説明

単層カーボンナノチューブの低温合成法

【課題】メタンガスなどの吸熱反応性炭素含有原料から、活性化したアルミナ担持Fe:Mo触媒を用いてSWCNT(単層カーボンナノチューブ)を製造する方法を提供する。
【解決手段】前記製造方法では、SWCNT成長温度は約560℃未満であり、約900℃よりも高い温度で還元雰囲気に前記触媒を暴露することによって、前記触媒を活性化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、米国特許仮出願番号第61/073,792(出願日:2008年6月19日)に基づいて優先権を主張するものであり、前記出願の全ての記載をここに引用するものである。
【0002】
本開示は、合成経路について従来報告された温度よりも低い温度で単層カーボンナノチューブ(以後、「SWCNT」と呼ぶ)を合成する方法に関するものであり、原料としてメタンを、触媒としてFe:Mo組成物を使用する。
【背景技術】
【0003】
SWCNT合成に著しい進捗があったとはいえ、そのタイプ選択的成長および/または大規模製造につながる、核生成および/または成長メカニズムについての知見は依然として非常に限られている。初期の頃には、アーク放電法やレーザーアブレーション法が主に用いられたために、例えば、1000−2000℃といった非常に高い温度条件がSWCNT合成には必要であると考えられていた。しかし、化学蒸着法(以後、「CVD」と呼ぶ)の出現により、この考え方は変わり、SWCNT成長温度は低下している。
【0004】
非特許文献1で、Murayama等は、メタノールを炭素原料とし、Fe/Coを触媒として用いることで、550℃においてSWCNTの成長を報告している。また、非特許文献2で、Bae等は、プラズマ増強CVD法を用いることで、400℃での合成を報告している。さらに、最近、Cantoro等は、合成温度を350℃にまで低くしている。ほとんどの場合、こうして報告された合成経路では、発熱反応性炭素含有原料を使用している。
【0005】
理論的な分析およびモデルによれば、触媒上でSWCNTが成長するには、次のように3種類の独立した段階があるといわれる。
1)炭素原料ガスが触媒により分解してC原子を生成する段階
2)触媒表面に強く付着したカーボンチューブ末端に、前記C原子が拡散する段階
3)前記カーボンチューブ層に前記C原子が組み込まれる段階(非特許文献4および非特許文献5参照)
【0006】
これらの各段階では、熱的活性化が必要であり、このため、各段階には特有の閾値温度がある。従って、以下のように定義する。
dec: 原料を分解するのに十分な最低温度。
diff:適度に速い速度で、SWCNT末端にまでC原子が拡散可能な温度。
: C原子が容易にカーボンチューブに組み込まれる温度。
【0007】
こうした段階の相互作用が複雑である一方で、前記3種の閾値温度のなかで最も高い温度が、明らかにSWCNT成長全体の閾値温度である。最近の、密度関数の計算では、触媒表面のC原子の拡散障壁が0.5eVしかないことを示しており(非特許文献6参照)、従って、Tdiffは室温程度に低い可能がある。なお、原料分解温度の選定は、少なくとも、触媒粒子の種類およびサイズ、化学反応のタイプ、および原料自身に依存すると思われる。最後に、SWCNTにC原子が組み込まれる過程は、現在でもよく理解されているわけではないが、明らかに原料とは独立した別の事象であり、さらなる研究対象となっている。
【0008】
SWCNT成長温度に影響を及ぼす支配的過程を決めることは困難ではあるが、一方で、報告されている低温におけるSWCNT成長を、発熱反応的分解反応だけで(例えば、C2H→2C+2H、ΔH°=−38.2kJ/molおよび、C→2C+H2,ΔH°=−114.3kj/mol、800℃;非特許文献7参照)、または、原料をプラズマ処理することで分解させる合成経路で達成できたことは注目に値する。上記結果は、炭素原料の分解反応によってSWCNT成長が制限されることを示唆するように思われるからである。もしこの示唆が正しいのならば、活性のより低い吸熱反応性炭素原料を用いるSWCNT成長の閾値温度は、活性のより高い発熱反応性炭素原料を用いる場合のSWCNT成長の閾値温度よりも高いはずである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Maruyama,S.;Kojima,R;Miyauchi,Y.;Chiashi,S;Kohno,M.,Chem.Phys.Lett 2002,360,229
【非特許文献2】Bae,E.J.;Min,Y−S.;Kang,D.;Ko,J−H.;Park,W.,Chem.Matter.2005,17,5141
【非特許文献3】Cantoro,M.;Hofmann,S.;Pisana,S.;Scardaci,V.;Parvez,A.;Ducati,C.;Ferrari,A.C.;Blackburn,A.M.;Wang,K−Y.;Robertson,J.,Nanao Lett.2006,6,1107
【非特許文献4】Ding.F.;Larsson,P.;Larsson,J.A.;Ahuja,R.;Duan,H.;Rosen,A.;Bolton,K.,Nano lett.2008,8,463
【非特許文献5】Ding.F.;Rosen,A.;Bolton,K.,J.Phys.Chem.B 2004,108,17369
【非特許文献6】Abild−Pedersen,F.;Norskov,J.K.;Rostrup−Nielsen,J.R.;Sehested,J.;Helveg,S.,Phys.Rev.B 2006,73,115419
【非特許文献7】David,R.Lide,編.CRC Handbook of Chemistry and Physics(第87版 );Taylor and Francis:Boca Raton,FL,2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明では、CHガスの吸熱性分解反応を用いるSWCNT成長を低温で製造する方法を開示する。実測した成長温度560℃は、発熱反応性炭素原料について過去に報告された成長温度よりも高い温度である。また、本発明の方法によって、CHの分解閾値温度が、SWCNTの成長を制限する因子であることも示される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ナノチューブ製造触媒組成物および還元雰囲気を用意する工程と、前記ナノチューブ製造触媒組成物を前記還元雰囲気に接触させる工程とにより、単層カーボンナノチューブを製造する方法に関わる。この方法では、先ず、前記ナノチューブ製造触媒組成物および前記還元雰囲気を、約900℃よりも高温である、第1の温度にまで加熱する。続いて、この温度を、前記温度より低い温度である第2の温度にまで下げて、吸熱反応性炭素含有原料を用意する。次に、前記吸熱反応性炭素含有原料を前記ナノチューブ製造触媒組成物に接触させて、単層カーボンナノチューブを製造する。
【0012】
また、本発明は、アルミナに担持したFeおよびMo含有触媒組成物および還元雰囲気を用意することによる、単層カーボンナノチューブを製造する方法に関わる。この方法では、アルミナに担持したFeおよびMo含有触媒組成物に還元雰囲気を接触させ、両者を第1の温度にまで加熱する。続いて、アルミナに担持したFeおよびMo含有触媒組成物を、約560℃以下の第2の温度にまで冷却する。次に、吸熱反応性炭素含有原料を用意し、アルミナに担持したFeおよびMo含有触媒組成物に接触させて、単層カーボンナノチューブを製造する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
添付した図面は本発明をさらに理解するために含まれるもので、本明細書中引用され、その一部を構成する。図面では、詳細な説明とともに本発明の様々な実施形態が示されており、本発明の概念を説明するために用いられる。
【図1】TPR特性を示すグラフである。
【図2】質量分析器で測定した、時間についてHの消費およびHOの生成を示すグラフである。
【図3】温度についてH濃度の変化を示すグラフである。
【図4】560℃で成長させたSWCNTのラマンスペクトルを示す。
【図5】活性化したアルミナ−担持Fe含有触媒上で、ナノチューブが成長する状態を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明では、ナノチューブ−製造触媒組成物および還元雰囲気を用意する工程と、前記ナノチューブ−製造触媒組成物を前記還元雰囲気に接触させる工程とにより、単層カーボンナノチューブの製造方法を開示する。この方法では、先ず、前記ナノチューブ−製造触媒組成物および前記還元雰囲気を、約900℃よりも高温である、第1の温度にまで加熱する。前記方法は、この温度を第2の冷却温度にまで下げる工程と、吸熱反応性炭素含有原料を用意する工程をさらに有する。次に、前記吸熱反応性炭素含有原料を前記ナノチューブ−製造触媒組成物に接触させて、単層カーボンナノチューブを製造する。
【0015】
本発明の単層カーボンナノチューブ製造方法は、約900℃よりも高温である第1の温度、および約560℃以下の第2の温度を含む温度を用いる。
【0016】
また、本発明のナノチューブ製造触媒組成物は、アルミナに担持したFeおよびMo含有触媒組成物であってよく、この触媒組成物のFe:Mo:Alのモル比は約1:0.2:15である。本発明の製造方法の一実施形態中、前記吸熱反応性炭素含有原料には、例えば、一酸化炭素、メタン、メタノール、エタノール、ブタン、およびヘキサンのうち1種以上の原料が含まれる。
【0017】
本発明の製造方法で用いる還元雰囲気は、水素含有気体でよい。また、前記製造方法は、ナノチューブ製造触媒組成物と接触させる工程の前に、吸熱反応性炭素含有原料を分解させる工程をさらに有することができる。ある実施形態では、この分解は、吸熱反応性炭素含有原料をプラズマ源に接触させることで実施可能である。この接触工程は、吸熱反応性炭素含有原料をナノチューブ製造触媒組成物と接触させる工程の前に行い、プラズマによって吸熱反応性炭素含有原料を分解するために、十分に長い時間行う。
【0018】
また、本発明は、アルミナに担持したFeおよびMo含有触媒組成物および還元雰囲気を用意することで、単層カーボンナノチューブを製造する方法に関わる。この方法では、アルミナに担持したFeおよびMo含有触媒組成物に還元雰囲気を接触させ、両者を第1の温度にまで加熱する。続いて、アルミナに担持したFeおよびMo含有触媒組成物を、560℃以下の第2の温度にまで冷却する。次に、吸熱反応性炭素含有原料を用意し、アルミナに担持したFeおよびMo含有触媒組成物に接触させて、単層カーボンナノチューブを製造する。
【0019】
好適な、アルミナ担持FeおよびMo含有触媒組成物は、約5:1のモル比でFeおよびMoを有し、本実施形態では、約1:1から約10:1の範囲のモル比でFeおよびMoを有するのが好適である。また、本発明の製造方法のある実施形態では、前記第1の温度は、約900℃よりも高い温度である。また、ある実施形態中、前記製造方法は、アルミナ担持FeおよびMo含有触媒組成物を還元雰囲気に接触させる間、触媒中の酸化鉄が完全に金属状態にまで還元され、さらに、触媒組成物から残存酸素が除去または還元されるように十分な反応時間および加熱できる、時間および温度条件をもたなければならない。上記のように、著しい量の残存酸素が存在すると、SWCNTの成長条件に明らかに影響を及ぼす。
【0020】
本発明の単層カーボンナノチューブ製造方法では、吸熱反応性炭素含有原料はメタンを含むものでもよい。また、本発明の製造方法で用いる還元雰囲気は、水素含有気体を含むものでもよい。
【0021】
上記のように、SWCNTを触媒的に成長させる3つの理論的段階の1段階は、触媒に接触させる工程前の、吸熱反応性炭素含有原料の分解反応である。前記製造方法のある実施形態では、この分解反応は、前記触媒組成物に吸熱反応性炭素含有原料を接触させる前に、この吸熱反応性炭素含有原料をプラズマ源に接触させることによって実施することができる。なお、プラズマへの暴露条件は、吸熱反応性炭素含有原料が略分解する条件である。
【0022】
ここで使用する、「吸熱反応性炭素含有原料」の用語、またはその類似用語は、吸熱的分解反応によってCおよびHに分解する、任意の炭素および水素含有組成物を意味する。これに対して、「発熱反応性炭素含有原料」の用語、またはその類似用語は、発熱的分解反応によってCおよびHに分解する、任意の炭素および水素含有組成物を意味する。
【0023】
図1に示すように、本発明のFe:Mo:Al触媒について得られたTPR曲線は、還元的ピークがいくつかあることを示している。500℃未満で実測した特徴は、単独の金属からなるアルミナに担持されたナノサイズのFe酸化物触媒について実測した特徴と類似するが、一方で、ヘマタイトから金属Feの形態になるまで、酸化鉄の還元が3段階(つまり、Fe→Fe→FeO→Feの変換)で起きていることを示す(Lobree,L.J.;Hwang,I−C.;Reimer,J.A.;Bell,A.T.,J.Catal.1999,186,242参照)。また、約830℃にある高い温度でのピークは、相対的に小さな金属粒子中にある残存酸素(Kohn,R.;Paneva,D.;Dimitrov,M.;Tsoncheva,T.;Mitov,I.:Minchev,C.;Froba,M.Micropor.Mater.2003,63,125参照)、およびMoの影響に関係していると思われる。このピークは、He/H気流下において約500℃で行う通常の還元方法(Shajahan,Md.;Mo,Y.H.;Fazel Kibria,A.K.M.;Kim,M.J.;Nahm,K.S.Carbon 2004,42,2245、および、Herrera,J.E.;Balzano,L.;Borgana,A.:;Alvarez,W.E.;Resasco,D.E.,J.Catal.2001,204,129参照)が、試料中の金属触媒を完全に還元するには十分ではないことを示している。さらに、この曲線の傾向から、1000℃よりも高い温度で還元される残存酸化物が、まださらに存在する可能性が示される。
【0024】
この結果は、図2に示すように、500℃、820℃および900℃で触媒を還元する間に行ったインサイチュでのMS測定によって裏づけられ、H消費およびそれに対応するHO生成が各温度で観測されている。現在の理論に制限されるものではないが、酸化鉄系粒子の還元が困難なのは、還元過程が起きる反応経路に関係があると思われる。つまり、Hによる還元反応中、Hが最初に酸化物の表層に達すると、非常に速く核生成が生じ、純粋金属の薄くて高密度の層が形成される。その結果、反応境界領域が減少して還元過程が減速すると考えられる(Pineau,A.;Kamnari,N.;Gaballah,I.,Thermochimica Acta 2006,447,89参照)。こうした微粒子(約1−2nm)における原子の表面/容量比は大きいために、還元温度を高くすることによって表面原子の変動が大きくなり、この結果、H分子が、内部にある次の酸化物層に接触できる能力が向上する。
【0025】
また、約500℃など通常の低温での還元反応後に、触媒中に著しい量の残存酸素が存在すると、SWCNTの成長に大きな影響を与えることがある。実際、約680℃においてSWCNT成長酸化物触媒は不活性であるが、10時間から20時間といった比較的長い時間、約500℃で還元反応を行った後に活性を回復できることがFeで示されている (Harutyunyan,A.R.;Pradhan,B.K.;Kim,U.J.;Chen,G.;Eklund,P.C.,Nano Lett.2002,2,525参照)。また、ナノチューブの成長に活性があるとは当初考えられていなかった、Cu、Au、PdまたはPtなどの金属が、約850℃で還元処理を行った後に、実際SWCNTの核生成を行うことができることが示されている(Takagi,D.;Homma,Y.;Hibino,H.;Suzuki,S.;Kobayashi,Y.,Nanao Lett.2006,6,2639、および、Bhaviripudi,S.;Mile,E.;Steiner III,S.A.;Zare,A.T.;Dresselhaus,M.S.;Belcher,A.M.;Kong,J.,J.Am.Chem.Soc.,2007,129,1516参照)。
【0026】
SWCNT合成に対して還元温度が及ぼす効果を調べるために、触媒活性に対して還元温度が及ぼす効果を試験した。図3は、触媒に還元処理をした場合および処理しなかった場合、温度を関数として、CH分解に貢献する触媒活性の温度への依存度を示す。実験から、500℃で60分間還元をした場合および還元しなかった場合の間で、触媒が示す両曲線に明確な違いは観測されなかった。この結果は、同様な触媒について先に報告された結果と一致するものであった(Harutyunyan,A.R.;Pradhan,B.K.;Kim,U.J.;Chen,G.;Eklund,P.C.,Nano Lett.2002,2,525参照)。しかし、本発明の方法に従って、さらに900℃で15分間、触媒を還元したとき、炭化水素気体が分解する開始温度が約150℃下がることが観察された。この結果は、CHが触媒的に分解される活性化エネルギの低下に起因する可能性がある。また、還元温度を約970℃にまで上げても、前記分解温度をさらに低下させることはなかった。なお、970℃の還元条件で行った結果は図示していない。
【0027】
上記結果は、試料の還元度が、CHを分解する触媒能力に大きく影響する可能性を示している。約900℃といった高温での還元反応を行った後、CH気体が触媒上で分解を開始する温度が低下することで、約560℃程度の低い温度でSWCNTの成長が可能となる。図4に示すように、ラマン ラジアルブリージングモードは、成長したSWCNTの比較的広い直径分布(0.7−2nm)を示す。また、予想されたようにGバンドとDバンドとの強度比は小さい。この小さい比は、本発明の製造方法による低い合成温度によって低下した試料の黒鉛化度に起因する。
【0028】
我々が知るかぎり、本発明の製造方法は、前記触媒組成物および炭素源としてCHを用いる熱CVD法によるSWCNT成長としては最も低い温度となる結果を与えている。Fe:Mo触媒を用いて過去報告された最も低いSWCNT成長温度は、約680℃である(Harutyunyan,A.R.;Pradhan,B.K.;Kim,U.J.;Chen,G.;Eklund,P.C.,Nano Lett.2002,2,525、および、Hornyak,G.L.;Grigorian,L.;Dillon,A.C.;Parilla,P.A.;Jones,K.M.;Heben,M.J.,J Phys Chem B 2002,106,2821参照)。上記文献では、触媒を還元しないか、または500℃で還元的前処理(He中10%Hで10−20時間)している。また、Ni触媒およびCHを用いて、約600℃のSWCNT成長温度が報告されている(Seidel,R.;Duesberg,G.S.;Unger,E.;Graham,A.P.;Liebau,M.;Kreupl,F.,J.Phys.Chem B 2004,108,1888参照)。しかし、この文献の著者は、650℃でH前処理を行うことが、上記のような低温でSWCNTを成長させるのにきわめて重要であると述べている。
【0029】
上記分析結果は、本発明の製造方法において、吸熱反応性炭素原料の分解が一旦始まると、SWCNT成長も始まることを明確に示している。低温でのSWCNT成長は、原料の分解過程によって制限されるように思われる。吸熱反応性原料のCHを用いるとき、SWCNT成長温度は、発熱反応性炭素原料を用いるときに観測される成長温度よりもさらに高い。このことから、SWCNT層にCが組み込まれる閾値温度Tは、最近報告された低いSWCNT成長温度よりも低いはずである(非特許文献3参照)。また、高品質のSWCNT形成に必要な欠陥修復には相対的に高い温度が必要であり、さらにカーボンナノチューブ層に炭素が組み込まれる過程は発熱反応性過程であるために、少なくとも実験的に観測する限り、低いSWCNT成長温度では、むしろ低品質のSWCNTとなることが多い。
【0030】
また、本発明は、さらに高い活性の炭素原料を用いたり、例えば、プラズマ暴露を用いるなど炭素原料の分解を促進することによって、SWCNTをより低い温度、例えば、300℃でも合成できることを示唆するものである。TdiffおよびTを低くすることは、SWCNT合成をより低い温度で行うという方向性をさらに有望なものにするものである。また、かなり低い温度で多層CNTを合成できるという有力な報告もある(例えば、CClを原料にして約175℃で行う。Vohs,J.K.;Brege,J.J.;Raymond,J.E.;Brown,A.E.;Williams,G.L.;Fahlman,B.D.,J.Am.Chem.Soc.,2004,126,9936参照)。
【0031】
本発明の活性化したFe:Mo:Al触媒でSWCNTを成長させる方法を、図5に概略的に示す。500℃および900℃で触媒を還元処理した後に得られるFeの相対的な量を、暗く塗った領域でFeの増加量として示した。CHからSWCNTが低温で成長する状態を、より高い温度で処理した触媒で起きることを図で示した。
【0032】
なお、ここで引用した全ての刊行物、論文、文献、特許、特許刊行物およびその他の参考文献は、本明細書中に事実上その全てを引用するものである。
【0033】
また、先に述べた記載は本発明の好適な実施形態に係わるものであるが、本発明の趣旨または範囲から逸脱することなく、その他の様々な変更や修正ができることは、当業者には明らかであろう。
【0034】
以下に述べる実施例は、本発明をさらに完全に理解するために提供するものである。本発明の原理を示す具体的な技術、条件、材料、および報告データ等は例としてあげられたものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈するべきではない。
【実施例】
【0035】
Al粉末で担持したFe:Mo触媒(Fe:Mo:Alモル比=1:0.2:15)の試料は、以前開発した含浸法によって調製した(Harutyunyan,A.R.;Pradhan,B.K.;Kim,U.J.;Chen,G.;Eklund,P.C.,Nano Lett.2002,2,525参照)。
【0036】
触媒の再現性は、Ar中10%H気流下(全体の気流速度=50sccm)で、Micrometrics Autochem 2910を用い、温度プログラム還元(TPR)を行って調べた。図1に結果を示す。
【0037】
全体の気流速度を80sccmとし、Ar中希釈した50%CH(Praxair製、純度99.999%)を炭素源に用いて、急速加熱CVD法によってSWCNTを成長させた。触媒は石英カプセルに収め、全ての気体が略完全で同じ接触能で触媒を通過するように、気流に対して垂直方向に配置した。反応器の気体出口に取り付けた質量分析器(MS)によって、次に示すH生成(CH→C+2H、ΔH°=+89.0kJ/mol、800℃にて)により、実験中の触媒活性をインサイチュで測定した。
【0038】
SWCNT合成段階の前に、時間および温度を種々組み合わせて、H/He混合気体を流しながら(40sccm/100sccm)触媒を還元した。例えば、約500℃から約900℃の温度範囲で、約15分間行うなどの組み合わせが含まれる。続いて、こうして得られたカーボンナノチューブの試料は、ラマン散乱分析法によって分析した。図4にそのラマンスペクトルを示す。
【0039】
なお、本発明の様々な実施形態を詳細に説明してが、これは本発明を図示および説明する目的で行ったものである。従って、ここで開示した詳細な実施形態に本発明を限定することを意図するものではない。当業者にとって、様々な変更および変形がかのうであることは明らかであろう。以上、本発明の概要および用途を最適に説明するために、選択し記載した実施形態によって、当業者は、特定の用途に適するように様々な実施形態および種々の変更が可能なことを理解できるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層カーボンナノチューブを製造する方法であって、前記方法は、
ナノチューブ製造用触媒組成物を用意する工程と、
還元雰囲気を用意する工程と、
前記ナノチューブ製造用触媒組成物を還元雰囲気に接触させる工程と、
前記ナノチューブ製造用触媒組成物および前記還元雰囲気を第1の温度にまで加熱する工程と、
前記ナノチューブ製造用触媒組成物を第2の温度にまで冷却する工程と、
吸熱反応性炭素含有原料を用意する工程と、
前記吸熱反応性炭素含有原料を前記ナノチューブ製造用触媒組成物に接触させる工程と、
単層カーボンナノチューブを製造する工程を有する。
【請求項2】
前記第1の温度が900℃よりも高い温度であることを特徴とする請求項1の単層カーボンナノチューブ製造方法。
【請求項3】
前記ナノチューブ製造用触媒組成物が、アルミナに担持したFeおよびMo含有触媒組成物を有することを特徴とする請求項1の単層カーボンナノチューブ製造方法。
【請求項4】
前記吸熱反応性炭素含有原料が、一酸化炭素、メタン、メタノール、エタノール、ブタンおよびヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1の単層カーボンナノチューブ製造方法。
【請求項5】
前記吸熱反応性炭素含有原料がメタンを含むことを特徴とする請求項1の単層カーボンナノチューブ製造方法。
【請求項6】
前記還元雰囲気が水素含有気体を含むことを特徴とする請求項1の単層カーボンナノチューブ製造方法。
【請求項7】
前記第2の温度が560℃以下の温度であることを特徴とする請求項1の単層カーボンナノチューブ製造方法。
【請求項8】
前記吸熱反応性炭素含有原料を前記ナノチューブ製造用触媒組成物に接触させる工程の前に、前記吸熱反応性炭素含有原料を分解させる工程をさらに有することを特徴とする、請求項1の単層カーボンナノチューブ製造方法。
【請求項9】
前記吸熱反応性炭素含有原料を前記ナノチューブ製造用触媒組成物に接触させる工程の前に、前記吸熱反応性炭素含有原料をプラズマ源に接触させる工程をさらに有し、
前記プラズマは前記吸熱反応性炭素含有原料を分解することを特徴とする、請求項1の単層カーボンナノチューブ製造方法。
【請求項10】
単層カーボンナノチューブを製造する方法であって、前記方法は、
アルミナに担持したFeおよびMo含有触媒組成物を用意する工程と、
還元雰囲気を用意する工程と、
前記アルミナ担持FeおよびMo含有触媒組成物を前記還元雰囲気に接触させる工程と、
前記アルミナ担持FeおよびMo含有触媒組成物および前記還元雰囲気を第1の温度にまで加熱する工程と、
前記アルミナ担持FeおよびMo含有触媒組成物を第2の温度にまで冷却する工程と、
吸熱反応性炭素含有原料を用意する工程と、
前記吸熱反応性炭素含有原料を前記アルミナ担持FeおよびMo含有触媒組成物に接触させる工程と、
単層カーボンナノチューブを製造する工程を有することを特徴とする方法。
【請求項11】
前記アルミナ担持FeおよびMo含有触媒組成物が、5:1のモル比でFeおよびMoを有することを特徴とする、請求項10の単層カーボンナノチューブ製造方法。
【請求項12】
前記第1の温度が900℃よりも高い温度であることを特徴とする請求項10の単層カーボンナノチューブ製造方法。
【請求項13】
前記吸熱反応性炭素含有原料が、一酸化炭素、メタン、メタノール、エタノール、ブタンおよびヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項10の単層カーボンナノチューブ製造方法。
【請求項14】
前記吸熱反応性炭素含有原料がメタンを含むことを特徴とする請求項10の単層カーボンナノチューブ製造方法。
【請求項15】
前記還元雰囲気が水素含有気体を含むことを特徴とする請求項10の単層カーボンナノチューブ製造方法。
【請求項16】
前記第2の温度が560℃以下の温度であることを特徴とする請求項10の単層カーボンナノチューブ製造方法。

【請求項17】
前記吸熱反応性炭素含有原料を前記アルミナ担持FeおよびMo含有触媒組成物に接触させる工程の前に、前記吸熱反応性炭素含有原料を分解させる工程をさらに有することを特徴とする、請求項10の単層カーボンナノチューブ製造方法。
【請求項18】
前記吸熱反応性炭素含有原料を前記アルミナ担持FeおよびMo含有触媒組成物に接触させる工程の前に、前記吸熱反応性炭素含有原料をプラズマ源に接触させる工程をさらに有し、
前記プラズマは前記吸熱反応性炭素含有原料を分解することを特徴とする、請求項10の単層カーボンナノチューブ製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2011−525167(P2011−525167A)
【公表日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−514821(P2011−514821)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/047865
【国際公開番号】WO2009/155466
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】