説明

医薬のためのプラットフォームとしての、少なくとも1つの保護されたチオール領域を有するPEG−アルブミン組成物

本組成物は、少なくとも1つの保護されたチオール領域を有するポリエチレングリコール−アルブミン組成物を含み、前記組成物はCys−34がチオールとして保存されたPEG−AlbCys-34を含む。前記アルブミンは、アルブミン上に存在するCys−34を介して、還元されたスルフヒドリル基により、抗酸化剤などの医薬と結合される。この組成物は、患者の治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年4月3日出願の米国特許仮出願第61/211,796号に基づくものであり、およびその利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、PEG−Alb、ポリエチレンオキシド(ポリエチレングリコール(PEG)など)で修飾したアルブミンなどのアルブミンベースのコロイド組成物の、医薬のためのプラットフォームとしての使用に関する。より具体的には、このプラットフォームは、抗酸化剤およびその他の医薬のためのものである。
【背景技術】
【0003】
発明者らの最近の開発は、アルブミンベースのコロイド組成物を含む組成物に関する。このアルブミンベースのコロイド組成物は、毛細血管からの漏出を防ぐのに十分に大きい流体力学半径を有するが、同時に、その膨張特性、ならびにナトリウムイオン、脂肪酸、薬物、およびビリルビンなどのリガンドと結合するその能力は維持されるように修飾されている。数多くのタンパク質に対して、生物学的活性を喪失することなく、および著しい毒性を持つこともなく、リジンのε−アミノ基を介して結合するポリエチレングリコールによる修飾が施されてきた。多臓器機能不全(MODS)を発症する危険を有する血液量減少状態に陥っている患者に投与した場合に、アルブミンベースのコロイド組成物が血液量減少状態を逆転させるような度合いで、組成物の流体力学比を拡大させるペグ化生成物の発明者らによる使用。
【0004】
アルブミンベースのコロイド組成物は、重症敗血症、ショック、膵炎、熱傷、および外傷などのショック状態において、循環血液量の増加のために特に有用であり、それによって、このような状態における生存率が改善される。この組成物は、流体力学半径が大きく、Cys−34がチオールとして保存されているPEG−AlbCys-34を含む。
【0005】
この組成物は、2004年11月9日出願の米国特許出願第10/985,798号に記載されており、該明細書は参照により本明細書に援用される。
【0006】
抗アポトーシスおよび抗炎症剤としてのアルブミン。アルブミン輸液療法の臨床的効力に関して相反する研究がなされているにも関わらず、アルブミンは、血管内皮の一体性を、内皮表面層の親水性細孔を充填することによって維持し、その安定性に寄与するということを示す一連の証拠が数多く存在する。アルブミンは、ラット皮膚へのヒト組織外食片で、内皮細胞のアポトーシスを阻害する。アルブミンは、還元チオール源(Cys−34)として作用する。この効果は、200mlの20%アルブミンの投与後にチオール濃度が最大50%まで上昇した敗血症患者で実証された。
【発明の概要】
【0007】
1つの態様において、発明者らは、抗酸化医薬のファミリーを本発明のPEG−Albプラットフォームと結合させる。この医薬は、アルブミン(Cys−S−SR)上に存在するCys34を介して還元スルフヒドリル基(RSH)により結合される。リジン残基上でアルブミンのペグ化が行われた後、製剤は精製される。
【0008】
発明者らは、R’SH(R’は、Rと同じであっても異なっていてもよい)を過剰に添加することで(少なくともアルブミンのモル濃度と同等、モル濃度の1000×未満)、
Cys−34上のSHを還元する。R’SHを過剰に添加することで、PEG−Alb(Cys−S−SR)がPEG−Alb(Cys−SH)に変換され、その抗酸化活性は保持され、さらにはR’SHによって抗酸化活性が増幅される。例えば、R’は、抗酸化活性を有することがよく知られているグルタチオンまたはN−アセチルシステインであってよい。発明者らはまた、非常に類似する手法を用いて、多くのその他の医薬とアルブミンを結合させることもできる。ある場合では、医薬は、既存のSH基を有するペプチド(例:バソプレシン)、または利用可能なCys基を有するように修飾されたペプチドである。その他の場合では、医薬は、プロスタサイクリンなどのCys−34上でSHと反応するように修飾された非ペプチドである。このように結合させることの目的は:
a) 結合された医薬の循環半減期を延長すること(例:エリスロポエチン);
b) 結合された医薬の効果を血管内に閉じ込めること(例:ラパマイシン);または、
c) 特定の酵素による異化効果から医薬を保護し、その半減期の大幅な延長をもたらすこと(例:プロスタサイクリン)、
である。
【0009】
本発明のその他の目的および利点は、好ましい態様の以下の詳細な説明、および添付の図面のレビューによって、当業者に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】どのようにしてCys−34の保存が行われ、保護剤の過剰適用によって還元Cys−34ならびに保護剤(例:N−アセチルシステイン)の抗酸化効果が維持されるかを示す図である。
【図2】Q−セファロース上でのPEG−アルブミン5000nの精製を示す図である。PEG−アルブミン5000nを作製し、記載のようにしてQ−セファロースへ適用した。挿入図は、Q−セファロース画分のSDSゲル電気泳動を示し、Albは未修飾ヒトアルブミンを、Uは未分画PEG−アルブミン5000nを、番号を付けたレーンはQ−セファロースの対応する画分からのサンプルをそれぞれ表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の組成物は、少なくとも1つの保護チオール領域を有するポリエチレングリコール−アルブミン組成物を含み、前記組成物は、Cys−34がチオールとして保存されたPEG−AlbCys-34を含む。前記アルブミンは、アルブミン上に存在するCys−34を介して、還元スルフヒドリル基により抗酸化医薬と結合される。好ましくは、スルフヒドリル基は、式(RSH)で表される。好ましくは、アルブミン上に存在するCys−34は、式Cys−S−SRで表される。式R’SHで表される化合物が組成物に添加され、Cys−34上のSHが還元される。R’は、Rと同一であっても、異なっていてもよい。式R’SHで表される化合物は、アルブミンと少なくとも同等のモル濃度からアルブミンのモル濃度の1000倍未満までの範囲の量で添加される。好ましくは、式R’SHで表される化合物は、アルブミンに対して過剰のモル濃度からアルブミンのモル濃度の1000倍未満までの範囲の量で添加される。式R'SHで表される化合物は、PEG−A
lb(Cys−S−SR)をPEG−Alb(Cys−SH)へ変換する。好ましくは、R’は、グルタチオンまたはN−アセチルシステインである。
【0012】
RおよびR’は、水素、シクロアルキル、アルキル、フェニル、および置換フェニルから成る群より選択される。置換フェニルは、ハロゲン、アルキル、アクリル、またはアルコキシで置換されている。本明細書で用いられる以下の用語:「シクロアルキル」、「アルキル」、「アシル」、および「アルコキシ」は、当業者によく理解されているように、一般に1から50個の炭素を含有するものである。
【0013】
ハロゲンとは、周期表の第17族に見られる5種類の非金属元素である。ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、およびアスタチンである。
【0014】
好ましくは、RおよびR’は、水素、または1から20個の炭素原子を含有するアルキル基である。好ましくは、ハロゲンは塩素である。R’は、Rと同一であっても、異なっていてもよい。
【0015】
PEG−アルブミンベースのコロイドは、より大きな水和(アルブミンと比較して13〜16倍)およびより大きな流体力学半径(3.4nm対10nm)のために、循環血液量増加特性を有する大径アルブミンベースのコロイド組成物である。PEG−アルブミンベースのコロイド組成物は、通常のアルブミンに比べて血管外へ進入する可能性が低い。加えて、PEG−アルブミンベースのコロイド組成物は、オスモライトとして、抗酸化剤として、ならびにヘムおよびビリルビンなどの低溶解性の代謝物のトランスポーターとしての役割を含む、アルブミンの重要な生理学的機能を保持している。最後の2つの特徴は、他のクリスタロイドおよびコロイドには付随されないものである。
【0016】
本発明によると、デンプンとは異なり、PEG−アルブミン組成物は、オスモライトとして、抗酸化剤として、ならびにヘムおよびビリルビンなどの低溶解性の代謝物のトランスポーターとしての役割を含む、アルブミンの重要な生理学的機能を保持している。最後の2つの特徴は、他のクリスタロイドおよびコロイドには付随されないものである。PEG−Albに対して行われたタンパク質アンフォールディング研究により、アルブミンの官能基が多く保存されていることが示された。アルブミンは、ヒトアルブミン、ウシ血清アルブミン、ラクトアルブミン、またはオボアルブミンであってよい。
【0017】
アルブミンベースのコロイド組成物はまた、腹膜透析における限外ろ過を進行または誘発させる高浸透圧剤としても有用である。さらなるその他の用途としては、例えば、頭部外傷、過粘稠状態、穿刺後の肝硬変患者、白血球フェレーシス、栄養アルブミン欠乏症、ネフローゼ症候群、肝不全、重症低アルブミン血症患者、および重症熱傷患者への使用が挙げられる。
【0018】
1つの態様では、本発明は、好ましい水和度を有するアルブミンベースのコロイド組成物の組成物を含む。本発明はさらに、アルブミンをポリエチレンオキシドで修飾することによってアルブミンベースのコロイド組成物を作製するための2つの方法にも関する。その一つは、N−ヒドロキシスクシンアミドエステルを用いるものであり、もう一方は、塩化シアヌル誘導体を用いるものである。本発明のアルブミンベースのコロイド組成物は、安全であり、延長された有用な半減期を有し、その半減期は正常ラットでは通常のアルブミンと比較して少なくとも3倍と測定され、敗血症ラットではこれよりも長くなっていると考えられる。アルブミンベースのコロイド組成物は、その免疫原性が低減された組換えアルブミンを用いて合成してできる。
【0019】
アルブミンベースのコロイド組成物は、そのサイズが大きいことにより、血管外遊出の傾向が抑えられており、それによって毛細血管漏出症候群、ならびに臨床的には浮腫およびコンパートメント症候群などの血液量減少状態の悪化が回避される。
【0020】
別の態様では、アルブミンベースのコロイド(または例えば、共有結合したポリエチレングリコールを有するアルブミン(PEG−アルブミン)は、より高い水和度(アルブミンと比較して13〜16倍)およびより大きな流体力学半径(3.4nm対10nm)のために、循環血液量増加特性を有する大径アルブミンベースのコロイド組成物である。アルブミンベースのコロイド組成物は、通常のアルブミンに比べて血管外へ進入する可能性が低い。加えて、アルブミンベースのコロイド組成物は、オスモライトとして、抗酸化剤
として、ならびにヘムおよびビリルビンなどの低溶解性の代謝物のトランスポーターとしての役割を含む、アルブミンの重要な生理学的機能を保持している。最後の2つの特徴は、他のクリスタロイドおよびコロイドには付随されないものである。
【0021】
1つの態様では、本発明は、好ましい水和度を有する大径アルブミンベースのコロイドを含む組成物に関する。この組成物は、アルブミンベースのコロイドであり、1つの態様では、患者の毛細血管からの分子の漏出を阻止するのに十分な大きさの流体力学半径を有するポリエチレングリコールで修飾されたアルブミンを含む。特定の態様では、アルブミンベースのコロイド組成物は、少なくとも128000ダルトンの平均分子量を有する。この組成物は、ヒトアルブミン、ウシ血清アルブミン、ラクトアルブミン、またはオボアルブミンを含んでよい。
【0022】
アルブミンベースのコロイド組成物は、ナトリウムイオン、脂肪酸、ビリルビン、および治療薬物などのリガンドと結合する能力を有する。
【0023】
別の態様では、本発明は、血液量減少状態および多臓器機能不全などのその合併症を予防または治療するインビボの方法に関し、この方法は、治療量の大径アルブミンベースのコロイド組成物をそのような状態を発症する危険を有する患者へ投与することを含む。
【0024】
別の態様では、本発明は、損傷した、または損傷の危険を有する哺乳類組織に予防を施すための方法に関し、この方法は、アルブミンベースのコロイドを含む組成物の治療量を哺乳類へ投与することを含む。例えば移植前の固形臓器の保存である。この組成物は哺乳類の毛細血管を通して漏出することができず、組織を損傷から保護するのに十分な量で存在する。この方法は、損傷の危険が、血液量減少、敗血症、ショック、熱傷、外傷、手術、毛細血管漏出素因、過粘稠ストレス、低アルブミン血症、および/または無酸素症に起因するものである場合に特に有用である。
【0025】
結果として、本発明の組成物は、結合された医薬(例:エリスロポエチン)の循環半減期を延長することによって患者の治療を行うインビボによる方法に用いることができる。この組成物はまた、治療量の組成物を哺乳類に投与することにより、哺乳類の組織損傷の治療に用いることもできる。この方法はさらに、結合された医薬を血管内に閉じ込める工程を含む(例:ラパマイシン)。患者の状態を治療するインビボでの方法はさらに、特定の酵素の異化効果から医薬を保護する工程を含む。これによって、その半減期が大幅に延長される(例:プロスタサイクリン)。
【0026】
その他の抗酸化剤は、以下を含む。抗酸化剤とは、他の分子の酸化を遅延または防止する能力を有する分子である。酸化とは、電子をある物質から酸化剤へと移動させる化学反応である。酸化反応は遊離ラジカルを生成し得るものであり、これは、細胞に損傷を与える連鎖反応を開始させる。抗酸化剤は、遊離ラジカル中間体を除去することによってこのような連鎖反応を断ち切り、それ自体が酸化されることによって他の酸化反応を阻止する。従って、抗酸化剤は、チオールまたはポリフェノールなどの還元剤である場合が多い。
【0027】
抗酸化剤は、それが水溶性(親水性)であるか脂溶性(疎水性)であるかによって大きく2種類に分類される。一般的に、水溶性抗酸化剤は、細胞質および血漿中にて酸化剤と反応し、一方油溶性抗酸化剤は、脂質過酸化から細胞構成成分を保護する。これらの化合物は、体内で合成することができ、または食事から摂取することもできる。体液および組織中には、種々の抗酸化剤が広範囲にわたる濃度で存在し、グルタチオンまたはユビキノンなどほとんどが細胞内に存在するものもあり、一方尿酸などのより均一に分布しているものもある。
【0028】
以下の表は、いくつかの一般的な抗酸化剤の特性を示す。
【0029】
【表1】

【0030】
別の態様では、ガドリニウムを本発明のPEG−Albプラットフォームに結合することができる。ガドリニウムは、記号がGd、原子番号が64である化学元素である。それは、銀白色で展性および延性を有する希土類金属である。ガドリニウムは、並外れて高い中性子吸収性を有し、従って、中性子ラジオグラフィーおよび原子炉における遮蔽として用いられる。その常磁性のために、有機ガドリニウム複合体およびガドリニウム化合物の溶液は、医療用磁気共鳴画像法において最もよく用いられる静脈内MRI造影剤である。
【0031】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するためにのみ提供されるものである。本発明の範囲は、以下の実施例のみから構成されると解釈してはならない。
【実施例】
【0032】
実施例I
PEG−アルブミン5000nの作製
この形態のPEG修飾アルブミンは、複数のリシル残基において修飾され、以下のようである。精製においていくつかの改変(ゲルろ過に代えてイオン交換クロマトグラフィー)を施せば、より実用的なスケールアップが可能となる。メトキシポリエチレングリコール塩化シアヌル(平均Mr5000)を、緩やかに攪拌しながら、10mM リン酸カリウムバッファー(pH7.5)中に50〜60mg/mlで溶解したヒトアルブミン(コーンフラクションV)に添加し、この際4回に分けて(0.2g/gアルブミン)22℃にて10分間の間隔を空けて添加する。最後の試薬の添加後、この反応物を40分間攪拌する。修飾は迅速に進み、室温にて15分未満で完了し、修飾の度合いは、主として添加した試薬の量に依存する。PEG−Albを、10mM リン酸カリウムバッファー(pH7.4)で平衡化したQ−セファロースに適用し(アルブミン0.025グラムあたり樹脂1ml)、3カラム容量分の開始バッファーで洗浄し、0.25M NaClで溶出する。組み込まれなかった過剰のPEG試薬は、未結合画分中に溶出し、PEG−アルブミンは、PM10膜(ミリポア)を用いたAmicon限外ろ過セルで濃縮し、20容量分の0.15M NaClに対する透析を、4℃にて20時間、0.15M NaClを1回交換して行う。この物質は、未修飾のアルブミンおよび未反応のPEG5000を含まない。PEG−アルブミン5000nに対する溶出プロファイルを図2に示す。このプ
ロトコルを用いて利用することができるその他のアミン選択性PEG試薬としては、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、アルデヒド(リシル残基のεアミノ基と共に形成したシッフ塩基の還元による)、p−ニトロフェニルエステルが挙げられる。
【0033】
図1は、どのようにしてCys−34の保存が行われ、保護剤の過剰適用によって還元Cys−34ならびに保護剤(例:N−アセチルシステイン)の抗酸化効果が維持される
かを示す図である。
【0034】
実施例II
Cys−34を保護したPEG−アルブミンの作製
10mM リン酸カリウムバッファー(pH7.5)中50〜60mg/mlのアルブミンを、タンパク質チオール(2.5mM)に対して2から3倍の過剰モル濃度のDTNB(5,5’−ジチオビス 2−ニトロベンゾエート)と共に、22℃にて30分間インキュベートする。次に、この製剤を、PEG−アルブミンのために、上述のようにしてメトキシポリエチレングリコール塩化シアヌルで修飾する。ジチオスレイトールまたはトリス(2−カルボキシメチル)−ホスフィンを、この製剤へ4mMまで添加し、22℃にて1時間インキュベートする。PEG−アルブミンをイオン交換クロマトグラフィーで精製し、限外ろ過で濃縮し、上述のようにPEG−アルブミンのための透析を行う。
【0035】
図2は、Q−セファロース上でのPEG−アルブミン5000nの精製を示す。PEG
−アルブミン5000nを作製し、記載のようにしてQ−セファロースへ適用した。挿入
図は、Q−セファロース画分のSDSゲル電気泳動を示し、Albは未修飾ヒトアルブミンを、Uは未分画PEG−アルブミン5000nを、番号を付けたレーンはQ−セファロ
ースの対応する画分からのサンプルを表す。
【0036】
実施例III
チオール選択性試薬 − チオールを介する修飾は、ヒト血清アルブミンが単一のチオール(Cys−34)を有することから、それに対して有用な手法である。ヒト血清アルブミンは、遊離チオールとしてCys−34を有するタンパク質、およびチオールがグルタチオンによって修飾されたか、または2つのアルブミンのジスルフィド二量体として修飾された相当量の画分の混合物である。緩やかな条件下にて、利用度のより低いジスルフィドを還元することなくCys−34ジスルフィドを還元して、すべてのcys−34を遊離チオールとして利用可能とすることができる。Cys−34は、N−エチルマレイミドおよびヨードアセタミドを含むチオール選択性試薬に対して反応性を有する。アルブミンをmPEG−マレイミド誘導体で修飾し、それによってPEGがこのタンパク質上の単一部位に結合される。単一の特有の部位で修飾することにより、アルブミンの天然構造を乱すこと、またはリガンド結合特性を変化させることが起こりにくい。予備段階の結果のセクションで示すように、発明者らは、2種類のそのような形態のmPEG−Albを作製した。チオール修飾の潜在的な欠点は、生成物の抗酸化特性を変化させる可能性があるということである。
【0037】
サイズおよび形状の異なるPEG誘導体
異なるサイズのPEGおよび分岐鎖構造を有するPEGで修飾したアルブミンについて調べる。利用可能なサイズとしては、3400Mr、5000Mr、20000Mr、およ
び40000Mrが挙げられる。タンパク質との結合のための種々の化学特性を持つ分岐
鎖型(図29中の3)およびフォーク型(図29中の5)のPEGが存在する(46a、117a)。PEGがより大きいと、同じ有効サイズを得るための修飾部位をより少なくすることが可能となる。取り込まれるPEGは1つのみであるため、Cys−34を介しての結合にとってより大きいサイズ分布が特に重要である。試薬サイズに関する考察は、より小さいPEG−ペプチド(例:PEG≦1200(119))は腎臓を介して容易に排出され、このことから、何重にも修飾されたアルブミンの分析が必要なものとなるということである。PEG鎖長を長くすることで、循環におけるこの物質の半減期が延長される。
【0038】
Cys−34の保存 − アルブミンのアポトーシスおよびその他の生物学的特性を阻害する活性は、チオール(Cys−34)に依存する。Cys−34をチオールとして保
持するMPEG−Albを作製する。アルブミンを僅かに過剰のジチオスレイトールで処理し、続いてCys−34を5,5’−ジチオビス−2−ニトロ安息香酸で修飾する。低分子量の生成物をゲルろ過で除去し、タンパク質をアミン選択性PEG試薬で修飾する。タンパク質をジチオスレイトールで処理してチオニトロ安息香酸を放出されることにより、遊離のチオールを再生する(412nmにおける光学分析で観察する)。mPEGアルブミンを精製して未修飾タンパク質、過剰の試薬、および反応副生物を除去する。この手法を用いて作製したMPEG−アルブミンは、この試薬がリシル残基を修飾することから、複数の部位で修飾されている。しかし、より大きいPEG試薬(例:PEG20000およびPEG40000)を用いて、試薬濃度および反応条件を変化させることにより、修飾される残基の数を最小限に抑えることが可能であることを含むことができることも、本方法の意図する範囲内である。
【0039】
実施例IV
抗酸化活性
虚血再灌流は、内皮の一体性の破壊をもたらす。肺動脈内皮細胞(EC)は、虚血下のヒト血漿に接触させると、10分後には円状となり、空隙を形成し、続いて小疱形成を起こした。毛細血管漏出症候群の患者からの血清に接触させた後のマイクロ皮膚EC培養物でも、同じ形態変化が発生した。ECのアポトーシスは、形態的基準、血漿ホスファチジルセリン露出(アネキシン染色)、およびDNA断片化によって裏付けられた。内皮細胞におけるBax/Bcl2の増加が、免疫組織化学的試験によって検出された。このような効果のメカニズムを、細胞内反応性酸素種(ROS)を測定することで調べ、その結果は、酸化的損傷がECアポトーシスのメカニズムにおいて役割を担っていることを示唆するものであった。酸化ストレスは、アポトーシスの誘導因子として公知である。加えて、外傷および出血の後にも、アポトーシスの発生が増加する。カスパーゼ阻害剤によるアポトーシスの阻害により、I/R誘発炎症が軽減された。虚血再灌流に曝露された組織において、抗酸化剤はこの傷害からの損傷を最小限に抑えた。アルブミンは、血漿中における主たる細胞外抗酸化剤である。これは、酵素ガンマグルタミルシステインジペプチドを介してこの機能を働かせるものであり、ここで、アルブミンは、グルタチオン合成において重要な役割を担っている。グルタチオンは、哺乳類細胞中に存在する主たる低分子量溶解性チオールであり、その減少が、アポトーシスの誘発において役割を担っている。アルブミンがその抗酸化活性をいかに働かせるかを調べた別の研究では、単一の遊離チオール(Cys−34)の修飾が、抗酸化活性の45%の低下を伴った。アルブミンは、そのグルタチオン(GSH)を増加させる能力によって酸化から保護されている。逆に、GSHの減少は、a)カスパーゼ3の活性化およびポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)の断片化、ならびにb)Bcl‐2/Bax比の低下を引き起こす。後者の比は、特に酸化的損傷に対する防御において、細胞生存の強力な指標である。結果として、アルブミンは、その抗酸化剤としての機能を介して、アポトーシスに対する保護効果に大きく寄与している。内皮に関しては、アルブミンは、毛細血管透過性を低下させ、内皮細胞のアポトーシスの予防において不可欠な役割を担っていた。
【0040】
本発明を好ましい態様に重点を置いて説明したが、当業者であれば、好ましい態様を改変し得ることは明らかであろう。本発明は、本明細書で具体的に説明した以外で実行し得ることを意図している。従って、本発明は、すべての変形を含み、添付の請求項の趣旨および範囲を請求するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの保護されたチオール領域を有するポリエチレングリコール−アルブミン組成物を含む組成物であって、
前記組成物は、Cys−34がチオールとして保存されたPEG−AlbCys-34を含み、
前記アルブミンは、前記アルブミン上に存在する前記Cys−34を介して、還元されたスルフヒドリル基により抗酸化医薬と結合される、組成物。
【請求項2】
前記医薬が、抗酸化剤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記スルフヒドリル基が、式(RSH)で表される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
アルブミン上に存在する前記Cys−34が、式Cys−S−SRで表される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
式R’SHで表される化合物が、前記組成物に添加されて、Cys−34上の前記SHを還元する、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
R’が、Rと同一であっても、異なっていてもよい、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記式R’SHで表される前記化合物が、アルブミンと少なくとも同等のモル濃度からアルブミンのモル濃度の1000倍未満までの範囲の量で添加される、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記式R’SHで表される前記化合物が、アルブミンに対して過剰のモル濃度からアルブミンのモル濃度の1000倍未満までの範囲の量で添加される、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
前記式R’SHで表される前記化合物が、PEG−Alb(Cys−S−SR)をPEG−Alb(Cys−SH)へ変換する、請求項5に記載の組成物。
【請求項10】
R’が、グルタチオンである、請求項5に記載の組成物。
【請求項11】
R’が、N−アセチルシステインである、請求項5に記載の組成物。
【請求項12】
前記医薬が、ガドリニウムである、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
少なくとも1つの保護チオール領域を有するポリエチレングリコール−アルブミン組成物を含む組成物であって、
前記組成物は、チオールとして保存されたPEG−AlbCys-34を含み、
前記アルブミンは、前記アルブミン上に存在するCys−34を介して医薬と結合する、組成物。
【請求項14】
前記アルブミンが、ヒトアルブミン、ウシ血清アルブミン、ラクトアルブミン、またはオボアルブミンである、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
請求項13に記載の組成物の治療量を投与して、前記結合した医薬の循環半減期を延長させることを含む、患者の状態を治療するインビボの方法。
【請求項16】
前記結合した医薬が、エリスロポエチンである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項13に記載の組成物の治療量を哺乳類へ投与することを含む、哺乳類の組織損傷を治療するための方法。
【請求項18】
前記結合された医薬を血管内に閉じ込める工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記結合された医薬が、ラパマイシンである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項13に記載の組成物の治療量を投与して、前記結合した医薬を酵素の異化効果から保護することを含む、患者の状態を治療するインビボの方法。
【請求項21】
前記結合した医薬の半減期を大幅に延長する工程をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記結合した医薬が、プロスタサイクリンである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記結合した医薬が、抗酸化剤である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記結合した医薬が、ガドリニウムである、請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−522782(P2012−522782A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503428(P2012−503428)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/000994
【国際公開番号】WO2010/114616
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(502409721)ザ・ユニバーシティ・オブ・トレド (13)
【Fターム(参考)】