説明

半導体加熱ヒータ用容器及びそれを備えた半導体製造装置

【課題】 ヒータについて温度の均一性を向上させることができ、特に加熱保持中はもちろんのこと、加熱開始から冷却終了までの間においても、ヒータ温度の高い均一性が得られる半導体加熱ヒータ用容器を提供する。
【解決手段】 開口部にヒータ2を設置する半導体加熱ヒータ用の容器1であって、容器1の構成部材の表面粗さがRaで10μm以下、好ましくはRaで5μm以下である。この容器1は、ヒータ2と共に、冷却モジュール4を具備することができ、冷却モジュール4は流体が流通可能であることが好ましい。また、ヒータ2は、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウムのいずれかを主成分とするセラミックスヒータが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加熱物を搭載して熱処理するためのヒータを収容支持する容器、及びこれを搭載した装置に関する。更に詳しくは、半導体ウェハを加熱するためのヒータを収容支持する半導体加熱ヒータ用容器であって、特にフォトリソグラフィー工程に使用されるコータデベロッパ等に好ましく使用されるヒータに適用される半導体加熱ヒータ用容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体の製造工程では、被処理物である半導体基板(ウェハ)に対して成膜処理やエッチング処理など様々な処理が行われる。このような半導体基板に対する処理を行う半導体製造装置では、半導体基板を保持し、加熱するためのセラミックスヒータが用いられている。
【0003】
例えば、フォトリソグラフィー工程においては、ウェハ上にレジスト膜パターンが形成される。この工程では、ウェハを洗浄後、加熱乾燥し、冷却後ウェハ表面にレジスト膜を塗布し、フォトリソグラフィー処理装置内のセラミックスヒータ上にウェハを搭載し、乾燥した後、露光、現像などの処理が施される。このフォトリソグラフィー工程では、レジストを乾燥するときの温度が塗膜の品質に大きな影響を与えるので、処理時におけるセラミックスヒータの温度の均一性が重要である。
【0004】
また、これらのウェハの処理はスループットを向上させるために、できるだけ短時間で終わらせることが要求される。このため、発明者らは、加熱したヒータを短時間で冷却するために冷却手段を有する半導体製造装置を検討してきた。例えば、特開2004−014655号公報では、ヒータのウェハ搭載面とは反対側の面に、当接、分離が可能な板状構造物を備えた半導体製造装置を提案した。また、特開2005−150506号公報では、板状構造物に冷却用液体の流路を形成し、冷却速度を更に向上させると共に、冷却開始から冷却終了までのヒータの温度の均一性を保つような半導体製造装置を提案した。
【0005】
【特許文献1】特開2004−014655号公報
【特許文献2】特開2005−150506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近の電子デバイスなどの半導体製造プロセスにおいては、更なるヒータの温度分布の均一性が要求されており、加熱保持中はもちろんのこと、加熱開始から冷却終了までの間においても、ヒータの温度分布について更に高い均一性が要求されている。また、昇温及び冷却速度の更なる向上も要求されている。
【0007】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、半導体を加熱するためのヒータについて温度の均一性を向上させることができ、特に加熱保持中はもちろんのこと、加熱開始から冷却終了までの間においても、ヒータ温度の高い均一性が得られる半導体加熱ヒータ用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明が提供する半導体加熱ヒータ用容器は、半導体を加熱するためのヒータを収容支持する容器であって、その開口部にヒータを設置し、その構成部材の表面粗さがRaで10μm以下であることを特徴とするものであり、特に前記構成部材の表面粗さがRaで5μm以下であることが好ましい。
【0009】
また、上記本発明の本発明が提供する半導体加熱ヒータ用容器に収容支持する前記ヒータは、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウムのいずれかを主成分とするセラミックスヒータであることが好ましい。
【0010】
更に、上記本発明の本発明が提供する半導体加熱ヒータ用容器は、前記ヒータと共に、冷却モジュールを具備することができる。前記冷却モジュールは、流体が流通可能であることが好ましい。
【0011】
本発明は、また、上記したヒータを収容支持した本発明の半導体加熱ヒータ用容器を搭載したことを特徴とする半導体製造装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、半導体を加熱するためのヒータを収容支持するための容器の表面粗さを制御することにより、ヒータの温度の均一性が改善され、加熱保持中はもちろんのこと、加熱開始から冷却終了までの間においても、高い均一性が得られる。また、この半導体加熱ヒータ用容器にヒータを収容支持して半導体製造装置に搭載することによって、半導体ウェハの処理時における温度の均一性が向上し、半導体製造プロセス、特にフォトリソグラフィー工程において、高スループットで高品質の生産が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
半導体加熱用ヒータの温度の均一性(均熱性)を高めるには、ヒータの周辺部材など、環境の影響を可能な限り抑制することが重要である。即ち、ヒータの発熱を均一にすると同時に、周辺環境など他の影響を最小限にすることによって、優れたヒータの均熱性が得られる。そして、周辺環境からの熱の影響を抑制するには、熱の伝わり方を考慮しなければならない。
【0014】
熱の伝わりには伝熱、輻射、対流の3つのモードがあり、これらを考慮する必要がある。伝熱に関しては、ヒータに接する部品の量を最小限にすることで抑制される。また、対流に対しては、周辺からの気体の流れを抑制することが有効である。気体の流れを抑制するため、特にフォトリソグラフィー工程に使用されるコータデベロッパ等に好ましく使用されるヒータでは、例えば図1に示すように、ヒータ2を囲うように収容支持する容器1が使用され、その容器1の開口部に支持足部3などによりヒータ2を設置する構造となっている。
【0015】
更に、輻射に関しては、対向する物質間で発生するため、半導体を加熱するときのヒータから発せられる熱は、容器との輻射の影響を受けることになる。即ち、図1の構造の容器1では、ヒータ2は容器1の開口部に設置されるため、ヒータ2の側面及び下面は基本的に容器1に対向している。本発明者らの研究によれば、容器を構成する部材の表面粗さを制御することで、輻射による影響を抑制することができ、ヒータの均熱性が著しく向上することが明らかになった。
【0016】
即ち、本発明においては、容器を構成する部材の表面粗さをRaで10μm以下にすることで、容器が与える熱的な影響を抑制し、ヒータの均熱性を高めることができる。この効果は容器とヒータの間の輻射だけでなく、容器とその外部、例えば、雰囲気を制御するチャンバなどとの間の輻射によるヒータの均熱性への影響も抑制することが判った。更に好ましくは、容器を構成する部材の表面粗さRaを5μm以下とすれば、ヒータの均熱性が一層向上する。
【0017】
本発明の半導体加熱ヒータ用容器を構成する部材の材質は、収容支持するヒータの温度に対して耐熱性を満たすものであれば、特に制限はない。一般的には、金属によるものが望ましく、アルミニウム、銅、鉄、ステンレスなどが一般的であるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0018】
また、容器に収容支持するヒータの材質は、セラミックスが好ましい。金属のヒータを用いた場合には、ウェハ上にパーティクルが付着するという問題があるため好ましくない。セラミックスとしては、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウムのいずれかを主成分とするものが好ましい。例えば、温度分布の均一性を重視するならば、熱伝導率の高い窒化アルミニウムや炭化珪素が好ましい。信頼性を重視するならば、窒化珪素が高強度で熱衝撃にも強いので好ましい。コストを重視するのであれば、酸化アルミニウムが好ましい。これらのセラミックスの中でも、性能とコストのバランスを考慮すれば、窒化アルミニウム(AlN)が好適である。
【0019】
本発明による半導体加熱ヒータ用容器は、上記ヒータと共に、冷却モジュールを具備するが好ましい。例えば、図2に示すように、容器1は、セラミックス基体2aの裏面に発熱体回路2bと該発熱体回路2bを保護する絶縁層2cとが形成されたヒータ2と、冷却モジュール4とを収容支持することができる。冷却モジュール4は、内部に流体が流通可能であることが望ましい。また、冷却モジュール4は、エアーシリンダなどの昇降手段5によって、必要に応じてヒータ2の裏面側に当接又は分離できるようになっている。尚、冷却モジュール4には、支持足部3を挿通するための貫通孔や、ヒータ2への給電のための電極や温度測定手段のリード線などを挿通するための貫通孔(図示せず)が設けられている。
【0020】
ところで、従来は、被加熱物を搭載するヒータ主面(ウェハ載置面)の平面度や表面粗さを良くして、被加熱物の温度分布を均一にする提案はされていたが、冷却モジュールを有するヒータユニットにおいて、ヒータと冷却モジュールとのそれぞれの当接面の平面度を向上させることにより温度分布を均一にし、冷却速度も向上させる提案はなかった。
【0021】
本発明者らの研究によれば、ヒータの冷却モジュールとの当接面の平面度と、冷却モジュールのヒータとの当接面の平面度の両方を平坦化することによって、ヒータと冷却モジュールとが全面均一に当接でき、両者の密着性がより高まることによって、熱伝達率が向上し、冷却モジュールをヒータに当接させた時の冷却速度が向上すると共に、ヒータ裏面全面が均一に冷却されるので、冷却時におけるヒータの温度分布の均一性が一層向上することが分かった。
【0022】
具体的には、ヒータと冷却モジュールの互いの当接面について、ヒータの冷却モジュールとの当接面の平面度と、冷却モジュールのヒータとの当接面の平面度とを、両者の合計が0.8mm以下となるように平坦化することが好ましく、更に0.4mm以下であれば一層好ましい。ヒータの冷却モジュールとの当接面の平面度、あるいは冷却モジュールのヒータとの当接面の平面度のいずれか一方だけを平坦にしても、上記効果は得られない。両者の平面度の合計を0.8mm以下とすることによって、初めて上記効果を得ることができる。
【0023】
また、図2に示すように、内部に発熱体回路2bが形成されており、主面に被加熱物のウェハを搭載して加熱処理するヒータ2の場合であっても、上記と同様に、ヒータ2の冷却モジュール4との当接面(即ち絶縁層2c)の平面度と、冷却モジュール4のヒータ2との当接面の平面度との合計を0.8mm以下にすることによって、ヒータの温度分布の均一性と、冷却速度の向上という効果を得ることができる。この場合も、両者の平面度の合計が0.4mm以下であることが更に好ましい。
【0024】
ヒータと冷却モジュールのそれぞれの当接面を平坦にするには、公知のラップ研磨法や、砥石による研削などの加工方法を取ることができる。加工後の両者の表面粗さは、それぞれRaで5μm以下であることが好ましい。ヒータと冷却モジュールのそれぞれの当接面について、表面粗さをRaで5μm以下にすることによって、ヒータと冷却ブロックの密着性が向上し、ヒータの温度分布の均一性と冷却速度が向上する。
【0025】
特に、ヒータの冷却モジュールとの当接面の表面粗さを良くして、鏡面状態に近づけると、その面の輻射率が低下する。輻射率が低下すると、その面からの放熱量が減少するので、ヒータを加熱するための電力の省エネルギー化を図ることができ好ましい。また、ヒータ基板がセラミックスの場合、表面粗さが粗いと、冷却ブロックと当接したときの摩擦などによって、セラミックス粒子の脱落が多くなり、これがパーティクルとなって被加熱物の品質に悪影響を与える。このため、セラミックスヒータの表面粗さは、Raで1μm以下であることが更に好ましい。
【0026】
また、図2に示すように、裏面に発熱体回路2bを保護する絶縁層2cが形成されたヒータ2の場合、冷却モジュールとの当接面を平坦化するために加工しすぎると、絶縁層2cの厚みが薄くなり、場合によっては発熱体回路2bが露出して短絡事故を起こす可能性がある。これを防ぐためには、絶縁層の厚みを厚くすればよいが、絶縁層は熱伝導率が低いことが多いので、厚みが厚いと熱抵抗が増大し、冷却速度が遅くなる。そこで、絶縁層の厚みについては、平坦化後で15μm以上500μm以下とすることが好ましい。更に、平坦化後の絶縁層の厚みにバラツキがあると、熱抵抗が変化して冷却速度がばらつくので、ヒータの温度分布が不均一になりやすい。従って、平坦化後の絶縁層の厚みは均一であることが望ましく、絶縁層の厚みの最大値と最小値の差は200μm以下であることが好ましい。
【0027】
次に、ヒータの製造方法について、AlNの場合を例に詳述する。AlNの原料粉末は、比表面積が2.0〜5.0m/gのものが好ましい。比表面積が2.0m/g未満の場合はAlNの焼結性が低下し、逆に5.0m/gを超えると粉末の凝集が非常に強くなるため取扱いが困難になる。更に、原料のAlN粉末に含まれる酸素量は、2重量%以下が好ましい。酸素量が2重量%を超えると、焼結体の熱伝導率が低下する。また、原料粉末に含まれるアルミニウム以外の金属不純物量は、2000ppm以下が好ましい。金属不純物量が上記範囲を超えると、焼結体の熱伝導率が低下する。特に、金属不純物として、Siなどの4族元素や、Feなどの鉄族元素は、焼結体の熱伝導率を低下させる作用が高いので、その含有量はそれぞれ500ppm以下であることが好ましい。
【0028】
また、AlNは難焼結性材料であるので、AlN原料粉末に焼結助剤を添加することが好ましい。添加する焼結助剤は、希土類元素化合物が好ましい。希土類元素化合物は、焼結中にAlN粉末粒子の表面に存在するアルミニウム酸化物あるいはアルミニウム酸窒化物と反応して、AlNの緻密化を促進すると共に、AlN焼結体の熱伝導率を低下させる原因となる酸素を除去する働きもあるので、得られるAlN焼結体の熱伝導率を向上させることができる。
【0029】
焼結助剤としての希土類元素化合物の添加量は、0.01〜5重量%の範囲が好ましい。添加量が0.01重量%未満では、緻密な焼結体を得ることが困難であると共に、焼結体の熱伝導率が低下する。また、5重量%を超えると、AlN焼結体の粒界に焼結助剤が存在することになるので、腐食性雰囲気で使用する場合、この粒界に存在する焼結助剤がエッチングされ、脱粒やパーティクルの原因となる。更に好ましくは焼結助剤の添加量は、1重量%以下である。1重量%以下であれば、粒界の3重点にも焼結助剤が存在しなくなるので、耐食性が向上する。
【0030】
上記希土類元素化合物の中では、特に酸素を除去する働きが顕著であるイットリウム化合物が好ましい。また、希土類元素化合物は、酸化物、窒化物、フッ化物、ステアリン酸化合物などが使用できる。これらの中で、酸化物は安価で入手が容易であるため好ましい。また、ステアリン酸化合物は、有機溶剤との親和性が高いので、AlN原料粉末と焼結助剤などを有機溶剤で混合する場合には、混合性が高くなるので特に好適である。
【0031】
これらのAlN原料粉末や焼結助剤粉末に、所定量の溶剤、バインダー、更には必要に応じて分散剤や邂逅剤を添加して、混合する。混合方法は、ボールミル混合や超音波による混合などが可能である。このような混合によって、原料スラリーを得ることができる。得られたスラリーを成形し、焼結することによって、AlN焼結体を得ることができる。その際のヒータ作製方法には、コファイアー法とポストメタライズ法の2種類の方法がある。
【0032】
まず、ポストメタライズ法について説明する。前記スラリーをスプレードライアー等の手法によって、顆粒を作製する。この顆粒を所定の金型に挿入し、プレス成形を施す。この時のプレス圧力は、9.8MPa未満では成形体の強度が充分に得られないことが多く、ハンドリングなどで破損し易くなるため、9.8MPa以上であることが望ましい。
【0033】
成形体の密度は、バインダーの含有量や焼結助剤の添加量によって異なるが、1.5〜2.5g/cmであることが好ましい。成形体密度が1.5g/cm未満であると、原料粉末粒子間の距離が相対的に大きくなるので、焼結が進行し難くなる。また、成形体密度が2.5g/cmを超えると、次工程の脱脂処理で成形体内のバインダーを充分除去することが困難となるため、前述のように緻密な焼結体を得ることが難しくなる。
【0034】
次に、前記成形体を非酸化性雰囲気中で加熱し、脱脂処理を行う。非酸化性雰囲気ガスとしては、窒素やアルゴンが好ましい。大気等の酸化性雰囲気で脱脂処理を行うと、AlN粉末の表面が酸化されるので、焼結体の熱伝導率が低下する。脱脂処理の加熱温度は、500℃以上1000℃以下が好ましい。500℃未満の温度では、バインダーを充分除去することができず、脱脂処理後の成形体中にカーボンが過剰に残存するので、その後の焼結工程での焼結を阻害する。また、1000℃を超える温度では、残存するカーボンの量が少なくなり過ぎるので、AlN粉末表面に存在する酸化被膜の酸素を除去する能力が低下し、焼結体の熱伝導率が低下する。脱脂処理後の成形体中に残存する炭素量は、1.0重量%以下であることが好ましい。1.0重量%を超える炭素が残存していると、焼結を阻害するので、緻密な焼結体を得ることができない。
【0035】
次いで、成形体の焼結を行う。焼結は、窒素やアルゴンなどの非酸化性雰囲気中において、1700〜2000℃の温度で行う。この時、使用する非酸化性雰囲気ガス中に含有される水分は、露点で−30℃以下であることが好ましい。これ以上の水分を含有する場合、焼結時にAlNが雰囲気ガス中の水分と反応して酸窒化物が形成されるので、熱伝導率が低下する可能性がある。また、雰囲気ガス中の酸素量は、0.001体積%以下であることが好ましい。酸素量が多いとAlNの表面が酸化して、熱伝導率が低下する可能性がある。
【0036】
更に、焼結時に使用する治具は、窒化ホウ素(BN)成形体が好適である。このBN成形体は、前記焼結温度に対し充分な耐熱性を有すると共に、その表面に固体潤滑性があるので、焼結時に成形体が収縮する際の治具と成形体との間の摩擦を小さくすることができるので、歪みの少ない焼結体を得ることができる。
【0037】
得られた焼結体は、必要に応じて加工を施す。次工程で導電ペーストをスクリーン印刷する場合、焼結体の表面粗さはRaで5μm以下であることが好ましい。表面粗さRaが5μmを超えるとスクリーン印刷により回路形成した際に、パターンのにじみやピンホールなどの欠陥が発生しやすくなる。表面粗さはRaで1μm以下であれば更に好適である。
【0038】
上記表面粗さを得るための研磨加工は、焼結体の両面にスクリーン印刷する場合は当然であるが、片面のみにスクリーン印刷を施す場合でも、スクリーン印刷する面と共に反対側の面も研磨加工を施す方がよい。スクリーン印刷する面のみを研磨加工した場合、スクリーン印刷時には、研磨加工していない面で焼結体を支持することになる。その時、研磨加工していない面には突起や異物が存在することがあるので、焼結体の固定が不安定になり、スクリーン印刷で回路パターンがうまく描けないことがあるからである。
【0039】
また、焼結体の両加工面の平行度は、0.5mm以下であることが好ましい。平行度が0.5mmを超えると、スクリーン印刷時に導電ペーストの厚みのバラツキが大きくなることがある。平行度は0.1mm以下であることが特に好適である。更に、スクリーン印刷する面の平面度は、0.5mm以下であることが好ましい。平面度が0.5mmを超える場合には、やはり導電ペーストの厚みのバラツキが大きくなることがある。平面度も0.1mm以下であれば特に好適である。
【0040】
上記のごとく研磨加工を施した焼結体に、スクリーン印刷により導電ペーストを塗布し、電気回路の形成を行う。導体ペーストは、金属粉末に、必要に応じて酸化物粉末と、バインダー及び溶剤を混合することにより得ることができる。金属粉末としては、セラミックスとの熱膨張係数のマッチングから、タングステンやモリブデンあるいはタンタルが好ましい。また、AlNとの密着強度を高めるために、酸化物粉末を添加することもできる。酸化物粉末は、2A族元素や3A族元素の酸化物、Al、SiOなどが好ましい。特に酸化イットリウムは、AlNに対する濡れ性が非常に良好であるため好ましい。これらの酸化物の添加量は、0.1〜30重量%が好ましい。0.1重量%未満の場合、形成した電気回路である金属層とAlNとの密着強度が低下する。また、30重量%を超えると、電気回路である金属層の電気抵抗値が高くなる。
【0041】
導電ペーストの厚みは、乾燥後の厚みで、5〜100μmであることが好ましい。厚みが5μm未満の場合は、電気抵抗値が高くなりすぎると共に、密着強度が低下する。また、形成する回路パターンが、ヒータ回路(発熱体回路)の場合は、パターンの間隔は0.1mm以上とすることが好ましい。0.1mm未満の間隔では、発熱体に電流を流したときに、印加電圧及び温度によっては漏れ電流が発生し、ショートすることがある。特に、500℃以上の温度で使用する場合には、パターン間隔は1mm以上とすることが好ましく、3mm以上であれば更に好ましい。
【0042】
次に、導電ペーストを脱脂した後、焼成して電気回路を形成する。導電ペーストの脱脂は窒素やアルゴン等の非酸化性雰囲気中で行う。また、脱脂温度は500℃以上が好ましい。脱脂温度が500℃未満では、導電ペースト中のバインダーの除去が不十分なため、金属層内にカーボンが残留し、焼成したときに金属の炭化物を形成するので、金属層の電気抵抗値が高くなる。
【0043】
また、導電ペーストの焼成は、窒素やアルゴンなどの非酸化性雰囲気中で、1500℃以上の温度で行うのが好適である。1500℃未満の温度では、導電ペースト中の金属粉末の粒成長が進行しないので、焼成後の金属層の電気抵抗値が高くなり過ぎる。また、焼成温度はセラミックスの焼結温度を超えない方がよい。セラミックスの焼結温度を超える温度で導電ペーストを焼成すると、セラミックス中に含有される焼結助剤などが揮散しはじめ、更には導電ペースト中の金属粉末の粒成長が促進されてセラミックスと金属層との密着強度が低下する。
【0044】
次に、形成した金属層の絶縁性を確保するために、金属層の上に絶縁性コートを形成することができる。絶縁性コートの材質は、電気回路との反応性が小さく、AlNとの熱膨張係数差が5.0×10−6/K以下であれば特に制約はない。例えば、結晶化ガラスやAlN等が使用できる。これらの材料を、例えばペースト状にして、所定の厚みのスクリーン印刷を行い、必要に応じて脱脂を行った後、所定の温度で焼成することにより絶縁性コートを形成することができる。
【0045】
更に、必要に応じて、セラミックス基板を積層することができる。セラミックス基板の積層は、接合剤を介して行うのが良い。接合剤としては、酸化アルミニウム粉末や窒化アルミニウム粉末に、2A族元素化合物や3A族元素化合物とバインダー及び溶剤を加え、ペースト化したものを接合面にスクリーン印刷等の手法で塗布する。塗布する接合剤の厚みに特に制約はないが、5μm以上であることが好ましい。5μm未満の厚みでは、接合層にピンホールや接合ムラ等の接合欠陥が生じやすくなる。
【0046】
接合剤を塗布したセラミックス基板を、非酸化性雰囲気中にて500℃以上の温度で脱脂する。その後、積層するセラミックス基板を重ね合わせ、所定の荷重を加え、非酸化性雰囲気中で加熱することにより、セラミックス基板同士を接合する。その際の荷重は、5kPa以上であることが好ましい。5kPa未満の荷重では、充分な接合強度が得られないか、若しくは前記した接合欠陥が生じやすい。接合するための加熱温度は、セラミックス基板同士が接合層を介して十分密着する温度であれば特に制約はないが、1500℃以上であることが好ましい。1500℃未満では十分な接合強度が得られにくく、接合欠陥を生じやすい。前記脱脂並びに接合時の非酸化性雰囲気は、窒素やアルゴンなどを用いることが好ましい。
【0047】
以上のようにして、ヒータとなるセラミックス積層焼結体を得ることができる。尚、電気回路としては、上述した導電ペーストを用いずに、例えば、ヒータ回路であればモリブデン線(コイル)を使用し、静電吸着用電極やRF電極などの場合にはモリブデンやタングステンのメッシュ(網状体)を用いることも可能である。この場合、AlN原料粉末中に上記モリブデンコイルやメッシュを内蔵させ、ホットプレス法により作製することができる。ホットプレスの温度や雰囲気は、前記AlNの焼結温度及び焼結雰囲気に準ずればよいが、ホットプレス圧力は0.98MPa以上加えることが望ましい。0.98MPa未満の圧力では、モリブデンコイルやメッシュとAlNの間に隙間が生じ、ヒータやウェハ保持体としての性能が出なくなることがある。
【0048】
次に、コファイアー法について説明する。まず、前述した原料スラリーをドクターブレード法によりシート成形する。シート成形に関して特に制約はないが、シートの厚みは乾燥後で3mm以下が好ましい。シートの厚みが3mmを超えると、スラリーの乾燥収縮量が大きくなるので、シートに亀裂が発生する確率が高くなる。
【0049】
このシート上に、導体ペーストをスクリーン印刷などの手法により塗布することにより、所定形状の電気回路となる金属層を形成する。導電ペーストとしては、上述のポストメタライズ法で説明したものと同じものを用いることができる。ただし、コファイアー法では、導電ペーストに酸化物粉末を添加しなくても支障は少ない。
【0050】
次に、回路形成を行ったシート及び回路形成をしていないシートを積層する。積層の方法は、各シートを所定の位置にセットし、重ね合わせる。この時、必要に応じて各シート間に溶剤を塗布しておく。シートを重ね合わせた状態で、必要に応じて加熱する。加熱する場合、加熱温度は150℃以下であることが好ましい。これを超える温度に加熱すると、積層したシートが大きく変形する。そして、重ね合わせたシートに圧力を加えて一体化する。加える圧力は1〜100MPaの範囲が好ましい。1MPa未満の圧力では、シートが充分に一体化せず、その後の工程中に剥離することがある。また、100MPaを超える圧力を加えると、シートの変形量が大きくなり過ぎるため好ましくない。
【0051】
このシート積層体を、前述のポストメタライズ法と同様に、脱脂処理並びに焼結を行う。脱脂処理や焼結における温度及び炭素量等は、ポストメタライズ法の場合と同じである。尚、前述した導電ペーストをシートに印刷する際に、複数のシートにそれぞれヒータ回路や静電吸着用電極等を印刷し、それらを積層することによって、複数の電気回路を有するヒータを容易に作製することも可能である。また、発熱体回路などの電気回路が、セラミックス積層体の最外層に形成されている場合には、電気回路の保護と絶縁性の確保のために、前述のポストメタライズ法の場合と同様に、電気回路の上に絶縁性コートを形成することができる。このようにして、ヒータとなるセラミックス積層焼結体を得ることができる。
【0052】
得られたセラミックス積層焼結体は、必要に応じて加工を施す。通常、焼結した状態では、半導体製造装置で要求される精度に入らないことが多い。加工精度は、例えば、被処理物のウェハを搭載するウェハ載置面の平面度は0.5mm以下が好ましく、0.1mm以下が更に好ましい。平面度が0.5mmを超えると、ウェハとヒータとの間に隙間が生じやすくなり、ヒータの熱がウェハに均一に伝わらなくなるため、ウェハの温度ムラが発生しやすくなる。
【0053】
また、ウェハ載置面の表面粗さは、Raで5μm以下が好ましい。Raで5μmを超えると、ヒータと被処理物との摩擦によって、AlNの脱粒が多くなることがある。この時、脱粒した粒子はパーティクルとなり、ウェハへの成膜やエッチングなどの処理に対して悪影響を与えることになる。表面粗さは、Raで1μm以下であれば更に好適である。
【実施例】
【0054】
図1に示すように、セラミックス基体と発熱体回路と絶縁層から構成され、被処理物であるウェハを載置して加熱するヒータ2と、このヒータ2を収容支持する容器1とを作製した。即ち、容器1として、外径350mm、内径335mm、高さ35mmのステンレス製の容器を作製した。その際、下記表1に示すように、内面(内周面と内側底面)及び外面(外周面と外側底面)の全てに対して、表面粗さをRaで1.2μm、3.1μm、4.5μm、6.2μm、8.7μm、10.4μmの6種類となるように加工した。
【0055】
一方、ヒータ2のセラミックス基体2aとしては、直径330mm、厚さ12mmの窒化アルミニウム(AlN)焼結体を用いた。セラミックス基体2aの裏面には、発熱体回路2bと絶縁層2cを形成した。発熱体回路2bは、導電ペーストをスクリーン印刷により塗布して作製した。導体ペーストは、金属粉末と、必要に応じて酸化物粉末と、バインダーと溶剤を混合することにより調製した。金属粉末は、AlNとの熱膨張係数のマッチングから、タングステンを用いた。絶縁層については、ガラス粉末に有機溶剤とバインダーを添加したペーストをスクリーン印刷により塗布した後、焼成して形成した。
【0056】
これら試料1〜6の各容器1に、図1に示すように、上記ヒータ2を支持足部3で収容支持し、ヒータの均熱性の測定を行った。即ち、均熱性の測定は、17点式のウェハ温度計を用いて、ヒータを150℃、200℃、250℃までに通電加熱し、それぞれの温度に達してから3分後の最大温度と最小温度の差を測定し、その温度差を均熱性として下記表1に示した。
【0057】
【表1】

【0058】
上記の結果から、容器の表面粗さRaが10μmを超える比較例の試料6に比べて、Raが10μm以下である本発明の試料1〜6はヒータの均熱性が優れていること、特にRaが5μm以下の試料1〜3では均熱性が特に優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】ヒータを収容支持した容器を示す概略の断面図である。
【図2】ヒータと冷却モジュールを具備した容器を示す概略の断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 容器
2 ヒータ
2a セラミックス基体
2b 発熱体回路
2c 絶縁層
3 支持足部
4 冷却モジュール
5 昇降手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体を加熱するためのヒータを収容支持する容器であって、その開口部にヒータを設置し、その構成部材の表面粗さがRaで10μm以下であることを特徴とする半導体加熱ヒータ用容器。
【請求項2】
前記構成部材の表面粗さがRaで5μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の半導体加熱ヒータ用容器。
【請求項3】
前記構成部材が金属であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の半導体加熱ヒータ用容器。
【請求項4】
前記ヒータが、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウムのいずれかを主成分とするセラミックスヒータであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の半導体加熱ヒータ用容器。
【請求項5】
前記セラミックスヒータの主成分が窒化アルミニウムであることを特徴とする、請求項4に記載の半導体加熱ヒータ用容器。
【請求項6】
前記ヒータと共に、冷却モジュールを具備することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の半導体加熱ヒータ用容器。
【請求項7】
前記冷却モジュールは流体が流通可能であることを特徴とする、請求項6に記載の半導体加熱ヒータ用容器。
【請求項8】
請求項1〜7に記載のヒータを収容支持した半導体加熱ヒータ用容器を搭載したことを特徴とする半導体製造装置。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−80892(P2007−80892A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263184(P2005−263184)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】