説明

半導体集積回路の設計方法および設計装置

【課題】モンテカルロ計算結果をモーメント校正なしに精度よく再現することのできる半導体集積回路の設計方法および設計装置の提供を図る。
【解決手段】モンテカルロ法を適用した半導体集積回路の設計方法であって、基板に対する処理を行う場合、該基板が存在しない負の領域に対して疑似負基板を仮定するステップと、前記基板および前記仮定された疑似負基板を使用してモンテカルロ計算を行うステップ(ST1)と、前記モンテカルロ計算により得られた結果からモーメントパラメータを計算するステップ(ST2)と、前記計算されたモーメントパラメータを使用して全領域で定義された分布を発生するステップ(ST3)と、を備えるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路の設計方法および設計装置に関し、特に、モンテカルロ法を適用した半導体集積回路の設計方法および設計装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体集積回路(例えば、シリコン(Si)LSI)において、不純物の導入はイオン注入で行われるのが一般的であり、イオン注入分布をシミュレーションする手段としては、モンテカルロ(Monte Carlo)法が適用されている。特に、低加速エネルギーの場合、実験データの精度に問題があるため、ピーク近傍の分布を予測するのにモンテカルロ法がよく利用されている。
【0003】
ところで、モンテカルロ計算は、時間が掛かるため、計算結果からパラメータを抽出し、それをテーブル化したデータベースが利用され、さらに、パラメータ抽出する際には、フィッティング関数(例えば、ピアソンIV(Pearson IV)分布)が用意されている。
【0004】
従来、フィッティング関数として、通常ピアソンIV(Pearson IV)分布に適用されるものが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
【非特許文献1】古川静二郎他著,「埋め込まれたイオンの横方向の変形についての論理的考察(Theoretical Considerations on Lateral Spread of Implanted Ions)」,Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 11 (1972), pp134-142, No. 2, February 5, 1972
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1は基板に対して不純物を注入する半導体集積回路の製造工程を概念的に示す図である。ここで、参照符号101は半導体基板(基板)、102a〜102cはマスク、そして、111a〜111cは不純物領域(不純物が注入される領域)を示している。
【0007】
図1(a)は、マスク102aおよび102bで覆われた間の部分であるシリコン(Si)等の基板101における領域111aに対して、例えば、ボロン(B),砒素(As)或いはリン(P)等の不純物IDをイオン注入する工程を示し、また、図1(b)は、マスク103aの両側の部分である基板101における領域111bおよび111cに対して、不純物IDをイオン注入する工程を示している。
【0008】
ここで、基板101において、不純物IDが注入される表面(SF)から深さ(厚さ)方向にy軸を取り、且つ、横方向(図では右方向が正となっている)にx軸を取って、不純物IDの分布を示す分布関数を求めてシミュレーションを行うようになっている。なお、求めた分布関数は、例えば、不純物IDを注入する所望の領域に対応させて、不純物IDに印加する電圧を決定する等に使用される。
【0009】
図2は従来の半導体集積回路の設計方法における処理の一例を示すフローチャートであり、また、図3は図2に示す半導体集積回路の設計方法を概念的に説明するための図である。
【0010】
図2および図3に示されるように、従来の半導体集積回路の設計方法における処理(例えば、モンテカルロ法を適用して行うイオン注入分布のシミュレーション処理)は、まず、ステップST11でモンテカルロ計算を行い(図3(a)参照)、ステップST12に進んで、モーメントパラメータの計算を行う(図3(b)参照)。
【0011】
ここで、ステップST11におけるモンテカルロ計算は、基板101が実際に存在する部分だけに対して、すなわち、上述した図1(a)および図1(b)における基板101の表面SFから深さ方向に対してのみ行うようになっている。
【0012】
次に、ステップST13に進んで、分布(全領域で定義された関数)を発生し、さらに、ステップST14に進んで、パラメータRp,ΔRp,γおよびβのフィッティングを行う。
【0013】
このように、モンテカルロ計算は、時間が掛かるため、計算結果からパラメータを抽出し、それをテーブル化したデータベースが利用され、そして、パラメータ抽出する際には、フィッティング関数が用意される。
【0014】
ところで、例えば、低加速エネルギーでは、イオン注入された不純物は基板だけでなく、表面からも抜け出してしまう。すなわち、注入された不純物IDは、基板101の内部(表面SFから深さ方向:y軸の正の方向)だけでなく、表面SFから不純物IDが注入されて来る方向(y軸の負の方向)にも不純物IDの粒子(イオン)が飛び出してしまうため、得られる分布形状は表面が不連続に途切れたものとなっていた。
【0015】
さらに、フィッティング関数は全領域でなめらかなものとなっているため、上記のような表面で不連続のモンテカルロ分布のモーメントを抽出してフィッティング関数に返しても精度が悪くなってしまっていた。そのため、例えば、手作業でフィッティング関数に合わせ込むためのモーメントの校正を行っていたのが実情であった。
【0016】
本発明は、上述した従来技術が有する課題に鑑み、モンテカルロ計算結果をモーメント校正なしに精度よく再現することのできる半導体集積回路の設計方法および設計装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の形態によれば、モンテカルロ法を適用した半導体集積回路の設計方法であって、基板に対する処理を行う場合、該基板が存在しない負の領域に対して疑似負基板を仮定するステップと、前記基板および前記仮定された疑似負基板を使用してモンテカルロ計算を行うステップと、前記モンテカルロ計算により得られた結果からモーメントパラメータを計算するステップと、前記計算されたモーメントパラメータを使用して全領域で定義された分布を発生するステップと、を備えることを特徴とする半導体集積回路の設計方法が提供される。
【0018】
本発明の第2の形態によれば、モンテカルロ法を適用した半導体集積回路の設計装置であって、基板に対する処理を行う場合、該基板が存在しない負の領域に対して疑似負基板を仮定する手段と、前記基板および前記仮定された疑似負基板を使用してモンテカルロ計算を行う手段と、前記モンテカルロ計算により得られた結果からモーメントパラメータを計算する手段と、前記計算されたモーメントパラメータを使用して全領域で定義された分布を発生する手段と、を備えることを特徴とする半導体集積回路の設計装置が提供される。
【0019】
本発明の第3の形態によれば、モンテカルロ法を適用した半導体集積回路の設計プログラムであって、コンピュータに、基板に対する処理を行う場合、該基板が存在しない負の領域に対して疑似負基板を仮定させる手順と、前記基板および前記仮定された疑似負基板を使用してモンテカルロ計算を行わせる手順と、前記モンテカルロ計算により得られた結果からモーメントパラメータを計算させる手順と、前記計算されたモーメントパラメータを使用して全領域で定義された分布を発生させる手順と、を実行させ、半導体集積回路の設計を行わせることを特徴とする半導体集積回路の設計プログラムが提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、モンテカルロ計算結果をモーメント校正なしに精度よく再現することのできる半導体集積回路の設計方法および設計装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る半導体集積回路の設計方法および設計装置の実施例を、添付図面を参照して詳述する。
【実施例】
【0022】
図4は本発明に係る半導体集積回路の設計方法におけるモンテカルロ法の適用を説明するための図である。
【0023】
本発明に係る半導体集積回路の設計方法は、例えば、基板に対して不純物を注入(イオン注入)する工程を、モンテカルロ法を適用してシミュレーションするものであり、実際には基板が存在しない負の領域に対して疑似負基板を仮定して処理するようになっている。
【0024】
すなわち、図4に示されるように、基板(101)が存在するy軸の正領域だけでなく、実際には基板が存在しない(エアーが存在する)y軸の負領域にも実際の基板と同じ特性を有する擬似的な基板(疑似負基板)が存在すると仮定し、実際に存在する基板および疑似負基板の両方の全領域に対してモンテカルロ計算を行って不純物の分布を求めるようになっている。
【0025】
図5は本発明に係る半導体集積回路の設計方法における処理の一例を示すフローチャートであり、また、図6は図5に示す半導体集積回路の設計方法を概念的に説明するための図である。
【0026】
図5および図6に示されるように、本実施例の半導体集積回路の設計方法における処理(例えば、モンテカルロ法を適用して行うイオン注入分布のシミュレーション処理)は、まず、ステップST1において、基板に対する処理を行う場合にその基板が存在しない負の領域に対して疑似負基板を仮定し、実際に存在する基板および疑似負基板の両方の全領域に対してモンテカルロ計算を行う(図6(a)参照)。
【0027】
次に、ステップST2に進んで、モンテカルロ計算により得られた結果からモーメントパラメータ(パラメータRp,ΔRp,γおよびβ)を計算する(図6(b)参照)。
【0028】
さらに、ステップST3に進んで、計算されたモーメントパラメータを使用して不純物の分布(分布関数)を発生する(図6(c)参照)。すなわち、ステップST3の処理は、基板(101)が存在するy軸の正領域だけでなく、実際には基板が存在しないy軸の負領域に対しても、それら全領域で定義された分布関数を発生することになる。
【0029】
なお、本実施例の半導体集積回路の設計方法は、従来技術のように、手作業でフィッティングを行う必要がないため、ピアソンIV(Pearson IV)分布だけでなく、ガウス(Gauss)分布等の他の解析関数に対しても幅広くフィッティングを行うことが可能である。
【0030】
図7は本発明に係る半導体集積回路の設計プログラムによる処理で得られた分布関数の例を示す図である。
【0031】
図7(a)は、前述した図1(a)のマスク102aおよび102bで覆われた間の部分の領域111aに対して不純物IDをイオン注入したときの注入される不純物IDの分布N(x,y)の関数(分布関数)を示し、また、図7(b)は、前述した図1(b)のマスク103aの両側の部分の領域111bおよび111cに対して不純物IDをイオン注入したときの注入される不純物IDの分布N(x,y)の関数を示している。
【0032】
すなわち、図7(a)に示されるように、図1(a)の場合の不純物IDの分布N(x,y)は式(1)により表され、また、図7(b)に示されるように、図1(b)の場合の不純物IDの分布N(x,y)は式(2)により表される。なお、図7(b)に示されるように、図1(b)の場合の不純物IDの分布N(x,y)は式(3)のような2次元分布として表すこともできる。
【0033】
これにより、モンテカルロ法の計算結果から自動的にパラメータを抽出し、精度の高い解析モデルを得ることができ、また、この自動的に抽出されたパラメータを利用して解析的に2次元濃度分布を予想することも自動的に行うことが可能になる。
【0034】
図8は本発明に係る半導体集積回路の設計方法によるシミュレーション結果を従来のものと比較して示す図である。なお、図8に示すシミュレーションは、不純物(ID)としてボロンをシリコン基板(101)に対して0.1KeVでイオン注入した場合のモンテカルロ計算の結果を、従来技術による実際の基板内のみの場合と、本実施例による実際の基板およびエアー中の基板(疑似負基板:実際には基板が存在しない負の領域)を考慮した場合とを比較して示すものである。
【0035】
図8から明らかなように、従来技術の実際の基板だけによるモンテカルロ計算の結果(図8では、「モンテカルロ(基板内のみ)」と記載)の曲線と、このモンテカルロ計算から評価したピアソンIV分布(図8では、「基板内のみ」と記載)の曲線はかなりのずれが存在することが分かる。
【0036】
これに対して、本発明の実際の基板およびエアー中の疑似負基板を考慮したときのモンテカルロ計算の結果(図8では、「モンテカルロ(エアー中あり)」と記載)の曲線と、このモンテカルロ計算から評価したピアソンIV分布(図8では、「エアー中あり」と記載)の曲線は、非常によく一致していることが分かる。
【0037】
このように、本発明を適用することにより、モンテカルロ計算結果をモーメント校正なしに精度よく再現することが可能なことが分かる。
【0038】
図9は本発明が適用される半導体集積回路の設計プログラムを記録した媒体の例を説明するための図である。図9において、参照符号10は半導体集積回路の設計処理装置(コンピュータ)、20はプログラム(データ)提供者、そして、30は可搬型記録媒体を示している。
【0039】
本発明は、例えば、図9に示すような処理装置10に対するプログラム(データ)として与えられ、処理装置10により実行される。処理装置10は、プロセッサを含む演算処理装置本体11、および、演算処理装置本体11に対してプログラム(データ)を与え或いは処理された結果を格納する処理装置側メモリ(例えば、RAM(Random Access Memory)やハードディスク)12等を備える。処理装置10に提供されたプログラムは、ローディングされて処理装置10のメインメモリ上で実行される。
【0040】
プログラム提供者20は、プログラムを格納する手段(回線先メモリ:例えば、DASD(Direct Access Storage Device))21を有し、例えば、インターネット等の回線を介してプログラムを処理装置10に提供し、或いは、CD−ROMやDVD等の光ディスクまたは磁気ディスクや磁気テープといった可搬型記録媒体30を介して処理装置10に提供する。本発明に係る半導体集積回路の設計プログラムを記録した媒体は、上記の処理装置側メモリ12、回線先メモリ21、および、可搬型記録媒体30等の様々なものを含むのはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、モンテカルロ法を適用して基板に注入された不純物の分布をシミュレーションするのに適したものであるが、これに限定されるものではなく、モンテカルロ法を適用した半導体集積回路の設計技術として幅広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】基板に対して不純物を注入する半導体集積回路の製造工程を概念的に示す図である。
【図2】従来の半導体集積回路の設計方法における処理の一例を示すフローチャートである。
【図3】図2に示す半導体集積回路の設計方法を概念的に説明するための図である。
【図4】本発明に係る半導体集積回路の設計方法におけるモンテカルロ法の適用を説明するための図である。
【図5】本発明に係る半導体集積回路の設計方法における処理の一例を示すフローチャートである。
【図6】図5に示す半導体集積回路の設計方法を概念的に説明するための図である。
【図7】本発明に係る半導体集積回路の設計プログラムによる処理で得られた分布関数の例を示す図である。
【図8】本発明に係る半導体集積回路の設計方法によるシミュレーション結果を従来のものと比較して示す図である。
【図9】本発明が適用される半導体集積回路の設計プログラムを記録した媒体の例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0043】
10 処理装置
11 演算処理装置本体
12 処理装置側メモリ
20 プログラム(データ)提供者
21 プログラムを格納する手段(回線先メモリ)
30 可搬型記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モンテカルロ法を適用した半導体集積回路の設計方法であって、
基板に対する処理を行う場合、該基板が存在しない負の領域に対して疑似負基板を仮定するステップと、
前記基板および前記仮定された疑似負基板を使用してモンテカルロ計算を行うステップと、
前記モンテカルロ計算により得られた結果からモーメントパラメータを計算するステップと、
前記計算されたモーメントパラメータを使用して全領域で定義された分布を発生するステップと、を備えることを特徴とする半導体集積回路の設計方法。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体集積回路の設計方法において、該半導体集積回路の設計方法は、前記基板に対して不純物を注入する半導体集積回路の処理工程に適用され、
前記基板に注入される前記不純物の分布の集計範囲を可変とし、前記基板が存在しない負の領域においても該不純物の分布の集計を可能としたことを特徴とする半導体集積回路の設計方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体集積回路の設計方法において、
前記モーメントパラメータを計算するステップは、前記モンテカルロ計算により得られた結果から、前記基板の表面に対する横方向の深さ依存のモーメントパラメータを抽出することを特徴とする半導体集積回路の設計方法。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体集積回路の設計方法において、
前記分布を発生するステップは、前記抽出された横方向の深さ依存のモーメントパラメータにより2次元分布を発生することを特徴とする半導体集積回路の設計方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体集積回路の設計方法において、
前記分布を発生するステップは、ピアゾンIV分布にフィッティングすることを特徴とする半導体集積回路の設計方法。
【請求項6】
モンテカルロ法を適用した半導体集積回路の設計装置であって、
基板に対する処理を行う場合、該基板が存在しない負の領域に対して疑似負基板を仮定する手段と、
前記基板および前記仮定された疑似負基板を使用してモンテカルロ計算を行う手段と、
前記モンテカルロ計算により得られた結果からモーメントパラメータを計算する手段と、
前記計算されたモーメントパラメータを使用して全領域で定義された分布を発生する手段と、を備えることを特徴とする半導体集積回路の設計装置。
【請求項7】
モンテカルロ法を適用した半導体集積回路の設計プログラムであって、コンピュータに、
基板に対する処理を行う場合、該基板が存在しない負の領域に対して疑似負基板を仮定させる手順と、
前記基板および前記仮定された疑似負基板を使用してモンテカルロ計算を行わせる手順と、
前記モンテカルロ計算により得られた結果からモーメントパラメータを計算させる手順と、
前記計算されたモーメントパラメータを使用して全領域で定義された分布を発生させる手順と、を実行させ、半導体集積回路の設計を行わせることを特徴とする半導体集積回路の設計プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−38212(P2009−38212A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201070(P2007−201070)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】