説明

半田付け装置及び半田付け方法

【課題】半田の中に可動部がなく極めて信頼性の高い噴流式半田付け装置を提供する。
【解決手段】半田貯留時に液面と接する空間の圧力を制御可能な貯留槽18と、上端部が大気に開放された回収槽19と、上端部が貯留槽18と連通し、下端部が回収槽19と連通した半田戻り管29と、回収槽19内に立てられて上端部が開口し、下端部が前記半田戻り管29の上端部よりも低い位置にあって且つ回収槽19を貫いて貯留槽18と連通した半田送り管26とを備えることを特徴とし、必要に応じて貯留槽18に流体圧機器等を接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴流式の半田付け装置に関し、特に電子機器に用いられるトランス、チョークコイル等のコイル部分の半田付け、または電子部品を実装した後のプリント基板の半田付けに際して、半田槽の溶融半田を酸化物などが混入しない溢流形態に保つことのできる半田付け装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の半田付け装置には噴流式と汲み上げ式とがある。噴流式としては、特許文献1の特開昭59−147772号公報に記載されているものが知られており、図10に示す。
図10において、圧力室3の上部のエア配管7より圧縮エアを供給すると、圧力室3内の溶融半田10の液位が下方向に押し下げられる。この時、戻り配管8に備えた逆止め弁9は圧力室3の圧力により閉じるために、圧力室3内の溶融半田10が半田送り管5内を通って上端部のノズル6から送り出される。このノズル6より送り出される溶融半田にて被半田付け体の半田付けをする。そして、被半田付け体の半田付けが終了すると圧力室3内への圧縮エアの供給を停止し、エア配管7の途中に設けた図示せぬ4方弁を閉じる。これにより、圧力室3内の圧力が低下し、戻り配管8に備えた逆止め弁9が開き、ノズル6から送り出された溶融半田10が、戻り配管8により逆止め弁9を介して圧力室3内に戻る。
【0003】
また、噴流式半田付け装置において、溶融半田10の液位を押し下げる手段として、エア配管7に代えてシリンダを取り付け、シリンダ内にピストン又はファンを配して圧縮エアを介在させることなくピストン又はファンにて直接溶融半田10を送り込む構成も知られている(特許文献3)。
同じく噴流式であって、図11に示すように半田槽を2つの貯蔵槽1,1’と送り槽2とに分け、送り槽2を一つの貯蔵槽1の中に収容するとともに、送り槽2の側面に貯蔵槽1に通じる半田供給孔13を設けることにより、逆止め弁を無くしたものも提案されている(特許文献4)。この装置においては、矢印のように送り槽2に高圧ガスが注入することによって半田が送り管3を介してノズル4に送られ、ノズル4より噴流する。そして、貯蔵槽1’内の液面がある高さを超えると半田が戻り管5を介して貯蔵槽1に戻される。そして、貯蔵槽1から半田供給孔13を介して送り槽2に半田が供給される。
一方、汲み上げ式の半田付け装置については、特許文献2の特開平11−5155号公報に記載されているものが知られており、図12に示す。
図12において、汲み上げ式の半田付け装置11は、半田露出口12を備えた半田汲み上げ口13を昇降動作することにより、半田槽14内の溶融半田15aを汲み上げて半田付けするものである。まず、半田汲み上げ口13を半田槽14の中に沈めて溶融半田15aを汲み入れる(図示せず)。 次に、半田汲み上げ口13を半田槽14内より取り上げると、半田汲み上げ口13の上面の開口より下方に位置している半田露出口12の上面の開口面より、汲み上げた溶融半田15bが矢印のように流出するものとなる。この流出する溶融半田15bにて半田付けをするものである。そして、 本従来例のものは、半田汲み上げ口13内にフロート16を挿入し振動させることにより、半田露出口12の開口面の溶融半田15bに振動を与えるものとなる。この結果、半田付け後の被半田付け体の引き離し時に、いわゆる糸引きが無くなり、半田切れを適切にしたものである。
【0004】
【特許文献1】特開昭59−147772号公報(図1参照)
【特許文献2】特開平11−5155号公報(図2、図3参照)
【特許文献3】特開平8−267227号公報
【特許文献4】実願昭49−109492号(実開昭51−36525号)のマイクロフィルム
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の半田付け装置においては、逆止め弁9が溶融半田10の中に設けられていることから、耐熱的に優れ且つ高寿命であることという条件を充足する必要上、逆止め弁9はステンレス材、チタン材、セラミック材等の非弾性材料からなっている。従って、摩耗によりあるいはスラッジなどの異物の付着により弁体と弁座との密着が不十分となり、漏れを生じることがある。仮に、漏れが発生すると圧力室3内の圧力が変化し、ノズル6より噴き出す溶融半田10の高さが不安定となり、品質が低下する。また、特許文献3に記載の半田付け装置においても、ピストンを用いる場合は同様の理由からピストンとシリンダとの間で漏れを生じることがあるし、ファンを用いる場合はファンの脈動によって溶融半田10の噴き出し高さが変動する。更にいずれの場合も溶融半田10の中に弁、ピストン、ファン等の可動部が浸かっているので、故障しやすい。
【0006】
また、特許文献4に記載の半田付け装置においては、高圧ガスが半田供給孔13及びガス抜き孔9を通して漏出する。従って、高圧ガスとして空気を用いれば、半田付け作業中に高圧空気と大気中の空気との両方で貯蔵槽1の液面を常時酸化し続けることになるし、高圧ガスとして窒素、不活性ガスなどの非酸化性ガスを用いれば、高価なガスを浪費する。
【0007】
一方、特許文献2に記載の汲み上げ式の半田付け装置においては、被半田付け体を半田付けする毎に溶融半田15aを汲み上げるための出し入れを繰り返す必要があることから基本的に、被半田付け体を連続的に半田付けすることができない。このために、大量生産に適していない。しかも、僅かな落差にて半田露出口12より送り出すものであり、溶融半田15bの十分な吐出量が得られないこと、吐出量の制御ができないこと、吐出時間の制御ができないこと、などの多くの課題がある。
それ故、本発明の第一の課題は、半田の中に可動部がなく極めて信頼性の高い噴流式半田付け装置を提供することにある。第二の課題は、ガスを浪費しない半田付け装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
その課題を解決するために、この発明の半田付け装置は、
圧力媒体を供給するための供給口が設けられ、密閉された貯留槽と、
上端部が大気に開放された回収槽と、
上端部が前記貯留槽と連通し、下端部が回収槽と連通した半田戻り管(以下、「戻り管」という。)と、
回収槽内に立てられて上端部が前記半田戻り管の上端部よりも高い位置にあって開口し、下端部が前記半田戻り管の上端部よりも低い位置にあって且つ回収槽を貫いて貯留槽と連通した半田送り管(以下、「送り管」という。)とを備えることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、貯留槽、戻り管、送り管及び回収槽に溶融半田を充填した状態で貯留槽の内圧を上げると、貯留槽内の半田の一部が送り管に、戻り管内の半田の一部が回収槽に移動する。そして、戻り管内の液面は、それより上位にある回収槽内における半田柱Bの圧力と大気圧との和が貯留槽内圧と均衡するところまで低下し、回収槽内の液面は上昇する。一方、送り管は上端部が開口しているから、送り管内の液面が開口面に達すると溢れ出す。従って、貯留槽内の液面より上位にある送り管内における半田柱Aの圧力と大気圧との和よりも貯留槽内圧を高く維持している限り、この溢れ出し状態が継続する。よって、この溢流状態の溶融半田にて半田付けをすることができる。そして、半田付けが終了すると、前記貯留槽内を大気圧に戻すだけで、前記回収槽内の溶融半田が前記戻り管より前記貯留槽内に戻る。充填された半田をできるだけ無駄なく消費するためには、戻り管の下端部は貯留槽の最下位で回収槽と連通し、送り管の下端部は回収槽の最下位で貯留槽と連通しているのが良い。
尚、貯留槽の平面積は、半田が送り管の開口面に達して溢流状態を継続するために、送り管のそれよりも十分に大きいことが必要である。また、回収槽の平面積は、貯留槽内の半田が速く溢れても槽外に流出しない程度に大きいことが必要である。貯留槽内の圧力媒体は、半田の酸化防止のために非酸化性ガス(窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、二酸化炭素ガス)が好ましく用いられるが、空気であっても良い。
【0010】
前記送り管は、複数本であってもよい。サイズが大きい場合、または半田付けの箇所が多い場合など多様な量産ニーズに対応できるからである。
また、前記貯留槽が複数個であって、各貯留槽内に戻り管が立てられ、各戻り管が単一の回収槽と連通していてもよい。前記複数個の貯留槽を同時運転、または単独運転の切り替え可能とすることにより、本装置が1台にて、量産数の多い時と量産数が少ない時への対応、または多種多様なサイズの被半田付け体が混在する場合の対応が可能となるからである。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、この発明の半田付け装置は、圧力差による物理的な原理を利用して成立させるものであって機械的に動作する可動部が半田の中に浸かっていないために圧力漏れ、耐久劣化、部品の故障などがほとんど無く、極めて信頼性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
−実施形態1−
図1は本発明の第一の実施形態に係る半田付け装置の一部破断斜視図、図2は同装置の要部断面図、図3は気体を圧入した時の溶融半田の液位を示す図、図4は更に圧入した時の図である。
図1および図2に示すように、半田付け装置17は、密閉型の貯留槽18と大気開放型の回収槽19からなる。貯留槽18は上蓋22をボルト23にて気密に閉じたもので、上蓋22には加圧手段(図示せず)より圧力媒体としての気体を圧入するために供給管24を備えている。この気体は非酸化性ガスである。そして、貯留槽18の下部側面には、貯留槽18内の溶融半田25を回収槽19内に移動させるための送り管26の下端部が気密に接合されている。送り管26は、回収槽19の下端部側面を貫いて回収槽19内で垂直方向に立ち上げられて、上端部が常に回収槽19内の溶融半田27の液面28より上に位置するように十分な高さを有している。貯留槽18の上部側面であって送り管26の上端部より低く下端部より高い位置には、回収槽19内の溶融半田27を貯留槽18内に移動させるための戻り管29の上端部が気密に接合されている。戻り管29の下端部は、回収槽19の下部側面に気密に接合されている。送り管26の上端部には送り管26よりも径大で上方に開口した吐出口31が取り付けられている。また、貯留槽18と回収槽19の加熱源として、下部にヒータ34を組み込んでいる。
【0013】
半田付け装置17を使用する時は、ヒータ34をONにして半田を溶融状態にし、貯留槽18内に気体を圧入する。すると、図2で示した溶融半田25の液位は、図3に示すように押し下げられる。一方、回収槽19内は、図2に示した溶融半田27の液位が押し上がる。ここで、吐出口31内の液位と貯留槽18内の液位との高低差 (落差)に相当する半田柱をAとし、回収槽19内の液位と戻り管29内の液位との高低差 (落差)に相当する半田柱をBとする。そして、貯留槽18内圧が瞬間的には一定であると考えると、貯留槽18内の液位に着目するとき貯留槽内圧P=大気圧P0+A、戻り管29内の液位に着目するときP=P0+Bで均衡し、液面は上下動しない。更に気体を圧入し続けて貯留槽18の内圧を増すと、吐出口31の溶融半田が溢れ出す。
【0014】
そして、吐出口31より溢れ出した溶融半田の中に被半田付け体32の半田接合部33を浸漬して半田付けをする。半田付け終了後は、気体の圧入を停止して貯留槽18内の圧力を大気圧に戻す。すると、回収槽19内の液位と、貯留槽18内の液位との圧力差 (落差) により、回収槽19内の溶融半田27が戻り管29より貯留槽18内に戻る。
尚、半田付け終了後、貯留槽18内を陰圧(負圧)にして、回収槽19内の溶融半田27を戻り管29より貯留槽18内に戻してもよい。これにより短時間で半田を貯留槽18に戻すことができるし、消費により半田量が減っても所定量の半田を貯留槽18に戻して半田付けを続けることができる。さらに、貯留槽18に形成する供給管24の位置は、前述のような貯留槽18の上蓋22とは限らず、例えば、図示はしないが、上蓋22近傍の位置で、貯留槽18の側壁に形成するという構成が考えられる。
【0015】
いずれにしても使用中も停止中も半田の中に機械的可動部は存在しない。従って、耐久性に優れ、得られる製品の品質も安定している。圧力媒体としての気体を浪費することもない。
吐出口はセラミック、またはチタンにて形成し、送り管はステンレス材、または表面処理(窒化処理)されたステンレスにて形成するなど、吐出口と送り管とで材質を異ならせても良い。
【0016】
−実施形態2−
図5は、本発明の第二の実施形態に係る半田付け装置の一部破断斜視図、図6は同装置の要部断面図である。
本装置56においては、戻り管66は貯留槽59内部に立てられ、その下端部が貯留槽59の下端部側面を貫いて回収槽61と連通している。従って、貯留槽59と回収槽61を十分に接近させることができる。
貯留槽59と回収槽61とは、必ずしも同じ高さの面上に置かれていなくても良い。例えば図7(a)に示すように回収槽61が貯留槽59より高くても良いし、図7(b)に示すように低くても良い。
【0017】
−実施形態3−
図8は、この発明の第三の実施形態にかかる半田付け装置に適用される吐出口を示す斜視図である。吐出口以外の構成は、実施形態1又は実施形態2と同一であって良いので、説明を省略する。
図8(a)に示すように上面が広く開口した吐出口44を用いる場合、図1で示したような4端子コイルの全端子に同時に半田付けすることができる。また、図8(b)に示すように1個の樋部55を備えた吐出口54を用いる場合、半田流の幅、長さ及び深さが一定に保たれているので、半田付け後における被半田付け体間のバラツキを少なくすることができる。そのうえ、半田接合部の上方にまで半田が飛散することがないので、コイルの導線のエナメルが剥がれにくい。そして、いずれの吐出口も内部にヒータ35、36を備えており、溢れ出す半田の温度を一定に保つことができる。
【0018】
−実施形態4−
図9は本発明の第四の実施形態に係る半田付け装置の一部破断斜視図である。この実施形態は、貯留槽に気体を圧入する手段として流体圧機器を接続したところを示す。流体圧機器としては、気体の出入り口が供給管24と接続された空気圧シリンダー100が用いられている。空気圧シリンダー101のピストンロッド102は、ボールネジ103及びそのスライダ104を介してモータ105と連結されている。その他の点は、実施形態1と同一構成であってよい。
この半田付け装置100によれば、モータ105を駆動させることにより、スライダ104が往復運動し、それに伴ってロッド102が進退する。従って、供給管24を介して貯留槽に出入りする気体の量を正確に制御することができ、その結果吐出口より溢れる半田の量を制御することができる。気体としては不活性ガスが好ましく用いられる。
モータ105としては、回転数、回転方向を変えられるものが好ましく、サーボモータ、パルスモータ、油圧モータ等が適用可能である。また、リニアモータのように出力が往復する場合はボールネジ103及びスライダ104を省いてロッド102と直結することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態1の半田付け装置の一部破断斜視図である。
【図2】同装置の要部断面図である。
【図3】同装置にて、気体を圧入した時の溶融半田の液位の状態を示す図である。
【図4】同装置にて、気体を更に圧入した時の溶融半田の液位の状態を示す図である。
【図5】実施形態2の半田付け装置の一部破断斜視図である。
【図6】同装置の要部断面図である。
【図7】実施形態2の装置の変形例の要部断面図である。
【図8】実施形態3の半田付け装置に用いられる吐出口を示し、(a) は上面が広く開口したもの、(b) は1個の樋部を備えたものの斜視図である。
【図9】実施形態4の半田付け装置の一部破断斜視図である。
【図10】従来の噴流式の半田付け装置の要部断面図である。
【図11】従来の別の噴流式の半田付け装置の要部断面図である。
【図12】従来の汲み上げ式の半田付け装置の要部断面図である。
【符号の説明】
【0020】
17、56 半田付け装置
18 貯留槽
19、61 回収槽
24 供給管
25、27 溶融半田
26、39 送り管
29 戻り管
31、41、44、54、64 吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力媒体を供給するための供給口が設けられ、密閉された貯留槽と、
上端部が大気に開放された回収槽と、
上端部が前記貯留槽と連通し、下端部が回収槽と連通した半田戻り管と、
回収槽内に立てられて上端部が前記半田戻り管の上端部よりも高い位置にあって開口し、下端部が前記半田戻り管の上端部よりも低い位置にあって且つ回収槽を貫いて貯留槽と連通した半田送り管とを備えることを特徴とする半田付け装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置の貯留槽、半田戻り管、半田送り管及び回収槽に溶融半田を充填し、供給口より圧力媒体を供給することにより貯留槽の内圧を上げ、半田送り管より溶融半田を吐出させ、吐出した溶融半田に被半田付け体の半田接合部を漬けることを特徴とする半田付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−253169(P2007−253169A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78005(P2006−78005)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(502366262)
【Fターム(参考)】