説明

半導体素子

【課題】n型半導体層とp型半導体層の間にギャップを設けた半導体素子によって良好な発光素子を提供する。
【解決手段】第1基板10に下部電極2、n型半導体層3を順次形成する。n型半導体層3の表面に局所的に複数のスペーサ6をMgO薄膜で形成する。第2基板10‘の表面に上部電極(透明電極)5とp型半導体層4を形成する。n型半導体層3とp型半導体層4とを、スペーサ6を介して接合することで、両半導体層3、4の間にギャップspを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にホール注入特性に優れる半導体素子の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ZnO結晶は、約3.37eV程度のワイドなバンドギャップを有する直接遷移型半導体である。ホールと電子が固体内で結合した励起子の束縛エネルギーが60meVと大きく、室温でも安定に存在するため、安価で環境負荷も小さく、青色領域から紫外領域までの発光デバイス用の材料として期待されている。ZnO結晶は発光デバイス以外にも用途が広く、受光素子や圧電素子、トランジスタ、透明電極などへの応用も期待されている。
【0003】
従来の一般的な構造の半導体素子の構成を図7に示す。厚み0.5mm程度のガラス基板1上に、厚み100nm程度のITOからなる下部電極2(第1電極)が形成されている。下部電極2上に、厚み2um〜4umのZnOからなるn型半導体層3が形成され、n型半導体層3上に200nm〜400nmのZnNiOのp型半導体層4が形成されている。p型半導体層4上に、厚み100nm程度のITOからなる上部電極5(第2電極)が形成されている。
【0004】
ZnO結晶をn型半導体層3のように使用するには、量産性に優れた高品質のZnO結晶成長技術を確立することが重要であるとともに、半導体の伝導性を制御するドーピング技術も重要である。
特に、n型のZnO半導体層の上にp型のZnO系半導体層を積層したZnOデバイスを開発する上で、ZnOのp型化が大きな課題である。現在、多くの機関がZnOのp型化に注力している。
【0005】
例えば、ZnO系半導体にドーピングするp型ドーピング材料としてV族元素を用い、酸素原子をV族元素に置き換える方法が多くの機関で検討されており、N(窒素)、As(砒素)、P(リン)、Sb(アンチモン)等が候補に挙げられている。この中でもNは、イオン半径が酸素と同程度であり、ZnOに対するp型ドーパントの候補として有力である(特許文献1)。
【0006】
一方、発光デバイスとして大画面のディスプレイに適した半導体も要求されている。従って、ガラス基板のように大面積化しやすい基板の上に、n型ZnO半導体膜及びp型ZnO半導体薄膜を積層形成する技術が求められる(特許文献2)。現在では、特にワイドバンドギャップを有するp型半導体層を作製することは困難である。
なお近年、600℃以下のプロセス温度のもとでの反応性スパッタ成膜によって、p型ZnO半導体薄膜を得る技術が提案されている。その技術によれば、AlとNをZnOに同時に不純物導入することによってNを有効に且つ低温でZnO中で活性化できる(非特許文献1及び非特許文献2)。
【0007】
また、同様にスパッタプロセスを用いて、低温で比較的容易にp型化できるNiO薄膜などが有用であることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−223219号公報
【特許文献2】特開2003−273400号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Applied Surface Science 255 (2008) 2026-2029
【非特許文献2】Thin Solid Films 517 (2009) 3950-3953
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記のようにZnOに窒素をドーピングしてp型化した半導体膜において、高い結晶性と表面平滑性を得るためには、例えば特許文献1に開示されているように、300℃〜800℃程度の高温度でアニール処理する必要がある。ガラス基板はそのような高温プロセスには耐えないので、p型ZnO系半導体薄膜を窒素ドーピングの方法によってガラス基板上に形成することは困難である。また、特許文献2に示されたようにZnOとNiOとのヘテロ接合によって良好なpn接合を得ることができるが、この場合も600℃を越える高温プロセスを要している。従って、低温でも良好に薄膜形成できるp型半導体材料を得られないことが課題である。
【0011】
なお、ZnO:Al、N薄膜、NiO薄膜などをスパッタ蒸着すれば600℃以下のプロセスでp型化できるが、それらの薄膜を活性層のZnO上に直接堆積する場合は、スパッタ蒸着法による成膜時のダメージがZnOとp型半導体層との界面に及んでしまい、良好なpn接合の形成が困難である。また、これにより得られるp型半導体層を評価しても、前述の高温プロセスで作製したp型半導体層に比べ品質が劣り、多くの結晶欠陥を含んだものになっている。
【0012】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、特に比較的低温で形成されるp型半導体を用いてn型半導体層にホ−ル注入する場合に、良好なホール注入特性を実現可能な半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施形態に係る半導体素子は、n型半導体層と、前記n型半導体層の表面に対し、局所的に形成されたスペーサと、前記スペーサの上面に積層されたp型半導体層とを有し、前記スペーサを介して前記n型半導体層と前記p型半導体層が接合されることで、前記両半導体層の間にギャップが形成されている構成とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様である半導体素子では、n型半導体層とp型半導体層との間にスペーサが介在する。これにより、前記両半導体層は、ギャップを介して接合されている。
このギャップの存在によって、駆動時には両半導体層の禁制帯中に存在する不要な準位に対してキャリアが遷移するのが防止され、駆動時におけるキャリア再結合電流を抑制し、良好な少数キャリアの注入可能な構造とする。その結果、比較的高効率で発光に寄与するキャリアの移動が促進され、電流電圧特性が改善されて良好な特性を有する半導体素子を実現できる。
【0015】
また、上記構成を有する本発明の一態様の半導体素子を、比較的低温で形成されるp型半導体層を用いてn型半導体層にホ−ル注入する構成に適用すれば、良好なホール注入特性を期待することが可能である。
また、このような半導体素子は、n型半導体層とp型半導体層とをそれぞれ別々に成膜した後、スペーサを介して接合することができるため、p型半導体層を成膜する際の熱によってn型半導体層がダメージを受けるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1に係る半導体素子1の構造を示す模式図である。
【図2】実施例と比較例の半導体素子についての電流−電圧特性を示す図である。
【図3】実施例と比較例の半導体素子についての発光強度の電圧依存性を示す図である。
【図4】本発明における半導体素子のホール注入機構を示した図である。
【図5】本発明における半導体素子の整流特性を説明するための図である。
【図6】本発明におけるギャップの効果を説明するための図である。
【図7】従来の半導体素子の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<発明の態様>
本発明の一態様である発光素子は、n型半導体層と、前記n型半導体層の表面に対し、局所的に形成されたスペーサと、前記スペーサの上面に積層されたp型半導体層とを有し、前記スペーサを介して前記n型半導体層と前記p型半導体層が接合されることで、前記両半導体層の間にギャップが形成されている半導体素子とする。
【0018】
ここで本発明の別の態様として、前記スペーサは、n型半導体層の表面に対して複数にわたり形成することもできる。
また本発明の別の態様として、前記n型半導体層を発光材料とすることもできる。
この場合、本発明の別の態様として、前記n型半導体層はZnOとすることもできる。
また、本発明の別の態様として、前記スペーサはMgO薄膜で構成することもできる。
【0019】
また、本発明の一態様である半導体素子の製造方法は、第1基板の表面に、第1電極と、n型半導体層を順次積層形成する第1ステップと、第2基板の表面に、透明電極と、p型半導体層を順次積層形成する第2ステップと、前記n型半導体層もしくは前記p型半導体層のいずれかの表面に、局所的にスペーサを形成する第3ステップと、前記スペーサを介して前記n型半導体層と前記p型半導体層を接合し、前記両半導体層の間にギャップを存在させる第4ステップとを順次経るものとする。
【0020】
ここで本発明の別の態様として、前記n型半導体層としてZnO層を形成することもできる。
また本発明の別の態様では、前記スペーサとして、MgO薄膜を形成することもできる。
以下、本発明を実施するための一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
<p型半導体材料について>
本発明者は、詳細な鋭意検討を行った結果、n型半導体層を形成した基板と、前記n型半導体層にホール注入するためのp型半導体層を形成した基板とを用い、ギャップを介して前記n型半導体層と前記p型半導体層とを接合することで、n型半導体層に対して効率的にp型半導体層からホールを注入できることを見出した。
【0021】
具体的には、電子濃度が1×1020cm−3程度のn型半導体層から、1×1017cm−3程度のやや高抵抗なn型半導体層は、従来であればpn接合の作製が困難であったが、本願発明者らはこれらのn型半導体層の表面に島状やストライプ状等に形成したMgO薄膜からなるスペーサを介し、ギャップを挟んでn型半導体層とp型半導体層とを接合するとともに、良好な特性を持つ電流注入型の発光素子(半導体素子)を実現できることを見出したものである。
【0022】
ここで発光素子の発光波長は、n型半導体層のバンドギャップによって決まる。例えばn型半導体層に酸化亜鉛(ZnO)を用いた場合は、近紫外に発光する発光素子となる。
また、n型半導体層とp型半導体層との間のギャップの間隔としては最適な値が存在する。
<実施の形態1>
図1(a)に本発明の実施の形態1に係る半導体素子1の構造例を示す。
【0023】
半導体層素子1は、基板10の表面に下部電極2、n型半導体層3を積層し、その上にスペーサ6を局所的に複数にわたり形成する。スペーサ6の上にはp型半導体層4を形成し、スペーサ6を介してn型半導体層3とp型半導体層4とを接合している。このスペーサ6の介在により、n型半導体層3とp型半導体層4の間にはギャップspが確保されている。p型半導体層4の上には上部電極(透明電極)5、第2基板10‘を順次積層する。
【0024】
一例として、n型半導体層3は、厚み2〜4μm程度のn型ZnO層で構成できる。一方、p型半導体層4は、厚み200nm〜400nm程度のZnNiO材料で構成できる。下部電極2、上部電極5は、いずれも厚み100nm程度のITOで構成できる。基板10、10‘はいずれも厚み0.5mm程度のガラス基板を利用可能である。
半導体素子1は上方に発光するため、上部電極5と第2基板10‘はともに透明に形成する必要がある。
【0025】
図1(b)に、n型半導体層3の表面に配置されたスペーサ6の様子を示す。スペーサ6は、ここでは円柱型としているが、角柱やコーン型、球体等、形態を限定しない。また、一定の長さを有するリブとして形成することも可能である。
n型半導体層3の表面に形成するスペーサ6の数は特に限定されないが、発光効率を考慮すると、あまり高密度に配設するのを避け、例えばn型半導体層3の表面の数%を占める程度に形成することが望ましい。
【0026】
なお、ギャップspに含まれる気体としては、特に限定されないので、例えばエアーギャップspとすることができる。
半導体素子1の製造方法を例示する。
まず、基板10の片面に下部電極2、n型半導体層3を順次形成する。その後、n型半導体層3の表面にマスクを介して蒸着法によりMgO薄膜を形成し、スペーサ6とする。
【0027】
一方、基板10‘の片面にITOからなる透明電極を成膜し、上部電極5とする。この上面にp型半導体層4を形成する。
その後、p型半導体層4とn型半導体層3とを対向させ、スペーサ6を介して両半導体層3、4を接合する。なお、スペーサ6は先にp型半導体層4の表面に形成してもよい。
このようにn型半導体層3とp型半導体層4とを別々に形成することで、たとえp型半導体層を比較的高温で熱処理しても、熱的ダメージがn型半導体層3に及ぶのを効果的に防止できる。また、良好な結晶構造を有するn型半導体層3とp型半導体層4とをスペーサ6を介して良好に接合できる。
【0028】
以上の構成を有する半導体素子1では、駆動時にはp型半導体層4からのホールとn型半導体層3からの電子が、主としてn型半導体層3の表面において再結合し、発光する。このとき、ギャップspの存在により、前記電子及び前記ホールがn型半導体層3及びp型半導体層4中の各禁制帯において遷移するのが防止されるため、良好なキャリア注入が実現される。半導体素子1は、このように優れた発光効率で駆動される。特に、n型半導体層3をZnO、p型半導体層4をZnNiOで構成する場合は、ホール注入特性が良好に発揮され、発光効率の向上に貢献することができる。
<性能確認試験>
図2に比較検討した各種半導体素子の電流電圧特性を示す。縦軸は電流(A/cm)、横軸は電圧(V)としている。
【0029】
図中、「A」は、低抵抗なn型半導体を用い、p型半導体層として600℃以下の低温プロセスで成膜した従来構造の半導体素子の電流電圧特性である。「B」はAと同様のn型半導体層に対し、別基板に上記と同様の低温プロセスで成膜したp型半導体層を直接接合してなる半導体素子の電流電圧特性である。「C」と「D」は、「B」の素子構造においてn型半導体層とp型半導体層の間にスペーサを局所的に配設し、両半導体層を接合してなる半導体素子の電流特性である。このうち「C」はギャップの高さが15nm、「D」はギャップの高さが30nmである。
【0030】
図2のAから明らかなように、低抵抗n半導体層と、低温プロセスp型半導体層を用いた場合では整流特性が得られず、n型半導体層とp型半導体層との接合界面での再結合電流のみが観測されている。
またB、C、Dを比較すると、本発明のp型材料は、直接ギャップを介さずに直接接合した場合、Bに示すように正負のバイアス電圧に対してわずかに非対称性を示す電流電圧特性となった。一方、ギャップを介すると電流電圧特性は改善が見られ、ギャップが15nmの場合(C)、さらに30nmの場合(D)と増加させるにつれて電流電圧特性が良好な状態となることが分かる。
【0031】
なお発明者らの実験により、Dの場合よりも大きなギャップ(30nmを超える高さ)を設けても良好な整流特性は得られるが、順方向のバイアス電圧(正バイアス)時の電流が指数関数的に低下する。このため、p型半導体層として用いるには不都合である。
以上の結果を考慮すると、ギャップは設けるだけで一応の効果は得られるが、実験により少なくともギャップが15nm以上であれば良好な結果が得られる。その上限としては30nm以下とするのが、半導体素子を構成する上で妥当であると言える。
【0032】
続いて図3に、図2のB、C、Dにおける半導体素子への順方向バイアス電圧に対する発光強度を示す。なお、Aの従来構造の半導体素子の発光は微弱すぎて発光を観測することができなかった。
図3に示す発光特性の結果から、n型半導体層とp型半導体層とを前記ギャップを介して接合することで、低抵抗n型半導体層に低温プロセスで形成されたギャップ準位を持ったp型半導体層を用いてホール注入を行えることが検証できた。この実験では、Dのギャップが30nmの構造においてより低電圧で発光強度も大きく最適であった。
【0033】
次に、n型ZnOとp型半導体層間のギャップ(厚みd)の果たすメカニズムを説明する。図4は順方向バイアスの場合、図5は逆方向バイアスの場合をそれぞれ示す。
図4(a)と図5の(a)は、n型半導体層であるZnO層とp型半導体層の素子形成前のエネルギー状態を示す。図4(b)と図5(b)は、本発明のギャップを設けた接合の場合のエネルギー状態、図4(c)と図5(c)は、従来構造のn型半導体層とp型半導体層を直接接合した場合のエネルギー状態をそれぞれ示す。
【0034】
図4(a)のエネルギー状態を持つn型半導体とp型半導体が適当な間隔dのギャップを介して接合され、順バイアスされると、図4(b)のようにn型半導体層の伝導帯に存在している電子がp型半導体層の伝導帯に、p型半導体の価電子帯に存在しているホールがn型半導体層の価電子帯に量子力学的トンネリングによって遷移することが可能である。その結果、両半導体層に少数キャリアが注入される。本発明のようにn型半導体層を活性層とする場合には、上記のような少数キャリア(ホール)の注入によって活性層内で効率的発光を生じることになる。
【0035】
一方、従来構造の順バイアスの場合は、図4(c)に示されているように接合界面に存在するエネルギーギャップ内再結合センターを通じて、n型半導体層からの電子とp型半導体層からのホールが再結合するメカニズムが支配的となる。このため発光はほとんど生じない。
本発明の構造を有し、図4(b)に示すように少数キャリア注入が生じる場合、逆バイアスを印加すると、図5(b)に示すようにn型半導体層の伝導帯に存在している電子およびp型半導体の価電子帯に存在しているホールが遷移すべき状態が存在しなくなり、量子力学的トンネリングが生じない。この現象から、図2のDで得られたような電流電圧特性における整流特性を説明できる。
【0036】
同様に従来構造の場合、図5(c)に示したように順バイアス時と同様に再結合電流が支配し、整流特性を示さない。
ここで、本発明の構造をより優れたものにするためには、ギャップの間隔dを最適化する必要がある。本発明の少数キャリア注入メカニズムが量子力学トンネリングで生じていることから、本質的にはギャップの間隔dは狭ければ狭いほど低電圧で多くの少数キャリア注入が期待できる。しかし、図3に示した発光強度の結果からDの構造が好適であることが示されており、ギャップの間隔には最適な値が存在する。
【0037】
そのメカニズムに関して図6に示す。n型の半導体層が単結晶ではなく、多結晶薄膜や粉体材料などからなる場合には、禁制帯中に電子によって占有されたギャップ準位(図6(a)中の「α」)が存在する。同様に、本発明の低温プロセスで作製されたp型半導体層も、禁制帯中に電子によって占有されていない(ホールによって占有された)ギャップ準位(図6(a)中の「β」)が存在する。
【0038】
従って図6(a)に示す本発明の半導体素子に順バイアスを印加した場合、p型半導体層のホールはn型半導体層の価電子帯への遷移(1)とn型半導体層のAへの遷移(2)がある。また、n型半導体層からは電子のp型半導体層の伝導子帯への遷移(3)とn型半導体層のBへの遷移(4)がある。半導体素子において優れたデバイス性能を得るためには、遷移(2)及び(4)を低減させる必要があり、そのために図6(a)中のαやβの状態密度を低減することが本質的に必要と言える。しかしながら実際に用いる多結晶薄膜や粉体材料などからなる材料系において、このような準位を低減することは困難である。
【0039】
そこで本願発明者らは、n型半導体層とp型半導体層とをスペーサを介して接合し、両半導体層間にギャップを設けることによって、遷移(2)及び(4)を低減できることを見出したものである。α、βのエネルギー状態は、半導体層中に存在する局在したエネルギー準位であるため波動関数の空間的広がりがない。そのためn型半導体層とp型半導体層にギャップを設けることで、エネルギー状態αは、p型半導体層のホールと相互作用できなくなる。同様にエネルギー状態βは、n型半導体層の電子と相互作用できなくなる。一方、p型半導体層のホールやn型半導体層の伝導帯に存在する電子は、局在準位α、βに比べて空間的に広がった波動関数を持ち、且つ、外部からのバイアス電圧による分極の効果が重畳される。このためn型半導体層とp型半導体層に50〜60nm程度のギャップを設けても相互作用が可能であり、遷移(1)や(3)が期待できる。このように本発明の構造の本質は、遷移(1)と(3)が可能であり、遷移(2)と遷移(4)が生じないギャップを設けることができることを見出したことである。
【0040】
本発明のコンセプトを表す図2において、ギャップがほとんどない場合(図2(2))、ギャップが15nmの場合(図2(3))では十分な発光特性が得られていない。これは図6に示した遷移(2)や遷移(4)がギャップによって充分抑制できていないためである。これに対し、ギャップが30nm(図2(4))の場合は、図6に示した遷移(1)が生じているが遷移(2)や遷移(4)が30nmのギャップを設けることで抑制できている。その結果、図3に示されているように低電圧で効率的に発光する半導体素子が実現可能になっている。
【0041】
なお、n型半導体層やp型半導体層に図6(a)に示すギャップ準位α、βが低減できると、図6(b)に示すようにギャップの間隔を狭くすることができ、一層低電圧で、且つ、さらにより効率的にホール注入が可能となる。その結果、本発明の半導体素子の発光特性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明にかかる半導体素子は、ディスプレイ、照明などの幅広い分野に応用することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
sp ギャップ
1 半導体素子
2 下部電極層
3 n型半導体層(ZnO)層
4 p型半導体層
5 透明電極層
6 スペーサ(MgO薄膜)
10 第1基板
10‘ 第2基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型半導体層と、
前記n型半導体層の表面に対し、局所的に形成されたスペーサと、
前記スペーサの上面に積層されたp型半導体層とを有し、
前記スペーサを介して前記n型半導体層と前記p型半導体層が接合されることで、前記両半導体層の間にギャップが形成されている
半導体素子。
【請求項2】
前記スペーサは、n型半導体層の表面に対して複数にわたり形成されている
請求項1に記載の半導体素子。
【請求項3】
前記n型半導体層が発光材料である請求項1に記載の半導体素子。
【請求項4】
前記n型半導体層はZnOである
請求項1〜3のいずれかに記載の半導体素子。
【請求項5】
前記スペーサはMgO薄膜からなる
請求項1〜4のいずれかに記載の半導体素子。
【請求項6】
第1基板の表面に、第1電極と、n型半導体層を順次積層形成する第1ステップと、
第2基板の表面に、透明電極と、p型半導体層を順次積層形成する第2ステップと、
前記n型半導体層もしくは前記p型半導体層のいずれかの表面に、局所的にスペーサを形成する第3ステップと、
前記スペーサを介して前記n型半導体層と前記p型半導体層を接合し、前記両半導体層の間にギャップを存在させる第4ステップと
を順次経ることを特徴とする、半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記n型半導体層としてZnO層を形成する
請求項6に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記スペーサとして、MgO薄膜を形成する
請求項6または7に記載の半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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