説明

単結晶の成長方法および単結晶の引き上げ装置

【課題】単結晶育成時の有転位化を防止し、単結晶歩留まりと生産性を向上させることができると共に、ウェーハに切り出した後の熱酸化処理で、酸化膜厚のばらつきを抑制できるシリコン単結晶の成長方法および引き上げ装置を提供する。
【解決手段】チョクラルスキー法により、石英坩堝11a内で溶融したシリコン原料の溶融液から単結晶14を引き上げて成長させる方法において、石英坩堝11aの外壁側が正極、シリコン単結晶14を引き上げる引上ワイヤーまたは引上シャフト15側が負極となるよう直流電圧を印加し、単結晶引き上げ中を通してシリコン単結晶14に流れる電流を一定にして単結晶14を成長させることにより、石英坩堝11aの内壁表面に適切な結晶化層すなわち失透を発生させると同時に、シリコン単結晶14中のLi濃度を制御可能にするシリコン単結晶の成長方法とその引き上げ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の成長方法およびそれに用いる単結晶の引き上げ装置に関し、より詳しくは、単結晶歩留まりと生産性を向上させることができるシリコン単結晶の成長方法及び引き上げ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体基板に用いられるシリコン単結晶を製造する方法には種々の方法があるが、そのなかでも回転引き上げ法として広く採用されているチョクラルスキー法(以下、「CZ法」という)がある。
【0003】
図5は、CZ法によるシリコン単結晶の成長方法を実施するのに適した引き上げ装置の要部構成を模式的に示す図である。
引き上げ装置の外観は図示しないチャンバーで構成され、その中心部に坩堝が配設されている。この坩堝は二重構造であり、有底円筒状をなす石英製の内層保持容器(以下、単に「石英坩堝11a」という)と、その石英坩堝11aの外側を保持すべく適合された同じく有底円筒状の黒鉛製の外層保持容器(以下、単に「黒鉛坩堝11b」という)とから構成されている。
【0004】
これらの坩堝は、回転および昇降が可能になるように支持軸16の上端部に固定されている。そして、坩堝の外側には抵抗加熱式ヒーター12が概ね同心円状に配設されており、前記坩堝内に投入された所定重量のシリコン原料はヒーター12により溶融され、溶融液13が形成される。
【0005】
溶融液13を充填した前記坩堝の中心軸上には、支持軸16と同一軸上で逆方向または同方向に所定の速度で回転する引上ワイヤー(または引上シャフト、以下両者を合わせて「引き上げ軸」という)15が配設されており、引き上げ軸15の下端には種結晶17が保持されている。
【0006】
このような引き上げ装置にあっては、石英坩堝内にシリコン原料を投入し、減圧下の不活性ガス雰囲気中でシリコン原料を坩堝の周囲に配設したヒーターにて溶融した後、形成された溶融液の表面に引き上げ軸の下端に保持された種結晶を浸漬し、坩堝および引き上げ軸を回転させつつ、引き上げ軸を上方に引き上げて種結晶の下端面に結晶を成長させる。
【0007】
CZ法では、種結晶に元から含まれる転位や、着液時の熱ショックで導入される転位を除去するために、種結晶の下端面から成長する結晶を一旦直径3mm程度まで細く絞るネック工程を経て、所定の直径を有するボディ(定径部)にするための肩を形成した後、所定の直径でシリコン単結晶14を成長させる。この間、石英坩堝を種結晶と同方向または逆方向に回転させる。単結晶が目標の長さに達すると終端部のテイル絞りを行い、単結晶の育成を終了する。
【0008】
前述の通り、CZ法によるシリコン単結晶の引き上げでは、二重構造の坩堝のうち石英坩堝によって、シリコン原料を溶融した溶融液が保持される。この石英坩堝がシリコン溶融液を保持する際には、坩堝表面は1500℃以上の高温に晒されており、その時間は原料シリコンの充填量、結晶成長速度などの条件により異なるものの、通常、数十時間以上に及ぶことになる。
【0009】
さらに、最近では、単結晶引き上げの生産性を高めるため、同一の坩堝から複数本の単結晶を製造するリチャージ引き上げ法(RCCZ法、例えば非特許文献1参照)が開発されている。このようなリチャージ引き上げ法では、石英坩堝がシリコン溶融液に晒される時間が100時間を超える場合もある。
【0010】
通常、石英坩堝の内壁表面には、高温状態のシリコン溶融液と接触する間に、ブラウニッシュリングと呼ばれる褐色のクリストバライトが生成され、次第に成長していく。このブラウニッシュリングが、単結晶の引き上げ過程で剥離すると、それが結晶成長を阻害し、結晶中に有転位化を招くことになる。
【0011】
このような坩堝内表面の結晶化にともなう有転位化を防止するため、石英坩堝にNa、KおよびLiのうち1種または2種以上のアルカリ金属イオンを含有させ、当該石英坩堝の外壁側が正極、種結晶側(シリコン単結晶側)が負極となるよう一定の値の直流電圧を印加し、石英坩堝の内壁表面に失透を発生させる方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0012】
しかし、上記の方法を用いても、坩堝表面に失透を十分に発生させることができない場合があり、シリコン単結晶中の転位の発生を防止するには不十分であった。また、得られた単結晶の特性が安定しないといった問題も発生した。
【0013】
【特許文献1】特開2006−36568号公報
【非特許文献1】志村史夫著、「半導体シリコン結晶工学」p72−73、丸善
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、シリコン単結晶の成長過程において、石英坩堝の内壁表面に適切な結晶化層すなわち失透を発生させると同時に、シリコン単結晶中のLi濃度を制御することにより、単結晶育成時の有転位化を防止し、単結晶歩留まりと生産性を向上させることができると共に、ウェーハに切り出した後の熱酸化処理で、酸化膜厚のばらつきを抑制できるシリコン単結晶の成長方法および引き上げ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明は、チョクラルスキー法により、石英坩堝内で溶融したシリコン原料の溶融液から単結晶を引き上げて成長させる方法において、前記石英坩堝の外壁側が正極、シリコン単結晶を引き上げる引上ワイヤーまたは引上シャフト側が負極となるよう直流電圧を印加し、単結晶引き上げ中を通してシリコン単結晶に流れる電流を一定にして単結晶を成長させることを特徴とするシリコン単結晶の成長方法を提供する(請求項1)。
【0016】
このように、単結晶引き上げ中を通してシリコン単結晶に流れる電流を一定にすることで、石英坩堝の内壁表面に適切な失透を発生させ、単結晶育成時の有転位化を防止し、単結晶歩留まりと生産性を向上させることができると共に、成長中に結晶に取り込まれるアルカリ金属イオンの量を均一にして、ウェーハに切り出した後の熱酸化処理で、酸化膜厚のばらつきを抑制することができる。
【0017】
また、本発明の成長方法では、前記石英坩堝として、石英坩堝の外壁側はアルカリ金属イオンを含む天然石英とし、内壁側はアルカリ金属イオンが天然石英より少ない合成石英とした坩堝を使用することが好ましい(請求項2)。
これにより、上記効果を一層向上できるとともに、特にシリコン単結晶中のLi濃度を低くすることができる。
【0018】
また、本発明の成長方法では、前記シリコン単結晶に流れる電流を0.1mA以上、15mA以下とすることが好ましい(請求項3)。
このような電流値の範囲内で、使用した石英坩堝中のアルカリ金属イオン濃度に従い電流値を選択すれば、適度な失透を発生させつつ、シリコン単結晶のLi濃度を均一に制御し、かつ低くすることができる。
【0019】
また、本発明の成長方法では、前記単結晶の引き上げ中に、前記石英坩堝の内壁表面で失透した面積をVcとし、溶融初期において前記石英坩堝の内壁表面が溶融液と接触する面積をViとした場合に、失透面積率Vc/Viが20%以上となる電流値で一定に設定して単結晶シリコンを成長させることが好ましい(請求項4)。
これによって、結晶の有転位化をより確実に抑制することができる。
【0020】
また、本発明では、チョクラルスキー法により、石英坩堝内で溶融したシリコン原料の溶融液から単結晶を引き上げる装置において、少なくとも前記溶融液に浸漬し、その下端面に単結晶を成長させつつ引き上げられる種結晶を引き上げる引上ワイヤーまたは引上シャフトと、前記石英坩堝の外壁とに電圧を印加可能に接続され、前記種結晶と石英坩堝外壁を流れる電流が一定になるよう直流電圧を制御する定電流装置を備え、前記石英坩堝の外壁側が正極となるよう直流電圧が印加されるものであることを特徴とするシリコン単結晶の引き上げ装置を提供する(請求項5)。
【0021】
このような定電流装置を備えることによって、単結晶引き上げ中を通してシリコン単結晶に流れる電流を一定に制御することが可能となり、石英坩堝の内壁表面に適切な失透を発生させ、単結晶育成時の有転位化を防止し、単結晶歩留まりと生産性を向上させることができると共に、ウェーハに切り出した後の熱酸化処理で、酸化膜厚のばらつきを抑制することができる。
【0022】
また、前記坩堝は、アルカリ金属イオンを含有する天然石英からなる外壁と、該天然石英よりアルカリ金属イオンが少ない合成石英を内壁としたものとすることが好ましい(請求項6)。
このことによって、適度な失透の発生と、シリコン単結晶中のLi濃度を低い濃度で一定とすることができる。
【0023】
また本発明では、前記定電流装置は、前記種結晶と石英坩堝の外壁を流れる電流を0.1mA以上、15mA以下の一定電流に制御するものとすることが好ましい(請求項7)。
このような電流値の範囲内で、石英坩堝中のアルカリ金属イオン濃度に従い電流値を選択し、制御すれば、適度な失透を発生させつつ、シリコン単結晶のLi濃度を均一に制御し、かつ低くすることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明では、シリコン単結晶を成長させる際に、石英坩堝の外壁側が正極、シリコン単結晶を引き上げる引上ワイヤーまたは引上シャフト側が負極となるよう直流電圧を印加し、単結晶引き上げ中を通してシリコン単結晶に流れる電流を一定にして単結晶を成長させる。これによって石英坩堝の内壁表面を効率よく失透させることができ、単結晶育成時の有転位化を防止し、単結晶歩留まりと生産性を向上させることができるとともに、シリコン単結晶のLi濃度を均一に制御でき、そこから切り出したウェーハを熱酸化した時の酸化膜厚ばらつきを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
前述のように、石英坩堝にNa、KおよびLiのうち1種または2種以上のアルカリ金属を含有させて、前記石英坩堝の外壁側が正極、種結晶側(シリコン単結晶側)が負極となるよう直流電圧を印加し、石英坩堝の内壁表面に失透をさせることによって、坩堝内表面の結晶化に伴う有転位化を防ぐ方法が開示されたが、有転位化防止に対しては不十分であった。そこで、本発明者らは、まずその原因を探ることにした。
【0026】
従来の一定値の直流電圧を印加する方法だと、シリコン単結晶の引き上げが進むにつれて、シリコン原料を溶融した溶融液と石英坩堝の接触面積が減少する為、前記シリコン単結晶と石英坩堝の外壁間の回路抵抗が高くなり、シリコン単結晶を流れる電流が低くなっていくことがわかった。
しかし石英坩堝の内壁表面を失透させるにはある一定以上の電流を流す必要がある。
したがって、石英坩堝の内壁表面に失透をさせるには、ある一定値以上の直流電圧を印加する必要がある。
【0027】
しかし、シリコン単結晶と石英坩堝の外壁間に電流が流れると、石英坩堝に含有されたLiが溶融液側に移動し溶融液を経てシリコン単結晶に取り込まれることがわかった。そしてシリコン単結晶に取り込まれるLiは電流が高いほど多くなることもわかった。
【0028】
またLiが取り込まれたシリコン単結晶から切り出されたウェーハは、熱酸化処理における酸化膜の成長速度が速くなり、その成長速度は単結晶中のLi濃度が高いほど速くなることがわかった。従って、シリコン単結晶中のLi濃度が不均一になると、そこから切り出されたウェーハ中のLi濃度もばらつき、よってウェーハの酸化膜厚がばらついてしまうという問題が起きることがわかった。
【0029】
そこで、前記ウェーハの酸化膜厚のばらつきを減少させるには、シリコン単結晶中のLi濃度をある一定濃度以下に抑える必要があるが、そのためにはシリコン単結晶を流れる電流を低くする必要があり、印加する直流電圧を下げなければならない。
【0030】
しかし、印加する直流電圧を下げると、今度は、石英坩堝の内壁表面に失透がしにくくなり、内壁表面の浸食や劣化防止による単結晶の有転位化の抑制効果が得られなくなってしまうため、単結晶歩留まりと生産性を向上できなくなってしまうことがわかった。
【0031】
そこで、本発明者らは、直流電圧を印加しながらのシリコン単結晶の引き上げ過程における石英坩堝の内壁表面の失透(結晶化)の状態と、その時のシリコン単結晶中のLi濃度およびウェーハ切り出し後の酸化膜厚について、詳細な検討を行った。
【0032】
その結果、単結晶中を流れる電流はシリコン単結晶の引き上げ(言い換えると溶融液と石英坩堝の接触面積の減少)が進むにつれて低くなり、シリコン単結晶中のLi濃度も引き上げ方向に低くなることを発見した。
【0033】
さらに、シリコン単結晶から切り出したウェーハのLi濃度が高いほど、熱酸化時の酸化膜厚が厚くなること、またLi濃度を一定以下に抑えることで、直流電圧印加を行わない従来の方法で引き上げられたシリコン単結晶から切り出されたウェーハと酸化膜厚を同等にできることを発見した。
【0034】
また、石英坩堝の内壁表面を効率的に失透させるのに必要な電流値の調査を行い、ウェーハの酸化膜厚に影響しないLi濃度と効率的に石英坩堝の内壁表面を失透させることの両立が図れる電流値の範囲が存在することを知見した。
【0035】
そして、シリコン単結晶引き上げ中の電流を、前記電流値に一定制御することで、シリコン単結晶の引き上げ方向全域で均一なLi濃度が得られることを知見した。
【0036】
また、微量のアルカリ金属イオンを含有した外壁と、外壁に比べアルカリ金属イオンを含有しない内壁とした石英坩堝を使用した場合に、内壁表面を効率的に失透させながらも、シリコン単結晶中のLi濃度を抑制しつつ、引き上げ方向で均一なLi濃度を得ることが容易になることを知見した。
【0037】
本発明は、上記の発見および知見に基づいて完成されたものであり、以下、本発明について図面を参照しながらさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は本発明のシリコン単結晶の引き上げ装置の断面構成例を模式的に示す図である。本発明のシリコン単結晶の成長方法に用いる引き上げ装置は以下に示すとおりである。
【0038】
中空円筒状のチャンバーで外観を構成し、そのチャンバーは下部円筒をなすメインチャンバー19aと、メインチャンバー19aに連接固定された上部円筒をなすプルチャンバー19bとから構成され、その中心部に坩堝が配設されている。この坩堝は二重構造であり、有底円筒状をなす石英製の内層保持容器(以下、単に「石英坩堝11a」という)と、その石英坩堝11aの外側を保持すべく適合された同じく有底円筒状の黒鉛製の外層保持容器(「黒鉛坩堝11b」)とから構成されている。
【0039】
二重構造からなる坩堝の外側にはヒーター12が配設され、ヒーター12の外側周辺には保温筒18aが同心円状に配設され、またその下方で装置底部には保温板18bが配設されている。さらに、引き上げ軸15の先端に保持された種結晶17と支持軸16に支持された坩堝との間に、一定の直流電流を流すための直流電圧を印加するための直流電源装置20が設置されている。
【0040】
そして、前記坩堝内に投入された所定重量のシリコン原料が溶融され、溶融液13が形成される。形成された溶融液13の表面に種結晶17を浸漬し、坩堝および引き上げ軸15を回転させつつ、引き上げ軸15を上方に引き上げて種結晶17の下端面にシリコン単結晶14を成長させる。
【0041】
このように、定電流装置を使用し、単結晶引き上げ中を通してシリコン単結晶に流れる電流を一定にするによって、石英坩堝の内壁表面に適切な失透を発生させ、単結晶育成時の有転位化を防止し、単結晶歩留まりと生産性を向上させることができると共に、単結晶中に取り込まれるLi濃度を均一にすることができるので、ウェーハに切り出した後の熱酸化処理で、酸化膜厚のばらつきを抑制することができる。
【0042】
また、この場合、石英坩堝としてアルカリ金属イオンを含有する天然石英からなる外壁と、該天然石英に比べアルカリ金属イオンの含有量が少ない合成石英を内壁とした石英坩堝を使用することができる。
このことによって、石英坩堝全体に含まれるアルカリ金属イオンの濃度を低減できるので、シリコン単結晶中のLi濃度を低い濃度で一定にすることができる。従って、適度の失透と均一な特性を得ることができる。
【0043】
この天然石英中のアルカリ金属イオンとはNa、KおよびLiのうち1種または2種以上のことであり、また合成石英のアルカリ金属イオンの含有量の合計は0.01〜10ppm、より好ましくは0.01ppm〜5ppmの範囲であるものが好適である。
【0044】
また、定電流装置は、種結晶と石英坩堝の間に流れる電流を0.1mA以上、15mA以下の一定電流に制御することができる。より好ましくは0.1mA〜3mAである。
このような電流値の範囲内で、石英坩堝中のアルカリ金属イオン濃度に従い電流値を選択し、制御すれば、適度な失透を発生させつつ、シリコン単結晶のLi濃度を均一に制御し、かつ低くすることができる。
【0045】
本発明のシリコン単結晶の成長方法の一例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるわけではない。
チョクラルスキー法により、石英坩堝内で溶融したシリコン原料の溶融液から単結晶を引き上げて成長させる方法において、シリコン単結晶を引き上げて成長させる際に、石英坩堝の外壁側が正極、シリコン単結晶を引き上げる引上ワイヤーまたは引上シャフト側が負極となるように直流電圧を印加して、単結晶引き上げ中を通してシリコン単結晶に流れる電流を一定の値として、シリコン単結晶を成長させる。
このような本発明方法は、例えば上記のような装置を用いて実施することができる。
【0046】
上記のように、定電流装置を用いて単結晶引き上げ中を通してシリコン単結晶に流れる電流を一定にすることで、石英坩堝との接触面積が変化して回路抵抗が変化したり、用いた石英坩堝中のアルカリ金属イオン濃度が異なっていたとしても、確実に所定値の電流を流すことができるので、アルカリ金属イオンを石英坩堝の内壁表面に移動させ適切な失透を発生させることができる。従って、単結晶育成時の有転位化を防止し、単結晶歩留まりと生産性を向上させることができる。また、定電流であるので、単結晶中に取り込まれるアルカリ金属の濃度を一定にできるので、ウェーハに切り出した後の熱酸化処理で、酸化膜厚のばらつきを抑制することができる。
【0047】
この場合、石英坩堝は、アルカリ金属イオンを含有する天然石英を外壁、天然石英に比べアルカリ金属イオン含有量が少ない合成石英を内壁とすることができる。
これによって、前述のように、適度な失透と、シリコン単結晶中のLi濃度を均一でかつ低くすることができる。
【0048】
また、シリコン単結晶に流れる電流を0.1mA以上、15mA以下とすることができる。
このように、シリコン単結晶に流れる電流値を、石英坩堝中のアルカリ金属イオン濃度に従い以上の範囲で選択すれば、石英坩堝内壁に適度な失透を発生させつつ、シリコン単結晶のLi濃度を均一に制御し、かつ低くすることができる。
【0049】
この場合、選択する電流値としては、シリコン単結晶の引き上げ中に、前記石英坩堝の内壁表面で失透した面積をVcとし、溶融初期において前記石英坩堝の内壁表面が溶融液と接触する面積をViとした場合に、失透面積率Vc/Viが20%以上となる電流値で一定に設定して単結晶シリコンを成長させるのが好ましい。
これによって、より確実に単結晶の有転位化を防止できる。
【実施例】
【0050】
次に本発明の実施例、比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例)
図1に示す引き上げ装置を用いて、内径450mmの石英坩堝にシリコン原料70kgを充填し、溶融液を形成した後に、直径150mmのシリコン単結晶を引き上げ、成長させた。使用した石英坩堝のLi含有量は0.5ppmとし、石英坩堝の外壁側が正極となるよう直流電圧を印加し、種結晶と石英坩堝外壁間に流れる電流値がシリコン単結晶の引き上げの全プロセスに亘って0.5mA一定となるようにしてシリコン単結晶の引き上げを行った。
その後、3バッチの単結晶歩留まり、石英坩堝内壁の失透面積率、シリコン単結晶中のLi濃度、およびそのシリコン単結晶の肩部、中央部、尾部から切り出したウェーハの熱酸化後の酸化膜厚を測定した。
【0051】
ここで、Li濃度の測定フローを以下に示す。すなわち、得られたシリコン単結晶インゴットをスライスしてウェーハを切り出し、エッチング(CW)、研磨(PW)等を施した。ウェーハ中のLiは、熱酸化処理を行うと酸化膜中に移動しトラップされるため、次に熱処理炉で900℃10分間の酸化処理を行いウェーハに酸化膜を形成し、最後にウェーハの酸化膜中のLi濃度をICP−MSで測定した。
【0052】
(比較例1)
上記実施例のシリコン単結晶の成長方法において、種結晶と石英坩堝外壁間の電位差を0Vとして電流を流さない条件で成長させたシリコン単結晶についても実施例と同様の評価を行った。
【0053】
(比較例2)
またさらに、上記実施例のシリコン単結晶の成長方法において、種結晶と石英坩堝外壁間の電位差を12Vで固定し(図6に示すようにシリコン単結晶の成長プロセス中に電流値は変化する)、その条件で引き上げて成長させたシリコン単結晶についても実施例・比較例1と同様の評価を行った。
【0054】
図3は、実施例と比較例1、2における単結晶歩留まりを示す図である。
実施例では、比較例1に比べて高歩留まりを確保することができた。また、比較例2も比較例1に比べ高歩留まりであった。
【0055】
実施例での石英坩堝内壁の失透面積率は20〜30%となり、引き上げ中のシリコン単結晶の有転位化を抑制するのに充分な失透を得ることができた。なお、比較例2では、90〜100%の高い失透面積率であった。このときの電流値の変動の様子を図6に示す。このように、比較例2では、比較的高い定電圧を印加しているので、電流が流れてはいるが、変動が激しいことが判る。
【0056】
図2は、実施例および比較例におけるシリコン単結晶中のLi濃度の測定結果である。実施例におけるシリコン単結晶中のLi濃度は、比較例2に比べて格段に低く、比較例1と同程度の水準でわずかに高いだけであった。
【0057】
図4は、実施例および比較例におけるシリコン単結晶から切り出したウェーハに熱酸化処理を行った後の酸化膜厚の測定結果である。実施例におけるシリコンウェーハの酸化膜厚は、比較例2に比べて薄く、比較例1と同程度の水準であった。しかも実施例では厚さばらつきはほとんどなかったが、比較例2ではウェーハによって酸化膜厚に大幅なばらつきがあった。
【0058】
以上のことから、本発明のシリコン単結晶の成長方法および引き上げ装置によれば、シリコン単結晶引き上げ過程において、石英坩堝の内壁表面を効率よく失透させることができ、かつシリコン単結晶中に取り込まれるLiを抑制できるし、均一とすることができる。
【0059】
これにより、長時間に亘る単結晶引き上げの操業に際しても、単結晶育成時の有転位化を防止し、単結晶歩留まりと生産性を向上させることができるとともに、酸化膜形成時に悪影響を及ぼすLi濃度の低減とばらつきの抑制が可能になる為、半導体デバイス用のシリコン単結晶の製造分野において、広く利用することができる。
【0060】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明のシリコン単結晶の引き上げ装置の断面構成例を模式的に示す図である。
【図2】実施例および比較例におけるシリコン単結晶中のLi濃度を示す図である。
【図3】実施例および比較例における単結晶歩留まりを示す図である。
【図4】実施例および比較例におけるシリコン単結晶から切り出したウェーハに熱酸化処理を行った酸化膜厚を示す図である。
【図5】CZ法によるシリコン単結晶の成長方法を実施するのに適した引き上げ装置の要部構成を模式的に示す図である。
【図6】比較例2において、電圧差を12Vとした場合の各工程における電流値の変動の様子を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
11a…石英坩堝、 11b…黒鉛坩堝、 12…ヒーター、 13…溶融液、 14…シリコン単結晶、 15…引き上げ軸、 16…支持軸、 17…種結晶、 18a…保温筒、 18b…保温板、 19a…メインチャンバー、 19b…プルチャンバー、 20…直流電源装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法により、石英坩堝内で溶融したシリコン原料の溶融液から単結晶を引き上げて成長させる方法において、前記石英坩堝の外壁側が正極、シリコン単結晶を引き上げる引上ワイヤーまたは引上シャフト側が負極となるよう直流電圧を印加し、単結晶引き上げ中を通してシリコン単結晶に流れる電流を一定にして単結晶を成長させることを特徴とするシリコン単結晶の成長方法。
【請求項2】
前記石英坩堝として、石英坩堝の外壁側はアルカリ金属イオンを含む天然石英とし、内壁側はアルカリ金属イオンが天然石英より少ない合成石英とした坩堝を使用することを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の成長方法。
【請求項3】
前記シリコン単結晶に流れる電流を0.1mA以上、15mA以下とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリコン単結晶の成長方法。
【請求項4】
前記単結晶の引き上げ中に、前記石英坩堝の内壁表面で失透した面積をVcとし、溶融初期において前記石英坩堝の内壁表面が溶融液と接触する面積をViとした場合に、失透面積率Vc/Viが20%以上となる電流値で一定に設定して単結晶シリコンを成長させることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のシリコン単結晶の成長方法。
【請求項5】
チョクラルスキー法により、石英坩堝内で溶融したシリコン原料の溶融液から単結晶を引き上げる装置において、少なくとも前記溶融液に浸漬し、その下端面に単結晶を成長させつつ引き上げられる種結晶を引き上げる引上ワイヤーまたは引上シャフトと、前記石英坩堝の外壁とに電圧を印加可能に接続され、前記種結晶と石英坩堝外壁を流れる電流が一定になるよう直流電圧を制御する定電流装置を備え、前記石英坩堝の外壁側が正極となるよう直流電圧が印加されるものであることを特徴とするシリコン単結晶の引き上げ装置。
【請求項6】
前記坩堝は、アルカリ金属イオンを含有する天然石英からなる外壁と、該天然石英よりアルカリ金属イオンが少ない合成石英を内壁としたものであることを特徴とするシリコン単結晶の引き上げ装置。
【請求項7】
前記定電流装置は、前記種結晶と石英坩堝の外壁を流れる電流を0.1mA以上、15mA以下の一定電流に制御するものであることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のシリコン単結晶の引き上げ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−254949(P2008−254949A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97096(P2007−97096)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】