説明

医薬品及び生理活性分子の正確な制御放出のための、導電高分子ナノチューブアクチュエータ

生理活性物質の正確な制御放出、例えば、医学的、獣医学的、薬学的な化合物及び増殖因子のために使用することができる、電気的収縮性ナノチューブを含む薬物送達装置、それらの製造及びそれらの使用。導電高分子のナノチューブは、微細加工した電極装置上の記録用電極部位のインピーダンスを顕著に減少させ、電荷容量を増加させる。ナノチューブから放出される生理活性物質を、ナノチューブの制御された電気刺激によって、所望するように制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その開示が参照によって本明細書に組み込まれている2006年8月25日出願の米国仮特許出願第60/840382号の利益を主張するものである。
【0002】
政府の権利
本発明は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)、NS012338の政府の援助を受けてなされた。政府は、本発明において特定の権利を有する。
【0003】
本発明の開示は、生理活性物質の制御送達が可能な、生体適合性の、生物学的に接続している埋込み型の装置に関する。神経補綴、バイオセンサー、標的ナノ送達及びナノろ過に関係する適用例の場合には、生理活性物質の増強された放出は、生体組織及びその他の生物学的マトリックスの中に有効に三次元的に組み込まれたプローブ及び刺激/感知の装置と密接に連動する。
【背景技術】
【0004】
医薬品及び薬物の疾患部位への正確な送達を必要とするいくつかの外科的及び非外科的な様式が存在する。しばしば、これらの部位はまた、そのような薬物の送達に加えて、心臓の電気生理学的評価又は神経の走査の場合等、1つ又は複数の感知又は刺激の機能を果たすために、埋込み型装置又は補綴も必要とする場合がある。
【0005】
本質的に「導電性である高分子」(π共役した導電性高分子)、例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(ピロール)、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリチオフェン、それらの高分子のブレンド、及び導電ドーパントを有する非導電高分子は、既存の電極、プローブ及びセンサーのための、生体適合性の高分子性被覆材料として有用であり、特有の電気的、生化学的及び電気的に活性な特性をもたらす。本質的に導電性のモノマーは、(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(EDOT)、ピロール、アニリン、アセチレン、チオフェン及びそれらのモノマーのブレンドのうちの1つ又は複数を含むことができる。
【0006】
生理活性剤の電気化学的送達の分野におけるいくつかの開発により、帯電状態と中性状態との間を電気化学的に循環する導電高分子が組み込まれた電極装置がもたらされてきた。この動作モードの裏にある根拠には、導電高分子の電極を活用することがあり、導電高分子は、例えば、陰極として又は陽極として帯電し、水性媒体と接触している。送達する薬物は、薬物をイオン的に結合させる対イオンの形態で存在する必要がある。そのような装置は、米国特許第4585652号に記載されている。
【0007】
薬物又は医薬品の選択が、その対イオンの機能に適合する必要があり、送達する生理活性物質の選択を制限するので、そのような薬物送達の使用は不都合である。さらに、生理活性剤は、単一の送達サイクルにおいては、アニオン及びカチオンの両方を含むことはできず、特異的な電荷を有しない又は中性である生理活性剤を送達することができない。導電高分子に結合させる生理活性剤の使用に伴うさらなる制限は、送達する生理活性剤の結合量に対する制限を含む。常に、そのような送達装置において送達することができる物質の上限は、使用する高分子の約50%である。これは、帯電した導電高分子がその酸化還元部位において化学物質を結合する量に限界があるからである(典型的には、3分子のモノマー当たり1つの電荷)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電極部位を生体組織に密接に接続させ、したがって、イオン的に伝導性の組織から電子的に伝導性の電極へ電荷の移動を生み出して、周囲組織を、埋込み型装置に直接付着又は接続することができ、電荷及び量の制限にもかかわらず、いずれの種の生理活性物質も送達可能である電極装置を設計することが非常に望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、複数の電気的収縮性ナノチューブと接触している、1つ又は複数の電気伝導性基材を含む薬物送達の装置、電極及びセンサーを提供する。ナノチューブを、少なくとも一部の導電性基材上に被覆する。ナノチューブは、少なくとも1つの開口部及び内部に管腔を画定する、導電性高分子の壁を含む。管腔は、少なくとも1つの生理活性物質を含有する。電源を導電性の(複数の)基材に接続し、電圧を供給して、少なくとも一部のナノチューブを電気的に作動させ、生理活性物質を、物質移行によってナノチューブから1つ又は複数の開口部を通して放出させることができる。
【0010】
本開示のさらなる態様は、ナノチューブを、電気伝導性基材上に形成する方法を提供する。ナノチューブは、少なくとも一部の第1の電気伝導性基材上に形成され、この方法は、(i)生分解性高分子及び少なくとも1つの生理活性物質を含む溶液を、第1の電気伝導性基材の表面の少なくとも一部の上に静電紡糸するステップであって、これによって、静電紡糸の手順が、第1の電気伝導性基材と接触しているナノ繊維のメッシュを形成するステップと、(ii)複数のナノチューブを形成するナノ繊維の周囲に、導電性高分子を電気化学的に堆積させるステップと、(iii)ナノ繊維内部の生分解性高分子を溶媒で分解するステップであって、それによって、生理活性物質を、ナノチューブの管腔の内部に残すステップとを含む。
【0011】
本教示のさらなる態様は、1つ又は複数の生理活性物質をさらに含み、生理活性物質は、薬物、薬学的活性剤、増殖因子、脂質、ステロイド、炭水化物、炭水化物誘導体である糖タンパク質、糖脂質、アンチセンス剤、抗悪性腫瘍剤、抗増殖剤、抗血栓形成剤、抗凝血剤、血小板凝集抑制剤、抗生物質、抗炎症剤、遺伝子治療剤、治療用物質、有機薬物、医薬化合物、組換えDNA産物、組換えRNA産物、コラーゲン、コラーゲン性誘導体、タンパク質、タンパク質類似体、又はそれらの組合せのうちの1つ又は複数でよい。
【0012】
本教示のさらなる態様は、1つ又は複数の生理活性物質の制御放出のための方法に関する。この方法は、少なくとも2つの電気伝導性基材、及び導電性基材のうちの1つの少なくとも一部の上に形成された、複数の電気的収縮性ナノチューブを含む薬物送達装置を提供するステップを含む。ナノチューブは、内部に管腔を画定する、導電性高分子の壁を含み、管腔は、少なくとも1つの生理活性物質を含有する。この方法は、電気伝導性基材のうちの少なくとも1つと電気的に連絡している電源を提供するステップもさらに含む。次いで、装置は、生物学的組織、例えば、脳又は心臓と接触させて又はそれに隣接した場所に留置され、装置の電気伝導性基材のうちの少なくとも1つに電圧を印加して、ナノチューブの導電性高分子の壁に電圧を供給し、それによって、前記ナノチューブを収縮させ、それに付随して、前記の少なくとも1つの生理活性物質を放出させる。
【0013】
本教示の適用性のさらなる領域が、以下に提供する詳細な説明から明らかになるであろう。本発明の特定の実施形態を示すが、詳細な説明及び特定の実施例は、説明の目的のみのためのものであり、本発明の範囲を限定する意図はないことを理解されたい。
【0014】
本明細書に記載する図面は、説明の目的のみのためのものであり、いかなる場合であっても、本開示の範囲を限定する意図はない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本開示による、生理活性物質送達装置の導電高分子の化学構造を示す図である。
【図2】図2A−図2Cは、本開示による、生理活性物質送達装置の製造におけるステップを示す略図である。図2E−図2Fは、本開示の実施形態による、表面がナノチューブにより被覆された金属製のプローブが形成される段階を示す光学顕微鏡写真である。
【図3】図3AはPLGAのナノ繊維及びPEDOTのナノチューブの走査型電子顕微鏡写真である。図3Bは、本開示による、より高い倍率における同一のナノチューブを示す図である。
【図4】図4A及び図4Bは、本開示の実施形態による、電極基材表面上のポリピロールのナノチューブの走査型電子顕微鏡写真である。図4C及び図4Dは、本開示の実施形態による、電極基材表面上のポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)のナノチューブの走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】図5Aは、本開示による、単一のPEDOTのナノチューブの走査型電子顕微鏡写真である。図5Bは、本開示による、より高い倍率におけるAの走査型電子顕微鏡写真である。図5Cは、本開示による、集束イオンビーム(Focused Ion Beam)を用いて切断した区域の導電高分子のナノチューブの走査型電子顕微鏡写真であり、種々の層及びPEDOTのナノチューブの被覆を示している。図5Dは、本開示による、より高い倍率における図5Cの走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】図6は、デキサメタゾンの制御放出を説明する図である(図6A−6F)。図6Gは、本開示による、PGLAのナノ繊維、デキサメタゾンを含有し、導電高分子で被覆し、5回の電気刺激で刺激したPLGAのナノ繊維、及びデキサメタゾンを含有し、導電高分子で被覆したが、電気刺激を欠くPLGAのナノ繊維のデキサメタゾンの放出速度を示すグラフである。図6Hは、デキサメタゾンのUV吸光度を示すグラフである。
【図7】図7Aは、本開示による、インピーダンス分光法による、金電極上の導電性ナノチューブと裸の金電極との比較を示すグラフである。図7Bは、本開示による、ナノチューブを欠く電極、PLGAのナノ繊維及び電気化学的に堆積させたPEDOTを有する電極、又は芯のPLGAの繊維材料を除去したPEDOTのナノチューブを有する電極のサイクリックボルタモグラムの記録を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は、いくつかの実施形態において、組織刺激、記録及び生理活性物質のナノスケールからマイクロスケールの送達のための、導電高分子であるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(ピロール)及びその他の導電高分子との、神経細胞型及び脳組織の相互作用を例示する。種々の実施形態では、本開示は、PEDOT、PPy及びその他の電気伝導高分子並びにそれらの誘導体の、増殖因子、薬物、医薬品及びその他の生理活性剤をはじめとする生理活性物質を取り込んだナノスケールの繊維及び粒子の周囲における電気化学的重合を含む。
【0017】
本開示の特定の実施形態によって意図される生体適合性の導電高分子は、これらに限定されないが、in vivo条件下で、低い生分解性を有するか実質的に非生分解性であり、低い電気インピーダンス、長期の電気的安定性を有し、無毒性であり、機械的に柔軟性があり、生体模倣性が高く(細胞の特色/細胞の表面を、鋳型とすること及び模倣することができ)、ナノメートルスケールの表面の特色を有する生体適合性の導電高分子の被覆を含む。本開示は、組織への埋込み後に長期にわたり電気的に安定であり、比較的非生分解性であるが生体適合性に優れ、ケイ素、白金、イリジウム、酸化インジウムスズ及びタングステンゴム及びプラスチック等の一般に使用される電極及び微小流体材料よりも低いレベルの免疫反応性を惹起することができる導電高分子のナノチューブ及びナノ粒子もさらに含む。特定の実施形態では、導電高分子のナノチューブ又はナノ粒子は、これらに限定されないが、薬剤及び増殖因子をはじめとする多様な生理活性物質を取り込んで、これらを高度に制御して維持及び放出して、特異的なタンパク質又は生体分子と生細胞との相互作用を促進することができる。これらの生理活性物質は、生分解性ナノ繊維中に、静電紡糸法をはじめとする、いずれかの一般に知られているナノスケールの加工方法によって組み込むことができる。次いで、ナノチューブを、静電紡糸したナノスケールの繊維の周囲に導電高分子を電気化学的に堆積させることによって形成する。これらの強化された、生体適合性の導電高分子のナノチューブ及びナノ粒子を活用して、導電高分子のナノチューブ又はナノ粒子に生理活性をもたらすことができ、さらには、特異的な刺激によって引き起こされる、導電率の可逆的な変化を可能にし、それによって、高分子の膜を生体分子の感知装置として働かせることもできる。いくつかの実施形態では、本教示に記載する装置は、生理活性物質が送達される前又は後に、刺激及び/又は感知の装置として機能することができる。いくつかの実施形態では、導電高分子のナノチューブ又はナノ粒子は、低い電気インピーダンス及び広大な表面積を有する、柔軟な微毛のある材料であってよい。大きな表面積は、電極と標的組織との間の最大の電荷移動を促進するのに理想的であり得、高分子の柔軟性は、軟組織と硬い装置の表面との間の界面における機械的ひずみを、金属製の電極と比較して低下させることができる。開示する導電高分子の電極は、現存する電極に基づいた生物医学装置に代わって、新規の大きな表面積の、柔軟な、生体適合性の電気的に安定な表面被覆として使用することができ、この電極によって、組織と装置との間の界面における低下した免疫反応性及び改善されたシグナル伝達が得られる。
【0018】
電極基材の表面上でパターン形成させた導電高分子の使用は、イオン的に伝導性の組織から電子的に伝導性の電極アレイへの信号の運搬を促進する。特定の実施形態では、本開示は、標的ナノ送達及びナノろ過の能力を有する、新規の導電高分子のネットワークをもたらし、さらには、生分解性のナノ繊維及びナノ粒子の周囲に、導電高分子を、場合によっては、生細胞並びにヒドロゲルをはじめとするその他の生物学的骨格並びにコラーゲン、アルギン酸、ゼラチンをはじめとする複雑な多糖及びタンパク質に基づいた骨格の存在下で重合するための工程を提供し、その結果、電極に基づいた基材の表面と生物学的実体との間を密接且つ直接に接触させる能力を有する装置が得られる。本明細書で定義する場合、生物学的実体は、いずれかの生物学的な臓器、組織、細胞、細胞成分又は例えば、酵素及びその他の細胞の構成要素をはじめとする構成要素である。
【0019】
A.電極組成
電極基材
電極基材は、いずれかの導電性材料及び一群の導電性材料を含むことができる。いくつかの例示的な電極基材の構成が記載されており、その他の構成も使用し得ることが理解できよう。非限定的な実施形態では、電極基材は、これらに限定されないが、金(Au)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、タングステン(W)、ステンレス鋼(SS)、酸化インジウムスズ(ITO)、亜鉛、チタン(Ti)並びにそれらの合金及び酸化物をはじめとする金属で製造することができる。本開示において有用なその他の導電性電極基材は、炭素、炭素複合材料、導電性セラミック、例えば、ドープケイ素(Si)、並びにポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリジオキシチオフェン及びこれらの組合せをはじめとする、電子を伝導することができる導電高分子を含む。
【0020】
特定の実施形態では、導電性基材を、電気的にバイアスをかける又は刺激する装置及び電気的な検出又は感知の装置と接続することができる。いくつかの実施形態では、電極基材は、定電流でバイアスをかけることができる。定電流は、AutoLab Potentiostat/Galvanostat(EcoChemie、オランダ)、又は直流(DC)を0.1〜100μA/mmで高分子の膜の所望の厚さに依存して0から360分までの範囲に及ぶ一定期間にわたり送達することができる何らかの同様な機器を使用して、電極に適用することができる。モノマーの、電極基材の周囲の電気化学的な酸化/還元の結果、生理活性物質をあらかじめ取り込んだナノ繊維の周囲を場合によっては生細胞の存在下で被覆する導電高分子の膜及びネットワークを形成し、それによって、導電高分子及び場合によっては細胞で被覆されたナノ繊維を包埋し、ナノ繊維を導電高分子の骨格内に固定化することができる。
【0021】
生体適合性ナノ繊維
種々の実施形態では、電極基材は、ナノ繊維製の生体適合性且つ生分解性である骨格のネットワークと接触している。ナノ繊維は、多様な方法で生成することができる。いくつかの実施形態では、軍事用衣類、ナノろ過及び組織工学の分野において使用される、これらに限定されないが、静電紡糸、溶融紡糸及び繊維の押出し成形の技術をはじめとする、いずれかの一般に知られている、ナノ繊維の生成方法を使用して、ナノ繊維を生成することができる。一般的な静電紡糸技術を、Formhals,A.、「人工繊維を調製するための工程及び装置(Process and Apparatus for Preparing Artificial Threads)」、米国特許第1975504号、1934年10月2日;Chun,I.、米国特許第6753454号 Smithら、2004年;Reneker,D.H.、Fong,H.、Fang,X.、Deitzel,J.、Beck Tan,N.、Kearns,K.、「ポリアクリロニトリル及びメソフェーズピッチからのナノ繊維(Carbon Nanofibers from Polyacrylonitrile and Mesophase Pitch)」、Journal of Advanced Materials、Volume 31、Number 1、January 1999、pages 36−41;並びにReneker,D.H.及びChun,I.、「静電紡糸によって生成した、高分子のナノメートル直径の繊維(Nanometre Diameter Fibres of Polymer,Produced by Electrospinning)」、Nanotechnology、Volume 7、1996、pages 216−233に見出すことができる。
【0022】
種々の実施形態では、ナノ繊維又はナノ粒子を作製するために使用する高分子は、分解性高分子、例として、ポリ(d、乳酸)(PDLA)、ポリ(l、乳酸)(PLLA)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)(PLGA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)及びそれらの誘導体、ポリ(イプシロンカプロラクトン)(PCL)、キトサン、ナイロン、PEOxide、アルギン酸、ポリビニルアルコール、並びにそれらの組合せのうちの1つ又は複数を含むことができる。特定の実施形態では、ナノ繊維高分子の溶液は、電極基材上に直接静電紡糸することができる分解性高分子を含有する。堆積前のこの時点で、電極基材表面の付近又はその上で、高分子を、1つ又は複数の生理活性物質と混合することができる。種々の実施形態では、分解性高分子の生理活性物質に対する濃度は、1:99から99:1v/vまでの範囲に及び得る。高分子と生理活性物質との間の濃度比は、意図する適用、生成されるナノ繊維の量、生理活性物質のナノスケール送達の持続時間及び生理活性物質の濃度をはじめとする、いくつかの要因に依存し得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、静電紡糸工程が、約10から約1000nm、約20から約400nmまで、約50から約300nmまで、及び約100から約200nmまでの範囲のナノメートル直径を有する繊維を生成することができる。図3に示すように、PLGAのナノ繊維は、100〜1000nmの範囲に及ぶ直径を有し、直径の中央値が300〜700nmの間の範囲に及ぶことができる。
【0024】
種々の実施形態では、ナノ粒子は、いずれの形状であってもよく、一般に、実質的に球状、正方形、楕円形、多面体、多角形、粒状及び円筒形の形状を含むことができる個別の構造である。典型的には、ナノ繊維及びナノ粒子は、1mm未満の大きさ、0.5mm未満、0.1mm未満、1000ミクロン未満、100ミクロン未満又は10ミクロン未満の大きさであってよい。
【0025】
電気伝導高分子の被覆
本開示の特定の実施形態では、導電高分子は、望ましい特色を与えることができ、例えば、組織への埋込み後に長期にわたり電気的に安定であり、比較的非生分解性であるが生体適合性に優れ、ケイ素、白金、イリジウム、酸化インジウムスズ及びタングステン等の一般に使用される導電性材料よりも低いレベルの免疫反応性を惹起する。さらに、本開示による導電高分子は、高い導電率、化学的安定性に関する特性を示すことができ、生体適合性の高分子電解質、例えば、生理的緩衝液中のポリ(スチレンスルホン酸)の存在下で重合又は堆積させることができる。本明細書で使用する場合、導電高分子(conducting polymer)は、電子を伝導することができる高分子であり、導電性高分子(conductive polymer)と互換的に使用する。本開示の特定の実施形態では、導電高分子は、これらに限定されないが、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(ピロール)、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリチオフェン、それらの高分子のブレンド、及び電子又はイオンを伝導する能力を有する複合材料、及び電気的又はイオン的に伝導性である高分子−金属のハイブリッド材料を含むことができる。導電高分子のうちのいくつかの代表的な構造を、図1に示す。
【化1】


解説すると、本開示が企図する導電高分子は、電子を非局在化させる能力を有する共役パイ結合型骨格を有する。
【0026】
導電高分子は、典型的には、重合のため及び電極−組織の界面を越える電気伝導性のために、対イオンを必要とする。導電高分子は、高分子電解質を用いて分子レベルで連絡させる。電子の非局在化は、導電高分子の骨格中の共役二重結合の存在の結果である。導電高分子を電気伝導性にするためには、可動性の担体を二重結合内に導入する必要があり、これは、酸化反応又は還元反応(「ドーピング」と呼ばれる)によって達成される。ドーピングの概念は、導電高分子を、全てのその他の種類の高分子と区別する。この工程に、無機半導体のドーピングにならって、高分子鎖中に注入した電荷の正又は負の符号に関して、p−ドーピング又はn−ドーピングを割り当てることができる。これらの電荷は、ドーパントと呼ばれる対イオン(アニオン又はカチオン)の組込みによって中和され、非局在化状態を維持する。特定の実施形態では、導電高分子を重合するのに使用するイオン性の電解質又はドーパントは、これらに限定されないが、ポリ(スチレンスルホン酸)、LiClO4、リン酸緩衝食塩水(PBS)、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)、コラーゲン、ポリ−D−リシン(PDL)、ポリ−L−リシン、ポリ−オルニチン、ポリアクリル酸、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)、p−トルエンスルホン酸(p−TSA)及びこれらの組合せを含む。
【0027】
内部の織り目は、PLLA/PLGAの静電紡糸ナノ繊維の外部の織り目から折り返す。PEDOTのナノチューブの壁の厚さは、約1nmから約1000nmまで異なることができ、ナノチューブの直径は、約10nmから約2000nmに及んだ。重合時間を制御することによって、薄い壁(より短い堆積時間)又は厚い壁(より長い堆積時間)を有する管状構造を再現性よく調製することができた。種々の実施形態では、導電性高分子で被覆したナノチューブ又はナノ空洞は、電気的に収縮性である。すなわち、導電性のナノチューブ又はナノ空洞は、導電高分子及び周囲の電気刺激及び酸化還元により、収縮又は拡張させることができる。いくつかの実施形態では、壁が導電性高分子で作製されており、必要なドーパント又は対イオンが提供されている場合のナノチューブ又はナノ空洞は、導電高分子のナノチューブ又はナノ空洞が、電気的に刺激されて収縮すると、生理活性物質をナノチューブ又はナノ粒子の管腔からナノチューブ又はナノ粒子中の細孔又はその他の開口部を通して流出させるのに必要な物質移行をもたらすことが可能となる。いくつかの実施形態では、電気伝導性基材へ電圧を印加して、生理活性物質をナノチューブ又はナノ粒子から放出させることができる。約±0.1Vから約±5Vまでの範囲に及ぶ正又は負の電圧を0.01から1V/秒の間の走査速度で0.1秒から6時間の期間にわたり用いた電気的な作動により、全量又は特異的な量の生理活性物質をナノチューブから放出させることができる。
【0028】
放出される薬物の量及び薬物放出の速度に関して、ナノチューブ又はナノ粒子から薬物を制御して放出するためには、収縮又は拡張の程度は、再現可能であり且つ制御されるいくつかの要因に依存することができ、それらの要因は、導電高分子の化学的な構造、電極間に適用される電荷の規模、電荷の性質、電子の伝達を促進するために使用される対イオン又はドーパントの大きさ、及び対イオンの化学的性質を含むことができる。生理活性剤の制御放出は、予想に反して且つ驚くべきことに、電極基材に印加する電圧の規模を制御し、それによって、ナノチューブ及びナノ粒子を作動させて収縮させることによって再現可能になっている。
【0029】
ナノチューブの作動を電気化学的に制御するために、従来の4電極構成を有するAutolab PGSTAT 12(EcoChemie、Utrecht、オランダ)定電流/定電圧、又は同様に装備された電源を使用することができる。いくつかの実施形態では、白金線を対極として、及びAg/AgCl電極を参照電極として使用することができる。1Vの正の電圧を0.1V/秒の走査速度で10秒間(電荷密度0.8C/cm)1回又は特定の複数回印加することによって、薬物を取り込んだPEDOTのナノチューブを作動することができる。PEDOTのナノチューブの還元の間(正の電圧バイアス)に、電子が鎖内に注入され、高分子鎖中の正の電荷が相殺される。全体的な電荷の中性を維持するために、負に帯電した対イオンは、溶液に向かって排出され、ナノチューブは収縮する。したがって、PEDOTの収縮は、機械的な力を発生して、ナノチューブ内部に圧力を生み出すことができる。ナノチューブ内部の流体力は、ナノ繊維の分解産物及び生理活性物質の、おそらくPEDOTのナノチューブの末端、又は電気的な作動によって生み出された、ナノチューブ表面上の開口部、細孔若しくは割れ目のいずれかを通しての排出を引き起こす。
【0030】
生理活性物質
生理活性物質は、ナノ繊維又はナノ粒子の加工工程を妨げることがない、1つ又は複数の既知の生物学的に活性な物質を含むことができる。種々の実施形態では、生理活性物質を選択して、ナノ繊維を加工するために使用する高分子と混合することができ、生理活性物質は、投与又は送達して、いずれかの正常又は病的な組織又は状態を診断、予防、治療又は評価することができる、いずれの薬物、薬学的活性剤、増殖因子、脂質、ステロイド、神経伝達物質、酵素、アミノ酸、ポリペプチド、単純及び複雑な糖類、多糖類及び糖類誘導体をはじめとする炭水化物、糖タンパク質、糖脂質、抗悪性腫瘍剤、抗増殖剤、抗血栓形成剤、抗凝血剤、血小板凝集抑制剤、抗生物質、抗炎症剤、遺伝子治療剤、治療用物質、有機薬物、医薬化合物、DNA、RNA、cDNA、RNAiをはじめとする核酸及びポリヌクレオチド、siRNA及びshRNAをはじめとするアンチセンス剤、ヌクレオチド模倣薬、コラーゲン、コラーゲン性誘導体、タンパク質、又はそれらの組合せも含むことができる。
【0031】
いくつかの実施形態では、アンチセンス薬物を、ナノチューブ又はナノ粒子によってin situで送達することができ、転写又は翻訳のレベルで機能させて、疾患を引き起こすタンパク質が発現又は生成する過程を遮断することができる。
【0032】
抗悪性腫瘍剤は、電極に基づいた、ナノチューブ又はナノ粒子の装置、例えば、ステントの近傍の癌細胞の増殖及び拡散を予防する、死滅させる又は遮断することができる。抗増殖剤は、電極に基づいた装置の周囲で細胞が増殖するのを予防する又は停止させることができる。
【0033】
抗血栓形成剤は、アテローム生成部位又はプラーク閉塞部位において、積極的に、血栓形成を遅延させる又は炎症を低下させることができる。抗凝血剤は、へパリン及びクマリン等の化合物を使用する抗凝血剤治療を用いて血液の凝固を遅延させる又は予防することができる。血小板凝集抑制剤、例えば、Plavix(登録商標)は、血液の血小板の機能を変化させて、血液凝固における血小板の活性を阻害することができる。抗生物質は、微生物を死滅させ、且つ/又はその増殖を阻害することができる。抗炎症剤を使用して、電極ナノチューブ又はナノ粒子装置の近傍の炎症に対抗する又はそれを低下させることができる。
【0034】
周囲組織の遺伝子の形質転換を、当技術分野で一般に知られている遺伝子操作の技術を用いて達成することができる。そのような技術の適用に関する手引きを、それらの内容が参照によって本明細書に組み込まれているAusubelら編、1995、Current Protocols in Molecular Biology、及びSambrookら、1989、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、NYに見出すことができる。
【0035】
アデノウイルス又はアデノ随伴ウイルスを含む遺伝子治療ベクターは、特異的なDNA配列を含有することができ、このDNA配列は、適切なベクターの媒体を使用して患者に感染させるために使用すると、ヒトの遺伝子[複数の遺伝子]の発現を変化(増加又は減少)させて、疾患を治療、治癒又は究極的に予防することができる。ナノチューブ又はナノ粒子の内部に含有させたウイルス又はウイルスベクターを、戦略的に且つ制御して部位に放出させることができ、ウイルスが、導入遺伝子又はRNAi分子の効果を発揮すること、例えば、siRNA又はshRNAの配列の発現が可能になる。生理活性物質は、疾患又は障害を、低減、阻害又は緩和する、いずれの治療用物質であってもよい。有機薬物は、いずれの小型分子の治療用材料であってもよい。医薬化合物は、治療効果をもたらす、いずれの化合物であってもよい。組換えDNA産物又は組換えRNA産物は、疾患を治療するために使用する、いずれの変化させたDNA又はRNAの遺伝子材料も含むことができる。診断に且つ/又は医薬品として価値がある生理活性物質はまた、コラーゲン及びその他のタンパク質、酵素、糖類、並びにそれらの誘導体も含むことができ、例えば、酵素であるグルコースオキシダーゼを、糖尿病患者において使用するためのグルコースセンサーとして活用することができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、本開示の、電極に基づいた、ナノチューブ又はナノ粒子の装置は、これらに限定されないが、埋込み型グルコースセンサー、深部脳刺激装置、心臓ペースメーカー、「スマートな」カテーテル、作動型血管ステント、皮質、蝸牛及び網膜の補綴、並びに自動化された薬物放出の媒体を含むことができる。種々の実施形態では、生理活性物質は、脳、心臓及び筋系の組織を、治療する、診断する又は増殖させるために使用される、いずれの薬剤、診断剤又は増殖剤であってもよい。いくつかの実施形態ではまた、本開示の、電極に基づいた、ナノチューブ又はナノ粒子の装置を使用して、電気的に活性な組織又は細胞のイオン的又は電気的な出力を、感知及び/又は測定する、例えば、心臓細胞、脳細胞又は筋肉細胞の導電率を、例えば、特異的な薬物又は生理活性剤を、記録部位の近傍で放出させた後で測定することができる。ナノチューブ又はナノ粒子は、治療剤又は診断剤の送達後の生理学的な応答を感知及び測定して、治療した細胞又は組織の生物学的な応答を決定することができる。
【0037】
本教示の電極に基づいた装置は、冠動脈再狭窄、心血管再狭窄、血管造影再狭窄、動脈硬化症、過形成、並びにその他の疾患及び状態をはじめとする、種々の心臓の状態における使用のための装置を含むことができる。例えば、生理活性物質を選択して、血管の再狭窄、すなわち、ステントが留置されている生体の管腔の直径の狭小化又は狭窄に対応する状態を阻害又は予防することができる。生理活性剤は、一般に、細胞の増殖、細胞の凝集及び化学走性を制御することができる。いくつかの実施形態では、細胞の増殖の制御は、標的とする細胞又は細胞型の増殖の増強、又は例えば、増殖中の癌細胞の阻害を含むことができる。
【0038】
B.製造方法
種々の実施形態では、電極に基づいた装置は、双方向性の電気伝導が可能であり、電流を導電高分子のナノチューブに適用し、次いで、ここから、保存されていた薬物、医薬品、増殖因子及びその他の生理活性物質を、制御して且つ特異的に放出させることによって、生理活性物質のナノスケールからマイクロスケールの送達を実施することができる。加工工程は、ナノ繊維又はナノ粒子を適用する電極基材を提供するステップを含むことができる。種々の実施形態では、電極基材は、電子を伝導することができる、いずれかの装置、例えば、図2に示す微細加工した神経補綴装置及び図2Eのプローブであってよい。ナノ繊維又はナノ粒子は、図2B及び2Fに示すように、電極基材上で、静電紡糸、溶融紡糸及び繊維の押出し成形の工程によって合成して適用することができる。種々の実施形態では、ナノ粒子は、種々の形状、長さ及び方向性の構造を含むことができる。いくつかの実施形態では、生理活性物質(複数の生理活性物質)を、繊維以外の幾何学的形状、例えば、ナノ球体、ナノ円筒及びナノ小滴等の中に被包することができる。ナノ繊維を製造するために使用する高分子に、最適な1つ又は複数の生理活性物質を取り込ませて混合することができる。次いで、図2Fに示すように、ナノ繊維を、電極基材の周囲に適用する。いくつかの実施形態では、複数(すなわち、2種以上)のナノ繊維を、電極基材の表面に適用することができる。図4(a〜d)に示すように、ナノ繊維又はナノ粒子を、電極基材の表面上に置いてもよいし、別法として、導電高分子の被覆を、電極基材表面上に置き、続いて、ナノ繊維又はナノ粒子を導電高分子上に置いてもよい。次いで、分解性のナノ繊維又はナノ粒子と少なくとも部分的に接触している又は間接的に接触している電極基材を、電気伝導モノマー、例えば、ピロール及び/又はEDOTと、適切なドーパント、例えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)(大型分子)、過塩素酸リチウム(小型分子)等、アニオン/カチオンのいずれかの型とを用いて被覆することができ、次いで、図2G及び2Hに示すように、従来の4電極構成を用いて定電流モードの電流又は定電圧モードの電圧を適用することによって、ナノ繊維の周囲で電気化学的に重合することができる。この電気化学的重合において使用する方法は、「微細加工神経プローブ上の界面活性剤を鋳型として規則的に並べられたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)導電高分子(Ordered surfactant−templated poly(3,4−ethylenedioxythiophene)(PEDOT)conducting polymer on microfabricated neural probes)」、Yangら、ActaBiomaterialia(2004)に記載されており、その全体が本明細書に組み込まれている。
【0039】
種々の実施形態では、導電性モノマーは、1つ又は複数の生理活性物質を含有するナノ繊維又はナノ粒子の上に重合することができる。図3に示すように、導電高分子で被覆したナノ繊維又はナノ粒子は、約1nmから約200nmまでの範囲に及ぶ、種々の大きさの細孔を含むことができるが、通常はナノ繊維又はナノ粒子の直径未満である。細孔は、被覆されたナノ繊維又はナノ粒子の長さに沿って無作為に分布してよく、場合によっては、細孔又は開口部は、図5に示すように、ナノチューブの終端に見出される。
【0040】
導電高分子はまた、ナノ繊維の周囲に、酸化重合及び化学気相堆積(CVD)を使用して適用することもできる。本開示で意図する、ピロール及びエチレンジオキシチオフェンの導電高分子の酸化重合は、Hatano,T.ら、(2004)Chemistry,10:5067−75によって記載されている方法をはじめとして、当技術分野で一般に使用されている。
【0041】
いくつかの実施形態では、電極基材の1つの表面上を、1つのナノ構造、例えば、1つの型の生理活性物質を取り込んだナノ繊維で被覆し、もう1つの電極基材表面又は電極基材表面の一部を、異なる生理活性物質を含有する第2のナノ粒子又はナノ繊維で被覆して、二相性の粒子を形成することができ、1つの生理活性物質が、1つの種類の電気刺激によって放出され、一方、第2の生理活性物質が、同一又は異なる規模の逆の電荷又は電圧バイアスによって放出される。
【0042】
いくつかの実施形態では、ナノ繊維又はナノ粒子を、許容される溶媒、例えば、図6に示すように、PGLAのナノ繊維を使用する場合には、ジクロロメタンを使用して、埋め込む前に分解して、生理活性物質を導電高分子のナノチューブ又はナノ粒子の管腔中に残すことができる(図6C〜6Dを参照)。いくつかの実施形態では、1つ又は複数の生理活性物質を含有するナノ繊維又はナノ粒子を、生理活性物質を化学的に変化、分解、変性させない、若しくはその活性を実質的に低下させない、許容される溶媒を用いて分解する場合、又は導電高分子で被覆した後で自然に時間と共に分解させる場合のいずれにおいても、ナノ繊維又はナノ粒子が以前は占有した、残余の空間が、管腔として画定され、導電高分子の被覆によって囲まれる。いくつかの実施形態では、ナノ繊維又はナノ粒子は、in−situで緩慢に分解して、導電高分子のナノチューブ中に捕捉された複数の生理活性物質を残すことができる。図6を参照されたい。
【0043】
いくつかの実施形態では、生理活性物質を取り込んだナノ繊維又はナノ粒子の適用前に、電極基材の表面上で細胞を増殖させてもよく、又は導電性モノマーの適用及び電気化学的重合のステップの前に、ナノ繊維のネットワークの裂け目及び細孔の中に細胞を増殖させてもよい。いくつかの実施形態では、ナノ繊維のネットワーク又はナノ粒子を電極基材の1つ又は複数の表面上に有する電極基材を、組織又はヒドロゲルの骨格中に埋め込むことができる。EDOT及び/又はピロールを、電極基材−ナノ繊維のネットワークに送達して、in−situ(組織中)で又は細胞を含有するヒドロゲルの骨格中で重合して、1つ又は複数の生理活性物質を含有する、細胞及びナノ繊維を鋳型とするナノチューブをもたらすことができる。
【0044】
C.使用方法
特定の実施形態では、本装置は、例えば、改善された微小電気機械システム(MEMS)、中枢神経系(CNS)への長期の埋込みのための電極に基づいた装置の製造において有用である。本開示はまた、心臓及び筋肉骨格の電気生理学的装置並びに埋込み型の電気的及び生体分子のセンサー並びに薬物送達装置の新しい世代の開発にも適用できる。種々の実施形態では、本開示は、現存及び将来の生物医学装置の技術に容易に適合できる生体材料を有する、電気的に安定であり、生理活性を有し、生体適合性を高くすることができる装置を提供する。本開示による感知、記録及び薬物送達のための装置を、次世代のMEMS装置の開発に組み込んで、信頼性、性能並びに大きさ及びコストの低減における改善をもたらすことができる。いくつかの実施形態では、本開示が意図する微小電極に基づいた生物医学装置を、体内への長期の埋込みのために使用して、麻痺、感覚の欠損及び慢性疼痛、並びにパーキンソン病、アルツハイマー病、てんかん、心臓疾患、糖尿病及び癌等の疾患を有する患者を治療することができる。
【0045】
いくつかの実施形態では、患者の疾患を治療するための方法は、電気的に媒介される薬物送達装置を提供するステップを含む。この装置は、(A)第1及び第2の電気伝導性基材と、(B)少なくとも一部の第1の電気伝導性基材と接触している、複数の電気的収縮性ナノチューブとを含む。複数のナノチューブは、少なくとも1つの開口部、細孔又はすき間を有する。ナノチューブのうちのいくつかは、疾患の治療に有効である少なくとも1つの生理活性物質を含有する管腔を有する。ナノチューブを、第1及び第2の電気伝導性基材のうちの1つ又は電極のいずれかに動作可能に接続している電源を用いて電気的に作動させることによって、生理活性物質を放出することができる。装置を、患者の治療部位と接触させて又はその付近に留置することができる。装置の第1及び第2の電気伝導性基材のうちの少なくとも1つに又は電極に電圧を印加すると、生理活性物質を放出することができる。このようにして、電流を、電気伝導性ナノチューブに供給し、それによって、ナノチューブを収縮させ、それに付随して、治療部位において又はその付近で、1つ又は複数の生理活性物質を、ナノチューブの管腔から開口部を通して放出させる。
【0046】
本開示のいくつかの実施形態では、本明細書で開示する装置を使用して、薬物及び生理活性物質の、制御的及び特異的な送達を促進することができる電気的な刺激及び感知を提供することができる。良好に実施することができる本開示が現在意図する、薬物送達及びナノろ過の能力を有する、ナノチューブ及び/又はナノ粒子で被覆された電極基材には多数の構成がある。種々の実施形態では、本開示を、皮質の記録/刺激、深部脳刺激装置、末梢神経電極、心臓の抗不整脈装置、筋肉刺激、外科的切除(てんかん治療)、pHモニタリング、グルコース感知、蝸牛インプラント及び網膜補綴のために、完全に組み込まれた、より効果的な埋込み型の電極を作り出すように適合させることができる。
【0047】
電池、DC又はACの電源へ直接つながる線を含むことができ、電気化学的重合のために導電性モノマーに対して、且つ/又はナノチューブ若しくはナノ粒子を刺激して保存されていた生理活性物質を隣接する又は局在化する標的の細胞又は組織に放出する目的で、入力される電気信号を制御するために、1つ又は複数のスイッチ又は可変抵抗器もさらに含むことができる電力供給装置に、本明細書に記載する装置を接続することができる。種々の実施形態では、電源を、対極及び/又は参照電極に接続することができる。いくつかの実施形態では、使用中は、電極を、脊髄液、血液、神経細胞、脳、心臓及び筋肉組織等の生理的な媒体と接触させることができる。装置はまた、パルス発生器、高周波変調器、計数器、並びに電気出力及び記録の機能のための記録装置をはじめとする、高度な電流送達装置及びコンピュータ/CPUに接続することもできる。さらに、少なくとも一部のナノチューブ及びナノ粒子で被覆された電極基材の進歩的な生体模倣性の特色に加えて、生理活性物質を電気刺激に応答して送達する能力は、疾患の治療及び組織の再生において、新規の且つ改善された様式を提供する。さらに、薬物を取り込んだ導電高分子のナノチューブ及びナノ粒子は、生体適合性に優れ、電極に基づいた生物医学装置のために、低い電気インピーダンスの、細胞を引き付ける、広い表面積の、電気的に活性な被覆を有する。
【0048】
本開示は、電気的に感知及び刺激する生物医学装置の適用例の場合には、1つ又は複数の薬物の正確な制御放出のための導電性のナノチューブ又はナノ管状の構造を提供する。電気伝導ナノチューブ及びナノ粒子による標的送達は、導電高分子の電気刺激を使用して、所望の時点で個々の薬物及び生理活性物質を放出することによって正確に実施することができる。本開示によると、本明細書に記載する方法は、低いインピーダンスの、生物学的に活性な高分子被覆を生み出す、一般的に有用な手段を提供する。この手段は、電気的に活性な装置の生体組織への組込みを促進することができる。本開示が包含する装置のその他の生物医学的な適用例は、神経突起の伸長の高度に局在化した刺激並びに神経細胞の増殖及び分化の因子を使用する神経組織の再生の誘導を促進する、分子を溶出する、電気的に活性な高分子のナノチューブを含む。
【0049】
いくつかの実施形態では、本開示は、特異的な細胞集団の切除及び薬学的な変質ための、薬物送達を時間的及び空間的に制御する感知装置を提供する。本開示の薬物及び生理活性物質を取り込んだナノチューブ及びナノ粒子はまた、神経補綴及びバイオセンサー上の微小電極を機能化するためにも使用することができる。しかし、生体適合性、非分解性の高分子を含む電気伝導性ナノチューブのネットワークを有する又は導電性、生体適合性、非分解性の高分子であらかじめ被覆され、生理活性物質を取り込んだナノ粒子を有する電極基材を含む電気伝導薬物送達装置はまた、有機化学、生物医工学及び薬学等の広い範囲の分野にも適用されることを予想し得る。改善された設計は、生体医学装置の埋込み部位の内部及びそれに隣接する、細胞をはじめとする生体組織と、最近までは、もっぱら細胞自体に限られた領域であったシグナル伝達機構を介して相互作用することができる、新しい世代の生体材料となる。
【0050】
いくつかの実施形態では、適切な微小流体装置を考案して、小型化した精度が高いバイオセンサーとして働かせることができる。微小流体装置は、種々の流体の出入のための複数の導管又は微小流路を有する基材、分析対象及び試薬を含む。基材は、いずれかの生体適合性材料、例えば、ケイ素、ケイ素誘導体、プラスチック、ポリオレフィン、ガラス又はセラミックで作製することができる。基材表面に機械加工する又は連動させることができる、反応流路又は反応槽中の溶液の導電率を測定するための1つ又は複数の微小電極と、微小流路のうちの少なくとも1つが流体連絡している。反応槽はまた、酸化還元状態、イオンの活性の変化を感知して送信すること並びに/又は化学種間、例えば、酵素とその媒介物及び/若しくは基質との間の電荷の移動を測定することができる、導電性高分子のナノチューブ又はナノ粒子を場合により含有してもよい。微小流路に適した寸法は、約1ミクロンから約1ナノメートルまで、又は約10ミクロンから約1000ミクロンまで、又は約20ミクロンから約500ミクロンまで、又は約50ミクロンから約100ミクロンまでの範囲でよい。
【0051】
いくつかの実施形態では、生物学的センサーは、ガラス、セラミック、ケイ素、ポリカーボネート、ポリスチレン又はポリジメチルシロキサン(PDMS)をはじめとするプラスチックで作製した基材を含む。センサーは、試料を受けるための1つ又は複数の注入口の微小流路、例えば、微小流路no.1(流体no.1)、反応槽(反応no.1)を含有することができる。別の流体注入口の微小流路(流体no.2)もまた、反応槽no.1に対して開いているが、微小流路no.1とは流体連絡していない。反応槽は、少なくとも1つの金属製の電極、例えば、白金電極と電気的に連絡している複数のPEDOTの導電性ナノチューブを有する。その他の参照電極及び/又は作用電極を、反応槽内に機械加工して、電場をもたらして、分析対象と標的酵素との間で発生する酸化還元反応を、例えば、サイクリックボルタメトリーによって検出することができる。
【0052】
そのような生物学的センサーの実際の適用は、リソグラフィーにより堆積させ、生理的緩衝液中のグルコースオキシダーゼを取り込ませたPEDOTのナノチューブを用いるグルコースの検出を含むことができる。血漿又は漿液のグルコースの定性的又は定量的な検出の前に、最初に、グルコースの既知の濃度を使用した標準曲線を使用して、微小流体装置の検出限界を外挿する。微小流体装置外の試験管中でフェロセンカルボン酸等の媒介物の溶液を15mMグルコース溶液に接触させることによって、グルコースの検出を実施することができる。次いで、この溶液を、微小流路中に注入して、サイクリックボルタメトリー実験を実施する。そのような微小流体装置中でのグルコースの検出は、媒介物が酵素及び電極のそれぞれによって還元及び酸化されることを意味する、ボルタモグラムの触媒性の形状の存在によって示すことができる。グルコースの検出が、この微小流体装置の内部で可能である。この手順を、異なる濃度のグルコースを用いて繰り返す。ただし、グルコースオキシダーゼを、導電性高分子のナノチューブ内部に含有させる。導電性高分子のナノチューブを反応槽中の電極を使用して電気的に作動させると、ある量のグルコースオキシダーゼが放出して、グルコース及び媒介物と反応する。
【0053】
いくつかの実施形態では、患者の血清又は血漿の試料を微小流路no.2中に注入(10〜1000nL)することができ、媒介物を微小流路no.1中に注入する。あらかじめ決定した電圧をナノチューブに印加して、あらかじめ決定した量のグルコースオキシダーゼを、ナノチューブの管腔から放出する。特定の電圧範囲を有する参照電極及び作用電極を使用して反応層中の場をスイープし、標準曲線からグルコースの量を外挿することによって、試験分析対象、すなわち、血清又は血漿中に存在するグルコースの量を検出することができる。複数の試料を多重化し、微小流体装置中に注入して、定量的に解析することができる。
【0054】
その他の実施形態では、電気的に作動させるナノチューブ及びナノ粒子を実施する、本明細書に記載する微小流体バイオセンサーを使用して、異なる酵素/基質又は抗体/抗原の検出システムを同様に設計及び実施して、定量的及び定性的な解析のために酵素/抗原又は抗体/抗原の特定の量を送達することもできる。当業者であれば、ナノチューブの管腔の内部に包埋された生理活性物質を置き換えて、診断又は臨床において重要である、いくつかのその他の重要な分析対象を同定することができる。例えば、癌抗原、例として、前立腺血清抗原、CA、19−9、CEA、EGFr、p53、p27を、本明細書に開示する微小流体装置を使用してスクリーニング及び測定することができる。その他のマーカー、例えば、アミロイド−ベータペプチド等のアルツハイマー病に特異的な作用物質を、生理活性物質が前記マーカーに対する抗体である場合には検出することができる。同様に、心筋梗塞等の心臓の疾患及び状態についてのマーカーを、トロポニンI、トロポニンT、ミオグロビン等の心停止に関係する試験分析対象を使用して、心臓マーカーに特異的な抗体を生理活性物質として使用して決定することもできる。
【0055】
本開示の特定の実施形態では、導電性ナノチューブの骨格中に捕捉される細胞は、幹細胞又は神経前駆細胞を含むことができる。神経前駆細胞に対する電気刺激、及び神経増殖因子の送達は、組織の疾患又は外傷の地点においてex−vivo及び/又はin−situで実施することができる新規の生合成パラダイムの代表である。周囲組織における電気信号の記録及び電気信号パルスの発生に加えて、埋め込まれた細胞に基づいた、導電性のナノチューブ又はナノ粒子の装置の付近の組織の再生を、埋め込まれた幹細胞/前駆細胞によって刺激された過程、例として、増殖因子の分泌、内因性幹細胞の組織損傷部位への動員、及び内因性の神経形成の誘発によって促進することができる。いくつかの実施形態では、薬物及び生理活性物質を放出するナノチューブ及びナノ粒子は、細胞のパターン形成をもたらし、それによって、細胞をナノチューブ及びその他のナノ粒子に沿って移動させることができる。これらの過程はまた、異物の組織内への挿入によって通常であれば発生する免疫応答の有害な早期の段階を回避するのに役立つこともできる。
【0056】
本開示の特定の実施形態では、導電高分子のナノチューブ又はナノ粒子を、生体組織内部に直接堆積させ、それによって、電極の埋込みの間及び後での電極の損傷及び組織の損傷の可能性を低減することができる。特定の実施形態では、得られた、細胞に基づいた導電性電極を、生細胞の細胞膜と密接に接触させることができる。特定の実施形態では、生理活性物質を取り込んだ、静電紡糸したナノ繊維を含む埋め込まれた生理活性物質の薬物送達装置の表面からの三次元のナノチューブのネットワークの成長は、分子的に薄い高分子のナノチューブの電気的に接続された拡散したネットワーク、又はその他のナノ粒子、例として、細胞の周囲に紡がれたナノ球体を生み出して、組織を有効に神経支配することができる。
【0057】
本開示の特定の実施形態では、生理活性物質を取り込んだナノ繊維を含む電極基材を、ピロール及びエチレンジオキシチオフェン等の導電性モノマーで被覆し、続いて、生体組織内部で重合して、その結果、完全に組み込まれた、効果的な埋込み型電極、例えば、これらに限定されないが、皮質の記録/刺激、深部脳刺激装置、末梢神経電極、心臓の抗不整脈治療(例えば、AV結節性リエントリー頻拍及びその他の不整脈)、筋肉刺激、外科的切除(例えば、てんかん治療)、pHモニタリング、グルコース感知、蝸牛インプラント並びに網膜補綴を得ることができる。
【0058】
本開示による特定の実施形態では、生体適合性、埋込み型、ナノスケールの生理活性物質送達装置はまた、生細胞を播種したヒドロゲル内に実施することができる。いくつかの実施形態では、1つ又は複数の生理活性物質を取り込んだ、静電紡糸したナノ繊維の拡散したネットワークを有する電極基材を、アルギン酸、コラーゲン、ゼラチン、アクチン及びその他の細胞外マトリックス成分等の不活性な、天然又は合成のマトリックス成分を含むヒドロゲルの骨格内に直接埋め込むことができる。いくつかの実施形態では、ヒドロゲルに、幹細胞及びその他の前駆細胞、筋細胞、神経細胞並びに電気的に活性な細胞をはじめとする、細胞を播種することができる。生理活性剤を取り込んだナノ繊維を含む生理活性物質送達装置を調製する場合、電極基材及び細胞を播種したヒドロゲルが骨格を形成する。いくつかの実施形態では、導電性モノマーを用いて、電極及びナノ繊維の一部又は全部を被覆してよい。いくつかの実施形態では、導電性モノマーをナノ繊維及び少なくとも一部の電極基材の周囲で重合した後に、ナノ繊維及びヒドロゲルの骨格を、導電高分子で被覆することができる。生体適合性ヒドロゲル高分子は、生細胞の栄養的及び物理的な支援環境として及びナノスケールの正確な生理活性物質の送達を可能にするマイクロメートル及びナノメートルの薄さのナノチューブの拡散した、導電高分子の電極のネットワークを生み出すための骨格としての両方で役に立つ。特定の実施形態では、ヒドロゲル材料は、極めて柔軟、親水性且つ「組織様」であり得、したがって、生物医学装置を被覆するのに十分に適しており、装置の埋込みの間の宿主組織に対する外傷性傷害のレベルの低減を可能にする。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
薬物を充填したナノチューブを有する導電高分子の電極
PLLA及びPLGAは、ナノスケールの繊維に容易に加工することができるので、鋳型として適した高分子であるとみなされた。最初に、生分解性のPLLA又はPLGAのナノ繊維を、神経プローブの表面上に静電紡糸し、その後、導電高分子を、静電紡糸したナノ繊維の周囲に電気化学的に堆積させた。PLLA/PLGAのナノ繊維及びデキサメタゾンを取り込んだPLGAのナノ繊維を、静電紡糸によって調製した。4%(w/v)のPLLA濃度を有する均一な溶液を得るために、0.72gのPLLAを10mlのクロロホルム中に50℃の温度で10時間かけて溶解させることによって、PLLA溶液を調製した。15%(w/v)の濃度を有する均一な溶液を作製するために、2.7gのPLGA及び10mlのクロロホルムからなるPLGA溶液を、55℃の温度で5時間撹拌した。また、2.5gのPLGA及び0.675gのデキサメタゾンの混合物も添加した。続いて、ナノチューブを、導電性モノマーであるEDOT及びピロールで被覆し、電極部位及びデキサメタゾンを取り込んだPLGAのナノ繊維上で電気化学的に重合した。重合後、PGLAの芯の繊維を、被覆したプローブをジクロロメタン中に浸漬することによって除去した。電気化学的な工程を、急性用及び慢性用のプローブについて、各電極部位上で、従来の4電極構成を有する定電流モードのAutolab PGSTAT 12(EcoChemie、Utrecht、オランダ)によって、室温で実施した。EDOTモノマー(21.4μl)及びPyモノマー。
【0060】
ナノチューブの作動を電気化学的に制御するために、Autolab,PGSTAT 12(EcoChemie、Utrecht、オランダ)定電流/定電圧を、従来の4電極構成を用いて使用した。白金線を対電極として、及びAg/AgCl電極を参照電極として使用した。薬物を取り込んだPEDOTのナノチューブを、15個の試料について、1Vの正の電圧を0.1V/秒の走査速度で10秒間、5つの特異的な時点で印加することによって作動させた。図6のパネルGは、デキサメタゾンの導電高分子のナノチューブからの放出を示し、これは、5つの異なる時間間隔において、デキサメタゾンの導電高分子のナノチューブからの放出を、電気刺激後に大幅に増加させることができたことを示している:図6、パネルG。
【0061】
Autolab PGSTAT 12及びFrequency Response Analyzer(FRA)ソフトウエアを使用して、10個の神経プローブの電極部位のインピーダンスのスペクトルを記録した。サイクリックボルタメトリー(CV)を使用して、PEDOTのナノチューブを用いた表面の改変後の、電極を介する電荷移動能力を検討した(図7Bを参照)。微小電極を、−0.9から0.5Vまでの電位で、100mV/秒の走査速度でスイープした。図7Aに示すように、電気伝導ナノチューブの被覆を有するプローブは、その結果、裸の金属(金)製の電極と比較して、より低いインピーダンス及びより高い電荷移動能力を有する電極をもたらす。電気化学インピーダンス分光法(EIS)を使用して、1Hz〜100kHzの周波数の範囲にわたる高分子の被覆の導電率を探索した。1kHzにおけるインピーダンスは、神経細胞の活動電位の特徴的な周波数に対応するので、とりわけ重要である。全ての周波数にわたり、電極のインピーダンスは、PLGAの繊維の非導電性の層の静電紡糸によって、中等度に増加した。具体的には、1kHzにおけるインピーダンスは、約二桁分増加した(図7A)。しかし、このインピーダンスは、それに続く、導電高分子のナノチューブの堆積によって顕著に減少し、具体的には、1kHzにおけるインピーダンスは、約四桁分減少し、未改変の電極からは最終的に二桁分の減少となった(図7A)。インピーダンスを、1kHzにおいて、堆積時間の関数としてモニターすることにより、その他の導電高分子の膜について以前に見られたように、インピーダンスは、最初、劇的に減少し、次いで、緩慢に増加することが見出された。
【0062】
裸の金の部位の最初のインピーダンスは、1kHzにおいて、急性用のプローブ(1250μm)の場合、800±20kΩ、及び慢性用のプローブ(1600μm)の場合、4±0.08MΩであった。PEDOTをPLGAのナノ繊維の周囲に成長させることによって、インピーダンスの対応する値は、8±2kΩ(急性用のプローブ、18μCの総堆積電荷)及び1kΩ(慢性用のプローブ、18μCの総堆積電荷)の最小値まで減少した。これらの値は、PLGAの鋳型の繊維を除去し、ナノ管状のPEDOTを生み出した後では、4±1kΩ(急性用)及び800±85Ω(慢性用)にさらに減少した(図7A)。電極インピーダンスのこれらの極めて低い値は、これらのプローブのin−vivoにおける性能を顕著に増強することが予想される。結果的に、この方法からは、現在知られているいずれの被覆設計についても、電極面積を乗じた1kHzインピーダンスの最大の減少を得ている(急性用の場合、5MΩμm、及び慢性用の場合、1.3MΩμm)。
【0063】
電極部位のSEMの画像は、電気化学的堆積後には、PLGAの繊維の周囲のPEDOTの成長を示した。PEDOTは、電極部位の金の上で核形成し、PLLA/PLGAのナノ繊維の周囲で成長して、PEDOTのナノ繊維の3Dメッシュを生み出している。デキサメタゾンを含有する導電性ナノチューブを電気的に興奮させると、デキサメタゾンの放出量の顕著な増加が観察された。
【0064】
本発明の説明は、本来、単に例示するためのものであり、したがって、本発明の主旨から逸脱しない変形形態は、本発明の範囲に属することを意図する。そのような変形形態は、本発明の精神及び範囲から逸脱するとみなされてはならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の電気伝導性基材と、
少なくとも一部の前記第1の導電性基材上に被覆された複数の電気的収縮性ナノチューブであって、前記ナノチューブが少なくとも1つの開口部、及び内部に管腔を画定する、導電性高分子の壁を含み、前記管腔が少なくとも1つの生理活性物質を含有するナノチューブと、
前記第1及び前記第2の導電性基材に動作可能に接続された電源と
を含む薬物送達装置であって、
少なくとも一部の前記ナノチューブを電気的に作動させると、前記少なくとも1つの生理活性物質の放出が、前記1つ又は複数の開口部を通して前記の電気的に作動させたナノチューブから生じる、上記薬物送達装置。
【請求項2】
前記第1及び前記第2の電気伝導性基材が、金属、炭素複合材料、ケイ素、金属酸化物、導電性高分子又はそれらの組合せを含む、請求項1に記載の薬物送達装置。
【請求項3】
前記ナノチューブが、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(ピロール)、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリチオフェン又はそれらの高分子のブレンドを含む、請求項1に記載の薬物送達装置。
【請求項4】
前記ナノチューブが、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)を含む、請求項1に記載の薬物送達装置。
【請求項5】
ポリ(スチレンスルホン酸)、LiClO、リン酸緩衝食塩水(PBS)、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)、コラーゲン、ポリ−D−リシン(PDL)、ポリ−L−リシン、ポリ−オルニチン、ポリアクリル酸、血清、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)、p−トルエンスルホン酸(p−TSA)及びこれらの組合せからなる群から選択されるドーパントをさらに含む、請求項1に記載の薬物送達装置。
【請求項6】
前記生理活性物質が、薬学的活性剤、増殖因子、ポリペプチド、脂質、核酸、アミノ酸、受容体、ステロイド、炭水化物、糖タンパク質、糖脂質、神経伝達物質、抗悪性腫瘍剤、抗増殖剤、抗血栓形成剤、抗凝血剤、血小板凝集抑制剤、抗生物質、抗炎症剤、遺伝子治療剤、治療用物質及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の薬物送達装置。
【請求項7】
前記ナノチューブが、約10nmから約1000nmまでの範囲に及ぶ直径を含む、請求項1に記載の薬物送達装置。
【請求項8】
前記ナノチューブが、約1nmから約500nmまでの範囲に及ぶ壁の厚さを含む、請求項1に記載の薬物送達装置。
【請求項9】
第1及び第2の電気伝導性基材と、
複数の電気的収縮性ナノチューブであって、少なくとも1つの生理活性物質を含有する管腔を内部に画定する導電性高分子の壁を含み、少なくとも一部の前記第1の導電性基材上に被覆されたナノチューブと
を含む生体適合性の電極であって、
前記ナノチューブを電気的に作動させると、前記ナノチューブの壁の収縮が誘導され、前記生理活性物質の前記のナノチューブの管腔からの放出が生じる、上記生体適合性の電極。
【請求項10】
導電性高分子が、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(ピロール)、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリチオフェン又はそれらの高分子のブレンドからなる群から選択される、請求項9に記載の生体適合性の電極。
【請求項11】
生理活性物質が、薬学的活性剤、増殖因子、ポリペプチド、脂質、核酸、アミノ酸、受容体、酵素、ステロイド、炭水化物、糖タンパク質、糖脂質又は神経伝達物質からなる群から選択される、請求項9に記載の生体適合性の電極。
【請求項12】
(1)微小流体アセンブリを形成する、1つ又は複数の密封された微小流路及び少なくとも1つの反応槽を有する基材と、
(2)電圧を前記微小流体アセンブリに供給することができる電源と、
(3)前記微小流体アセンブリによって提供される電気信号の変化を記録するためのデータ記録装置と
を含む感知装置であって、
前記微小流体アセンブリが、
(i)第1及び第2の導電性基材を有する反応槽であって、前記第1の導電性基材が、複数の電気的収縮性ナノチューブと電気的に連絡している反応槽
を含み、
前記ナノチューブが、生理活性物質を有する管腔を含有し、前記ナノチューブを、前記電源を用いて電気的に作動させると、前記生理活性物質を、前記ナノチューブから放出させることができ、前記生理活性物質の試験分析対象との結合を可能にし、それによって、前記データ記録装置に前記微小流体アセンブリによって伝達され得る電気信号の変化を生じさせる、上記感知装置。
【請求項13】
標的分析対象が、グルコース、トロポニンI、トロポニンT、ミオグロビン、前立腺血清抗原、CA、19−9、CEA、EGFr、p53、p27及びアミロイド−ベータペプチドからなる群から選択される、請求項12に記載の感知装置。
【請求項14】
生理活性物質の制御放出のための方法であって、
(i)(A)第1及び第2の電気伝導性基材、
(B)少なくとも一部の前記第1の導電性基材上に形成された複数の電気的収縮性ナノチューブであって、前記ナノチューブが、内部に管腔を画定する、導電性高分子の壁を含み、前記管腔が少なくとも1つの生理活性物質を含有するナノチューブ、並びに
(C)前記第1及び第2の導電性基材に動作可能に接続された電源
を含む薬物送達装置を提供するステップと、
(ii)前記装置を、生物学的組織と接触させて留置するステップと、
(iii)前記装置の前記第1及び前記第2の電気伝導性基材のうちの少なくとも1つに電圧を印加するステップであって、前記ナノチューブの前記電気伝導高分子の壁に電圧を供給し、それによって、前記ナノチューブを収縮させ、それに付随して、前記少なくとも1つの生理活性物質を放出させるステップと
を含む、上記方法。
【請求項15】
前記生理活性物質が、前記第1及び前記第2の電気伝導性基材のうちの少なくとも1つに、約±0.1Vから約±5Vまでの範囲に及ぶ電圧を0.01から1V/秒の間の走査速度で0.1秒から6時間の期間にわたり印加した後に、前記ナノチューブから放出される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ナノチューブの壁が、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(ピロール)、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリチオフェン又はそれらの高分子のブレンドを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記複数のナノチューブが、少なくとも一部の前記第1の電気伝導性基材上で形成され、
(i)生分解性高分子及び少なくとも1つの生理活性物質を含む溶液を、前記第1の電気伝導性基材の表面の少なくとも一部の上に静電紡糸するステップであって、それによって、前記第1の電気伝導性基材と接触しているナノ繊維のメッシュを形成するステップと、
(ii)複数のナノチューブを形成する前記ナノ繊維の周囲に、導電性高分子を電気化学的に堆積させるステップと、
(iii)前記ナノ繊維の前記生分解性高分子を溶媒で分解するステップであって、それによって、前記少なくとも1つの生理活性物質を、前記複数のナノチューブの前記管腔の内部に残すステップと
を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
生分解性高分子の生理活性物質に対する濃度比が、1:99から99:1までの範囲に及ぶ、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
導電性高分子が、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(ピロール)又はそれらの高分子のブレンドを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
ナノ繊維が、ポリ(D−乳酸)(PDLA)、ポリ(L−乳酸)(PLLA)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)(PLGA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)及びそれらの誘導体、ポリ(イプシロンカプロラクトン)(PCL)、キトサン、ナイロン、PEオキシド(PEOxide)、アルギン酸、ポリビニルアルコール、並びにそれらの組合せからなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
患者の疾患を治療する方法であって、
(i)電気的に媒介される薬物送達装置を提供するステップであって、前記装置が、
(A)第1及び第2の電気伝導性基材、
(B)少なくとも一部の前記第1の電気伝導性基材と接触している複数の電気的収縮性ナノチューブであって、少なくとも1つの開口部、及び疾患を治療するのに有効である少なくとも1つの生理活性物質を含有する管腔を有する複数のナノチューブ、並びに
(C)前記第1及び前記第2の電気伝導性基材に動作可能に接続された電源
を含むものであるステップと、
(ii)前記装置を、前記患者の治療部位と接触させて又はその付近に留置するステップと、
(iii)前記装置の前記第1及び前記第2の電気伝導性基材のうちの少なくとも1つに電圧を印加するステップであって、前記電気伝導性ナノチューブに電流を供給し、それによって、前記ナノチューブを収縮させ、それに付随して、治療部位において又はその付近で、前記少なくとも1つの生理活性物質を、前記ナノチューブの開口部から放出させるステップと
を含む、上記方法。
【請求項22】
疾患が、神経学的疾患、心臓疾患、心血管疾患、筋肉疾患、内分泌学的疾患、免疫学的疾患、循環器疾患及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
治療する疾患が、パーキンソン病、筋ジストロフィー、アルツハイマー病、てんかん、糖尿病及び冠動脈疾患のうちのいずれか1つ又は複数である、請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−501260(P2010−501260A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525642(P2009−525642)
【出願日】平成19年8月25日(2007.8.25)
【国際出願番号】PCT/US2007/018736
【国際公開番号】WO2008/085199
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(594201294)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン (3)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THEUNIVERSITY OF MICHIGAN
【Fターム(参考)】