説明

半減期を延長した改変ポリペプチド

【課題】ペプチド系医薬品の使用に於いて、その薬品の有効性を増強する為に、特にその血液中での循環半減期を延長されたペプチド系医薬品の提供。
【解決手段】腎臓から排出され、その元の形態においてIgGのFc領域を含まないようなポリペプチドを、IgGのFc領域のサルベージレセプター結合エピトープを含み、それにより増加した循環半減期を有するように改変する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
発明の技術分野 本発明は、サルベージレセプター結合エピトープを含むように変異させたポリペプチドに関する。さらに詳しくは、本発明は、IgG分子のFc領域由来のエピトープを有し、その結果として循環半減期が延長された、腎臓において排泄されるポリペプチドに関する。
【0002】
関連する文献に関する記載 ある特異的レセプターが、IgG分子を分解から保護する血管内空間との急速な平衡状態にあることが1964年に提唱された。ブランベルらのNature,203:1352〜1355(1964)。ブランベルのThe Lanset.,1087〜1093(1965)も参照せよ。腎臓が免疫グロブリンフラグメントの異化作用の主要部位であり、その内因性異化作用のおよそ90%に相当することがわかっている。ウォックナーらのJ.Exp.Med.,126:207(1967)。レセプターの存在は、Ig分子が、このようなレセプターに結合しなければならない特異的な配列、あるいはコンホーメーション決定基をもつことを示唆するものである。タンパク質分解によって生成したIgGのFc領域は、無傷のIgG分子と同じ長さのインビボ半減期を有し、またFabフラグメントは急速に分解するので(シュピーゲルバーグおよびウィーグルのJ.Exp.Med.,121:323〜338(1965);ウォルドマンおよびゲティーの“免疫グロブリンの異化作用”,Progress in Immunol.,1:1187〜1191,アカデミック・プレス,ニューヨーク(1971);シュピーゲルバーグのAdvances in Immunology,Vol.19,F.J.ディクソンおよびH.G.キンケル編,アカデミック・プレス,ニューヨーク(1974),p259〜294;およびスッキアーらのSemin.Nucl.Med.,19:166〜186(1989))、マウスIgG2bの関連配列がCH2またはCH3ドメインに存在すること、および一つまたはその他のドメインの欠失によって急速な分解がもたらされるということが想定された。事実、Fcフラグメントのトリプシン分解によって生成されたヒトIgGのCH2ドメインフラグメントは、FcフラグメントまたはIgG分子が存続する間においてウサギの循環中に存続した;逆に、同様にFcフラグメントのトリプシン分解によって生成されたヒトIgGのCH3ドメイン(pFc’)フラグメントは、急速に消失した。このことは、IgGの異化部位がCH2ドメインにあることを示している。エラーソンらのJ.Immunol.,116:510(1976);ヤスミーンらのJ.Immunol.,116:518(1976)。他の研究では、マウスのIgG2bおよびIgG2a抗体の異なる血管内半減期の決定においてCH3ドメインの配列が重要であることが示された。ポロックらのEur.J.Immunol.20:2021〜2027(1990)。
【0003】
高アフィニティーFcレセプターFcRlまたはClqを結合しないIgG変異体の異化速度は、親の野生型抗体のクリアランスの速度と区別することができず、このことは、異化部位がFcRlまたはClq結合に含まれる部位とは異なることを示している。ウォーツインザクらのMolec.Immunol.,29:221(1992)。また、IgG分子またはFcフラグメント由来の糖質残基の除去は、インビボ半減期においてマイナーな役割であるかまたは影響を与えるものではなく、この効果の範囲は、IgG分子のイソタイプに応じて変化する。ノーズおよびウィグゼルのProc.Natl.Acad.Sci.USA,80:6632(1983);タオおよびモリソンのJ.Immunol.,143:2595(1989);ウォーツインザクらのMol.Immunol.,29:213(19992)。
【0004】
フドウ球菌タンパク質A−IgG複合体が、非複合のIgG分子よりも、血清から、より急速に除去されることが発見された。ディーマらのEur.J.Immunol.,13:605(1983)。Fc−Spa界面に近い残基がIgGクリアランスに含まれるかどうかを決定するために、キムらのEur.J.Immunol.,24:542〜548(1994)では、マウス免疫グロブリンG1分子由来の組換えFcヒンジフラグメントのアミノ酸残基を変化させて、Fcヒンジフラグメントの薬物動態学におけるこれらの突然変異の影響を決定するために、部位指向性突然変異誘発が行われた。著者らは、異化速度をコントロールするIgG1分子の部位(“異化部位”)が、CH2−CH3ドメイン界面に位置し、ブドウ球菌タンパク質A結合部位とオーバーラップすることを示した。1993年11月11日発行のWO93/22332も参照せよ。濃度異化現象もまたズイッカーらのCancer,73:794〜799(1994)において研究されている。IgG異化は、マッソンのJ.Autoimmunity,6:683〜689(1993)においても、IgG異化について議論されている。
【0005】
WO94/04689には、哺乳類血清中のタンパク質の半減期を長くするという特性をもつIgG定常領域ドメインを特徴とする、細胞障害性ドメイン、リガンド結合ドメインおよびこれらの2つのドメインを結合するペプチドをもつタンパク質が記載されている。
【0006】
ヒトFcフラグメントおよびスタフィロコッカス・アウレウス由来のタンパク質AのBフラグメントとの複合体の立体図が、デイセンホーファーのBiochemistry,20:2364(1981)によって提供されている。
【0007】
有効分子サイズが、糸球体濾過のカットオフサイズである70kDaを越える場合に、クリアランスが大きく低下することが示されている。ノウらの“水溶性ポリマーで化学的に修飾された組換えインターロイキン2のラットにおける全身的クリアランスにおける有効分子サイズの関係”,J.Biochem,26315064〜15070(1988)。
発明の要約 したがって、ひとつの具体的な態様において、本発明は、腎臓から排泄され、かつIgGのFc領域を含まない対象ポリペプチドのポリペプチド変異体であって、IgGのFc領域のサルベージレセプター結合エピトープを含み、かつ対象ポリペプチドよりも延長されたインビボ半減期をもつ変異体を提供する。
【0008】
別の態様において、本発明は、該ポリペプチド変異体をコードする核酸、該核酸を含む複製可能なベクター、該核酸を含む宿主細胞、および培養培地中で該宿主細胞を培養し、培養物から該ポリペプチド変異体を回収することを特徴とする該ポリペプチド変異体の産生方法を提供する。核酸分子は検出可能な基で標識することもできるし、標識しなくてもよい。
【0009】
さらに別の態様において、本発明は、HQNLSDGK(配列番号1)、HQNISDGK(配列番号2)またはVISSHLGQ(配列番号31)のうち、1種または2種以上の配列(5’から3’)を含み、さらにPKNSSMISNTP(配列番号3)を含む、Fcではないポリペプチドを提供する。
【0010】
さらに別の態様において、本発明は、腎臓から排泄され、かつIgGのFc領域を含まない対象ポリペプチドを、IgGのFc領域のサルベージレセプター結合エピトープを含み、かつ対象ポリペプチドよりも延長されたインビボ半減期をもつように改変することを特徴とする、ポリペプチド変異体の産生方法を提供する。
【0011】
さらにまた別の態様において、本発明は、 (1)IgG分子のFc領域にあるサルベージレセプター結合エピトープの配列およびコンホメーションを同定し;
(2)腎臓で排泄され、かつFc領域を含まない対象ポリペプチドを、配列を同定された結合エピトープの配列およびコンホメーションを含むように改変し;
(3)ステップ(2)で改変されたポリペプチドの、対象ポリペプチドよりもインビボ半減期が延長されたかどうかについて試験し;次いで、 (4)該ポリペプチドのインビボ半減期が延長されていない場合、延長された半減期が獲得されるまで、対象ポリペプチドの配列を、同定された結合エピトープの配列およびコンホメーションを含むようにさらに改変し、次いでインビボ半減期が延長されたかどうかについて試験することを特徴とする半減期が延長されたポリペプチド変異体の産生方法を提供する。
【0012】
さらにまた別の態様において、本発明は、治療を必要とする哺乳動物、好ましくは患者に有効量の本発明ポリペプチド変異体(ここで、ポリペプチドはFab、(Fab’)2、ダイアボディー(diabodies)、Fvフラグメント、一本鎖Fvフラグメントまたはレセプターであり、LFA−1アンタゴニストとして作動する)を投与することを特徴とするLFA−1媒介性障害の治療方法を提供する。より好ましくは、この変異体は、血清半減期が延長された抗LFA−1のFabまたは(Fab’)2[抗CD18Fabまたは(Fab’)2など]である。
【0013】
他の態様において、本発明は、抗CD11aまたはCD18抗体フラグメント変異体を、CD11aまたはCD18を含むことが予想されるサンプル、特に血清サンプルと接触させ、結合が生じるかどうかを検出することを特徴とする、CD11aまたはCD18のインビトロまたはインビボにおける検出方法を提供する。Fc領域は、生物学的活性を失うように、そのコンホメーションを改変しない予定の対象ポリペプチドの領域に位置する(移植される)べきであり、生物学的活性を維持するためにポリペプチドのリガンドまたは抗原と結合する能力を妨害しないように、位置するべきである。
【0014】
好ましい具体例の詳細な記載 定義 本明細書で用いる“対象ポリペプチド”とは、生物学的活性をもち、腎臓で排泄され、“IgGのFc領域”を含まないポリペプチドを意味する。“IgGのFc領域”とは、イソタイプIgGの免疫グロブリンのFc部分を意味し、抗体テクノロジーに携わる当業者には公知である。このようなポリペプチドは、酵母などの真核生物、鳥類、植物、昆虫または哺乳動物由来であるかまたは大腸菌などの細菌由来であるかのいずれにしても、ペプチドおよびタンパク質である。対象ポリペプチドは、天然物から単離してもよいし、あるいは合成によるかまたは組換え技術を用いて製造してもよい。好ましい具体例において、対象ポリペプチドは、抗原結合ドメインなどのIgドメインまたはIg様ドメインを含む。
【0015】
対象ポリペプチドの腎臓からのクリアランスは、少なくとも一部は該ポリペプチドの分子量に従属している。分子量の大きすぎるポリペプチドは哺乳動物の腎臓からは排泄されないであろう。対象ポリペプチド(または変異体)のが腎臓で排泄されるかどうかを決定する試験の一例は、対象ポリペプチドまたは変異体を検出可能なマーカーで標識し、実際の治療で用いる予定のものと同じ処方にて、治療される哺乳動物と同じタイプの動物に投与するという臨床的実験である。その後、該哺乳動物の尿の臨床サンプルを採取し、分析して標識が検出されるかどうかを測定する。標識が検出されれば、対象ポリペプチドは腎臓で排泄されたということである。
一般に、腎臓で排泄されるポリペプチドの分子量は、約5000〜10000ダルトンであるが、いくらか高めあるいは低めの分子量のものでも、上記腎臓排泄試験に合格すれば本発明の基準に該当する。
【0016】
対象ポリペプチドは、インビボエフェクターまたは抗原機能、もしくはポリペプチド(天然コンホメーションあるいは変性コンホメーションのいずれにしても)
またはそのフラグメントによって直接または間接的に引き起こされるかまたは行われる活性を有するものであれば、生物学的に活性である。エフェクター機能には、レセプター結合およびいずれかのキャリアー結合活性、対象ポリペプチドのアゴニスムまたはアンタゴニスム、特に複製、DNA調節機能、種々の増殖因子の生物学的活性の制御、レセプターの活性化、不活性化、アップレギュレーションまたはダウンレギュレーション、細胞増殖または分化などの増殖シグナルの変換が包含される。生物学的活性があるとは、対象ポリペプチドまたは哺乳動物におけるその等価物に対して惹起された抗体と交差反応しうるエピトープまたは抗原部位を所有することを意味する。
【0017】
哺乳動物の対象ポリペプチドの例としては、レニン、ヒト成長ホルモン,ウシ成長ホルモンなどの成長ホルモン、成長ホルモン放出因子、副甲状腺ホルモン、チロイド刺激ホルモン、リポタンパク質、α1−抗インスリン、インスリンA鎖、インスリンB鎖、プロインスリン、トロンボプトテイン、濾胞刺激ホルモン、カルシトニン、黄体形成ホルモン、グルカゴン、VIIIC因子,IX因子,組織因子およびフォンビルブラント因子などの血液凝固因子、プロテインCなどの抗血液凝固因子、心房性ナトリウム利尿因子、肺界面活性物、ウロキナーゼまたはヒト尿または組織型プラスミノーンアクチベーター(t−PA)などのプラスミノーンアクチベーター、ボンベジン、トロンビン、造血増殖因子、αおよびβ腫瘍壊死因子、エンケファリナーゼ、ヒト血清アルブミンなどの血清アルブミン、ミュラー阻止物質、リラキシンA鎖、リラキシンB鎖。プロリラキシン、マウスゴナドトロピン関連ペプチド、βラクタマーゼなどの微生物タンパク質、DNアーゼ、インヒビン、アクチビン、血管内皮増殖因子(VEGF)、ホルモンまたは増殖因子のレセプター、インテグリン、プロテインAまたはD、リウマチ因子、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3,−4,−5または−6(NT−3,NT−4,NT−5またはNT−6)またはNGF−βなどの神経増殖因子などの神経栄養因子、カルディオトロフィン−1(CT−1)などのカルディオトロフィン(心臓高栄養因子)、血小板由来増殖因子(PDGF)、aFGFおよびbFGFなどの線維芽増殖因子、上皮増殖因子(EGF)、TG−αおよびTGF−β(TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、TGF−β4またはTGF−β5を含む)などのトランスフォーミング成長因子(TGF)、インスリン様増殖因子IおよびII(IGF−IおよびIGF−II)、デス(1〜3)−IGF−I(脳IGF−I)、インスリン様増殖因子結合タンパク質、CD3,CD4,CD8およびCD19などのCDタンパク質、エリスロポエチン、オステオインダクティブ因子、イムノトキシン、骨形態形成タンパク質(MMP)、インターフェロンα,βおよびγなどのインターフェロン、M−CSF,GM−CSFおよびG−CSFなどのコロニー刺激因子(CSF)、IL−1〜IL−10などのインターロイキン、天然のIgGのFc領域をもたない抗HER−2抗体、スーパーオキシドジスムターゼ、T細胞レセプター、表面膜タンパク質、崩壊促進因子、エイズエンベロープのタンパク質などのウイルス抗原、輸送タンパク質、ホーミングレセプター、アグレッシン、調節タンパク質、天然のIgGのFc領域をもたない抗体、および上記列挙したポリペプチドのいずれかのフラグメントなどの分子が挙げられる。
【0018】
好ましい対象は哺乳動物のポリペプチドである。このような哺乳動物のペプチドの例としては、Fv,Fab、(Fab')2およびIgGFcドメインをもたない抗−HER−2フラグメントなどの抗体フラグメント、t−PA,gb120、DNアーゼ、IGF−I、IGF−II、脳IGF−I、成長ホルモン、レラキシン鎖、成長ホルモン放出因子、インスリン鎖またはプロインスリン、ウロキナーゼ、イムノトキシン、ニューロトロフィンおよび抗原が挙げられる。さらに好ましいポリペプチドは、Fab、(Fab')2、ダイアボディー、Fvフラグメント、一本鎖Fvフラグメントまたはレセプターである。さらにより好ましいポリペプチドは、抗IgE、抗HER2または抗CD18Fabまたは(Fab')2であり、ヒトのポリペプチドまたはヒト化ポリペプチドが最も好ましい。
【0019】
本明細書で用いる“ポリペプチド変異体”とは、1個または2個以上のアミノ酸置換、挿入および/または欠失などのアミノ酸変異を生じた対象ポリペプチドのアミノ酸配列変異体を意味する。このような変異体は前述したように生物学的に活性であり、対象ポリペプチドとの配列の同一性は必然的に100%以下である。好ましい具体例において、生物学的に活性なポリペプチド変異体においては、対象ポリペプチドとは少なくとも約70%、好ましくは約75%、さらに好ましくは約80%、さらにまた好ましくは85%、さらにさらに好ましくは約90%、最も好ましくは約95%のアミノ酸配列が同一である。
【0020】
“インビボ半減期”とは、投与された哺乳動物の血液中を循環する対象ポリペプチドまたはポリペプチド変異体の半減期を意味する。
【0021】
本明細書で用いる“サルベージレセプター結合エピトープ”とは、IgG分子のインビボ血清半減期が延長される原因となる、IgG分子(IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4など)のFc領域のエピトープを意味する。たとえば、図2では、下線部が代表的なエピトープを、また星印が重要な残基を示している。サルベージレセプター結合エピトープを決定するには、イソタイプIgG1、IgG2およびIgG4が好ましい。
【0022】
“ポリメラーゼ鎖反応”または“PCR”とは、米国特許第4683195号
(1987年7月28日登録)に記載されている微量の核酸,RNAおよび/またはDNAの特定の一片を増幅する操作または技術を意味する。一般に、オリゴヌクレオチドプライマーを設計可能にするためには、対象となる領域あるいはそれを越えた領域の末端からの配列情報を入手しうる必要がある。これらのプライマーは、増幅されるべきテンプレートの相補鎖に対して同一または類似の配列である。2つのプライマーの5’末端ヌクレオチドは増幅される配列の末端と一致する。PCRを利用して、特定のRNA配列、全ゲノムDNAからの特定のDNA配列および全細胞RNAから転写されたcDNA、バクテリオファージまたはプラスミド配列などを増幅することができる[一般に、ミュリスらのCold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.,51:263(1987);エルリッヒ編,PCR Technology(ストックトン・プレス,ニューヨーク,1989)を参照]。本明細書では、PCRは、特定の核酸片を増幅または生成するためにプライマーとして既知の核酸を利用し、ならびに核酸ポリメラーゼを利用することを特徴とする、核酸テストサンプルを増幅する核酸ポリメラーゼ反応法ひとつの具体例であるとみなす(それに限定されるものではない)。
【0023】
“抗体(Ab)”および“免疫グロブリン(Ig)”は、構造的特徴が同じ糖タンパク質である。抗体は特定の抗原に対して結合特異性を呈するが、免疫グロブリンには抗体および抗原特異性のない他の抗体様分子の両方が包含される。後者のポリペプチドは、たとえば、リンパ系において低濃度で産生され、骨髄腫においては増加した濃度で産生される。
【0024】
“天然抗体”および“天然免疫グロブリン”は、2本の同一の軽(L)鎖および2本の同一の重(H)鎖からなる、通常、約150000ダルトンのヘテロ4量体の糖タンパク質である。各L鎖とH鎖はひとつの共有ジスルフィド結合によって結合しているが、ジスルフィド結合の数は、免疫グロブリンのイソタイプのH鎖の種類によって異なる。各H鎖とL鎖もまた通例、ジスルフィド橋を介して結合している。各H鎖は一方の端に可変ドメイン(VH)とそれに続く複数の定常ドメインを有する。各L鎖は一方の端に可変ドメイン(VLおよび)を有し、他方の端に定常ドメインを有する。L鎖の定常ドメインはH鎖の最初の定常ドメインと並び、L鎖の可変ドメインはH鎖の可変ドメインと並んでいる。特別のアミノ酸残基が、L鎖とH鎖の可変ドメインの間の界面を形成すると考えられている[クロシアらのJ.Mol.Biol.,186:651〜663(1985);ノヴォツニーおよびヘイバーのProc.Natl.Acad.Sci.USA,82:4592〜4596(1985)]。
【0025】
“可変とは、可変ドメインのある部分が、抗体間で広範囲にわたって異なり、それぞれ特定の抗体の特定の抗原に対する結合および特異性に用いられるという事実を意味する。しかし、可変性は抗体の可変ドメインに一様に分散しているわけではない。L鎖とH鎖の可変ドメインの両方に存在する相補性決定領域(CDR)または超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのうち、保存性が高い部分をフレームワーク(FR)と呼ぶ。天然のH鎖およびL鎖の可変ドメインは、それぞれFR領域を含み、多くの場合βシート配置になっており、3つのCDRによって連結されてループ構造を形成しており、βシート構造が部分的であるものも存在する。各鎖のCDRはFR領域によってきわめて近接して保持されており、他の鎖のCDRとともに、抗体の抗原結合部位の形成に関与している(カバットら、前記を参照)。定常ドメインは、抗原に対する抗体の結合には直接には関与しないが、抗体依存性細胞毒性における抗体の関与などの種々のエフェクター機能を示す。
【0026】
抗体をパパインで処理することによって、それぞれ1個の抗原結合部位を含むFabフラグメントと呼ばれる2つの同一の抗原結合フラグメントと残部のFcフラグメント(この名称は、容易に結晶化(crystalize)するというその能力からきたものである)に分解される。ペプシン処理を行うと、2つの抗原結合部位をもち、依然として抗原に架橋することが可能なF(ab')フラグメントが得られる。
【0027】
“Fv”は、完全抗原認識および結合部位を含む最小の抗体フラグメントである。この領域は、非共有会合によって緊密に結合した、ひとつのH鎖およびひとつのL鎖可変ドメインの2量体からなる。この配置においては、可変ドメインの3つのCDRは相互に作用して、VH−VL2量体の表面の抗原結合部位を決定する。すなわち、6個のCDRによって抗体に、抗原結合特異性が付与される。しかし、単一の可変ドメイン(または抗原特異性をもつ3個のCDRのみを含む半分のFv)でさえ、完全な結合部位抗原よりも親和性は低いとはいえ、抗原を認識して結合する能力を有している。
【0028】
Fabフラグメントもまた、L鎖の定常ドメインとH鎖の第1定常ドメイン(CH1)を含む。Fab'フラグメントは、H鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に抗体のヒンジ領域の1個または2個以上のシステインを含む数個の残基が添加されていることによりFabフラグメントとは異なっている。Fab'−SHを、本明細書ではFab'と称するが、これは定常ドメインのシステイン残基から遊離のチオール基が生じたものである。F(ab')2抗体フラグメントは、もともとはFab'フラグメントのペアとして作成されたものであり、各フラグメントの間にヒンジ部システインを有している。抗体フラグメントの他の化学的カップリングもまた公知である。
【0029】
“一本鎖Fv”または“sFv”抗体フラグメントは、抗体のVHおよびVLドメインを含み、これらのドメインが一本鎖ポリペプチド鎖で存在するものである。一般に、Fvポリペプチドはさらに、VHおよびVLドメインの間にポリペプチドリンカーを含む。sFvについては、プラックタン,AのThe Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,ローゼンバーグおよびムーア編,スプリンガー−ベルラーグ,ニューヨーク,269〜315(1994)を参照。
【0030】
いずれかの脊椎動物由来の抗体(免疫グロブリン)の“L鎖”は、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、κおよびλと呼ばれる2つのはっきりと異なるタイプのうちのどちらかに分類することができる。
【0031】
H鎖の定常ドメインのアミノ酸配列によって、免疫グロブリンをいくつかのクラスに分類することができる。これらが免疫グロブリンの主要な5クラス、すなわち、IgA,IgD,IgE,IgGおよびIgMであり、これらはさらに幾つかのサブクラス(イソタイプ)に分類することができる;IgG1,IgG2,IgG3,IgG4,IgA1およびIgA2など。異なるクラスの免疫グロブリンに対応するH鎖の定常ドメインはそれぞれ、α,δ,εおよびμと呼ばれる。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および3次元配置は公知である。
【0032】
“抗体”は、広義で用いられる語句であり、単一モノクローナル抗体(アゴニストおよびアンタゴニスト抗体を含む)、ポリエピトープ特異的抗体組成物、二特異的抗体、ダイアボディーおよび一本鎖分子ならびに抗体フラグメント(Fab、F(ab')2およびFvなど)は、それらが所望の生物学的活性を呈する限りは、特別に包含される。
【0033】
本明細書で用いる“モノクローナル抗体”は、実質的に均質な抗体の集団、すなわち、数少なくはあるけれども天然に起こりうる突然変異以外は、集団が同一であることを特徴とする個々の抗体から得られる抗体を意味する。モノクローナル抗体は、特異性が高く、単一の抗原部位を指向する。さらに、通常、異なる決定基(エピトープ)を指向する異なる抗体を含む常套の(ポリクローナル)抗体調製物とは反対に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を指向する。
【0034】
さらに、それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体は、それらがハイブリドーマ培養によって合成され、他の免疫グロブリンによる汚染がないことにおいて利点がある。“モノクローナル”とは、実質的に均質な集団の抗体から得られる抗体の特徴を意味し、いずれかの特定の方法による抗体の産生を要求するものとして理解されるべきではない。たとえば、本発明に用いるモノクローナル抗体は、ケーラーおよびミルスタインによってNature,256:495(1975)に最初に記載されたハイブリドーマ法または、組換えDNA法(たとえば米国特許第4816567号(キャビリーら))によって製造することができる。
【0035】
“モノクローナル抗体”は、たとえばクラックソンらのNature,352:624〜628(1991)およびマークスらのJ.Mol.Biol.,222:581〜597(1991)に記載の技術を用いて、ファージ抗体ライブラリから単離することもできる。
【0036】
本明細書で用いるモノクローナル抗体は、特別に“キメラ”抗体(免疫グロブリン)を包含する。キメラ抗体とは、H鎖および/またはL鎖の一部が、特定の種から誘導される抗体または特定の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体において、対応する配列と同一であるかまたは相同であるが、鎖の残りの部分が、他の種から誘導される抗体または他の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体において、対応する配列と同一であるかまたは相同である抗体、ならびにそれが所望の生物学的活性を呈する限りはこのような抗体のフラグメントを意味する[キャバリーら,前記;モリソンらのProc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851〜6855(1984)]。
【0037】
非ヒト(マウスなど)抗体の“ヒト化”体は、キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖またはそのフラグメント(Fv,Fab,Fab',F(ab')2または抗体の他の抗原結合配列など)であり、非ヒト免疫グロブリンから誘導された最小の配列を含む。ヒト化抗体は、大部分はヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、レシピエントの相補性決定領域(CDR)の残基が、所望の特異性,親和性およびキャパシティーを有するマウス、ラットまたはラビットなどの非ヒト種のCDRの残基によって置換されている(ドナー抗体)。いくつかの例では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基が、対応する非ヒト残基で置換されている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、導入されるCDRまたはフレームワーク配列にも発見されない残基を含むことができる。これらの変更は、抗体の性能をさらに改良し、最適化するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、実質的にすべての少なくともひとつ、代表的には2つの可変ドメインを含み、該可変ドメインにおいては、すべてまたは実質的にすべてのCDR領域が、非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、すべてまたは実質的にすべてのFR領域が、ヒト免疫グロブリン配列のFR領域である。ヒト化抗体は、免疫グロブリン、代表的にはヒト免疫グロブリンの定常領域(Fc)の少なくとも一部を含むのが最適である。さらに詳細な情報は次の文献を参照せよ。ジョーンズらのNature,321:522〜525(1986);ライヒマンらのNature,332:323〜329(1988);およびプレスタのCurr.Op.Strut.Biol.,2:593〜596(1992)。ヒト化抗体としては、抗体の抗原結合領域が、対象抗原でマカカサルを感作することによって生産された抗体から誘導されたものであるPrimatized(商標)抗体が挙げられる。
【0038】
“ヒトにおける非免疫原性”とは、医薬的に許容しうる担体中の対象ポリペプチドまたはポリペプチド変異体を、医薬的有効量でヒトの適当な組織に接触させるに際し、対象ポリペプチドまたは変異体に対する感受性または耐性が、適当な潜伏期(たとえば8〜14日)後に、対象ポリペプチドまたは変異体を2回目に投与する際に現れないことを意味する。
【0039】
“ダイアボディー”は、同一のポリペプチド鎖上でL鎖可変ドメイン(VL)とH鎖可変ドメイン(VH)が結合している(VH−VL)、2つの抗原結合部位をもつ小さい抗体フラグメントを意味する。同一鎖上で2つのドメインを結合するには短すぎるリンカーを用いることによって、ドメインは他方の鎖の相補的ドメインと強制的に結合され、2つの抗原結合部位を創製する。ダイアボディーに関しては、たとえば、EP404097;WO93/11161;およびホリガーらのProc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444〜6448(1993)により詳細に記載されている。
【0040】
“LFA−1−媒介性障害”とは、リンパ球上のLFA−1レセプターを必要とする細胞癒着性相互作用によって引き起こされる病的状態を意味する。このような障害の例としては、乾癬などの炎症性皮膚病、炎症性腸疾患関連応答(クローン病および潰瘍性大腸炎など)、成人呼吸困難症候群、皮膚炎、髄膜炎、脳炎、ブドウ膜炎、湿疹ならびに喘息などのアレルギー状態および他のT細胞の浸潤ならびに慢性炎症性応答を伴う状態、皮膚過敏反応(毒性ツタおよび毒性オークなど)、アテローム性動脈硬化、白血球癒着欠損、リューマチ性関節炎,全身性エリテマトーデス(SLE),糖尿病,多発性硬化症,レイノー症候群,自己免疫性甲状腺炎,実験的自己免疫脳脊髄炎,シェーグレン症候群,若年発症型糖尿病,および結核,サルコイドーシス,多発性筋炎,肉芽腫症および脈管炎において代表的にみられるサイトカインおよびTリンパ球媒介性遅延型過敏症関連の自己免疫応答などの自己免疫疾患、悪性貧血、白血球漏出を伴う疾患、CNS炎症性障害、敗血症または外傷に続いて起こる多発性臓器傷害症候群、自己免疫性溶血性貧血、ミエセミア・グラヴィス(myethemia gravis)、抗原抗体複合体媒介性疾患、移植片対宿主病または宿主対移植片病を含むすべてのタイプの移植、出血性ショック、肺酸素中毒、肺線維症、傷の回復、B細胞リンパ腫などのT細胞炎症応答が挙げられる。
【0041】
特に、CD11aまたはCD11bに対する抗体にとって好ましい病例としては、乾癬、移植拒絶反応、喘息、傷の回復、および肺線維症が挙げられる。CD18に対する抗体にとって好ましい病例としては、出血性ショック、髄膜炎、脳炎、多発性硬化症、喘息および肺酸素中毒が挙げられる。CD20に対する抗体にとって好ましい病例としては、B細胞リンパ腫が挙げられる。
【0042】
“治療”は、治療的処置および予防的処置の両方を意味する。治療を必要とする対象には、すでに上記のような障害を受けている対象および障害をうけやすい対象あるいは障害を予防されるべき対象が含まれる。
【0043】
治療の対象となる“哺乳動物”とは、ヒト、イヌ,ウマ,ネコ,ヒツジ,ブタ,ウシなどの家庭および農場の家畜、動物園の動物、スポーツ用の動物またはペットなどの哺乳類として分類される動物のいずれをも意味する。好ましくは、本明細書において対象とする哺乳動物は、ヒトである。
【0044】
一般に、“LFA−1アンタゴニスト”は、CD11aまたはCD18のいずれかあるいは両方を指向する抗体を意味するが、ICAM−1の可溶性体(ICAM−1細胞外ドメイン)、ICAM−1に対する抗体およびそのフラグメント、またはLFA−1とICAM−1の相互作用を阻害しうるその他の分子も包含される。
【0045】
“抗LFA−1抗体”または“抗LFA−1Mab”とは、CD11aまたはCD18のいずれかあるいは両方を指向する抗体を意味する。抗CD11a抗体としては、たとえばMHM24[ヒルドレスらのEur.J.Immunol.,13:202〜208(1983)]、R3.1[IgG1;ロスレイン,ベーリンガー・イングルハイム・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド,リッジフィールド,CT]、25−3[または25.3;イムノテック,フランスから入手可能;オリーブらのフェルドマン編“ヒトT細胞クローン、免疫調節への新しいアプローチ”,クリフトン,NJ,フマナ(1986),p173を参照]、KBA[IgG2a;ニシムラらのCell.Immunol.,107:32(1987);ニシムラらのCell.Immunol.,94:122(1985)]、M7/15[IgG2b;スプリンガーらのImmunol.Rev.,68:171(1982)]、IOT16[ヴァーモット・デスローチスらのScad.J.Immunol.,33:277〜286(1991)]、SPV7(ヴァーモットら,前記)およびM17[IgG2a;ATCCから入手可能,これはラット抗マウスCD11a抗体である]が挙げられる。
【0046】
抗CD18抗体の例としては、MHM23(ヒルドレスら,前記)、M18/2[IgG2a;サンチェスマドリッドらのJ.Exp.Med.,158:586(1983)]、H52[フェケートらのJ.Clin.Lab.Immunol.,31:145〜149(1990)]、Mas191c(ヴァーモット・デスローチスら,前記)、IOT18(ヴァーモット・デスローチスら,前記)、60.3[タイラーらのClin.Exp.Immunol.,71:324〜328(1988)]および60.1[キャンパナらのEur.J.Immunol.,16:537〜542(1986)]が挙げられる。
【0047】
適当なLFA−1アンタゴニスト(抗体を含む)の他の例としては、ハッチングスらのNature,348:639(1990)、1991年11月28日発行のWO91/18011、1991年11月14日発行のWO91/16928、1991年11月14日発行のWO91/16927、1991年6月13日発行のカナダ特許出願第2008368号、1990年12月13日発行のWO90/15076、1990年9月20日発行のWO90/10652、1990年9月19日発行のEP387668、1990年8月1日発行のEP379904、1989年12月13日発行のEP346078、米国特許第5071964号、米国特許第5002869号、1988年11月10日発行のオーストラリア特許出願第8815518号、1988年11月9日発行のEP289949、および1989年2月22日発行のEP303692号が挙げられる。
【0048】
発明を実施するための態様 1.本発明の一般的な説明 本発明は、目的のポリペプチドの循環半減期は増大するが、生物学的な活性は損失されないよう、IgGのFc領域のサルベージレセプター(受容体)結合エピトープを目的ポリペプチドに導入する(組み込む)ことに関する。これは、Fc領域を模倣するために目的ポリペプチドの適当な領域で突然変異を誘発すること、又はペプチドタグにエピトープを導入し、次いでそれを目的のポリペプチドといずれかの端又は中程で融合させること、又はDNA又はペプチド合成など、任意の方法で行うことができる。
【0049】
そのような増大したインビボ半減期を持つポリペプチドの調製の系統的な方法は、幾つかのステップ(工程)を含む。第1の工程はIgG分子のFc領域上のサルベージレセプター結合エピトープの配列及び立体配座(コンフォメーション)の同定に関する。一度、このエピトープが同定されれば、目的ポリペプチドの配列を、同定した結合エピトープの配列及びコンフォメーションを含むように修飾する。配列を突然変異させた後、そのポリペプチド変異体を、元のポリペプチド、すなわち、目的ポリペプチド、よりも長いインビボ半減期を有するかどうかについて試験する。試験の結果、そのポリペプチドがより長いインビボ半減期を持たない場合には、同定した結合エピトープの配列及びコンフォメーションを含むよう、その配列をさらに改変する。改変したポリペプチドをより長いインビボ半減期について試験する。そして、このプロセスを、より長いインビボ半減期を示す分子が得られるまで繰り返す。
【0050】
このようにして目的のポリペプチドに導入されたサルベージレセプター結合エピトープは、上で定義した適当なエピトープの任意のものであってよく、その性質は、例えば、修飾されるポリペプチドのタイプに依存する。転移は目的ポリペプチドの生物活性が維持されるように、即ち、転移された部分が目的ポリペプチドのコンフォメーションに悪い影響を及ぼさない、又はその生物活性を付与するリガンドとの結合に影響を及ぼさないように行う。例えば、目的ポリペプチドが抗体である場合、サルベージレセプター結合エピトープは、抗体の抗原結合部位を阻害するように位置せしめない。
【0051】
好ましくは、目的ポリペプチドはIgドメイン又はIg−様ドメインを含有しており、サルベージレセプター結合エピトープは、このIgドメイン又はIg−様ドメイン内に位置するように配される。より好ましくは、エピトープは、Fcドメインの1又は2個のループ由来の任意の1又はそれ以上のアミノ酸が目的ポリペプチドのIg又はIg−様ドメインの類似の位置に転移されている領域からなる。
【0052】
より好ましくは、Fcドメインの1又は2個のループから3又はそれ以上のアミノ酸が転移されている。さらに好ましくは、エピトープはFc領域(例えばIgGの)のCH2ドメインから得られ、IgのCH1、CH3又はVH領域、又は1以上のそのような領域に転移されているか、Ig−様ドメインに転移されている。
【0053】
あるいは、エピトープはFc領域のCH2ドメインから得られ、目的ポリペプチドのIgのCL領域又はVL領域又はその両方、に転移されているか、Ig−様ドメインに転移されている。
【0054】
例えば、目的ポリペプチドが抗−CD18である変異体について議論する目的で、様々なIg類(即ち、ヒトIgG1CH1ドメイン、ヒトIgG2CH1ドメイン、ヒトIgG3CH1ドメイン、ヒトIgG4CH1ドメイン、ヒトカッパCLドメイン及びヒトラムダCLドメイン)の適切なコンセンサス一次構造、並びに本明細書の好ましい抗−CD18Fab変異体、Fabv1bの具体的な配列を図示した第2図を参考にする。さらに、第2図には、Fabv1bの、目的のそして最も重要な残基も示されている。好ましい態様では、重要な残基は、図2でアステリスクを付したものであり、即ち、Fab v1bの1ループ内の、MISに対して1アミノ酸C−末端側のT残基を有するMIS、及びFab v1bのもう1つのループ内の、HQNに対して2アミノ酸C−末端側のD残基を有するHQN及びD残基に対して1アミノ酸C−末端側のK残基である。
【0055】
最も好ましい態様では、特に目的のポリペプチドはFab又は(Fab')2であって、サルベージレセプター結合エピトープは以下の配列(5'から3'側): PKNSSMISNTP(配列番号3)を含有し、所望によりさらに以下の配列群:HQSLGTQ(配列番号11)、HQNLSDGK(配列番号1)、HQNISDGK(配列番号2)、又はVISSHLGQ(配列番号31)からなる群から選択される配列を含有している。
【0056】
他の最も好ましい態様では、サルベージレセプター結合エピトープは、配列(1又は複数)(5'から3')HQNLSDGK(配列番号1)、HQNISDGK(配列番号2)、又はVISSHLGQ(配列番号31)及び配列:PKNSSMISNTP(配列番号3)を含有するFcでないポリペプチドである。このエピトープは目的ポリペプチドと適当に融合しており、好ましい態様では目的ポリペプチドと融合しているペプチド上に含有されている。この目的に適したポリペプチドの例には、その配列が突然変異した場合に、逆の結果として、改変された2次又は3次構造を示すものが含まれ、成長ホルモンや神経成長因子が挙げられる。
【0057】
1つの態様では、変異体は組換え法で調製される。即ち、変異体をコードする核酸を調製し、複製可能なベクターに配置し、このベクターを用いて発現のための適当な宿主細胞をトランスフェクト又は形質転換する。ポリペプチド変異体は、宿主細胞を培養培地で培養し、宿主細胞培養からポリペプチド変異体を回収することにより製造される。
【0058】
ポリペプチド変異体が分泌される場合、それは培養培地から回収される。他の態様では、ポリペプチド変異体は、腎臓から浄化された、IgGのFc領域を含有していない目的ポリペプチドを、IgGのFc領域のサルベージレセプター結合エピトープを含有しインビボ半減期が増大されるよう、改変することで調製される。改変工程は、好ましくは、Kunkel,部位特異的カセット、又はPCR突然変異誘発によって行う。Kunkel突然変異誘発法は、例えば、Kunkel,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82: 488-492(1985)に記載されている。
【0059】
2.目的ポリペプチド及びその変異体の調製 以下の議論の大部分は、目的ポリペプチド又はその変異体をコードする核酸を含有するベクターで形質転換された細胞を培養し、細胞培養から目的ポリペプチド又はその変異体を回収することにより、目的ポリペプチド又はその変異体を製造することに関する。また、目的ポリペプチドを、WO91/06667(1991年5月16日公開)に記載されているように、相同組換えにより製造され得ることも想定されている。簡単に説明すると、この方法は、内因性ポリペプチドを含有している一次哺乳動物細胞(例えば、所望のポリペプチドがヒト由来であればヒト細胞)を、増幅可能な遺伝子(ジヒドロ葉酸レダクターゼ[DHFR]又は下記のその他のもの)と、目的ポリペプチドをコードする遺伝子を増幅させる、目的ポリペプチドの遺伝子のコード領域の部位のDNA配列と相同な、少なくとも約150bpの長さのフランキング領域を最小限1つ含む構築物(即ちベクター)で形質転換することを含む。増幅可能な遺伝子は目的ポリペプチドをコードする遺伝子の発現を妨げない位置になければならない。形質転換は、増幅可能な領域を決定するために、構築物が相同的に一次細胞のゲノムに組み込まれるように行う。
【0060】
次いで、増幅可能な遺伝子又は構築物中の他のマーカーを利用して、構築物を含有する一次細胞を選択する。マーカー遺伝子が存在すると、宿主細胞ゲノム内の構築物の存在及び組み込みが達成されている。選択は2次宿主内で行われるので、それ以上、一次細胞を選別する必要はない。要望に応じて、相同組換えの発生をPCRを用い、そして得られた増幅DNA配列の配列決定、又は適正な相同組み込からのDNAが存在するときにはPCRフラグメントの適当な長さを決定しそのようなフラグメントを含有する細胞のみを増幅することでも行える。また、望む場合には、選択した細胞をこの時点で、適当な増幅試薬(増幅可能な遺伝子がDHFRである場合にはメトトレキセート)を用いて細胞にストレスを与えることにより増幅し、標的遺伝子の多コピーを得る。しかしながら、増幅ステップは、以下の2次形質転換の後まで行わないことが好ましい。
【0061】
選択工程の後、増幅可能な全領域を包含するに十分な大きさのゲノムのDNA部分を、選択した一次細胞から単離する。次いで、2次哺乳動物発現宿主細胞をこれらのゲノムDNA部分で形質転換し、クローンし、増幅可能な領域を含有するクローンを選択する。次いで、1次細胞内での増幅がなされていない場合には、増幅可能な領域を、増幅試薬を用いて増幅する。最後に、この、目的ポリペプチドを含有する増幅可能な領域の多コピーを有する2次発現宿主細胞を遺伝子の発現及びポリペプチドの製造のために培養する。
【0062】
A.目的ポリペプチドをコードするDNAの単離 目的ポリペプチドをコードするDNAは、目的ポリペプチドをコードするmRNAを有し、検出可能なレベルでそれを発現すると考えられる組織から調製された任意のcDNAライブラリーから得ることができる。目的ポリペプチドをコードする遺伝子はまた、ゲノムライブラリー又は完全なヌクレオチド又はアミノ酸配列が既知であると仮定して、インビトロオリゴヌクレオチド合成により、得ることができる。
【0063】
ライブラリーを目的遺伝子又はそれによりコードされているタンパク質を同定するよう設計されたプローブでスクリーンする。cDNA発現ライブラリーのための適当なプローブには、目的ポリペプチドを認識し特異的に結合するモノクローナル又はポリクローナル抗体;同一又は異なる種由来の目的ポリペプチドをコードするcDNAの既知又は予測部分をコードする長さ約20−80塩基のオリゴヌクレオチド;及び/又は同一又は類似の遺伝子をコードする相補又はホモローガスcDNA又はそのフラグメントが含まれる。ゲノムライブラリーのスクリーニングに適したプローブには、同一又は類似の遺伝子をコードするオリゴヌクレオチド、cDNA、又はそのフラグメント及び/又はホモローガスなゲノムcDNA又はそのフラグメントが含まれるが、それらに限定されない。選択したプローブによるcDNA又はゲノムライブラリーのスクリーニングは、Sambrooket al.,Molecular Cloning: A Laboratory Manual (New York: ColdSpring Harbor Laboratory Press,1989)の10−12章に記載のような標準的な手法で行うことができる。
【0064】
目的ポリペプチドをコードする遺伝子を単離する別法は、Sambrook et al.(前掲)の14節に記載のPCRを用いる方法である。この方法には、目的ポリペプチドとハイブリダイズしうるオリゴヌクレオチドプローブを用いる必要がある。オリゴヌクレオチドの選択における戦略は以下の通りである。
本発明を実施する好ましい方法は、様々な組織から得たcDNAライブラリーのスクリーニングに、注意深く選択されたオリゴヌクレオチド配列を用いることである。
【0065】
プローブとして選択されたオリゴヌクレオチド配列は、疑陽性が最小となるに十分なほど十分な長さを有し、明確(あいまいでない)であるべきである。実際のヌクレオチド配列(群)は、通常、保存、又は高度に相同な、ヌクレオチド配列である。オリゴヌクレオチドは1又はそれ以上の部分で縮重していてよい。同義性オリゴヌクレオチドの使用は、優先的なコドン使用率が知られていない種からのライブラリーをスクリーニングする場合に、特に重要であろう。
【0066】
オリゴヌクレオチドは、スクリーニングされているライブラリーのDNAとハイブリダイズしたときに検出しうるよう、ラベルされている必要がある。好ましい標識法は、当該技術分野で周知のごとく、32P−標識ATPとポリヌクレオチドキナーゼを用いてオリゴヌクレオチドを放射性標識することである。しかしながら、ビオチニル化又は酵素標識など、これらに限定されないが、他の方法を用いてオリゴヌクレオチドを標識してもよい。
【0067】
特に興味深い目的ポリペプチドをコードする核酸は、ポリペプチド全長をコードするものである。幾つかの好ましい態様では、核酸配列は目的ポリペプチドのシグナル配列を含む。全タンパク質コード配列を有する核酸は、選択したcDNA又はゲノムライブラリーを、本明細書に初めて開示された推定のアミノ酸配列を用いてスクリーニングし、必要に応じて、Sambrookら(前掲)の第7.79節に記載の、通常のプライマー伸長法を用いて前駆体と恐らくcDNAに逆転写されなかったmRNAのプロセッシング中間体とを検出することで得る。
【0068】
B.様々な目的ポリペプチドの調製 目的ポリペプチドの変異体は、目的ポリペプチドをコードするDNAに、上記のごとくFc領域のための適当なヌクレオチドの変更を導入するか、所望のポリペプチド変異体をインビトロ合成することにより適切に調製される。そのような変異体は、例えば、目的ポリペプチドが適当なエピトープを含み血清中でより長い半減期を有するよう、目的ポリペプチドのアミノ酸配列内における残基の欠失、挿入又は置換を含む。最終的な構築物が所望の特徴を有することを条件として、該最終構築物に到達するには欠失、挿入及び置換の任意の組合わせが可能である。
【0069】
アミノ酸の変更はまた、グリコシル化の数又は部位の変化など、目的ポリペプチドの翻訳後の工程を変更するかもしれない。さらに、大多数の哺乳動物遺伝子のように、目的ポリペプチドは、マルチエキソン遺伝子によってコードされているかもしれない。
【0070】
目的ポリペプチドのアミノ酸配列変異体を設計するために、突然変異部位の位置決定と突然変異の性質を、修飾しようとしている具体的な目的ポリペプチドにより決定する。例えば、まず、サルベージレセプターエピトープを含有するIgGCH2内の2つのループに類似の構造であるループを位置させることにより、イムノグロブリン又はイムノグロブリン様ドメインを修飾する。突然変異の部位は、例えば、(1)まず保存アミノ酸選択物で置換した後、達成された結果に応じてより根本的(急激)な選択物で置換する、(2)標的残基を欠失する、又は(3)位置決めした部位の隣に同一又は異なるクラスの残基を挿入する、あるいはこれらオプション1−3の組合わせにより、個別に又は連続的に突然変異させることができる。
【0071】
突然変異誘発に好適な位置である、目的ポリペプチドの幾つかの残基又は領域の同定のための通常の方法は、「アラニンスキャニング突然変異誘発(alaninescanning mutagenesis)」と呼ばれており、Cunningham 及びWells,Scienece,244: 1081-1085(1989)に記載されている。ここでは、標的残基の残基又は基(例えば、arg,asp,his,lys,及びgluなどの荷電残基)を同定して、アミノ酸と細胞内又は外の、周囲の水性環境との相互作用に影響を及ぼすよう、中性又は負の電荷を有するアミノ酸(最も好ましくはアラニン又はポリアラニン)で置換する。次いで、置換に機能的な感受性を示すドメインにさらに、置換部位に、又は置換部位に対して、さらなる変異又は他の変異を導入することにより、該部位をさらに練り上げる。このように、アミノ酸配列変異を導入する部位は予め決定するが、突然変異そのものの性質は、予め決定されている必要がない。例えば、特定の部位での突然変異の遂行を最適化するために、標的コドン又は領域でアラニンスキャニング又はランダム突然変異誘発を行い、製造された変異体を循環中での半減期の増大に関してスクリーニングする。
【0072】
アミノ酸配列の欠失は、通常、約1〜30残基の範囲、より好ましくは約1〜10残基の範囲であり、典型的に隣接している。隣接欠失は普通、偶数個の残基で行うが、単一又は奇数個の欠失も本発明の範囲内である。例として、ポリペプチドの半減期を改変するために、目的ポリペプチドのアミノ酸配列と配列の同一性を最も多く共有しているLFA−1抗体間で相同性が低い領域に欠失を導入する。目的ポリペプチドの、他のリガンドの結合部位の1つと実質上相同な領域内における欠失は、目的ポリペプチドの生物学的活性に一層重要な改変を、より起こし易いであろう。逐次的な欠失の数は、目的ポリペプチドの影響されたドメインでの3次構造(例、ベータープリーツシート又はアルファヘリックス)が保存されるよう選択する。
【0073】
アミノ酸配列の挿入は、単一又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入と同様、1残基から100又はそれ以上の長さの残基を含むポリペプチドの、アミノ−及び/又はカルボキシ−末端融合を包含する。配列内挿入(即ち、成熟ポリペプチド配列内への挿入)は、通常、約1〜10残基、好ましくは1〜5残基、最も好ましくは1〜3残基の範囲である。挿入は、好ましくは偶数個の残基で行うが、それは要求されない。挿入の例には、目的ポリペプチドの内部部分への挿入、並びに所望のエピトープを含有するタンパク質又はペプチドであって、融合の結果、半減期を増大させるものとの、N−又はC−末端での融合を含む。
変異の第3のグループはアミノ酸置換変異体である。これらの変異体では、ポリペプチド分子から少なくとも1つのアミノ酸残基が除去され、異なる残基がその位置に挿入されている。置換変異誘発において最も興味深い部位は、抗体の1又は2つのループを含む。他の興味深い部位は、様々な種から得られたポリペプチドの特定の残基が、全動物種の目的ポリペプチドの間で同一であり、この保存の程度はこれらの分子に共通する生物学的活性の達成における重要性を示唆している。これらの部位、特に、少なくとも3つ他の種で全く同一に保存された部位の配列の範囲にある部位を、相対的に保存的な方法で置換する。以下の表1には、そのような保存的な置換を好適な置換の項目の下方に示す。そのような置換が生物学的活性の変化をもたらせば、さらに、表1に例示的な置換とされているもの、あるいはアミノ酸クラスに関して後述するように、より実質的な変化を導入し、生成物をスクリーンする。

【0074】
当該ポリペプチドの機能における実質的な修飾は、(a)置換領域におけるポリペプチド骨格の構造、たとえば、シートやらせん立体配置など、(b)標的部位における該分子の荷電またはハイドロホビシティー、または(c)側鎖の嵩ばり具合を維持することに対する作用が有意に異なる置換を選択することにより行う。天然に存在する残基は共通する側鎖の特性に基づいてグループに分けられる:
(1)疎水性:ノルロイシン、メチオニン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン;
(2)中性で親水性:システイン、セリン、トレオニン;
(3)酸性:アスパラギン酸、グルタミン酸
(4)塩基性:アスパラギン、グルタミン、ヒスチジン、リシン、アルギニン;
(5)鎖の方向性に影響を及ぼす残基:グリシン、プロリン;および (6)芳香族:トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン。
【0075】
非保存的な置換は、これらクラスの一つの成員を他のクラスのものと交換することを必要とするであろう。かかる置換残基はまた、保存的な置換部位中に導入することもできるし、または一層好ましくは残りの(非保存的な)部位に導入することができる。
【0076】
該分子中に存在する1またはそれ以上のプロテアーゼ開裂部位を不活化するのが望ましい。これら部位は、たとえばトリプシンの場合には、アルギニン残基やリシン残基についてコードアミノ酸配列を調べることにより同定される。プロテアーゼ開裂部位が同定されたら、標的残基を他の残基、好ましくはグルタミンなどの塩基性残基またはセリンなどの親水性残基と置換するか、該残基を欠失させるか、または該残基の直後にプロリン残基を挿入することにより該開裂部位をタンパク質分解による開裂に対して不活化させる。
【0077】
他の態様において、シグナル配列の開始メチオニン残基以外のメチオニン残基、またはこれら各メチオニン残基のN末端側またはC末端側の約3残基内に位置する残基を他の残基と置換するか(好ましくは表1に従い)または欠失させる。別のやり方として、約1〜3残基を該部位に隣接させて挿入する。
【0078】
当該ポリペプチドの適切な立体配置を維持するのに関与していないシステイン残基はまた、一般にセリンと置換して該分子の酸化的安定性を改善し、異常な架橋を防ぐことができる。
【0079】
第一の態様において、当該ポリペプチドのアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は、当該技術分野で知られた種々の方法により調製される。これら方法には、オリゴヌクレオチド媒体(または部位特異的)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、および該変異体の基となるポリペプチド(「当該ポリペプチド」)の以前に調製した変異体または非変異体のカセット突然変異誘発が含まれるが、これらに限られるわけではない。
【0080】
オリゴヌクレオチド媒体突然変異誘発は、本発明における置換、欠失、および挿入ポリペプチド変異体を調製する好ましい方法である。この技術は、アデルマン(Adelman)らのDNA、2:183(1983)に記載されているように当該技術分野でよく知られている。簡単に説明すると、所望の変異をコードするオリゴヌクレオチドをDNA鋳型にハイブリダイズさせることによって該DNAを改変するものであり、その際、該鋳型は、変化させようとするポリペプチドの変化していないまたは天然のDNA配列を含む一本鎖の形態のプラスミドまたはバクテリオファージである。ハイブリダイゼーションの後、DNAポリメラーゼを用いて該鋳型の第二の全相補鎖を合成させると、該鎖は、かくして該オリゴヌクレオチドプライマーを含んでおり、該DNA中に該選択された変化をコードしているであろう。一般に、少なくとも25ヌクレオチドの長さのオリゴヌクレオチドを用いる。
【0081】
最適のオリゴヌクレオチドは、該変異をコードするヌクレオチドのいずれかの側に該鋳型に完全に相補的な12〜15ヌクレオチドを有しているであろう。このことによって、該オリゴヌクレオチドが該一本鎖DNA鋳型分子に適切にハイブリダイズすることが確実になる。これらオリゴヌクレオチドは、クレア(Crea)らのProc.Natl.Acad.Sci.USA、75:5765(1978)に記載されているような当該技術分野において知られた技術を用いて容易に合成される。
【0082】
DNA鋳型は、バクテリオファージM13ベクターに由来するベクター(市販のM13mp18およびM13mp19ベクターが適している)、または一本鎖ファージの複製起点を含むベクターにより得ることができる(ビエラ(Viera)ら、Meth.Enzymol.153:3(1987)に記載)。それゆえ、変異させようとするDNAをこれらベクターの一つに挿入して一本鎖の鋳型を得ることができる。一本鎖鋳型の製造はサンブルックらの上記文献の4.21−4.41章に記載されている。
【0083】
別法として、一本鎖鋳型は標準技術を用い、二本鎖プラスミド(または他の)DNAを変性させることにより得ることができる。
【0084】
元のDNA配列を変化させて本発明のポリペプチド変異体を生成させるため、オリゴヌクレオチドを適当なハイブリダイズ条件下で一本鎖鋳型にハイブリダイズさせる。ついで、DNA重合酵素、通常はDNAポリメラーゼIのクレノー断片を加え、該オリゴヌクレオチドを合成プライマーとして用いて該鋳型の相補鎖を合成する。かくして、DNAの一方の鎖が該ポリペプチドの変異形態をコードし、他方の鎖(原鋳型)が該ポリペプチドの元の変化していない配列をコードしているヘテロ二本鎖分子が生成する。ついで、このヘテロ二本鎖分子を適当な宿主細胞、通常は大腸菌JM101などの原核細胞中に形質転換する。細胞を増殖させた後、アガロースプレート上に蒔き、32Pで放射性標識したオリゴヌクレオチドプライマーを用いてスクリーニングして該変異DNAを含む細菌コロニーを同定する。ついで、変異した領域を取り出し、タンパク質産生のための適当なベクター、一般には適当な宿主の形質転換に典型的に用いるタイプの発現ベクター中に導入する。
【0085】
上記に記載した方法は、該プラスミドの両鎖が変異を含むホモ二本鎖分子を生成するように修飾することができる。この修飾は以下のようである:一本鎖オリゴヌクレオチドを一本鎖鋳型に上記のようにしてアニールする。3つのデオキシリボヌクレオチド、すなわちデオキシリボアデノシン(dATP)、デオキシリボグアノシン(dGTP)およびデオキシリボチミジン(dTTP)の混合物を、dCTP−(αS)と称する修飾したチオ−デオキシリボシトシン(アマーシャム・コーポレーションから入手可能)と混合する。この混合物を上記鋳型−オリゴヌクレオチド複合体に加える。この混合物にDNAポリメラーゼを加えると、変異した塩基以外は鋳型と同一のDNAの鎖が生成する。さらに、この新たなDNA鎖はdCTPの代わりにdCTP−(αS)を含み、制限エンドヌクレアーゼ消化から保護するように働く。
【0086】
ヘテロ二本鎖の鋳型鎖に適当な制限酵素で切れ目を入れた後、鋳型鎖を突然変異すべき部位を含む領域を過ぎてExoIIIヌクレアーゼまたは他の適当なヌクレアーゼで消化することができる。ついで反応を停止して部分的にのみ一本鎖である分子とする。ついで4つのすべてのデオキシリボヌクレオチド三リン酸、ATPおよびDNAリガーゼの存在下でDNAポリメラーゼを用いて完全なDNAホモ二本鎖を生成させる。ついで、このホモ二本鎖分子を上記のようにして大腸菌JM101などの適当な宿主細胞中に形質転換することができる。
【0087】
置換すべき1を越えるアミノ酸を有するポリペプチド変異体をコードするDNAは、幾つかの方法の一つにより生成することができる。これらアミノ酸がポリペプチド鎖中で近接して位置する場合は、所望のアミノ酸置換のすべてをコードする一つのオリゴヌクレオチドを用いて同時に突然変異誘発することができる。
しかしながら、これらアミノ酸が互いに若干の距離にて位置する(約10以上のアミノ酸により離れている)場合は、所望の変化のすべてをコードする単一のオリゴヌクレオチドを生成することは一層困難である。その代わり、2つの別法の一つを用いることができる。
【0088】
第一の方法では、置換すべき各アミノ酸に対して別々のオリゴヌクレオチドを調製する。ついで、これらオリゴヌクレオチドを一本鎖鋳型DNAに同時にアニールし、該鋳型からDNAの第二の鎖を合成すると、これは所望のアミノ酸置換のすべてをコードしているであろう。
【0089】
別の方法は、所望の変異体を生成するための突然変異誘発を2回またはそれ以上行うことを含む。1回目は単一の変異体について記載したものと同じである。
【0090】
野生型DNAを鋳型として用い、この鋳型に第一の所望のアミノ酸置換をコードするオリゴヌクレオチドをアニールし、ついでヘテロ二本鎖DNA分子を生成する。2回目の突然変異誘発には1回目の突然変異誘発で生成した変異DNAを鋳型として利用する。それゆえ、この鋳型はすでに1またはそれ以上の変異を含んでいる。ついで、この鋳型に別の所望のアミノ酸置換をコードするオリゴヌクレオチドをアニールさせると、それから得られるDNA鎖は1回目および2回目の両方の突然変異誘発からの変異をコードしている。この結果得られるDNAを3回目の突然変異誘発に鋳型として用いることができる、以下、同様。
【0091】
PCR突然変異誘発もまた、本発明のアミノ酸変異体を製造するのに適している。以下の記載ではDNAを言及しているが、この技術はまたRNAにも応用できることが理解される。PCR法とは一般に以下の手順をいう(エーリッヒ、上掲、ヒグチ(R.Higuchi)による章、61〜70頁):少量の鋳型DNAをPCRにおいて出発物質として用いる場合に、鋳型DNA中の対応領域とわずかに異なるプライマーを用い、該プライマーが該鋳型と異なる位置でのみ鋳型配列とは異なる特定のDNA断片を比較的大量に生成させることができる。プラスミドDNA中に変異を導入するため、プライマーの一方を該変異の位置に重複するように、および該変異を含むようにデザインする:他方のプライマーは該プラスミドの反対鎖の一続きの配列と同一でなければならないが、この配列は該プラスミドDNA中のいずれの位置に位置させることもできる。しかしながら、最終的に両プライマーにより境界付けられるDNAの全増幅領域を容易にシークエンシングすることができるように、第二のプライマーの配列は第一のプライマーの配列から200ヌクレオチド内に位置するのが好ましい。このようなプライマーペアを用いたPCR増幅の結果、該プライマーにより特定される変異の位置、および鋳型コピーは若干の間違いを起こしやすいことから、おそらく他の位置において異なるDNA断片の集団が得られる。
【0092】
生成物質に対する鋳型比が極めて低い場合には、生成DNA断片の大部分は所望の変異を含んでいる。この生成物質を用い、PCR鋳型として働くプラスミド中の対応領域を標準DNA法を用いて置換する。別々の位置の変異は、第二の変異プライマーを用いるか、または異なる変異プライマーを用いた第二のPCRを行って得られる2つのPCR断片をベクター断片に3部(またはそれ以上)ライゲーションとしてライゲートすることにより、同時に導入することができる。
【0093】
PCR突然変異誘発の具体例において、鋳型プラスミドDNA(1μg)を、該プラスミドDNA中の増幅すべき領域の外側に唯一の認識部位を有する制限エンドヌクレアーゼで消化することにより線状にする。この物質のうち100ngを、PCR緩衝液(4つのデオキシヌクレオチド三リン酸を含有し、ジーンアンプ(GeneAmpR)キット(パーキン−エルマー・シータス(Perkin−Elmer Cetus)、ノーウォーク、コネチカットおよびエメリービル(Emeryville)、カリフォルニアから入手)中に含まれる)および25ピコモルの各オリゴヌクレオチドプライマーを最終容量50μLで含有するPCR混合物に加える。この反応混合物に35μLの鉱油を重層する。この反応混合物を100℃にて5分間変性し、しばらく氷上に置き、ついで1μLのサーマス・アクアティクス(Thermus aquaticus)(Taq)DNAポリメラーゼ(5単位/μL、パーキン−エルマー・シータスから購入)を鉱油層の下に加える。ついで、反応混合物を、下記のようにプログラムしたDNAサーマルサイクラー(パーキン−エルマー・シータスから購入)中に挿入する: 2分間 55℃
30秒間 72℃、ついで下記の19サイクル:
30秒間 94℃
30秒間 55℃、および
30秒間 72℃。
【0094】
プログラムの最後に反応バイアルをサーマルサイクラーから取り出し、水性相を新たなバイアルに移し、フェノール/クロロホルム(50:50容量)で抽出し、エタノール沈殿し、DNAを標準手順により回収する。この物質を、引き続きベクター中に挿入するために適当な処理に供する。
【0095】
変異体の他の製造方法であるカセット突然変異誘発は、ウエルズ(Wells)ら、Gene、34:315(1985)によって記載された技術に基づく。出発物質は変異すべきDNAを含むプラスミド(または他のベクター)である。変異すべきDNAのコドンを同定する。該同定した変異部位の両側に唯一の制限エンドヌクレアーゼ部位が存在していなければならない。そのような制限部位が存在しない場合には、上記オリゴヌクレオチド媒体突然変異誘発法を用いて該DNA中の適当な位置に導入することができる。制限部位がプラスミド中に導入された後、プラスミドをこれら部位で切断して線状にする。これら制限部位の間のDNAの配列をコードするが所望の変異を含む二本鎖オリゴヌクレオチドを標準手順を用いて合成する。これら2つの鎖を別々に合成し、ついで標準法を用いてハイブリダイズする。この二本鎖オリゴヌクレオチドをカセットと称する。このカセットは、プラスミド中に直接ライゲートすることができるように、線状にしたプラスミドの末端と適合する3'末端および5'末端を有するようにデザインされている。このプラスミドは今や変異したDNA配列を含んでいる。
【0096】
C.複製しうるベクター中への核酸の挿入 ポリペプチド変異体をコードする核酸(たとえば、cDNAまたはゲノムDNA)をさらにクローニングするため(DNAの増幅)または発現のために複製しうるベクター中に挿入する。多くのベクターが利用可能であり、適当なベクターの選択は、(1)DNA増幅に用いるのかまたはDNA発現に用いるのか、(2)ベクター中に挿入すべき核酸のサイズ、および(3)ベクターで形質転換すべき宿主細胞に依存するであろう。各ベクターはその機能(DNAの増幅またはDNAの発現)およびそれが適合する宿主細胞に依存して種々の成分を含む。ベクター成分としては、これらに限られるものではないが、一般に下記の1またはそれ以上が挙げられる:シグナル配列、複製起点、1またはそれ以上のマーカー遺伝子、エンハンサー要素、プロモーター、および転写停止配列。
【0097】
(i)シグナル配列成分 本発明のポリペプチド変異体は直接製造しうるのみならず、異種ポリペプチド、好ましくはシグナル配列または成熟ポリペプチド変異体のN末端側に特異的な開裂部位を有する他のポリペプチドとの融合体としても製造しうる。一般にシグナル配列はベクターの成分であってよいが、またはベクター中に挿入されるDNAの一部であってよい。選択する異種シグナル配列は、宿主細胞により認識されプロセシングされる(すなわち、シグナルペプチダーゼによる開裂)ものでなければならない。当該シグナル配列を認識およびプロセシングしない原核宿主細胞の場合は、該シグナル配列を、たとえば、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lpp、または熱安定エンテロトキシンIIリーダーよりなる群から選ばれた原核シグナル配列で置換する。酵母分泌のためには、元のまたは野生型のシグナル配列を、たとえば、酵母インベルターゼリーダー、酵母α因子リーダー(サッカロミセスおよびクルイベロミセスα因子リーダーを含む、後者は1991年4月23日発行の米国特許第5,010,182号に記載)、酵母酸性ホスファターゼリーダー、マウス唾液腺アミラーゼリーダー、カルボキシペプチダーゼリーダー、酵母BAR1リーダー、フミコラ・ラノギノーサ(Humicola lanoginosa)、リパーゼリーダー、カンジダ・アルビカンス(C.albicans)グルコアミラーゼリーダー(1990年4月4日発行のEP362,179号)、または1990年11月15日発行のWO90/13646号に記載されたシグナルで置換することができる。哺乳動物細胞発現においては元のシグナル配列(すなわち、通常、当該変異体が由来する当該天然ポリペプチドのヒト細胞からのインビボ分泌を指令するポリペプチドプレ配列)で十分であるが、他の動物ポリペプチドからのシグナル配列や同種または関連種の分泌ポリペプチドからのシグナル配列などの他の哺乳動物シグナル配列、並びにウイルス分泌リーダー、たとえば単純ヘルペスgDシグナルも適している。
そのような前駆体領域のDNAは、成熟ポリペプチド変異体をコードするDNAに読み取り枠にてライゲートさせる。
【0098】
(ii)複製起点成分 発現ベクターおよびクローニングベクターの両者とも、1またはそれ以上の選択された宿主細胞中でベクターが複製することを可能にする核酸配列を含む。一般にクローニングベクターでは、この配列はベクターが宿主染色体DNAと独立に複製することを可能にするものであり、複製起点または自律複製配列を含む。
そのような配列は種々の細菌、酵母およびウイルスについてよく知られている。
プラスミドpBR322(ATCC37,017)からの複製起点または他の市販の細菌ベクター、たとえばpKK223−3(ファルマシア・ファイン・ケミカルズ(Pharmacia Fine Chemicals)、ウプサラ、スウェーデン)およびpGEM1(プロメガ・バイオテク(Promega Biotech)、マジソン、ウイスコンシン)からの複製起点が大抵のグラム陰性菌に適しており、2μプラスミド起点が酵母に適しており、種々のウイルス起点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSV、またはBPV)が哺乳動物細胞でベクターをクローニングするのに有用である。一般に、哺乳動物発現ベクターでは複製起点成分は必要ない(SV40起点は、それが初期プロモーターを含有するがゆえにのみ一般に用いられる)。
【0099】
大抵の発現ベクターは「シャトル」ベクターである、すなわち、少なくとも一つのクラスの生物中で複製しうるが、発現のために他の生物中にトランスフェクションすることができる。たとえば、ベクターを大腸菌でクローニングし、ついで同じベクターを、宿主細胞の染色体と独立に複製することはできないが、発現のために酵母または哺乳動物細胞中にトランスフェクションする。
【0100】
DNAはまた宿主ゲノム中に挿入することにより増幅できる。このことは、バシラス種を宿主として用い、たとえば、バシラスゲノムDNA中に認められる配列に相補的なDNA配列をベクター中に含めることにより容易に行われる。バシラスを該ベクターでトランスフェクションするとゲノムとの相同組換えおよび該DNAの挿入となる。しかしながら、ポリペプチド変異体をコードするゲノムDNAの回収は、外来複製ベクターのものに比べて一層複雑である。なぜなら、該DNAの切り出しのために制限酵素消化が必要だからである。
【0101】
(iii)選択遺伝子成分 発現ベクターおよびクローニングベクターは選択遺伝子(選択マーカーとも称する)を有していなければならない。この遺伝子は、選択培地中で増殖した形質転換宿主細胞の生存または増殖に必要なタンパク質をコードしている。該選択遺伝子を含むベクターで形質転換されていない宿主細胞は該培地中で生存できないであろう。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質または他の毒素、たとえばアンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセート、またはテトラサイクリンに対する耐性を付与するタンパク質、(b)栄養要求性の欠損を補足するタンパク質、または(c)複合培地からは利用できない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする遺伝子であり、たとえば、バシラスに対するD−アラニンラセマーゼをコードする遺伝子である。
【0102】
選択スキームの一つの例では宿主細胞の増殖を阻止するために薬剤を用いる。異種遺伝子で首尾よく形質転換した細胞は薬剤耐性を付与するタンパク質を産生し、それゆえ、この選択を生き残る。そのような優性選択の例では、薬剤のネオマイシン(サザーン(Southern)ら、J.Molec.Appl.Genet.1:327[1982])、ミコフェノール酸(マリガン(Mulligan)ら、Science、209:1422[1980])、またはハイグロマイシン(サグデン(Sugden)ら、Mol.Cell.Biol.、5:410〜413[1985])を用いる。上記3つの例では真核条件下で細菌遺伝子を用い、それぞれ適当な薬剤G418またはネオマイシン(ジェネチシン)、xgpt(ミコフェノール酸)、またはハイグロマイシンに対する耐性が付与される。
【0103】
哺乳動物細胞の適当な選択マーカーの他の例は、DHFRやチミジンキナーゼなどの核酸を取り込む細胞成分の同定を可能にするものである。哺乳動物細胞の形質転換体を、該マーカーを取り込むことによって形質転換体のみが独自に適合して生存する選択圧下に置く。選択圧の負荷は、培地中の選択剤の濃度を順次変えていく条件下で形質転換体を培養し、それによって選択遺伝子およびポリペプチド変異体をコードするDNAの両者の増幅へと導くことにより行う。増幅とは、増殖にとって重要なタンパク質の産生のために一層要求される遺伝子が、連続的に生成した組換え細胞の染色体内にタンデムに繰り返されるプロセスである。増幅されたDNAからは一層増加した量のポリペプチド変異体が合成される。増幅しうる遺伝子の他の例としては、メタロチオネインIおよびII、好ましくは霊長類のメタロチオネイン遺伝子、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼなどが挙げられる。
【0104】
たとえば、DHFR選択遺伝子で形質転換した細胞は、まず、DHFRの競合アンタゴニストであるメトトレキセート(Mtx)を含む培地中ですべての形質転換体を培養することにより同定される。野生型のDHFRを用いた場合の適当な宿主細胞は、ウアラウプ(Urlaub)およびチェイシン(Chasin)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、77:4216(1980)によって記載されたようにして調製および増殖された、DHFR活性を欠くチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株である。ついで、形質転換した細胞を増加レベルのメトトレキセートにさらす。これによりDHFR遺伝子の複数のコピーが合成され、それと同時にポリペプチド変異体をコードするDNAなどの発現ベクターを含む他のDNAの複数のコピーも合成される。この増幅技術は、たとえばMtxに対する耐性の大きな変異体DHFR遺伝子を用いた場合には内生のDHFRの存在にも拘わらず、他のいかなる適当な宿主、たとえばATCC No.CCL61CHO−K1に用いることができる(EP117,060号)。
【0105】
別のやり方として、ポリペプチド変異体、野生型のDHFRタンパク質、およびアミノグリコシド3−ホスホトランスフェラーゼ(APH)などの他の選択マーカーをコードするDNA配列で形質転換したまたは同時形質転換した宿主細胞(とりわけ内生のDHFRを含む野生型宿主細胞)は、アミノグリコシド系抗生物質、たとえばカナマイシン、ネオマイシン、またはG418などの選択マーカーに対する選択剤を含有する培地中での細胞増殖により選択することができる。米国特許第4,965,199号を参照。
【0106】
酵母中で使用するのに適した選択遺伝子は、酵母プラスミドYRp7(スティンチコーム(Stinchcomb)ら、Nature、282:39[1979];キングスマン(Kingsman)ら、Gene、7:141[1979];またはチェンパー(Tschemper)ら、Gene、10:157[1980])中に存在するtrp1遺伝子である。trp1遺伝子は、トリプトファン中で増殖する能力を欠く酵母の変異株、たとえばATCC No.44076またはPEP4−1(ジョーンズ(Jones)、Genetics、85:12[1977])に選択マーカーを付与する。酵母宿主細胞ゲノム中のtrp1欠失の存在は、トリプトファンの不在下での増殖により形質転換体を検出するための有効な環境を提供する。同様に、Leu2欠失酵母株(ATCC No.20,622または38,626)は、Leu2遺伝子を有する公知のプラスミドにより補足される。
【0107】
さらに、1.6μm環状プラスミドpKD1からのベクターをクルイベロミセス酵母の形質転換のために用いることができる。ビアンキ(Bianchi)ら、Curr.Genet.、12:185(1987)。もっと最近では、組換えウシキモシンの大スケール産生のための発現系がクルイベロミセス・ラクチスについて報告されている。ファン・デン・ベルク(Van den Berg)、Bio/Technology、8:135(1990)。クルイベロミセスの工業株による成熟組換えヒト血清アルブミンの分泌に適したマルチコピー発現ベクターもまた開示されている。フレーア(Fleer)ら、Bio/Technology、9:968〜975(1991)。
【0108】
(IV)プロモーター成分
発現ベクターとクローニングベクターは、通常、宿主生物によって認識され、そして核酸と実施可能な形で結合される1個のプロモーターを持っている。プロモーターは、構造遺伝子の開始コドンの上流側(5')に位置する未翻訳配列(通常は、約100〜1000bp以内)で、本件のポリペプチド変異体の核酸配列のような、特定の核酸配列に、発現可能な形で結合して、その転写と翻訳を制御している。この種のプロモーターは、典型的には、2つのクラス、インデューシブルとコンスティテューテイブに分類される。インデューシブルプロモーターは、培養条件の変化、例えば温度の変化や、養分の存在、不存在などの変化に呼応して、その制御下のDNAからの転写の増加したレベルを開始するプロモーターである。現時点で、種々の潜在的宿主細胞によって認識される多数のプロモーターが、よく知られている。これらのプロモーターは、制限酵素で、もとのDNAからプロモーターを取り出し、その取り出したプロモーター配列をベクターに挿入することによって、ポリペプチド変異体をコードしているDNAに発現可能な形で結合される。対象のポリペプチドのプロモーターと多くの異種プロモーターはDNAの直接の増幅及び/又は発現に使用されうる。しかし、対象のポリペプチドのプロモーターに比べて、異種プロモーターは組み換体として製造されるポリペプチド変異体のより多い転写とより高い収率を一般的に可能とするので、好ましい。
【0109】
原核細胞宿主の使用に適当なプロモーターはβ−ラクタマーゼ及びラクトースプロモーター系(チャンら(Chan et al.)Nature,275:615[1978])及びゲデルら(Goeddel et al.),Nature,281:544[1979])、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系(ゲデル(Goeddel,Nucleic Acids Res.,8:4057[1980],EP36,776)及びtacプロモーターのようなハイブリッドプロモーター(デボーエルら(deBoer et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,80:21−25[1983])を含む。しかし、他の公知の細菌プロモーターも適用できる。これらの核酸配列は公表されており、それにより、当業者はポリペプチド変異体をコードするDNAに必要な制限サイトを供給するリンカーやアダプターを用いて、そのプロモーターに、発現可能な形に結合することができる(シーベンリストら(Siebenlist et al.,Cell,20:269[1980])。バクテリア系で使用されるプロモーターは、ポリペプチド変異体をコードしているDNAに、発現可能な形で結合されるシャイン−ダルガーノ(SD)配列もまた含む。
【0110】
プロモーター配列は、真核細胞用も知られている。事実、真核遺伝子は転写が開始する領域からおよそ25〜30ベース上流に位置するAT−に富んだ領域を有する。多くの遺伝子の転写開始から70〜80ベース上流に見られる他の配列は、1つのCXCAAT領域(但しXはどの核酸でもよい。)である。たいていの真核遺伝子の3’末端には、コーディング配列の3’末端にポリAテイルの付加のためのシグナルの可能性もあるAATAAA配列がある。これらの全ての配列は、真核発現ベクターに適当に挿入される。
【0111】
酵母宿主の使用に適したプロモーター配列の例は、3−ホスホグリセレートキナーゼのためのプロモーター(ヒッチェマンら(Hitzeman et al.,J.Biol.Chem.,255:2073[1980])又はエノラーゼ、グリセルアルデヒド−3−ホスフェイトデハイドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルベイトデカルボキシラーゼ、ホスホフラクトキナーゼ、グルコース−6−ホスフェイトイソメラーゼ、3−ホスホグリセレイトムターゼ、ピルベイトキナーゼ、トリオースホスフェイトイソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、グルコキナーゼ等の他の解糖酵素のためのプロモーターを含む(ヘスら(Hess et al.,J.Adv.EnzymeReg.,7:149[1968]及びホーランド(Holland,Biochemistry,17:4900[1978])。
【0112】
生長条件によって制御されている他の転写の利点を有するインデューシブルプロモーターである他の酵母プロモーターは、アルコールデハイドロゲナーゼZ、イソチトクロームC、酸性ホスファターゼ、窒素代謝に伴なう分解酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド−3−ホスフェイトデハイドロゲナーゼ、及びマルトースとガラクトース利用に関係のある酵素、のためのプロモーター領域である。酵母発現に使用される適当なベクターとプロモーターは、ヒッチェンマン(Hitzeman et al.)のEP73657に、さらに詳述されている。酵母エンハンサーもまた酵母プロモーターと共に好都合に使用される。哺乳動物の宿主細胞におけるベクターからのポリペプチド変異体の転写は、例えば、ポリオーマウイールス、鶏痘ウイールス(UK2,211,504:1989.7.5公開)、アデノウイールス(アデノウイールス2の如き)、牛パピローマウイールス、ニワトリ肉腫ウイールス、サイトメガロウイールス、レトロウイールス、肝炎Bウイールスそして最も好ましくは、シミアンウイールス40(SV40)の如きウイールスの染色体から得られるプロモーターによって、アクチンプロモーターやイムノグロブリンプロモーターの如き異種哺乳動物プロモーターによって、熱ショックプロモーターによって、およびポリペプチド変異体配列に通常伴なうプロモーターによって、これらのプロモーターが宿主細胞系に適合する限りにおいて、制御されている。
【0113】
SV40の初期及び後期プロモーターは、SV40ウイールス複製起点も含んでいるSV40制限酵素フラグメントとして、簡便に得られる(フィアーズら(Fires et al.,Nature,273:113(1978));ミューリガンとベルグ(Mulligan and Berg,Science,209:1422−1427(1980);パブラキスら(Pavlakis et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,78:7398−7402(1981))。ヒトのサイトメガロウイールスの前初期プロモーターは、HindIII E制限酵素処理フラグメントとして簡便に得られる(グリーナウエイら(Greenaway et al.,Gene,18:355−360(1982))。ベクターとして牛パピローマウイールスを用いる哺乳動物細胞宿主におけるDNA発現の系は、US Patent 4,419,446に記述されている。この系の修飾はUS Patent 4,601,978に記載されている。サル細胞における免疫インターフェロンをコードするcDNAの発現についてのグレイらの文献(Gray et al.,Nature,295:503−508(1982))を参照。単純ヘルペスウイールスからチミジンキナーゼプロモーターの制御下、マウス細胞におけるヒトβ−インターフェロンcDNAの発現に関するレイズらの論文(Reyers et al.,Nature,297:598−601(1982))を参照。培養マウス及びウサギ細胞におけるヒトインターフェロンβ1の発現についてのカナーニイとベルグの論文(Canaanni and Berg,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,79:5166−5170(1982))を参照。プロモーターとしてラウス肉腫ウイルースロングターミナルリピートを用い、CV−1サル腎細胞、ニワトリ胚芽線維芽細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞、HeLa細胞およびマウスNIH−3T3細胞における細菌CAT配列の発現のゴーマンらの論文(Gorman et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,79:6777−6781(1982))参照。
【0114】
(V)エンハンサー因子要素 本発明のポリペプチド変異体をコードするDNAの高等真核細胞での転写は、そのベクターへエンハンサー配列を挿入することによって、しばしば増加される。エンハンサーは、DNAのシス作用性因子で、通常10〜300bpからなり、転写を増加するようプロモーターに作用する。エンハンサーは、比較的方向及び位置に従属性がなく、コード配列それ自体の中(オースボーンら(Osbone et al.,Mol.Cell.Biol.,4:1293[1984])のみならず、イントロン(バネルジィーら(Banerji et.al.,Cell,33:729[1983])の中に、転写ユニットの5'と3'側に見出された(レイミンズら(Laimins et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,78:993[1981])及びラスキィーら(Lusky et al.,Moll.Cell.Bio.,3:1108[1983])。多くのエンハンサー配列は、今や哺乳動物の遺伝子から知られている(グロブリン、エラスターゼ、アルブミン、α−フェトプロテイン、インシュリン)。しかし、代表的には、真核細胞ウイールスからのエンハンサーが使用される。複製起点(100〜270bp)のレイトサイドのSV40エンハンサー、サイトメガロウイールス初期プロモーターエンハンサー、複製起点のレイトサイドのポリオーマエンハンサー及びアデノウイールスエンハンサーが例示される。真核プロモーターの活性化のためのエンハンス因子についてのヤニフの論文(Yaniv,Nature,297:17−18(1982))も参照のこと。そのエンハンサーはベクター中のポリペプチド変異体をコードする配列の5'と3'の位置において、スプライスされてもよいが、好ましくはプロモーターから5'の位置に位置している。
【0115】
(Vi)転写停止要素 真核細胞に使用されている発現ベクター(酵母、カビ、昆虫、植物、動物、ヒトの細胞又は他の多細胞生物からの有核細胞)は、転写の停止またはmRNAの安定化のために必要な配列もまた含んでいるだろう。このような配列は、通常、真核又はウイールスDNA或はcDNAの非翻訳領域の5'末、時には3'末から得ることができる。これらの領域は、ポリペプチド変異体をコードするmRNAの非翻訳部分のポリアデニル化フラグメントとして転写されている核酸配列部分を含む。
【0116】
(Vii)ベクターの構築と分析 上に挙げた要素の1つ以上を含む適当なベクターの構築は、標準的ライゲーション技術を用いる。抽出したプラスミド又はDNAフラグメントを必要とするプラスミドを生成するために、開裂し、仕立て、再ライゲートさせる。
正しい配列がプラスミドにおいて構築されたかを確認するために、ライゲーション混合物が、大腸菌,E.coli K12(294株)(ATCC 31,446)に形質転換のために使用され、適切ならば、アンピシリン又はテトラサイクリン耐性菌を用いて、うまくいった形質転換体を選定する。形質転換体からプラスミドを取り出し、制限エンドヌクレアーゼ消化により分折し、そして/又はメッシングらの方法(Messing et al.,Nucleic Acids Res.,9:309(1981))又はマキサムらの方法(Maxam et al.,Methods in Enzymology,65:499(1980))で、配列を決定する。
【0117】
(Viii)一時的発現ベクター 本発明の実施に、殊に有用なのは、ポリペプチド変異体をコードするDNAの哺乳動物細胞における一時的発現を提供する発現ベクターである。一般的には、一時的発現は、宿主細胞が発現ベクターの多くのコピーを蓄積し、発現ベクターによってコードされている所望のポリペプチドを高レベルで合成するような、宿主細胞で効率的に、複製しうる発現ベクターを使用することを含んでいる(サムブルークら、Sambrook et al.,上記,pp.16.17−16.22)。適切な発現ベクターと宿主細胞からなる一時的発現系は、所望とする生物学的または生理的性質をもったポリペプチドの迅速なスクリーニングのみならず、クローン化されたDNAによってコードされているポリペプチド変異体の簡便な陽性同定法になる。このように、一時的発現系は、生理活性を有するポリペプチド変異体を同定する目的のための本発明に特に有用である。
【0118】
(iX)適切な典型的な脊椎動物細胞ベクター 組み換え脊椎動物細胞培養において、ポリペプチド変異体の合成に採用される好ましい他の方法、ベクター及び宿主細胞は、ゲーシングら(Gething et al.,Nature,293:620−625(1981))の論文、マンテイら(Mantei et al.,Nature,281:40−46(1977))の論文、EP117,060及びEP117,058に記載されている。哺乳動物細胞培養によるポリペプチド変異体生産用の特に有用なプラスミドは、pRK5(EP307,247)又はpSV16B(WO91/08291,1991.6.13公開)である。pRK5の誘導体であるpRK5B(Holmes et al.,Science,253:1278−1280[1991])が本発明におけるこのような発現のために、特に好適である。
【0119】
D.宿主細胞の選択と形質転換 本発明でのベクターのクローニングと発現に適した宿主細胞は、上記の原核生物、酵母、高等真核細胞である。この目的にかなった原核生物は、エシェリキア(例えばE.coli)、エンテロバクター、エルウイニア、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ(例えばサルモネラ チフィムリウム)、セラチア(例えばセラチア マルセスセンス)、シゲラ、バシラス(例えばバシラス サチリス)、バシラス リチエニホルミス(例えばバシラス リチエニホルミス41P:1989.4.12公開のDD266,710)、シュードモナス(例えばシュードモナス エールギノーサ)およびストレプトマイセスのような腸内細菌の如きグラム陰性とグラム陽性の如き真性細菌を含む。1つの好ましい大腸菌クローニング宿主は、E.coli 294(ATCC31,446)である。しかしE.coli B、E.coli X1776(ATCC31,537)、E.coli DH5αおよびE.coli W3110(ATCC27,325)も使用できる。これらは、限定的列挙でなく、例示である。
W3110株は、1つの特に好ましい宿主又は親宿主である。何故ならば、それは組み換え体DNA産物発酵のための一般的な宿主細胞であるからである。好ましくは、宿主細胞は最小量の蛋白分解酵素を分泌する。例えば、W3110株は、宿主に内因性の蛋白をコードしている遺伝子に遺伝子的に変異をおこさせる様に修飾してもよい。例えば、E.coli W3110株1A2(これは完全な遺伝子型tonAΔを有する)、E.coli W3110株9E4(これは完全な遺伝子型tonAΔ ptr3を有する)、E.coli W3110株27C7(ATCC55,244)(これは完全な遺伝子型tonA ptr3 phoAΔE15Δ(arg F-lac)169 ΔdegPΔompT kanγを有する)、E.coli W3110株37D6(これは完全な遺伝子型tonA ptr3 phoAΔ E15Δ(argF-lac)169Δ degPΔ ompTΔ rbs 7ilvG kanγを有する)、E.coli W3110株40B4(これは非カナマイシン耐性degP欠失変異を有する37D6株である)、及び変異ペリプラズムプロテアーゼを有するE.coli株(1990.8.7発行のUS Patent 4,946,783に開示されている)が例示される。他に、クローニングのインビトロ法、例えばPCR法又は他の核酸ポリメラーゼ反応が適当である。
【0120】
原核生物の他に、糸状菌や酵母のような真核性微生物がポリペプチド変異体コードベクターの好ましいクローニング又は発現宿主である。一般のパン酵母であるサッカロミセス セレビシエは下等真核宿主微生物の中で最もよく利用される。しかし、沢山の他の属、種、株も一般に入手でき、ここで使用しうる。例えば、シゾサッカロミセス ポンベ(Beach and Nurse,Nature,290:140[1981],EP139,383(1985.5.2公開);クルイベロミセス ラクチス(MW98−8C,CBS683,CBS4574;Louvencout et al.,J.Bacteriol.,737[1983])、クルイベロミセス フラジリス(ATCC12,424)、クルイベロミセス ブルガリクス(ATCC16,045)、クルイベロミセス ビッケラミー(ATCC24,178)、クルイベロミセス ワルティー(ATCC56,500)、クルイベロミセス ドロソフィラルム(ATCC36,906;Van den Berg et al.,上記)、クルイベロミセス サーモトレランス及びクルイベロミセス マルキシアナスのようなクルイベロミセス宿主(USPatent 4,943,529,Fleer et al.,上記);ヤロービア(EP402,226);ピチツア パストリス(EP183,070,Skeekrishna et al.,J.Basic Microbiol.,28:265−278[1988];カンジダ;トリコデルマリーシア(EP244,234);ニューロスポラ クラッサ(Case et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,76:5259−5263[1979]);シュバニオマイセス オクシデンタリスのようなシュバニオマイセス(EP394,538;1990.10.31公開);ニューロスポラ、ペニシリウム、トリポクラジウム(WO91/00357:1991.1.10公開)のような糸状菌;及びアスペルギルス ニジュランス(Ballace et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,112:284−289[1983];Tilburn et al.,Gene,26:205−221[1983];Yelton et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:1470−1474[1984])およびアスペルギルス ニガー(Kelley and Hynes,EMBOJ.,4:475−479[1985]のようなアスペルギルス宿主である。
【0121】
ポリペプチド変異体産生に適した宿主細胞は、多細胞生物から由来のものである。このような宿主細胞は複雑なプロセシングの能力と、グリコシル化活性がある。原理的には、脊椎動物、非脊椎動物からであれ、どのような高等真核細胞培養も実施可能である。非脊椎動物細胞の例には植物細胞と昆虫細胞も含む。沢山のバキュロウイルス株、その変異体、スポドプテラ フルジペルダ(毛虫)、アエデスエジプテイ(蚊)、アエダス アルボピクタス(蚊)、ドロソフィラ メラノガスター(ミバエ)及びボルビワクス モリのような対応する許容される昆虫宿主細胞が同定されている(Luckow et al.,Bio/Technology,6:47−55(1988);Miller et al.,in Genetic Engineering,Setlow,J.K.et al.,eds.,Vol.8(Plenum Publishing,1986),pp.277〜279;Maeda et al.,Nature,315:592−594(1985)を参照のこと)。種々のトランスフェクション用のウイールス株は、公的に入手できる。例えばオートグラファ カルフォルニカ(Autographa Californica)NPVのL−1変異株、ボンビクス モリ(Bombyx mori)NPVのBm−5株があげられ、これらのウイールスは、本発明に従うウイールスとして、特に、スポドプテラ フルギペルダ細胞のトランスフェクションのために使用してもよい。
【0122】
綿、トウモロコシ、ジャガイモ、大豆、ペツニア、トマトの植物細胞培養も宿主として使用できる。典型的には、DNAを含むように予め処理した細菌アグロバクテウム ツメファシエンスのある株を培養することによって、植物細胞がトランスフェクトされる。植物細胞培養液をアグロバクテウム ツメファシエンスと共にインキュベートしている間に、ポリペプチド変異体をコードしているDNAがトランスフェクトするように宿主植物細胞に移入され、そして適当な条件下、そのDNAを発現させる。さらに、植物細胞にふさわしい制御配列及びシグナル配列が利用される。例えば、ノパリンシンターゼプロモーターやポリアデニル化シグナル配列が利用される(Depicker et al.,J.Mol.Appl.Gen.,1:561(1982))。さらに、T−DNA 780遺伝子の上流側から摘出したDNAが組み換えDNAを含む植物組織で、植物−発現しうる遺伝子の転写レベルの活性化と増加を可能にする(EP 321,196:1989.6.21公開)。
【0123】
しかし、最大の関心は脊椎動物細胞に向けられ、培養(組織培養)した細胞の増殖が近年ルーチン作業となってきた(Tissue Culture,Academic Press,Kruse and Patterson,editors[1973])。有用な哺乳動物宿主細胞の例は、SV40(COS−7,ATCC CRL 1651)で形質転換させたサル腎CV1細胞株;ヒト胚芽腎細胞株(293又は懸濁培養で生長するようにサブクローン化された293,Graham et al.,J.Gen Vitrol.,36:59[1977]);ベビーハムスター腎細胞(BHK,ATCC CCL10);チヤイニーズハムスター卵巣細胞/−DHFR(CHO,Urlaub and Chasin,Proc.Natl.Acad.Sci.USA77:4216[1980]);マウスセルトリ細胞(TM4,Mather,Biol.Rrprod.,23:243−251[1980]);サル腎細胞(CV1 ATCC CCL70);アフリカミドリザル腎細胞(VERO−76,ATCC CRL−1587);ヒト頚管腫瘍細胞(HELA,ATCC CCL2);イヌ腎細胞(MDCK,ATCC CCL34);バッファローラット腎細胞(BRL 3A,ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2,HB 8065);マウス乳房腫瘍細胞(MMT 060562,ATCC CCL51);TRI細胞(Mather et al.,Annals N.Y.Acad.Sci.,383:44−68[1982]);MRC5細胞;FS4細胞;及びヒト肝癌細胞(Hep G2)である。
【0124】
宿主細胞は、上述の本発明の発現又はクローニングベクターでトランスフェクトおよび好ましくは形質転換され、プロモーターを誘発するために、形質転換体を選出するために、又は所望の配列をコードする遺伝子を増幅するために適切に修正した通常の栄養培地で培養される。トランスフェクシヨンは、コードされた配列が現実に発現しようとしまいと、宿主細胞により発現ベクターを取り込んだことを意味する。トランスフェクシヨンの多数の方法が当業者に公知で、例えばCaPO4法、エレクトロポレーシヨン法がある。トランスフェクシヨンの成功は、一般的に、このベクターの作動を示す表示が宿主細胞内で起きたときに認識される。
【0125】
トランスフォーメーシヨン(形質転換)は、DNAが生物体に導入されたとき、DNAが染色体外成分としてか又は染色体中に組み込まれることによって、複製しうるようにDNAを導入することを意味する。使用される宿主細胞に依拠するが、形質転換は当該細胞に適した標準的手法を用いて行われる。サムブルーク(Sambrook)らの論文(上記)の1.82節に記述されている塩化カルシウムを用いるカルシウム処理法、又はエレクトロポレーシヨンは原核細胞又は実質的な細胞壁境界を含んでいる他の細胞で一般的に用いられる。アグロバクテリウム ツメファシエンスによる感染は、シヤウら(Shaw et al.,Gene,23:315(1983))の論文及びWO89/05859(1989.6.29公開)に記述されているように、ある種の植物細胞の形質転換のために使用される。さらに、WO91/00358(1991.1.10公開)に記載されているように、超音波処理を用いて植物のトランスフェクトを行ってもよい。
【0126】
このような細胞壁を有しない哺乳動物細胞に関しては、グラハムとファン デル エブ(Graham and van der Eb,Virology,52:456−457(1978))のリン酸カルシウム沈澱法が好ましい。哺乳動物細胞宿主系の形質転換の一般的側面はアクセル(Axel)のUS Patent 4,399,216(1983.8.16発行)に記載されている。酵母への形質転換は、バンゾーリンゲンら(Van Solingenet al.,J.Bact.,130:946(1977))及びヒシアオウ(Hsiao et al.,Proc.Natl.Acad,Sci.(USA),76:3829(1979))の方法に従って行われる。しかし、細胞へのDNAの他の導入法、例えば核マイクロインジェクシヨン、エレクトロポレーション、インタクト細胞とのバクテリアプロトプラスト融合、ポリブレンやポリオルニチン等のポリカチオン法がまた使用されうる。哺乳動物細胞の形質転換のための種々の方法に関しては、ケオウンら(Keown et al.,Methods in Enzymology,185:527−537(1990))の論文とマンソアら(Mansour et al.,Nature,336:348−352(1988))の論文を参照のこと。
【0127】
E.宿主細胞の培養 本発明のポリペプチド変異体を製造するのに用いる原核細胞を、Sambrook等(上記)に一般的に記載されている適当な培地中で培養する。
本発明のポリペプチド変異体を製造するのに用いる哺乳動物細胞は、様々な培地中で培養し得る。HamのF−10(Sigma)、F−12(Sigma)、Minimal Essential Medium(「MEM」、Sigma)、RPMI−1640(Sigma)、Dulbeccoの改変 Eagle Medium(「D−MEM」、Sigma)およびD−MEM/F−12(GibcoBRL)等の商業的に入手し得る培地は、該宿主細胞を培養するのに適している。更に、例えば、HamおよびWallace,Methods in Enzymology,58:44(1979);BarnesおよびSato,Anal.Biochem.,102:255(1980);米国特許第4,767,704号、第4,657,866号、第4,927,762号、第5,122,469号、または4,560,655号;再発行米国特許第30,985号;国際公開90/03430または同87/00195号に記載されたいずれの培地も、該宿主細胞用の培地として使用し得る。これらの培地のいずれも、必要に応じて、ホルモンおよび/または他の成長因子(インスリン、トランスフェリン、アプロチニン、および上皮増殖因子(EGF)等の)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩等の)、緩衝液(HEPES等の)、ヌクレオシド(アデノシンおよびチミジン等の)、抗生物質(ゲンタマイシン等の)、微量元素(最終濃度がマイクロモルの範囲で通常存在する無機化合物)、およびグルコースまたは等価なエネルギー源を補い得る。いずれの他の必要な添加物も、当業者に知られているであろう適当な濃度で含めてもよい。温度、pH等の培養条件は、発現用に選択された宿主細胞について以前に用いられた条件であり、当業者には明らかであろう。
【0128】
一般に、インビトロでの哺乳動物細胞培養の生産性を最大にする原理、プロトコール、および実際的な技術は、Mammalian Cell Biotechnology:PracticalApproach,M.Butler編(IRL Press,1991)中に見出すことができる。
本明細書で言う宿主細胞は、インビトロ培養における細胞、そしてまた宿主動物内部にある細胞を包含する。
【0129】
F.遺伝子増幅/発現の検出 遺伝子増幅および/または発現は、例えば、本明細書に示した配列に基いて、適当に標識したプローブを用いて、mRNAの転写を定量するための公知のサザーンブロッティング、ノーザンブロッティング(Thomas,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:5201−5205[1980])、ドットブロッティング(DNA分析)、またはin situハイブリダイゼーションにより、試料中で直接測定し得る。様々な標識を用い得るが、最も一般的には放射性同位体、特に32Pである。しかしながら、ポリヌクレオチド中への導入のためのビオチン修飾ヌクレオチドを用いる等の他の技術も用い得る。次にビオチンは、アビジンまたは抗体に結合する部位として働き、それらは放射性同位体、蛍光体、酵素等の広範な標識で標識し得る。或いは、DNA2重鎖(duplex)、RNA2重鎖、およびDNA−RNAハイブリッド2重鎖、またはDNA−タンパク質2重鎖を含む、特異的な2重鎖を認識できる抗体を用いることができる。その抗体を標識し、その2重鎖が表面に結合する場所でアッセイを行い、その表面での2重鎖の形成によって、2重鎖に結合した抗体の存在を検出できる。
【0130】
或いは、遺伝子発現を、組織セクションの免疫組織学的染色および細胞培養物または体液のアッセイ等の免疫学的方法により測定して、遺伝子生成物の発現を直接定量してもよい。免疫組織学的染色技術の場合、典型的には脱水および固定により細胞試料を調製し、次に、結合する遺伝子生成物に特異的な標識した抗体と反応させる。標識は、通常、酵素標識、ケイ光標識、リン光標識等の視覚的に検出可能なものである。本発明での使用に適する特に鋭敏な染色技術は、Hsu等、Am.J.Clin.Path.,75:734−738(1980)に記載されている。
【0131】
免疫組織的な染色および試料液のアッセイに用いる抗体付モノクローナルまたはポリクローナルであり得、いずれかの哺乳動物中で調製し得る。便利には、抗体は、以下のセクション4に更に記載のように、ポリペプチド変異体に対して作る。
【0132】
G.ポリペプチドの精製 変異体が第1段階として細胞内で製造されるなら、微粒状残渣、すなわち宿主細胞または溶解したフラグメントを、遠心分離または限外濾過により除去し、場合によりタンパク質を商業的に入手できるタンパク質濃縮フィルターで濃縮し、次いで、免疫アフィニティクロマトグラフ、イオン交換カラム分別(例えば、ジエチルアミノエチル(DEAE)またはカルボキシメチルまたはスルホプロピル基を有するマトリックスでの)、Blue−Sepharose、CM Blue−Sepharose,MONO−Q,MONO−S,レンチルレクチン−Sepharose,WGA−Sepharose、ConA−Sepharoseでのクロマトグラフィー、Ether Toyopearl、Butyl Toyopearl,Phenyl ToyopearlまたはプロテインA Sepharose、SDS−PAGEクロマトグラフィー、シリカクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、逆相HPLC(例えば付加した脂肪族基を有するシリカゲル)、例えばSephadexモレキュラーシーブまたはサイズ排除クロマトグラフィーを用いるゲル濾過、該ポリペプチドを選択的に結合するカラムでのクロマトグラフィー、およびエタノールまたは硫酸アンモニウム沈澱から選択される1以上の過程により他の不純物からポリペプチド変異体を分離する。
【0133】
細菌培養において製造される組換えポリペプチドは、細胞ペレットからの最初の抽出、1以上の遠心分離、塩折、水性のイオン交換、またはサイズ排除クロマトグラフィー工程により通常単離され得る。最後に、HPLCを最終精製工程に用い得る。該ポリペプチド変異体をコードする核酸の発現に用いる微生物細胞は、凍結−解凍サイクル、ソニケーション、機械的破壊により、または細胞溶解剤を用いることを含むいずれかの便利な方法により破壊し得る。メチルスルホニルフルオライド(PMSF)等のプロテアーゼ阻害剤を、前述の工程のいずれかに含めて、タンパク質分解を阻害し、抗体を加えて外来の不純物の生長を抑制してもよい。
【0134】
他の態様では、組換えポリペプチド変異体を培地中に分泌する系からの上清液を、商業的に入手し得るタンパク質濃縮フィルター、例えばAmiconまたはMillipore Pellicon超濾過ユニットを用いて先ず濃縮する。濃縮工程の後、その濃縮物に適当な精製マトリックスを適用する。例えば、適当なアフィニティマトリックスは、該タンパク質に対するリガンド、適当な担体に結合したレクチンまたは抗体分子を含み得る。或いは、アニオン交換樹脂、例えばペンダントなDEAE基を有するマトリックスまたは基材を用い得る。適当なマトリックスは、アクリルアミド、アガロース、デキストラン、セルロースまたはタンパク質精製に一般的に用いる他のタイプを含む。或いは、カチオン交換工程を用い得る。適当なカチオン交換体は、スルホプロピルまたはカルボキシメチル基を含む様々な不溶性のマトリックスを含む。スルホプロピル基が特に好ましい。
【0135】
最後に、疎水性RP−HPLC、例えばペンダントなメチルまたは他の脂肪族基を有するシリカゲルを用いる1以上のRP−HPLC工程を用いて、ポリペプチド変異体組成物を更に精製し得る。上述の精製工程のいくつかまたはすべてを、様々な組合せで用いて、均一な組換ポリペプチド変異体を得ることもできる。
【0136】
分泌ポリペプチドとしてポリペプチド変異体を製造する酵母の培養は精製を非常に簡単にする。大規模培養から生ずる分泌した組換えポリペプチド変異体は、Urdal等、J.Chromatog.,296:171(1984)に記載されたのと類似の方法で精製し得る。この文献は、製造用HPLCカラムでの組換えヒトIL−2の精製のための2つの順次のRP−HPLC工程を記載する。或いはアフィニティクロマトグラフィ等の技術を用いて該ポリペプチド変異体を精製してもよい。
【0137】
組換え培養で合成される哺乳動物のポリペプチド変異体は、培養からのポリペプチド変異体を回収するのに用いた精製工程に依存する量または性質の、タンパク質を含む非ヒトの細胞成分の存在により特徴づけられる。これらの成分は通常、酵母、原核性、または非ヒトの高級哺乳動物起源であろう。そして1重量%未満のオーダーで無害な不純物量で好ましくは存在する。
【0138】
H.ポリペプチド変異体の共有結合修飾物 ポリペプチド変異体の共有結合修飾物は本発明の範囲内に含まれる。それらは、化学合成により、または適用可能なら変異体ポリペプチドの酵素的若しくは化学的解裂により製造し得る。他のタイプのポリペプチド変異体の共有結合修飾は、ポリペプチド変異体の標的とするアミノ酸残基を、選択した側鎖またはN若しくはC末端残基と反応できる有機の誘導体化剤と反応させることにより、分子中に導入する。
【0139】
システイン残基は、クロロ酢酸またはクロロアセトアミド等のα−ハロアセテート(および対応するアミン)と最も一般的に反応して、カルボキシメチルまたはカルボキシアミドメチル誘導体を与える。システイン残基は、ブロモトリフルオロアセトン、α−ブロモ−β−(5−イミドゾイル)プロピオン酸、クロロアセチルホスフェート、N−アルキルマレイミド類、3−ニトロ−2−ピリジルジサルファイド、メチル2−ピリジルジサルファイド、p−クロロマーキュリベンゾエート、2−クロロマーキュリ−4−ニトロフェノール、またはクロロ−7−ニトロベンゾ−2−オキサ−1,3−ジアゾールとの反応によっても誘導体化される。
【0140】
ヒスチジン残基は、ジエチルピロカーボネートと、この試薬がヒスチジン側鎖に比較的特異的であるので、pH5.5−7.0で反応することにより誘導体化される。パラ−ブロモフェナシルブロマイドも有用である。その反応は、pH6.0で0.1Mカコジル酸ナトリウム中で好ましくは行われる。
【0141】
リジンおよびアミノ末端残基は、コハク酸また他のカルボン酸無水物と反応する。これらの試薬による誘導体化は、リジン残基の電荷を逆転する効果を有する。α−アミノを含有する残基を誘導体化する他の適当な試薬は、メチルピコリンイミデート等のイミドエステル、ピリドキサールリン酸塩、ピリドキサール、クロロボロハイドライド、トリニトロベンゼンスルホン酸、O−メチルイソ尿素、2,4−ペンタンジオンおよびトランスアミナーゼ触媒されるグリオキシレートとの反応を含む。
【0142】
アルギニン残基は、1または数個の公知の試薬、なかでもフェニルグリオキサール、2,3−ブタンジオン、1,2−シクロヘキサンジオン、およびニンヒドリンとの反応により修飾される。アルギニン残基の誘導体化は、グアニジン官能基の高いpKaのため、アルカリ条件下に行う必要がある。さらにこれらの試薬は、リジン基およびアルギニンのイプシロンアミノ基と反応し得る。
【0143】
チロシン残基の特異的な修飾は、芳香族ジアゾニウム化合物またはテトラニトロメタンとの反応により行われ、スペクトル標識をチロシル残基に導入するという点で特に興味がある。最も一般的には、N−アセチルイミジゾールおよびテトラニトロメタンを用いて、O−アセチルチロシル種および3−ニトロ誘導体をそれぞれ形成させる。チロシル残基は、125Iまたは131Iを用いてヨード化され、ラジオイムノアッセイに用るための標識したタンパク質を調製する。上述したクロラミンT法が適している。
【0144】
カルボキシル側鎖基(アスパルチルおよびグルタミル)は、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリニル−4−エチル)カルボジイミドまたは1−エチル−3−(4−アゾニア−4,4−ジメチルフェニル)カルボジイミド等のカルボジイミド類(R−N=C=N−R')(RおよびR'は別のアルキル基である)との反応により選択的に修飾される。更にアスパルチルおよびグルタミル残基は、アンモニウムイオンとの反応によりアスパラジニルおよびグルタミニル残基へ変換される。
【0145】
グルタミニルおよびアスパラジニル残基はしばしば脱アミド化され、それぞれ対応するグルタミルおよびアスパルチル残基となる。これらの残基は中性または塩基性条件下に脱アミドされる。これらの残基の脱アミドされた形は本発明の範囲内である。
【0146】
他の修飾には、プロリンおよびリジンのヒドロキシル化、セリンおよびスレオニン残基のヒドロキシル基のリン酸化、リジン、アルギニンおよびヒスチジン側鎖のα−アミノ基のメチル化(T.E.Creighton,Proteins:Structure and Molecular Properties,W.H.Freeman & Co,サンフランシスコ,79−86頁[1983])、N−末端アミンのアセチル化、およびC末端カルボキシル基のアミド化が含まれる。
【0147】
本発明の範囲内のポリペプチド変異体の共有結合修飾の他のタイプは、ポリペプチド変異体の元のグリコシル化のパターンを変化させることを含む。「変化させる」とは、ポリペプチド変異体中に見出される1以上の炭水化物部分を削除すること、および/またはポリペプチド変異体に存在しない1以上のグリコシル化部位を付加することを意味する。
【0148】
ポリペプチド変異体のグリコシル化は、典型的にはN−結合またはO−結合である。N−結合とは炭水化物部分がアスパラギン残基の側鎖に結合することを言う。アスパラギン−X−セリンおよびアスパラギン−X−スレオニン(Xはプロリンを除くいずれかのアミノ酸である)というトリペプチド配列は、炭水化物部分のアスパラギン側鎖への酵素的結合のための認識配列である。従ってポリペプチド中のこれらのトリペプチド配列のいずれかの存在によってグリコシル化部位の可能性が生じる。O−結合グリコシル化とは、糖類、N−アセチルガラクトサミン,ガラクトースまたはキシロースの、ヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリンまたはスレオニン(5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリジンも使用できる)への結合を言う。
【0149】
ポリペプチド変異体へのグリコシル化部分の付加は、アミノ酸配列を変化させて、1以上の上記トリペプチド配列(N−結合グリコシル化部位)を含ませることにより便利に行うことができる。その改変は、元のポリペプチド変異体の配列への、1以上のセリンまたはスチオニン残基の付加、またはそれらによる置換によっても行われる(O−結合グリコシル化部位)。容易のため、ポリペプチド変異体配列をDNAレベルでの変化により好ましくは変化させる。特に好ましくは、あらかじめ選択した塩基でポリペプチド変異体をコードするDNAを、所望のアミノ酸に翻訳されるであろうコドンを生成させるようミューテートさせることにより行われる。DNAミューテーションは上記の方法を用いて行う。
【0150】
ポリペプチド変異体で炭水化物部分の数を増加させる他の方法は、ポリペプチド変異体へのグリコシドの酵素的カップリングである。この方法は、それらが、N−またはO−結合グリコシル化のためのグリコシル化能を有する宿主細胞中でのポリペプチド変異体の製造を必要としないという点で有利である。用いるカップリング様式に依存して、糖を、(a)アルギニンおよびヒスチジン、(b)遊離カルボキシル基、(c)システインのそれのような遊離のスルフヒドリル基、(d)セリン、スレオニンまたはヒドロキシプロリンのそれのような遊離ヒドロキシル基、(e)フェニルアラニン、チロシン、またはトリプトファンのそれのような芳香族残基、または(f)グルタミンのアミド基に結合させる。これらの方法は1987年9月11日に公開されたWO87/05330号およびAplinおよびWriston,CRC Crit.Rev.Biochem.,259−306頁(1981)に記載されている。
【0151】
ポリペプチド変異体に存在する炭水化物部分の除去は、化学的または酵素的に行い得る。化学的な脱グリコシル化には、ポリペプチド変異体を、化合物トリフルオロメタンスルホン酸または均等な化合物で処理することを必要とする。この処理は、ポリペプチド変異体を無傷に残しながら、結合糖(N−アセチルグルコサミンまたはN−アセチルガラクトサミン)を除く大部分またはすべての糖の解裂をもたらす。化学的な脱グリコシル化は、Hakimuddin等、Arch.Biochem.Biophys.,259:52(1987)、およびEdge等、Anal.Biochem.,118:131(1981)に記載されている。ポリペプチド誘導体の炭水化物部分の酵素的解裂は、Thotakura等、Meth.Enzymol.,138:350(1987)に記載されたように様々なエンド−およびエキソ−グリコシダーゼを用いることによって行い得る。
【0152】
グリコシル化の可能性のある部位におけるグリコシル化は、Duskin等、J.Biol.Chem.,257:3105(1982)に記載の如く化合物ツニカマイシンを用いることによって行い得る。ツニカマイシンは、タンパク質−N−グリコシル結合の生成をブロックする。
【0153】
他のタイプのポリペプチド変異体の共有結合修飾は、ポリペプチド変異体を、様々な非タンパク質ポリマー、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールまたはポリオキシアルキレンの一つに、米国特許第4,640,835号、第4,496,687号、第4,301,144号、第4,670,417号、第4,791,192号および第4,179,337号に説明された方法で結合することを含む。
【0154】
3.治療用組成物:変異体の投与
アンチ−CD18変異体の用途にはアンチ−Macl/アンチ−好中球およびアンチ−LFA−1製剤を含む。ポリペプチド変異体が抗体として作用する場合は、所望により第2のポリペプチドと融合してもよく、CD11またはCD18抗原などの原料から、抗体またはその融合物はポリペプチド変異体が結合する蛋白を分離し精製するために用い得る。他の具体例において、本発明はここに記載のアンチ−C11aまたはCD18抗体フラグメント変異体をCD11aまたはCD18を含む疑いのあるサンプル、特に血清試料と接触させ、結合が生じたとき検出することを含む、インビトロまたはインビボCD11aまたはCD18の検出方法を提供する。ここに記載のポリペプチド変異体はまた、未知量のポリペプチド変異体を含むサンプルが調製され得る標準また対照として定量的診断方法において使用され得る。
【0155】
特定の指示のためのポリペプチド変異体の治療用製剤は、所望の生理学的に許容され得る担体、賦形剤または安定剤と所望の純度を有するポリペプチド変異体を混和して冷凍乾燥ケーキまたは水溶液の形態で貯蔵用に製造される(Remington's Pharmaceutical Sciences,16th edition,Oslo,A.,Ed.[1980])。許容され得る担体、賦形剤、または安定剤は採用される投与量および濃度にて被投与者に対して毒性がない、リン酸塩、クエン酸塩および他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸を含む抗酸化剤;低分子量(約10残基より少ない)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンまたはイムノグロブリンなどの蛋白;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類、およびグルコース、マンノース、またはデキストリンを含む他の炭水化物;EDTAなどののキレート剤:マンニトールまたはソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成対イオン;および/またはツイーン、プルロニックス、またはポリエチレングリコール(PEG)などの非−イオン性界面活性剤である。
【0156】
本発明の方法で用いられるポリペプチド変異体は、典型的には室温にて適切なpHで所望の純度にて、生理学的に許容され得る担体、すなわち、採用される投与量および濃度にて被投与者に対して毒性がない担体と混和することによって製剤化することができる。製剤のpHは主として変異体の具体的な用途および濃度によって変化するが、好ましくは約3〜約8の範囲のいずれかの範囲にある。適当な具体例の1つはpH5−8の緩衝液の製剤である。
【0157】
ここで用いられるポリペプチド変異体は好ましくは滅菌される。滅菌は(0.2ミクロン)膜を通過させる滅菌濾過によって容易に行われる。通常ポリペプチド変異体は水溶液として貯蔵されるが、解凍用冷凍乾燥製剤も用い得る。
【0158】
変異体組成物は良好な医療行為に合致した方法で製剤化され、投与量が決められ、投与される。これに関連して考慮されるべき要因は処置されるべき具体的な障害、処置されるべき具体的な哺乳動物、各患者の臨床的症状、疾患の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与計画および医療行為者に周知の他の要因を含む。
投与されるべきポリペプチド変異体の「治療的有効量」とは、このような考慮すべき事由によって支配され、LFA−1アンタゴニスト変異体については、リュヘーマチ性関節炎、炎症性応答の減少、免疫刺激の寛容の誘導、移植者またはその逆の移植の拒絶をもたらす免疫応答の阻害、または移植された移植片の生存の延長などを含む、LFA−1伝達疾患を阻害、緩解、または処置のために必要な最小量である。変異体の量は好ましくは、移植者に対して毒性を示すか、または移植者を感染にかかりやすくする量以下である。
一般的な提案として、1回投与量当たり非経口的に投与されるLFA−1アンタゴニスト変異体の最初の医薬的有効量は、1日当たり約0.1〜20mg/kg体重の範囲にあり、用いられるLFA−1アンタゴニスト変異体の典型的な初期投与の範囲は約0.3〜15mg/kg/日である。
【0159】
上記のように、しかしながら、LFA−1アンタゴニスト変異体のこれらの提案される量は大量の治療指示書に従う。適切な投与量および計画の選択のてがかりは上記のようにして得られた結果である。例えば、移植機能の急激な減退を特徴とする、進行中の急性の移植拒絶の処置や、急性拒絶の処置の後期の段階において比較的多量の投与量が最初に必要である。
【0160】
後続投与量が最初の投与量の100%以下である場合、1日の投与量に基づいて計算される。すなわち、例えば、投与量の残りが、1日注射量2週間2mg/kg/日、ついで、隔週投与量99日間0.5mg/kg/日ならば、1日投与を基礎として(すなわち、2/日/100%=0.5/14日/X%=〜1.8%)、後続投与量が初期投与量の約1.8%になる。後続投与量は、好ましくは、LFA−1アンタゴニスト変異体の初期投与量の約50%以下であり、より好ましくは約25%以下であり、さらに好ましくは約10%以下であり、さらにより好ましくは約5%以下であり、もっとも好ましくは約2%である。
【0161】
LFA−1アンタゴニスト変異体の最も効果的な結果を得るためには、疾患により変化するが、初期投与量は疾患の最初の兆候、診断、発現、発生にできるだけ近接した時期、または自己免疫疾患の緩解時に投与される。好ましくは、初期投与は移植された移植片を伴う場合は抗原に暴露される前に始める。さらに、初期投与は抗原に対する暴露の前または実質的に同時であるときは、後続投与は初期投与よりも長期にわたって行われ、特に移植の場合は、患者の生命にとって続ける必要のない連続的な断続的持続投与が好ましい。
【0162】
LFA−1アンタゴニスト変異体の好ましい投与計画は初期投与(すなわち、望ましくない免疫応答時または前に、毎日より多い頻度および点滴による連続的投与を含む投与)および後続投与が1週間に約1回より多くない周期的投与である。より好ましくは、具体的な疾患によって変化するが、特に移植の場合は初期の毎日投与は少なくとも約1週間、好ましくは、少なくとも約2週間、例えば、移植片などの抗原に暴露された後、または急性免疫の始まり(自己免疫疾患におけるとき)後投与され、後続投与は、初期投与の終了後、少なくとも5週間、好ましくは少なくとも10週間は2週間にたった1回投与される(好ましくは2週間に1回)。
【0163】
他の好ましい具体例において、特に、アンタゴニスト変異体が、アンチ−CD11aまたはアンチ−CD18抗体のFabまたはF(ab')2ならば、初期投与は移植が行われた後、約1日〜4週間、より好ましくは1〜3週間、さらにより好ましくは2週間〜3週間で終了し、移植が行われる前約1週間から移植とほぼ同時に始まる。
【0164】
ポリペプチド変異体は、非経口的、皮下、腹腔内、肺内、経鼻、および所望により、局所免疫抑制処置については外傷内投与(移植前に液体をふりかけるか、または移植片とアンタゴニストを接触させることを含む)を含むなんらかの適切な手段で投与される。非経口的注入は筋肉内、静脈内、気管内、腹腔内または皮下投与を含む。さらに、LFA−1アンタゴニスト変異体は、特にLFA−1アンタゴニスト変異体の投与量を減少させながらのパルス点滴によって投与される。投与がある程度短期か長期かに依存するが、好ましくはこの変異体は注射、もっとも好ましくは静脈内または皮下注射によって投与される。
【0165】
ここに記載のポリペプチド変異体は、そうとは限らないが、所望により当該障害の阻害または処置に現在使用されている1種またはそれ以上の試剤とともに製剤化される。例えば、リューマチ性関節炎では、LFA−1アンタゴニスト変異体は糖質コルチコステロイドとともに投与されてもよい。さらに、T細胞受容体ペプチド治療は自己免疫脳脊髄炎の臨床的徴候を阻害するための適切な補助治療である。オファーら、Science,251:430-432(1991)。移植に際して、LFA−1アンタゴニスト変異体は、例えば、シクロスポリンAなどの上記の免疫抑制剤と同時に、または別に投与することができ、免疫抑制効果を調整する。このような他の試剤の有効量は製剤中に存在するLFA−1アンタゴニスト変異体の量、疾患または処置の種類、および上記で検討された他の要因により変化する。これらは一般に、前記で用いられたと同じ投与量および投与経路か、または前記で採用された投与量の約1〜約99%の投与量で用いられる。
【0166】
上記の種々の自己免疫疾患は疾患の結果としての発病のもとで自己抗原に対する免疫寛容を誘導するような方法でLFA−1アンタゴニスト変異体で処置される。これに関して、自己免疫疾患は移植片に対する移植者に似ており、同様の方法でLFA−1アンタゴニスト変異体で処置され得る。しかし、この疾患においては、移植前の移植片の場合と異なり、患者はすでに標的抗原に対して免疫応答に至っている。すなわち、このような患者における通常の方法、例えば、シクロスポリンAまたは他の常用の免疫抑制剤の常套的使用(単独でまたはLFA−1アンタゴニスト変異体とともに)により、免疫抑制の一時的な段階を最初に誘導または維持するか、または緩解(自己免疫応答の病的または機能的徴候の欠如または実質的減少)の時期が始まるまで患者を観察することが望ましい。
【0167】
好ましくは、一時的な免疫抑制は常套治療のT細胞減少によって誘導する。ついで、その後、LFA−1アンタゴニスト変異体を投与し、免疫抑制誘導剤を引っ込めた時またはそうでなければ緩解が終わった時の反動を阻害する。別法として、緩解患者の症状は激発の徴候をしっかりと観察し、すぐに、激発の最初の機能的または生化学的発現の際にすぐに、最初の投与計画を開始し、激発が収まるまで継続する。この時期のLFA−1アンタゴニスト変異体投与はこの明細書のいずれかに記載の初期投与である。
【0168】
自己免疫疾患の場合は初期投与は1週間〜16週間にわたる。その後、LFA−1アンタゴニスト変異体の低投与量維持処方が実質的に移植片または移植者の拒絶の緩解についてここに記述したと実質的に同じ方法で投与されるが、ある種の場合には移植の場合よりもより長期の後続または維持投与にまで延長するのが望ましい。本発明の具体例において、抗原またはその抗原を含む組成物が自己免疫応答に対して反応することが知られているならば、そのときは、初期LFA−1アンタゴニスト変異体投与の後、その抗原を患者に投与(所望により、IL−1および/またはガンマインターフェロンとともに)し、その後、アンタゴニスト変異体投与を維持し、抗原に対する自己免疫およびの再発を抑え、一方で他の抗原に対する患者の応答を最小限に免疫抑制する。
【0169】
LFA−1アンタゴニスト変異体の初期処置のときは、所望により患者は隔離され、現在移植治療に用いられているような無菌環境が好ましい。患者はいかなる感染もしないようにすべきである。維持投与期間中はこれらの条件を維持する必要はなく、事実、本発明の利点の1つであるが、すなわち、患者は維持投与で処置されるとき、周囲抗原(移植片または自己抗原以外)に対する実質的に正常な免疫応答に到達し得る。
【0170】
ここに記載の本発明は特に生存期間を延長し、移植片の免疫寛容の増強になじむ。重要な術後期間(最初の3カ月間)は、移植片は所望により、適切な方法を用いて機能的に全身観察される。このような方法の1つは、トムソンら、ActaRadiol.,29:138-140(1988)に記載の99Tcm−パーテクネテートを用いる放射性核種静脈内血管造影である。さらに、ここに記載の方法は同時に多臓器注入および移植になじむ。トレドーペレイラおよびマッケンジー、Am.Surg.,46:161-164(1980)。
【0171】
ある種の場合には、移植片の表面を修飾し陽性または陰性負荷基を与えるように、適当なアミノ酸またはポリマーを用いるか、または負荷官能基の生理学的に許容され得る試剤を結合させることによって移植片を修飾するのが望ましい。例えば、血液凝固を減少させるために血管には陰性負荷表面が適している。またフェニルアラニン、セリンまたはリジンを表面にカップリングさせることによって、表面を親油性または親水性にするのが場合により望ましい。これらの表面修飾にとって特に有効な免疫抑制剤はグルタールアルデヒドである。
【0172】
上述のように、移植前にLFA−1アンタゴニスト変位体の有効量が所望により投与され、移植片の寛容を誘導する。初期移植後に用いられるのと同じ投与量および計画が採用され得る。さらに、移植前に、移植片を所望により、U.S.特許5,135,915に記載のTCG−β組成物と接触させる。この開示をここに引用して本明細書の記載とする。要約すれば、接触は移植片を組成物とインキュベートまたは灌流させるか、移植片の1またはそれ以上の表面と組成物を接触させるのが適当である。製剤中のTCG−βの濃度、処置されるべき移植片および製剤の具体的な種類などの要因により変化するが、一般に処置は少なくとも1分、好ましくは1分〜72時間、より好ましくは2分〜24時間かかる。また、既述のように、移植片は同時にまたは別々にLFA−1アンタゴニスト変異体と灌流させる。灌流はなんらかの適切な方法によって行われる。例えば、1984年9月5日公開のDD213,134に記載のポンプと臓器の間に位置する圧力調整器を有し灌流の定常圧およびオーバーフローをもたらす装置を介して灌流され得る。別法として、1984年11月21日公開EP125,847に記載のように、臓器は密閉式開閉部材を経て高比重小室に置かれ、灌流剤は、液体を容器から引き込むポンプによって小室に送達され、消費され、灌流液はバルブによって容器に返送される。
【0173】
移植片が処置された後は、移植片は長時間貯蔵され、または手術中直ぐに用いるのに適している。1985年4月9日公開のJP60061505に記載のように、貯蔵生存期間は製剤中の血液代替物(例えば、パーフルオロ化学乳剤)を用いるか、または移植片を冷却等張剤および抗凝固を含む含むTGF−βの製剤、ついでグリセリンと灌流させ、細胞の破壊なく摘出された臓器を冷凍させることによって、上記と同様に延長し得る。さらに、U.S.特許第4,462,215号および第4,494,385号に記載のように、臓器は公知の灌流液(上記のTGF−βおよび/またはLFA−1アンタゴニスト)中で保存するこができ、一方、臓器を冷蔵温度まで冷却し、細胞壊死を伴うことなく半永久的に臓器を保存することができる。
【0174】
心臓移植に関して、具体的に、ペアレントら、Cryobiology,18:571-576(1981)は5℃の移植前冷心臓灌流は着床の初期の同種移植の保護を増大すると報告している。移植片の保存に必要であると見なされるならば、これらの方法または他の方法は本発明の範囲内にある。
【0175】
移植前に、移植片はTGF−β組成物を含まないように、生理学的食塩水に浸漬するか、またはこの目的のための他の適当な手段によって洗浄する。移植前にLFA−1アンタゴニスト変異体を除去するのは望ましくない。
【0176】
また、移植前に所望により、移植者は1人またはそれ以上のドナー固有の血液の輸血が移植片の生き残りを促進するために行われる。移植手術の前または後に移植者を全体的なリンパ系照射(total lymphoid irradiation)にかける。特定の被移植者に有益な他のなんらかの前処置を本発明の方法の1部として行うことができる。
【0177】
4.抗体製剤(変異体が抗体−由来である場合)
(i)出発材料および方法
イムノグロブリン(Ig)およびある種のそれらの変異体は公知であり、多くは組換細胞培養で製造されてきた。例えば、U.S.特許第4,745,055号;第EP120,694号;EP第255,694号;EP266,663号;WO88/03559;フォルクナーら、Nature,298:286(1982);モリソンら、J.Immun.,123:793(1979);コーラーら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:2197(1980);ラソら、Cancer Res.,41:2073(1981);モリソンら、Ann.Rev.Immunol.,2:239(1984);モリソン、Science,229:1202(1985);モリソンら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851(1984)参照。再選別された(reassorted)イムノグロブリン鎖は公知である。例えば、U.S.特許第4,444,878号;WO88/03565;およびEP第68,763号およびそれらに引用された文献参照。
本発明のポリペプチド変異体中のイムノグロブリン部分は、IgG−1、IgG−2、IgG−3、またはIgG−4サブタイプ類、IgA、IgE、IgD、またはIgMから得られるが、好ましくはIgG−1またはIgG−3である。
【0178】
(ii)ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は一般に、当該抗体およびアジュバントの多重皮下(sc)または腹腔内(ip)注射によって動物中で産生される。例えば、マレイミドベンゾイル スルホスクシンイミド エステル(システイン残基によって結合)、N−ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基によって)、グルタールアルデヒド、無水コハク酸、SOCl2、またはR1N=C=NR(式中、RおよびR1は異なるアルキル基である)などの、二官能基化または誘導体化剤を用いて、例えば、キーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、牡ウシチログロブリン、または大豆トリプシンインヒビターなどの免疫化されるべき動物種に免疫原性のある蛋白を、当該抗体と結合させるのが有用である。
【0179】
動物は、ペプチドまたはコンジュゲート1mgまたは1μg(それぞれウサギまたはマウスにつき)、フロイント完全アジュバント3容を混合し、その溶液を多部位に皮内注射することによって、抗原、抗原性コンジュゲートまたは誘導体に対して免疫化される。1カ月後、多部位に皮内注射によってフロイント完全アジュバント中ペプチドまたはコンジュゲートの最初の量の1/5〜1/10で動物に追加抗原注射する。7〜14日後、動物から採血し、血清の抗体力価の測定を行う。力価がプラトーに達するまで動物に追加抗原注射を行う。動物は、別の蛋白と、および/または別の架橋剤によって結合されているが、抗原は同じコンジュゲートで追加抗原注射するのが好ましい。コンジュゲートはまた、組換細胞培養中で蛋白融合物として製造され得る。また、ミョウバンなどの凝集剤は免疫応答を増強させるために適切に用いる。
【0180】
(iii)モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、実質的に均質な抗体、すなわち、少数量存在していることがある潜在的な天然の突然変異を除いて同じポピュレーションを構成する個々の抗体のポピュレーションから得られる。このように修飾語句「モノクローナル」は、別個の抗体の混合物ではないものとしての抗体の特徴を表す。
【0181】
例えば、モノクローナル抗体は、KohlerおよびMilstein,Nature,256: 495(1975)に最初に記載されたハイブリドーマ法を用いて作製するか、または組換えDNA法(Cabillyら、上記)により製造することができよう。
【0182】
該ハイブリドーマ法において、マウスまたはハムスターのような他の適切な宿主動物を上記のごとく免疫し、免疫に使用するタンパク質と特異的に結合する抗体を製造するかまたは製造することができるリンパ球を誘発する。あるいはまた、リンパ球はin vitroで免疫することができよう。次に、リンパ球を、ポリエチレングリコールのような適切な融合物質を用いてミエローマ細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成させる(Goding,Monoclonal Antibodies: Principles and Practice,59-103頁[Academic Press,1986])。
【0183】
このようにして調製したハイブリドーマ細胞を、好ましくは、融合していない親ミエローマ細胞の増殖または生存を阻害する1またはそれ以上の物質を含む適切な培養液中に接種し、増殖させる。例えば、親ミエローマ細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)を欠く場合は、典型的には、ハイブリドーマ用の培養液は、HGPRT−欠損細胞の増殖を妨げる物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジン(HAT培地)を含むであろう。
【0184】
好ましいミエローマ細胞は、効率的に融合し、選ばれた抗体産生細胞による高レベルの抗体産生を支持し、HAT培地のような培地に対して感受性の細胞である。これらのうち、好ましいミエローマ細胞系は、Salk Institute Distribution Center,San Diego,California USAから入手可能なMOPC-21およびMPC-11マウス腫瘍、およびAmerican Type Culture Collection,Rockville,Maryland USAから入手可能なSP-2細胞から誘導されるようなネズミミエローマ系である。ヒトミエローマおよびマウス−ヒト異種ミエローマ細胞系では、ヒトモノクローナル抗体を産生することも記載されてきた(Kozbor、J.Immunol.,133: 3001[1984];Brodeurら、Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,51-63頁[Marcel Dekker,Inc.,New York,1987])。
【0185】
ハイブリドーマ細胞が増殖している培養液において、抗原に対するモノクローナル抗体の産生がアッセイされる。好ましくは、ハイブリドーマ細胞によって産生されるモノクローナル抗体の結合特異性は、ラジオイムノアッセイ(RIA)または酵素結合抗体免疫吸着アッセイ(ELISA)のようなin vitro結合アッセイによるかまたは免疫沈降法によって測定される。
【0186】
モノクローナル抗体の結合親和性は、例えば、MunsonおよびPollard、Anal.Biochem.,107: 220(1980)のScatchard分析によって測定することができる。
【0187】
所望の特異性、親和性、および/または活性を有する抗体を産生するハイブリドーマ細胞を確認し、次いで該クローンを、限界希釈法によってサブクローンし、標準的方法により増殖させることができよう(Goding,上記)。本目的に適した培養液には、例えばD-MEMまたはPRMI-1640培地が含まれる。さらに、ハイブリドーマ細胞は動物中の腹水腫瘍としてin vivoで増殖させることができよう。
【0188】
サブクローンによって分泌されたモノクローナル抗体は、例えば、プロテインA−セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティクロマトグラフィーのような通常の免疫グロブリン精製法によって培養液、腹水、または血清から適切に分離される。
【0189】
モノクローナル抗体をコードするDNAは、容易に単離され、通常の手順(例えば、ネズミ抗体の重および軽鎖をコードする遺伝子と特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって)配列決定することができる。ハイブリドーマ細胞はそのようなDNAの好ましい供給源として用いられる。単離されたら、DNAを発現ベクター中に入れ、次いでこれをE.coli細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または該発現ベクターをトランスファーしなければ免疫グロブリンタンパク質を産生しないミエローマ細胞のような宿主細胞中にトランスファーする。抗体をコードするDNAの細菌における組換え発現に関する総説的文献には、Skerraら、Curr.Opinion in Immunol.,5: 256-262(1993)、およびPluckthun,Immunol.Revs.,130: 151-188(1992)が含まれる。
【0190】
さらなる態様において、抗体または抗体フラグメントを、CD11a、CD18、IgE、またはHER-2のような適切な抗原を用い、McCaffertyら、Nature,348: 552-554(1990)に記載の技術を用いて作製される抗体ファージライブラリーから単離することにより適切な抗体または抗体フラグメントを選ぶことができる。Clacksonら、Nature,352: 624-628 (1991)およびMarksら、J.Mol.Biol.,222: 581-597(1991)は、それぞれネズミおよびヒト抗体の、ファージライブラリーを用いる単離について記載している。その後の刊行物は、チェーンシャッフリング(Chainshuffling)(Markら、Bio/Technology,10: 779-783[1992])、および非常に大きなファージライブラリーを構築するための戦略としてのin vivo組換えおよび組み合わせ感染による高親和性(nM範囲)のヒト抗体の産生について記載している。したがって、これらの技術は、「モノクローナル」抗体を単離するための伝統的モノクローナル抗体ハイブリドーマ技術に代わって実行可能である。
【0191】
該DNAは、ホモローガスなネズミ配列の代わりにヒト重−および軽−鎖定常ドメインをコードする配列で置換するか(Cabillyら、上記;Morrisonら、Proc.Nat.Acad.Sci.,81: 6851[1984])、または非免疫グロブリンポリペプチドをコードする配列のすべてまたは一部を、免疫グロブリンコード配列と共有結合することにより修飾することもできよう。
【0192】
典型的にはそのような非免疫グロブリンポリペプチドで、抗体の定常ドメインを置換するか、または該ポリペプチドで抗体の1つの抗原結合部位の可変ドメインを置換することにより抗原に対する特異性を有する抗原結合部位、および別の抗原に対する特異性を有する別の抗原結合部位を含むキメラ二価抗体を作製する。
【0193】
キメラまたはハイブリッド抗体は、架橋剤を含む方法を含む合成タンパク質化学で知られた方法を用いてin vitroで製造することもできよう。例えば、イムノトキシンはジスルフィド−交換反応を用いるかまたはチオエーテル結合を形成させることにより構築することができよう。本目的に適した試薬の例にはイミノチオレートおよびメチル−4−メルカプトブチルイミデートが含まれる。
【0194】
診断的応用では、典型的には、抗体から誘導された本明細書中の変異体は検出可能な部分で標識されよう。検出可能な部分は、直接にかまたは間接的に検出可能なシグナルを生じることができるあらゆるものであり得る。例えば、検出可能な部分は3H、14C、32P、35S、または125Iのようなラジオアイソトープ;フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、またはルシフェリンのような蛍光またはケミルミネッセント化合物;例えば、125I、32P、14Cまたは3Hのような放射性アイソトープ標識;またはアルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、または西洋ワサビペルオキシダーゼのような酵素であってよい。
【0195】
Hunterら、Nature,144: 945(1962); Davidら、Biochemistry,13: 1014(1974); Painら、J.Immunol.Meth.,40: 219(1981); およびNygren,J.Histochem.and Cytochem.,30: 407(1982)に記載の方法を含む、ポリペプチド変異体を検出可能な部分と別々に結合させるための当該分野で知られたあらゆる方法を用いることができよう。
【0196】
(iv)ヒト化およびヒト抗体
非ヒト抗体をヒト化する方法は当該分野でよく知られている。一般的には、ヒト化抗体はヒト以外の供給源からその中に導入された1またはそれ以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基はしばしば「輸入」残基と呼ばれ、典型的には「輸入」可変ドメインから取り出される。ヒト化は、Winterおよび共同研究者らの方法(Jonesら、Nature,321: 522-525[1986]; Riechmannら、Nature,332: 323-327[1988]; Verhoeyenら、Science,239: 1534-1536[1988])に従い、齧歯類のCDRsまたはCDR配列でヒト抗体の対応する配列を置換することにより実質的に行うことができる。したがって、そのような「ヒト化」抗体は、実質的に完全なヒト可変ドメイン以下がヒト以外の種由来の対応する配列で置換されているキメラ抗体(Cabillyら、上記)である。実際には、ヒト化抗体は、典型的には、いくつかのCDR残基およびおそらくいくつかのFR残基が齧歯類抗体中の類似の部位由来の残基で置換されているヒト抗体である。
【0197】
ヒト化抗体を作製するのに用いられるヒト可変ドメイン(軽および重両方)の選択は抗原性を減らすのに非常に重要である。いわゆる「ベストフィット」法にしたがって、齧歯類抗体の可変ドメインの配列は既知のヒト可変ドメイン配列の完全なライブラリーに対してスクリーニングされる。次に、齧歯類の配列に最も近いヒト配列は、ヒト化抗体のためのヒトフレームワーク(FR)として認められている(Simsら、J.Immunol.,151: 2296[1993]; ChothiaおよびLesk,J.Mol.Biol.,196: 901[1987])。別の方法では、軽または重鎖の特定のサブグループのすべてのヒト抗体のコンセンサス配列由来の特定のフレームワークを用いる。同じフレームワークをいくつかの異なるヒト化抗体用に用いることができよう(Carterら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89: 4285[1992]; Prestaら、J.Immunol.,151: 2623[1993])。
【0198】
さらに、抗体が抗原に対する高親和性および他の好ましい生物学的特徴を保持してヒト化されることが重要である。好ましい方法によればこの目的を達成するには、ヒト化抗体は、親およびヒト化配列の三次元モデルを用いる種々の概念的ヒト化生成物、および親配列の分析方法によって製造される。三次元免疫グロブリンモデルは当業者によく知られており、普通に利用可能である。選ばれた候補免疫グロブリン配列の、有望な三次元的立体構造を図解し、表示するコンピュータープログラムが利用可能である。これらの表示を検査することにより、候補免疫グロブリン配列の機能における残基の考えられる役割の分析、すなわち、候補免疫グロブリンのその抗原に対する結合能に影響を及ぼす残基の分析を行うことができる。このように、FR残基は、標的抗原に対する親和性の増加といった所望の抗体特性を達成するためにコンセンサスおよび輸入配列から選び、結合することができる。一般的には、CDR残基は抗原の結合に対する影響に直接および最も実質的に関与している。
【0199】
あるいはまた、今や免疫に関して、内因性免疫グロブリン生成物の非存在下でヒト抗体の完全なレパートリーを生成することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作製することができる。例えば、キメラおよび生殖系突然変異マウスにおける抗体重鎖結合領域(JH)のホモ接合体の欠失は内因性抗体産生の完全な阻害をもたらすことが記載されている。そのような生殖系突然変異マウスにおけるヒト生殖系免疫グロブリン遺伝子アレイのトランスファーは、抗原チャレンジに対するヒト抗体の産生をもたらす(例えば、Jakobovitsら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90: 2551−255(1993); Jakobovitsら、Nature,362: 255-258(1993); Bruggermannら、Year in Immuno.,7: 33(1993)参照)。ヒト抗体はファージ−表示ライブラリー中で製造することもできる(HoogenboomおよびWinter、J.Mol.Biol.,227: 381[1991]; Marksら、J.Mol.Biol.,222: 581[1991])。
【0200】
(v)二特異性抗体
二特異性抗体(BsAbs)は、少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を有する抗体である。二特異性抗体は完全長抗体または抗体フラグメント(例えば、F(ab')2二特異性抗体)から誘導することができる。
二特異性抗体の製造方法は当該分野で知られている。完全長二特異性抗体の伝統的製造法は、2本の免疫グロブリン重鎖−軽鎖が異なる特異性を有する該重鎖−軽鎖対の共発現に基づいている(MillsteinおよびCuello、Nature,305: 537-539[1983])。免疫グロブリン重および軽鎖が無作為に寄せ集まっているために、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)は、1つだけが正しい二特異性構造を有する10個の異なる抗体分子の潜在的混合物を生成する。通常、アフィニティクロマトグラフィー段階によって行われる正しい分子の精製はかなりやっかいであり、生成物の収量は低い。同様な手順がWO93/08829(1993年5月13日公開)およびTrauneckerら、EMBO J.,10: 3655-3659(1991)に開示されている。
【0201】
別のより好ましい方法によれば、所望の結合特異性(抗体−抗原結合部位)を有する抗体可変ドメインを、免疫グロブリン定常ドメイン配列と融合させる。好ましくは融合は、少なくとも、ヒンジ、CH2およびCH3領域の部分を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインと行われる。融合の少なくとも1つ中に存在する、軽鎖結合に必要な部位を含む第1重鎖定常領域(CH1)を有することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合物および所望により免疫グロブリン軽鎖をコードしているDNAを別の発現ベクター中に挿入し、適切な宿主生物中に同時トランスフェクトされる。これは、構築物において用いられる3本のポリペプチド鎖の比が等しくないときに最適の収量が得られる態様において3本のポリペプチドフラグメントの相互の割合を調整する際の大きな柔軟性をもたらす。しかしながら、等比の少なくとも2本のポリペプチド鎖の発現が高収量を生じるか、または該比が特別の有意性を有しないときは、1つの発現ベクター中に2本または3本すべてのポリペプチド鎖のコード配列を挿入することが可能である。
【0202】
この方法の好ましい態様では、二特異性抗体は1つの腕に第1の結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖、および他の腕にハイブリッド免疫グロブリン重鎖−軽鎖対(第2の結合特異性をもたらす)からなる。この非対称構造は、二特異性分子の1方の半分のみに免疫グロブリン軽鎖が存在することで分離が容易となるので、所望しない免疫グロブリン鎖の組み合わせからの所望する二特異性化合物の分離が促されることがわかった。この方法は、1994年3月3日公開のWO94/04690に開示されている。さらに詳細な二特異性抗体製造方法については、例えば、Sureshら、Methods in Enzymology,121: 210(1986)を参照のこと。
【0203】
二特異性抗体には、架橋または「ヘテロコンジュゲート」抗体が含まれる。例えば、ヘテロコンジュゲート中の抗体の1つはアビジンと、他方はビオチンと結合させることができる。そのような抗体は、例えば、所望しない細胞に対して免疫系細胞をターゲティングしたり(米国特許第4,676,890号)HIV感染を治療するために(WO91/00360、WO92/200373およびEP03089)提唱されている。ヘテロコンジュゲート抗体は、あらゆる好都合な架橋法を用いて作製することができよう。適切な架橋剤は当該分野でよく知られており、多くの架橋技術と共に米国特許第4,676,980号に開示されている。
【0204】
抗体フラグメントから二特異性抗体を製造する技術は、文献中にも記載されている。例えば、二特異性抗体は、化学的結合を用いて製造することができる。Brennanら、Science,229: 81(1985)は、完全抗体を蛋白分解的に開裂し、F(ab')2フラグメントを形成させる手順について記載している。これらのフラグメントを、ビシナルジチオールを安定化させ、分子間ジスルフィド形成を防ぐために、ジチオール錯化剤である亜砒酸ナトリウムの存在下で還元する。次に、生じたFab'フラグメントをチオニトロベンゾエート(TNB)誘導体に変換する。次いで、Fab'-TNB誘導体の1つをメルカプトエチルアミンで還元することによりFab'-チオールに再変換し、等モル量の他のFab'-TNB誘導体と混合しBsAbを形成させる。生じたBsAbは酵素を選択的に固定化するための物質として用いることができる。
【0205】
最近の進歩によりE.coliからFab'-SHフラグメントを直接回収することが容易となり、これを化学的に結合させて二特異性抗体を形成させることができる。Shalabyら、J.Exp.Med.,175: 217-225(1992)は、完全ヒト化BsAbF(ab')2分子の産生について記載している。各Fab'フラグメントは別々にE.coliから分泌され、in vitroで導かれる化学結合を受け、BsAbが形成される。このように形成されたBsAbはHER2レセプターを過剰発現している細胞および正常ヒトT細胞と結合し、ヒト肺癌標的に対するヒト細胞障害性リンパ球の溶解活性を誘発することができる(Rodriguesら、Int.J.Cancers,(Suppl.)7: 45-50(1992)参照)。
【0206】
組換え細胞培養から直接BsAbフラグメントを作製および単離する種々の技術についても記載されている。例えば、二特異性F(ab')2ヘテロダイマーは、ロイシンジッパー(zipper)を用いて作製されてきた(Kostelnyら、J.Immunol.,148(5): 1547-1553(1992))。FosおよびJunタンパク質由来のロイシンジッパーペプチドを、遺伝子融合により2つの異なる抗体のFab'部分と結合させた。抗体ホモダイマーをヒンジ領域で還元してモノマーを形成し、次いで再酸化して抗体ヘテロダイマーを形成した。Hollingerら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA),90: 6444-6448(1993)に記載の「ディアボディ(diabody)」技術はBsAbフラグメントを作製するための別のメカニズムを提供してきた。該フラグメントは、同じ鎖上の2つのドメイン間をペアリングさせるには短すぎるリンカーによって軽鎖可変ドメイン(VL)と結合させた重鎖可変ドメイン(VH)を含む。したがって、1つのフラグメントのVHおよびVLドメインは、別のフラグメントの相補性VLおよびVHドメインとペアリングせざるをえなくなり、かくして2つの抗体結合部位が形成される。一本鎖Fv(sFv)ダイマーを用いてBsAbフラグメントを作製するための別の戦略についても報告されている(Gruberら、J.Immunol.,152: 5368(1994)参照)。これら研究者らは、25アミノ酸残基リンカーにより第2抗体のVHおよびVLドメインと結合させた第1抗体のVHおよびVLドメインを含む抗体を設計した。リホールディングされた分子は、フルオレセインおよびT細胞レセプターと結合し、表面に共有結合したフルオレセインを有するヒト腫瘍細胞の溶解を再びもたらす。
【0207】
5.抗体変異体の使用
変異体抗体は、問題となる抗原、例えば、特異的な細胞、組織、または血清での抗原の産生に関する診断アッセイに有用である。変異体抗体を先に記載した方法と同様の方法で標識化し、そして/または不溶性のマトリックスに固定化する。抗原結合アッセイの一態様では、抗原に結合する抗体組成物を不溶性のマトリックスに固定化し、試験試料を固定化した変異体抗体組成物と接触させて、抗原を吸着させた後、その固定化した抗原を、離散性(discrete)発蛍光団等のような独自の標識により測定する、抗原に特異的な変異体抗体と接触させる。各々の独自の標識の存在および/または量を測定することにより、抗原の相対比および量を測定することができる。
本発明の変異体抗体はまた、患者を受動的に免疫する際にも有用である。
該変異体抗体はまた、組換え細胞培養または天然源からの、問題となる抗原のアフィニティー精製にも有用である。
【0208】
抗原およびその変異体抗体に関する適当な診断アッセイは、実質的には周知である。候補となる変異体を試験して、その変異体が適当な生物学的活性と半減期の増大を有するかどうかを調べる、以下の実施例に記載するバイオアッセイに加えて、競合、サンドイッチ、および立体阻害イムノアッセイ技術が有用である。競合およびサンドイッチ法は、該方法の不可欠な部分として相分離段階を利用するが、立体阻害アッセイは、単一の反応混合物で行う。基本的には、同様の手順を抗原のアッセイに、また抗原に結合する物質に使用するが、アッセイする物質の分子量によって、ある方法が有利となろう。従って、抗原または変異体抗体と呼ぶのとは別に、本明細書中では、試験すべき物質を、その状態にかかわらず、被検体と呼び、またその被検体に結合するタンパク質を、それらが抗体、細胞表面受容体、または抗原であろうとなかろうと、結合パートナーと称する。
【0209】
抗原またはその変異体抗体に関する分析方法は全て、次の試薬を1つまたはそれ以上使用する:標識化した被検体アナログ、固定化した被検体アナログ、標識化した結合パートナー、固定化した結合パートナー、および立体コンジュゲート。標識化試薬はまた、「トレーサー」としても知られている。
【0210】
試薬の固定化は、あるアッセイ方法を必要とする。固定化は、溶液中で固定されないままにある、いずれかの被検体から結合パートナーを分離することを伴う。このことは、水に不溶性のマトリックスまたは表面への吸着によってのように、アッセイ手順の前に結合パートナーもしくは被検体アナログを不溶化する(Bennichら、米国特許番号第3,720,760号)か、または(例えば、グルタルアルデヒド架橋を使用して)共有結合させるか、または例えば、免疫沈降によって、後でパートナーまたはアナログを不溶化することにより、都合よく成し遂げられる。
【0211】
競合またはサンドイッチアッセイとして知られている他のアッセイ方法は、十分確立されており、また商業的な診断産業で広く使用されている。
競合アッセイは、共通の結合パートナー上にある限られた数の結合部位に関して試験試料の被検体と競合するトレーサーアナログの能力に頼っている。一般には、結合パートナーを競合の前または後に固定化した後、その結合パートナーに結合したトレーサーおよび被検体を、結合していないトレーサーおよび被検体から分離する。この分離は、デカントする(その場合、その結合パートナーを予め不溶化しておく)か、または遠心分離する(その場合、その結合パートナーを競合反応の後に沈降させる)ことにより成し遂げられる。試験試料の被検体の量は、マーカー物質の量により測定される結合トレーサーの量に反比例する。既知量の被検体での用量−応答曲線を作成し、試験結果と比較して、試験試料中に存在する被検体の量を定量的に測定する。これらのアッセイは、酵素を検出可能なマーカーとして使用する場合、ELISAシステムと呼ばれる。
【0212】
「ホモジーニアス(homogeneous)」アッセイと呼ばれる別の種類の競合アッセイは、相分離を必要としない。ここでは、酵素の被検体とのコンジュゲートを作製して、抗被検体が被検体に結合する場合、抗被検体の存在が酵素活性を改変するよう使用する。この場合には、抗原またはその免疫学的に活性なフラグメントを、ペルオキシダーゼのような酵素への二官能性有機ブリッジとコンジュゲートさせる。抗ポリペプチドの結合が標識の酵素活性を阻害するか、または増強するよう、コンジュゲートを抗ポリペプチドとの使用に選択する。この方法は、実質的にはEMITという名の下で広く行われている。
【0213】
立体コンジュゲートは、ホモジーニアスアッセイに関する立体障害方法で使用される。これらのコンジュゲートは、ハプテンに対する抗体が、実質的には、抗被検体と同時にコンジュゲートを結合することができないよう、低分子量のハプテンを小さな被検体に共有結合させることにより合成される。このアッセイ手順の下、試験試料中に存在する被検体は、抗被検体を結合し、それによって、抗ハプテンをコンジュゲートに結合させて、コンジュゲートハプテンの性質の変化、例えば、ハプテンが発蛍光団である場合、蛍光の変化を起こすであろう。
【0214】
サンドイッチアッセイは特に、ポリペプチド変異体またはポリペプチド変異体抗体の測定に有用である。連続サンドイッチアッセイでは、固定化した結合パートナーを使用して、試験試料の被検体を吸着し、その試験試料を洗浄することにより取り除き、その結合被検体を使用して、標識化した結合パートナーを吸着した後、結合物質を残留トレーサーから分離する。結合トレーサーの量は、試験試料の被検体に正比例する。「同時」サンドイッチアッセイでは、標識化した結合パートナーを加える前に、試験試料を分離しない。一つの抗体としてモノクローナル抗体を、またもう一つの抗体としてポリクローナル抗体を使用する連続サンドイッチアッセイは、抗原活性に関して試料を試験する際に有用である。
前述のものは、ポリペプチド変異体および変異体抗体に関する、単に例示的な診断アッセイである。先に記載したバイオアッセイを含め、これらの被検体の測定に関して現在または将来開発される他の方法が本発明の範囲に含まれる。
【0215】
次の実施例を、限定するものとしてではなく説明するものとして示す。本明細書中の全ての引用の開示は、明らかに本明細書の一部を構成する。
【0216】
実施例 1
方法プラスミド構築
この実施例で利用するFab(以下、Fabと呼ぶ)を構築するために使用する鋳型プラスミド pH52を、Cunninghamら、Science 243:1330−1336(1989)により記載されているプラスミド pB0475から誘導した。F1の起点(origin)に隣接する2つのBamHI部位をpB0475から取り除き、EcoRVおよびSphl部位を使用して、ヒト成長ホルモンをコードするDNAを、抗CD18 Fab H52をコードするDNA、バージョンOZ(Eigenbrotら、Proteins 18:49−62(1994))で置き換えた。従って、pH52は、抗CD−18 Fab H52をコードするDNA(バージョンOZ)、軽および重鎖のSTIIシグナルペプチド、アルカリホスファターゼのプロモーター領域、M13 ヘ ルパーファージ領域、およびアンピシリン耐性を含む。次のオリゴヌクレオチドを使用して、Fab変異体をpH52のKunkelの突然変異誘発(Kunkel、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 82:488−492(1985))により構築した。

【0217】
アミノ酸残基数は、Kabatら、上記、NIH Publ.No.91−3242、第I巻、647−669頁(1991)に記載されているナンバリングシステムに従う。
Fab v1は、オリゴV1AおよびV1Cを組み込み;Fab v1bは、オリゴV1AおよびV1Bを組み込み;Fab v2は、オリゴ V2を組み込んだ。Fab v1、Fab v1b、およびFab v2をコードするプラスミドを選択し、ジデオキシヌクレオチド配列決定(SequenaseTMプロトコル、United States Biochemical)を使用して、そのDNA配列を調べた。IgG1ヒンジ領域をコードするDNA、続いて、H52の重定常部ドメインのC末端にある「ロイシンジッパー」を挿入することにより、F(ab')2構築物を作製した。挿入したアミノ酸配列は、

であった。
【0218】
別の組のFabバージョンは、Fab v1bをベースにしている、すなわち、次のオリゴヌクレオチドを使用して、より長い半減期を示した変異体である。

Fab v3は、オリゴ V1Dを組み込み;Fab v4は、オリゴ V1Eを組み込み;Fab v5は、オリゴ V1Fを組み込み;およびFab v6は、オリゴ V1Gを組み込む。
【0219】
変異体をコードするDNAの発現
各々の変異体に関して、プラスミドDNAをE.coliにトランスフォームした。次いで、その形質転換細胞を、5μg/ml カルベニシリンを含むルリアブロス(Luria Broth)(LB)プレートに塗布して、37℃で一晩インキュベートした。単一のコロニーを5ml[LB+5μg/ml カルベニシリン]に播種して、37℃で6−7時間培養した。次いで、その5mlの培養物を、2Lのバフル(baffled)フラスコ中のAP5 最少培地500mlに加えて、37℃で16時間培養した。
AP5 最少培地は、次のようにして作製する:1リットルにつき、グルコース(SigmaTMG−7021)1.5g、工業用カザミノ酸(DifcoTM0231−01−0)2.2g、公定された酵母エキス(DifcoTM0127−01−7)0.3g、無水MgSO40.19gまたはMgSO4・7H2O(SigmaTMM2773)0.394g、塩化アンモニウム(SigmaTMA9434)1.07g、KCl(SigmaTMP5405)0.075g、NaCl(SigmaTMS3014)4.09g、1M トリエタノールアミン(pH 7.4)120.0mlを加え、スーパー−QTM水(Super−QTMWater)を1.0Lまで十分に加え、さらにはまた、トリエタノールアミン133.21ml、液体(Liquid)(SigmaTMT13777)、およびスーパー−QTM水950mlからなる1M トリエタノールアミン(pH 7.4)を加え、pHをHCl(MallinckrodtTM2612)で7.4とし、スーパー−QTM水を1.0Lまで十分に加える。
これを、0.1μmのSealkeenTMフィルターを通して濾過し、2−8℃で保存する。期限は6カ月である。
1Lの遠心分離ボトル中、細胞を3000rpmで30分間遠心し、上清をデカントして、そのペレット化した細胞を1時間凍結させた。そのペレットを、0.1M ベンズアミジン(Sigma)100μlを加えた冷TE緩衝液(10mM TRIS、1mM EDTA、pH 7.6)10mlに再度懸濁させた。再度懸濁させたペレットを氷上で1時間撹拌し、18,000rpmで15分間遠心し、上清をデカントして、氷上に保持した。
次いで、その上清を、カラムにTE緩衝液10mlを通すことにより予め平衡化しておいた、タンパク質G−セファロースTMファーストフロー(Protein G−SepharoseTMFast Flow)(Pharmacia)カラム[カラム床体積0.5ml]に通した。次いで、そのカラムをTE緩衝液10mlで洗浄して、TRIS(pH 8.0)0.5mlを含む管に、Fabを100mM 酢酸(pH 2.8)2.5mlで溶出した。その溶出液をCentricon−30TM(Amicon)遠心機で0.5mlまで濃縮し、その濃縮した溶出液に、リン酸塩緩衝化塩類溶液2mlを加えて、その結果得られた混合物を0.5mlまで再度濃縮した。SDS−PAGEゲルを操作して、タンパク質が産生されたことを確かめた。
【0220】
抗−CD11/CD18 Fab 変異体およびF(ab')2抗体フラグメントの精製手順の間に使用する分析方法
SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)、および2つの異なった高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)法を使用して、精製工程の各々の段階で得られた生成物を分析した。使用したHPLC法には、逆相クロマトグラフィーおよびカチオン交換クロマトグラフィーが含まれ、これらは、WATERSTMHPLCシステムで行われた。
逆相クロマトグラフィーは、50℃に維持した、逆相PLRP−STM4.6×50mmのカラム、粒径8mm(Polymer Laboratories、Shropshire、英国)で行った。31% Bから41% Bまで次第に増加するリニアグラジエントを使用して、タンパク質を溶出した。緩衝液Aは、脱イオン水中、0.1% トリフルオロ酢酸を含んでおり、また緩衝液Bは、HPLCグレードのアセトニトリル中、0.1% トリフルオロ酢酸を含んでいた。流速を2ml/分に維持して、タンパク質のプロフィルを214nmでモニターした。
カチオン交換クロマトグラフィーによる分析は、55℃に維持した、Bakerbondのカルボキシースルホン(CSX)TM50×4.6mmのカラム(J.T.Baker Phillipsburg、ニュージャージー)で行った。検出波長280nmを用い、pH 6.0からpH 8.0まで次第に増加するリニアグラジエントを流速2ml/分で使用して、タンパク質を溶出した。緩衝液Aは、各々16mMのHEPES/PIPES/MES(pH 6.0)を含んでおり、また緩衝液Bは、各々16mMのHEPES/PIPES/MES(pH 8.0)を含んでいた。異なったFab変異体を分離するために、リニアグラジエントを25% Bから56% Bまで22分間操作した。Zipper−(Fab')2と(Fab')2抗体フラグメントを分離するために、リニアグラジエントを40% Bから100% Bまで22分間操作した。
SDS−PAGE分析は、前もって成型された(precast)NovexTMゲル(Novex、San Diego、カリフォルニア)で行った。Morrisseyの銀染色法を使用して、タンパク質を染色した。Morrissey、Anal.Biochem. 117:307−310(1981)。
【0221】
抗−CD11/CD18 Fab 抗体フラグメントおよびFab変異体の精製
同様の抽出および精製スキームを使用して、抗−CD11/CD18 Fab 抗体フラグメントおよび異なったFab変異体を単離した。
抽出
凍結させた細胞ペレット(100g)を、5mM EDTA(細胞ペレット1gにつき、緩衝液5ml)を含む120mM MES緩衝液(pH 6.0)に室温で再度懸濁させて、マイクロ流動化装置(microfluidizer)(Microfluidics Corporation、Newton、マサチューセッツ)に3回通すことにより、完全に破壊した。そのホモジネートを0.25%(v/v)ポリエチレンイミン(PEI)に調節して、固形物質のデブリを遠心分離(7280×g、30分、4℃)により取り除いた。
【0222】
ABXクロマトグラフィー
抗体フラグメントを含む上清を、精製水を用いて伝導率2.5ミリジーメンスまで希釈し、0.22ミクロンのフィルター(Suporcap−50TM、Gelman Sciences、Ann Arbor、ミシガン)を通して濾過した後、50mM MES/5mM EDTAナトリウム(pH 6.0)(緩衝液A)で平衡化した、1.6×9.5cmのBakerbond ABXカラム(J.T.Baker、Phillipsburg、ニュージャージー)にロードした。溶出物を280nmでUVモニターした。ロードした後、UVトレースがベースラインに戻るまで、そのカラムを緩衝液Aで洗浄した。抗体フラグメントを、緩衝液A中の0から100mMまでの硫酸アンモニウムの、20カラム体積のグラジエントで溶出した。画分を、先の分析方法の項に記載したようなカチオン交換カラムで分析して、適宜プールした。
【0223】
SPセファロース高性能(SPHP)クロマトグラフィー
そのABXプールを、注射用水(WFI)を用いて伝導率4mS未満まで希釈し、25mM MOPS緩衝液(pH 6.9)で平衡化した、SPHP 1.6×9.2cmのカラム(Pharmacia Biotech Inc.、Piscataway、ニュージャージー)にロードした。25mM MOPS緩衝液(pH 6.9)中の0から200mMまでの酢酸ナトリウムの、20カラム体積のリニアグラジエントにより、分離を達成した。画分を、先の分析方法の項に記載したようなCSX HPLCおよびSDS−PAGEにより分析して、適宜プールした。
【0224】
フォーミュレーション(Formulation)
Amiconのスターセル(stir cells)およびYM10 メンブランフィルター(Amicon,Inc.、Beverly、マサチューセッツ)を使用して、抗体フラグメントを含むSPHPプールを5mg/mlまで濃縮した。SephadexTMG25(PharmaciaBiotech Inc.、Piscataway、ニュージャージー)でのゲル透過クロマトグラフィーにより、精製して濃縮した抗体試料をリン酸塩緩衝塩類溶液(PBS)に緩衝液交換した。
【0225】
エンドトキシン測定
エンドトキシン測定を、Limulus アメーバ細胞ライゼート試験(Associates of Cape Cod Inc.、Woods Hole、マサチューセッツ)で行った。タンパク質1gにつき2未満のエンドトキシン単位(Eu)を含む試料を、薬物動態学研究に使用した。
【0226】
抗−CD11/CD18
F(ab')2抗体フラグメントの精製 F(ab')2フラグメントを、最初、ABXクロマトグラフィーによりロイシンジッパー(Fab')2変異体[ジッパー−F(ab')2]として精製した。H52の重鎖のヒンジ領域の後にロイシンジッパードメインを加えることにより、この構築物を操作した。精製後、そのロイシンジッパードメインをペプシン消化により切断した後、このF(ab')2を、以下に記載するようなSPHPおよびPhenyl ToyopearlTMクロマトグラフィーにより精製した。
【0227】
ジッパー−F(ab')2抗体フラグメントの抽出およびABXクロマトグラフィー
ジッパー−F(ab')2抗体フラグメントの抽出およびABXクロマトグラフィーは、Fab 抗体フラグメント変異体に関して先に記載したように行った。
【0228】
ジッパー−F(ab')2抗体フラグメントのペプシン消化
ABXにより精製したジッパー−F(ab')2をペプシンで処理し、その分子のロイシンジッパー部分を取り除いて、F(ab')2抗体フラグメントを得た。ABXにより精製した試料をAmicomのスターセルで5mg/mlまで濃縮した後、100mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 3.5)で1:3.5に希釈した。この溶液に、100mM クエン酸ナトリウム緩衝液(pH 3.5)に溶解したペプシン(1mg/ml)を、1:12のペプシン:タンパク質比で加えた。室温で4時間後、その混合物のpHを10% NaOHでpH6.4まで上げた。
【0229】
ペプシンで処理したジッパー−F(ab')2抗体フラグメントのSPHPクロマトグラフィー
ロイシンジッパードメインおよび所望でない抗体フラグメントからのF(ab')2抗体フラグメントの精製は、Fab 抗体フラグメント変異体に関して先に記載したようなSPHPクロマトグラフィーにより成し遂げられた。
【0230】
SPHPにより精製したF(ab')2抗体フラグメントのPhenyl ToyopearlTMクロマトグラフィー
硫酸アンモニウムを加えることにより、SPHPにより精製したF(ab')2プールを硫酸アンモニウム中で1.5Mとした。次いで、その調整したプールを、1.5M 硫酸アンモニウム、50mM 酢酸ナトリウム、pH 5.4(緩衝液A)で平衡化した、Phenyl ToyopearlTM650M(Tosohaas、Montgomeryville、ペンシルベニア)1.6×10cmのカラムにロードした。20カラム体積のグラジエントを、70% 緩衝液Aから100% 50mM 酢酸ナトリウム中の0.15M 硫酸アンモニウム、pH 5.4(緩衝液B)まで操作した。先の分析方法の項に記載したような逆相およびCSX HPLCおよびSDS−PAGEにより、画分を分析した。
【0231】
F(ab')2抗体フラグメントのフォーミュレーションおよびエンドトキシン測定
精製したF(ab')2抗体フラグメントのフォーミュレーションは、Fab 抗体フラグメント変異体に関して先に記載したように行った。エンドトキシン測定後、タンパク質1mgにつき2未満のEuを含む試料を、以下に示す薬物動態学研究に使用した。
【0232】
マウスでの静脈内投与後の抗−CD11/18 構築物の薬物動態学研究
マウスでの、5つのヒト化したhuH52の抗−CD18抗体フラグメント(構築物)の、この単回用量の薬物動態学研究の目的は、抗体フラグメントの非特異的クリアランスが定常部ドメインにおけるアミノ酸の変化により影響されるかどうかを測定することであった。血清試料を雄のCD1マウスから24時間かけて集め、ヒト抗−CD18 血清濃度をELISAにより測定した。
研究する抗−CD18 抗体フラグメントは、先に記載したような、E.coli.が産生した組換えヒト化モノクローナル Fab 抗体フラグメントから誘導した。
そのFab フラグメント、および2つのFab'サブユニットがジスルフィド結合で一緒につながった構築物を研究した。最後に、定常部ドメインにおけるアミノ酸を変えることにより、元のFabの3つの新しいバージョンを構築した。その構築物のさらなる記述に関しては、以下の研究計画表を参照。
その構築物の抗原結合部位は、白血球の表面上にあるCD11/CD18 糖タンパク質複合体のCD18 サブユニットに向けられる。これらの抗体フラグメントは、チンパンジーとヒトに特異的である;従って、マウスで得られた血清薬物動態学の知識は、フラグメントの非特異的クリアランスの記述を与える。
この研究で、線形の(linear)薬物動態学が予想されたので、複数回用量レベルよりむしろ、2mg/kgの単回用量レベルを選択した。

【0233】
5つの抗体構築物の薬動力学を、雄性Crl:CD−1(登録商標)(ICR)BRVAF/プラス(登録商標)マウス(およそ20〜30g)において試験した。それぞれ20匹からなる5つの群に、尾静脈より2mg/kg用量を静脈ボーラス投与した。投与後5及び30分、1、2、4、8、12、16、20及び24時間後に血液試料を採取した。血清を得、抗体フラグメントの濃縮物を、MAC−1捕捉ELISAで以下のようにして測定した。
【0234】
96穴マイクロタイタープレートを、ネズミ抗CD18モノクローナル抗体で一晩コーティングした。4℃で一晩インキュベーションした後、プレートをELISA洗浄緩衝液で3回洗浄し、ELISA希釈液で1時間ブロッッキングした。ELISA洗浄緩衝液は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)/0.05%ポリソルベート(登録商標)20である。この緩衝液は、1Lあたり、50mLの20倍PBS/1.0%ポリソルベート(登録商標)20(NaCl 160g、KCl4.0g、Na2HPO422.6g及びKH2PO44.0gを、ガラス-蒸留水又は脱イオン水に溶解し、10.0mLのポリソルベート(登録商標)20[シグマ(登録商標)P−1379又は同等物]を加え、1000mLとし、0.22μm又はそれ以下のフィルターを用いて滅菌濾過することにより得た混合物)を調製し、蒸留又は脱イオン水で1.0Lに希釈し、室温で保存する。使用期限は調製の日から2週間である。
【0235】
ELISA希釈液は、PBS/0.5%BSA/0.05%ポリソルベート(登録商標)20/0.01%チメロサール(登録商標)/1mM CaCl2/1mM MgCl2であった。この希釈液は、1Lあたり、ウシ血清アルブミン(Armour(登録商標)N0068又は同等物)5.0g、20倍PBS/1.0%ポリソルベート(登録商標)20/0.2%チメロサール(登録商標)(NaCl 160g、KCl 4.0g、Na2HPO422.6g及びKH2PO44.0gを、ガラス-蒸留又は脱イオンした水に溶解し、10.0mLのポリソルベート(登録商標)20[シグマ(登録商標)P−1379又は同等物]及びチメロサール(登録商標)[シグマT−5125又は同等物]を加え、1000mLとして得た混合物)、0.1%(v/v)1M CaCl2(ジェネンテク(登録商標)A3165)、0.1%(v/v)1M MgCl2(ジェネンテク(登録商標)A3167)を、蒸留又は脱イオン水で1.0Lに希釈し、2〜8℃で保存した。使用期限は調製の日から1ヶ月である。
【0236】
ブロッキングした後、再度、プレートをELISA洗浄緩衝液で3回洗浄した。次に、可溶性MAC1(Bermanら,J.Cell.Biochem.,52,183−195(1993)に記載されているCD11b/CD18)を、切り取られた(truncated)CD11b/CD18ヘテロダイマーを発現しているCHO細胞によりならした培地の濃縮物から捕捉した。2時間インキュベーションした後、プレートをELISA洗浄緩衝液で6回洗浄し、試験するマウス血清試料100μL又はホモローガスな組換えヒト抗CD18Fabを含む標準を加えた。マウス血清試料をELISA希釈液で最初に1/10に希釈した後、さらに試料希釈液で1/4に希釈し、この初発1/40希釈液から100μLを取った。試料希釈液は、ELISA希釈液中の10% Swiss Webster Mouse血清である。2時間インキュベーションした後、再度、プレートをELISA洗浄緩衝液で6回洗浄し、ヒトFabに対する西洋ワサビペルオキシダーゼ−コンジュゲートF(ab')2100μLを加えた。室温で1時間インキュベーションした後、プレートを、ELISA洗浄緩衝液で上記のように洗浄し、オルトフェニレンジアミン(OPD)2.2mmol/L及び過酸化水素(H2O2)0.012%(v/v)含むpH7.2のリン酸緩衝生理食塩水100μLを各ウェルに加えた。色が完全に現れたら、4.5mol/L硫酸を各ウェルあたり100μL加えて反応を止めた。SLT Labinstruments製の自動プレートリーダーを用いて、ウェル内容物の吸光度を492nmで測定し、405nmのバックグランド吸光度を差し引いた。データは、4−パラメーター、非線形パラメーターの最小二乗法のためのアルゴリズムに基づく曲線フィッティングプログラムを用いて換算した。
【0237】
血清濃度対時間のデータを、非線形曲線フィッティングプログラムを用いて分析し、次いで薬動力学パラメーターを推定した。D'Argenio Schumitzky,ADAPTII User's Guide,Biomedical Simulations Resource,University of Southern California,Los Angeles,第2版(1990)。
【0238】
2−コンパートモデルを使用して、5つの群の、血清濃度対時間のデータを特徴付けした。1次モデルパラメーター及び計算された薬動力学パラメーターについては、表2を参照されたい。2−コンパートモデルフィットを、第1A図及び第1B図に示したデータ上に重ねた。データの一覧を表3に示す。すべての群について、セントラルコンパートメントの体積は血漿体積にほぼ等しかった。



【0239】
結果
データを第1A図及び第1B図に示す。第1A図は、5つの構築物全ての0〜5時間の薬動力学を示し、第1B図は、5つの構築物全ての0〜25時間の薬動力学を示す。初期(又はα−相)の半減期は、後期(又はβ−相)の半減期が変化したように変化した。Fabv1B変異体はクリアランスが80mL/hr/kgであり、これはダブルジスルフィド(Fab')2に比べて約3倍高い。Fabv1、Fab、及びFabv2は、Fabv1Bに比べておよそ3倍、ダブルジスルフィド(Fab')2に比べて約6倍大きなクリアランスを有していた(それぞれ173、189及び190mL/hr/kg)。
元のFabの有効分子量は、49kDであり、そのクリアランスは189mL/hr//kgであった。
【0240】
Fabバージョン1、1B及び2はすべて、元のFabと同じ分子量を有していたが、バージョン1Bの血清からの排出は2倍遅かった。即ち、Fab定常部領域におけるアミノ酸配列の変化は、クリアランスに影響を及ぼしている。β−相半減期においてみられた効果は、成功度の低い2つの変異体1及び2に関しては、耐久時間全体を有意に増加させるには不十分であるという効果が検出可能であったことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0241】
【図1】図1aおよび1bは、マウスに2mg/kgの量で静脈内投与にて1回投与した場合の5種のFabまたは(Fab')2構築物の血清薬物動態を表す。図1aでは、Fabv1B変異体を黒四角、Fabコントロールを黒菱形、Fabv2変異体を黒三角、Fabv1変異体を黒丸およびダブルジスルフィド(Fab')2を白丸で示す。図1bでは、Fabコントロールを黒三角、Fabv2変異体を白丸、Fab’変異体を白四角、Fabv1B変異体を黒丸およびダブルジスルフィド(Fab')2を黒四角で示す。これらの分子については本明細書中の表により詳細に記載されている。
【図2】図2は、ヒトIgG1CH1ドメイン(配列番号4)、ヒトIgG2CH1ドメイン(配列番号5)、ヒトIgG3CH1ドメイン(配列番号6)、ヒトIgG4CH1(配列番号7)、ヒトκCLドメイン(配列番号8)およびヒトλCLドメイン(配列番号9)の共通アミノ酸配列の関連部分のアラインメントならびに抗CD18抗体由来のFabv1b変異体(配列番号10)(実施例1に記載)とのアラインメントである。この図では、Fabv1bの配列のうち、本発明の対象であり、かつ最も重要なアミノ酸残基および/または位置(すなわち配列番号3および1)には、それぞれ下線および星印を入れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎臓から排出されIgGのFc領域を含まない目的とするポリペプチドの、ポリペプチド変異体であって、IgGのFc領域のサルベージレセプター結合エピトープを含み、目的とするポリペプチドよりも長いインビボ半減期を有する変異体。
【請求項2】
目的とするポリペプチドが、CH2ドメインでないIgドメイン又はIg様ドメインを含むものである、請求項1に記載の変異体。
【請求項3】
エピトープがIgドメイン又はIg様ドメイン内に含まれている、請求項2に記載の変異体。
【請求項4】
Igドメイン又はIg様ドメインがCH1ドメインを含んでいる、請求項3に記載の変異体。
【請求項5】
エピトープが、Fc領域の1又は2のループに由来するものであり、Igドメイン又はIg様ドメインへと移されているものである、請求項3に記載の変異体。
【請求項6】
エピトープが、Fc領域のCH2ドメインに由来するものであり、IgのCH1、CH3若しくはVH領域又は1以上のそれらの領域へと、又はIg様ドメインへと移されているものである、請求項5に記載の変異体。
【請求項7】
エピトープが、Fc領域のCH2ドメインに由来するものであり、IgのCL領域若しくはVL領域又はその両方へと、又はIg様ドメインへと移されているものである、請求項5に記載の変異体。
【請求項8】
目的とするポリペプチドが、Fab、(Fab')2、ジアボディ、Fvフラグメント、1本鎖Fvフラグメント又はレセプターである、請求項3に記載の変異体。
【請求項9】
目的とするポリペプチドが、LFA−1アンタゴニストである、請求項8に記載の変異体。
【請求項10】
目的とするポリペプチドが、抗LFA−1抗体のFab又は(Fab')2である、請求項9に記載の変異体。
【請求項11】
目的とするポリペプチドが、抗CD18Fab又は抗CD18(Fab')2である、請求項10に記載の変異体。
【請求項12】
ヒトの又はヒト化された、請求項11に記載の変異体。
【請求項13】
エピトープが、配列:PKNSSMISNTP(配列番号3)を含んでいる、請求項12に記載の変異体。
【請求項14】
配列:HQSLGTQ(配列番号11)をさらに含んでいる、請求項13に記載の変異体。
【請求項15】
配列:HQNLSDGK(配列番号1)をさらに含んでいる、請求項13に記載の変異体。
【請求項16】
配列:HQNISDGK(配列番号2)をさらに含んでいる、請求項13に記載の変異体。
【請求項17】
配列:VISSHLGQ(配列番号31)をさらに含んでいる、請求項13に記載の変異体。
【請求項18】
エピトープが、配列:HQNLSDGK(配列番号1)、HQNISDGK(配列番号2)、HQSLGTQ(配列番号11)又はVISSHLGQ(配列番号31)と、PKNSSMISNTP(配列番号3)とを含んでいる、請求項1に記載の変異体。
【請求項19】
エピトープが、目的とするポリペプチドに融合している、請求項18に記載の変異体。
【請求項20】
目的とするポリペプチドが、成長ホルモン又は神経発育因子である、請求項19に記載の変異体。
【請求項21】
請求項1に記載の変異体をコードしている核酸。
【請求項22】
請求項21に記載の核酸を含む複製可能なベクター。
【請求項23】
請求項21に記載の核酸を含む宿主細胞。
【請求項24】
請求項23に記載の宿主細胞を培地中で培養し、宿主細胞カルチャーから変異体を回収することを含んでなる、ポリペプチド変異体を製造する方法。
【請求項25】
変異体が培地から回収されるものである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
配列:HQNLSDGK(配列番号1)、HQNISDGK(配列番号2)、又はVISSHLGQ(配列番号31)と、PKNSSMISNTP(配列番号3)
とを含んでいる、Fcではない変異体ポリペプチド。
【請求項27】
ポリペプチド変異体を製造する方法であって、腎臓から排出されIgGのFc領域を含まない目的とするポリペプチドを、IgGのFc領域のサルベージレセプター結合エピトープを含み、増加したインビボ半減期を有するように、改変することを含んでなる方法。
【請求項28】
改変する工程を、部位特異的、カセット、又はPCR突然変異誘発により行う、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
増加したインビボ半減期を有するポリペプチド変異体を製造する方法であって、(1)IgG分子のFc領域上のサルベージレセプター結合エピトープの配列及びコンフォメーションを同定し;
(2)腎臓から排出されIgGのFc領域を含まない目的とするポリペプチドの配列を改変して、同定された結合エピトープの配列及びコンフォメーションを含有せしめ;
(3)工程(2)の改変したポリペプチドを、目的とするポリペプチドの半減期より長いインビボ半減期について試験し;
(4)変化させたポリペプチドがより長い半減期を有していない場合は、目的とするポリペプチドの配列をさらに改変して、同定された結合エピトープの配列及びコンフォメーションを含有せしめ、より長いインビボ半減期が得られるまで、より長いインビボ半減期について試験することを含んでなる方法。
【請求項30】
処置が必要な哺乳類に、請求項9に記載の変異体の有効量を投与することを含んでなる、LFA−1が関与する障害を処置する方法。
【請求項31】
処置が必要な患者に、請求項12に記載の変異体の有効量を投与することを含んでなる、LFA−1が関与する障害を処置する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−143552(P2007−143552A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−324865(P2006−324865)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【分割の表示】特願平8−531037の分割
【原出願日】平成8年3月28日(1996.3.28)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】