説明

医薬組成物

4(3’-クロロ-4’-フルオロアニリノ)-7-メトキシ-6-(3-モルホリノプロポキシ)キナゾリン又はその薬学的に許容できる塩(薬剤);水溶性酸;及び水溶性セルロースエーテル又は水溶性セルロースエーテルのエステルを含む即時放出性医薬組成物。特許請求した組成物は溶液からの薬剤の析出率を抑制させ、胃腸管上部のpHと同様のpHレベルで薬剤の可溶化性を向上させる。特許請求した組成物は、薬剤の暴露において、患者間及び/又は患者内変動を減少させるのに有用であることが期待される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、pH依存性溶解度を持つ化合物を含有する医薬組成物、さらに詳しくは4−(3’−クロロ−4’−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)キナゾリンまたはその薬学的に許容できる塩(以後「薬剤」(“agent”)と称される)を含有する即時放出性(immediate release)医薬組成物に関する。
【0002】
薬剤は国際特許出願WO96/33980号明細書(その中の実施例1)に開示され、そしてチロシンキナーゼ酵素のerbB族、特にerbB 1(EGFR、HER 1)の、効力のある阻害剤である。薬剤は式I
【0003】
【化1】

【0004】
の構造を有するもので、現在コードナンバーZD 1839およびケミカルアブストラクト登録ナンバー184475-35-2によりIressa(登録商標)、即ちゲフィチニブ(gefitinib:米国の公認名称)として知られている。
【0005】
薬剤は抗癌活性のような抗増殖活性を有し、従ってヒトまたは動物の体内における癌のような増殖性疾患の治療方法において有用である。この薬剤は、EGF(特にerbB 1)レセプターチロシンキナーゼによって単独でまたは一部媒介される疾患または医学的状態、特に肺癌(特に非小細胞肺癌)、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、結腸直腸癌、胃癌、脳癌腫、頭頚部癌、膀胱癌、膵臓癌、食道癌、胃癌、腎癌、皮膚癌、婦人科系の癌および甲状腺癌のような癌の治療において、またある範囲の白血病、リンパ系悪性腫瘍、並びにカルチノーマおよびサルコーマのような充実性腫瘍の治療において有用であると予想される。この薬剤は、最近、従来の白金に基づく療法の不首尾に続く進行性非小細胞肺癌の治療における使用のために数多くの国で承認された。
【0006】
薬剤は弱塩基性化合物であって、ほぼ5.3および7.2のpKを持つ2個の塩基性基を有する。これら塩基性基のプロトン化と脱プロトン化は、この薬剤の水性媒体中溶解度に顕著な影響を及ぼす。従って、この薬剤の溶解度はpHに著しく依存性である。例えば、この薬剤の遊離塩基形はpH1では可溶である(1gの薬剤を溶解するのに必要とされる水性溶媒10〜30mL)が、pH7超では事実上不溶であり、その溶解度はpH4とpH6の間で急激に低下する(pH6において1gの薬剤を溶解するのに必要とされる水性溶媒≧10000mL)。
【0007】
pH依存性溶解度を有する化合物、特に塩基性化合物は、おそらくは低いまたは可変性バイオアベイラビリティーをもたらし、それによって患者間および患者内で変動が生じるという結果をもたらす、それら化合物の吸収における問題のような望ましくない薬物動態学的性質を示すことがある。
【0008】
経口投与された薬物の吸収に影響を及ぼす可能性のある因子は、薬物が胃腸管を通過するにつれてその薬物が経験する、変化するpHである。薬物は経口投与に続いて胃腸管に沿う多数の異なる部位で、例えば頬裏層、胃、十二指腸、空腸、回腸および結腸で吸収され得る。各吸収部位でpHは異なり、そのpHは胃(pH1−3.5)から小腸(pH4.5−8)までで有意に異なる。薬物の溶解度がpHと共に変わるとき、その薬物はそれが胃腸管を通過するにつれて溶液から析出することがある。これは、薬物は吸収されるべき溶液中に存在している必要があるので、用量間および患者間で吸収の程度および/または速度を変動させる可能性がある。
【0009】
薬剤は胃の酸性環境では高い溶解度を有するけれども、それはこの領域からは有意に吸収されない。この薬剤の最高固有吸収部位は腸上部(upper intestine)であると考えられる。しかし、胃腸管のこの領域では、pHは胃中のpHに比べて相対的に高く、またこの薬剤はより高いpHにおいて低い溶解度を有する。その結果、この薬剤は、それが胃の酸性環境から(腸上部のような)胃腸管上部(upper GI tract)のより高いpH環境へと進むにつれて溶液から析出する傾向があり、結果として薬剤の吸収は減少および/または変動することになる。
【0010】
胃腸管のpHは、また、例えば患者が食事を取った状態または絶食した状態にあるかどうか、ある特定の薬物適用法および無塩酸症のようなある特定の医学的条件の使用の結果としても変わり得る。例えば、プロトンポンプインヒビター(proton pump inhibitors)またはH2レセプター拮抗薬を使用している患者は、一般に、比較的高い胃pHを有する。これらの因子は、薬剤のような化合物に不均一な溶解挙動をもたらし得る。さらに、胃内容物排出速度も胃腸管中の主たる吸収部位に到達する薬剤の溶液中濃度に影響することがある。
【0011】
例えば、薬剤を含有する医薬組成物を患者に投与するときに高い胃内容物排出速度または局所的に高い胃中pHは、胃中でその薬剤の部分的溶解しかもたらさない可能性がある。次いで、その組成物の残っている未溶解部分は腸上部のより高いpH環境に移されるが、そこでは、より高いpHにおける薬剤の低溶解度の故に、その薬剤のさらなる溶解が抑えられる。従って、この薬剤の敏感なpH溶解度プロフィールと胃腸管中のpH変動性および/または胃内容物排出速度との組み合わせは、この薬剤のバイオアベイラビリティーおよび/または血漿中濃度に高度の患者間変動性を、そして多分ある割合の患者に最適以下の治療有効性をもたらす可能性がある。それ故、薬剤のpH感受性を低下させ、それによって高濃度の薬剤を胃腸管中の薬剤の主要吸収部位により均一に送達できるようにする必要が存在する。
【0012】
米国特許第4,344,934号明細書は、水溶性の低い薬物と水溶性重合体との、改善されたバイオアベイラビリティーを示すと言われる湿潤混合物を含む医薬組成物について記述している。
【0013】
英国特許第2,306,885号明細書は、pH依存性溶解度を持つ薬物を含有する局所用組成物であって、組成物が皮膚に適用されると、pH変化の結果として、その組成物が薬物により過飽和状態となるそのような局所用組成物について記述している。この組成物が薬物のその組成物からの析出を抑制する抗成核剤を含有することは随意である。
【0014】
Usui等(Int. J. Pharmaceutics, 154 (1997), 59-66)は、ある種特定の水溶性重合体は、特定の化合物、即ちRS-8359の過飽和水性メタノール溶液からの析出を抑制することを見いだした。
【0015】
Loftsson等(Int. J. Pharmaceutics, 127 (1996), 293-296)は、化合物・アセタゾールアミド、ヒドロコルチゾン、プラゼパムおよびスルファメトキサゾールの薬物溶解度に及ぼす水溶性重合体の影響について記述している。
【0016】
WO95/09614号明細書は、有機溶媒および有機酸と溶解/混合されたHIVプロテアーゼ阻害剤を含む組成物について記述し、そして結果として生ずる混合物は吸着剤としての適当な支持体上に吸着される。この組成物は向上したバイオアベイラビリティーを示すと言われる。
【0017】
Venkatesh(Pharmaceutical Development & Technology, 3(4), 477-485 (1998))、WO02/06834号明細書およびWO03/24429号明細書は、全て、薬物の溶解度および制御放出性/徐放性製剤からの薬物の放出を制御するための酸の使用について記述している。
【0018】
米国特許第6,248,771号明細書は、疎水性キナゾリン化合物、ポリエチレングリコール誘導体のような「ポリオキシヒドロカルビル化合物」および界面活性剤を含有する組成物を開示している。WO00/59475号明細書は、イオン化剤および界面活性剤を含むキャリアー中に溶解された、少なくとも1個のイオン化性基を有する疎水性の治療剤を含む組成物を開示している。記載される組成物は、生体内で治療剤を溶液中に保持する作用を奏する高レベルの界面活性剤を含んでいる。しかし、高レベルの界面活性剤を含んでいる組成物は調合することが困難である。さらに、高レベルの界面活性剤の患者への投与は、胃腸の刺激および/または障害をもたらす可能性がある。
【0019】
EP640 341号明細書は、特定のピリジンジオン化合物、有機酸および水溶性重合体を含有するコア;並びに腸溶コーティングを含む制御放出性組成物を開示している。この組成物は、胃の中では不溶であって、腸の中で溶解するように設計されている。有機酸はピリジンジオンを腸のアルカリ性/中性環境中で速やかに溶解させるように作用し、その間重合体がその化合物を溶液中に保持し、そして腸溶コーティングが重合体/ピリジンジオン化合物の放出を典型的には24時間の期間にわたって制御すると言われる。
【0020】
WO01/47495号明細書は、溶解度向上形をした薬物および濃度向上性重合体を含む組成物を開示している。薬物の溶解度向上形には薬物の可溶性塩類、多形または可溶化形がある。薬物の溶解度向上形を溶解すると得られる初期の高濃度は濃度向上性重合体によって維持される。一般に、この組成物は、低溶解度形の薬物に比較して、最大濃度(Cmax)および/または1.25またはそれ以上のオーダーのカーブ下面積(area under the curve:AUC)における増加を与える。
【0021】
本出願の優先権主張日後にWO03/072139号として公開された、出願中のPCT出願であるPCT/GB03/00803号明細書は、薬剤、および水溶性セルロースエーテルまたは水溶性セルロースエーテルのエステルを含む組成物を開示している。その中に記載される組成物は溶液からのその薬剤の析出速度を抑え、その結果としてpHの増加が起こり、それによって水溶性セルロースエーテルまたは水溶性セルロースエーテルのエステルを含んでいない組成物に比較してより高いpHにおいて薬剤の増加した溶液中濃度が与えられる。
【0022】
薬剤を含んでいる改善された組成物、特に高レベルの溶液中薬剤をその薬剤の吸収部位に与える組成物の必要性が存在する。
本発明者は、驚くべきことに、薬剤、ある特定の重合体および酸を含む組成物が(腸上部のような)胃腸管上部中で見いだされるpHレベルと同様のpHレベルにおいてその薬剤を高濃度で与えることを見いだした。本発明による組成物は、薬剤を実質的にpHに無関係に送達できるようにし、そして主要吸収部位に薬剤の増加した濃度を与える。この増加した薬剤濃度は、改善された薬物動態学的性質、例えば吸収および/またはバイオアベイラビリティーの増大した程度を与えると予想され、そして薬剤のバイオアベイラビリティーおよび/または変動性の血漿中薬剤濃度の患者間変動を低下させることができる。
【0023】
本発明の第一の態様によれば、薬剤、水溶性酸、および水溶性セルロースエーテルまたは水溶性セルロースエーテルのエステルを含む即時放出性医薬組成物が提供される。
本発明のもう1つの態様によれば、薬剤、水溶性酸および水溶性セルロースエーテルを含む即時放出性医薬組成物が提供される。
【0024】
本発明のもう1つの態様によれば、薬剤、水溶性有機酸および水溶性セルロースエーテルを含む即時放出性医薬組成物が提供される。
本発明のもう1つの態様によれば、薬剤、水溶性酸および水溶性セルロースエーテルのエステルを含む即時放出性医薬組成物が提供される。
【0025】
本発明のもう1つの態様によれば、薬剤、水溶性有機酸および水溶性セルロースエーテルのエステルを含む即時放出性医薬組成物が提供される。
本発明者は、本発明組成物の胃のような低pH環境への投与は、予想されるとおりの薬剤の急速溶解をもたらすことを見いだした。しかし、pHが上昇すると(例えば、薬剤が胃から腸上部へと進むときに起こる)、この薬剤の高度に感受性のpH溶解度プロフィールにも係わらず驚くほど高レベルの薬剤が溶液中に残る。
【0026】
本発明者は、また、本発明による組成物は、(i)薬剤の単独;(ii)薬剤および水溶性セルロースエーテルまたはそのエステルを含有する組成物からの同薬剤の可溶化性;または(iii)薬剤および水溶性酸を含有する組成物からの同薬剤の可溶化性のいずれかの可溶化性と比較して、胃腸管上部で見いだされるpH値と同様のpH値(例えばpH4.5〜8)において同薬剤の驚くほど高い可溶化性を実現できることも見いだした。
【0027】
本発明による組成物の溶出性は、その組成物がいずれも(例えば、速やかな胃内容物排出の結果として)胃中で溶解しない場合に、より高いpHにおける上記の改善された可溶化性が腸上部のより高いpH環境において薬剤の濃度を増加させるほどのものである。従って、本発明は高濃度の薬剤を胃腸管中の同薬剤の主要吸収部位にpHとは本質的に無関係に送達する手段を提供する。薬剤のpHに本質的に無関係な送達は患者間のバイオアベイラビリティーの変動を低下させ、それによってある一定の治療効果を与える薬剤の所要用量を最小限に抑えることが可能になると予想される。このことは、次には、高用量の同薬剤と関連付け得る望ましくない副作用を減少させることになる。
【0028】
薬剤の用語「向上した可溶化性(enhanced solubilisation)」とは、本発明による組成物が水性媒体中に置かれるとき、本発明組成物からの同薬剤の溶出が同薬剤単独の溶出に比較して増加せしめられることを意味する。例えば、本発明による組成物は、水溶性のセルロースエーテルまたは酸の無い薬剤単独の平衡濃度に比較して、pH6.5で溶解させた後の最大濃度(Cmax)に少なくとも3倍の増加を与える。好ましい態様において、本発明の組成物は、薬剤単独の平衡濃度に比較してCmaxに少なくとも5倍、さらに好ましくは少なくとも7倍、なおもさらに好ましくは少なくとも10倍の増加を与える。本発明の目的には、薬剤単独の平衡濃度は、同薬剤を溶出媒体にpH6.5および37℃において導入して60分後の同薬剤の溶液中濃度に近似させることができる。
【0029】
本発明の実施態様において、本発明の組成物は、薬剤単独の溶出対時間曲線下面積(area under the dissolution versus time curve:AUC)の少なくとも3倍、好ましくは少なくとも5倍、さらに好ましくは少なくとも10倍、特に10〜50倍のAUCを与え、ここでAUCは水性媒体へのpH6.5および37℃における導入に続いて最初の60分にわたって計算される。
【0030】
本発明のさらなる実施態様において、本発明組成物は、胃の中に見いだされるpHと同様のpH(例えばpH1.5〜3.5)から腸上部の中に見いだされるpHと同様のpH(例えばpH4.5〜8)までのpHの増加に続いて、薬剤を実質的に全て溶液中に保持している。前記のように、この薬剤は胃の低pH環境で容易に溶ける。本発明者は、本発明による組成物は、pHが実施例に記載されるインビボpHシフト試験を用いて約1.5からpH約6.5まで増大せしめられると、低pH環境で初めに溶出せしめられた薬剤の実質的に全てを、pH6.5へのシフトに続いて少なくとも30分間、さらに好ましくは少なくとも60分間溶液中に保持するように作用することを見いだした。一般に、本発明による組成物は、薬剤の少なくとも60重量%、特に70重量%超、さらに特定的には少なくとも80重量%、なおもさらに特定的には少なくとも90重量%を、溶液中に、本明細書に記載されるpHシフト溶出試験での6.5までのpH増加に続いて少なくとも30分間、さらに好ましくは少なくとも60分間保持する。
【0031】
好ましい実施態様において、本発明による組成物は低pHから高pHへの(例えば1.5から6.5までの)pHシフトに続いて薬剤の実質的に全てを溶液中に保持し、そして特に胃腸管上部に見いだされるpH値と同様のpH値(例えば、pH4.5〜8、特にpH6.5)においてこの薬剤の向上した可溶化性を実現できる。
【0032】
水溶性セルロースエーテルまたは水溶性セルロースエーテルのエステル
「セルロースエーテル」とは、セルロース重合体のアンヒドログルコース繰返単位の1個または2個以上の上に存在する1個または2個以上のヒドロキシ基の、セルロース重合体上に1個または2個以上のエーテル結合した基を与える転化反応によって形成されるエーテルを意味する。例として、セルロース重合体のアンヒドログルコース繰返単位上に存在することができる適したエーテル結合基に、ヒドロキシ、カルボキシ、(1−4C)アルコキシおよびヒドロキシ(1−4C)アルコキシから選ばれる1個または2個以上の置換基で随意に置換された(1−4C)アルキルがある。特定のエーテル結合基を挙げると、例えば、メチル若しくはエチルのような(1−4C)アルキル;2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル若しくは3−ヒドロキシプロピルのようなヒドロキシ(1−4C)アルキル;2−メトキシエチル、3−メトキシプロピル、2−メトキシプロピル若しくは2−エトキシエチルのような(1−4C)アルコキシ(1−4C)アルキル;2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル若しくは2−(2−ヒドロキシプロポキシ)プロピルのようなヒドロキシ(1−4C)アルコキシ(1−4C)アルキル;カルボキシメチルのようなカルボキシ(1−4C)アルキル;またはH-[O-CH(CH3)CH2-]m若しくはH-[O-CH2CH2-]mのような式H-[O-(1-4C)アルキル-]m(式中、m=1〜5、例えば1、2若しくは3である)の基がある。どんな不確かさも避けるために、用語「エーテル結合基(ether-linked groups)」は酸素原子によってセルロース重合体に結合されている上記基の1つまたは2つ以上を指す。例えば、エーテル結合基がメチルである場合、アンヒドログルコース繰返単位のヒドロキシ基の1個または2個以上がメトキシに転化される。
【0033】
水溶性セルロースエーテルはメチルセルロースの場合と同じエーテル結合基、例えばメチル基を有することができる。或いはまた、水溶性セルロースエーテルは複数の異なるエーテル結合基を有することができる。例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、メチルおよびヒドロキシプロピル(例えば2−ヒドロキシプロピル)エーテル結合基の両者を有するセルロースを指す。ヒドロキシエチルまたはヒドロキシプロピルエーテル結合基を有する水溶性セルロースエーテルは、必要とされるエーテル基を導入するためにセルロースをエチレンまたはプロピレンオキシドと反応させることによって製造されることが多い。この方法は、セルロースの主鎖に酸素原子によって結合された、式H-[O-CH(CH3)CH2-]mまたはH-[O-CH2CH2-]m(式中、mは、例えば1〜5である)を持つ複数のオキシエチレンまたはオキシプロピレン鎖をもたらすことができる。このような基は、得られるセルロースエーテルが水溶性であるとの条件で、本発明における使用に適している。
【0034】
用語「水溶性セルロースエーテル」とは、30℃未満(例えば10〜20℃)の温度で水に溶解または分散してコロイド溶液または分散液を与えるセルロースエーテルを意味する。一般に、水溶性セルロースエーテルは、10〜20℃の温度で少なくとも20mg/mL、適切には少なくとも30mg/mLの水中溶解度を有する(ここで、溶解度は非緩衝蒸留水中で測定される)。好ましくは、水溶性セルロースエーテルは水中で高溶出速度を有する。従って、上記の水溶性エーテルの溶解度は、その水溶性セルロースエーテルを水に添加して2時間後に、さらに好ましくは1時間後に測定されることが好ましい。適した水溶性セルロースエーテルに、Handbook of Pharmaceutical Excipients、第4版、American Pharmaceutical Associationに挙げられているもの、例えばメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースの水溶性塩(例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース)およびカルボキシメチルヒドロキシエチルセルロースの水溶性塩(例えば、ナトリウムカルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース)がある。
【0035】
本発明の1つの実施態様において、適した水溶性セルロースエーテルは、例えばメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースから選ばれる。
【0036】
本発明の1つの実施態様において、水溶性セルロースエーテルはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)である。前記のように、HPMCのセルロース重合体主鎖はメトキシとヒドロキシプロポキシ(特に、2−ヒドロキシプロポキシ)基の両基を有していた。pHが増大したとき薬剤の析出を抑制するために十分なHPMCが胃のpHレベルで溶解するとの条件で、例えば100,000cPまでの動力学粘度を有する広範囲のグレードのHPMCが用いられ得る。好ましくは、HPMCは、例えば1000cP以下、特に100cP以下、なおもさらに特定的には2〜18cP、適切には5〜7cPのような<60cPの動力学粘度を有する低粘度グレードであり、ここで動力学粘度はHPMCの2%重量/容量水溶液で20℃において測定される。HPMCは、メトキシ基10〜35%(適切には25〜35%)およびヒドロキシプロポキシ基2−30%(例えば3−30%、適切には5〜15%)の置換度を有するのが適切である。外に明記されなければ、本発明で用いられる用語「%置換度」は水溶性セルロースエーテル(例えばHPMC)の乾燥重量に基づくメトキシ基およびヒドロキシプロポキシ基の平均重量%を意味する。HPMCの特定のグレードには、Handbook of Pharmaceutical Excipients、第3版2000、American Pharmaceutical Association、第252頁に記載される2910、1828、2208および2906(ここで、初めの2桁は平均メトキシ置換度を指し、そして第二の2桁は平均ヒドロキシプロポキシ置換度を指す)がある。さらに特定的には、HPMCの上記グレードは2〜18cP(例えば5〜7cP)の動力学粘度を持つものである。なおもさらに特定的には、HPMCは5〜7cPの動力学粘度を持つグレード2910であり、ここでその動力学粘度はHPMCの2%重量/容量水溶液で20℃において測定される。
【0037】
外に明記されなければ、本発明で使用される用語の動力学粘度は、#2スピンドルおよび60rpmの回転速度を備えるブルックフィールド粘度計のような適切な装置を用いての、引用した温度における粘度測定値を意味する。
【0038】
本発明のさらなる実施態様において、水溶性セルロースエーテルはヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースから選ばれる。水溶性セルロースエーテルがヒドロキシプロピルセルロースであるとき、その置換度は16%超、例えば20〜80%、特に20〜40%であるのが適切である。ヒドロキシプロピルセルロースは約2〜約30000cPの動力学粘度を有するのが適切である。しかし、ヒドロキシプロピルセルロースは、例えば(150〜450cPのような)100〜600cPの低動力学粘度を有するのが好ましく、ここでその粘度はヒドロキシプロピルセルロースの2%重量/容量水溶液で20℃において測定される。或いはまた、ヒドロキシプロピルセルロースはヒドロキシプロポキシ基約5〜約16%という置換度を有することができる。このようなヒドロキシプロピルセルロースは、「低置換」ヒドロキシプロピルセルロースとして商業的に入手できる。低置換ヒドロキシプロピルセルロースは水不溶性と記述されることが多いけれども、本発明者は、驚くべきことに、低置換ヒドロキシプロピルセルロースは溶液からの薬剤の析出を防ぐべく十分に親水性であって、この発明の目的には、低置換ヒドロキシプロピルセルロースは水溶性セルロースエーテルと考えられるべきであることを見いだした。セルロースエーテルがヒドロキシエチルセルロースであるとき、それは、例えば85000〜1,300,000、特におよそ220,000〜270,000のような150,000〜350,000の分子量を持つ水溶性ヒドロキシエチルセルロースであるのが適切である。一般に、適した水溶性ヒドロキシエチルセルロースに、約10〜約100000cPの動力学粘度を持つもの、特に、例えば80〜125cPのような50〜250cPの動力学粘度を持つ低粘度ヒドロキシエチルセルロースがあり、ここでその粘度はヒドロキシエチルセルロースの2%重量/容量水溶液で25℃において測定される。ヒドロキシエチルセルロースは、0.8〜1.5、例えばおよそ1のようなおよそ0.8〜2.5の置換度を有するのが適切であり、ここで置換度はセルロースのアンヒドログルコース環1個当たりの平均ヒドロキシエチル基数を意味する。
【0039】
さらなる実施態様において、水溶性セルロースエーテルは、メチルセルロース、特に約4〜約15000cPの動力学粘度を持つメチルセルロース、特に10〜25cPのような5〜約100cPの粘度(ASTM D2363に従って、例えばウッベローデ粘度計を用いて測定された20℃における25重量/容量%水溶液の粘度)を持つ低粘度メチルセルロースである。メチルセルロースは1〜2、例えばおよそ1.8のような1.64〜1.92の置換度を有するのが適切であり、ここで置換度はセルロースのアンヒドログルコース環1個当たりの平均メトキシ基数を意味する。メチルセルロースはおよそ10,000〜140,000、特におよそ10,000〜50,000、例えば10,000〜35,000の分子量を有するのが適切である。適した水溶性メチルセルロースは、Dow Inc.から、例えばMethocel(登録商標)AおよびMethocel(登録商標)MCのような商標名Methocel(登録商標)で商業的に入手できる。
【0040】
本発明で用いられる「水溶性セルロースエーテルのエステル」とは、水溶性セルロースエーテル中に存在する1個または2個以上のヒドロキシル基と1種または2種以上の適切な有機酸またはその反応性誘導体との間で形成されるエステルを意味し、その反応によって水溶性セルロースエーテル上にエステル結合した基が形成される。それ故、水溶性セルロースエーテルのエステルは、セルロース重合体の主鎖上にエステル結合基とエーテル結合基の両基を持っている。この水溶性セルロースのエステルは、HPMCアセテートの場合と同じエステル結合部分、例えばアセテート基を持っていることができる。或いはまた、水溶性セルロースエーテルのエステルは、複数の異なるエステル結合部分(例えば、スクシネート基およびフタレート基のような2個または3個以上の部分)を持っていることができる。例えば、HPMCアセテート・スクシネートは、スクシネート基とアセテート基の両基を持っているHPMCの混合エステルを指し、またHPMCアセテート・スクシネート・トリメリテートは、アセテート基、スクシネート基およびトリメリテート基を持っているHPMCの混合エステルである。
【0041】
本発明のある1つの特定の実施態様において、水溶性セルロースエーテルのエステルは、アセテート、スクシネート、フタレート、イソフタレート、テレフタレートおよびトリメリテートから選ばれる1個または2個以上のエステル基を持っているHPMCまたはヒドロキシプロピルセルロース(HPC)のエステルである。水溶性セルロースエーテルのエステルの特定の例を挙げると、限定されるものではないが、HPMCアセテート、HPMCスクシネート、HPMCアセテート・スクシネート、HPMCフタレート(例えば、HP−55およびHP55−Sとして商業的に入手できる)、HPMCトリメリテート、HPMCアセテート・フタレート、HPMCアセテート・トリメリテート、HPCアセテート・フタレート、HPCブチレート・フタレート、HPCアセテート・フタレート・スクシネートおよびHPCアセテート・トリメリテート・スクシネートがある。さらに特定的には、水溶性セルロースエーテルのエステルは、HPMCアセテート・スクシネート(信越化学株式会社からAqoat、例えばAqoat AS-LGとして商業的に入手できる)から選ばれる。
【0042】
本発明のもう1つの実施態様において、水溶性セルロースエーテルまたは水溶性セルロースエーテルのエステルは、ヒドロキシプロピルセルロース、HPMC、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、HPMCのエステルおよびヒドロキシプロピルセルロースのエステルから選ばれ、ここで該エステルはアセテート、スクシネート、フタレート、イソフタレート、テレフタレートおよびトリメリテートから選ばれる1個または2個以上のエステル基を持っている。この態様において、特定の水溶性セルロースエーテルおよび/または水溶性セルロースエーテルのエステルは、ヒドロキシプロピルセルロース、HPMC、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースおよびHPMCアセテート・スクシネートから選ばれる。さらに特定的には、水溶性セルロースエーテルおよび/または水溶性セルロースエーテルのエステルは、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースおよびHPMCアセテート・スクシネートから選ばれる。本発明のさらなる実施態様において、水溶性セルロースエーテルおよび/または水溶性セルロースエーテルのエステルは、HPMC、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースおよびHPMCアセテート・スクシネートから選ばれる。なおもさらに特定的には、本発明による医薬組成物は、薬剤、水溶性酸、並びにヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよびメチルセルロースから選ばれる水溶性セルロースエーテルを含む。特定の水溶性セルロースエーテルは、ヒドロキシプロピルセルロース、さらに特定的には16%超の置換度を有する水溶性ヒドロキシプロピルセルロースである。この実施態様におけるもう1つの特に適した水溶性セルロースエーテルはメチルセルロースである。本発明のもう1つの実施態様は、薬剤、水溶性酸、並びにHPMCおよびメチルセルロースから選ばれる水溶性セルロースエーテルを含む。上記の水溶性セルロースエーテルの適したグレードは前記のとおりである。
【0043】
本発明による組成物は、単一の水溶性セルロースエーテルまたは水溶性セルロースエーテルのエステル、或いは2種または3種以上のそのような重合体を含んでいることができる。
【0044】
水溶性セルロースエーテルまたは水溶性セルロースエーテルのエステルは、適切には、組成物中に、その組成物の2〜50重量%または10〜40重量%のような、例えば2〜70重量%という広い範囲にわたって存在する。薬剤−対−水溶性セルロースエーテルまたは水溶性セルロースエーテルのエステルの重量比は、50:1〜1:5、例えば35:1〜1:1、さらに特定的には40:1〜2:1、なおもさらに特定的には33:1〜10:1のような33:1〜2:1であるのが適切である。さらなる実施態様において、薬剤対セルロースエーテルまたはそのエステルの重量比は、32:1まで、例えば32:1〜1:1、さらに特定的には30:1〜2:1、なおもさらに特定的には25:1〜3:1である。
【0045】
本発明のもう1つの実施態様において、薬剤−対−水溶性セルロースエーテルまたは水溶性セルロースエーテルのエステルの重量比は、40:1〜2.5:1、特定的には30:1〜3:1、特に5:1〜3:1である。本発明者は、一般に、セルロースエーテルまたはそのエステルの量を薬剤対セルロースエーテルまたはそのエステルの重量比が約3:1未満(例えば1:1)となるように増加させることは、薬剤対セルロースの重量比がおよそ3:1であるときに観察されるもの以上の、薬剤の析出速度に比較的小さいさらなる低下を与えるだけであることを見いだした。
【0046】

酸は有機酸でも無機酸でもよい水溶性の酸である。しかし、本発明者は、ある種特定の水溶性有機酸は胃腸管中の主要吸収部位のpHと同様のpHにおいて特に高い薬剤濃度を与えることを見いだしたので、酸は水溶性有機酸であることが好ましい。組成物中に存在する酸に関して本発明で用いられる用語「水溶性」は、25℃の水において少なくとも0.2重量%の溶解度を有する酸を意味する。
【0047】
特に、酸は、薬剤中に存在する塩基性基の最高pKaよりも少なくとも1(好ましくは少なくとも2)pK単位低い少なくとも1つのpKa値を有する。さらに特定的には、酸は、薬剤中に存在する塩基性基の最低pKaよりも少なくとも1(好ましくは少なくとも2)pK単位低いpKa値を有する。1つの例として、およそ5.3および7.2のpKa値を有する薬剤の場合、酸は、好ましくは6.2未満、さらに好ましくは4.3未満、なおもさらに好ましくは3.3未満のpKaを有する。本発明の態様の1つにおいて、水溶性酸は周囲温度(18−25℃)において固体である水溶性酸である。固体の水溶性酸の使用は、固体の単位剤形の形をしている本発明による組成物の製造に特に都合がよい。
【0048】
特定の無機酸に周囲温度において固体である水溶性無機酸、例えばスルファミン酸がある。
適した有機酸は、1個または2個以上の酸性基を含んでいる水溶液有機分子、特にカルボン酸基およびスルホン酸基から選ばれる酸性基を含んでいる化合物、特に周囲温度において固体であるものである。
【0049】
特定の水溶性有機酸を挙げると、モノ−、ジ−またはポリ塩基性カルボン酸、およびモノ−、ジ−またはトリスルホン酸、好ましくは周囲温度で固体であるものから選ばれる水溶性有機酸がある。特定の固体水溶性カルボン酸に、例えば2〜8個の炭素原子、特に2〜6個の炭素原子を含んでいるもののような脂肪族モノ−またはポリカルボン酸、さらに特定的には2〜6個、特に4個の炭素原子を含んでいるジ−またはトリカルボン酸があり、それら酸はいずれも飽和であってもよいし、不飽和であってもよい。適した固体の水溶性脂肪族モノ−カルボン酸にソルビン酸(2,4−ヘキサンジエン酸(2,4-hexandienoic acid))がある。適した固体水溶性脂肪族ジカルボン酸の例に、アジピン酸、マロン酸、琥珀酸、グルタル酸、マレイン酸またはフマル酸がある。脂肪族カルボン酸は、随意に、カルボキシ、アミノおよびヒドロキシから選ばれる、同一でも、異なっていてもよい1個または2個以上(例えば1個、2個または3個)の基で置換されていることができる。適した置換固体水溶性脂肪族カルボン酸に、例えばグルコン酸、固体形の乳酸、グリコール酸またはアスコルビン酸のようなヒドロキシル置換脂肪族モノカルボン酸;リンゴ酸、酒石酸、タルトロン酸(ヒドロキシマロン酸)、粘液(ガラクタル)酸のようなヒドロキシ置換脂肪族ジカルボン酸;ヒドロキシ置換脂肪族トリカルボン酸、例えばクエン酸;またはグルタミン酸またはアスパラギン酸のような酸性側鎖を有するアミノ酸がある。
【0050】
適した芳香族カルボン酸に14個までの炭素原子を含んでいる水溶性のアリールカルボン酸がある。適したアリールカルボン酸は、アリール基、例えば1個または2個以上の基(例えば1個、2個または3個のカルボキシ基)を持っているフェニルまたはナフチル基を含む。アリール基が、ヒドロキシ、(1−4C)アルコキシ(例えばメトキシ)およびスルホニルから選ばれる、同一でも、異なっていてもよい1個または2個以上(例えば1個、2個または3個)の基で置換されることは随意である。アリールカルボン酸の適した例に、例えば安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸またはトリメリット酸(1,2,4−ベンゼントリカルボン酸)がある。好ましい水溶性芳香族カルボン酸は安息香酸である。
【0051】
単一の水溶性酸または2種若しくは3種以上のそのような酸の組み合わせが用い得る。水溶性酸がカルボン酸であるとき、その酸は、例えば、カルボン酸誘導体が水性媒体に曝露されるとそれが組成物内に酸性pHを与えるとの条件で、適切なカルボン酸誘導体として、例えば無水物として、またはラクトンとして組成物中に配合することができる。
【0052】
本発明の特定の実施態様において、酸は4〜6個の炭素原子を有する固体の水溶性脂肪族ポリカルボン酸(好ましくはジ−またはトリカルボン酸)であり、その酸は飽和または不飽和であり、また随意に1個または2個以上のヒドロキシ基で置換される。この態様における特定の酸はマレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、琥珀酸、酒石酸およびクエン酸から選ばれる。水溶性酸はリンゴ酸、マレイン酸および琥珀酸から選ばれることが特に好ましい。本発明のさらなる実施態様において、水溶性酸はフマル酸およびリンゴ酸から選ばれる。
【0053】
一般に、本発明の組成物は、10:1〜1:10、例えば2:1〜約1:10の薬剤対酸のモル比を有することができる。諸実施態様において、等モルの、好ましくはモル過剰の酸が、例えば1:1〜1:10、特に1:2〜1:7、さらに特定的には1:3〜1:6という薬剤対酸のモル比の酸が存在する。
【0054】
理論で縛られることを望むものではないが、組成物中に存在する酸は、本発明による組成物が置かれる大量の液体(bulk liquid)のpHを単に減少させることによっては、薬剤の溶解を向上させないと考えられる。それに代わって、組成物中で薬剤と密に接触している酸と水溶性セルロースエーテル(またはそのエステル)との複合効果が、薬剤、酸および水溶性セルロースエーテルとの間の相互作用によって、その薬剤の向上した可溶化性および析出の抑制を実現すると考えられる。それによって、本発明の組成物は、患者への経口投与に続いて、薬剤単独の投与と比較して同薬剤の増加した濃度を与える。
【0055】
薬剤
典型的には、薬剤は、本発明組成物の1〜99重量%、適切には1〜70重量%、例えば5〜65重量%、特に10〜60重量%の範囲内の量で存在する。
【0056】
適切には、単位服用量の本発明による組成物は0.01mg〜1gの薬剤を含んでいることができる。単位服用量の本発明組成物は、日用量の薬剤を所望とされる治療利益を与えるのに足る十分な量で含んでいる。異なる実施態様における単位服用量中の薬剤の適切な量としては、必要とされる用量および医薬組成物の特定の形態に依存するが、例えば10、15、25、50、75、100、125、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000mgまたはそれ以上が挙げられる。特定の態様において、この組成物の単位服用量は100、150、250または500mgの薬剤、特に250mgの薬剤を含んでいる。
【0057】
薬剤は、式Iの化合物の遊離塩基形で、または、例えば適切な無機または有機の酸、例えば塩化水素酸、臭化水素酸、硫酸、燐酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、メタンスルホン酸若しくは4−トルエンスルホン酸から選ばれる無機酸または有機酸との薬学的に許容できるモノ−またはジ−酸付加塩のような、上記化合物の薬学的に許容できる塩として使用することができる。従って、本発明で薬剤と言えば、それは、外に記載がなければ、薬剤の遊離塩基形またはその薬学的に許容できる塩をカバーするものとする。1つの態様において、薬剤は遊離塩基形、特に結晶質遊離塩基形をしている。明らかなように、用語「遊離塩基形」は薬剤が塩の形をしていない場合を指す。諸態様において、薬剤は、非晶質形で、結晶質形で、または非晶質形と結晶質形との混合物として使用することができる。
【0058】
上述のものからみて、本発明による特定の医薬組成物は:
(i)薬剤;
(ii)水溶性セルロースエーテル(特に、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースから選ばれるもの、さらに特定的にはメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースから選ばれるもの);および
(iii)周囲温度において固体である水溶性有機酸(特に、4〜6個の炭素原子を持つ、飽和または不飽和であり、かつ1個または2個以上のヒドロキシ基で置換されることは随意である脂肪族ポリカルボン酸(好ましくはジ−またはトリカルボン酸)から選ばれる有機酸)(特に、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、琥珀酸、酒石酸またはクエン酸、さらに特定的にはリンゴ酸、フマル酸または琥珀酸、特にフマル酸またはリンゴ酸)
を含む。
【0059】
さらなる実施態様において、本発明による組成物は:
(i)10〜60(特に30〜50)部の薬剤;
(ii)2〜70(特に5〜40)部の水溶性セルロースエーテル(特に、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースから選ばれるもの、さらに特定的にはメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースから選ばれるもの);および
(iii)10〜70(特に30〜60)部の、周囲温度において固体である水溶性有機酸(特に、4〜6個の炭素原子を持つ、飽和または不飽和であり、かつ1個または2個以上のヒドロキシ基で置換されることは随意である脂肪族ポリカルボン酸(好ましくはジ−またはトリカルボン酸)から選ばれる有機酸)(特にマレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、琥珀酸、酒石酸またはクエン酸、さらに特定的にはリンゴ酸、マレイン酸または琥珀酸、特にフマル酸またはリンゴ酸)
を含み、
ここで、部は全て重量によるもので、それら部数の和(i)+(ii)+(iii)=100である。
【0060】
これらの実施態様において、薬剤対有機酸のモル比は前記のとおり、例えば1:2〜1:7、さらに特定的には1:3〜1:6であるのが適切である。薬剤対水溶性セルロースエーテル/そのエステルの重量比は、およそ3:1より大、例えば約30:1〜約3:1、特に約5:1〜3:1であるのが適切である。
【0061】
さらなる実施態様において、本発明による組成物は:
(i)10〜60(特に30〜50)部の薬剤;
(ii)2〜70(特に5〜40)部の、メチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースから選ばれる水溶性セルロースエーテル;および
(iii)10〜70(特に30〜60)部の、フマル酸およびリンゴ酸から選ばれる水溶性有機酸
を含み、
ここで、部は全て重量によるものであって、それら部数の和(i)+(ii)+(iii)=100であり;
そして、薬剤対有機酸のモル比は1:3〜1:6である。
【0062】
調合
本発明による組成物は、薬剤、酸および水溶性セルロースエーテルまたはそのエステルがこの組成物の成分の乾燥混合物として一緒に混合されている単純な物理的混合物として調製することができる。もう1つの態様において、本発明による組成物は、例えば本発明の組成物の成分の物理的混合物を湿式顆粒化することによって湿式顆粒として調製することができる。もう1つ別の態様において、本発明による組成物は固体分散調合物として調製することができる。特定の固体分散調合物は、酸と共に水溶性セルロースエーテルまたは水溶性セルロースエーテルのエステルによって形成されているマトリックス中の薬剤の固体分散物を含む。
【0063】
随意に、追加の添加剤が本発明による組成物に含めることができる。存在していてもよい追加の添加剤に、例えば1種または2種以上の充填剤(希釈剤)、結合剤、崩壊剤(disintegrants)または滑沢剤がある。本発明による組成物は、また、例えば防腐剤、安定剤、酸化防止剤、シリカフローコンディショナー、付着防止剤、湿潤剤またはグライダント(glidants)を含めて、医薬組成物中で一般に用いられる他の添加剤を含んでいてもよい。使用することができる随意の追加添加剤はこの技術分野の当業者にはよく知られており、例えばHandbook of Pharmaceutical Excipients、第4版、American Pharmaceutical Association;The Theory and Practice of Industrial Pharmacy、第3版、Lachman等、1986年;Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets Volume 1、第2版、Lieberman、Hebert A等、1989年;Modern Pharmaceutics、Banker、GilbertおよびRhodes、Christopher T、第3版、1995年;およびRemington's Pharmaceutical Sciences、第20版、2000年に記載されている。
【0064】
適した充填剤を挙げると、例えばラクトース(無水形または水和形、例えばラクトース一水和物の形をしていることができる)、糖、澱粉(例えば、トウモロコシ、コムギ、メイズ、ポテト)、化工澱粉(例えば、澱粉水解物または熱的、機械的若しくは化学的に変性されていてもよいα−澱粉)、微晶質澱粉、マンニトール、ソルビトール、トレハロース、マルトース、無機塩(例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、二塩基性燐酸カルシウム(無水/二水和物)、三塩基性燐酸カルシウム)、セルロース、セルロース誘導体(例えば微結晶性セルロース)、硫酸カルシウム、キシリトールおよびラクチトール(lactitol)がある。
【0065】
適した結合剤を挙げると、例えばポリビニルピロリドン(例えば、ポビドンK25−32、特にK29−32、ここで「K値」はHandbook of Pharmaceutical Excipients、第3版2000、American Pharmaceutical Association、第433頁に記載されるFikentscher式から得られる平均分子量範囲の指標である)、ラクトース(無水形または水和形、例えばラクトース一水和物の形をしていることができる)、澱粉、化工澱粉、糖、アカシアゴム、トラガカントゴム、グアーガム、ペクチン、ワックス系バインダー、マイクロクリスタリンセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースおよびその塩(例えばナトリウムカルボキシメチルセルロース)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、コーポリビドン(copolybidone)、ゼラチンおよびアルギン酸塩(例えばアルギン酸ナトリウム)がある。
【0066】
適した崩壊剤を挙げると、例えばクロスカルメロース(croscarmellose)ナトリウム、クロスポビドン(crospovidone)、ポリビニルピロリドン、澱粉グリコール酸ナトリウム、澱粉、マイクロクリスタリンセルロース、カルボキシメチルセルロースおよびその塩(例えば、ナトリウムまたはカルシウムカルボキシメチルセルロース)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(特に、低置換ヒドロキシプロピルセルロース、即ちおよそ5〜16重量%のヒドロキシプロポキシ基を含んでいるヒドロキシプロピルセルロース)またはアルギン酸がある。
【0067】
適した滑沢剤に、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸カルシウム、タルク、カルナバワックス、水素化植物油、鉱油、ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリルフマル酸ナトリウムがある。
【0068】
湿潤剤(1種または複数種)は、例えば組成物の調合を助けるために組成物に配合することができる。湿潤剤は薬剤の追加の可溶化性も多少与えることができるが、しかし湿潤剤の存在は本発明による組成物におけるこの薬剤の可溶化性に必須な訳ではない。適した湿潤剤に、イオン性でもよいし、或いは非イオン性でもよい薬学的に許容できる界面活性剤がある。特定の非イオン性界面活性剤を挙げると、例えばポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンエステルおよびエーテル、例えばポリエトキシ化ひまし油(例えばCremophor EL)、ポリエトキシ化・水素化ひまし油、ひまし油から誘導されたポリエトキシ化脂肪酸、または水素化ひまし油から誘導されたポリエトキシ化脂肪酸;エトキシ化ステアリン酸、例えばSolutol HS15;およびエチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体、例えばPluronic界面活性剤またはTetronic界面活性剤のようなエチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体がある。
【0069】
適した薬学的に許容できるイオン性界面活性剤は、アニオン性であってもよいし、カチオン性であってもよいし、或いは両性イオン性であってもよい。適したアニオン性界面活性剤に、例えばドデシル硫酸ナトリウム(ラウリル硫酸ナトリウム)、ミリスチン酸カリウム、ラウリン酸ナトリウムまたはラウリルスルホン酸ナトリウム;ジオクチルスルホスクシネート(例えばDocusateナトリウムまたはAerosol OT)またはナトリウムジアミルスルホスクシネート(Aerosol AY)のようなジアルキルスルホスクシネートがある。適したカチオン性界面活性剤に、例としてであるが、例えばセチルトリメチルアンモニウムブロミド(Cetramide)、トリメチルテトラデシルアンモニウムブロミド(Myristamide)、ラウリルトリメチルアンモニウムブロミド(Lauramide)または塩化ベンザルコニウムのような4級アンモニウム化合物がある。
【0070】
本発明の組成物は、5重量%未満、さらに特定的には2重量%未満の湿潤剤、例えば0.1〜1.5重量%の湿潤剤を含有するのが適切である。
適切には、1種または2種以上の充填剤が1〜90重量%、特に10〜90重量%、例えば10〜50重量%、特に30〜50重量%の量で存在する。
【0071】
適切には、1種または2種以上の結合剤が0.5〜50重量%、例えば0.5〜10重量%の量で存在する。
適切には、1種または2種以上の崩壊剤が0.5〜25重量%、特に0.5〜20重量%、例えば1〜10重量%の量で存在する。
【0072】
適切には、1種または2種以上の滑沢剤が0.1〜5重量%、例えば0.5〜3重量%の量で存在する。
特定の添加剤は結合剤および充填剤の両者として、または結合剤、充填剤および崩壊剤として作用し得ることは認められるだろう。典型的には、充填剤、結合剤および崩壊剤の合計量は、例えば組成物の2〜85重量%を構成する。例えば、本発明の1つの実施態様では、充填剤、結合剤および崩壊剤の合計量は組成物の2〜40重量%を構成する。もう1つの態様では、充填剤、結合剤および崩壊剤の合計量は組成物の40〜80重量%を構成する。
【0073】
本発明のさらなる実施態様は、薬剤、水溶性酸(好ましくは水溶性有機酸)、水溶性セルロースエーテルおよび/または水溶性セルロースエーテルのエステル、並びに充填剤、結合剤、崩壊剤および滑沢剤から選ばれる1種または2種以上の添加剤を含む即時放出性医薬組成物を提供する。本発明のなおもさらなる実施態様は、薬剤、水溶性有機酸、水溶性セルロースエーテル、1種または2種以上の充填剤、1種または2種以上の結合剤、1種または2種以上の崩壊剤および1種または2種以上の滑沢剤を含む経口投与用の固体医薬組成物を提供する。
【0074】
物理的混合物
本発明の医薬組成物は、この技術分野で一般に知られている標準的な技術と製造方法を用いて、例えば乾式ブレンドすることによって物理的混合物として、或いはその成分の湿式顆粒化によって製造される顆粒として製造することができる。この結果得られるブレンド/顆粒は、次に、以下で議論される多数の剤形を製造するために用いることができる。
【0075】
適した湿式顆粒化技術は、例えばPharmaceutics, The Science of Dosage Form Design 、Aulton編、Churchill Livingstone, 2002に記載されるようにこの技術分野で周知である。例えば、適した湿式顆粒化技術は、前記の薬剤、酸、水溶性セルロースエーテルおよび/または水溶性セルロースエーテルのエステル、並びに、随意であるが、所望とされるならば他の添加剤を、例えばグラニュレーターを用いて一緒にブレンドすることを含む。この結果得られた粉末ブレンドは、次いで、小容量の顆粒化用液体を用いて顆粒化される。顆粒化用液体はいかなる湿潤剤(1種または複数種)も含んでいないのが好ましい。適した顆粒化用液体は精製された水である。この結果得られた顆粒は、次に、大きな凝集体を解体するために篩を通過せしめられ、乾燥され、そしてミルを通過せしめられる。次に、適した追加の添加剤(例えば、充填剤、崩壊剤、湿潤剤、結合剤および滑沢剤)が上記顆粒に加えることができ、次いで、得られた均質な顆粒混合物をブレンドした後、例えば顆粒を錠剤に圧縮成形し、またはカプセル製剤を提供するために適切なカプセルに充填することによってある1つの剤形を製造するために使用することができる。
【0076】
適した乾式ブレンド技術は、例えば、前記の薬剤、酸および水溶性セルロースエーテルおよび/または水溶性セルロースエーテルのエステル、そして、随意に湿潤剤、1種または2種以上の充填剤、1種または2種以上の結合剤および1種または2種以上の崩壊剤、並びに所望とされるならば他の追加の添加剤を一緒にブレンドすることを含む。ブレンド処理に先だつそのブレンドの成分、またはブレンド自体はメッシュスクリーン、例えば400−700μmのメッシュスクリーンを通過させることができる。次に、滑沢剤―これも篩に掛けることができる―がブレンドに加えられ、そして均質な混合物が得られるまでブレンド処理が続けられる。この結果得られたブレンドは、次いで、錠剤または顆粒製剤のような最終剤形を与えるために常用の技術を用いて加工処理することができる。
【0077】
成分の添加順序およびそれらの篩分け、並びに錠剤への圧縮成形に先立つブレンド処理を含めて乾式ブレンドおよび湿式顆粒化技術の修正をこの技術分野で周知の原理に従って行うことができることは認められるだろう。
【0078】
固体分散物
本発明による組成物は、薬剤のマトリックス中固体分散物として調製することができる。用語「固体分散物」は、薬剤のマトリックス中分散物のことを言う。薬剤は、マトリックス中に、そのマトリックスに分散された薬物リッチのドメインとして存在することができる。固体分散物は、また、マトリックスに溶解した薬剤の一部を含んでいてもよい。固体分散物のマトリックスは、水溶性酸;水溶性セルロースエーテル若しくは水溶性セルロースエーテルのエステル;または水溶性酸と水溶性セルロースエーテル若しくは水溶性セルロースエーテルのエステルとの両者によって形成されていることができる。
【0079】
微粉砕または押出しのような機械的方法、溶融押出しのような熱的処理、並びに溶媒析出および溶媒蒸発のような溶媒処理を含めて固体分散物を調製する方法はこの技術分野で公知である。これらの標準的方法は、例えばDekker Inc.刊行のEncyclopaedia of Pharmaceutical Technology、第3巻、第337−352頁(Vadnere)に記載されるようにこの技術分野の当業者にはよく知られている。本発明において、特に適した方法は、薬剤および水溶性セルロースエーテルまたは水溶性セルロースエーテルのエステルを一般的な溶媒に溶解する工程、およびその溶媒を除去する工程を含む。溶媒は使用される特定のセルロースおよび採用される調製方法に従って普通に選択することができる。溶媒は薬剤および水溶性セルロースエーテルまたはそのエステルを溶解するように選ばれる。その溶液から溶媒を除去する方法に、回転蒸発、噴霧乾燥、凍結乾燥および薄膜蒸発のような蒸発技術がある。使用することができる他の溶媒除去方法に、溶媒制御析出(例えば、薬剤/セルロースの適切なアンチ溶媒(anti-solvent)の添加)、pH制御析出、噴霧凝固(spray congealing)、噴霧乾燥、溶融押出および超臨界流体技術がある。酸は、酸および薬剤のセルロース中固体分散物を与えるために、酸を薬剤、セルロースおよび溶媒の初期溶液に含めることによって固体分散物に配合するのが好ましい。別法として、酸は、薬剤のセルロースエーテル中固体分散物を形成した後に、酸をその固体分散物と単に混合することによって配合することもできる。同様に、固体分散物のマトリックスが水溶性酸によって与えられるそれら実施態様においては、水溶性セルロースエーテルまたはそのエステルは、セルロースを薬剤/水溶性酸固体分散物と混合することによって配合することができる。
【0080】
酸と共に水溶性セルロースエーテルまたは水溶性セルロースエーテルのエステル中における薬剤の固体分散物は追加の添加剤を含んでいてもよいし、或いは必要とされる最終剤形を与えるために前記のもののような追加の添加剤と調合されてもよい。
【0081】
かくして、本発明のさらなる態様は、薬剤を水溶性酸および水溶性セルロースエーテルおよび/または水溶性セルロースエーテルのエステル、そして随意に他の添加剤と混合することを含む医薬組成物の調製方法を提供するものであり、ここでその薬剤、酸および水溶性セルロースエーテル、水溶性セルロースエーテルのエステル、および随意成分としての添加剤は本発明の第一の態様に関して前記で述べたとおりである。組成物の成分を混合するのに適した方法は前記のとおり、特に乾式ブレンド、湿式顆粒化または固体分散物の調製である。
【0082】
剤形
本発明による組成物は、色々な即時放出性剤形、特に経口投与に適した固体即時放出性剤形を与えるように調合することができる。
【0083】
本発明で用いられる用語「即時放出性(immediate release)」とは、固体剤形が37℃のpH1.5水溶液中への浸漬に続いて60分以内(好ましくは30分以内)に薬剤の実質的に全てを放出することを意味する。「薬剤の実質的に全て」とは、薬剤の少なくとも70%、80%、90%、さらに特定的には95%が37℃のpH1.5水溶液中への浸漬に続いて60分以内(好ましくは30分以内)に組成物から放出されることを意味する。薬剤は分散物としての組成物から溶解媒体中へと放出されることもできるし、或いは、好ましくは、その媒体に速やかに溶解する。本発明による即時放出性組成物は、薬剤の溶解度が高い胃の酸環境中で薬剤の急速溶解を実現すると予想され、そして組成物の一部が、例えば急速な胃内容物排出の結果として胃の中で溶解しない場合に、組成物のより高いpHにおける向上した溶解性が腸上部での薬剤の現場溶解をできるようにし、それによって主要吸収部位における薬剤の濃度が増加せしめられる。即時放出性組成物として適切な製剤に、例えば錠剤、カプセル、固体分散物と(特に)物理的混合物、および本明細書で説明される顆粒化製剤がある。
【0084】
好ましい実施態様の1つにおいて、本発明の医薬組成物は、経口即時放出性剤形に、例えば粉末若しくは顆粒混合物として、または適切な液体媒体中懸濁液として調合される。一般的には、しかし、本発明の医薬組成物は、経口投与に適した固体即時放出性剤形、特に1日当たり経口投与に適した固体即時放出性単位剤形として調製される。適した固体剤形の例に錠剤、ペレット、顆粒またはカプセル製剤がある。
【0085】
本発明による医薬組成物が錠剤、ペレットまたは顆粒のような固体即時放出性剤形であるとき、この固体組成物が適切なコーティング、例えば膜コーティングをさらに含んでいることは随意である。コーティングは、例えば日光による分解に対する保護を与え、またはその製剤を着色させるために使用することができる。本発明による組成物に適用することができる、膜コーティングのような適切なコーティングは、被膜剤、例えば糖、または、便利なことには前記の水溶性セルロースエーテル、特にHPMCから成る。使用される被膜剤の量は膜コーティングの所望とされる性質に依存し、従ってこの技術分野の当業者であれば調整可能である。
【0086】
本発明の特定の実施態様において、医薬組成物は、
(i)薬剤および水溶性酸(好ましくは水溶性有機酸)を含むコア;および
(ii)水溶性セルロースエーテルから成るコーティング
を含む(錠剤、ペレットまたは顆粒製剤)のような固体即時放出性医薬組成物から成る。
【0087】
この実施態様において、適した水溶性セルロースエーテルは前記のとおり、特にヒドロキシプロピルメチルセルロース(特に、グレード1828、2208、2906、特に2〜18cPの動力学粘度を有する2910)またはメチルセルロースである。コーティングは本発明で説明される膜コーティングとして適用されるのが適切である。薬剤および酸を含むコアは、水溶性セルロースエーテルまたは水溶性セルロースエーテルのエステル(および、随意に前記の他の追加添加剤)を含有する前記組成物のいずれを含んでいてもよい。或いはまた、コアは水溶性セルロースエーテルまたは水溶性セルロースエーテルのエステルなしで薬剤および酸を含むことができる。従って、この態様では、水溶性セルロースエーテルはコーティング中に専ら存在することができる。或いはまた、水溶性セルロースエーテル(1種または複数種)はコアとコーティングの両方に存在することができる。
【0088】
本発明のさらなる実施態様において、(i)薬剤および酸を含むコア;および(ii)コーティング(特に膜コーティング)を含む(錠剤、ペレットまたは顆粒製剤)のような固体即時放出性医薬組成物であって、水溶性セルロースエーテルがコアまたはコーティングの少なくとも一方に存在する上記医薬組成物が提供される。この態様では、水溶性セルロースエーテルはコーティング中に専ら、またはコア中に専ら存在することができるか、或いはコアとコーティングの両方に存在することができる。
【0089】
本発明の組成物がカプセルとして製造されるとき、薬剤、水溶性酸および水溶性セルロースエーテルは、まず、物理的混合物(例えば乾燥粉末混合物若しくは顆粒調合物)として、または前記の固体分散物として調製される。薬剤を含んでいる組成物は、次に、カプセルに充填されてカプセル製剤を与える。適したカプセルはこの技術分野で周知である。例えば、硬ゼラチン、水溶性セルロースエーテル(例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース)および澱粉のカプセルがある。カプセルが水溶性セルロースエーテルを含有するとき、そのカプセルは本発明による組成物中に存在する水溶性セルロースエーテルの一部または全部を与えるように使用することができる。
【0090】
薬剤は抗増殖活性を有し、従って本発明による組成物は国際特許出願WO96/33980号明細書に記載されるもののような状態の治療において有用である。例えば、本発明の組成物は、肺癌(小細胞肺癌および非小細胞肺癌を含む)、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、結腸直腸癌、胃癌、脳癌腫(神経膠腫および下垂体腺腫を含む)、頭頚部癌、膀胱癌、膵臓癌、食道癌、胃癌、腎癌、皮膚癌(悪性黒色腫を含む)、婦人科系の癌(子宮頚癌、子宮内膜癌、膣癌、陰門癌および子宮癌を含む)および甲状腺癌のような多くの一般的なヒト癌の治療に、またある範囲の白血病、リンパ系悪性腫瘍、並びにカルチノーマおよびサルコーマのような充実性腫瘍の治療において有用である。さらに、本発明の組成物は良性皮膚肥厚、例えば乾癬、および良性前立腺肥大(BPH)のような過剰細胞増殖を伴う他の疾患の治療に有用であると予想される。
【0091】
薬剤の抗増殖性、特に非小細胞肺癌の治療におけるその抗増殖性はこの技術分野において周知である。この薬剤の臨床試験が行われ、そしてこの薬剤は臨床活性を示した。非小細胞肺癌での2つの大きな第2相試験(IDEAL1および2)からのデータは、250mg/日の薬剤が11.8−18.4%の反応率を与え、この場合逆の結果の大部分は、一般に、軽い乃至中位の皮膚および胃腸の疾患であることを示した(Fukuoka等(Multi-institutional randomized phase II trial of gefitinib for previously treated patients with advanced non-small-cell lung cancer);J. Clin Oncol 2003; 21: 2237-2246)およびKris等(Efficacy of gefitinib, an inhibitor of the epidermal growth factor receptor tyrosine kinase, in symptomatic patients with non-small cell lung cancer. A randomized trial;JAMA 2003; 290: 2149-2158))。前に述べたように、この薬剤は非小細胞肺癌の治療のために数多くの国で承認された。このデータは、本発明の医薬組成物中で使用される活性成分である上記薬剤の医薬品としての効能を支持している。
【0092】
本発明の別の態様は、医薬として使用するための上記定義した通りの本発明の医薬組成物を提供する。
本発明の組成物中に存在する薬剤は抗癌特性のような抗増殖特性を有し、当該特性は、erbB1レセプターチロシンキナーゼ阻止活性からもたらされると思われる。したがって、本発明の組成物は、erbB1レセプターチロシンキナーゼにより単独で又は一部媒介して疾病又は医療症状の治療に有用であることが期待される。すなわち、本発明の組成物は、上記のような治療の必要な温血動物においてerbB1レセプターチロシンキナーゼ阻止効果を生じさせるのに使用できる。このように、本発明の組成物は、erbB1レセプターチロシンキナーゼの阻止により特徴付けられる悪性細胞の増殖の治療方法を提供する。すなわち、本発明の組成物は、erbB1レセプターチロシンキナーゼの阻止により単独で又は一部媒介して抗増殖作用を生じさせるのに使用できる。したがって、本発明の活性物質は、特に前述した癌のようなerbB1レセプターチロシンキナーゼ感受性癌の治療において、抗増殖作用を提供することにより乾癬及び/又は癌の治療に有用であることが期待される。
【0093】
本発明の実施態様では、温血動物(好適には、ヒト)に増殖作用を生じさせるのに使用するための上記定義した通りの本発明の医薬組成物が提供される。別の実施態様では、癌の治療に使用するための上記定義した本発明の医薬組成物が提供される。更に別の実施態様では、erbB1レセプターチロシンキナーゼの阻止に感受性である腫瘍の防止又は治療に使用するための本発明の医薬組成物が提供される。
【0094】
本発明の別の態様は、温血動物(好適には、ヒト)に増殖作用を生じさせるのに使用するための医薬の製造における上記定義した本発明の組成物の使用を提供する。
本発明の別の態様は、癌の治療に使用するための医薬の製造における上記定義した本発明の組成物の使用を提供する。
【0095】
本発明の別の態様は、薬剤の必要な患者に、実質的にpHと独立して薬剤を送達する方法を提供し、当該方法は、前記患者に前記定義した本発明の第1態様の組成物を投与することを含む。
【0096】
本発明の別の態様は、温血動物(好適には、ヒト)に実質的にpHと独立して薬剤を送達するための医薬の製造における上記定義した本発明の第1態様の組成物の使用を提供する。「実質的にpHと独立して薬剤を送達する」という用語は、薬剤の吸収部位において胃のpH及び/又は胃の空虚さに実質的に無関係である薬剤の高濃度の供給を意味する。例えば、上述したように、本発明の組成物は、薬剤の溶液のpHが胃のpHと同様の値から腸の上部で見出されるpHと同様のpHまで上昇するとき、薬剤の析出を抑制する。本発明の組成物は、薬剤の可溶化性も、特により高いpH(例えば、pH4.5〜8、特に約6.5のpH)で増加させる。したがって、組成物が腸の上部に通過する前(例えば、胃の空虚率が高いため)胃中の薬剤の総てを放出しない場合、或いは胃のpHが高い場合、本発明の組成物により与えられる可溶化性の向上が、薬剤単独を投与するのと比較して、腸上部中で薬剤の濃度を上昇させることが期待される。
【0097】
可溶化性の向上及び/又は溶液からの薬剤の析出の抑制は、本発明により与えられる実質的にpHと独立して薬剤を送達させる結果として、単一患者の又は複数患者間の薬剤の暴露の変動を減少させることが期待される。したがって、本発明の別の態様は、上記定義した本発明の第1態様の医薬組成物を薬剤の必要な患者に経口投与することを含む、当該患者における薬剤のバイオアベイラビリティー及び/又は血漿濃度の患者内及び/又は患者間変動の減少方法を提供する。
【0098】
本発明の別の態様は、薬剤のバイオアベイラビリティー及び/又は血漿濃度の患者内及び/又は患者間変動の減少をさせる医薬の製造における前記定義した本発明の第1態様の医薬組成物の使用を提供する。
【0099】
本発明の別の態様は、薬剤のバイオアベイラビリティー及び/又は血漿濃度の患者内及び/又は患者間変動を減少させるための薬剤を含有する医薬の製造における水溶性酸(好ましくは、水溶性有機酸)及び水溶性セルロースエーテル若しくは水溶性セルロースエーテルエステルの使用を提供する。
【0100】
特定の疾病又は医療症状(例えば、増殖性疾病)の療法又は予防的治療のための本発明の組成物の薬剤の要求用量は、例えば、治療する宿主及び治療しようとする病気の重篤度に依存して必然的に変動する。好ましくは、薬剤の1日用量は、例えば、0.5〜15mg/kg体重である。より好ましくは、薬剤を含有する組成物の1日用量は、例えば、1〜10mg/kg体重である。薬剤を含有する組成物の単位用量は、例えば、1〜3000mg、例えば、1〜1000mg、都合よくは、100〜750mg、より都合よくは、200〜600mg、好ましくは、約250mgが想定される。このような単位剤型の薬剤対水溶性セルロースエーテル若しくは水溶性セルロースエーテルエステル並びに薬剤対水溶性酸の適切な比は上述した通りである。
【0101】
本発明の別の態様では、同一水性媒体(好ましくは、ヒトの胃腸管上部で見出されるのと同様のpH値の水性媒体(例えば、pH4.5〜8))中で薬剤単独の可溶化性と比較して、薬剤の可溶化性を向上させる薬剤を含む医薬組成物の製造における水溶性酸及び水溶性セルロースエーテル若しくは水溶性セルロースエーテルエステルの使用が提供される。
【0102】
本発明の別の態様では、水性媒体(好ましくは、ヒトの胃腸管上部で見出されるのと同様のpH値の水性媒体(例えば、pH4.5〜8))中の薬剤の可溶化性を向上させるための方法が提供され、当該方法は、上記定義した本発明の第1態様の医薬組成物を水性媒体に加えることを含み、ここで、組成物からの薬剤の可溶化性は、同一水性媒体中の薬剤単独の可溶化性と比較して増加している。
【0103】
本発明の別の態様では、水性媒体(好ましくは、ヒトの胃腸管上部で見出されるのと同様のpH値の水性媒体(例えば、pH4.5〜8))中の薬剤の可溶化性を向上させるための方法が提供され、当該方法は、上記定義した本発明の第1態様の医薬組成物を調製し、ここで、組成物からの薬剤の可溶化性は、同一水性媒体中の薬剤単独の可溶化性と比較して向上している。本発明のこの態様に使用するための適切な医薬組成物及びその製造方法は本明細書で記載する通りである。
【0104】
本発明のこれらの態様の方法及び使用により与えられる可溶化性の向上は、例えば、水性媒体に医薬組成物を添加し、薬剤のCmax又はAUCの増加により測定されるような前述したようにして決定できる。
【0105】
本発明の好適な実施態様では、薬剤を含有する組成物中の水溶性酸と共に使用する水溶性セルロースエーテル若しくは水溶性セルロースエーテルエステルの使用は、(i)薬剤単独の可溶化性、(ii)薬剤及び水溶性セルロースエーテル若しくはそのエステルを含有する組成物からの薬剤の可溶化性、又は(iii)薬剤及び水溶性酸を含有する組成物からの薬剤の可溶化性のいずれかと比較して、組成物からの薬剤の可溶化性のより大きな付加的増加を与える。特定の実施態様では、薬剤を含有する組成物中の水溶性酸と共に使用する水溶性セルロースエーテル若しくは水溶性セルロースエーテルエステルの使用は、(i)薬剤単独の可溶化性、(ii)薬剤及び水溶性セルロースエーテル若しくはそのエステルを含有する組成物からの薬剤の可溶化性、又は(iii)薬剤及び水溶性酸を含有する組成物からの薬剤の可溶化性のいずれかと比較して、薬剤の可溶化性の相乗的増加を与える。
【0106】
本発明の別の態様では、水溶液から薬剤の析出を阻止するために、薬剤を含有する医薬組成物の製造における水溶性酸、及び水溶性セルロースエーテル若しくは水溶性セルロースエーテルエステルの使用が提供される。
【0107】
本発明の別の態様では、水溶液から薬剤の析出を阻止する方法が提供され、当該方法は、低いpHの水性媒体(例えば、ヒトの胃のpH,例えば、約pH1.5と同様)に上記の本発明の第1態様の医薬組成物を加えることを含む。
【0108】
本発明の別の態様では、上記の本発明の第1態様の医薬組成物を調製することを含む水溶液から薬剤の析出速度を抑制する方法が提供される。本発明のこの態様に使用するための適切な医薬組成物及びその調製方法は本明細書に記載する通りである。
【0109】
本発明のこれらの態様では、低いpH(例えば、約pH1.5のような、胃中で見出されるpHと同様のpH)から、小腸のようなヒトの胃腸管上部中で見出されるpHと同様のpH(例えば、pH4.5〜8)への上昇に続く薬剤の析出を抑制するのに特に適している。
【0110】
更に詳細には、本発明のこれらの態様の使用及び方法は、薬剤が患者の胃から胃腸管のよりpHの高い領域に通り、そこから薬剤が吸収される(腸上部であると考えられる)ので、インビボの水性溶液から、薬剤の析出率を減少させることが期待される。溶液から薬剤の析出を抑制する程度は、本発明の第1態様に関連させて前記に定義した通りであり、例えば、実施例中で記載したpHシフト溶出試験を使用して測定される。
【0111】
本発明の好適な実施態様では、薬剤を含有する組成物中で水溶性酸と一緒に水溶性セルロースエーテルまたはそのエステルを使用することにより、(i)薬剤単独、(ii)薬剤及び水溶性セルロースエーテル又はそのエステルを含有する組成物、又は(iii)薬剤及び水溶性酸を含有する組成物、のいずれかの使用と比較して、低pH(例えば、pH約1.5のような、胃中で見出されるpHと同様のpH)から、小腸のような、ヒトの胃腸管上部で見出されるpHと同様のpH(例えば、pH4.5〜8)に上昇させた後に水性溶液からの薬剤の析出率を減少させるより大きな追加の効果を与える。特定の実施態様では、薬剤を含有する組成物中で水溶性酸と一緒の水溶性セルロースエーテル又はそのエステルの使用は、(i)薬剤単独、(ii)薬剤及び水溶性セルロースエーテル又はそのエステルを含有する組成物、又は(iii)薬剤及び水溶性酸を含有する組成物、のいずれかと比較して、低pHから高pHに上昇後、水性溶液からの薬剤の析出率を減少させる相乗的効果を与える。
【0112】
上述した本発明の使用及び方法に言及されている水性溶液/媒体はインビトロ水性媒体であることができ、例えば、インビトロ分析系の水性媒体であることができ、あるいは、特に、その媒体はインビボ水性媒体であり、例えば、インビボ胃液若しくは腸液である。
【0113】
したがって、本発明の実施態様では、ヒトのような温血動物に対して経口投与するようになっている即時放出性医薬組成物(錠剤やカプセル剤のような固体即時放出性医薬組成物が適している)の投与後にインビボ溶液から薬剤の析出率を抑制するために当該医薬組成物の製造における水溶性酸及び水溶性セルロースエーテル又は水溶性セルロースエーテルエステルの使用が提供される。本発明の好適な実施態様では、(i)ヒトの胃腸管上部中で見出されるpHと同様のpH(例えば、pH4.5〜8)の水性媒体中の薬剤の可溶化性を向上させ、(ii)水性溶液のpHの上昇時、特に、水性媒体のpHがヒトの胃のpHと同様の値からヒトの上部腸と同様のpHまで上昇するとき、溶液からの薬剤の析出を抑制する、使用/方法を上記した。
【0114】
本発明の上述した使用及び方法に使用するための適切な水溶性セルロースエーテル又はそのエステル及び水溶性酸は、本明細書中で記載した医薬組成物のいずれかに関連して定義して前述した通りである。
【0115】
本発明を下記の非限定的実施例により以下に例証するが、特記しない限り、薬剤は式Iの遊離塩基体である。
実施例中、下記の略号を使用する。すなわち、
HPLCは高速液体クロマトグラフィーであり、
ACNはアセトニトリルであり、
HPMCはヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、
PVAはポリビニルアルコールであり、
PVPはポリビニルピロリドンであり、
MCはメチルセルロースであり、
HECはヒドロキシエチルセルロースであり、
HPMC ASはヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネートである。
【0116】
実施例では、特記しない限り、示した総ての部及び%は重量による。
図面の簡単な説明
図1は、組成物が溶解する媒体のpHが実施例中で記載するpHシフト溶出試験(pH shift dissolution test) において1.5から6.5に増加するとき薬剤の析出を抑制する本発明の組成物の有効性を示す。図1において、ダイヤモンド印(◆)データ点が本発明の実施例5の組成物(薬剤、HPMC及びフマル酸)を表す。三角印(▲)データ点が薬剤とフマル酸(HPMCなし)を含有する比較例1を表す。黒丸印(●)データ点は薬剤及びHPMC(フマル酸なし)を含有する比較例2を表し、四角印(■)データ点は薬剤単独(フマル酸もHPMCもなし)の対照試料を表す。
【0117】
図2は、薬剤を含有する他の比較製剤と比較して本発明(実施例5)の組成物のpH6.5溶出媒体中の改良した可溶化性を例証する。図2において、「+」として示したデータ点は本発明(実施例5:薬剤、HPMC及びフマル酸)の組成物の溶出を表す。▲は薬剤及びフマル酸を含有する比較例1を表す。◆データ点は薬剤及びHPMCを含有する比較例2を表す。「×」として示したデータ点は薬剤のフマル酸塩(比較例4)の溶出を表す。■点は薬剤単独の対照試料を表す。●は、薬剤及びHPMCを含有する組成物を、予備溶解させた溶出媒体に加えた比較例を表す。
【0118】
図3は、薬剤の様々な即時放出性製剤のpH6.5における溶出を示す。「×」として示したデータ点は実施例15の固体分散を表す。●は実施例5の乾燥物理的混合製剤を表す。▲は実施例14の湿式顆粒剤からのデータを表す。比較のため、図3は薬剤単独の対照試料(◆データ点)及びHPMCを含有するが水溶性酸を含有しない比較コーティング錠剤(比較例8)(■データ点)からのデータも含めた。
【0119】
図4は、6匹の絶食雄性ビーグル犬の群に薬剤を含有する種々の組成物の投与後のインビボ血漿濃度を示す。図4aは、比較例7の比較組成物の投与に続いて得られた変動性で時々低い血漿濃度を示す。対照的に、図4b及び4cは同じ動物にそれぞれ実施例13及び14の投与に続いて得られた変動の少ない血漿濃度を例証する。
【0120】
同様に図5は、6匹の絶食雄性ビーグル犬の群に比較例7の組成物を投与したとき観察された変動の高い血漿濃度(図5a)と比較した、本発明の実施例15の固体分散製剤の投与に続く同動物中のより変動の少ないインビボ血漿濃度(図5b)を示す。
【0121】
図5において、同型印のデータ点を図5aと図5bに使用し、実験に使用した個々の犬の血漿レベルを表す。したがって、特定の組成物の投与に続く個々の犬の相対血漿レベルを図5aの関連データを図5bの同型印データ点と比較することにより比較できる。同じことを図4a、4bおよび4cで使用した。
【0122】
実施例1〜12:乾燥物理的混合組成物
表1に示す実施例1〜12の組成物を、表1に示す重量比で薬剤と水溶性セルロースからなるストック組成物を混合することにより調製した。ストック組成物を、均一な組成物が得られるまで(典型的には、約5分混合後)、70ml乳鉢中で乳棒を用いて混合した。薬剤/水溶性セルロース物理的混合及び酸を、表1に示す組成物を得るのに要求される薬剤:セルロース:酸の重量比からなる第2ストック組成物を続いて調製した。第2ストック組成物を、均一な組成物が得られるまで(典型的には、約2.5分混合後)、70ml乳鉢中で乳棒を用いて混合した。表1に示す組成物(薬剤+セルロース+酸)の要求総重量を、薬剤/水溶性セルロース/酸ストック組成物から採取し、表1に示す特定の実施例組成物を得た。
【0123】
【表1】

【0124】
実施例13
下記に示す組成の乾燥物理的混合物を調製した。薬物及び賦形剤を乳鉢中に秤量し、均一組成物が得られるまで乳棒を用いて混合した。
【0125】
薬剤 250mg
フマル酸 350mg
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 195mg
D−マンニトール 100mg
クロスポビドン 100mg
ラウリル硫酸ナトリウム 5mg。
【0126】
実施例14(湿式顆粒剤)
下記に示す組成物を下記の方法を使用して湿式顆粒剤として調製した。
薬剤 250mg
フマル酸 350mg
HPMC 400mg
D−マンニトール 340mg
クロスポビドン 35mg
ラウリル硫酸ナトリウム 13.9mg。
【0127】
薬剤(2.5g)、HPMC(4g)、及びフマル酸(3.5g)を、外観的に均一組成物が得られるまで、乳鉢中で乳棒を用いて混合することにより、「ベース顆粒組成物」を調製した。水(おおむね0.7g)を組成物に加え、乳棒で混合し、湿った塊材料を得た。次いで、これを1mm篩を通して篩い分けし、減圧下、40℃で2時間以上の間にわたって乾燥させ、「ベース顆粒組成物」を得た。
【0128】
D−マンニトール(2.45g)、クロスポビドン(0.25g)及びラウリル硫酸ナトリウム(0.10g)を含む「バルク賦形剤組成物」を、乳鉢中で乳棒を使用して均一組成物を得ることにより調製した。
【0129】
1gの「ベース顆粒」製剤を0.39gの「バルク賦形剤組成物」と混合した。得られた混合物をカプセルに加え、2時間以上タンブル混合し、実施例14の組成物を得た。
実施例15:固体分散製剤
下記に示す組成を下記の方法を使用して固体分散組成物として調製した。
【0130】
薬剤 250mg
HPMC 156mg
フマル酸 219mg
ラクトース 141mg
ラウリル硫酸ナトリウム 16mg。
【0131】
HPMC(1.5g)及び薬剤(2.4g)を50/50(v/v)メタノール/ジクロロメタン混合物(130ml)中に溶解させた。わずかに温めたメタノール(35ml)中にフマル酸(2.1g)を溶解させ、薬剤HPMC溶液に、水(35ml)と一緒に加えた。次いで、得られた溶液を噴霧乾燥させて、固体分散組成物を回収した。
【0132】
ラクトース及びラウリル硫酸ナトリウムを乳鉢中のラクトース:ラウリル硫酸ナトリウムの必要重量比で混合することによりバルク賦形剤組成物を調製した。これらの成分を、外観的に均一組成物が得られるまで乳棒を使用して混合した。
【0133】
必要重量のバルク賦形剤組成物及び噴霧乾燥固体分散組成物をカプセルに加え、組成物を20分間にわたってタンブル混合して実施例15の組成物を得た。
実施例16〜22の乾燥物理的混合組成物
表1aに示す実施例16〜22の組成物を、表1aに示す重量比の薬剤及び水溶性セルロースのストック組成物を混合することにより調製した。70ml乳鉢中でストック組成物を約5分間にわたって乳棒を用いて混合した。表1aに示す組成物を得るのに必要な薬剤:セルロース:酸の重量比の薬剤/水溶性セルロース物理的混合物及び酸の第2ストック組成物を続いて調製した。このストック組成物を70ml乳鉢中で約2.5分間にわたって乳棒で混合した。表1aに示す必要総重量の組成物(薬剤+セルロース+酸)を薬剤/水溶性セルロース/酸ストック組成物から採取し、示す特定の実施例組成物を得た。
【0134】
実施例16の第2バッチを、薬剤、水溶性セルロース及び酸を表1aに示す重量比のストック組成物を混合することにより調製した。このストック組成物を、均一な混合物が得られるまで乳鉢中で乳棒を用いて混合した。このバッチをpH6.5試験(表4)で試験をした。
【0135】
実施例16〜22の特定の組成物をバイアル中に秤量した。
【0136】
【表2】

【0137】
比較例1:乾燥物理的混合(水溶性セルロースエーテル不含)
下記の乾燥物理的混合物を、下記に示す重量比の薬剤及び酸のストック組成物を混合することにより調製した。ストック組成物は、均一な混合物が得られるまで、乳鉢中で乳棒を使用して混合した。
【0138】
薬剤 250mg
フマル酸 325mg。
比較例2:乾燥物理的混合(水溶性酸不含)
下記の乾燥物理的混合物を、下記に示す重量比の薬剤及び水溶性セルロースのストック組成物を混合することにより調製した。ストック組成物は、均一な混合物が得られるまで、乳鉢中で乳棒を使用して混合した。
【0139】
薬剤 250mg
HPMC 75mg。
比較例3(水溶性酸を溶出媒体中に溶解させたもの)
下記の組成物を下記に記載するようにして調製した。
【0140】
薬剤 250mg
HPMC 75mg
フマル酸 325mg(溶出媒体中に予備溶解)
比較例3では、フマル酸(325mg)を、0.07N HCl、塩化ナトリウム(0.2%w/v)及び10mlの2.5M KHPO/16.72%(w/v)NaOH溶液を含む溶出媒体(pH6.5)中に予備溶解させた(以下に記載するようにpHシフト溶出試験に関連させて調製した)。比較例2に記載したのと同様の方法を使用して乾燥物理的混合物として薬剤及びHPMCを調製した。次いで、この組成物を溶出媒体に加えた。
【0141】
比較例4:薬剤のフマル酸塩
250ml三角フラスコ中に薬剤(1g)を入れた。このフラスコにメタノール(100ml)を加え、蒸気浴上で薬剤が完全に溶解するまで加熱した。ガラスバイアル中にフマル酸を直接秤量し、15mlのメタノールに溶解させた。この溶液を蒸気浴上で温め、次いで、加熱した薬剤溶液に加え、回転させて均一溶液を形成した。得られた溶液を冷却した。冷却中に形成した結晶を濾過により単離し、真空オーブン中で一夜乾燥させた。
【0142】
下記に記載するpH6.5溶出試験に347.5mgの薬剤のフマル酸塩を使用した。
比較例5(水溶性セルロースエーテルをポリビニルピロリドンに置換)
下記に示す組成物を得るのに必要な薬剤:ポリマー:酸の重量比で薬剤、ポリマー及び酸からなるストック組成物を混合することにより、下記の乾燥物理的混合物を調製した。均一な組成物が得られるまで、ストック組成物を乳鉢中で乳棒を用いて混合した。下記に示す要求総重量の組成物(薬剤+ポリマー+酸)をストック組成物から採取し、示した特定例組成物を得た。
【0143】
薬剤 250mg
ポリビニルピロリドン K25 75mg
フマル酸 325mg。
【0144】
比較例6(水溶性セルロースエーテルをポリビニルアルコールに置換)
比較例5の製造について記載したのと同様の方法を使用して下記の物理的混合物を調製した。
【0145】
薬剤 250mg
ポリビニルアルコール 75mg
フマル酸 325mg。
【0146】
比較例7:コーティング錠剤(水溶性酸不含)
錠剤コア
薬剤 250mg
ラクトース一水和物 163.5mg
ミクロクリスタリンセルロース 50.0mg
クロスカルメローセナトリウム 20.0mg
ポビドン 10.0mg
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5mg
ステアリン酸マグネシウム 5.0mg
錠剤コーティング剤
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 7.65mg
ポリエチレングリコール300 1.5mg
二酸化チタン 0.50mg
黄色酸化鉄 0.90mg
赤色酸化鉄 0.90mg
慣用の湿式顆粒、打錠及びフィルムミーティングにより上記製剤を調製した。薬剤、ラクトース一水和物、ミクロクリスタリンセルロース及びクロスカルメローセナトリウムを高剪断顆粒機中で一緒に混合し、均一混合物を得た。次いで、ポビドン及びラウリル硫酸ナトリウムの水溶液を前記粉末に加え、適切な湿潤塊が得られるまで混合した。湿潤顆粒を適当な篩に通し、大きな粒子を除去し、次いで、乾燥させた。次いで、乾燥させた顆粒を別の篩に通し、予備粉砕したステアリン酸マグネシウムとブレンドした。得られた顆粒を錠剤コアに打錠し、次いで、慣用のパンコーターを使用してコーティングを施した。フィルムコーティングは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレングリコール300、タルク、二酸化チタン及び黄色酸化鉄の水性懸濁液を錠剤コアに噴霧することにより施用した。フイルムコーティング中の黄色酸化鉄、二酸化チタン、タルク及び一部のHPMC606をOpaspray Yellow M-1-22842 , Colorcon Ltd製, Dartford, Kent, UKに提供された。
【0147】
比較例8:コーティング錠剤
錠剤コア
薬剤 250mg
ラクトース一水和物 163.5mg
ミクロクリスタリンセルロース 50.0mg
クロスカルメローセナトリウム 20.0mg
ポビドン 10.0mg
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5mg
ステアリン酸マグネシウム 5.0mg
錠剤コーティング剤
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 8.16mg
ポリエチレングリコール300 1.60mg
タルク 1.18mg
二酸化チタン 1.18mg
黄色酸化鉄 0.04mg
比較例7の製造について記載したのと同様の方法を使用して上記製剤を調製した。赤色及び黄色酸化鉄、二酸化チタン並びに一部のHPMC606は、Opaspray Brown M-1-25092, Colorcon Ltd, Dartford, Kent, UKに提供された。この濃厚物及び二酸化チタン(OpasprayTMBrown M-1-25092, Colorcon製)を、水、ポリエチレングリコール300及びHPMCを含有するベース中で稀釈してフイルムコーティング剤を得、次いで、パンコーター中で錠剤コアに施用した。
【0148】
比較例9〜12
上記比較例16〜22の製造について記載したのと同様の方法を使用して下記の比較乾燥物理的混合物を調製したが、これらには酸を存在させず、表1bに示す比較例を得た。
【0149】
【表3】

【0150】
対照
薬剤 250mg(水溶性酸もセルロースエーテル/そのエステルも不含)
上記実施例及び比較例に使用した賦形剤は総て市販されているものであり、下記の特性を有する。
【0151】
HPMCはPharmacoat 606, ex. Shin-Etsu, 粘度6cP (USP 法USP 24, NF 19, 2000, p843-844及びUSP 24, NF 19, 2000 p2002-2003 により20℃で2w/v%水溶液で測定)。
HPMCアセテートスクシネートはAqoat AS-LG ex. Shin-Etsu. Kinematic粘度2.4 − 3.6mm2/s (Japanese Pharmaceutical Excipients 1993に記載された方法を使用して測定)である。
ポリビニルピロリドンはKollidon 25, BASF製, K 値 22.5 - 26.7, 大体の分子量30 000, 動的粘度 3.5 - 5.5mPas (20℃、10% w/v水溶液、Handbook of Pharmaceutical Excipients, 3rdedition, 2000, American Pharmaceutical Association and the Pharmaceutical Pressに記載)である。
ポリビニルアルコールはAirvol 205, Air Products and Chemicals Inc.製
HEC, Aldrich製, 粘度仕様80-125cP (25℃、2%w/v水溶液)であり、実際の粘度107cP、 Mw 約250 000である。
HPC はHPC LH-21, Shin-Etsu製である。
MCはMethocel MC, Fluka製, 粘度仕様10-25cP (20℃、2%w/v 水溶液)である。
【0152】
pHシフト溶出試験
この試験は胃から腸上部への移動時に見られるインビボpH変化をシミュレートし、pHの上昇時に溶液から薬剤の析出率を測定する。
【0153】
試験しようとする組成物をバイアル中に秤量し、0.07N HCl(約pH1.5)及び塩化ナトリウム(0.2%w/v)を含む450mlの溶出媒体に加えた。次いで、このバイアルを別の50mlの新たな溶出媒体ですすぎ、洗浄液を主溶出媒体に加え、組成物の完全な移動を確実にした(媒体の総重量は500ml)。対照試料を容量フラスコ中に秤量し、超音波処理により50mlの溶出媒体中に予備溶解させた。次いで、この組成物を400mlの溶出媒体に加えた。さらに50mlの新たな溶出媒体でフラスコをすすぎ、洗浄液を主溶出媒体に加え、組成物の完全な移動を確実にした(媒体の総重量は500ml)。37℃で60分後(パドル速度100rpm)、試料(5ml)を採取し、5mlの新たな媒体を加え、溶出媒体の一定容量を維持した。この試料のHPLC分析(下で記載する)により、溶液中に100%の薬剤があることを確認した。
【0154】
2.5M KHPO/16.72%(w/v)NaOH緩衝溶液を、KHPO(34.02g)及びNaOH(16.72g)をMilliQ水(約75ml)中に溶解させることにより調製した。次いで、得られた溶液をMilliQ水を用いて100mlにした。
【0155】
次いで、2.5M KHPO/16.72%(w/v)NaOH溶液(10ml)を溶出媒体に加え、1.5から6.5にpHを変化させた。次いで、試料(5ml)を、pH調整の2、5、15、30、45及び60分後、プラスチック製注射器で取り、新たな媒体(pH6.5)を加え、溶出媒体の一定量を維持した。各試料を周囲温度で15分間にわたって遠心分離(14,000rpm)し、次いで、HPLCにより分析し、下記の条件を使用して試料中に薬剤の濃度を得た。
【0156】
溶離液: 38%ACN/62%水/0.6%酢酸アンモニウム
カラム: 10cm×3mm(内径)INERTSIL ODS−3 (ガード付き)
検出波長: 247nm
流速: 0.9ml/分
注入量: 20μl
保持時間: 約6分
脚註[1]: カラム 3μmビーズを含有するHichrom
pHシフト溶出結果
表2は、実施例1、5、12、16〜22のpHシフト溶出試験からの結果、並びに薬剤単独及び比較例1、2、4、9〜12からの結果を示す。表2では、第3欄は60分後の酸性溶出媒体中に溶解した薬剤の重量%を示す(HPLC分析に関連する実験誤差からもたらされる>100%を示すような場合)。第4、5および6欄は、pH1.5からpH6.5への溶出媒体の調整に続く2分、30及び60分における溶液中の薬剤%を示す。pH1.5からpH6.5へ調整60分後の溶出媒体の平均pHを表2の最終欄に示す。
【0157】
【表4】

【0158】
表2は、薬剤、水溶性セルロースエーテル若しくは水溶性セルロースエーテルエステル及び酸(実施例1、5、12、16〜22)を含有する組成物が溶液中の薬剤の高いレベルを維持することを明らかに示す。これは、比較例と薬剤単独の対照試料と著しく対照的である。これらの組成物の総てについて、pHが6.5にシフトしたとき、溶液から薬剤が急速に析出する。
【0159】
実施例5(本発明の乾燥物理的混合物)は、1.5からpH6.5への媒体のpHシフト60分後溶液中の薬剤の総てを実質的に維持(93.38%)した(第3欄(pH上昇直前の溶液中の薬剤%)を第4、5および6欄(pHシフト2、30及び60分後の溶液中の薬剤%)を比較)。対照的に、薬剤単独の対照試料を使用したとき、溶液中、わずか2.27%薬剤である。
【0160】
表2は、薬剤とフマル酸、又は薬剤とHPMCを含有する比較例1及び2の組成物が、薬剤単独の対照試料と比較して薬剤の析出を抑制する相対的に小さい作用のみを有することを示す。同様に、比較例4(薬剤のフマル酸塩)は、pH上昇時溶液からの薬剤の析出を有意には抑制しない。
【0161】
図1は、pHシフト溶出試験における比較例1及び2又は薬剤単独の対照試料のいずれかと比較して、実施例5の薬剤の析出の減少に著しい作用のあることを例証する。
図1は、薬剤、水溶性酸及び水溶性セルロースエーテルを含む本発明の組成物により得られる相乗効果を明らかに例証する。
【0162】
pH6.5溶出方法
下記の試験は、pH6.5溶出媒体中の組成物の溶出を測定し、腸上部に見出されるpH環境をシミュレートする。
【0163】
試験しようとする組成物を、攪拌下(パドル速度100rpm)、pH6.5、37℃の溶出媒体500ml中に入れた。溶出媒体は、0.07N HCl、塩化ナトリウム(0.2%w/v)、及び10mlの2.5M KHPO/16.72%(w/v)NaOH溶液から構成された(KHPO緩衝溶液は上述した通りに調製した)。溶出媒体の試料(5ml)を、溶出媒体に組成物を添加した後、5、10、20及び30分時(そして、幾つかの実施例では45及び60分)にプラスチック製注射器を用いて取り除いた。各試料採集点後新たな溶出媒体の試料を加え、試験中500ml溶出媒体の一定量を維持した。
【0164】
各試料を15分間にわたって周囲温度で遠心分離(14,000rpm)し、次いで、pHシフト試験で記載した条件を使用して、HPLCにより分析し、試料中の薬剤の濃度を決定した。
【0165】
注記
上述した、実施例及び比較例の乾燥物理的組成物並びに対照試料を、試験しようとする組成物必要重量をバイアル中に入れ、組成物を450mlの溶出媒体中に注ぐことにより、溶出媒体に加えた。次いで、50mlの新たな溶出媒体でバイアルをすすぎ、洗浄液を主溶出媒体に加え、組成物の完全な移動を確実にした(媒体の総重量は500ml)。
【0166】
実施例14(湿式顆粒製剤)及び実施例15(固体分散製剤)では、試験しようとする組成物をゼラチンカプセル中に秤量し、37℃の500mlの溶出媒体に加えた。
比較例8を、37℃の500mlの溶出媒体に直接加えた。
【0167】
結果:pH6.5溶出
表3は、本発明の実施例5の組成物のpH6.5溶出試験からの結果、並びに薬剤単独の対照試料及び比較例1〜4からの結果を示す。表3では、第4欄は、溶出媒体中に組成物の浸漬60分後溶出媒体に溶解した薬剤の重量%を示す。60分時の溶出媒体のpHは表3の最終欄に示す。
【0168】
【表5】

【0169】
図2は、表3に示された組成物のpH6.5溶出を例証する。表3及び図2は、実施例5の組成物中の薬剤の著しい可溶化性を示す。薬剤の可溶化性は、HPMC及びフマル酸が製剤中に存在するとき、薬剤単独(対照試料)又は薬剤とフマル酸との組み合わせ(比較例1)若しくは薬剤とHPMC(比較例2)と比較して、pH6.5媒体中60分時顕著に増加する。実施例5の組成物では、pH6.5媒体60分後、約53%の薬剤が溶液中に存在した。これと比較して、薬剤単独の対照試料ではわずか1.40%の薬剤しか溶液中に存在せず、比較例1及び2ではそれぞれわずか4.75%及び2.04%だった。
【0170】
溶出媒体中でフマル酸を予備溶解させ、薬剤及びHPMCを加えたもの(比較例3)は、60分後溶液中にわずか7.24%の薬剤であり、薬剤を顕著には可溶化させなかった。これは、フマル酸が、薬剤の可溶化性を促進させるために薬剤及びHPMCと密接に接触状態でなければならないことを示唆する。
【0171】
比較例4に使用した薬剤単独のフマル酸塩も60分後溶液中にわずか1.21%しか薬剤を顕著には可溶化させなかった。
フマル酸を含有する本発明の組成物である、実施例5の添加60分後の溶出媒体のpHはpH6.0以下より低く下がらず、実施例5により実証された薬剤の可溶化性の向上が溶出媒体のバルクpHを低下させる単に酸の結果ではないことを示す。
【0172】
pH6.5における溶出のポリマータイプの影響
表4は、pH6.5媒体中の薬剤の溶出における異なる水溶性セルロースエーテル/そのエステルの影響を示す。
【0173】
【表6】

【0174】
表4は、水溶性セルロースエーテル又はそのエステルを含有する本発明の組成物が、異なる水溶性ポリマーを含有する比較組成物と比較して、pH6.5において顕著により高い可溶化性を発揮することを示す。表4では、第3欄及び第4欄は、5分後及び30分後にpH6.5溶出媒体中に溶解した薬剤の重量%を示す。実験終了時の溶出媒体のpHを表44の第5欄に示す。実施例12並びに比較例5及び6では、媒体の最終pHを30分後に測定した。実施例5、16、18、19では、媒体の最終pHを60分後に測定した。
【0175】
表4は、実施例5について、pH6.5媒体中30分後に薬剤の約68%が溶液中にあった。対照的に、比較例5及び6について、それぞれ薬剤のわずか8.71%及び6.80%しか溶液中に存在せず、薬剤単独の対照試料について同じ30分の測定点で薬剤のわずか1.52%しか溶液中に存在しなかった。実施例12、16、18、19(実施例5のHPMCが別の水溶性セルロースエーテル又は水溶性セルロースエーテルのエステルに代えた)は、比較例及び薬剤単独の対照試料と比較して、pH6.5における可溶化性を顕著に向上させた。
【0176】
pH6.5溶出媒体中の溶出における酸の影響
表5は、薬剤(250mg)、HPMC(75mg)及び表5の第2欄に示すような酸を含有する上述の実施例1〜11についてのpH6.5溶出試験の結果を示す。それぞれ、325mg及び353mgを含有する実施例5及び7以外の各場合で350mgの酸を使用した。表5は、薬剤単独の対照試料からのデータ及び比較例1〜4からのデータも示す。表5では、第3及び第4欄は、それぞれ5分後及び30分後のpH6.5溶出媒体中に溶解した薬剤の重量%を示す。
【0177】
【表7】

【0178】
表5は、本発明の実施例1〜11の組成物が、pH6.5溶出媒体中で、薬剤単独を含む対照試料、及び比較例1〜4よりもより大きな程度で薬剤を可溶化させることを明らかに示す。実施例1(薬剤、HPMC及びリンゴ酸を含有)では、pH6.5媒体中で30分後に、対照試料のわずか1.52%しか存在しなかったのと比較して、薬剤の93.07%が溶液中に存在した。表5は、比較例1〜4が本発明の組成物と比較して相対的に低い溶出を示すことも示す。実験最終時の溶出媒体のpHを表5の第5欄に示した。実施例1〜4、6、8〜11について、pHを30分後に測定した。実施例5及び7比較例1〜4及び対照では、実験最終時の溶出媒体のpHを60分後に測定した。
【0179】
pH6.5溶出における製剤タイプの影響
表6は、本発明の上述した実施例5、14及び15についてpH6.5溶出試験からの結果を示す。比較して、表6は、薬剤単独の対照例及び比較例8(フイルムコーティング錠剤であるが、しかし水溶性酸を含有しない)からのデータを示す。表6では、第3欄及び第4欄は、5分後及び60分後それぞれの溶出媒体中で溶解した薬剤の重量%を示す。60分時の溶出媒体のpHを表6の最終欄に示す。
【0180】
【表8】

【0181】
図3は、表6に示した組成物のpH6.5溶出を例証する。図3及び表6は、乾燥物理的混合、湿式顆粒又は固体分散製剤として調製した本発明の組成物が、薬剤単独の対照例と比較して、60分時に総て薬剤の著しい可溶化性を示すことを例証する。pH6.5媒体中の60分後の実施例5、14及び15の組成物では、それぞれ薬剤の約53%、34%及び60%が溶液中に残っていた。対照的に、薬剤単独の対照試料について薬剤のわずか1.40%しか溶液中に存在せず、比較例8(HPMCを含有するが、水溶性酸を存在しないフィルムコーティング錠剤)についてわずか2.45%しか溶液中に存在しなかった。
【0182】
インビボ投与
本発明の実施例13の組成物(HPMC、フマル酸、薬剤及び追加の賦形剤を含有する物理的混合物)を、6匹の絶食雄性ビーグル犬の1群に5mlゼラチンカプセル中で経口投与した。組成物の投与に続いて、各犬に20mlの水を与えた。投与直前及び投与後48時間まで予め定めた間隔で、各動物の全血試料(3ml)を採取した。血液試料を、薬剤の血漿濃度について高速液体クロマトグラフィータンデム質量分析(High Performance Liquid Chromatography Tandem Mass Spectrometry)を使用して分析した。
【0183】
実施例14の組成物(本発明の湿式顆粒剤)及び比較例7の組成物(HPMCを含有するが水溶性酸を含有しないフィルムコーティング錠剤)を用いて同じ群の動物において最小ウォシュアウト1週間の期間後に上述したこの手順を繰り返した。
【0184】
図4は、上述の組成物の投与後の薬剤血漿濃度を示す。図4aは、比較例7の比較組成物の投与後の血漿濃度を示す。図4aは、犬の血漿濃度が2群に広く分かれることを例証する。犬のうちの2匹が薬剤の高血漿レベルを示したが、しかし、他の4匹の犬はそれよりかなり低い血漿レベルを示した。したがって、薬剤を含有する比較組成物を投与したとき、これらの薬剤の犬の吸収に相当変動がある。
【0185】
対照的に、図4bは、本発明の実施例13の組成物を同じ動物に投与したとき、総ての犬が薬剤の高い血漿濃度を示し、薬剤血漿濃度の変動が少なかった。薬剤の向上した血漿濃度及び減少した変動は、図4cに例証されているように、本発明の実施例14の湿式顆粒剤の投与後にも観察された。
【0186】
本発明の実施例15の固体分散組成物の投与後に薬剤血漿濃度を測定した以外は、異なる6匹の絶食雄性ビーグル犬を使用して上述の投与手順を繰り返した。
比較のため、比較例7(HPMCを含有するが、水溶性酸を含有しないフィルムコーティング錠剤)も、同じ動物に与えた。
【0187】
図5は、これらの2種類の組成物を用いた実験結果を示す。図5bから、本発明の組成物が総ての犬において小さい変動で高血漿レベルをもたらしたことは明らかである。これは比較例7の投与後の血漿レベルと著しく対照的であり、6匹の犬のうち3匹のみが薬剤の高いレベルを示したが、その他の3匹は薬剤の低血漿濃度しか達成しなかった。
【0188】
これらの例は、本発明の組成物が、比較組成物を投与したとき以前低い全身暴露を示したような動物において、インビボ吸収及び全身暴露の程度に著しい改良を与えることを明らかに示す。したがって、本発明の組成物は薬剤のインビボ血漿レベルの変動を顕著に減少させた。
【図面の簡単な説明】
【0189】
【図1】図1は、組成物が溶解する媒体のpHが実施例中で記載するpHシフト溶出試験(pH shift dissolution test) において1.5から6.5に増加するとき薬剤の析出を抑制する本発明の組成物の有効性を示す。
【図2】図2は、薬剤を含有する他の比較製剤と比較して本発明(実施例5)の組成物のpH6.5溶出媒体中の改良した可溶化性を例証する。
【図3】図3は、薬剤の様々な即時放出性製剤のpH6.5における溶出を示す。「×」として示したデータ点は実施例15の固体分散を表す。
【図4】図4は、6匹の絶食雄性ビーグル犬の群に薬剤を含有する種々の組成物の投与後のインビボ血漿濃度を示す。
【図5】図5は、6匹の絶食雄性ビーグル犬の群に比較例7の組成物を投与したとき観察された変動の高い血漿濃度(図5a)と比較した、本発明の実施例15の固体分散製剤の投与に続く同動物中のより変動の少ないインビボ血漿濃度(図5b)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)4(3’-クロロ-4’-フルオロアニリノ)-7-メトキシ-6-(3-モルホリノプロポキシ)キナゾリン又はその薬学的に許容できる塩(薬剤);
(ii)水溶性酸;及び
(iii)水溶性セルロースエーテル又は水溶性セルロースエーテルのエステル
を含む即時放出性医薬組成物。
【請求項2】
薬剤、水溶性酸及び水溶性セルロースエーテルを含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
薬剤、水溶性酸及び水溶性セルロースエーテルのエステルを含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
薬剤、水溶性酸、並びにメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースから選択される水溶性セルロースエーテルを含む医薬組成物。
【請求項5】
薬剤、水溶性酸及びメチルセルロースを含む請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
薬剤、水溶性酸及びヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項7】
薬剤、水溶性酸、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロース又はアセテート、サクシネート、フタレート、イソフタレート、テレフタレート及びトリメリテートから選択される1以上のエステル基を有するヒドロキシプロピルセルロースのエステルを含む請求項1又は3に記載の医薬組成物。
【請求項8】
薬剤、水溶性酸、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース及びヒドロキシメチルセルロースアセテートサクシネートから選択される水溶性セルロースエーテル又は水溶性セルロースエーテルのエステルを含む請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項9】
水溶性酸が周囲温度で固体である請求項1〜8のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項10】
水溶性酸が、飽和又は不飽和の水溶性脂肪族モノ若しくはポリカルボン酸である請求項1〜9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項11】
水溶性酸がフマル酸及びリンゴ酸から選択される請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
薬剤対酸のモル比が1:1〜1:10である請求項1〜11のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項13】
薬剤と、水溶性セルロースエーテル又は水溶性セルロースエーテルのエステルとの重量比が30:1〜3:1である請求項1〜12のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項14】
(i)10〜60部の薬剤;
(ii) 2〜70部のメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースから選択される水溶性セルロースエーテル;及び
(iii) 10〜70部のフマル酸及びリンゴ酸から選択される水溶性有機酸
を含み、ここで総ての部は重量部であり、(i)+(ii)+(iii)部の総計が100であり、薬剤対有機酸のモル比が1:3〜1:6である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項15】
薬剤、水溶性酸、並びに水溶性セルロースエーテル及び/又は水溶性セルロースエーテルのエステルの物理的混合物を含む請求項1〜14のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項16】
経口即時放出性錠剤、ペレット剤、顆粒剤又はカプセル剤の形態である請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
薬剤が請求項1に記載のものであり、請求項1〜16のいずれかに記載の医薬組成物を薬剤の必要な患者に投与することを含む、薬剤のバイオアベイラビリティー及び/又は血漿中濃度の個人間変動及び/又は個人内変動を減少させる方法。
【請求項18】
薬剤が請求項1に記載のものであり、請求項1〜16のいずれかに記載の医薬組成物をヒトの胃腸管上部中に見出されるpH値と同様のpH値の水性媒体に加えることを含み、ここで、医薬組成物から薬剤の可溶化性が同じ水性媒体中で薬剤単独の可溶化性と比較して向上する、前記水性媒体中の薬剤の可溶化性向上方法。
【請求項19】
薬剤が請求項1に記載のものであり、請求項1〜16のいずれかに記載の医薬組成物をヒトの胃中のpH値と類似のpH値の水性媒体に加えることを含む、水性溶液から薬剤の析出率を阻止するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−500176(P2007−500176A)
【公表日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521656(P2006−521656)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003241
【国際公開番号】WO2005/011647
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(300022641)アストラゼネカ アクチボラグ (581)
【Fターム(参考)】