説明

半導体装置及びその製造方法

【課題】 半導体チップの電極パッドを厚膜化あるいは大面積化することなく、電極パッドの溶断を防止し、電流パッドの許容電流値を高める。
【解決手段】 半導体チップ20の少なくとも1つの電極パッド21s、21dにおいて、単一の電極パッド21上に、第1ワイヤ41が複数箇所45でボンディングされる。さらに、第1ワイヤ41に沿って、第1ワイヤ上41に、第2ワイヤ42が複数箇所46でボンディングされる。一部の実施形態において、第2ワイヤ42のボンディングに先立って、電極パッド21上の第1ワイヤ41の頂部形状を加工してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への関心の高まりを受け、省エネルギー化を実現し得るパワーデバイスにますます注目が集まっている。パワーデバイスにおいては、電力変換効率の更なる向上のために低消費電力化が図られるとともに、パワーデバイスを使用する機器の小型化のためにパワーデバイス自体の小型化も図られている。そのため、伝統的なシリコン(Si)パワーデバイスに加え、シリコンカーバイド(SiC)及びガリウムナイトライド(GaN)等の化合物半導体を用いたパワーデバイスの開発も進められている。例えば、GaN高電子移動度トランジスタ(HEMT)は、低い損失で高密度の電力を取り扱うことができ、これまで縦型Siパワーデバイスを用いていたような大電流を扱う用途にも使用し得るものと期待されている。
【0003】
GaNデバイスに限らずパワーデバイス全般において、大電流を流すために、材料のもつ許容電流密度がデバイス設計段階で考慮に入れられる。許容電流密度は、材料固有の値であり、許容電流値を高めるためには電流を流す断面積を増大させる必要がる。この断面積が不足し、電流密度が許容値を超えると、電流を流す材料の溶融又は溶断が起こることがある。このことは、半導体材料に限らず、半導体チップの表面又はその近傍に形成される一般的に金属である配線及び電極パッドにも当てはまる。配線や電極パッドを横方向に流れる、すなわち、配線や電極パッドの延在方向に沿って流れる電流の許容値を高めるために断面積を増やすことは、一般的に、配線や電極パッドの厚さ及び/又は幅を大きくすることで実現されている。
【0004】
しかしながら、電極パッド等の厚膜化は量産性を低下させるため高コストとなり得る。例えば、電極パッドがアルミニウム(Al)を有する場合、Al膜を厚くするためには、一度又は複数回の製膜工程を用いて総製膜時間を延ばすことになり、製造スループットが低下する。また、Al膜上に別の金属をメッキで積み上げて総膜厚を増大させることも考えられるが、メッキ処理工程が追加されることにより、やはり製造スループットの低下及び製造コストの上昇が問題となる。
【0005】
また、電極パッドの幅広化は設計の自由度を少なくするとともに、特に横型パワーデバイスにおいて、貴重なチップ面積の浪費又はチップの大型化をもたらし得る。
【0006】
また、電極パッドの許容電流値を高める他の一手法として、1つの電極パッドとそれを接続するパッケージ端子との間を複数のワイヤで接続することが考えられる。例えば、必ずしも目的は同じでないが、電極パッド及び/又は電極端子上で複数のボンディングワイヤの先端部同士を積み重ねてボンディングする技術が知られている。また、縦型ダイオードチップにおいて電流集中を回避するために、チップ表面の大面積の電極パッドとパッケージの電極端子とを複数のワイヤで接続し、且つ各ワイヤをチップの表面電極パッド上の複数箇所で接続する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−209733号公報
【特許文献2】特開2005−268497号公報
【特許文献3】特開2009−124075号公報
【特許文献4】特開2005−166854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
既知の技術は、しかしながら、電流パッドの溶断を防止することにおいて十分な効果を有するものではなく、電極パッドを流れる電流を更に増大することには限界がある。故に、電極パッドを厚膜化あるいは大面積化することなく、電極パッドの溶断を防止し、電流パッドの許容電流値を高め得る技術が依然として望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一観点によれば、半導体チップの少なくとも1つの電極パッドにおいて、単一の電極パッド上に、第1ワイヤが複数箇所でボンディングされる。さらに、第1ワイヤに沿って、第1ワイヤ上に、第2ワイヤが複数箇所でボンディングされる。
【発明の効果】
【0010】
複数箇所で相互に接続された電極パッドと複数のワイヤとにより、電極パッドの厚さが擬似的に増大される。故に、電極パッドの溶断を防止し、電極パッドの許容電流値ひいては半導体装置の電流容量を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一実施形態に係る半導体装置を例示する図である。
【図2】一実施形態に係るワイヤボンディング方法を例示する図(その1)である。
【図3】一実施形態に係るワイヤボンディング方法を例示する図(その2)である。
【図4】一実施形態に係るワイヤボンディング方法を例示する図(その3)である。
【図5】一実施形態に係るワイヤボンディング方法を例示する図(その4)である。
【図6】一実施形態に係るワイヤボンディング方法を例示する図(その5)である。
【図7】一実施形態に係るワイヤボンディング方法を例示する図(その6)である。
【図8】ワイヤボンディング方法の一変形例を示す図である。
【図9】図8のワイヤボンディング方法に使用し得るボンドツールを例示する断面図である。
【図10】ワイヤボンディング方法の他の一変形例を示す図である。
【図11】図10のワイヤボンディング方法を用いた多層ワイヤ群の形成を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら実施形態について詳細に説明する。なお、図面において、種々の構成要素は必ずしも同一の尺度で描かれていない。また、複数の図を通して、同様の要素には同一又は類似の参照符号を付する。
【0013】
先ず、図1を参照して、一実施形態に係る半導体装置を説明する。図1(a)は一例に係る半導体装置10のその製造過程における上面図、図1(b)は図1(a)の直線B−B’における断面図を模式的に示している。図示した半導体装置10は、半導体チップ20をリードフレーム30上に搭載し、且つ半導体チップ20上の電極パッド21をリードフレーム30にワイヤ40で接続した後の状態として示されている。半導体装置10は、その後、樹脂モールド及びリードフレーム30のアウタリード部の切断加工などを経て完成される。
【0014】
半導体チップ20は、例えば、パワーデバイス又はその他の比較的大きい電流を取り扱う半導体素子を有している。図示した半導体チップ20は、横型パワーデバイスであり、チップ表面にソース、ドレイン及びゲートの電極パッド21s、21d、21gを有している。各電極パッド21は、例えば、厚さ0.5〜1.2μm程度のAl膜又はCu膜とし得る。また、単なる一例として、半導体チップ20のサイズは4mm×5mm程度、ソースパッド21s及びドレインパッド21dのサイズは0.5〜1.2mm×4.0〜4.6mm程度とし得る。ゲートパッド21gは、典型的に、ソース及びドレインのパッド21s、21dより小さく形成される。
【0015】
図示した例において、リードフレーム30は、ソース、ドレイン及びゲートのリード31s、31d、31g、及び半導体チップ20を搭載するステージ32を有し、ドレインリード31dはステージ32に連通している。ステージ32は、半導体チップ20で生じた熱を放散する放熱板としても作用し得る。リードフレーム30はまた、ネジ止め孔33などのその他の構成を含み得る。半導体チップ20は好ましくは、例えば半田又は銀(Ag)ペーストなどの高熱伝導性の接合材を介してステージ32上に搭載されている。
【0016】
ワイヤ40は、好ましくは低抵抗率の金属を有し、例えば、アルミニウム(Al)ワイヤ又は銅(Cu)ワイヤとし得る。しかしながら、ワイヤ40は、例えば金(Au)ワイヤなどのその他の導電性ワイヤとしてもよい。単一のワイヤの線径は、例えば、80〜500μm程度とし得る。
【0017】
ワイヤ40は、ソース、ドレイン及びゲートのワイヤ40s、40d、40gを含んでいる。ソースワイヤ40sは半導体チップのソースパッド21sをリードフレームのソースリード31sに接続し、ドレインワイヤ40dはドレインパッド21dをステージ32に接続し、ゲートワイヤ40gはゲートパッド21gをゲートリード31gに接続している。ソースワイヤ40sとドレインワイヤ40dには概して同じ大きさの電流が流れ、その電流値はゲートワイヤ40gを流れる電流値より遙かに大きい。故に、ゲートワイヤ40gは、その他のワイヤ40s及び40dより細いワイヤを有していてもよい。
【0018】
ソースワイヤ40s及びドレインワイヤ40dはそれぞれ複数のワイヤを含んでいる。図示した例において、ソースワイヤ40s及びドレインワイヤ40dはそれぞれ2本のワイヤ41及び42を含んでいる。図1(b)にソースワイヤ40sの場合を示すように、ワイヤ41は半導体チップの電極パッド21上に該電極パッドに沿って配置され、ワイヤ42はワイヤ41上にワイヤ41に沿って配置されている。すなわち、ワイヤ40は、電極パッド21上で複数層に積重された複数のワイヤを含み得る。さらに、下層ワイヤ41は電極パッド21に複数の箇所45でボンディングされており、上層ワイヤ42は下層ワイヤ41に複数の箇所46でボンディングされている。ボンディング箇所45と46とは、図示のように上下に重なり合ってもよいし、重なり合っていなくてもよい。
【0019】
図1(a)に示した例において、上層ワイヤ42は、ソースリード31s又はステージ32との接続のため、下層ワイヤ41の電極パッド21上に接合された部分に沿った途中の位置でワイヤ41上から逸脱している。しかしながら、上層ワイヤ42は該部分の略全長にわたって下層ワイヤ41に沿っていてもよい(すなわち、図1(b)の断面図において、ワイヤ41と42とが略同じ長さを有していてもよい)。ワイヤ41及び42のリードフレーム30とのボンディングは、例えば、後述するワイヤ切断の容易性の観点から、相対的にずらされた異なる箇所において行われ得る。
【0020】
半導体装置10においては、ソースパッド21s及びドレインパッド21dの各々の上に、複数のワイヤ41及び42が積層されており、且つ積層されたパッド及びワイヤが複数のボンディング箇所45及び46で相互に接続されている。この構造は、電極パッド21s及び21dの厚さを擬似的に増大させる作用を奏し得る。故に、電極パッド21s及び21d自体の厚膜化・大面積化を必要とすることなく、これら電極パッド21の溶断を防止し、これら電極パッド21の見かけ上の許容電流値を増大させ得る。すなわち、半導体装置10においては、電極パッド21のための金属厚膜形成プロセスや、電極パッド21によるチップ面積の浪費を伴うことなく、パワーデバイスなどの半導体チップの電流容量を増大させることが可能である。また、このようなワイヤ積層ボンディングによれば、パッケージ実装段階でワイヤ径及び/又はワイヤ数を適宜選択することにより、半導体チップ20自体の設計段階に遡ることなく、所望の許容電流を有する半導体装置をコストパフォーマンス良く実現し得る。
【0021】
なお、ここでは、一例としてリードフレーム上に横型パワーデバイスを実装した半導体装置を用いて説明したが、本実施形態はこれに限定されない。例えば、半導体チップは縦型パワーデバイスとしてもよい。縦型パワーデバイスにおいては、2つの主電極(ドレイン及びソース、コレクタ及びエミッタ、又はアノード及びカソードなど)のうちの一方のみのパッドをチップ表面に有することが多いが、該パッド上に複数のワイヤを積層することができる。また、半導体チップ20は、パワーデバイス以外の半導体デバイスを有するものであってもよく、その電極パッドのうちの比較的大きい電流を通電するパッド上に、複数のワイヤを積層し得る。また、半導体装置はリードフレームを有するものや単一の半導体チップを有するものに限定されない。例えば、配線パターンが形成された絶縁基板などの上で、複数の半導体チップが並列あるいは直列に接続されていてもよいし、電力変換回路などの電気回路を構成するように接続されていてもよい。
【0022】
続いて、図2−7を参照して、一実施形態に係る半導体装置の製造方法に使用され得るワイヤボンディング方法を説明する。
【0023】
先ず、図2に示すように、半導体チップ20の1つの電極パッド21上に下層ワイヤ41をボンディングする。図2(a)は1つの電極パッド21の部分を示す上面図であり、図2(b)、(c)は、それぞれ、図2(a)のパッドの延在方向に沿った直線B−B’、該延在方向に直交する方向の直線C−C’における断面図である。なお、電極パッド21は、半導体チップ製造プロセスにおいて、スパッタリングなどの金属膜形成工程によって予め形成されている。また、半導体チップ20は、図1に例示したように、リードフレーム又はその他のパッケージ基板(図2には図示せず)上に搭載されている。以下では、電極パッド及びワイヤはともにAlを有するとして説明する。
【0024】
Alパッド21上への下層Alワイヤのボンディング、及びその後の工程におけるワイヤボンディングは、例えば、ウェッジボンダ及びそのボンドツール(ウェッジ)50を用いて荷重及び超音波を印加することで行い得る。ボンドツール50は、例えばφ80μm〜500μmといった使用されるAlワイヤの線径に応じた先端サイズを有し、例えば0.25mm〜1.1mm程度の先端長FLを有する。ボンドツール50はまた、図2(c)に示すように、その先端にワイヤの線径に応じたサイズの窪み51を有し、該窪みでワイヤを支持しながらワイヤへの荷重及び超音波の印加を行うことができる。
【0025】
下層Alワイヤ41は、Alパッド21上を這うように複数箇所45でボンディングされる。なお、図2(b)中の矢印はボンドツール50の進行方向を指し示している。好ましくは、Alパッド21の略全長にわたって該パッドの厚さを擬似的に増大し得るように、下層ワイヤ41は、Alパッド21の延在方向における一端近傍から他端近傍まで延在するように接合される。ボンディング箇所45のピッチX1は、Alパッド21自体を流れる電流を該パッド全域で低減するために小さくされることが好ましく、例えば、FLの1.1倍から2.5倍の範囲内の長さとし得る。
【0026】
次に、図3に示すように、Alパッド21に接続された下層Alワイヤ41をリードフレームなどのパッケージ端子30上まで引き回してセカンドボンディングを実行する。なお、図3(a)、(b)は、それぞれ、図2(a)、(b)に対応した上面図、断面図である。図3においては下層Alワイヤ41がAlパッド21上からパッケージ端子30上まで直線状に延在するように描いているが、下層Alワイヤ41は、図1に示したように、Alパッド21上からパッケージ端子上まで屈曲するように引き回されてもよい。パッケージ端子30は、通常、Alパッド21より厚い金属膜又は金属板により形成され、下層Alワイヤ41によって擬似的に厚さを増大される必要はないため、下層Alワイヤ41とパッケージ端子30とのボンディング箇所は1箇所のみとし得る。しかしながら、2箇所以上でボンディングして接続面積を増大させてよい。
【0027】
次に、パッケージ端子30への接続が完了した下層ワイヤ41の切断を行う。この工程は、例えば、図4の断面図に示すように、ボンドツール50に付随するカッター55を用いて行うことができる。これは、荷重及び超音波の印加によるパッケージ端子30への下層Alワイヤ41のボンディング(図4(a);図3の工程に相当)に引き続いて、ボンドツール50の後方移動(図4(b))と、その後のカッター55の下降によるワイヤ切断(図4(c))とによって行い得る。図4(b)、(c)中の矢印は、それぞれ、ボンドツール50、カッター55の移動方向を指し示している。
【0028】
次に、好適な一工程として、下層Alワイヤ41の頂部形状の加工を行い得る。Alパッド21上に接合された下層Alワイヤ41の頂部は、ボンディング箇所45以外の部分において円弧形状を有し、且つボンディング箇所45においても、図2(c)に示したように、ウェッジツールの窪み51の形状に従った上に凸の湾曲形状を有し得る。このような下層Alワイヤ41の頂部形状は、後に配設される上層Alワイヤ42(概して円形の断面を有する)への荷重及び超音波の印加時に、上層Alワイヤ42が下層Alワイヤ41上からズレ落ちることを誘発し得る。ここで行い得る下層Alワイヤ41の頂部加工は、下層Alワイヤ41上に上層Alワイヤ42を配設することを容易にし得るものである。
【0029】
一例として、図5に示すように、実質的に平坦な底面を有する部材60でAlパッド21上の下層Alワイヤ41を押圧することにより、Alワイヤ41の頂部を平坦化することができる。なお、図5は図4(b)に対応した断面図である。例えば、硬質材料を有する板状部材60を下層Alワイヤ41の上から押し当て、必要に応じて加熱あるいは超音波印加を行うことにより、下層Alワイヤ41の頂部を平坦面に加工し得る。部材60の材料は、例えば、タングステンカーバイド(WC)などの超硬合金、ステンレス、又はセラミックなどとし得る。Alワイヤ41に部材60を押し当てる荷重量は例えば1kg〜10kgとし得る。なお、このような押圧機構を平坦化ツールとしてウェッジボンダなどのワイヤボンダに設けることにより、下層Alワイヤ41のボンディングとその平坦化とを連続して行うことができる。
【0030】
斯くして下層Alワイヤ41の頂部を平坦化することにより、上層Alワイヤ42のボンディング時に下層ワイヤ41が上層ワイヤ42を確実に支持することが可能になり、上層ワイヤ42が下層ワイヤ41上からズレ落ちることが防止され得る。
【0031】
なお、半導体チップ20の複数のAlパッド21に対して複数のAlワイヤを積層する場合、押圧部材60による下層Alワイヤ41の平坦化は、Alパッド21ごとに行ってもよいし、該複数のAlパッド21に対してまとめて行ってもよい。また、押圧部材60の下面は、必ずしも平坦である必要はなく、上層ワイヤ42の支持を容易にする頂部形状を形成可能なその他の形状を有していてもよい。
【0032】
次に、図6に示すように、下層Alワイヤ41上に上層Alワイヤ42をボンディングする。なお、図6(a)、(b)は、それぞれ、図2(a)、(b)に対応した上面図、断面図である。好適な一例において、上層Alワイヤ42には、下層Alワイヤ41に用いたのと同じAlワイヤを用い得る。その場合、下層及び上層のAlワイヤのボンディングに同一のボンドツール50を用い、これらのボンディングを続けて行うことができる。
【0033】
上層Alワイヤ42は、下層Alワイヤ41に沿って配設され、下層Alワイヤ41上に複数箇所46でボンディングされる。図6(b)中の矢印はボンドツール50の進行方向を指し示している。ボンディング箇所46のピッチX2は、例えば、下層Alワイヤ41のボンディング箇所45のピッチX1に等しくされ得る。
【0034】
次に、図7に示すように、下層Alワイヤ41上に接続された上層Alワイヤ42をパッケージ端子30上まで引き回し、上層Alワイヤ42をパッケージ端子30にボンディングし且つ該ワイヤ42を切断する。上層Alワイヤ42とパッケージ端子30とのボンディング箇所は、好ましくは、下層Alワイヤ41とパッケージ端子30とのボンディング箇所とは異なる位置(例えば、隣接した位置)に定められる。このように、下層及び上層のAlワイヤのボンディング箇所を互いにずらすことにより、ボンドツール50に付随するカッター55(図4参照)などによって行われ得るワイヤ切断を、双方のAlワイヤに対して同一の条件で行うことができる。
【0035】
以上の工程群により、半導体チップの電極パッド21とパッケージ端子30とが2本のワイヤ41及び42で接続される。電極パッド21と下層ワイヤ41とが、そして下層ワイヤ41と上層ワイヤ42とが、互いに複数のボンディング箇所45、46で接続されており、これらのワイヤにより電極パッド21の厚さが擬似的に増大される。必要に応じて、図6及び7の工程、又は図5−7の工程を繰り返すことにより、ワイヤを更に多層化することが可能である。
【0036】
続いて、図2−7を参照して説明したワイヤボンディング方法の幾つかの変形例を説明する。以上の説明では、図5に示したように、下層Alワイヤ41のボンディング後且つ上層Alワイヤ42のボンディング前に下層Alワイヤ41の平坦化を行っているが、上層Alワイヤ42のズレ落ちを防止する支持構造はその他の方法によって形成されてもよい。
【0037】
先ず、図8及び9を参照して、ボンドツールの窪み形状を変更することによって下層Alワイヤ41の頂部に上層Alワイヤ42の支持構造を形成する方法を説明する。図8は、図6に示した工程に対応する、一変形例に係る上層Alワイヤ42のボンディング工程を示している。図8(a)は、図6(a)と同様に、半導体チップの1つのAlパッド21の部分を示す上面図であり、図8(b)は図8(a)の直線C−C’に沿った断面図である。
【0038】
この変形例に係るボンドツール50’は、図8(b)に示すように、その先端の窪み51’内に突起52を有している。突起52は、ボンディングするAlワイヤの延在方向に沿って形成され得る。故に、下層及び上層のAlワイヤ41及び42のボンディング箇所45及び46の各々の頂部に、図8(a)に示すように、Alワイヤの延在方向に沿った溝状の凹部47が形成され得る。下層Alワイヤ41の凹部47は、上層Alワイヤ42を支持し、上層ワイヤ42が下層ワイヤ41上からズレ落ちることを防止するよう作用する。
【0039】
突起52を有するボンドツール50’を用いることにより、下層ワイヤ41のボンディングと同時に、下層ワイヤ41の頂部に上層ワイヤ42に対する支持構造を形成することができる。故に、この方法は、図5に示したような別途の頂部加工工程を用いることなく、ワイヤの積層ボンディングを容易にし得る。
【0040】
図9は、ボンドツールの突起52の形状の例として、断面が(a)三角形、(b)台形を有する突起を示している。突起の幅Y及び高さZは、上層ワイヤを支持するのに十分な大きさにされ、例えば、Alワイヤの線径の1/3〜1/4程度とし得る。故に、φ250μmのAlワイヤの場合に70μm程度、300μmのAlワイヤの場合に80μm程度とし得る。
【0041】
図10は、他の一変形例に係るワイヤボンディング方法を示している。図10(a)は下層Alワイヤ41のボンディング工程後の構造を示す上面図、図10(b)は上層Alワイヤ42のボンディング工程後の構造を示す上面図である。図10(c)は、図10(b)の直線C−C’上にボンドツール50が存在していたときの断面図を示している。
【0042】
図10(a)を参照するに、1つの電極パッド21上に複数の下層Alワイヤ41が並べて配設され得る。各下層ワイヤ41は、電極パッド21上に複数箇所45でボンディングされた後、パッケージ端子30上にボンディングされて切断される。複数の下層ワイヤ41のピッチPは、隣接する2つの下層ワイヤ41の間に形成される間隙上に上層ワイヤ42を支持することができるように決定される。この観点から、下層ワイヤ41のピッチPは使用するAlワイヤの線径の100%〜175%程度(このとき、隣接する2つの下層ワイヤ41間の間隙は使用するワイヤの線径の0%〜75%程度となる)とし得る。ただし、従来からの通常のボンドツール50を使用する場合、該ツールの形状に起因して、隣接するワイヤ間にワイヤ線径の50%程度の間隙を設ける必要があり、下層ワイヤ41のピッチPはワイヤ線径の150%〜175%程度とすることが好ましい。
【0043】
図10(b)及び(c)を参照するに、上層Alワイヤ42は、隣接する2つの下層ワイヤ41によって支持され、これらの下層ワイヤ41上にボンディングされ得る。上層ワイヤ42は、下層ワイヤ41上に複数箇所46でボンディングされた後、パッケージ端子30上にボンディングされて切断される。好ましくは、下層ワイヤ41及び上層ワイヤ42の切断条件を同一とし得るよう、上層ワイヤ42はパッケージ端子30上で、下層ワイヤのボンディング箇所とは異なる箇所でボンディングされる。
【0044】
このように狭いピッチで複数の下層ワイヤ41を配設することにより、下層ワイヤ41の頂部形状を加工することなく、下層ワイヤ41自体を上層ワイヤ42の支持構造として利用してAlワイヤの積層ボンディングを行うことができる。また、この方法は、電極パッド21の厚さを擬似的に増大することに比較的線径の小さいAlワイヤを用いることを可能にし得る。線径が比較的小さいAlワイヤは、その柔軟性のためワイヤの引き回しが容易であり、配線の設計自由度を高めることに寄与し得る。
【0045】
図11は、図10に示した方法を用いて、より多くの、あるいは、より多層のAlワイヤを積重する方法の一例を断面図にて示している。先ず、図10に示したようにして3本以上の第1層ワイヤ41及び2本以上の第2層ワイヤ42を電極パッド21上にボンディングする(図11(a))。第2層ワイヤ42は、第1層ワイヤ41のピッチに応じて、第1層ワイヤ41上と電極パッド21上との双方に接合されてもよい。なお、下層ワイヤの直上に上層ワイヤを配設する場合と比較して、積層されたワイヤ群のトータル高さを低減することができる。
【0046】
次いで、必要に応じて、隣接する2つの第2層ワイヤ42を支持構造として用いて第3層ワイヤ43を第2層ワイヤ42上にボンディングする(図11(b))。同様の方法により、4層以上のワイヤ群を積重することも可能である。
【0047】
以上、実施形態について詳述したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された要旨の範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 半導体装置
20 半導体チップ
21 電極パッド
30 リードフレーム(パッケージ端子)
31 リード
32 ステージ
40 ワイヤ
41 下層ワイヤ(第1層ワイヤ)
42 上層ワイヤ(第2層ワイヤ)
43 第3層ワイヤ
45、46 ボンディング箇所
47 凹部
50、50’ ボンドツール
51、51’ 窪み
52 突起
55 カッター
60 押圧部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップの少なくとも1つの電極パッドにおいて、単一の電極パッド上に第1ワイヤを複数箇所でボンディングする工程と、
前記第1ワイヤに沿って前記第1ワイヤ上に第2ワイヤを複数箇所でボンディングする工程と、
を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記第2ワイヤのボンディングに先立って、前記電極パッド上の前記第1ワイヤの頂部形状を加工する工程を更に有する、ことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記加工する工程は、前記電極パッド上にボンディングされた前記第1ワイヤの頂部を平坦化することを有する、ことを特徴とする請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記加工する工程は、前記電極パッド上に前記第1ワイヤをボンディングするときに、前記第1ワイヤの頂部に凹部を形成することを有する、ことを特徴とする請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1ワイヤをボンディングする工程は、1つの電極パッド上に少なくとも2つの第1ワイヤを、前記第2ワイヤの線径より小さい間隙を形成するように並べてボンディングし、
前記第2ワイヤをボンディングする工程は、前記第2ワイヤを前記間隙上に配置して、隣り合う2つの第1ワイヤ上に前記第2ワイヤをボンディングする、
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記電極パッド上にボンディングされた前記第1ワイヤを、前記半導体装置の電極端子上の第1の箇所にボンディングする工程と、
前記第1ワイヤ上にボンディングされた前記第2ワイヤを、前記半導体装置の前記電極端子上の、前記第1の箇所と異なる第2の箇所にボンディングする工程と、
を更に有することを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
半導体チップと、
前記半導体チップの少なくとも1つの電極パッドにおいて、単一の電極パッド上に複数箇所でボンディングされた第1ワイヤと、
前記第1ワイヤに沿って前記第1ワイヤ上に複数箇所でボンディングされた第2ワイヤと、
を有することを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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