説明

半導体素子用収容器

【課題】 積み重ねた半導体素子用トレイ自体を相互に固定することを可能にし、半導体素子の飛散、トレイ枚数に関する制約などを生じさせるクリップ等の別個の固定手段を不要とする。
【解決手段】 トレイ10は、半導体素子40を収容するポケット13を有する。トレイ10は更に、上面側に第1の嵌合部15を有し、底面側に第2の嵌合部16を有する。複数のトレイ10を積み重ねるとき、下段のトレイと上段のトレイとを接触させながら相対的にスライドさせることにより、下段のトレイの第1の嵌合部15と上段のトレイの第2の嵌合部16とが嵌合し、上段のトレイと下段のトレイとが固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の保管や搬送などに使用するトレイ状の収容器、及びそのハンドリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の保管、移載、運搬、及び基板実装時の搬送などにおいて、チップトレイ又はICトレイ等と呼ばれるトレイ状の収容器が使用されている。このような収容器は、一般的に、パッケージ/モジュール化された半導体素子、又は半導体ウェーハから個片化されたベアチップ状態の半導体素子を複数収容する。
【0003】
近年、半導体素子搭載製品の小型/薄型化に伴い、半導体素子自体の小型/薄型化が進められるとともに、ベアチップの直接基板実装の採用が増加している。また、半導体素子の生産性向上のため、半導体ウェーハはφ150mmからφ200mmへ、そして更にはφ300mmへと大口径化している。例えば大口径ウェーハの薄層化や個片化用の装置の大型化や高価格化などの理由により、装置組立メーカは、ウェーハ状態ではなく個片化されたベアチップの形態で、半導体素子メーカから半導体素子の供給を受ける傾向が強まっている。その結果、小型/薄型化されたベアチップをトレイに収容して保管、搬送あるいは運搬することが増えている。
【0004】
半導体素子用のトレイは一般的に、2インチ、3インチ、4インチといった外形寸法に限られており、例えばφ300mmのウェーハから得られる多数の半導体素子を収容するには、複数枚のトレイを用いる必要がある。
【0005】
図1に、一般的なチップトレイの形態を示す。図1の(a)は保管時又は運搬時などにおける形態を示す斜視図、(b)は各構成要素を示す斜視図、(c)は2枚のチップトレイの重なりを示す図1(b)の直線C−C’に沿った断面図である。
【0006】
チップトレイ110は、例えば5枚又は10枚といった所定の枚数だけ積み重ねられ、最上部に蓋トレイ120を重ねられた後、少なくとも1つのクリップ130によって固定される。各チップトレイ110は、半導体素子140を搭載する本体111と、該本体の外枠を成す枠部112とを有する。本体111は、半導体素子を収容する複数の凹部(以下、ポケットと呼ぶ)113を有する。枠部112は、トレイ110の積み重ね時に下に位置するトレイの本体111の上部を取り囲み、積み重ねたトレイが横方向に脱落するのを防止する。図1(c)に拡大して示すように、チップトレイ110を上下に積み重ねた時、下段トレイの本体の表面111aは、上段トレイの本体の裏面111bと接触し、下段トレイの複数のポケット113は上段トレイによって蓋をされ閉空間を形成する。なお、蓋トレイ120は、やはり本体121と枠部122とを有するが、半導体素子140を収容するためのポケットを有しない。
【0007】
このように、複数のチップトレイ110は、それ自体は単に積み重ねられただけであるため上下方向に容易に移動できる。従って、クリップ130によって固定されることによって運搬などが可能にされている。しかしながら、図2に示すようにクリップ130を脱着する時、積み重ねられたトレイ110が誤って離散したり、離散しないまでも、振動によってトレイ110間に隙間が発生したりすることがある。例えばベアチップの代表的な厚さは70μm−780μmと薄いため、クリップ130の脱着時の振動による僅かな隙間であっても、ポケット113からの半導体素子140の飛散、ひいては、隙間に挟まれた半導体素子140の破壊などをもたらし得る。また、クリップ130の脱着は、図2に示したような手作業に頼っており、機械化が困難である。
【0008】
さらに、上述のように、チップトレイ110は、例えば5枚又は10枚といった所定の枚数だけ積み重ねられ、更に蓋トレイ120を重ねられた後、クリップ130によって固定される。従って、クリップ130による固定は、半導体素子140が例えば1枚のチップトレイ110で足りる数しかない場合であっても、所定枚数のチップトレイ110を積み重ねることを必要とする。このことは、半導体素子の保管スペースを増大させるとともに、半導体素子の移載、運搬及び搬送などの作業を繁雑なものとする。これら問題の一部は、各枚数用のクリップを用意することによって解決され得るが、多種類のクリップを用意することは部品点数の増加などの新たな問題を引き起こす。
【0009】
なお、搬送時にチップトレイ内での半導体素子の姿勢変化や破損を防止する技術として、半導体素子の各収容器を、互いに嵌合された2つの枠体と、該2つの枠体により挟持されたチップ搭載用の粘着シートとで構成する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−255077号公報
【特許文献2】特開2005−35672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
既知の粘着シートを用いた半導体素子用収容器は、汎用性に乏しく、半導体素子の保管及び運搬を含む様々な用途で従来のチップトレイを置き換え得るものではない。仮に半導体素子の運搬などにも使用する場合、やはり、複数の収容器を相互に固定するクリップ等の固定手段を必要とし、所定枚数の収容器を積み重ねるか、枚数ごとの固定手段を用意するかの何れかを要する。さらに、粘着シートの交換及び廃棄などを必要とし、更なる部品点数の増加や、製造コスト及びランニングコストの上昇を生じさせる。
【0012】
故に、半導体素子の飛散、トレイ枚数に関する制約、及び部品点数の増加を生じさせ得るクリップ等の固定手段を用いずに、半導体素子の保管、運搬、及び/又は基板実装時の搬送などに幅広く使用し得る半導体素子用収容器が依然として望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一観点によれば、半導体素子を収容するポケットを有するトレイ状の収容器が提供される。当該収容器は、上面側に第1の嵌合部を有し、底面側に第2の嵌合部を有する。複数の当該収容器を積み重ねるとき、下段の収容器と上段の収容器とを接触させながら相対的にスライドさせることにより、下段の収容器の第1の嵌合部と上段の収容器の第2の嵌合部とが嵌合する。
【発明の効果】
【0014】
スライド動作による嵌合により収容器自体を相互に固定することが可能なため、脱着時の振動を抑制して半導体素子の飛散を防止するとともに、クリップなどの別個の固定手段を必要とせず、任意の数の収容器を積み重ねて使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来技術に係るトレイを示す図である。
【図2】図1のクリップの脱着方法を示す図である。
【図3】一実施形態に係るトレイを示す図である。
【図4】図3のトレイの脱着方法を示す図である。
【図5】一実施形態に係るトレイの嵌合部を例示する図である。
【図6】図5の嵌合部の一変形例を示す図である。
【図7】図5の嵌合部の他の一変形例を示す図である。
【図8】嵌合部の一設計例を示す図である。
【図9】図8の嵌合部の変形例を示す図である。
【図10】トレイの脱着方法の他の一例を示す図である。
【図11】図10の脱着方法を用いて固定されるトレイを例示する図である。
【図12】一実施形態に係るトレイのハンドリング方法を例示する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら実施形態について詳細に説明する。なお、図面において、種々の構成要素は必ずしも同一の尺度で描かれていない。また、図面全体を通して、同一あるいは対応する構成要素には同一又は類似の参照符号を付する。
【0017】
図3に、一実施形態に係る半導体素子用収容器の一例として、チップトレイ10の形態を示す。図3の(a)は保管時又は運搬時などにおける形態を示す斜視図、(b)は各構成要素を示す斜視図、(c)は2枚のチップトレイの重なりを概略的に示す図3(b)の直線C−C’に沿った断面図である。チップトレイ10の材質は、特に限定されず、必要な耐熱性、耐薬品性、低発塵性、導電性、及び/又は帯電防止性などに従って選択され得る。例えば、チップトレイ10は、ABS、PS若しくはPP等の樹脂、又はAl若しくはステンレス等の金属や合金を有する。
【0018】
チップトレイ10はスタック状に積み重ねて使用することができる。各トレイ10は、半導体素子40を搭載する本体11と、該本体の外枠を成す枠部12とを有する。本体11は、半導体素子を収容する1つ以上、典型的にはマトリクス状に配列された複数、のポケット(凹部)13を有する。枠部12は、トレイ10の積み重ね時に下に位置するトレイの本体11の上部を取り囲む。枠部12はまた、トレイ10及びそれに収容される半導体素子40の向きを揃えるために、典型的に1つのコーナー部に切り欠き12aを有する。トレイ10を上下に積み重ねた時、図1(c)の111aと111bと113との関係と同様に、下段トレイの本体の表面11aは、上段トレイの本体の裏面11bと接触し、下段トレイのポケット13は上段トレイによって蓋をされ閉空間を形成する。
【0019】
各チップトレイ10は更に、図5等を用いて詳細に後述するように、重なり合うトレイ同士を固定するための嵌合部15及び16を有する。嵌合部15はトレイ10の上面側に設けられ、嵌合部16はトレイ10の裏面側に設けられる。例えば、方形のチップトレイ10において、嵌合部15及び16はトレイ10の各コーナー部付近に設けられ得る。図3(c)に概略的に示すように、上面側に設けられた嵌合部15、及び底面側に設けられた嵌合部16は互いに対応する形状を有し、嵌合部15と16とが嵌合することにより、積み重ねられたトレイ10同士が固定される。
【0020】
チップトレイ10は、図4に示すようにして、スタック状に積み重ね、また、スタックから個々のトレイ10を取り外すことができる。積み重ね時においては、先ず、図4(a)に示すように、或る一定の距離dのオフセットを有するずれた位置で下段トレイ10−1上に上段トレイ10−2が重ね合わされる。距離dは、嵌合部15及び16の寸法によって決定される。その後、2つのトレイは、図4(b)に示すように互いにちょうど重なり合う位置まで、横方向に相対的にスライドされる。この並進スライド動作によって、下段トレイ10−1の上面側の嵌合部15と上段トレイ10−2の底面側の嵌合部16(図3(c)参照)とが噛み合い、2つのトレイが相互に固定される。図4(a)中の矢印は、この積み重ね時の2つのトレイの相対移動を示している。取り外し時には、図4(b)中の矢印に示すように、距離dの逆方向へのスライドの後に上側トレイ10−2の持ち上げが行われる。この逆方向へのスライド動作により、2つのトレイ間の固定が解除される。
【0021】
このように、2つのトレイを重ね合わせた状態でスライドさせることによりトレイ間の固定及びその解除が行われるので、この動作中、上下方向の相対変位が抑制され、上段トレイ本体の裏面11bと下型トレイ本体の表面11aとの接触が維持される。故に、トレイ間の隙間の発生、ひいては、半導体素子40の飛散や破損を防止することができる。
【0022】
また、積み重ねられた複数のチップトレイ10は、それ自体が相互に固定されるため、従来技術に係るチップトレイに用いられるクリップ(例えば、図1のクリップ130)等の別個の固定手段を必要とすることなく、運搬などが可能にされている。故に、部品点数が削減されるとともに、別個の固定手段による積み重ね枚数の制約を排除し、収容する半導体素子40の数に応じた枚数のみのトレイ10を積み重ね、固定することができる。従って、半導体素子数に対して余分なトレイを排除し、半導体素子の保管スペースの増大の問題を解消するとともに、半導体素子の移載、運搬及び搬送などの作業を簡易化し得る。
【0023】
なお、本実施形態は、チップトレイ10を蓋トレイとして使用することが可能であり、別個の設計を有する蓋トレイの使用を排除し得る。しかしながら、例えば、チップトレイ10から上面側の嵌合部15及びポケット13を排除した蓋トレイを用いることも可能である。また、チップトレイ10は従来技術に係るチップトレイ(例えば、図1のチップトレイ110)と同一の外形寸法を有することができる。故に、例えば遠隔地への運搬・輸送などにおいて、図1のクリップ130等の別個の固定手段を併用することも可能である。クリップ等の脱着時において、嵌合部15及び16によるトレイ同士の固定により、チップの飛散が防止される。
【0024】
続いて、図5を参照して、チップトレイ10の嵌合部15及び16を詳細に説明する。図5の(a)はチップトレイ10の上面図、(b)は底面図、(c)及び(d)は、それぞれ、図5(a)(及び(b))における直線C−C’及び直線D−D’に沿った断面図を示している。
【0025】
図5に示した例において、チップトレイ10は、その上面側において、本体11の縁部、例えば4つの角部、に切り欠き状の嵌合部(以下、切り欠き部とも呼ぶ)15a−15dを有する。トレイ10はまた、その底面側において、枠部12の内縁部、例えば4つの角部、に突起状の嵌合部(以下、突起部とも呼ぶ)16a−16dを有する。複数のトレイ10を、それらのコーナー部の切り欠き12aを揃えて積み重ね、固定するとき、下段トレイの切り欠き部15a、15b、15c、15dは、それぞれ、上段トレイの突起部16a、16b、16c、16dと嵌合する。また、図4(a)に示した積み重ね時の距離dのオフセットを可能にするため、トレイ10の底面側において、枠部12の4つの辺のうちの1つが幅dにわたって除去されている。すなわち、該1つの辺における枠部の幅をw2、残りの3つの辺における枠部の幅をw1(これは、従来技術に係るチップトレイ110における対応する幅と同等とし得る)とすると、w2〜w1−dにされている。なお、w1より大きいオフセットdを実現するためには、枠部12の該1つの辺を除去することになる。また、トレイ積み重ね時の切り欠き部15と突起部16との位置合わせのため、例えば、トレイ10はその上面に所定のオフセット距離dを差し示す1つ以上のアライメントマーク17を有していてもよい。
【0026】
なお、図5に示した嵌合部の例は、チップトレイ10の本体11に切り欠き部15、枠部12に突起部16を設け、且つ切り欠き部15及び突起部16を本体11及び枠部12の角部に近接させて配置した例である。このため、切り欠き部15a及び15dと、切り欠き部15b及び15cとで異なる構造を有している。また、これに対応し、突起部16a及び16dと、切り欠き部16b及び16cとで異なる構造を有している。角部に近接させた嵌合部の配置は、チップトレイ10のハンドリング時に、特に底面側の突起部16が何かと衝突したり引っかかること、更にはそれにより破損することを抑制し得る。
【0027】
しかしながら、嵌合部の配置は図5に示した例に限定されるものではない。例えば、図6に示すように、チップトレイ10は、本体11の角部から隔てた位置に、図5の切り欠き部15b及び15cと同様の構造を有する4つの切り欠き部15a’−15d’を有してもよい。これに対応し、トレイ10は、枠部12の角部から隔てた位置に、図5の突起部16b及び16cと同様の構造を有する4つの切り欠き部16a’−16d’を有してもよい。なお、図6の(a)及び(b)は、図5の(a)及び(b)と同様に、それぞれ、トレイ10の上面図及び底面図を示している。この嵌合部の配置は、図5の本体角部の切り欠き部15b及び15cのような一方向のみから突出した突起を形成する切り欠き部を排除し、チップトレイ10のハンドリング時に、特に上面側の切り欠き部が何かと衝突したり破損したりすることを抑制し得る。
【0028】
また、図7に例示するように、チップトレイ10は、本体11に突起部15a”−15d”を有し、枠部12に切り欠き部16a”−16d”を有してもよい。なお、図7の(a)及び(b)は、図5及び図6の(a)及び(b)と同様に、それぞれ、トレイ10の上面図及び底面図を示している。
【0029】
さらに、チップトレイ10は、上面側及び底面側のそれぞれに4つの嵌合部を有するものに限られない。例えば、トレイ10は、上面側及び底面側のそれぞれにおいて、図5の15a、15c、16a、16c等、対角を成す2つの位置に嵌合部を有してもよい。
【0030】
次に、図8を参照して、嵌合部の設計例を説明する。図8(a)に示すように、切り欠き部15の深さをL1、切り欠き部15に挿入される突起部16の長さをL2とする。好ましくは、L1及びL2のうちの少なくとも一方は、トレイ10の脱着時のオフセット量dより小さくされる。例えば、d=1.0mmのとき、L1=1.0mm、L2=0.8mmとし得る。このようにL1及びL2のうちの少なくとも一方をdより小さくすることにより、図8(b)に示すように、トレイの重ね合わせ時及び上段トレイの取り外し時に切り欠き部15と突起部16とが衝突することを回避することができる。それにより、衝突時の衝撃による半導体素子の飛散などが防止される。
【0031】
なお、切り欠き部15及び突起部16の断面形状は、図8に示したような方形でなくてもよい。図9は、トレイ間の固定を強め、積み重ねたトレイが不用意に固定解除されることを抑制する形状例を示している。
【0032】
図9(a)に示すように、切り欠き部15及び突起部16は楔形を有し、トレイの上面に対して傾斜した接触面51で互いに押し当てられてもよい。また、図9(b)に示すように、切り欠き部15及び突起部16は、その対向部において、一方が凸部52、他方が凹部53を有してもよい。凸部52及び凹部53は、トレイの固定時においてに対応する位置に形成されており、凸部52及び凹部53が噛み合うことにより、トレイ間の横方向のすべりが抑制される。凸部52の突出高さは例えば100μmから500μmとし得る。さらに、図9(c)に示すように、切り欠き部15及び突起部16は、図9の(a)及び(b)の構成を併せ持ってもよい。すなわち、図9(c)に示した切り欠き部15及び突起部16においては、傾斜した接触面51’に凸部52’及び凹部53’が形成されている。
【0033】
また、図8又は9に例示した様々な形状において、切り欠き部15及び突起部16は、チップトレイ10のその他の部分とは異なる加工が施されてもよい。例えば、トレイ間の固定を強めるために、切り欠き部15及び突起部16のうちの少なくとも一方の表面に粗面加工が施されてもよい。このような粗面加工は、例えば、トレイ成形時の金型の、突起部16及び/又は切り欠き部15に対応する部分に微細な凹凸や縞模様を設けておくことにより行い得る。
【0034】
次に、図10及び11を参照して、図4の横方向への並進スライド動作によるトレイの脱着方法に対する変形例、及びそれに対応した嵌合部の一例を有するチップトレイ60を説明する。チップトレイ60は、図4及び5等に示したチップトレイ10と共通する部分を多数有する。共通する部分には類似の参照符号を付し、冗長となる説明は省略する。
【0035】
チップトレイ60は、図10に示すようにして、スタック状に積み重ね、また、スタックから個々のトレイを取り外すことができる。積み重ね時においては、先ず、図10(a)に示すように、或る一定の角度θのオフセットを有するずれた向きで下段トレイ60−1上に上段トレイ60−2が重ね合わされる。角度θは、嵌合部65及び66(図11参照)の形状によって決定される。その後、2つのトレイは、図10(b)に示すように互いにちょうど重なり合う位置まで、トレイの中心を通る法線を軸として回転方向に相対的にスライドされる。この回転スライド動作によって、下段トレイ60−1の上面側の嵌合部65と上段トレイ60−2の底面側の嵌合部66(図11参照)とが噛み合い、2つのトレイが相互に固定される。図10(a)中の矢印は、この積み重ね時の2つのトレイの相対移動を示している。取り外し時には、図10(b)中の矢印に示すように、角度θの逆方向へのスライドの後に上段トレイ60−2の持ち上げが行われる。この逆方向へのスライド動作により、2つのトレイ間の固定が解除される。
【0036】
このように、2つのトレイを重ね合わせた状態でスライドさせることによりトレイ間の固定及びその解除が行われるので、この動作中、上下方向の相対変位が抑制され、トレイ間の隙間の発生を防止することができる。
【0037】
また、積み重ねられた複数のチップトレイ60は、それ自体が相互に固定されるため、従来技術に係るチップトレイに用いられるクリップ(例えば、図1のクリップ130)等の別個の固定手段を必要とすることなく、運搬などが可能にされている。故に、部品点数が削減されるとともに、別個の固定手段による積み重ね枚数の制約を排除し、収容する半導体素子の数に応じた枚数のみのトレイ60を積み重ね、固定することができる。
【0038】
続いて、図11を参照して、チップトレイ60の嵌合部65及び66を詳細に説明する。図11の(a)はチップトレイ60の上面図、(b)は底面図、(c)は、図11(a)(及び(b))における直線C−C’に沿った断面図を示している。
【0039】
図11に示した例において、チップトレイ60は、その上面側において、本体61の縁部、例えば4つの辺に回転対称に配置された、切り欠き状の嵌合部(以下、切り欠き部とも呼ぶ)65a−65dを有する。トレイ60はまた、その底面側において、枠部62の内縁部、例えば4つの内辺に回転対称に配置された、突起状の嵌合部(以下、突起部とも呼ぶ)66a−66dを有する。複数のトレイ60を、それらのコーナー部の切り欠き62aを揃えて積み重ね、固定するとき、下段トレイの切り欠き部65a、65b、65c、65dは、それぞれ、上段トレイの突起部66a、66b、66c、66dと嵌合する。また、図10(a)に示した積み重ね時の角度θのオフセットを可能にするため、トレイ60の底面側において、枠部62は4つの領域で追加的に除去されている。チップトレイ60は、トレイ積み重ね時の切り欠き部65と突起部66との位置合わせのため、例えば、その上面に所定のオフセット角度θを指し示す1つ以上のアライメントマーク67を有していてもよい。
【0040】
なお、図11に示した嵌合部の例においては、切り欠き部65及び突起部66は、1つの内角が角度θを有する比較的大きい略三角形の形状を有しているが、それぞれの対応し合う一部のみに比較的小さい任意の形状の切り欠き部及び突起部を設けてもよい。また、チップトレイ60は、本体61に切り欠き部65、枠部62に突起部66を設けた構成に限られず、本体61に突起部、枠部62に切り欠き部を有してもよい。また、チップトレイ60は、上面側及び底面側のそれぞれに4つの嵌合部を有するものに限られず、例えば、上面側及び底面側のそれぞれにおいて、図11の65a、65c、66a、66c等、対角を成す2つの位置に嵌合部を有してもよい。さらに、切り欠き部65及び突起部66は、図9に示したような楔形(傾斜面)及び/又は凸部及び凹部を有してもよい。
【0041】
次に、図12を参照して、一実施形態に係る半導体素子用収容器のハンドリング方法の一例を説明する。ここでは、図3−5等を用いて説明したチップトレイ10を例にとって説明する。チップトレイ10は、上述のように、クリップ等の別個の固定手段を必要とせずにトレイ間の固定とその解除を行うことが可能である。また、図4に示したように、2つのトレイを重ね合わせた状態でのスライド動作によりトレイ間の固定及びその解除を行うため、トレイ間に隙間が発生することを防止することができる。このようにクリップなどが不要であること、及びスライド動作により脱着可能であることは、例えば基板実装装置などの製造装置や検査装置などにおいて、トレイ間の固定やその解除を含めてトレイのハンドリングを自動化することを可能にする。
【0042】
図12は、複数のチップトレイ10を積み重ねたスタックから最上段のトレイを取り外す方法を概略的に示している。トレイのスタックは、例えば、枠状のレールやカセット供給機構71と、スタックを押し上げるトレイ高さ調整機構72とによって搬送され、最上段のトレイが所定の作業位置に位置するように配置されている。この作業位置で、例えば、最上段のトレイに収容されていた半導体素子がピックアップされ、実装基板にマウントされるなどの処理が行われる。最上段のトレイに関する作業が完了すると、例えば板状又はロッド状などの部材を最上段のトレイの側面に押し当てるトレイスライド機構73により、最上段のトレイが所定の距離だけスライドされる。それにより、最上段のトレイとその下段のトレイとの間の固定が解除される。すなわち、最上段のトレイの底面側の嵌合部16とその下段のトレイの上面側の嵌合部15との間の嵌合(図3(c)を参照)が解除される。スライドされ固定が解除された最上段のトレイは、例えばカセット供給機構71と同様の構成をしたトレイ回収機構によってスタックから取り除かれる。最上段のトレイは、トレイをピックアップするアームによって回収されてもよい。その後、次のトレイに収容された半導体素子に対する処理等のため、トレイのスタックは、残存した最上段のトレイが上記所定の作業位置に位置するように、トレイ高さ調整機構72によって上方に移動される。
【0043】
複数のチップトレイ10を積み重ねてスタックを形成することも、チップトレイ10を取り外すことと同様の機構を用いて行うことができる。トレイを積み重ねる場合、レール又はカセット供給機構71及びトレイ高さ調整機構72は、形成済みのスタックを下降させながら、新たに積み重ねるトレイを供給する。例えば、新たに積み重ねるトレイは、所定の作業位置の高さ且つ下段のトレイに対して所定の距離だけずれた位置で、下段のトレイ上に重ねて配置される。そして、トレイスライド機構73による所定距離のスライド動作により、最上段に配置されたトレイとその下段のトレイとが固定されるとともに、最上段のトレイが作業位置に配置される。この作業位置で、例えば、個片化や検査・選別などを行われた半導体素子が最上段のトレイに収容される。そして、最上段のトレイに関する作業が完了すると、更なるトレイを積み重ねる準備のため、形成済みのスタックがトレイ高さ調整機構72によって下降され得る。
【0044】
図10及び11に示したチップトレイ60のハンドリングも、チップトレイ10のハンドリングと同様に行い得る。ただし、トレイスライド機構73は、トレイ側面への押し当て部材の形状及び/又は位置の変更などにより、最上段のトレイの回転スライド動作を実行する。
【0045】
以上、実施形態について詳述したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された要旨の範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
【0046】
以上の説明に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
半導体素子を収容するポケットを有するトレイ状の収容器であって、
当該収容器の上面側に第1の嵌合部を有し、
当該収容器の底面側に第2の嵌合部を有し、
複数の当該収容器を積み重ねるとき、下段の収容器と上段の収容器とを接触させながら相対的にスライドさせることにより、下段の収容器の前記第1の嵌合部と上段の収容器の前記第2の嵌合部とが嵌合する
ことを特徴とする収容器。
(付記2)
前記ポケットを有する本体と、
前記本体の外枠を成し、複数の当該収容器を積み重ねたときに下段の収容器の前記本体の上部を囲むように下方に延在した枠部と、
を有し、
前記第1の嵌合部は前記本体に形成され、前記第2の嵌合部は前記枠部に形成されていることを特徴とする付記1に記載の収容器。
(付記3)
前記第1の嵌合部は前記本体の縁部に形成された切り欠き部であり、前記第2の嵌合部は前記枠部の内縁部に形成された突起部であることを特徴とする付記2に記載の収容器。
(付記4)
少なくとも前記本体の対角上の2つの角部に前記第1の嵌合部を有することを特徴とする付記3に記載の収容器。
(付記5)
複数の当該収容器を積み重ねるとき、所定の距離だけずらした状態で上段の収容器を下段の収容器上に重ね、その後、上段の収容器と下段の収容器とが重なり合うように、上段の収容器と下段の収容器とを前記所定の距離だけ相対的にスライドさせることにより、下段の収容器の前記第1の嵌合部と上段の収容器の前記第2の嵌合部とが嵌合することを特徴とする付記1乃至4の何れか一に記載の収容器。
(付記6)
複数の当該収容器を積み重ねるとき、所定の角度だけずらした状態で上段の収容器を下段の収容器上に重ね、その後、上段の収容器と下段の収容器とが重なり合うように、上段の収容器と下段の収容器とを前記所定の角度だけ相対的にスライドさせることにより、下段の収容器の前記第1の嵌合部と上段の収容器の前記第2の嵌合部とが嵌合することを特徴とする付記1乃至4の何れか一に記載の収容器。
(付記7)
前記第1及び第2の嵌合部の各々は嵌合時に相互に接触する接触面を有し、前記接触面は当該収容器の上面に対して傾斜していることを特徴とする付記1乃至6の何れか一に記載の収容器。
(付記8)
前記第1及び第2の嵌合部の各々は嵌合時に相互に対向する対向面を有し、前記第1及び第2の嵌合部のうちの一方の前記対向面は凸部を有し、前記第1及び第2の嵌合部のうちの他方の前記対向面は、前記凸部と対応する位置に凹部を有することを特徴とする付記1乃至6の何れか一に記載の収容器。
(付記9)
前記第1及び第2の嵌合部のうちの一方の前記接触面は凸部を有し、前記第1及び第2の嵌合部のうちの他方の前記接触面は、前記凸部と対応する位置に凹部を有することを特徴とする付記7に記載の収容器。
(付記10)
前記第1及び第2の嵌合部のうちの少なくとも一方の前記接触面は粗面に加工されていることを特徴とする付記7又は9に記載の収容器。
(付記11)
半導体素子を収容するトレイ状の第1及び第2の収容器を積み重ねる方法であって、前記第1及び第2の収容器の各々は、上面側に第1の嵌合部を有し、且つ底面側に、下段の収容器と接触されながら相対的にスライドされたときに下段の収容器の前記第1の嵌合部と嵌合する第2の嵌合部を有し、当該方法は、
トレイ供給機構が、前記第1の収容器上に、所定の距離又は角度だけずらした状態で前記第2の収容器を重ねて配置する段階と、
トレイスライド機構が、前記第1及び第2の収容器が重なり合うように、前記第1の収容器を前記所定の距離又は角度だけスライドさせ、前記第1の収容器の前記第1の嵌合部と前記第2の収容器の前記第2の嵌合部とを嵌合させる段階と、
を有することを特徴とする方法。
(付記12)
第1の収容器上に積み重ねられた第2の収容器を前記第1の収容器上から取り外す方法であって、前記第1及び第2の収容器の各々は、半導体素子を収容するトレイ状の収容器であり、上面側に第1の嵌合部を有し、且つ底面側に、下段の収容器と接触されながら相対的にスライドされたときに下段の収容器の前記第1の嵌合部と嵌合する第2の嵌合部を有し、当該方法は、
トレイスライド機構が、前記第2の収容器が前記第1の収容器に対して所定の距離又は角度だけずれた状態となるように、前記第2の収容器を前記第1の収容器に接触させながら所定の距離又は角度だけスライドさせ、前記第1の収容器の前記第1の嵌合部と前記第2の収容器の前記第2の嵌合部との嵌合を解除する段階と、
トレイ回収機構が、前記第2の収容器を前記第1の収容器上から取り除く段階と、
を有することを特徴とする方法。
【符号の説明】
【0047】
10、60 収容器(トレイ)
11、61 トレイ本体
11a、61a トレイ本体の表面
11b、61b トレイ本体の裏面
12、62 トレイ枠部
13、63 ポケット
15、65 トレイ上面側の嵌合部
16、66 トレイ底面側の嵌合部
17、67 アライメントマーク
40 半導体素子
51 嵌合部の接触面
52、53 嵌合部の凸部/凹部
71 レール又はカセット供給機構
72 トレイ高さ調整機構
73 トレイスライド機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子を収容するポケットを有するトレイ状の収容器であって、
当該収容器の上面側に第1の嵌合部を有し、
当該収容器の底面側に第2の嵌合部を有し、
複数の当該収容器を積み重ねるとき、下段の収容器と上段の収容器とを接触させながら相対的にスライドさせることにより、下段の収容器の前記第1の嵌合部と上段の収容器の前記第2の嵌合部とが嵌合する
ことを特徴とする収容器。
【請求項2】
前記ポケットを有する本体と、
前記本体の外枠を成し、複数の当該収容器を積み重ねたときに下段の収容器の前記本体の上部を囲むように下方に延在した枠部と、
を有し、
前記第1の嵌合部は前記本体に形成され、前記第2の嵌合部は前記枠部に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の収容器。
【請求項3】
前記第1の嵌合部は前記本体の縁部に形成された切り欠き部であり、前記第2の嵌合部は前記枠部の内縁部に形成された突起部であることを特徴とする請求項2に記載の収容器。
【請求項4】
複数の当該収容器を積み重ねるとき、所定の距離だけずらした状態で上段の収容器を下段の収容器上に重ね、その後、上段の収容器と下段の収容器とが重なり合うように、上段の収容器と下段の収容器とを前記所定の距離だけ相対的にスライドさせることにより、下段の収容器の前記第1の嵌合部と上段の収容器の前記第2の嵌合部とが嵌合することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の収容器。
【請求項5】
複数の当該収容器を積み重ねるとき、所定の角度だけずらした状態で上段の収容器を下段の収容器上に重ね、その後、上段の収容器と下段の収容器とが重なり合うように、上段の収容器と下段の収容器とを前記所定の角度だけ相対的にスライドさせることにより、下段の収容器の前記第1の嵌合部と上段の収容器の前記第2の嵌合部とが嵌合することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の収容器。
【請求項6】
前記第1及び第2の嵌合部の各々は嵌合時に相互に接触する接触面を有し、前記接触面は当該収容器の上面に対して傾斜していることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の収容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−63269(P2011−63269A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212646(P2009−212646)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(308014341)富士通セミコンダクター株式会社 (2,507)
【Fターム(参考)】