説明

半導体モジュール

【課題】熱変化に曝されたときに、半導体素子で発生する熱の伝熱経路に存在する部材間に印加される応力を緩和可能な半導体モジュールを提供すること。
【解決手段】半導体モジュール1は、絶縁基板20と冷却器10と接触部材34とを備えている。接触部材34は、絶縁基板20と冷却器10の間に設けられており、絶縁基板20と冷却器10の少なくともいずれか一方に対して点接触又は線接触していることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子が搭載される半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、サイリスタ、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、ダイオード等のパワーデバイスを含む半導体素子は、絶縁基板を介して冷却器に搭載して用いられることが多い。このような半導体素子と絶縁基板と冷却器で構成される半導体モジュールの一例が、特許文献1に開示されている。
【0003】
この種の半導体モジュールでは、搭載される半導体素子がON・OFFを繰返すことにより、半導体素子自体が高温の発熱体となる。半導体素子で発生した熱は、絶縁基板を介して冷却器に伝熱され、冷却器によって外部に放熱される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−294699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体素子と冷却器の間の伝熱経路には、目的に応じて様々な層が介在している。その一例が絶縁基板であり、半導体素子で制御される電流が冷却器に漏洩するのを防止するために設けられている。
【0006】
通常、絶縁基板と冷却器は、はんだ層を介して接合されることが多い。絶縁基板に用いられる材料と冷却器に用いられる材料は異なっており、異なる熱膨張率を有する。このため、絶縁基板と冷却器が熱の変化に曝されると、絶縁基板と冷却器の熱膨張量に相違が生じる。これにより、絶縁基板と冷却器の間のはんだ層には大きな応力が加わり、はんだ層の破損又は絶縁基板の変形といった事態が発生してしまう。いずれの場合も半導体モジュールの冷却特性が悪化することから、半導体モジュールの信頼性が低下してしまう。
【0007】
上記では、絶縁基板と冷却器の間の熱膨張差に起因する課題を説明したが、同様の課題は、半導体素子で発生する熱の伝熱経路に存在する様々な部材間で起こり得る。本明細書では、半導体素子で発生する熱の伝熱経路に存在する部材間に印加される応力を緩和する技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書で開示される技術は、半導体モジュールに具現化される。半導体モジュールは、第1部材と第2部材と接触部材を備えている。第1部材は、半導体素子で発生する熱の伝熱経路に設けられており、第1熱膨張率を有する。第2部材は、半導体素子で発生する熱の伝熱経路に設けられており、第1熱膨張率とは異なる第2熱膨張率を有する。接触部材は、第1部材と第2部材の間に設けられており、第1部材と第2部材の少なくともいずれか一方に対して点接触又は線接触している。この態様の半導体モジュールでは、第1部材と第2部材が異なる熱膨張率を有しており、熱変化に曝されたときに、第1部材と第2部材の熱膨張量に相違が生じる。本明細書で開示される半導体モジュールでは、第1部材と第2部材の間に接触部材が設けられており、その接触部材は第1部材と第2部材の少なくともいずれか一方に対して点接触又は線接触していることを特徴としている。例えば、接触部材が第1部材に対して点接触又は線接触している場合、第1部材は、接触部材に対して強固に拘束されないので、接触部材に対して面方向に摺動可能となっている。このため、第1部材と第2部材が熱変化に曝されて第1部材と第2部材の熱膨張量に相違が生じたとしても、第1部材が接触部材に対して摺動することにより、第1部材と第2部材の間の応力が緩和される。この結果、第1部材と第2部材が熱変化に曝されたとしても、第1部材と第2部材の間には過大な応力が加わることがないので、信頼性の高い半導体モジュールが得られる。
【0009】
本明細書で開示される半導体モジュールは、第1部材と第2部材の間に設けられている放熱グリスをさらに備えているのが望ましい。第2部材には、第1部材に対向する表面に溝が形成されている。接触部材と放熱グリスは、その溝内に設けられている。この態様の半導体モジュールでは、第1部材と第2部材の間の溝によって間隙が形成されており、その間隙に接触部材と放熱グリスが充填されている。この態様の半導体モジュールでは、接触部材による応力緩和と放熱グリスによる冷却特性の向上が両立されている。また、放熱グリスが冷却器の表面に形成された溝内に設けられているので、高温下であっても放熱グリスが冷却器の表面から漏出することが抑制されている。
【0010】
放熱グリスは、平面視したときに、半導体素子の少なくとも中央部を含む範囲に配置されているのが望ましい。半導体素子における面方向の温度分布は、中央部が最も高くなる。したがって、この中央部に対応して放熱グリスが設けられていると、高い冷却特性が得られる。
【0011】
接触部材は、球状の形態を有していてもよい。この接触部材は、第1部材と第2部材の双方に点接触している。この態様の接触部材が設けられていると、第1部材と第2部材は、その面方向内の任意の方向に相対変位することが許容される。したがって、この態様の接触部材によると、面方向内の任意の方向の熱膨張に対応することができる。
【0012】
本明細書で開示される半導体モジュールは、第2部材の表面のうちの第1部材に対向する表面に設けられている包囲壁をさらに備えているのが望ましい。この包囲壁は、平面視したときに、接触部材の周囲を一巡して接触部材と第2部材の面方向の相対変位を禁止する。この態様の半導体モジュールでは、接触部材が第2部材に対して所望の位置に位置決めされるので、接触部材を必要な位置に正確に配置することができる。
【発明の効果】
【0013】
本明細書で開示される半導体モジュールでは、半導体素子で発生する熱の伝熱経路に存在する部材間に印加される応力が緩和される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】半導体モジュールの構成を示す。
【図2】冷却器の分解平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書で開示される技術の特徴を整理しておく。
(第1特徴)接触部材は、第1部材と第2部材の少なくともいずれか一方に対して点接触又は線接触しており、第1部材と第2部材が熱変化に曝されたときに、第1部材と第2部材の面方向の相対変位を許容することができる。より詳細には、接触部材は、常温において垂直方向に対向する第1部材の第1部位と第2部材の第2部位に関し、熱変化に曝されたときに、それら第1部位と第2部位の面方向の相対変位を許容することができる。
(第2特徴)第1部材と第2部材の組合わせには、絶縁基板と冷却器、半導体素子と絶縁基板、半導体素子とリード電極板が含まれる。
(第3特徴)接触部材は、曲面を有しており、その曲面で第1部材と第2部材の少なくともいずれか一方に対して点接触又は線接触している。
(第4特徴)接触部材には、熱伝導率が高く、硬い材料を用いるのが望ましい。好ましくは、接触部材には金属を用いるのが望ましい。
(第5特徴)冷却器は、ヒートシンクとヒートスプレッダを組合わせた構造であってもよい。この場合、接触部材は、絶縁基板とヒートスプレッダの間に設けられてもよく、ヒートシンクとヒートスプレッダの間に設けられてもよい。
(第6特徴)半導体モジュールは、絶縁基板を冷却器に向けて加圧する加圧手段を備えているのが望ましい。このような加圧手段の一例としては、半導体素子の表面に設けられているリード電極板が挙げられる。リード電極板が半導体素子と絶縁基板を冷却器に向けて加圧することにより、半導体素子と絶縁基板がリード電極板と冷却器の間で挟持される。あるいは、加圧手段の他の一例としては、絶縁基板の端部に接触して設けられている部材でもよい。このような部材としては、絶縁基板の端部と冷却器の双方に接触する樹脂が挙げられる。
(第7特徴)半導体素子は、ワイドバンドギャップの材料で形成されたパワー半導体素子である。そのようなパワー半導体素子は、200℃以上の高温動作での使用が想定されていることから、伝熱経路の部材間の応力緩和が重要である。本明細書で開示される技術は、そのようなパワー半導体素子が搭載される半導体モジュールにおいて特に有用である。
【実施例】
【0016】
図1に、車載用の半導体ジュール1の構成を示す。半導体モジュール1は、直流電源と交流モータの間に接続されるインバータ回路に用いられる。半導体モジュール1は、冷却器10と絶縁基板20と半導体素子44とリード電極板48を備えている。
【0017】
冷却器10は、半導体素子44で発生した熱を放熱するために用いられている。冷却器10は、水冷式であり、冷却水が流動する複数の貫通孔を備えている。一例では、冷却器10の材料にアルミニウムが用いられており、その線膨張率は約23×10−6/Kである。
【0018】
絶縁基板20は、冷却器10と半導体素子44の間に設けられており、第1配線層22と絶縁層24と第2配線層26が積層した構造を備えている。第1配線層22が冷却器10側に配置されており、第2配線層26が半導体素子44側に配置されている。一例では、第1配線層22と第2配線層26の材料に銅が用いられている。絶縁層24の材料にはセラミックが用いられており、一例では窒化ケイ素(Si3N4)が用いられている。絶縁基板20では、第1配線層22と第2配線層26の厚みが絶縁層24の厚みに比して十分に小さいので、絶縁基板20の熱膨張率は絶縁層24の熱膨張率が支配的となる。この例では、絶縁基板20の線膨張率は絶縁層24の線膨張率としてもよく、約2.3×10−6/Kである。
【0019】
半導体素子44には、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)又はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)のパワーデバイスが用いられている。半導体材料には、ワイドバンドギャップの材料が用いられており、典型的には炭化ケイ素、窒化ガリウムが用いられている。半導体素子44と絶縁基板20は、Zn−Al系のはんだ層42を介して接合されている。
【0020】
リード電極板48は、はんだ層46を介して半導体素子42に接合されている。リード電極板48は、半導体素子44の表面の電極(例えば、ゲート電極及びエミッタ電極)に対して外部回路との間の電気的な接続を提供する。リード電極板48は、半導体素子44と絶縁基板20を冷却器10側に向けて加圧している。
【0021】
半導体モジュール1はさらに、包囲壁32と接触部材34と放熱グリス36を備えている。包囲壁32と接触部材34と放熱グリス36は、冷却器10の表面に形成されている溝10a内に設けられている。
【0022】
包囲壁32は、冷却器10の溝10aの底面から突出するように形成されている。一例では、包囲壁32は、冷却器10の表面を加工することによって形成することができ、冷却器10と一体である。包囲壁32は、平面視したときに(図2参照)、接触部材34の周囲を一巡するとともに、接触部材34に接触している。包囲壁32は、接触部材34と冷却器10が対向する方向(紙面上下方向)に対して垂直な方向(紙面左右方向であり、以下、面方向という)の相対変位を禁止しており、接触部材34を冷却器10に対して所望の位置に位置決めさせている。
【0023】
接触部材34は、直径が略10〜150μmの球状の形態を有しており、その材料にはニッケルが用いられている。接触部材34は、冷却器10の表面に点接触するとともに、絶縁基板20の表面にも点接触している。図2に示されるように、この例では、4つの接触部材34が冷却器10と絶縁基板20の間に配置されている。接触部材34はいずれも、平面視したときに、半導体素子44の存在範囲(図2に破線で示す)の周囲に配置されている。
【0024】
放熱グリス36は、冷却器10の表面の溝10a内を充填するように設けられている。放熱グリス36の材料には、シリコン系のマトリクスにセラミック系のフィラーが含有されている。
【0025】
半導体モジュール1はさらに、スポンジ状の樹脂部材52と金属板56を備えている。樹脂部材52は、冷却器10上に設けられており、平面視したときに、冷却器10の表面の溝10aの周囲を一巡している。樹脂部材52は、絶縁基板20の絶縁層24の端部に接合するとともに、絶縁基板20を冷却器10側に向けて加圧している。金属板56は、樹脂部材52で囲まれている空間54に蓋をするように、樹脂部材52に固定されている。
【0026】
次に、半導体モジュール1の特徴を説明する。この半導体モジュール1では、半導体素子44がON・OFFを繰返すことにより、半導体素子44から熱が発生する。半導体素子44で発生した熱は、絶縁基板20を介して冷却器10に伝熱され、冷却器10によって外部に放熱される。また、半導体素子44で発生した熱の一部は、リード電極板48を介して外部に放熱される。
【0027】
半導体モジュール1では、上記したように、冷却器10の線膨張率が約23×10−6/Kであり、絶縁基板20の線膨張率が約2.3×10−6/Kであり、絶縁基板20と冷却器10が異なる熱膨張率を有している。半導体素子44で発生した熱によって絶縁基板20と冷却器10が高温になると、冷却器10が絶縁基板20よりも大きく熱膨張する。半導体モジュールで1は、絶縁基板20と冷却器10の間に接触部材34が設けられており、その接触部材34は絶縁基板20と冷却器10の双方に点接触している。接触部材34と冷却器10の面方向の相対変位は包囲壁32によって禁止されているものの、接触部材34と絶縁基板20の面方向の相対変位は許容されている。
【0028】
絶縁基板20と冷却器10が高温になり、冷却器10が絶縁基板20に比して面方向に大きく熱膨張しても、絶縁基板20が接触部材34に対して摺動する。この結果、絶縁基板20と冷却器10が高温になったとしても、絶縁基板20と冷却器10の間には過大な応力が加わることがない。
【0029】
半導体モジュール1の他の特徴を整理する。
(1)接触部材34と放熱グリス36は、冷却器10の表面に形成されている溝10a内に設けられている。この態様によると、接触部材34による応力緩和と放熱グリス36による冷却特性の向上が両立されている。また、放熱グリス36が冷却器10の表面に形成された溝10a内に設けられているので、高温下であっても放熱グリス36が冷却器10の表面から漏出することが抑制されている。
(2)図2に示されるように、放熱グリス36は、平面視したときに、半導体素子44の少なくとも中央部を含む範囲に配置されている。半導体素子44における面方向の温度分布は、中央部が最も高くなる。したがって、この中央部に対応して放熱グリス36が設けられていると、高い冷却特性が得られる。
【0030】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0031】
10:冷却器
10a:溝
20:絶縁基板
32:包囲壁
34:接触部材
36:放熱グリス
44:半導体素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体モジュールであって、
半導体素子で発生する熱の伝熱経路に設けられており、第1熱膨張率を有する第1部材と、
前記半導体素子で発生する熱の伝熱経路に設けられており、前記第1熱膨張率とは異なる第2熱膨張率を有する第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材の間に設けられており、前記第1部材と前記第2部材の少なくともいずれか一方に対して点接触又は線接触している接触部材と、を備えている半導体モジュール。
【請求項2】
前記第1部材と前記第2部材の間に設けられている放熱グリスをさらに備えており、
前記第2部材には、前記第1部材に対向する表面に溝が形成されており、
前記接触部材と前記放熱グリスは、前記溝内に設けられている請求項1に記載の半導体モジュール。
【請求項3】
前記放熱グリスは、平面視したときに前記半導体素子の少なくとも中央部を含む範囲に配置されている請求項2に記載の半導体モジュール。
【請求項4】
前記接触部材は、球状の形態を有しており、前記第1部材と前記第2部材の双方に点接触している請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体モジュール。
【請求項5】
前記第2部材の表面のうちの前記第1部材に対向する表面に設けられている包囲壁をさらに備えており、
前記包囲壁は、平面視したときに前記接触部材の周囲を一巡しており、前記接触部材と前記第2部材の面方向の相対変位を禁止する請求項4に記載の半導体モジュール。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−227358(P2012−227358A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93721(P2011−93721)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】