説明

半導体集積回路、赤外線撮像装置及び読み出し方法

【課題】読み出された画素値を増幅する増幅回路の発熱量の変動がセンサに与える影響を抑制する。
【解決手段】画素回路3−1〜3−4において、センサ3aは、入射赤外線の赤外線量に応じた電流を流し、積分部3cは、センサ3aに流れる電流を積分して電圧値に変換し、保持部3dは、変換された電圧値を保持する。そして、制御信号生成回路6が、センサ3aに流れる電流の積分部3cにおける積分時または積分開始前に、保持部3dに保持されている電圧値に応じた画素値を読み出す読み出し回路の動作停止期間を生じさせる制御信号を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路、赤外線撮像装置及び読み出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
夜間などでも赤外線を利用して撮像対象を撮影することができる赤外線撮像装置が知られている。
赤外線撮像装置は、撮像対象から放射される赤外線を検出するセンサを有した複数の画素回路を有している。センサは、入射赤外線の量に応じて電気抵抗が変化するものである。各センサにバイアス電圧が印加されたとき、各センサに流れる電流量に応じた画素値(電圧値)が、たとえば、シフトレジスタによって各画素回路から時系列に読み出される。
【0003】
読み出された画素値は増幅され、A/D(アナログ/デジタル)変換や、画素値の補正処理などが施された後、D/A変換されて表示装置に出力される。
近年、画素フォーマットの大規模化によって、読み出された画素値を増幅する増幅回路の消費電力が大きくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−364241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
読み出される画素値のレベルはセンサごとに変動するため、画素値を増幅する増幅回路の消費電力は変動し、発熱量も変動する。これにより、温度変動に敏感な赤外線検出用のセンサが影響を受け、画素回路から適切な画素値が読み出せなくなるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の一観点によれば、入射赤外線の赤外線量に応じた電流を流すセンサと、前記センサに流れる電流を積分して電圧値に変換する積分部と、変換された電圧値を保持する保持部とを備える複数の画素回路と、前記複数の画素回路から、前記保持部に保持されている電圧値に応じた画素値を読み出す読み出し回路と、前記複数の画素回路から読み出された画素値を増幅する増幅回路と、前記積分部における電流の積分期間の開始前または積分期間中に、前記読み出し回路の動作停止期間を生じさせる制御信号を生成する制御信号生成回路と、を備えた半導体集積回路が提供される。
【0007】
また、発明の一観点によれば、入射される赤外線の赤外線量に応じた電流を流すセンサと、前記センサに流れる電流を積分して電圧値に変換する積分部と、変換された電圧値を保持する保持部とを備える複数の画素回路と、前記複数の画素回路から、前記保持部に保持されている電圧値に応じた画素値を読み出す読み出し回路と、前記複数の画素回路から読み出された画素値を増幅する増幅回路と、前記積分部における電流の積分期間の開始前または積分期間中に、前記読み出し回路の動作停止期間を生じさせる制御信号を生成する制御信号生成回路と、前記センサを冷却する冷却部と、を備えた赤外線撮像装置が提供される。
【0008】
また、発明の一観点によれば、センサを有する複数の画素回路に入射される赤外線の赤外線量に応じて、前記センサに流れる電流を積分して電圧値に変換し、前記電圧値を保持し、保持されている前記電圧値に応じた画素値を前記複数の画素回路から読み出して増幅し、前記電流の積分期間の開始前または積分期間中に、前記画素値を読み出す読み出し回路の動作停止期間を有する読み出し方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
開示の半導体集積回路、赤外線撮像装置及び読み出し方法によれば、読み出された画素値を増幅する増幅回路の発熱量の変動がセンサに与える影響を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施の形態の赤外線撮像装置の一例を示す図である。
【図2】冷却部の一例を示す図である。
【図3】素子温度の変動と、素子電流及び蓄積容量の電圧の一例を示す図である。
【図4】素子温度の変動と、素子電流及び蓄積容量の電圧の他の例を示す図である。
【図5】積分期間の開始前のある期間に画素値の読み出しを停止した場合の素子温度の変動例を示す図である。
【図6】積分期間中のある期間に画素値の読み出しを停止した時の素子温度の変動例を示す図である。
【図7】読み出し停止期間を2箇所設けた場合の素子温度の変動と、素子電流及び蓄積容量の電圧の一例を示す図である。
【図8】読み出し回路の動作停止期間を生じさせる制御信号の一例を示す図である。
【図9】制御信号生成回路の一例を示す図である。
【図10】制御信号生成回路の動作の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施の形態の赤外線撮像装置の一例を示す図である。
赤外線撮像装置1は、半導体集積回路2、レンズ部10、パルス生成回路11、信号処理回路12、表示装置13、冷却部14を有している。なお、赤外線撮像装置1の各部に電源電圧を供給する回路や、赤外線撮像装置1の各部を制御する制御部などは図示を省略している。
【0012】
半導体集積回路2は、複数の画素回路3−1,3−2,3−3,3−4、読み出し回路4、増幅回路5、制御信号生成回路6、垂直信号線7−1,7−2、水平信号線8−1,8−2、出力線9、トランジスタTr1,Tr2,Tr3を有している。
【0013】
なお、図1に示されている赤外線撮像装置1の例では、図示を簡略化するため、2×2の画素回路3−1〜3−4を示しているが、画素回路が5つ以上あってもよいことは言うまでもない。
【0014】
画素回路3−1は、センサ3a、入力トランジスタ3b、積分部3c、保持部3d、トランジスタ3e,3fを有している。
センサ3aは、赤外線量に応じて電気抵抗が変化し、流れる電流が変化する素子である。そのため、センサ3aは、レンズ部10を介して入射される入射赤外線の赤外線量に応じた電流を流す。
【0015】
入力トランジスタ3bは、たとえば、nチャネル型MOSFET(Metal-Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である。入力トランジスタ3bは、センサ3aと積分部3cとの間に接続されており、ゲートに入力される信号に応じて、センサ3aと積分部3c間の電流経路を接続または切断する。なお、図示を省略しているが、入力トランジスタ3bのゲートには、後述する制御信号生成回路6からの信号が入力される。
【0016】
積分部3cは、トランジスタ3c1と蓄積容量3c2を有している。トランジスタ3c1は、たとえば、pチャネル型MOSFETであり、ソースには電源電圧が供給されており、ドレインには蓄積容量3c2の一方の端子が接続されている。図示を省略しているが、トランジスタ3c1のゲートには、パルス生成回路11からのリセット信号が入力される。この画素回路3−1のリセット時には、トランジスタ3c1がオンし、電源電圧により、蓄積容量3c2が充電される。蓄積容量3c2の他方の端子は接地されている。トランジスタ3c1と蓄積容量3c2間のノードは入力トランジスタ3bと保持部3dに接続されている。
【0017】
このような積分部3cは、入力トランジスタ3bがオンの期間(積分期間)、トランジスタ3c1がオフのとき、センサ3aに流れる電流を蓄積容量3c2で蓄積(積分)し、電圧値に変換する。
【0018】
保持部3dは、たとえば、図1に示されているように、サンプルホールド回路であり、nチャネル型MOSFETであるトランジスタ3d1と、pチャネル型MOSFETであるトランジスタ3d2と、容量3d3を有している。トランジスタ3d1,3d2は、積分部3cのトランジスタ3c1と蓄積容量3c2間のノードと、容量3d3の一方の端子との間に接続されている。容量3d3の他方の端子は接地されている。図示を省略しているが、トランジスタ3d1,3d2のゲートには、パルス生成回路11からの信号が入力され、トランジスタ3d1,3d2が両方オンのときには、蓄積容量3c2で積分されて得られた電圧値が、容量3d3に保持される。
【0019】
トランジスタ3e,3fは、たとえば、nチャネル型MOSFETであり、トランジスタ3eのドレインには電源電圧が印加される。トランジスタ3eのソースは、トランジスタ3fのドレインに接続されており、トランジスタ3fのソースは、垂直信号線7−1に接続されている。また、トランジスタ3eのゲートは、トランジスタ3d1,3d2と容量3d3間のノードに接続されている。トランジスタ3fのゲートは、水平信号線8−1に接続されている。
【0020】
トランジスタ3fがオン状態のときには、トランジスタ3eのゲート電圧に応じた電圧値(以下、この電圧値を画素値とする)が垂直信号線7−1に印加される。
図示を省略しているが、他の画素回路3−2〜3−4についても画素回路3−1と同様の要素を有しているものとして以下説明する。
【0021】
読み出し回路4は、画素回路3−1〜3−4に保持されている電圧値に応じた画素値を読み出す。読み出し回路4は、垂直シフトレジスタ4aと水平シフトレジスタ4bを有している。
【0022】
垂直シフトレジスタ4aは、パルス生成回路11からの信号によりトランジスタ3fを制御して、水平信号線8−1,8−2に接続された画素回路3−1〜3−4を、水平信号線8−1,8−2ごとに選択する。たとえば、画素回路3−1,3−2を選択する場合には、垂直シフトレジスタ4aは、水平信号線8−1にH(High)レベルの信号を供給し、トランジスタ3fをオンし、画素値を読み出して、垂直信号線7−1,7−2に伝える。
【0023】
水平シフトレジスタ4bは、パルス生成回路11または制御信号生成回路6からの信号によりトランジスタTr1,Tr2を制御して、垂直信号線7−1,7−2に読み出された画素値を、水平信号線8−1,8−2を1ラインごとに選択して、出力線9に伝える。
【0024】
増幅回路5は、たとえば、オペアンプであり、出力線9に読み出された画素値を増幅して出力する。
制御信号生成回路6は、積分部3cにおける電流の積分期間の開始前または積分期間中に、読み出し回路4の動作停止期間を生じさせる制御信号を生成する。図1に示す半導体集積回路2の例では、制御信号生成回路6は、水平シフトレジスタ4bの動作停止期間を生じさせる制御信号を生成し、水平シフトレジスタ4bに供給する。
【0025】
なお、出力線9に接続されたトランジスタTr3は、たとえば、nチャネル型MOSFETであり、ドレインに出力線9を接続し、ソースを接地している。半導体集積回路2の動作時には、トランジスタTr3のゲートには電源電圧が印加され、トランジスタTr3はオン状態となり、増幅回路5のバイアス電流となる定電流を出力線9に供給する。
【0026】
赤外線撮像装置1において、レンズ部10は、撮像対象からの赤外線を集光して画素回路3−1〜3−4に入射する。
パルス生成回路11は、各画素回路3−1〜3−4、読み出し回路4、制御信号生成回路6を動作させるためのパルス信号を生成して供給する。たとえば、パルス生成回路11は、画素回路3−1〜3−4の積分部3cにおけるトランジスタ3c1のゲートに、所定のタイミング(たとえば、画素回路3−1〜3−4からの1フレーム分の画素値の読み出し開始時)で、リセット信号を供給する。また、パルス生成回路11は、制御信号生成回路6に、水平クロックパルスまたは水平シフトレジスタ4b用のデータパルスを供給する。
【0027】
信号処理回路12は、増幅回路5で増幅された画素値に対し信号処理を行い、表示装置13に出力する。たとえば、信号処理回路12は、A/D変換回路、演算回路、D/A変換回路を有しており、増幅回路5の出力信号であるアナログ信号をデジタル信号に変換し、演算回路でオフセット・ゲイン補正を行い、補正後のデジタル信号をアナログ信号に変換する。
【0028】
表示装置13は、たとえば、液晶ディスプレイなどであり、信号処理回路12から出力されるアナログ信号を受信し、撮像対象の赤外線映像を表示する。
冷却部14は、半導体集積回路2を冷却して、センサ3aの温度を、たとえば、70K〜80K程度に調整する。冷却部14は、温度調整用のヒータを有していてもよい。
【0029】
図2は、冷却部の一例を示す図である。
図1に示した冷却部14は、たとえば、図2のように、冷凍機(たとえば、スターリング冷凍機)20、真空容器21、ステム22、赤外線透過窓23、コールドシールド24、温度センサ25、ヒータ26、温度調整器27、配線28,29を有している。
【0030】
冷凍機20は、内部に畜冷器が収納されたディスプレーサ20aを真空容器21中に導入して、ディスプレーサ20aの先端に取り付けられたステム22に配置される半導体集積回路2を冷却する。
【0031】
赤外線透過窓23は、図1に示したレンズ部10を介して入射される赤外線を真空容器21内に導入する。赤外線透過窓23で真空容器21内に導入された赤外線は、コールドシールド24によって、視野を制限され不要な入射光がカットされ、半導体集積回路2に入射される。
【0032】
ステム22には、さらに、温度センサ25とヒータ26が配置されており、温度センサ25とヒータ26は、配線28,29を介して温度調整器27に接続されている。
温度調整器27は、温度センサ25で検出された温度に応じてヒータ26を制御して、設定温度(たとえば、70K〜80Kなど)になるように温度を調整する。
【0033】
上記のような赤外線撮像装置1及び半導体集積回路2では、単位時間ごとに、画素回路3−1〜3−4から1フレーム分の画素値が読み出し回路4にて読み出され、増幅回路5で増幅され、信号処理回路12にて信号処理され、表示装置13に表示される。
【0034】
スループットを上げるために、読み出しの際には、次のフレームで読み出される画素値を決めるための積分も、各画素回路3−1〜3−4で行われる。すなわち、画素回路3−1〜3−4の保持部3dに保持されている電圧値に応じた画素値が読み出されている間、センサ3aに流れる電流が積分部3cで積分される。1フレーム分の画素値の読み出しの際には、画素値に応じて主に増幅回路5での消費電力は変動し、発熱量も変動する。これにより、センサ3aの温度(素子温度)が変動する。
【0035】
図3は、素子温度の変動と、素子電流及び蓄積容量の電圧の一例を示す図である。
図3では、同一時間軸上での素子温度、素子電流、蓄積容量3c2の電圧の変化の例が示されている。素子温度が前述の冷却部14での設定温度に対して、図3に示されているように変動すると、センサ3aに流れる暗電流がその影響を受け、素子電流も変動して理想値からずれる。
【0036】
素子電流の積分期間(タイミングt1〜t2)において、図3に示されているような周期の長い素子電流の変動が生じると、蓄積容量3c2の電圧が理想値に対して低くなる。
図4は、素子温度の変動と、素子電流及び蓄積容量の電圧の他の例を示す図である。
【0037】
図4でも、同一時間軸上での素子温度、素子電流、蓄積容量3c2の電圧の変化の例が示されている。素子温度が前述の冷却部14での設定温度に対して、図4に示されているように変動すると、素子電流も変動し理想値からずれる。
【0038】
素子電流の積分期間(タイミングt3〜t4)において、図4に示されているような変動が生じると、蓄積容量3c2の電圧が理想値に対して高くなる。
図3、図4に示したような蓄積容量3c2の電圧の理想値からのずれが生じると、入射赤外線の光量とは無関係に画面の明暗が発生し、いわゆるチラつきの原因となる。センサ3aの熱容量を大きくすると、発熱変動の影響を低減することができるが、センサ3aの温度調節に必要な冷凍機20やヒータ26などに高出力なものが要求される。
【0039】
このような蓄積容量3c2の電圧の理想値からのずれを抑制するため、本実施の形態の赤外線撮像装置1では、制御信号生成回路6により、素子電流の積分期間の開始前または積分期間中のある期間、読み出し回路4による画素値の読み出し動作を停止させる。
【0040】
これにより、読み出し回路4の動作停止期間は、増幅回路5からは画素値が出力されなくなり、増幅回路5の消費電力は一定となり、発熱量の変動が抑えられる。したがって、素子温度が設定温度に近づく。
【0041】
図5は、積分期間の開始前のある期間に画素値の読み出しを停止した場合の素子温度の変動例を示す図である。縦軸が素子温度、横軸が時間を示している。
なお、点線は、画素値の読み出しを停止しない場合の素子温度の変動例を示している。
図5に示す例では、積分期間開始前のタイミングt5〜t6の期間を読み出し停止期間(読み出し回路4の動作停止期間)としている。
【0042】
タイミングt5で、画素回路3−1〜3−4からの画素値の読み出しが停止されると、画素値に応じた増幅回路5での発熱量の変動が抑制され、素子温度は設定温度に近づく。これにより、その後のタイミングt6〜t7の積分期間においても、素子温度の設定温度に対する変動を抑えられる。
【0043】
図3や図4に示したように、素子電流は素子温度と同様に変動するため、積分期間における素子温度を設定値に近づけることで、素子電流も理想値に近づけることができ、その結果、蓄積容量3c2の電圧の理想値からのずれを抑制できる。
【0044】
なお、図5に示す例では、読み出し停止期間の終了タイミングを積分期間の開始タイミングと一致させているが、必ずしも一致させなくてもよい。ただ、積分期間での素子温度の変動を、より抑制するために、積分期間の開始直前に読み出し停止期間を設定することが望ましい。
【0045】
図6は、積分期間中のある期間に画素値の読み出しを停止した時の素子温度の変動例を示す図である。縦軸が素子温度、横軸が時間を示している。
なお、点線は、画素値の読み出しを停止しない場合の素子温度の変動例を示している。
【0046】
図6に示す例では、積分期間(タイミングt8〜t11)中のタイミングt9〜t10の期間を読み出し停止期間としている。
タイミングt9で、画素回路3−1〜3−4からの画素値の読み出しが停止されると、画素値に応じた増幅回路5での発熱量の変動が抑制され、素子温度は設定温度に近づく。これにより、積分期間における、素子温度の設定温度に対する変動量を抑えられる。
【0047】
図3や図4に示したように、素子電流は素子温度と同様に変動するため、積分期間における素子温度を設定値に近づけることで、素子電流も理想値に近づけることができ、その結果、蓄積容量3c2の電圧の理想値からのずれを抑制できる。
【0048】
このように、読み出し回路4に、積分期間の開始前または積分期間中のある期間、画素回路3−1〜3−4からの画素値の読み出しを停止させることで、読み出された画素値を増幅する増幅回路5の発熱量の変動がセンサ3aに与える影響を抑制できる。このため、蓄積容量3c2の電圧値の理想値からのずれを抑制でき、増幅回路5の発熱量の変動が、次のフレームで読み出される画素値に与える影響を低減でき、画面のチラつきを抑制できる。
【0049】
ところで、積分開始時と終了時における素子温度の変動は、半導体集積回路2の出力電圧の雑音に反映され易い。そこで、積分開始前のあるタイミングから積分開始タイミングまでの期間と、積分期間中のあるタイミングから積分終了タイミングまでの期間において、読み出し回路4による画素値の読み出しを停止させることも望ましい。
【0050】
図7は、読み出し停止期間を2箇所設けた場合の素子温度の変動と、素子電流及び蓄積容量の電圧の一例を示す図である。同一時間軸上での素子温度、素子電流、蓄積容量3c2の電圧の変化の例が示されている。図7の例では、積分期間(タイミングt21〜t23)の開始直前のタイミングt20〜t21の期間と、積分期間の終了直前のタイミングt22〜t23の期間を読み出し停止期間としている。
【0051】
このようなタイミングに読み出し停止期間を設けることで、前述したような1つの期間の読み出し停止期間を設けるよりも、さらに積分期間での素子温度の設定温度に対する変動を抑えられる。そのため、図7に示されているように、積分期間での素子電流をより理想値に近づけることができ、その結果、蓄積容量3c2の電圧の理想値からのずれを大幅に抑制できる。
【0052】
図5〜図7に示した読み出し停止期間は、制御信号生成回路6が、読み出し回路4の動作を一定期間停止させることで生じる。制御信号生成回路6は、積分部3cにおける電流の積分期間の開始前または積分期間中に、読み出し回路4の動作停止期間を生じさせる制御信号を生成し、読み出し回路4に供給する。
【0053】
図8は、読み出し回路の動作停止期間を生じさせる制御信号の一例を示す図である。
同一時間軸上での増幅回路5からの出力波形、制御信号生成回路6から出力される水平クロック(制御信号)、入力トランジスタ3bのゲート電圧の様子が示されている。
【0054】
出力波形において、幅の広いパルスは垂直ブランキング期間を示し、幅の狭いパルスは水平ブランキング期間を示している。2つの垂直ブランキング期間の間が1フレームの画素値の読み出し期間である。また、次のフレームで読み出されるための画素値を決定するための積分期間は、入力トランジスタ3bのゲート電圧がHレベルの期間(タイミングt31〜t33)である。
【0055】
制御信号生成回路6は、パルス生成回路11から水平シフトレジスタ4bを駆動するための水平クロックを受信すると、図8に示すように、たとえば、積分期間の直前のタイミングt30〜t31の期間は、水平クロックを出力しない。また、制御信号生成回路6は、積分期間の終了直前のタイミングt32〜t33の期間は、水平クロックを出力しない。これにより、パルス生成回路11から出力される水平クロックにかかわらず、水平シフトレジスタ4bが停止し、図7に示したような読み出し停止期間が発生する。
【0056】
水平シフトレジスタ4bが停止すると、図8のタイミングt30〜t31及びタイミングt32〜t33の期間のように、増幅回路5の出力波形では水平ブランキング期間が長くなったようなパルスが現れる。この期間は出力値が一定となっているため、増幅回路5の発熱量は変動せず、前述のように、積分期間での素子温度の変動が抑制される。
【0057】
次に、図8に示したような制御信号を生成する制御信号生成回路6の一例を示す。
図9は、制御信号生成回路の一例を示す図である。
制御信号生成回路6は、遅延回路30、XOR回路31、インバータ回路32、AND回路33を有している。
【0058】
遅延回路30は、画素回路3−1〜3−4に素子電流の積分を行わせるための積分信号をパルス生成回路11から受信し、それを遅延する。遅延された積分信号は、XOR回路31と画素回路3−1〜3−4の入力トランジスタ3bのゲートに供給される。
【0059】
XOR回路31は、積分信号と遅延回路30により遅延された積分信号とを受信し、両者の排他的論理和を出力する。
インバータ回路32は、XOR回路31の出力信号の信号レベルを反転する。
【0060】
AND回路33は、パルス生成回路11から水平クロックを受信するとともに、インバータ回路32の出力信号を受信して、両者の論理積を出力する。AND回路33の出力端子は水平シフトレジスタ4bに接続されており、水平クロックとインバータ回路32の出力信号の論理積に基づいた制御信号が水平シフトレジスタ4bに供給される。
【0061】
なお、遅延回路30で発生する遅延時間は、画素値の読み出し時の増幅回路5を含む発熱要素の発熱変動によるセンサ3aの温度変動の大きさをもとに、読み出し回路4の動作停止時に、冷却部14がセンサ3aを設定温度にする時間に応じて設定されている。
【0062】
たとえば、前述した図5の例では、タイミングt5で読み出し回路4の動作を停止すると、タイミングt6で、素子温度が設定温度になる。そのため、タイミングt5〜t6の時間が、読み出し回路4の動作停止時に、冷却部14がセンサ3aを設定温度にする時間となる。また、前述した図6の例では、タイミングt9で読み出し回路4の動作を停止すると、タイミングt10で、素子温度が設定温度になる。そのため、タイミングt9〜t10の時間が、読み出し回路4の動作停止時に、冷却部14がセンサ3aを設定温度にする時間となる。
【0063】
冷却部14がセンサ3aを設定温度にする時間は、センサ3aを含む冷却対象の熱容量と、冷却部14の性能と、設定温度に対するセンサ3aの温度変動の大きさに応じて算出される。
【0064】
たとえば、図2に示したように、冷却部14では、コールドシールド24と半導体集積回路2が載っているステム22の温度は、温度センサ25とヒータ26が温度調整器27の制御のもと調整される。冷却対象の、半導体集積回路2、ステム22、コールドシールド24、温度センサ、ヒータ26の熱容量の和をA(J/K)、ヒータ26または冷凍機20の能力をB(W)とする。このとき半導体集積回路2の温度をC(K)温める(あるいは冷やす)ためにかかる時間Tは、T=A×C/B(sec)である。
【0065】
したがって、遅延時間は、半導体集積回路2の発熱の変動量から、冷却部14の設定値に対する素子温度の変動幅を見積もり、それを上式の“C”として適用し、上式を演算することで、その概算値が得られる。
【0066】
なお、発熱要素は、増幅回路5が主なものだが(発熱量が大きい)、他には、たとえば、画素回路3−1〜3−4内のトランジスタ3e,3fによる部分などがある。
図10は、制御信号生成回路の動作の一例を示すタイミングチャートである。
【0067】
上から、パルス生成回路11から出力される積分信号、遅延回路30、XOR回路31及びインバータ回路32の出力信号、パルス生成回路11から出力される水平クロック、制御信号(AND回路33の出力信号)が示されている。
【0068】
タイミングt40までは、積分信号、遅延回路30及びXOR回路31の出力信号はL(Low)レベル、インバータ回路32の出力信号はHレベルであるとする。そのため、AND回路33から出力される制御信号は、水平クロックとなっている。
【0069】
タイミングt40で、パルス生成回路11から供給される積分信号がHレベルになると、XOR回路31の出力信号がHレベルになり、インバータ回路32の出力信号がLレベルになる。これにより、AND回路33から出力される制御信号はLレベルとなり、水平シフトレジスタ4bへの水平クロックの供給が停止され、読み出し回路4による画素値の読み出しが停止される。
【0070】
遅延回路30の出力信号は、タイミングt40から前述した遅延時間だけ遅れたタイミングt41でHレベルになると、XOR回路31の出力信号がLレベルになり、インバータ回路32の出力信号がHレベルになる。これにより、AND回路33から出力される制御信号は水平クロックとなり、水平シフトレジスタ4bは動作を開始し、読み出し回路4による画素値の読み出しが再開される。
【0071】
タイミングt42にて積分信号がLレベルになると、XOR回路31の出力信号がHレベルになり、インバータ回路32の出力信号がLレベルになる。これにより、AND回路33から出力される制御信号はLレベルとなり、水平シフトレジスタ4bへの水平クロックの供給が停止され、読み出し回路4による画素値の読み出しが再度停止される。
【0072】
遅延回路30の出力信号は、タイミングt42から前述した遅延時間だけ遅れたタイミングt43でHレベルになると、XOR回路31の出力信号がLレベルになり、インバータ回路32の出力信号がHレベルになる。これにより、AND回路33から出力される制御信号は水平クロックとなり、水平シフトレジスタ4bは動作を開始し、読み出し回路4による画素値の読み出しが再開される。
【0073】
図9に示したような制御信号生成回路6では、遅延回路30の出力信号が入力トランジスタ3bのゲートに供給され、その出力信号がHレベルの期間が積分期間となる。図10のタイミングチャートの例では、タイミングt41〜t43の間が積分期間となり、積分期間の開始前のタイミングt40〜t41、積分期間終了前のタイミングt42〜t43が、画素値の読み出し停止期間となる。
【0074】
なお、図8、図9の例では、水平シフトレジスタを動作させる信号のうち水平クロックをもとに、制御信号を生成する制御信号生成回路6の例を示したが、これに限定されない。水平シフトレジスタ4bの図示しない直列に接続された複数段のフリップフロップ群の先頭のデータ端子に入力されるデータパルスをパルス生成回路11から受信して、上記のような制御信号を生成することも、同様の回路で可能である。
【0075】
なお、図9では、図8に示したようなタイミングで、読み出し回路4の動作停止期間を生じさせる制御信号生成回路6の例を示したが、積分期間前または積分期間中の1期間に動作停止期間を生じさせる回路も適宜回路を変更して実現できる。
【0076】
以上、実施の形態に基づき、本発明の半導体集積回路、赤外線撮像装置及び読み出し方法の一観点について説明してきたが、これらは一例にすぎず、上記の記載に限定されるものではない。
【0077】
たとえば、上記の説明では、制御信号生成回路6は、読み出し回路4のうち、水平シフトレジスタ4bの動作を停止させる制御信号を生成するものとしたが、垂直シフトレジスタ4aの動作を停止させる制御信号を生成するようにしてもよい。その場合、図8に示したようなものと同様の回路を適用できる。すなわち、制御信号生成回路6は、垂直クロックまたは垂直シフトレジスタ4a用のデータパルスをパルス生成回路11から受信して、垂直シフトレジスタ4aの動作停止期間を生じさせる制御信号を生成するようにしてもよく、同様の効果が得られる。
【0078】
また、動作停止期間も、1箇所または2箇所に限定されず、1フレームの読み出しにおいて、3箇所以上設けるようにしてもよい。ただ、動作停止期間は、長くなると、読み出しに影響を与えるので、短い方が望ましい。
【0079】
また、制御信号生成回路6は、半導体集積回路2内に設けなくてもよいし、パルス生成回路11、信号処理回路12は、半導体集積回路2内に設けるようにしてもよい。
以上説明した複数の実施の形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0080】
(付記1) 入射赤外線の赤外線量に応じた電流を流すセンサと、前記センサに流れる電流を積分して電圧値に変換する積分部と、変換された電圧値を保持する保持部とを備える複数の画素回路と、
前記複数の画素回路から、前記保持部に保持されている電圧値に応じた画素値を読み出す読み出し回路と、
前記複数の画素回路から読み出された画素値を増幅する増幅回路と、
前記積分部における電流の積分期間の開始前または積分期間中に、前記読み出し回路の動作停止期間を生じさせる制御信号を生成する制御信号生成回路と、
を有することを特徴とする半導体集積回路。
【0081】
(付記2) 前記読み出し回路は、シフトレジスタを有し、
前記制御信号生成回路は、前記積分部における電流の積分期間の開始前または積分期間中に、前記シフトレジスタを動作させる信号にかかわらずに、前記動作停止期間、前記シフトレジスタの動作を停止することを特徴とする付記1に記載の半導体集積回路。
【0082】
(付記3) 前記読み出し回路は、水平シフトレジスタを有し、
前記制御信号生成回路は、前記積分部における電流の積分期間の開始前または積分期間中に、前記水平シフトレジスタを動作させる水平クロックまたは水平シフトレジスタ用のデータパルスにかかわらずに、前記動作停止期間、前記水平シフトレジスタの動作を停止することを特徴とする付記1に記載の半導体集積回路。
【0083】
(付記4) 前記動作停止期間は、前記積分期間の開始前の第1のタイミングから前記積分期間の開始タイミングまでの期間、及び、前記積分期間中の第2のタイミングから前記積分期間の終了タイミングまでの期間であることを特徴とする付記1乃至3の何れか1つに記載の半導体集積回路。
【0084】
(付記5) 入射される赤外線の赤外線量に応じた電流を流すセンサと、前記センサに流れる電流を積分して電圧値に変換する積分部と、変換された電圧値を保持する保持部とを備える複数の画素回路と、
前記複数の画素回路から、前記保持部に保持されている電圧値に応じた画素値を読み出す読み出し回路と、
前記複数の画素回路から読み出された画素値を増幅する増幅回路と、
前記積分部における電流の積分期間の開始前または積分期間中に、前記読み出し回路の動作停止期間を生じさせる制御信号を生成する制御信号生成回路と、
前記センサを冷却する冷却部と、
を有することを特徴とする赤外線撮像装置。
【0085】
(付記6) 前記動作停止期間は、前記複数の画素値の読み出し時における、前記増幅回路を含む発熱要素の発熱量の変動による前記センサの温度変動の大きさをもとに、前記読み出し回路の動作停止時に、前記冷却部が前記センサを設定温度にする時間に応じて設定されていることを特徴とする付記5に記載の赤外線撮像装置。
【0086】
(付記7) 前記冷却部が前記センサを前記設定温度にする時間は、前記センサを含む冷却対象の熱容量と、前記冷却部の性能と、前記設定温度に対する前記温度変動の大きさに応じて算出されることを特徴とする付記6記載の赤外線撮像装置。
【0087】
(付記8) センサを有する複数の画素回路に入射される赤外線の赤外線量に応じて、前記センサに流れる電流を積分して電圧値に変換し、前記電圧値を保持し、
保持されている前記電圧値に応じた画素値を前記複数の画素回路から読み出して増幅し、
前記電流の積分期間の開始前または積分期間中に、前記画素値を読み出す読み出し回路の動作停止期間を有することを特徴とする読み出し方法。
【符号の説明】
【0088】
1 赤外線撮像装置
2 半導体集積回路
3−1〜3−4 画素回路
3a センサ
3b 入力トランジスタ
3c 積分部
3c1,3d1,3d2,3e,3f,Tr1〜Tr3 トランジスタ
3c2 蓄積容量
3d 保持部
3d3 容量
4 読み出し回路
4a 垂直シフトレジスタ
4b 水平シフトレジスタ
5 増幅回路
6 制御信号生成回路
7−1,7−2 垂直信号線
8−1,8−2 水平信号線
9 出力線
10 レンズ部
11 パルス生成回路
12 信号処理回路
13 表示装置
14 冷却部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射赤外線の赤外線量に応じた電流を流すセンサと、前記センサに流れる電流を積分して電圧値に変換する積分部と、変換された電圧値を保持する保持部とを備える複数の画素回路と、
前記複数の画素回路から、前記保持部に保持されている電圧値に応じた画素値を読み出す読み出し回路と、
前記複数の画素回路から読み出された画素値を増幅する増幅回路と、
前記積分部における電流の積分期間の開始前または積分期間中に、前記読み出し回路の動作停止期間を生じさせる制御信号を生成する制御信号生成回路と、
を有することを特徴とする半導体集積回路。
【請求項2】
前記読み出し回路は、シフトレジスタを有し、
前記制御信号生成回路は、前記積分部における電流の積分期間の開始前または積分期間中に、前記シフトレジスタを動作させる信号にかかわらずに、前記動作停止期間、前記シフトレジスタの動作を停止することを特徴とする請求項1に記載の半導体集積回路。
【請求項3】
前記動作停止期間は、前記積分期間の開始前の第1のタイミングから前記積分期間の開始タイミングまでの期間、及び、前記積分期間中の第2のタイミングから前記積分期間の終了タイミングまでの期間であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体集積回路。
【請求項4】
入射される赤外線の赤外線量に応じた電流を流すセンサと、前記センサに流れる電流を積分して電圧値に変換する積分部と、変換された電圧値を保持する保持部とを備える複数の画素回路と、
前記複数の画素回路から、前記保持部に保持されている電圧値に応じた画素値を読み出す読み出し回路と、
前記複数の画素回路から読み出された画素値を増幅する増幅回路と、
前記積分部における電流の積分期間の開始前または積分期間中に、前記読み出し回路の動作停止期間を生じさせる制御信号を生成する制御信号生成回路と、
前記センサを冷却する冷却部と、
を有することを特徴とする赤外線撮像装置。
【請求項5】
前記動作停止期間は、前記複数の画素値の読み出し時における、前記増幅回路を含む発熱要素の発熱量の変動による前記センサの温度変動の大きさをもとに、前記読み出し回路の動作停止時に、前記冷却部が前記センサを設定温度にする時間に応じて設定されていることを特徴とする請求項4に記載の赤外線撮像装置。
【請求項6】
センサを有する複数の画素回路に入射される赤外線の赤外線量に応じて、前記センサに流れる電流を積分して電圧値に変換し、前記電圧値を保持し、
保持されている前記電圧値に応じた画素値を前記複数の画素回路から読み出して増幅し、
前記電流の積分期間の開始前または積分期間中に、前記画素値を読み出す読み出し回路の動作停止期間を有することを特徴とする読み出し方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−90260(P2013−90260A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231375(P2011−231375)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】