説明

印刷原版用親水性バインダー樹脂、印刷原版用画像形成材料および印刷用原版

【課題】新規な印刷原版用親水性バインダー樹脂および、印刷原版用親水性バインダー樹脂と熱溶融性疎水性物質とを含んでなる印刷原版用画像形成材料、それを用いて得られる印刷用原版を提供する。
【解決手段】グルセロール−1−メタクリロイルオキシアルキルウレタン化合物を含む重合性材料を重合した印刷原版用親水性バインダー樹脂。(アルキル基の炭素数は1〜4の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な印刷原版用親水性バインダー樹脂および、印刷原版用親水性バインダー樹脂と熱溶融性疎水性物質とを含んでなる印刷原版用画像形成材料、それを用いて得られる印刷用原版に関する。
【背景技術】
【0002】
平板印刷は、平板上にインクを受容する親油性部分とインクを受容できない親水性部分を形成することで画像パターンの印刷を可能とする方法であり、印刷の分野では、現在、光線を照射して画像を形成する平板印刷用原版(PS版)が広く用いられている。
既に用いられているPS版としては、アルミ板表面上に、研摩処理、陽極酸化処理、親水化処理などを施し、感光性のジアゾ樹脂、光重合性組成物、光架橋性組成物などからなる疎水性感光層を設けたものが知られている。
【0003】
PS版を用いて印刷を行うには、画像露光により画像部の疎水性感光層を不溶化し、さらに現像処理を行うことで非画像部の疎水性感光層を除去して、支持体アルミ表面に画像パターンを形成し、これを印刷用原版とすることにより印刷が行われている。
一方、近年では、製版、印刷の工程における省人化、簡易性、迅速性の向上を目的として、デジタル情報を、レーザー光の像様照射により直接刷版を作製するCTP(Computer to Plate)平板印刷原版用の材料が求められるようになってきたため、これに伴い、種々の印刷材料が提案されるようになった。
【0004】
例えば、特許文献1では、湿潤強化した上質紙の表面にポリスチレンなどの疎水性熱可塑性樹脂およびカルナバワックスなどの疎水性熱溶融性物質を用いて感熱記録層を形成し、感熱ファクシミリなどによる熱印字により画像形成をする印刷原版用画像形成材料が示され、これにより印刷用原版を得る方法が知られている。
【0005】
特許文献2、3では、印刷原版用親水性バインダー樹脂としてヒドロキシル、カルボキシルまたはアミノ基等の親水性基を有する天然または合成高分子を用い、疎水性微粒子として側鎖に硫酸エステル、炭酸エステル、ウレア結合等の熱分解性結合を有するエチレン性不飽和モノマーから合成される高分子微粒子を用いた印刷原版用画像形成材料が示され、これを陽極酸化等により砂目出ししたアルミニウム基板上に印刷用原版を得る方法が知られている。
しかし、この様な方法で得られる印刷用原版では、非画像部である水受容部に印刷原版用画像形成材料を塗布する時、基板自体の親水性を利用するため、現像処理により非画像部の印刷原版用画像形成材料を除去せねばならない。従って、現像処理の際の感度を求めれば、材料の基板への密着性が必然的に不十分となるという問題があり、このため得られる像自体が脆弱なものとなってしまう。
【0006】
また、特許文献4では、印刷原版用親水性バインダー樹脂として、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド等の親水性モノマーからなる重合体を用い、ポリシロキサンと複合化した親水性の塗膜中に、ポリエチレン、ポリスチレン等の熱可塑性樹脂あるいはロウ、ワックス、およびマイクロカプセル化親油性物質等を用いた疎水性微粒子を分散した印刷原版用画像形成材料が示され、これにより現像不要の印刷用原版を得る方法が知られている。この方法では、製版時に現像処理を必要とせず、塗膜の密着性や強度等に問題は無いものの、提案されている印刷原版用親水性バインダー樹脂では、シロキサンとの複合化の際に親水性と塗膜強度の両立が難しく、非画像部の親水性が不十分であると言った問題点があった。
【0007】
このような印刷用原版に関連した問題を解決するためには、印刷工程の見直しが必要になるが、例えば新規な素材を含む印刷原版用画像形成材料の開発により問題を解決するというニーズも印刷業界には強く存在する。しかし、新規な素材を含む印刷原版用画像形成材料を開発するためには、まず印刷原版用画像形成材料に適用することが可能な、これまでに知られていない新規な材料の開発を進める必要がある。
【0008】
即ち、印刷原版用画像形成材料に適用できる新規な材料を提供することによって、既存の印刷工程を見直すことなく、印刷原版用画像形成材料および印刷用原版の機能を向上できる可能性があり、その為に、実用的に使用できる新規な印刷原版用親水性バインダー樹脂の開発が熱望されているのである。
【特許文献1】特開昭63−64747号公報
【特許文献2】特開昭58−199153号公報
【特許文献3】特開2003−025531号公報
【特許文献4】特開2003−039839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、新規な印刷原版用親水性バインダー樹脂を用いることにより、簡便に画像形成が可能な印刷原版用画像形成材料と、それを用いた印刷用原版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、印刷原版用画像形成材料として、新規物質である式(1)で示されるウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物を含有する重合性材料を重合して得た印刷原版用親水性バインダー樹脂と、熱溶融性疎水性物質を含有する印刷原版用画像形成材料を提供することで、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は次の[1]〜[4]である。
[1]、式(1)で表されるウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物を含む重合性材料を重合した印刷原版用親水性バインダー樹脂。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2は−(CH2)n−を示す。ここで、nは1〜4の整数である。)
[2]、前記[1]項に記載の印刷原版用親水性バインダー樹脂と、熱溶融性疎水性物質を含む印刷原版用画像形成材料。
[3]、さらに無機アルコキシドを含む前記[2]項に記載の印刷原版用画像形成材料。
[4]、前記[2]または[3]項に記載の印刷原版用画像形成材料を支持体の表面に塗布して画像形成層を形成した印刷用原版。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、新規な印刷原版用親水性バインダー樹脂を利用することにより、レーザー光の像様照射による画像形成に充分に利用できる印刷原版用画像形成材料が簡便に提供される。また、本発明によれば、印刷原版用画像形成材料を用いた、支持体との密着性の高い画像形成層を有する印刷用原版が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、式(1)で表されるウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物を含む重合性材料を重合してなる印刷原版用親水性バインダー樹脂であり、且つ、該印刷原版用親水性バインダー樹脂と熱溶融性疎水性物質とを含む印刷原版用画像形成材料である。
本発明に用いられるウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物は、前記式(1)で表されるウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物であり、これら式中において、R1は水素原子またはメチル基を表し、重合性の高さの観点からは水素原子であることが好ましい。R2は−(CH2)n−を示し、nは1〜4の整数である。R2は、具体的に−CH2−、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−、−CH2CH2CH2CH2−などであり、入手のし易さの点から−CH2CH2−であることが好ましい。
【0016】
前記式(1)で表されるウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、例えば、グリセロール−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン、グリセロール−1−メタクリロイルオキシプロピルウレタンが挙げられ、合成のし易さの点からは、グリセロール−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンが好ましく挙げられる。
【0017】
本発明に用いられる式(1)で表されるウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物を調製するには、例えば、式(2)
【0018】
【化2】

【0019】
で表される環状ケタールと式(3)
【0020】
【化3】

【0021】
で表される(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアナートとをウレタン化反応させ、式(4)
【0022】
【化4】

【0023】
で表される化合物を得、これを触媒の存在下に水含有溶媒中で加水開環反応させることにより得ることができる。
【0024】
前記式(2)で表される環状ケタールにおいて、R3及びR4は、同一であっても異なっていてもよく、水素原子、メチル基またはエチル基を示し、取り扱い易さの点からは、メチル基であることが好ましい。式(2)で表される環状ケタールとしては、例えば、(R,S)−1,2−イソプロピリデングリセロール、(R,S)−sec−ブチリデングリセロール等が挙げられ、反応の容易さの点からは(R,S)−1,2−イソプロピリデングリセロールが好ましく挙げられる。このような環状ケタールとしては、市販品が用いられる他、グリセリンと式(5)
【0025】
【化5】

【0026】
で表されるカルボニル化合物とを、塩酸、硫酸、パラトルエンスルホン酸などの触媒存在下に、石油エーテル、ベンゼン、トルエンなどの溶媒中で環化反応させて得た合成物を、式(2)で表される環状ケタールとして用いることもできる。式(5)中、R3及びR4は式(2)のものと同一である。式(5)で表されるカルボニル化合物の具体例としては、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、3−ペンタノンが挙げられ、反応後の除去の容易さからアセトンが好ましく挙げられる。
【0027】
前記式(3)で表される(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアナートにおいて、R1及びR2は式(1)と同一である。式(3)で表される(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアナートの具体例としては、例えば、メタクリロイルオキシエチルイソシアナート、メタクリロイルオキシプロピルイソシアナート等が挙げられ、入手の容易さの点からメタクリロイルオキシエチルイソシアナートが好ましく挙げられる。このような式(3)のイソシアナートは、市販品を用いても良いが、公知の合成方法を駆使することにより既知の原料から合成したものを用いても良い。
前記式(2)で表される環状ケタールと、式(3)で表される(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアナートとを、ウレタン化反応させる際の式(2)の環状ケタールの量は、式(3)の(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアナートに対し、モル比で1.1〜3倍量であるのが好ましい。このウレタン化反応は、触媒を用いなくても進行するが、反応時間を短縮できる点からは、ウレタン化反応用触媒を用いるのが好ましい。
【0028】
前記ウレタン化反応用触媒としては、例えば、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、ジモルホリノメタン、エチルモルホリノ酢酸、N−(3−ジメチルアミノプロピル)モルホリン、N−メチルピペリジン、キノリン、1,2−ジメチルイミダゾール、N−メチルジシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、1,4−ジアザビシクロオクタン、テトラメチル−1,3−ブタンジアミン、テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、ジメチルジエチル−1,3−プロパンジアミン、ペンタメチルジエチレンジアミン、テトラエチルメタンジアミン、ビス(2−ジメチルアミノエチル)アジペート、ビス(2−ジエチルアミノエチル)アジペート、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジエチルシクロヘキシルアミン、メチルオクチルシクロヘキシルアミン、メチルドデシルシクロヘキシルアミンなどの3級アミン化合物;塩化スズ、テトラ−n−ブチルスズ、テトラフェニルスズ、トリ−n−ブチルスズアセテート、ジメチルジクロロスズ、ジ−n−ブチルスズジアセテート、ジ−n−ブチルジクロロスズ、ジ−n−ブチルスズジラウレート、ジ−n−ブチルスズジジラウリン酸メルカプチド、ビス(2−エチルヘキシル)スズオキシド、ジ−n−ブチルスズスルフィドなどの含スズ化合物が用いられ、反応生成物にウレタン化反応用触媒が残存した場合の安全性の点からは、3級アミン化合物が好ましく挙げられる。
【0029】
前記ウレタン化反応用触媒を用いる場合のウレタン化反応用触媒の使用量は、式(3)で表される(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアナート100質量部に対して通常0.001〜50質量部、好ましくは0.01〜30質量部、最も好ましくは0.1〜10質量部である。
前記ウレタン化反応は、無溶媒反応でも何ら問題は無いが、式(3)で表される(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアナートに対して反応性をもたない溶媒であれば溶媒存在下に行うこともできる。このような溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ピリジン等が好ましく挙げられ、反応後の溶媒除去の容易さからアセトンが最も好ましく挙げられる。前記溶媒を用いる場合の溶媒の使用量は、式(3)で表される(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアナート100質量部に対して0.1〜1000質量部程度である。
【0030】
前記ウレタン化反応の反応温度は、通常0〜100℃、好ましくは25〜80℃、最も好ましくは40〜60℃の範囲である。反応温度が0℃より低い場合は、反応に長時間を要する恐れがある。反応温度が100℃を超える場合、重合等の副反応が起こり易くなる恐れがある。一方、反応時間は、反応温度、触媒の種類および量などの条件により異なるが、通常、6〜24時間程度であるのが好ましい。
【0031】
以上のウレタン化反応により、式(4)で表される化合物を得ることができる。式(4)で表される化合物において、R1、R2、R3及びR4は式(1)又は式(2)と同一である。式(4)で表される化合物の具体例としては、(R,S)−1,2−イソプロピリデングリセロール−3−メタクリロイルオキシエチルウレタン、(R,S)−sec−ブチリデングリセロール−3−メタクリロイルオキシエチルウレタン等が挙げられ、反応の容易さの点から(R,S)−1,2−イソプロピリデングリセロール−3−メタクリロイルオキシエチルウレタンが好ましく挙げられる。
ここで得られる式(4)で表される化合物を、触媒の存在下に水含有溶媒中で加水開環反応させる事により、本発明に用いる式(1)で表されるウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物を得ることができる。
前記加水開環反応に用いる触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、燐酸などの無機酸;パラトルエンスルホン酸などの有機酸が好ましく挙げられ、反応後の触媒除去容易さの点から、塩酸が特に好ましい。触媒の使用量は、通常反応系全体に占める割合が、0.1〜10.0質量%となる量が好ましい。
【0032】
前記加水開環反応を行う前記水含有溶媒としては、例えば、水単独または、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ジメチルアセトアミドなどの水可溶性の溶媒と、水との混合溶媒が好ましく挙げられ、溶媒の取扱い容易性の点からメタノールと水との混合溶媒が最も好ましく挙げられる。
前記加水開環反応の反応温度は、好ましくは0〜50℃の範囲である。前記反応温度が50℃を超える場合、エステルの加水分解反応またはエステル交換反応などの副反応が起こる恐れがある。また反応温度が0℃より低い場合、水分が固化する恐れがある。一方、加水開環反応の反応時間は、反応温度、触媒の種類および量などの条件により異なるが、通常、1〜6時間程度が好ましい。
【0033】
尚、前記加水開環反応の進行に伴い、反応系内にカルボニル化合物が副生成することがあるが、反応時間を短縮する目的で、副生成するカルボニル化合物を減圧留去などの手段により反応系内から除去することは、好ましく行ってよい。
以上のようにして得られた式(1)で表されるウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物は、ウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物単独で、あるいはウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物と共重合が可能な他の単量体と混合物にして、本発明に用いる重合性材料とすることができる。
【0034】
本発明に用いるウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物を含む重合性材料としては、式(1)で表されるウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物単独、あるいは式(1)で表されるウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物と共重合が可能な他の単量体との混合物であって良く、この際用いられるウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物と共重合が可能な他の単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリル酸エステル;メチルビニルエーテル等の各種ビニルエーテル;その他、アクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド、(メタ)アクリル酸、アリルアルコール、アクリロニトリル、アクロレイン、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸ナトリウム、スチレン、クロロスチレン、ビニルフェノール、ビニルシンナメート、塩化ビニル、ビニルブロミド、ブタジエン、ビニレンカーボネート、イタコン酸、イタコン酸エステル、フマル酸、フマル酸エステル、マレイン酸、マレイン酸エステル等の各種ラジカル重合性モノマーが挙げられる。
【0035】
式(1)で表されるウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物を、前記、他の単量体と共に重合性材料として用いる場合、その配合量は任意であって、適宜選択できるが、最良の印刷適性を得る目的からは、前記式(1)で表されるウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物が重合性材料中に10質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは60質量%以上含まれていることが望ましい。また、印刷用原版を製造したときの、画像形成層の耐久性を上げる点からは、ウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物単独からなる重合性材料を用いるのが最も好ましい。
【0036】
前記重合性材料は公知の方法により重合することにより、本発明における印刷原版用親水性バインダー樹脂とすることができる。重合する際には、前記重合性材料をそのままバルク状態で重合に用いてよく、また重合性材料用の溶剤を加えて重合してもよい。該重合性材料用の溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ジメチルアセトアミド、水及びこれら有機溶媒との混合物等、が挙げられるが、溶解性の点からは、メタノールが好ましく挙げられる。重合性材料用の溶剤を用いる場合は、例えば重合性材料の全固形分濃度が30〜90質量%の範囲となるよう溶剤を使用することがよく、更に好ましくは50〜80質量%の範囲となるよう使用するのがよい。ここで全固形分濃度が30質量%より希薄である場合には、重合して印刷原版用親水性バインダー樹脂としたとき残留する溶剤が多くなり、溶剤を除去するのが困難になる場合があり、また90質量%より濃厚な場合には、粘度が増大して取扱いに不便なことがある。
【0037】
前記重合性材料の重合は、ラジカル重合または光重合により行うことができる。
ラジカル重合を行う場合は、ラジカル開始剤を用いて行うことができる。該ラジカル開始剤としては、例えば、過酸化ベンソイル、t−ブチルパーオキシネオデカノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチルなどのアゾ化合物が挙げられるが、作業性や得られる重合体の不溶化などの観点から、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチルが好ましく挙げられる。ラジカル開始剤の使用量は、前記重合性材料100質量部に対して通常0.1〜5.0質量部、使用することが好ましい。
【0038】
前記ラジカル重合の重合温度および重合時間は、ラジカル開始剤の種類や他の単量体の有無、用いる他の単量体の種類等によって適宜選択して決定することができるが、例えば、式(1)で表されるウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物単独からなる重合性原料を用い、ラジカル開始剤として2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチルを用いて重合させる場合には、重合温度は好ましくは50〜70℃、重合時間8〜48時間程度が適当である。
【0039】
また、光重合を行う場合は、例えば、波長254nmの紫外線(UV)または加速電圧150〜300kVの電子線(EB)照射等により実施することができる。この際、光重合開始剤の使用は任意であるが、反応時間の点からは使用することが好ましい。
光重合開始剤としては2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトンなどが挙げられるが、溶解性等の点からは、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノンが好ましく挙げられる。光重合開始剤を使用する場合の使用量は、前記重合性材料100質量部に対して通常0.1〜5.0質量部が好ましい。
【0040】
以上のようにして重合性材料を重合することにより、本発明に用いる印刷原版用親水性バインダー樹脂を得ることができる。印刷原版用親水性バインダー樹脂の重合度は、重合条件を選択することにより種々制御することができるが、印刷原版用画像形成材料のその他の成分との相溶性の点から、好ましくはGPCによる測定方法で、ポリスチレン換算した重量平均分子量で10,000〜100,000の印刷原版用親水性バインダー樹脂が好ましく用いられる。
【0041】
本発明の印刷原版用画像形成材料は、印刷原版用親水性バインダー樹脂と、熱溶融性疎水性物質とを含む。
本発明に用いられる熱溶融性疎水性物質は、印刷原版の分野で通常使われる熱溶融性疎水性物質であって、前記印刷原版用親水性バインダー樹脂と共存させて用いることができる疎水性物質であれば、広く本発明に用いることができるが、最良の印刷適性を得る観点からは、通常の条件下で90℃〜400℃程度の加熱により熱溶融性を持つ疎水性物質を用いることが好ましい。このような熱溶融性疎水性物質の具体例としては、例えば、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリレート等の熱可塑性ポリマー;パラフィン;ポリオレフィン;脂肪酸系ワックス;酸化ポリエチレンワックス等が挙げられ、それぞれ単独もしくは組み合わせて用いることができるが、好ましくは印刷時の感度を高くする理由から、熱溶融性疎水性物質の中でも、特に、重量平均分子量800〜100000のものが用いられる。また、印刷時に良好な解像度を得る観点からは、用いられる熱溶融性疎水性物質は、動的光散乱法によって測定した平均粒径が50nm〜5000nmの微粒子状に形成されて提供される熱溶融性疎水性物質であるのが最も好ましい。
【0042】
このような、熱溶融性疎水性物質として最も好ましくは、乳化重合により得られる、平均粒径が50〜100nm、重量平均分子量50000のポリスチレン微粒子が挙げられる。
【0043】
本発明に用いられる熱溶融性疎水性物質は、必要に応じて熱溶融性疎水性物質用の溶媒に、溶解または分散させた状態で、印刷原版用親水性バインダー樹脂と混合して共存させることにより、本発明の印刷原版用画像形成材料とすることができる。
この際、本発明の印刷原版用親水性バインダー樹脂と、熱溶融性疎水性物質との混合割合は、本発明の目的を損なわない限りにおいて特に限定されるものではないが、好ましくは、印刷原版用親水性バインダー樹脂の固形分100質量部に対して、熱溶融性疎水性物質の固形分を5〜300質量部、好ましくは20〜100質量部混合すれば良い。前記熱溶融性疎水性物質の固形分が5質量部より少ない場合、充分な疎水性が発現せず、従って良好な印刷適性が得られない恐れがあり、300質量部より多い場合は、印刷用原版の強度が不十分となり印刷汚れ等の問題が生じる恐れがある。
【0044】
ここで熱溶融性疎水性物質用の溶媒は、用いても用いなくても良いが、作業性の向上や、印刷原版用画像形成材料の均一な混合性を得るためには用いるのが好ましい。用いられる溶媒としては、具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、メチルセロソルブ等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン;トルエン;キシレン;ヘキサン;水;またはこれらを混合した溶媒が挙げられる。これらの溶媒のうち、印刷用原版を得る際の作業性の良さから、比較的揮発性の高い溶媒を用いるのがよく、なかでも印刷原版用親水性バインダー樹脂の溶解性が良好である点からは、アセトンまたはメタノールが最も好ましく用いられる。
【0045】
前記溶媒を印刷原版用画像形成材料に含有させて使用する場合、その使用量は、目的とする印刷用原版を調整する条件に応じて適宜決定すればよいが、通常、印刷原版用画像形成材料に用いた前記印刷原版用親水性バインダー樹脂の固形分と前記熱溶融性疎水性物質の固形分とを合計した、固形分100質量部に対して、溶媒を100〜1000質量部用いるのが好ましい。ここで溶媒を1000質量部より多く用いた場合は、印刷原版用画像形成材料を支持体上に展開した際に、画像形成層が薄くなりすぎ、印刷時に充分なコントラストが得られない恐れがあり好ましくない。
【0046】
本発明の印刷原版用画像形成材料は、印刷原版用親水性バインダー樹脂と、熱溶融性疎水性物質及び溶媒の他に、場合により無機アルコキシドを好ましく含む。
印刷原版用画像形成材料に含ませることのできる、前記、無機アルコキシドとしては、例えば式(6)で表される無機アルコキシドが好ましく挙げられる。
【0047】
【化6】

【0048】
式(6)で表される無機アルコキシドが印刷原版用画像形成材料中にある場合、支持体上に画像形成層を形成した際に、まず無機アルコキシドのアルコキシ基の加水分解を生じ、これによって生じたウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物のヒドロキシ基の架橋反応によって、画像形成層の強度を顕著に向上する働きを持つため、本発明の印刷原版用画像形成材料に好ましく含むことができる。
式(6)中、MはSi、Al、Ti、Zr、Ca、Fe、V、Sn、Li、Be、B、及びPからなる群から選択される無機原子であり、Oは酸素原子、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、Xは脂肪族アルキル基、芳香族アルキル基、官能基を有する脂肪族アルキル基、官能基を有する芳香族アルキル基、又はハロゲン原子から選ばれるいずれかであり、aはMの原子価と同じ数であり、またmは1からaまでの整数である。
【0049】
前記、Rの炭素数1〜4のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられ、加水分解後の揮発性の点から、好ましくはメチル基またはエチル基が挙げられる。
前記、Xの脂肪族アルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる、好ましくはメチル基またはエチル基が挙げられる。
前記、Xの芳香族アルキル基としては、具体的にはベンジル基、フェニル基等が挙げられ、好ましくはフェニル基が挙げられる。
前記、Xの官能基を有する脂肪族アルキル基としては、具体的にはカルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、ビニル基、エポキシ基等を有する炭素数1〜15の脂肪族アルキル基が挙げられ、好ましくはエポキシ基を有する炭素数2〜6の脂肪族アルキル基が挙げられる。
前記、Xの官能基を有する芳香族アルキル基としては、具体的にはカルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、ビニル基、エポキシ基等を有する炭素数1〜15の芳香族アルキル基が挙げられ、好ましくはエポキシ基を有する炭素数2〜6の芳香族アルキル基が挙げられる。
前記、Xのハロゲン原子としては、具体的にはCl、Br等が挙げられ、好ましくはClが挙げられる。
【0050】
このような式(6)で表される無機アルコキシドの具体例として、入手の容易さや使用に際しての環境への負荷等の観点から、MがSiである無機アルコキシドが好ましく挙げられ、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン等の無機アルコキシドがより好ましく挙げられ、最も好ましくは画像形成層の強度向上の点および入手の容易さの点から、テトラエトキシシランが挙げられる。
【0051】
本発明の印刷原版用画像形成材料に、画像形成層の強度向上を目的として式(6)で表される無機アルコキシドを含ませる場合は、無機アルコキシドが印刷原版用画像形成材料全体に対して0.5〜50質量%、より好ましくは5〜40質量%になるよう調製することが好ましい。無機アルコキシドが0.5質量%より少ないと画像形成層の強度向上の効果が充分に得られない場合があり、50質量%より多いと印刷原版用画像形成材料の取扱いが困難になる場合がある。尚、本発明に用いられるウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物は、その化学構造中にウレタン結合を有することにより、無機アルコキシドとの親和性に優れ、均一な混合が可能であり、画像形成層の強化にも寄与することから、ウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物を重合して得た重合体と、無機アルコキシドとを共に印刷原版用画像形成材料に含むことは、実用上、特に好ましい。
【0052】
尚、本発明の印刷原版用画像形成材料には、前記した印刷原版用親水性バインダー樹脂と、熱溶融性疎水性物質、場合により溶媒及び無機アルコキシドを含む他に、必要に応じ、本発明の目的を逸脱しない範囲で、任意に他の成分を加えてもよい。例えば、他の成分として、好ましいものは、シアニン、フタロシアニン等の赤外吸収色素を挙げることができる。これら他の成分の添加量は、本発明の目的に反しない範囲で任意に定められて良い。
【0053】
本発明の印刷用原版は、前記印刷原版用画像形成材料を、支持体上に塗布して乾燥することにより、印刷原版用画像形成材料からなる画像形成層を支持体の表面に形成して調製される。
本発明の印刷用原版の調製に用いる支持体としては、印刷用原版に用いられることが知られる通常の支持体を問題なく使用することができる。好ましい支持体は、例えば、アルミ板などの金属板、プラスチックフィルムなどであり、中でも本発明における前記式(1)のウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物は金属板との密着性に優れるため、特にアルミ板を用いることが最も好ましい。
【0054】
支持体としてプラスチックフィルムを用いる際には、画像形成層と支持体との接着性を向上させるために、支持体の塗布面に易接着処理や下塗り層の塗布を行うことが好ましい。易接着処理としてはコロナ放電処理や火炎処理紫外線照射処理等が挙げられる。また下塗り層としてはシランカップリング剤等の親水化処理剤が挙げられる。
印刷原版用画像形成材料を支持体に塗布する方法は特に制限されないが、例えば、カーテンフローコーター法、ロールコーター法、スプレー法、ディップコート法、バーコーター法、スピンコーター法、刷毛塗り法等の公知の方法を用いて塗布し、支持体の表面に厚さ100nm〜10mmの画像形成層を形成することができる。この際、必要に応じて、印刷原版用画像形成材料を重ねて塗布することなどは、自在に行ってよい。
【0055】
画像形成層を形成した支持体は、例えば60〜100℃、好ましくは80±10℃で乾燥させることで、支持体の表面に画像形成層を定着させることができる。こうして得た本発明の印刷用原版の画像形成層には、親水性を向上するための表面の粗面化処理を、公知の方法に準じて必要に応じて行って良い。
以上のようにして得られた、印刷原版用画像形成材料からなる画像形成層を支持体の表面に有する印刷用原版は、画像形成層を画像の形に加熱することにより、いわゆる感熱型画像形成を行って加熱部が疎水(親油)性に変化し、印刷版の版面を形成することができる。また、本発明の印刷用原版は、画像形成層への直接の加熱により画像形成を行う感熱型画像形成だけでなく、画像形成層に活性光線を照射し、光を熱に変換して画像形成を行う感光画像形成にも問題なく用いることができる。
【0056】
以下、本発明を製造例、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
製造例1
<グリセロール−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンの製造>
グリセロール−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンを製造するにあたり、まず[1]原料となる(R,S)−1,2−イソプロピリデングリセロール(化合物(2))を合成し、これを用いて、[2]前駆体である(R,S)−1,2−イソプロピリデングリセロール−3−メタクリロイルオキシエチルウレタン(化合物(4))をウレタン化反応により合成し、さらに[3]化合物(4)を加水開環反応することで、目的のグリセロール−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン(化合物(1))を得た。以下、詳細に説明する。
【0057】
[1]化合物(2)の合成
(R,S)−1,2−イソプロピリデングリセロールは、M.Renoll,M.S.Newman,Org.Syn.Coll.3,502(1955)に従い、以下の合成方法により製造した。
カルシウム管、冷却管およびディーン−スターク(Dean−Stark)トラップを装着したナス型フラスコに、グリセリン(100g)、アセトン(300mL)、p−トルエンスルホン酸1水和物(3g)および石油エーテル(300mL)を加え、50℃に設定したオイルバス中で加熱還流させた。12時間後、生成水分量約23mLで、新たに水分が生成しなくなったことを確認した後、反応混合物を室温まで冷却した。次いで、酢酸ナトリウム3gを加えて更に30分間攪拌した後、エバポレータにより石油エーテルおよびアセトンを留去した。得られた粗生成物を、バス温度70℃、留分温度60℃、減圧度5mmHgの条件で減圧蒸留することにより、収量130.6g、収率91%で、無色透明液体の(R,S)−1,2−イソプロピリデングリセロールを得た。1H−NMRの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(CDCl3);1.3−1.5ppm,d,CH3(6H) 1.9ppm,s,OH(1H) 3.5−4.3ppm,m,CH2CHCH2(5H)
【0058】
[2]化合物(4)の合成
ナス型フラスコに、合成した(R,S)−1,2−イソプロピリデングリセロール6.60gおよびピリジン1mLを加え、メタクリロイルオキシエチルイソシアナート7.37g(昭和電工株式会社製)を秤取って、滴下ロートおよびカルシウム管を装着した。室温、遮光下において、メタクリロイルオキシエチルイソシアナートをゆっくりと滴下した。50℃に設定したオイルバス中で7時間反応させた。反応終了後、ピリジンおよび過剰の(R,S)−1,2−イソプロピリデングリセロールを減圧留去することにより、収量12.7g、収率93%で、白色固体の(R,S)−1,2−イソプロピリデングリセロール−3−メタクリロイルオキシエチルウレタンを得た。1H−NMRの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(CDCl3);1.3−1.5ppm,d,CH3(6H) 1.9ppm,s,CH2=CH(CH3)(3H) 3.4−4.4ppm,m,OCH2CH2NH CH2CHCH2(9H) 5.1ppm,s,NH(1H) 5.6,6.1ppm,s,CH2=C(CH3)(2H)
【0059】
[3]化合物(1)の合成
スクリュー管に、マグネチックスターラ、実施例1において合成した(R,S)−1,2−イソプロピリデングリセロール−3−メタクリロイルオキシエチルウレタン1.0g、メタノール3.9mLおよび4Nの塩酸100μLを加え、室温下30分間攪拌反応させたところ、懸濁液が透明溶液となった。更に60分間攪拌反応させた後、減圧乾燥により無色粘性液体のグリセロール−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンを得た。収量は、852mg、収率は99%であった。1H−NMRの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(D2O);1.8ppm,s,CH2=CH(CH3)(3H) 3.3−4.2ppm,m,OCH2CH2NH CH2CHCH2(9H) 5.6,6.0ppm,s,CH2=C(CH3)(2H)
【0060】
実施例1−1
<グリセロール−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン単独重合体を用いた印刷原版用親水性バインダー樹脂>
製造例1で得たグリセロール−1−メタクリロイルオキシエチルウレタンを重合性原料とし、この重合性原料1000mgとメタノール/水混合溶媒(4/1 v/v)5mL及びアゾイソブチロニトリル40mgをねじ口試験管に秤取り、均一に混合して、窒素ガスで試験管内を置換した後に密栓し、70℃で24時間反応させることで重量平均分子量50000(GPCにより測定、ポリスチレン換算)のグリセロール−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン重合体を含有する吸水性有機ポリマー溶液を得た。これをエバポレーションした後、凍結乾燥を行い、印刷原版用親水性バインダー樹脂である固形物1gを得た。
【0061】
実施例1−2
<グリセロール−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン−トリエチレングリコールジメタクリレート共重合体を用いた印刷原版用親水性バインダー樹脂>
製造例1で得たグリセロール−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン900mgと、市販のトリエチレングリコールジメタクリレート100mgを合わせて重合性原料とし、この重合性原料1000mgとメタノール/水混合溶媒(4/1 v/v)5mL及びアゾイソブチロニトリル40mgをねじ口試験管に秤取り、均一に混合して、窒素ガスで試験管内を置換した後に密栓し、70℃で24時間反応させることで重量平均分子量55000(GPCにより測定、ポリスチレン換算)のグリセロール−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン−トリエチレングリコールジメタクリレート共重合体を含有する吸水性有機ポリマーを得た。これをエバポレーションした後、凍結乾燥を行い、印刷原版用親水性バインダー樹脂である固形物1gを得た。
【0062】
実施例2−1
<印刷用原版の調製、画像形成、インキの着肉試験(グリセロール−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン単独重合体からなる印刷原版用親水性バインダー樹脂を用いた場合)>
実施例1−1で得た印刷原版用親水性バインダー樹脂である固形物を500mgとり、水溶性色素S0306(商品名、日本シイベルヘグナー株式会社製)25mgと共にメタノール100mg中に溶解して印刷原版用親水性バインダー樹脂の溶液を得た。
一方、スチレンモノマー 5gとドデシル硫酸ナトリウム200mgを純水98mLに溶解し、200mlの三口フラスコ中に流しいれ、アルゴン置換後、70℃水浴中で半月型攪拌羽を用いて350rpmで30分間攪拌し、均一に分散させた。開始剤として2,2‘−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド70mgを2mLの水に溶解し、フラスコ中に加え、350rpmで攪拌しながら70℃で6時間反応させ、粒径67nmのポリスチレン微粒子分散液を得た。得られた微粒子分散液を透析により精製後、凍結乾燥によりポリスチレン微粒子を得た。得られたポリスチレン微粒子250mgをメタノール1mL中に分散し、ポリスチレン微粒子分散液を得た。
【0063】
以上のようにして調製した印刷原版用親水性バインダー樹脂の溶液500mgとポリスチレン微粒子分散液1000mgを計量し、均一に混合して印刷原版用画像形成材料を得た。得られた印刷原版用画像形成材料をバーコーターにより、支持体であるアルミ板上に塗布後、80℃で24時間乾燥を行い、画像形成層を有する印刷用原版を調製した。
調製した印刷用原版に波長833nm、出力694mWのレーザー(商品名ALT8086;エーエルティー株式会社製)を円形に照射し、画像形成層に円形の画像を形成した。
画像形成層の表面を水洗し、PS現像インキ(商品名PI−2;富士写真フィルム株式会社製)を印刷用原版の画像形成層の全面に塗布後、更に水洗を行うと、画像形成層の表面上に、形成した画像の形にインキが着肉したことを目視で観察した。また、作製した平板印刷用原版を20℃の水に12時間浸漬後乾燥させても画像形成層の剥離は見られず、印刷用原版として十分強度があることがわかった(同様の条件で、この印刷用原版を24時間浸漬後乾燥させたときに、はじめて、僅かに画像形成層の剥離が見られた)。
【0064】
以上の結果より、実施例1−1で得た印刷原版用親水性バインダー樹脂である固形物が、印刷原版用親水性バインダー樹脂として使用可能であり、これを用いて調製した印刷用原版が、印刷用原版として使用できることがわかった。
【0065】
実施例2−2
<印刷用原版の調製、画像形成、インキの着肉試験(グリセロール−1−メタクリロイルオキシエチルウレタン−トリエチレングリコールジメタクリレート共重合体からなる印刷原版用親水性バインダー樹脂を用いた場合)>
実施例1−2で得た印刷原版用親水性バインダー樹脂である固形物を500mgとり、水溶性色素S0306(商品名、日本シイベルヘグナー株式会社製)25mgと共にメタノール100mg中に溶解して印刷原版用親水性バインダー樹脂の溶液を得た。
一方、スチレンモノマー 5gとドデシル硫酸ナトリウム200mgを純水98mLに溶解し、200mLの三口フラスコ中に流しいれ、アルゴン置換後、70℃水浴中で半月型攪拌羽を用いて350rpmで30分間攪拌し、均一に分散させた。開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド70mgを2mLの水に溶解し、フラスコ中に加え、350rpmで攪拌しながら70℃で6時間反応させ、粒径67nmのポリスチレン微粒子分散液を得た。得られた微粒子分散液を透析により精製後、凍結乾燥によりポリスチレン微粒子を得た。得られたポリスチレン微粒子250mgをメタノール1mL中に分散し、ポリスチレン微粒子分散液を得た。
【0066】
以上のようにして調製した印刷原版用親水性バインダー樹脂の溶液500mgとポリスチレン微粒子分散液1000mgを計量し、均一に混合して印刷原版用画像形成材料を得た。得られた印刷原版用画像形成材料をバーコーターにより、支持体であるアルミ板上に塗布後、80℃で24時間乾燥を行い、画像形成層を有する印刷用原版を調製した。
調製した印刷用原版に波長833nm、出力694mWのレーザー(商品名ALT8086;エーエルティー株式会社製)を円形に照射し、画像形成層に円形の画像を形成した。
画像形成層の表面を水洗し、PS現像インキ(商品名PI−2;富士写真フィルム株式会社製)を印刷用原版の画像形成層の全面に塗布後、更に水洗を行うと、画像形成層の表面上に、形成した画像の形にインキが着肉したことを目視で観察した。また、作製した平板印刷用原版を20℃の水に6時間浸漬後乾燥させても画像形成層の剥離は見られず、印刷用原版として十分強度があることがわかった(同様の条件で、この印刷用原版を12時間浸漬後乾燥させたときに、はじめて、僅かに画像形成層の剥離が見られた)。
【0067】
以上の結果より、実施例1−2で得た印刷原版用親水性バインダー樹脂である固形物が、印刷原版用親水性バインダー樹脂として使用可能であり、これを用いて調製した印刷用原版が、印刷用原版として使用できることがわかった。
【0068】
実施例2−3
<印刷用原版の調製、画像形成、インキの着肉試験(無機アルコキシドを含有した場合)>
テトラエトキシシラン4.23g、水7.32g、リン酸6.52mg、メタノール910mgを一つの容器に秤取り、40℃で4時間攪拌して無機アルコキシド含有溶液12.5gを得た。この無機アルコキシド含有溶液から無機アルコキシド含有溶液500mgを秤取り、これを更に実施例2−1で用いた印刷原版用親水性バインダー樹脂の溶液と同様の印刷原版用親水性バインダー樹脂の溶液500mgと、実施例2−1で用いたポリスチレン微粒子分散液と同様のポリスチレン微粒子分散液1000mgに均一に混合して無機アルコキシド含有の印刷原版用画像形成材料を得た。得られた無機アルコキシド含有の印刷原版用画像形成材料をバーコーターにより、支持体であるアルミ板上に塗布後、80℃で24時間乾燥を行い、画像形成層を有する印刷用原版を調製した。
調製した印刷用原版に波長833nm、出力694mWのレーザー(商品名ALT8086;エーエルティー株式会社製)を円形に照射し、画像形成層に円形の画像を形成した。
画像形成層の表面を水洗し、PS現像インキ(商品名PI−2;富士写真フィルム株式会社製)を印刷用原版の画像形成層の全面に塗布後、更に水洗を行うと、画像形成層の表面上に、形成した画像の形にインキが着肉したことを目視で観察した。また作製した印刷用原版を20℃の水に36時間浸漬後乾燥させたが、画像形成層の剥離は全く見られなかった。
【0069】
以上の結果より、無機アルコキシドを含有した印刷原版用画像形成材料を用いて印刷用原版を調製した場合、印刷用原版の画像形成層が強化され、無機アルコキシドを用いない場合よりも、耐久性のある印刷用原版が調製できることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるウレタン結合含有グリセロール(メタ)アクリレート化合物を含む重合性材料を重合した印刷原版用親水性バインダー樹脂。
【化1】

(式中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2は−(CH2)n−を示す。ここで、nは1〜4の整数である。)
【請求項2】
請求項1記載の印刷原版用親水性バインダー樹脂と、熱溶融性疎水性物質とを含む印刷原版用画像形成材料。
【請求項3】
さらに無機アルコキシドを含む請求項2記載の印刷原版用画像形成材料。
【請求項4】
請求項2または3に記載の印刷原版用画像形成材料を支持体の表面に塗布して画像形成層を形成した印刷用原版。


【公開番号】特開2007−106929(P2007−106929A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−300316(P2005−300316)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【Fターム(参考)】