説明

半導体スイッチング素子を有する電力変換器

【課題】半導体スイッチング素子の電圧破壊を防止する印加電圧抑制回路を確実に実装すると共に、その設定電圧を周辺回路のIC等を破壊することなく検査できる構成にすること。
【解決手段】半導体スイッチング素子3を有する電力変換器は、半導体スイッチング素子3、駆動回路13、制御回路等が実装された親基板とは分離した構成で、かつ電気的に接続される子基板16(別ユニット)に、半導体スイッチング素子3の印加電圧を抑制する印加電圧抑制回路15と、駆動回路13の構成部品で、欠如すると半導体スイッチング素子3がオフする少なくとも一つの部品とを移設して配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体スイッチング素子を有する電力変換器に関するもので、特には半導体スイッチング素子の過電圧保護手段を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体技術の進歩により大電力を扱う電力変換器が比較的低価格で実用に供され得るようになり、電子レンジ等においては20k〜50kHz程度の共振型高周波インバータ電源(電力変換器)を用いたものが実用化されている。このような半導体スイッチング素子を用いる電力変換器において、半導体スイッチング素子の耐圧破壊防止を目的とする過電圧保護手段は、必須構成である。
【0003】
図4は、従来のインバータ電源に示される半導体スイッチング素子の過電圧保護手段の一例を示す一部抜粋の回路構成図である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図4において、インバータ電源30は、半導体スイッチング素子3の電圧耐量よりも低く設定した電圧耐量を持つ強制転流回路31を設けている。この設定電圧以上の過電圧が、半導体スイッチング素子3の端子間に発生した場合、半導体スイッチング素子3のベース(制御端子)にその情報(電圧信号)が帰還(入力)され、半導体スイッチング素子3をOFFからONに転流することで、過電圧を抑制するように構成されている。
【0005】
図示されたインバータ電源30は共振型のため、半導体スイッチング素子3は、その端子間電圧(コレクタ電圧)が600Vから650V程度で動作するので、一般的に1000V耐圧の品種が選択される。したがって、強制転流回路31の設定電圧は、上記コレクタ電圧に過渡時のオーバーシュート等を考慮し、800Vから900V程度に設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−135076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来の構成では、前記した強制転流回路31のツェナーダイオードが逆極性に実装された場合、わずかなコレクタ電圧であっても半導体スイッチング素子3を転流させて熱破壊させるという課題があるが、組立後にインサーキットテスター等の検査で除去可能である。
【0008】
しかし、強制転流回路31のツェナーダイオードは、その設定電圧を誤った高い電圧仕様の部品が実装されると、半導体スイッチング素子3には過電圧が印加されたにもかかわらず強制転流しないため、耐圧破壊するという課題がある。一方、低い電圧仕様の部品が実装されると、半導体スイッチング素子3は、断続的に常時強制転流するため、熱破壊するという課題がある。
【0009】
これは、前記した800Vから900V程度の高電圧をツェナーダイオードに印加することで、設定電圧を確認できるので、除去可能である。
【0010】
しかし、高電圧を印加するため、制御部32等の小信号を扱う回路のIC等を電圧破壊
させてしまうという課題が新たに生じる。
【0011】
さらには、強制転流回路31が実装されない場合、半導体スイッチング素子3は過大電圧印加時に強制転流が成されず、破壊するという課題がある。
【0012】
また、強制転流回路31は有極性のため、接続極性が定まる構成にしなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記従来の課題を解決するために、本発明の半導体スイッチング素子を有する電力変換器は、半導体スイッチング素子の印加電圧(Vce)を検出し、印加電圧が所定電圧値以上の場合、両電圧差に基づく差信号を半導体スイッチング素子の制御端子に帰還して強制転流させ、印加電圧を所定電圧近傍に抑制する印加電圧抑制回路と、駆動回路の構成部品で、欠如すると半導体スイッチング素子がオフする少なくとも一つの部品と、を第2の基板(子基板)に、上記少なくとも一つの部品を除く駆動回路、半導体スイッチング素子等を第1の基板(親基板)に、それぞれ備えた独立構造でかつ電気的に接続して構成される。
【0014】
また、第2の基板の強制転流回路は有極性のため、第1の基板との接続も有極性の構成とする。
【0015】
上記において子基板はプリント基板に実装した形態に限定されるものでなく、第1の基板と分離した別ユニット構成であればよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の半導体スイッチング素子を有する電力変換器は、印加電圧抑制回路のツェナーダイオードが、電力制御部、駆動回路、半導体スイッチング素子等を実装した第1の基板(親基板)と分離して検査できるため、電力制御部等の小信号を扱う回路のIC等を電圧破壊させること無く、また、その極性、および電圧仕様を正確に検査でき、誤りは検出できる。
【0017】
従って、印加電圧抑制回路と、半導体スイッチング素子とで構成される電圧破壊防止機能は、確実に動作する。
【0018】
また、印加電圧抑制回路の実装忘れは、半導体スイッチング素子の耐圧破壊を引き起こす危険性があるが、印加電圧抑制回路と、駆動回路の構成部品で、欠如すると半導体スイッチング素子がオフする少なくとも一つの部品とを第2の基板(子基板)に実装しているので、半導体スイッチング素子がオフして、電力変換器の停止という形で検出される。従って、スイッチング素子の耐圧破壊防止機能の欠如は、未然に防止される。
【0019】
また、印加電圧抑制回路のツェナーダイオードのブレークダウン電圧は、温度特性を有するが、印加電圧抑制回路は、半導体スイッチング素子に過電圧の情報を帰還する構成にしているため、自己発熱によるブレークダウン電圧の変動は少ない。
【0020】
従って、半導体スイッチング素子の印加電圧は公称ツェナー電圧近傍で抑制され、その耐圧に対し安定したマージンが確保されるため、確実な耐圧破壊防止効果が得られる。
【0021】
また、第1の基板と第2の基板とは有極性の接続構造のため、印加電圧抑制回路の接続も誤ることなく正しく成され、目的とする過大電圧抑制効果が得られる。当然のことながら、印加電圧抑制回路を半導体スイッチング素子に内蔵していないため、半導体スイッチ
ング素子の耐圧検査に支障をきたさない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施の形態による半導体スイッチング素子を有する電力変換器の一部抜粋の回路構成図
【図2】本発明の第1の実施の形態による半導体スイッチング素子を有する電力変換器の各部波形図
【図3】本発明の第1の実施の形態による半導体スイッチング素子を有する電力変換器の一部抜粋の構造図
【図4】従来の半導体スイッチング素子を有する電力変換器の一部抜粋の回路構成図
【発明を実施するための形態】
【0023】
第1の発明は、半導体スイッチング素子と、前記半導体スイッチング素子の駆動回路と、制御回路と、前記半導体スイッチング素子の印加電圧を検出し、印加電圧が所定電圧以上の場合、両電圧差に基づく差信号を前記駆動回路に帰還して印加電圧を所定電圧近傍に抑制する印加電圧抑制回路と、を備え、第1の基板には、前記半導体スイッチング素子、前記駆動回路、前記制御回路等が実装され、第2の基板は、前記印加電圧抑制回路が配設され、前記第1の基板とは分離されかつ電気的に接続されており、前記第2の基板には、前記駆動回路の構成部品で、欠如すると半導体スイッチング素子がオフする少なくとも一つの部品を設けた半導体スイッチング素子を有することにより、印加電圧抑制回路の設定電圧は子基板の状態で検査できるようになり、この検査に伴う電力制御回路等の小信号を扱う回路のIC等の電圧破壊を防止することができる。
【0024】
また、駆動回路の構成部品で、欠如すると半導体スイッチング素子がオフする少なくとも一つの部品を子基板に移設することにより、印加電圧抑制回路を備えた子基板の実装忘れは、半導体スイッチング素子がオフして電力変換器の停止という形で検出されるようになり、スイッチング素子の耐圧破壊防止機能の欠如は、未然に防止することができる。
【0025】
また、子基板と親基板との接続は有極性構造とすることにより、印加電圧抑制回路の接続は誤ることなく正しく成されるようになり、目的とする過大電圧抑制効果を得ることができる。
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0027】
(実施の形態1)
図1は本発明の第1の実施の形態による半導体スイッチング素子を有する電力変換器の一部抜粋の回路構成図である。
【0028】
商用電源1を整流・平滑回路2で直流電源に変換されたVdcは、半導体スイッチング素子3の高周波スイッチング動作で、高周波電源に変換される。この高周波電源は、共振コンデンサ4を並列接続された高圧(昇圧)トランス5の一次側に入力され、昇圧された二次側出力は、高圧整流回路6で、マグネトロン7を付勢する直流高圧電源に変換される。
【0029】
電力制御回路8は、商用電源1からの入力電流をカレントトランス9で検出した入力電流情報10と基準信号11とを比較して、両者が略一致するべく、パルス信号12を変化させて駆動回路13に入力する。駆動回路13は、この信号をインピーダンス変換し、整合抵抗14を介して、半導体スイッチング素子3の制御端子に入力する。整合抵抗14は、駆動回路13が過負荷とならないように、出力電流を制限する役割を有している。
【0030】
印加電圧抑制回路15は、半導体スイッチング素子3の印加電圧(Vce)を監視し、何らかの原因で所定電圧(設定電圧)値以上に上昇した時、印加電圧との差信号(電流信号)を半導体スイッチング素子3の制御端子に帰還して強制転流させる。
【0031】
図2は、印加電圧抑制回路15が動作して、半導体スイッチング素子3を強制転流させ、その印加電圧が、所定電圧(設定電圧)近傍に抑制された場合の各部波形図である。正常動作時の半導体スイッチング素子3は、駆動回路13の信号に従い、図のような共振波形で、かつ印加電圧抑制回路15の設定電圧以下でON/OFF動作する。この共振波形の発生電圧は、直前のON動作の時間幅等で決定される。
【0032】
しかし、何らかの要因、例えば雷サージ印加等で設定電圧以上に上昇した期間、図では時刻t1〜t2の期間は、図のように、印加電圧抑制回路15を介して印加電圧と設定電圧との差信号(電流信号)が、半導体スイッチング素子3の制御端子に帰還され、この期間のみ転流して点線のように上昇しようとする印加電圧を、実線で示されるように抑制する。
【0033】
図3は、本発明の第1の実施の形態による半導体スイッチング素子を有する電力変換器の一部抜粋の構造図である。図のように、印加電圧抑制回路15と、駆動回路13の整合抵抗14を移設して配設した子基板16(第2の基板)は、半導体スイッチング素子3、電力制御回路8、駆動回路13、高圧トランス5等を搭載した親基板17(第1の基板)と別構成であるが、接続部a,b,cを介して電気的に接続される。
【0034】
図1にも同一符号で示されるが、接続部a,b,cは、基板対基板の接続用コネクタ等でよい。また、接続部a,b,cの各接続端子間を不等ピッチにする等で、子基板16と親基板17との接続方向は定まり、有極性の印加電圧抑制回路15と半導体スイッチング素子3との接続極性は、正しく成される。
【0035】
ここで、印加電圧抑制回路15を配設した子基板16の親基板17への実装(電気的接続)を忘れた場合の高周波インバータ電源の振舞いについて説明する。
【0036】
当然であるが、強制転流動作による半導体スイッチング素子3の過電圧抑制機能は成されない。
【0037】
しかし、駆動回路13と半導体スイッチング素子3の間に介在するべき整合抵抗14が、子基板16に移設されているため接続されず、半導体スイッチング素子3はオフ状態を維持するため、印加電圧は整流・平滑回路2で直流電源に変換されたVdc以上にならない。
【0038】
このように、欠如すると半導体スイッチング素子3がオフする駆動回路13の少なくとも一つの部品を子基板16に移設することで、子基板16の親基板17への装着が確実に成された場合のみ、高周波インバータ電源は動作するように構成され、印加電圧抑制回路15の接続忘れによる半導体スイッチング素子3の耐圧破壊は未然に防止することができる。
【0039】
ここで、印加電圧抑制回路15を配設した子基板16の親基板17への実装(電気的接続)を忘れた場合の高周波インバータ電源の振舞いについて説明する。
【0040】
当然であるが、強制転流動作による半導体スイッチング素子3の過電圧抑制機能は成されない。
【0041】
しかし、駆動回路13に接続されるべき直流電源18は、子基板16が実装されないため接続手段19を失い、接続部d,e間で遮断される。したがって駆動回路13は、半導体スイッチング素子3の制御端子にオン(:Hi)の信号を出力できず、半導体スイッチング素子オフ状態を維持するため、印加電圧は整流・平滑回路2で直流電源に変換されたVdc以上にならない。
【0042】
このように、新たに設けられ、かつ欠如すると駆動回路13の動作は、半導体スイッチング素子3がオフするように接続される接続手段18を子基板16に配設することにより、子基板16の親基板17への装着が確実に成された場合のみ高周波インバータ電源は動作するように構成され、印加電圧抑制回路15の接続忘れによる半導体スイッチング素子3の耐圧破壊は未然に防止することができる。
【0043】
また、直流電源18と駆動回路13間子基板16を介して接続するために新たに設けられた接続手段19は、銅箔パターン、あるいはジャンパー線等であっても良い。
【0044】
また、印加電圧抑制回路15は、例えば微小な直流電圧を印加して電流が流れるか否かでその極性を、また電流パルスを印加し、その制限電圧を計測することでその電圧仕様をそれぞれ検査できる。これら検査は、子基板16単独で実施できるため、電力制御回路8等の小信号回路に用いられるIC等を破壊することはない。また、この検査は、子基板16単独のため正確に行え、異常時等の半導体スイッチング素子3の過電圧破壊防止を十分担保できる。
【0045】
また、印加電圧抑制回路15は、半導体スイッチング素子3に過電圧の情報を帰還する構成にしているため、自己発熱は少なく、ブレークダウン電圧の温度特性の影響も少ないため、公称ツェナー電圧近傍で過大電圧は抑制される。従って、半導体スイッチング素子3の耐圧に対し安定したマージンが確保されるため、確実な耐圧破壊防止効果が得られる。
【0046】
また、半導体スイッチング素子3を、過大電圧印加時の電圧吸収素子に用いる構成のため、新たな電圧吸収素子を用いることなく、印加電圧抑制回路15の追加のみで確実な耐圧破壊防止効果が得られる。
【0047】
さらには、印加電圧抑制回路15は半導体スイッチング素子3と別構成のため、半導体スイッチング素子3の耐圧検査に支障は生じない。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、半導体スイッチング素子を有する電力変換器は、電子レンジのマグネトロンを駆動する高周波インバータ電源(電力変換器)における一実施例を説明したが、本願は、電磁調理器の高周波インバータ電源、あるいはモータのインバータ駆動回路等に用いられている半導体スイッチング素子の電圧破壊防止手段にも応用でき、半導体スイッチング素子も図示したトランジスタに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0049】
3 半導体スイッチング素子
8 電力制御回路
13 駆動回路
14 整合抵抗
15 印加電圧抑制回路
16 子基板(第2の基板)
17 親基板(第1の基板)
18 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体スイッチング素子と、前記半導体スイッチング素子の駆動回路と、制御回路と、前記半導体スイッチング素子の印加電圧を検出し、印加電圧が所定電圧以上の場合、両電圧差に基づく差信号を前記駆動回路に帰還して印加電圧を所定電圧近傍に抑制する印加電圧抑制回路と、を備え、
第1の基板には、前記半導体スイッチング素子、前記駆動回路、前記制御回路等が実装され、第2の基板は、前記印加電圧抑制回路が配設され、前記第1の基板とは分離されかつ電気的に接続されており、
前記第2の基板には、前記駆動回路の構成部品で、欠如すると半導体スイッチング素子がオフする少なくとも一つの部品を設けた半導体スイッチング素子を有する電力変換器。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−135669(P2011−135669A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291724(P2009−291724)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】