の例を示している。該検出手段6は、マイクロスイッチ65と、該マイクロスイッチ65に作用する作用部片66とより構成される。マイクロスコープユニット2の前記旋回機構を構成するハンガーアーム21、22間は、ハンガーアーム21の先端部21aに対して、ハンガーアーム22の基部に固設された垂直支柱22aを、軸受22bを介して垂直軸心周りに回転可能に支持することによって、相互に連接されている。図示の例では、マイクロスイッチ65が、ハンガーアーム21側に固定され、作用部片66が垂直支柱22a側に形成されている。作用部片66は、平面視形状が扇形とされ、垂直支柱22aのハンガーアーム21の先端部21aに対して軸回転することにより、マイクロスイッチ65に作用し、この作用を受けてマイクロスイッチ65がオン信号を送出する。図9(a)(b)は、作用部片66がマイクロスイッチ65に作用していない状態を、図9(c)(d)は、作用部片66がマイクロスイッチ65に作用し始めた状態を示している。作用部片66がマイクロスイッチ65に作用する範囲は図9(b)に示すように作用部片66の円弧長領域Yに相当する範囲であり、この円弧長領域Y以外の範囲は、作用部片66がマイクロスイッチ65に作用しない範囲である。従って、作用部片66がマイクロスイッチ65に作用する範囲にある時に、マイクロスコープ本体20が前記診療域Z内に位置するよう設定すれば、マイクロスイッチ65による検出情報をCPU7に送出することにより、前記と同様の動作制御を実施することができる。図例では、ハンガーアーム21側にストッパー21bが設けられ、垂直支柱22aの回転に伴い、作用部片66がこのストッパー21bに当り、これにより、垂直支柱22aの360°の回転が阻止される。
【0027】
図8及び図9に示す例では、ハンガーアーム21,22間の連接部に検出手段6を設けているが、ライト支柱5に対するハンガーアーム21の取付部及びハンガーアーム22,23間の連接部にも同様の検出手段を設けても良い。このように、3箇所に設けられた3個の検出手段のアンド条件で、マイクロスコープ本体20が前記診療域Z内にあるとの判断をするよう構成すれば、より精度の高い検出情報が得られる。また、図例では、ハンガーアーム21側にマイクロスイッチ65を、ハンガーアーム22側に作用部片66を設けているが、これらは逆の配置関係で設けることも可能である。
【0028】
図10(a)(b)(c)は、本発明の医療用診療装置Aに採用可能なマイクロスコープユニットの種々の変形例を示す。前述の実施形態では、マイクロスコープユニット2を診療台1の側部に立設されたライト支柱5に取付けた例を示しているが、図10(a)(b)(c)の例はいずれも、診療台1とは直接的な支持関係を有していないことで異なる。即ち、(a)に示すマイクロスコープユニット2は、キャスター付の移動台200に立設された支柱201に水平旋回可能に取付けられた前記と同様の多関節のハンガーアーム21,22,23と、ハンガーアーム23の先端に取付けられたマイクロスコープ本体20とより構成される。ハンガーアーム23におけるマイクロスコープ本体20の近傍部には、検出手段6を構成するRFIDタグ61が前記と同様に取付けられている。この例のマイクロスコープユニット2は、床面上を移動自在な移動台200に支持されているから、マイクロスコープを用いた歯科診療を行わない時は、診療室の片隅、或いは別室に保管しておき、使用時のみ移動させて診療台の側部に配置させることができる。この場合、診療台1の近傍側部のどの位置に配置させても、検出手段6に、マイクロスコープ本体20が前記診療域Zにあるか否かを検出させることができ、使用時における自由度が広いことが特筆される。
【0029】
また、図10(b)に示す例では、診療室の床面に設置されるフロアマウントタイプのスピットン装置(患者うがい装置)202に立設された支柱203に、マイクロスコープユニット2が前記と同様に水平旋回自在に取付けられている。更に、図10(c)の例では、診療室の天井面に垂設された支柱204にマイクロスコープユニット2が水平旋回自在に取付けられている。これらの例は、診療台1の側部にライト支柱5のような取付対象が存在しない場合に採用される。図10(a)(b)(c)に示す各例において、ハンガーアーム23に認識対象部材としてRFIDタグ61を取付け、図示しないRFIDリーダ62と組合せて構成されるRFIDによる検出手段6を例示しているが、図6に示すような光反射型センサー63や、図7に示すような発光部24に印加される電流を検知する電流検知手段64も用いることができる。更には、図10(b)(c)に示すようにマイクロスコープユニット2が固定の支持体(支柱203,204)に取付けられている場合には、図8及び図9に示すような接触タイプのセンサー部材からなる検出手段6を用いることも可能である。
【0030】
尚、前記実施形態では、歯科用診療装置Aを例示したが、口腔外科診療、耳鼻咽喉科診療、眼科診療、外科処置診療、産婦人科診療等の種々の診療がなされる医療用診療装置に本発明を適用することは可能である。従って、診療台1の構造は、各診療科の診療特性に応じた構造とされることは当然であり、マイクロスコープユニット2の構造も、各種診療台1の構造や診療目的等に応じて適宜設計的な変更がなされることは当然である。更に、前記光反射型センサー63に代え、光透過型センサーを非接触のセンサー部材として用いることができる。この場合、マイクロスコープユニット2側に特定波長の光を発する発光部を設け、ヘッドレスト13若しくはその近傍部に、この特定波長の光を検出すると検出信号を送出する受光部を設けることにより検出手段6を構成することが考えられる。
【符号の説明】
【0031】
1 歯科用診療台
13 ヘッドレスト
2 マイクロスコープユニット
20 マイクロスコープ本体
6 検出手段
61 RFIDタグ(認識対象部材、非接触タイプのセンサー部材)
62 RFIDリーダ(認識部材、非接触タイプのセンサー部材)
63 光反射型センサー(非接触タイプのセンサー部材)
64 電流検知手段(非接触タイプのセンサー部材)
65 マイクロスイッチ(接触タイプのセンサー部材)
66 作用部片(接触タイプのセンサー部材)
7 CPU(制御部)
A 歯科用診療装置(医療用診療装置)
Z 所定の診療域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも昇降動作が可能とされた診療台と、該診療台上の所定の診療域に移動可能なマイクロスコープ本体を含むマイクロスコープユニットと、制御部とを備えた医療用診療装置であって、
前記マイクロスコープ本体が前記所定の診療域にあるか否かを検出する検出手段を備え、前記制御部は、該検出手段がマイクロスコープ本体が前記所定の診療域にあることを検出している間に、前記診療台の動作指示があったとき、前記診療台を予め定められた動作モードに従い動作制御することを特徴とする医療用診療装置。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用診療装置において、
前記予め定められた動作モードは、前記診療台を通常の動作速度より遅い速度で動作するよう構成された動作モードからなることを特徴とする医療用診療装置。
【請求項3】
請求項1に記載の医療用診療装置において、
前記予め定められた動作モードは、前記診療台の動作指示を無効とするよう構成された動作モードからなることを特徴とする医療用診療装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の医療用診療装置において、
前記検出手段が、非接触タイプのセンサー部材からなることを特徴とする医療用診療装置。
【請求項5】
請求項4に記載の医療用診療装置において、
前記診療台が、ヘッドレストを備え、前記非接触タイプのセンサー部材を構成する認識部材が該ヘッドレスト若しくはその近傍部に設置されていることを特徴とする医療用診療装置。
【請求項6】
請求項5に記載の医療用診療装置において、
前記非接触タイプのセンサー部材を構成する認識対象部材が、前記マイクロスコープ本体の近傍部に取付けられていることを特徴とする医療用診療装置。
【請求項7】
請求項4に記載の医療用診療装置において、
前記マイクロスコープ本体が発光部を備え、前記非接触タイプのセンサー部材が、該発光部に印加される電流の変化を検出するものであることを特徴とする医療用診療装置。
【請求項8】
請求項4に記載の医療用診療装置において、
前記非接触タイプのセンサー部材が、前記マイクロスコープ本体の近傍部に取付けられた光反射型センサーからなることを特徴とする医療用診療装置。
【請求項9】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の医療用診療装置において、
前記検出手段が、接触タイプのセンサー部材からなることを特徴とする医療用診療装置。
【請求項10】
請求項9に記載の医療用診療装置において、
前記接触タイプのセンサー部材が、前記マイクロスコープユニットに組み込まれたマイクロスイッチと、前記マイクロスコープ本体の移動に伴い該マイクロスイッチに作用する作用部片とよりなることを特徴とする医療用診療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−253087(P2010−253087A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107512(P2009−107512)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000138185)株式会社モリタ製作所 (173)
【Fターム(参考)】