説明

半導体薄膜パターンの製造方法、半導体薄膜パターンおよび結晶性半導体薄膜パターン

【課題】従来の気相成長法とは異なる、固液界面へのレーザー光照射による液相成長反応に基づく半導体薄膜パターンの製造方法、半導体薄膜パターンおよび結晶性半導体薄膜パターンを提供する。
【解決手段】レーザー光照射時において液体状の半導体原料を用い、連続発振(CW)レーザーあるいはパルス発振レーザーを光源として、レーザー光の波長の光に吸収を有する固体基板を用いる場合には、液体原料側から固体基板と液体状原料との固液界面にレーザー光を合焦し照射することにより、また、透明性の高い固体基板を用いる場合には、固体基板側から固液界面にレーザー光を合焦し照射することにより、半導体薄膜パターンの形成を行う。固体基板の種類、レーザー光照射条件の制御によって、結晶化を同時に行い、結晶性の半導体薄膜パターンの形成を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体薄膜パターンの製造方法、半導体薄膜パターンおよび結晶性半導体薄膜パターンに関するものである。本発明は、液相におけるシリコンやゲルマニウム等の半導体薄膜パターンの形成を、半導体薄膜の原料となる反応基質を含む溶液中に固体基板を浸漬し、固体基板の表面または固体基板と溶液の界面に、合焦したレーザー光を照射し走査することにより行う技術に関するものである。この手法は、従来のCVD(Chemical Vapor Deposition)法やプラズマCVD法等の気相法に比べて、反応基質濃度が高い液相凝縮系での反応であるため、薄膜形成速度を飛躍的に上げることが可能であるという特徴を有している。これによって、従来の気相法における製膜速度の問題を解決することが可能な手法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エネルギー環境問題の顕在化から、現在太陽電池の普及が希求されているが、それに伴い結晶系の太陽電池においては、シリコン基板材料の需要供給の関係からの価格や資源の問題、また、薄膜系の太陽電池においては、気相のガスからの薄膜形成に由来する製膜速度と装置コストの問題が起こっている(例えば、特許文献1、非特許文献1、2参照)。
【0003】
太陽電池の省資源化やコストを考えた場合、薄膜系の太陽電池が有利であると考えられる。薄膜系太陽電池用の半導体薄膜を形成する手法としては、CVD法が従来技術として用いられている(例えば、特許文献1、2、3、4、5、6、7、非特許文献1参照)。
【0004】
CVD法は、金属水素化物や金属塩化物などのような化合物ガスの化学反応を利用し、薄膜を基板に堆積させる方法である。シリコン系半導体薄膜の形成においては、シラン(SiH)ガスや水素ガスで希釈したシラン(SiH)や四塩化シリコン(SiCl)のガス等が用いられている。反応のためのエネルギーには、熱、プラズマ(高周波、ECR)等が利用される(例えば、特許文献1、2、3、4、5、6、7、非特許文献1参照)。
【0005】
上記の薄膜形成法は、ガス状の半導体薄膜用の原料を用いた気相成長反応に基づくものとなっている。気相反応であることから、真空反応装置やプラズマ装置を必要としている(例えば、特許文献1、2、3、4、5、6、7参照)。
【0006】
また、上記の方法は、気相成長法であるため製膜速度に問題を有しており、その向上が求められている。アモルファスシリコン(a−Si)の製膜速度は、工業レベルでは0.3から0.5nm/s前後、微結晶シリコン(μc−Si)の製膜速度は、0.5nm/s前後である。薄膜形成速度を上げるためには、気相法においてはガス濃度を上げればよいが、標準的な手法となっているプラズマCVD法では、プラズマ形成条件が必要とされるため、高濃度化には限度がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
高濃度のシランガスを用いた気相成長法としては、高濃度のガス中に炭酸ガスレーザー等の赤外線レーザーを照射し、それによる熱反応によってシリコン半導体薄膜を高速で基板上に堆積する技術が、Nanogram社によって、Laser Reactive Deposition(LRD)プロセスとして検討されている(例えば、特許文献8、非特許文献3、4参照)。
【0008】
さらに高濃度の半導体原料を用いて高効率で半導体薄膜を形成するためには、液相成長反応であることが必要とされるが、シリコンやゲルマニウム等の太陽電池用材料の半導体薄膜を液相成長反応で固体基板上に形成できる方法は、これまでに開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平07−230960号公報
【特許文献2】特開2009−057636号公報
【特許文献3】特開2004−266111号公報
【特許文献4】特開2002−164290号公報
【特許文献5】特開2001−332503号公報
【特許文献7】特開平06−168886号公報
【特許文献8】米国特許第5958348号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】寺川朗、「プラズマCVD法による薄膜シリコン太陽電池の工業化に向けて」、J. Plasma Fusion Res.、2010年、Vol.86、No.1、p.17-20
【非特許文献2】奈須野 善之、「「低炭素社会」の実現をめざして 薄膜太陽電池の生産拡大 発電コスト低減への挑戦」、シャープ環境・社会報告、2008年、p.12
【非特許文献3】X. Bi, R. Mosso, S. Chiruvolu, E. Euvrard, M. Bryan, andT. Jenks, “High throughput planar glass coatingusing laser reactive deposition (LRD)”, APOC proceeding, SPIE,Beijing, China, 2001年11月, p.11-15
【非特許文献4】X. Bi, S. Kumar, C. Horne, B. Chaloner-Gil, and R. Mosso,“Synthesis of nanoscale opticalmaterials using nanoparticle manufacturing (NPM) technology”, APOC proceeding, SPIE, Beijing, China, 2001年11月, p.11-15
【非特許文献5】A. Watanabe, M. Unno, F. Hojo, T. Miwa, “Preparation of Germanium Thin Film by a Coating TechniqueUsing a Soluble Organogermanium Cluster as a Precursor", J. Materials Sci.Lett., 2001年, 20, p.491-493
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、気相成長反応に基づく従来法では、真空反応装置系を必要とすることによる装置コスト、プラズマ反応を必要とすることによるエネルギー・環境負荷の高さ、ガス濃度の高濃度化の限度による製膜速度の低さといった、現在の太陽電池の普及に求められている低コスト化や高効率反応化において、改善すべき課題があった。
【0012】
本発明は、上記の問題を解決するものであり、その目的とするところは、従来の気相成長法とは異なる、固液界面での液相成長反応に基づく高効率な半導体薄膜パターンの製造方法、半導体薄膜パターンおよび結晶性半導体薄膜パターンを提供することにある。これによって、従来法では困難であった、半導体薄膜形成の供給量やコストを改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係る半導体薄膜パターンの製造方法は、固体基板上に半導体薄膜パターンを形成する方法において、半導体薄膜の原料となる反応基質を含む溶液中に前記固体基板を浸漬し、前記固体基板の表面または前記固体基板と前記溶液の界面に、合焦したレーザー光を照射することを、特徴とする。
【0014】
本発明に係る半導体薄膜パターンは、固体基板上に形成された半導体薄膜パターンであって、半導体薄膜の原料となる反応基質を含む溶液中に前記固体基板を浸漬し、前記固体基板の表面または前記固体基板と前記溶液の界面に、合焦したレーザー光を照射することで、前記反応基質を半導体化させて形成されていることを、特徴とする。
【0015】
本発明に係る半導体薄膜パターンの製造方法は、固体基板上に半導体薄膜パターンを形成する方法において、半導体薄膜の原料となる反応基質を含む溶液中に前記固体基板を浸漬し、前記固体基板の表面または前記固体基板と前記溶液の界面に、合焦したレーザー光を照射し、半導体薄膜パターンの形成と結晶化とを同時に行ってもよい。
【0016】
本発明に係る結晶性半導体薄膜パターンは、固体基板上に形成された結晶性半導体薄膜パターンであって、半導体薄膜の原料となる反応基質を含む溶液中に前記固体基板を浸漬し、前記固体基板の表面または前記固体基板と前記溶液の界面に、合焦したレーザー光を照射することで、前記反応基質を半導体化および結晶化させて形成されていることを、特徴とする。
【0017】
本発明に係る半導体薄膜パターンの製造方法で、前記固体基板は、前記反応基質と反応性を有する金属基板あるいは金属薄膜を表面に形成した固体基板であることが好ましい。また、本発明に係る半導体薄膜パターンの製造方法で、前記固体基板はレーザー光透過率が高く、前記溶液中に前記固体基板を浸漬し、前記固体基板を透過して、合焦したレーザー光を照射してもよい。
【0018】
本発明に係る半導体薄膜パターンの製造方法は、従来の気相成長法ではなく、原料濃度が著しく高い、液相でのレーザー光照射による半導体薄膜形成法であることを、特徴とする。
【0019】
半導体薄膜の原料は、レーザー光照射時において液体状であることを、特徴とする。本研究に用い得る原料は、レーザー光照射条件で液体状のものであれば特に限定されない。固体状の原料であっても、溶媒に可溶であれば用いることができる。
【0020】
本発明で用い得るレーザー光源としては、紫外域から赤外域にかけての発振波長を有するものを用いることができる。また、レーザー光源としては、連続発振(CW)レーザーやパルス発振レーザーを適用することができる。
【0021】
本発明において用いられる半導体薄膜形成用の液体状原料として重要な、四塩化シリコン(SiCl)や四塩化ゲルマニウム(GeCl)は、波長が200nmより短い真空紫外域にしか吸収を有さない。その波長域はガラス窓材として汎用的に使われる石英より短波長側であり、また、工業的に安価に利用が可能な可視レーザー光の波長の光は、それら液体状原料に吸収されず、化学反応を誘起することができない。本発明は、レーザー光の波長に吸収を有する固体基板を用い、固体基板と液体状原料との固液界面において、レーザー光照射によって誘起される化学反応を利用した半導体薄膜形成法であることを、特徴とする。本発明において、レーザー光は、液体状原料を挟んで保持した透明窓板と固体基板からなる反応容器とを用いて、透明窓板側から照射され、固体基板と液体状原料との固液界面に合焦し照射される。
【0022】
本発明に係る半導体薄膜パターンの製造方法では、固体基板の種類、照射するレーザー光の波長、パワー密度、連続発振(CW)レーザーあるいはパルス発振レーザーかといった照射形態によって、固液界面における液体状原料の化学反応を制御することができることを特徴としている。
【0023】
本発明において、照射するレーザー光の波長において、固体基板の透過性が高い場合には、レーザー光を固体基板側から、固体基板と液体状原料との固液界面に合焦し照射することより、薄膜形成を行うことができることを特徴としている。この場合には、レーザー光の発振波長に対して吸収を有するように、液体状原料に添加剤を加えることが有効である。
【0024】
本発明に係る半導体薄膜パターンの製造方法においては、レーザー光を照射した部分に空間選択的に半導体薄膜パターンを形成することができることを特徴としている。
【0025】
本発明に係る半導体薄膜パターンの製造方法は、固体基板の種類、照射するレーザー光の波長、パワー密度、連続発振レーザーあるいはパルス発振レーザーといった照射形態の制御によって、半導体薄膜の結晶化を同時に行いながら、結晶性の半導体薄膜パターンを形成できることを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る半導体薄膜パターンの製造方法は、液体状の原料を用いた液相でのレーザー光照射による半導体薄膜形成法であり、これまで標準的な手法として用いられてきた気相成長法に比べて原料の濃度を著しく高くすることができ、従来の気相成長法で課題となっていた製膜速度の改善に好適な手法を提供することができる。また、レーザー光照射部に空間選択的に半導体薄膜パターンが形成され、レーザー光照射条件によっては一段階で結晶性の半導体薄膜を得ることができ、半導体薄膜形成の効率化に好適な手法を提供することができる。本発明に係る半導体薄膜パターンの製造方法、半導体薄膜パターンおよび結晶性半導体薄膜パターンは、太陽電池用半導体薄膜や、それ以外にも種々の光電子デバイスへ応用することができる。例えば、薄膜トランジスタ、フォトトランジスタ、光導波路等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態の半導体薄膜パターンの製造方法の、固液界面へのレーザー光照射による半導体薄膜パターン形成を行うための装置および光学系を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態の半導体薄膜パターンの製造方法の、パルス発振DPSSレーザーを用いてMg固体基板上に形成したゲルマニウムパターンの光学顕微鏡写真、および、その顕微ラマンスペクトルを示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態の半導体薄膜パターンの製造方法の、パルス発振DPSSレーザーを用いてMg固体基板上に形成したゲルマニウムパターンを、3Dレーザー顕微鏡で観察して得たGeパターン断面のプロファイルを示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態の半導体薄膜パターンの製造方法の、パルス発振DPSSレーザーを用いてMg固体基板状に形成したシリコンパターンの顕微ラマンスペクトルを示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態の半導体薄膜パターンの製造方法の、連続発振(CW)DPSSレーザーを用いてZnを電気メッキしたITO透明導電性ガラス基板状に形成したゲルマニウムパターンの光学顕微鏡写真、および、その顕微ラマンスペクトルを示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態の半導体薄膜パターンの製造方法の、連続発振(CW)DPSSレーザーを用いてZnを電気メッキしたITO透明電極固体基板状に形成したシリコンパターンの顕微ラマンスペクトルを示すグラフである。
【図7】本発明の実施の形態の半導体薄膜パターンの製造方法の、固液界面へのレーザー光照射による半導体薄膜パターン形成を行うための装置および光学系を示す模式図である。
【図8】本発明の実施の形態の半導体薄膜パターンの製造方法の、連続発振(CW)DPSSレーザーを用いてFTO透明導電性ガラス基板上に形成したゲルマニウムパターンの顕微ラマンスペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、固体基板と液体状原料との固液界面において合焦し照射されたレーザー光が効果的に吸収されることにより発生するエネルギーによって、液体状原料の化学反応を誘起し、空間選択的に半導体薄膜を固体基板上に形成し、さらにレーザー照射条件の制御によって一段階で結晶性の半導体薄膜を形成することを骨子とする。
【0029】
本発明に用い得る原料は、レーザー光照射時に液体状のものであれば特に限定されない。このような原料として好ましいのは、シリコンのハロゲン化物、ゲルマニウムのハロゲン化物、有機基で置換されたシリコンのハロゲン化物、有機基で置換されたゲルマニウムのハロゲン化物、水素で置換されたシリコンのハロゲン化物、水素で置換されたゲルマニウムのハロゲン化物、及びそれらの混合物である。それらは固体状のものであっても、有機溶媒を用いて溶解することによって用いることができる。
【0030】
シリコンのハロゲン化物としては、四塩化ケイ素(SiCl)、水素で置換されたシリコンのハロゲン化物としては、トリクロロシラン(SiHCl)等、有機基で置換されたシリコンのハロゲン化物の例としては、飽和脂肪族基、不飽和脂肪族基、あるいは芳香族基で一置換されたトリクロロシラン類、飽和脂肪族基、不飽和脂肪族基、あるいは芳香族基で二置換されたジクロロシラン類等、が挙げられる。ゲルマニウムのハロゲン化物としては、四塩化ゲルマニウム(GeCl)、水素で置換されたゲルマニウムのハロゲン化物としてはトリクロロゲルマン(GeHCl)等、有機基で置換されたゲルマニウムのハロゲン化物の例としては、飽和脂肪族基、不飽和脂肪族基、あるいは芳香族基で一置換されたトリクロロゲルマン類、飽和脂肪族基、不飽和脂肪族基、あるいは芳香族基で二置換されたジクロロゲルマン類等、が挙げられる。
【0031】
本発明に用い得るレーザー光源は、照射する波長やパワー密度を考慮して適宜選択される。具体例として、連続発振(CW)ダイオード励起固体(DPSS)レーザーで、457、473、488、532、561、660、あるいは1064nmの発振波長を有するもの、パルス発振レーザーで、266、355、532、あるいは1064nmの発振波長を有するもの、325および442nmの発振波長を有するHe−Cdレーザー、488および514.5nmの発振波長を有するArイオンレーザー、800nmの発振波長を有するチタンサファイアレーザー、408、442、473、638、658、780、あるいは830nmの発振波長を有する半導体レーザー等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0032】
本発明において、液体状原料を挟んで保持した透明窓板と固体基板とからなる反応容器を用いて、透明窓板側からレーザー照射される場合には、照射するレーザー光は、液体状原料が吸収を持たない波長のものであることが好ましい。これは、液体状原料によってレーザー光が吸収されることによって、固体基板へ照射されるレーザー光のパワー密度が減少し、固液界面で誘起される化学反応が阻害されることを防ぐためである。
【0033】
透明窓板側からレーザー光が照射され、液体状原料が吸収を持たない波長のレーザー光源を用いる場合、固液界面に合焦したレーザー光は固体基板により吸収される。固体基板のレーザー光が合焦し照射された領域では、レーザー光の吸収によって局所的な発熱が起こり、液体状原料の熱分解反応と半導体薄膜の形成とが起こる。固体基板が、レーザー光照射下で、液体状原料と化学反応を起し得るものである場合、半導体薄膜の形成はより効果的に起こる。そのような固体基板の具体例としては、亜鉛基板、マグネシウム基板等が挙げられるが、用い得る固体基板はそれらの金属に限定されるものではない。
【0034】
液体状原料と化学反応を起し得る固体基板は、純金属基板である必要はなく、ガラス等の固体基板に、亜鉛やマグネシウム等の金属の薄膜を形成したものであってもよい。
【0035】
本発明において、固体基板の透過性が高い場合には、レーザー光を固体基板側から固液界面に合焦し照射することによって、固体基板と液体状原料との固液界面に薄膜形成を行うことができる。
【0036】
本発明において、固体基板の透過性が高く、レーザー光が固体基板側から照射される場合には、照射するレーザー光は、液体状原料が吸収を持つ波長のものであることが好ましい。これは、透明固体基板と液体状原料との固液界面におけるレーザー光の吸収を高め、固液界面で誘起される化学反応を促進するためである。
【0037】
本発明において、固体基板が透明であり、液体状原料を挟んで保持した透明窓板と固体基板とからなる反応容器において、レーザー光が固体基板側から照射される場合に、液体状原料がレーザー光を効果的に吸収するために、液体状原料と錯体を形成するような化合物を添加することができる。添加する化合物の具体例としては、シリコンやゲルマニウムの場合には、ケトンおよびジケトン構造を有する化合物が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0038】
固体基板と液体状原料との固液界面にレーザー光が合焦し照射され、液体状原料の化学反応が誘起される場合、副生成物のガスが発生する場合がある。レーザー照射部位における気泡の発生は、固液界面への均一なレーザー光照射を阻害する場合があるため好ましくない。その対処法としては、間欠的にレーザー光を照射し、レーザー光照射部から発生した気泡を除去しながらレーザー光を照射する手法が効果的である。
【0039】
実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の調製例や実施例に限定されるものではない。なお、実施例で用いた実験装置は以下の通りである。
[連続発振(CW)ダイオード励起固体(DPSS)レーザー光源]
・機種1:Laser Quantum社、Ventus532(532nm、500mW)
・機種2:CNI社、MGL−H−532−1W(532nm、1.18W、TEM00モード)
[パルス発振ダイオード励起固体(DPSS)レーザー光源]
・機種:CNI社、MPL−H−532−30μJ(532nm、34μJ、パルス幅10ns、発振周波数8KHz、平均パワー275mW)
[光学顕微鏡]
・機種:オリンパス社 BX51
・対物レンズ:SLMPlan20x(N.A.0.35)、SLMPlan50x(N.A.0.45)、UMMPlan100x(N.A.0.95)
[CCDカメラ]
・機種:Watec社、WAT231S2
[xyz自動ステージ]
・機種:シグマ光機社、TSDM60−20、SPSD60−10ZF
[ステージコントローラー]
・機種:シグマ光機社、SHOT−204MS
[電磁シャッター]
・機種:シグマ光機社、SSH−R
[シャッターコントローラー]
・機種:シグマ光機社、SSH−CB4
[顕微ラマン分光装置]
・レーザー光源:連続発振(CW)ダイオード励起固体(DPSS)レーザー、Laser Quantum社、Ventus532(532nm、500mW)
・分光器:ORIEL社、77385
・冷却型CCDカメラ:Apogee社、AP260EP
[レーザー顕微鏡]
・機種:キーエンス社、カラー3Dレーザー顕微鏡 VK−9700
【実施例1】
【0040】
図1には、本発明の実施の形態の固液界面へのレーザー光照射による半導体薄膜パターン形成を行うための装置及び光学系を、模式的に示す。レーザー光源としては、連続発振(CW)ダイオード励起固体(DPSS)レーザー、あるいはパルス発振ダイオード励起固体(DPSS)レーザーを用いた。光学顕微鏡11に導入したレーザー光を、対物レンズ12で集光し、透明ガラス窓13、液体状原料14を透過して固体基板15上に合焦するよう照射する。固体基板15上のレーザー光の照射位置を、コンピューター16で制御したxyzステージ17で走査することによって、半導体薄膜パターンの描画をおこなう。レーザー光のオンオフは、コンピューター制御の電磁シャッター18で行う。光学顕微鏡11に接続したCCDカメラ19によって、固体基板15上に形成した半導体薄膜パターンを観察した。液体状原料14は、テフロン(登録商標)容器20内で、透明ガラス窓13とフッ素系ゴムパッキング21とで、外気中の湿気や酸素の影響を受けないように保持されている。原料の供給法としては、バッチ方式および流通方式を適用できる。
【0041】
図1に示す装置において、液体状原料14として四塩化ゲルマニウム(GeCl)を用い、レーザー光源として、パルス発振DPSSレーザー(532nm、34μJ、パルス幅10ns、発振周波数8KHz、平均パワー275mW)を用い、減光フィルターを用いて3%にパワーを落とし、対物レンズ(20x)12を通してレーザー光を集光し,固液界面に合焦するよう走査することによって、Mg基板15上にゲルマニウム薄膜のパターンを形成した。レーザー光のスキャン速度は、500μm/sであった。得られたゲルマニウム薄膜のパターンの光学顕微鏡写真を、図2に示す。顕微ラマンスペクトルの測定を行ったところ、図2のような多結晶ゲルマニウムに帰属されるシャープなラマンスペクトルが302cm−1に観測された。
【0042】
Mgは、液相における加熱によって、グリニャール反応により四塩化ゲルマニウム(GeCl)を縮合させ、Ge−Ge結合を形成することが本発明者によって以前に報告されている(非特許文献5)。Mg固体基板によるレーザー光の吸収によって、局所的な加熱が起こり、その発熱によってMgと四塩化ゲルマニウム(GeCl)との化学反応が誘起されることによって、ゲルマニウム薄膜が形成されると解釈できる。
【0043】
[比較例1]
図1に示す装置において、液体状原料14として四塩化ゲルマニウム(GeCl)を用い、レーザー光源として、パルス発振DPSSレーザー(532nm、34μJ、パルス幅10ns、発振周波数8KHz、平均パワー275mW)を用い、減光フィルターを用いて3%にパワーを落とし、対物レンズ(20x)12を通して、ガラス基板15上にレーザー光を合焦して照射し走査したが、ゲルマニウム薄膜パターンの形成は観測されなかった。減光フィルターを変えることによって、種々のパワーのレーザー光に対して同様な実験を行ったが、やはりゲルマニウム薄膜パターンの形成は観測されなかった。これは、ガラス基板が、532nmのレーザー光を吸収せず、液体状原料14の四塩化ゲルマニウム(GeCl)の分解反応を誘起しないためである。
【0044】
上記で形成したゲルマニウム薄膜パターンの膜厚を、三次元(3D)レーザー顕微鏡を用いることによって測定した。図3は、3Dレーザー顕微鏡を用いて測定した、ゲルマニウム薄膜パターンの断面のプロファイルである。2.5μm前後の膜厚が観測された。図2からレーザー光の走査によって約15μmの線幅が形成され、このときのレーザー光の走査速度は500μm/sであった。これより、照射位置におけるレーザー光の滞在時間は、約30msと見積もられた。30msのレーザー光照射時間で、2.5μm(2500nm)の膜厚のゲルマニウム薄膜が形成されたことより、この場合のゲルマニウム薄膜の製膜速度は、83300nm/sと概算される。従来法で標準となっているプラズマCVD法による気相成長での微結晶シリコン(μc−Si)の製膜速度は、0.5nm/s前後である。これより、本発明では、固液界面へのレーザー光照射による液相成長法によって、従来の気相成長法との比較で、約10万倍以上も高速な製膜速度を達成することができた。これにより、気相成長法に比べて原料濃度を著しく高くすることが可能な、液相成長法の優位性が示された。
【実施例2】
【0045】
図1に示す装置において、液体状原料14として四塩化ケイ素(SiCl)を用い、レーザー光源として、パルス発振DPSSレーザー(532nm、34μJ、パルス幅10ns、発振周波数8KHz、平均パワー275mW)を用い、減光フィルターを用いて3%にパワーを落とし、対物レンズ(20x)12を通してレーザー光を固液界面に合焦し走査することによって、Mg基板15上にシリコン薄膜のパターンを形成した。レーザー光のスキャン速度は、500μm/sであった。得られたゲルマニウム薄膜の顕微ラマンスペクトルの測定を行ったところ、図4のような多結晶シリコンに帰属されるシャープなラマンスペクトルが523cm−1に観測された。
【0046】
[比較例2]
図1に示す装置において、液体状原料14として四塩化ケイ素(SiCl)を用い、レーザー光源として、パルス発振DPSSレーザー(532nm、34μJ、パルス幅10ns、発振周波数8KHz、平均パワー275mW)を用い、減光フィルターを用いて3%にパワーを落とし、対物レンズ(20x)12を通して、ガラス基板15上にレーザー光を合焦して照射し走査したが、シリコン薄膜パターンの形成は観測されなかった。減光フィルターを変えることによって、種々のパワーのレーザー光に対して同様な実験を行ったが、やはりシリコン薄膜パターンの形成は観測されなかった。これは、ガラス基板15が、532nmのレーザー光を吸収せず、液体状原料14の四塩化シリコン(SiCl)の分解反応を誘起しないためである。
【実施例3】
【0047】
図1に示す装置において、液体状原料14として四塩化ゲルマニウム(GeCl)を用い、レーザー光源として、CW DPSSレーザー(532nm、1.18W)を用い、対物レンズ(50x)12を通してレーザー光を固液界面に合焦し走査することによって、ZnメッキITO(酸化インジウムスズ)透明導電性基板15上にゲルマニウム薄膜のパターンを形成した。レーザー光のスキャン速度は、2000μm/sであった。得られたゲルマニウム薄膜のパターンの光学顕微鏡写真を、図5に示す。顕微ラマンスペクトルの測定を行ったところ、図5のような多結晶ゲルマニウムに帰属されるシャープなラマンスペクトルが304cm−1に観測された。ここで、ITO透明導電性基板15へのZnメッキは、0.2M硫酸亜鉛(ZnSO)水溶液中で、対極を白金電極として、電解メッキによって行った。電解メッキは、0.25mA/cm2の電流密度での定電流法で行い、これによって、100nm前後の膜厚のZn薄膜をITO透明導電性基板15上に形成した。
【0048】
[比較例3]
図1に示す装置において、液体状原料14として四塩化ゲルマニウム(GeCl)を用い、レーザー光源として、CW DPSSレーザー(532nm、1.18W)を用い、対物レンズ(50x)12を通して、ガラス基板15上にレーザー光を合焦して照射し走査したが、ゲルマニウム薄膜パターンの形成は観測されなかった。これは、ガラス基板15が、532nmのレーザー光を吸収せず、液体状原料四塩化ゲルマニウム(GeCl)の分解反応を誘起しないためである。
【実施例4】
【0049】
図1に示す装置において、液体状原料14として四塩化ケイ素(SiCl)を用い、レーザー光源として、CW DPSSレーザー(532nm、1.18W)を用い、対物レンズ(50x)12を通してレーザー光を集光し走査することによって、ZnメッキITO(酸化インジウムスズ)透明導電性基板15上にシリコン薄膜のパターンを形成した。レーザー光のスキャン速度は、2000μm/sであった。得られたシリコン薄膜の顕微ラマンスペクトルの測定を行ったところ、図6のような多結晶シリコンに帰属されるシャープなラマンスペクトルが523cm−1に観測された。
【0050】
Znと四塩化ケイ素(SiCl)との化学反応は、亜鉛還元法として四塩化ケイ素を原料としたシリコンの製造法として知られているものである。Znメッキ層でのレーザー光の吸収によって局所的な加熱が起こり、さらに、その発熱によってZnと四塩化ケイ素(SiCl)との化学反応が誘起されることによって、シリコン薄膜が形成されると解釈できる。
【0051】
[比較例4]
図1に示す装置において、液体状原料14として四塩化ケイ素(SiCl)を用い、レーザー光源として、CW DPSSレーザー(532nm、1.18W)を用い、対物レンズ(50x)12を通して、ガラス基板15上にレーザー光を合焦して照射し走査したが、シリコン薄膜パターンの形成は観測されなかった。これは、ガラス基板15が、532nmのレーザー光を吸収せず、液体状原料14の四塩化ケイ素(SiCl)の分解反応を誘起しないためである。
【実施例5】
【0052】
図7には、本発明の実施の形態の固液界面へのレーザー光照射による半導体薄膜パターン形成を行うための装置及び光学系を、模式的に示す。レーザー光源としては、CW DPSSレーザー(532nm、1.18W)レーザー、あるいはパルス発振ダイオード励起固体(DPSS)レーザーを用いた。光学顕微鏡11に導入したレーザー光を、対物レンズ12を用い、透明固体基板15と液体状原料14との固液界面に合焦し照射する。固液界面のレーザー光の照射位置を、コンピューター16で制御したxyzステージ17で走査することによって、半導体薄膜パターンの描画をおこなう。レーザー光のオンオフは、コンピューター制御の電磁シャッター18で行う。光学顕微鏡11に接続したCCDカメラ19によって、固液界面に形成した半導体薄膜パターンを観察した。液体状原料14は、テフロン容器20内で、透明固体基板15とフッ素系ゴムパッキング21とで、外気中の湿気や酸素の影響を置けないように保持されている。原料の供給法としては、バッチ方式および流通方式を適用できる。
【0053】
図7に示す装置において、液体状原料14として四塩化ゲルマニウム(GeCl)を用い、レーザー光源として、CW DPSSレーザー(532nm、1.18W)レーザーを用い、対物レンズ(50x)12を通してレーザー光を合焦し走査することによって、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)透明導電性基板15上にゲルマニウム薄膜のパターンを形成した。FTOは可視域で透明性を有してはいるが、532nmにおけるFTO基板15の透過率は約80%であり、照射したレーザー光の一部は吸収され、それにより局所的な加熱が起こり、固液界面での四塩化ゲルマニウム(GeCl)の熱分解反応が誘起される。レーザー光のスキャン速度は、2000μm/sであった。得られたゲルマニウム薄膜のパターンの顕微ラマンスペクトルの測定を行ったところ、図8のような多結晶ゲルマニウムに帰属される296cm−1のラマンバンドに加えて、アモルファスゲルマニウムに帰属されるブロードなバンドがその低波数側に観測された。
【符号の説明】
【0054】
11 光学顕微鏡
12 対物レンズ
13 透明ガラス窓
14 液体状原料
15 基板
16 コンピューター
17 xyzステージ
18 電磁シャッター
19 CCDカメラ
20 テフロン容器
21 パッキング


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体基板上に半導体薄膜パターンを形成する方法において、半導体薄膜の原料となる反応基質を含む溶液中に前記固体基板を浸漬し、前記固体基板の表面または前記固体基板と前記溶液の界面に、合焦したレーザー光を照射することを、特徴とする半導体薄膜パターンの製造方法。
【請求項2】
固体基板上に形成された半導体薄膜パターンであって、半導体薄膜の原料となる反応基質を含む溶液中に前記固体基板を浸漬し、前記固体基板の表面または前記固体基板と前記溶液の界面に、合焦したレーザー光を照射することで、前記反応基質を半導体化させて形成されていることを、特徴とする半導体薄膜パターン。
【請求項3】
固体基板上に半導体薄膜パターンを形成する方法において、半導体薄膜の原料となる反応基質を含む溶液中に前記固体基板を浸漬し、前記固体基板の表面または前記固体基板と前記溶液の界面に、合焦したレーザー光を照射し、半導体薄膜パターンの形成と結晶化とを同時に行うことを、特徴とする半導体薄膜パターンの製造方法。
【請求項4】
固体基板上に形成された結晶性半導体薄膜パターンであって、半導体薄膜の原料となる反応基質を含む溶液中に前記固体基板を浸漬し、前記固体基板の表面または前記固体基板と前記溶液の界面に、合焦したレーザー光を照射することで、前記反応基質を半導体化および結晶化させて形成されていることを、特徴とする結晶性半導体薄膜パターン。
【請求項5】
前記固体基板は、前記反応基質と反応性を有する金属基板あるいは金属薄膜を表面に形成した固体基板であることを、特徴とする請求項1または3記載の半導体薄膜パターンの製造方法。
【請求項6】
前記固体基板はレーザー光透過率が高く、前記溶液中に前記固体基板を浸漬し、前記固体基板を透過して、合焦したレーザー光を照射することを、特徴とする請求項1、3または5記載の半導体薄膜パターンの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−9595(P2012−9595A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143667(P2010−143667)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】