説明

単結晶炭化ケイ素の形成

本発明は、非コングルエントな気相化を呈し、単結晶又は多結晶形態で存在可能な化合物本体を単結晶状態で形成する装置(10)において、前記本体の多結晶供給源が形成される基板(42)及び前記本体の単結晶種(46)を有する少なくとも1個の第1室(20)と、第2室(14)とを備え、前記基板は前記2室の間に配置されることを特徴とし、前記基板に前記本体を多結晶の形態で堆積させることのできる前記第2室に、前記本体のガス状前躯体を供給する手段(36)と、前記基板を前記種の温度より高く維持して、前記多結晶供給源を昇華させ、前記本体の種に単結晶形態で堆積させる加熱手段(26)とを具備する装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非コングルエントな気相化を呈し、単結晶又は多結晶の形態で存在する化合物の単結晶を形成する方法及び装置に関する。以下の説明は、例として単結晶炭化ケイ素SiCの形成に適用する。
【0002】
本発明は、例えば、立方晶系又は六方晶系結晶化型の厚い単結晶SiCのインゴット又は層の形成に特に適用される。そのようなインゴット又は厚い層は、マイクロエレクトロニクスに使用可能な基板又は活性層の製造に使用することができる。それらの用途では、単結晶SiCは良好な結晶品質と十分制御されたドーパント比が必要である。
【背景技術】
【0003】
電子特性を有する単結晶SiCインゴットを製造する第1の公知の方法は、SiC粉体の昇華と、形成された気相の単結晶SiC種上への凝縮とに基づく。そのような方法を実施する装置は、一般に、SiCインゴットが形成される単結晶種と、SiC供給源を形成するSiC粉体とが配置された、昇華室を画定するグラファイト坩堝を備える。SiC粉体及び種を、温度T1 がT2 より高くなるようにT1 及びT2 に夫々加熱する。
【0004】
前述の昇華方法にはある欠点がある。
【0005】
実際に、できる限り注意深く調製しても、SiC粉体に含まれる不純物は、得られた単結晶に欠陥と不必要なドーピングをもたらす。
【0006】
更に、昇華法は、SiC供給源を形成する粉体の量が必然的に制限されるため、大きな単結晶の成長が不可能である。実際に、単結晶SiCの成長条件を過剰に乱すことなくSiC粉体を坩堝に連続的に供給することは実施上不可能である。更に、大量の粉体を坩堝に配置することも不可能である。実際に、SiC昇華は非コングルエントを呈し、粉体昇華では炭素よりも大量のケイ素が発生する。従って、粉体には炭素を加える傾向がある。処理の進行とともに最終的に、粉体と昇華により生じる気体の組成物の修正が行われ、従って単結晶の成長条件が修正されることになる。
【0007】
単結晶SiCインゴットを製造する第2の方法は、単結晶SiC種への非常に高温の化学気相反応(HTCVD)から構成される。昇華法で述べたものと類似の坩堝中に、ガス状のケイ素及び炭素の前躯体、例えば、シラン及びプロパンを、可能ならばリフティングガスによって種に送って反応させ、種に単結晶SiCの堆積物を形成させる。化学気相反応法は活性層の形成にも用いられる。
【0008】
化学気相反応法の主な欠点は、特にガス前躯体の乱れた動きのため、単結晶成長の制御が極めて困難なことである。
【0009】
更に、活性層の形成では、化学気相反応法は時間あたり20又は30マイクロメートル程度の堆積速度を超えることができない。
【特許文献1】特開2002−234800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、前述した方法の欠点のない、単結晶SiC種に単結晶SiCを形成する方法を得ることである。
【0011】
又、本発明の目的は、数十マイクロメートル以上の厚さに達する活性層、又は単結晶SiCインゴットの製造装置を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの目的を達成するために、本発明は、非コングルエントな気相化を呈し、単結晶又は多結晶形態で存在する化合物を単結晶状態で形成する装置において、前記化合物の多結晶供給源が形成されるレベルに配された基板及び前記化合物の単結晶種を有する第1室と、第2室とを備え、前記基板は前記2室の間に配置されることを特徴とし、前記基板に前記化合物を多結晶の形態で堆積させることのできる前記第2室に、前記化合物のガス前躯体を供給する手段と、前記基板を前記種の温度より高く維持して、前記多結晶供給源を昇華させ、前記化合物の種に単結晶形態で堆積させる加熱手段とを具備する装置を提供する。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、前記化合物は炭化ケイ素である。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、前記第1室が、第1円筒壁と、前記種をそれに付着させる、少なくとも部分的に前記第1の壁の一端部を覆う蓋と、少なくとも部分的に前記第1の壁の反対側の端部を覆う前記基板とによって画定され、前記基板が透過性である。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、前記第2室が、基板側の前記第1円筒壁の延長上に配置された第2円筒壁によって画定され、前記第1及び第2円筒壁が管によって囲まれて、前記第1及び第2円筒壁で管状空所を画定し、前記第2室が前記管状空所に通じる。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、前記装置は、第2室中に存在するガスを排気するために、前記管状空所内にガス流を発生させる手段を備える。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、前記加熱手段が、前記管を囲んで、A.C.電流を伝導して前記管だけに誘導電流を誘導する少なくとも1個の誘導螺旋体を備える。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、前記蓋は、前記第1円筒壁に関して、前記第1円筒壁の軸に沿って移動可能に組み立てられている。
【0019】
又、本発明は、非コングルエントな気相化を呈し、単結晶又は多結晶形態で存在する化合物を単結晶状態に形成する方法において、同時的になされる、第1及び第2室の間に配置された透過性基板上に、前記第2室に供給する前記化合物のガス前躯体の化学気相反応によって、前記化合物の供給源を多結晶形態で形成するステップと、前記供給源の一部の昇華によって前記第1室中にガス状化合物を形成するステップと、前記第1室中に配置された種に、ガス状化合物の凝縮によって前記化合物を単結晶形態で形成するステップとを備える方法も提供する。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、前記種が、前記単結晶炭化ケイ素の形成とともに前記基板から遠ざけられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は多くの利点を有する。
【0022】
第1に、連続的に補給できる多結晶SiC供給源の昇華ステップによって、単結晶SiCの形成が可能になる。従って、昇華形成方法の特徴である高い成長速度で、大きな寸法のインゴット又は厚い層を形成することが可能になる。
【0023】
第2に、2室を形成し、一方を多結晶SiCの化学気相反応、他方を多結晶層の昇華として、各々を所定の種類の反応に専用することによって、単結晶SiCの成長を妨げることなく、多結晶SiC供給源を連続的に補給することが可能になる。従って、良好な結晶品質の単結晶SiCが得られる。
【0024】
第3に、化学気相反応に使用するガス前躯体は容易に精製することができるので、本発明は非常に高純度の多結晶炭化ケイ素供給源の形成を可能にする。従って、得られた単結晶SiCを非常に高純度にできる。従って、ガス前躯体中へドーパントを導入することによって、単結晶SiCのドーピングを非常に正確に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の前述及び他の目的、特徴、利点は、添付する図面とともに、特定の実施形態の非制限的な以下の説明によって詳述する。
【0026】
図1は、以下供給室と呼ぶ第1室14を画定する、軸Zの第1グラファイト円筒壁12から形成される装置10を示す。例えば、第1円筒壁12と同じ直径であり、円筒壁16と蓋18で一端部が堅固に閉じられた、軸Zの第2グラファイト円筒壁16は、以下昇華室と呼ぶ第2室20を画定する。第2円筒壁16は、第1円筒壁12の延長上に配置され、スペーサ22によって分離され、図1には単一スペーサが示されている。スペーサ22は、2室14、20の間に、実質上リング状の通路24を画定する。軸Zは、例えば縦軸に一致し、昇華室20は供給室14の上部に配置される。
【0027】
軸がZであるグラファイト円筒管26は、2個の円筒壁12、16を囲み、それらを介在して管状空所28を画定する。
【0028】
室14、20は両方共、管26の周囲に配置された軸Zの円筒壁30から形成されたグラファイトフェルトで作られた絶縁パッケージ29に収容され、実質上円形のプレート32、34により両端が閉じられる。
【0029】
ガス供給ダクト36は、プレート34を介して供給室14に通じている。中性ガスを供給するためのダクト38は、プレート34を介して供給室14の側部で管状空所28に通じている。ガス排気ダクト40は、プレート32を介して管状空所28と通じている。
【0030】
円形基板42は、例えば、多孔質カーボン発泡体又は焼結SiCから形成され、スペーサ22によって円筒壁16に対して保持されたワッシャー44上に配置される。基板42の直径は、例えば円筒壁16の内径と実質上一致する。しかし、基板42の直径は、円筒壁16の内径より小さくしてもよく、供給室14は部分的に昇華室20に直接通じていてもよい。基板42は、昇華室20を供給室14から分離する。基板42は、SiCの昇華によるガスに透過性があり、又は多結晶SiCはそれを通して少なくとも拡散することが可能である。
【0031】
単結晶炭化ケイ素種46は、昇華室20内の蓋18に配置される。開口部50が円形プレート32に形成され、種46のレベルで蓋18の一部を露出する。
【0032】
図示しない誘導螺旋体は、実質上基板42のレベルで絶縁パッケージ29の円筒壁30を囲む。誘導螺旋体に供給される電流は、管26だけが誘導電流を伝導するような頻度である。管26によって加熱される室14、20の温度分布は、実質上室14、20中に存在する材料の影響を受けない、従って室14及び20内で起きる化学現象の影響を受けない。
【0033】
本発明によるSiC製造方法は以下のとおりである。
【0034】
装置10は部分的な真空下又は不活性雰囲気チャンバー内に置かれ、装置を形成するグラファイトの燃焼反応を防止する。昇華室20内の基板42及び種46間の温度勾配を、基板42の温度T1 が種46の温度T2 より高くなるようにする。温度T1 の範囲は、例えば2000℃〜2400℃の間であり、温度T2 の範囲は、例えば1900℃〜2200℃の間である。絶縁パッケージ29は熱損失を制限する。絶縁パッケージ29の開口部50は、種46の温度低下に役立つ。
【0035】
アルゴンなどの中性ガスの流れは、供給ダクト38と排気ダクト40との間の管状空所28に生じる。そのような流れは、通路24を通して供給室14中に存在するガスを運び去り、希釈する。
【0036】
供給ダクト36によって、高温で反応するケイ素と炭素とのガス前躯体は供給室14内に導入され、基板42へ向かって導かれる。ガス前躯体は、例えばアルゴンや水素などの1又は複数種のリフティングガスと混合してもよい。ガス前躯体、例えば、シラン、プロパン、又は塩素化された成分をもとにしたガス、例えばSiCl4 は非常に高い温度で反応し、基板42に多結晶SiCを形成する。完全に又は部分的に反応したガス前躯体及びリフティングガスは、次いで通路24を経由して供給室14から排気され、中性ガスの流れによって管状空所28に運ばれ希釈される。
【0037】
基板42に形成された多結晶SiCは、昇華して昇華室20内でガス状種を形成し、次いで単結晶種46に凝縮し単結晶SiCを成長させる。
【0038】
本方法は、50μm/時以上の成長速度で単結晶SiCインゴット又は厚い層を形成でき、1mm/時以上も可能である。
【0039】
図2は、図1の装置10の変形例を示しており、蓋18は軸Zに沿って可動である。従って、リング状開口部52が円筒壁16から蓋18を分離する。
【0040】
グラファイトフェルト円形プレート54は、蓋18を覆い、種46のレベルに形成された開口部55を含む。軸Zのグラファイトフェルトリング56は、円筒壁30と円形プレート54との間の管状空所28を閉じる。蓋18及び円形プレート54は、図示していないアクチュエータによって軸Zに沿って移動させて、基板42から離してもよい。
【0041】
変形例による装置10は、軸Zに沿って厚さが大きい単結晶SiCインゴット又は厚い層を形成することが可能である。実際に、単結晶SiCの成長速度と実質上等しい速度で蓋18を基板42から遠ざけることによって、形成された単結晶SiCの表面から基板を分離する距離は、ほぼ一定に維持することができる。得られた単結晶SiCのインゴット又は層は、軸Zに沿って50μmよりも大きな厚さに達することができる。蓋18が動くと、開口部52は広くなる傾向がある。出願人は、開口部52によって生じるガスの乱れが、ほんの僅かしか単結晶SiCの成長を妨げないことを示している。
【0042】
本発明の他の変形例によれば、昇華室は主要円筒壁によって形成され、補足的な円筒壁が滑動してもよい。主要円筒壁は両端で開いており、基板によって供給室から分離されている。補足的な円筒壁は一端部で開き、種を支持する蓋によって一端部を閉じられている。種と基板との間の距離は、補足的な壁の主要壁に対する滑動によって調節してもよい。本変形例は、昇華室中のガスの乱れを制限することが可能である。
【0043】
当然ながら、本発明は当業者であれば容易に想起するであろう様々な変更及び修正が可能である。具体的には、炉の形状と寸法は、得ようとする単結晶SiCインゴット又は厚い層に応じて適応するようにすべきである。更に、本発明に係る加熱装置は、SiC以外の単結晶化合物の形成にも使用してもよい。例えば、特に光電子用途に使用される窒化アルミニウムでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る単結晶SiCインゴット又は厚い層を製造する装置の切取図である。
【図2】図1の装置の変形例を示す切取図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非コングルエントな気相化を呈し、単結晶又は多結晶形態で存在する化合物を単結晶状態で形成する装置(10)において、
前記化合物の多結晶供給源が形成されるレベルに配された基板(42)及び前記化合物の単結晶種(46)を有する第1室(20)と、
第2室(14)とを備え、
前記基板は前記2室の間に配置されることを特徴とし、
前記基板に前記化合物を多結晶の形態で堆積させることのできる前記第2室に、前記化合物のガス前躯体を供給する手段(36)と、
前記基板を前記種の温度より高く維持して、前記多結晶供給源を昇華させ、前記化合物の種に単結晶形態で堆積させる加熱手段(26)とを具備する装置。
【請求項2】
前記化合物が炭化ケイ素であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1室(20)が、第1円筒壁(16)と、前記種(46)をそれに付着させる、少なくとも部分的に前記第1の壁の一端部を覆う蓋(18)と、少なくとも部分的に前記第1の壁の反対側の端部を覆う前記基板(42)とによって画定され、前記基板が透過性であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記第2室(14)が、基板(42)側の前記第1円筒壁(16)の延長上に配置された第2円筒壁(12)によって画定され、前記第1(16)及び第2(12)円筒壁が管(26)によって囲まれて、前記第1及び第2円筒壁で管状空所(28)を画定し、前記第2室(14)が前記管状空所に通じることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記第2室(14)中に存在するガスを排気するために、前記管状空所(28)内にガス流を発生させる手段(38、40)を備えることを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記加熱手段(26)が、前記管(26)を囲んで、A.C.電流を伝導して前記管だけに誘導電流を誘導する少なくとも1個の誘導螺旋体を備えることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記蓋(18)が、前記第1円筒壁(16)に関して、前記第1円筒壁の軸(Z)に沿って移動可能に組み立てられていることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項8】
非コングルエントな気相化を呈し、単結晶又は多結晶形態で存在する化合物を単結晶状態に形成する方法において、
同時的になされる、
第1(20)及び第2(14)室の間に配置された透過性基板(42)上に、前記第2室に供給する前記化合物のガス前躯体の化学気相反応によって、前記化合物の供給源を多結晶形態で形成するステップと、
前記供給源の一部の昇華によって前記第1室中にガス状化合物を形成するステップと、
前記第1室中に配置された種(46)に、ガス状化合物の凝縮によって前記化合物を単結晶形態で形成するステップとを備える方法。
【請求項9】
前記化合物が、炭化ケイ素であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記種(46)が、前記単結晶炭化ケイ素の形成とともに前記基板(42)から遠ざけられることを特徴とする請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−503781(P2006−503781A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−505415(P2004−505415)
【出願日】平成15年5月15日(2003.5.15)
【国際出願番号】PCT/FR2003/001480
【国際公開番号】WO2003/097905
【国際公開日】平成15年11月27日(2003.11.27)
【出願人】(500531141)セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク (84)
【出願人】(504416194)インスティチュート ナショナル ポリテクニック デ グレノーブル (4)
【出願人】(504416828)
【Fターム(参考)】