説明

半導体レーザ光源

【課題】狭スペクトル線幅を有し、且つ、コンパクトな半導体レーザ光源を提供する。
【解決手段】光増幅作用を有する半導体光増幅媒体中に波長選択性を有する回折格子101を導入したDFBレーザ102と、このDFBレーザ102の外部に設けた波長選択性を有する外部共振器としてのリング共振器103とを備えて、DFBレーザ102の共振器長を延伸し、リング共振器103からの戻り光がDFBレーザ102へ負帰還する構成とする。ことによって、DFBレーザ102の共振器長延伸によるスペクトル線幅低減効果と、リング共振器103からDFBレーザ102への戻り光による負帰還効果とが同時に得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光通信分野や光計測分野などに用いられる狭スペクトル線幅の半導体レーザ光源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信システムの大容量化、長距離化に向けて、光の位相を用いたデジタルコヒーレント光通信システムの研究開発が盛んに行われている。本システムでは、光の位相揺らぎを小さくする必要があり、位相揺らぎが小さく、スペクトル線幅の狭い、狭スペクトル線幅光源が必要不可欠である。
【0003】
かかる狭線幅光源としては、従来、ファイバレーザ光源や外部共振器構成の半導体レーザ光源が用いられている。
【0004】
ファイバレーザ光源では、A. Suzukiらによる、IEEE Photonics Technology Letters, vol. 19, no. 19, pp. 1463-1465, 2007(非特許文献1)の報告にあるように、図6に示すような構成、偏波保持ファイバー03を用いた共振器をリング状に配置し、その一部に偏波保持型λ/4シフト回折格子を有するEr3+ドープファイバDFBレーザ01を配備し、1480nmの励起光源02により励起することで特定の波長を選択的に発振できる構成とし、そのリング状の共振器長を長くすることでスペクトル線幅の狭い光(出力光08)を発振することができる。なお、図6において02は励起用1480nm半導体レーザ、04は偏波保持WDMカプラ、05は偏波保持カプラ、06A,06Bは偏波保持光アイソレータ、07は光バンドパスフィルタである。
【0005】
外部共振器構成の半導体レーザ光源においては、光増幅媒体として半導体を用いており、外部共振器としては、J. O. Binderらによる、IEEE Journal of Quantum Electronics, vol. 26, no. 7, pp. 1191-1199, 1990(非特許文献2)の報告にあるように、図7に示すようなバルク回折格子ミラー10を外部鏡として用いたものや、F. N. Timofeevらによる、IEE Electronics Letters, vol. 35, no.20, pp. 1737-1739, 1999 (非特許文献3)の報告にあるように、図8に示すようなファイバブラッグ回折格子15を外部鏡として用いたものや、G. D. Maxwellらによる、IEE Electronics Letters, vol. 30, no. 18, pp. 1486-1487, 1994 (非特許文献4)の報告にあるように、図9に示すような導波路型回折格子19を外部鏡として用いたものが実現されている。なお、図7において11A,11B,11Cはレンズ、12は半導体利得媒体、13は光アイソレータ、14は光ファイバ、図8において16は半導体利得媒体、17は光アイソレータ、18は光ファイバ、図9において20A,20B,20Cはレンズ、21は半導体利得媒体、22は光アイソレータ、23は光ファイバである。
【0006】
更に、T. Matsumotoらによる、Technical Digest in Conference on Optical Fiber Communication (OFC), OThQ5, 2010(非特許文献5)の報告にあるように、図10のような半導体光増幅媒体24と、外部共振器としての窒素添加シリカ(SiON)をコアとする光導波路を用いた3段リングフィルタ25とを、Siプラットフォーム26上にハイブリッド集積したレーザ光源も実現されている。本構成では、半導体光増幅媒体24は波長選択機能を持たず、発振光の単一モード化のために複数段構成のリング共振器(3段リングフィルタ25)を用いる必要がある。なお、図10において27A,27Bはレンズ、28は光アイソレータ、29は光ファイバである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】IEEE Photonics Technology Letters, vol. 19, no. 19, pp. 1463-1465, 2007 “An Ultralow Noise and Narrow Linewidth λ/4-Shifted DFB Er-Doped Fiber Laser With a Ring Cavity Configuration” A. Suzuki. 他
【非特許文献2】IEEE Journal of Quantum Electronics, vol. 26, no. 7, pp. 1191-1199, 1990 “Intermodal Tuning Characteristics of an InGaAsP Laser with Optical Feedback from an External-Graing Reflector” J. O. Binder. 他
【非特許文献3】IEE Electronics Letters, vol. 35, no.20, pp. 1737-1739, 1999 “10Gbit/s directly modulated, high temperature-stability external fibre grating laser for dense WDM networks” F. N. Timofeev. 他
【非特許文献4】IEE Electronics Letters, vol. 30, no. 18, pp. 1486-1487, 1994 “Demonstration of a semiconductor external cavity laser using a UV written grating in a planar silica wavegude” G. D. Maxwell. 他
【非特許文献5】Technical Digest in Conference on Optical Fiber Communication (OFC), OThQ5, 2010 “Narrow Spectral Linewidth Full Band Tunable Laser Based on Waveguide Ring Resonators with Low Power Consumption” T. Matsumoto. 他
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述したレーザ光源は外部共振器の波長選択特性を用いてスペクトル線幅を低減しており、波長選択特性を向上するために大きな外部共振器を用いているため、大型の光源になっていた。このため、狭スペクトル線幅を有するコンパクトなレーザ光源の実現が必要となっていた。
【0009】
従って本発明は上記の事情に鑑み、狭スペクトル線幅を有し、且つ、コンパクトな半導体レーザ光源を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する第1発明の半導体レーザ光源は、光増幅作用を有する半導体光増幅媒体中に波長選択性を有する回折格子を導入した分布帰還型半導体レーザと、前記分布帰還型半導体レーザの外部に設けた波長選択性を有する外部共振器とを備えて、共振器長を延伸し、且つ、前記外部共振器からの戻り光が前記分布帰還型半導体レーザへ負帰還する構成としたことを特徴とする。
【0011】
また、第2発明の半導体レーザ光源は、第1発明の半導体レーザ光源において、
前記分布帰還型半導体レーザとして、共振器中央で位相がπだけ変化した回折格子を具備したλ/4シフト回折格子分布帰還型半導体レーザを用いたことを特徴とする。
【0012】
また、第3発明の半導体レーザ光源は、第1発明又は第2発明の半導体レーザ光源において、
前記外部共振器として、光導波路により構成されたリング共振器を用いたことを特徴とする。
【0013】
また、第4発明の半導体レーザ光源は、第3発明の半導体レーザ光源において、
前記リング共振器が、リング光導波路と、前記リング光導波路に隣接し、前記分布帰還型半導体レーザに結合している直線光導波路と、前記リング光導波路に隣接し、導波光を反射するための折り返し光導波路部を有する光導波路と、前記リング光導波路に形成された共振光周波数調整用のヒータとを備えた構成であることを特徴とする。
【0014】
また、第5発明の半導体レーザ光源は、第3発明の半導体レーザ光源において、
前記リング共振器が、リング光導波路と、前記リング光導波路に隣接し、前記分布帰還型半導体レーザに結合している第1の直線光導波路と、前記リング光導波路に隣接している第2の直線光導波路と、前記第2の直線光導波路の端に形成された高結合回折格子導波路と、前記リング光導波路に形成された共振光周波数調整用のヒータとを備えた構成であることを特徴とする。
【0015】
また、第6発明の半導体レーザ光源は、第1発明〜第5発明の何れか1つの半導体レーザ光源において、
前記分布帰還型半導体レーザと、前記外部共振器とがレンズにより結合していることを特徴とする。
【0016】
また、第7発明の半導体レーザ光源は、第1発明〜第5発明の何れか1つの半導体レーザ光源において、
前記外部共振器がシリコン基板上に形成され、この同一シリコン基板上に前記分布帰還型半導体レーザがハイブリッド集積されていることを特徴とする。
【0017】
また、第8発明の半導体レーザ光源は、第1発明〜第5発明の何れか1つの半導体レーザ光源において、
前記分布帰還型半導体レーザと前記外部共振器とが、同一のInP基板上にモノリシック集積されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の半導体レーザ光源によれば、光増幅作用を有する半導体光増幅媒体中に波長選択性を有する回折格子を導入した分布帰還型半導体レーザと、前記分布帰還型半導体レーザの外部に設けた波長選択性を有する外部共振器とを備えて、共振器長を延伸し、前記外部共振器からの戻り光が前記分布帰還型半導体レーザへ負帰還する構成としたことを特徴としているため、共振器長延伸(増大)によるスペクトル線幅低減効果と、外部共振器から分布帰還型半導体レーザへの戻り光による負帰還効果とが同時に得られる。このため、狭スペクトル線幅を有し、且つ、コンパクトな半導体レーザ光源を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施例に係る半導体レーザ光源の構造図である。
【図2】リング共振器の反射特性を示す図である。
【図3】光負帰還の原理図である。
【図4】本発明の第2の実施例に係る半導体レーザ光源の構造図である。
【図5】本発明の第3の実施例に係る半導体レーザ光源の構造図である。
【図6】従来のファイバレーザ光源の構成例を示す図である。
【図7】従来のバルク回折格子を用いた外部共振器レーザ光源の構成例を示す図である。
【図8】従来のファイバブラッグ回折格子を用いた外部共振器レーザ光源の構成例を示す図である。
【図9】従来の導波路型回折格子を用いた外部共振器レーザ光源の構成例を示す図である。
【図10】従来のリングフィルタを用いた外部共振器レーザ光源の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
<第1の実施例>
図1〜図3に基づき、本発明の第1の実施例に係る半導体レーザ光源について説明する。
【0022】
図1に示すように、本発明の第1の実施例に係る半導体レーザ光源100は、素子共振器の中央に位相シフト領域101aを有する(共振器中央で位相がπだけ変化した)λ/4シフト回折格子101を配した分布帰還型(Distributed FeedBack,DFB)レーザ102と、Si基板上に作製されたSiONをコアとする光導波路リング共振器103とを、レンズ104Aで結合した構成となっている。
【0023】
SiONコア光導波路リング共振器103は、リング光導波路105と、リング光導波路105に隣接し、DFBレーザ102にレンズ104Aで結合している直線光導波路106と、リング光導波路105に隣接し、導波光を反射するための折り返し光導波路部107aを有する光導波路107とから構成されている。直線光導波路106とリング光導波路105の隣接する部分106a,105aは、パワー結合比が1:1の方向性結合器を形成し、光学的に結合している。また、光導波路107とリング光導波路105の隣接する部分107b,105bは、パワー結合比が1:1の方向性結合器を形成し、光学的に結合している。
【0024】
SiONコア光導波路リング共振器103の両端面には、導波光の反射を防ぐために反射防止膜108A,108Bを形成した。また、リング光導波路105上には、SiONコア光導波路リング共振器103の共振光周波数を調整するためのヒータ109が形成した。λ/4シフト回折格子DFBレーザ102の共振器長は500μm、SiONコア光導波路リング共振器103の大きさは、横3mm×縦3mmであった。
【0025】
SiONコア光導波路リング共振器103の製造工程1〜6を、以下に記述する。
1.Si基板上にプラズマ化学気相成長法により、SiON/SiO2層を堆積する。
2.フォトリソグラフィーにより、光導波路構造を基板上に描画する。
3.反応性イオンエッチングにより、光導波路105,106,107を形成する。
4.薄膜電極をリング光導波路105上に蒸着し、共振光周波数調整用ヒータ109を形成する。
5.素子(リング共振器103)を切り出し、この素子の端面を光学研磨する。
6.この素子の端面に反射防止膜108A,108Bを蒸着する。
【0026】
なお、作製した半導体レーザ光源100の光出力は、DFBレーザ102側から順に配列したレンズ104B、光アイソレータ110、レンズ104C及び光ファイバ111を用いて取り出した。
【0027】
SiONコア光導波路リング共振器103の反射光強度の入力光周波数依存性を、図2に示す。この図2から、等間隔の光周波数で反射光強度が強くなることがわかる。リング光導波路105の長さをL、入力光の光周波数をfとすると、反射光強度が強くなる光周波数は、以下の(1)式の関係を満たす。
【数1】

ここに、mは正の整数、cは光速、nはリング光導波路105の有効屈折率を表す。
【0028】
λ/4シフト回折格子DFBレーザ102の発振光周波数を、(1)式を満たすように設定することで、SiONコア光導波路リング共振器103からの戻り光(反射光)がλ/4シフト回折格子DFBレーザ102へ帰還して、SiONコア光導波路リング共振器103が外部共振器動作を行うこととなり、共振器長延伸(増大)効果によりスペクトル線幅が低減される。
【0029】
更に、図3はSiONコア光導波路リング共振器103の1つの共振ピークを拡大した図であるが、この図3に示すようにλ/4シフト回折格子DFBレーザ102の発振光周波数を、共振周波数のピークよりわずかに低周波側に設定することで、λ/4シフト回折格子DFBレーザ102の発振光の光周波数揺らぎが、光強度揺らぎ(反射光量変動)に変換されて、λ/4シフト回折格子DFBレーザ103へ帰還される。λ/4シフト回折格子DFBレーザ102の発振光周波数が高周波数側へシフトした時を考えると、戻り光(反射光)強度が増加するので、λ/4シフト回折格子DFBレーザ102の共振器内のキャリア密度が低下し、発振光周波数は低周波数側へシフトする。つまり周波数ノイズを打ち消すように動作し、光負帰還動作を行うことがわかる。
【0030】
本原理を用いた半導体レーザ光源100で、リング共振器103の共振周波数をヒータ109により調整し、λ/4シフト回折格子DFBレーザ102の出力光周波数とリング共振特性との関係を図3に示すように調整することで、50kHz以下のスペクトル線幅が確認できた。
【0031】
以上説明したように、本第1の実施例の半導体レーザ光源100によれば、光増幅作用を有する半導体光増幅媒体中に波長選択性を有する回折格子101を導入したDFBレーザ102と、このDFBレーザ102の外部に設けた波長選択性を有する外部共振器としてのリング共振器103とを備えて、DFBレーザ102の共振器長を延伸し、リング共振器103からの戻り光がDFBレーザ102へ負帰還する構成としたことを特徴としているため、DFBレーザ102の共振器長延伸(増大)によるスペクトル線幅低減効果と、リング共振器103からDFBレーザ102への戻り光による負帰還効果(光負帰還動作)とが同時に得られる。このため、狭スペクトル線幅を有し、且つ、コンパクトな半導体レーザ光源100を実現することができた。
【0032】
<第2の実施例>
図4に基づき、本発明の第2の実施例に係る半導体レーザ光源について説明する。
【0033】
図4に示すように、本発明の第2の実施例に係る半導体レーザ光源120は、Siプラットフォーム121を有するSi基板上に作製されたSiONをコアとする光導波路リング共振器122を用い、そのSi基板のSiプラットフォーム121上に、素子共振器の中央に位相シフト領域を有する(共振器中央で位相がπだけ変化した)λ/4シフト回折格子を配した分布帰還型(Distributed FeedBack, DFB)レーザ123を実装することで、光導波路リング共振器122とDFBレーザ123とを同一のSi基板上にハイブリッド集積した構成の半導体レーザ光源を実現している。
【0034】
DFBレーザ123は上記第1の実施例(図1)のDFBレーザ101と同様の構成のものである。
また、リング光導波路121は上記第1の実施例(図1)のリング共振器103と同様の構成のものである。即ち、SiONコア光導波路リング共振器123は、リング光導波路124と、リング光導波路124に隣接し、DFBレーザ123に結合している直線光導波路125と、リング光導波路124に隣接し、導波光を反射するための折り返し光導波路部126aを有する光導波路126とから構成されている。直線光導波路125とリング光導波路124の隣接する部分125a,124aは、パワー結合比が1:1の方向性結合器を形成し、光学的に結合している。また、光導波路126とリング光導波路124の隣接する部分126b,124bは、パワー結合比が1:1の方向性結合器を形成し、光学的に結合している。SiONコア光導波路リング共振器122の両端面には、導波光の反射を防ぐために反射防止膜127A,127Bを形成した。また、リング光導波路124上には、SiONコア光導波路リング共振器122の共振光周波数を調整するためのヒータ128を形成した。
【0035】
リング共振器122は、上記第1の実施例で示したリング共振器103の製造工程と同様の製造工程で作製した。
但し、λ/4シフト回折格子DFBレーザ123をマウントするためのSiプラットフォーム121を形成するために、リング共振器122の光入力端から500μmの領域のSiON/SiO2膜を除去し、Si基板のSiを露出させた。リング共振器122の入力光導波路125は、λ/4シフト回折格子DFBレーザとの結合を容易にするように光結合部にスポットサイズ変換器125bを具備した構造となっている。スポットサイズ変換器125bは光導波路125の幅を徐々に減少していくことで伝搬光の閉じ込めを小さくし、λ/4シフト回折格子DFBレーザ123からの出力光を効率的に結合できるよう設計した。ここでは光導波路125のλ/4シフト回折格子DFBレーザ123との結合端から500μm離れた部分から前記結合端に向けて、光導波路125の幅を3μmから0μmへ徐々に減少することで、スポットサイズ変換器125bを作製した。これにより、パッシブアライメントでλ/4シフト回折格子DFBレーザ123とリング共振器122が容易に結合できる構成とした。
【0036】
λ/4シフト回折格子DFBレーザ123はパッシブアラインメント法を用いて実装した。リング共振器122の素子サイズは、横3.5mm×縦3mmであった。なお、作製した半導体レーザ光源120の光出力は、DFBレーザ123側から順に配列したレンズ129A、光アイソレータ130、レンズ129B及び光ファイバ131を用いて取り出した。
【0037】
本第2の実施例の半導体レーザ光源120は、上記第1の実施例の半導体レーザ光源100と同じ動作原理を用いている。本半導体レーザ光源120で、リング共振器122の共振周波数をヒータ128により調整し、λ/4シフト回折格子DFBレーザ123の出力光周波数とリング共振特性との関係を図3に示すように調整することで、25kHz以下のスペクトル線幅が確認できた。
【0038】
以上説明したように、本第2の実施例の半導体レーザ光源120によれば、光増幅作用を有する半導体光増幅媒体中に波長選択性を有する回折格子を導入したDFBレーザ123と、このDFBレーザ123の外部に設けた波長選択性を有する外部共振器としてのリング共振器122とを備えて、DFBレーザ123の共振器長を延伸し、リング共振器122からの戻り光がDFBレーザ123へ負帰還する構成としたことを特徴としているため、DFBレーザ123の共振器長延伸(増大)によるスペクトル線幅低減効果と、リング共振器122からDFBレーザ123への戻り光による負帰還効果(光負帰還動作)とが同時に得られる。このため、狭スペクトル線幅を有し、且つ、コンパクトな半導体レーザ光源120を実現することができた。
【0039】
<第3の実施例>
図5に基づき、本発明の第3の実施例に係る半導体レーザ光源について説明する。
【0040】
図5に示すように、本発明の第3の実施例に係る半導体レーザ光源140は、素子共振器の中央に位相シフト領域を有する(共振器中央で位相がπだけ変化した)λ/4シフト回折格子DFBレーザ141と、このλ/4シフト回折格子DFBレーザ141にバットジョイントされた第1の半導体直線光導波路142、半導体リング光導波路143、第2の半導体直線光導波路144、及び高結合回折格子導波路145を、同一のInP基板上にモノリシック集積した構造を有している。
【0041】
第1の半導体直線光導波路142と半導体リング光導波路143の隣接する部分142a,143aは、パワー結合比が1:1の方向性結合器を形成し、光学的に結合している。また、第1の半導体直線光導波路144と半導体リング光導波路143の隣接する部分144a,143bは、パワー結合比が1:1の方向性結合器を形成し、光学的に結合している。高結合回折格子導波路145は、半導体直線光導波路144の端に形成されている。つまり、第1の半導体直線光導波路142、半導体リング光導波路143、第2の半導体直線光導波路144及び高結合回折格子導波路145により、半導体リング共振器146が構成されている。即ち、本第3の実施例の半導体レーザ光源140は、同一のInP基板上に半導体リング共振器146とDFBレーザ141をモノリシック集積した構成のものである。
【0042】
半導体リング光導波路143上には、等価的な光の伝搬長を制御し、半導体リング共振器143の共振光周波数を調整するためのヒータ147が形成されている。半導体レーザ光源140の両端面には、導波光の反射を防ぐために反射防止膜148A,148Bを形成した。
【0043】
λ/4シフト回折格子DFBレーザ141の光出力は、DFBレーザ141にバットジョイントされた半導体直線光導波路146により伝搬し、半導体直線光導波路146に結合している半導体リング光導波路143へ入力される。このとき、半導体リング光導波路143で定在波の立つ光周波数を有する光のみが(1)式の条件を満たして周回し、半導体直線光導波路144へ結合して高結合回折格子導波路145へ導かれる。高結合回折格子145は、そのブラッグ波長をλ/4シフト回折格子DFBレーザ141のブラッグ波長と一致させており、結合係数を100cm-1としている。これにより、高結合回折格子導波路145は、λ/4シフト回折格子DFBレーザ141の発振波長に対して±2nmの波長領域で100%近い反射率を有する反射鏡として動作する。高結合回折格子導波路145へ到達した光は当該領域で反射され、再び半導体直線光導波路144、半導体リング光導波路143、半導体直線光導波路142を経由して、λ/4シフト回折格子DFBレーザ141へ帰還される。
【0044】
半導体レーザ光源140の製造工程1〜15を、以下に記述する。
1.n-InP基板上にn-InPバッファー層及びn-InPクラッド層を、有機金属化学気相蒸着法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition, MOCVD)を用いて成長させる。
2.次に、1.2μm組成InGaAsP分離閉込(Separate Confinement Heterostructure, SCH)層(厚さ5nm)を成長させ、その上に1.3μm組成のInGaAsP障壁層(厚さ10nm)及びInGaAs井戸層(厚さ5nm)を順次成長させる。障壁層は7層、井戸層は6層とした。
3.更に、1.2μm組成InGaAsP SCH層(厚さ5nm)、1.1μm組成p-InGaAsP回折格子形成層(厚さ100nm)、p-InPクラッド層(厚さ20nm)を成長する。上記工程2及び本工程3でλ/4シフト回折格子DFBレーザ101部の活性層を形成する。
4.n-InP基板を成長装置から取り出し、電子ビーム描画装置でλ/4シフト回折格子DFBレーザ部141の500μmの範囲に周期197nmで、中央に回折格子位相をπだけ変化させたλ/4シフト回折格子のパターンを描画し、ドライエッチングにより回折格子を形成する。
5.再度、結晶成長装置へn-InP基板を戻し、p-InPクラッド層(厚さ500nm)、1.3μm組成p-InGaAsPコンタクト層(厚さ50nm)を、順次成長する。
【0045】
6.λ/4シフト回折格子DFBレーザ141部をSiO2膜でカバーし、それ以外の領域の1.2μm組成下部InGaAsP SCH層までの結晶をエッチングで除去する。
7.再度、結晶成長装置へn-InP基板を戻し、結晶を除去した部分へ、1.2μm組成InGaAsP SCH層(厚さ5nm)、1.3mm組成InGaAsP光導波層(厚さ100nm)、1.2μm組成InGaAsP SCH層(厚さ5nm)、1.1μm組成p-InGaAsP層(厚さ100nm)、p-InPクラッド層(厚さ20nm)を、順次バットジョイント成長させる。
8.n-InP基板を結晶成長装置から取り出し、高結合回折格子導波路145以外の領域をSiO2膜でカバーし、当該領域に周期197nmで深さ50nmの回折格子を形成する。
9.SiO2膜を除去して、再度、結晶成長装置へn-InP基板を戻し、p-InPクラッド層(厚さ500nm)、1.3μm組成p-InGaAsPコンタクト層(厚さ50nm)を、順次成長する。
10.λ/4シフト回折格子DFBレーザ141、半導体光導波路142,143,144、及び高結合回折格子導波路145の素子ストライプ構造を電子ビーム描画装置で描画し、ドライエッチングによりメサストライプを形成する。
【0046】
11.λ/4シフト回折格子DFBレーザ141のエッチングにより除去した領域に、電流狭窄用埋込層として、半絶縁(Semi-insulating, SI)InPを成長し、埋め込み構造を有する素子を形成する。
12.λ/4シフト回折格子DFBレーザ141と半導体直線光導波路142の間のバットジョイント部分に素子分離溝を形成することで素子分離を行う。
13.λ/4シフト回折格子DFBレーザ141部に電流注入用p-電極を形成し、半導体リング光導波路143上に共振光周波数調整用ヒータ147を形成する。
14.n-InP基板側に素子のn-電極を形成する。
15.チップ(素子)を劈開により取り出し、この素子の両端面に反射防止膜148A,148Bを形成する。
【0047】
なお、作製した半導体レーザ光源140の光出力は、DFBレーザ101側から順に配列したレンズ149A、光アイソレータ150,レンズ149B及び光ファイバ151を用いて取り出した。
【0048】
本第3の実施例の半導体レーザ光源140は、上記第1の実施例の半導体レーザ光源100と同じ動作原理を用いている。本半導体レーザ光源140で、半導体直線光導波路142、半導体リング光導波路143、半導体直線光導波路144及び高結合回折格子導波路145により構成された半導体リング共振器146の共振周波数をヒータ147により調整し、λ/4シフト回折格子DFBレーザ141の出力光周波数とリング共振特性との関係を図3に示すように調整することで、25kHz以下のスペクトル線幅が確認できた。
【0049】
以上説明したように、本第3の実施例の半導体レーザ光源140によれば、光増幅作用を有する半導体光増幅媒体中に波長選択性を有する回折格子を導入したDFBレーザ141と、このDFBレーザ141の外部に設けた波長選択性を有する外部共振器としてのリング共振器146とを備えて、DFBレーザ141の共振器長を延伸し、リング共振器146からの戻り光がDFBレーザ141へ負帰還する構成としたことを特徴としているため、DFBレーザ146の共振器長延伸(増大)によるスペクトル線幅低減効果と、リング共振器146からDFBレーザ141への戻り光による負帰還効果(光負帰還動作)とが同時に得られる。このため、狭スペクトル線幅を有し、且つ、コンパクトな半導体レーザ光源140を実現することができた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は光通信分野や光計測分野などに用いられる狭スペクトル線幅の半導体レーザ光源に関するものであり、狭スペクトル線幅を有し、且つ、コンパクトな半導体レーザ光源を実現する場合に適用して有用なものである。
【符号の説明】
【0051】
100 半導体レーザ光源
101 λ/4シフト回折格子
101a 位相シフト領域
102 λ/4シフト回折格子DFBレーザ
103 SiONコア光導波路リング共振器
104A,104B,104C レンズ
105 リング光導波路
105a リング光導波路の直線光導波路に隣接する部分
105b リング光導波路の折り返し光導波路部を有する光導波路に隣接する部分
106 直線光導波路
106a 直線光導波路のリング光導波路に隣接する部分
107 折り返し光導波路部を有する光導波路
107a 折り返し光導波路部
107b 折り返し光導波路部を有する光導波路のリング光導波路に隣接する部分
108A,108B 反射防止膜
109 共振光周波数調整用ヒータ
110 光アイソレータ
111 光ファイバ
120 ハイブリッド集積型の半導体レーザ光源
121 Siプラットフォーム
122 SiONコア光導波路リング共振器
123 λ/4シフト回折格子DFBレーザ
124 リング光導波路
124a リング光導波路の直線光導波路に隣接する部分
124b リング光導波路の折り返し光導波路部を有する光導波路に隣接する部分
125 直線光導波路
125a 直線光導波路のリング光導波路に隣接する部分
125b スポットサイズ変換器
126 折り返し光導波路部を有する光導波路
126a 折り返し光導波路部
126b 折り返し光導波路部を有する光導波路のリング光導波路に隣接する部分
127A,127B 反射防止膜
128 共振光周波数調整用ヒータ
129A,129B レンズ
130 光アイソレータ
131 光ファイバ
140 モノリシック集積型の半導体レーザ光源
141 λ/4シフト回折格子DFBレーザ
142 第1の半導体直線光導波路
142a 第1の半導体直線光導波路の半導体リング光導波路に隣接する部分
143 半導体リング光導波路
143a 半導体リング光導波路の第1の半導体直線光導波路に隣接する部分
143b 半導体リング光導波路の第2の半導体直線光導波路に隣接する部分
144 第2の半導体直線光導波路
144a 第2の半導体直線光導波路の半導体リング光導波路に隣接する部分
145 高結合回折格子導波路
146 半導体リング共振器
147 共振光周波数調整用ヒータ
148A,148B 反射防止膜
149A,149B レンズ
150 光アイソレータ
151 光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光増幅作用を有する半導体光増幅媒体中に波長選択性を有する回折格子を導入した分布帰還型半導体レーザと、前記分布帰還型半導体レーザの外部に設けた波長選択性を有する外部共振器とを備えて、共振器長を延伸し、且つ、前記外部共振器からの戻り光が前記分布帰還型半導体レーザへ負帰還する構成としたことを特徴とする半導体レーザ光源。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体レーザ光源において、
前記分布帰還型半導体レーザとして、共振器中央で位相がπだけ変化した回折格子を具備したλ/4シフト回折格子分布帰還型半導体レーザを用いたことを特徴とする半導体レーザ光源。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体レーザ光源において、
前記外部共振器として、光導波路により構成されたリング共振器を用いたことを特徴とする半導体レーザ光源。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体レーザ光源において、
前記リング共振器が、リング光導波路と、前記リング光導波路に隣接し、前記分布帰還型半導体レーザに結合している直線光導波路と、前記リング光導波路に隣接し、導波光を反射するための折り返し光導波路部を有する光導波路と、前記リング光導波路に形成された共振光周波数調整用のヒータとを備えた構成であることを特徴とする半導体レーザ光源。
【請求項5】
請求項3に記載の半導体レーザ光源において、
前記リング共振器が、リング光導波路と、前記リング光導波路に隣接し、前記分布帰還型半導体レーザに結合している第1の直線光導波路と、前記リング光導波路に隣接している第2の直線光導波路と、前記第2の直線光導波路の端に形成された高結合回折格子導波路と、前記リング光導波路に形成された共振光周波数調整用のヒータとを備えた構成であることを特徴とする半導体レーザ光源。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の半導体レーザ光源において、
前記分布帰還型半導体レーザと、前記外部共振器とがレンズにより結合していることを特徴とする半導体レーザ光源。
【請求項7】
請求項1〜5の何れか1項に記載の半導体レーザ光源において、
前記外部共振器がシリコン基板上に形成され、この同一シリコン基板上に前記分布帰還型半導体レーザがハイブリッド集積されていることを特徴とする半導体レーザ光源。
【請求項8】
請求項1〜5の何れか1項に記載の半導体レーザ光源において、
前記分布帰還型半導体レーザと前記外部共振器とが、同一のInP基板上にモノリシック集積されていることを特徴とする半導体レーザ光源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−256667(P2012−256667A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127990(P2011−127990)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】