説明

半導体内不純物および欠陥の電子状態測定方法

【課題】本発明は、負、ゼロ、あるいは非常に小さい正の電子親和力表面からの光電子放出現象を利用した従来にない新しい原理に、半導体内の不純物や欠陥の電子状態の高感度非破壊測定を簡便に行うことが出来る手法を提供する。
【解決手段】不純物若しくは欠陥を含む半導体を用い、照射光によって前記半導体の不純物若しくは欠陥の準位から伝導帯へ励起された光電子のうち、当該半導体の厚み方向に拡散し、あらかじめ電子親和力を負、ゼロ、あるいは当該半導体の結晶運動量相当のエネルギーに対応する小さな正の電子親和力状態にせしめた当該半導体の表面から外部光電子放出させ、光電子検出器によって光電子数を計数し、同時に照射光エネルギーを計測し、当該照射光エネルギーに対する光電子放出率を計測することにより、不純物若しくは欠陥を含む半導体内の電子状態測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明で扱う半導体内の不純物および欠陥の電子状態測定は、半導体材料自体の評価のみならず、半導体を利用したすべての電子デバイス、光デバイスにとって重要な情報を与える。
現在様々な半導体内不純物および欠陥の電子状態測定方法が存在するが、本発明による測定方法は、従来技術では測定不可能な微量な不純物および欠陥を高感度で検出する為の簡便で非破壊な測定方法を実現でき、新たな産業分野への利用・展開が期待される。

【背景技術】
【0002】
半導体内の不純物および欠陥のうち、特にバンドギャップ内に準位を持つものは、その半導体材料の電気的・光学的特性に重要な影響を与える為、半導体内の不純物および欠陥の電子状態に関する測定は、デバイス設計上極めて重要な情報を与える。シリコンやガリウム砒素などについては、応用上影響の大きな不純物および欠陥の電子状態(準位)に関する測定技術が数多く開発され、それによって材料作製技術の高度化のみならず、材料処理技術の高度化、デバイス設計技術の高度化が並行して進み、今日の高度電子情報化社会の基盤技術へと結びついている。
現在、社会全体はデバイスにとって厳しい環境下での、さらなる大電力・高密度情報処理技術を要求している。そこでは、バンドギャップがシリコンやガリウム砒素よりも大きな半導体材料が持つ、耐環境性、耐絶縁性、高いキャリア移動度に根ざした信頼性の高い特性が応用上期待されている。それらに対応するワイドバンドギャップ半導体として、炭化シリコン、窒化ガリウム、酸化ジリコニウムなどが盛んに研究されているが、その先の次世代半導体材料として、さらにワイドバンドギャップでかつ単元素からなるダイヤモンドが研究されている。さらにダイヤモンドの化合物系材料として、窒化アルミニウム、窒化ボロンなどが同様に研究されている。
材料的観点から、これらの次世代半導体材料は、電子親和力の小さな材料が多い。さらにある表面状態では、電子親和力が負になる場合が報告されており、特に電子放出デバイスへの応用が有望であり、酸化ジルコニウムなどの酸化物や窒化ボロンや窒化アルミニウムなどの窒化物、ダイヤモンドやダイヤモンド状炭素などの炭素系材料の探索や開発がおこなわれている。しかし、これら新材料に対し、バンドギャップ中の不純物準位および欠陥準位に関する研究はシリコン等に比べまだ途上段階にある。特に、単元素からなるダイヤモンドは、その結晶完全性が化合物系材料に比べて格段に優れたものが報告されているが、高純度単結晶内に存在する微量な不純物および欠陥、特にボロンの汚染を測定する評価技術は、従来のシリコン等で開発されてきた技術のみでは、ワイドバンドギャップ半導体であるがための困難さが顕在化してきており、新しい技術が求められ始めている。(非特許文献1、2)

【0003】
ダイヤモンドは5.5eVのバンドギャップを持つ半導体であり、ボロンは正孔を供給するアクセプターとして、価電子帯頂上から上のギャップ中0.37eVにアクセプター準位を作ることが報告されている。このボロンを高感度で非破壊に検出できる簡便な測定技術が求められている(非特許文献3〜5)。一方、水素終端したダイヤモンドは負の電子親和力表面を持つことが報告されている。このような表面を利用することで、従来の半導体材料に比べて異なった特異な電子放出が観測されることが報告されている(非特許文献6、7参照)。これまでに、負の電子親和力の特徴を理解し、電子放出素子へ応用を求めた技術は多数報告例がある(特許文献1〜5)が、それを積極的に測定技術に応用した報告例は無かった。
【特許文献1】登録2798696号
【特許文献2】特願2003-584639号公報
【特許文献3】特開2002-298777号公報
【特許文献4】特開平09-161655号公報
【特許文献5】特開平07-130981号公報
【非特許文献1】P. Hartmann et al., International Journal of Refractory Metals &Hard Materials 16 (1998) 223.
【非特許文献2】R. Kravets et al., Diamond and Related Materials 13 (2004) 1785.
【非特許文献3】R. Kalish et al., Applied Physics Letter 76 (2000) 757.
【非特許文献4】H. Kato et al., physica status solidi (a) 202 (2005) 2122.
【非特許文献5】D. Takeuchi et al., physica status solidi (a) 186 (2001) 269.
【非特許文献6】F. J. Himpsel et al., Physical Review B 20 (1979) 624.
【非特許文献7】J. B. Cui et al, Physical Review B 60 (1999) 16135.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来方法では、測定感度が不十分であったり、空間分解能を得ることが原理的に出来なかったり、高感度であるが定量評価が行えなかったり、破壊検査であったり、絶縁物(高抵抗状態)が測定できなかったり、測定のために電極付けなどの前処理が必要であったりして、高純度高抵抗ワイドバンドギャップ半導体内の微量(1015cm-3以下)の非破壊測定が簡便に行えなかった。
本発明は、これまでの知見とは全く異なる方法で、負の、あるいは非常に小さい電子親和力を積極的に利用し、高純度ワイドバンドギャップ半導体内の不純物および欠陥の電子を光励起によって効率よく検出することにより、従来技術では検出できなかった微量(1015cm-3以下)の非破壊測定を、電極付けなどの前処理無しで簡便に可能とする。実際に、負の電子親和力表面からの電子放出をこのように積極的に応用した不純物および欠陥の電子状態の評価技術はこれまで例がない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らはこれらの課題に対して鋭意検討を行い、これまで誰も注目していなかった不純物や欠陥の電子が負の電子親和力表面から電子放出する原理を用いることを発案するに至った。
具体的には、ダイヤモンドの負の電子親和力状態を利用した光電子放出率測定を、ダイヤモンドのバンドギャップエネルギーよりわずかに小さい5〜5.3eVの範囲で、測定温度を室温より上にして測定し、高純度高抵抗ダイヤモンド薄膜中の1015cm-3台のボロンを、電極付けなどの前処理なしで簡便に測定できることを明らかにした。

【0006】
すなわち、本発明は、不純物若しくは欠陥を含む半導体を用い、照射光によって前記半導体の不純物若しくは欠陥の準位から伝導帯へ励起された光電子のうち、当該半導体の厚み方向に拡散し、あらかじめ電子親和力を負、ゼロ、あるいは当該半導体の結晶運動量相当のエネルギーに対応する小さな正の電子親和力状態にせしめた当該半導体の表面から外部光電子放出させ、光電子検出器によって光電子数を計数し、同時に照射光エネルギーを計測し、当該照射光エネルギーに対する光電子放出率を計測することにより、不純物若しくは欠陥を含む半導体内の電子状態測定方法である。
また、本発明においては、照射光を、当該半導体のバンドギャップエネルギーより小さいエネルギーの範囲で、単色化して照射し、光電子放出率スペクトルを光電子放出率として計測することができる。
さらに、本発明は、前記半導体表面に電子放出の妨げとならない薄巻状若しくはメッシュ状の構造を持った電極を有し、表面の他の部位、側面あるいは試料背面にバイアス電圧を与える作用電極を持たせた構造とし、当該半導体内部に光電子を電界によって加速し、ホットエレクトロンとすることができる。
また本発明は、室温あるいは室温より高い測定温度を用いることができる。
さらに本発明は、前記半導体として、ダイヤモンド、窒化ボロン、窒化アルミニウムから選ばれる1種を用いることができる。
またさらに本発明は、前記半導体として、膜厚が200ナノメートル以上とすることができる。

【発明の効果】
【0007】
本発明の半導体内不純物および欠陥の電子状態測定方法は、従来のシリコン等で開発されてきた技術のみでは、高純度ワイドバンドギャップ半導体であるがために顕在化してきた技術的課題を、新しい測定原理を用いることで解決できることを明らかにしている。
原理的に直接、対象となるバンドギャップ中の不純物および欠陥準位を検出するため、簡便であり、非破壊に従来技術で検出不可能な範囲をカバーできる。今後のワイドバンドギャップ半導体の評価技術として応用され、幅広く展開され得る基本的要素からなる方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、高純度ワイドバンドギャップ半導体内の不純物や欠陥準位を占める電子が光励起によって負の電子親和力表面から電子放出する原理を用いる高感度・非破壊かつ簡便な不純物・欠陥準位測定方法である。
また本発明は、微弱な励起光強度および光電子強度を扱うことができるので、絶縁物でも問題なく測定可能である。具体的には、換算電流値として最大0.1pA台である。
また本発明では、測定対象に負の電子親和力を示すダイヤモンドを用いることができる。
さらに本発明では、測定温度を測定対象に応じて任意に変えることができる。
さらに本発明では、ダイヤモンド中のボロンを高感度で検出する際ために、測定温度を400から600Kにして測定することができる。
さらに本発明では、ダイヤモンド中の補償されたボロンも含めて測定でき、高感度に測定しやすい測定原理を有している。
また本発明では、厚さ1ミクロン以上のダイヤモンド薄膜を用いることができる。
またさらに本発明では、 ダイヤモンド膜が(111)、(100),(110)面の結晶構造の単結晶やエピタキシャル膜,若しくは多結晶膜とすることができる。
【0009】
さらに本発明では、表面の一部が水素終端構造のダイヤモンドである。
本発明では、標準試料の測定結果と比較することにより、定量測定の精度を用意に確保することができる。
また本発明は、ダイヤモンド膜を10-8Torr以下の真空中、850〜1100Kの熱処理、より好ましくは900〜1050Kの熱処理により、ダイヤモンド表面の水(電解液)・炭化水素系吸着物を脱理させ清浄水素終端表面を得る処理後のダイヤモンド表面を用いることができる。
また本発明では、光電子強度測定に、電子増倍管(チャンネルトロンまたはマルチチャンネルプレート)を用いた電子計数法または試料台に流れる電流を直接あるいは増幅して測定する方法のいずれも用いることができる。
また本発明では、光強度測定に、光電子増倍管あるいはパイロ検出器、フォトダイオード、CCDのいずれも用いることができる。さらに本発明では、測定光学系を固定することにより、試料温度制御時の輻射光の影響が生じるときでも、試料温度制御停止字の光スペクトルを参照することで、容易に光電子放出率あるいは光電子放出率スペクトルを得ることができる。
【0010】
本発明において、試料表面が負の電子親和力状態を有し、かつ光電子放出を阻害するような表面汚染や表面損傷がない状態とすることが望ましい。励起する光は、対象試料のバンドギャップより小さいエネルギー範囲を走査できることが望ましい。分光器は、迷光を極力下げるため、二段以上が望ましい。スリット幅は、分解能によって選別すべきであるが、ワイドバンドギャップ半導体で使用されるべき紫外光にて50meV以上の分解能を有していることが望ましい。有限の温度であれば、不純物や欠陥の電子状態はフェルミ統計に従った占有確率を持つが、占有率を上げて検出効率を上げるために温度が高く設定できることが望ましい。あるいは、温度を変化させて占有率の変化を確認できることが望ましい。光電子計数は感度の問題から、超高真空で行われることが望ましい。
本発明で用いるダイヤモンドは、高温高圧法およびCVD法によって合成されたものであるが、いずれもマイクロ波プラズマCVD装置にてダイヤモンド表面は水素終端され、本発明で用いる10-9Torr以下の超高真空装置内にて、1000Kで水素終端を壊さずに表面吸着物を脱理させることにより、清浄水素終端表面、つまり清浄負性電子親和力表面を形成できる。励起光源にはキセノンランプを使用し、水フィルターによって赤外光を除去した後、ダブルモノクロメータにて分光し、フッ化マグネシウムビームスプリッターにて、光強度測定用光電子増倍管、および超高真空装置内の試料表面に集光して照射される。光学系はすべて真空紫外まで適用可能なものを用いている。試料から出る光電子は測定用電子増倍管からの信号をコンデンサを通じて取り出し、DC〜300MHz帯域幅を持つ高速プリアンプで増幅後、カウンターに導入して電子計数する。光電子増倍管および電子増倍管の信号は最終的にパーソナルコンピュータに取り込まれ、プログラムによって各波長に対する光電子強度が光強度で規格化され、自動計測・処理される。
【0011】
本発明で用いる負の電子親和力を利用した光電子放出率測定では、光励起によって伝導帯底を電子が表面まで輸送されることが感度を決める上で重要な過程である。そのため、微量な不純物や欠陥の電子状態を高感度で検出する際には、電子の拡散長を決める電子の散乱機構が少ないことが望ましい。ただし、測定対象の不純物や欠陥濃度が著しく高い場合、電子の拡散長が短くなるのに対し、測定対象濃度は増大しているので、その積が測定感度にかかる範囲であれば、検出可能である。
【0012】
電子親和力が負でなくても、運動量保存則によって小さな正の電子親和力であれば、表面より深い内部からの電子放出が可能であるため、上記の条件を満たす正の電子親和力を持った試料に対しても、本発明の方法が適用できる。
【実施例1】
【0013】
試料としては、高温高圧合成ダイヤモンド(001)単結晶を用いた。ダイヤモンド膜は,マイクロ波プラズマCVD装置によって表面を水素終端処理され、超高真空装置に導入された。内部のヒーターによって、一旦700℃、1時間処理され、水素終端表面上の吸着物や、水素終端表面伝導層を除去し、清浄水素終端負性電子親和力表面を用意した。
この試料を、本発明に用いる同じ超高真空装置内にある光電子放出率測定の位置に搬送した。装置の概要を図1に示す。また、本発明の測定原理を示すエネルギーバンド構造の概略図を図2に示す。図2の光励起過程Iを利用することにより、バンドギャップ中の不純物または欠陥の占有準位を、負性電子親和力(NEA)表面からの電子放出過程を経て検出することにより、直接測定できる。
図3に測定結果を示す。励起光エネルギーは5〜5.6eVである。測定温度を302Kから約50K刻みで550Kまで測定した場合の各光電子放出率スペクトルが示されている。図中、Egがダイヤモンドのバンドギャップに相当する光エネルギー位置、Egxがダイヤモンド中のバンドギャップ構造に由来する自由励起子の基底状態に相当する光エネルギー位置、そこから横光学フォノン分だけ低エネルギー側にあるaで示されている点線が、ダイヤモンドの302Kにおける低エネルギー側の主要な基礎吸収端を示し、それが測定温度550Kでa’へと、低エネルギー側に移動している様子がよく現れている。このaからa’への変化はダイヤモンドのバンドギャップの温度依存性に対応している。そして、そのa,a’よりもさらに低いエネルギー位置bから、今回の測定でダイヤモンド中のイオン化したボロンからの光電子放出率スペクトルが検出できていることがわかる。このスペクトルの強度の温度依存性、および光励起エネルギー閾値、等からボロンであることが決定される。
本試料は、高純度真性ダイヤモンド半導体として分類されるIIa形と呼ばれるものであったのだが、本発明手法によりボロンが検出された。実際に従来技術であるカソードルミネッセンス法を用いて、本試料中のボロン混入を検出することを試みた。その結果が図4である。25Kの低温にて、ダイヤモンド中にボロンが存在していることを示す束縛励起子からの発光(BETO)が観測された。自由励起子からの発光(FETO)との発光強度比から、見積もられるボロン量は1016cm-3台であることから、この程度の微量のボロンが本発明によって検出できたことがわかった。標準試料と比較することで、最終的に定量性の精度を確保することが可能である。一方、確認に用いた従来技術であるカソードルミネッセンス法では、チャージアップ、電子ビーム照射による測定中の炭素系吸着物の堆積等の問題があるため、定量的評価は不可能である。

【実施例2】
【0014】
高純度アンドープCVDホモエピタキシャルダイヤモンド薄膜(001)を試料として用いた。
実施例1の精密な清浄化は行わずに、光電子放出率測定系の位置に搬送して、本発明測定方法を用いた。具体的には、測定温度573Kにて、励起光エネルギー5〜5.3eVで測定を行った。実施例1の結果(黒四角)と合わせて結果(白丸)を図5に示す。明らかにボロンに由来する電子放出率スペクトルが確認できた。一方、その強度は実施例1の場合に比べて一桁程度小さいと見積もられた。この試料について、実施例1と同様にカソードルミネッセンス法による確認測定を行ったが、実施例1と同様に低温で測定した場合、ボロンに対応する束縛励起子からの発光は観測されず、自由励起子からの発光のみであった。
以上のことから、本発明により、従来最も感度の高いとされていたカソードルミネッセンス法で通常ボロンの測定限界と考えられている1016cm-3台を超える、1015cm-3台の検出に成功したことが明らかになった。

【0015】
これらの実施例に対して、下記比較例に示すように、従来のダイヤモンド中のボロン検出技術に比べ、著しく高い感度、定量性と簡便性を実現できた。
比較例1:
従来技術「SIMS」では、不純物の深さ分布を定量的に感度よく示すことが可能であるが、原理的に試料をスパッタしていくため、非破壊検査とはならない。また、電子状態とは無関係に検出するため、ドナー・アクセプターとして活性化しているかどうかは単独ではわからない。スパッタにイオンを用いるため、絶縁物に対しては基本的に適用できない。厳密には可能な場合もあるが、試料に帯電防止の為の様々な加工を必要とする。一般に測定後にその試料をデバイスに利用することはない。

【0016】
比較例2:
従来技術「ホール効果」では、感度よくドナー・アクセプター濃度を定量的に測定可能である。また、補償比・補償不純物または欠陥濃度も得ることができる。しかし、空間分解能を得ることは原理的に不可能であり、電気的測定であるため、絶縁物は測定できない。厳密には、高抵抗でも測定できる交流タイプや光ホール効果測定なども存在するが、ワイドバンドギャップ半導体として、電極の形成技術のさらなる革新が必要である。なお、測定対象は自由キャリアであり、ドナー・アクセプター・その他の不純物や欠陥の総合的情報を扱っており、個々の準位を導くためには、仮定が必要である。

【0017】
比較例3:
従来技術「FTPS(フーリエ変換光電流分光法)」でも、同等の検出可能という文献があるが、文献中では検出限界を理論的に予言しているだけで実施例に相当するデータは無い(非特許文献2)。また、手法的にも様々な解析のための条件整備が必要であり、対象物であるダイヤモンド中のボロンを直接かつルーチン的に測定できる点で本手法が優れている。
本発明の不純物若しくは欠陥を含む半導体内の電子状態測定方法及び従来の方法の特性を表1にまとめて示す。
【0018】
【表1】

FTPSはフーリエ変換光電流分光法、SIMSは二次イオン質量分析法、CLはカソードルミネッセンス法である。SIMSはイオンで試料をスパッタしながら測定するため破壊測定に分類される。CLは電子ビームを照射して発光を観測する非破壊測定であるが、試料を含む発光観測系の複雑さから、不純物や欠陥濃度と対応する発光強度の定量的取り扱いは原理的に不可能である。SIMSもCLも荷電ビームを入力源とするため、絶縁物に対しては原理的に取り扱い不可能である。極めて薄い金属膜や炭素膜被覆等で帯電防止を施す場合があるが、この場合定量的扱いの阻害要因を増やすのみで、定性的扱いを可能とするのみである。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の半導体内不純物および欠陥の電子状態測定方法は、従来のシリコン等で開発されてきた技術のみでは、高純度ワイドバンドギャップ半導体であるがために顕在化してきた技術的課題を、新しい測定原理を用いることで解決できることを明らかにしている。
原理的に直接、対象となるバンドギャップ中の不純物および欠陥準位を検出するため、簡便であり、非破壊に従来技術で検出不可能な範囲をカバーできる。今後のワイドバンドギャップ半導体の評価技術として応用され、幅広く展開され得る基本的要素からなる方法である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の方法を実現する装置構成の一例図。
【図2】本発明の特徴概念図
【図3】本発明の特性図
【図4】従来例による特性確認図
【図5】従来例との比較特性図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物若しくは欠陥を含む半導体を用い、照射光によって前記半導体の不純物若しくは欠陥の準位から伝導帯へ励起された光電子のうち、当該半導体の厚み方向に拡散し、あらかじめ電子親和力を負、ゼロ、あるいは当該半導体の結晶運動量相当のエネルギーに対応する小さな正の電子親和力状態にせしめた当該半導体の表面から外部光電子放出させ、光電子検出器によって光電子数を計数し、同時に照射光エネルギーを計測し、当該照射光エネルギーに対する光電子放出率を計測することにより、不純物若しくは欠陥を含む半導体内の電子状態測定方法。
【請求項2】
照射光を、当該半導体のバンドギャップエネルギーより小さいエネルギーの範囲で、単色化して照射し、光電子放出率スペクトルを光電子放出率として計測する請求項1に記載した不純物若しくは欠陥を含む半導体内の電子状態測定方法。
【請求項3】
前記半導体表面に電子放出の妨げとならない薄巻状若しくはメッシュ状の構造を持った電極を有し、表面の他の部位、側面あるいは試料背面にバイアス電圧を与える作用電極を持たせた構造とし、当該半導体内部に光電子を電界によって加速し、ホットエレクトロンとなる状態にして、計測する請求項1又は請求項2に記載した不純物若しくは欠陥を含む半導体内の電子状態測定方法。
【請求項4】
室温あるいは室温より高い測定温度を用いる請求項1ないし請求項3のいずれかに記載した不純物若しくは欠陥を含む半導体内の電子状態測定方法。
【請求項5】
前記半導体として、ダイヤモンド、窒化ボロン、窒化アルミニウムから選ばれる1種を用いる請求項1ないし請求項4のいずれかに記載した不純物若しくは欠陥を含む半導体内の電子状態測定方法。
【請求項6】
前記半導体として、膜厚が200ナノメートル以上である請求項5に記載した不純物若しくは欠陥を含む半導体内の電子状態測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−78369(P2008−78369A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255560(P2006−255560)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月22日 社団法人 応用物理学会発行の「2006年(平成18年)春季第53回応用物理学関係連合講演会予稿集 第2分冊」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「ナノテクノロジープログラム(ナノテク実用化材料開発)/ダイヤモンド極限機能プロジェクト」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】