説明

半導体基板、半導体装置および半導体基板の製造方法

【課題】ベース基板としてシリコン基板を用い、良好な性能のMSM受光素子(光伝導スイッチ)が製造できる半導体基板を提供する。
【解決手段】表面の全部または一部がシリコン結晶面であるベース基板と、前記ベース基板の上に位置し、前記シリコン結晶面に達する開口を有し、結晶の成長を阻害する阻害体と、前記開口の底部の前記シリコン結晶面の上に位置し、SiGe1−x(0≦x<1)からなる第1結晶層と、前記第1結晶層の上に位置し、前記第1結晶層よりも禁制帯幅が大きいIII−V族化合物半導体からなる第2結晶層と、前記阻害体および前記第2結晶層の上に位置する一対の金属層と、を有し、前記一対の金属層のそれぞれの金属層が、前記第1結晶層および前記第2結晶層とそれぞれ接触している半導体基板を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板、半導体装置および半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、MSM(金属−半導体−金属)構造の受光素子およびその製造方法が記載されている。当該受光素子の光吸収層としてノンドープのInGaAsからなる層が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−340481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
MSM構造の受光素子に要求される特性として、高速応答性(高周波応答性)がある。高速応答性を高めるには、光吸収層のキャリア移動度を高めることが有効であり、その観点から結晶性が良好なIII-V族化合物半導体を光吸収層に適用することが望ましい。また、結晶性が良好なIII-V族化合物半導体の製造コストを低くする観点から、ベース基板としてシリコン基板を用いることが好ましい。本発明の目的は、ベース基板としてシリコン基板を用い、良好な性能のMSM受光素子(光伝導スイッチ)が製造できる半導体基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、表面の全部または一部がシリコン結晶面であるベース基板と、前記ベース基板の上に位置し、前記シリコン結晶面に達する開口を有し、結晶の成長を阻害する阻害体と、前記開口の底部の前記シリコン結晶面の上に位置し、SiGe1−x(0≦x<1)からなる第1結晶層と、前記第1結晶層の上に位置し、前記第1結晶層よりも禁制帯幅が大きいIII−V族化合物半導体からなる第2結晶層と、前記阻害体および前記第2結晶層の上に位置する一対の金属層と、を有し、前記一対の金属層のそれぞれの金属層が、前記第1結晶層および前記第2結晶層とそれぞれ接触している半導体基板を提供する。なお、開口の底部のシリコン結晶面は、開口により露出されたシリコン結晶面を意味する。
【0006】
前記第2結晶層の上に位置し、前記一対の金属層を互いに電気的に分離する絶縁部をさらに有してもよく、この場合、前記絶縁部が、前記金属層を構成する金属原子の酸化物または窒化物からなるものであってもよい。前記絶縁部の短辺の長さとして、1μm以下が挙げられる。前記金属層を構成する材料として、チタン、ニオブ、クロム、アルミニウム、ハフニウム、およびジルコニウムからなる群から選ばれた単一原子からなる金属または前記群から選ばれた2以上の原子からなる合金が挙げられる。前記阻害体が、前記開口を複数有してもよく、この場合、複数の前記開口のそれぞれに前記第1結晶層および前記第2結晶層を有し、複数の前記第1結晶層および複数の前記第2結晶層のそれぞれに前記一対の金属層を有するものであってもよい。
【0007】
本発明の第2の態様においては、上記した半導体基板を有し、前記第1結晶層および前記第2結晶層を光伝導層とし、前記一対の金属層を一対の電極とする光伝導スイッチを有する半導体装置を提供する。
【0008】
前記阻害体が、前記光伝導スイッチが位置する前記開口とは異なる位置に他の開口を有してよく、この場合、前記他の開口に位置する前記第1結晶層および前記第2結晶層と、前記他の開口に位置する前記第2結晶層またはその上に形成された他の結晶層を活性層とする能動素子と、をさらに有してよく、前記光伝導スイッチと前記能動素子とが、前記阻害体の上に位置する配線で相互に接続されていてもよい。
【0009】
前記した半導体基板の前記阻害体が複数の前記開口を有し、複数の前記開口のそれぞれに前記第1結晶層および前記第2結晶層を有し、複数の前記第1結晶層および複数の前記第2結晶層のそれぞれに前記一対の金属層を有する場合、半導体装置は、前記複数の第1結晶層および前記複数の第2結晶層のそれぞれを光伝導層とし、前記複数の一対の金属層のそれぞれを一対の電極とする、複数の光伝導スイッチを有してよく、前記複数の光伝導スイッチがアレイ状に配置されていてもよい。
【0010】
前記阻害体が、前記複数の光伝導スイッチが位置する前記複数の開口とは異なる位置に複数の他の開口を有してもよく、この場合、前記複数の他の開口のそれぞれに位置する複数の前記第1結晶層および前記第2結晶層と、前記複数の他の開口のそれぞれに位置する前記第2結晶層またはその上に形成された他の結晶層を活性層とする複数の能動素子と、をさらに有してよく、前記複数の光伝導スイッチのそれぞれと前記複数の能動素子のそれぞれとが、前記阻害体の上に位置する複数の配線でそれぞれ相互に接続されていてもよい。
【0011】
本発明の第3の態様においては、表面の全部または一部がシリコン結晶面であるベース基板上に阻害体を形成するステップと、前記阻害体に、前記シリコン結晶面に達する開口を形成するステップと、前記開口の底部の前記シリコン結晶面の上に、SiGe1−x(0≦x<1)からなる第1結晶層をエピタキシャル法により形成するステップと、前記第1結晶層の上面に、前記第1結晶層よりも禁制帯幅が大きいIII−V族化合物半導体からなる第2結晶層をエピタキシャル法により形成するステップと、前記阻害体および前記第2結晶層の上面に、前記第1結晶層の一部に接して、金属層を形成するステップと、を有する半導体基板の製造方法を提供する。
【0012】
前記第2結晶層の上の前記金属層に絶縁部を形成するステップをさらに有してよく、前記絶縁部を形成するステップが、前記金属層の一部を陽極酸化するステップであってもよい。
【0013】
本発明の第4の形態においては、表面の全部または一部がシリコン結晶面であるベース基板上に阻害体を形成するステップと、前記阻害体に、前記シリコン結晶面に達する開口を形成するステップと、前記開口の底部の前記シリコン結晶面の上に、SiGe1−x(0≦x<1)からなる第1結晶層をエピタキシャル成長法により形成するステップと、前記第1結晶層の上面に、前記第1結晶層よりも禁制帯幅が大きいIII−V族化合物半導体からなる第2結晶層をエピタキシャル成長法により形成するステップと、前記第1結晶層および前記第2結晶層に接する一対の金属層を互いに離して形成するステップとを有する半導体基板の製造方法を提供する。互いに離して形成された前記一対の金属層の隙間に絶縁物を埋め込むステップをさらに有してもよい。
【0014】
前記した第3の形態あるいは第4の形態において、前記金属層を形成した後に、前記第1結晶層、前記第2結晶層および前記金属層を含む前記半導体基板の全体を、アニールするステップをさらに有してもよい。前記アニールは、水素、窒素およびアルゴンからなるガス群から選択された1以上のガスを含む雰囲気において、200℃から500℃の範囲の温度で実施することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】半導体基板100の断面を示す。
【図2】半導体基板200の断面を示す。
【図3】半導体基板100または半導体基板200を上面から見た上面図を示す。
【図4】半導体基板200の製造過程における断面を示す。
【図5】半導体基板200の製造過程における断面を示す。
【図6】半導体基板200の製造過程における断面を示す。
【図7】半導体基板200の製造過程における断面を示す。
【図8】半導体基板200の他の例の製造過程における断面を示す。
【図9】半導体基板200のさらに他の例の製造過程における断面を示す。
【図10】半導体基板300の断面を示す。
【図11】実施例の半導体基板のSEM写真を示す。
【図12】実施例のMSM素子の上面から見た顕微鏡写真を示す。
【図13】実施例のMSM素子の入射光エネルギーに対する出力電圧を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、半導体基板100の断面を示す。半導体基板100は、ベース基板102と、阻害体104と、第1結晶層106と、第2結晶層108と、一対の金属層110と、を有する。
【0017】
ベース基板102は、表面の全部または一部がシリコン結晶面102aである。表面の全部または一部がシリコン結晶である基板として、シリコン基板、SOI(Silicon on Insulator)基板が挙げられる。ベース基板102としてシリコン基板が好ましい。ベース基板102として表面の全部または一部がシリコン結晶である基板を用いることで、高価な化合物半導体結晶基板を用いる必要がない。また、ベース基板102としてシリコン基板を用いることで、シリコンウェハプロセスで用いられている既存の製造装置および既存の製造プロセスが利用でき、更に化合物半導体基板に比べて大口径の基板を用いことができるので、製造コストを低くすることができる。
【0018】
阻害体104は、ベース基板102の上に位置し、シリコン結晶面102aに達する開口104aを有する。阻害体104は、結晶の成長を阻害する。阻害体104として、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウム等が挙げられる。開口104aのサイズは30μm以下が好ましい。ここで、「開口104aのサイズ」とは、開口104aがベース基板102を露出する領域が正方形の場合はその一辺の長さであり、長方形の場合はその短辺の長さであり、楕円形の場合はその短辺の長さであり、円形の場合はその直径である。
【0019】
第1結晶層106は、開口104aの底部のシリコン結晶面102aの上に位置し、SiGe1−x(0≦x<1)からなる。第1結晶層106は、好ましくはGeからなる。第1結晶層106は、30μm以下の小さな開口104aの内部に形成されるので、結晶欠陥が少なく、多くの場合無欠陥で形成される。この結果、第1結晶層106の品質が高まるとともに、第1結晶層106の上に形成される第2結晶層108の欠陥を少なくし、あるいは無くし、第2結晶層108の品質を高めることができる。第1結晶層106は、シリコン結晶面102aの上に直接成長させてもよく、Siバッファ層またはSiGeバッファ層を介して成長させてもよい。
【0020】
第1結晶層106は、阻害体104におけるベース基板102と接する面と反対の面に対して突出している。つまり、第1結晶層106の厚みは、阻害体104の厚みよりも大きい。第1結晶層106は、阻害体104に接する面と、ベース基板102に接する面の反対面との間に、1対の金属層110と接する金属接触面を有する。本例の第1結晶層106は、阻害体104に接する面と、第2結晶層108に接する面との間に、当該金属接触面を有する。当該金属接触面は、第1結晶層106および第2結晶層108の積層方向に対して傾斜を有してもよい。当該金属接触面は、第1結晶層106が阻害体104に接する面と平行な面と、第1結晶層106がベース基板102に接する面と平行な面とを有してもよい。
【0021】
第1結晶層106は、阻害体104におけるベース基板102と接する面と反対の面に対して凹んでいてもよい。つまり、第1結晶層106の厚みは、阻害体104の厚みより小さくてもよい。この場合においても、第1結晶層106は、阻害体104に接する面と、ベース基板102に接する面の反対面との間に、1対の金属層110と接する金属接触面を有する。
【0022】
第2結晶層108は、第1結晶層106の上に位置し、第1結晶層106よりも禁制帯幅が大きいIII−V族化合物半導体からなる。第2結晶層108は好ましくはInGaAlAsPからなる。第2結晶層108は、結晶性のよい第1結晶層106の上に形成されるので、結晶欠陥が少なく、多くの場合無欠陥で形成される。
【0023】
一対の金属層110は、阻害体104および第2結晶層108の上に位置する。そして、一対の金属層110のそれぞれの金属層110は、第1結晶層106および第2結晶層108とそれぞれ接触している。一例として、金属層110は、第1結晶層106の金属接触面、第2結晶層108の側面および第2結晶層108における第1結晶層106に接する面の反対面に接触する。また、一対の金属層110のそれぞれの金属層110は、第2結晶層108上に形成された金属層110間の隙間110aにより分離されている。一対の金属層110は、たとえばフォトリソグラフィ法とエッチング法を用いたパターニングにより形成されてもよく、隙間110aは、当該パターニングの際に形成されてもよい。
【0024】
上記した半導体基板100は、第1結晶層106および第2結晶層108を光伝導層とし、一対の金属層110を一対の電極とすることで、光伝導スイッチとして機能させることができる。なお、以降に説明する他の半導体基板についても、同様に光伝導スイッチとして機能させることができる。
【0025】
半導体基板100においては、一対の金属層110のそれぞれが、第1結晶層106および第2結晶層108とそれぞれ接触している。このため、半導体基板100を用いて光伝導スイッチを構成した場合、第1結晶層106、第2結晶層108の何れか一方の結晶層または両方の結晶層で発生した光励起キャリアが、第1結晶層106および第2結晶層108のどちらの結晶層にも伝導し得る。この結果、半導体基板100を用いて構成した光伝導スイッチは、複数の電流経路を有するので、出力電流の飽和光強度を大きくすることができる。
【0026】
また、半導体基板100においては、第1結晶層106の禁制帯幅が第2結晶層108の禁制帯幅よりも小さい。したがって、第1結晶層106は、第2結晶層108側から入射した光のうち、第2結晶層108で吸収されない波長の光を吸収することができる。その結果、半導体基板100は、一対の金属層110が第1結晶層106および第2結晶層108に接触していることで、一対の金属層110が第2結晶層108にのみ接触している場合に比べて広い波長領域の光を検出することができる。
【0027】
図2は、半導体基板200の断面を示す。半導体基板100は、一対の金属層110のそれぞれを隙間110aで分離した例を示したが、半導体基板200は、絶縁部202を有し、当該絶縁部202でそれぞれの金属層110が分離されている。すなわち、一対の金属層110が、第2結晶層108の上に位置する絶縁部202において電気的に分離されている。
【0028】
絶縁部202は、金属層110を構成する金属原子の酸化物または窒化物からなるものとすることができる。後に説明する金属層110の陽極酸化法を用いる場合、このような絶縁部202が形成できる。絶縁部202は、パターニングにより形成した隙間に絶縁物を埋め込んで形成してもよい。この場合の絶縁物として、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウム等が挙げられ、酸化シリコンが好ましい。酸化シリコンは、蒸着法、スパッタ法等により形成することが容易であり、パターニングすることも容易であり、選択成長させることも容易である。また、酸化シリコンは、シリコン基板を熱酸化することによっても形成することができるので、量産性に優れる。
【0029】
図1における隙間110aまたは図2における絶縁部202の短辺の長さとして、1μm以下が挙げられる。隙間110aまたは絶縁部202の短辺の長さは、100nm以下であることが好ましい。ここで、隙間110aまたは絶縁部202の短辺の長さとは、一対の金属層110のそれぞれの金属層110の間の最短距離に相当する。
【0030】
図1または図2における半導体基板を上面方向から見た場合、隙間110aまたは絶縁部202の平面形状は、長方形または細長い長方形(直線状)であってもよく、図3に示すように、櫛形のようなジグザク状であってもよい。一対の金属層110に電圧をかけた場合に、金属層110間の電界が均一であり、電界が集中する箇所が生じないことが好ましいので、一対の金属層110のそれぞれが互いに対向する面は平行であることが好ましい。隙間110aまたは絶縁部202が図3に示すようにジグザク状である場合、屈曲部402の形状は円弧状であることが好ましい。このような形状を採用することで、隙間110aまたは絶縁部202での局所的な電界集中を抑制することができる。
【0031】
金属層110を構成する材料として、チタン、ニオブ、クロム、アルミニウム、ハフニウムおよびジルコニウムからなる群から選ばれた単一原子からなる金属または前記群から選ばれた2以上の原子からなる合金が挙げられる。金属層110を構成する材料は、好ましくはチタン、ニオブ、クロムからなる群から選ばれた単一原子からなる金属または前記群から選ばれた2以上の原子からなる合金であり、チタンがより好ましい。金属層110は、第1結晶層106および第2結晶層108から選択された少なくとも1つの結晶層とショットキー接合を形成する。金属層110が第2結晶層108とショットキー接合を形成する際、金属層110は第1結晶層106とオーミック接続してよい。
【0032】
図4から図6は、半導体基板200の製造過程における断面を示す。図4に示すように、ベース基板102上に阻害体104を形成し、阻害体104に、シリコン結晶面102aに達する開口104aを形成する。次に、図5に示すように、開口104aの底部のシリコン結晶面102aの上に、SiGe1−x(0≦x<1)からなる第1結晶層106をエピタキシャル成長法により形成する。さらに第1結晶層106の上面に、第1結晶層106よりも禁制帯幅が大きいIII−V族化合物半導体からなる第2結晶層108をエピタキシャル成長法により形成する。
【0033】
第1結晶層106および第2結晶層108のエピタキシャル成長には、CVD(Chemical Vapor Deposition)法またはMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を利用することができる。CVD法において、GeソースにはGeH(ゲルマン)を、SiソースにはSiH(シラン)またはSi(ジシラン)を用いることができる。MOCVD法において、InソースにはTMIn(トリメチルインジウム)を、GaソースにはTMGa(トリメチルガリウム)を、AlソースにはTMAl(トリメチルアルミニウム)を、AsソースにはAsH(アルシン)を、PソースにはPH(ホスフィン)を、GeソースにはtBuGe(ターシャリブチルゲルマン)を、SiソースにはTMeSi(テトラメチルシラン)を用いることができる。キャリアガスには水素を用いることができる。反応温度は、300℃から900℃の範囲で、好ましくは450〜750℃の範囲で適宜選択できる。反応時間を適宜選択することでエピタキシャル成長層の厚さを制御することができる。
【0034】
第2結晶層108の形成の後、図6に示すように、阻害体104および第2結晶層108の上面並びに第1結晶層106の一部に接する金属層110を成膜する。さらに金属層110の一部を陽極酸化する。金属層110の一部の陽極酸化は、プローブ204に負電圧を印加しつつ金属層110の表面に近づけ、プローブ204の先端から金属層110に負電流を流すことで行える。プローブ204への負電圧の印加は、ベース基板102の電位を基準とした負電圧出力の直流電源206により行える。プローブ204を移動することで、酸化領域を決定できる。このような陽極酸化により第2結晶層108の上の金属層110に絶縁部202が形成できる。このようにして図2に示す半導体基板200が製造できる。なお、金属層110を適切にパターニングすることで、金属層110を一対の電極となし、光伝導スイッチとして機能させることもできる。
【0035】
ベース基板102上に形成した阻害体104に開口104aを設け、その開口104aの内部に第1結晶層106を選択エピタキシャル成長法により形成することにより、第1結晶層106の側面に斜めの結晶面が形成されやすく、金属層110との接触を得やすくなる。このため、阻害体104における開口104aの内部に第1結晶層106を選択エピタキシャル成長法により形成することが好ましい。ベース基板102が、(100)面を主面とするSi基板であり、第1結晶層106としてSiGe1−x(0≦x<1)を形成する場合、第1結晶層106の斜めの結晶面として(311)面が形成される。当該(311)面は適度な傾斜を有しており、上記した金属接触面として好適に用いることができる。
【0036】
ここで、「金属層110が第1結晶層106の一部に接する」とは、以下の場合を含む。図7に示すように、第1結晶層106の上面が阻害体104の表面より上になるよう形成され、結果として第1結晶層106の側面106aの少なくとも一部が阻害体104表面より上に形成され、第2結晶層108が第1結晶層106の上面106bに選択成長される場合、金属層110が第1結晶層106の側面106aに接する。このような場合は前記した「一部に接する」場合の一例である。
【0037】
また、図8に示すように、第1結晶層106が開口104a内部において断面が台形状に形成され、第2結晶層108が台形状の第1結晶層106の上面106bに選択成長され、金属層110が台形状の第1結晶層106の底部にまでコンフォーマルに形成される場合、金属層110が台形状の第1結晶層106の側面106aに接する。このような場合も前記した「一部に接する」場合の一例である。
【0038】
さらに、図9に示すように、第1結晶層106の上に第2結晶層108が形成され、第2結晶層108の一部をエッチングにより除去して第1結晶層106の上面の一部106cを露出した場合、エッチングにより露出した第1結晶層106の上面の一部106cに金属層110が接する。このような場合も前記した「一部に接する」場合の一例である。
【0039】
なお、第1結晶層106をアニールすることが好ましい。アニールすることによって結晶品質の良好な第1結晶層106が得られる。また、アニールにより、第1結晶層106の斜めの結晶面の角度を調整でき、阻害体104との間に隙間を形成して、広い面積で金属層110と第1結晶層106とを接触できる。アニールの温度は、ベース基板102として(100)面を主面とするSi基板を用い、第1結晶層106としてSiGe1−x(0≦x<1)を形成する場合、600℃から900℃の範囲であることが好ましい。アニール温度が600℃より低い場合、結晶品質を十分に向上することができず、結晶欠陥が残存するから好ましくなく、アニール温度が900℃を超える場合、第1結晶層106上面の平坦性が得られなくなり、その上に第2結晶層108を高品質で成長させることができなくなるので好ましくない。600℃以上900℃以下であれば結晶品質を向上させることができ、かつ良好な角度で斜めの結晶面が形成できる。
【0040】
また、絶縁部202を形成する他の方法として、第2結晶層108の上の金属層110を2つに分けるように金属層110の一部をエッチング(パターニング)により除去した領域に絶縁部202を形成してもよい。
【0041】
阻害体104に開口104aを形成する際のエッチング工程において、ウェットエッチング法を用いることができる。ウェットエッチング法により、開口104aの形状が急峻でなくなり、第1結晶層106を阻害体104の上にも横方向に成長させることができる。この場合、阻害体104の上に横方向成長した第1結晶層106の側面においても、金属層110との接触を得ることができる。
【0042】
また、第1結晶層106、第2結晶層108および金属層110を形成した後、アニール(シンタリング)することができる。アニール(シンタリング)は水素雰囲気で、200℃〜500℃の温度範囲で行うことが好ましい。当該アニール(シンタリング)により、第2結晶層108と金属層110との接触はショットキー接続を確保しつつ、第1結晶層106と金属層110との接触をオーミック接続にすることができる。第2結晶層108と金属層110との接触をショットキー接続とすることにより、光伝導スイッチとしての感度が向上し、第1結晶層106と金属層110との接触をオーミック接続にすることにより、光伝導スイッチの飽和電流を大きくすることができる。前記したアニール(シンタリング)と同様な効果は、第1結晶層106および第2結晶層108を形成した後、金属層110を形成する前に、第1結晶層106および第2結晶層108の表面を水素ラジカル雰囲気に暴露することによっても得られる。また、第1結晶層106および第2結晶層108を形成した後、金属層110を形成する前の半導体基板をHClまたはHFに浸漬することによっても得られる。
【0043】
図10は、半導体基板300の断面を示す。半導体基板300では、阻害体104が、光伝導スイッチの位置する開口104aとは異なる位置に他の開口104bを有し、他の開口104bの内部に第1結晶層106および第2結晶層108を有する。また、他の開口104bに位置する第2結晶層108の上に形成された他の結晶層302を有し、他の結晶層302を活性層とする能動素子が形成されている。なお、能動素子は第2結晶層108を活性層としてもよい。
【0044】
そして、光伝導スイッチと能動素子とが、阻害体104の上に位置する配線304で相互に接続されている。配線304は、絶縁層306により、他の開口104bに位置する第1結晶層106および第2結晶層108から分離される。配線304は、他の開口104bに位置する第2結晶層108の上でも、絶縁部202により分離されても良い。能動素子として、HEMT(High Electron Mobility Transistor)、HBT(Heterojunction Bipolar Transistor)、HFET(hetero-Field Effect Transistor)等が挙げられる。
【0045】
なお、開口104aに位置する第1結晶層106と、開口104bに位置する第1結晶層106とは、同一のエピタキシャル成長工程により同時に形成されたものであってもよい。また、開口104aに位置する第2結晶層108と、開口104bに位置する第2結晶層108とは、同一のエピタキシャル成長工程により同時に形成されたものであってもよい。第1結晶層106または第2結晶層108を同一のエピタキシャル成長工程により同時に形成することで、光伝導スイッチおよび能動素子を形成する工程を簡略化でき、製造コストを低減することができる。
【0046】
半導体基板300によれば、単一のベース基板102に、光伝導スイッチ(MSM素子)と、トランジスタ等の能動素子を集積化できる。たとえばMSM素子からの信号をトランジスタ等の能動素子で増幅する等の用途に用いることができる。
【0047】
なお、前記した光伝導スイッチ(MSM素子)の構成は、単一のベース基板102に複数有することができる。すなわち、阻害体104が、開口104aを複数有し、複数の開口104aのそれぞれに第1結晶層106および第2結晶層108を有し、複数の第1結晶層106および複数の第2結晶層108のそれぞれに一対の金属層110を有することができる。また、複数の第1結晶層106および複数の第2結晶層108のそれぞれを光伝導層とし、複数の一対の金属層110のそれぞれを一対の電極とする、複数の光伝導スイッチを有することができ、複数の光伝導スイッチをアレイ状に配置することができる。
【0048】
また、図10に示す光伝導スイッチ(MSM素子)とトランジスタ等の能動素子の構成を単一のベース基板102に複数有することができる。すなわち、阻害体104が、複数の開口104aと、複数の開口104aとは異なる位置に複数の他の開口104bとを有し、複数の開口104aのそれぞれに、第1結晶層106および第2結晶層108を光伝導層とする光伝導スイッチが形成され、複数の他の開口104bのそれぞれに、第2結晶層108またはその上に形成された他の結晶層を活性層とする能動素子が形成されてもよい。そして、複数の開口104aに位置する複数の光伝導スイッチのそれぞれと、複数の他の開口104bに位置する複数の能動素子のそれぞれとが、阻害体104の上に位置する複数の配線でそれぞれ相互に接続されてもよい。
【0049】
また、第1結晶層106と第2結晶層108の間に、第1結晶層106および第2結晶層108よりバンドギャップの大きい層を積層することができる。これにより、第2結晶層108だけを光伝導層とする光伝導スイッチとして用いることができる。当該構成においては、第2結晶層108で吸収された光によって発生したフォトキャリアが第1結晶層106に流れ込まないので、第1結晶層106よりも電子キャリアの移動度が高く応答性がよい第2結晶層108を流れる電流だけを検出することができる。したがって、第1結晶層106と第2結晶層108が接する場合に比べて、光伝導スイッチの応答性が向上する。
【0050】
(実施例)
シリコン基板の上に酸化シリコン層を熱酸化法によって形成し、フォトリソグラフィとエッチング法を用いて、酸化シリコン層に30μm□の開口(1辺の長さが30μmの正方形の開口)を形成した。当該開口に2μmの厚さのGe層をエピタキシャル成長法により形成した。Ge層を800℃と680℃の2段階でアニールするサイクルアニール法で10サイクルアニールした後、Ge層の上に500nmの厚さのGaAs層をエピタキシャル成長法により形成した。さらに、6nmの厚さのTi層を真空蒸着法により形成した。その後、AFM(原子間力顕微鏡)プローブを用いてTi層を陽極酸化し、TiOを形成した。
【0051】
図11は、陽極酸化した後のTi層表面を観察したSEM写真である。短辺が150nmの絶縁部(TiO)が形成できていることがわかる。図12は、TiOによる分離でアノードおよびカソードを形成したMSM素子を上面から観察した顕微鏡写真である。精密に素子が形成できていることがわかる。
【0052】
図13は、MSM素子の入射光エネルギーに対する出力電圧の関係を比較例と共に示したグラフである。入射光として波長780nmの光をMSM素子に照射し、このときの入射光エネルギーに対するMSM素子の出力電圧を調べた。その結果、実施例のMSM素子では、800μWの入射光エネルギーまで出力電圧が飽和しないことがわかった。作製したMSM素子の断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、アノード電極およびカソード電極がGe層と接し、かつ互いに離れていることが確認できた。
【0053】
(比較例)
実施例におけるシリコン基板をGaAs基板とした点、および、Ge層を形成することなくGaAs層をエピタキシャル成長法により形成した点を除き、他を実施例と同様としたMSM素子を比較例として作製した。比較例のMSM素子について、実施例1と同様に入射光エネルギーと出力電圧との関係を調べたところ、図13に示すように、200μW以下の入射光エネルギーで出力電圧が飽和した。即ち、実施例のMSM素子における飽和光強度は、比較例のMSM素子における飽和光強度の4倍以上であることがわかった。
【0054】
なお、以下のように実施例に記載の条件を変更できる。すなわち、実施例におけるGaAs層をIn0.48Ga0.52P層とする点を除いて実施例と同様にMSM素子を作製することができる。得られるMSM素子について実施例と同様に入射光エネルギーと出力電圧の関係を調べると、出力電圧の飽和が抑制されていることが分かる。あるいは、実施例におけるGaAs層を1.55μmの波長を吸収端とするInGaAsPとした点を除いて実施例と同様にMSM素子を作製することができる。得られるMSM素子について実施例と同様に入射光エネルギーと出力電圧の関係を調べると、出力電圧の飽和が抑制されていることが分かる。あるいは、実施例におけるTi層をNb層とした点を除いて実施例と同様にMSM素子を作製することができる。得られるMSM素子について実施例1と同様に入射光エネルギーと出力電圧の関係を調べると、出力電圧の飽和が抑制されていることが分かる。あるいは、実施例におけるTi層をCr層とした点を除いて実施例と同様にMSM素子を作製することができる。得られるMSM素子について実施例と同様に入射光エネルギーと出力電圧の関係を調べると、出力電圧の飽和が抑制されていることが分かる。
【符号の説明】
【0055】
100 半導体基板、102 ベース基板、102a シリコン結晶面、104 阻害体、104a 開口、104b 他の開口、106 第1結晶層、106a 側面、106b 上面、106c 一部、108 第2結晶層、110 金属層、110a 隙間、200 半導体基板、202 絶縁部、204 プローブ、206 直流電源、300 半導体基板、302 結晶層、304 配線、306 絶縁層、402 屈曲部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の全部または一部がシリコン結晶面であるベース基板と、
前記ベース基板の上に位置し、前記シリコン結晶面に達する開口を有し、結晶の成長を阻害する阻害体と、
前記開口の底部の前記シリコン結晶面の上に位置し、SiGe1−x(0≦x<1)からなる第1結晶層と、
前記第1結晶層の上に位置し、前記第1結晶層よりも禁制帯幅が大きいIII−V族化合物半導体からなる第2結晶層と、
前記阻害体および前記第2結晶層の上に位置する一対の金属層と、を有し、
前記一対の金属層のそれぞれの金属層が、前記第1結晶層および前記第2結晶層とそれぞれ接触している半導体基板。
【請求項2】
前記第2結晶層の上に位置し、前記一対の金属層を互いに電気的に分離する絶縁部をさらに有し、
前記絶縁部が、前記金属層を構成する金属原子の酸化物または窒化物からなる
請求項1に記載の半導体基板。
【請求項3】
前記絶縁部の短辺の長さが、1μm以下である
請求項1または請求項2に記載の半導体基板。
【請求項4】
前記金属層を構成する材料が、チタン、ニオブ、クロム、アルミニウム、ハフニウムおよびジルコニウムからなる群から選ばれた単一原子からなる金属または前記群から選ばれた2以上の原子からなる合金である
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の半導体基板。
【請求項5】
前記阻害体が、前記開口を複数有し、
複数の前記開口のそれぞれに前記第1結晶層および前記第2結晶層を有し、
複数の前記第1結晶層および複数の前記第2結晶層のそれぞれに前記一対の金属層を有する
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の半導体基板。
【請求項6】
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の半導体基板を有する半導体装置であって、前記第1結晶層および前記第2結晶層を光伝導層とし、前記一対の金属層を一対の電極とする光伝導スイッチを有する半導体装置。
【請求項7】
前記阻害体が、前記光伝導スイッチが位置する前記開口とは異なる位置に他の開口を有し、
前記他の開口に位置する前記第1結晶層および前記第2結晶層と、
前記他の開口に位置する前記第2結晶層またはその上に形成された他の結晶層を活性層とする能動素子と、をさらに有し、
前記光伝導スイッチと前記能動素子とが、前記阻害体の上に位置する配線で相互に接続されている
請求項6に記載の半導体装置。
【請求項8】
請求項5に記載の半導体基板を有する半導体装置であって、前記複数の第1結晶層および前記複数の第2結晶層のそれぞれを光伝導層とし、前記複数の一対の金属層のそれぞれを一対の電極とする、複数の光伝導スイッチを有し、
前記複数の光伝導スイッチがアレイ状に配置されている半導体装置。
【請求項9】
前記阻害体が、前記複数の光伝導スイッチが位置する前記複数の開口とは異なる位置に複数の他の開口を有し、
前記複数の他の開口のそれぞれに位置する複数の前記第1結晶層および前記第2結晶層と、
前記複数の他の開口のそれぞれに位置する前記第2結晶層またはその上に形成された他の結晶層を活性層とする複数の能動素子と、をさらに有し、
前記複数の光伝導スイッチのそれぞれと前記複数の能動素子のそれぞれとが、前記阻害体の上に位置する複数の配線でそれぞれ相互に接続されている
請求項8に記載の半導体装置。
【請求項10】
表面の全部または一部がシリコン結晶面であるベース基板上に阻害体を形成するステップと、
前記阻害体に、前記シリコン結晶面に達する開口を形成するステップと、
前記開口の底部の前記シリコン結晶面の上に、SiGe1−x(0≦x<1)からなる第1結晶層をエピタキシャル成長法により形成するステップと、
前記第1結晶層の上面に、前記第1結晶層よりも禁制帯幅が大きいIII−V族化合物半導体からなる第2結晶層をエピタキシャル成長法により形成するステップと、
前記阻害体および前記第2結晶層の上面に、前記第1結晶層の一部に接して、金属層を形成するステップと、
を有する半導体基板の製造方法。
【請求項11】
前記第2結晶層の上の前記金属層に絶縁部を形成するステップをさらに有し、
前記絶縁部を形成するステップが、前記金属層の一部を陽極酸化するステップである
請求項10に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項12】
表面の全部または一部がシリコン結晶面であるベース基板上に阻害体を形成するステップと、
前記阻害体に、前記シリコン結晶面に達する開口を形成するステップと、
前記開口の底部の前記シリコン結晶面の上に、SiGe1−x(0≦x<1)からなる第1結晶層をエピタキシャル成長法により形成するステップと、
前記第1結晶層の上面に、前記第1結晶層よりも禁制帯幅が大きいIII−V族化合物半導体からなる第2結晶層をエピタキシャル成長法により形成するステップと、
前記第1結晶層および前記第2結晶層に接する一対の金属層を互いに離して形成するステップと
を有する半導体基板の製造方法。
【請求項13】
互いに離して形成された前記一対の金属層の隙間に絶縁物を埋め込むステップをさらに有する
請求項12に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項14】
前記金属層を形成した後に、前記第1結晶層、前記第2結晶層および前記金属層を含む前記半導体基板の全体を、アニールするステップをさらに有する
請求項10から請求項13の何れか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項15】
前記アニールは、水素、窒素およびアルゴンからかるガス群から選択された1以上のガスを含む雰囲気において、200℃から500℃の範囲の温度で実施される
請求項14に記載の半導体基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−199523(P2012−199523A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−42590(P2012−42590)
【出願日】平成24年2月28日(2012.2.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】