説明

半導体ウェハの保管方法及び半導体ウェハ用保管具

【課題】高い清浄度を長期にわたって維持することができる半導体ウェハの保管方法及び半導体ウェハ用保管具を提供する。
【解決手段】先ず、保管具に複数の半導体ウェハ11を挿入し固定する。次に、氷点下で、水分を含有する冷気中に保管具を置く。この結果、保管具の周囲に存在するミスト10(霧)が半導体ウェハ11の全面に付着すると共に、半導体ウェハ11の温度は氷点下になっているので、そこで氷結する。つまり、半導体ウェハ11の全面に氷結層が形成される。そして、この状態で、周囲の温度を氷点下に維持することにより、半導体ウェハ11の温度を氷点下に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全部又は一部の成膜が完了した半導体ウェハの長期保管に好適な半導体ウェハの保管方法及びそれに用いる保管具に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェハ等の半導体ウェハは、全ての成膜が完了した後及び一部の成膜が完了した後に、一時的に保管されたり、その後に搬送されたりすることがある。但し、単に大気中に放置したのでは、酸素や塵等の影響による汚染が生じてしまう。そこで、密閉ケース、FOUP(Front Opening Unified Pods)、SMIF(Standard Mechanical Interface)ポッド等に挿入しておくことがある。また、これらの容器中をN2雰囲気にしておくこともある。
【0003】
しかしながら、これらの従来の保管方法では、容器そのものからの汚染が生じることがある。例えば、ステンレス系金属による汚染が生じて、歩留りが低下することがある。また、樹脂を構成する分子による汚染が生じて、特性が変動することもある。これらの汚染は、クリーンルーム中でも生じ得る。
【0004】
また、特許文献1には、複数のウェハと超純水から形成された氷板とを容器内に交互に配置する技術が開示されているが、ウェハの端面は一切保護されず、端面から汚染が広がる虞がある。また、ウェハと氷板との間に隙間が生じる可能性が高く、このような隙間が生じると、そこから汚染が広がってしまう。
【0005】
また、特許文献2には、容器内に1枚の半導体ウェハ及び超純水を入れた後、超純水を凍らせることにより、超純水の氷の膜で半導体ウェハを覆う技術が開示されているが、1枚ずつの処理であるため、スループットが低い。また、超純水に浸漬した状態で冷凍するため、超純水の固化の際の体積変化が大きく、半導体ウェハに外部応力が作用する虞がある。
【0006】
また、特許文献3には、洗浄液を用いてウェハの素子形成面(表面)の洗浄を行った後、そのまま洗浄液を凍らせる技術が開示されているが、この方法では、裏面からの汚染を回避することができない。また、素子形成面(表面)のみに冷凍により膜が形成されるため、ウェハに偏った応力が作用する。
【0007】
【特許文献1】特開平4−128173号公報
【特許文献2】特開平6−204314号公報
【特許文献3】特開平7−240356号公報(特許第3654923号公報)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高い清浄度を長期にわたって維持することができる半導体ウェハの保管方法及び半導体ウェハ用保管具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す発明の諸態様に想到した。
【0010】
本発明に係る半導体ウェハの保管方法では、氷からなる保管具内に1又は2以上の半導体ウェハを挿入した後、前記半導体ウェハの周囲に純水の霧を撒くと共に、前記半導体ウェハを氷点下まで冷却することにより、前記半導体ウェハの全面に氷結層を形成する。
【0011】
本発明に係る半導体ウェハ用保管具には、互いに並行に延びる少なくとも3本の氷製の棒材と、前記3本の棒材を互いに連結する少なくとも2個の氷製の連結材と、が設けられている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、半導体ウェハの表面、裏面及び端面の全面に氷結層が形成されるため、汚染が発生する箇所が皆無である。このため、長期にわたって半導体ウェハの特性を変化させずに保管することができる。また、氷結層は、非常に細かい霧が連続的に氷結することにより形成されるため、氷結層の膨張等は生じない。従って、氷結層の形成に伴って半導体ウェハに外部応力が作用することもない。更に、全面に同等の厚さの氷結層が形成されるため、応力の不均一さも存在しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る半導体ウェハの保管方法に用いられる保管具を示す正面図、図2は、前記保管具を示す上面図、図3は、前記保管具を示す側面図である。
【0014】
本実施形態に係る半導体ウェハの保管方法に用いられる保管具には、図1乃至図3に示すように、純水の氷からなる下支持材1、純水の氷からなる2本の横支持材2及び純水の氷からなる2個の連結材3から構成されている。下支持材1及び横支持材2の形状は、丸棒状である。また、連結材3は板材であり、その平面形状は略二等辺三角形である。但し、図1に示すように、二等辺三角形の長さが互いに等しい2辺に相当する部分は、内側に湾曲している。また、各頂点は尖っておらず、例えば直線上に削られたような形状となっている。そして、頂角の近傍に下支持材1用の孔が形成され、両底角の近傍に横支持材2用の孔が形成されている。
【0015】
下支持材1は、両連結材3の下支持材1用の孔に挿入され、横支持材2は、両連結材3の横支持材2用の孔に挿入されている。下支持材1及び横支持材2には、夫々複数の切欠き1a及び1bが形成されている。2本の横支持材2は、互いの切欠き2aが向かい合うようにして孔に挿入されている。また、下支持材1は、切欠き1aが底辺側を向くようにして孔に挿入されている。切欠き1a及び2aの幅は、保管対象とする半導体ウェハ11の厚さと同等である。また、向かい合う切欠き2aの底同士の間隔は、保管対象とする半導体ウェハ11の直径と同程度である。更に、向かい合う切欠き2a同士を結ぶ直線と切欠き1aの底との距離は、保管対象とする半導体ウェハ11の半径と同程度である。
【0016】
このようにして組み立てられた保管具は、下支持材1側を鉛直方向の下側にして使用される。つまり、保管具が下支持材1側を下側にして置かれた状態で、底辺側から半導体ウェハ11が各切欠き2aの間に挿入され、切欠き1aの底に当接するまで押し込まれる。
【0017】
次に、上述の保管具を用いた保管方法について説明する。図4は、本発明の実施形態に係る半導体ウェハの保管方法を示す模式図である。先ず、保管具に複数の半導体ウェハ11を挿入し固定する。次に、氷点下で、水分を含有する冷気中に保管具を置く。この結果、保管具の周囲に存在するミスト10(霧)が半導体ウェハ11の全面に付着すると共に、半導体ウェハ11の温度は氷点下になっているので、そこで氷結する。つまり、図5に示すように、半導体ウェハ11の全面に氷結層12が形成される。そして、この状態で、周囲の温度を氷点下に維持することにより、半導体ウェハ11の温度を氷点下に維持する。
【0018】
このような保管方法によれば、半導体ウェハ11の表面、裏面及び端面の全面に氷結層11が形成されるため、汚染が発生する箇所が全く存在しない。このため、長期にわたって半導体ウェハ11の特性を変化させずに保管することができる。また、氷結層12は、非常に細かい霧状のミスト10が連続的に氷結することにより形成されるため、氷結層12の膨張等は生じない。従って、氷結層12の形成に伴って半導体ウェハ11に外部応力が作用することもない。更に、全面に同等の厚さの氷結層12が形成されるため、応力の不均一さも存在しない。また、1個の保管具に複数枚の半導体ウェハ11を挿入して、一度に氷結層12を形成することができるので、スループットの低下を防止できる。
【0019】
なお、保管を終了して半導体ウェハ11を使用する場合には、例えば、室温の純水が入れられた槽内に、半導体ウェハ11を受ける石英等からなるケースを予め沈めておき、その上に半導体ウェハ11が嵌め込まれている保管具を置けばよい。保管具は純水の氷から構成されているため、徐々に融け始める。また、氷結層12も融け始める。そして、保管具の下支持材1が融けきると、半導体ウェハ11が石英等からなるケース内に落下する。この落下の際には、純水の抵抗があるため、ケースの内面に衝突する際の衝撃はほとんど生じない。なお、純水の温度は特に限定されないが、熱応力を抑制するためには0℃〜室温程度とすることが好ましい。但し、若干の熱応力が生じても特性に影響が出ない場合には、80℃〜100℃としてもよい。また、純水中での氷結層12の溶融を終了させた後に、自然酸化膜の除去等を目的として薬液を用いた洗浄を行ってもよい。また、純水の代わりに、自然酸化膜の除去等が可能な薬液を用いてもよい。
【0020】
なお、上述の実施形態では、氷点下で水分を含有する冷気中に保管具を置くこととしているが、氷点下で半導体ウェハ11に意図的にミスト10(霧)を吹付けてもよい。例えば、図6Aに示すように、ノズル4にミスト10を噴出させながら、ノズル4を半導体ウェハ11の周囲を回転移動させてもよい。また、図6Bに示すように、ノズル4を3箇所に設けておき、これらからミスト10を噴出させてもよい。
【0021】
また、半導体ウェハの材料は特に限定されることはない。例えば、Siウェハ及び化合物半導体ウェハに本発明を適用することができる。
【0022】
以下、本発明の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0023】
(付記1)
氷からなる保管具内に1又は2以上の半導体ウェハを挿入する工程と、
前記半導体ウェハの周囲に純水の霧を撒くと共に、前記半導体ウェハを氷点下まで冷却することにより、前記半導体ウェハの全面に氷結層を形成する工程と、
を有することを特徴とする半導体ウェハの保管方法。
【0024】
(付記2)
前記氷として純水から形成されたものを用いることを特徴とする付記1に記載の半導体ウェハの保管方法。
【0025】
(付記3)
前記氷結層を形成した後、前記半導体ウェハを氷点下に置き続けることを特徴とする付記1又は2に記載の半導体ウェハの保管方法。
【0026】
(付記4)
前記霧を撒く際に、前記霧を噴出するノズルを前記半導体ウェハの周囲において移動させることを特徴とする付記1乃至3のいずれか1項に記載の半導体ウェハの保管方法。
【0027】
(付記5)
前記霧を噴霧するノズルを用いて複数箇所から前記霧を撒くことを特徴とする付記1乃至3のいずれか1項に記載の半導体ウェハの保管方法。
【0028】
(付記6)
互いに並行に延びる少なくとも3本の氷製の棒材と、
前記3本の棒材を互いに連結する少なくとも2個の氷製の連結材と、
を有することを特徴とする半導体ウェハ用保管具。
【0029】
(付記7)
前記棒材及び連結材は、純水の氷製であることを特徴とする付記6に記載の半導体ウェハ用保管具。
【0030】
(付記8)
前記3本の棒材には、前記3本の棒材が構成する三角形の内側を向く切欠きが形成されていることを特徴とする付記6又は7に記載の半導体ウェハ用保管具。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係る半導体ウェハの保管方法に用いられる保管具を示す正面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る半導体ウェハの保管方法に用いられる保管具を示す上面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る半導体ウェハの保管方法に用いられる保管具を示す側面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る半導体ウェハの保管方法を示す模式図である。
【図5】半導体ウェハの変化を示す模式図である。
【図6A】ミストの撒き散らし方の例を示す図である。
【図6B】ミストの撒き散らし方の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1:下支持材
1a:切欠き
2:横支持材
2a:切欠き
3:連結材
4:ノズル
10:ミスト
11:半導体ウェハ
12:氷結層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
氷からなる保管具内に1又は2以上の半導体ウェハを挿入する工程と、
前記半導体ウェハの周囲に純水の霧を撒くと共に、前記半導体ウェハを氷点下まで冷却することにより、前記半導体ウェハの全面に氷結層を形成する工程と、
を有することを特徴とする半導体ウェハの保管方法。
【請求項2】
前記氷として純水から形成されたものを用いることを特徴とする請求項1に記載の半導体ウェハの保管方法。
【請求項3】
前記氷結層を形成した後、前記半導体ウェハの温度を氷点下に維持することを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体ウェハの保管方法。
【請求項4】
互いに並行に延びる少なくとも3本の氷製の棒材と、
前記3本の棒材を互いに連結する少なくとも2個の氷製の連結材と、
を有することを特徴とする半導体ウェハ用保管具。
【請求項5】
前記棒材及び連結材は、純水の氷製であることを特徴とする請求項4に記載の半導体ウェハ用保管具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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