説明

半導体微粒子蛍光体、ならびにそれを用いた波長変換部材、発光装置および画像表示装置

【課題】高い発光効率を有する半導体微粒子蛍光体、ならびにそれを用いた波長変換部材、発光装置および画像表示装置を提供する。
【解決手段】本発明は、半導体結晶コアと、半導体結晶コアを被覆するシェル層とを有する半導体微粒子蛍光体であって、下記一般式(1)および一般式(2)を満たし、
Ec´<Ec(shell) (1)
Ev´>Ev(shell) (2)
(式中、Ec(shell)はシェル層の伝導帯下端のエネルギー準位を示し、Ev(shell)はシェル層の価電子帯上端のエネルギー準位を示し、Ec´は半導体微粒子蛍光体の内部への電子の閉じ込め効果により形成される量子準位を示し、Ev´は半導体微粒子蛍光体の内部への正孔の閉じ込め効果により形成される量子準位を示す。)
半導体結晶コアがInNからなり、シェル層がGaNおよびAlNの少なくともいずれかの化合物半導体からなる、半導体微粒子蛍光体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体微粒子蛍光体、ならびに前記半導体微粒子蛍光体を用いた波長変換部材、発光装置および画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで照明分野において、希土類賦活蛍光体が広く用いられてきた。しかし近年、希土類賦活蛍光体に代わり、半導体微粒子蛍光体が注目を集めている。半導体微粒子蛍光体には、希土類賦活蛍光体にはなかった、発光波長を任意に制御できるという特徴がある。このため、半導体微粒子蛍光体を用いた発光装置は、さまざまな発光スペクトルを実現できる。半導体微粒子蛍光体は、演色性が高く効率のよい発光装置の作製を可能にする技術として期待されている。
【0003】
半導体微粒子蛍光体の実用化のためには、発光効率の向上が必要不可欠であり、高効率化のために現在検討が進められている。
【0004】
例えば、特許文献1(国際公開第2007/086267号)には、発光効率の向上のために、発光部である半導体コア粒子の周りが、半導体シェル材料で覆われた、コア/シェル構造の半導体微粒子蛍光体が提案されている。特許文献1では、半導体コア粒子を形成する半導体コア材料より大きなバンドギャップを有する半導体シェル材料を用いることで、発光効率の高い半導体微粒子蛍光体を合成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/086267号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された半導体微粒子蛍光体の高効率化の技術は、半導体シェル材料の条件として、「半導体コア材料よりバンドギャップを大きくすること」のみしか記載されていない。このような条件に基づき合成された半導体微粒子蛍光体は、実用化の観点から、発光効率が十分高くないという問題点があった。
【0007】
本発明は上記のような現状に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、高い発光効率を有する半導体微粒子蛍光体、ならびにそれを用いた波長変換部材、発光装置および画像表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、半導体結晶コアと、半導体結晶コアを被覆するシェル層とを有する半導体微粒子蛍光体であって、下記一般式(1)および一般式(2)を満たし、
Ec´<Ec(shell) (1)
Ev´>Ev(shell) (2)
(式中、Ec(shell)はシェル層の伝導帯下端のエネルギー準位を示し、Ev(shell)はシェル層の価電子帯上端のエネルギー準位を示し、Ec´は半導体微粒子蛍光体の内部への電子の閉じ込め効果により形成される量子準位を示し、Ev´は半導体微粒子蛍光体の内部への正孔の閉じ込め効果により形成される量子準位を示す。)
半導体結晶コアがInNからなり、シェル層がGaNおよびAlNの少なくともいずれかの化合物半導体からなる、半導体微粒子蛍光体である。
【0009】
本発明に係る半導体微粒子蛍光体において好ましくは、シェル層がGaNからなり、前記シェル層の膜厚が1.1nm以上である。
【0010】
本発明に係る半導体微粒子蛍光体において好ましくは、シェル層がAlNからなり、シェル層の膜厚が0.4nm以上である。
【0011】
本発明は、半導体結晶コアと、半導体結晶コアを被覆するシェル層とを有する半導体微粒子蛍光体であって、下記一般式(1)および一般式(2)を満たし、
Ec´<Ec(shell) (1)
Ev´>Ev(shell) (2)
(式中、Ec(shell)はシェル層の伝導帯下端のエネルギー準位を示し、Ev(shell)はシェル層の価電子帯上端のエネルギー準位を示し、Ec´は半導体微粒子蛍光体の内部への電子の閉じ込め効果により形成される量子準位を示し、Ev´は半導体微粒子蛍光体の内部への正孔の閉じ込め効果により形成される量子準位を示す。)
半導体結晶コアがInNからなり、シェル層がZnO、MgOおよびMgSよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物半導体からなる、半導体微粒子蛍光体である。
【0012】
本発明は、半導体結晶コアと、半導体結晶コアを被覆するシェル層とを有する半導体微粒子蛍光体であって、下記一般式(1)および一般式(2)を満たし、
Ec´<Ec(shell) (1)
Ev´>Ev(shell) (2)
(式中、Ec(shell)はシェル層の伝導帯下端のエネルギー準位を示し、Ev(shell)はシェル層の価電子帯上端のエネルギー準位を示し、Ec´は半導体微粒子蛍光体の内部への電子の閉じ込め効果により形成される量子準位を示し、Ev´は半導体微粒子蛍光体の内部への正孔の閉じ込め効果により形成される量子準位を示す。)
半導体結晶コアがInPからなり、シェル層がZnS、ZnSeおよびAlPよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物半導体からなる、半導体微粒子蛍光体である。
【0013】
本発明に係る半導体微粒子蛍光体において好ましくは、シェル層がZnSであり、シェル層の膜厚が0.9nm以上である。
【0014】
本発明に係る半導体微粒子蛍光体において好ましくは、シェル層がZnSeであり、シェル層の膜厚が1.3nm以上である。
【0015】
本発明に係る半導体微粒子蛍光体において好ましくは、シェル層がAlPであり、シェル層の膜厚が3.4nm以上である。
【0016】
本発明は、半導体結晶コアと、該半導体結晶コアを被覆するシェル層とを有する半導体微粒子蛍光体であって、下記一般式(1)および一般式(2)を満たし、
Ec´<Ec(shell) (1)
Ev´>Ev(shell) (2)
(式中、Ec(shell)はシェル層の伝導帯下端のエネルギー準位を示し、Ev(shell)はシェル層の価電子帯上端のエネルギー準位を示し、Ec´は半導体微粒子蛍光体の内部への電子の閉じ込め効果により形成される量子準位を示し、Ev´は半導体微粒子蛍光体の内部への正孔の閉じ込め効果により形成される量子準位を示す。)
半導体結晶コアがInPからなり、シェル層がAlN、MgO、MgS、MgSe、3C−SiCおよび6H−SiCよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物半導体からなる、半導体微粒子蛍光体である。
【0017】
本発明は、半導体結晶コアと、半導体結晶コアを被覆するシェル層とを有する半導体微粒子蛍光体であって、下記一般式(1)および一般式(2)を満たし、
Ec´<Ec(shell) (1)
Ev´>Ev(shell) (2)
(式中、Ec(shell)はシェル層の伝導帯下端のエネルギー準位を示し、Ev(shell)はシェル層の価電子帯上端のエネルギー準位を示し、Ec´は半導体微粒子蛍光体の内部への電子の閉じ込め効果により形成される量子準位を示し、Ev´は半導体微粒子蛍光体の内部への正孔の閉じ込め効果により形成される量子準位を示す。)
半導体結晶コアがCdSeからなり、
シェル層がZnSからなる、半導体微粒子蛍光体である。
【0018】
本発明に係る半導体微粒子蛍光体において好ましくは、シェル層の厚さが1.0nm以上である。
【0019】
本発明は、半導体結晶コアと、半導体結晶コアを被覆するシェル層とを有する半導体微粒子蛍光体であって、下記一般式(1)および一般式(2)を満たし、
Ec´<Ec(shell) (1)
Ev´>Ev(shell) (2)
(式中、Ec(shell)はシェル層の伝導帯下端のエネルギー準位を示し、Ev(shell)はシェル層の価電子帯上端のエネルギー準位を示し、Ec´は半導体微粒子蛍光体の内部への電子の閉じ込め効果により形成される量子準位を示し、Ev´は半導体微粒子蛍光体の内部への正孔の閉じ込め効果により形成される量子準位を示す。)
半導体結晶コアがCdSeからなり、
シェル層がAlN、AlP、GaN、ZnSe、MgO、MgS、MgSeおよび6H−SiCよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物半導体からなる、半導体微粒子蛍光体である。
【0020】
本発明に係る半導体微粒子蛍光体において好ましくは、半導体結晶コアとシェル層との格子不整合率が15%以下である。
【0021】
本発明に係る半導体微粒子蛍光体において好ましくは、半導体結晶コアが、直接遷移型の化合物半導体からなる。
【0022】
本発明に係る半導体微粒子蛍光体において好ましくは、380nm〜780nmの可視光を発光する。
【0023】
本発明に係る半導体微粒子蛍光体において好ましくは、半導体結晶コアの平均粒子径が、ボーア半径の2倍以下である。
【0024】
本発明は、本発明に係る半導体微粒子蛍光体と、透光性部材とを備える、波長変換部材である。
【0025】
本発明は、本発明に係る半導体微粒子蛍光体と、発光素子とを備える、発光装置である。
【0026】
本発明に係る発光装置において好ましくは、発光素子が、半導体発光ダイオード素子または半導体発光レーザダイオード素子である。
【0027】
本発明に係る発光装置において好ましくは、半導体微粒子蛍光体を2種類以上含有する。
【0028】
本発明に係る発光装置において好ましくは、半導体発光素子が青色光を発光し半導体微粒子蛍光体が、少なくとも緑色発光半導体微粒子蛍光体および赤色発光半導体微粒子蛍光体を含有する。
【0029】
本発明は、本発明に係る半導体微粒子蛍光体と、発光素子とを備える、画像表示装置である。
【0030】
本発明に係る画像表示において好ましくは、半導体微粒子蛍光体を2種類または3種類含有する。
【0031】
本発明に係る画像表示において好ましくは、発光素子が、半導体発光ダイオード素子、半導体発光レーザダイオード素子、または、有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0032】
本発明に係る画像表示において好ましくは、半導体発光素子が青色光を発光し、半導体微粒子蛍光体が、少なくとも緑色発光半導体微粒子蛍光体および赤色発光半導体微粒子蛍光体を含有する。
【発明の効果】
【0033】
本発明によると、高い発光効率を有する半導体微粒子蛍光体を提供することができる。さらに、前記半導体微粒子蛍光体を用いることで、発光効率に優れた波長変換部材および発光装置、ならびに画面輝度に優れた画像表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施の形態におけるコア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態におけるコア/マルチシェル構造を有する半導体微粒子蛍光体を示す模式的断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態における半導体微粒子蛍光体を示す模式的断面図、ならびに前記半導体微粒子蛍光体のエネルギーバンド構造および電子と正孔の存在確率を示す図である。
【図4】特許文献1に記載された半導体微粒子蛍光体を示す模式的な断面図、ならびに前記半導体微粒子蛍光体のエネルギーバンド構造および電子と正孔の存在確率を示す図である。
【図5】本発明の一実施の形態における波長変換部材を示す模式的な断面図である。
【図6】本発明の一実施の形態における発光装置を示す模式的な断面図である。
【図7】本発明の一実施の形態における画像表示装置を示す模式的な分解斜視図である。
【図8】本発明の一実施の形態における画像表示装置の液晶部を示す模式的な分解斜視図である。
【図9】本発明の一実施の形態における画像表示装置のカラーフィルタの透過スペクトルを示すグラフである。
【図10】実施例6のシェル層の膜厚と発光効率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0036】
<半導体微粒子蛍光体>
本発明において、半導体微粒子蛍光体とは、励起光の少なくとも一部を吸収して、励起光とは異なる波長の光を発光する機能を有するものを指す。本発明の一実施の形態において、半導体微粒子蛍光体は、発光部である半導体結晶コアが、粒子径が数nm程度の半導体微結晶からなる。このような半導体微結晶は、コロイド粒子、ナノ粒子、または量子ドット等とも呼称される場合がある。以下、本発明における半導体微粒子蛍光体を説明する。
【0037】
(1)半導体微粒子蛍光体の構造
本発明の一実施の形態において、半導体微粒子蛍光体は、半導体結晶コアと、該半導体結晶コアを被覆する1層のシェル層とを有するコア/シェル構造を有することができる。さらに、半導体結晶コアと、該半導体結晶コアを被覆する複数のシェル層とを有するコア/マルチシェル構造を有することもできる。
【0038】
図1は、本発明の一実施の形態におけるコア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体100を示す模式的断面図である。半導体微粒子蛍光体100において、半導体材料からなる半導体結晶コア101の表面は、その少なくとも一部がシェル層102に覆われている。また、シェル層102の表面に、修飾有機化合物103が結合していても良い。
【0039】
図2は、本発明の一実施の形態におけるコア/マルチシェル構造を有する半導体微粒子蛍光体200を示す模式的断面図である。半導体微粒子蛍光体200において、半導体結晶コア201を覆うシェル層202は、さらに別のシェル層203に覆われている。
【0040】
半導体微粒子蛍光体の構造を調べる方法は、公知のいずれの方法も用いることができる。例えば透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)による直接観察によって行うことができる。
【0041】
(1a)半導体結晶コア
本発明の一実施の形態において、半導体結晶コアは、励起光を吸収した際に発生した電子と正孔が再結合する際に発光する機能を有する。従来の希土類賦活蛍光体の発光波長は、該蛍光体を構成する材料に固有の一定の値であった。しかし、半導体微粒子蛍光体においては、発光波長を、半導体結晶コアの粒子径を変化させることにより任意に制御することができる。これは、半導体結晶コアの粒子径をボーア半径の2倍以下まで小さくした場合に、量子閉じ込め効果が生じるためである。ここで、半導体結晶コアの材料の例であるInP、InN、CdSeのボーア半径は、それぞれ、8.3nm、7.0nm、4.9nmである。
【0042】
(1b)シェル層
本発明の一実施の形態において、シェル層は、半導体結晶コアとは異なる材料で構成され、半導体結晶コアの表面の少なくとも一部を覆っている。また、図2に示すように、半導体微粒子結晶体は、複数のシェル層を有することもできる。
【0043】
(1c)修飾有機化合物
本発明の一実施の形態において、半導体微粒子蛍光体は、シェル層表面に修飾有機化合物を有することができる。修飾有機化合物は、半導体微粒子蛍光体の分散性に影響を与える。さらに、修飾有機化合物は、半導体微粒子蛍光体内部への電子の閉じ込め機能、半導体微粒子蛍光体が外界から受ける悪影響からの保護機能、半導体微粒子蛍光体同士の凝集抑制機能などを有する。
【0044】
修飾有機化合物は、半導体微粒子蛍光体のシェル層表面に、配位または結合する特徴を有する。具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などに代表される脂肪酸類、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリデシルホスフィンなどに代表されるアルキルホスフィン類、トリブチルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド、トリデシルホスフィンオキシドなどに代表されるアルキルホスフィンオキシド類、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オレイルアミンなどに代表されるアルキルアミン類、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオールなどに代表されるアルキルチオール類、ならびにピリジンおよびキノリンなど等の窒素含有芳香族化合物類などを用いることが好ましい。
【0045】
(2)半導体微粒子蛍光体のエネルギーバンド構造
本発明に係る半導体微粒子蛍光体は、エネルギーバンド構造に特徴を有する。
【0046】
図3に、本発明の一実施の形態における、コア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体のエネルギーバンド構造を示す。図3において、半導体結晶コアの伝導帯下端のエネルギー準位をEc(core)、シェル層の伝導体下端のエネルギー準位をEc(shell)、半導体結晶コアの価電子帯上端のエネルギー準位をEv(core)、シェル層の荷電子帯のEv(shell)、半導体微粒子蛍光体の内部への電子の閉じ込め効果により形成される量子準位をEc´、半導体微粒子蛍光体の内部への正孔の閉じ込め効果により形成される量子準位をEv´と表記している。なお、本明細書において、量子準位Ec´またはEv´とは、それぞれ室温(25℃)におけるEc以上またはEv以下に存在する複数の量子準位のうち、もっともEcまたはEvに近いものを意味する。また、半導体微粒子蛍光体の表面に付着した修飾有機化合物の電子と正孔のエネルギー準位をそれぞれ、EHOMO、ELUMOと表記している。
【0047】
図3は、半導体結晶コアのエネルギー準位Ec(core)およびEv(core)を、シェル層のエネルギー準位Ec(shell)、Ev(shell)で挟み、さらに、シェル層のエネルギー準位Ec(shell)、Ev(shell)を、修飾有機化合物のエネルギー準位EHOMOおよびELUMOで挟んだエネルギーバンド構造を表している。
【0048】
また、伝導帯のエネルギー障壁高さVcと価電子帯のエネルギー障壁高さVvは、それぞれ以下の式(3)および(4)で表される。
Vc=Ec(shell)−Ec(core)・・・(3)
Vv=Ev(shell)−Ev(core)・・・(4)
また、半導体結晶コアのバンドギャップEg(core)とシェル層のバンドギャップEg(shell)は、それぞれ以下の式(5)および(6)で表される。
Eg(core)=Ec(core)−Ev(core)・・・(5)
Eg(shell)=Ec(shell)−Ev(shell)・・・(6)
特許文献1には、発光効率が高い半導体微粒子蛍光体として、Eg(core)<Eg(shell)であるコア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体が記載されている。前記の条件を満たす半導体微粒子蛍光体は、図4(a)〜(g)に示されるエネルギーバンド構造を有すると考えられる。なお、本明細書において発光効率とは、蛍光体が1つの光子を吸収した際に、どの程度の割合で光子を放出するかを表した指標である。実際の測定においては、「発光光子数/吸収光子数」で計算される。このような発光効率は、内部量子効率(IQE)と呼ばれることもある。
【0049】
本発明者は、半導体微粒子蛍光体が図4(a)に示されるエネルギーバンド構造を有する場合に、発光効率が非常に大きく向上することを見出した。図4(a)に示されるエネルギーバンド構造は、Vc>0、Vv<0を同時に満たし、Vc、Vvの絶対値が両方とも十分大きい。さらに電子の量子準位Ec´、正孔の量子準位Ev´が、上記式(1)および式(2)を同時に満たしている。図4(a)のエネルギーバンド構造を有する半導体微粒子蛍光体の発光効率が高い理由としては、電子および正孔の再結合確率が高くなること、および欠陥準位を介する非発光遷移が抑制されたことが考えられる。以下に、電子および正孔の再結合確率、ならびに欠陥準位を介する非発光遷移の抑制について説明する。
【0050】
(2a)電子および正孔の再結合確率
図4に示される各エネルギーバンド構造における電子および正孔の分布状態を、図4の電子の存在確率および正孔の存在確率の欄に示す。
【0051】
図4(a)は、Vc>0、Vv<0を満たし、かつ上記式(1)および式(2)を満たす、半導体微粒子蛍光体を表している。該半導体微粒子蛍光体においては、伝導体のエネルギー障壁高さ(Vc)および荷電子帯のエネルギー障壁高さ(Vv)の絶対値が大きいため、電子および正孔はシェル層によって閉じ込められ、半導体結晶コアに局在する。
【0052】
一方、図4(b)の半導体微粒子蛍光体は、Vc>0、Vv<0を満たし、かつ上記式(1)および式(2)を満たすが、伝導体のエネルギー障壁高さ(Vc)の絶対値が十分に大きくないため、電子がシェル層に漏れてしまい、電子の存在確率は半導体結晶コアおよびシェル層全体に大きく広がってしまう。
【0053】
同様に、図4(c)の半導体微粒子蛍光体は、Vc>0、Vv<0を満たし、かつ上記式(1)および式(2)を満たすが、荷電子帯のエネルギー障壁高さ(Vv)の絶対値が十分に大きくないため、正孔がシェル層に漏れてしまい、正孔の存在確率は半導体結晶コアおよびシェル層全体に大きく広がってしまう。
【0054】
なお、図4(d)および(e)に示されるようにVc>0、Vv>0の場合や、図(f)および(g)に示されるようにVc<0、Vv<0の場合は、電子または正孔の存在確立がシェル層に局在したり(図4(e)、(g))、半導体結晶コアおよびシェル層全体に大きく広がってしまう(図4(d)、(f))。
【0055】
したがって、電子および正孔の存在確率を、半導体結晶コアに局在させるためには、図4(a)のエネルギーバンド構造を有する必要があることが分かる。
【0056】
電子および正孔が半導体結晶コアに局在している場合、電子と正孔との再結合確率が高くなり、その結果発光しやすくなる。一方、電子または正孔の存在確率が半導体結晶コアおよびシェル層に広がる場合(図4(b)、(c)、(d)、(f))や、電子または正孔がシェル層に局在し、電子と正孔が空間的に分離する場合(図4(e)、(g))は、電子と正孔との再結合が起こりにくくなり、発光効率は低下してしまう。
【0057】
(2b)欠陥準位を介する非発光遷移の抑制
半導体結晶の表面には、多数のダングリングボンドによる欠陥準位が存在する。これらの欠陥準位は、電子や正孔を捕獲して非発光遷移を引き起こす。したがって、欠陥準位を介する電子と正孔との再結合は、半導体微粒子蛍光体の発光効率を下げてしまう。コア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体では、半導体結晶コアの表面をシェル層で覆うことにより、半導体結晶コア表面の欠陥準位を不活性化している。
【0058】
図4(b)〜(g)の半導体微粒子蛍光体では、電子および正孔の少なくともいずれかが、シェル層に浸透してシェル層表面まで到達している。この場合、シェル層表面まで到達した電子や正孔は、欠陥準位により捕獲されてしまう。その結果として、半導体微粒子蛍光体の発光効率が低下する。
【0059】
一方、図4(a)の半導体微粒子蛍光体は、電子および正孔が半導体結晶コアに閉じ込められているため、欠陥準位を介する非発光遷移がほとんど生じない。したがって、半導体微粒子蛍光体の発光効率の低下もほとんど生じない。
【0060】
(3)発光効率を向上させるための条件
本発明の半導体微粒子蛍光体の発光効率をさらに向上させるための方法として、エネルギー障壁高さの大きいシェル層を用い、かつ該シェル層の膜厚を厚くすること、および半導体結晶コアとシェル層との格子不整合を小さくすること、が考えられる。以下に、シェル層のエネルギー障壁高さと膜厚、および半導体結晶コアとシェル層との格子不整合について説明する。
【0061】
(3a)シェル層のエネルギー障壁高さと膜厚
本発明の一実施の形態において、半導体微粒子蛍光体は、伝導体のエネルギー障壁Vcおよび荷電子帯のエネルギー障壁高さVvの絶対値が大きいため、電子および正孔はシェル層によって閉じ込められ、半導体結晶コアに局在している。しかし、この場合においても、トンネル効果により、電子や正孔がシェル層に漏れ、シェル層表面まで到達する現象が起こりえる。シェル層表面まで到達した電子や正孔は、欠陥準位やその他の要因により失活してしまう。結果として、半導体微粒子蛍光体の発光効率が低下する。したがって、トンネル効果により、電子や正孔がシェル層に漏れる確率(トンネル確率)を低くすることが、半導体微粒子蛍光体の発光効率を向上させる観点から好ましい。
【0062】
トンネル確率を低下させる方法としては、(1)伝導帯のエネルギー障壁高さVcおよび荷電子帯のエネルギー障壁高さVvの絶対値を大きくすることのできるシェル層材料を用いること、(2)シェル層の膜厚を厚くすること、が挙げられる。
【0063】
発光効率を高めるためには、電子および正孔のトンネル確率を、1%以下に抑えることが好ましい。
【0064】
シェル層の膜厚の下限値は、電子および正孔のトンネル確率を1%以下に抑えることのできる膜厚であることが、発光効率の観点から好ましい。なお、膜厚の上限値は特に制限されないが、半導体結晶コアとの格子不整合を考慮して設定すると、発光効率をさらに向上させることができるため、より好ましい。この場合、シェル層の膜厚は、半導体結晶コア材料とシェル層材料との間の格子不整合率により異なるが、一般的には1.5nm以下であることが好ましい。
【0065】
好ましいシェル層の膜厚は、半導体結晶コア材料とシェル層材料との組合せによって異なる。コア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体において、シェル層の好ましい膜厚は、InN/AlN半導体微粒子蛍光体では0.4〜1.5nm、InN/GaN半導体微粒子蛍光体では1.1〜1.5nm、InN/ZnO半導体微粒子蛍光体では0.9〜1.5nm、InN/MgO半導体微粒子蛍光体では0.9〜1.5nm、InN/MgS半導体微粒子蛍光体では1.5nm、InP/ZnS半導体微粒子蛍光体では0.9〜1.5nm、InP/ZnSe半導体微粒子蛍光体では1.3〜1.5nm、InP/AlP半導体微粒子蛍光体では3.4nm、InP/AlN半導体微粒子蛍光体では0.5〜1.5nm、InP/MgO半導体微粒子蛍光体では0.8〜1.5nm、InP/MgS半導体微粒子蛍光体では1.4〜1.5nm、InP/MgSe半導体微粒子蛍光体では2.2nm、InP/3C−SiC半導体微粒子蛍光体では2.1nm、InP/6H−SiC半導体微粒子蛍光体では1.4〜1.5nm、CdSe/ZnS半導体微粒子蛍光体では1.0〜1.5nm、CdSe/AlN半導体微粒子蛍光体では0.6〜1.5nm、CdSe/AlP半導体微粒子蛍光体では1.8nm、CdSe/GaN半導体微粒子蛍光体では6.4nm、CeSe/ZnSe半導体微粒子蛍光体では2.6nm、CdSe/MgO半導体微粒子蛍光体では0.9〜1.5nm、CdSe/MgS半導体微粒子蛍光体では2.8nm、CdSe/MgSe半導体微粒子蛍光体では2.4nm、CdSe/6H−SiC半導体微粒子蛍光体では1.4〜1.5nmである。
【0066】
(3b)半導体結晶コアとシェル層との格子不整合
本発明の一実施の形態において、半導体微粒子蛍光体の半導体結晶コア表面のダングリングボンドは、シェル層のダングリングボンドと結合することにより不活性化している。半導体結晶コアの材料とシェル層の材料との格子定数が同じ場合は、両方の材料は格子整合するため、半導体結晶コア表面のダングリングボンドは、全て、シェル層のダングリングボンドと結合する。しかし実際には、異なる材料が、同じ格子定数を有することはほとんどない。したがって、半導体結晶コア材料とシェル層材料とでは異なる格子定数を有する材料を使用することになる。この場合、半導体結晶コアとシェル層との界面では、結合できず余ったダングリングボンドが発生する。このダングリングボンドは欠陥準位を形成し、非発光遷移に寄与する。したがって、発光効率を高めるためには、半導体結晶コア材料およびシェル層材料として、両者の間の格子不整合率が小さい材料を用いることが好ましい。具体的には、該格子不整合率が15%以下の材料を用いることが好ましい。
【0067】
(4)半導体微粒子蛍光体の発光効率を向上させるためのその他の方法
本発明の一実施の形態において、半導体微粒子蛍光体は、半導体結晶コア材料に、直接遷移型の半導体材料を用いることが好ましい。直接遷移型の半導体材料を用いると、間接遷移型の半導体材料を用いた場合よりも、発光効率の高い半導体微粒子蛍光体を実現できる。直接遷移型の半導体材料としては、たとえばInN、InP、InAs、InSb、GaN、GaAs、GaSb、AlN、ZnO、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、およびこれら半導体材料の混晶などが挙げられる。
【0068】
半導体結晶コア材料は、微粒子にした場合に可視光波長領域の光を発光する半導体材料を用いることが好ましい。蛍光体として用いる場合、可視光で発光すると、照度の点で優れた特性を示すためである。微粒子にした場合に可視光波長領域の光を発光する半導体材料としては、たとえば、InN、InP、InAs、InSb、GaP、GaAs、GaSb、AlP、AlAs、AlSb、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、およびこれら半導体材料の混晶などが挙げられる。
【0069】
半導体微粒子蛍光体の材料は、有害性・環境負荷の低い材料であることが好ましい。
シェル層は、半導体結晶コアが外界から受ける悪影響を保護するための保護機能も有していることが好ましい。具体的には、シェル層材料は、水及び酸素を透過しにくい特性を有していると良い。該シェル層を有する半導体微粒子蛍光体は、発光効率が高く製品寿命が長い点で優れている。
【0070】
半導体微粒子蛍光体が修飾有機化合物を有していると、半導体微粒子の液体や固体への分散性を制御することができる。さらに修飾有機化合物は、半導体結晶コアへの電子の閉じ込め機能、半導体微粒子が外界から受ける悪影響からの保護機能、半導体微粒子同士の凝集抑制機能などを有することができる。
【0071】
<半導体微粒子蛍光体を用いたデバイス>
本発明に係る半導体微粒子蛍光体は、優れた発光効率を示す。したがって、該半体微粒子蛍光体を用いると、発光効率などの光学特性に優れたデバイスを実現できる。具体的には、図5に示す波長変換部材、図6に示す発光装置、および図7に示す画像表示装置が例示される。
【0072】
(1)波長変換部材
(1a)波長変換部材の構造
本発明の一実施の形態における波長変換部材を、図5を用いて説明する。図5は、本発明の一実施の形態における波長変換部材500を示す模式的な断面図である。波長変換部材500において、赤色発光半導体微粒子蛍光体501r、緑色発光半導体微粒子蛍光体501g、青色発光半導体微粒子蛍光体501bは透光性材料502中に分散している。
【0073】
波長変換部材500が含有する半導体微粒子蛍光体501の種類は、1種類以上であることが好ましい。波長変換部材を色純度の高い単色で発光させる場合は、半導体微粒子蛍光体501は、発光半値幅の狭い1種類の半導体微粒子蛍光体を用いることが好ましい。半導体微粒子蛍光体501の種類が多くなると、発光の演色性が向上する一方で、発光効率が低下してしまう問題がある。したがって、半導体微粒子蛍光体501の種類は、発光効率の観点から、4種類以下であることが好ましい。
【0074】
透光性材料502には、光源および半導体微粒子蛍光体の発光を吸収しない材料を用いる。さらに、水分及び酸素を透過しない材料を用いることが好ましい。この場合、透光性材料により半導体微粒子蛍光体が水分や酸素により受ける影響を抑制することができるため、該透光性材料を用いた発光装置および画像表示装置は、耐久性が向上する。好ましい透光性材料の材料としては、たとえばシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、尿素樹脂などの透光性樹脂や、酸化アルミニウム、酸化ケイ素(ガラス)、イットリアなどの透光性無機材料などを例示することができる。
【0075】
(1b)波長変換部材の機能
本発明の一実施の形態における波長変換部材の機能を、図5を用いて説明する。波長変換部材500は、入射光503の少なくとも一部を吸収し、入射光とは異なる波長の放射光504を放射する。
【0076】
図5において、波長変換部材500に、入射光503が入射している。入射光503の一部は、半導体微粒子蛍光体501r、501g、501bのシェル層に吸収される。光を吸収した半導体微粒子蛍光体501r、501g、501bは、半導体結晶コアから吸収光とは異なる波長の蛍光を発する。一方、半導体微粒子蛍光体501r、501g、501bに吸収されなかった入射光503は、そのまま波長変換部材を透過する。したがって、波長変換部材が放射する放射光504は、半導体微粒子蛍光体501r、501g、501bの発する蛍光と、透過光を混合した光となる。
【0077】
(2)発光装置
(2a)発光装置の構造
本発明の一実施の形態における発光装置を、図6を用いて説明する。図6は、本発明の一実施の形態における発光装置600を示す模式的な断面図である。
【0078】
発光装置600は、半導体発光ダイオード素子601と半導体微粒子蛍光体602,603とを組み合わせた構造を有する。発光素子601は、プリント配線基板614側から、n側電極609、半導体活性層607、p側電極608が前記の順で積層されてなる。n側電極609は、導電性を有する接着剤611を介して、プリント配線基板614の上面から背面にかけて設けられたn電極部610と電気的に接続されている。一方、p側電極608は、プリント配線基板614の前記n電極部とは異なる位置の上面から背面にかけて設けられたp電極部612と金属ワイヤ613を介して電気的に接続されている。枠605の内側には、複数の半導体微粒子蛍光体602、603が分散された透光性材料606が充填されている。該透光性材料606により半導体発光素子601が封止されている。
【0079】
(2b)発光装置の機能
半導体発光ダイオード素子601からの発光の少なくとも一部は、半導体微粒子蛍光体602、603のシェル層により吸収される。光を吸収した半導体微粒子蛍光体602、603は、半導体結晶コアから吸収光とは異なる波長の光を発する。その結果発光装置600は、半導体発光ダイオード素子601からの光のうち、半導体微粒子蛍光体に吸収されなかった透過光と、半導体微粒子蛍光体602、603の発する蛍光とが混合した光を発する。
【0080】
(2c)発光素子
図6においては、発光素子の一例として、半導体発光ダイオード素子を挙げたが、半導体発光レーザダイオード素子や有機エレクトロルミネッセンス素子など、他の発光素子を用いても、同様の発光装置を作製できる。
【0081】
(3)画像表示装置
(3a)画像表示装置の構造
本発明の一実施の形態における画像表示装置を、図7および図8を用いて説明する。図7は、本発明の一実施の形態における画像装置700を示す模式的な分解斜視図である。図8は、画像装置700の液晶部800を示す模式的な分解斜視図である。
【0082】
画像表示装置700において、透明または半透明の導光板703の側面に、光源として複数個(図7では16個)の発光装置701が配置され、導光板703の上面に隣接して、複数の液晶部800から構成された画像表示部705が設けられている。発光装置701からの出射光702は、導光板703を通過し、照射光704として画像表示部705の全面に照射される。画像表示装置700では、光源として、白色光を呈する発光装置701を用い、各画素の表示には液晶部800内のカラーフィルタ806を用い、各画素のON/OFFには、液晶部800内の薄膜トランジスタ802を用いている。
【0083】
液晶部800は、下部偏光板801a、薄膜トランジスタ802を有する透明導電膜803a、配向膜804a、液晶層805、配向膜804b、上部薄膜電極803b、カラーフィルタ806、上部偏光板801bが前記の順に積層されてなる。カラーフィルタ806は、複数の種類(図8では3種類)のカラーフィルタ806r、806g、806bから構成されており、各カラーフィルタは特定の波長領域の光のみを透過させる。また、カラーフィルタ806の各区画は、透明導電膜803aに対応する大きさに分割されている。液晶部800では、薄膜トランジスタ802により、下部偏光板801aから上部偏光板801bへの光の透過を制御することで、ON/OFF表示をすることができる。該構造を有する液晶部は、波長変換部と呼ばれることもある。
【0084】
本発明の画像表示装置は、上記に示す構造に限定されるものではなく、従来公知の一般的な構造を採用することができる。
【0085】
導光板703は、光源である発光装置701が画像表示部705へ照射する光702の面内方向の明るさのムラを緩和する。光源からの出射光702に、面内方向の明るさのムラが存在すると、画像表示部の明るさに面内方向のムラが生じてしまう。導光板703を用いることで、面内強度が均一な照射光704を画像表示部705に照射することができる。導光板703としては、表面に凹凸加工を施したアクリル樹脂板などが例示される。該アクリル樹脂板においては、表面の凹凸により光が散乱されるため、面内方向での明るさが均一な光を出射することが出来る。
【0086】
カラーフィルタ806は、照射光704のうち、特定の波長の光のみを透過する。カラーフィルタの原料としては、染料や顔料などが例示される。
【0087】
カラーフィルタの区画の数は、3つ以上であることが好ましい。区画が3つあると、自然に存在する大半の色調を、画像表示部に再現することが可能となるためである。また、3つの区画は、それぞれ、赤色・緑色・青色を透過するカラーフィルタを用いることが好ましい。
【0088】
図9は、本発明の一実施の形態における画像表示装置に用いられる、赤色カラーフィルタ、緑色カラーフィルタおよび青色カラーフィルタのそれぞれの透過スペクトルを示すグラフである。縦軸は透過率(%)、横軸は波長(nm)を表す。カラーフィルタとしては、図9のグラフに示される透過スペクトルを有するものに限られず、従来公知の一般的なカラーフィルタを用いることができる。
【0089】
(3b)画像表示装置の機能
発光装置701から発せられた出射光702は、導光板703を通って、複数の液晶部800に入射する。液晶部800では、薄膜トランジスタ802により、照射光704の透過率を制御した結果、任意の光を出射する。したがって、画像表示部705では、それぞれの液晶部800が任意の光を透過した結果、画像・文字などを表示することができる。
【実施例1】
【0090】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0091】
<半導体微粒子蛍光体の発光効率の検討>
半導体微粒子蛍光体のコア/シェル構造と、発光効率との関係について検討を行った。
【0092】
(検討1:エネルギー障壁高さVv、Vcの検討)
半導体結晶コア材料とシェル層材料との組み合わせと、荷電子帯および伝導体のエネルギー障壁高さVv、Vcとの関係について検討を行なった。
【0093】
半導体結晶コア材料としては、可視光を発光をすることができるという観点から、III−V族化合物半導体材料であるInNおよびInP、ならびにII−VI族化合物半導体材料であるCdSeを用いた。シェル層材料としては、III−V族化合物半導体材料であるAlN、AlP、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InN、InP、InAs、InSb、II−VI族化合物半導体材料であるZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、MgO、MgS、MgSe、IV−IV族化合物半導体材料である3C−SiC、6H−SiCを用いた。
【0094】
各半導体結晶コア材料と各シェル層材料との組み合わせにおける、エネルギー障壁高さVv、Vcの計算結果を、表1に示す。なお、評価欄には、Vv<0かつVc>0の条件を満たすものをAと、満たさないものをBと表記した。
【0095】
【表1】

【0096】
発光効率の観点から、半導体微粒子蛍光体は、図4の(a)、(b)、(c)に示されるエネルギーバンド構造を有することが好ましい。すなわち、Vv<0かつVc>0の条件を満たすことが好ましい。
【0097】
表1より、エネルギー障壁高さの観点から、半導体結晶コア材料/シェル層材料の好ましい組合せは、InN/AlN、InN/GaN、InN/ZnO、InN/MgO、InN/MgS、InN/MgSe、InP/AlN、InP/AlP、InP/AlAs、InP/GaN、InP/GaP、InP/ZnS、InP/ZnSe、InP/CdS、InP/MgO、InP/MgS、InP/MgSe、InP/3C−SiC、InP/6H−SiC、CdSe/AlN、CdSe/AlP、CdSe/GaN、CdSe/ZnS、CdSe/ZnSe、CdSe/CdS、CdSe/MgO、CdSe/MgS、CdSe/MgSe、CdSe/6H−SiCであることが分かる。
【0098】
なお、InN、InP、CdSeと類似の性質を有するInGaN、InGaP、ZnCdSeなどを半導体結晶コアに用いた場合においても、好ましいエネルギーバンド構造が得られると考えられる。
【0099】
(検討2:量子準位の検討)
次に、検討1の結果から得られた、好ましい半導体結晶コア材料/シェル層材料の組合せを用いて、量子準位を計算した。なお、本検討では、半導体結晶コアが、620nmの赤色発光をした場合の量子準位を求めた。量子準位の計算には、有効質量近似法(EMA法)を用いて計算した。結果を表2に示す。なお、評価欄には、Ev´−Ev(shell)>0(すなわち式(2)Ev´>Ev(shell))かつEc´−Ec(shell)<0(すなわち式(1)Ec´<Ec(shell))の条件を満たすものをAと、満たさないものをBと表記した。
【0100】
【表2】

【0101】
表2より、半導体結晶コア材料/シェル層材料の組合せが、InP/GaN、InP/CdS、CdSe/GaN、CdSe/CdSの場合は、式(1)を満たさない。したがって、図4(b)に示すように、電子が半導体結晶コアに閉じ込められず、電子の存在確率が半導体結晶コアおよびシェル層全体に広がることが分かった。
【0102】
一方、半導体結晶コア材料/シェル層材料の組合せが、InN/MgSe、InP/GaP、InP/AlAsの場合は、式(2)を満たさない。したがって、図4(c)に示すように、正孔が半導体結晶コア閉じ込められず、正孔の存在確率が半導体結晶コアおよびシェル層全体に広がることが分かった。
【0103】
したがって、図4(a)に示すように、電子および正孔を半導体結晶コアに閉じ込めたエネルギーバンド構造を持つ半導体微粒子蛍光体の半導体結晶コア材料/シェル層材料の組合せとしては、InN/AlN、InN/GaN、InN/ZnO、InN/MgO、InN/MgS、InP/AlN、InP/AlP、InP/ZnS、InP/ZnSe、InP/MgO、InP/MgS、InP/MgSe、InP/3C−SiC、InP/6H−SiC、CdSe/AlN、CdSe/AlP、CdSe/GaN、CdSe/ZnS、CdSe/ZnSe、CdSe/MgO、CdSe/MgS、CdSe/MgSe、CdSe/6H−SiCが挙げられる。
【0104】
なお、InN、InP、CdSeと類似の性質を有するInGaN、InGaP、ZnCdSeなどを半導体結晶コアに用いた場合においても、シェル層材料を適宜選択することによって好ましいエネルギーバンド構造が得られると考えられる。
【0105】
(検討3:シェル層膜厚の検討)
検討2の結果を踏まえて、シェル層の膜厚の検討を行なった。トンネル効果による電子や正孔のシェル層への漏れを抑制して発光効率を向上させるには、シェル層の膜厚が重要であると考えられる。
【0106】
電子や正孔の漏れを抑制するという観点から、半導体結晶コアからシェル層への電子または正孔のトンネル確率が1%となる場合の、シェル層の膜厚を計算した。結果を表3に示す。なお、評価欄には、シェル層の必要膜厚が1.5nm以下の場合をAと、1.5nmを超える場合をBと表記した。
【0107】
【表3】

【0108】
半導体結晶コア材料/シェル層材料の組合せが、InP/AlP、InP/MeSe、InP/3C−SiC、CdSe/AlP、CdSe/GaN、CdSe/ZnSe、CdSe/MgS、CdSe/MgSeの場合は、電子および正孔のトンネル確率を1%以下に抑えるためには、シェル層の膜厚を1.5nmより大きくする必要がある。シェル層の膜厚が1.5nmを超えると、半導体結晶コアとの格子不整合の観点から、実現が難しい。したがって、トンネル確率の観点からは、半導体結晶コア材料/シェル層材料の組合せは、InN/AlN、InN/GaN、InN/ZnO、InN/MgO、InN/MgS、InP/AlN、InP/ZnS、InP/ZnSe、InP/MgO、InP/MgS、InP/6H−SiC、CdSe/AlN、CdSe/ZnS、CdSe/MgO、CdSe/6H−SiCが好ましい。
【0109】
なお、InN、InP、CdSeと類似の性質を有するInGaN、InGaP、ZnCdSeなどを半導体結晶コアに用いた場合においても、シェル層材料を適宜選択することによって好ましいシェル膜厚が得られると考えられる。
【0110】
(検討4:格子不整合率の計算)
検討2の結果を踏まえて、半導体結晶コア材料とシェル層材料の格子不整合率の検討を行なった。半導体結晶コアとシェル層との界面における欠陥を抑制するには、両者の間の格子不整合率が小さいことが好ましい。
【0111】
各半導体結晶コア材料/シェル層材料の組合せにおける、材料間の格子不整合率の計算結果を、表4に示す。なお、評価欄には、格子不整合率が15%以下の場合をAと、15%を超える場合をBと表記した。
【0112】
【表4】

【0113】
発光効率の観点から、格子不整合率は15%以下であることが好ましい。したがって、半導体結晶コア材料/シェル層材料の組合せは、InN/GaN、InN/ZnO、InP/AlP、InP/ZnS、InP/ZnSe、InP/MgO、InP/MgS、InP/MgSe、CdSe/AlP、CdSe/GaN、CdSe/ZnS、CdSe/ZnSe、CdSe/MgO、CdSe/MgS、CdSe/MgSeが好ましい。
【0114】
なお、InN、InP、CdSeと類似の性質を有するInGaN、InGaP、ZnCdSeなどを半導体結晶コアに用いた場合においても、シェル層材料を適宜選択することによって好ましい格子不整合率が得られると考えられる。
【0115】
(検討5:シェル層膜厚と格子不整合率の計算)
半導体微粒子蛍光体は、トンネル効果による発光効率の損失が十分小さく、かつ半導体結晶コアとシェル層との界面欠陥(格子不整合率)が十分少ないことが好ましい。したがって、検討3及び検討4の結果から、半導体結晶コア材料/シェル層材料の組合せは、InN/GaN、InN/ZnO、InP/ZnS、InP/ZnSe、InP/MgO、InP/MgS、CdSe/ZnS、CdSe/MgOが好ましい。
【0116】
なお、InN、InP、CdSeと類似の性質を有するInGaN、InGaP、ZnCdSeなどを半導体結晶コアに用いた場合においても、シェル層材料を適宜選択することによって、好ましい膜厚および格子不整合率が得られると考えられる。
【0117】
<半導体微粒子蛍光体の合成>
検討1〜4の結果を踏まえて、コア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体を合成し、評価を行った。
【0118】
以下の実施例において、半導体微粒子蛍光体の結晶構造測定には、株式会社リガク製の粉末X線回折測定装置Ultima IVを、半導体微粒子蛍光体の粒子径及び粒子径分布測定には、日本電子株式会社製の透過型電子顕微鏡JEM−2100を用いた。
【0119】
(実施例1:InN/GaN半導体微粒子蛍光体の合成)
実施例1では、半導体結晶コア材料としてInNを、シェル層材料としてGaNを用いた、InN/GaN半導体微粒子蛍光体の合成を行なった。以下、半導体微粒子蛍光体の半導体結晶コア材料(A)とシェル層材料(B)の組合せを有する半導体微粒子蛍光体を、「A/B半導体微粒子蛍光体」と表記する。
【0120】
(InN半導体結晶コアの合成)
乾燥窒素雰囲気のグローブボックス内で1−オクタデセン200mLを秤量した。1−オクタデセン中に、半導体結晶コアのIII族金属元素原料である三塩化インジウム2.2g(10.0mmol)およびV族元素原料であるリチウムアミド0.23g(10.0mmol)と、修飾有機化合物であるヘキサデシルアミン4.8g(20.0mmol)とを加えて混合した後に、20℃で10分間攪拌することにより原料溶液Aを得た。
【0121】
次に、原料溶液Aを窒素雰囲気の圧力容器中で攪拌しながら5時間加熱することにより、原料溶液Aに含まれる材料を合成させて合成溶液Bを得た。そして、合成反応終了後の合成溶液Bを室温まで自然放熱して冷却し、乾燥窒素雰囲気中で合成溶液Bを回収した。
【0122】
前記合成溶液Bに対して、貧溶媒の脱水メタノール200mLを加えることにより半導体微粒子蛍光体を析出させる操作と、4000rpmで10分間遠心分離することにより半導体微粒子蛍光体を沈殿させる操作と、脱水トルエンを加えることにより半導体微粒子蛍光体を再溶解させる操作とを、それぞれ各10回ずつ繰り返す分級工程を行なうことにより、特定の粒子径の半導体微粒子蛍光体を含む脱水トルエン溶液Cを得た。そして、脱水トルエン溶液Cの一部を取り出して、脱水トルエン溶媒を蒸発させることにより、固体粉末Dを回収した。
【0123】
前記固体粉末Dの回折ピークを粉末X線回折により観察したところ、InNの位置に回折ピークが見られたことから、固体粉末DはInN半導体微粒子であることを確認した。さらに、固体粉末Dを透過型電子顕微鏡により直接観察し、20個の粒子径を測定して、それぞれの粒子径の値の平均値から平均粒子径を算出したところ、InN半導体微粒子の平均粒子径は1.6nmであった。なお、該InN半導体微粒子は、半導体結晶コアに該当する。
【0124】
(GaNシェル層の合成)
乾燥窒素雰囲気のグローブボックス内で、1−オクタデセン200mL中に、InN半導体結晶コアからなる固体粉末Dと、シェル層のIII族金属元素原料である三塩化ガリウム3.5g(20.0mmol)およびV族元素原料であるリチウムアミド0.46g(20.0mmol)と、修飾有機化合物であるヘキサデシルアミンを9.7g(40.0mmol)とを加えて混合した後に、20℃で10分間攪拌することにより原料溶液Eを得た。
【0125】
次に、原料溶液Eを窒素雰囲気の圧力容器中で攪拌しながら3時間加熱することにより、原料溶液Eに含まれる材料を合成させて合成溶液Fを得た。そして、合成反応終了後の合成溶液Fを室温まで自然放熱して冷却し、乾燥窒素雰囲気中で合成溶液Fを回収した。前記合成溶媒Fに、貧溶媒の脱水メタノールを加えて遠心分離することでInN/GaN半導体微粒子蛍光体を沈殿させ、固体粉末Gを回収した。前記固体粉末Gに脱水トルエンを加えることで、脱水トルエン溶液Hを作製した。
【0126】
得られたInN/GaN半導体微粒子蛍光体は、フォトルミネッセンス測定を行うことで、発光効率が、28.6%であることを確認した。また、固体粉末Gを透過型電子顕微鏡により直接観察し、20個の粒子径を測定して、それぞれの粒子径の値の平均値から平均粒子径を算出したところ、InN/GaN半導体微粒子蛍光体の平均粒子径は4.2nmであった。InN半導体微粒子からなる半導体結晶コアの平均粒子径が1.6nmであることを考慮すると、シェル層の平均膜厚は1.3nmであると考えられる。
【0127】
InN/GaN半導体微粒子蛍光体の特性を表5にまとめて示す。
【0128】
【表5】

【0129】
(実施例2:InN/ZnO半導体微粒子蛍光体の合成)
実施例2では、InN/ZnO半導体微粒子蛍光体の合成を行なった。実施例2においては、ZnOシェル層の原料が異なる以外は、実施例1と同様の方法を用いて、合成を行なった。
【0130】
すなわち、実施例1と同様の方法を用いて、InN半導体結晶コアを合成した。その後、グローブボックス内で、エタノール200mL中に、InN半導体結晶コアと、シェル層のII族金属元素原料である酢酸亜鉛二水和物4.4g(20.0mmol)およびVI族元素原料である水酸化リチウム一水和物1.7g(40.0mmol)とを混合した。
【0131】
得られたInN/ZnO半導体微粒子蛍光体の特性を、表5に示す。
(実施例3:InN/AlN半導体微粒子蛍光体の合成)
実施例3では、InN/AlN半導体微粒子蛍光体の合成を行なった。実施例3においては、AlNシェル層の原料が異なる以外は、実施例1と同様の方法を用いて、合成を行なった。
【0132】
すなわち、実施例1と同様の方法を用いて、InN半導体結晶コアを合成した。その後、グローブボックス内で、1−オクタデセン200mL中に、InN半導体結晶コアと、シェル層のIII族金属元素原料である三塩化アルミニウム2.7g(20.0mmol)およびV族元素原料であるリチウムアミド0.46g(20.0mmol)と、修飾有機化合物であるヘキサデシルアミンを9.7g(40.0mmol)とを加えて混合した。
【0133】
得られたInN/AlN半導体微粒子蛍光体の特性を、表5に示す。
(実施例4:InN/MgO半導体微粒子蛍光体の合成)
実施例4では、InN/MgO半導体微粒子蛍光体の合成を行なった。実施例4においては、MgOシェル層の原料が異なる以外は、実施例1と同様の方法を用いて、合成を行なった。
【0134】
すなわち、実施例1と同様の方法を用いて、InN半導体結晶コアを合成した。その後、グローブボックス内で、エタノール200mL中に、InN半導体結晶コアと、シェル層のII族金属元素原料である酢酸マグネシウム四水和物4.3g(20.0mmol)と、VI族元素原料である水酸化リチウム一水和物1.7g(40.0mmol)とを混合した。
得られたInN/MgO半導体微粒子蛍光体の特性を、表5に示す。
【0135】
(実施例5:InN/MgS半導体微粒子蛍光体の合成)
実施例5では、InN/MgS半導体微粒子蛍光体の合成を行なった。実施例5においては、MgOシェル部の原料が異なる以外は、実施例1と同様の方法を用いて、合成を行なった。
【0136】
すなわち、実施例1と同様の方法を用いて、InN半導体結晶コアを合成した。その後、グローブボックス内で、1−オクタデセン200mL中に、InN半導体結晶コアと、シェル層のII族金属元素原料である酢酸マグネシウム四水和物4.3g(20.0mmol)およびVI族元素原料である硫黄0.6g(20.0mmol)と、修飾有機化合物であるトリオクチルホスフィン22.2g(60.0mmol)およびヘキサデシルアミン9.7g(40.0mmol)とを加えて混合した。
得られたInN/MgS半導体微粒子蛍光体の特性を、表5に示す。
【0137】
(比較例1:InN半導体微粒子蛍光体の合成)
比較例1では、InN半導体微粒子蛍光体の合成を行なった。比較例1においては、シェル層を合成しない点以外は、実施例1と同様の方法を用いて、合成を行なった。すなわち、実施例1と同様の方法を用いて、InN半導体結晶コアを合成した。
【0138】
得られたInN半導体微粒子蛍光体の特性を、表5に示す。
(比較例2:InN/ZnS半導体微粒子蛍光体の合成)
比較例2では、InN/ZnS半導体微粒子蛍光体の合成を行なった。比較例2においては、MgOシェル層の原料が異なる以外は、実施例1と同様の方法を用いて、合成を行なった。
【0139】
すなわち、実施例1と同様の方法を用いて、InN半導体結晶コアを合成した。その後、グローブボックス内で、1−オクタデセン200mL中に、InN半導体結晶コアと、シェル層のII族金属元素原料であるステアリン酸亜鉛12.6g(20.0mmol)およびVI族元素原料である硫黄0.6g(20.0mmol)と、修飾有機化合物であるトリオクチルホスフィンを22.2g(60.0mmol)およびヘキサデシルアミンを9.7g(40.0mmol)とを加えて混合した。
【0140】
得られたInN/ZnS半導体微粒子蛍光体の特性を、表5に示す。
<半導体微粒子蛍光体のコア/シェル構造と発光効率との関係の考察>
以下に、コア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体のエネルギーバンド構造が、発光効率に与える影響を検討する。
【0141】
表5は、InN半導体結晶コアに、異なる種類のシェル層を合成した、半導体微粒子蛍光体の発光効率を示している。ここで、比較例2のInN/ZnS半導体微粒子蛍光体は、シェル層を有しない比較実施例1のInN半導体微粒子蛍光体より、発光効率が低いことが確認できる。これは、ZnSシェル層を合成すると、電子が半導体結晶コアに閉じ込められ、一方正孔はシェル層に閉じ込められるため、電子と正孔との再結合確率が大幅に減少したためであると考えられる。このことから、発光効率の高いコア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体を合成するには、従来公知の半導体結晶コアのエネルギーギャップがシェル層のエネルギーギャップよりも小さいという条件(Eg(core)<Eg(shell))のみでは不十分であり、式(1)および式(2)を満たす必要があることが分かる。
【0142】
また、実施例3のInN/AlN半導体微粒子蛍光体、実施例4のInN/MgO半導体微粒子蛍光体、実施例5のInN/MgS半導体微粒子蛍光体は、比較例1のInNコア粒子蛍光体、比較例2のInN/ZnS半導体微粒子蛍光体より、発光効率が高いことが確認できる。これは、シェル層による電子および正孔の閉じ込め効果によるものであると考えられる。このことから、発光効率の高いコア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体を合成するには、式(1)および式(2)を満たしており、かつトンネル効果による電子および正孔の損失を抑えるようにシェル層の膜厚を十分厚くすることが、必要であることが分かる。
【0143】
また、実施例1のInN/GaN半導体微粒子蛍光体、実施例2のInN/ZnO半導体微粒子蛍光体は、実施例3のInN/AlN半導体微粒子蛍光体、実施例4のInN/MgO半導体微粒子蛍光体、実施例5のInN/MgS半導体微粒子蛍光体より、発光効率が高いことが確認できる。これは、半導体結晶コア材料とシェル層材料との格子不整合率が小さく、半導体結晶コアとシェル層との界面の欠陥による電子および正孔の失活を十分抑制できたためであると考えられる。このことから、発光効率の高いコア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体を合成するには、電子および正孔の閉じ込めとともに、半導体結晶コア材料と格子不整合率の小さいシェル層材料を用いる必要があることが分かる。
【0144】
(実施例6:シェル層膜厚の異なるInN/GaN半導体微粒子蛍光体の合成)
実施例6においては、GaNシェル層の原料の量が異なる以外は、実施例1と同様の方法を用いて、合成を行なった。GaNシェル層の原料の量を変えることにより、シェル層膜厚の異なる複数のInN/GaN半導体微粒子蛍光体の合成を行なった。得られた半導体微粒子蛍光体を用いて、シェル層膜厚と発光効率との関係を調べた。結果を図10に示す。
【0145】
<半導体微粒子蛍光体のシェル層膜厚と発光効率との関係の考察>
以下に、半導体微粒子蛍光体のシェル層膜厚の変化が、発光効率に与える影響を検討する。
【0146】
図10は、InN/GaN半導体微粒子蛍光体のGaNシェル部膜厚と発光効率との関係を示すグラフである。図10より、シェル層膜厚が1.1nm〜1.5nmにおいて発光効率は最大となり、それより薄くても厚くても、発光効率は低下する傾向が確認できる。また発光効率が最大値をとるシェル層膜厚は、検討3及び表3で計算した、トンネル効果による電子および正孔の損失を十分低減できるシェル層膜厚の値と近い値を示していることが確認できた。
【0147】
図10において、シェル層膜厚が1.1nm未満では、シェル層膜厚が厚くなるにつれて発光効率が大きくなる。これは、シェル層が厚くなるにつれて、電子および正孔の閉じ込め効果が強くなり、電子および正孔の損失が低減したためであると考えられる。この値は、表3で求めたシェル層膜厚の理論計算結果と良い一致を示す。一方、シェル層膜厚が1.5nmを超えると、シェル層が厚くなるにつれて、発光効率が低下する傾向が見られる。これは、シェル層が厚くなるにつれて、半導体結晶コアとシェル層との格子不整合により、格子欠陥が発生したためであると考えられる。
【0148】
InN/AlN、InN/ZnO、InN/MgO、InN/MgS、InP/ZnS、InP/ZnSe、InP/AlP、InP/AlN、InP/MgO、InP/MgS、InP/MgSe、InP/3C−SiC、InP/6H−SiC、CdSe/ZnS、CdSe/AlN、CdSe/AlP、CdSe/GaN、CdSe/ZnSe、CdSe/MgO、CdSe/MgS、CdSe/MgSe、CdSe/6H−SiCのコア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体においても、図10に示すInN/GaN半導体微粒子蛍光体の傾向と同様に、表3に示すシェル層必要膜厚以下で発光効率が低下する傾向が確認できた。
【0149】
(実施例7〜15、比較例3〜4:InP半導体結晶コアを有する半導体微粒子蛍光体の合成)
表6に示す合成原料を用いて、実施例1と同様の方法で、実施例7〜15のInP/AlN、InP/AlP、InP/ZnS、InP/ZnSe、InP/MgO、InP/MgS、InP/MgSe、InP/3C−SiC、InP/6H−SiCのコア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体、比較例3のInP半導体微粒子蛍光体および比較例4のInP/ZnO半導体微粒子蛍光体の合成を行った。
【0150】
得られた半導体微粒子蛍光体のエネルギーバンド構造、格子不整合率、発光効率、シェル層平均膜厚を、実施例1と同様の方法で測定した。結果を表6に示す。
【0151】
【表6】

【0152】
表6の結果から、InP半導体結晶コアを有する半導体微粒子蛍光体においても、InN半導体結晶コアを有する半導体微粒子蛍光体と同様に、図4(a)に示すエネルギーバンド構造を有する場合に、発光効率が優れていることが確認できた。
【0153】
(実施例16〜24、比較例5〜6:CdSe半導体結晶コアを有する半導体微粒子蛍光体の合成)
表6に示す合成原料を用いて、実施例1と同様の方法で、実施例16〜24のCdSe/AlN、CdSe/AlP、CdSe/ZnS、CdSe/ZnSe、CdSe/MgO、CdSe/MgS、CdSe/MgSe、CdSe/6H−SiCのコア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体、比較例5のCdSe半導体微粒子蛍光体および比較例6のCdSe/GaP半導体微粒子蛍光体の合成を行なった。
【0154】
得られた半導体微粒子蛍光体のエネルギーバンド構造、格子不整合率、発光効率、シェル層平均膜厚を、実施例1と同様の方法で測定した。結果を表6に示す。
【0155】
表6の結果から、CdSe半導体結晶コアを有する半導体微粒子蛍光体においても、InN半導体結晶コアを有する半導体微粒子蛍光体と同様に、図4(a)に示すエネルギーバンド構造を有する場合に、発光効率が優れていることが確認できた。
【0156】
<波長変換部材の製造>
実施例1〜5、7〜24、比較例1〜6において合成した半導体微粒子蛍光体を用いて、波長変換部材を製造し、評価を行った。以下の実施例において、シリコーン樹脂には、信越化学工業株式会社製のシリコーン樹脂SCR−1015を用いた。また、以下実施例においては、赤色、緑色、青色をそれぞれ発光する3種類の半導体微粒子蛍光体を混合して用い、波長変換部材を405nmの青紫光で励起したときに、色温度が7000Kの白色発光を発するように、赤色蛍光体、緑色蛍光体、青色蛍光体の混合量を、適宜調整して、製造を行なった。なお、波長変換部材の発光効率の測定には、大塚電子株式会社製の発光測定システムMCPD−7000を用いた。
【0157】
(実施例A1:InN/GaN半導体微粒子蛍光体を用いた波長変換部材)
実施例A1では、実施例1で合成したInN/GaN半導体微粒子蛍光体を、シリコーン樹脂に封止することにより、図5に示すような、波長変換部材を作製した。
【0158】
実施例1の方法を用いて、赤色、緑色、青色をそれぞれ発光する3種類のInN/GaN半導体微粒子蛍光体を合成した。この3種類のInN/GaN半導体微粒子蛍光体を、シリコーン樹脂A液約500mgと混合した。その後、シリコーン樹脂B液約500mgと混合した。得られたシリコーン樹脂混合液を、スライドガラス上に塗布し、80℃で1時間、150℃で5時間加熱硬化させた。その後、スライドガラスを除去することにより、実施例A1の波長変換部材を作製した。
【0159】
得られた波長変換部材の光学評価を行ったところ、発光効率が16.3%であることを確認した。
【0160】
(実施例A2〜A5、比較例A1〜A2:各種半導体微粒子蛍光体を用いた波長変換部材)
実施例A2〜A5、比較例A1〜A2では、実施例2〜5のInN/ZnO、InN/AlN、InN/MgO、InN/MgSのコア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体、比較例1のInN半導体微粒子蛍光体および比較例2のInN/ZnS半導体微粒子蛍光体をシリコーン樹脂に封止した、波長変換部材を作製した。実施例A2〜A5、比較例A1〜A2の波長変換部材は、半導体微粒子蛍光体の種類以外は、実施例A1と同様の方法を用いて作製した。得られた波長変換部材の特性を、表7に示す。
【0161】
【表7】

【0162】
(実施例A6〜A14、比較例A3〜A4:InP半導体結晶コアを有する半導体微粒子蛍光体を用いた波長変換部材)
実施例A6〜A14では、実施例7〜15において合成した、InP/AlN、InP/AlP、InP/ZnS、InP/ZnSe、InP/MgO、InP/MgS、InP/MgSe、InP/3C−SiC、InP/6H−SiCのコア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体、比較例3Aでは、比較例3のInP半導体微粒子蛍光体および比較例4Aでは、比較例4のInP/ZnO半導体微粒子蛍光体を、シリコーン樹脂に封止した、波長変換部材を作製した。これらの波長変換部材は、半導体微粒子蛍光体の種類以外は、実施例A1と同様の方法を用いて作製した。得られた波長変換部材の特性を、表7に示す。
【0163】
(実施例A15〜A23、比較例A5〜A6:InP半導体結晶コアを有する半導体微粒子蛍光体を用いた波長変換部材)
実施例A15〜A22では、実施例16〜23において合成した、CdSe/AlN、CdSe/AlP、CdSe/GaN、CdSe/ZnS、CdSe/ZnSe、CdSe/MgO、CdSe/MgS、CdSe/MgSe、CdSe/6H−SiCのコア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体、比較例A5では、比較例5のCdSe半導体微粒子蛍光体および比較例A6では、比較例6のCdSe/GaP半導体微粒子蛍光体を、シリコーン樹脂に封止した、波長変換部材を作製した。これらの波長変換部材は、半導体微粒子蛍光体の種類以外は、実施例A1と同様の方法を用いて作製した。得られた波長変換部材の特性を、表7に示す。
【0164】
<半導体微粒子蛍光体のコア/シェル構造と、波長変換部材の発光効率の関係の考察>
以下に、コア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体のエネルギーバンド構造が、波長変換部材の発光効率に与える影響を検討する。
【0165】
表7は、各種半導体微粒子蛍光体を用いて製造した、波長変換部材の発光効率を示している。波長変換部材の発光効率は、表5に示す半導体微粒子蛍光体の発光効率と、同様の傾向が見られる。したがって、本発明の半導体微粒子蛍光体を用いて製造した波長変換部材においても、発光効率が向上することが確認できる。
【0166】
なお、InN半導体結晶コアを有する半導体微粒子蛍光体のみでなく、InP半導体結晶コアやCdSe半導体結晶コアを有する半導体微粒子蛍光体を用いた波長変換部材においても、発光効率の向上を確認できた。
【0167】
<発光装置の製造>
実施例1〜5、7〜24、比較例1〜6において合成した半導体微粒子蛍光体と、半導体発光ダイオード素子とを組み合わせて発光装置を製造し、評価を行った。発光装置の製造において、シリコーン樹脂には、信越化学工業株式会社製のシリコーン樹脂SCR−1015を用いた。さらに、450nmの青色に発光する半導体発光ダイオード素子と、赤色、緑色にそれぞれ発光する半導体微粒子蛍光体を用い、色温度が5000Kの白色発光が得られるように、適宜蛍光体の分量を調整して、発光装置の製造を行なった。
【0168】
なお、発光装置の発光効率の測定には、大塚電子株式会社製の発光測定システムMCPD−7000を用いた。
【0169】
(実施例B1:InN/GaN半導体微粒子蛍光体を用いた発光装置)
実施例B1では、実施例1で合成したInN/GaN半導体微粒子蛍光体を、シリコーン樹脂に封止することにより、図7に示すような、発光装置を作製した。
【0170】
最初に、実施例1の方法を用いて、赤色または緑色に発光するInN/GaN半導体微粒子蛍光体を合成した。この2種類のInN/GaN半導体微粒子蛍光体を、シリコーン樹脂A液約500mgと混合した。その後、シリコーン樹脂B液約500mgと混合した。得られたシリコーン樹脂混合液を、発光素子の上に充填し、80℃で1時間、150℃で5時間加熱硬化させ、実施例B1の発光装置を作製した。
【0171】
(実施例B2〜B5、比較例B1〜B2:各種半導体微粒子蛍光体を用いた発光装置)
実施例B2〜B5、比較例B1〜B2では、実施例2〜5、比較例1〜2において合成した、InN/ZnO、InN/AlN、InN/MgO、InN/MgSのコアシェル構造を有する半導体微粒子蛍光体、InN半導体微粒子蛍光体、InN/ZnS半導体微粒子蛍光体を用いた、発光装置を作製した。実施例B2〜B5、比較例B1〜B2の発光装置は、半導体微粒子蛍光体の種類以外は、実施例B1と同様の方法を用いて作製した。
【0172】
得られた発光装置の発光効率を、実施例B1の発光装置の発光効率を基準として確認した。結果を、表8に示す。
【0173】
【表8】

【0174】
(実施例B6〜B14、比較例B3〜B4:InP半導体結晶コアを有する半導体微粒子蛍光体を用いた発光装置)
実施例B6〜B14、比較例B3〜B4では、実施例7〜15、比較例3〜4において合成した、InP/AlN、InP/AlP、InP/ZnS、InP/ZnSe、InP/MgO、InP/MgS、InP/MgSe、InP/3C−SiC、InP/6H−SiCのコア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体、InP半導体微粒子蛍光体、InP/ZnO半導体微粒子蛍光体を用いた、発光装置を作製した。これらの発光装置は、半導体微粒子蛍光体の種類以外は、実施例B1と同様の方法を用いて作製した。
【0175】
得られた発光装置の発光効率を、実施例B1の発光装置の発光効率を基準として確認した。結果を、表8に示す。
【0176】
(実施例B15〜B23、比較例B5〜B6:InP半導体微粒子蛍光体コアを有する半導体微粒子蛍光体を用いた発光装置)
実施例B15〜B23、比較例B5〜B6では、実施例16〜13、比較例5〜6において合成した、CdSe/AlN、CdSe/AlP、CdSe/GaN、CdSe/ZnS、CdSe/ZnSe、CdSe/MgO、CdSe/MgS、CdSe/MgSe、CdSe/6H−SiCコア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体、CdSe半導体微粒子蛍光体、CdSe/GaP半導体微粒子蛍光体を用いた、発光装置を作製した。これらの発光装置は、半導体微粒子蛍光体の種類以外は、実施例B1と同様の方法を用いて、発光装置を作製した。
【0177】
得られた発光装置の発光効率を、実施例B1の発光装置の発光効率を基準として確認した。結果を、表8に示す。
【0178】
<半導体微粒子蛍光体のコア/シェル構造と、発光装置の発光効率との関係の考察>
以下に、コア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体のエネルギーバンド構造が、発光装置の発光効率に与える影響を検討する。
【0179】
表8は、各種半導体微粒子蛍光体を用いて製造した、発光装置の発光効率を示している。発光装置の発光効率は、表5に示す半導体微粒子蛍光体の発光効率と、同様の傾向が見られる。したがって、本発明の半導体微粒子蛍光体を用いて製造した発光装置においても、発光効率が向上することが確認できる。
【0180】
なお、InN半導体結晶コアを有する半導体微粒子蛍光体のみでなく、InP半導体結晶コアやCdSe半導体結晶コアを有する半導体微粒子蛍光体を用いた発光装置においても、発光効率の向上を確認できた。
【0181】
<画像表示装置の製造>
実施例1〜5、7〜24、比較例1〜6において合成した半導体微粒子蛍光体を用いて、画像表示装置を製造し、評価を行った。画像表示装置の製造において、シリコーン樹脂には、信越化学工業株式会社製のシリコーン樹脂SCR−1015を用いた。さらに、450nmの青色に発光する半導体発光ダイオード素子と、赤色または緑色に発光する半導体微粒子蛍光体を用い、画像表示装置のバックライトとした。また、バックライトの発光色は、カラーフィルタをフルオープンしたときに、色温度が10000Kの白色発光が得られるように、適宜蛍光体の分量を調整して、製造を行なった。
【0182】
なお、画像表示装置の画面輝度の測定には、大塚電子株式会社製の発光測定システムMCPD−7000を用いた。
【0183】
(実施例C1:InN/GaN半導体微粒子蛍光体を用いた画像表示装置)
実施例C1では、実施例1で合成したInN/GaN半導体微粒子蛍光体を用いて、図8に示すような、画像表示装置を作製した。
【0184】
最初に、実施例1の方法を用いて、赤色または緑色に発光するInN/GaN半導体微粒子蛍光体を合成した。この2種類のInN/GaN半導体微粒子蛍光体を、シリコーン樹脂A液約500mgと混合した。その後、シリコーン樹脂B液約500mgと混合した。得られたシリコーン樹脂を、発光素子の上に充填し、80℃で1時間、150℃で5時間加熱硬化させ、実施例B1の発光装置を作製した。
【0185】
(実施例C2〜C5、比較例C1〜C2:各種半導体微粒子蛍光体を用いた画像表示装置)
実施例C2〜C5、比較例C1〜C2では、実施例2〜5、比較例1〜2において合成した、InN/ZnO、InN/AlN、InN/MgO、InN/MgS半導体微粒子蛍光体、InN半導体微粒子蛍光体、InN/ZnS半導体微粒子蛍光体を用いた、画像表示装置を作製した。実施例C2〜C5、比較例C1〜C2の画像表示装置は、半導体微粒子蛍光体の種類以外は、実施例C1と同様の方法を用いて、画像表示装置を作製した。
【0186】
得られた画像表示装置の画面輝度を、実施例C1の画像表示装置の画面輝度を基準として確認した。結果を表9に示す。
【0187】
【表9】

【0188】
(実施例C6〜C14、比較例C3〜C4:InP半導体結晶コアを有する半導体微粒子蛍光体を用いた画像表示装置)
実施例C6〜C14、比較例C3〜C4では、実施例7〜15、比較例3〜4において合成した、InP/AlN、InP/AlP、InP/ZnS、InP/ZnSe、InP/MgO、InP/MgS、InP/MgSe、InP/3C−SiC、InP/6H−SiCのコア/シェル構造を有する半導体微粒子蛍光体、InP半導体微粒子蛍光体、InP/ZnO半導体微粒子蛍光体を用いた、画像表示装置を作製した。これらの画像表示装置は、半導体微粒子蛍光体の種類以外は、実施例C1と同様の方法を用いて作製した。
【0189】
得られた画像表示装置の画面輝度を、実施例C6の画像表示装置の画面輝度を基準として確認した。結果を表9に示す。
【0190】
(実施例C15〜C23、比較例C5〜C6:CdSe半導体結晶コアを有する半導体微粒子蛍光体を用いた画像表示装置)
実施例C15〜C23、比較例C5〜C6では、実施例16〜23、比較例5〜6において合成した、CdSe/AlN、CdSe/AlP、CdSe/GaN、CdSe/ZnS、CdSe/ZnSe、CdSe/MgO、CdSe/MgS、CdSe/MgSe、CdSe/6H−SiC半導体微粒子蛍光体、CdSe半導体微粒子蛍光体、CdSe/GaP半導体微粒子蛍光体を用いた、画像表示装置を作製した。これらの画像表示装置は、半導体微粒子蛍光体の種類以外は、実施例C1と同様の方法を用いて作製した。
【0191】
得られた画像表示装置の画面輝度を、実施例C15の画像表示装置の画面輝度を基準として確認した。結果を表9に示す。
【0192】
<半導体微粒子蛍光体のコア/シェル構造と、画像表示装置の画面輝度との関係の考察>
以下に、コア/シェル構造型の半導体微粒子蛍光体のエネルギーバンド構造が、画像表示装置の画面輝度に与える影響を検討する。
【0193】
表9は、各種半導体微粒子蛍光体を用いて製造した、画像表示装置の画面輝度を示している。画像表示装置の画面輝度は、表5に示す半導体微粒子蛍光体の発光効率と、同様の傾向が見られる。したがって、本発明の半導体微粒子蛍光体を用いて製造した画像表示装置においても、画面輝度が向上することが確認できる。
【0194】
なお、InN半導体結晶コアを有する半導体微粒子蛍光体のみでなく、InP半導体結晶コアやCdSe半導体結晶コアを有する半導体微粒子蛍光体を用いた画像表示装置においても、画面輝度の向上を確認できた。
【0195】
以上のように本発明の実施例について説明を行なったが、上述の実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0196】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0197】
本発明における半導体微粒子蛍光体は、光関連分野の多くの場面で実用化が期待される。具体的には、波長変換部材、半導体発光装置および画像表示装置は、表示用光源、小型電球の代替光源、液晶パネル用バックライト光源、一般照明、装飾照明、発光表示装置、ディスプレイ、プロジェクター等の用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0198】
100,200,501,501r,501g,501b,602,603 半導体微粒子蛍光体、101,201 半導体結晶コア、102,202,203 シェル層、103,204 修飾有機化合物、500 波長変換部材、502,606 透光性材料、503 入射光、504 放射光、600 発光装置、601 半導体発光ダイオード素子、605 枠、607 半導体活性層、608 p側電極、609 n側電極、610 n電極部、611 接着剤、612 p電極部、613 金属ワイヤ、700 画像表示装置、701 発光装置、702 出射光、703 導光板、704 照射光、705 画像表示部、800 液晶部、801a 下部偏光板、801b 上部偏光板、802 薄膜トランジスタ、803a 透明導電膜、803b 上部薄膜電極、804a 配向膜、804b 配向膜、805 液晶層、806 カラーフィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体結晶コアと、該半導体結晶コアを被覆するシェル層とを有する半導体微粒子蛍光体であって、下記一般式(1)および一般式(2)を満たし、
Ec´<Ec(shell) (1)
Ev´>Ev(shell) (2)
(式中、Ec(shell)はシェル層の伝導帯下端のエネルギー準位を示し、Ev(shell)はシェル層の価電子帯上端のエネルギー準位を示し、Ec´は半導体微粒子蛍光体の内部への電子の閉じ込め効果により形成される量子準位を示し、Ev´は半導体微粒子蛍光体の内部への正孔の閉じ込め効果により形成される量子準位を示す。)
前記半導体結晶コアがInNからなり、
前記シェル層がGaNおよびAlNの少なくともいずれかの化合物半導体からなる、半導体微粒子蛍光体。
【請求項2】
前記シェル層がGaNからなり、前記シェル層の膜厚が1.1nm以上である、請求項1に記載の半導体微粒子蛍光体。
【請求項3】
前記シェル層がAlNからなり、前記シェル層の膜厚が0.4nm以上である、請求項1に記載の半導体微粒子蛍光体。
【請求項4】
半導体結晶コアと、該半導体結晶コアを被覆するシェル層とを有する半導体微粒子蛍光体であって、下記一般式(1)および一般式(2)を満たし、
Ec´<Ec(shell) (1)
Ev´>Ev(shell) (2)
(式中、Ec(shell)はシェル層の伝導帯下端のエネルギー準位を示し、Ev(shell)はシェル層の価電子帯上端のエネルギー準位を示し、Ec´は半導体微粒子蛍光体の内部への電子の閉じ込め効果により形成される量子準位を示し、Ev´は半導体微粒子蛍光体の内部への正孔の閉じ込め効果により形成される量子準位を示す。)
前記半導体結晶コアがInNからなり、
前記シェル層がZnO、MgOおよびMgSよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物半導体からなる、半導体微粒子蛍光体。
【請求項5】
半導体結晶コアと、該半導体結晶コアを被覆するシェル層とを有する半導体微粒子蛍光体であって、下記一般式(1)および一般式(2)を満たし、
Ec´<Ec(shell) (1)
Ev´>Ev(shell) (2)
(式中、Ec(shell)はシェル層の伝導帯下端のエネルギー準位を示し、Ev(shell)はシェル層の価電子帯上端のエネルギー準位を示し、Ec´は半導体微粒子蛍光体の内部への電子の閉じ込め効果により形成される量子準位を示し、Ev´は半導体微粒子蛍光体の内部への正孔の閉じ込め効果により形成される量子準位を示す。)
前記半導体結晶コアがInPからなり、
前記シェル層がZnS、ZnSeおよびAlPよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物半導体からなる、半導体微粒子蛍光体。
【請求項6】
前記シェル層がZnSであり、前記シェル層の膜厚が0.9nm以上である、請求項5に記載の半導体微粒子蛍光体。
【請求項7】
前記シェル層がZnSeであり、前記シェル層の膜厚が1.3nm以上である、請求項5に記載の半導体微粒子蛍光体。
【請求項8】
前記シェル層がAlPであり、前記シェル層の膜厚が3.4nm以上である、請求項5に記載の半導体微粒子蛍光体。
【請求項9】
半導体結晶コアと、該半導体結晶コアを被覆するシェル層とを有する半導体微粒子蛍光体であって、下記一般式(1)および一般式(2)を満たし、
Ec´<Ec(shell) (1)
Ev´>Ev(shell) (2)
(式中、Ec(shell)はシェル層の伝導帯下端のエネルギー準位を示し、Ev(shell)はシェル層の価電子帯上端のエネルギー準位を示し、Ec´は半導体微粒子蛍光体の内部への電子の閉じ込め効果により形成される量子準位を示し、Ev´は半導体微粒子蛍光体の内部への正孔の閉じ込め効果により形成される量子準位を示す。)
前記半導体結晶コアがInPからなり、
前記シェル層がAlN、MgO、MgS、MgSe、3C−SiCおよび6H−SiCよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物半導体からなる、半導体微粒子蛍光体。
【請求項10】
半導体結晶コアと、該半導体結晶コアを被覆するシェル層とを有する半導体微粒子蛍光体であって、下記一般式(1)および一般式(2)を満たし、
Ec´<Ec(shell) (1)
Ev´>Ev(shell) (2)
(式中、Ec(shell)はシェル層の伝導帯下端のエネルギー準位を示し、Ev(shell)はシェル層の価電子帯上端のエネルギー準位を示し、Ec´は半導体微粒子蛍光体の内部への電子の閉じ込め効果により形成される量子準位を示し、Ev´は半導体微粒子蛍光体の内部への正孔の閉じ込め効果により形成される量子準位を示す。)
前記半導体結晶コアがCdSeからなり、
前記シェル層がZnSからなる、半導体微粒子蛍光体。
【請求項11】
前記シェル層の厚さが1.0nm以上である、請求項10に記載の半導体微粒子蛍光体。
【請求項12】
半導体結晶コアと、該半導体結晶コアを被覆するシェル層とを有する半導体微粒子蛍光体であって、下記一般式(1)および一般式(2)を満たし、
Ec´<Ec(shell) (1)
Ev´>Ev(shell) (2)
(式中、Ec(shell)はシェル層の伝導帯下端のエネルギー準位を示し、Ev(shell)はシェル層の価電子帯上端のエネルギー準位を示し、Ec´は半導体微粒子蛍光体の内部への電子の閉じ込め効果により形成される量子準位を示し、Ev´は半導体微粒子蛍光体の内部への正孔の閉じ込め効果により形成される量子準位を示す。)
前記半導体結晶コアがCdSeからなり、
前記シェル層がAlN、AlP、GaN、ZnSe、MgO、MgS、MgSeおよび6H−SiCよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物半導体からなる、半導体微粒子蛍光体。
【請求項13】
前記半導体結晶コアとシェル層との格子不整合率が15%以下である、請求項1、4、5、9、10および12のいずれかに記載の半導体微粒子蛍光体。
【請求項14】
前記半導体結晶コアが、直接遷移型の化合物半導体からなる、請求項1、4、5、9、10および12のいずれかに記載の半導体微粒子蛍光体。
【請求項15】
380nm〜780nmの可視光を発光する、請求項1、4、5、9、10および12のいずれかに記載の半導体微粒子蛍光体。
【請求項16】
前記半導体結晶コアの平均粒子径が、ボーア半径の2倍以下である、請求項1、4、5、9、10および12のいずれかに記載の半導体微粒子蛍光体。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の半導体微粒子蛍光体と、
透光性部材とを備える、波長変換部材。
【請求項18】
請求項1〜16のいずれかに記載の半導体微粒子蛍光体と、
発光素子とを備える、発光装置。
【請求項19】
前記発光素子が、半導体発光ダイオード素子または半導体発光レーザダイオード素子である、請求項18に記載の発光装置。
【請求項20】
前記半導体微粒子蛍光体を2種類以上含有する、請求項18に記載の発光装置。
【請求項21】
前記半導体発光素子が青色光を発光し、
前記半導体微粒子蛍光体が、少なくとも緑色発光半導体微粒子蛍光体および赤色発光半導体微粒子蛍光体を含有する、請求項20に記載の発光装置。
【請求項22】
請求項1〜16のいずれかに記載の半導体微粒子蛍光体と、
発光素子とを備える、画像表示装置。
【請求項23】
前記半導体微粒子蛍光体を2種類または3種類含有する、請求項22に記載の画像表示装置。
【請求項24】
前記発光素子が、半導体発光ダイオード素子、半導体発光レーザダイオード素子、または、有機エレクトロルミネッセンス素子である、請求項22に記載の画像表示装置。
【請求項25】
前記半導体発光素子が青色光を発光し、
前記半導体微粒子蛍光体が、少なくとも緑色発光半導体微粒子蛍光体および赤色発光半導体微粒子蛍光体を含有する、請求項22に記載の画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−252117(P2011−252117A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128107(P2010−128107)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】