説明

半導体封止用ガラス、半導体電子部品及び半導体封止用ガラスセラミックス

【課題】環境にやさしく、半導体電子部品が、常用で1000℃以上の耐熱性を有する半導体封止用ガラスセラミックス及び半導体電子部品を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の半導体封止用ガラスは、半導体とリード線の一部を被覆封止する半導体封止用ガラスであって、該ガラスが、封止することで結晶相を析出し、且つ、結晶相の割合が50体積%以上となる性質を有する結晶性ガラス粉末からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体を封止してその劣化を防止するために使用される半導体封止用ガラス、特に高温で使用可能な半導体を封止するための半導体封止用ガラス、半導体電子部品及び半導体封止用ガラスセラミックスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
サーミスタは、半導体電子部品の一種であり、半導体の電気抵抗値が温度上昇によって低下する(負の温度係数を有する)特性を利用して、その電気抵抗値を計測することによって温度を測定できる半導体電子部品として知られている。
【0003】
特に、ビード型サーミスタ又はガラスサーミスタと呼ばれるサーミスタ10は、図1に示すように、半導体(サーミスタチップ)1と、リード線2と、半導体封止用ガラス3とからなり、半導体封止用ガラス(サーミスタチップ封止用ガラス)3によってサーミスタチップ1とリード線2の一部が被覆封止されているため、高い温度や酸化性雰囲気で使用できる。尚、サーミスタチップ1としては、酸化物系材料や、窒化物、炭化物、ホウ化物及びケイ化物からなる群から選択された少なくとも一種からなる非酸化物系材料があるが、主に特性又は価格から酸化物系材料が広く使用されている。また、リード線2としては、ジュメット線(Cuで被覆されたNi−Fe合金)や白金線が広く用いられている。
【0004】
このようなサーミスタチップ封止用ガラスには、(1)サーミスタチップの電気抵抗特性に影響を与えないように使用温度範囲において、十分に高い体積抵抗値を有すること、(2)リード線やサーミスタチップを封止した際、クラックが発生しないように、ガラスの熱膨張係数がリード線やサーミスタチップのそれと整合すること、(3)リード線の耐熱温度よりも低い温度で封止できることが求められている。
【0005】
従来このような要求に合致するサーミスタチップ封止用ガラスとしては、PbO−SiO2−B23−K2O系の高鉛含有ガラス(例えば、特許文献1参照)や、アルカリホウケイ酸塩ガラス(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【特許文献1】特開平8−67534号公報
【特許文献2】特開2002−37641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、鉛、カドミウム、砒素等の有害成分による環境汚染が問題視され、工業製品にそれらの有害成分を含まないことが要求されている。従って、特許文献1に記載のガラスは有害成分である酸化鉛を50%以上と多量に含むため、環境上使用できない。
【0007】
また、二酸化炭素の削減や酸性雨防止の環境対策の立場から、CO2やNOXの発生を最小限にするために、熱源や発電装置の燃焼システムを最適な運転状態に保つことが要求されている。このように熱源や燃焼システムのガス、油等の燃焼状態を最適にするためには、燃焼システムの温度を直接モニターして自動管理することが必要となる。
【0008】
しかしながら、特許文献1、2に記載のガラスを使用したガラスサーミスタは、耐熱性が低いため、温度が通常500〜600℃、場合によっては700℃以上になる燃焼システム(燃焼室)では封止用ガラスが軟化変形する等の理由から使用できない。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、環境にやさしく、半導体電子部品が、常用で1000℃以上の耐熱性を有する半導体封止用ガラス、半導体電子部品及び半導体封止用ガラスセラミックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の半導体封止用ガラスは、半導体とリード線の一部を被覆封止する半導体封止用ガラスであって、該ガラスが、封止することで結晶相を析出し、且つ、結晶相の割合が50体積%以上となる性質を有する結晶性ガラス粉末からなることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の半導体電子部品は、半導体と、リード線と、半導体封止用ガラスとからなる半導体電子部品において、半導体封止用ガラスが上記の半導体封止用ガラスからなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の半導体封止用ガラスセラミックスは、結晶性ガラス粉末を用いて半導体とリード線の一部を被覆封止することで結晶が析出する半導体封止用ガラスセラミックスにおいて、結晶相の割合が50体積%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、封止する際に、結晶が析出し、しかも、結晶相の割合が50体積%となる性質を有する結晶性ガラスを用いてなるため、高温で長期間に亘って使用しても劣化が少なく、耐熱性に優れた半導体電子部品を得ることができる。それ故、高温で使用可能な半導体を被覆封止するための半導体封止用ガラス、半導体電子部品及び半導体封止用ガラスセラミックスとして好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の半導体封止用ガラスは、半導体及びリード線の一部を封止する際に、結晶相が析出し、しかも、結晶相の割合が50体積%以上となる性質を有する結晶性ガラスからなる。そのため、封止する際に、結晶析出によるガラスの粘度上昇が起こり、結晶析出後の軟化変形温度を封止温度よりも高くすることができ、耐熱性に優れた半導体電子部品を得ることができる。尚、結晶相の割合が50体積%より低いガラスである場合、封止する際に、結晶析出によるガラスの粘度上昇が起こり難く、結晶析出後の軟化変形温度を封止温度よりも高くすることが難しく、結果として、封止温度付近の温度で半導体電子部品として使用した際に、ガラスセラミックスが変形し半導体素子の特性が変動しやすくなる。また、非結晶性ガラスである場合、封止する際に、結晶が析出しないため、ガラスの粘度上昇が起こらないため、封止温度付近の温度で半導体電子部品として使用した際に、ガラスが変形し半導体素子の特性が変動しやすくなる。
【0015】
また、本発明の半導体封止用ガラスは、リード線の耐熱温度よりも低い温度で封止することができ、しかも、結晶析出後の軟化変形温度が1000℃以上となることが好ましい。このような特性を有するガラスにするには、半導体及びリード線の一部を封止する際に、ガラス中からチタン酸ランタノイドまたはディオプサイド(MgCaSi26)の結晶が析出する性質を有するようにすることが好ましい。
【0016】
尚、封止する際に、ガラスからチタン酸ランタノイドの結晶を析出させるには、例えば、質量百分率で、SiO2 10〜35%、Ln23(ランタノイド系酸化物) 5〜35%、TiO2 15〜50%、RO(アルカリ土類金属酸化物) 3〜45%、ZnO 0〜25%、Bi23 0〜30%、ZrO2 0〜25%の組成範囲からなるガラスを使用すればよい。
【0017】
本発明において、チタン酸ランタノイドの結晶が析出するガラスの組成範囲を上記のように限定した理由は次のとおりである。
【0018】
SiO2は、ガラスのネットワークフォーマーとなる成分であり、その含有量は10〜35%である。SiO2の含有量が少なくなると、ガラス化範囲より外れ安定したガラスが得難くなる。一方、含有量が多くなると、封止温度が高くなりすぎ、リード線や半導体が劣化し易くなる。SiO2のより好ましい範囲は15〜25%である。
【0019】
Ln23(ランタノイド系酸化物)は、封止する際に、チタン酸ランタノイド結晶を析出させる成分であり、その含有量は合量で5〜35%である。Ln23含有量が少なくなると、封止する際にチタン酸ランタノイド結晶の析出量が少なくなり、結晶析出後の軟化変形温度を封止温度よりも高くすることが難しく、耐熱性が低下する傾向にある。一方、含有量が多くなると、ガラス成型時に失透しやすくなる。Ln23のより好ましい範囲は10〜30%である。
【0020】
TiO2は、封止する際に、チタン酸ランタノイド結晶を析出させる成分であると共に、ガラスのネットワークフォーマーとなる成分である。その含有量は合量で15〜50%である。TiO2の含有量が少なくなると、封止する際にチタン酸ランタノイド結晶の析出量量が少なくなり、結晶析出後の軟化変形温度を封止温度よりも高くすることが難しく、耐熱性が低下する傾向にある。一方、含有量が多くなると、ガラス成型時に失透しやすくなる。TiO2のより好ましい範囲は15〜40%である。
【0021】
RO(アルカリ土類金属酸化物)は、ガラスの溶融性を向上させる成分であり、その含有量は3〜45%である。ROの含有量が少なくなると、ガラスの溶融性が低下し、ガラスを溶融し難くなる。一方、含有量が多くなると、ガラス成型時に失透しやすくなる。ROのより好ましい範囲は15〜40%である。
【0022】
ZnOは、封止する際に、チタン酸ランタノイド結晶の析出量を増加させると共に、溶解性を向上させる成分である。その含有量は0〜25%である。ZnOの含有量が多くなると、ガラス成型時に失透しやすくなる。ZnOのより好ましい範囲は10〜25%である。
【0023】
Bi23は、ガラスの溶融性を向上させる成分であり、その含有量は0〜30%である。Bi23の含有量が多くなると、封止する際にチタン酸ランタノイド結晶が析出し難くなる。Bi23のより好ましい範囲は0〜15%である。
【0024】
ZrO2は、ガラスの化学的耐久性を高める成分であり、その含有量は0〜25%である。ZrO2の含有量が多くなると、ガラスの溶融性が低下し、ガラスを溶融し難くなる。ZrO2のより好ましい範囲は0〜15%である。
【0025】
また、封止する際に、ガラスからディオプサイド(MgCaSi26)の結晶を析出させるには、例えば、質量百分率で、SiO2 40〜70%、CaO 20〜35%、MgO 11〜30%、Al23 0〜15%、SrO 0〜20%、ZnO 0〜20%、TiO2 0〜20%の組成範囲からなるガラスを使用すればよい。
【0026】
本発明において、ディオプサイド(MgCaSi26)の結晶が析出するガラスの組成範囲を上記のように限定した理由は次のとおりである。
【0027】
SiO2は、ガラスのネットワークフォーマーとなる成分であると共に、封止する際に、ディオプサイド結晶を析出させる成分である。その含有量は40〜70%である。SiO2の含有量が少なくなると、封止する際にディオプサイド結晶の析出量が少なくなり、結晶析出後の軟化変形温度を封止温度よりも高くすることが難しく、耐熱性が低下する傾向にある。また、ガラス化範囲より外れ安定したガラスが得難くなる。一方、含有量が多くなると、封止温度が高くなりすぎ、リード線や半導体が劣化し易くなる。SiO2のより好ましい範囲は42〜65%である。
【0028】
CaOは、封止する際に、ディオプサイド結晶を析出させる成分であり、その含有量は20〜35%である。CaOの含有量が少なくなると、封止する際にディオプサイド結晶の析出量が少なくなり、結晶析出後の軟化変形温度を封止温度よりも高くすることが難しく、耐熱性が低下する傾向にある。一方、含有量が多くなると、ガラス化し難くなる。CaOのより好ましい範囲は20〜30%である。
【0029】
MgOもCaOと同様にディオプサイド結晶を析出させる成分である。その含有量は11〜30%である。MgOの含有量が少なくなると、封止する際にディオプサイド結晶の析出量が少なくなり、結晶析出後の軟化変形温度を封止温度よりも高くすることが難しく、耐熱性が低下する傾向にある。一方、含有量が多くなると、ガラス化し難くなる。MgOのより好ましい範囲は12〜28%である。
【0030】
Al23は結晶性を調整する成分であり、その含有量は0〜15%である。Al23の含有量が多くなると、封止する際にディオプサイド結晶が析出し難くなる。Al23のより好ましい範囲は0.5〜10%である。
【0031】
SrO、ZnO、TiO2は、いずれもガラス化範囲を広げる成分であり、その含有量はそれぞれ0〜20%である。これら成分の含有量が多くなると、結晶性が低下する傾向にあり、封止する際にディオプサイド結晶が析出し難くなる。これら成分のより好ましい範囲はそれぞれ0〜10%である。
【0032】
尚、本発明の半導体封止用ガラスにおいては、鉛、カドミウム、砒素等の有害成分の実質的なガラスへの導入は避けるべきである。本発明で言う「実質的なガラスへの導入を避ける」とは、積極的に原料として用いず不純物として混入するレベルをいい、具体的には、含有量が0.1%以下であることを意味する。
【0033】
次に、本発明の半導体封止用ガラスの製造方法について説明する。
【0034】
本発明の半導体封止用ガラスの製造方法は、ガラスを形成する成分を含有する鉱物や精製結晶粉末を計測混合し、炉に投入する原料を調合する調合混合工程と、原料を溶融ガラス化する溶融工程と、溶融したガラスをフイルム状に成形する成形工程と、ガラスを粉砕、分級する加工工程からなっている。
【0035】
まず、ガラス原料を調合する。原料は、酸化物や炭酸塩など複数の成分からなる鉱物や不純物からなっており、分析値を考慮して調合すればよく、原料は限定されない。これらを重量で計測し、Vミキサーやロッキングミキサー、攪拌羽根のついたミキサーなど規模に応じた適当な混合機で混合することで、投入原料を得ることができる。
【0036】
次に、調合した原料をガラス溶融炉に投入し、ガラス化する。溶融炉は、耐火物や内部を白金で覆った炉が使用され、バーナーによる加熱やガラスへの電気通電によって加熱される。投入された原料は通常1300℃〜1600℃の溶解槽でガラス化される。
【0037】
次いで、水冷ロール成形装置等にてガラスをフイルム状に成型する。フイルム状に成型したガラスはボールミル等により平均粒径が3μm程度になるまで粉砕し、粗大粒子を取り除くため分級を行う。
【0038】
このようにすることで、本発明の半導体封止用ガラスを得ることができる。
【0039】
上記組成を有する本発明の半導体封止用ガラスは、ガラスの軟化点〜1000℃の温度で焼成すると、ガラスからチタン酸ランタノイドまたはディオプサイド(MgCaSi26)の結晶が析出し、結晶相の割合が50体積%以上となる本発明の半導体封止用ガラスセラミックスとなる。そのため、ガラスセラミックスの軟化変形温度が1000℃以上となり、高温で長期間に亘って使用しても劣化を抑えることができる。
【0040】
尚、本発明の半導体封止用ガラスセラミックスは、30〜380℃における熱膨張係数が60〜100×10-7/℃であることが好ましい。このようにすることで、半導体やリード線とガラスセラミックスとの熱膨張係数が近くなり、リード線とサーミスタチップ等の半導体を封止した際、クラックの発生を抑えることができる。ガラスセラミックスの熱膨張係数のより好ましい範囲は70〜90×10-7/℃である。
【0041】
また、500℃における体積抵抗値がlogρで5以上であることが好ましい。このようにすることで、ガラスの体積抵抗値によるサーミスタチップ等の半導体の電気抵抗特性に与える影響を防止することができる。すなわち、500℃でのガラスの体積抵抗値がLogρで5よりも低いと、サーミスタチップ等の半導体がない場所で、リード線間に僅かに電気が流れるようになり、あたかも半導体と平行して抵抗体を有する回路を生じたようになり、半導体電子部品の特性を変化させてしまうからである。
【0042】
さらに、80℃で50質量%の硫酸水溶液に3分間浸漬した際、表面が曇らず、試験前と比較して重量減少がみられない耐酸性の高いガラスであることが好ましい。このようにすることで、サーミスタを燃焼室中で使用しても、NOxやSOxガスによるサーミスタの劣化を抑制することができる。
【0043】
次に、本発明の半導体封止用ガラスの使用方法を説明する。
【0044】
本発明の半導体封止用ガラスは、例えば、スラリー等の形態で使用することができる。
【0045】
スラリーの形態で使用する場合、上記のようにして得た半導体封止用ガラスと共に、バインダー、溶剤等を使用する。スラリー中における半導体封止用ガラスの含有量としては、30〜90質量%程度が一般的である。
【0046】
バインダーは、乾燥後の膜強度を高め、また柔軟性を付与する成分であり、その含有量は、0.1〜30質量%程度が一般的である。バインダーとしては、例えば、ポリビニルブチラール、ポリブチルメタアクリレート、ポリメチルメタアクリレート、ポリエチルメタアクリレート、エチルセルロース等を使用することが可能であり、これらを単独あるいは混合して使用できる。
【0047】
溶剤は材料をスラリー化するための材料であり、その含有量は1〜30質量%程度が一般的である。溶剤としては、例えばトルエン、メチルエチルケトン、ターピネオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオールモノイソブチレート、水等の液体を使用することが可能であり、これらを単独または混合して使用することができる。
【0048】
スラリーの作製は、上記の半導体封止用ガラス粉末、バインダー、溶剤等を用意し、これを所定の割合で混練することにより行うことができる。
【0049】
このようなスラリーを用いて、半導体電子部品を得るには、スラリーをスポイト等を用いて半導体に滴下し、半導体及びリード線の一部を覆い乾燥させる。その後、ガラスの軟化点〜1000℃の温度に加熱することで、ガラス粉末を焼結させて気密封止することで半導体電子部品を得ることができる。このようにすることで、シリコンダイオード、サーミスタ等の小型の半導体電子部品を製造することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0051】
表1及び2は、本発明の実施例(試料No.1〜4及び6〜9)及び比較例(試料No.5及び10)を示すものである。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
表の各試料は、次のようにして調製した。
【0055】
まず、表に示すガラス組成となるように酸化物原料を調合し、ミキサーでよく混合した。次いで、この原料をガラス溶融炉に投入し、1400℃〜1600℃で溶融した後、ロール成型法でフイルム状に成形した。続いて、フイルム状ガラスをボールミルを用いて粉砕後、ふるい分級を行い、平均粒径3μmのガラス粉末を得た。このようにして得られたガラス粉末について、軟化点を測定した。結果を表に示す。
【0056】
次に、得られたガラス粉末をスラリー化し、表に示す封止温度で焼成し、ガラスセラミックスとした。得られた試料について、析出結晶、結晶相の割合、熱膨張係数、体積抵抗値及び軟化変形温度を測定した。これらの結果を表に示す。
【0057】
表から明らかなように、本発明の実施例である試料No.1〜4及び6〜9の各試料は、焼成後にチタン酸ランタノイドまたはディオプサイドの結晶が析出しており、結晶相の割合は60体積%以上であった。また、得られたガラスセラミックスの軟化変形温度は1000℃以上と高かった。そのため、これら試料を用いて半導体電子品を作製し、これらを封止温度付近の温度で使用しても、半導体素子の特性が変動し難いことが予想される。さらに、得られたガラスセラミックスの82〜90×10-7/℃であり、体積抵抗値も8.2以上と高く、要求特性を満足するものであった。
【0058】
これに対して、比較例である試料No.5は、焼成しても、結晶相の割合が20体積%と低く、得られたガラスセラミックスの軟化変形温度は800℃と低かった。また、試料No.10は焼成しても、結晶は析出せず、得られたガラスセラミックスの軟化変形温度も750℃低かった。そのため、試料No.5及び10を用いて半導体電子品を作製し、これらを封止温度付近の温度で使用した際に、この部分が変形して半導体素子の特性が変動しやすくなることが予想される。
【0059】
尚、軟化点については、マクロ型示差熱分析計を用いて測定し、第四の変曲点の値を軟化点とした。
【0060】
析出結晶については、粉末X線回折法により求めた。
【0061】
結晶相の割合については、封止温度での熱処理前後の粉末X線回折のパターンのバックグランドの高さの差より求めた。
【0062】
熱膨張係数については、直径5mm、長さ15mmの円柱状の試料を作製し、ディラトメーターで30〜380℃における平均熱膨張係数を求めた。
【0063】
体積抵抗値については、ASTM C657−78に基づいて100〜350℃の体積抵抗を測定し、500℃の値を外挿して求めた。
【0064】
軟化変形温度については、得られたガラスセラミックス試料を再加熱し、軟化変形が認められない最高温度を求めた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の半導体封止ガラスは、常用で1000℃以上の耐熱性を有するため、サーミスタ、特に、自動車等のエンジン、ボイラー等の用に高温で使用する温度測定用サーミスタとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】サーミスタの構造を示す概略図である。
【符号の説明】
【0067】
1 半導体(サーミスタチップ)
2 リード線
3 半導体封止用ガラス(半導体封止用ガラスセラミックス、半導体封止材料)
10 サーミスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体とリード線の一部を被覆封止する半導体封止用ガラスであって、該ガラスが、封止することで結晶相を析出し、且つ、結晶相の割合が50体積%以上となる性質を有する結晶性ガラス粉末からなることを特徴とする半導体封止用ガラス。
【請求項2】
結晶析出後の軟化変形温度が1000℃以上となる性質を有することを特徴とする請求項1記載の半導体封止用ガラス。
【請求項3】
チタン酸ランタノイド結晶を析出する性質を有することを特徴とする請求項1または2に記載の半導体封止用ガラス。
【請求項4】
質量百分率で、SiO2 10〜35%、Ln23(ランタノイド系酸化物) 5〜35%、TiO2 15〜50%、RO(アルカリ土類金属酸化物) 3〜45%、ZnO 0〜25%、Bi23 0〜30%、ZrO2 0〜25%の組成を含有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の半導体封止用ガラス。
【請求項5】
ディオプサイド(MgCaSi26)結晶を析出する性質を有することを特徴とする請求項1または2に記載の半導体封止用ガラス。
【請求項6】
質量百分率で、SiO2 40〜70%、CaO 20〜35%、MgO 11〜30%、Al23 0〜15%、SrO 0〜20%、ZnO 0〜20%、TiO2 0〜20%の組成を含有することを特徴とする請求項1、2及び5の何れかに記載の半導体封止用ガラス。
【請求項7】
結晶性ガラス粉末を用いて半導体とリード線の一部を被覆封止することで結晶が析出する半導体封止用ガラスセラミックスにおいて、結晶相の割合が50体積%以上であることを特徴とする半導体封止用ガラスセラミックス。
【請求項8】
軟化変形温度が1000℃以上であることを特徴とする請求項7記載の半導体封止用ガラスセラミックス。
【請求項9】
30〜380℃における熱膨張係数が60〜100×10-7/℃であることを特徴とする請求項7または8に記載の半導体封止用ガラスセラミックス。
【請求項10】
500℃における体積抵抗値がlogρで5以上であることを特徴とする請求項7〜9の何れかに記載の半導体封止用ガラスセラミックス。
【請求項11】
結晶相がチタン酸ランタノイド結晶であることを特徴とする請求項7〜10の何れかに記載の半導体封止用ガラスセラミックス。
【請求項12】
結晶性ガラス粉末が、質量百分率で、SiO2 10〜35%、Ln23(ランタノイド系酸化物) 5〜35%、TiO2 15〜50%、RO(アルカリ土類金属酸化物) 3〜45%、ZnO 0〜25%、Bi23 0〜30%、ZrO2 0〜25%の組成を含有するガラスからなることを特徴とする請求項7〜11の何れかに記載の半導体封止用ガラスセラミックス。
【請求項13】
結晶相がディオプサイド(MgCaSi26)結晶であることを特徴とする請求項70〜10の何れかに記載の半導体封止用ガラスセラミックス。
【請求項14】
結晶性ガラス粉末が、質量百分率で、SiO2 40〜70%、CaO 20〜35%、MgO 11〜30%、Al23 0〜15%、SrO 0〜20%、ZnO 0〜20%、TiO2 0〜20%の組成を含有するガラスからなることを特徴とする請求項7〜10及び13の何れかにに記載の半導体封止用ガラスセラミックス。
【請求項15】
半導体と、リード線と、半導体封止用ガラスとからなる半導体電子部品において、半導体封止用ガラスが請求項1〜6の何れかに記載の半導体封止用ガラスであることを特徴とする半導体電子部品。
【請求項16】
請求項1〜6の何れかに記載の半導体封止ガラスと液体を混練し、スラリー状にしたものを半導体及びリード線の一部に塗布した後、焼成してなることを特徴とする請求項15記載の半導体電子部品。
【請求項17】
半導体が、900℃まで測定可能な高温型サーミスタチップであることを特徴とする請求項15または16に記載の半導体電子部品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−120648(P2008−120648A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308703(P2006−308703)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】