説明

医薬品

ヒトペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γのモジュレーターを用いる、異常なイオン流出を伴う腎疾患または症状、特に常染色体優性多発性嚢胞腎の予防または治療方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療方法、医薬組成物および治療において使用するための医薬品に関する。特に本発明は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)のモジュレーターに関する。別の態様において、本発明は、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)を含む異常なイオン流出を伴う腎疾患または症状の予防または治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)は、リガンド活性化転写因子のステロイド/レチノイド受容体スーパーファミリーに属するオーファン受容体である。例えば、Willson T. M.およびWhali, W., Curr. Opin. Chem. Biol., 1, pp235-241 (1997)ならびにWillson T. M.ら, J. Med. Chem., 43, P527-549 (2000)を参照されたい。アゴニストリガンドが受容体に結合すると、PPAR標的遺伝子がコードするmRNAの発現レベルに変化が生じる。
【0003】
3種類の、哺乳動物のペルオキシソーム増殖因子活性化受容体が単離されており、PPAR-α、PPAR-γ、およびPPAR-δ(NUC1またはPPAR-βとしても知られる)と呼ばれている。これらのPPARは、PPAR応答エレメント(PPRE)と呼ばれるDNA配列エレメントへ結合することによって標的遺伝子の発現を調節する。現在まで、PPREは脂質代謝を調節するタンパク質をコードする数多くの遺伝子のエンハンサー中で同定されており、PPARが脂質生成のシグナルカスケードおよび脂質ホメオスタシスにおいて極めて重要な役割を果たすことを示唆している(H. Keller および W. Wahli, Trends Endocrinol. Metab. 291-296, 4 (1993))。
【0004】
ロシグリタゾンおよびピオグリタゾンを含むチアゾリジンジオン化合物群はPPARγの強力かつ選択的な活性化因子であり、PPARγ受容体に直接結合することが報告されており(J. M. Lehmannら, J. Biol. Chem. 12953-12956, 270 (1995))、PPARγがチアゾリジンジオン類の治療作用の標的である可能性があることの証拠を提供している。この観察結果から、上記の核ホルモン受容体の活性化が、多面発現効果、代謝作用、および低血糖の減弱作用(nonhypoglycemic effect)を有することが示されている。2型糖尿病(すなわち、非インスリン依存性糖尿病(NIDDM))の治療におけるこれらの薬剤の臨床的使用は、標的組織におけるインスリンのグルコース低下作用に対する増感ならびにインスリンの他の生物学的作用の増強を伴う。単剤投与で用いた場合に、体液貯留が体液量過剰(volume expansion)をもたらし、数人の患者では、臨床的浮腫をもたらしたという報告がある。浮腫の発生は、これらの薬剤を両方ともインスリンと組み合わせて使用する場合に増加するように見える(Nesto R.W. ら, 2003, Circulation, 108, 2941-2948)。これらの作用に関与するメカニズムについては十分に記載されていないが、発表論文の本質は、腎臓での塩と水のバランスに対する作用を含む総合的な生理応答を示唆するものである。PPARγ受容体は腎集合管において発見されており(Guan Y.ら;2001, Kidney Int. 60, 14-30)、このため、PPARγアゴニストは、尿細管代謝に直接関与する可能性があり、または塩と水のホメオスタシスに二次作用を及ぼし得る。
【0005】
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は、最もよく見られる、ヒトを冒す単一遺伝子疾患の一つであり、その発生率は、全ての民族集団で出生児1000人中約1人である(Gabow P.A., 1993, N.Engl.J.Med. 329 : 332-342)。この疾患は、ポリシスチンタンパク質中の変異により引き起こされるが、この変異は、事象のカスケードを惹起して体液で満たされた多数の上皮嚢胞の形成をもたし、この上皮嚢胞が腎臓の構造を徐々に破壊して重度の腎不全を引き起こす。現在、ADPKDの治療法は存在せず、この事実が8〜10%の患者が腎臓移植または透析療法を必要とする原因となっている(Gabow P.A., 1993, N.Engl.J.Med. 329 : 332-342)。従って、この疾患の治療法の特定および開発が望まれることが理解されるだろう。
【0006】
ADPKD嚢胞の発生と成長は、未成熟な上皮細胞の増殖、細胞外基質の変化および嚢胞腔内への体液の貯留を伴う。これは、CAMP刺激性細胞増殖と、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)のClチャネルを介したCl分泌によって促進される。このため、CFTRのClチャネルの阻害剤は、主に嚢胞内腔内の体液の貯留を妨げることによって、嚢胞の成長を遅らせることができると考えられている(Hongyu Liら, 2004, Kidney International 66; 1926-1938)。
【0007】
本発明者らは、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)のモジュレーターが、腎細胞中のCFTRを介したアニオン分泌を阻害することが可能であり、このためADPKDを含む異常なイオン流出を伴う腎疾患または症状の治療において治療効果を有する可能性があることを見出した。
【非特許文献1】Willson T. M.およびWhali, W., Curr. Opin. Chem. Biol., 1, pp235-241 (1997)
【非特許文献2】Willson T. M.ら, J. Med. Chem., 43, P527-549 (2000)
【非特許文献3】H. Keller および W. Wahli, Trends Endocrinol. Metab. 291-296, 4 (1993)
【非特許文献4】J. M. Lehmannら, J. Biol. Chem. 12953-12956, 270 (1995)
【非特許文献5】Nesto R.W. ら, 2003, Circulation, 108, 2941-2948
【非特許文献6】Guan Y.ら;2001, Kidney Int. 60, 14-30
【非特許文献7】Gabow P.A., 1993, N.Engl.J.Med. 329 : 332-342
【非特許文献8】Hongyu Liら, 2004, Kidney International 66; 1926-1938
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの態様において、本発明は、異常なイオン流出を伴う腎疾患または症状の治療において使用するための、ヒトPPARγ(hPPARγ)のモジュレーターである化合物またはその製薬上許容される塩もしくは溶媒和物を提供する。
【0009】
他の態様において、異常なイオン流出を伴う腎疾患または症状の治療において使用するための、hPPARγモジュレーターまたはその製薬上許容される塩もしくは溶媒和物を含む医薬組成物を提供する。
【0010】
他の態様において、本発明は、hPPARγモジュレーターまたは製薬上許容される塩もしくは溶媒和物を投与することを含んでなる、異常なイオン流出を伴う腎疾患または症状の治療方法を提供する。
【0011】
他の態様において、本発明は、異常なイオン流出を伴う腎疾患または症状を治療するための医薬品の製造における、hPPARγモジュレーターまたは製薬上許容される塩もしくは溶媒和物の使用を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書において用いられる「hPPARγモジュレーター」という用語は、hPPARγ受容体の活性を、直接的に(該受容体に結合し、活性を変更することにより)あるいは間接的に(例えば、受容体発現および/または分解速度に何らかの変化をもたらすことにより)変更し、これにより、「正常な」量の内因性PPARリガンドの存在下で、in vitro環境下またはin vitro環境下のいずれのリガンド非結合型でも、抗原刺激されていない状態(basal state)のPPAR受容体と比較してPPAR応答遺伝子の転写を増加または減少させる化合物を意味する。従ってこの定義は、アゴニスト、部分アゴニスト、アンタゴニスト、部分アンタゴニストを包含する。
【0013】
式(I)のhPPARγアゴニストは、γのみに対するアゴニストもしくは部分アゴニスト(「選択的アゴニスト」)、γを含む2つのPPARサブタイプに対するアゴニストもしくは部分アゴニスト(「二重アゴニスト」)、または3種類の全てのサブタイプに対するアゴニストもしくは部分アゴニスト(「全アゴニスト」)であり得る。
【0014】
1つの態様において、hPPARγモジュレーターは、ヒト(h)PPARγアゴニストである。他の態様において、これらはhPPARαまたはhPPARδの少なくとも1種のアゴニストでもある(二重アゴニスト)。1つの態様において、これらは全hPPARアゴニストである。
【0015】
他の態様において、hPPARγモジュレーターは、hPPARγのアゴニストもしくは部分アゴニストである。
【0016】
本明細書において用いられる「アゴニスト」、あるいは「活性化化合物」または「活性化因子」等は、関連PPARに対するpKiが少なくとも5.0、好ましくは少なくとも6.0であり(例えばWO 02/059098に記載されている結合アッセイ(もしくは同様のアッセイ)におけるhPPARγ)、かつWO02/059098に記載されている10-5Mもしくはそれ未満の濃度でのトランスフェクションアッセイ(または同様のアッセイ)において、適切な指示陽性対照と比較して関連PPARの70%を超える活性化を達成する化合物を意味する。より好ましくは、本発明の化合物は、1-5Mまたはそれ未満の濃度での関連トランスフェクションアッセイにおいて、少なくともヒトPPAR上で70%を超える活性化を達成する。さらに好ましくは、本発明の化合物は、1-7Mまたはそれ未満の濃度での関連トランスフェクションアッセイにおいて、少なくともヒトPPAR上で70%を超える活性化を達成する。
【0017】
部分アゴニストは、例えばWO 97/31907に記載されている種類のトランスフェクションアッセイにおいて、参照PPAR完全アゴニストと比較して活性化が70%未満倍、典型的には50%未満倍であるCV1細胞中のhPPARαなどの、関連hPPARを転写活性化する化合物として定義し得る。hPPAR上での活性を超える活性を有する化合物は、各hPPARにおいて完全アゴニスト活性または部分アゴニスト活性を別々に示すことができる。
【0018】
本明細書における「治療」という用語は、予防ならびに確立された疾患または症状の緩和を含む。本発明のPPARγモジュレーターは、化合物またはその塩もしくは溶媒和物として使用することができる。
【0019】
1つの態様において、異常なイオン流出を伴う腎疾患または症状は、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)である。
【0020】
1つの態様において、本発明のPPARγモジュレーターは、欧州特許第306228号に報告されている。この文献には一群のPPARγアゴニスト類が記載されているが、これらは2型糖尿病の治療においてインスリン増感剤として用いるためのチアゾリジンジオン誘導体類である。これらの化合物は、抗高血糖活性を有する。この文献に報告されている1つの好適な化合物は、5-[4-[2-(N-メチル-N-(2-ピリジル)アミノ)エトキシ]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオンの化学名で公知であり、一般名としてロシグリタゾンが与えられている。この化合物のマレイン酸塩などの塩は、W094/05659に記載されている。欧州特許出願公開:0008203、0139421、0032128、0428312、0489663、0155845、0257781、0208420、0177353、0319189、0332331、0332332、0528734、0508740;国際公開:92/18501、93/02079、93/22445ならびに米国特許第5104888号および第5478852号にも、一部のチアゾリジンジオンインスリン増感剤が開示されている。具体的に言及し得る化合物としては、5-[4-[2-(5-エチル-2-ピリジル)エトキシ]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン(ピオグリタゾンとしても公知)、5-[4-[(1メチルシクロヘキシル)メトキシ]ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン(シグリタゾンとしても公知)、5[[4-[(3,4-ジヒドロ-6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチル-2H-1-ベンゾピラン-2-イル)メトキシ]フェニル]メチル]-2,4-チアゾリジンジオン(トログリタゾンとしても公知)および5-[(2-ベンジル-2,3-ジヒドロベンゾピラン)-5-イルメチル)チアゾリジン-2,4-ジオン(エングリタゾンとしても公知)が挙げられる。
【0021】
米国特許第6,294,580号(この文献中の開示は、全て参照により本明細書に組み込まれる)には、チアゾリジンジオン群ではないが、その代わりにチロシンの0-およびN-置換誘導体類である一連のPPARγアゴニスト化合物類が報告されており、これらもまた2型糖尿病の治療におけるインスリン増感剤として有効である。このような化合物の1つは、N-(2-ベンゾイルフェニル)-O-[2-(5-メチル-2-フェニル-4-オキサゾリル)エチル]-L-チロシンの化学名(2(S)-(2-ベンゾイル-フェニルアミノ}-3-{4-[2-5-メチル-2-フェニル-オキサゾール-4-イル)-エトキシ]フェニル}-プロピオン酸としても公知)、または一般名のファルグリタザルもしくはGI262570を有する。ファルグリタザルの合成法は、実施例29に示される。
【0022】
他の化合物類は、WO 02/062774、WO 02/30895、WO 00/08002、WO 02/059098、WO 03/074495に報告されている。
【0023】
好適な実施形態において、上記化合物は、ファルグリタザル(特にナトリウム塩)、ロシグリタゾン(特にマレイン酸塩)、2-({4-[({4-({4-[4-(エチルオキシ)フェニル]-1-ピペラジニル}メチル)-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル}メチル)チオ]フェニル}オキシ)-2-メチルプロパン酸:
【化1】

【0024】
(この化合物の調製については、WO 02/059098を参照されたい)、
({2-エチル-4-[({4-({4-[4-(メチルオキシ)フェニル]-1-ピペラジニル}メチル)-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-1,3-チアゾール-5-イル}メチル)チオ]フェニル}オキシ)酢酸:
【化2】

【0025】
(この化合物の調製については、WO 02/059098を参照されたい)、
2-{4-[{2-[2-フルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-メチル-1,3-チアゾール-5-イル}メチル)スルファニル]-2-メチルフェノキシ}-2-メチルプロパン酸:
【化3】

【0026】
(この化合物の調製については、WO 02/062774を参照されたい)
である。
【0027】
PPARモジュレーターである化合物類に立体中心が存在する場合、本発明は、このような化合物の可能性のある全ての立体異性体および幾何異性体の使用を含み、ラセミ化合物のみならず光学活性異性体をも含む。化合物を単一の鏡像異性体とすることが望まれる場合、これは最終生成物の分割、あるいは異性体として純粋な出発物質もしくは何らかの便利な中間体のいずれかからの立体特異的合成により得ることができる。最終生成物、中間体または出発物質の変換については、当技術分野において公知の好適な方法で行うことができる。例えば、E. L. Eliel著の"Stereochemistry of Carbon Compounds"(Mcgraw Hill, 1962)およびS. H. Wilen著の"Tables of Resolving Agents"を参照されたい。さらに、化合物の互変異性体が生じ得る状況下では、本発明は、本化合物の全ての互変異性体の使用を含むことを意図する。
【0028】
本明細書において用いられる「有効量」という用語は、例えば研究者または臨床医が求めている、組織、系、動物もしくはヒトの生物学的応答または医学的応答を誘発すると考えられる薬または医薬品の量を意味する。さらに「治療上有効な量」とは、このような量を投与されていない対応する被験体と比較して、疾患、障害もしくは副作用の治療、治癒、予防もしくは寛解の改善、または疾患もしくは障害の進行速度の低下をもたらす量を意味する。この用語はその範囲内に、正常な生理的機能を強化するのに有効な量も含む。
【0029】
本明細書において用いられる「生理学的機能性誘導体」という用語は、PPARγモジュレーターの任意の製薬上許容される誘導体、例えば、哺乳動物に投与されると、当該PPARγモジュレーターまたはその活性代謝物を(直接的もしくは間接的に)供与することができるエステルまたはアミドを指す。このような誘導体は、過度の実験を要することなく、"Burger’s Medicinal Chemistry And Drug Discovery, 第5版, Vol 1: Principles and Practice"の教示を参照することにより当業者に明らかであり、この文献は、生理学的機能性誘導体を教示する範囲で参照により本明細書に組み入れられる。
【0030】
本明細書において用いられる「溶媒和物」という用語は、PPARγモジュレーター(またはその塩もしくは生理学的機能性誘導体)の溶質と溶媒により形成される、可変化学両論の複合体を指す。本発明の目的のためのこのような溶媒は、上記溶質の生物学的活性を妨げない。好適な溶媒の例として、限定するものではないが、水、メタノール、エタノールおよび酢酸が挙げられる。好ましくは、使用される溶媒は製薬上許容される溶媒である。好適な製薬上許容される溶媒の例として、限定するものではないが、水、エタノールおよび酢酸が挙げられる。
【0031】
当業者であれば、本発明の方法において、本発明のPPARγモジュレーターをその製薬上許容される塩もしくは溶媒和物の形で利用することもできることを理解するであろう。好適な製薬上許容される塩は、酸付加塩または塩基付加塩を含み得る。
【0032】
製薬上許容される酸付加塩は、化合物と、好適な無機酸または有機酸(例えば、臭化水素酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、コハク酸、マレイン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、安息香酸、サリチル酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸などのナフタレンスルホン酸、もしくはヘキサン酸)との反応、場合により好適な溶媒(例えば有機溶媒)中での反応により形成することが可能であり、このように得られた塩は通常、例えば結晶化および濾過によって単離される。製薬上許容される酸付加塩は、例えば、臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩(例えば2-ナフタレンスルホン酸塩)、もしくはヘキサン酸塩を含むことが可能であり、または上記の塩であり得る。
【0033】
製薬上許容される塩基付加塩は、化合物と、好適な無機塩基または有機塩基(例えば、トリエチルアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、コリン、アルギニン、リジンもしくはヒスチジン)との反応、場合により好適な溶媒(例えば有機溶媒)中での反応により形成することが可能であり、このように得られた塩基付加塩は通常、例えば結晶化および濾過により単離される。
【0034】
他の好適な製薬上許容される塩として、製薬上許容される金属塩、例えば製薬上許容されるアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩もしくはマグネシウム塩)が挙げられ、特に本発明の化合物中に存在し得る1つ以上のカルボン酸部分の、製薬上許容される金属塩が挙げられる。
【0035】
他の製薬上許容されない塩、例えばシュウ酸塩を、例えば本発明の化合物の単離において用いることが可能であり、これらも本発明の範囲内に含まれる。
【0036】
本発明の範囲には、本発明の化合物の塩の、可能性のある全ての化学両論形態および非化学両論形態の使用が含まれる。
【0037】
以下、PPARγモジュレーターに言及するときは、化合物と、その製薬上許容される塩および溶媒和物の両方を含む。
【0038】
PPARγモジュレーターならびにその製薬上許容される塩および溶媒和物は、医薬組成物の形態で都合よく投与される。このような組成物は、従来どおりの使用のため、1つ以上の生理学的に許容される担体または賦形剤との混合中に都合よく含めることができる。この担体は、製剤の他の成分と適合性があり、製剤のレシピエントに対して有害ではないという意味において「許容される」ものでなければならない。
【0039】
医薬組成物は、任意の適切な経路による投与、例えば経口(口腔もしくは舌下を含む)、直腸、経鼻、局所(口腔、舌下もしくは経皮を含む)、膣内または非経口(皮下、筋肉内、静脈内もしくは皮内を含む)経路に適合させることができる。このような組成物は、薬学の分野において公知の任意の方法、例えば本発明の活性成分を担体または賦形剤と混合することにより調製し得る。
【0040】
経口投与用の医薬組成物は、個別の単位(例えばカプセル剤もしくは錠剤;粉末剤もしくは顆粒剤;水性液体もしくは非水性液体の液剤もしくは懸濁剤;可食フォーム剤もしくは可食ホイップ剤;または水中油型乳剤もしくは油中水型乳剤)として提供することができる。
【0041】
例えば、錠剤またはカプセル剤の形態での経口投与のため、本発明の活性薬成分を、経口用、非毒性の製薬上許容される不活性担体(例えばエタノール、グリセロール、水等)と組み合わせることができる。粉末剤は、本発明の化合物を好ましい微細な大きさに粉砕し、同様に粉砕した可食性炭水化物(例えばデンプンもしくはマンニトール)などの医薬担体と混合することにより調製する。香味料、保存料、分散剤および着色料を含めることもできる。
【0042】
カプセル剤は、上記のとおり粉末混合物を調製し、成形されたゼラチンのシース(sheath)に充填することによって製造する。充填操作の前に、流動促進剤および滑沢剤(例えば、コロイダルシリカ、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムまたは固体のポリエチレングリコール)を上記の粉末混合物に加えてもよい。崩壊剤または可溶化剤(例えば、アガー-アガー、炭酸カルシウムまたは炭酸ナトリウム)を加えて、該カプセル剤が摂取されたときの本発明の医薬の有効性を高めることもできる。
【0043】
さらに、所望または所要の場合、好適な結合剤、滑沢剤、崩壊剤および着色剤を混合物に組み込むこともできる。好適な結合剤として、デンプン、ゼラチン、天然糖(例えばグルコースまたはβ-ラクトース)、コーンシロップ類、天然ガムおよび合成ガム(例えばアラビアゴム、トラガカントまたはアルギン酸ナトリウム)、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックス類等が挙げられる。これらの剤形において使用される滑沢剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。崩壊剤としては、限定するものではないが、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガム等が挙げられる。錠剤は、例えば、粉末混合物を調製し、造粒またはスラッギングし、滑沢剤と崩壊剤を加えて圧縮錠剤化することにより製剤化する。粉末混合物は、好適に粉砕した本発明の化合物を、上記の希釈剤または基剤と混合することによって、また場合により、結合剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、もしくはポリビニルピロリドン)、溶解遅延剤(例えばパラフィン)、吸収促進剤(例えば第4級塩)および/または吸収剤(例えばベントナイト、カオリンもしくはリン酸二カルシウム)と混合することによって調製する。上記の粉末混合物は、結合剤(例えばシロップ、デンプンペースト、アラビアゴム粘液またはセルロース系材料もしくはポリマー系材料の溶液)で湿らせ、ふるいにかけることにより造粒することができる。造粒の別法として、粉末混合物を打錠機にかけ、不完全に形成されたスラッグとなった結果物を粉砕して顆粒にすることが可能である。この顆粒は、錠剤成形型に粘着するのを防止するため、ステアリン酸、ステアリン酸塩、タルクまたは鉱物油の添加により滑沢化することができる。滑沢化した混合物はその後圧縮錠剤化する。本発明の化合物は、フリーフローの不活性担体と混合し、造粒段階またはスラッギング段階を経ずに直接圧縮錠剤化することもできる。シェラック(shellac)のシーリングコートからなる透明または不透明の保護コーティング、糖またはポリマー系材料のコーティングおよびワックスのポリッシュコーティングを施してもよい。異なる単位用量を区別するため、これらのコーティングに色素を加えることができる。
【0044】
経口用液体(例えば、液剤、シロップ剤およびエリキシル剤)は、その一定量が本化合物の所定量を含むような投与単位剤形で調製することができる。シロップ剤は、本発明の化合物を好適に味付けされた水溶液に溶解させることによって調製することが可能であり、エリキシル剤は、非毒性アルコール系溶媒の使用により調製される。懸濁剤は、本発明の化合物を非毒性溶媒中に分散させることにより製剤化することができる。可溶化剤および乳化剤(例えばエトキシ化イソステアリルアルコールおよびポリオキシエチレンソルビトールエーテル)、保存料、香味用添加物(例えば、ペパーミント油、あるいは天然甘味料またはサッカリンもしくは他の人工甘味料)等を添加することもできる。
【0045】
適切な場合、経口投与用の1投与単位の組成物をマイクロカプセル化することができる。上記の組成物は、例えば粒状物質をポリマー、ワックス等でコーティングし、またはこれらの中に組み込むことにより、持続放出または徐放するように調製することもできる。
【0046】
式(I)の化合物、ならびにその塩、溶媒和物および生理学的機能性誘導体を、リポソーム送達系(例えば小さな単層ベシクル、大きな単層ベシクルおよび多層ベシクル)の形態で投与することもできる。リポソームは、多様なリン脂質(例えばコレステロール、ステアリルアミンまたはホスファチジルコリン)から形成することができる。
【0047】
式(I)の化合物ならびにその塩および溶媒和物は、本発明の化合物分子を結合させた個別の担体としてモノクローナル抗体を用いることにより送達することもできる。この化合物は、標的化可能な薬物担体としての可溶性ポリマーと結合させることもできる。このようなポリマーとして、例えば、ポリビニルピロリドン、ピランコポリマー、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド-フェノール、ポリヒドロキシエチルアスパルトアミドフェノール、またはパルミトイル残基で置換されたポリエチレンオキシドポリリジンを挙げることができる。さらに、本発明の化合物を、薬の制御放出の達成に役立つ生分解性ポリマー類、例えば、ポリ乳酸、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアクリレート、およびハイドロゲルの架橋ブロック共重合体または両親媒性ブロック共重合体と結合させてもよい。
【0048】
経皮投与に適合させた医薬組成物は、レシピエントの表皮と長時間密着させたままにすることを意図した個別のパッチとして提供することができる。例えば本活性成分は、Pharmaceutical Research, 3(6), 318 (1986)に一般的に記載されているイオントフォレシスによって、上記のパッチから送達することができる。
【0049】
局所投与に適合させた医薬組成物は、軟膏、クリーム剤、懸濁剤、ローション剤、粉末剤、液剤、ペースト剤、ゲル剤、スプレー剤、エアロゾル剤または油剤として製剤化し得る。
【0050】
目または他の外側組織(例えば口および皮膚)の治療のため、本発明の組成物は、好ましくは、局所軟膏または局所クリーム剤として適用される。軟膏として製剤化する場合、本活性成分は、パラフィン軟膏基剤または水混和性軟膏基剤のいずれかと共に使用し得る。あるいは、本活性成分は、水中油型クリーム基剤または油中水型基剤と共にクリーム中に製剤化することができる。
【0051】
目への局所投与に適合させた医薬組成物は、点眼剤を含み、ここで本活性成分は、好適な担体、特に水性溶媒中に溶解または懸濁される。
【0052】
局所口内投与に適した医薬組成物は、ロゼンジ、トローチ剤およびうがい薬を含む。
【0053】
直腸投与に適合させた医薬組成物は、坐薬または浣腸剤として提供することができる。
【0054】
経鼻投与に適合させた、担体が固体である医薬組成物は、例えば粒径が20〜500ミクロンの範囲内である粗粉末剤を含み、この粉末剤はかぎたばこを吸う要領で、すなわち鼻に近づけて保持した粉末剤容器から鼻腔を通して迅速に吸入することにより投与される。鼻腔用スプレーまたは点鼻薬として投与するための、担体が液体である好適な組成物は、本活性成分の水性溶液または油性溶液を含む。
【0055】
吸入による投与に適合させた医薬組成物は、微粒子の粉剤またはミスト剤を含み、これらは、多様な種類の計量、加圧型エアロゾル、噴霧器または吸入器を用いて調製し得る。
【0056】
膣内投与に適合させた医薬組成物は、ペッサリー、タンポン、クリーム剤、ゲル剤、ペースト剤、フォーム剤またはスプレー組成物として提供することができる。
【0057】
非経口投与に適合させた医薬組成物は、抗酸化剤、緩衝剤、静菌薬および上記組成物を対象とするレシピエントの血液と等張にさせる溶質を含有し得る水性および非水性の滅菌注射液剤;ならびに懸濁剤および増粘剤を含み得る水性および非水性の滅菌懸濁剤を含む。組成物は、1回投与用または複数回投与用の容器、例えば密封したアンプルおよびバイアルに入れて提供することが可能であり、また使用直前に滅菌液体担体、例えば注射用水を添加するだけで済む凍結乾燥状態で保存することができる。滅菌粉末剤、顆粒剤および錠剤から、即席の注射液剤および懸濁剤を調製し得る。
【0058】
特に上述した成分に加えて、本発明の組成物は、当該組成物の種類を考慮して、当技術分野で常用の他の薬剤を含み得るということが理解されるべきである。例えば、経口投与に適合させた組成物は、香料を含み得る。
【0059】
本発明の化合物の治療上有効な量は、多数の要因、例えば当該動物の年齢および体重、治療を必要とする厳密な症状およびその重篤性、組成物の性質、投与経路によって決まり、最終的には担当の医師または獣医師の判断により決定されるだろう。しかし、ADPKDを含む異常なイオン流出を伴う腎疾患または症状の治療のための、式(I)の化合物の有効量は通常、レシピエント(哺乳動物)の体重1kgにつき1日当たり0.1〜100 mgの範囲内であり、さらに一般的には、体重1kgにつき1日当たり1〜10 mgの範囲内であろう。従って、70kgの成体の哺乳動物については、1日当たりの実際の量は、通常は70〜700 mgとなるだろう。この量は、1日当たり単回投与量で与えることが可能であり、また、より一般的には、1日当たり多数回(例えば、2、3、4、5または6回)の副投与量(sub dose)で、1日当たりの総量が変わらないように与えることができる。PPARモジュレーターがファルグリタザルである場合、1日当たり2〜10 mgの投与量が予想される。塩または溶媒和物の有効量は、本化合物自体の有効量の一定割合として決定することができる。医薬組成物は、単位用量当たり所定量の活性成分を含有する単位用量形態で提供し得る。好都合なことに、単位用量の組成物は、活性成分の1日投与量もしくは副投与量(sub dose)またはその適当な分割量を含む組成物である。
【0060】
本発明において使用するためのPPARγモジュレーターならびにその塩および溶媒和物は、1つ以上の他の治療薬と組み合わせて用いることができる。このように本発明は、他の態様において、異常なイオン流出を伴う腎疾患または症状の予防または治療において使用するための、PPARγモジュレーターならびにその塩および溶媒和物と、他の治療薬(1つまたは複数)とを含む組み合わせの使用を提供する。
【0061】
PPARγモジュレーターを他の治療薬と組み合わせて使用する場合、本発明の化合物は、任意の都合のよい経路により連続的にまたは同時に投与することができる。
【0062】
上記の組み合わせは、医薬組成物の形態での使用のため便利に提供することが可能であり、このように上述の組み合わせ、好ましくは製薬上許容される担体または賦形剤との組み合わせを含む医薬組成物は、本発明の他の態様を構成する。このような組み合わせの個別の成分は、別個の医薬組成物または併用医薬組成物として、連続的にまたは同時に投与することができる。
【0063】
同一の組成物中で混合される場合、上記の2つの化合物は、安定であって且つ相互に、また当該組成物の他の成分と適合するものでなければならないことが理解されるだろう。別々に製剤化する場合、PPARγモジュレーターと他の治療薬を、任意の好都合な組成物として、当技術分野でこのような化合物について知られているような方法で便利に提供することができる。
【0064】
PPARγモジュレーターを、同一の疾患に対して有効な二次治療薬と組み合わせて使用する場合、各化合物の投与量は、その化合物を単独で用いる場合の投与量と異なっていてよい。適切な投与量は、当業者に容易に理解されるだろう。
【実施例】
【0065】
下記の実施例は、本発明の例証のために示す。従って、以下の実施例は、ここで考えられる本発明の範囲の限定を意図するものでは全くない。
【0066】
腎臓において、PPARγが発現されるネフロンの特定部位としては、例えば、糸球体メサンギウム細胞、腎髄質内層集合管細胞および腎髄質間質細胞が挙げられる(Yangら, 1999, Am.J.Physiol. 277, F966-F973)。これらの薬剤の腎機能に対する直接的な作用を、血圧および血管抵抗に対する全身的作用の不存在下で研究するには、遠位ネフロンの主細胞の特徴とホルモン応答性を有するin vitro系を必要とする。Na+と体液のバランスは、アルドステロン、インスリン、バソプレシン、およびインスリン様成長因子などの多数のステロイドホルモンおよびペプチドホルモンの制御下にある遠位尿細管と皮質集合管の主細胞型により調節される。
【0067】
Madin-Darby犬腎(MDCK)細胞株は、腎集合管の多くの特徴を表す。MDCK-C7サブクローンは、尿細管の遠位部分に見られる主細胞の高抵抗性、ホルモン応答性モデルを形成する。電気生理学的技術の短絡回路電流測定を用いて、MDCK-C7クローンにおける抗利尿ホルモン(ADH)に対する応答が検証されている。時間的に離れた3種類の起電性イオン輸送現象が報告されており、これらの細胞内で特徴づけられている(Blazer-Yostら, 1996; Lahrら, 2000)。最初、これらの細胞は嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)を介したアニオン分泌を示す。CFTRの存在は、免疫沈降を行い、その後ウエスタンブロッティングを実施することによって確認した。CFTR媒介性アニオン分泌は一過性であり、その後やがてベラパミル感受性およびBa2+感受性のアニオン分泌またはカチオン吸収が起こり、最終的には上皮性Na+チャネル(ENaC)経由のNa+再吸収が起こる。多様なイオン輸送現象の特徴解析は、この細胞株を、イオン輸送のホルモン調節および代謝調節の研究ならびに薬剤のイオン輸送への影響力の研究に使用し得るモデル腎上皮として裏付ける。
【0068】
材料
これらの実験に使用したホルモンおよび阻害剤は以下のとおり:ADH([アルギニン]-バソプレシン、Sigma, St. Louis, Mo);塩酸アミロライド(Sigma);NPPB(Biomol Research, Plymouth Meeting ,PA)、塩酸ベラパミル(ICN Biomedical, Aurora, OH)。GI262570X(ファルグリタザル)は、GlaxoSmithKline Medicinal Chemistryにより提供されたものであるが、これは米国特許第6294580号に記載のとおりに調製することができる。
【0069】
方法
MDCK-C7細胞培養
MDCK-C7細胞を、5%CO2-95%O2混合ガスを含む37℃の加湿インキュベーター中で増殖させた。最初に、上記の細胞を75 cm2フラスコ中で増殖させ、Earle塩、非必須アミノ酸およびL-グルタミンを含む最小培地(MEM;Gibco/BRL, Grand Island, New York, USA)を供給し、10%ウシ胎仔血清(Sigma)、26 mM NaHCO3を補充してpH 7.0に調整した。コンフルエント細胞をトリプシン処理によって継代培養し、この細胞を、Transwellチャンバー(Costar, Cambridge, Mass., USA)の底を形成するNucleoporeポリカーボネートメンブレンの上に播種した(5.4 x 104 細胞/cm2)。このTranswellチャンバーを、特別に設計された組織培養プレート中に配置して2つのコンパートメントのシステムを形成し、この表層側と基底側の両方に培養液を加えた。培養液は、1週間に3回吸引して交換した。細胞は、73代継代と96代継代の間で使用した。
【0070】
実験プロトコル
電気生理学的研究:
コンフルエントMDCK-C7細胞(10〜16日)を含むNucleoporeフィルター(4.7 cm2)をTranswellチャンバーから取り外し、Ussingチャンバー(World Precision Instruments, Sarasota, Flo)の左右中間部に固定した。上記チャンバーの各半分はそれぞれ、電圧電極用の開口部(上皮膜の近く)と電流電極用の開口部(チャンバーの反対側)とを有するテーパー型の液体コンパートメントを含んでいた。この液体チャンバーは、一定温度(37℃)を保つためにウォータージャケットされていた。上記細胞は無血清MEMに浸した。この培養液は5%CO2/O2ガスリフトを用いてチャンバー内を循環させた。電極は、短絡回路条件下(SCC;短絡回路電流)[Ussing, 1951]でモニターされる正味のイオン流を測定するため、電圧固定型増幅器(電流電圧固定型;World Precision Instruments)に接続した。経上皮抵抗値は、上皮全体に2mVパルスを印加し、SCCに結果として生じた偏差を測定することによって算出した。培養液から得られるデータは、1000 W cm2を超える抵抗値を維持した場合のみ使用した。経上皮抵抗値(細胞生存の指標)は、各電気生理学的実験の全持続時間を通して、200秒毎に2000μVパルスで上皮組織をパルスすることによりモニターした。抵抗値は、結果として生じた電流偏差からオームの法則を用いて算出した。
【0071】
上記培養液をUssing チャンバー中に配置し、定常ベースライン輸送が達成されるまで短絡回路条件下でインキュベートした(0.5〜1時間)。ADH誘導性イオン輸送現象を特徴付けるための実験では、ADH添加の30分前に、培養液を阻害剤と共にプレインキュベートした。GI262570Xを用いた実験では、ADH添加の18時間前に化合物を加えた。ADHは漿膜が浸っている培養液に加えた;ADH添加の30分後に、アミロライドを表層膜の培養液に加え、イオン輸送の、アミロライド感受性Na+チャネルを通る流れに起因する部分を決定した。使用したエフェクターの濃度は以下のとおり:ADH、0.1 IU/ml;アミロライド、30μM;NPPB、500μM;ベラパミル、25μM、およびGI262570X(濃度範囲1nM〜1μM)。各実験は、並行して増殖させた対応培養液(matched cultures)を用いて実施した。データは平均±SE(標準誤差)として示し、nは異なる実験の数を示している。
【0072】
結果
短絡回路電流の測定は、培養液中の単層の腎細胞を横切るイオン輸送を評価するために利用することができる。慣例により、正の偏差は、表層膜が浸っている培養液から漿膜が浸っている培養液へのカチオン移動(再吸収)、または漿膜から表層膜へのアニオン移動(分泌)を示す。[アルギニン]-バソプレシンを用いたMDCK-C7細胞の刺激(ADH、100 mU/ml)は多相応答を生じ、この応答においては、1分以内に起こるイオン輸送の即時ピーク(図1B)および次の2〜5分間にわたるより持続的な最大応答と、次の30分間にわたって処理前のベースラインへと減少するその後の持続性応答との両方から成る短絡回路電流の急激な増加(図1AおよびB)が見られる。後者の持続性応答は、上皮性Na+チャネル(ENaC)を通じた輸送を表すために示した。しかし、このその後の持続性短絡回路電流(SCC)応答を阻害するのはアミロライドのみであり、このことは、ADHに対する初期の応答が、他のトランスポーターに媒介される事象を表していたことを示唆している。
【0073】
ADHによって生じる複雑な応答に関与するイオンチャネルとトランスポーターの独自性は、図2に示す阻害剤の使用を通して薬理学的に特徴付けられている。パネルAにおいては、ADHのみで処理した細胞中のSCC応答は、ADH不在下で約1μA/cm2のSCCの少量の持続的増大のみを示す未処理の細胞と比較して多相的である。パネルBでは、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)の非特異的阻害剤であるNPPB(500μM)を表層膜が浸っている培養液に加えて、NPPBが、ADHに応答する急激な一過性イオン輸送を著しく低下させることを示している。ADHに応答するイオン流に、アミロライドとNPPBに非感受性であって且つベラパミル(パネルC)、L型Ca2+阻害剤ならびにイノシトール-1,4,5,-トリホスフェート受容体のモジュレーターにより阻害される部分が存在し、上記応答における細胞内Ca2+の役割を示唆している。パネルDは、その後の持続性イオン輸送応答を低下させるアミロライドの影響を示す。
【0074】
GI262570Xの影響は、図3と図4にグラフで表される。ADH誘導性イオン輸送応答の全30分間の経時変化ならびにベースラインの安定化期間を図3に示し、最初の4分間の初期の急激な一過性応答を拡大して図4に示した。これらの実験においては、上記細胞は、ADHへの暴露前にGI262570Xと共に18時間プレインキュベートした。ベースラインSCC(-10分〜0分)への化合物関連の影響はなかった。しかし、ADH ± GI262570X(100nMまたは1μM、1投与量につき n=4、対照については n=6)に暴露した細胞中の多相SCC応答の大きさの比較は、初期の急激な一過性応答が、100nM(p<0.05)および1 μM(p<0.01)のいずれによっても著しく減衰されることを示す。これらの実験条件下では、SCC応答の他の相に有意な影響はなかった。
【0075】
単層細胞の細胞抵抗性が500オーム cm2未満まで低下したため、10μM以上の濃度でSCC応答を測定することはできなかった。初期の急激な一過性応答は、1 nM〜1μMの濃度範囲にわたって阻害された。
【0076】
このように、GI262570は、主細胞の細胞培養モデル(MDCK-C7細胞)において、ADH刺激に応答したCFTR媒介性アニオン分泌を低下させた。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】対照細胞およびアミロライドで前処理した細胞における、ADHによる刺激に対するMDCK-C7細胞のイオン輸送応答(短絡回路電流)。図1Aは全経時変化を示し、図1Bは最初の10分間を示す。
【図2】嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)の阻害剤で前処理した細胞における、ADHによる刺激に対するMDCK-C7細胞のイオン輸送応答。イオン輸送は短絡回路電流(SCC)として測定した。正の偏差は、表層膜培養液から漿膜培養液へのカチオン移動、または漿膜培養液から表層膜培養液へのアニオン移動を示す。
【図3】GI262570Xで18時間前処理した細胞における、ADHによる刺激に対するMDCK-C7細胞のイオン輸送応答の経時変化。イオン輸送は短絡回路電流(SCC)として測定した。正の偏差は、表層膜培養液から漿膜培養液へのカチオン移動、または漿膜培養液から表層膜培養液へのアニオン移動を示す。
【図4】GI262570Xで18時間前処理した細胞における、ADHによる刺激に対するMDCK-C7細胞のイオン輸送応答。イオン輸送は短絡回路電流(SCC)として測定した。データは、上記応答の最初の4分間を示す。正の偏差は、表層膜培養液から漿膜培養液へのカチオン移動、または漿膜培養液から表層膜培養液へのアニオン移動を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトなどの哺乳動物の異常なイオン流出を伴う腎疾患または症状の治療方法であって、hPPARγモジュレーターまたはその塩もしくは溶媒和物の投与を含んでなる、前記方法。
【請求項2】
hPPARγモジュレーターが、hPPARγアゴニストまたはその塩もしくは溶媒和物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
hPPARγモジュレーターが、ファルグリタザルまたはロシグリタゾンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記疾患または症状が、常染色体優性多発性嚢胞腎である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
異常なイオン流出を伴う腎疾患または症状の治療において使用するための医薬品製剤であって、hPPARγモジュレーターまたはその塩もしくは溶媒和物を、少なくとも1種の医薬担体と共に含む、前記製剤。
【請求項6】
常染色体優性多発性嚢胞腎の治療において使用するための、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
hPPARγモジュレーターが、hPPARγアゴニストまたはその塩もしくは溶媒和物である、請求項5または6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
hPPARγモジュレーターが、ファルグリタザルまたはロシグリタゾンである、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
異常なイオン流出を伴う腎疾患または症状の治療において使用するための、hPPARγのモジュレーターまたはその塩もしくは溶媒和物。
【請求項10】
常染色体優性多発性嚢胞腎の治療において使用するための、請求項9に記載のhPPARγモジュレーター。
【請求項11】
hPPARγアゴニストまたはその塩もしくは溶媒和物である、請求項9または10に記載のhPPARγモジュレーター。
【請求項12】
ロシグリタゾンまたはファルグリタザルである、請求項11に記載のhPPARγモジュレーター。
【請求項13】
異常なイオン流出を伴う腎疾患または症状の治療のための医薬品の製造における、hPPARγモジュレーターまたはその塩もしくは溶媒和物の使用。
【請求項14】
前記疾患が常染色体優性多発性嚢胞腎である、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記hPPARγモジュレーターがhPPARγアゴニストである、請求項13に記載の使用。
【請求項16】
前記hPPARγモジュレーターが、ロシグリタゾンまたはファルグリタザルである、請求項15に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−531707(P2008−531707A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−558162(P2007−558162)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【国際出願番号】PCT/US2006/007189
【国際公開番号】WO2006/096398
【国際公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(597173680)スミスクライン ビーチャム コーポレーション (157)
【Fターム(参考)】