説明

半導体歪センサーおよび半導体歪センサーの取付け方法

【課題】 半導体歪ゲージを用いた半導体歪センサーにおいて、センサーチップからの放
熱を良くし、温度上昇や熱変形によるセンサー特性の変化を抑制する。
【解決手段】 半導体にピエゾ抵抗素子を形成した歪センサーチップと金属性のベース板
、センサーチップの電極から外部に配線を引き出す配線を有し、歪センサーチップはベー
ス板に金属材料により接合され、ベース板にはセンサーチップの接合部を挟む少なくとも
2箇所に、測定対象物に接続するための接続エリアを有する半導体歪センサーを構成する
。センサーチップが金属性のベース板に金属材料で接合されていることから、センサーチ
ップで発生した熱が、センサーチップ裏面からベース板に逃げやすく、センサーチップの
温度上昇、およびセンサーチップとベース板の温度不均一による熱変形を防げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の歪や応力の測定に用いられる歪センサーで、特に半導体歪ゲージを
用いた半導体歪センサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造物の歪や応力の計測には、ストレインゲージと称される歪ゲージが多く用いられて
いる。歪ゲージは、Cu−Ni系合金やNi−Cr系合金の金属薄膜の配線パターンを、
可撓性のあるポリイミドやエポキシ樹脂フィルムで覆った構造であり、歪ゲージを被測定
物に接着剤で接着して使用する。金属薄膜が歪を受けて変形した時の抵抗変化から、歪量
を算出することができる。
【0003】
検知部を金属薄膜ではなく、シリコンなどの半導体に不純物をドープして形成した半導
体ピエゾ抵抗を利用した半導体歪ゲージがある。半導体歪ゲージは、歪に対する抵抗変化
率が金属薄膜を用いた歪ゲージの数10倍と大きく、微小な歪を測定することが可能であ
る。また、金属薄膜の歪ゲージでは、抵抗変化が小さいため得られる電気信号を増幅する
必要があり、そのため外部のアンプが必要となる。半導体歪ゲージは抵抗変化が大きいた
め、得られた電気信号を外部のアンプを用いずに使用することもでき、また半導体歪ゲー
ジのチップにアンプ回路を作りこむことも可能であるため、歪センサーの用途や使用上の
利便性が大きく広がると期待される。本明細書では、歪センサーと歪ゲージを同義に使用
している。
【0004】
半導体歪ゲージは、従来の半導体製造技術を用いて、シリコンウエハー上に不純物ドー
プや配線を形成した後、チップ化することで得られる。このチップ(以下歪センサーチッ
プと呼ぶ)に、測定対象物の歪が正しく伝わることが重要であり、歪センサーチップのモ
ジュール化と測定対象物への取付けがポイントとなる。
【0005】
特許文献1には、半導体歪ゲージを実用的なモジュールにした構造が開示されている。
図10a)に、半導体歪ゲージの斜視図を示す。シリコンウエハー表面に半導体歪ゲージ
を形成した後、シリコンウエハーを数μmの厚さまでエッチングした後、チップ化し歪セ
ンサーチップ52を得る。配線53を形成しポリイミドフィルム54で挟んで半導体歪ゲ
ージ51を得ている。歪センサーチップ52と配線53をモジュール化しているので、従
来の歪ゲージのように半導体歪ゲージを扱えるものである。
【0006】
特許文献2には、歪センサーチップ52をガラス製台座57に低融点ガラス58を用い
て接合した歪検出センサー56が開示されている。図10b)に、歪検出センサーの側面
図を示す。ガラス製台座を測定対象物にボルト止めなどで固定する。歪センサーチップと
ガラス製台座間とガラス製台座間と測定対象物間には、樹脂接着剤がないため、接着樹脂
と歪検出センサー間の熱膨張係数の違いによって発生する、温度ドリフトを抑えることが
できる。
【0007】
【特許文献1】特開2001−264188号 公報
【特許文献2】特開2001−272287号 公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の半導体歪ゲージは、従来の金属薄膜を用いた歪ゲージと同様、樹脂接着剤
を用いて測定対象物に貼り付けて使用することができる。樹脂接着剤を用いるため、樹脂
接着剤が変質や劣化すると、感度やゼロ点が変化し易くなる問題があった。これは、長期
間使用する時には特性の安定性の点で課題となるものである。高感度な半導体歪ゲージを
用いているので、特性変化の影響はより顕著に現れることになる。
【0009】
特許文献2の歪検出センサーは、樹脂接着剤を用いないため、特許文献1に比べれば長
期的安定性は良いと考えられる。しかし、ガラス製の台座と、台座と歪センサーチップの
接合に低融点ガラスを用いているため熱伝導性が悪く、歪センサーチップからの発熱を逃
がし難い。半導体ピエゾ抵抗は電気抵抗が大きいため発熱量も多く、また歪センサーチッ
プにCMOS技術を用いてアンプを形成するとアンプからの発熱も加わる。歪センサーチ
ップは低融点ガラスでガラス製の台座に固定されているため、歪センサーチップの熱は逃
げ難いため、歪センサーチップの温度が益々上昇してしまう。半導体ピエゾ抵抗は抵抗変
化の温度係数が大きいため、特性の変化が大きくなる。また、歪センサーチップから測定
対象物までの温度が均一になり難いため、熱膨張差により発生する応力の影響を受け易く
なり、特性のばらつきが発生する。
【0010】
本願発明の目的は、高感度な半導体歪ゲージを用いた歪センサーで、特性が長期間安定
し、歪センサーチップの発熱に対しても特性が変化し難い半導体歪センサーを提供するこ
とである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明の半導体歪センサーは、半導体基板にピエゾ抵抗素子を形成した歪センサーチ
ップと、金属製のベース板と、歪センサーチップの電極から外部に配線を引き出す配線部
とを有し、歪センサーチップ裏面とベース板表面は金属接合材で接合され、歪センサーチ
ップの側方に張り出したベース板部に、測定対象物と固着する少なくとも2つ以上の接続
エリアを有することが好ましい。
【0012】
歪センサーチップは金属製のベース板に金属材料を用いて接合されるため、歪センサー
チップで発生した熱はセンサーチップ裏面を伝わりベース板に熱伝導し易くなる。また、
金属性のベース板は歪センサーチップより平面の面積も大きいため、熱の放散が効率良く
行われる。熱放散が良いので、歪センサーチップの温度上昇を防ぐことができるとともに
、ベース板と歪センサーチップの温度を均一に保ち易い。半導体歪センサーの温度を均一
化できることで、温度変化によるピエゾ抵抗係数の変化や、センサーチップとベース板と
の温度不均一による熱変形でピエゾ抵抗素子に加わる応力が変化するなどして起こる特性
変化を抑えることができる。また、歪センサーチップとベース板間は金属接合を用いてい
るので、クリープや変質や劣化、変質を起こし難く特性の長期的安定性に優れている。
【0013】
歪センサーチップが測定対象物と接するベース板まで導電性の材料で構成しているため
、電気的ノイズに強い。歪センサーチップと測定対象物の間に絶縁性の材料が介在してい
ると、測定対象物に電流が流れるなどして電位が変動した時に、歪センサーチップの各部
位と測定対象物との間に寄生容量を持つ。寄生容量が発生すると電位も変動し、ノイズが
発生し易くなる。本願発明の半導体歪センサーでは、歪センサーチップのグランドを歪セ
ンサーチップ裏面を通して測定対象物に電気的に接続できるので、センサーチップのグラ
ンドが測定対象物の電位と一致して揺らぐため、ノイズが発生し難くできる。
【0014】
ベース板は、ニッケルや鉄、銅等の金属やSUSの様な合金が使用できる。鉄−ニッケ
ル系合金や鉄−ニッケル−コバルト系合金のようにシリコンと熱膨張係数が近い材料を用
いることで、温度変化に対する特性変化を小さくすることができる。歪センサーチップ裏
面とベース板表面は金属接合材を用いて固着するので、固着時にベース板が溶けたり変形
しないように金属接合材の融点より充分高い融点を有していることが必要である。鉄のよ
うな錆び易い金属には、錫や亜鉛などをめっきして使用することができる。測定対象物に
半導体歪センサーを取付けた時に、ベース板が変形しないことが重要であるので、硬い金
属材料が使うことが好ましい。
【0015】
平面の面積で歪センサーチップより大きいベース板に歪センサーチップは金属接合され
ているので、歪センサーチップの側方にベース板が張り出している。張り出しは少なくと
も歪センサーチップを挟んだ両側にある。この張り出し部を接続エリアと言い、この接続
エリアで半導体歪センサーを測定対象物と固着するものである。接続エリアは、2つから
4つまで形成することができる。4つの接続エリアとは、歪センサーチップの4つの側方
(全周)に形成された状態である。このときのベース板の形状は、略十文字状や方形状と
することができる。
【0016】
第1と第2の接続エリアを持つ半導体歪センサーを用いた場合、測定対象物に発生した
第1接続エリアと歪センサーチップ、第2接続エリアを繋ぐ方向(X方向と称す)の歪は
、第1および第2接続エリアを介してベース板および歪センサーチップに伝達し、半導体
ピエゾ素子の電気抵抗変化から歪量を検出することができる。第1から第4の接続エリア
を持つ半導体歪センサーを用いた場合、第3接続エリアと歪センサーチップ、第4接続エ
リアを繋ぐ方向(Y方向と称す)の歪は、第3および第4接続エリアを介してベース板お
よび歪センサーチップに伝達し、半導体ピエゾ素子の電気抵抗変化から歪量を検出するこ
とができる。2つの接続エリアを有する半導体歪センサーではX方向のみであるが、4つ
の接続エリアを有する半導体歪センサーではX方向とY方向の歪を測定することができる
。4つの接続エリアを有する半導体歪センサーを用い、X方向およびY方向に対して45
度の方向の歪量を検出することで、トルク検出センサーに用いることもできる。
【0017】
本願発明の半導体歪センサーの配線部は、ベース板上に樹脂接着されたフレキシブル配
線板と、フレキシブル配線板の配線と歪センサーチップの電極の間を電気的に接続する金
属ワイヤーと、少なくとも歪センサーチップの電極と金属ワイヤーを覆う樹脂で構成され
ていることが好ましい。
【0018】
フレキシブル配線板と歪センサーチップ間は、被覆されていない金属ワイヤーを、超音
波溶接や半田付けすることで、導通を得ることができる。金属ワイヤーはФ10μmから
Ф200μm径の裸金線を用いることができる。金属ワイヤーとその接続部や電極を樹脂
で覆う事で、電気的な絶縁や外気からの絶縁を確保することができる。配線部だけでなく
歪センサーチップも樹脂で覆っても良いものである。フレキシブル配線板とそれを接着す
る接着剤の剛性が大きいと、フレキシブル配線板や接着剤のクリープや劣化、変質が半導
体歪センサー全体の剛性に影響する危険性がある。出来得る限りフレキシブル配線板や接
着剤の弾性率を小さくし体積も小さくすることが好ましい。
【0019】
本願発明の半導体歪センサーの配線部は、フレキシブル配線板の配線の一部が、歪セン
サーチップの電極に設けられた金属バンプに直接接続していることが好ましい。
【0020】
歪センサーチップの電極に金属バンプを設けることで、フレキシブル配線板を直接歪セ
ンサーチップの表面に接続でき、フレキシブル配線板をベース板に接着する必要がない。
そのため、歪センサーチップ側方に配する接続エリアの設計自由度を上げることができる
。フレキシブル配線板は出来得る限り薄くして、半導体歪センサーの剛性に影響与えない
ようにすることが好ましい。
【0021】
本願発明の半導体歪センサーの配線部は、ベース板上に絶縁膜を介して形成されたベー
ス板電極と、ベース板電極と歪センサーチップの電極の間を電気的に接続する金属ワイヤ
ーと、少なくとも金属ワイヤーと歪センサーチップの電極を覆う樹脂で構成されているこ
とが好ましい。
【0022】
電極を有するベース板を用いることで、フレキシブル配線板を無くすことができる。ベ
ース板電極と歪センサーチップの電極間を金属ワイヤーで接続し、ベース電極に被覆ワイ
ヤーを設けることで、歪センサーチップの電気信号をチップの外部に取り出すことができ
る。ベース板にフレキシブル配線板を接着することがないので、歪センサーチップ側方に
配する接続エリアの設計自由度を上げることができる。金属ワイヤーとその接続部や電極
を樹脂で覆う事で、電気的な絶縁や外気からの絶縁を確保することができる。
【0023】
本願発明の半導体歪センサーは、半導体歪センサーのベース板の裏面と測定対象物が対
向し、半導体歪センサーはベース板の接続エリアの少なくとも一部の領域が測定対象部材
に固着されるように取付けられることが好ましい。
【0024】
ベース板の接続エリアの少なくとも一部の領域が測定対象物に固着されていることが必
要である。測定対象物の歪は固着部を介してベース板に伝わるので、固着部の面積が小さ
いと、歪が集中して固着部が塑性変形する危険性がある。測定したい歪範囲で固着部が塑
性変形しないように固着部の面積を確保すれば、接続エリアの全域を固着する必要はない
。勿論、接続エリア全域が測定対象物と固着されていても構わない。接続エリア以外のベ
ース板と測定対象物は固着していなくとも良く、間隙を有していても良いものである。歪
センサーチップから発生する熱を効率良く放散させるには、間隙を持たず密接しているこ
とが好ましい。
【0025】
本願発明の半導体歪センサーは、半導体歪センサーと測定対象物は、少なくとも2つ以
上の接続エリアで、各接続エリアは少なくとも一ヶ所以上の溶接部で固着されるように取
付けられることが好ましい。
【0026】
溶接は、レーザー溶接や抵抗スポット溶接を用いることができる。測定対象物が溶接で
きるものに限られるが、溶接部にはクリープや劣化、変質が起こり難いため、長期的安定
性に優れる。溶接は接続エリアの材質と測定対象物の材質のみで行うこともできるが、接
続エリアと測定対象物の間にろう材のような金属を介することもできる。ハンディタイプ
のスポット溶接機を用いれば、既設の装置や構造物に対しても、本願発明の半導体歪セン
サーを容易に現場で取付けることができる。また、取付け時に歪センサーチップに直接力
を加えることがないので、歪センサーチップを破壊したり、不必要な歪を与えて歪センサ
ーチップ特性を変化させたりする危険性を低くすることができる。
【0027】
本願発明の半導体歪センサーは、半導体歪センサーと測定対象物は、少なくとも2つ以
上の接続エリアで、各接続エリアは少なくとも一ヶ所以上のねじ部で固着されるように取
付けられることが好ましい。
【0028】
測定対象物にネジ穴を形成する必要があるが、溶接ができない材質の測定対象物にも容
易に本願発明の半導体歪センサーを取付けることができる。また、半導体歪センサーの取
付けに、レーザー溶接機やスポット溶接機などの装置を必要としないため、狭い場所や高
い場所等での取付けが容易となる。
【発明の効果】
【0029】
高感度な半導体歪ゲージを用いた歪センサーで、特性が長期間安定し、歪センサーチッ
プの発熱に対しても特性変化し難い半導体歪センサーを提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下本発明を図面を参照しながら実施例に基づいて詳細に説明する。説明を判り易くす
るため、同一の部品、部位には同じ符号を用いている。
【実施例1】
【0031】
本願発明の第一実施例の半導体歪センサーの構造および製作方法について、図1と図2
を用いて以下説明する。図1は第一実施例の歪センサーを測定対象物に取付けた状態の平
面図で、図2は図1のk−k’断面図である。ピエゾ抵抗素子(図示せず)が形成された
半導体歪ゲージとして機能するシリコン製の歪センサーチップ2を、金属製のベース板3
の略中央位置に金属接合材の金属はんだ4で固着した。ベース板3は図1のX方向に長い
長方形状とし、歪センサーチップ接続部15を挟んだ両側に、接続エリア11,12を設
けた。X方向に向かって第1接続エリア11、歪センサーチップ接続部15、第2接続エ
リア12と並んでいる。歪センサーチップ接続部15より平面積の小さい歪センサーチッ
プ2を、歪センサーチップ接続部15の略中央部に固着している。概略の寸法は、ベース
板のY方向が6mm幅で、X方向の第1接続エリアが5mm、歪センサーチップ接続部が
4.5mm、第2接続エリアが4.5mmである。歪センサーチップはY方向が2.5m
m、X方向が2.5mmである。ベース板3は、シリコンとの近い鉄58−ニッケル42
合金で、厚みは0.3mmである。歪センサーチップ2の厚みは0.16mmである。
【0032】
歪センサーチップ2とベース板3の固着には金属はんだ接合を用いた。歪センサーチッ
プ2のベース板対向側面にCr−Ni−Auの3層メタライズをスパッターにより形成し
、その上にSn系の金属はんだ材料を蒸着により形成した。ベース板3の歪センサーチッ
プ対向側面にも、Cr−Ni−Auの3層メタライズをスパッターにより形成した。ベー
ス板の略中央部に歪センサーチップ2を位置合わせした後、金属はんだを加熱溶融してベ
ース板に歪センサーチップを固着した。ベース板側の3層メタライズは歪センサーチップ
が固着される部位だけで良いが、マスクスパッター等の手間を省くためベース板全面に形
成してもよい。
【0033】
歪センサーチップの電極16からの配線引き出しには、フレキシブル配線板5を用いた
。フレキシブル配線板5の先端の配線が露出している面と反対の面を、ベース板上のセン
サーチップ接合部のY方向に隣接した位置にエポキシ系樹脂接着剤を用いて接着した。フ
レキシブル配線板5の配線と歪センサーチップの電極16間は、Ф20μmの裸Auワイ
ヤー17を超音波溶接で接続した。歪センサーチップの電極16とAuワイヤー17、フ
レキシブル配線板5の配線を覆うようにカバー樹脂18を塗布した。カバー樹脂18は熱
硬化型樹脂を用いた。塗布する樹脂接着剤の弾性率が高い場合や、塗布厚を厚くせざるを
得ない場合は、樹脂による応力の不均一を無くすため、配線部だけではなく少なくとも配
線部の対称位置にも接着材を塗布することが良い。歪センサーチップ全体を覆う様に樹脂
を塗布することもできる。また、歪センサーのピエゾ抵抗素子は光の影響を受けるので、
光の影響を抑制したいときには歪センサーチップ全体を有色の樹脂で覆うのが望ましい。
【0034】
ベース板3上に歪センサーチップ2を金属はんだ4で接合し、配線を行った半導体歪セ
ンサー1を測定対象物6に取付けた。半導体歪センサー1を測定対象物6の所望の位置に
設置した後、第1接続エリア11と第2接続エリア12に、各10点のスポット溶接を行
い、半導体歪センサー1を測定対象物6に固着した。10点のスポット溶接は2列5行で
、溶接点19はY方向に5点等間隔で3点目の溶接点がベース板のY方向の中心線上にな
る様にしている。
【0035】
歪センサーチップ2には、X方向とY方向の歪を検出できるようにピエゾ抵抗素子が形
成されている。詳細は省略するが、複数のピエゾ抵抗素子を用いてブリッジ回路を形成し
、X方向とY方向の歪量に比例した出力が得られるように構成した。本実施例では、第1
の方向の歪量を測定するピエゾ抵抗素子のみを使用している。測定対象物6がX方向に引
っ張られて歪を発生すると、その歪はスポット溶接部を介して半導体歪センサーのベース
板に伝えられ、ベース板3と歪センサーチップ2に歪が発生して、ピエゾ抵抗素子の抵抗
変化により、測定対象物の歪量に応じた電気信号出力が得られる。ベース板3および歪セ
ンサーチップ2の剛性により、歪センサーチップ2に発生する歪量は測定対象物の歪量と
一致しないが、予め変換係数を求めておくことで、実用的な歪センサーとして用いること
ができる。
【0036】
本願発明の第一実施例の半導体歪センサーは、歪センサーチップ2が金属製のベース板
3に金属材料を用いて固着されているので、歪センサーチップ2で発生した熱はベース板
伝導して放熱され易い。ピエゾ抵抗素子は電気抵抗が高いため発熱し易く、また歪センサ
ーチップ内にCMOSのアンプ回路を形成した場合にはアンプ回路からも発熱する。本実
施例の半導体歪センサーは、前述のようにベース板に熱を伝導して放熱し易いので、歪セ
ンサーチップの温度上昇を最小限に抑えることができるだけでなく、ベース板と歪センサ
ーチップの温度を均一に保ち易い。これにより、温度変化によるピエゾ抵抗係数の変化や
、歪センサーチップとベース板との温度不均一による熱変形でピエゾ抵抗素子の応力が変
化するなどして起こる特性変化を抑えることができた。歪センサーチップ2から測定対象
物6までの積層間に樹脂接着剤などの有機材料が介在した場合、歪がかかった状態で長時
間経過すると有機材料がクリープを起こして、歪検出のゼロ点が変化してしまう問題があ
った。更に、有機材料の劣化や変質により歪の伝達が阻害され、歪検出感度が変化してし
まう問題もあった。本実施例の半導体歪センサーでは、歪センサーチップとベース板の固
着に金属はんだを用い、ベース板と測定対象物の取付けに溶接を用いることで、有機材料
に起因する前述のような特性変化を防止でき、センサー特性の長期安定性に優れた歪セン
サーが得られた。固着に用いた金属材料に於いても微小なクリープが発生する可能性があ
るが、樹脂接着剤を用いた場合に比較して格段の差が有るので、長期安定性に対しては充
分な効果がある。
【0037】
本実施例の半導体歪センサーは、歪センサーチップが導電性の材料で測定対象物まで接
続しているためノイズに強い。歪センサーチップと測定対象物が導電材料で接続している
場合の模式等価回路を図3a)に、両者の間に絶縁材料が介在する場合の模式等価回路を
図3b)に示す。図3a)に示すように、本実施例の半導体歪センサーは歪センサーチッ
プのグランドを測定対象物6と電気的に接続できるので、歪センサーチップのグランドが
測定対象物の電位と一致して揺らぐ(変動する)ため、ノイズが発生し難い。従来の半導
体歪センサーの様に、歪センサーチップと測定対象物の間に絶縁材料が介在すると、測定
対象物に電流が流れるなどして電位が揺らいだ場合に、図3b)に示す様にセンサーチッ
プ回路21内の各所が測定対象物との間に寄生容量22を持つため、センサーチップ回路
21内の電位も様々に揺らされるため、ノイズが発生し易くなる。
【0038】
本実施例の半導体歪センサーは、測定対象物への取付けのし易さも充分考慮されている
。歪測定の目的は様々であり、また測定対象物の形状や大きさも様々である。測定対象物
が狭い場所や高い場所にあったり、設置場所から移動できないものなどもある。直接、歪
センサーチップの裏面を測定対象物に金属接合できれば金属製のベース板を設ける必要は
ない。直接測定対象物に金属接合するには、測定対象物表面にメタライズ形成することや
、はんだ材料の加熱溶融が必要である。設置場所から移動できないような測定対象物にメ
タライズ形成やはんだ材料の加熱溶融を行うのは非常に困難である。本願発明の半導体歪
センサーは、歪センサーチップが予めベース板に金属接合されており、フレキシブル回路
板配線も接続された、モジュールとなっている。本願発明の半導体歪センサーの接続エリ
アを測定対象物に溶接するだけで、歪量の測定が可能となる。持ち運び可能なスポット抵
抗溶接機も市販されているので、動かせない測定対象物に対しても、現場にスポット抵抗
溶接機を持ち込んで取付けが可能である。また、スポット抵抗溶接に限らず、レーザー溶
接やシーム溶接なども用いることができる。ベース板を介して測定対象物に歪センサーチ
ップを取付けるため、取付け作業時に歪センサーチップを破損したり、不必要な歪を与え
て特性を変化させてしまう危険性を低くできた。
【実施例2】
【0039】
本願発明の第二実施例の半導体歪センサーについて説明する。第一実施例と異なるのは
、測定対象物への取付け方法である。図4は第二実施例の歪センサーを測定対象物に取付
けた状態の平面図で、図5は図4のm―m’断面図である。ベース板3の第1接続エリア
11と第2接続エリア12にボルト孔23を形成し、半導体歪センサー1を測定対象物6
にボルト24で固着した。測定対象物6にはボルト24用のねじ穴25を形成する必要が
あるが、第一実施例の測定対象物は溶接ができる材料に限られていたが、本実施例ではね
じ穴が形成できれば溶接ができないセラミック等にも適用できるものである。逆に、測定
対象物にボルトを取付けて、接続エリアのボルト孔23に通してナットで固着することも
できる。
【実施例3】
【0040】
本願発明の第三実施例の半導体歪センサーについて説明する。接続エリアの配置および
、配線引き出し方法が第一実施例と異なる。図6は第三実施例の歪センサーを測定対象物
に取付けた状態の平面図で、図7は図6のn−n’断面図である。図6に示すように、X
方向にセンサーチップ接続部15を挟む第1接続エリア11と第2接続エリア12に加え
て、Y方向にセンサーチップ接続部15を挟む位置に、第3接続エリア13と第4接続エ
リア14を配置した。第1から第4接続エリアを、測定対象物にスポット抵抗溶接を行い
半導体歪センサー1を測定対象物6に固着した。測定対象物のX方向に加わる歪は第1接
続エリア11と第2接続エリア12を介して歪センサーチップ2に歪が伝達し、Y方向に
加わる歪は第3接続エリア13と第4接続エリア14を介して歪センサーチップ2に歪が
伝達し、測定対象物に加わった歪量を検出することができる。
【0041】
歪センサーチップの全周を取り囲むように第1〜第4接続エリアが形成されているので
、フレキシブル配線板5を歪センサーチップ2上に配置している。歪センサーチップの電
極16に金属バンプ26を形成し、フレキシブル配線板5を接続した。フレキシブル配線
板の応力の影響を低減するため、歪センサーチップ2の片側にフレキシブル配線板を設け
るのではなく、歪センサーチップ2を覆うようにフレキシブル配線板5を配した。フレキ
シブル配線板5と歪センサーチップ2間の隙間にはカバー樹脂18を塗布した。カバー樹
脂18はエポキシ樹脂を用いた。カバー樹脂18は配線部の電気的絶縁と外気との絶縁だ
けでなく、フレキシブル配線板と歪センサーチップ間の接合力増強の働きも果たすもので
ある。フレキシブル配線板を歪センサーチップ上に配置したので、第1〜第4接続エリア
と測定対象物の溶接の際、フレキシブル配線板が溶接作業の邪魔になるようなことはなか
った。
【0042】
本実施例の半導体歪センサーは、トルク検出にも適している。トルク検出の一例を、図
8に示す。トルクが加わる円柱状部材27を測定対象物とし、円柱状部材の円柱側面に切
欠き溝28を形成し、溝底の平坦部に本実施例の半導体歪センサー1を取付けた。本実施
例の半導体歪センサーは、歪センサーチップの周囲4ヶ所の接続エリアで測定対象物に溶
接で固着した。X方向もY方向も歪を伝達するので、測定対象物のねじりによるせん断歪
が歪センサーチップ2にも伝達し、トルクに比例したせん断歪を計算を行い求めることが
できた。本実施例では、歪センサーチップ内のピエゾ抵抗素子は、X方向とY方向と平行
に配している。しかし、予めX方向とY方向に対し45度にピエゾ抵抗素子を配した歪セ
ンサーチップを用いれば、せん断方向の歪を直接測定することができる。
【実施例4】
【0043】
本願発明の第四実施例の半導体歪センサーについて説明する。配線引出し方法が第一実
施例と異なる。図9は、第四実施例の半導体歪センサーの平面図である。ベース板3上に
絶縁膜31を介してベース板電極32を形成した。ベース板電極32と歪センサーチップ
2の電極16間をAuワイヤー17で接続し、またベース板電極に被服配線33の被服を
剥がした先端部をはんだ付けした。配線部を含め歪センサーチップを覆うようにカバー樹
脂18を塗布した。樹脂による応力が大きい場合は、カバー樹脂の塗布を配線部のみ、も
しくは配線部と配線部の対称位置とすることもできる。本実施例によれば、予めベース板
電極32を形成したベース板3を用いることで、フレキシブル配線板が不要になり、フレ
キシブル配線板のベース板への接着など組立の工程が省ける。引出し配線数が少ない場合
に適した配線引き出し構造である。
【0044】
本願発明の歪センサーの配線手段については、第一から第四実施例に示した構成に限ら
れたものではなく、例えばベース板上に絶縁膜を介して形成したベース板電極に対し、フ
レキシブル配線板の配線の一部を異方性導電接着剤を用いて電気的に接続する方法などを
用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】第一実施例の半導体歪センサーの実装状態の平面図である。
【図2】第一実施例の半導体歪センサーの実装状態の断面図である。
【図3】第一実施例の半導体歪センサーの実装状態での電気的模式等価回路である。
【図4】第二実施例の半導体歪センサーの実装状態の平面図である。
【図5】第二実施例の半導体歪センサーの実装状態の断面図である。
【図6】第三実施例の半導体歪センサーの実装状態の平面図である。
【図7】第三実施例の半導体歪センサーの実装状態の断面図である。
【図8】第三実施例の半導体歪センサーを用いたトルク測定の例を示す斜視図である。
【図9】第四実施例の半導体歪センサーの実装状態の平面図である。
【図10】従来品の歪センサーの外観を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 半導体歪センサー、
2 歪センサーチップ、
3 ベース板、
4 金属はんだ、
5 フレキシブル配線板、
6 測定対象物、
11 第1接続エリア、
12 第2接続エリア、
13 第3接続エリア、
14 第4接続エリア、
15 歪センサーチップ接続エリア、
16 電極、
17 ワイヤー、
18 カバー樹脂、
19 溶接点、
21 センサーチップ回路、
22 寄生容量、
23 ボルト孔、
24 ボルト、
25 ねじ穴、
26 金属バンプ、
27 円柱状部材、
28 切欠き溝、
31 絶縁膜、
32 ベース板電極、
33 被覆電線、
51 半導体歪ゲージ、
52 歪センサーチップ、
53 配線、
54 ポリイミドフィルム、
56 歪検出センサー、
57 ガラス製台座、
58 低融点ガラス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板にピエゾ抵抗素子を形成した歪センサーチップと、金属製のベース板と、前
記歪センサーチップの電極から外部に配線を引き出す配線部とを有し、歪センサーチップ
裏面とベース板表面は金属接合材で接合され、歪センサーチップの側方に張り出したベー
ス板部に、測定対象物と固着する少なくとも2つ以上の接続エリアを有することを特徴と
する半導体歪センサー。
【請求項2】
配線部は、ベース板上に樹脂接着されたフレキシブル配線板と、フレキシブル配線板の
配線と歪センサーチップの電極の間を電気的に接続する金属ワイヤーと、少なくとも歪セ
ンサーチップの電極と金属ワイヤーを覆う樹脂で構成されていることを特徴とする請求項
1に記載の半導体歪センサー。
【請求項3】
配線部は、フレキシブル配線板の配線の一部が、歪センサーチップの電極に設けられた
金属バンプに直接接続していることを特徴とする請求項1に記載の半導体歪センサー。
【請求項4】
配線部は、ベース板上に絶縁膜を介して形成されたベース板電極と、ベース板電極と歪
センサーチップの電極の間を電気的に接続する金属ワイヤーと、少なくともベース板電極
と金属ワイヤー、歪センサーチップの電極を覆う樹脂で構成されていることを特徴とする
請求項1に記載の半導体歪センサー。
【請求項5】
半導体歪センサーのベース板の裏面と測定対象物が対向し、半導体歪センサーはベース
板の接続エリアの少なくとも一部の領域が測定対象物に固着されていることを特徴とする
半導体歪センサーの取付け方法。
【請求項6】
半導体歪センサーと測定対象物は、少なくとも2つ以上の接続エリアで、各接続エリア
は少なくとも一ヶ所以上の溶接部で固着されていることを特徴とする請求項5に記載の半
導体歪センサーの取付け方法。
【請求項7】
半導体歪センサーと測定対象物は、少なくとも2つ以上の接続エリアで、各接続エリア
は少なくとも一ヶ所以上のねじ部で固着されていることを特徴とする請求項5に記載の半
導体歪センサーの取付け方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−53005(P2009−53005A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219342(P2007−219342)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】