説明

単3形アルカリ乾電池

【課題】高容量且つ高出力な単3形アルカリ乾電池を連続的に高負荷放電させると、その放電末期において電圧が低下する虞があった。
【解決手段】単3形アルカリ乾電池は、正極と、負極と、セパレータと、アルカリ電解液とを備えている。負極には、活物質として4.0g以上の亜鉛と、亜鉛の重量に対して50ppm以上1000ppm以下のインジウム化合物とが含まれており、亜鉛には、200メッシュ以下の亜鉛粒子が亜鉛の重量に対して20重量%以上50重量%以下となるように含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単3形アルカリ乾電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ乾電池では、その構造上の理由から水素ガスが発生する虞があり、水素ガスが発生すると内圧が上昇して危険な状態に陥るので、水素ガスが発生しないように、または、水素ガスが発生してもアルカリ乾電池の安全性を確保できるように工夫されている。
【0003】
詳細には、アルカリ乾電池では、負極活物質として亜鉛を用い、電解液として強アルカリ液を用いており、電解液は負極に接触している。そのため、亜鉛の表面がアルカリ電解液に腐食されて水素ガスが発生する。アルカリ乾電池は密閉されているので、アルカリ乾電池内で水素ガスが発生するとアルカリ乾電池内の気圧が上昇し、アルカリ乾電池が危険な状態に陥ってしまう。そこで、アルカリ乾電池では、以前では負極に水銀を加えて水素ガスの発生を抑制していたが、水銀による環境破壊などの問題から水銀の代わりにインジウムなどを用いて水素ガスの発生を抑制している(特許文献1参照)。また、特許文献2では、インジウム化合物とフッ素系界面活性剤とを用いて、アルカリ電解液による負極の腐食を抑制している。
【0004】
ところで、最近、単3形アルカリ乾電池には、高容量化、高出力化および低コスト化が要求されている。単3形アルカリ乾電池における活物質の充填量を増加させると高容量化を図ることができる。しかし、単3形アルカリ乾電池では、正極は筒状に形成され、負極は柱状に形成され、セパレータを挟むようにして正極の筒内部に負極が収容されているので、ハイレート放電を行った場合には、セパレータの周囲に存在する亜鉛のみが電池反応に寄与する。そのため、単3形アルカリ乾電池では、負極の充填量を増加させても負極の表面積を大きくすることは難しく、言い換えると、負極の充填量を増加させることだけで単3形アルカリ乾電池の高出力化を図ることは難しい。
【0005】
そこで、特許文献3では、負極活物質として亜鉛の微粉末を用いており、これにより、負極活物質の表面積を大きくしてアルカリ乾電池のパルス特性の向上を図る点が開示されている。
【特許文献1】特開昭51−36450号公報
【特許文献2】特開平2−267856号公報
【特許文献3】特表2001−512284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、負極活物質として亜鉛の微粉末を用いて単3形アルカリ乾電池を製造すると、その単3形アルカリ乾電池を連続的に高負荷放電させた場合の放電末期において電圧が低下することがわかった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高容量かつ高出力な単3形アルカリ乾電池を連続的に高負荷放電させた場合の放電末期における電圧の低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる単3形アルカリ乾電池は、正極と、負極と、セパレータと、アルカリ電解液とを備えている。負極には、4.0g以上の亜鉛と、亜鉛の重量に対して50ppm以上1000ppm以下のインジウム化合物とが含まれており、亜鉛には、200メッシュ以下の亜鉛粒子が亜鉛の重量に対して20重量%以上50重量%以下となるように含まれている。
【0009】
上記構成では、亜鉛の重量が従来の単3形アルカリ乾電池に比べて多いので、単3形アルカリ乾電池の高容量化を図ることができる。
【0010】
また、上記構成では、負極の表面積を大きくすることができるので、単3形アルカリ乾電池の高出力化を図ることができる。言い換えると、負極の表面積を大きくすることができるので、単3形アルカリ乾電池を間欠的に高負荷放電させた場合の放電特性(高負荷放電におけるパルス特性)を向上させることができる。
【0011】
さらに、上記構成では、負極ではインジウム化合物がインジウム金属となって亜鉛粒子同士を電気的に接合するので、負極の導電網(負極において亜鉛粒子同士が互いに電気的に接続されて形成されたもの)における亜鉛粒子間の電気的な接続の度合いを良好にすることができる。よって、高負荷放電を連続して行った場合の放電末期における電圧の低下を抑制することができる。
【0012】
本発明にかかる単3形アルカリ乾電池では、アルカリ電解液には、平均分子量が100以上500以下であるリン酸系の界面活性剤が、亜鉛の重量に対して300ppm以上3000ppm以下含まれていることが好ましい。このような構成により、水素ガスの発生を抑制することができるので、アルカリ電解液の漏れを抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高容量且つ高出力な単3形アルカリ乾電池を連続的に高負荷放電させた場合の放電末期における電圧特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施形態を説明する前に、本願を完成させるに至った経緯を示す。
【0015】
上述のように、近年では、単3形アルカリ乾電池の高容量化および高出力化が要求されている。そのため、本願発明者らは、特許文献3等に記載されているように負極活物質として粒径の小さな亜鉛粒子を用いて単3形アルカリ乾電池を製造し、その製造した単3形アルカリ乾電池を連続的に高負荷放電させてその電圧特性を調べた。すると、放電末期において電圧の低下が確認された。本願発明者らは、この結果に対して以下のように考えた。
【0016】
アルカリ乾電池で用いるゲル状の負極は、ポリアクリル酸等の造粘剤によってゲル化した電解液中に亜鉛粒子を浮遊させることにより、そのゲル化した電解液中に亜鉛粒子を分散させたものである。亜鉛粒子(バルク)そのものは、良導体である。従って、ゲル状の負極は、導電補助剤の添加により負極としての機能を発現しているのではなく、ゲル化した電解液中において亜鉛粒子同士が部分的に接触することにより一種の導電網が形成され、その結果、負極としての機能を発現している。
【0017】
ゲル状の負極において粒径の小さな亜鉛粒子の含有量が多ければ、亜鉛粒子が電解液に触れる面積(全表面積)は大きくなり、亜鉛粒子全体の瞬間的な反応性且つ反応量が放電特性に大きな影響を与える高負荷パルス放電(間欠的に高負荷放電を行うこと)には有利である。その反面、このようなゲル状の負極では、亜鉛粒子同士が互いに接触することなく存在するので、導電網における亜鉛粒子間の電気的な接続の度合いが微弱となる。そのため、このようなゲル状の負極を用いて単3形アルカリ乾電池を製造しその単3形アルカリ乾電池を連続的に高負荷放電させると、その放電末期では、蓄積されたZnO(ZnOは反応生成物であり、不導体である)が負極の導電網を破壊する虞があり、電圧低下を招来するという課題が生じてしまう。そこで、本願発明者らは、亜鉛粒子が電解液に触れる面積(全表面積)を大きく保ちつつ、且つ、高負荷放電を連続して行った場合の放電末期であっても負極の導電網が破壊されることのないように負極の構成を工夫し、本願発明を完成させた。以下では、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施の形態として一般的なアルカリ乾電池の構成を示す断面図である。
【0019】
アルカリ乾電池は、図1に示すように、一端(図1における下端)が封じられた筒状の電池ケース1を備えており、電池ケース1の外周面には外装ラベル8が被覆されている。電池ケース1は正極端子と正極集電体とを兼ねており、電池ケース1には中空円筒状の正極2が内接している。正極2の中空部にはセパレータ4が設けられており、セパレータ4は一端が封じられた筒状に形成されており、セパレータ4の中空部には負極3が設けられている。以上より、電池ケース1では、周縁から中心に向かうに従って、正極2、セパレータ4および負極3の順に配置されている。
【0020】
電池ケース1の開口(図1における上端)は、組立封口体9により封じられている。組立封口体9は、釘型の負極集電子6と負極端子板7と樹脂封口体5とが一体化されたものであり、負極端子板7は負極集電子6に電気的に接続されており、樹脂封口体5は負極集電子6および負極端子板7に接続されている。アルカリ乾電池を製造する際には、まず正極2および負極3等の発電要素を電池ケース1内に収容し、次に組立封口体5を用いて電池ケース1の開口を封じる。
【0021】
正極2、負極3およびセパレータ4には、アルカリ電解液(不図示)が含まれている。アルカリ電解液としては、水酸化カリウムを30〜40重量%含有し酸化亜鉛を1〜3重量%含有する水溶液が用いられる。
【0022】
以下では、正極2、負極3、セパレータ4、電池ケース1、樹脂封口体5、負極集電子6および負極端子板7の組成などを順に説明する。
【0023】
正極2には、例えば、電解二酸化マンガンの粉末などの正極活物質、黒鉛粉末などの導電剤、およびアルカリ電解液の混合物が含まれている。また適宜、ポリエチレン粉末等の結着剤またはステアリン酸塩等の滑沢剤が正極2に添加されていても差し支えない。
【0024】
負極3としては、例えば、アルカリ電解液にポリアクリル酸等のゲル化剤を添加してゲル状に加工し、そのゲル状の物質に亜鉛粒子(負極活物質)を分散させたものが用いられる。
【0025】
ここで、負極活物質としては、耐食性に優れた亜鉛合金を用いるのが好ましく、さらには環境に配慮して水銀、カドミウムおよび鉛が無添加な亜鉛合金を用いることが好ましい。上記亜鉛合金としては、例えばインジウム、アルミニウムおよびビスマスの少なくともいずれか一つを含む亜鉛合金を挙げることができる。また、亜鉛デンドライトの発生を抑制するためには、微量のケイ酸またはその塩などのケイ素化合物を負極3に適宜添加するとよい。なお、負極3については、以下においても詳述する。
【0026】
セパレータ4としては、例えば、ポリビニルアルコール繊維およびレーヨン繊維を主体として混抄した不織布が用いられる。セパレータ4は、例えば、特開平6−163024号公報または特開2006−32320号公報に記載の公知の方法により得られる。
【0027】
電池ケース1は、例えば、ニッケルがめっきされた鋼板を用いて特開昭60−180058号公報または特開平11−144690号公報等に記載の公知の方法を用いて所定の寸法および形状にプレス成形して得られる。
【0028】
樹脂封口体5の中央には負極集電子6を圧入する貫通孔(不図示)が設けられており、貫通孔の周囲には安全弁として機能する環状の薄肉部(不図示)が設けられており、環状の薄肉部の外周には外周縁部(不図示)が連続して形成されている。樹脂封口体5は、例えば、ナイロンまたはポリプロピレンなどを所定の寸法および形状に射出成形して得られる。
【0029】
負極集電子6は、銀、銅または真鍮等の線材を所定の寸法の釘型にプレス加工して得られる。なお、加工時の不純物の排除と隠蔽効果とを得るためには、負極集電子6の表面には、スズまたはインジウム等のメッキを施すことが好ましい。
【0030】
負極端子板7には、電池ケース1の開口を封じる端子部(不図示)と、端子部(不図示)から延びており樹脂封口体5に接触する周縁鍔部とが設けられている。その周縁鍔部には樹脂封口体5の安全弁が作動した際の圧力を逃がすガス孔(不図示)が複数個設けてある。負極端子板7は、例えば、ニッケルがめっきされた鋼板またはスズがめっきされた鋼板などを所定の寸法および形状にプレス成形して得られる。
【0031】
従来の単3形アルカリ乾電池における負極と比較しながら、本実施形態における負極3を説明する。
【0032】
本実施形態における負極3には、従来の単3形アルカリ乾電池における負極と同じく活物質として亜鉛が含まれているが、従来の単3形アルカリ乾電池よりも多量の亜鉛が含まれている。具体的には、従来の単3形アルカリ乾電池には約3.8gの亜鉛が含まれているが、本実施形態にかかる単3形アルカリ乾電池には4.0g以上の亜鉛が含まれている。このように、本実施形態にかかる単3形アルカリ乾電池では、従来の単3形アルカリ乾電池に比べて多くの亜鉛が含まれているので、高容量化を図ることができる。
【0033】
負極3には、粒径が小さな亜鉛粒子(具体的には、200メッシュ以下の亜鉛粒子)が含まれている。このように粒径が小さな亜鉛粒子が含まれていると、粒径が小さな亜鉛粒子が含まれていない場合に比べて負極3の表面積を大きくすることができ、その結果、単3形アルカリ乾電池の高負荷放電におけるパルス特性を向上させることができる。
【0034】
単3形アルカリ乾電池の高負荷放電におけるパルス特性の向上(高出力化)を図るためには、粒径が小さな亜鉛粒子の含有量は多い方が好ましい。しかし、その含有量が多くなりすぎると、製造時に負極3を電池ケース1に充填するのが困難になる。単3形アルカリ乾電池の高負荷放電におけるパルス特性の向上を図るとともに単3形アルカリ乾電池を容易に製造するためには、粒径が小さな亜鉛粒子の含有量は亜鉛の全重量に対して20重量%以上50重量%以下であることが好ましい。
【0035】
このように負極活物質として粒径が小さな亜鉛粒子を用いると、負極3の導電網における亜鉛粒子間の電気的な接続の度合いが微弱となるので、高負荷放電を連続して行った場合の放電末期における電圧の低下を招来する。しかし、本実施形態では、負極3にインジウム化合物(インジウムの酸化物またはインジウムの水酸化物など)を亜鉛粒子とは別に添加しているので、上記放電末期においても、負極3の導電網における亜鉛粒子間の電気的な接続の度合いを良好に維持することができる。言い換えると、負極3にインジウム化合物を亜鉛粒子とは別に添加すれば、高負荷放電を連続した行った場合の放電末期において、ZnOが負極3の導電網を破壊することを抑制することができる。以下、具体的に示す。
【0036】
負極3には、アルカリ電解液が保持されている。アルカリ電解液は強アルカリ液であるので、負極3に添加されたインジウム化合物はイオンとなってアルカリ電解液に溶解する。インジウムは亜鉛の平衡電位下において金属(固体)として存在できるので、溶融したインジウムイオンは亜鉛粒子の表面に金属となって再析出する。負極3では亜鉛粒子同士は互いに近くに存在しているので、インジウムは亜鉛粒子同士を接合するように亜鉛粒子の表面に再析出する。これにより、負極3の導電網における亜鉛粒子間の電気的な接続の度合いを強めることができるので、高負荷放電を連続して行った場合の放電末期において負極3の導電網が破壊されることを抑制することができる。
【0037】
このように負極3の導電網における亜鉛粒子間の電気的な接続の度合いを強めるために負極3に添加する金属化合物としては、その化合物がアルカリ溶液にイオンとして溶解し、且つ、その化合物の金属が亜鉛の平衡電位下において金属として再析出するものであればよい。本願発明者らが検討した範囲内では、上記2つの条件を満たす金属化合物はインジウム化合物であったので、負極3にインジウム化合物を添加することが好ましい。
【0038】
インジウム化合物の含有量が多くなると、亜鉛粒子同士の接合の度合いを高めることができるので、負極3の導電網において亜鉛粒子間の電気的な接続の度合いを強めることができる。しかし、その含有量が多すぎると、負極3における亜鉛の含有量が減少してしまうので単3形アルカリ乾電池の高容量化が困難となり、また、インジウム化合物は高価であるので単3形アルカリ乾電池のコストが高くなってしまうので、好ましくない。負極3の導電網において亜鉛粒子間の電気的な接続の度合いを弱めることなく、単3形アルカリ乾電池の高容量化を図ることができるとともにそのコストを低く抑えるためには、亜鉛の重量に対して50ppm以上1000ppm以下のインジウム化合物が含まれていることが好ましく、さらに好ましくは、100ppm以上600ppm以下のインジウム化合物が含まれていることが好ましい。
【0039】
以上より、本実施形態における負極3では、インジウム化合物を含んでいない負極に比べて負極3の導電網における亜鉛粒子間の電気的な接続の度合いを強くすることができ、その結果、単3形アルカリ乾電池を連続的に高負荷放電させた場合の放電末期における電圧の低下などの不具合を抑制することができる。
【0040】
さらに、インジウムが亜鉛粒子の表面に析出するので、アルカリ電解液による亜鉛の腐食を抑制することができ、水素ガスの発生を抑制することができる。その結果、単3形アルカリ乾電池の内圧が上昇することを抑制できるので、安全弁の開放によるアルカリ電解液の漏れを抑制することができる。
【0041】
アルカリ電解液の漏れを抑制するためには、負極3にインジウム化合物を添加するだけでもよいが、アルカリ電解液にリン酸系の界面活性剤を混入させればさらに好ましい。負極3にインジウム化合物が添加されており、且つ、アルカリ電解液にリン酸系の界面活性剤が含まれていると、負極3に鉄などの不純物が含まれている場合であってもその不純物の混入に起因するアルカリ電解液の漏れを抑制することができる。その理由として、本願発明者らは、以下に示すように考えている。
【0042】
アルカリ乾電池の負極のように強アルカリな電解液中では、金属表面にOHが捕捉されるので、亜鉛表面の電荷はマイナスとなる。リン酸系の界面活性剤の親水性部分は負電荷を帯びているので、リン酸系の界面活性剤の親水性部分と亜鉛との間には静電的な反発力が生じる。しかし、強アルカリ電解液におけるリン酸系の界面活性剤の溶解度は中性水溶液におけるリン酸系の界面活性剤の溶解度に比べて非常に小さいため、強アルカリ電解液に溶解できないリン酸系の界面活性剤は、強アルカリ電解液の外へ追い出され、強アルカリな電解液と亜鉛(金属)との界面に配列することとなる。ここで、アルカリ下では、亜鉛および鉄よりもインジウムの方がマイナスに帯電する度合いが強いので、インジウムの表面に相対的に多くの界面活性剤が集まると考えられる。言い換えると、アルカリ下では、界面活性剤の皮膜はインジウムの表面に最も多く形成される。また、平衡電位の大きさの大小関係からインジウムは亜鉛の表面よりも鉄の表面に析出しやすいと考えられるので、鉄の表面にはインジウムが析出する。このように界面活性剤の皮膜がインジウムの表面に形成され、且つ、インジウムが鉄の表面に析出するので、鉄の表面には析出したインジウムと界面活性剤の皮膜とが順に形成される。これにより、水分子が鉄の表面へ接近することを妨害することができるので、鉄混入に起因する水素ガスの発生を抑制することができる。よって、アルカリ電解液の液漏れを抑制することができる。
【0043】
このようなリン酸系の界面活性剤としては、特にその平均分子量が100以上500以下であることが好ましく、そのリン酸系の界面活性剤の含有率としては亜鉛の重量の300ppm以上3000ppm以下であることが好ましい。ここで、リン酸系の界面活性剤は、例えばROPONaまたはROPOなどの2価のアニオンであっても良いし、(RO)PONaまたは(RO)POKなどの1価のアニオンであっても良い。なお、Rはアルキル基である。また、リン酸系の界面活性剤のカウンターカチオンとしては、H、KまたはNaなどのいずれを用いても構わない。また、リン酸系の界面活性剤としてはR(CHCHO)PONaなどのように、部分的にエチレンオキサイド構造((CHCHO))を含んだ構造であっても構わない。
【0044】
なお、インジウム化合物と界面活性剤とをアルカリ電解液に共存させることは公知であるが(例えば特許文献2)、本実施形態では公知のアルカリ乾電池に比べて低分子量のリン酸系の界面活性剤を大量に用いている。これにより、高負荷パルス放電において電圧を低下させることなく、不純物(鉄)の混入に起因するアルカリ電解液の漏れを効果的に抑制することができる。本願発明者らは、低分子量のリン酸系の界面活性剤をアルカリ電解液に添加すれば間欠的に高負荷放電を行った行った場合の電圧低下を抑制できる理由として、以下に示すことを考えている。すなわち、本願発明者らは、界面活性剤が低分子量であれば、放電時の亜鉛表面付近での電場の変化によって界面活性剤の配列が瞬時に崩れるため、放電反応に必要な亜鉛へのOHイオンの供給または亜鉛酸イオンの拡散を界面活性剤が阻害しないからではないか、と考えている。
【0045】
以上説明したように、本実施形態にかかる単3形アルカリ乾電池では、従来の単3形アルカリ乾電池に比べて高容量化および高負荷放電におけるパルス特性の向上を図ることができる。さらには、本実施形態にかかる単3形アルカリ乾電池では、負極3の導電網における亜鉛粒子間の電気的な接続の度合いを強めることができるので、高負荷放電を連続して行った場合の放電末期における電圧の低下を抑制することができる。その上、負極3では、亜鉛粒子の表面にインジウムが設けられるので、アルカリ電解液による亜鉛の腐食を抑制することができ、その結果、アルカリ電解液の漏れを抑制することができる。
【0046】
なお、本実施形態においては、詳細を省略しているが、負極活物質の量が従来の単3形アルカリ乾電池における負極活物質の量よりも多いので、その増加に合わせて正極活物質量も増加させることが好ましい。
【実施例】
【0047】
本発明の実施例を以下に示す。本実施例では、以下に示す方法に従って単3形アルカリ乾電池を製造した後、製造したアルカリ乾電池の放電特性を評価し、また、ガス発生速度を測定した。
(実施例の単3形アルカリ乾電池)
まず、亜鉛の重量に対して0.005重量%のAl、0.005重量%のBiおよび0.020重量%のInを含有する亜鉛合金の粒子を、ガスアトマイズ法によって作製した。その後、篩を用いて、作製した亜鉛合金の粒子を分級させた。この分級により、70〜300メッシュの粒度範囲を有し、且つ、200メッシュ(75μm)以下の粒径を有する亜鉛合金の粒子の比率が30%である負極活物質を得た。
【0048】
次に、34.5重量%の水酸化カリウム水溶液(ZnOを2重量%含む)の100重量部に対して、合計重量が2.2重量部となるようにポリアクリル酸とポリアクリル酸ナトリウムとを加えて混合し、ゲル化させた。これにより、ゲル状の電解液を得た。その後、得られたゲル状の電解液を24時間静置して十分に熟成させた。
【0049】
その後、上記で得たゲル状の電解液に、そのゲル状の電解液の所定量に対して重量比で2.00倍の上記亜鉛合金の粒子と、その亜鉛合金の粒子100重量部に対して水酸化インジウム0.05重量部((株)高南無機製、平均粒子径(D50)が1.8μmである粉末,金属インジウムとして0.033重量部)と、リン酸系の界面活性剤(平均分子量が約210のアルコールリン酸エステルナトリウム)0.1重量部を加えて十分に混合した。これにより、ゲル状の負極を得た。
【0050】
続いて、電解二酸化マンガン(東ソー(株)製 HHTF(品番))および黒鉛(日本黒鉛工業(株)製 SP−20(品番))を重量比94:6の割合で配合し、混合粉を得た。そして、この混合粉100重量部に対し電解液(39重量%の水酸化カリウム水溶液(ZnOを2重量%含む))1.5重量部とポリエチレンバインダー0.2重量部とを混合した後、ミキサーで均一に撹拌且つ混合して一定の粒度に整粒し、得られた粒状物を加圧して中空円筒型に成形した。このようにして、ペレット状の正極合剤を得た。
【0051】
それから、評価用の単3形アルカリ乾電池の作製を行った。具体的には、図1に示すように、電池ケース1の内部に、上記で得られたペレット状の正極合剤(1個の重量が5.15g)を2個挿入し、電池ケース1内で再加圧することによって電池ケース1の内面に密着させた。そして、このペレット状の正極合剤の内側にセパレータ4と電池ケース1の底部を絶縁するための底紙とを挿入した後、電解液(34.5重量%の水酸化カリウム水溶液(ZnOを2重量%含む))を1.5g注液した。注液後、セパレータ4の内側にゲル状の負極3を6.2g(亜鉛合金の粒子の重量は4.1g)充填した。その後、樹脂封口体5、負極端子板7および負極集電子6が一体化された組立封口体9を用いて電池ケース1の開口を封じた。具体的には、負極集電子6を負極3に差し込み、樹脂封口体5の外周縁部を介して電池ケース1の開口の縁に負極端子板7の周縁鍔部をかしめつけて負極端子板7を電池ケース1の開口に密着させた。そして、電池ケース1の外表面に外装ラベル8を被覆し、実施例の単3形アルカリ乾電池を作製した。
【0052】
ここで、樹脂封口体5としては、6,6−ナイロンを材料として作製した。負極集電子6としては、真鍮線にSnがめっきされたものを用いた。セパレータ4としては、クラレ(株)製のアルカリ乾電池用セパレータ(ビニロンとテンセル(登録商標)とからなる複合繊維)を用いた。
(比較例の単3形アルカリ乾電池の製造方法)
負極の作製に際して水酸化インジウムの添加を行わないこと以外はすべて実施例の単3形アルカリ乾電池の製造方法と同様として、比較用の単3形アルカリ乾電池を作製した。この比較例の単3形アルカリ乾電池に対しても、実施例の単3形アルカリ乾電池と同様に放電特性を評価した。
(放電特性の評価方法)
実施例の電池および比較例の電池に関して、以下に記す放電特性の評価を行った。
(1)高負荷パルス放電(高負荷放電を間欠的に行った場合)の放電特性
電池1セルに対して20℃の雰囲気下で1.5Wで2秒間放電した後0.65Wで28秒間放電する工程を繰り返すというパルス放電を、1時間あたり10サイクル行った。そして、閉路電圧が1.05Vに達するまでのパルス数を調べた。なお、この評価方法は、ANSI C18.1Mに定められた放電試験の方法を準用している。
(2)高負荷連続放電(高負荷放電を連続して行った場合)の放電特性
電池1セルに対して、20℃の雰囲気下で1Wで0.7Vまで連続放電させた。そして、実際の機器の動作電圧を考慮して、放電開始から閉路電圧が0.9V(終始電圧)に到達するまでの時間を放電時間として求めた。同様に、20℃の雰囲気下で1.2Wで連続放電させた場合、および、0℃(低温)の雰囲気下で1Wで連続放電させた場合のそれぞれにおいて、0.9Vに到達するまでの放電時間を求めた。
【0053】
得られた放電特性の結果を表1に示す。なお、新品電池3個に対して各放電特性を調べ、その平均値を表1に記載した。また、表1中の( )内の数値は比較例の値を100として指数化した値である。
【0054】
【表1】

【0055】
(1)の高負荷パルス放電の放電特性に関しては、実施例および比較例ともに大差はなかった。ただし、現在市販されているアルカリ乾電池の大半は、高負荷放電を間欠的に行った場合のパルス数が110サイクル未満であり、ここで得られた119サイクルというパルス数は、極めて高い値である。このような高い特性が得られた理由としては、亜鉛の充填量を従来の単3形アルカリ乾電池よりも非常に多くした点(亜鉛の充填量は4.10g)、および、200メッシュ(75μm)以下の粒径を有する亜鉛合金の粒子の比率が30%となるよう亜鉛粒子の微粒化を図った点などが考えられる。
【0056】
一方、(2)の高負荷連続放電の放電特性に関しては、実施例と比較例とで4〜5%の特性差が確認された。代表的なものとして、20℃の雰囲気下で1Wで連続放電させた場合の放電曲線を図2に示す。図2からわかるように、放電の初期では、実施例の電池と比較例の電池とでは同じ電圧挙動を示している(図2では、2つのグラフは重なり合っている)。しかし、放電の中頃〜末期にかけては、比較例の電池の電圧の低下(分極)が大きく、実施例の電池と比較例の電池とで放電特性の差が現れていることがわかる。
【0057】
このように、比較例の電池では、高負荷放電を間欠的に行った場合の放電特性に関しては実施例の電池と同程度に優れていたが、高負荷放電を連続して行った場合の放電特性に関しては放電末期において電圧が低下した。比較例の電池のこのような挙動は以下の点を示唆していると考えられる。
【0058】
すなわち、負極において粒径の小さな亜鉛粒子の含有量が多ければ、亜鉛粒子が電解液に触れる面積(全表面積)は大きくなるので、亜鉛粒子全体の瞬間的な反応性且つ反応量が放電特性に大きな影響を与える高負荷パルス放電(1)では有利である。
【0059】
しかし、そのような負極では、亜鉛粒子同士が互いに接触することなく存在しているので、負極の導電網における亜鉛粒子間の電気的な接続の度合いは微弱となる。そのため、高負荷放電を連続して行うと(2)、反応生成物であるZnOが連続放電の中頃から蓄積し、蓄積したZnOが負極の導電網を破壊する。その結果、放電の中頃〜末期において、電圧低下が引き起こされる。
【0060】
これに対して、実施例の電池では、負極に添加した水酸化インジウムがアルカリ電解液に溶解して亜鉛に再析出する過程において金属インジウムが亜鉛粒子同士を接合するので、負極の導電網における亜鉛粒子間の電気的な接続の度合いを強めることができる,と考えられる。このため、反応生成物であるZnOの蓄積に起因する負極の導電網の破壊が抑制され、放電の中頃〜末期でも高い電圧を維持することができたと推定される。
(不純物である鉄の影響を調べるためのガス発生試験)
続いて、添加剤である水酸化インジウムおよびリン酸系の界面活性剤が水素ガス発生に対して与える作用を調べるための実験を行った。
【0061】
まず、実施例の電池を作製するために用いた亜鉛合金の粒子、ゲル状の電解液、水酸化インジウムおよびリン酸系の界面活性剤を準備し、以下の表2に記す重量比率で混合してゲル状の負極a〜dを作製した。
【0062】
【表2】

【0063】
次に、ゲル状の負極a〜dに対する不純物として、亜鉛合金の重量に対して、粒径が3〜5μmである鉄の粉末((株)高純度化学研究所製)を10ppmだけ添加した。このようにして、不純物として鉄を含むゲル状の負極を作製した。そして、以下に示す方法を用いて、この不純物として鉄を含むゲル状の負極においてガスが発生する速度を求めた。なお、ここで使用したガス発生速度の求め方は、特開昭57−048635号公報、特開平7−245103号公報または特開2006−4900号公報などに開示されている。
【0064】
目盛り付きの細管を備えた栓と容器とからなるガス捕集用のガラス製治具内に、不純物として鉄を含むゲル状の負極を5.00g入れた。ついで、ガス捕集用のガラス製治具内に、不純物として鉄を含むゲル状の負極が完全に没するように且つ空気が残らないように流動パラフィンを流し込み、その後、そのガラス製治具の栓をしてガラス製治具を密閉した。密閉したガラス製治具を45℃に保持された恒温水槽内に浸漬し、そのガラス製治具内の温度が一定の温度となるように約3時間放置した。そして、この状態から3日間のガス発生量の合計を測定し、次式に従ってガス発生速度を算出した。
【0065】
ガス発生速度(μL/g・day)
=3日間のガス発生量の合計(μL)÷5(g)÷3(day)
得られた結果を表3に示す。なお、各ゲル状の負極を有する新品の電池5個に対してガス発生速度を求め、その平均値を表3に記載した。
【0066】
【表3】

【0067】
表3に示すように、添加剤(水酸化インジウムおよびリン酸系の界面活性剤)を含んでいないゲル状の負極dのガス発生速度は、非常に速かった。その理由として、鉄表面における水素過電圧が非常に小さいので、亜鉛の電位を帯びた鉄表面において水素ガスが継続的に発生するからである、と考えられる。
【0068】
添加剤としてリン酸系の界面活性剤のみを含んでいるゲル状の負極cでは、リン酸系の界面活性剤が強アルカリな電解液と亜鉛との界面に配列するので亜鉛および鉄の表面に保護皮膜が形成され、その結果、ゲル状の負極dよりもガス発生速度を遅くすることができた。同様に、添加剤として水酸化インジウムのみを含んでいるゲル状の負極bでは、亜鉛の表面に再析出したインジウムが亜鉛および鉄の水素発生過電圧を高めるので、ゲル状の負極dよりもガス発生速度を遅くすることができた。このように、ゲル状の負極bおよびcでは、ゲル状の負極dよりもガス発生速度を遅くすることができた。しかし、漏液が発生しない程度までにガス発生速度を十分に遅くすることはできなかった。なお、一般に、ガス発生速度が約10μL/g・dayを超えると漏液が発生すると言われている。
【0069】
これに対し、添加剤として水酸化インジウムとリン酸系の界面活性剤とを併用したゲル状の負極aでは、二つの添加剤の相乗効果が発現して鉄が混入した際のガス発生速度を大幅に低減することができた。この相乗効果に起因して水素ガスの発生を抑制できるメカニズムは、上記実施形態で記した通りである。
【0070】
すなわち、ゲル状の負極aでは、鉄の表面にはインジウムが析出し、インジウムの表面にはリン酸系の界面活性剤からなる皮膜が形成されている、と考えられる。このような皮膜が鉄の表面に形成されると水分子が鉄へ接近することが妨害されるので、上記表3に示すように水素ガスが発生する速度を十分に遅くすることができたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上説明したように、本発明は、高容量化、高出力化および低コスト化を図るとともに放電特性の向上を図る単3形アルカリ乾電池について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本実施形態における単3形アルカリ乾電池の構成を示す半断面図である。
【図2】実施例および比較例の単3形アルカリ乾電池を、それぞれ、20℃の雰囲気下で1Wで0.7Vまで連続して放電させた際の放電曲線を示したグラフ図である。
【符号の説明】
【0073】
1 電池ケース
2 正極
3 負極
4 セパレータ
5 封口体
6 負極集電子
7 負極端子板
8 外装ラベル
9 組立封口体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に設けられたセパレータと、アルカリ電解液とを備え、
前記負極には、4.0g以上の亜鉛と、前記亜鉛の重量に対して50ppm以上1000ppm以下のインジウム化合物とが含まれており、
前記亜鉛は、200メッシュ以下の亜鉛粒子を前記亜鉛の重量に対して20重量%以上50重量%以下含んでいる、単3形アルカリ乾電池。
【請求項2】
請求項1に記載の単3形アルカリ乾電池であって、
前記アルカリ電解液には、平均分子量が100以上500以下であるリン酸系の界面活性剤が、前記亜鉛の重量に対して300ppm以上3000ppm以下含まれている、単3形アルカリ乾電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−170158(P2009−170158A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4679(P2008−4679)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】