説明

半導体単結晶の製造方法

【課題】単結晶の成長方向に対して不純物濃度のばらつきが少なく、高品質な半導体単結晶を再現性よく得ることのできる半導体単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】不純物を添加した半導体融液を凝固させて当該半導体の単結晶を成長させるブリッジマン法、温度勾配凝固法等による半導体単結晶の製造方法において、結晶成長の進展につれて結晶成長速度を徐々に遅くし、実効偏析係数が平衡偏析係数に近づけることにより、半導体単結晶の結晶成長方向に沿う不純物濃度の均一化が図れる。さらに、結晶成長の進展につれて、前記半導体融液に印加する磁場の磁束密度を徐々に弱くする操作を組み合わせれば、いっそうの不純物濃度の均一化が図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融液を原料とする半導体単結晶の製造方法に関し、特に、結晶成長方向に沿って不純物濃度を均一に制御するための半導体単結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでに、III−V族化合物半導体結晶等の結晶成長方法として、半導体融液をボー
トやルツボ等の容器に収容し、融液の一端に種結晶を接触させた状態で種結晶側から他端に向けて徐々に固化させることにより単結晶を成長させる結晶成長技術が多数開発され、実用に供されてきた。
【0003】
横型のボートに融波を収容して結晶成長を行う方法としては、水平ブリッジマン(Horizontal Bridgman:HB)法、水平温度勾配凝固(Gradient Freeze:GF)法、水平炉体移動(Traveling Furnace:TF)法、水平帯溶融凝固(Zone Melt:ZM)法などが知られている。
【0004】
例えば、非特許文献1には詳細な横型ボート法によるGaAs単結晶成長の詳細な解説がされている。また、HB法に関しては特許文献1に、ZM法に関しては特許文献2などに公開されている。
【0005】
また、縦型のルツボに融液を収容し、その下端に種結晶を配して、下方から上方へ向けて結晶を成長させる、いわゆる縦型成長法としては、垂直ブリッジマン(Vertical Bridgman:VB)法、垂直温度勾配凝固(Vertical Gradient Freeze:VGF)法)、垂直帯
溶融凝固(Vertical Zone Melt:VZM)法などが知られている。
【0006】
VB法、VGF法に関しは、上述の非特許文献1に詳しく解説が記載されている。また、特許文献3〜6等にもその応用技術が記載されている。
例えば、特許文献3には原料融液を収容する容器と、容器の周囲に配置した温度勾配炉と、温度勾配炉を容器に対して相対的に移動する手段とを有し、容器の一端から固化成長させる単結晶の製造装置において、容器の壁内にBを含有させたBN製容器を用い、使用時にBN製容器の壁面から徐々にBが染み出してB膜でルツボの壁面を覆って、原料融液とルツボ表面の凹凸壁面とが接触することにより生じる結晶核の発生を防止している。
【0007】
また、結晶成長中に融液へ磁場を印加する方法は、融液の対流を抑制する作用が期待できることから採用されており、例えば特許文献7〜9に具体的な例が開示されている。
【0008】
【非特許文献1】干川圭吾編著、1994年5月版、(株)培風館刊 「アドバンストエレクトロニクス I−4 バルク結晶成長技術」
【特許文献1】特許第2697327号公報
【特許文献2】特許第2773441号公報
【特許文献3】特許第2585415号公報
【特許文献4】特許第2664085号公報
【特許文献5】特許第2850581号公報
【特許文献6】特許第3391503号公報
【特許文献7】特許第3760769号公報
【特許文献8】特開平06−048882号公報
【特許文献9】特開2007−203178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の従来の化合物半導体結晶の製造技術では、ドーピングした不純物の偏柝効果により、結晶内部で結晶成長方向に沿って不純物濃度が大きく変化してしまうという問題があった。不純物濃度のばらつきは、結晶基板の電気特性のばらつきとなるため、最終的に結晶基板を使って製造されるデバイスの特性ばらつきにつながってしまう。また、偏柝による不純物の過度な凝縮は、結晶成長中の多結晶発生の原因となる場合もある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決し、結晶の成長方向に対して不純物濃度のばらつきが少なく、高品質な半導体結晶を再現性よく得ることのできる半導体単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は次のように構成されている。
【0012】
本発明の第1の態様は、不純物を添加した半導体融液を凝固させて当該半導体の単結晶を成長させる半導体単結晶の製造方法において、結晶成長の進展につれて、結晶成長速度を徐々に遅くすることを特徴とする半導体単結晶の製造方法である。
【0013】
本発明の第2の態様は、不純物を添加した半導体融液を凝固させて当該半導体の単結晶を成長させる半導体単結晶の製造方法において、結晶成長の進展につれて、前記半導体融液に印加する磁場の磁束密度を徐々に弱くすることを特徴とする半導体単結晶の製造方法である。
【0014】
本発明の第3の態様は、不純物を添加した半導体融液を凝固させて当該半導体の単結晶を成長させる半導体単結晶の製造方法において、結晶成長の進展につれて、結晶成長速度を徐々に遅くすると共に、前記半導体融液に印加する磁場の磁束密度を徐々に弱くすることを特徴とする半導体単結晶の製造方法である。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の態様のいずれかの半導体単結晶の製造方法において、前記半導体の結晶成長に、垂直温度勾配凝固法または水平温度勾配凝固法を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、単結晶の成長方向に対し、ドープした不純物濃度の変化を小さく抑えることができる。その結果、電気特性の揃った結晶基板を歩留まり良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る半導体単結晶の製造方法の実施形態を説明する。
【0018】
本発明者は、上述した結晶成長方向に沿って不純物濃度が不均一となる問題を解決すべく種々検討した結果、不純物の実効偏柝係数が結晶成長速度並びに成長境界層厚さの関数であることに着目し、ドープしたい不純物の平衡偏柝係数に合わせて結晶の成長速度並びに成長境界層厚さを成長中に次第に連続的又は段階的に変化させていく方法を考案した。
【0019】
結晶に取り込まれる不純物の濃度Csは、次式で表される。
Cs=keCo(1−g)ke−1 ・・・式(1)
ここで、keは実効偏柝係数、Coは半導体融液の初期の不純物濃度、gは結晶の固化率(初期の融液重量と固化した結晶の重量との比を表す値)である。
更に、実効偏柝係数keは、次式で表される。
ke=ko/(ko+(1−ko)・exp(−R・d/D)) ・・・式(2)
ここで、koは平衡偏柝係数、Rは結晶の成長速度、Dは不純物の融液中の拡散係数、
dは界面近傍の融液中の成長境界層の厚さである。
【0020】
式(1)からわかる通り、結晶に取り込まれる不純物は結晶の固化率gの関数で表され、ke>1の場合は、固化率gが大きくなるほど不純特濃度は低下する。逆にke<1の場合は、固化率gが大きくなるほど不純物濃度は増加する。
【0021】
また、式(2)からわかる通り、不純物の実効偏柝係数keは、結晶成長速度R並びに
成長境界層厚さdの関数となっており、結晶の成長速度Rが遅いほど、また成長境界層厚さdが薄いほど、実効偏柝係数keは平衡偏柝係数koに近づく。逆に成長速度Rが速くなれば、また成長境界層厚さdが厚くなれば、実効偏析係数keは1に近づく。
【0022】
不純物の偏析の影響をなくすには 実効偏析係数keは1に近いほどよいが、実際には有限の結晶成長速度R、成長境界層厚さdを取らざるを得ない以上、keは1と平衡偏折係数koの間の値を取る。
【0023】
ここで、本発明者らは、結晶成長速度並びに成長境界層厚さは、結晶成長中、常に一定の値を保つ必要はないと考え、不純物偏析を緩和するという観点で、結晶成長中の結晶成長速度並びに成長境界層厚さがどうあるべきかを検討した。
結晶成長の初期の段階では、結晶の体積が少なく、逆に融液の体積が大きい。この時は、結晶中の温度勾配が大きくなりやすく、結晶欠陥も発生しやすい。また、融液の対流による温度変動が生じ易く、結晶を通じて放熱する熱流が安定しにくい。このため、結晶成長速度はある程度遅くして、結晶に加わる歪を抑制する必要がある。また、融液の温度変動を抑えるには、磁場を印加するなどして対流を抑制した方が結晶成長が安定しやすく、その結果、成長境界層厚さはある程度厚くならざるを得ない。
しかし、結晶成長が進行して、結晶の体積が増加し、融液の体積が減少してくれば、成長も安定してくるため、必ずしも結晶成長開始当初の結晶成長速度並びに成長境界層厚さを一定に保つ必要はない。
【0024】
翻って不純物の濃度分布を考えると、結晶中の長手方向(結晶成長方向)の不純物濃度分布は、成長初期の不純物濃度と乖離の少ない結晶領域が長く続くほど良い。しかし実際は、偏析のために結晶の後端に行くに従って、成長初期の不鈍物濃度から大きく外れてきてしまう。結晶中の不純物濃度分布は、初期の融液中の不純物濃度と不純物の実効偏析係数keに従って決まるわけだが、結晶成長中に実行偏析係数keを変化させることができれば、少しでも成長初期の不純物濃度と乖離の少ない結晶領域を長く成長させることができるはずである。そのためには、偏析による成長初期の不純物濃度との乖離の大きい領域をなるべく結晶の後端部に持ってくるほうが良く、そのためには、成長中に実効偏析係数keの値を、平衡偏析係数koに近づけるようにすれば良い。
【0025】
以上の関係から、不純物をドープして結晶成長を行う場合は、結晶の固化率gが大きくなるにつれて実効偏析係数keが平衡偏析係数koに近づくように、結晶成長速度Rを徐々に遅くする、又は成長境界層厚さdを徐々に薄くすることで、不純物の偏析の影響を緩和することができるのである。
【0026】
そこで、本発明の一実施形態は、不純物を添加した半導体融液を凝固させて当該半導体の単結晶を成長させる半導体単結晶の製造方法であって、結晶成長の進展につれて(結晶
の固化率の増加に伴って)、実効偏析係数keが平衡偏析係数koに近づくように、結晶成長速度を徐々に遅くして(或いは半導体融液の温度降下速度を徐々に小さく、或いは半導体単結晶の引上速度を徐々に遅くして)、半導体単結晶の結晶成長方向に沿う不純物濃度の均一化を図っている。
【0027】
また、本発明の他の実施形態は、融液内の対流を抑制することで成長境界層厚さが増加する現象を利用した、不純物を添加した半導体融液を凝固させて当該半導体の単結晶を成長させる半導体単結晶の製造方法であって、融液の対流を抑制するために結晶成長中に融液に磁場を印加するとともに、結晶成長の進展につれて(結晶の固化率の増加に伴って)、融液に印加する磁場の磁束密度を徐々に弱くして(成長境界層厚さが徐々に薄くなるようにして)、半導体単結晶の結晶成長方向に沿う不純物濃度の均一化を図っている。
【0028】
更に、本発明の他の実施形態は、上記の2つの実施形態を組み合わせた、不純物を添加した半導体融液を凝固させて当該半導体の単結晶を成長させる半導体単結晶の製造方法であって、融液の対流を抑制するために結晶成長中に融液に磁場を印加するとともに、結晶成長の進展につれて(結晶の固化率の増加に伴って)、結晶成長速度を徐々に遅くするとともに(或いは半導体融液の温度降下速度を徐々に小さく、或いは半導体単結晶の引上速度を徐々に遅くするとともに)、融液に印加する磁場の磁束密度を徐々に弱くして、半導体単結晶の結晶成長方向に沿う不純物濃度の均―化を図っている。
【0029】
本発明は、成長される結晶が、II−VI族又はIII−V族の化合物半導体結晶、特に、GaAsの単結晶成長に適用されると効果的である。
【0030】
例えば、GaAsの結晶成長に適用する場合、不純物としては、Si、S、Se、Mg、Zn、Cd、In、Ge、Sn、Sb、Te、Cr、Mn、Fe、Al、P、Be、Cなどが挙げられる。
【0031】
本発明の適用が可能な結晶成長方法としては、引上げ法(CZ法、LEC法)、横型ボート法(HB法、GF法、TF法など)、縦型ボート法(VB法、VGF法など)、カイロポーラス法などが挙げられる。
【実施例】
【0032】
次に、本発明の実施例を説明する。
まず、実施例の半導体結晶の製造方法に用いた第一の結晶成長炉と、第二の結晶成長炉とを説明する。
【0033】
(第一の結晶成長炉)
図1は、第一の結晶成長炉1の概要を示す断面模式図である。
第一の結晶成長炉1は、成長する化合物半導体結晶の原料を収容する容器としてのルツボ6と、ルツボ6を収容するルツボ収容容器としてのサセプタ7と、サセプタ7を保持するサセプタ支持部材8と、ルツボ6を側面から加熱する複数の外周加熱部としての外周加熱ヒータ3と、ルツボ6内の融液5に磁場を印加するための磁場印加コイル20とを備える。外周加熱ヒータ3は、図示例では、炉内に上下に配置された4つの外周加熱ヒータ3a、3b、3c、3dから構成されている。
更に、第一の結晶成長炉1は、複数の外周加熱ヒータ3が発する熱の結晶成長炉1の外部への伝熱を防止する複数の断熱材2と、上部の外周加熱ヒータ3a、3bと下部の外周加熱ヒータ3c、3dとの間に設けられる断熱材4と、これら断熱材2、4等を外部から覆うチャンバー11とを備える。
【0034】
ルツボ6は、円筒体状の直胴部と、直胴部の下端に接続して設けられ、下方に向かって
漸次縮径して形成された円錐筒体状の傾斜部と、傾斜部に接続して設けられ、化合物半導体結晶の種結晶10を収容する種結晶配置部としての有底円筒体状の細径部とからなる。ルツボ6の直胴部は、一例として、直径160mm、長さ300mmの円筒である。また、ルツボ6は、熱分解窒化ホウ素(Pyrolytic Boron Nitride:pBN)から形成される
。なお、ルツボ6は石英から形成することもできる。
すなわち、ルツボ6は、細径部を底部に有すると共に、直胴部の上端にルツボ開ロ部を有する。ルツボ6は、細径部に種結晶10を収容すると共に、ルツボ開ロ部から導入された化合物半導体結晶の原料とp型用又はn型用の所定のドーパントとを所定量ずつ収容する。化合物半導体結晶の原料には、成長する化合物半導体の多結晶を用いる。また、ルツボ6には、B等の液体封止材を更に収容してもよい。
【0035】
サセプタ7はグラファイトから形成され、ルツボ6を保持して収容する。また、サセプタ支持部材8は、結晶成長炉1内で昇降及び回転ができるように設けられている。そして、サセプタ支持部材8の上にサセプタ7が搭載されて保持される。この場合に、サセプタ7下部がサセプタ支持部材8に接触して、サセプタ支持部材8の上にサセプタ7が搭載される。これにより、結晶成長中にルツボ6内の温度分布を緩やかに、かつ、一定に保ってルツボ6を回転させることができる。
【0036】
結晶成長炉1の上部から下部へ向かう方向に沿って配置される複数の外周加熱ヒータ3(3a、3b、3c、3d)は、サセプタ7の周囲を囲むように結晶成長炉1の内部の所定の高さの位置にそれぞれ配置される。複数の外周加熱ヒータ3の設定温度は、結晶成長炉1の上部から下部へ向かう方向に沿って順次、低下するように設定される。
外周加熱ヒータ3は、一例として、炭化ケイ素(SiC)等の材料から形成される抵抗加熱ヒータで構成される。なお、外周加熱ヒータ3は、カーボンヒータ、赤外線加熱ヒータ、RFコイルで加熱した発熱体を2次ヒータとして用いるヒータ等で構成することもできる。
【0037】
断熱材2は、複数の外周加熱ヒータ3の外側を包囲して設けられる。断熱材2を設けることにより、複数の外周加熱ヒータ3が発した熱を、ルツボ6に効率的に伝熱させることができる。一方、断熱材4は、上部の外周加熱ヒータ3a、3bと下部の外周加熱ヒータ3c、3dとの間に所定の温度差を確保するために配置されるが、設置が必ず必要という訳ではない。
断熱材2は、一例として、グラファイトの成型材から構成される。なお、断熱材2は、アルミナ材、グラスウール、耐火レンガ等で構成することもできる。
【0038】
チャンバー11は、ルツボ6と、ルツボ6を収容するサセプタ7と、サセプタ7を保持するサセプタ支持部材8と、複数の外周加熱ヒータ3と、断熱材2及び断熱材4とを密閉する。なお、結晶成長炉1は、チャンバー11内の雰囲気を所定のガス雰囲気に設定する機構と、チャンバー11内の圧力を一定値に保つガス圧制御機構とを有する。
【0039】
また、チャンバー11の外周部には、磁場印加コイル20が巻かれており、このコイル20に通電することで、ルツボ6内の融液5に磁場を印加することができる。第一の結晶成長炉1は、磁場印加コイル20に通電すれば、融液5に磁場を印加しての結晶成長が可能であるが、磁場印加コイル20に通電せず、磁場を印加しない状態で結晶成長を行うことも可能である。
【0040】
第一の結晶成長炉1は、VGF法で化合物半導体結晶の単結晶を成長する。すなわち、結晶成長炉1は、外周加熱ヒータ3の加熱により、ルツボ6内に収容したドーパントを含む原料を所定の温度で融解した融液5を、ルツボ6の底部に設置された種結晶10と接触させた状態で、種結晶10側のルツボ6の下端を、ルツボ6の上端(ルツボ開口部側)よ
りも低温に保持しつつ、融液5の温度を降下させる。ルツボ6内では融解した化合物半導体の原料の融液5が細径部の種結晶10と接触して単結晶の成長を開始し、種結晶10側から結晶成長炉1の上方に向かって融液5が徐々に固化し、化合物半導体の単結晶が成長していく。結晶成長炉1で成長する化合物半導体結晶は、一例として、III−V族化合物
半導体であるGaAsの単結晶である。
【0041】
なお、第一の結晶成長炉1において、化合物半導体の融液5が大気圧以上の解離圧を有する場合、チャンバー11を圧力容器とすることもできる。チャンバー11を圧力容器とすることにより、化合物半導体の融液5が大気圧以上の解離圧を有する場合であっても、液体封止剤9を用いると同時に、チャンバー内を解離圧以上の圧力に設定することにより、融液5の分解等を防止して化合物半導体の単結晶を成長させることができる。
【0042】
また、ルツボ6の全体を石英等から形成されたアンプルに封入することもできる。そして、ルツボ6を封入したアンプルを結晶成長炉1内の所定の位置に設置して、化合物半導体の単結晶を成長することもできる。
【0043】
また、第一の結晶成長炉1においては、複数の外周加熱ヒータ3の設定温度を所定の速度で徐々に低下させて、ルツボ6内の温度を低下させ、ルツボ6内の融液5から単結晶を成長させているが、結晶の成長方法はこれに限られない。例えば、サセプタ支持部材8を回転させながら徐々に降下させることにより単結晶を成長させてもよい。
【0044】
(第二の結晶成長炉)
図2は、第二の結晶成長炉100の概要を示す断面模式図である。
第二の結晶成長炉100は、成長する化合物半導体結晶の原料を収容する容器としてのボート120と、ボート120を収容する石英アンプル150と、石英アンプル150を外周側から加熱する複数の外周加熱部としての外周加熱ヒータ130と、ボート120内の融液160に磁場を印加するための磁場印加コイル200とを備える。
【0045】
石英アンプル150内は、拡散障壁140によって左右の2ゾーンに仕切られており、一方のゾーンにはボート120が設置され、他方のゾーンには石英アンプル150内をV族雰囲気に保つための原料となるV族元素110が設置される。拡散障壁140は石英で形成され、その中央部には連通孔(キャピラリー)が形成されている。石英アンプル150内のV族元素110は、例えばGaAsの結晶成長を行うのであれば、砒素である。
【0046】
ボート120は、化合物半導体結晶の種結晶170を設置する細径の種結晶配置部と、船型の融液収容部とを有する。ボート120の融液収容部は、化合物半導体結晶の原料とp型用又はn型用の所定のドーパントとを所定量ずつ収容する。化合物半導体結晶の原料は、成長する化合物半導体の多結晶である。
ボート120の融液収容部は、その横断面形状が略半円形または台形であり、一例として、上底80mm、下底60mm、高さ50mmの台形に形成される。また、ボート120は、高純度石英から形成される。なお、ボート120は熱分解窒化ホウ素(pBN)から形成することもできる。
【0047】
複数の外周加熱ヒータ130は、結晶成長炉2の長手方向に沿って配置される。この場合に、複数の外周加熱ヒータ130は、石英アンプル150の周囲を囲むようにそれぞれ配置される。
また、複数の外周加熱ヒータ130は、個々のヒータ温度を独立に制御できるように構成されており、ボート120側の高温の結晶成長ゾーン180とV族元素110側の低温のV族元素圧制御ゾーン190との、二つの温度域用のヒータに大別される。そして、複数の外周加熱ヒータ130の設定温度は、V族元素圧制御ゾーン190においては、石英
アンプル150内部の圧力が大気圧と釣り合うように、砒素等のV族元素110を加熱してその蒸気圧を制御する。また、結晶成長ゾーン180においては、ボート120の種結晶170側から、ボートの反対側へ向かう方向に沿って順次、温度が上昇するように設定される。
複数の外周加熱ヒータ130は、一例として、カンタル線等の材料から形成される抵抗加熱ヒータで構成される。なお、複数の外周加熱ヒータ130は、炭化ケイ素(SiC)、カーボンヒータ、赤外線加熱ヒータ等で構成することもできる。
【0048】
更に、ヒータ130の外周部には、磁場印加コイル200が巻かれており、このコイル200に通電することで、ボート120内の融液160に磁場を印加することができる。
第二の結晶成長炉100は、磁場印加コイル200に通電すれば、融液160に磁場を印加しての結晶成長が可能であるが、磁場印加コイル200に通電せず、磁場を印加しない状態で結晶成長を行うことも可能である。
【0049】
第二の結晶成長炉100は、GF法で化合物半導体の単結晶を成長する。すなわち、第二の結晶成長炉100では、ボート120の種結晶配置部に種結晶170を設置すると共に、ボートの融液収容部に化合物半導体結晶の多結晶とドーパントを所定量ずつ収容する。また、石英アンプル150にはV族元素110を収容する。外周加熱ヒータ130の加熱により、ボート120内に収容した原料の融液160を、ボート120の一端に設置された種結晶170と接触させた状態で、種結晶170側のボート120の一端を、ボート120の他端よりも低温に保持しつつ、融液160の温度を降下させて、種結晶170側からボート120の他端に向けて融液160を徐々に固化させることにより、化合物半導体の単結晶を成長する。第二の結晶成長炉100で成長する化合物半導体結晶は、一例として、III−V族化合物半導体であるGaAsの単結晶である。
【0050】
なお、第二の結晶成長炉100において、化合物半導体の融液160が、大気圧以上の解離圧を有する場合、石英アンプル150および複数の外周加熱ヒータ130を、圧力容
器内に収納することもできる。石英アンプル150を圧力容器に収納することにより、化合物半導体の融液160が大気圧以上の解離圧を有する場合であっても、石英アンプル150の外部圧力を、収納する化合物半導体の融液160の解離圧力と釣り合うように設定することにより、融液160の分解等を防止して化合物半導体の単結晶を成長させることができる。
【0051】
また、第二の結晶成長炉100においては、複数の外周加熱ヒータ130の設定温度を所定の速度で徐々に低下させて、ボート120内の温度を低下させ、ボート120内の融液160から単結晶としての成長結晶を成長させるが、結晶の成長方法はこれに限られない。例えば、ボート120を徐々に移動させることにより成長結晶を成長させてもよい。
【0052】
さらに、第二の結晶成長炉100を、GF法の原型であるブリッジマン法(Bridgman法)、又は加熱ヒータを有する炉体をボート120に対して移動させて結晶成長を行う炉体移動法(Traveling Furnace法:TF法)にも適用することができる。
【0053】
なお、上記の第一の結晶成長炉1および第二の結晶成長炉100では、GaAsの単結晶だけではなく、他のIII−V族化合物半導体結晶を成長することもできる。例えば、結
晶成長炉1を用いて、InP、InAs、GaSb、又はInSb等の化合物半導体の単結晶を成長することができる。また、結晶成長炉1を用いてAlGaAs、InGaAs、又はInGaP等のIII−V族化合物半導体結晶の三元混晶結晶、若しくは、AlGa
InP等のIII−V族化合物半導体結晶の四元混晶結晶の成長にも応用が可能である。
【0054】
また、第一の結晶成長炉1および第二の結晶成長炉100を用いて、ZnSe、CdT
e等のII−VI族化合物半導体結晶、又は、Si、Ge等のIV族半導体結晶の成長をすることもできる。更に、第一の結晶成長炉1を用いて、化合物半導体結晶又は半導体結晶ではない材料の結晶である、金属結晶、酸化物結晶、フッ化物結晶等の結晶を成長することもできる。
【0055】
(実施例1)
本発明の実施例1では、上述した第一の結晶成長炉1を用いて、VGF法により、SiをドープしたGaAsの単結晶成長を行った。
【0056】
ルツボ6は、その直胴部の直径160mm、直胴部の長さ300mmのpBN製のものを用い、まず、ルツボ6の細径部にGaAsの種結晶を収納した。続いて、予め合成した塊状のGaAs多結晶をルツボ6内に24000g充填した。次に、ドーパントとしてシリコンを7.2g、液体封止材9としてBを400gをルツボ6内に添加した。
【0057】
次に、このルツボ6を、グラファイト製のサセプタ7に収容した。更に、このサセプタ7を、サセプタ支持部材8上に搭載した。次に、結晶成長炉1を密閉して、結晶成長炉1内を窒素ガスでガス置換した。これにより、結晶成長炉1内のガス雰囲気は、窒素ガス雰囲気となった。
【0058】
続いて、ルツボ6の回転を開始した。ルツボ6の回転速度は1rpmに設定した。ルツボ6の回転は、サセプタ支持部材8を回転させて行い、結晶成長が終了するまでルツボ6の回転を継続した。また、複数の外周加熱ヒータ3に通電して、ルツボ6の加熱を開始した。ルツボ6の加熱の開始後、所定時間ルツボ6を加熱し続けることにより、ルツボ6内のGaAs多結晶を完全に融解して融液5とした。
【0059】
なお、ルツボ6を加熱する工程で、チャンバー内の雰囲気ガスの体積は膨張する。そこで、チャンバー内の圧力が0.5MPaを超えないように、チャンバー内の圧力を制御し
た。すなわち、本実施例1においては、チャンバー内の圧力が結晶成長中も常に0.5M
Paに保持されるように、自動的かつ連続的にチャンバー内のガス圧を制御した。
【0060】
ルツボ6内のGaAs多結晶を融解させる過程において、ルツボ6内に添加されたBは、GaAs多結晶が融解するより早く軟化した。軟化したBは、透明な水飴状になって融液5の表面を覆った。これにより、GaAsの分解によるAsの揮発を抑制できた。
【0061】
続いて、複数の外周加熱ヒータ3の設定温度を、結晶成長炉1の上から下に行くにつれて低下する温度に設定した。
具体的には、4基の外周加熱ヒータ3のうち最上部に配置されている外周加熱ヒータ3aの設定温度を1290℃に設定し、その下に配置されている外周加熱ヒータ3bの設定温度を1260℃に設定した。更に、断熱材4の下に配置されている外周加熱ヒータ3cの設定温度を1150℃、最下段に配置されている外周加熱ヒータ3dの設定温度を1050℃に設定した。このようにヒータ温度を設定した後、融液5の温度が安定するまで4時間保持した。
【0062】
なお、複数の外周加熱ヒータ3の位置に対するルツボ6の位置は、予め結晶成長炉1内に熱電対を挿入して計測した温度分布に基づいて決定した。具体的には、ルツボ6を保持している間に種結晶10が融解して消失することを防止すべく、GaAsの融点である1238℃の等温線が、種結晶10の上端部分にかかるようにルツボ6を配置した。
【0063】
結晶成長炉1内の温度が安定した後、各外周加熱ヒータ3の設定温度を、0.6deg/h
の速度で降下させた。そして、その状態で6時間放置後、各外周加熱ヒータ3の設定温度の降下速度を0.6deg/hから0.008deg/hの割合でゆっくりと落として行き、最終的に50時間かけて0.2deg/hの降下速度にまで下げて、そのまま6時間放置した。その結果、最上部の加熱ヒータ3aの設定温度は、約1265℃まで下がった。
【0064】
上記の操作により、結晶の成長速度、即ち、結晶と融液の界面の移動速度は、成長開始当初は約4mm/hであったものが、ヒータ温度の降下速度の低下につれて徐々に遅くなり、最終的には約1.5mm/hまで低下した。
【0065】
その後、各加熱ヒータの温度降下を停止し、そこから更に、すべての外周加熱ヒータ3の温度が950℃になるように24時間かけて徐冷し、次いで、複数の外周加熱ヒータ3の温度が400℃になるまで、−20℃/hの速度で複数の外周加熱ヒータ3の温度を低下させた。続いて、複数の外周加熱ヒータ3の通電を停止して、ルツボ6を室温まで冷却した。ルツボ6を室温まで冷却した後、結晶成長炉1から成長結晶5を取り出して観察した結果、全長にわたってGaAsの単結晶であることが確認された。
上記の工程で、連続して20回の結晶成長を実施した。その結果、いずれの結晶成長においても、全長がGaAsの単結晶である結晶を得ることができた。
【0066】
(比較例1)
上記実施例1と比較するための比較例1として、実施例1と同一の第一の結晶成長炉1を用いVGF法により、SiをドープしたGaAsの単結晶成長を行った。
この比較例1における結晶成長作業の手順は、GaAsの融液5を作製して、ヒータ温度を初期の値に設定するところまでは、上記の実施例1と同じである。実施例1と比較例1とが異なるのは、ヒータ温度の降下工程である。次には、このヒータ温度の降下工程を述べる。
【0067】
結晶成長炉1内の温度が安定した後、各外周加熱ヒータ3の設定温度を、0.5deg/hの速度で降下させ、この一定の温度降下速度を保ち、約3日かけて最上部の加熱ヒータ3aの設定温度が1250℃になるまで冷却した。
【0068】
その後、各加熱ヒータの温度降下を停止し、そこから更に、複数の外周加熱ヒータ3の温度が全て950℃になるように24時間かけて徐冷し、次いで、複数の外周加熱ヒータ3の温度が400℃になるまで、−20℃/hの速度で複数の外周加熱ヒータ3の温度を低下させた。続いて、複数の外周加熱ヒータ3の通電を停止して、ルツボ6を室温まで冷却した。
ルツボ6を室温まで冷却した後、結晶成長炉1から成長結晶5を取り出して観察した結果、全長にわたってGaAsの単結晶であることが確認された。
【0069】
(実施例1と比較例1との比較)
上記実施例1の工程で得られた20本のGaAs単結晶の内の1本を選択した。そして、選択した1本のGaAs単結晶の直胴部分に該当する部分をスライスして、(100)面を有する略円形状の複数のウェハを切り出した。次に、切り出したウェハから固化率が0.1置きに該当する位置のウェハを抜き出し、その中央部分のシリコン濃度をSIMS
(二次イオン質量分析法)で測定した。
また、同様に、上記比較例1の工程で得られたGaAs単結晶1本を選択し、そのGaAs単結晶の直胴部分に該当する部分をスライスして、(100)面を有する略円形状の複数のウェハを切り出し、切り出したウェハから固化率が0.1置きに該当する位置のウ
ェハを抜き出し、その中央部分のシリコン濃度をSIMSで測定した。
【0070】
図3に、上記の実施例1及び比較例1で成長したGaAs単結晶における、シンコン濃
度の結晶長手方向の分布をSIMSで測定した結果を示す。
【0071】
比較例1で成長したGaAs単結晶では、通常のシリコンの偏析現象に倣い、シリコン濃度の結晶長手方向の分布は、結晶の後端に行くに従って高濃度になっていた。即ち、固化率が0.1の位置ではシリコン濃度は1.1×1018cm−3であったものが、固化率が0.9の位置ではシリコン濃度は7.1×1018cm−3まで高くなっており、その差は6.0×1018cm−3であった。
【0072】
これに対し、実施例1においては、シリコン濃度の結晶長手方向の分布は、比較例1に比べて変化の度合いが若干緩やかで、固化率が0.1の位置ではシリコン濃度は1.2×1018cm−3であったものが、固化率が0.9の位置ではシリコン濃度は6.4×1018cm−3まで高くなっており、その差は5.2×1018cm−3であった。
【0073】
実施例1と比較例1で、シリコン濃度の値を比較すると、それほど大きな差は無いように見えるが、仮に良品基板のキャリア濃度の仕様(許容範囲)を(2.0±1.0)×1018cm−3とすると、実施例1では歩留りが64.3%であるのに対し、比較例1では
歩留りが61.2%となってしまい、これは、1本の結晶インゴットから得られる良品基
板の枚数に10枚近い開きが出ることを意味している。従って、十分に有意な差が見られると言える。
【0074】
尚、良品基板のキャリア濃度の仕様は、基板の使用条件によって左右される性格のものであるため、その範囲を限定することはできず、従って本発明の効果も数値で表すことは難しいが、偏析の影響を緩和して、結晶成長の初期と後期での不純物濃度分布の差を低減する効果があることは間違いない。
【0075】
(実施例2)
本発明の実施例2では、上述した実施例1と同一の第一の結晶成長炉1を用いVGF法により、SiをドープしたGaAsの単結晶成長を行った。
この実施例2における結晶成長作業の基本的な手順は、上記の比較例1と同じである。実施例2と比較例1とが異なるのは、磁場印加の有無である。実施例2では、融液5を形成した後、磁場印加コイル20に通電し、融液5に0.3T(テスラ)の磁場を印加した
。そして、融液温度が安定してから比較例1と同じ温度降下プログラムでヒータ温度を降下させると同時に印加磁場を減少させ、最上部の加熱ヒータ3aの設定温度が1250℃になると同時に印加磁揚が0Tになるように、約3日かけて徐々に磁場印加コイル20への通電電流を減少させた。その後の結晶冷却プログラムは、比較例1と同一である。
室温まで冷却して取り出した結晶を観察することにより、本実施例で得られたGaAs結晶も、全長にわたって単結晶となっていることが確認された。この結晶中のSi濃度を、実施例1と同様の方法で測定し、比較例1の結果と並べたものが図4である。
実施例2においては、シリコン濃度の結晶長手方向の分布は、比較例1に比べて変化の度合いが若干緩やかで、固化率が0.1の位置ではシリコン濃度は1.2×1018cm−3であったものが、固化率が0.9の位置ではシリコン濃度は6.6×1018cm−3となり、その差は5.4×1018cm−3であった。
【0076】
(実施例3)
本発明の実施例3では、上述した実施例1と同一の第一の結晶成長炉1を用いVGF法により、SiをドープしたGaAsの単結晶成長を行った。
この実施例3における結晶成長作業の手順は、上記の実施例1と同様に行ったが、実施例3と実施例1とが異なるのは、磁場印加の有無である。実施例3では、融液5を形成した後、磁場印加コイル20に通電し、融液5に0.3Tの磁場を印加した。そして、融液
温度が安定してから実施例1と同じプログラムでヒータ温度を降下させると同時に印加磁
場を減少させ、最上部の加熱ヒータ3aの設定温度が1265℃になると同時に印加磁場が0Tになるよう、約2.5日かけて徐々に磁場印加コイル20への通電電流を減少させ
た。その後の結晶冷却プログラムは、実施例1と同一である。
室温まで冷却して取り出した結晶を観察することにより、本実施例で得られたGaAs結晶も、全長にわたって単結晶となっていることが確認された。この結晶中のSi濃度を、実施例1と同様の方法で測定し、比較例1の結果と並べたものが図5である。
実施例3においては、結晶成長中における、実施例1のヒータ温度の降下速度の減少による効果および実施例2の印加磁場の減少による効果とが合わさったことで、シリコン濃度の結晶長手方向の分布は、比較例1に比べて変化の度合いが更に緩やかで、固化率が0.1の位置ではシリコン濃度は1.2×1018cm−3であったものが、固化率が0.9
の位置ではシリコン濃度は6.2×1018cm−3となり、その差は5.0×1018cm−3であった。
【0077】
(実施例4)
本発明の実施例4では、上述した第二の結晶成長炉100を用いて、GF法により亜鉛(Zn)をドープしたGaAsの単結晶成長を行った。
【0078】
まず、幅55mm、直胴部の長さ600mmの石英製のボート120を用い、ボート120の種結晶配置部にGaAsの種結晶170を設置し、融液収容部にGaAsの原料多結晶4000gと、ドーパントとして200mgの亜鉛を収容した。
【0079】
次に、V族元素110として60gの批素を石英アンプル150に収容すると共に、上記GaAs多結晶などを収容したボート120を石英アンプル150に設置した。そして、このアンプル150の内部を、窒素ガスで置換した後、真空排気し、5×10−6torr以下の圧力で封じ切った。
【0080】
続いて、この石英アンプル150を、結晶成長炉2のヒータ130内にセットした。原料のGaAs多結晶を融解するにあたり、先ずはヒータ130の設定温度を610℃とし、石英アンプル150内部の砒素の蒸気圧が大気圧と釣り合うようにした。以後、結晶成長が完了して炉を冷却するまでの間、砒素圧制御ゾーン(V族元素圧制御ゾーン)190のヒータ設定温度は、610℃に保った。
【0081】
次いで、結晶成長ゾーン180のヒータ130を昇温し、原料多結晶を融解してGaAsの融液160を形成した。結晶成長ゾーン180においては、種結晶170が融解してしまわないように、種結晶170側の温度はGaAsの融点である1238℃を超えないように、また、ボート120の種結晶170側とは反対側の端部は、約1270℃になるように、結晶成長ゾーン180の複数のヒータ130のヒータ温度をそれぞれ設定した。その結果、融液160の内部の長手方向の温度分布は、種結晶170側から次第に単調増加するような温度勾配となった。
【0082】
各ヒータ130の温度を設定した後、融液160の内部の温度が安定するまでの間、約4時間放置し、次に、結晶成長ゾーン180の種結晶170側の温度を一定に保ったまま、ボート120の種結晶170側とは反対端の最高温部のヒータ温度の設定値を0.7deg/hの割合で降下させて、結晶成長を開始した。次いで、前記ヒータ温度の設定値の降下速度を、0.005deg/hの割合で下げて行った。結晶成長ゾーンの中央部にあるヒータの設定温度は、各時刻において融液160の内部の長手方向の温度分布が、種結晶側から順に最高温部に向かって単調増加するような温度勾配となるように、その降下速度を設定し、制御した。
【0083】
結晶成長ゾーン180のヒータ温度を降下させることで、GaAs融液160が種結晶
170に接触していた側から順に凝固を始め、GaAsの単結晶が成長して行った。そして、約2.5日かけて融液160が完全に凝固した。
【0084】
上記の操作により、前記ヒータ温度の降下速度は、当初0.7deg/hであったものが、最終的には0.4deg/hまで低下し、結晶の成長速度、即ち、結晶と融液の界面の移動速度は、成長開始当初は約14mm/hであったものが、ヒータ温度の降下速度の低下につれて徐々に遅くなり、最終的には約8mm/hまで低下した。
【0085】
融液の凝固が完了した後は、結晶成長ゾーン180のヒータ温度を100deg/hの割
合で600℃近傍まで冷却し、更に結晶成長ゾーン180並びに砒素圧制御ゾーン190のヒータを切って室温まで冷却した。
【0086】
その後、石英アンプル150から成長した結晶を取り出し観察したところ、全長に渡って単結晶となっていることを確認した。
【0087】
(比較例2)
上記実施例4と比較するための比較例2として、実施例4と同じ第二の結晶成長炉100を用い、GF法によりZnをドープしたGaAsの単結晶成長を行った。
この比較例2における結晶成長作業の手順は、GaAsの融液を作製して、ヒータ温度を初期の値に設定するところまでは、上記の実施例4と同じである。実施例4と比較例2とが異なるのは、ヒータ温度の降下工程である。次には、このヒータ温度の降下工程を述べる。
【0088】
各ヒータ130の温度を設定した後、融液160の内部の温度が安定するまでの間、約4時間放置し、次に、結晶成長ゾーン180の種結晶170側の温度を一定に保ったまま、ボート120の種結晶170側とは反対端の最高温部のヒータ温度の設定値を0.5deg/hの割合で降下させて、結晶成長を行った。結晶成長ゾーン180の中央部にあるヒータの設定温度は、各時刻において融液160の内部の長手方向の温度分布が、種結晶170側から順に最高温部に向かって単調増加するような温度勾配となるように、その温度降下速度を設定し、制御した。
【0089】
結晶成長ゾーン180のヒータ温度を降下させることで、GaAs融液160が種結晶170に接触していた側から順に凝固を始め、GaAsの単結晶が成長して行った。そして、約2.5日かけて融液160が完全に凝固した。次に、結晶成長ゾーン180のヒー
タ温度を100deg/hの割合で600℃近傍まで冷却し、更に結晶成長ゾーン180並
びに砒素圧制御ゾーン190のヒータを切って室温まで冷却した。
【0090】
その後、石英アンプル150から成長した結晶を取り出し観察したところ、全長に渡って単結晶となっていることを確認した。
【0091】
(実施例4と比較例2との比較)
上記実施例4の工程で得られたGaAs単結晶の内の1本を選択し、そのGaAs単結晶の直胴部分に該当する部分をスライスして、(100)面を有する略台形状の複数のウェハを切り出した。次に、切り出したウェハから固化率が0.1置きに該当する位置のウ
ェハを抜き出し、その中央部分の亜鉛濃度をSIMSで測定した。
また、同様に、上記比較例2で得られたGaAs単結晶の1本を選択し、そのGaAs単結晶の直胴部分に該当する部分をスライスして、(100)面を有する略台形状の複数のウェハを切り出した。次に、切り出したウェハから固化率が0.1置きに該当する位置
のウェハを抜き出し、その中央部分の亜鉛濃度をSIMSで測定した。
【0092】
図6に、上記の実施例4及び比較例2で成長したGaAs単結晶における、亜鉛濃度の結晶長手方向の分布をSIMSで測定した結果を示す。
【0093】
比較例2で成長したGaAs単結晶では、通常の亜鉛の偏析現象に倣い、亜鉛濃度の結晶長手方向の分布は、結晶の後端に行くに従って高濃度になっていた。即ち、固化率が0.1の位置では亜鉛濃度は8.0×1017cm−3であったものが、固化率が0.9の位
置では亜鉛濃度は3.6×1018cm−3まで高くなっており、その差は2.8×1018cm−3であった。
【0094】
これに対し、実施例4においては、亜鉛濃度の結晶長手方向の分布は、比較例2に比べて変化の度合いが若干緩やかで、固比率が0.1の位置では亜鉛濃度は1.0×1018cm−3であったものが、固化率が0.9の位置では亜鉛濃度は3.3×1018cm−3まで高くなっており、その差は2.3×1018cm−3であった。
【0095】
実施例4と比較例2とでは、亜鉛濃度の値を比較すると、それほど大きな差は無いように見えるが、この差は、実際の結晶製造現場においては、1本の結晶インゴットから得られる良品基板の枚数に10枚程度の開きが出ることを意味しており、十分に有意な差であると判断される。
【0096】
尚、良品基板の不純物濃度の仕様は、基板の使用条件によって左右される性格のものであるため、その範囲を限定することはできず、従って本発明の効果も数値で表すことは難しいが、偏析の影響を緩和して、結晶の成長初期と後期での不純物濃度分布の差を低減する効果があることは間違いない。
【0097】
(実施例5)
本発明の実施例5では、上述した実施例4と同一の第二の結晶成長炉100を用い、GF法によりZnをドープしたGaAsの単結晶成長を行った。
この実施例5における結晶成長作業の基本的な手順は、上記の比較例2と同じである。実施例5と比較例2とが異なるのは、磁場印加の有無である。実施例5では、融液160を形成した後、磁場印加コイル200に通電し、融液160に0.2T(テスラ)の磁場
を印加した。そして、融液温度が安定してから比較例2と同じプログラムでヒータ温度を降下させると同時に印加磁場を0.003T/hの割合で減少させ、約2.5日かけて融液160が完全に凝固したところで、印加磁場がほぼ0Tになるようにした。その後の結晶冷却プログラムは、比較例2と同一である。
【0098】
室温まで冷却して取り出した結晶を観察することにより、本実施例5で得られたGaAs結晶も、全長にわたって単結晶となっていることが確認された。この結晶中のZn濃度を、実施例4と同様の方法で測定し、比較例2の結果と並べたものが図7である。
実施例5においては、Zn濃度の結晶長手方向の分布は、比較例2に比べて変化の度合いが若干緩やかで、固化率が0.1の位置ではZn濃度は0.9×1018cm−3であったものが、固化率が0.9の位置ではZn濃度は3.5×1018cm−3まで高くなっており、その差は2.6×1018cm−3であった。
【0099】
(実施例6)
本発明の実施例6では、上述した実施例4と同一の第二の結晶成長炉100を用い、GF法によりZnをドープしたGaAsの単結晶成長を行った。
この実施例6における結晶成長作業の基本的な手順は、上記の実施例4と同じである。実施例6と実施例4とが異なるのは、磁場印加の有無である。実施例6では、融液160を形成した後、磁場印加コイル200に通電し、融液160に0.2Tの磁場を印加した
。そして、融液温度が安定してから実施例4と同じプログラムでヒータ温度を降下させる
と同時に印加磁場を0.003T/hの割合で減少させ、約2.5日かけて融液160が完全に凝固したところで、印加磁場がほぼ0Tになるようにした。その後の結晶冷却プログラムは、実施例4と同一である。
【0100】
室温まで冷却して取り出した結晶を観察することにより、本実施例6で得られたGaAs結晶も、全長にわたって単結晶となっていることが確認された。この結晶中のZn濃度を、実施例4と同様の方法で測定し、比較例2の結果と並べたものが図8である。
実施例6においては、Zn濃度の結晶長手方向の分布は、比較例2に比べて変化の度合いが更に緩やかで、固化率が0.1の位置ではZn濃度は1.1×1018cm−3であったものが、固化率が0.9の位置ではZn濃度は3.3×1018cm−3まで高くなっており、その差は2.2×1018cm−3であった。
【0101】
上述したように、本発明の実施例の結晶成長方法によれば、成長した結晶の頭部と尾部の不純物濃度差を小さくすることができる。これにより、成長結晶をスライスして形成される複数の半導体基板間での電気的特性、光学的特性、及び機械的特性等のばらつきが低減する。また、良品基板の取得率が向上し、原料を効率良く使うことができ、製造コストの低減にもつながる。
【0102】
なお、上記実施例では、偏析係数が1よりも小さい不純物を添加した場合の例を述べたが、偏析係数が1よりも大きい不純物を添加した場合にも、同様に適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】実施例の半導体単結晶の製造方法で用いた第一の結晶成長炉の断面の概要図である。
【図2】実施例の半導体単結晶の製造方法で用いた第二の結晶成長炉の断面の概要図である。
【図3】実施例1及び比較例1で成長したGaAs単結晶における、シリコン濃度の結晶長手方向の分布を示すグラフである。
【図4】実施例2及び比較例1で成長したGaAs単結晶における、シリコン濃度の結晶長手方向の分布を示すグラフである。
【図5】実施例3及び比較例1で成長したGaAs単結晶における、シリコン濃度の結晶長手方向の分布を示すグラフである。
【図6】実施例4及び比較例2で成長したGaAs単結晶における、亜鉛濃度の結晶長手方向の分布を示すグラフである。
【図7】実施例5及び比較例2で成長したGaAs単結晶における、亜鉛濃度の結晶長手方向の分布を示すグラフである。
【図8】実施例6及び比較例2で成長したGaAs単結晶における、亜鉛濃度の結晶長手方向の分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0104】
1 第一の結晶成長炉
2 断熱材
3 外周加熱ヒータ
4 断熱材
5 融液
6 ルツボ
7 サセプタ
8 サセプタ支持部材
9 液体封止材
10 種結晶
11 チャンバー
20 磁場印加コイル
100 第二の結晶成長炉
110 V族元素
120 ボート
130 ヒータ
140 拡散障壁
150 石英アンプル
160 融液
170 種結晶
180 結晶成長ゾーン
190 V族元素圧制御ゾーン
200 磁場印加コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物を添加した半導体融液を凝固させて当該半導体の単結晶を成長させる半導体単結晶の製造方法において、
結晶成長の進展につれて、結晶成長速度を徐々に遅くすることを特徴とする半導体単結晶の製造方法。
【請求項2】
不純物を添加した半導体融液を凝固させて当該半導体の単結晶を成長させる半導体単結晶の製造方法において、
結晶成長の進展につれて、前記半導体融液に印加する磁場の磁束密度を徐々に弱くすることを特徴とする半導体単結晶の製造方法。
【請求項3】
不純物を添加した半導体融液を凝固させて当該半導体の単結晶を成長させる半導体単結晶の製造方法において、
結晶成長の進展につれて、結晶成長速度を徐々に遅くすると共に、前記半導体融液に印加する磁場の磁束密度を徐々に弱くすることを特徴とする半導体単結晶の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の半導体単結晶の製造方法において、前記半導体の結晶成長に、垂直温度勾配凝固法または水平温度勾配凝固法を用いたことを特徴とする半導体単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−30868(P2010−30868A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197676(P2008−197676)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】