半導体波長可変レーザ
【課題】低損失であり、かつ広い波長可変域を有する生産が容易な半導体波長可変レーザを提供すること。
【解決手段】波長可変レーザは、利得領域と、利得領域からの光に対する波長選択機能を有するフィルタ領域と、利得領域とフィルタ領域との間の位相調整領域と、出力端面とを備える。フィルタ領域は、ループミラーとして機能するサニャック干渉計であり、2×2光カプラ及び光導波路で構成されるリング共振器1及び2がループ内に配置された構成をとる。リング共振器1及び2は、光導波路により直接接続され、直列に配置されている。リング共振器1及び2は、互いに異なるFSRを有することにより波長可変域を拡大させている。2×2光カプラとリング共振器1及び2の接続、並びにリング共振器1及び2の間の接続にハイメサ光導波路を用いる。また、低損失かつ容易に作製可能なMMI光カプラを、リング共振器1及び2の光結合部分と2×2光カプラに用いる。
【解決手段】波長可変レーザは、利得領域と、利得領域からの光に対する波長選択機能を有するフィルタ領域と、利得領域とフィルタ領域との間の位相調整領域と、出力端面とを備える。フィルタ領域は、ループミラーとして機能するサニャック干渉計であり、2×2光カプラ及び光導波路で構成されるリング共振器1及び2がループ内に配置された構成をとる。リング共振器1及び2は、光導波路により直接接続され、直列に配置されている。リング共振器1及び2は、互いに異なるFSRを有することにより波長可変域を拡大させている。2×2光カプラとリング共振器1及び2の接続、並びにリング共振器1及び2の間の接続にハイメサ光導波路を用いる。また、低損失かつ容易に作製可能なMMI光カプラを、リング共振器1及び2の光結合部分と2×2光カプラに用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長多重大容量通信を支えるための重要な光部品である半導体波長可変レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットにおけるトラフィックの増大により、ノード間を結ぶ伝送には波長多重を用いて伝送容量を増加させている。波長可変レーザは、このような波長多重伝送において欠かすことのできない重要な光部品である。
【0003】
このような中で、非特許文献1に示されるように、2重リング共振器を用いたモノリシック集積型波長可変レーザが提案されている。図1に構造図を示す。リング共振器は、一定の周波数間隔(FSR)で透過強度が大きくなる特長を持つ透過型光フィルタであり、このレーザでは、2つの異なるFSRを持つリング共振器を用いることにより2つのFSRの最小公倍数の周波数領域で波長可変動作を得る事を可能にしている(バーニア効果)。通信波長帯、例えばC帯(1530〜1570nm)をカバーするような大きな波長可変範囲を得るためには、FSRを大きく、すなわち共振器長を小さくする必要があり、急峻な曲げ半径が実現可能であるハイメサ光導波路を用いている。図2に、ハイメサ光導波路の断面構造図を示す。コア層および下部クラッド層まで垂直に半導体をエッチングした構造である。また、リング共振器の光カプラ部分には、光結合効率が50%のマルチモード干渉(MMI)光カプラを用いている。レーザの発振波長を変化させるためには、2つのリング共振器にそれぞれ独立に電流注入することにより光導波路の屈折率を変化させて共振ピーク波長を調整する。電流注入は、ナノ秒程度で高速に屈折率変調が可能である。さらに位相調整用の光導波路(位相調整領域)をレーザ内に設けることにより縦モード間隔を微調整し、正確に所望の発振波長に調整可能としている。この位相調整も電流注入によって行っている。
【0004】
しかしながら、上述した図1に示される構造には以下のような問題点があった。第1の問題点は、高出力化が困難なことである。図1の構成では、利得領域からの光のうち2つのリング共振器の共振ピーク波長に一致した光が有効にフィルタ領域を通過し、端面により反射され、再びフィルタ領域を通過し利得領域に結合する。リング共振器は共振ピーク波長の光でさえ数dB程度の損失が存在し、リング共振器を通過する毎に損失が増大する。さらに端面からの反射率は、劈開端面のままでは約30%しかなく約5.2dBのミラー損失があった。端面に高反射膜を形成することによりミラー損失を低減することも可能であるが、高反射膜を形成した端面からの反射率も実際には100%ではなく、数%から十数%の損失があった。したがって、2回のリング共振器の通過および端面におけるミラー損失により、利得領域へのフィードバック光は実際には10dB前後の損失を受けてしまい、レーザ光出力の低下を招いていた。第2の問題点は、さらなる波長可変域の拡大が困難なことである。波長分割多重伝送方式を用いた現在の光通信システムにおいて、通信容量の大容量化とともに波長帯は前述のC帯のみではなく、L帯(1570−1610nm)やS帯(1460−1530nm)などの波長帯域も使用されている。したがって、1台の波長可変レーザで複数の波長帯をカバーできるより広い波長可変帯域を有することが求められている。しかしながら、非特許文献1の構成では、リング共振器のフィネスで決定される波長選択性能とのトレードオフから、最大でも波長可変域が50nmと限界があった。
【0005】
リング共振器への通過回数の低減し、かつ端面反射を用いない構成として、図3に示すものが挙げられる。2つのリング共振器と非対称マッハツェンダ干渉計をループ状に接続したサニャック(Sagnac)干渉計をフィルタ領域に配置した、1チップ集積型半導体波長可変レーザである(非特許文献2参照)。この構成において、利得領域からの光は、1×2光カプラにより等分岐され、それぞれ右回りと左回りにループ内を周回し、再び1×2光カプラに入射する。右回り光と左回り光は同位相で1×2光カプラに再入射するため、ほぼ100%の光結合効率で利得領域にフィードバックされる。このとき、2つのリング共振器のFSRを異ならせ、バーニア効果により波長可変域を拡大する手法は図1の構成と同様であるが、各リング共振器への通過回数はループ構成により1回となる。通過回数の削減によりリング共振器に起因する損失は低減できるものの波長選択性能は劣化するので、その劣化を補うために非対称マッハツェンダ干渉計を第3のフィルタとしてサニャック干渉計のループに挿入する。こうした構成により、波長可変域拡大と波長選択性能の両立を試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−066318号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】IEEE Photonics Technology Letters, vol. 19, 2007, pp. 1322-1324
【非特許文献2】IEEE 21st International Semiconductor Laser Conference (ISLC 2008), 2008, pp. 153-154
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、第3のフィルタを波長制御のために追加することには生産上、重大な問題がある。それは、波長可変レーザの波長制御機構が複雑化し、例えば波長可変特性を取得するのに多大な測定時間を必要とすることである。リング共振器あるいはマッハツェンダ干渉計において、FSRおよび透過ピーク波長の設計値と実測値は必ずしも一致することはなく、実際の値には製造誤差で決まるばらつきが存在する。したがって、波長可変レーザの製造後には、レーザの発振波長とフィルタ領域に注入する電流(熱で制御する場合は印加電力、電圧で制御する場合は印加電圧)の関係を実際に調べなければ、レーザの発振波長を正確に制御することができない。例えば、リング共振器の共振ピークを隣の共振ピークまで移動させるのに10mAの注入電流が必要であったとする。図1の構成によりバーニア効果で波長可変域を拡大させた場合、2つのリング共振器にそれぞれ最大10mAの電流を注入することで波長可変域内のすべての波長を選択できることになる。0.1mAのステップで上述の発振波長と電流の関係を取得する場合、100×100=10000点の数値データが必要になる。測定時間が1点あたり1秒かかる測定系(例えば電流源と波長計で構成)を用いた場合、1台の波長可変レーザの特性取得にかかる時間は約2.8時間になる。さらに波長制御フィルタが追加された図3の構成で同様な電流ステップ数の測定を行うと約280時間(100×100×100=1000000点)が必要になることになる。上記の例は必要とする発振波長の精度やフィルタ形状、測定速度等に依存するが、急峻なフィルタ特性をもつリング共振器を含む場合、十分な測定ステップ数が必要になる。したがって、新たに波長制御フィルタを追加した図3の構成は波長制御機構が複雑化し、著しい量産性の低下を招いていた。
【0009】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、低損失であり、かつ広い波長可変域を有する生産が容易な半導体波長可変レーザを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、利得領域からの光に対する波長選択機能を有するフィルタ領域を備える波長可変レーザにおいて、前記フィルタ領域は、クロスポートに対する結合効率が50%未満の光結合器を有し、互いに異なる周波数間隔(FSR)を有する第1及び第2のリング共振器と、前記利得領域からの光を、前記第1及び第2のリング共振器に向けて等分岐する第1の光結合器とを備え、ループミラーとして機能するサニャック干渉計であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記第1のリング共振器と前記第2のリング共振器が、光導波路により直接接続され、直列に配置されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の第3の態様は、第1の態様において、前記第1のリング共振器が、前記第1の光結合器により等分岐された一方の光をさらに等分岐する第2の光結合器の出力ポートに接続されて第1のサニャック干渉計を構成し、前記第2のリング共振器が、前記第1の光結合器により等分岐された他方の光をさらに等分岐する第3の光結合器の出力ポートに接続されて第2のサニャック干渉計を構成し、前記第1及び第2のサニャック干渉計は並列に配置されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の第4の態様は、第1〜第3のいずれかの態様において、前記第1及び第2のリング共振器が、クロスポートに対する結合効率が50%以上の光結合器を備え、共振ピーク波長以外の光を破棄する放射導波路をリング共振器の周回内部にすることで実効的に結合効率を50%未満としたリング共振器であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第5の態様は、第1〜第4のいずれかの態様において、前記光結合器が、それぞれマルチモード干渉カプラであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第6の態様は、第5の態様において、前記マルチモード干渉カプラは結合効率が15%であり、85%の結合効率を有するマルチモード干渉カプラの3倍の長さを有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第7の態様は、第5の態様において、前記マルチモード干渉カプラは結合効率が28%であり、72%の結合効率を有するマルチモード干渉カプラの3倍の長さを有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の第8の態様は、第1〜第4のいずれかの態様において、前記光結合器が、それぞれ方向性結合器であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の第9の態様は、第8の態様において、前記方向性結合器はリッジ型光導波路で構成されていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の第10の態様は、第1〜第9のいずれかの態様において、前記利得領域と前記フィルタ領域との間に、導波する光の位相を調整するための位相調整領域を備え、前記位相調整領域により発振波長を微調整可能とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、リング共振器のフィネスが向上するとともに、反射膜を形成することなしに利得領域への高い反射率が得られる。すなわち、波長制御が簡単で、広い波長可変帯域かつ低損失な特性を有する波長選択フィルタが容易に作製可能となる。よって、これまで実現できなかった高性能かつ低コストの半導体波長可変レーザを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】リング共振器を用いた従来の半導体波長可変レーザの構成図である。
【図2】ハイメサ光導波路の断面図である。
【図3】従来のループ型の半導体波長可変レーザの構成図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る半導体波長可変レーザの構成図である。
【図5】実施形態1のリング共振器の透過スペクトル、およびフィルタ領域からの反射スペクトルを示す特性図である。
【図6】実施形態1に係る15%の結合効率を有するMMIカプラの構造図((a)は上面図、(b)は断面図)である。
【図7】(a)は実施形態1に係る15%の結合効率を有するMMIカプラの構造図、(b)は伝搬の様子(シミュレーション)を示す図である。
【図8】実施形態1に係る28%の結合効率を有するMMIカプラの構造図((a)は上面図、(b)は断面図)である。
【図9】実施形態1および従来技術に係る反射率差ΔRと増倍係数Mの関係を示す特性図である。
【図10】実施形態1および従来技術に係るフィルタ領域の損失と増倍係数Mの関係を示す特性図である。
【図11】本発明の実施形態2に係る半導体波長可変レーザを示す構成図である。
【図12】実施形態1及び2に係るフィルタ領域のロスとカプラの強度結合効率の関係を示す特性図である。
【図13】(a)は従来技術のリング共振器、(b)は実施形態3のリング共振器の構造を示す図である。
【図14】本発明の実施形態4に係る半導体波長可変レーザのリング共振器の構造図((a)は平面図、(b)は断面図)である。
【図15】(a)は実施形態4のリッジ型光導波路を用いた方向性結合器の伝搬の様子(シミュレーション)を示す図、(b)は結合効率と結合器の長さの関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0023】
(実施形態1)
図4に、実施形態1の半導体可変レーザを示す。図示のように、波長可変レーザは、利得領域と、利得領域からの光に対する波長選択機能を有するフィルタ領域と、利得領域とフィルタ領域との間の位相調整領域と、出力端面とを備える。フィルタ領域は、ループミラーとして機能するサニャック干渉計であり、2入力2出力型(2×2)光カプラ及び光導波路で構成されるリング共振器1及び2がループ内に配置された構成をとる。リング共振器1及び2は、光導波路により直接接続され、直列に配置されている。2×2光カプラは、1入力2出力型(1×2)光カプラでもよい。
【0024】
利得領域からの光は2×2光カプラ(「第1の光結合器」に対応)により等分岐され、それぞれ右回りと左回りにループ内を周回し、再び2×2光カプラに入射する。右回り光と左回り光は同位相で2×2光カプラに再入射するため、100%の光結合効率で利得領域にフィードバックされる。
【0025】
ループ内のリング共振器1及び2は、直列に配置され、かつ互いに異なるFSRを有することにより波長可変域を拡大させている。ここで、リング共振器のFSRは、
【0026】
【数1】
【0027】
と表せる。ここで、cは光速、neffは光導波路の実行屈折率、Lはリング共振器の共振器長である。リング共振器1及びリング共振器2のFSRをそれぞれFSR1及びFSR2とすると、波長可変域Δλは、非特許文献1に示されているように、
【0028】
【数2】
【0029】
と表せる。ここで増倍係数Mは、
【0030】
【数3】
【0031】
と表せる。式(1)ないし(3)より、大きな波長可変範囲を得るためには、増倍係数Mを大きくするか、あるいはFSRを大きくする必要がある。本実施形態の実施例では、FSR1を400GHz、FSR2を417GHz、Mを約25とし、波長可変域Δλは10000GHz(80nm)となった。これは、非特許文献1記載の従来技術と比較して1.5倍以上、非特許文献2と比較して2倍以上の波長可変性能である。
【0032】
図5に、本実施形態に用いるリング共振器のそれぞれの透過スペクトル、及びフィルタ領域からの反射スペクトルを示す。Mを増大させるためには、上述の式(3)から分かるように、2つのFSRの差を減少させる必要がある。その場合、2つのリング共振器の透過スペクトルの重なりが大きくなる。すなわち、フィルタ領域からの反射スペクトルにおいて、メインピークと隣接ピークの反射率差ΔRが減少する。ΔRはフィルタ領域の波長選択性能、つまり波長可変レーザのサイドモード抑圧比を決定する重要なパラメータである。リング共振器の共振が鋭ければ鋭いほど透過スペクトルの重なりが小さくなり、ΔRは向上する。本実施形態の実施例では、ΔRが1.5dBであり、サイドモード抑圧比40dB以上を得ている。
【0033】
図6〜8を参照して、本実施形態の半導体波長可変レーザが備えるフィルタ領域の詳細を説明する。本実施形態では、2×2光カプラとリング共振器1及び2の接続、並びにリング共振器1及び2の間の接続に、急峻な曲げ半径が可能なハイメサ光導波路を用いる。これにより、曲げ半径を10μm程度まで縮小しても曲げによる損失を無視できる。また、低損失かつ容易に作製可能なマルチモード干渉(MMI)光カプラを、リング共振器1及び2の光結合部分と2×2光カプラに用いる。共振器長Lを小さくするには光結合部分の長さ(光結合長)も縮小しなければならないが、ハイメサ光導波路で構成される公知の方向性結合器では、作製上の問題がある。ハイメサ光導波路は、空気との比屈折率差が大きいため光の横方向へのしみ出しが小さい。したがって、光結合部分にハイメサ光導波路で構成された方向性結合器を用いた場合、光結合長を短くするためには2本のハイメサ光導波路の間隔を0.1ミクロン以下にする必要があるが、0.1ミクロン程度の幅をもつ深い溝(一般に3〜4ミクロン)をエッチング等で形成することは加工上、非常に困難である。
【0034】
MMI光カプラは、前記利点をもつ一方、固定の光結合効率しか得られないという欠点をもつ。特にリング共振器に用いる2×2MMI光カプラの場合、入力ポートに入射された光のクロスポートへの光結合効率が、50%、72%、85%の3つのタイプのみ考えられている。3つのタイプのMMI光カプラの長さLMMIは、それぞれ次式で表される。
【0035】
【数4】
【0036】
【数5】
【0037】
【数6】
【0038】
ここで、neqは等価屈折率、Wwgは入出力導波路の幅、Wgapは入出力導波路間隔、λは使用波長である。リング共振器は、その光結合部分においてクロスポートへの光結合効率が小さくなればなるほどフィネスが向上する特徴がある。すなわち、光がリング共振器をより周回し共振が鋭くなり波長選択性能が向上する。従来技術では、非特許文献1又は2で示されるように、3つのタイプのうち最も低い結合効率である50%のMMIカプラ(3dB−MMIカプラ)を用いるほかなかった。しかしながら、本実施形態では、利得領域からの光は、ループ構成によりフィルタ領域を1回のみ通過し、非特許文献1と比べ通過回数は半分となり、結合効率が50%のMMIカプラではフィルタ領域の波長選択性能が低下せざるを得ない。したがって、本実施形態では、MMIカプラの構造を適切に設計することで50%未満の低い結合効率を実現し、フィルタ領域の波長選択性能の向上を行っている。
【0039】
図6に、本実施形態に係るMMIカプラの構造図を示す。本実施形態の実施例では、Wwgを1.2μm、Wgapを0.5μm、WMMIを3.4μm、3LMMI-85%の値を72μmとして、図のように入出力導波路を光結合部分の両端に配置した。MMIカプラは、入射導波路とWMMIとの相対位置関係により、入射光フィールドの結像の位置と強度が決定される特徴をもつ。85%の結合効率をもつ2×2MMIカプラにおいて、入力ポートに入力された光は、前記結合効率で2分岐されて出力ポート(クロスポート及びバーポート)に結像される。MMIカプラの長さを2倍の2LMMI-85%にまで増やした場合、入力光フィールドは等しく分岐され、結合効率50%のカプラとして動作する。さらにMMIカプラの長さを3倍の3LMMI-85%にまで増やすと、今度は、結合効率が15%で2分岐されて出力ポートに結像する。すなわち長さ2LMMI-85%を足すことにより、入力した導波路とは対称位置からの入力と等価になり、分岐比が反転する。これにより、結合効率が15%という低結合効率をもつ2×2MMIカプラが実現できた。図7に、ビーム伝搬法で求めたシミュレーション結果を示す。
【0040】
本実施形態では結合効率85%のMMIカプラを用いたが、結合効率72%のMMIカプラの長さを3倍にしても同様に分岐比が反転する。また、本実施形態に係るMMIカプラのもう1つの例を図8に示す。この構造を用いることにより結合効率が28%の2×2MMIカプラが実現できる。
【0041】
このように、MMIカプラの構造を適切に設計することで50%未満の低い結合効率を実現し、フィルタ領域の波長選択性能の向上を図ることができるが、2×2MMIカプラの長さが3倍になるのでリング共振器の構造パラメータに制約が生じる。共振器長Lをもつリング共振器は、2つの2×2MMIカプラと曲がり導波路で構成される(図4参照)。曲がり導波路の曲率が一定の場合、曲がり半径Rは以下の式で表せる。
【0042】
【数7】
【0043】
曲がり導波路にハイメサ光導波路を用いた場合、前述したようRを10μm程度まで損失が小さいまま縮小できる。さらに、式(4)ないし(6)より、MMI光カプラの構造パラメータのWwgとWgapを縮小すればMMI光カプラの長さを縮小できることがわかる。以上を勘案すると、本実施形態ではWwg、Wgap、及びFSRは下記の条件を満たせば良いことがわかる。
(1)入出力導波路幅Wwgは光がシングルモードで伝搬する条件であり、式(7)でRが10μm以上となる条件。範囲として0.5〜3μm程度。上述の実施例では1.2μm。
(2)入出力導波路間隔Wgapは、式(7)でRが10μm以上となる条件。最小値は狭ギャップの作製精度に決まり、最大値は2μm程度。上述の実施例では0.5μm。
(3)周波数間隔FSRは、式(7)でRが10μm以上となる条件。条件(1)及び(2)から範囲は50〜600GHz程度。上述の実施例ではFSR1を400GHz、FSR2を417GHz。
【0044】
図9には、従来技術である非特許文献1の構成と本実施形態の構成を比較するため、フィルタ領域の波長選択性能を決めるΔRと増倍係数Mの関係を計算で求めた結果を示す。計算では光導波路の損失を5dB/cm、光カプラの損失を0.5dB、FSR1を400GHzとして計算した。Mを増大すると2つのリング共振器の透過スペクトルの重なりが大きくなるためΔRが減少する。しかし、本実施形態の実施例では15%という低い結合効率をもつ2×2MMIカプラを用いているため、ループ構成にしているにもかかわらずMを25まで増大することができた。これは従来技術と比較して約2倍の波長可変帯域の向上に相当する。図10は、同様にフィルタ領域で発生する損失と増倍係数Mの関係を示している。結合効率が28%の2×2MMIカプラを用いることによって波長可変性能を微増しつつ約6.6dBもの損失を減少させることが可能であることがわかる。これにより高反射膜を形成することなしに波長可変レーザの発振閾値が大幅に減少し、レーザ光出力が+13dBm以上の高出力化が可能となった。
【0045】
最後に、本実施形態に係る半導体波長可変レーザの作製方法について述べる。素子のレーザ活性層は、n−InP基板上にn−InP層、InGaAsP/InP多重量子井戸構造(MQW)の活性層(フォトルミネッセンスピーク波長1.53μm)と活性層の上下をSCH(Separate−confinement heterostructure)層で閉じこめる構造とした。次にSiO2膜をスパッタリングにより成膜し、利得領域となる部分を除きエッチングにより除去、さらにパターン化されたSiO2膜をマスクとして活性層を除去する。次に、選択成長により1.4Q組成、0.3μm膜厚のInGaAsP光導波路層をバットジョイント成長し、その後、SiO2層を除去して基板全体にp−InP層、p+−InGaAs層を成長した。次に、コア層の直上までエッチングされたリッジ型光導波路をフォトリソグラフィとウェットエッチングにより作製し、利得領域および位相調整領域を形成した。リング共振器部分を含むフィルタ領域は、フォトリソグラフィとドライエッチングにより、ハイメサ光導波路構造で一括作製し形成した。最後に、電流注入用電極を利得領域と位相調整領域のリッジ型光導波路のp+−InGaAs層上、さらにリング共振器の入出力導波路を構成するハイメサ光導波路のp+−InGaAs層上、および基板裏面に形成し完成となる。
【0046】
(実施形態2)
実施形態2に係る半導体波長可変レーザを図11に示す。本実施形態では、フィルタ領域が、ループミラーとして機能するサニャック干渉計であり、2×2光カプラ及び光導波路で構成されるリング共振器1及び2がループ内に配置された構成をとる点で実施形態1と同様であるが、リング共振器1及び2はそれぞれ別個のサニャック干渉計を構成する点で異なる。2×2光カプラの出力ポートにサニャック干渉計がそれぞれ並列に接続されている。これにより、レーザ内を伝搬する光の位相を有効利用し、レーザ光出力の増大や波長可変域、あるいはサイドモード抑圧比のさらなる改善が可能となる。
【0047】
利得領域からの光は、まず2×2光カプラ(「第1の光結合器」に対応)により等分岐される。等分岐された光は、さらに1×2光カプラ(「第2の光結合器」及び「第3の光結合器」に対応)によってそれぞれ等分岐され、右回りと左回りにループ内を周回する。右回り光と左回り光は、1×2光カプラの出力ポートに接続されたリング共振器を通過した後、それぞれ同位相で1×2光カプラに再入射するため、100%の光結合効率でフィードバックされるのは実施形態1と等しい。また、ループ内に配置されたリング共振器は、互いに異なるFSRをもち波長可変域を拡大させている。
【0048】
フィードバックされた光は、ともに2×2光カプラに再入射する。経路2(リング共振器2を通過する経路)には、経路1(リング共振器1を通過する経路)と経路2との間の位相差が共振ピーク波長において常に0となるように、長さLPhaseの位相調整部が付与されている。長さLPhaseは、二つの経路長の差で決まり、
【0049】
【数8】
【0050】
と表せる。L1、L2は、それぞれ経路1、2の経路長である。経路1と経路2の経路長を等しくすることによって、2つのリング共振器の無限にある共振ピークのうち、ピークが一致した波長の光は、2×2光カプラに常に同位相で再入射し、利得領域に100%フィードバックする。さらに重要なことに、それ以外の波長の光には位相と振幅に差が生じ、2×2光カプラによって分岐出力される。すなわち、位相と振幅の差に応じて2×2光カプラの放射導波路側にも光が出力され、共振ピーク波長以外の光は利得領域への結合効率が低下することになる。この効果により、メインピークと隣接ピークの反射率差ΔRが実施形態1と比較して向上し、波長可変域やサイドモード抑圧比が改善する。このとき、経路間の位相関係は、リング共振器に電流注入し、ピーク波長を変化させても保たれる。さらに、リング共振器を直列接続構成から並列接続構成にすることは、フィルタ透過率が積から和になることに他ならない。例えば、1つのリング共振器のピーク透過率が0.5であった場合、フィルタ領域からの反射率はその積である0.25から、分岐した和の0.5になる。つまり、フィルタ領域からの反射率が向上し、レーザ光出力が増大する。
【0051】
図12には、実施形態1と実施形態2の構成を比較するため、フィルタ領域のロスとカプラの結合効率の関係を計算で求めた結果を示す。計算では光導波路の損失を5dB/cm、光カプラの損失を0.5dB、FSR1を400GHz、Mを20として計算した。光カプラの結合効率を低減するとフィルタ領域の損失は実施形態1、実施形態2ともに増大する。しかしながら、実施形態2の方が損失増大は緩やかであり、結合効率が28%の2×2MMIカプラを用いた場合、実施形態1と比較して波長可変性能を増大しつつ約3dBもの損失を減少させることが可能であった。これにより高反射膜を形成することなしに波長可変レーザの発振閾値が大幅に減少し、レーザ光出力のさらなる高出力化が可能となった。本実施形態のリング共振器における光カプラや光導波路の構造、作製方法は、実施形態1と全く等しい。また、作製誤差によって生じる経路間の位相差を補償するために経路1又は経路2の導波路上に位相調整用の電流注入用電極を形成してもよい。さらに、利得領域からの光を等分岐する2×2光カプラを1×2光カプラにしてもよい。
【0052】
(実施形態3)
図13(b)に、実施形態3に係る半導体波長可変レーザのリング共振器の構造図を示す。従来技術では、2×2MMIカプラを用いてリング共振器を構成する場合、図13(a)に示すようにMMIカプラを並列に配置し、2つのMMIカプラの内側の入出力導波路間を曲がり導波路で接続している。MMIカプラのその他の入出力導波路は、リング共振器への入出力に用いるか、あるいは共振ピーク波長以外の光を破棄する放射導波路として用いられる。実施形態1又は2の場合、MMIカプラの長さを3倍にしてはじめて波長可変レーザの広帯域化あるいは高出力化が可能になった。しかしながら、図13(b)に示すように、リング共振器への入出力側は従来通りに接続し、もう一方の側の入出力導波路では外側の導波路間を接続し、かつ内側の導波路を放射導波路とすると、カプラの分岐比が反転することと等価になる。すなわち長さを3倍にすることなく72%、85%の大きな結合効率をもつMMIカプラのままレーザの高性能化が可能になる。この構成により、式(7)の右辺第2項の3LMMIがLMMIとなり、上述の制約条件が緩くなる。つまり、同じRでより大きなFSR(具体的には最大900GHz程度まで)をもつ波長可変レーザが可能となる。作製方法は実施形態1と同様である。
【0053】
(実施形態4)
図14(a)及び(b)に、実施形態4に係る半導体波長可変レーザのリング共振器の構造図を示す。ハイメサ光導波路は前述したように横方向の光閉じこめが強く、実施形態1〜3のような十分に短い方向性結合器を作製することが技術的に困難である。したがって、実施形態1〜3ではリング共振器の光カプラを2×2MMIカプラとした。しかしながら、本実施形態では、光カプラの前後でハイメサ光導波路からリッジ型導波路に適切にモード変換し、方向性結合器をリッジ型光導波路で構成することにより、十分短い方向性結合器を容易に作製した。リッジ型光導波路は、コア層直上までエッチングした光導波路で、利得領域および位相調整領域に用いられる構造であり、本実施形態のリング共振器は、実施形態1で説明した作製プロセスとの親和性が極めて高い。本実施形態の実施例では、リッジ型光導波路幅Wwgを1.2μm、リッジ型光導波路間隔Wgapを前述の作製プロセスで作製可能な0.5μmとしている。
【0054】
図15に、リッジ型光導波路を用いた方向性結合器の光伝搬の様子(ビーム伝搬法によるシミュレーション)、および結合効率と方向性結合器の長さの関係を示す。図15より、方向性結合器の長さを20μmとすると結合効率15%が実現できるのがわかる。これは、リッジ型光導波路がハイメサ光導波路に比べ横方向の光のしみ出しが大きいことに起因する。これにより、方向性結合器の長さや導波路間隔Wgapを調整することで任意の結合効率が実現できるようになり、より設計の自由度が増大することとなった。光のしみ出し量は導波路幅に主に依存し、本実施形態の方向性結合器の構造パラメータの範囲として、結合効率が1%以上50%未満となるように
(1)導波路幅Wwgは0.5〜3.0μm、
(2)導波路間隔Wgapは0.1〜2.0μm、
(3)方向性結合器の長さは5〜200μm
が考えられる。
【0055】
本実施形態では、ハイメサ光導波路からリッジ型光導波路への接続を低損失で作製することが重要となる。リッジ型光導波路は横方向へのしみ出しが大きい分(光のフィールド分布が横に広い)、ハイメサ光導波路の導波路幅を1.4μmと0.2μm程度太くすることで98%以上の結合効率を実現できた。また、特許文献1に示すようなハイメサ光導波路とリッジ導波路の接続にテーパ形状変換構造を導入することでより低損失に接続することも可能である。さらに、本実施形態では、方向性結合器部分にリッジ型光導波路構造を用いたが、他にハイメサ光導波路よりも光閉じこめの弱い導波路、例えばコア層の両横が半導体で埋め込まれた埋め込み型導波路やリブ型導波路なども考えられる。
【0056】
最後に本実施形態では、InP系の化合物半導体を用いたがGaAs系や石英系、あるいはSiとSiO2やポリイミドなどで構成されるシリコン細線導波路でも利得媒質を集積すれば同様に実現できる事を付記しておく。また、本実施形態では、電流注入による屈折率変化を用いたが、電圧や熱や圧力による屈折率変化を用いても、波長可変動作を得ることができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長多重大容量通信を支えるための重要な光部品である半導体波長可変レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットにおけるトラフィックの増大により、ノード間を結ぶ伝送には波長多重を用いて伝送容量を増加させている。波長可変レーザは、このような波長多重伝送において欠かすことのできない重要な光部品である。
【0003】
このような中で、非特許文献1に示されるように、2重リング共振器を用いたモノリシック集積型波長可変レーザが提案されている。図1に構造図を示す。リング共振器は、一定の周波数間隔(FSR)で透過強度が大きくなる特長を持つ透過型光フィルタであり、このレーザでは、2つの異なるFSRを持つリング共振器を用いることにより2つのFSRの最小公倍数の周波数領域で波長可変動作を得る事を可能にしている(バーニア効果)。通信波長帯、例えばC帯(1530〜1570nm)をカバーするような大きな波長可変範囲を得るためには、FSRを大きく、すなわち共振器長を小さくする必要があり、急峻な曲げ半径が実現可能であるハイメサ光導波路を用いている。図2に、ハイメサ光導波路の断面構造図を示す。コア層および下部クラッド層まで垂直に半導体をエッチングした構造である。また、リング共振器の光カプラ部分には、光結合効率が50%のマルチモード干渉(MMI)光カプラを用いている。レーザの発振波長を変化させるためには、2つのリング共振器にそれぞれ独立に電流注入することにより光導波路の屈折率を変化させて共振ピーク波長を調整する。電流注入は、ナノ秒程度で高速に屈折率変調が可能である。さらに位相調整用の光導波路(位相調整領域)をレーザ内に設けることにより縦モード間隔を微調整し、正確に所望の発振波長に調整可能としている。この位相調整も電流注入によって行っている。
【0004】
しかしながら、上述した図1に示される構造には以下のような問題点があった。第1の問題点は、高出力化が困難なことである。図1の構成では、利得領域からの光のうち2つのリング共振器の共振ピーク波長に一致した光が有効にフィルタ領域を通過し、端面により反射され、再びフィルタ領域を通過し利得領域に結合する。リング共振器は共振ピーク波長の光でさえ数dB程度の損失が存在し、リング共振器を通過する毎に損失が増大する。さらに端面からの反射率は、劈開端面のままでは約30%しかなく約5.2dBのミラー損失があった。端面に高反射膜を形成することによりミラー損失を低減することも可能であるが、高反射膜を形成した端面からの反射率も実際には100%ではなく、数%から十数%の損失があった。したがって、2回のリング共振器の通過および端面におけるミラー損失により、利得領域へのフィードバック光は実際には10dB前後の損失を受けてしまい、レーザ光出力の低下を招いていた。第2の問題点は、さらなる波長可変域の拡大が困難なことである。波長分割多重伝送方式を用いた現在の光通信システムにおいて、通信容量の大容量化とともに波長帯は前述のC帯のみではなく、L帯(1570−1610nm)やS帯(1460−1530nm)などの波長帯域も使用されている。したがって、1台の波長可変レーザで複数の波長帯をカバーできるより広い波長可変帯域を有することが求められている。しかしながら、非特許文献1の構成では、リング共振器のフィネスで決定される波長選択性能とのトレードオフから、最大でも波長可変域が50nmと限界があった。
【0005】
リング共振器への通過回数の低減し、かつ端面反射を用いない構成として、図3に示すものが挙げられる。2つのリング共振器と非対称マッハツェンダ干渉計をループ状に接続したサニャック(Sagnac)干渉計をフィルタ領域に配置した、1チップ集積型半導体波長可変レーザである(非特許文献2参照)。この構成において、利得領域からの光は、1×2光カプラにより等分岐され、それぞれ右回りと左回りにループ内を周回し、再び1×2光カプラに入射する。右回り光と左回り光は同位相で1×2光カプラに再入射するため、ほぼ100%の光結合効率で利得領域にフィードバックされる。このとき、2つのリング共振器のFSRを異ならせ、バーニア効果により波長可変域を拡大する手法は図1の構成と同様であるが、各リング共振器への通過回数はループ構成により1回となる。通過回数の削減によりリング共振器に起因する損失は低減できるものの波長選択性能は劣化するので、その劣化を補うために非対称マッハツェンダ干渉計を第3のフィルタとしてサニャック干渉計のループに挿入する。こうした構成により、波長可変域拡大と波長選択性能の両立を試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−066318号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】IEEE Photonics Technology Letters, vol. 19, 2007, pp. 1322-1324
【非特許文献2】IEEE 21st International Semiconductor Laser Conference (ISLC 2008), 2008, pp. 153-154
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、第3のフィルタを波長制御のために追加することには生産上、重大な問題がある。それは、波長可変レーザの波長制御機構が複雑化し、例えば波長可変特性を取得するのに多大な測定時間を必要とすることである。リング共振器あるいはマッハツェンダ干渉計において、FSRおよび透過ピーク波長の設計値と実測値は必ずしも一致することはなく、実際の値には製造誤差で決まるばらつきが存在する。したがって、波長可変レーザの製造後には、レーザの発振波長とフィルタ領域に注入する電流(熱で制御する場合は印加電力、電圧で制御する場合は印加電圧)の関係を実際に調べなければ、レーザの発振波長を正確に制御することができない。例えば、リング共振器の共振ピークを隣の共振ピークまで移動させるのに10mAの注入電流が必要であったとする。図1の構成によりバーニア効果で波長可変域を拡大させた場合、2つのリング共振器にそれぞれ最大10mAの電流を注入することで波長可変域内のすべての波長を選択できることになる。0.1mAのステップで上述の発振波長と電流の関係を取得する場合、100×100=10000点の数値データが必要になる。測定時間が1点あたり1秒かかる測定系(例えば電流源と波長計で構成)を用いた場合、1台の波長可変レーザの特性取得にかかる時間は約2.8時間になる。さらに波長制御フィルタが追加された図3の構成で同様な電流ステップ数の測定を行うと約280時間(100×100×100=1000000点)が必要になることになる。上記の例は必要とする発振波長の精度やフィルタ形状、測定速度等に依存するが、急峻なフィルタ特性をもつリング共振器を含む場合、十分な測定ステップ数が必要になる。したがって、新たに波長制御フィルタを追加した図3の構成は波長制御機構が複雑化し、著しい量産性の低下を招いていた。
【0009】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、低損失であり、かつ広い波長可変域を有する生産が容易な半導体波長可変レーザを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、利得領域からの光に対する波長選択機能を有するフィルタ領域を備える波長可変レーザにおいて、前記フィルタ領域は、クロスポートに対する結合効率が50%未満の光結合器を有し、互いに異なる周波数間隔(FSR)を有する第1及び第2のリング共振器と、前記利得領域からの光を、前記第1及び第2のリング共振器に向けて等分岐する第1の光結合器とを備え、ループミラーとして機能するサニャック干渉計であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記第1のリング共振器と前記第2のリング共振器が、光導波路により直接接続され、直列に配置されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の第3の態様は、第1の態様において、前記第1のリング共振器が、前記第1の光結合器により等分岐された一方の光をさらに等分岐する第2の光結合器の出力ポートに接続されて第1のサニャック干渉計を構成し、前記第2のリング共振器が、前記第1の光結合器により等分岐された他方の光をさらに等分岐する第3の光結合器の出力ポートに接続されて第2のサニャック干渉計を構成し、前記第1及び第2のサニャック干渉計は並列に配置されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の第4の態様は、第1〜第3のいずれかの態様において、前記第1及び第2のリング共振器が、クロスポートに対する結合効率が50%以上の光結合器を備え、共振ピーク波長以外の光を破棄する放射導波路をリング共振器の周回内部にすることで実効的に結合効率を50%未満としたリング共振器であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第5の態様は、第1〜第4のいずれかの態様において、前記光結合器が、それぞれマルチモード干渉カプラであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第6の態様は、第5の態様において、前記マルチモード干渉カプラは結合効率が15%であり、85%の結合効率を有するマルチモード干渉カプラの3倍の長さを有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第7の態様は、第5の態様において、前記マルチモード干渉カプラは結合効率が28%であり、72%の結合効率を有するマルチモード干渉カプラの3倍の長さを有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の第8の態様は、第1〜第4のいずれかの態様において、前記光結合器が、それぞれ方向性結合器であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の第9の態様は、第8の態様において、前記方向性結合器はリッジ型光導波路で構成されていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の第10の態様は、第1〜第9のいずれかの態様において、前記利得領域と前記フィルタ領域との間に、導波する光の位相を調整するための位相調整領域を備え、前記位相調整領域により発振波長を微調整可能とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、リング共振器のフィネスが向上するとともに、反射膜を形成することなしに利得領域への高い反射率が得られる。すなわち、波長制御が簡単で、広い波長可変帯域かつ低損失な特性を有する波長選択フィルタが容易に作製可能となる。よって、これまで実現できなかった高性能かつ低コストの半導体波長可変レーザを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】リング共振器を用いた従来の半導体波長可変レーザの構成図である。
【図2】ハイメサ光導波路の断面図である。
【図3】従来のループ型の半導体波長可変レーザの構成図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る半導体波長可変レーザの構成図である。
【図5】実施形態1のリング共振器の透過スペクトル、およびフィルタ領域からの反射スペクトルを示す特性図である。
【図6】実施形態1に係る15%の結合効率を有するMMIカプラの構造図((a)は上面図、(b)は断面図)である。
【図7】(a)は実施形態1に係る15%の結合効率を有するMMIカプラの構造図、(b)は伝搬の様子(シミュレーション)を示す図である。
【図8】実施形態1に係る28%の結合効率を有するMMIカプラの構造図((a)は上面図、(b)は断面図)である。
【図9】実施形態1および従来技術に係る反射率差ΔRと増倍係数Mの関係を示す特性図である。
【図10】実施形態1および従来技術に係るフィルタ領域の損失と増倍係数Mの関係を示す特性図である。
【図11】本発明の実施形態2に係る半導体波長可変レーザを示す構成図である。
【図12】実施形態1及び2に係るフィルタ領域のロスとカプラの強度結合効率の関係を示す特性図である。
【図13】(a)は従来技術のリング共振器、(b)は実施形態3のリング共振器の構造を示す図である。
【図14】本発明の実施形態4に係る半導体波長可変レーザのリング共振器の構造図((a)は平面図、(b)は断面図)である。
【図15】(a)は実施形態4のリッジ型光導波路を用いた方向性結合器の伝搬の様子(シミュレーション)を示す図、(b)は結合効率と結合器の長さの関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0023】
(実施形態1)
図4に、実施形態1の半導体可変レーザを示す。図示のように、波長可変レーザは、利得領域と、利得領域からの光に対する波長選択機能を有するフィルタ領域と、利得領域とフィルタ領域との間の位相調整領域と、出力端面とを備える。フィルタ領域は、ループミラーとして機能するサニャック干渉計であり、2入力2出力型(2×2)光カプラ及び光導波路で構成されるリング共振器1及び2がループ内に配置された構成をとる。リング共振器1及び2は、光導波路により直接接続され、直列に配置されている。2×2光カプラは、1入力2出力型(1×2)光カプラでもよい。
【0024】
利得領域からの光は2×2光カプラ(「第1の光結合器」に対応)により等分岐され、それぞれ右回りと左回りにループ内を周回し、再び2×2光カプラに入射する。右回り光と左回り光は同位相で2×2光カプラに再入射するため、100%の光結合効率で利得領域にフィードバックされる。
【0025】
ループ内のリング共振器1及び2は、直列に配置され、かつ互いに異なるFSRを有することにより波長可変域を拡大させている。ここで、リング共振器のFSRは、
【0026】
【数1】
【0027】
と表せる。ここで、cは光速、neffは光導波路の実行屈折率、Lはリング共振器の共振器長である。リング共振器1及びリング共振器2のFSRをそれぞれFSR1及びFSR2とすると、波長可変域Δλは、非特許文献1に示されているように、
【0028】
【数2】
【0029】
と表せる。ここで増倍係数Mは、
【0030】
【数3】
【0031】
と表せる。式(1)ないし(3)より、大きな波長可変範囲を得るためには、増倍係数Mを大きくするか、あるいはFSRを大きくする必要がある。本実施形態の実施例では、FSR1を400GHz、FSR2を417GHz、Mを約25とし、波長可変域Δλは10000GHz(80nm)となった。これは、非特許文献1記載の従来技術と比較して1.5倍以上、非特許文献2と比較して2倍以上の波長可変性能である。
【0032】
図5に、本実施形態に用いるリング共振器のそれぞれの透過スペクトル、及びフィルタ領域からの反射スペクトルを示す。Mを増大させるためには、上述の式(3)から分かるように、2つのFSRの差を減少させる必要がある。その場合、2つのリング共振器の透過スペクトルの重なりが大きくなる。すなわち、フィルタ領域からの反射スペクトルにおいて、メインピークと隣接ピークの反射率差ΔRが減少する。ΔRはフィルタ領域の波長選択性能、つまり波長可変レーザのサイドモード抑圧比を決定する重要なパラメータである。リング共振器の共振が鋭ければ鋭いほど透過スペクトルの重なりが小さくなり、ΔRは向上する。本実施形態の実施例では、ΔRが1.5dBであり、サイドモード抑圧比40dB以上を得ている。
【0033】
図6〜8を参照して、本実施形態の半導体波長可変レーザが備えるフィルタ領域の詳細を説明する。本実施形態では、2×2光カプラとリング共振器1及び2の接続、並びにリング共振器1及び2の間の接続に、急峻な曲げ半径が可能なハイメサ光導波路を用いる。これにより、曲げ半径を10μm程度まで縮小しても曲げによる損失を無視できる。また、低損失かつ容易に作製可能なマルチモード干渉(MMI)光カプラを、リング共振器1及び2の光結合部分と2×2光カプラに用いる。共振器長Lを小さくするには光結合部分の長さ(光結合長)も縮小しなければならないが、ハイメサ光導波路で構成される公知の方向性結合器では、作製上の問題がある。ハイメサ光導波路は、空気との比屈折率差が大きいため光の横方向へのしみ出しが小さい。したがって、光結合部分にハイメサ光導波路で構成された方向性結合器を用いた場合、光結合長を短くするためには2本のハイメサ光導波路の間隔を0.1ミクロン以下にする必要があるが、0.1ミクロン程度の幅をもつ深い溝(一般に3〜4ミクロン)をエッチング等で形成することは加工上、非常に困難である。
【0034】
MMI光カプラは、前記利点をもつ一方、固定の光結合効率しか得られないという欠点をもつ。特にリング共振器に用いる2×2MMI光カプラの場合、入力ポートに入射された光のクロスポートへの光結合効率が、50%、72%、85%の3つのタイプのみ考えられている。3つのタイプのMMI光カプラの長さLMMIは、それぞれ次式で表される。
【0035】
【数4】
【0036】
【数5】
【0037】
【数6】
【0038】
ここで、neqは等価屈折率、Wwgは入出力導波路の幅、Wgapは入出力導波路間隔、λは使用波長である。リング共振器は、その光結合部分においてクロスポートへの光結合効率が小さくなればなるほどフィネスが向上する特徴がある。すなわち、光がリング共振器をより周回し共振が鋭くなり波長選択性能が向上する。従来技術では、非特許文献1又は2で示されるように、3つのタイプのうち最も低い結合効率である50%のMMIカプラ(3dB−MMIカプラ)を用いるほかなかった。しかしながら、本実施形態では、利得領域からの光は、ループ構成によりフィルタ領域を1回のみ通過し、非特許文献1と比べ通過回数は半分となり、結合効率が50%のMMIカプラではフィルタ領域の波長選択性能が低下せざるを得ない。したがって、本実施形態では、MMIカプラの構造を適切に設計することで50%未満の低い結合効率を実現し、フィルタ領域の波長選択性能の向上を行っている。
【0039】
図6に、本実施形態に係るMMIカプラの構造図を示す。本実施形態の実施例では、Wwgを1.2μm、Wgapを0.5μm、WMMIを3.4μm、3LMMI-85%の値を72μmとして、図のように入出力導波路を光結合部分の両端に配置した。MMIカプラは、入射導波路とWMMIとの相対位置関係により、入射光フィールドの結像の位置と強度が決定される特徴をもつ。85%の結合効率をもつ2×2MMIカプラにおいて、入力ポートに入力された光は、前記結合効率で2分岐されて出力ポート(クロスポート及びバーポート)に結像される。MMIカプラの長さを2倍の2LMMI-85%にまで増やした場合、入力光フィールドは等しく分岐され、結合効率50%のカプラとして動作する。さらにMMIカプラの長さを3倍の3LMMI-85%にまで増やすと、今度は、結合効率が15%で2分岐されて出力ポートに結像する。すなわち長さ2LMMI-85%を足すことにより、入力した導波路とは対称位置からの入力と等価になり、分岐比が反転する。これにより、結合効率が15%という低結合効率をもつ2×2MMIカプラが実現できた。図7に、ビーム伝搬法で求めたシミュレーション結果を示す。
【0040】
本実施形態では結合効率85%のMMIカプラを用いたが、結合効率72%のMMIカプラの長さを3倍にしても同様に分岐比が反転する。また、本実施形態に係るMMIカプラのもう1つの例を図8に示す。この構造を用いることにより結合効率が28%の2×2MMIカプラが実現できる。
【0041】
このように、MMIカプラの構造を適切に設計することで50%未満の低い結合効率を実現し、フィルタ領域の波長選択性能の向上を図ることができるが、2×2MMIカプラの長さが3倍になるのでリング共振器の構造パラメータに制約が生じる。共振器長Lをもつリング共振器は、2つの2×2MMIカプラと曲がり導波路で構成される(図4参照)。曲がり導波路の曲率が一定の場合、曲がり半径Rは以下の式で表せる。
【0042】
【数7】
【0043】
曲がり導波路にハイメサ光導波路を用いた場合、前述したようRを10μm程度まで損失が小さいまま縮小できる。さらに、式(4)ないし(6)より、MMI光カプラの構造パラメータのWwgとWgapを縮小すればMMI光カプラの長さを縮小できることがわかる。以上を勘案すると、本実施形態ではWwg、Wgap、及びFSRは下記の条件を満たせば良いことがわかる。
(1)入出力導波路幅Wwgは光がシングルモードで伝搬する条件であり、式(7)でRが10μm以上となる条件。範囲として0.5〜3μm程度。上述の実施例では1.2μm。
(2)入出力導波路間隔Wgapは、式(7)でRが10μm以上となる条件。最小値は狭ギャップの作製精度に決まり、最大値は2μm程度。上述の実施例では0.5μm。
(3)周波数間隔FSRは、式(7)でRが10μm以上となる条件。条件(1)及び(2)から範囲は50〜600GHz程度。上述の実施例ではFSR1を400GHz、FSR2を417GHz。
【0044】
図9には、従来技術である非特許文献1の構成と本実施形態の構成を比較するため、フィルタ領域の波長選択性能を決めるΔRと増倍係数Mの関係を計算で求めた結果を示す。計算では光導波路の損失を5dB/cm、光カプラの損失を0.5dB、FSR1を400GHzとして計算した。Mを増大すると2つのリング共振器の透過スペクトルの重なりが大きくなるためΔRが減少する。しかし、本実施形態の実施例では15%という低い結合効率をもつ2×2MMIカプラを用いているため、ループ構成にしているにもかかわらずMを25まで増大することができた。これは従来技術と比較して約2倍の波長可変帯域の向上に相当する。図10は、同様にフィルタ領域で発生する損失と増倍係数Mの関係を示している。結合効率が28%の2×2MMIカプラを用いることによって波長可変性能を微増しつつ約6.6dBもの損失を減少させることが可能であることがわかる。これにより高反射膜を形成することなしに波長可変レーザの発振閾値が大幅に減少し、レーザ光出力が+13dBm以上の高出力化が可能となった。
【0045】
最後に、本実施形態に係る半導体波長可変レーザの作製方法について述べる。素子のレーザ活性層は、n−InP基板上にn−InP層、InGaAsP/InP多重量子井戸構造(MQW)の活性層(フォトルミネッセンスピーク波長1.53μm)と活性層の上下をSCH(Separate−confinement heterostructure)層で閉じこめる構造とした。次にSiO2膜をスパッタリングにより成膜し、利得領域となる部分を除きエッチングにより除去、さらにパターン化されたSiO2膜をマスクとして活性層を除去する。次に、選択成長により1.4Q組成、0.3μm膜厚のInGaAsP光導波路層をバットジョイント成長し、その後、SiO2層を除去して基板全体にp−InP層、p+−InGaAs層を成長した。次に、コア層の直上までエッチングされたリッジ型光導波路をフォトリソグラフィとウェットエッチングにより作製し、利得領域および位相調整領域を形成した。リング共振器部分を含むフィルタ領域は、フォトリソグラフィとドライエッチングにより、ハイメサ光導波路構造で一括作製し形成した。最後に、電流注入用電極を利得領域と位相調整領域のリッジ型光導波路のp+−InGaAs層上、さらにリング共振器の入出力導波路を構成するハイメサ光導波路のp+−InGaAs層上、および基板裏面に形成し完成となる。
【0046】
(実施形態2)
実施形態2に係る半導体波長可変レーザを図11に示す。本実施形態では、フィルタ領域が、ループミラーとして機能するサニャック干渉計であり、2×2光カプラ及び光導波路で構成されるリング共振器1及び2がループ内に配置された構成をとる点で実施形態1と同様であるが、リング共振器1及び2はそれぞれ別個のサニャック干渉計を構成する点で異なる。2×2光カプラの出力ポートにサニャック干渉計がそれぞれ並列に接続されている。これにより、レーザ内を伝搬する光の位相を有効利用し、レーザ光出力の増大や波長可変域、あるいはサイドモード抑圧比のさらなる改善が可能となる。
【0047】
利得領域からの光は、まず2×2光カプラ(「第1の光結合器」に対応)により等分岐される。等分岐された光は、さらに1×2光カプラ(「第2の光結合器」及び「第3の光結合器」に対応)によってそれぞれ等分岐され、右回りと左回りにループ内を周回する。右回り光と左回り光は、1×2光カプラの出力ポートに接続されたリング共振器を通過した後、それぞれ同位相で1×2光カプラに再入射するため、100%の光結合効率でフィードバックされるのは実施形態1と等しい。また、ループ内に配置されたリング共振器は、互いに異なるFSRをもち波長可変域を拡大させている。
【0048】
フィードバックされた光は、ともに2×2光カプラに再入射する。経路2(リング共振器2を通過する経路)には、経路1(リング共振器1を通過する経路)と経路2との間の位相差が共振ピーク波長において常に0となるように、長さLPhaseの位相調整部が付与されている。長さLPhaseは、二つの経路長の差で決まり、
【0049】
【数8】
【0050】
と表せる。L1、L2は、それぞれ経路1、2の経路長である。経路1と経路2の経路長を等しくすることによって、2つのリング共振器の無限にある共振ピークのうち、ピークが一致した波長の光は、2×2光カプラに常に同位相で再入射し、利得領域に100%フィードバックする。さらに重要なことに、それ以外の波長の光には位相と振幅に差が生じ、2×2光カプラによって分岐出力される。すなわち、位相と振幅の差に応じて2×2光カプラの放射導波路側にも光が出力され、共振ピーク波長以外の光は利得領域への結合効率が低下することになる。この効果により、メインピークと隣接ピークの反射率差ΔRが実施形態1と比較して向上し、波長可変域やサイドモード抑圧比が改善する。このとき、経路間の位相関係は、リング共振器に電流注入し、ピーク波長を変化させても保たれる。さらに、リング共振器を直列接続構成から並列接続構成にすることは、フィルタ透過率が積から和になることに他ならない。例えば、1つのリング共振器のピーク透過率が0.5であった場合、フィルタ領域からの反射率はその積である0.25から、分岐した和の0.5になる。つまり、フィルタ領域からの反射率が向上し、レーザ光出力が増大する。
【0051】
図12には、実施形態1と実施形態2の構成を比較するため、フィルタ領域のロスとカプラの結合効率の関係を計算で求めた結果を示す。計算では光導波路の損失を5dB/cm、光カプラの損失を0.5dB、FSR1を400GHz、Mを20として計算した。光カプラの結合効率を低減するとフィルタ領域の損失は実施形態1、実施形態2ともに増大する。しかしながら、実施形態2の方が損失増大は緩やかであり、結合効率が28%の2×2MMIカプラを用いた場合、実施形態1と比較して波長可変性能を増大しつつ約3dBもの損失を減少させることが可能であった。これにより高反射膜を形成することなしに波長可変レーザの発振閾値が大幅に減少し、レーザ光出力のさらなる高出力化が可能となった。本実施形態のリング共振器における光カプラや光導波路の構造、作製方法は、実施形態1と全く等しい。また、作製誤差によって生じる経路間の位相差を補償するために経路1又は経路2の導波路上に位相調整用の電流注入用電極を形成してもよい。さらに、利得領域からの光を等分岐する2×2光カプラを1×2光カプラにしてもよい。
【0052】
(実施形態3)
図13(b)に、実施形態3に係る半導体波長可変レーザのリング共振器の構造図を示す。従来技術では、2×2MMIカプラを用いてリング共振器を構成する場合、図13(a)に示すようにMMIカプラを並列に配置し、2つのMMIカプラの内側の入出力導波路間を曲がり導波路で接続している。MMIカプラのその他の入出力導波路は、リング共振器への入出力に用いるか、あるいは共振ピーク波長以外の光を破棄する放射導波路として用いられる。実施形態1又は2の場合、MMIカプラの長さを3倍にしてはじめて波長可変レーザの広帯域化あるいは高出力化が可能になった。しかしながら、図13(b)に示すように、リング共振器への入出力側は従来通りに接続し、もう一方の側の入出力導波路では外側の導波路間を接続し、かつ内側の導波路を放射導波路とすると、カプラの分岐比が反転することと等価になる。すなわち長さを3倍にすることなく72%、85%の大きな結合効率をもつMMIカプラのままレーザの高性能化が可能になる。この構成により、式(7)の右辺第2項の3LMMIがLMMIとなり、上述の制約条件が緩くなる。つまり、同じRでより大きなFSR(具体的には最大900GHz程度まで)をもつ波長可変レーザが可能となる。作製方法は実施形態1と同様である。
【0053】
(実施形態4)
図14(a)及び(b)に、実施形態4に係る半導体波長可変レーザのリング共振器の構造図を示す。ハイメサ光導波路は前述したように横方向の光閉じこめが強く、実施形態1〜3のような十分に短い方向性結合器を作製することが技術的に困難である。したがって、実施形態1〜3ではリング共振器の光カプラを2×2MMIカプラとした。しかしながら、本実施形態では、光カプラの前後でハイメサ光導波路からリッジ型導波路に適切にモード変換し、方向性結合器をリッジ型光導波路で構成することにより、十分短い方向性結合器を容易に作製した。リッジ型光導波路は、コア層直上までエッチングした光導波路で、利得領域および位相調整領域に用いられる構造であり、本実施形態のリング共振器は、実施形態1で説明した作製プロセスとの親和性が極めて高い。本実施形態の実施例では、リッジ型光導波路幅Wwgを1.2μm、リッジ型光導波路間隔Wgapを前述の作製プロセスで作製可能な0.5μmとしている。
【0054】
図15に、リッジ型光導波路を用いた方向性結合器の光伝搬の様子(ビーム伝搬法によるシミュレーション)、および結合効率と方向性結合器の長さの関係を示す。図15より、方向性結合器の長さを20μmとすると結合効率15%が実現できるのがわかる。これは、リッジ型光導波路がハイメサ光導波路に比べ横方向の光のしみ出しが大きいことに起因する。これにより、方向性結合器の長さや導波路間隔Wgapを調整することで任意の結合効率が実現できるようになり、より設計の自由度が増大することとなった。光のしみ出し量は導波路幅に主に依存し、本実施形態の方向性結合器の構造パラメータの範囲として、結合効率が1%以上50%未満となるように
(1)導波路幅Wwgは0.5〜3.0μm、
(2)導波路間隔Wgapは0.1〜2.0μm、
(3)方向性結合器の長さは5〜200μm
が考えられる。
【0055】
本実施形態では、ハイメサ光導波路からリッジ型光導波路への接続を低損失で作製することが重要となる。リッジ型光導波路は横方向へのしみ出しが大きい分(光のフィールド分布が横に広い)、ハイメサ光導波路の導波路幅を1.4μmと0.2μm程度太くすることで98%以上の結合効率を実現できた。また、特許文献1に示すようなハイメサ光導波路とリッジ導波路の接続にテーパ形状変換構造を導入することでより低損失に接続することも可能である。さらに、本実施形態では、方向性結合器部分にリッジ型光導波路構造を用いたが、他にハイメサ光導波路よりも光閉じこめの弱い導波路、例えばコア層の両横が半導体で埋め込まれた埋め込み型導波路やリブ型導波路なども考えられる。
【0056】
最後に本実施形態では、InP系の化合物半導体を用いたがGaAs系や石英系、あるいはSiとSiO2やポリイミドなどで構成されるシリコン細線導波路でも利得媒質を集積すれば同様に実現できる事を付記しておく。また、本実施形態では、電流注入による屈折率変化を用いたが、電圧や熱や圧力による屈折率変化を用いても、波長可変動作を得ることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
利得領域からの光に対する波長選択機能を有するフィルタ領域を備える波長可変レーザにおいて、
前記フィルタ領域は、
互いに異なる周波数間隔(FSR)を有する第1及び第2のリング共振器と、前記利得領域からの光を、前記第1及び第2のリング共振器に向けて等分岐する第1の光結合器とを備え、ループミラーとして機能するサニャック干渉計であって、
前記第1のリング共振器は、前記第1の光結合器により等分岐された一方の光をさらに等分岐する第2の光結合器の出力ポートに接続されて第1のサニャック干渉計を構成し、
前記第2のリング共振器は、前記第1の光結合器により等分岐された他方の光をさらに等分岐する第3の光結合器の出力ポートに接続されて第2のサニャック干渉計を構成し、
前記第1及び第2のサニャック干渉計は並列に配置されていることを特徴とする半導体波長可変レーザ。
【請求項2】
前記第1及び第2のリング共振器は、クロスポートに対する結合効率が50%未満の光結合器を備えたリング共振器であることを特徴とする請求項1に記載の半導体波長可変レーザ。
【請求項3】
前記第1及び第2のリング共振器は、
クロスポートに対する結合効率が50%以上の光結合器を用いて、共振ピーク波長以外の光を破棄する放射導波路をリング共振器の周回内部にすることで実効的に結合効率を50%未満としたリング共振器であることを特徴とする請求項2に記載の半導体波長可変レーザ。
【請求項4】
前記光結合器は、それぞれマルチモード干渉カプラであることを特徴とする請求項2または3に記載の半導体波長可変レーザ。
【請求項5】
前記マルチモード干渉カプラは、結合効率が15%であり、85%の結合効率を有するマルチモード干渉カプラの3倍の長さを有することを特徴とする請求項4に記載の半導体波長可変レーザ。
【請求項6】
前記マルチモード干渉カプラは、結合効率が28%であり、72%の結合効率を有するマルチモード干渉カプラの3倍の長さを有することを特徴とする請求項4に記載の半導体波長可変レーザ。
【請求項7】
前記光結合器は、それぞれ方向性結合器であることを特徴とする請求項2または3に記載の半導体波長可変レーザ。
【請求項8】
前記方向性結合器はリッジ型光導波路で構成されていることを特徴とする請求項7に記載の半導体波長可変レーザ。
【請求項9】
前記利得領域と前記フィルタ領域との間に、導波する光の位相を調整するための位相調整領域を備え、
前記位相調整領域により発振波長を微調整可能とすることを特徴とする請求項2〜8のいずれかに記載の半導体波長可変レーザ。
【請求項1】
利得領域からの光に対する波長選択機能を有するフィルタ領域を備える波長可変レーザにおいて、
前記フィルタ領域は、
互いに異なる周波数間隔(FSR)を有する第1及び第2のリング共振器と、前記利得領域からの光を、前記第1及び第2のリング共振器に向けて等分岐する第1の光結合器とを備え、ループミラーとして機能するサニャック干渉計であって、
前記第1のリング共振器は、前記第1の光結合器により等分岐された一方の光をさらに等分岐する第2の光結合器の出力ポートに接続されて第1のサニャック干渉計を構成し、
前記第2のリング共振器は、前記第1の光結合器により等分岐された他方の光をさらに等分岐する第3の光結合器の出力ポートに接続されて第2のサニャック干渉計を構成し、
前記第1及び第2のサニャック干渉計は並列に配置されていることを特徴とする半導体波長可変レーザ。
【請求項2】
前記第1及び第2のリング共振器は、クロスポートに対する結合効率が50%未満の光結合器を備えたリング共振器であることを特徴とする請求項1に記載の半導体波長可変レーザ。
【請求項3】
前記第1及び第2のリング共振器は、
クロスポートに対する結合効率が50%以上の光結合器を用いて、共振ピーク波長以外の光を破棄する放射導波路をリング共振器の周回内部にすることで実効的に結合効率を50%未満としたリング共振器であることを特徴とする請求項2に記載の半導体波長可変レーザ。
【請求項4】
前記光結合器は、それぞれマルチモード干渉カプラであることを特徴とする請求項2または3に記載の半導体波長可変レーザ。
【請求項5】
前記マルチモード干渉カプラは、結合効率が15%であり、85%の結合効率を有するマルチモード干渉カプラの3倍の長さを有することを特徴とする請求項4に記載の半導体波長可変レーザ。
【請求項6】
前記マルチモード干渉カプラは、結合効率が28%であり、72%の結合効率を有するマルチモード干渉カプラの3倍の長さを有することを特徴とする請求項4に記載の半導体波長可変レーザ。
【請求項7】
前記光結合器は、それぞれ方向性結合器であることを特徴とする請求項2または3に記載の半導体波長可変レーザ。
【請求項8】
前記方向性結合器はリッジ型光導波路で構成されていることを特徴とする請求項7に記載の半導体波長可変レーザ。
【請求項9】
前記利得領域と前記フィルタ領域との間に、導波する光の位相を調整するための位相調整領域を備え、
前記位相調整領域により発振波長を微調整可能とすることを特徴とする請求項2〜8のいずれかに記載の半導体波長可変レーザ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−93627(P2013−93627A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−29398(P2013−29398)
【出願日】平成25年2月18日(2013.2.18)
【分割の表示】特願2010−1559(P2010−1559)の分割
【原出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成25年2月18日(2013.2.18)
【分割の表示】特願2010−1559(P2010−1559)の分割
【原出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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