説明

半導体チップ及びそれを搭載した半導体装置

【課題】信号特性の劣化を抑制した半導体チップを提供する。
【解決手段】半導体基板11の少なくとも一方の面に形成された終端パッド15と、一端が終端パッド15と接続されて、半導体基板11を貫通して形成された伝送体14と、ミリ波帯高周波信号が伝送体14を伝送した際の信号特性の劣化を抑制する少なくとも1つ以上の信号劣化抑制部と、を備える。また、上記半導体チップ10と、低周波信号又は直流バイアスの少なくとも1つの信号の伝導路をなす低周波用の信号線路が設けられると共に、半導体チップ10がバンプ接続に搭載されて、低周波信号用の信号線路を介した信号を半導体チップ10に入出力されるチップ搭載基板20とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波帯高周波信号の信号処理を行う半導体チップ及びそれを搭載した半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、短距離通信で1Gbpsを超える高速の無線通信や自動車交通における衝突防止のための位置検知等を目的として、ミリ波帯(周波数帯域:30GHz〜300GHz)の高周波信号を用いた無線通信装置が開発されている。
【0003】
このような無線通信装置は、電磁波を送受信するためのアンテナ、高周波信号を信号処理する半導体チップ等を備える。ミリ波帯高周波信号を扱うためには、信号処理手段である半導体チップとアンテナとの距離が重要である。この距離は高周波信号の伝送路長である。例えば、半導体チップとアンテナとの間の伝送路長が長くなると、大きな寄生容量等が発生する。そして、かかる寄生容量等により高周波信号の伝送特性が低下する。
【0004】
また、ミリ波帯高周波信号が伝送路を伝送する場合に、高周波信号が電磁波として漏洩したり、クロストークや雑音の影響を受けたりすることがある。このような不都合を回避するため、伝送路としてマイクロストリップラインやコプレーナ導波路等が利用されている。
【0005】
一方でかかる高周波信号を扱う電子機器の小型化の要求は、益々高まっている。小型化を実現するための提案として、特開2010−206021号公報は、導電部材が貫通した半導体チップを積層する技術を提案している。これにより、複数の半導体チップが3次元的に搭載されるため、電子機器の小型化が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−206021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特開2010−206021号公報が提案する技術は、伝送する信号がミリ波帯高周波信号の場合については対応していない。従って、高周波信号が導電部材を伝送した際には、先に述べた寄生容量や漏洩り、大きな信号特性の劣化が起きる問題がある。
【0008】
そこで、本発明の主目的は、高周波信号がチップ内を伝送する際の信号特性劣化が抑制できる半導体チップ及びそれを用いた半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、半導体チップにかかる発明は、半導体基板の少なくとも一方の面に形成された終端パッドと、一端が終端パッドと接続されて、半導体基板を貫通して形成された伝送体と、ミリ波帯高周波信号が伝送体を伝送した際の信号特性の劣化を抑制する少なくとも1つ以上の信号劣化抑制部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、上記半導体チップと、低周波信号又は直流バイアスの少なくとも1つの信号の伝導路をなす低周波用の信号線路が設けられると共に、半導体チップがバンプ接続して搭載されて、低周波用の信号線路を介した信号を半導体チップに入出力させるチップ搭載基板と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、信号劣化抑制部を設けたので、高周波信号が伝送体を伝送する際に生じる信号特性の劣化が抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる半導体装置の断面図である。
【図2】第1の実施形態にかかる半導体チップの斜視図である。
【図3】第1の実施形態にかかる半導体チップの裏面側が誘電体基板と接続された半導体装置の断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態にかかる半導体装置の断面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態にかかる半導体装置の断面図である。
【図6】第3の実施形態にかかる半導体チップの斜視図である。
【図7】第3の実施形態にかかる半導体チップの裏面側から見た平面図である。
【図8】第3の実施形態にかかる杭状のシールドビアを持つ半導体装置の斜視図である。
【図9】第3の実施形態にかかる帯状のシールドビアを持つ半導体装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1の実施形態>
本発明の実施形態を参照して説明する。図1は、本発明の第1の実施形態にかかる半導体装置2の断面図である。半導体装置2は、半導体チップ10と、この半導体チップ10が搭載された誘電体基板(チップ搭載基板)20とを主要構成としている。
【0014】
半導体チップ10は、半導体基板11の表面に形成された半導体回路12、接続用パッド13、半導体基板11を貫通して形成された伝送体14、半導体基板11の裏面に形成された終端パッド15を備える。なお、本実施形態においては半導体チップ10の形成母材としてシリコン基板を用いた場合につて説明するが、GaAs等の他の半導体基板を用いても良い。図2は、半導体チップ10の斜視図である。図2においては、半導体基板11等の詳細は図示省略している。
【0015】
接続用パッド13及び終端パッド15は、半導体回路12に接続されている。このとき、終端パッド15は、伝送体14を介して半導体回路12に接続されている。伝送体14は、信号を伝送させる機能と、信号が伝送する際の伝送損失を抑制する機能を持つ。このため、伝送体は筒状の金属で形成されている。即ち、伝送体14は導波管を構成している。このように伝送損失を抑制させる機能を信号劣化抑制部と記載する。本実施形態における信号劣化抑制部は、伝送体14を筒状の導波管に形成した構造に対応する。
【0016】
半導体回路12は、高周波伝送路と低周波伝送路とを含んでいる。高周波伝送路は、ミリ波帯高周波信号が伝送する伝送路で、伝送損失が最小化され、またインピーダンスマッチングが図られた伝送路である。このような高周波伝送路として、ストリップライン、マイクロストリップライン、コプレーナ導波路、トリプレート構造等が例示できる。なお、図2においては、終端パッド15を取り囲むようにコプレーナ導波路をなす高周波導波路16(16a)が設けられ、接続用パッド13と接触しないように上下層をなすマイクロストリップラインの高周波導波路16(16b)が設けられている。一方、低周波伝送路は、”0”または”1”の論理信号を扱うデジタル信号、ベースバンド領域の低周波信号が伝送する。
【0017】
誘電体基板20は、表面に形成された接続用パッド21、内部配線された基板内配線22を備えた多層配線基板である。そして、基板内配線22は配線接続ビア23aにより接続用パッド21と接続されている。なお、基板内配線22への信号の入出力は信号入出力用のビア23bを介して行われる。
【0018】
接続用パッド13と接続用パッド21とをバンプ5により接続したフリップチップ実装により、半導体チップ10が誘電体基板20に搭載されている。
【0019】
なお、説明を簡単にするため、図1では半導体チップ10や誘電体基板20の接続用パッド13、伝送体14、終端パッド15、基板内配線22、配線接続ビア23a等を1つだけ図示しているが、これらは必要に応じて複数個設けることも可能である。
【0020】
伝送体14は、以下のようにして製造される。先ず、シリコン基板(半導体基板11)にエッチング技術を用いて貫通孔を形成し、熱酸化等により貫通孔の孔周壁に絶縁膜を形成する。この絶縁膜は伝送体14と半導体基板11との電気的な絶縁を行うために形成される。そして、鍍金やスパッタ等を用いて貫通孔の絶縁膜上に金属膜を形成する。この金属膜は孔周壁に形成されるため、筒状に形成されて、伝送体14として機能する。次に、気相化学反応法等を用いて、筒状をなす金属膜の筒内に絶縁材を埋込む。
【0021】
このようにして、伝送体14が半導体基板11を貫通して形成される。伝送体14の水平断面形状は円形状や矩形状のいずれでもよい。なお、上記伝送体14の製造方法は一例であり、本実施形態は他の公知の方法を排除するものではない。
【0022】
このような半導体装置2において、低周波信号及び直流バイアスは、基板内配線22、配線接続ビア23a、接続用パッド21、バンプ5、接続用パッド13を介して半導体回路12の低周波伝送路に入出力する。
【0023】
一方、高周波信号は、伝送体14を介して終端パッド15と半導体回路12との間で伝送される。終端パッド15がパッチアンテナとして機能する場合を考える。この場合、電磁波を放射する場合は(送信モード)、半導体回路12からの高周波信号が終端パッド15に出力され、この終端パッド15から電磁波として放射される。一方、電磁波を受信する場合は(受信モード)、終端パッド15で受信された電磁波による高周波信号が伝送体14を介して半導体回路12に入力する。
【0024】
伝送体14は、半導体回路12と終端パッド15とを接続する最短の伝送路をなすと共に、ミリ波帯高周波信号に対して導波管として機能するので、この伝送体14を伝送する高周波信号の伝送損失が大幅に抑制される。従って、半導体回路12と終端パッド15との間を伝送する高周波信号の信号特性の劣化が抑えられる。
【0025】
なお、終端パッド15をアンテナとして機能させる場合の他に、半導体チップ10の裏面配線やアンテナの電極等として機能させる利用が可能である。
【0026】
ところで、上記説明では、接続用パッド13はバンプ5を介して接続用パッド21と接続される構成であったが、例えば図3に示す半導体チップであっても良い。図3は、図1に示す半導体チップ10を裏返した構成となっている。即ち、接続用パッド13aがバンプ5を介して接続用パッド21と接続されている。無論、このとき例えば送信モードにおいては、半導体回路12からの高周波信号が終端パッド15aに出力される。また、受信モードにおいては、電磁波が終端パッド(終端パッド)15aで受信されて、その信号が半導体回路12に入力することになる。
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。なお、第1の実施形態と同一構成に関しては同一符号を用いて説明を適宜省略する。
【0027】
第1の実施形態においては、終端パッド15をアンテナとして機能させた。そして、図1に示すように、半導体基板11を貫通して形成された伝送体14を介して半導体回路12と接続した。
【0028】
これに対し、本実施形態では、バンプ接続により積層基板(終端パッド基板)を半導体チップに搭載して、この積層基板に設けた終端パッドをアンテナとして作用させるものである。
【0029】
図4は、本実施形態にかかる半導体装置2の断面図である。図1に示す構成に加え、積層基板30が半導体チップ10に搭載されている。積層基板30の表面には接続用パッド31が形成され、裏面には終端パッド34が形成されている。また、積層基板30の内部には基板内配線33が形成され、この基板内配線33と接続用パッド31及び終端パッド34が、接続部32a、32bにより接続されている。そして、接続用パッド31と接続用パッド15bとがバンプ6を介して接続されている
これにより、送信モードにおいて、半導体回路12からの高周波信号は、伝送体14、接続用パッド15b、バンプ6、基板内配線33等を介して終端パッド34に出力される。一方、受信モードにおいて、終端パッド34で受信された電磁波による信号は、基板内配線33、接続用パッド31、バンプ6、接続用パッド15b、伝送体14を介して半導体回路12に入力する。
【0030】
このような構成により、高周波信号の伝送路を可能な限り短くすることができる。従って、信号特性の劣化が抑制できる。また、終端パッド34を複数設けることによりアレイアンテナが形成できる。アレイアンテナを半導体チップ10の裏面等に形成する場合には、大きな面積が必要となるので、チップサイズは大きくなる。従って、半導体チップのコストがアップする。しかし、積層基板30を設けることにより、信号特性の劣化を抑制しながら、半導体チップ10のサイズアップが防止できる。
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態を説明する。なお、第1の実施形態と同一構成に関しては同一符号を用いて説明を適宜省略する。
【0031】
これまで説明した各実施形態においては、高周波信号の漏洩については言及しなかった。しかし、かかる漏洩も信号特性の劣化要因である。そこで、本実施形態においては、かかる漏洩を抑制しながら高周波信号が伝送できるようにする。
【0032】
図5は、本実施形態にかかる半導体装置2の断面図である。また、図6は半導体チップ10の斜視図である。なお、図6においては、半導体基板11等の詳細は図示省略している。
【0033】
図5及び図6に示すように、本実施形態にかかる半導体装置2は、伝送体14を備える。そして、この伝送体14を取り囲むように柱状のシールドビア(信号劣化抑制部)17が複数設けられている。
【0034】
そして、シールドビア17は、半導体チップ10の裏面側に形成された伝送路16cと、半導体回路12側に設けられた伝送路16dとに接続されている。半導体回路12側の伝送路16dは、例えば接地電位のような固定電位に設定されている。従って、シールドビア17や伝送路16cは、伝送路16dと同電位となり、外部からのノイズ等の侵入が防止できると共に、伝送体14を伝送する高周波信号の漏れが防止できる。よって、高周波信号の伝送特性が向上し、信号特性の劣化が防止できる。
【0035】
ところで、図6においては、シールドビア17は図面の左側に設けられている。高周波信号の漏洩は、電磁波として伝送路から漏洩する。そして、この漏洩は、伝送路の路方向が急激に変化する位置や終端近傍の位置で起き易い。このため、図1に示すように終端パッド15がアンテナとして作用する場合には、伝送体14と終端パッド15との接続位置で最も漏洩が起き易いと考えられる。図7は、終端パッド15を望む半導体チップ10の平面図である。伝送体14の中心位置O1と終端パッド15の中心位置O2との接続位置は、図6や図7において左側にずれている。
【0036】
このような構成では、伝送体14が近接する終端パッド15の端部K側からの漏洩が多くなる。即ち、漏洩方向に異方性が生じる。図7では、漏洩が多い領域を点線領域Aで例示している。そこで、本実施形態では、図6や図7に示すように、漏洩が大きくなる終端パッド15の端部K側にシールドビア17を複数設けている従って、この方向の漏洩防止が可能となる。なお、漏洩方向に異方性がない場合には、終端パッド15を取り囲むようにシールドビア17を設けることが好ましい。
【0037】
ところで、上記説明では、シールドビア17は、伝送路16cと伝送路16dとを接続するように、半導体基板11を貫通して設けられていた。しかし、本実施形態はかかる構成に限定するものではなく、例えば図8に示すように、杭状のシールドビア18を複数設けても良い。シールドビアの作用は高周波信号の漏洩を抑制することであり、漏洩箇所が起きる位置に設けることが重要である。従って、高周波信号の漏洩が最も大きな領域のみをシールドすれば漏洩を効果的に抑制できる。
【0038】
また、例えば図9に示すように、帯状のシールドビア19であっても良い。図9は、図8に示す複数の杭状のシールドビア18を連結した構造となっている。このため、杭状のシールドビア18のビア間から漏洩する成分を完全に防止できるようになり、漏洩による信号特性の劣化が防止できる。
【0039】
本発明は、高周波領域を使用する無線装置に適用して好適である。
【符号の説明】
【0040】
2 半導体装置
5,6 バンプ
10 半導体チップ
11 半導体基板
12 半導体回路
13,13a,15b,21,31 接続用パッド
14 伝送体
15,15a,34 終端パッド
16(16a,16b) 高周波導波路
16c,16d 伝送路
17,18,19 シールドビア
20 誘電体基板(チップ搭載基板)
30 積層基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号が伝送する伝送路を含む半導体チップであって、
半導体基板の少なくとも一方の面に形成された終端パッドと、
一端が前記終端パッドと接続されて、前記半導体基板を貫通して形成された伝送体と、
ミリ波帯高周波信号が前記伝送体を伝送した際の信号特性の劣化を抑制する少なくとも1つ以上の信号劣化抑制部と、を備えることを特徴とする半導体チップ。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体チップであって、
前記伝送体を筒状の導波管に形成することにより、前記信号劣化抑制部を構成したことを特徴とする半導体チップ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体チップであって、
前記終端パッドに接続された前記伝送体を伝送する前記高周波信号の伝送方向が大きく変化する位置にシールドビアを設けて、前記信号劣化制御部を構成したことを特徴とする半導体チップ。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体チップであって、
前記半導体基板を貫通して柱状のビアを複数並設し、かつ、該ビアの電位を固定して、前記シールドビアを構成したことを特徴とする半導体チップ。
【請求項5】
請求項3に記載の半導体チップであって、
前記半導体基板に杭状のビアを複数並設し、かつ、該ビアの電位を固定して、前記シールドビアを構成したことを特徴とする半導体チップ。
【請求項6】
請求項3に記載の半導体チップであって、
前記半導体基板に帯状のビアを設け、かつ、該ビアの電位を固定して、前記シールドビアを構成したことを特徴とする半導体チップ。
【請求項7】
高周波信号が伝送する伝送路を備えた半導体装置であって、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の半導体チップと、
低周波信号又は直流バイアスの少なくとも1つの信号の伝導路をなす低周波用の信号線路が設けられると共に、前記半導体チップがバンプ接続して搭載されて、前記低周波用の信号線路を介した信号を前記半導体チップに入出力させるチップ搭載基板と、を備えることを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
請求項7に記載の半導体装置であって、
前記半導体チップが、終端パッドを備え、該終端パッドが電磁波の放射及び受信を行うアンテナであることを特徴とする半導体装置。
【請求項9】
請求項8に記載の半導体装置であって、
一方の面に前記終端パッドが複数並設されて、前記半導体チップにバンプ接続された終端パッド基板を備えることを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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