半田ごてチップおよびその製造方法
【課題】半田に対する濡れ性を制御可能であると共に、半田に対する耐食性や強度の優れた半田ごてチップを提供する。
【解決手段】酸化アルミニウムに鉄またはニッケルを含有させた酸化アルミニウムセラミックスにより半田ごてチップ1を構成する。チップとして十分なビッカーズ硬さを確保でき、鉛フリー半田に対する耐食性が高いチップを提供できる。また、半田付け作業において実用的な所定の範囲の濡れ性を兼ね備え更に、所定の範囲内において作業目的や半田付け対象物に応じて濡れ性の制御が可能なチップを提供できる。
【解決手段】酸化アルミニウムに鉄またはニッケルを含有させた酸化アルミニウムセラミックスにより半田ごてチップ1を構成する。チップとして十分なビッカーズ硬さを確保でき、鉛フリー半田に対する耐食性が高いチップを提供できる。また、半田付け作業において実用的な所定の範囲の濡れ性を兼ね備え更に、所定の範囲内において作業目的や半田付け対象物に応じて濡れ性の制御が可能なチップを提供できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,半田付け作業に用いる半田ごてチップおよびその製造方法に係り、特に鉛含有の有無によらず十分な耐食性を有し、半田濡れ性の制御が可能な半田ごてチップおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半田ごてのチップ(こて先)において、長期間の使用による劣化のないチップの提供を目的として、例えば、図18の如くチップ100の基体101の表面に、鉄(Fe)等のメッキ102を施した半田ごてチップなどが開発されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−155633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
エレクトロニクス機器の廃棄にかかわる環境負荷に対して、近年では半田の鉛フリー化が進められている。このため、従来の鉛−錫(Pb−Sn)系の合金よりなる共晶半田に変わって、錫−銀(Sn−Ag)系または錫−亜鉛(Sn−Zn)系の材料よりなるいわゆる鉛(Pb)フリー半田が主流と成りつつある。
【0004】
しかし、鉛フリー半田は融点が高く、手作業による半田付けにおいて半田ごての使用温度を高くする必要がある。従来、半田ごてのチップ(こて先)の基材は銅材で構成されており、半田の侵食(溶食、半田食われ)を受けやすいものであった。そこで、チップの基体表面に鉄メッキまたはNiメッキが施されることが一般的であった。
【0005】
しかし、鉛フリー半田の採用によって半田ごての使用温度が上昇することとなり、メッキが施されたチップであっても溶食され易い問題があった。そのため、チップの早期劣化・寿命低下が大きな問題となっており、半田食われが少なくかつ半田濡れ性がある程度良いチップが要求されている。
【0006】
一方、半田付け装置では,半田付け部ごとに所定量の半田を供給し、加熱したチップでこの半田を溶融させて対象物へと流すようにしている。しかし、もともと半田とチップの接触面は、半田に対する付着性が強いので、溶融した半田の全部が対象物へ流れるのでなく、一部はチップ面上に残留する。この状態で所定量の半田が供給されると、残留した半田によって対象物へ流れていく半田の量が一定でなくなる。
【0007】
つまり、半田とチップの接触面が半田濡れ(wetting)性の良いもので構成されていると、かえって対象物へ流れていく半田の量が供給量に対して増減して半田付け量にばらつきが生じ、精密部品の高精度半田付けができないという問題が生じる。
【0008】
また、例えば最近の小型化・高性能化に伴う電子基板の細配線化により、配線間での半田によるブリッジングを回避するため、半田を弾く性質(濡れ性が悪い)のチップが採用される場合もある。このように、半田ごてのチップに関しては必ずしも半田の濡れ性の良いものが優れているとは限らず、使用用途によってはチップの半田濡れ性を制御する必要がある。しかし、従来の半田ごてチップにおいては、半田の濡れ性の不良を改善する目的で開発されたものが多く、半田濡れ性の制御も柔軟に対応でき、なおかつ耐食性に優れた半田ごてチップは知られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は係る課題に鑑みてなされ、第1に、酸化アルミニウムに半田に対する濡れ性の大きい金属添加物を含有させた酸化アルミニウムセラミックスによって半田ごてチップを構成することにより解決するものである。
【0010】
また、前記金属添加物は、前記酸化アルミニウムの焼結温度以上の融点を有することを特徴とするものである。
【0011】
また、前記金属添加物は、ニッケルまたは鉄であることを特徴とするものである。
【0012】
また、前記金属添加物の含有量は、70wt%〜85wt%であることを特徴とするものである。
【0013】
また、前記酸化アルミニウムセラミックスと溶融半田の接触角は、60度〜110度であることを特徴とするものである。
【0014】
また、前記酸化アルミニウムセラミックスのビッカーズ硬さは300以上であることを特徴とするものである。
【0015】
第2に、酸化アルミニウムの粉末と半田に対する濡れ性の大きい金属添加物とを粉砕し、前記金属添加物含有の混合原料粉末を生成する工程と、前記混合原料粉末を乾燥する工程と、前記混合原料粉末をホットプレス焼結し、前記金属添加物含有の酸化アルミニウムセラミックス片を形成する工程と、前記酸化アルミニウムセラミックス片を成形する工程と、を具備することにより解決するものである。
【0016】
また、前記金属添加物は、前記酸化アルミニウムの焼結温度以上の融点を有することを特徴とするものである。
【0017】
また、前記金属添加物は、ニッケルまたは鉄であることを特徴とするものである。
【0018】
また、前記金属添加物の含有量は、70wt%〜85wt%であることを特徴とするものである。
【0019】
また、半田付けの作業目的または半田付け対象物に応じて前記金属添加物の添加量を変化させ、前記酸化アルミニウムセラミック片に異なる濡れ性を保持させることを特徴とするものである。
【0020】
また、前記酸化アルミニウムセラミックスと溶融半田の接触角が60度〜110度の範囲で選択可能に前記金属添加物の含有量を変化させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、半田付け作業において耐食性に優れ、長寿命化を実現した半田ごてチップを提供できる。
【0022】
具体的には、第1に、従来のメッキを施したチップと同程度以上のビッカーズ硬さを確保し、且つ所定の濡れ性を兼ね備えたチップを実現できる。
【0023】
第2に、チップの基体がセラミックスであるので、メッキが施されたチップと比較して長寿命である。特に、いわゆる鉛フリー半田であっても、その溶食を回避することができる。またチップ成型時の研削等の加工が容易であり、短時間で製造可能である上、材料として安価な酸化アルミニウムと、鉄又はニッケルを採用できるので安価で性能の良いチップを提供できる。
【0024】
また、本発明の製造方法によれば、作業目的や半田付けの対象物に応じて、半田の濡れ性が制御可能な半田ごてチップの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1から図17を参照して本発明の一実施形態を詳細に説明する。
【0026】
図1は、本実施形態の半田ごてチップを示す外観図である。
【0027】
半田ごて10のチップ1は、酸化アルミニウム(Al2O3)に半田に対する濡れ性の大きい金属添加物を含有させて形成した酸化アルミニウムセラミックスにより構成される。チップ1は、濡れ性を良好にする観点においては少なくとも溶融半田の接触箇所が酸化アルミニウムセラミックスにより構成されていればよい。しかし、図示の如くチップ1全体が金属含有の酸化アルミニウムセラミックスを成形して構成されていれば、半田付け対象物との接触によるチップ1の劣化を防ぐことができ、また製造工程も簡素化する。従って、本実施形態では図示の場合を例に説明する。
【0028】
セラミックスは耐食性が高く半田の溶食に対して高い抵抗を示す。一方、金属材料に比べ表面エネルギーが小さいため、半田に対する付着性、すなわち濡れ(wetting)性が悪い。
【0029】
そこで、本実施形態では、セラミックスに半田濡れ性の良い金属添加物を含有させた。セラミックス材料としては酸化アルミニウムセラミックスが望ましい。例えば他のセラミックス材料としてジルコニア、窒化硅素、炭化硅素等もある。しかしジルコニアは熱に弱く、特に、使用温度が高温となる鉛フリー半田の半田ごてチップ1材料として好ましくない。また、窒化硅素および炭化硅素は製造コストがかかる問題がある。また、窒化硅素および炭化硅素は、焼結温度が1600℃〜1700℃と高温であり、含有させる金属の融点を考慮すると制約が大きい。
【0030】
一方、酸化アルミニウムは焼結温度が約1300℃程度である。また原料のコストが安価であるため、製造コストを抑えることができる。
【0031】
また金属添加物は、半田濡れ性の良い材料であり、酸化アルミニウムの焼結温度(約1300℃)より低い融点を有する金属である。具体的には、鉄(Fe:1気圧下の単体の融点1536℃)やニッケル(Ni:同1455℃)である。また、白金(Pt:同1769℃)でもよいが、鉄やニッケルで有れば安価に実施できる。従って本実施形態では金属添加物は鉄又はニッケルを例に説明する。
【0032】
チップ1の金属添加物の含有量は70wt%〜85wt%であり、より好適には80wt%程度である。これにより、耐食性と半田に対する濡れ性を共に良好にすることができる。具体的に説明すると、耐食性および半田に対する濡れ性を示す1つの指標として、それぞれビッカーズ硬さおよびチップ1と溶融半田の接触角が知られている。本実施形態では、チップ1(金属添加物含有の酸化アルミニウムセラミックス)のビッカーズ硬さが300以上で、なおかつ60度〜110度の接触角を実現できる。
【0033】
また本実施形態ではチップ1の濡れ性を制御することが可能である。すなわち、金属添加物(例えばニッケル)の含有量を70wt%〜85wt%の範囲で変化させることにより、チップ1と溶融半田の接触角を約60度〜110度の範囲で変化させることができる。半田付け対象の多様化に伴い、良好な濡れ性をそれほど要求されないチップの需要も高まっている。本実施形態はこのようなユーザのニーズに応えるチップ1を提供できるものであるが、これについては後述する。
【0034】
また、チップ1の基体がセラミックスであるので、以下の利点を有する。第1に、メッキの剥離など、組成が不安定な従来のチップ100(図18参照)と異なり超寿命である。第2に、チップ1成型時の研削等の加工が容易であり、短時間で製造できる。第3に、例えば錫−銀(Sn−Ag)系または錫−亜鉛(Sn−Zn)系の材料よりなるいわゆる鉛(Pb)フリー半田であっても、その溶食を回避し、長寿命化を図ることができる。
【0035】
更に、本実施形態では材料として酸化アルミニウムおよび、鉄又はニッケルを採用できる。従ってコストを抑え、且つユーザのニーズに応じたチップを提供できる。
【0036】
図2のフロー図を参照し、本実施形態の製造方法について説明する。
【0037】
本実施形態の半田ごてチップの製造方法は、酸化アルミニウムの粉末と半田に対する濡れ性の大きい金属添加物とを粉砕し、金属添加物含有の原料粉末を生成する工程と、原料粉末を乾燥する工程と、原料粉末をホットプレス焼結し、金属添加物含有の酸化アルミニウムセラミックス片を形成する工程と、酸化アルミニウムセラミックス片を成形する工程と、から構成される。
【0038】
第1工程(ステップS1):酸化アルミニウムの粉末と半田に対する濡れ性の大きい金属添加物とを粉砕し、金属添加物含有の混合原料粉末を取得する工程。
【0039】
酸化アルミニウム(Al2O3)粉末(純度99.99%、平均粒径0.15μm)を準備し、金属添加物を添加する。金属添加物は、半田に対する濡れ性が大きく、酸化アルミニウムの焼結温度より融点が高い金属である。具体的には、ニッケル(Ni)粉末(純度99.99%、平均粒径4.30μm)または、鉄(Fe)粉末(純度99.5%、平均粒径5.9μm)である。
【0040】
金属添加物の添加量は、作業目的または半田付け対象物(要求される濡れ性)に応じて、70wt%〜85wt%の範囲で適宜選択する。例えば、添加量が80wt%程度であれば、チップと溶融半田の接触角がおよそ70度〜90度の範囲となり、良好な濡れ性を実現できる。また、添加量を少なくすることにより、より濡れにくいチップを実現でき、添加量を多くすることにより濡れやすいチップを提供することができる。
【0041】
これらの粉末を、所定の容器内でエタノールを媒介として24時間混合粉砕し、金属添加物含有の混合原料粉末を生成する。
【0042】
第2工程(ステップS2):混合原料粉末を乾燥する工程。
【0043】
混合原料粉末を乾燥温度80℃で乾燥する。その後、乾燥した混合原料粉末を、粒径を均一にするために、100メッシュの篩いで篩う。
【0044】
第3工程(ステップS3):混合原料粉末をホットプレス焼結し、金属添加物含有の酸化アルミニウムセラミックス片を形成する工程。
【0045】
混合原料粉末をホットプレス焼結する。ホットプレス焼結は、窒素(N2)雰囲気中で圧力20MPa、温度1573K、2時間保持で行う。これにより、金属添加物含有の酸化アルミニウムセラミックス片を形成する。 第4工程(ステップS4):酸化アルミニウムセラミックス片を成形する工程。
【0046】
酸化アルミニウムセラミックス片を円錐形に切削し、表面を砥粒粗さ#1000の研磨材にて鏡面仕上げして図1に示すチップ1を得る。
【0047】
更に、本実施形態によれば、金属添加物の添加量を適宜選択することにより、異なる濡れ性を有するチップを製造できる。
【0048】
図3を参照し、添加量による濡れ性の制御について説明する。濡れ性の代表的な指標としては接触角と転落角があり、図3(A)は接触角を説明する図である。一方チップの耐食性および強度は、JISに基づくビッカース硬さ試験により評価できる。図3(B)は添加量と接触角およびビッカーズ硬さの関係を示す。
【0049】
接触角による評価は、固相と液相の濡れ性を評価する一般的な方法として採用される。接触角はJIS R 3257に基づく接触角測定法により評価した。
【0050】
図3(A)は、静止接触角法を説明する図である。
【0051】
液滴接触角の測定については、図3(A)に示すように液滴(半田)2の容量が少ない場合、液滴の形状は球の一部と見なせるので、接触角閧ニ液滴の形状との間には、次のような関係が成立する。
【0052】
θ=2tan−1(h/r)
ここで、rは液滴すなわち半田2が試験片に接している部分の半径、hはチップ1表面から半田2頂点までの高さである。このrとhから接触角θを求めた。
【0053】
図3(B)の如く、添加量を70wt%〜85wt%の範囲で変化させることにより、ニッケルの場合には、接触角を約60度〜110度の範囲内で変化させることができ、すなわちこの範囲の様々な濡れ性を得ることができる。同様に鉄の場合にも接触角を約60度〜95度の範囲内で変化させることができる。
【0054】
一方ビッカース硬さ試験による評価では、70wt%〜85wt%の範囲の添加量の場合、ニッケル、鉄共に300以上のビッカーズ硬さを確保でき、半田に対する耐食性やチップ自身の強度として十分である。つまり、上記の範囲であれば所定のビッカーズ硬さを維持したまま、濡れ性を制御することができる。
【0055】
特に、ニッケル、鉄共に、添加量が80wt%程度であれば、良好な濡れ性と十分なビッカーズ硬さを得ることができる。
【0056】
近年、半田付けの対象物である例えば電子デバイス等においては、装置の小型化・高性能化に伴い電子基板の配線が細線化されている。また精密部品においては半田付け量のばらつきを抑制した高精度半田付けが要求される。
【0057】
従って、半田ごてのチップに関しては、半田に対する濡れ性の良いものが優れているとは一概には言えず、半田付けの対象物または使用目的によっては、チップ1にそれほど良好な濡れ性が要求されない場合もある。つまり、半田付け対象物又は使用目的に応じて柔軟に濡れ性を制御することが重要となってきている。一方でチップに対しては、半田に対する耐食性の向上や、半田付け対象物と接触することによるチップの劣化防止などある程度の強度が要求される。
【0058】
本実施形態によれば、銅の基体に、図18の如くメッキを施したチップと同程度以上のビッカーズ硬さを確保でき、鉛フリー半田に対しても耐食性が高く、長寿命のチップ1を提供できる。また、半田付け作業において実用的な所定の範囲内において作業目的や半田付け対象物に応じて濡れ性の制御が可能なチップ1を提供できる。例えば、図3(C)の如く、添加量が80wt%であれば、チップ1と溶融半田2の接触角がおよそ60度〜80度程度となり、良好な濡れ性を実現できる。また、添加量を70wt%にすることにより、より濡れにくいチップ1を実現でき、添加量を85wt%にすることにより濡れやすいチップ1を提供することができる。また、この範囲であればビッカーズ硬さは300以上確保できる。
【0059】
本実施形態の金属添加物含有のセラミックスの耐食性、および金属添加物の含有量と濡れ性の関係性は、試験片と半田による各種濡れ試験および半田溶食様相観察等により明らかとなったものであり、以下これについて説明する。
【0060】
試験片は、酸化アルミニウム粉末(純度99.99%、平均粒径0.15μm)にニッケル粉末(純度99.9%、平均粒径4.30μm)および鉄粉末(純度99.5%、平均粒径5.0μm)を所定量添加したものを、図2に示す製造フローに沿って作製した。尚、以下では金属添加物の添加量を0〜100wt%まで種々変化させて実験を行った。
【0061】
すなわち、金属添加物の添加量を種々選択した後、原料粉末をアルミナ製ボールミルでエタノールを媒介として24時間混合粉砕し、混合原料粉末を得た。ボールミル容器は内径1400mm、高さ160mm、内容積2×10−3m3であり、ボール直径は20mmである(ステップS1)。
【0062】
その後混合原料粉末を乾燥温度80℃で乾燥した。乾燥時間は試験片の大きさ(混合原料粉末の量)で変化するが、ここでは12時間とした。その後、100メッシュの篩いで篩い(ステップS2)、ホットプレス焼結(ステップS3)した。ホットプレス焼結は、窒素(N2)雰囲気中で圧力20MPa、温度1573K、2時間保持で行った。ただし、添加成分量90wt%以上のものについては、圧力20MPa、温度1273K、2時間保持とした)。これにより得られた酸化アルミニウムセラミック片をダイヤモンドバンドソーにより切削加工後、砥粒粗さ#150で寸法5×10×40mmに研削加工したのち表面を砥粒粗さ#1000のエメリー紙(サンドペーパー)で鏡面仕上げした(ステップS4)。これにより作成された試験片を各試験に供した。
[チップの半田濡れ性評価法、硬さ、半田溶食の観察および成分分析法]
試験片の半田に対する濡れ性評価は、前述の接触角を求めることにより評価し、接触角はJIS R 3257に基づく接触角測定法(図3(A))により評価した。
【0063】
試験環境は大気中およびN2雰囲気中で行った。濡れ性評価に用いた半田は、鉛フリー半田の基準的な合金であるSn−3Ag−0.5Cu(融点217℃〜219℃)を用い、半田容量は0.2gとした。
【0064】
更に、チップの耐食性および強度の試験として、作製した各試験片の硬さをJISに基づくビッカース硬さ試験により評価した。
【0065】
また、成分分析はX線回折装置(XRD:X−ray diffraction)により、組織および断面観察は走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning electron microscopy)により行った。
[作製した試験片の濡れ特性および耐溶食特性]
図4にAl2O3/Niセラミックス(以下試験片)のNi添加量と溶融半田接触角およびビッカース硬さとの関係を示す。
【0066】
左側縦軸に接触角を、右側縦軸にはビッカーズ硬さを示す。尚、参考として銅の基体にNiメッキを施したチップの半田接触角も同図左側縦軸に併記した。メッキは薄膜なので基体によっり硬さが変化するが、基体が銅の場合はNiより硬さは低い値となる。
【0067】
これより、Ni添加量の増加に伴い接触角が低下(濡れ性が向上)し、その変化量は添加量70wt%あたりから次第に大きくなっていることがわかる。
【0068】
また、添加量80wt%では、Niメッキのチップにおける接触角(70度〜80度)にほぼ近い値となっている。これより、本実施形態によればNiの添加量によって、ほとんど濡れない状態からNiメッキと同程度の濡れ性にまで半田濡れ性を制御可能である。これは、Ni添加に伴う表面Ni存在量の変化により表面エネルギーが変化したため、濡れ性も変化したものと考えられる。
【0069】
一方、ビッカーズ硬さはNi添加量の低下に伴い低下する。すなわち、濡れ性の制御は可能であっても、添加量が低すぎるとチップ自体が柔らかく、耐食性が劣化したり対象物に接触することによりチップがすり減る等し、実用的な観点からは好ましくない。そこで、本実施形態ではチップとして実用的な範囲として、70wt%〜85wt%の添加量を採用した。この範囲であれば、ビッカーズ硬さが300以上となり、チップとして十分な硬さが実現できる。
【0070】
特に、濡れ性(接触角)がNiメッキに近い添加量80wt%ではビッカース硬さが400〜500程度であり、半田ごてのチップとしては十分な硬さと濡れ性を実現できる。更に添加量が70wt%〜85wt%の範囲であれば、所定のビッカーズ硬さを確保しつつ、60度〜110度程度の接触角を選択でき、濡れ性の制御が可能である。
【0071】
図5および図6は、半田の濡れ性に及ぼすチップの使用温度および雰囲気(N2)の影響について調べた結果である。図5は濡れ性に及ぼす温度の影響であり、図6は濡れ性に及ぼす雰囲気の影響であり、共に縦軸が接触角、横軸がNiの添加量である。
【0072】
これより、温度を変化させた場合も雰囲気を変化させた場合もまた、濡れ性はあまり変化しないことがわかる。したがって、半田濡れ性に及ぼす使用雰囲気および温度による影響はあまり無いものと考えられる。
【0073】
尚、試験温度350℃の場合Ni添加量80〜90wt%付近でばらつきが大きくなる傾向にあるが、これは高温によるフラックスの焼きつきが半田の濡れ性に影響したためと考えられる。フラックスは、半田付けを行う場合に不可欠なものであり、例えば糸半田の場合には、松ヤニに少量の活性剤を添加したものなどが使用される。また、フラックスの活性範囲の上限は、約350℃程度であるためこれが影響していると思われる。
【0074】
図7は、本実施形態(Ni80wt%の場合)における溶融半田2付近のフラックス3を示す図である。図の如く雰囲気を変化させた場合については、フラックス3がある程度半田2/セラミックス(試料片)界面で酸化を防いでいるため、大気雰囲気の使用もN2雰囲気と同様な濡れ性になったものと考えられる。
【0075】
図5〜図7により、本実施形態のチップは、大気雰囲気下においても充分使用可能であるといえる。半田ごては一般に大気雰囲気で使用されるものであるが、最近では半田の鉛フリー化に伴う濡れ性低下を改善するため、N2雰囲気で行えるものが開発されるなどでいる。しかし、本実施形態のチップはN2雰囲気下で使用する必要はなく、大気雰囲気であっても充分な濡れ性を確保できる。
【0076】
図8を参照して、Ni添加量と転落角との関係を示す。図8(A)は転落法を説明する図であり、図8(B)は転落法により評価したNi添加量と転落角との関係を示す。
【0077】
こてチップでの半田の保持力(滑りにくさ)を想定して転落角を求めること(転落法(図8(B))によって評価した。転落法による評価の試験温度は、一般的なリフロー温度および半田こてチップ温度を想定して230℃および350℃の2種類とした。
【0078】
転落法は、図8(A)に示すように溶融半田2が加熱した試験片4表面を滑り落ち始める時の角度θs(転落角)を求める評価法である。試験温度は、一般的なリフロー温度および半田こてチップ温度を想定して230℃および350℃の2種類とした。尚、図8(B)に示す評価結果において、図4と同様にビッカーズ硬さも右側縦軸に併記してある。
【0079】
これより、接触角の場合と同様にNi添加量の増加に伴い転落角は上昇、すなわち滑りにくくなっていることがわかる。とくに、50wt%以下では極端に滑り易く、それ以上の60wt%あたりから転落角は向上し、80wt%あたりでは90度を越えても滑り落ちない場合があった。
【0080】
図9は、Ni添加量80wt%で、転落角90度付近の溶融半田2の様相を示す図である。さらに、Ni添加量90wt%以上ではそのほとんどが図の如く90度を超えても滑り出すことはなかった。以上より、Ni添加量80wt%以上にすれば、半田を材料表面上である程度保持でき(滑りにくくすることができ)、またそれ以下にすれば半田を滑り(弾き)易くするように制御可能であることがわかった。
【0081】
鉄(Fe)を添加した材料についてもNiの場合と同様に半田濡れ性を調べた。
【0082】
図10には、Fe添加量と半田接触角およびビッカーズ硬さとの関係を示す。これより、Niの場合と同様にFe添加量70wt%〜85wt%程度で接触角が低下(濡れ性が向上)し、300以上のビッカーズ硬さを得られることがわかる。また、ビッカーズ硬さはFe添加量の増加に伴い低下するが、添加量80wt%ではビッカース硬さが400〜500程度でありチップとしては充分な硬さが得られている。
【0083】
一方、図11には、半田接触角とNiおよびFe添加量の関係を比較したものを示した。尚、Ni添加量と接触角の関係は図4と同様である。これによれば、添加量80wt%までは両者(Ni、Fe)ともほぼ同様の濡れ性であった。
【0084】
図12は、Fe添加量と転落角との関係についても調べた結果である。図8のNi添加量と転落角の関係も同図に併記してある。これより、Feの場合もNiの場合と同様の傾向を示し、その変化量も大差ないことがわかる。
【0085】
以上より、Feの場合でも70wt%〜85wt%の範囲で添加量を制御することにより、例えば80wt%程度では、試料表面での良好な半田濡れ性・保持力を得ることができ、それ以下では滑り(弾き)易くするよう制御可能であることがわかった。なおかつこの範囲で有れば、チップとして十分なビッカーズ硬さを得ることができる。
【0086】
次に、各材料の半田による溶食(半田食われ)を調べるために、各材料表面で半田を溶融させ所定時間保持した後の半田/セラミックス界面での様相を調べた。
【0087】
図13は、Niの添加量80〜100wt%の場合の様相を示す図であり、SEMによる断面観察写真である。図13(A)がNi100wt%、図13(B)がNi90wt%、図13(C)がNi80wt%の場合である。これより、各材料とも合金層5が生成されているが、その厚さが異なることがわかる。
【0088】
図14には、食われの原因であるこの合金層5の厚さを上記の各組成でまとめた結果を示す。これより、合金層5の厚さはNi添加量の減少に伴い小さくなっていることがわかる。これは、Ni添加量の減少にともないAl2O3粒子が増加するため、より溶食(半田食われ)が抑制されるためと考えられる。この結果からも、Ni80wt%の場合は耐食性が高いと言える。
【0089】
図15は、試料表面の様相を示す図である。図15は、Niを添加した材料の組織をSEMにより観察した写真である。図15(A)〜(C)は、それぞれNi100wt%、Ni90wt%、Ni80wt%の場合である。また各図の左右の写真は倍率が異なり、左が×1000倍、右が×100倍である。
【0090】
図15によれば、Ni90wt%、Ni80wt%ともAl2O3粒子6(図中の黒い部分)が均一に分散されており、Ni80wt%の方がその分散量が多いことがわかる。
【0091】
図16は、Ni80wt%の半田/セラミックス界面のSEM写真である。これによれば、図15で見られるような分散したAl2O3粒子6により合金化されていない場所が確認できる。
【0092】
更に図17には、Ni添加量を50%〜100%まで変化させた場合の試験片のXRD成分分析結果を示す。これによれば、アルミナはNi添加量の減少に伴い増加している。このことからも、アルミナ粒子の存在によって半田の食われを抑制することが可能であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の半田ごてチップは、鉛フリー半田を用いた半田付け作業に有効に利用することができる。更に、半田付けの対象物または使用目的に応じて、半田に対する濡れ性を制御することができるので、広範囲な分野における半田付け作業に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の半田ごてチップを示す外観図である。
【図2】本発明の半田ごてチップの製造方法を示すフロー図である。
【図3】本発明の半田ごてチップの(A)静止接触角法を説明する図、(B)添加量と濡れ性および硬さの関係を示す図である。
【図4】本発明の金属添加物と半田接触角および硬さの関係を示す図である。
【図5】本発明の濡れ性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図6】本発明の濡れ性に及ぼす雰囲気の影響を示す図である。
【図7】本発明の評価に用いた試料表面のフラックスおよび半田を示す図である。
【図8】本発明の(A)転落法を説明する図、(B)金属添加物と転落角の関係を示す図である。
【図9】本発明の評価に用いた試料表面の溶融半田の様相を示す図である。
【図10】本発明の金属添加物と半田接触角および硬さとの関係を示す図である。
【図11】本発明の半田接触角に及ぼす金属添加物の影響を示す図である。
【図12】本発明の転落角に及ぼす金属添加物の影響を示す図である。
【図13】本発明の評価に用いた試料/半田界面を示す図である。
【図14】本発明の評価に用いた各試料界面での合金層厚さを示す図である。
【図15】本発明の評価に用いた試料を示す図である。
【図16】本発明の評価に用いた試料/半田界面を示す図である。
【図17】本発明の評価に用いた試料のXRD成分分析結果を示す図である。
【図18】従来の半田ごてチップを示す図である。
【符号の説明】
【0095】
1 チップ
2 半田(溶融半田)
3 フラックス
4 試料片
5 合金層
6 アルミナ粒子
10 半田ごて
100 チップ
101 基体
102 メッキ
【技術分野】
【0001】
本発明は,半田付け作業に用いる半田ごてチップおよびその製造方法に係り、特に鉛含有の有無によらず十分な耐食性を有し、半田濡れ性の制御が可能な半田ごてチップおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半田ごてのチップ(こて先)において、長期間の使用による劣化のないチップの提供を目的として、例えば、図18の如くチップ100の基体101の表面に、鉄(Fe)等のメッキ102を施した半田ごてチップなどが開発されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−155633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
エレクトロニクス機器の廃棄にかかわる環境負荷に対して、近年では半田の鉛フリー化が進められている。このため、従来の鉛−錫(Pb−Sn)系の合金よりなる共晶半田に変わって、錫−銀(Sn−Ag)系または錫−亜鉛(Sn−Zn)系の材料よりなるいわゆる鉛(Pb)フリー半田が主流と成りつつある。
【0004】
しかし、鉛フリー半田は融点が高く、手作業による半田付けにおいて半田ごての使用温度を高くする必要がある。従来、半田ごてのチップ(こて先)の基材は銅材で構成されており、半田の侵食(溶食、半田食われ)を受けやすいものであった。そこで、チップの基体表面に鉄メッキまたはNiメッキが施されることが一般的であった。
【0005】
しかし、鉛フリー半田の採用によって半田ごての使用温度が上昇することとなり、メッキが施されたチップであっても溶食され易い問題があった。そのため、チップの早期劣化・寿命低下が大きな問題となっており、半田食われが少なくかつ半田濡れ性がある程度良いチップが要求されている。
【0006】
一方、半田付け装置では,半田付け部ごとに所定量の半田を供給し、加熱したチップでこの半田を溶融させて対象物へと流すようにしている。しかし、もともと半田とチップの接触面は、半田に対する付着性が強いので、溶融した半田の全部が対象物へ流れるのでなく、一部はチップ面上に残留する。この状態で所定量の半田が供給されると、残留した半田によって対象物へ流れていく半田の量が一定でなくなる。
【0007】
つまり、半田とチップの接触面が半田濡れ(wetting)性の良いもので構成されていると、かえって対象物へ流れていく半田の量が供給量に対して増減して半田付け量にばらつきが生じ、精密部品の高精度半田付けができないという問題が生じる。
【0008】
また、例えば最近の小型化・高性能化に伴う電子基板の細配線化により、配線間での半田によるブリッジングを回避するため、半田を弾く性質(濡れ性が悪い)のチップが採用される場合もある。このように、半田ごてのチップに関しては必ずしも半田の濡れ性の良いものが優れているとは限らず、使用用途によってはチップの半田濡れ性を制御する必要がある。しかし、従来の半田ごてチップにおいては、半田の濡れ性の不良を改善する目的で開発されたものが多く、半田濡れ性の制御も柔軟に対応でき、なおかつ耐食性に優れた半田ごてチップは知られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は係る課題に鑑みてなされ、第1に、酸化アルミニウムに半田に対する濡れ性の大きい金属添加物を含有させた酸化アルミニウムセラミックスによって半田ごてチップを構成することにより解決するものである。
【0010】
また、前記金属添加物は、前記酸化アルミニウムの焼結温度以上の融点を有することを特徴とするものである。
【0011】
また、前記金属添加物は、ニッケルまたは鉄であることを特徴とするものである。
【0012】
また、前記金属添加物の含有量は、70wt%〜85wt%であることを特徴とするものである。
【0013】
また、前記酸化アルミニウムセラミックスと溶融半田の接触角は、60度〜110度であることを特徴とするものである。
【0014】
また、前記酸化アルミニウムセラミックスのビッカーズ硬さは300以上であることを特徴とするものである。
【0015】
第2に、酸化アルミニウムの粉末と半田に対する濡れ性の大きい金属添加物とを粉砕し、前記金属添加物含有の混合原料粉末を生成する工程と、前記混合原料粉末を乾燥する工程と、前記混合原料粉末をホットプレス焼結し、前記金属添加物含有の酸化アルミニウムセラミックス片を形成する工程と、前記酸化アルミニウムセラミックス片を成形する工程と、を具備することにより解決するものである。
【0016】
また、前記金属添加物は、前記酸化アルミニウムの焼結温度以上の融点を有することを特徴とするものである。
【0017】
また、前記金属添加物は、ニッケルまたは鉄であることを特徴とするものである。
【0018】
また、前記金属添加物の含有量は、70wt%〜85wt%であることを特徴とするものである。
【0019】
また、半田付けの作業目的または半田付け対象物に応じて前記金属添加物の添加量を変化させ、前記酸化アルミニウムセラミック片に異なる濡れ性を保持させることを特徴とするものである。
【0020】
また、前記酸化アルミニウムセラミックスと溶融半田の接触角が60度〜110度の範囲で選択可能に前記金属添加物の含有量を変化させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、半田付け作業において耐食性に優れ、長寿命化を実現した半田ごてチップを提供できる。
【0022】
具体的には、第1に、従来のメッキを施したチップと同程度以上のビッカーズ硬さを確保し、且つ所定の濡れ性を兼ね備えたチップを実現できる。
【0023】
第2に、チップの基体がセラミックスであるので、メッキが施されたチップと比較して長寿命である。特に、いわゆる鉛フリー半田であっても、その溶食を回避することができる。またチップ成型時の研削等の加工が容易であり、短時間で製造可能である上、材料として安価な酸化アルミニウムと、鉄又はニッケルを採用できるので安価で性能の良いチップを提供できる。
【0024】
また、本発明の製造方法によれば、作業目的や半田付けの対象物に応じて、半田の濡れ性が制御可能な半田ごてチップの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1から図17を参照して本発明の一実施形態を詳細に説明する。
【0026】
図1は、本実施形態の半田ごてチップを示す外観図である。
【0027】
半田ごて10のチップ1は、酸化アルミニウム(Al2O3)に半田に対する濡れ性の大きい金属添加物を含有させて形成した酸化アルミニウムセラミックスにより構成される。チップ1は、濡れ性を良好にする観点においては少なくとも溶融半田の接触箇所が酸化アルミニウムセラミックスにより構成されていればよい。しかし、図示の如くチップ1全体が金属含有の酸化アルミニウムセラミックスを成形して構成されていれば、半田付け対象物との接触によるチップ1の劣化を防ぐことができ、また製造工程も簡素化する。従って、本実施形態では図示の場合を例に説明する。
【0028】
セラミックスは耐食性が高く半田の溶食に対して高い抵抗を示す。一方、金属材料に比べ表面エネルギーが小さいため、半田に対する付着性、すなわち濡れ(wetting)性が悪い。
【0029】
そこで、本実施形態では、セラミックスに半田濡れ性の良い金属添加物を含有させた。セラミックス材料としては酸化アルミニウムセラミックスが望ましい。例えば他のセラミックス材料としてジルコニア、窒化硅素、炭化硅素等もある。しかしジルコニアは熱に弱く、特に、使用温度が高温となる鉛フリー半田の半田ごてチップ1材料として好ましくない。また、窒化硅素および炭化硅素は製造コストがかかる問題がある。また、窒化硅素および炭化硅素は、焼結温度が1600℃〜1700℃と高温であり、含有させる金属の融点を考慮すると制約が大きい。
【0030】
一方、酸化アルミニウムは焼結温度が約1300℃程度である。また原料のコストが安価であるため、製造コストを抑えることができる。
【0031】
また金属添加物は、半田濡れ性の良い材料であり、酸化アルミニウムの焼結温度(約1300℃)より低い融点を有する金属である。具体的には、鉄(Fe:1気圧下の単体の融点1536℃)やニッケル(Ni:同1455℃)である。また、白金(Pt:同1769℃)でもよいが、鉄やニッケルで有れば安価に実施できる。従って本実施形態では金属添加物は鉄又はニッケルを例に説明する。
【0032】
チップ1の金属添加物の含有量は70wt%〜85wt%であり、より好適には80wt%程度である。これにより、耐食性と半田に対する濡れ性を共に良好にすることができる。具体的に説明すると、耐食性および半田に対する濡れ性を示す1つの指標として、それぞれビッカーズ硬さおよびチップ1と溶融半田の接触角が知られている。本実施形態では、チップ1(金属添加物含有の酸化アルミニウムセラミックス)のビッカーズ硬さが300以上で、なおかつ60度〜110度の接触角を実現できる。
【0033】
また本実施形態ではチップ1の濡れ性を制御することが可能である。すなわち、金属添加物(例えばニッケル)の含有量を70wt%〜85wt%の範囲で変化させることにより、チップ1と溶融半田の接触角を約60度〜110度の範囲で変化させることができる。半田付け対象の多様化に伴い、良好な濡れ性をそれほど要求されないチップの需要も高まっている。本実施形態はこのようなユーザのニーズに応えるチップ1を提供できるものであるが、これについては後述する。
【0034】
また、チップ1の基体がセラミックスであるので、以下の利点を有する。第1に、メッキの剥離など、組成が不安定な従来のチップ100(図18参照)と異なり超寿命である。第2に、チップ1成型時の研削等の加工が容易であり、短時間で製造できる。第3に、例えば錫−銀(Sn−Ag)系または錫−亜鉛(Sn−Zn)系の材料よりなるいわゆる鉛(Pb)フリー半田であっても、その溶食を回避し、長寿命化を図ることができる。
【0035】
更に、本実施形態では材料として酸化アルミニウムおよび、鉄又はニッケルを採用できる。従ってコストを抑え、且つユーザのニーズに応じたチップを提供できる。
【0036】
図2のフロー図を参照し、本実施形態の製造方法について説明する。
【0037】
本実施形態の半田ごてチップの製造方法は、酸化アルミニウムの粉末と半田に対する濡れ性の大きい金属添加物とを粉砕し、金属添加物含有の原料粉末を生成する工程と、原料粉末を乾燥する工程と、原料粉末をホットプレス焼結し、金属添加物含有の酸化アルミニウムセラミックス片を形成する工程と、酸化アルミニウムセラミックス片を成形する工程と、から構成される。
【0038】
第1工程(ステップS1):酸化アルミニウムの粉末と半田に対する濡れ性の大きい金属添加物とを粉砕し、金属添加物含有の混合原料粉末を取得する工程。
【0039】
酸化アルミニウム(Al2O3)粉末(純度99.99%、平均粒径0.15μm)を準備し、金属添加物を添加する。金属添加物は、半田に対する濡れ性が大きく、酸化アルミニウムの焼結温度より融点が高い金属である。具体的には、ニッケル(Ni)粉末(純度99.99%、平均粒径4.30μm)または、鉄(Fe)粉末(純度99.5%、平均粒径5.9μm)である。
【0040】
金属添加物の添加量は、作業目的または半田付け対象物(要求される濡れ性)に応じて、70wt%〜85wt%の範囲で適宜選択する。例えば、添加量が80wt%程度であれば、チップと溶融半田の接触角がおよそ70度〜90度の範囲となり、良好な濡れ性を実現できる。また、添加量を少なくすることにより、より濡れにくいチップを実現でき、添加量を多くすることにより濡れやすいチップを提供することができる。
【0041】
これらの粉末を、所定の容器内でエタノールを媒介として24時間混合粉砕し、金属添加物含有の混合原料粉末を生成する。
【0042】
第2工程(ステップS2):混合原料粉末を乾燥する工程。
【0043】
混合原料粉末を乾燥温度80℃で乾燥する。その後、乾燥した混合原料粉末を、粒径を均一にするために、100メッシュの篩いで篩う。
【0044】
第3工程(ステップS3):混合原料粉末をホットプレス焼結し、金属添加物含有の酸化アルミニウムセラミックス片を形成する工程。
【0045】
混合原料粉末をホットプレス焼結する。ホットプレス焼結は、窒素(N2)雰囲気中で圧力20MPa、温度1573K、2時間保持で行う。これにより、金属添加物含有の酸化アルミニウムセラミックス片を形成する。 第4工程(ステップS4):酸化アルミニウムセラミックス片を成形する工程。
【0046】
酸化アルミニウムセラミックス片を円錐形に切削し、表面を砥粒粗さ#1000の研磨材にて鏡面仕上げして図1に示すチップ1を得る。
【0047】
更に、本実施形態によれば、金属添加物の添加量を適宜選択することにより、異なる濡れ性を有するチップを製造できる。
【0048】
図3を参照し、添加量による濡れ性の制御について説明する。濡れ性の代表的な指標としては接触角と転落角があり、図3(A)は接触角を説明する図である。一方チップの耐食性および強度は、JISに基づくビッカース硬さ試験により評価できる。図3(B)は添加量と接触角およびビッカーズ硬さの関係を示す。
【0049】
接触角による評価は、固相と液相の濡れ性を評価する一般的な方法として採用される。接触角はJIS R 3257に基づく接触角測定法により評価した。
【0050】
図3(A)は、静止接触角法を説明する図である。
【0051】
液滴接触角の測定については、図3(A)に示すように液滴(半田)2の容量が少ない場合、液滴の形状は球の一部と見なせるので、接触角閧ニ液滴の形状との間には、次のような関係が成立する。
【0052】
θ=2tan−1(h/r)
ここで、rは液滴すなわち半田2が試験片に接している部分の半径、hはチップ1表面から半田2頂点までの高さである。このrとhから接触角θを求めた。
【0053】
図3(B)の如く、添加量を70wt%〜85wt%の範囲で変化させることにより、ニッケルの場合には、接触角を約60度〜110度の範囲内で変化させることができ、すなわちこの範囲の様々な濡れ性を得ることができる。同様に鉄の場合にも接触角を約60度〜95度の範囲内で変化させることができる。
【0054】
一方ビッカース硬さ試験による評価では、70wt%〜85wt%の範囲の添加量の場合、ニッケル、鉄共に300以上のビッカーズ硬さを確保でき、半田に対する耐食性やチップ自身の強度として十分である。つまり、上記の範囲であれば所定のビッカーズ硬さを維持したまま、濡れ性を制御することができる。
【0055】
特に、ニッケル、鉄共に、添加量が80wt%程度であれば、良好な濡れ性と十分なビッカーズ硬さを得ることができる。
【0056】
近年、半田付けの対象物である例えば電子デバイス等においては、装置の小型化・高性能化に伴い電子基板の配線が細線化されている。また精密部品においては半田付け量のばらつきを抑制した高精度半田付けが要求される。
【0057】
従って、半田ごてのチップに関しては、半田に対する濡れ性の良いものが優れているとは一概には言えず、半田付けの対象物または使用目的によっては、チップ1にそれほど良好な濡れ性が要求されない場合もある。つまり、半田付け対象物又は使用目的に応じて柔軟に濡れ性を制御することが重要となってきている。一方でチップに対しては、半田に対する耐食性の向上や、半田付け対象物と接触することによるチップの劣化防止などある程度の強度が要求される。
【0058】
本実施形態によれば、銅の基体に、図18の如くメッキを施したチップと同程度以上のビッカーズ硬さを確保でき、鉛フリー半田に対しても耐食性が高く、長寿命のチップ1を提供できる。また、半田付け作業において実用的な所定の範囲内において作業目的や半田付け対象物に応じて濡れ性の制御が可能なチップ1を提供できる。例えば、図3(C)の如く、添加量が80wt%であれば、チップ1と溶融半田2の接触角がおよそ60度〜80度程度となり、良好な濡れ性を実現できる。また、添加量を70wt%にすることにより、より濡れにくいチップ1を実現でき、添加量を85wt%にすることにより濡れやすいチップ1を提供することができる。また、この範囲であればビッカーズ硬さは300以上確保できる。
【0059】
本実施形態の金属添加物含有のセラミックスの耐食性、および金属添加物の含有量と濡れ性の関係性は、試験片と半田による各種濡れ試験および半田溶食様相観察等により明らかとなったものであり、以下これについて説明する。
【0060】
試験片は、酸化アルミニウム粉末(純度99.99%、平均粒径0.15μm)にニッケル粉末(純度99.9%、平均粒径4.30μm)および鉄粉末(純度99.5%、平均粒径5.0μm)を所定量添加したものを、図2に示す製造フローに沿って作製した。尚、以下では金属添加物の添加量を0〜100wt%まで種々変化させて実験を行った。
【0061】
すなわち、金属添加物の添加量を種々選択した後、原料粉末をアルミナ製ボールミルでエタノールを媒介として24時間混合粉砕し、混合原料粉末を得た。ボールミル容器は内径1400mm、高さ160mm、内容積2×10−3m3であり、ボール直径は20mmである(ステップS1)。
【0062】
その後混合原料粉末を乾燥温度80℃で乾燥した。乾燥時間は試験片の大きさ(混合原料粉末の量)で変化するが、ここでは12時間とした。その後、100メッシュの篩いで篩い(ステップS2)、ホットプレス焼結(ステップS3)した。ホットプレス焼結は、窒素(N2)雰囲気中で圧力20MPa、温度1573K、2時間保持で行った。ただし、添加成分量90wt%以上のものについては、圧力20MPa、温度1273K、2時間保持とした)。これにより得られた酸化アルミニウムセラミック片をダイヤモンドバンドソーにより切削加工後、砥粒粗さ#150で寸法5×10×40mmに研削加工したのち表面を砥粒粗さ#1000のエメリー紙(サンドペーパー)で鏡面仕上げした(ステップS4)。これにより作成された試験片を各試験に供した。
[チップの半田濡れ性評価法、硬さ、半田溶食の観察および成分分析法]
試験片の半田に対する濡れ性評価は、前述の接触角を求めることにより評価し、接触角はJIS R 3257に基づく接触角測定法(図3(A))により評価した。
【0063】
試験環境は大気中およびN2雰囲気中で行った。濡れ性評価に用いた半田は、鉛フリー半田の基準的な合金であるSn−3Ag−0.5Cu(融点217℃〜219℃)を用い、半田容量は0.2gとした。
【0064】
更に、チップの耐食性および強度の試験として、作製した各試験片の硬さをJISに基づくビッカース硬さ試験により評価した。
【0065】
また、成分分析はX線回折装置(XRD:X−ray diffraction)により、組織および断面観察は走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning electron microscopy)により行った。
[作製した試験片の濡れ特性および耐溶食特性]
図4にAl2O3/Niセラミックス(以下試験片)のNi添加量と溶融半田接触角およびビッカース硬さとの関係を示す。
【0066】
左側縦軸に接触角を、右側縦軸にはビッカーズ硬さを示す。尚、参考として銅の基体にNiメッキを施したチップの半田接触角も同図左側縦軸に併記した。メッキは薄膜なので基体によっり硬さが変化するが、基体が銅の場合はNiより硬さは低い値となる。
【0067】
これより、Ni添加量の増加に伴い接触角が低下(濡れ性が向上)し、その変化量は添加量70wt%あたりから次第に大きくなっていることがわかる。
【0068】
また、添加量80wt%では、Niメッキのチップにおける接触角(70度〜80度)にほぼ近い値となっている。これより、本実施形態によればNiの添加量によって、ほとんど濡れない状態からNiメッキと同程度の濡れ性にまで半田濡れ性を制御可能である。これは、Ni添加に伴う表面Ni存在量の変化により表面エネルギーが変化したため、濡れ性も変化したものと考えられる。
【0069】
一方、ビッカーズ硬さはNi添加量の低下に伴い低下する。すなわち、濡れ性の制御は可能であっても、添加量が低すぎるとチップ自体が柔らかく、耐食性が劣化したり対象物に接触することによりチップがすり減る等し、実用的な観点からは好ましくない。そこで、本実施形態ではチップとして実用的な範囲として、70wt%〜85wt%の添加量を採用した。この範囲であれば、ビッカーズ硬さが300以上となり、チップとして十分な硬さが実現できる。
【0070】
特に、濡れ性(接触角)がNiメッキに近い添加量80wt%ではビッカース硬さが400〜500程度であり、半田ごてのチップとしては十分な硬さと濡れ性を実現できる。更に添加量が70wt%〜85wt%の範囲であれば、所定のビッカーズ硬さを確保しつつ、60度〜110度程度の接触角を選択でき、濡れ性の制御が可能である。
【0071】
図5および図6は、半田の濡れ性に及ぼすチップの使用温度および雰囲気(N2)の影響について調べた結果である。図5は濡れ性に及ぼす温度の影響であり、図6は濡れ性に及ぼす雰囲気の影響であり、共に縦軸が接触角、横軸がNiの添加量である。
【0072】
これより、温度を変化させた場合も雰囲気を変化させた場合もまた、濡れ性はあまり変化しないことがわかる。したがって、半田濡れ性に及ぼす使用雰囲気および温度による影響はあまり無いものと考えられる。
【0073】
尚、試験温度350℃の場合Ni添加量80〜90wt%付近でばらつきが大きくなる傾向にあるが、これは高温によるフラックスの焼きつきが半田の濡れ性に影響したためと考えられる。フラックスは、半田付けを行う場合に不可欠なものであり、例えば糸半田の場合には、松ヤニに少量の活性剤を添加したものなどが使用される。また、フラックスの活性範囲の上限は、約350℃程度であるためこれが影響していると思われる。
【0074】
図7は、本実施形態(Ni80wt%の場合)における溶融半田2付近のフラックス3を示す図である。図の如く雰囲気を変化させた場合については、フラックス3がある程度半田2/セラミックス(試料片)界面で酸化を防いでいるため、大気雰囲気の使用もN2雰囲気と同様な濡れ性になったものと考えられる。
【0075】
図5〜図7により、本実施形態のチップは、大気雰囲気下においても充分使用可能であるといえる。半田ごては一般に大気雰囲気で使用されるものであるが、最近では半田の鉛フリー化に伴う濡れ性低下を改善するため、N2雰囲気で行えるものが開発されるなどでいる。しかし、本実施形態のチップはN2雰囲気下で使用する必要はなく、大気雰囲気であっても充分な濡れ性を確保できる。
【0076】
図8を参照して、Ni添加量と転落角との関係を示す。図8(A)は転落法を説明する図であり、図8(B)は転落法により評価したNi添加量と転落角との関係を示す。
【0077】
こてチップでの半田の保持力(滑りにくさ)を想定して転落角を求めること(転落法(図8(B))によって評価した。転落法による評価の試験温度は、一般的なリフロー温度および半田こてチップ温度を想定して230℃および350℃の2種類とした。
【0078】
転落法は、図8(A)に示すように溶融半田2が加熱した試験片4表面を滑り落ち始める時の角度θs(転落角)を求める評価法である。試験温度は、一般的なリフロー温度および半田こてチップ温度を想定して230℃および350℃の2種類とした。尚、図8(B)に示す評価結果において、図4と同様にビッカーズ硬さも右側縦軸に併記してある。
【0079】
これより、接触角の場合と同様にNi添加量の増加に伴い転落角は上昇、すなわち滑りにくくなっていることがわかる。とくに、50wt%以下では極端に滑り易く、それ以上の60wt%あたりから転落角は向上し、80wt%あたりでは90度を越えても滑り落ちない場合があった。
【0080】
図9は、Ni添加量80wt%で、転落角90度付近の溶融半田2の様相を示す図である。さらに、Ni添加量90wt%以上ではそのほとんどが図の如く90度を超えても滑り出すことはなかった。以上より、Ni添加量80wt%以上にすれば、半田を材料表面上である程度保持でき(滑りにくくすることができ)、またそれ以下にすれば半田を滑り(弾き)易くするように制御可能であることがわかった。
【0081】
鉄(Fe)を添加した材料についてもNiの場合と同様に半田濡れ性を調べた。
【0082】
図10には、Fe添加量と半田接触角およびビッカーズ硬さとの関係を示す。これより、Niの場合と同様にFe添加量70wt%〜85wt%程度で接触角が低下(濡れ性が向上)し、300以上のビッカーズ硬さを得られることがわかる。また、ビッカーズ硬さはFe添加量の増加に伴い低下するが、添加量80wt%ではビッカース硬さが400〜500程度でありチップとしては充分な硬さが得られている。
【0083】
一方、図11には、半田接触角とNiおよびFe添加量の関係を比較したものを示した。尚、Ni添加量と接触角の関係は図4と同様である。これによれば、添加量80wt%までは両者(Ni、Fe)ともほぼ同様の濡れ性であった。
【0084】
図12は、Fe添加量と転落角との関係についても調べた結果である。図8のNi添加量と転落角の関係も同図に併記してある。これより、Feの場合もNiの場合と同様の傾向を示し、その変化量も大差ないことがわかる。
【0085】
以上より、Feの場合でも70wt%〜85wt%の範囲で添加量を制御することにより、例えば80wt%程度では、試料表面での良好な半田濡れ性・保持力を得ることができ、それ以下では滑り(弾き)易くするよう制御可能であることがわかった。なおかつこの範囲で有れば、チップとして十分なビッカーズ硬さを得ることができる。
【0086】
次に、各材料の半田による溶食(半田食われ)を調べるために、各材料表面で半田を溶融させ所定時間保持した後の半田/セラミックス界面での様相を調べた。
【0087】
図13は、Niの添加量80〜100wt%の場合の様相を示す図であり、SEMによる断面観察写真である。図13(A)がNi100wt%、図13(B)がNi90wt%、図13(C)がNi80wt%の場合である。これより、各材料とも合金層5が生成されているが、その厚さが異なることがわかる。
【0088】
図14には、食われの原因であるこの合金層5の厚さを上記の各組成でまとめた結果を示す。これより、合金層5の厚さはNi添加量の減少に伴い小さくなっていることがわかる。これは、Ni添加量の減少にともないAl2O3粒子が増加するため、より溶食(半田食われ)が抑制されるためと考えられる。この結果からも、Ni80wt%の場合は耐食性が高いと言える。
【0089】
図15は、試料表面の様相を示す図である。図15は、Niを添加した材料の組織をSEMにより観察した写真である。図15(A)〜(C)は、それぞれNi100wt%、Ni90wt%、Ni80wt%の場合である。また各図の左右の写真は倍率が異なり、左が×1000倍、右が×100倍である。
【0090】
図15によれば、Ni90wt%、Ni80wt%ともAl2O3粒子6(図中の黒い部分)が均一に分散されており、Ni80wt%の方がその分散量が多いことがわかる。
【0091】
図16は、Ni80wt%の半田/セラミックス界面のSEM写真である。これによれば、図15で見られるような分散したAl2O3粒子6により合金化されていない場所が確認できる。
【0092】
更に図17には、Ni添加量を50%〜100%まで変化させた場合の試験片のXRD成分分析結果を示す。これによれば、アルミナはNi添加量の減少に伴い増加している。このことからも、アルミナ粒子の存在によって半田の食われを抑制することが可能であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の半田ごてチップは、鉛フリー半田を用いた半田付け作業に有効に利用することができる。更に、半田付けの対象物または使用目的に応じて、半田に対する濡れ性を制御することができるので、広範囲な分野における半田付け作業に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の半田ごてチップを示す外観図である。
【図2】本発明の半田ごてチップの製造方法を示すフロー図である。
【図3】本発明の半田ごてチップの(A)静止接触角法を説明する図、(B)添加量と濡れ性および硬さの関係を示す図である。
【図4】本発明の金属添加物と半田接触角および硬さの関係を示す図である。
【図5】本発明の濡れ性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図6】本発明の濡れ性に及ぼす雰囲気の影響を示す図である。
【図7】本発明の評価に用いた試料表面のフラックスおよび半田を示す図である。
【図8】本発明の(A)転落法を説明する図、(B)金属添加物と転落角の関係を示す図である。
【図9】本発明の評価に用いた試料表面の溶融半田の様相を示す図である。
【図10】本発明の金属添加物と半田接触角および硬さとの関係を示す図である。
【図11】本発明の半田接触角に及ぼす金属添加物の影響を示す図である。
【図12】本発明の転落角に及ぼす金属添加物の影響を示す図である。
【図13】本発明の評価に用いた試料/半田界面を示す図である。
【図14】本発明の評価に用いた各試料界面での合金層厚さを示す図である。
【図15】本発明の評価に用いた試料を示す図である。
【図16】本発明の評価に用いた試料/半田界面を示す図である。
【図17】本発明の評価に用いた試料のXRD成分分析結果を示す図である。
【図18】従来の半田ごてチップを示す図である。
【符号の説明】
【0095】
1 チップ
2 半田(溶融半田)
3 フラックス
4 試料片
5 合金層
6 アルミナ粒子
10 半田ごて
100 チップ
101 基体
102 メッキ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化アルミニウムに半田に対する濡れ性の大きい金属添加物を含有させた酸化アルミニウムセラミックスにより構成された半田ごてチップ。
【請求項2】
前記金属添加物は、前記酸化アルミニウムの焼結温度以上の融点を有することを特徴とする請求項1に記載の半田ごてチップ。
【請求項3】
前記金属添加物は、ニッケルまたは鉄であることを特徴とする請求項1に記載の半田ごてチップ。
【請求項4】
前記金属添加物の含有量は、70wt%〜85wt%であることを特徴とする請求項1に記載の半田ごてチップ。
【請求項5】
前記酸化アルミニウムセラミックスと溶融半田の接触角は、60度〜110度であることを特徴とする請求項1に記載の半田ごてチップ。
【請求項6】
前記酸化アルミニウムセラミックスのビッカーズ硬さは300以上であることを特徴とする請求項1に記載の半田ごてチップ。
【請求項7】
酸化アルミニウムの粉末と半田に対する濡れ性の大きい金属添加物とを粉砕し、前記金属添加物含有の混合原料粉末を生成する工程と、
前記混合原料粉末を乾燥する工程と、
前記混合原料粉末をホットプレス焼結し、前記金属添加物含有の酸化アルミニウムセラミックス片を形成する工程と、
前記酸化アルミニウムセラミックス片を成形する工程と、を具備することを特徴とする半田ごてチップの製造方法。
【請求項8】
前記金属添加物は、前記酸化アルミニウムの焼結温度以上の融点を有することを特徴とする請求項7に記載の半田ごてチップの製造方法。
【請求項9】
前記金属添加物は、ニッケルまたは鉄であることを特徴とする請求項7に記載の半田ごてチップの製造方法。
【請求項10】
前記金属添加物の含有量は、70wt%〜85wt%であることを特徴とする請求項7に記載の半田ごてチップの製造方法。
【請求項11】
半田付けの作業目的または半田付け対象物に応じて前記金属添加物の添加量を変化させ、前記酸化アルミニウムセラミック片に異なる濡れ性を保持させることを特徴とする請求項7に記載の半田ごてチップの製造方法。
【請求項12】
前記酸化アルミニウムセラミックスと溶融半田の接触角が60度〜110度の範囲で選択可能に前記金属添加物の含有量を変化させることを特徴とする請求項7に記載の半田ごてチップの製造方法。
【請求項1】
酸化アルミニウムに半田に対する濡れ性の大きい金属添加物を含有させた酸化アルミニウムセラミックスにより構成された半田ごてチップ。
【請求項2】
前記金属添加物は、前記酸化アルミニウムの焼結温度以上の融点を有することを特徴とする請求項1に記載の半田ごてチップ。
【請求項3】
前記金属添加物は、ニッケルまたは鉄であることを特徴とする請求項1に記載の半田ごてチップ。
【請求項4】
前記金属添加物の含有量は、70wt%〜85wt%であることを特徴とする請求項1に記載の半田ごてチップ。
【請求項5】
前記酸化アルミニウムセラミックスと溶融半田の接触角は、60度〜110度であることを特徴とする請求項1に記載の半田ごてチップ。
【請求項6】
前記酸化アルミニウムセラミックスのビッカーズ硬さは300以上であることを特徴とする請求項1に記載の半田ごてチップ。
【請求項7】
酸化アルミニウムの粉末と半田に対する濡れ性の大きい金属添加物とを粉砕し、前記金属添加物含有の混合原料粉末を生成する工程と、
前記混合原料粉末を乾燥する工程と、
前記混合原料粉末をホットプレス焼結し、前記金属添加物含有の酸化アルミニウムセラミックス片を形成する工程と、
前記酸化アルミニウムセラミックス片を成形する工程と、を具備することを特徴とする半田ごてチップの製造方法。
【請求項8】
前記金属添加物は、前記酸化アルミニウムの焼結温度以上の融点を有することを特徴とする請求項7に記載の半田ごてチップの製造方法。
【請求項9】
前記金属添加物は、ニッケルまたは鉄であることを特徴とする請求項7に記載の半田ごてチップの製造方法。
【請求項10】
前記金属添加物の含有量は、70wt%〜85wt%であることを特徴とする請求項7に記載の半田ごてチップの製造方法。
【請求項11】
半田付けの作業目的または半田付け対象物に応じて前記金属添加物の添加量を変化させ、前記酸化アルミニウムセラミック片に異なる濡れ性を保持させることを特徴とする請求項7に記載の半田ごてチップの製造方法。
【請求項12】
前記酸化アルミニウムセラミックスと溶融半田の接触角が60度〜110度の範囲で選択可能に前記金属添加物の含有量を変化させることを特徴とする請求項7に記載の半田ごてチップの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図17】
【図18】
【図7】
【図9】
【図13】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図17】
【図18】
【図7】
【図9】
【図13】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−75825(P2007−75825A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262669(P2005−262669)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(803000104)財団法人ひろしま産業振興機構 (70)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(803000104)財団法人ひろしま産業振興機構 (70)
【Fターム(参考)】
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