説明

単結晶育成装置

【課題】熱ロスを防止し、省エネ効果を得ることができ、かつ、安全性も確保できるCZ法単結晶育成装置を提供する。
【解決手段】原料融液5を収容するルツボ3と前記原料融液5を加熱するヒーター6とを格納するメインチャンバー2と、該メインチャンバー2の底部に設置され前記ルツボ3から漏れてきた融液17を収容する炭素材からなる湯漏れ受皿8を具備するチョクラルスキー法によって単結晶インゴットを製造する単結晶育成装置1であって、前記湯漏れ受皿8は、該湯漏れ受皿内に充填された複数個の受皿充填断熱材16を有し該受皿充填断熱材16の占める充填容積は、前記ルツボ3に収容された原料融液5の最大容量以上であり、前記受皿充填断熱材16のうち少なくとも湯漏れ融液17が落下する近傍の受皿充填断熱材16は、直径1cm以上10cm以下である球形状又は多面体形状であることを特徴とする単結晶育成装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法により単結晶棒を育成させる単結晶育成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体シリコン単結晶棒の製造に用いられる従来のチョクラルスキー法による単結晶育成装置の一例を図3により説明する。図3に示すように、単結晶育成装置101は、メインチャンバー102と、メインチャンバー102中に設けられたルツボ103と、ルツボ103の周囲に配置されたヒーター106と、ルツボ103を回転させるルツボ保持軸110及びその回転機構(不図示)と、シリコンの種結晶113を保持するシードチャック114と、シードチャック114を引上げるワイヤ115と、ワイヤ115を回転または巻き取る巻き取り機構(不図示)を備えて構成されている。ルツボ103は、その内側の原料融液105を収容する側には石英ルツボ103aが設けられ、その外側には黒鉛ルツボ103bが設けられている。また、ヒーター106の外側周囲にはヒーター断熱材107が設置され、ルツボ103の下方には断熱板104が配置されている。
【0003】
また、この単結晶育成装置101は、メインチャンバー102の底部に配置されルツボ103から漏れてきた融液を収容する湯漏れ受皿108を具備し、湯漏れ受皿108はその内壁に沿って配置された断熱材109を有する。
【0004】
さらに、図4に示すように、別の例として、湯漏れ融液117を吸収させるための厚い断熱材109’を有する単結晶育成装置101’も半導体シリコン単結晶棒の製造に用いられる。このような厚い断熱材109’を有する単結晶育成装置101’は、図3の単結晶育成装置101と比べて湯漏れ受皿からの熱ロスを防ぐことができ、省エネ効果が高いとされる。
【0005】
次に、上記の単結晶育成装置101、101’による単結晶育成方法について説明する。まず、ルツボ103内でシリコンの高純度多結晶原料をヒーター106により融点(約1420°C)以上に加熱して融解する。そして、ワイヤ115を巻き出すことにより融液105の表面の略中心部に種結晶113の先端を接触又は浸漬させる。その後、ルツボ保持軸110を適宜の方向に回転させるとともに、ワイヤ115を回転させながら巻き取り、種結晶113を引上げることにより、単結晶育成が開始される。以後、引上げ速度と温度を適切に調節することにより略円柱形状の単結晶棒112を得ることができる。
【0006】
上記した単結晶育成装置における石英ルツボおよび黒鉛ルツボは、共に高い耐熱性を有しているが、やや脆く、耐衝撃性に乏しいという欠点がある。そこで、単結晶引上げに際し、多結晶原料をルツボに投入すると、その衝撃によってルツボに亀裂が入ることがあり、そこから溶融液(湯)が漏れる恐れがある。また、多結晶原料投入時にルツボ内の湯がルツボの周囲に飛散することもある。さらに使用により徐々にルツボが劣化したり、地震等により引上げ中の単結晶が落下した場合には、ルツボが破壊されて湯のほぼ全量が流出したりしてしまうこともある。
【0007】
このように、高温の湯がルツボ外へ流出、飛散すると、ルツボの周りからメインチャンバーの底部に至り、メインチャンバー底部やヒーター用端子部あるいはルツボ保持軸等の金属部やルツボ駆動装置、下部冷却水配管等を侵食することになる。特に高温のシリコンは反応性が高く金属に対する侵食作用が強いため、安全対策が必要とされる。
【0008】
これに備えて特許文献1などでは等方性黒鉛材による湯漏れ受皿を設けている。湯漏れ受皿の内部には、漏れてきた融液を全量確保するための空間を設ける必要があるので、熱が漏れやすいという問題がある。
【0009】
そこで特許文献2では湯漏れ受皿内に炭素繊維成型材(断熱材)を貼り付けて熱ロスの低減を図りながら、湯漏れ容量の確保を行っている。しかし近年の大直径化に伴い湯量が多くなり、湯漏れ受皿容量も大きくなったので、この空間からの熱ロスが無視できず、省電力の観点からは問題があるといえる。
【0010】
この熱ロスを低減するには、湯漏れ受内に断熱材(CZ法などで用いられるのは低密度の炭素繊維材など)を置く事が有効である。実際に熱ロス低減が主目的ではないが特許文献3、特許文献4、特許文献5等で融液を吸収可能な浸透性カーボンや炭素繊維材等を充填する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−68886号公報
【特許文献2】WO2001/064976号公報
【特許文献3】特開平5−270967号公報
【特許文献4】特開2003−55090号公報
【特許文献5】特開2008−7334号公報
【特許文献6】特開2001−302387号公報
【特許文献7】特開2009−215126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、開示されたこれらの方法では断熱材等に融液全量を吸収させるため、充分な厚みが必要である。また熱ロス防止の観点からも断熱材は厚い方が好ましい。断熱材が厚い場合にはルツボ側に比べて湯漏れ受皿側の断熱材は低温になっている。このような低温部を有する断熱材においては、高温の融液が一挙に漏れれば断熱材下側の低温部まで融液が到達して、断熱材全体が融液を吸収できる可能性はある。しかしながら、多くの場合少量ずつある程度の時間をかけて湯が漏れていく。このような場合、厚い断熱材では、下に行くほど低温になっているので、融液が断熱材の繊維を伝って下に落ちていく途中で冷却され、断熱材の途中で固まってしまう。この場合、融液が固まった部分より下側の断熱材には融液が到達しなくなるため、湯漏れを吸収できない領域が発生することになる。
【0013】
従って、特許文献3、特許文献4、特許文献5などに例示される厚い断熱材の全てを湯漏れ受容量として見込むことは非常に危険である。またこのように、漏れた融液が断熱材の途中で止まってしまっては、湯漏れの発見が遅れてしまう。また、例え湯漏れを全量湯漏れ受皿内に受け取れたとしても、湯漏れが発生したという事実を早期に発見し、その対処を早めに開始することが望ましい。
【0014】
このような観点から特許文献6では湯漏れを検知するセンサーを導入し湯漏れを発見する技術が開示されている。また更に特許文献7ではルツボ下に導入されている断熱板に誘導路を設けて湯漏れをセンサーに導き湯漏れをより早く検知する技術が開示されている。しかしこれらの技術においては、下部の断熱構造が充分とは言えず、省電力の観点からは問題があるといえる。
【0015】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、メインチャンバーの底部に充分な断熱材を配して熱ロスを防止し、省エネ効果を得ることができ、かつ、漏れた融液は断熱材の表面に溜まったまま固化してしまうことなく、受皿充填断熱材同士の間の隙間を通って受皿充填断熱材に吸収させることができるため安全性も確保することができるCZ法単結晶育成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明では、原料融液を収容するルツボと前記原料融液を加熱するヒーターとを格納するメインチャンバーと、該メインチャンバーの底部に設置され前記ルツボから漏れてきた融液を収容する炭素材からなる湯漏れ受皿を具備するチョクラルスキー法によって単結晶インゴットを製造する単結晶育成装置であって、
前記湯漏れ受皿は、該湯漏れ受皿内に充填された複数個の受皿充填断熱材を有し、
該受皿充填断熱材の占める充填容積は、前記ルツボに収容された原料融液の最大容量以上であり、
前記受皿充填断熱材のうち少なくとも湯漏れ融液が落下する近傍の受皿充填断熱材は、直径1cm以上10cm以下である球形状又は多面体形状であることを特徴とする単結晶育成装置を提供する。
【0017】
このような受皿充填断熱材を湯漏れ融液が落下する近傍に配置する構造とすれば、表面が平面ではなく、受皿充填断熱材同士の間に隙間があるので、湯漏れ融液は受皿充填断熱材の表面に溜まったまま固化してしまうことなく、受皿充填断熱材同士の間の隙間を通って下方に流れ、底部にある受皿充填断熱材に吸収されることができ、湯漏れ受容量を確保することができる。また、分割されることで個々の受皿充填断熱材の重量が減少し、下に誘導した融液の浮力で浮く効果も期待でき、受皿充填断熱材が浮くことで湯漏れ受容量を確実に確保することができる。これにより、湯漏れ容量を充分確保した安全な状態のまま、受皿充填断熱材により熱ロスを低減でき、省電力化を図ることができるCZ法単結晶育成装置となる。
【0018】
また、このような受皿充填断熱材を用いれば、複雑な形状の湯漏れ受皿の形状に合わせて成型する必要がないので、受皿充填断熱材の成型コストを著しく安く抑えることも可能となる。さらに、実際に湯漏れが発生して、融液を吸収した受皿充填断熱材を交換する場合には、湯漏れ融液が浸透したもののみ交換し、その他のものは再度利用することが可能であり、この面でも低コスト化が可能である。
【0019】
また、前記湯漏れ受皿は、湯漏れを検知するセンサーを有することが好ましい。
【0020】
これにより、湯漏れ受皿の底へ到達する湯漏れ融液を確実に発見することができ、より安全性が確保される単結晶育成装置となる。
【0021】
さらに、前記ルツボと前記センサーとの間に、ルツボから漏れた湯漏れ融液をセンサーの位置に誘導する下部誘導部材を有することが好ましい。
【0022】
これにより、より確実に、より早く、湯漏れ融液を湯漏れ受皿底部に導入して湯漏れを検知するセンサーによる湯漏れを感知することができる単結晶育成装置となる。
【0023】
また、前記湯漏れ融液が落下する近傍の受皿充填断熱材は直径1cm以上5cm以下である球形状又は多面体形状であることが好ましい。
【0024】
受皿充填断熱材のサイズが5cm以下であれば、受皿充填断熱材同士で形成される隙間が大きくなりすぎず断熱効果に優れる。また、受皿充填断熱材のサイズが1cm以上であれば、受皿充填断熱材の個数が多くなりすぎ、またゴミなどの異物との区別が付きにくくなり、汚染の問題を引き起こすような事態を回避できる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明の単結晶育成装置であれば、受皿充填断熱材の表面が平面ではなく、受皿充填断熱材同士の間に隙間があるので、湯漏れ融液は受皿充填断熱材の表面に溜まったまま固化してしまうことなく、受皿充填断熱材同士の間の隙間を通って下方に流れ、底部にある受皿充填断熱材から吸収させることができ、湯漏れ受容量を確保することができる。また、分割により個々の受皿充填断熱材の重量が減少し、下に浸透した湯漏れ融液の浮力で浮く効果も期待でき、受皿充填断熱材が浮くことで湯漏れ受容量を確実に確保することができる。これにより、湯漏れ容量を充分確保した安全な状態のまま、受皿充填断熱材により熱ロスを低減でき、省電力化を図ることができるCZ法単結晶育成装置となる。
【0026】
また、このような受皿充填断熱材を用いれば、複雑な形状の湯漏れ受皿に合わせて成型する必要がないので、受皿充填断熱材の成型コストを安く抑えることも可能となる。さらに、実際に湯漏れが発生して、融液を吸収した受皿充填断熱材を交換する場合には、湯漏れ融液が浸透したもののみ交換し、その他のものは再度利用することが可能であり、この面でも低コスト化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のCZ法単結晶育成装置の第1の形態を示す図である。
【図2】本発明のCZ法単結晶育成装置の第2の形態を示す図である。
【図3】従来のCZ法単結晶育成装置の一例を示す図である。
【図4】従来のCZ法単結晶育成装置の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。前述の通り、熱ロスを防止し、省エネ効果を得ることができ、かつ、安全性も確保できるCZ法単結晶育成装置が望まれていた。まず、本発明に想到するための実験例について説明する。
【0029】
(実験例1:一体型の断熱材)
等方性黒鉛で作製したヒーター及びルツボを備えた、チョクラルスキー法を模した簡単な炉を用意した。そのルツボの下端には穴を開けておき、その中にシリコン原料を入れておいて原料が溶融すると湯漏れが発生するようにした。また、図4に示されるように、炉の下側には等方性黒鉛の湯漏れ受皿108内に炭素繊維からなる一体型の断熱材109’を配置して、ルツボ103の下に配置した。このとき断熱材の厚さは10cmとした。炭素繊維の断熱材はその嵩密度が0.1〜1.0g/cmのものがラインナップされているが、最も標準的なものは0.13〜0.16g/cmである。後述する実施例、比較例では全て嵩密度0.13〜0.16g/cmの炭素繊維断熱材を用いた。
【0030】
このヒーターに電力を供給し加熱を開始した。ルツボ内に入ったシリコン原料の一部が溶解し始めたのを確認し、5分程度経過した後、切電して冷却した。炉内が冷えた後、中から一体型の断熱材を取り出して観察した。その結果、この断熱材の表面から厚さ数cmまでシリコンが浸透しており、そこから下へのシリコンの浸透はなかった。また断熱材の表面には固まったシリコンが隆起していた。
【0031】
以上のことから湯漏れが少量ずつ漏れた場合には、一体型の断熱材の表面近傍でシリコンが固まってしまい、吸収しきれないシリコンが一体型の断熱材の表面に残ってしまうことが確認できた。従って、この状態が継続して大量の湯漏れに至った場合には、一体型の断熱材の上部しか湯漏れ受けとして機能せず、湯漏れ受皿から湯があふれ出す可能性があることがわかった。
【0032】
(実験例2:分割された断熱材)
一体型の断熱材の代わりに、湯漏れ受皿内を直径約3cmからなる概略球形状の炭素繊維の受皿充填断熱材で充填し、その高さが概略約10cmになるようにしたことを除いては、実験例1と同様のテストを行った。切電後、炉内の受皿充填断熱材を観察したところ、受皿充填断熱材の隙間を通して流れた融液は湯漏れ受皿の底部まで到達していた。
【0033】
このことから概略球形状である複数個の受皿充填断熱材を用いることにより、湯漏れ受皿内の受皿充填断熱材の表面で融液が溜まってしまい、湯漏れ受容量として働かないといった事態を避けられることが明らかとなった。
【0034】
本発明者らは、上記結果について検討したところ、受皿充填断熱材を一体型とするのではなく、湯漏れ受皿内の少なくとも湯漏れ融液が落下する近傍において、直径1cm以上10cm以下である球形状又は多面体形状の受皿充填断熱材を複数個充填し、その充填容積がルツボに収容された原料融液の最大容量以上とした湯漏れ受皿を具備する単結晶育成装置であれば、受皿充填断熱材により熱ロスを防止して、省エネ効果を得ることができ、かつ、湯漏れが発生した際の安全性も確保できる単結晶育成装置となることを見出して、本発明を完成させた。以下、より詳細に説明する。
【0035】
〔単結晶育成装置〕
本発明は、原料融液を収容するルツボと前記原料融液を加熱するヒーターとを格納するメインチャンバーと、該メインチャンバーの底部に設置され前記ルツボから漏れてきた融液を収容する炭素材からなる湯漏れ受皿を具備するチョクラルスキー法によって単結晶インゴットを製造する単結晶育成装置であって、
前記湯漏れ受皿は、該湯漏れ受皿内に充填された複数個の受皿充填断熱材を有し、
該受皿充填断熱材の占める充填容積は、前記ルツボに収容された原料融液の最大容量以上であり、
前記受皿充填断熱材のうち少なくとも湯漏れ融液が落下する近傍の受皿充填断熱材は、直径1cm以上10cm以下である球形状又は多面体形状であることを特徴とする単結晶育成装置である。
【0036】
図1に本発明のCZ法単結晶育成装置の第1の形態を示す。チョクラルスキー法によって単結晶インゴットを製造する単結晶育成装置1は、原料融液5を収容するルツボ3とそれを加熱するヒーター6とを格納するメインチャンバー2を具備する。このメインチャンバー2の底部にはルツボ3から漏れてくる湯漏れ融液17を収容する炭素材からなる湯漏れ受皿8が設置されており、万が一、湯漏れが発生した場合にもこの湯漏れ受皿8内に融液全量を収容できる容積を確保してある。この単結晶育成装置1内のルツボ3の下には主には熱ロスを防ぐために断熱板4が装備されている。
【0037】
図1に示したように、湯漏れ融液が落下する近傍16aの受皿充填断熱材16を球形状又は多面体形状とすると、湯漏れが発生した際には、断熱板4上に落下し更に湯漏れ受皿8に落下する融液17は、受皿充填断熱材16の隙間を通り抜けてメインチャンバー2の底部に配してある湯漏れ受皿8の底部に落下してそこに溜まっていく。受皿充填断熱材16は低密度の炭素繊維からなる材料が好ましく、溜まってきた融液17をその内部に吸収可能であり、湯漏れ受皿8の容積を減じるものではない。
【0038】
受皿充填断熱材16の充填された表面が平面でなく、受皿充填断熱材16同士の間に多数の隙間があるので、融液はすぐに下方に流下し、断熱材の表面に溜まったまま固化してしまうような事態を避けることができ、湯漏れ受皿の底部まで融液が到達することができる。これにより、受皿充填断熱材16の充填容積の全てを湯漏れ容積として見込むことが可能となる。これにより、湯漏れ容量を充分確保した安全な状態のまま、熱ロスを低減でき、省電力化を図ることができるCZ法単結晶育成装置1となる。
【0039】
なお、図1ではルツボ下に断熱板4を装着した場合を記載したが、本発明では断熱板は必ずしも必要ではなく、また、断熱板4ではなく下部ヒーターを設置する場合もある。また、湯漏れを早期に検出するために、湯漏れを検知するセンサー11を配置することが好ましい。さらに、湯漏れをより確実に早期に検出するために、ルツボ3とセンサー11との間に、ルツボ3から漏れた湯漏れ融液17をセンサー11の位置に誘導する下部誘導部材を有することが好ましい。ここで、本発明の第2の形態のCZ法単結晶育成装置1’として図2に示すように、下部誘導部材は、誘導構造4aを有する断熱板4や、誘導構造を有する下部ヒーター、受皿充填断熱材の中に設けることができる筒18とすることができる。
【0040】
尚、上記以外の構成については従来と同じとすることができる。例えば、ルツボ3を回転させるルツボ保持軸10及びその回転機構(不図示)と、シリコンの種結晶13を保持するシードチャック14と、シードチャック14を引上げるワイヤ15と、ワイヤ15を回転または巻き取る巻き取り機構(不図示)を備えて構成されることができる。また、ルツボ3は、その内側の原料融液5を収容する側には石英ルツボ3aが設けられ、その外側には黒鉛ルツボ3bが設けられている。さらに、ヒーター6の外側周囲にはヒーター断熱材7が設置されている。また、湯漏れ受皿の内壁に薄板状の受皿内壁断熱材を配置することもできる。以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0041】
〔受皿充填断熱材〕
本発明の単結晶育成装置は、湯漏れ受皿内に充填された複数個の受皿充填断熱材を有する。この受皿充填断熱材の占める充填容積は、ルツボに収容された原料融液の最大容量以上であり、受皿充填断熱材のうち少なくとも湯漏れ融液が落下する近傍の受皿充填断熱材は、直径1cm以上10cm以下である球形状又は多面体形状である。
【0042】
受皿充填断熱材が一体型で、その表面が平らになっている断熱材では、湯漏れが少量ずつ徐々に進行する場合、表面近傍で融液が固化してしまい、下側まで融液が到達しない。しかし、球形状又は多面体形状の複数の受皿充填断熱材の場合には、表面が平面とならず、受皿充填断熱材同士の間に多数の隙間があるので、融液はすばやく下方に流下して表面に溜まったまま固化してしまうことはない。そこで、少なくとも湯漏れ融液が落下する近傍には、このような受皿充填断熱材を配置することで、湯漏れ受容量を十分確保することが可能となる。当然ながら、湯漏れ受皿の全体にわたってこの形状の受皿充填断熱材を配置しても良い。
【0043】
また、このような球形状又は多面体形状の複数個の受皿充填断熱材で湯漏れ受皿を充填すれば、複雑な形状の湯漏れ受皿の形状に合わせて成型する必要がないので、受皿充填断熱材の成型コストを安く抑えることが可能である。
【0044】
さらに、実際に湯漏れが発生した場合には、融液を吸収した受皿充填断熱材を交換する必要がある。もちろん全量が湯漏れした場合には全交換になるものの、一般的には少量の湯漏れでおさまることがほとんどである。このような場合には、湯漏れ融液が落下する近傍の融液が浸透した受皿充填断熱材のみ交換し、その他の部分は再度利用することが可能であるので、受皿充填断熱材の交換コストを安く抑えることが可能である。
【0045】
また、直径1cm以上10cm以下である球形状又は多面体形状に分割されることにより、個々の受皿充填断熱材の重量が減少し、下に浸透した融液の浮力で受皿充填断熱材が浮く効果も期待できる。このように、受皿充填断熱材が浮くことで湯漏れ受容量を確実に確保することができる。そして、球形状、多面体形状の断熱材は表面積も大きいのですぐに融液を吸収することができる。
【0046】
受皿充填断熱材のサイズが直径10cmより大きい場合には、受皿充填断熱材同士で形成される隙間が大きくなってしまうので断熱効果が低下して熱ロスが発生し、省エネ効果が得られない。一方で、受皿充填断熱材のサイズが直径1cmより小さい場合には、湯漏れ受皿内に充填される受皿充填断熱材の個数が多くなりすぎ、またゴミなどの異物との区別が付きにくくなり、汚染の問題を引き起こす可能性がある。そのため、本発明の球形状又は多面体形状の受皿充填断熱材は直径1cm以上10cm以下のものとする。なお、多面体形状の直径とは、多面体形状に外接する球の直径を言う。
【0047】
ここで、用いる受皿充填断熱材の形状、サイズは、少なくとも湯漏れ融液が落下する近傍において直径1cm以上10cm以下の球形状又は多面体形状の受皿充填断熱材が用いられていれば、それ以外の部分もあわせて湯漏れ受皿内で全てが同じであっても良いし、異なる形状、サイズが混在していても良い。例えば、湯漏れ融液が落下する近傍の受皿充填断熱材を直径1cm以上10cm以下の複数個の受皿充填断熱材とし、湯漏れ融液が落下しないところの受皿充填断熱材は直径10cmより大きい断熱材で形成することも可能である。
【0048】
より好ましい受皿充填断熱材の形状、サイズは、直径1cm以上5cm以下の球形状又は多面体の受皿充填断熱材の形状である。模式図を図1、2に示した。球形状又は多面体形状であれば、湯漏れ融液が落下してくる部分が平らな平面状になっている可能性はほぼなく、融液が湯漏れ受皿の底部へと導入されやすい。また受皿充填断熱材のサイズが直径1cm以上5cm以下であれば、断熱材同士によって形成される隙間が小さくなるので断熱効果が期待できる上、取扱が容易である。単結晶育成後に行われる単結晶育成装置の清掃作業の際には、一度、受皿充填断熱材を除去し再び戻すなどの作業手順が考えられるが、このような場合に直径1cm以上5cm以下であれば市販の掃除機等を利用して受皿充填断熱材を回収し、戻す際には回収した受皿充填断熱材をそのまま撒けば敷き詰めることができるため、メンテナンスが容易となる。
【0049】
また、受皿充填断熱材は、ルツボから漏れてきた湯漏れ融液を吸収できる断熱材であり、低密度の炭素繊維からなる材料が好ましい。さらに、本発明において受皿充填断熱材の占める充填容積は、前記ルツボに収容された原料融液の最大容量以上とする。これにより、ルツボが劣化したり、地震等により引上げ中の単結晶が落下して、ルツボが破壊され原料融液のほぼ全量が流出したりしてしまう場合にも安全性が確保される。
【0050】
尚、最大容量とは、その装置に装備されるルツボの口径及び高さにより定まるもので、用いたルツボに充填可能な原料融液の最大容積のことである。通常はルツボに最初に充填される原料の量である初期チャージ量がこれにあたる。また、充填容積とは、受皿充填断熱材自体の容積と、受皿充填断熱材同士の間の隙間が占める容積を合わせたものをいう。
【0051】
〔湯漏れを検知するセンサー〕
前記湯漏れ受皿は、湯漏れを検知するセンサーを有することが好ましい。上記のような受皿充填断熱材の形状、サイズであれば、湯漏れが発生した際に早いうちに融液が湯漏れ受皿の底部まで到達することができる。そのため、図1、2に例を示したように、湯漏れを検知するセンサー11を湯漏れ受皿8に設置することで、湯漏れを早期に発見することが可能であり、湯漏れ後の対処を早期に実施することが可能となる。
【0052】
〔下部誘導部材〕
ルツボとセンサーとの間に、ルツボから漏れた湯漏れ融液をセンサーの位置に誘導する下部誘導部材を有することが好ましい。上述の湯漏れの早期発見と早期対処をより確実にするためには、原料融液を収容しているルツボから湯漏れを検知するセンサーまでの間に、湯漏れが発生した場合に融液が通過する通り道を形成するような下部誘導部材を設けることが好ましい。例として図2には、ルツボ3の下に主に熱ロス低減を目的として配されている断熱板4に誘導構造4aを設けて、下部誘導部材の一つとして、断熱板4上の所望の位置から融液を落下させ、湯漏れ受皿8内の受皿充填断熱材16の中にも筒状の下部誘導部材(筒18)を設けた形態が示されている。この筒状の下部誘導部材(筒18)の下端部は湯漏れ融液が流出可能なようになっている。このような形態によれば、より確実に、より早く、湯漏れ融液を湯漏れ受皿底部に導入でき、かつ湯漏れを検知するセンサーによる湯漏れを感知できる単結晶育成装置となる。
【0053】
このような下部誘導部材がある場合においても、湯漏れ融液が落下する近傍に受皿充填断熱材を複数個配置しておけば、実際に湯漏れが発生した場合に湯漏れを吸収した部分のみ交換可能であり、交換コストを低減することが可能となる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施例および比較例をあげてさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例)
図1に示すように、直径3cmである球形状の受皿充填断熱材で充填された湯漏れ受皿を備えた単結晶育成装置を準備した。受皿充填断熱材の充填容積は、ルツボに収容された原料融液の最大容量以上の容積を有するものとし、本実施例では受皿充填断熱材を積み上げた高さがおおよそ15cmになるようにした。また、受皿充填断熱材としては0.13〜0.16g/cmの最も標準的な嵩密度のものを使用した。
【0056】
この単結晶育成装置のメインチャンバー内に直径65cmのルツボに200kgの原料融液を収容し、磁場印加チョクラルスキー法(MCZ法)により直径20cmのシリコン単結晶を育成した。より詳細には、ルツボ中の原料融液に種結晶を浸漬した後、溶融液から棒状の単結晶を引き上げながら、結晶成長軸方向に昇降可能なルツボを結晶成長中に結晶化して減少した融液の液面下降分を補うように上昇させ、融液表面の高さを一定に保ちながら行った。このときの受皿充填断熱材の充填容積は、200kgのシリコンの固体の容積の1.2倍であった。
【0057】
(比較例1)
図3に示すように、断熱板と湯漏れ受皿とを備えた単結晶育成装置を準備した。ここで、湯漏れ受皿は内壁に配置される平面状の断熱材を有し、球形状又は多面体形状の受皿充填断熱材を有さないものとした。なお、平面状の断熱材の厚さは約2〜3cmとした。
【0058】
この単結晶育成装置のメインチャンバー内に直径65cmのルツボを装備して、実施例と同様に磁場印加チョクラルスキー法(MCZ法)により直径20cmのシリコン単結晶を育成した。
【0059】
(比較例2)
図4に示すように、湯漏れ受皿が厚さ15cmの一体型の断熱材を有するものとした以外は比較例1と同様の構成の単結晶育成装置を準備した。これを用いて実施例と同様にシリコン単結晶を育成した。
【0060】
実施例の単結晶育成装置でも比較例1、2の単結晶育成装置でも問題なく結晶を育成することができたが、比較例1では厚い受皿充填断熱材がないため湯漏れ受皿からの熱ロスが大きかった。これに比べ、実施例では、ルツボに収容された原料融液の最大容量以上の充填容積を有する受皿充填断熱材により湯漏れ受皿からの熱ロスを防止することができるため、比較例1と比較して約8%の省電力を達成することができた。
【0061】
また、比較例2では、省エネ効果は実施例と同程度であったが、実験例1で示されたように、この一体型の断熱材を用いた場合には湯漏れが発生した場合に、湯漏れ容量が不足する可能性がある。これに比べ、本発明の実施例では万が一湯漏れが発生しても、融液が湯漏れ受皿底部まで到達可能であり、湯漏れ受容量を充分確保することができるので、安全性が確保された単結晶育成装置となる。さらに、比較例2と実施例を比較すると受皿充填断熱材の成型コストや湯漏れが生じた場合の受皿充填断熱材の交換コストの点で本発明の実施例が有利となる。
【0062】
ここではシリコン結晶育成を例に説明を行ったが、本発明はシリコン単結晶の製造に用いられる単結晶育成装置に限られるものではなく、化合物半導体や酸化物単結晶などのCZ法を用いた単結晶育成装置に適用可能である。
【0063】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0064】
1,1’…単結晶育成装置、 2…メインチャンバー、 3…ルツボ、 3a…石英ルツボ、 3b…黒鉛ルツボ、 4…断熱板、 4a…誘導構造、 5…原料融液、 6…ヒーター、 7…ヒーター断熱材、 8…湯漏れ受皿、 10…ルツボ保持軸、 11…湯漏れを検知するセンサー、 12…シリコン単結晶、 13…種結晶、 14…シードチャック、 15…ワイヤ、 16…受皿充填断熱材、 16a…湯漏れ融液が落下する近傍、 17…湯漏れ融液、 18…筒、 101,101’…単結晶育成装置、 102…メインチャンバー、 103…ルツボ、 103a…石英ルツボ、 103b…黒鉛ルツボ、 104…断熱板、 105…原料融液、 106…ヒーター、 107…ヒーター断熱材、 108…湯漏れ受皿、 109,109’…断熱材、 110…ルツボ保持軸、 112…シリコン単結晶、 113…シリコンの種結晶、 114…シードチャック、 115…ワイヤ、 117…湯漏れ融液



【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料融液を収容するルツボと前記原料融液を加熱するヒーターとを格納するメインチャンバーと、該メインチャンバーの底部に設置され前記ルツボから漏れてきた融液を収容する炭素材からなる湯漏れ受皿を具備するチョクラルスキー法によって単結晶インゴットを製造する単結晶育成装置であって、
前記湯漏れ受皿は、該湯漏れ受皿内に充填された複数個の受皿充填断熱材を有し、
該受皿充填断熱材の占める充填容積は、前記ルツボに収容された原料融液の最大容量以上であり、
前記受皿充填断熱材のうち少なくとも湯漏れ融液が落下する近傍の受皿充填断熱材は、直径1cm以上10cm以下である球形状又は多面体形状であることを特徴とする単結晶育成装置。
【請求項2】
前記湯漏れ受皿は、湯漏れを検知するセンサーを有することを特徴とする請求項1に記載の単結晶育成装置。
【請求項3】
前記ルツボと前記センサーとの間に、前記ルツボから漏れた湯漏れ融液を前記センサーの位置に誘導する下部誘導部材を有することを特徴とする請求項2に記載の単結晶育成装置。
【請求項4】
前記湯漏れ融液が落下する近傍の受皿充填断熱材は直径1cm以上5cm以下である球形状又は多面体形状であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の単結晶育成装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−18685(P2013−18685A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154696(P2011−154696)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】