説明

半導体単結晶の製造装置及び製造方法

【課題】原料融液を収容するルツボ周囲の保温効果を高め、かつルツボの外側に配置された加熱ヒータの発熱量を抑制しても、半導体単結晶の成長速度の高速化と品質の安定化を十分に図ることができる半導体単結晶の製造装置を提供する。
【解決手段】ルツボ11a、11bと、その周囲に配置された加熱ヒータ12とを具備する半導体単結晶の製造装置であって、前記育成炉本体19a内の前記加熱ヒータ12の周囲に保温筒21が配置されており、該保温筒21は内側面に上部と下部とを分ける段差部21aを有し、前記下部21bの内径が前記上部21cの内径よりも大きいものであり、前記育成炉本体19a内において前記加熱ヒータ12の下方かつ前記保温筒21の下部の内側に断熱板22が配置されており、該断熱板22の外径が、前記保温筒21の上部の内径よりも大きく、かつ前記保温筒21の下部の内径よりも小さいものである半導体単結晶の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、CZ法と称することがある)により、シリコン単結晶あるいはGaAs(ガリウム砒素)等の化合物半導体単結晶を育成するための半導体単結晶の製造装置と、その装置を用いて半導体単結晶を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CZ法を用いた一般的な半導体単結晶の製造装置においては、育成炉本体(メインチャンバーとも呼ばれる)の内部に原料融液を収容するルツボを備え、該ルツボの周囲に加熱ヒータを配設し、ルツボ内の原料を融解し、この融解した原料融液の温度を一定に保ちながら、原料融液に種結晶を浸漬してルツボと種結晶を互いに反対方向に回転させつつ、種結晶を上方に引き上げることによって、種結晶の下方に半導体単結晶を育成する。この時、加熱ヒータによる原料融液の加熱を効率良く行い、かつ金属製の育成炉本体の炉壁を加熱ヒータの輻射熱から保護するため、育成炉本体の内部の炉壁付近には黒鉛材等を材料とした断熱材が配置される。この断熱材によって炉壁を保護すると同時に育成炉本体内部を保温し、余分な加熱ヒータの発熱を抑え無駄なく原料融液温度を一定に保持できるようになる。
【0003】
また、近年、半導体単結晶の育成、特に集積回路などの製造に使用するシリコンウエーハの材料となるシリコン単結晶の育成においては、ウエーハ表層部に形成される半導体素子がますます微細化する傾向にあり、単結晶育成時に内部導入されるグローン−イン欠陥(grown−in defect)を極低密度に抑制した結晶を育成する必要がある。そこで、原料融液の上方に冷却筒や断熱リング等の黒鉛部材を配置して、高精度に結晶の冷却速度をコントロールしながら結晶を引き上げる方法が、多く用いられるようになってきている。
【0004】
しかし、結晶冷却速度を制御する方法では、加熱ヒータや原料融液から育成結晶へもたらされる輻射熱を極力抑えなければならないこと、さらに、結晶引上軸方向の温度勾配の形成精度が要求されるなど、育成条件に係る制約が多く、引上速度を高速化させて単結晶育成の生産性改善を図るには一定の限界があった。特に、直径が200mmや300mmを超える大型のシリコン単結晶等の育成では、大型のルツボに100kgを超える原料を充填し溶融した後に、1400℃以上もの高温に育成炉本体内部の雰囲気を保って結晶育成を行う必要がある。その結果、加熱ヒータの発熱量も大きなものとなり、原料融液から引き上げられる単結晶の冷却時においても、この加熱ヒータからの輻射熱が妨げとなって結晶冷却が阻害され、引上速度の劇的な高速化は困難と考えられている。
【0005】
また、上述のような大直径でかつ結晶定径部の長い単結晶を引き上げるために、育成炉本体を大型化して原料配置スペースの拡張を図った半導体単結晶の製造装置を使用することも試みられている。この場合は、育成炉本体の大型化に伴い、その内部空間を効率良く保温することは困難になるので、原料多結晶を溶融する際や、単結晶育成時に原料融液を高温保持するために、加熱ヒータの発熱量を上げざるを得なくなる。
【0006】
そこで断熱板を用い、育成炉下部への熱流出を軽減する方法が考えられている。
例えば、特許文献1には、ルツボの下方に配置する断熱板の積層枚数を変化させることにより単結晶中に取り込まれる酸素濃度を制御する単結晶引き上げ方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、ヒータからの輻射熱を受けてルツボの下方まで熱伝導により熱を伝え、ルツボに向かって輻射熱を放出する熱伝導輻射部材が配置されている結晶引き上げ装置が開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、ルツボの下方に断熱板昇降機構により昇降駆動が可能である断熱板が配置された半導体単結晶の製造装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−235181号公報
【特許文献2】特開2000−53486号公報
【特許文献3】特開2002−326888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような断熱板を備えた半導体単結晶の製造装置において、断熱板と加熱ヒータを個別に昇降機構により昇降させる場合、及び、断熱板と加熱ヒータを一体の昇降機構により昇降させる場合のいずれの場合でも、保温筒と加熱ヒータとの間、保温筒と断熱板との間、及び加熱ヒータと断熱板との間は機械的動作をするために間隔が必要である。このような間隔を有する部分から、加熱ヒータ下部の輻射熱エネルギーがチャンバー底部に容易に漏れ出し、熱効率の低下を招くという問題があった。
【0011】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、原料融液を収容するルツボ周囲の保温効果を高め、かつルツボの外側に配置された加熱ヒータの発熱量(すなわち消費電力)を抑制しても、半導体単結晶の成長速度の高速化と半導体単結晶の品質の安定化を十分に図ることができる半導体単結晶の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、育成炉本体の内部に、少なくとも、ルツボと、該ルツボの周囲に配置された加熱ヒータとを具備し、前記加熱ヒータにより前記ルツボ内に収容した原料融液を加熱しつつ、該原料融液からチョクラルスキー法により半導体単結晶を引き上げて育成する半導体単結晶の製造装置であって、前記育成炉本体内の前記加熱ヒータの周囲に保温筒が配置されており、該保温筒は内側面に上部と下部とを分ける段差部を有し、前記下部の内径が前記上部の内径よりも大きいものであり、前記育成炉本体内において前記加熱ヒータの下方かつ前記保温筒の下部の内側に断熱板が配置されており、該断熱板の外径が、前記保温筒の上部の内径よりも大きく、かつ前記保温筒の下部の内径よりも小さいものであることを特徴とする半導体単結晶の製造装置を提供する。
【0013】
このように構成された半導体単結晶の製造装置であれば、CZ法により半導体単結晶を引上育成・製造するに当たり、育成炉本体内にてルツボの周囲に配置された加熱ヒータの下方に上記規定形状の断熱板を配置したので、ルツボ周囲の保温効果が高まり、加熱ヒータの出力をある程度抑制しても十分な熱量を原料融液に集中できるようになる。これによって、加熱ヒータからの過剰な輻射熱が抑制され、育成する半導体単結晶の冷却効率が高まり、加熱ヒータによる消費電力が減少すると同時に、引上速度のさらなる高速化及び半導体単結晶の品質の安定化を図ることができる。
【0014】
この場合、前記保温筒は、前記下部の肉厚が前記上部の肉厚の30〜70%であることが好ましい。
このように保温筒下部の肉厚を保温筒上部の肉厚の30〜70%とすれば、より効果的に、加熱ヒータ底部からの輻射を遮り、育成炉本体底部への熱エネルギーの流出を防ぐことができる。
【0015】
また、前記断熱板は、前記ルツボとともに断熱板昇降機構により上昇駆動されるものであることが好ましい。
このように断熱板をルツボとともに断熱板昇降機構により上昇駆動されるものとすれば、ルツボの位置によらずルツボ周囲を効率良く保温する状態を常に維持することができる。その結果、単結晶育成工程の全体にわたって、ルツボ周囲の温度分布を適切に維持することが可能となる。
【0016】
この場合、前記加熱ヒータはヒータ昇降機構により昇降駆動が可能であり、前記ヒータ昇降機構が前記断熱板昇降機構に兼用されているものとすることができる。これにより、装置構成の簡略化を図ることができる。
さらにこの場合、前記加熱ヒータと前記断熱板とが共通ベースを介して一体化され、前記ヒータ昇降機構を兼ねる前記断熱板昇降機構は前記共通ベースを昇降駆動するものであるものとすることもできる。これにより、一層簡略な構成を実現できる。
【0017】
また、本発明は、上記のいずれかの半導体単結晶の製造装置を用いて、前記育成炉本体内において、前記加熱ヒータにより前記ルツボ内に収容した原料融液を加熱しつつ、該原料融液からチョクラルスキー法により半導体単結晶を引き上げて育成することにより半導体単結晶を製造することを特徴とする半導体単結晶の製造方法を提供する。
【0018】
上記のいずれかの半導体単結晶の製造装置を用いた半導体単結晶の製造方法であれば、半導体単結晶の製造において、ルツボ周囲の保温効果が高まり、加熱ヒータの出力をある程度抑制しても十分な熱量を原料融液に集中できるようになる。これによって、加熱ヒータからの過剰な輻射熱が抑制され、育成する半導体単結晶の冷却効率が高まり、加熱ヒータの消費電力が減少すると同時に、引上速度のさらなる高速化及び半導体単結晶の品質の安定化を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る半導体単結晶の製造装置であれば、CZ法により半導体単結晶を引上育成・製造する際のルツボ周囲の保温効果が高まり、加熱ヒータの出力をある程度抑制しても十分な熱量を原料融液に集中できるようになる。これによって、加熱ヒータからの過剰な輻射熱が抑制され、育成する半導体単結晶の冷却効率が高まり、加熱ヒータによる消費電力が減少すると同時に、引上速度のさらなる高速化及び半導体単結晶の品質の安定化を図ることができる。また、加熱ヒータの出力をある程度抑制することができるので、加熱ヒータ及びルツボの劣化を抑制することもでき、各部材のライフの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る半導体単結晶の製造装置の実施形態の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る半導体単結晶の製造装置の実施形態の他の一例を示す概略断面図である。
【図3】比較例1で用いた半導体単結晶の製造装置を模式的に示す断面図である。
【図4】比較例2で用いた半導体単結晶の製造装置を模式的に示す断面図である。
【図5】実施例及び比較例の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は種々の半導体単結晶の引き上げについて適用することができる。以下では、主にシリコン単結晶を製造する場合を例に挙げて説明する。
【0022】
図1は、CZ法により半導体単結晶を育成するための、本発明に係る半導体単結晶の製造装置の一実施形態を示す概略断面図である。図1に示される半導体単結晶の製造装置は、半導体単結晶の原料である原料融液13を収容する育成炉本体(メインチャンバーとも言う)19aと、育成炉本体19aに連接して原料融液13から引き上げられた半導体単結晶を保持し取り出すための上部育成炉(プルチャンバーとも言う)19bより構成される。
【0023】
育成炉本体19aの内部中心付近には、原料融液13を収容したルツボ(内側のルツボ)11aが配置され、ルツボ(外側のルツボ)11bの周りに備えられた加熱ヒータ12を発熱させることで原料を融解し、高温の融液として保持している。育成する半導体単結晶17がシリコン単結晶である場合は、原料融液13を直接保持するルツボは石英製ルツボ11aであり、この石英製ルツボ11aは高温で軟化し、また脆く壊れやすいため石英製ルツボ11aの外側は黒鉛製ルツボ11bで覆われている。そして、CZ法による単結晶の育成では、該石英製ルツボ11aと半導体単結晶17を互いに反対方向に回転させながら結晶を成長させることから、この黒鉛製ルツボ11bの下部にはルツボ支持軸16が取り付けられ、育成炉本体19aの外側下部に取り付けられたルツボ回転昇降機構20によって、上下動かつ回転動自在とされている。また、単結晶育成時には、結晶品質を所望のものとするため、原料融液13の融液面を一定に保って操業を行った方が好ましいものであることから、このルツボ回転昇降機構20によって原料融液13の融液面を所望の位置に保持できる機構とされている。
【0024】
また、上部育成炉19bの天井部には、単結晶17を引き上げるためのワイヤ等の引上軸15を巻き出し、巻き取る不図示の引上軸巻き取り機構があり、引上軸巻き取り機構から巻き出された引上軸15の先端には、種結晶14を保持するための種結晶ホルダー15aが備えられている。単結晶17を育成する際には、引上軸巻き取り機構から引上軸15を巻き出し、種結晶14の先端部を原料融液13の融液面に着液して静かに巻き上げることにより、種結晶14の下方に単結晶17を育成するものである。さらに、上部育成炉19bには、炉内に不活性ガスを導入するための不図示のガス供給管やガス供給管に取り付けられているガス流量制御装置によって、炉内に導入する不活性ガス量を調整され、育成炉本体19a底部に設けられた不図示のガス排気管より炉内に導入された不活性ガスが排気される機構とされている。
【0025】
一方、加熱ヒータ12と育成炉本体19aの炉壁の間には、加熱ヒータ12による高温の輻射熱から炉壁を保護し、育成炉本体19aの内部を効率良く保温するために加熱ヒータ12の周囲に保温筒21が設けられ、また育成炉本体19aの底部にも、高温の輻射熱からの炉壁保護と、育成炉本体19a内部の保温のため、さらには、万が一原料融液13がルツボ11aから流出した際に、育成炉本体19aの外に流出しないよう原料融液13を保持する目的として底部断熱材23が備えられている。さらに、上記底部断熱材23と加熱ヒータ12との間において、断熱板22を設けている。これにより、ルツボ11aや加熱ヒータ12から育成炉本体19a下部や底部断熱材23に輻射される熱を遮蔽するようにしている。断熱板22は断熱板昇降機構41によって、上下動することができる。また、単結晶育成時には、結晶品質を所望のものとするため、断熱板昇降機構41によって、断熱板昇降ベース42を介して断熱板22を所望の位置に保持できる機構となっている。
【0026】
そして、本発明に係る半導体単結晶の製造装置では、保温筒21の内側面に上部と下部とを分ける段差部21aを有し、下部21bの内径が上部21cの内径よりも大きいものとする。また、保温筒21は、特に、その本体部の厚みを80mm以上とすることが好ましい。また、保温筒21の下部の肉厚が保温筒21の上部の肉厚の30〜70%となるように保温筒21に段差を形成することが好ましい。段差を形成する位置は原料溶融時から結晶育成時を通しての断熱板22の位置の最上位置以上となる高さとする。
なお、保温筒21は炭素繊維製の本体部を有することが望ましい。
【0027】
また、断熱板22の外径が、保温筒21の上部21cの内径よりも大きく、かつ保温筒21の下部21bの内径よりも小さいものとする。また、特に、断熱板の厚さを50mm以上とすることが好ましい。なお、断熱板22は炭素繊維製の本体部を有することが望ましい。
【0028】
そして、半導体単結晶17の引き上げにおいて、図1に示したように断熱板22の位置を保温筒21の段差部に嵌め合う状態、すなわち、断熱板22を、加熱ヒータ12の下方かつ保温筒21の下部(段差部21aより下)21bの内側に配置した状態することで、結晶育成中の加熱ヒータ12の下部からの輻射熱が直接的に底部断熱材23へ到達することを防ぎ、ヒータ電力を効率良く原料融液13に伝えることができる。
【0029】
このように、保温筒21の段差部と断熱板22を嵌め合い配置とすることで、断熱板22は加熱ヒータ12の口径より大きくなり、加熱ヒータ12の下部からの輻射熱が直接チャンバー下部に到達することなく、保温筒21と断熱板22で直接受け、効率良くルツボ下方に反射することができる。
【0030】
また、本発明においては、半導体単結晶の引上時において加熱ヒータ12を、ルツボ11a、11b及び断熱板22とともにヒータ昇降機構31により、ヒータ昇降ベース32を介して上昇駆動できるようにすることが好ましい。結晶成長による原料融液13の減少に伴いルツボ11a、11bは上昇し、さらに原料融液13を収容したルツボ全体の熱容量も変化するが、加熱ヒータ12をルツボ11a、11bに追随上昇させることにより、加熱ヒータ12の発熱中心をルツボ11a、11bの移動ひいては原料融液13の減少に合わせて移動できるので、より適切な原料融液13の加熱が行えるようになる。
【0031】
また、断熱板22と加熱ヒータ12の移動を組み合わせることにより、より精度よく炉内の温度雰囲気を調整することが可能となり、効率的な原料融液13の加熱を達成できる。
【0032】
図2は、本発明に係る半導体単結晶の製造装置の実施形態の他の一例として、加熱ヒータ12と断熱板22とを共通ベースを介して一体化した態様を示す概略断面図である。
この実施形態では、断熱板22と加熱ヒータ12とを、一体化した昇降機構51により共通ベース(共通の昇降ベース)52を介して駆動するようにしている。断熱板22は酸化アルミニウムや石英ガラス等の絶縁体からなる断熱板支持絶縁体53により支持されており、これにより、加熱ヒータ12への供給電流が断熱板22側へ流れないようにされている。その他の構成は図1に示した半導体単結晶の製造装置の実施形態と同様である。
【0033】
他方、図1に示したように、加熱ヒータ12を、断熱板昇降機構41とは別に設けられたヒータ昇降機構31により、断熱板22とは独立に加熱ヒータ12を昇降駆動する構成とした場合には、原料融液減少に伴うルツボ全体の熱容量変化などにもきめ細かく対応することができ、より精度高く雰囲気温度を制御して高品質の半導体単結晶を引き上げることが可能となる。
【0034】
上記本発明の半導体単結晶の製造装置においては、半導体単結晶の種々の引上パターンを記憶する記憶装置と、該記憶装置に記憶された引上パターンデータに基づき、半導体単結晶の引上に追従してルツボが上昇するように、ルツボ回転昇降機構20の動作制御を行うルツボ上昇制御部と、ルツボの上昇に追従して断熱板22が上昇するように断熱板昇降機構41の動作制御を行う断熱板上昇制御部とを設けておくことができる。さらに、加熱ヒータ12を組み合わせて移動するようにヒータ昇降機構の動作制御を行うヒータ上昇制御部を設けておくことができる。同じ装置を用いる場合であっても、例えば要求される半導体単結晶の寸法や品質レベルにより、半導体単結晶の引上パターンは異なるものが採用される。そこで、半導体単結晶の種々の引上パターンを記憶装置に記憶しておき、必要な引上パターンを随時読み出して装置駆動に適用するとともに、ルツボあるいは断熱板22さらには加熱ヒータ12の上昇駆動を、その読み出された引上パターンデータに基づいて制御するようにすれば、製造する単結晶の品番変更がなされた場合でも容易に対応でき、ひいては種々の品種の単結晶を同じ装置を用いて簡便に製造できる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
本発明の効果を確認するために以下の実験を行った。
【0036】
(実施例1、実施例2)
(1)単結晶の育成条件
図2に示す本発明の半導体単結晶の製造装置を用いて、以下の条件にて直径200mmのシリコン単結晶の育成を行った。
a)原料:多結晶シリコン200kgを口径650mmの石英製ルツボ11aに充填した。
b)育成結晶:直径200mmとした。種結晶14は、結晶軸方向の方位が<100>のものを使用した。
c)断熱板22の厚みが80mmのものを使用した。断熱板22の外径は表1に記載の実施例1及び実施例2の条件とした。
d)加熱ヒータ12:スリット重なり区間の長さが200mmのものを使用した。
e)保温筒21の上部肉厚は90mmのものを使用した。保温筒上部の内径と保温筒下部の内径は、それぞれ、表1に記載の実施例1及び実施例2の条件とした。
f)4000Gの水平磁場を印加して単結晶を育成した。
これらの条件により断熱板22及び加熱ヒータ12を、ルツボ11aの移動に合わせ移動させながら、繰り返し単結晶製造を行った。
【0037】
【表1】

【0038】
以上のシリコン単結晶の製造においては、シリコン単結晶の定径部を育成する際に消費した電力(結晶定径部を形成する際の電力の平均値)は、従来の断熱板を使用した場合(後述する比較例1)に比べ、実施例1及び実施例2ともに10%程度少ない消費電力で単結晶を育成することができた。また、石英製ルツボ11aが長時間にわたり高温加熱されることにより生じるルツボの変形もほとんど観察されず、ルツボへの加熱による負荷が軽減されていることを確認した。
【0039】
(比較例1)
図3に示した半導体単結晶の製造装置を用いて、表1中に併記した条件以外は実施例1、2と略同じ条件で、直径200mmのシリコン単結晶を引き上げた。図3に示した半導体単結晶の製造装置は、図2に示す製造装置から、断熱板と保温筒を嵌め合い配置とならないもの(断熱板72及び保温筒71)に交換したものである。保温筒71に段差はなく、その内径及び断熱板72の外径は、上記表1中に記載の比較例1の条件とした。
【0040】
その結果、結晶定径部の形成時消費電力は実施例1よりも10%程度も高くなっていた。さらに、結晶引き上げ終了後に石英製ルツボ11aの状態を観察したところ、加熱ヒータ12からの輻射熱が増加したことで、ルツボ11aの上方部の一部に加熱により変形したと思われる歪みが認められた。これは、断熱板72と保温筒71の隙間から、チャンバー底部(育成炉本体19aの底部)への熱エネルギーの流出量が増えたことにより加熱ヒータ12の発熱量が増え、原料融液13の直上の雰囲気温度が高温になるためであると考えられる。
【0041】
(比較例2)
図4に示した半導体単結晶の製造装置を用いて、表1中に併記した条件以外は実施例1、2と略同じ条件で、直径200mmのシリコン単結晶を引き上げた。図4に示した半導体単結晶の製造装置は、図2に示す製造装置から、保温筒81に段差を有するが、断熱板82の外形が保温筒81の上部の内径より小さく、保温筒81と断熱板82で重なりができないものに交換したものである。保温筒81の内径及び断熱板82の外径は、上記表1中に記載の比較例2の条件とした。
【0042】
その結果、結晶定径部の形成時消費電力は実施例1よりも約9%も高くなり、比較例1に近い結果であった。さらに、結晶引上げ終了後に石英製ルツボ11aの状態も比較例1と同様にルツボ11aの上方部の一部に加熱により変形したと思われる歪みが認められた。これは、断熱板22を大きくしても断熱板22の外径が保温筒上部の内径より小さく、隙間が形成される場合ではチャンバー底部(育成炉本体19aの底部)への熱エネルギーの流出を防止することができなかったためと考えられる。
【0043】
これらの実施例、比較例の測定結果を、比較例1の値を100%とした場合の値を並記することにより比較し、図5に示した。この図より、断熱板の外径と保温筒上部の内径で重なり合う部分を設けることが、加熱ヒータ底部からの輻射を遮りチャンバー底部へ熱エネルギーの流出を防止することに効果があると考えられる。また、保温筒の肉厚については、断熱板の外径、保温筒の内径、嵌め合い代(保温筒上部の内径と保温筒下部の内径との差)、保温筒段差部肉厚を加味し、保温筒上部の肉厚を80mm以上とし、保温筒下部の肉厚を保温筒上部の肉厚の30〜70%となるように保温筒に段差を形成することが望ましい。
【0044】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0045】
11a…(石英製)ルツボ、 11b…(黒鉛製)ルツボ、 12…加熱ヒータ、
13…原料融液、 14…種結晶、 15…引上軸、 15a…種結晶ホルダー、
16…ルツボ支持軸、 17…半導体単結晶、
19a…育成炉本体、 19b…上部育成炉、 20…ルツボ回転昇降機構、
21、71、81…保温筒、
21a…段差部、 21b…保温筒下部、 21c…保温筒上部、
22、72、82…断熱板、 23…底部断熱材、
31…ヒータ昇降機構、 32…ヒータ昇降ベース、
41…断熱板昇降機構、 42…断熱板昇降ベース、
51…一体昇降機構、 52…共通ベース、53…断熱板支持絶縁体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
育成炉本体の内部に、少なくとも、ルツボと、該ルツボの周囲に配置された加熱ヒータとを具備し、前記加熱ヒータにより前記ルツボ内に収容した原料融液を加熱しつつ、該原料融液からチョクラルスキー法により半導体単結晶を引き上げて育成する半導体単結晶の製造装置であって、
前記育成炉本体内の前記加熱ヒータの周囲に保温筒が配置されており、該保温筒は内側面に上部と下部とを分ける段差部を有し、前記下部の内径が前記上部の内径よりも大きいものであり、
前記育成炉本体内において前記加熱ヒータの下方かつ前記保温筒の下部の内側に断熱板が配置されており、該断熱板の外径が、前記保温筒の上部の内径よりも大きく、かつ前記保温筒の下部の内径よりも小さいものであることを特徴とする半導体単結晶の製造装置。
【請求項2】
前記保温筒は、前記下部の肉厚が前記上部の肉厚の30〜70%であることを特徴とする請求項1に記載の半導体単結晶の製造装置。
【請求項3】
前記断熱板は、前記ルツボとともに断熱板昇降機構により上昇駆動されるものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載に記載の半導体単結晶の製造装置。
【請求項4】
前記加熱ヒータはヒータ昇降機構により昇降駆動が可能であり、前記ヒータ昇降機構が前記断熱板昇降機構に兼用されていることを特徴とする請求項3に記載の半導体単結晶の製造装置。
【請求項5】
前記加熱ヒータと前記断熱板とが共通ベースを介して一体化され、前記ヒータ昇降機構を兼ねる前記断熱板昇降機構は前記共通ベースを昇降駆動するものであることを特徴とする請求項4に記載の半導体単結晶の製造装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の半導体単結晶の製造装置を用いて、前記育成炉本体内において、前記加熱ヒータにより前記ルツボ内に収容した原料融液を加熱しつつ、該原料融液からチョクラルスキー法により半導体単結晶を引き上げて育成することにより半導体単結晶を製造することを特徴とする半導体単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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