説明

半導体素子

【課題】 量子ドットの高さ方向のサイズを調整し、波長スペクトルが長波長側に偏移するとともに、発光強度の低下が抑制された半導体素子を提供する。
【解決手段】 量子ドットが形成されたInAs活性層15とGaAsキャップ層17との間に、Inx Ga1-x As歪緩和層16を形成する。歪緩和層16の組成パラメータxは、活性層15との界面からの距離に対して連続的に減少するように設定されている。活性層15に生じる歪力は、歪緩和層16との格子定数の差によって決定されるが、活性層15と歪緩和層16との界面のみならず、歪緩和層16自体の格子定数のミスマッチ度によって量子ドットに生じる歪力を調整できるため、量子ドットの高さを従来のものに比べて高くでき、出力波長を長波長側に偏移させることができる。また、量子ドットの均一性が悪化することはなく、発光強度の減少を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の表面に形成された量子ドット層に生じる歪力を緩和することにより、量子ドットの圧縮効果が低減して量子ドットの高さ方向のサイズを大きくすることができる半導体素子に関し、その結果として、波長スペクトルが長波長側に偏移するとともに、発光強度の低下が抑制された半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
微細加工技術に代表される半導体製造技術の進展によって、集積度の向上に加えて、量子サイズ効果を利用した量子ドットレーザ(Quantum Dot Laser)、単一電子トランジスタ(Single Electron Transistor)等のデバイスが提案されている。
【0003】
例えば、III−V族化合物半導体のガリウム砒素(以下、GaAs)基板に、インジウム砒素(以下、InAs)の量子ドットを形成して活性層とし、活性層をGaAsからなるキャップ層で被覆した構成の半導体素子(量子ドットレーザ)が提案されている。量子ドットは、電子のド・ブロイ波長と同程度の寸法(大きさ)を有するため、その中に電子を0次元的に閉じ込め、電子のエネルギー準位を離散化、すなわち、状態密度をデルタ関数とすることが可能であり、量子ドットが形成された量子ドットレーザは、従来の枠を超越した性能を有する。
【0004】
量子ドットは、歪層の結晶成長のみで形成するという自己形成的な手法が主として用いられる。例えば、格子定数の大きい層を格子の小さい基板上に積層することにより、成長初期に2次元的な薄膜が成長し、所定の臨界膜厚に達すると、表面に3次元的な島状構造が形成される(S−K(Stransky-Krastanov)モード成長法)。S−Kモード成長法の利点は、面内サイズを規定させるための製造プロセスが基本的に不要であり、格子不整合系の結晶成長だけで形成できるため、加工により生じるダメージに起因する特性劣化が存在しないことである。
【0005】
ところで、S−Kモード成長法によって量子ドットを形成する場合、量子ドットが受ける歪は、量子ドットの材料の格子定数と、それに隣接する層の格子定数との差によって決定される。上述の量子ドットレーザでは、GaAs,InAs(量子ドット),GaAsの順に層が積層されているが、GaAsとInAsとの組合せでは、格子定数の差が大きく、量子ドットが受ける歪が大きすぎるために、上述の量子ドットレーザのフォトルミネッセンス(PL)の波長スペクトルの中心値は1.03μmとなり、光無線通信分野において望まれる1.3〜1.55μmの波長帯での発光が得られなかった。
【0006】
そこで、本発明者らは、出力光の長波長化を実現すべく、InAsの活性層とGaAsのキャップ層との間に、Inx Ga1-x Asの歪緩和層を設けた半導体素子を提案している(例えば、非特許文献1参照。)。非特許文献1には、組成パラメータ(組成比)xが0.21(21%)である厚さ6nmのInx Ga1-x Asを設けた場合、設けなかったときに比べて、PLの波長スペクトルの中心値が略10%長波長側に偏移(1.03μm→1.125μm)することが開示されている。
【0007】
さらに、活性層とキャップ層との間に、2層からなる歪緩和層を設けることにより、量子ドットに生じる歪力をさらに抑制し、出力光がさらに長波長側に偏移することが開示されている。例えば、組成パラメータx1が0.33である厚さ10モノレイヤ(原子層)のInx1Ga1-x1Asと、組成パラメータx2が0.21である厚さ3nmのInx2Ga1-x2Asとからなる歪緩和層を順次積層すれば、波長スペクトルの中心値が1.207μmとなる。
【非特許文献1】シャンムカム サラバナン(S.Saravanan),他4名著 「長波長化のためのInGaAs歪緩和層を有するGaAs基板上のInAs量子ドット(InAs quantum dots on GaAs substrates with InGaAs strain reducing layer for long wavelength emission)」 固体物理学論文誌(physica status solidi(c)) 2003年発行,0巻,4号,P1193-1196
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、波長スペクトルの中心値は1.207μmであり、1.3〜1.55μmの波長帯の光を発光するには、さらに長波長化する必要があった。
また、活性層とキャップ層との間に歪緩和層を設けた場合、歪緩和層の組成パラメータxが低いとき(x<0.12)は、歪緩和層に含まれるInが量子ドットに生じる歪力の緩和に支配的であるが、組成パラメータxが高いとき(x≧0.12)は、キャリアの非放射再結合が増加すると推定されており、その再結合によって発光強度が低下するという問題があった。例えば、組成パラメータxが0.45の場合、発光強度は略1/13に低下することが確認されている。
【0009】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、量子ドット層を構成する第1物質と被覆層を構成する第2物質とが含有され、第1物質の第2物質に対する組成比が量子ドット層の界面からの距離に応じて異なった歪緩和層を、量子ドット層と被覆層との間に備える構成とすることにより、量子ドット層と歪緩和層との界面のみならず、歪緩和層自体の格子定数のミスマッチ度によって量子ドットに生じる歪力を調整して、量子ドットの高さ方向のサイズを調整することができる半導体素子の提供を目的とする。
【0010】
また本発明は、歪緩和層を構成する第1物質の第2物質に対する組成比を量子ドット層の界面からの距離に応じて減少する構成とすることにより、量子ドット層と歪緩和層との界面における量子ドット層と歪緩和層との格子定数のミスマッチ度を小さくすることができ、量子ドットの圧縮効果が低減して量子ドットの高さ方向のサイズを高くすることができる半導体素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明に係る半導体素子は、半導体の表面に、量子ドット層と、該量子ドット層に生じる歪力を緩和する歪緩和層と、該歪緩和層を被覆する被覆層とが積層された半導体素子において、前記歪緩和層は、前記量子ドット層を構成する第1物質と前記被覆層を構成する第2物質とを含んでおり、前記第1物質の前記第2物質に対する組成比が、前記量子ドット層との界面からの距離に応じて異なっていることを特徴とする。
【0012】
第2発明に係る半導体素子は、第1発明において、前記組成比は、前記量子ドット層との界面からの距離に応じて連続的に減少されていることを特徴とする。
【0013】
第3発明に係る半導体素子は、第1発明において、前記組成比は、前記量子ドット層との界面からの距離に応じて段階的に減少されていることを特徴とする。
【0014】
第4発明に係る半導体素子は、第1発明乃至第3発明のいずれかにおいて、前記半導体及び前記被覆層はGaAsであり、前記量子ドット層及び前記歪緩和層は、それぞれInAs及びInx Ga1-x Asであり、前記第1物質及び前記第2物質は、それぞれIn及びGaであることを特徴とする。
【0015】
第1発明にあっては、歪緩和層を構成する第1物質の第2物質に対する組成比を量子ドット層の界面からの距離に応じて調整することにより、歪緩和層の層内における格子定数のミスマッチ度を調整することができる。よって、量子ドット層と歪緩和層との界面のみならず、歪緩和層自体のミスマッチ度によって量子ドットに生じる歪力を調整できるため、量子ドットの高さ方向のサイズの調整範囲を従来より広げることができる。
【0016】
第2発明及び第3発明にあっては、歪緩和層を構成する第1物質の第2物質に対する組成比を量子ドット層の界面からの距離に応じて減少することにより、換言すれば、量子ドット層の界面における第1物質の組成を大きくするとともに第2物質の組成を小さくすることにより、量子ドット層と歪緩和層との界面における量子ドット層と歪緩和層との格子定数のミスマッチ度を小さくすることができ、量子ドットの圧縮効果が低減して量子ドットの高さ方向のサイズを従来より高くすることができる。従って、例えば、PL特性の波長スペクトルを長波長側に偏移させることができる。
【0017】
第4発明にあっては、GaAs上に、InAsの量子ドットが形成され、量子ドットに生じる歪力を緩和するInx Ga1-x As(x:組成比)と、GaAsとが積層される。量子ドットとの界面からの距離に応じてInx Ga1-x Asの組成比xを調整することにより、量子ドットとの界面におけるInAsとInx Ga1-x Asとの格子定数のミスマッチ度を小さくすることができ、量子ドットの圧縮効果が低減して量子ドットの高さ方向のサイズを調整することができる。例えば、量子ドットとの界面における組成比xを大きくすることにより、格子定数のミスマッチ度を小さくできる。従って、量子ドットの圧縮効果が低減して量子ドットの高さ方向のサイズを高くすることができる。一方、量子ドットとの界面における組成比xを小さくすることにより、InAsとInx Ga1-x Asとの組成を意図的に異ならせ、格子定数のミスマッチ度を大きくできる。従って、量子ドットの圧縮効果が増大して量子ドットの高さ方向のサイズを低くすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、量子ドット層を構成する第1物質と被覆層を構成する第2物質とが含有され、第1物質の第2物質に対する組成比が量子ドット層の界面からの距離に応じて異なった歪緩和層を、量子ドット層と被覆層との間に備えたので、量子ドット層と歪緩和層との界面のみならず、歪緩和層自体の格子定数のミスマッチ度によって量子ドットに生じる歪力を調整して、量子ドットの高さ方向のサイズを調整することができる。
【0019】
また本発明によれば、歪緩和層を構成する第1物質の第2物質に対する組成比を量子ドット層の界面からの距離に応じて連続的に減少するようにしたので、量子ドット層と歪緩和層との界面における量子ドット層と歪緩和層との格子定数のミスマッチ度を小さくすることができ、量子ドットの圧縮効果が低減して量子ドットの高さ方向のサイズを高くすることができる。
【0020】
したがって、歪緩和層の組成比を調整することによって、発光強度の低下を抑制しつつ、波長スペクトルが長波長側に偏移した半導体素子を実現することができる。例えば、近年の光無線通信分野において要望されている1.3〜1.55μmの波長帯の光を発光する量子ドットレーザを実現することができる等、優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
【0022】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1に係る半導体素子の一例である量子ドットレーザの構造を示す模式的断面図である。
【0023】
本発明の実施形態1に係る量子ドットレーザ1は、n型GaAs基板10に各種の半導体層を順次積層した構造を有する。n型GaAs基板10は、GaAs基板に所定濃度のSiをドープすることによりn型となる(以下、同様)。
【0024】
n型GaAs基板10には、n型GaAsバッファ層11、n型Al0.3 Ga0.7 Asクラッド層12が、それぞれ300nmの厚さで積層されている。n型GaAsバッファ層11は下地に生じた歪を解消するために設ける。n型GaAsバッファ層11及びn型Al0.3 Ga0.7 Asクラッド層12は、n型GaAs基板10の基板温度を540℃として、GaAsエピタキシャル膜、Al0.3 Ga0.7 Asエピタキシャル膜をそれぞれ成長させて形成する。各エピタキシャル膜は、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法、有機金属気相成長法、液相成長法などによりエピタキシャル成長させて形成できる。なお、このときのn型GaAs基板10の基板温度は、エピタキシャル膜の成長速度の1要素である。
【0025】
n型Al0.3 Ga0.7 Asクラッド層12の上面には、厚さ2nmのGaAsと厚さ2nmのAlAsとが1層毎に積層され、それぞれ10層が積層された構造を有する超格子層13が形成されている。
【0026】
超格子層13の上面には、厚さ300nmのGaAsからなるn型バッファ層14を介して、InAsの量子ドットからなるInAs活性層15(すなわち、量子ドット層)が積層されている。量子ドットは、それ自体公知のS−Kモード成長法を利用して、In及びAsをMBE法で供給することによって形成する。本例では、n型GaAs基板10の基板温度を500℃にして、InAs換算で3モノレイヤ相当のIn及びAsを供給して、面密度が8.3×1010cm-2、高さが6nm、直径が27nmのドーム状の量子ドットを形成した。
【0027】
InAs活性層15の上面には、Inx Ga1-x As歪緩和層16が積層されている。詳細は後述するが、Inx Ga1-x As歪緩和層16の組成パラメータxは、InAs活性層15との界面からの距離に対して連続的に減少するように設定されている。Inx Ga1-x As歪緩和層16の上面には、厚さ100nmのGaAsキャップ層17が積層されている。GaAsキャップ層17を形成する際のn型GaAs基板10の基板温度は、本例では500℃とした。
【0028】
GaAsキャップ層17の上面には、p型Al0.3 Ga0.7 Asクラッド層18、p型GaAsコンタクト層19が、それぞれ300nmの厚さで積層されている。
【0029】
n型GaAs基板10の裏面を所定厚さ除去した後に、その裏面に電極材料を蒸着によって形成するとともに、所定パターンにエッチングしてn側電極を形成し、同様に、p型GaAsコンタクト層19上に電極材料を蒸着によって形成するとともに、所定パターンにエッチングしてp側電極を形成する。
【0030】
図2はInx Ga1-x As歪緩和層16の組成パラメータを示すグラフである。同図横軸はInAs活性層15とInx Ga1-x As歪緩和層16との界面からの距離Lを、縦軸はInx Ga1-x As歪緩和層16を構成するInx Ga1-x Asの組成パラメータxを夫々示す。
【0031】
(1)実施例1(線分A)
実施例1において、組成パラメータxは、InAs活性層15とInx Ga1-x As歪緩和層16との界面(L=0)では”0.45”、Inx Ga1-x As歪緩和層16とGaAsキャップ層17との界面(L=Tmax(Inx Ga1-x As歪緩和層16の膜厚))では”0”、すなわちInは含まれない。つまり、Inx Ga1-x As歪緩和層16は、InAs活性層15との界面における組成がIn0.45Ga0.55Asとなり、GaAsキャップ層17との界面における組成がGaAsとなっている。
【0032】
(2)実施例2(線分B)
実施例2において、InAs活性層15とInx Ga1-x As歪緩和層16との界面(L=0)、Inx Ga1-x As歪緩和層16とGaAsキャップ層17との界面(L=Tmax)における組成パラメータxは、共に実施例1と同様であり、さらに、L=0及びL=Tmaxにおける線分Bの1次微分係数が”0”となるようにした。
【0033】
図3はInAs活性層15に生じる歪力を説明するための説明図である。同図破線は、もっとも広く行われている、緩和層をGaAsとした場合における量子ドットの形状を示す。
【0034】
InAs活性層15を構成するInAs量子ドット15aに生じる歪力は、その上面に設けた物質、すなわちInx Ga1-x As歪緩和層16との格子定数の差によって決定されるが、本発明においては、InAs量子ドット15aとInx Ga1-x As歪緩和層16との格子定数の差は、もっとも広く行われている、緩和層をGaAsとした場合よりも小さく、また組成パラメータxを変化させることによって調整することができる。これにより、InAs量子ドット15aにおける歪を制御して、InAs量子ドット15aの高さを調整することができる。
【0035】
従って、InAs量子ドット15aの高さを従来のものに比べて高くすることができるため、出力波長を長波長側に偏移させることができる。なお、長波長化は、Inx Ga1-x As歪緩和層16自体によるものではなく、Inx Ga1-x As歪緩和層16を設けることによってInAs量子ドット15aにおける歪が緩和されたことによると推定される。また、InAs量子ドット15aのサイズの均一性が悪化しないように、組成パラメータxを調整して、InAs量子ドット15aにおける歪を制御することができる。従って、本発明によれば、PL半値幅が大きくなることはなく、発光強度の減少を抑制することができる。例えば、実施例のように、InAs活性層15とInx Ga1-x As歪緩和層16との界面30(L=0)での組成パラメータxが”0.45”である場合であっても、Inx Ga1-x As歪緩和層16(L=0〜Tmax)での組成パラメータxを調整することによって、InAs量子ドット15aへの影響を間接的に制御して、発光強度の減少を抑制することができる。
【0036】
なお、本実施形態では2つの実施例を示したが、組成パラメータxの値について限定されるものではなく、組成パラメータxを適宜変更することにより、量子ドットに生じる歪力を調整して、所望波長帯の光を出力するように構成することができる。
【0037】
(実施形態2)
実施形態1では、組成パラメータxが連続的に変化するInx Ga1-x As歪緩和層を設けるようにしたが、組成パラメータxが段階的(ステップ的)に変化するInx Ga1-x As歪緩和層を設けるようにしてもよく、このようにしたものが実施形態2である。
【0038】
図4は本発明の実施形態2に係る半導体素子の一例である量子ドットレーザの構造を示す模式的断面図である。
【0039】
本発明の実施形態2に係る量子ドットレーザ2は、InAs活性層15とGaAsキャップ層17との間に、本実施形態の特徴であるInx Ga1-x As歪緩和層26が形成されている。Inx Ga1-x As歪緩和層26は、図5に示すように、厚さ5モノレイヤの第1歪緩和層26a、厚さ5モノレイヤの第2歪緩和層26b、厚さ5モノレイヤの第3歪緩和層26c、厚さ5モノレイヤの第4歪緩和層26dが順次積層された構造を有する。その他の構成は図1と同様であるので、対応する部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0040】
図6はInx Ga1-x As歪緩和層26の組成パラメータを示すグラフである。同図横軸はInAs活性層15とInx Ga1-x As歪緩和層26aとの界面からの距離Lを、縦軸はInx Ga1-x As歪緩和層26を構成するInx Ga1-x Asの組成パラメータxを夫々示す。
【0041】
組成パラメータxは、InAs活性層15と第1歪緩和層26aとの界面(L=0モノレイヤ)から第1歪緩和層26aと第2歪緩和層26bとの界面(L=5モノレイヤ)までは”0.45”である。L=5モノレイヤから第2歪緩和層26bと第3歪緩和層26cとの界面(L=10モノレイヤ)までは”0.35〜0.4”である。L=10モノレイヤから第3歪緩和層26cと第4歪緩和層26dとの界面(L=15モノレイヤ)までは”0.25〜0.3”である。L=15モノレイヤから第4歪緩和層26dとGaAsキャップ層17との界面(L=20モノレイヤ)までは”0.15〜0.2”である。
【0042】
このような構成の量子ドットレーザのPL特性について測定を行った。測定の結果、量子ドットレーザ2の出力波長の中心値は、1.55μmであった。つまり、1.3〜1.55μmの波長帯を発光する量子ドットレーザを実現することができる。これは、量子ドットレーザ2においては、InAs活性層15との界面に設けた第1歪緩和層26aの組成パラメータxが大きく(x=0.45)、その格子定数がInAs活性層15の格子定数に近いため、量子ドットに生じる歪力が小さくなり、量子ドットの圧縮効果が低減して、波長が長波長側に偏移したものと考えられる。
【0043】
また、量子ドットレーザ2の発光強度は、従来のものと比較して、出力波長が長波長側に偏移しているにもかかわらず、その強度の低下は観測できなかった。
【0044】
なお、各歪緩和層の厚みは一例であり、第1歪緩和層が3〜7モノレイヤ、第2歪緩和層が3〜6モノレイヤ、第3歪緩和層が3〜5モノレイヤ、第4歪緩和層が3〜5モノレイヤの厚みの範囲内であれば、出力波長が略1.55μmとなる。もちろん、歪緩和層の層数についても限定されるものではなく、InAs活性層15からGaAsキャップ層17にかけて、組成パラメータxが小さくなるように設定した歪緩和層を設けるようにしてもよい。各歪緩和層の組成パラメータxを適宜調整することにより、量子ドットに生じる歪力を調整して、所望波長帯の光を出力するように構成することができる。
【0045】
なお、各実施形態では、GaAsに、InAsの量子ドット、Inx Ga1-x Asの歪緩和層、GaAsのキャップ層を積層する場合(InAs/InGaAsと標記する)について説明したが、格子定数が異なり、S−Kモード成長が生じる組み合わせ、例えば、InGaAs/GaAs,InP/GaAs,GaSb/GaAs,GaAsSb/GaAs,InGaAs/InP,GaAsSb/InP,InP/InAlAs,GaAs/GaP,GaAsP/GaP,ZnTeSe/ZnSe,ZnSe/ZnS,GaN/AlN,InAlN/AlN,InAlN/GaN,SiGe/Siに対しても有効である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態1に係る半導体素子の一例である量子ドットレーザの構造を示す模式的断面図である。
【図2】Inx Ga1-x As歪緩和層16の組成パラメータを示すグラフである。
【図3】InAs活性層に生じる歪力を説明するための説明図である。
【図4】本発明の実施形態2に係る半導体素子の一例である量子ドットレーザの構造を示す模式的断面図である。
【図5】Inx Ga1-x As歪緩和層26の構造を示す模式的断面図である。
【図6】Inx Ga1-x As歪緩和層26の組成パラメータを示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
1,2 量子ドットレーザ
10 n型GaAs基板
11 n型GaAsバッファ層
12 n型Al0.3 Ga0.7 Asクラッド層
13 超格子層
14 n型バッファ層
15 InAs活性層
16,26 Inx Ga1-x As歪緩和層
17 GaAsキャップ層
18 p型Al0.3 Ga0.7 Asクラッド層
19 p型GaAsコンタクト層
26a 第1歪緩和層
26b 第2歪緩和層
26c 第3歪緩和層
26d 第4歪緩和層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体の表面に、量子ドット層と、該量子ドット層に生じる歪力を緩和する歪緩和層と、該歪緩和層を被覆する被覆層とが積層された半導体素子において、
前記歪緩和層は、
前記量子ドット層を構成する第1物質と前記被覆層を構成する第2物質とを含んでおり、
前記第1物質の前記第2物質に対する組成比が、前記量子ドット層との界面からの距離に応じて異なっていること
を特徴とする半導体素子。
【請求項2】
前記組成比は、前記量子ドット層との界面からの距離に応じて連続的に減少されていること
を特徴とする請求項1に記載の半導体素子。
【請求項3】
前記組成比は、前記量子ドット層との界面からの距離に応じて段階的に減少されていること
を特徴とする請求項1に記載の半導体素子。
【請求項4】
前記半導体及び前記被覆層はGaAsであり、
前記量子ドット層及び前記歪緩和層は、それぞれInAs及びInx Ga1-x Asであり、
前記第1物質及び前記第2物質は、それぞれIn及びGaであること
を特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−5256(P2006−5256A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181780(P2004−181780)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「自律分散型無線ネットワークの研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】