説明

半導体モジュールとその製造方法

【課題】カード状の半導体装置を一対の冷却部材の間に挿入する際のグリース切れ、及びこれによる熱伝導率の悪化/半導体装置の冷却効率の低下を抑制する。
【解決手段】半導体モジュール1は、両面にグリース30が塗布されたカード状の半導体装置10が、内部に冷媒流路を有する一対の冷却部材20の間に挿入されたものであり、半導体装置10のグリース塗布面に凹部11が形成されたものである。冷却部材20のグリース塗布面に凹部を設けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体モジュールとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等には、パワーカード等のカード状の半導体装置の両面にグリースを塗布し、これを内部に冷媒流路を有する一対のヒートシンク等の冷却部材の間に挿入した半導体モジュールが搭載されている。かかる半導体モジュールは例えば、特許文献1(図1-図2等)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-236120号公報
【特許文献2】特開2010-092999号公報
【特許文献3】特開2004-311905号公報
【特許文献4】特開2007-281215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の半導体モジュールにおいては、熱損失低減のために、カード状の半導体装置と一対の冷却部材との間の隙間が小さく設計されている。そのため、カード状の半導体装置を一対の冷却部材の間に挿入する際に、半導体装置の一方のグリース塗布面と冷却部材とが擦れ合って、その間のグリースが削ぎ落とされ、その結果、熱伝導率が悪化して半導体装置の冷却効率が低下する場合がある。
【0005】
パワーカード等のカード状の半導体装置の両面にグリースを塗布し、これを一対のヒートシンク等の冷却部材の間に挿入した半導体モジュールに関するものではないが、本発明の関連技術としては以下の特許文献2−4がある。
【0006】
特許文献2には、電子機器(11)が載置されたケース(20)と、熱伝導性グリース(G)を介してケース(20)に接触する冷却器(30)とを備え、ケース(20)及び冷却器(30)のうち少なくとも一方の接触面(21)は、複数の直線状の凹部(25)が並行に形成された接触領域(23)を有し、接触領域(23)に伝導性グリース(G)が配置された放熱構造(10)が開示されている(請求項1、図1(a)、(b))。
凹部(25)は、部材間同士の接触部分を増やすと共に、これらの間に配置された熱伝導性グリースの流動を抑制するために設けられている。
【0007】
特許文献3には、放熱平面(11)が露出する半導体モジュール(1)と、放熱平面(11)に密着するヒートシンク(3)の受熱平面との間に熱伝導性グリスを介在させた構成を有し、半導体モジュール(1)の放熱平面(11)又はヒートシンク(3)の受熱平面に放射状にグリス押し出し溝(12)を設けた半導体モジュール実装構造が開示されている(請求項1、図2)。グリス押し出し溝(12)は、過剰グリスを速やかに外部に押し出すために設けられている。
【0008】
特許文献4には、ブロック本体(3)と、ブロック本体(3)に貫穿された直線状の貫通孔(4)と、貫通孔(4)に圧入又は拡径されて貫設されたパイプ部(6)とを備え、貫通孔(4)の内周面に凹凸部(5)を備えた受熱ジャケット(2)が開示されている(請求項2、図2)。凹凸部(5)は、受熱ジャケット(2)が各種電子部品等の発熱体から発せられる熱を確実に受熱するために設けられている。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、カード状の半導体装置を一対の冷却部材の間に挿入する際のグリース切れ、及びこれによる熱伝導率の悪化/半導体装置の冷却効率の低下を抑制することが可能な半導体モジュールを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の半導体モジュールは、両面にグリースが塗布されたカード状の半導体装置が、内部に冷媒流路を有する一対の冷却部材の間に挿入された半導体モジュールであって、
前記半導体装置の前記グリースの塗布面に凹部が形成されたものである。
【0011】
本発明の第2の半導体モジュールは、両面にグリースが塗布されたカード状の半導体装置が、内部に冷媒流路を有する一対の冷却部材の間に挿入された半導体モジュールであって、
前記冷却部材の前記グリースの塗布面に凹部が形成されたものである。
【0012】
本発明の第2の半導体モジュールの好適な製造方法としては、
前記冷却部材の前記冷媒流路内に配置される熱交換用のフィンをケースに収容し、前記ケースの両外面に一対の弾性体を接触させた状態で、前記一対の弾性体の外部から加圧しながら加熱して、前記フィンと前記ケースとをロウ付けにより接合することにより、前記凹部を有する前記冷却部材を製造する方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、カード状の半導体装置を一対の冷却部材の間に挿入する際のグリース切れ、及びこれによる熱伝導率の悪化/半導体装置の冷却効率の低下を抑制することが可能な半導体モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る第1実施形態の半導体モジュールの全体斜視図である。
【図2A】本発明に係る第1実施形態の半導体モジュールの製造工程図である。
【図2B】本発明に係る第1実施形態の半導体モジュールの製造工程図である。
【図3A】本発明に係る第2実施形態の半導体モジュールの製造工程図である。
【図3B】本発明に係る第2実施形態の半導体モジュールの製造工程図である。
【図4A】本発明に係る第2実施形態の半導体モジュールのその他の製造工程図である。
【図4B】本発明に係る第2実施形態の半導体モジュールのその他の製造工程図である。
【図4C】本発明に係る第2実施形態の半導体モジュールのその他の製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
「第1実施形態」
図面を参照して、本発明に係る第1実施形態の半導体モジュールの構成について説明する。
図1は、本実施形態の半導体モジュールの全体斜視図である。図2A〜図2Bは本実施形態の半導体モジュールの製造工程図である。図2A〜図2Bは要部断面図であり、模式図である。
【0016】
図1及び図2Bに示すように、本実施形態の半導体モジュール1は、内部に冷却水等の冷媒が流れる冷媒流路を有する複数のヒートシンク等の板状の冷却部材20が間隔を置いて配置され、互いに隣接する一対の冷却部材20の間に、両面にグリース30が塗布されたパワーカード等のカード状の半導体装置10が挿入されたものである。
複数の冷却部材20は連結管を介して互いに連結されており、これら複数の冷却部材20には冷却水等の冷媒を導入する冷媒導入口41と冷媒が導出される冷媒導出口42とが接続されている。
半導体モジュール1には、複数の冷却部材20と、これらの間に挿入された複数の半導体装置10との積層構造を加圧する加圧バネ50が備えられている。
【0017】
図2Aに示すように、半導体装置10のグリース塗布面(半導体装置10の図示上下両面)に凹部11が形成されている。
本実施形態において、凹部11は、半導体装置10のグリース塗布面の全体に渡って複数形成されている。
図示例において凹部11は断面視楔型であり、その断面形状は任意である。
凹部11の形成方法は特に制限なく、例えば、複数の凹部11の反転パターンを有する加圧部材を用いたプレス加工等により形成できる。
【0018】
図2Aに示すように、半導体装置10の図示上下両面のグリース塗布面にグリース30を塗布すると、グリース塗布面に形成された複数の凹部11内にグリース30が入り込み、さらにその上にグリース30の層が形成される。
【0019】
「発明が解決しようとする課題」の項で説明したように、従来の半導体モジュールにおいては、熱損失低減のために、カード状の半導体装置と一対の冷却部材との間の隙間が小さく設計されており、カード状の半導体装置を一対の冷却部材の間に挿入する際に、半導体装置の一方のグリース塗布面と冷却部材とが擦れ合って、その間のグリースが削ぎ落とされ、その結果、熱伝導率が悪化して半導体装置の冷却効率が低下する場合がある。
【0020】
図2Bに示すように、本実施形態では、仮に、半導体装置10の一方のグリース塗布面(図示例では下面)と冷却部材20とが擦れ合って、その間のグリース30の層が削ぎ落とされたとしても、グリース30が削ぎ落とされたグリース塗布面に形成された複数の凹部11内に入り込んだグリース30は保持される。
本実施形態では、半導体装置10の図示上下両面のグリース塗布面の全体に渡って複数の凹部11が形成されているので、複数の凹部11に入り込んだグリース30のみで充分な熱伝導が得られる。
【0021】
さらに、互いに隣接する一対の冷却部材20の間に半導体装置10が挿入された後は、半導体装置10と冷却部材20との積層構造は、これらの密着性を高めるために、その全体が加圧バネ50によって外部から加圧される。したがって、凹部11内に入り込んだグリース30はこの加圧により凹部11内から半導体装置10と冷却部材20との間に押し出される。
【0022】
以上の作用効果により、本実施形態によれば、カード状の半導体装置10を互いに隣接する一対の冷却部材20の間に挿入する際のグリース切れ、及びこれによる熱伝導率の悪化/半導体装置10の冷却効率の低下を抑制することが可能な半導体モジュール1を提供することができる。
【0023】
「第2実施形態」
図面を参照して、本発明に係る第2実施形態の半導体モジュールの構成について説明する。
図3A〜図3Bは本実施形態の半導体モジュールの製造工程図である。図3A〜図3Bは要部断面図であり、模式図である。本実施形態の基本構成は第1実施形態と同様であり、同じ構成要素については、同じ参照符号を付してある。全体斜視図は第1実施形態と同様である。
【0024】
第1実施形態と同様、本実施形態の半導体モジュール2は、内部に冷却水等の冷媒が流れる冷媒流路を有するヒートシンク等の複数の冷却部材20が間隔を空けて配置され、互いに隣接する一対の冷却部材20の間に、両面にグリース30が塗布されたパワーカード等のカード状の半導体装置10が挿入されたものである(図1を参照)。
【0025】
本実施形態においては、図3Aに示すように、互いに隣接する一対の冷却部材20のそれぞれのグリース塗布面に凹部21が形成されている。
本実施形態において、凹部21は、冷却部材20のグリース塗布面の全体に渡って複数形成されている。
図示例において凹部21は断面視楔型であり、その断面形状は任意である。
凹部21の形成方法は特に制限なく、例えば、複数の凹部21の反転パターンを有する加圧部材を用いたプレス加工等により形成できる。
【0026】
図3Aに示すように、一対の冷却部材20のそれぞれのグリース塗布面にグリース30を塗布すると、グリース塗布面に形成された複数の凹部21内にグリース30が入り込み、さらにその上にグリース30の層が形成される。
【0027】
「発明が解決しようとする課題」の項で説明したように、従来の半導体モジュールにおいては、熱損失低減のために、カード状の半導体装置と一対の冷却部材との間の隙間が小さく設計されており、カード状の半導体装置を一対の冷却部材の間に挿入する際に、半導体装置の一方のグリース塗布面と冷却部材とが擦れ合って、その間のグリースが削ぎ落とされ、その結果、熱伝導率が悪化して半導体装置の冷却効率が低下する場合がある。
【0028】
図3Bに示すように、本実施形態では、仮に、半導体装置10の一方のグリース塗布面と冷却部材20とが擦れ合って、その間のグリース30の層が削ぎ落とされたとしても、グリース30が削ぎ落とされた冷却部材20のグリース塗布面に形成された複数の凹部21内に入り込んだグリース30は保持される。
本実施形態では、一対の冷却部材20のそれぞれのグリース塗布面の全体に渡って複数の凹部21が形成されているので、複数の凹部21に入り込んだグリース30のみで充分な熱伝導が得られる。
【0029】
さらに、互いに隣接する一対の冷却部材20の間に半導体装置10が挿入された後は、半導体装置10と冷却部材20との積層構造は、これらの密着性を高めるために、その全体が加圧バネ50(図1を参照)によって外部から加圧される。したがって、凹部21内に入り込んだグリース30はこの加圧により凹部21内から半導体装置10と冷却部材20との間に押し出される。
【0030】
以上の作用効果により、本実施形態によれば、カード状の半導体装置10を互いに隣接する一対の冷却部材20の間に挿入する際のグリース切れ、及びこれによる熱伝導率の悪化/半導体装置10の冷却効率の低下を抑制することが可能な半導体モジュール2を提供することができる。
【0031】
(その他の製造方法例)
上記の第2実施形態の半導体モジュール2を製造するにあたっては、プレス加工を用いずに、簡易に冷却部材20のグリース塗布面に凹部21を形成する方法がある。図面を参照して、この方法について説明する。
図4A〜図4Cは冷却部材の製造工程図である。図4A〜図4Cは要部断面図であり、模式図である。
【0032】
通常、ヒートシンク等の冷却部材20は、冷却部材20の冷媒流路内に配置され、冷媒と被冷却体である半導体装置10との熱交換を行うためのフィンをケースに収容し、ケースの外部から加圧しながら加熱して、フィンとケースをロウ付けにより接合することで、製造されている。ロウ付け時には、各部材は高温(例えば約600℃)に加熱され、この際にケースの剛性が低下する。このことを利用して、ロウ付け工程時に冷却部材20に凹部21を形成することができる。
【0033】
図4Aに示すように、冷却部材20の冷媒流路25内に配置される熱交換用のフィン22をケース23に収容し、ケース23の両外面に一対の弾性体24を接触させる。
弾性体24としては特に制限されず、外部からの加圧により変形可能なものであればよい。弾性体24としては、弾性ゴム等が挙げられる。
【0034】
次に、図4Bに示すように、図4Aに示した構造を、一対の弾性体24の外部から加圧しながら加熱して、フィン22とケース23とをロウ付けにより接合する。
この工程では、ケース23のフィン接触部23Xは外部から加圧されても変形しないが、フィン非接触部23Yは外部からの加圧により弾性体24と共に変形して、フィン22側に窪み、ケース23の外面(グリース塗布面)に凹部21が形成される。この作用効果により、図4Cに示すように、ケース23の外面(グリース塗布面)の全体に渡って、フィン形状に応じて複数の凹部21が形成される。上述のように、複数の凹部21は、ケース23の複数のフィン非接触部23Yに形成される。
【0035】
以上の方法によれば、フィン22とケース23とをロウ付けにより接合する工程において、同時に冷却部材20のグリース塗布面に複数の凹部21を簡易に形成することができる。この方法は、プレス加工等の追加のプロセスが不要であり、低コストな方法である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の半導体モジュールは、自動車等に搭載される、パワーカード等のカード状の半導体装置の両面にグリースを塗布し、これを一対のヒートシンク等の冷却部材の間に挿入した半導体モジュール等に好ましく適用できる。
【符号の説明】
【0037】
1、2 半導体モジュール
10 半導体装置
11 凹部
20 冷却部材
21 凹部
22 フィン
23 ケース
23X フィン接触部
23Y フィン非接触部
24 弾性体
25 冷媒流路
30 グリース
41 冷媒導入口
42 冷媒導出口
50 加圧バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両面にグリースが塗布されたカード状の半導体装置が、内部に冷媒流路を有する一対の冷却部材の間に挿入された半導体モジュールであって、
前記半導体装置の前記グリースの塗布面に凹部が形成された半導体モジュール。
【請求項2】
両面にグリースが塗布されたカード状の半導体装置が一対の冷却部材の間に挿入された半導体モジュールであって、
前記冷却部材の前記グリースの塗布面に凹部が形成された半導体モジュール。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体モジュールの製造方法であって、
前記冷却部材の前記冷媒流路内に配置される熱交換用のフィンをケースに収容し、前記ケースの両外面に一対の弾性体を接触させた状態で、前記一対の弾性体の外部から加圧しながら加熱して、前記フィンと前記ケースとをロウ付けにより接合することにより、前記凹部を有する前記冷却部材を製造する半導体モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【公開番号】特開2013−62375(P2013−62375A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199781(P2011−199781)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】