説明

半導体発光素子

【課題】発光光度を向上させた半導体発光素子を提供する。
【解決手段】基板2と、基板2上に設けられる第1半導体層5、活性層6、及び第2半導体層7からなる発光層13と、基板2と発光層13との間に設けられるDBR(Distribution Bragg Reflector)層4と、基板2の下面に設けられる下部電極10と、発光層13上に設けられる上部電極11とを有し、発光層13上にDBRブロック12を設け、DBRブロック12を覆うように上部電極11を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子に係り、特に、AlGaInP系の半導体発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話の液晶バックライト、キーパッド、信号機、車載インテリア、その他イルミネーション用途への半導体発光素子の普及が急速に進んでいる。
【0003】
半導体発光素子である発光ダイオード(LED)は、PN接合もしくはPIN接合を構成するように化合物半導体を基板上に成長したエピタキシャルウエハを、半導体プロセスにより電極形成、ダイシングを経て、チップ化し、ワイヤボンディングで配線、樹脂でモールドして、素子化したものである。
【0004】
信号機、車のテールランプなどでは、発光ダイオードを複数並べて使用する。このような用途では、高い発光光度が要求されるため、高い発光効率を得るための構造として、多重量子井戸(Multi Quantum Well;以下、MQWという)活性層からなる活性層と、分布型ブラック反射(Distribution Bragg Reflector;以下、DBRという)層からなる反射層を有するエピタキシャルウエハを用いることが多い。
【0005】
図4に、p型半導体が表面側(基板と反対側)に配置されるpアップタイプで、活性層にMQW活性層を有し、反射層にDBR層を有する従来の発光ダイオード(チップ状態)の断面模式図を示す。
【0006】
図4に示すように、従来の発光ダイオード41は、基板42上に、n−バッファ層43、DBR層44、n−クラッド層45、MQW活性層46、p−クラッド層47、p−電流拡散層48、p−コンタクト層49を順に積層し、基板42の下面に下部電極50、p−コンタクト層49の上面に上部電極51をそれぞれ形成して構成される。
【0007】
MQW活性層46は、ウエル層とバリア層を交互に成長させ、任意のペア数となるように形成される。発光ダイオード41をAlGaInP系赤色発光ダイオードとする場合、ウエル層にはGaInP、バリア層にはAlGaInP(Al組成0.5付近)を用いる。MQW活性層46は、バリア層のAl組成、In組成、層厚、ウエル層のIn組成、層厚をパラメータとして、所望の発光波長となるように形成される。また、MQW活性層46は、ウエル層で発光した光がMQW活性層46内部を通過する間に別のウエル層で吸収される光の量より、各ウエル層から発光した光がMQW活性層46内部の別のウエル層で吸収されずにチップ外部に取り出される光の量が大きくなるように、ペア数が最適化される。
【0008】
DBR層44は、屈折率の異なる材料の層(例えば、AlAsとAlGaAs)を交互に成長し、各層の層厚がMQW活性層46での発光波長の約1/(4×屈折率)になるように設計される。
【0009】
また、p−クラッド層47、p−電流拡散層48、p−コンタクト層49は、MQW活性層46での発光波長に対して光の吸収が小さくなるように、ウエル層よりバンドギャップが大きくなるように設計される。
【0010】
発光ダイオード41では、MQW活性層46から放射する光のうち、上部電極51側に放射された光は、p−クラッド層47、p−電流拡散層48、p−コンタクト層49を通過して、上部電極51が形成されていない部分の発光ダイオード41の上面から放射される。下部電極50側に放射された光は、DBR層44で反射されて、上部電極51側に放射され、同じく上部電極51が形成されていない部分の発光ダイオード41の上面から放射される。
【0011】
DBR層44がない場合、下部電極50側に放射された光は、基板42に大部分が吸収されて、発光ダイオード41の上面、側面から放射されないこととなる。よって、DBR層44は、発光ダイオード41の発光光度向上のための有効な手段となる。
【0012】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−96152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、従来技術では、MQW活性層46から放射された光の一部が、上部電極51によって遮られて、チップ(発光ダイオード41)の外に出ることができず、発光光度の向上に寄与できなかった。
【0015】
また、上部電極51とp−コンタクト層49の界面は、オーミックコンタクトをとるためのアロイ処理によって合金化されており、上部電極51とp−コンタクト層49の界面の反射率はそれほど高くない。そのため、上部電極51とp−コンタクト層49の界面で反射される光も少なく、反射された光がMQW活性層46で吸収されて再発光に寄与するといったことも期待できなかった。
【0016】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、発光光度を向上させた半導体発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、基板と、該基板上に設けられる第1半導体層、活性層、及び第2半導体層からなる発光層と、前記基板と前記発光層との間に設けられるDBR(Distribution Bragg Reflector)層と、前記基板の下面に設けられる下部電極と、前記発光層上に設けられる上部電極とを有し、前記発光層上にDBRブロックを設け、該DBRブロックを覆うように前記上部電極を設けた半導体発光素子である。
【0018】
前記発光層上には、AlGaInPからなるコンタクト層が設けられ、前記コンタクト層上に前記DBRブロックが設けられ、かつ前記上部電極がAuBeからなってもよい。
【0019】
前記下部電極は、前記基板の下面で、かつ、前記上部電極と対向しない位置に形成されてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、上部電極によって遮られてチップの外に出ることができずに発光光度の向上に寄与できない光を、MQW活性層側に戻して、MQW活性層に吸収させ、再発光させることで、発光光度を向上させた半導体発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態に係る半導体発光素子を示す図であり、(a)は断面模式図、(b)は上面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る半導体発光素子を示す断面模式図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る半導体発光素子を示す図であり、(a)は上面図、(b)は下面図である。
【図4】従来の半導体発光素子の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0023】
図1は、本実施の形態に係る半導体発光素子を示す図であり、(a)は断面模式図、(b)は上面図である。
【0024】
図1(a),(b)に示すように、半導体発光素子1は、基板2と、基板2上に設けられ、第1半導体層としてのn−クラッド層5、活性層としてのMQW活性層6、及び第2半導体層としてのp−クラッド層7とからなる発光層13と、基板2と発光層13との間に設けられるDBR層4と、基板2の下面に設けられる下部電極10と、発光層13上に設けられる上部電極11とを有している。
【0025】
より詳細には、半導体発光素子1は、GaAsからなる基板2上に、n型GaAsからなるn−バッファ層3、DBR層4、n型AlGaInPからなるn−クラッド層5、MQW活性層6、p型AlGaInPからなるp−クラッド層7、p型AlGaInPからなるp−電流拡散層8、p型AlGaInPからなるp−コンタクト層9を順に積層し、基板2の下面にAuSnからなる下部電極10、p−コンタクト層9の上面にAuBeからなる上部電極11をそれぞれ形成して構成される。
【0026】
DBR層4は、一般的な波(光)の反射における強め合う条件(山と山が重なる条件)で、屈折率の異なる2種類の層を交互に積層して形成される。本実施の形態では、各層の層厚がMQW活性層6での発光波長の約1/(4×屈折率)になるように、AlAsからなる層とAl0.5Ga0.5Asからなる層とを交互に成長させて、DBR層4を形成した。
【0027】
MQW活性層6は、ウエル層とバリア層を交互に成長させ、任意のペア数となるように形成される。本実施の形態では、ウエル層にはGaInP、バリア層にはAl0.6Ga0.4InPを用いる。バリア層の層厚、ウエル層の層厚及びIn組成は、所望の発光波長となるように適宜調整される。また、MQW活性層6は、ウエル層で発光した光がMQW活性層6内部を通過する間に別のウエル層で吸収される光の量より、各ウエル層から発光した光がMQW活性層6内部の別のウエル層で吸収されずにチップ外部に取り出される光の量が大きくなるように、ペア数が最適化される。
【0028】
p−クラッド層7、p−電流拡散層8、p−コンタクト層9は、MQW活性層6での発光波長に対して光の吸収が小さくなるように、ウエル層よりバンドギャップが大きくなるように設計される。
【0029】
さて、本実施の形態に係る半導体発光素子1では、発光層13上にDBRブロック12を設け、DBRブロック12を覆うように上部電極11を設けている。
【0030】
具体的には、半導体発光素子1では、p−コンタクト層9上にDBRブロック12を設け、そのDBRブロック12を覆うように上部電極11を形成するようにしている。
【0031】
このDBRブロック12は、上述のDBR層4と同様に、各層の層厚がMQW活性層6での発光波長の約1/(4×屈折率)になるように、AlAsからなる層とAl0.5Ga0.5Asからなる層とを交互に成長させて形成される。
【0032】
DBRブロック12は、上面視における形状が、上部電極11の上面視における形状と相似形状に形成される。本実施の形態では、上部電極11及びDBRブロック12を、上面視で円形状に形成している。なお、上部電極11とDBRブロック12の上面視における形状は、完全な相似形状でなくともよい。
【0033】
また、DBRブロック12は、その上面視での面積が、上部電極11の上面視での面積より小さくなるように形成され、上部電極11よりも若干小さく形成される。
【0034】
上部電極11は、DBRブロック12の上面および側面を覆うようにされ、DBRブロック12の側面を覆う上部電極11の下部はp−コンタクト層9に接している。上部電極11及びDBRブロック12は、p−コンタクト層9の上面のほぼ中央部に設けられる。
【0035】
p−コンタクト層9上にDBRブロック12と上部電極11を設ける際には、まず、p−コンタクト層9上に屈折率の異なる2種類の層(ここでは、AlAsとAlGaAs)を交互に積層してDBR層を形成し、このDBR層を、半導体プロセス(フォトリソグラフィーとエッチング処理)により、所望の形状に成形して、DBRブロック12を形成する。その後、DBRブロック12の上に、蒸着(真空蒸着)により上部電極11を形成し、アロイ処理によって、DBRブロック12、p−コンタクト層9と上部電極11の間に、オーミックコンタクトをとる。
【0036】
本実施の形態の作用を説明する。
【0037】
本実施の形態に係る半導体発光素子1では、p−コンタクト層9上にDBRブロック12を設け、DBRブロック12を覆うように上部電極11を設けている。
【0038】
上部電極11の下方にDBRブロック12設けることにより、上部電極11のほぼ真下の領域のMQW活性層6から、ほぼ真上(約70〜110度の方向)に発光された光が、上部電極11の下に設けたDBRブロック12で反射される。
【0039】
DBRブロック12で反射された反射光は、MQW活性層6に入射し、MQW活性層6で吸収されて、電子とホールを生成する。この電子とホールが発光再結合することによって、自然放出光が再び放出される。
【0040】
光の放出は全方向に均等になされるため、上部電極11とDBRブロック12が形成された領域を除く領域から、放出された光の一部がチップの外に出射されることとなり、この光の分だけ、発光光度が向上することになる。
【0041】
つまり、半導体発光素子1によれば、従来上部電極で遮られてチップの外に出ることができなかった光を、上部電極11下のDBRブロック12で反射させてMQW活性層6側に戻し、MQW活性層6に吸収させて再発光させることで、発光光度を向上した半導体発光素子1を実現できる。
【0042】
また、DBRブロック12は、上部電極11よりは抵抗が高い。そのため、電流は主に、DBRブロック12の周囲の上部電極11を通って、p−コンタクト層9を通して、p−電流拡散層8に流れることになる。つまり、DBRブロック12は、上部電極11の真下の領域の発光層13が極力発光しないように電流の流れを制限する電流狭窄層としての役割も果たす。このため、上部電極11の周囲(上部電極11の真下でない領域)での発光を増やすことが可能となり、発光光度をより向上させることができる。
【0043】
上記実施の形態では、基板2上に、n−バッファ層3、DBR層4、n−クラッド層5、MQW活性層6、p−クラッド層7、p−電流拡散層8、p−コンタクト層9を順に積層した場合を説明したが、図2に示す半導体発光素子21のように、p−クラッド層7とp−電流拡散層8間に、AlGaInPからなるp−中間層22を設けるようにしてもよい。
【0044】
また、上記実施の形態では、MQW活性層6のウエル層にGaInP、バリア層にAl0.6Ga0.4InPを用いた赤色発光の半導体発光素子1,21について説明したが、本発明は、赤色に限らず、橙色、黄色、黄緑色の短波長領域、赤外領域で発光する半導体発光素子にも適用できる。活性層はMQW活性層6に限らず、バルクの活性層でもよい。
【0045】
さらに、上記実施の形態では、p型半導体が表面側(基板2と反対側)に配置されるpアップタイプの半導体発光素子1,21について説明したが、本発明は、pアップタイプに限らず、nアップタイプの半導体発光素子にも適用できる。
【0046】
さらにまた、上記実施の形態では、DBRブロック12を、積層する各層の層厚がMQW活性層6での発光波長の約1/(4×屈折率)になるように形成する場合を説明したが、DBRブロック12の反射波長の設計を、MQW活性層6における発光波長に対して長波側に設計することによって、斜めに入射する光に対しても、反射させる効果が期待できる。上述のように、DBRブロック12は電流狭窄層としても機能するので、上部電極11の真下以外の領域での発光が増え、DBRブロック12に入射する光のほとんどが斜めに入射することになる。よって、DBRブロック12を斜めに入射する光を反射するように形成することで、より発光光度を向上させることが可能になる。
【0047】
また、上記実施の形態では、p−コンタクト層9の上面のほぼ中央部に上部電極11及びDBRブロック12を設ける場合を説明したが、上部電極11及びDBRブロック12は、必ずしもp−コンタクト層9の上面におけるほぼ中央に位置する必要はなく、p−コンタクト層9の上面のどこに位置しても問題ない。
【0048】
さらに、上記実施の形態では、上部電極11と対向する位置にも下部電極10を形成する場合を説明したが、図3(a),(b)に示す半導体発光素子31のように、上部電極32と対向する位置に下部電極34を形成しないようにしてもよい。
【0049】
半導体発光素子31では、図3(a)に示すように、上部電極32及びDBRブロック33は、上面視で矩形状のP−コンタクト層9の表面における一の隅部(図3(a)では右下の隅部)に形成され、上面視で扇形状に形成されている。これに対して、下部電極34は、図3(b)に示すように、基板2の下面で、かつ、上部電極32と対向しない位置に形成される。
【0050】
このように、上部電極32と対向する位置に下部電極34を形成しないようにすることで、さらなる電流狭窄効果が得られ、上部電極32の真下でない領域での発光を増やすことが可能となるため、発光光度をより向上させることができる。なお、上部電極32と対向する位置に下部電極34を形成しない場合、p−電流拡散層8を厚く形成し、電流分散効果を高めることが望ましい。
【符号の説明】
【0051】
1 半導体発光素子
2 基板
3 n−バッファ層
4 DBR層
5 n−クラッド層(第1半導体層)
6 MQW活性層(活性層)
7 p−クラッド層(第2半導体層)
8 p−電流拡散層
9 p−コンタクト層
10 下部電極
11 上部電極
12 DBRブロック
13 発光層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
該基板上に設けられる第1半導体層、活性層、及び第2半導体層からなる発光層と、
前記基板と前記発光層との間に設けられるDBR(Distribution Bragg Reflector)層と、
前記基板の下面に設けられる下部電極と、
前記発光層上に設けられる上部電極とを有し、
前記発光層上にDBRブロックを設け、該DBRブロックを覆うように前記上部電極を設けたことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記発光層上には、AlGaInPからなるコンタクト層が設けられ、前記コンタクト層上に前記DBRブロックが設けられ、かつ前記上部電極がAuBeからなる請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記下部電極は、前記基板の下面で、かつ、前記上部電極と対向しない位置に形成される請求項1または2記載の半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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